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明細書 :てんかん性発作兆候検知装置、てんかん性発作兆候検知モデル生成装置、てんかん性発作兆候検知方法、てんかん性発作兆候検知モデル生成方法、てんかん性発作兆候検知プログラムおよびてんかん性発作兆候検知モデル生成プログラム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6344912号 (P6344912)
公開番号 特開2015-112423 (P2015-112423A)
登録日 平成30年6月1日(2018.6.1)
発行日 平成30年6月20日(2018.6.20)
公開日 平成27年6月22日(2015.6.22)
発明の名称または考案の名称 てんかん性発作兆候検知装置、てんかん性発作兆候検知モデル生成装置、てんかん性発作兆候検知方法、てんかん性発作兆候検知モデル生成方法、てんかん性発作兆候検知プログラムおよびてんかん性発作兆候検知モデル生成プログラム
国際特許分類 A61B   5/0402      (2006.01)
A61B   5/0452      (2006.01)
A61B   5/0456      (2006.01)
FI A61B 5/04 310Z
A61B 5/04 312C
A61B 5/04 312R
請求項の数または発明の数 18
全頁数 35
出願番号 特願2013-258494 (P2013-258494)
出願日 平成25年12月13日(2013.12.13)
審査請求日 平成28年12月12日(2016.12.12)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
発明者または考案者 【氏名】藤原 幸一
【氏名】加納 学
個別代理人の代理人 【識別番号】110000280、【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
審査官 【審査官】湯本 照基
参考文献・文献 特開2013-198562(JP,A)
特表2009-519803(JP,A)
特表2006-516923(JP,A)
特開2003-225211(JP,A)
特開2011-175540(JP,A)
特開2013-033459(JP,A)
特開2011-008562(JP,A)
特開2011-083393(JP,A)
調査した分野 A61B 5/0402
A61B 5/0452
A61B 5/0456
特許請求の範囲 【請求項1】
被検者の心電信号から生成されたサンプルデータを取得する取得部と、
前記サンプルデータに基づいて心拍に関する複数種類の指標それぞれについての指標値を示す複数の第1指標データを生成する指標データ生成部と、
前記複数種類の指標それぞれについての指標値から少なくとも1つの管理値を算出する所定の発作兆候検知モデルを用いて、前記複数の第1指標データから算出される前記管理値に基づいて、てんかん性発作の兆候の有無を識別する識別器と、を備え、
前記発作兆候検知モデルは、発作間欠期における心電信号から生成されたサンプルデータに基づいて生成された、心拍に関する前記複数種類の指標それぞれについての指標値を示す複数の第2指標データについて主成分分析を行うことにより生成されたものである
てんかん性発作兆候検知装置。
【請求項2】
前記発作兆候検知モデルは、複数のてんかん性発作患者について得られた前記複数の第2指標データについて主成分分析を行うことにより生成されたものである
請求項1記載のてんかん性発作兆候検知装置。
【請求項3】
前記指標データ生成部は、所定幅の時間窓に含まれる前記サンプルデータに基づいて生成される複数種類の心拍に関する指標についての指標値を、前記時間窓に含まれる前記サンプルデータの大きさを反映した値を用いて正規化することにより、前記第1指標データを生成するよう構成されている
請求項1または請求項2記載のてんかん性発作兆候検知装置。
【請求項4】
前記取得部は、心電信号から得られる時間的に等間隔に並んでいない経時データについて、補間処理を行うことにより、時間的に等間隔に並んだ前記サンプルデータを生成するよう構成されている
請求項3記載のてんかん性発作兆候検知装置。
【請求項5】
前記識別器は、前記発作兆候検知モデルを用いて、第1時刻における第1指標データと、前記第1時刻よりも過去の第2時刻における第1指標データとから算出される前記管理値に基づいて、てんかん性発作の兆候の有無を識別するよう構成されている
請求項1または請求項2記載のてんかん性発作兆候検知装置。
【請求項6】
前記サンプルデータは、被検者の心電信号から生成されたR波の間隔を示すRRIデータである
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のてんかん性発作兆候検知装置。
【請求項7】
前記指標データ生成部は、
所定幅の時間窓に含まれる前記RRIデータに対応するパワースペクトルを算出し、算出した前記パワースペクトルにおける第1周波数帯域の値と、前記パワースペクトルにおける前記第1周波数帯域よりも低周波数側の第2周波数帯域の値とを前記第1指標データとして生成するよう構成されている
請求項6記載のてんかん性発作兆候検知装置。
【請求項8】
前記第1周波数帯域は、0.15Hz~0.4Hzである
請求項7記載のてんかん性発作兆候検知装置。
【請求項9】
前記第2周波数帯域は、0.04Hz~0.15Hzである
請求項7または請求項8記載のてんかん性発作兆候検知装置。
【請求項10】
前記発作兆候検知モデルは、前記第1指標データが入力されると、前記第1指標データについて主成分分析を行うことにより算出される主成分得点および予測誤差からT2統計量およびQ統計量を前記管理値として算出し、
前記識別器は、前記T2統計量および前記Q統計量の少なくとも一方が前記管理領域を外れた場合、てんかん性発作の兆候が有ると識別する
請求項1~請求項9のいずれか1項に記載のてんかん性発作兆候検知装置。
【請求項11】
前記発作兆候検知モデルは、前記第1指標データが入力されると、前記第1指標データについて主成分分析を行うことにより算出される主成分得点を、所定の非線形写像に基づいて特徴量に変換し、当該特徴量が所定の特徴量管理領域内である場合、前記管理値として第1値を出力し、前記特徴量が前記特徴量管理領域外である場合、前記管理値として第2値を出力し、
前記識別器は、前記管理値が前記第2値である場合、てんかん性発作の兆候が有ると識別するよう構成されている
請求項1~請求項9のいずれか1項に記載のてんかん性発作兆候検知装置。
【請求項12】
発作間欠期におけるてんかん性発作患者の心電信号から生成されたサンプルデータに基づいて、心拍に関する複数種類の指標それぞれについての指標値を示す複数の指標データを生成する指標データ生成部と、
前記複数の指標データについて主成分分析を行うことにより、前記複数種類の指標それぞれについての指標値から少なくとも1つの管理値を算出する所定の発作兆候検知モデルを生成するモデル生成部と、を備える
てんかん性発作兆候検知モデル生成装置。
【請求項13】
てんかん性発作兆候検知システムの作動方法であって、
当該システムが、
取得部と
指標データ生成部と
識別器を備えており、当該作動方法は、
前記取得部が、被験者の心電信号から生成されたサンプルデータを取得するステップと、
前記指標データ生成部が、前記サンプルデータに基づいて心拍に関する複数種類の指標それぞれについての指標値を示す複数の第1指標データを生成するステップと、
前記識別器が、前記複数種類の指標それぞれについての指標値から少なくとも1つの管理値を算出する所定の発作兆候検知モデルを用いて、前記複数の第1指標データから算出される前記管理値に基づいて、てんかん性発作の兆候の有無を識別するステップと、
を含み、ここで、
前記発作兆候検知モデルは、発作間欠期における心電信号から生成されたサンプルデータに基づいて生成された、心拍に関する前記複数種類の指標それぞれについての指標値を示す複数の第2指標データについて主成分分析を行うことにより生成されたものである
てんかん性発作兆候検知システムの作動方法。
【請求項14】
発作間欠期におけるてんかん性発作患者の心電信号から生成されたサンプルデータに基づいて、複数種類の心拍に関する指標となる指標データを生成するステップと、
前記指標データについて主成分分析を行うことにより、前記複数種類の指標それぞれについての指標値から少なくとも1つの管理値を算出する所定の発作兆候検知モデルを生成するステップと、を含む
てんかん性発作兆候検知モデル生成方法。
【請求項15】
被検者のてんかん性発作の兆候を検知するてんかん性発作兆候検知処理をコンピュータにより実現させるてんかん性発作兆候検知プログラムであって、
前記てんかん性発作兆候検知処理は、
被検者の心電信号から生成されたサンプルデータを取得するステップと、
前記サンプルデータに基づいて心拍に関する複数種類の指標それぞれについての指標値を示す複数の第1指標データを生成するステップと、
前記複数種類の指標それぞれについての指標値から少なくとも1つの管理値を算出する所定の発作兆候検知モデルを用いて、前記複数の第1指標データから算出される前記管理値に基づいて、てんかん性発作の兆候の有無を識別するステップと、を含み、
前記発作兆候検知モデルは、発作間欠期における心電信号から生成されたサンプルデータに基づいて生成された、心拍に関する前記複数種類の指標それぞれについての指標値を示す複数の第2指標データについて主成分分析を行うことにより生成されたものである
てんかん性発作兆候検知プログラム。
【請求項16】
被検者のてんかん性発作の兆候を検知するために用いるてんかん性発作兆候検知モデル生成処理をコンピュータにより実現させるてんかん性発作兆候検知モデル生成プログラムであって、
前記てんかん性発作兆候検知モデル生成処理は、
発作間欠期におけるてんかん性発作患者の心電信号から生成されたサンプルデータに基づいて、複数種類の心拍に関する指標となる指標データを生成するステップと、
前記指標データについて主成分分析を行うことにより、前記複数種類の指標それぞれについての指標値から少なくとも1つの管理値を算出する所定の発作兆候検知モデルを生成するステップと、を含む
てんかん性発作兆候検知モデル生成プログラム。
【請求項17】
てんかん性発作兆候検知システムであって、
被検者の心電信号から生成されたサンプルデータを取得する取得部と、
前記サンプルデータに基づいて心拍に関する複数種類の指標それぞれについての指標値を示す複数の第1指標データを生成する指標データ生成部と、
前記複数種類の指標それぞれについての指標値から少なくとも1つの管理値を算出する所定の発作兆候検知モデルを用いて、前記複数の第1指標データから算出される前記管理値に基づいて、てんかん性発作の兆候の有無を識別する識別器と、を備え、
前記発作兆候検知モデルは、発作間欠期における心電信号から生成されたサンプルデータに基づいて生成された、心拍に関する前記複数種類の指標それぞれについての指標値を示す複数の第2指標データについて主成分分析を行うことにより生成されたものである
てんかん性発作兆候検知システム。
【請求項18】
前記心電信号を計測するよう構成されている、請求項17に記載のてんかん性発作兆候検知システム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、てんかん性発作兆候検知装置、てんかん性発作兆候検知モデル生成装置、てんかん性発作兆候検知方法、てんかん性発作兆候検知モデル生成方法、てんかん性発作兆候検知プログラムおよびてんかん性発作兆候検知モデル生成プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被検者について計測した心拍パターンからてんかん性発作の兆候を予測する装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1では、てんかん性発作を予測するものとして知られている心拍パターンを記憶しておき、記憶した心拍パターンと計測して得た心拍パターンとの比較結果に基づいててんかん性発作の兆候を検知する。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】特表2009-519803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、実際には、てんかん性発作を予測する心拍パターンは知られていない。また、上記特許文献に記載された技術では、てんかん性発作を予測する心拍パターンを示すデータが必須となる。
また、被検者の心拍データ計測中にてんかん性発作が起きる頻度は少なく、てんかん性発作を予測する心拍パターン(てんかん性発作の兆候を示す心拍パターン)を取得することは困難であるという実態がある。
【0005】
本発明は、上記事由に鑑みてなされたものであり、容易にてんかん性発作の兆候を検知できるてんかん性発作兆候検知装置、てんかん性発作兆候検知方法およびてんかん性発作兆候検知プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明に係るてんかん性発作兆候検知装置は、被検者の心電信号から生成されたサンプルデータを取得する取得部と、前記サンプルデータに基づいて心拍に関する複数種類の指標それぞれについての指標値を示す複数の第1指標データを生成する指標データ生成部と、前記複数種類の指標それぞれについての指標値から少なくとも1つの管理値を算出する所定の発作兆候検知モデルを用いて、前記複数の第1指標データから算出される前記管理値に基づいて、てんかん性発作の兆候の有無を識別する識別器と、を備え、前記発作兆候検知モデルは、発作間欠期における心電信号から生成されたサンプルデータに基づいて生成された、心拍に関する前記複数種類の指標それぞれについての指標値を示す複数の第2指標データについて主成分分析を行うことにより生成されたものである。
【0007】
てんかん性発作患者にてんかん性発作が起きる頻度は少なく、てんかん性発作患者にてんかん性発作の兆候が現れている状態におけるサンプルデータを取得することは困難であるという実態がある。従って、このてんかん性発作の兆候が現れている状態におけるサンプルデータから第2指標データを生成するのも当然困難となる。
これに対して、本構成によれば、発作兆候検知モデルが、発作間欠期(てんかん性発作が起きていない状態)における第2指標データについて主成分分析を行うことにより生成される。つまり、発作兆候検知モデルの生成に際して、てんかん性発作の兆候が現れている状態における第2指標データは不要なので、その分、発作兆候検知モデルを比較的容易に生成できる。そして、発作兆候検知モデルを比較的容易に生成できることにより、てんかん性発作の兆候の検知を容易に行うことができる。
【0008】
また、本構成によれば、識別器が、発作兆候検知モデルを用いることにより、被検者についての第1指標データ間の相関関係を考慮して、てんかん性発作の兆候の有無を識別することが可能となる。従って、例えば第1指標データそれぞれについて個別にてんかん性発作の兆候の検知を行う構成に比べて、第1指標データ間の相関関係を考慮できる分、てんかん性発作の兆候を精度良く検知することができる。
【0009】
(2)また、本発明に係るてんかん性発作兆候検知装置は、上記発作兆候検知モデルが、複数のてんかん性発作患者について得られた上記複数の第2指標データについて主成分分析を行うことにより生成されたものであってもよい。
本構成によれば、複数のてんかん性発作患者について得られた第2指標データを用いることにより、発作兆候検知モデルの汎用性が高まる。
【0010】
(3)また、本発明に係るてんかん性発作兆候検知装置は、上記指標データ生成部が、所定幅の時間窓に含まれる上記サンプルデータに基づいて生成される複数種類の心拍に関する指標についての指標値を、時間窓に含まれるサンプルデータの大きさを反映した値を用いて正規化することにより、上記第1指標データを生成するよう構成されているものであってもよい。
本構成によれば、時間窓に含まれるサンプルデータの大きさを反映した値を用いて正規化することにより、第1指標データにおける被検者間での個人差を低減することができる。また、第1指標データとして、時間窓に含まれるRRIデータに関する統計的な指標値から構成されるデータを採用することができる。
【0011】
(4)また、本発明に係るてんかん性発作兆候検知装置は、上記取得部が、心電信号から得られる心電信号から得られる時間的に等間隔に並んでいない経時データについて、補間処理を行うことにより、時間的に等間隔に並んだ前記サンプルデータを生成するよう構成されているものであってもよい。
本構成によれば、サンプルデータとして時間的に等間隔に並んだデータを得ることができるので、時間窓を用いた第1指標データの生成が可能となる。
【0012】
(5)また、本発明に係るてんかん性発作兆候検知装置は、上記識別器が、上記発作兆候検知モデルを用いて、第1時刻における第1指標データと、第1時刻よりも過去の第2時刻における第1指標データとから算出される上記管理値に基づいて、てんかん性発作の兆候の有無を識別するよう構成されているものであってもよい。
本構成によれば、識別器は、第1指標データの経時変化が考慮された管理値を算出することができるので、てんかん性発作の兆候が生じた場合に特有の第1指標データの経時変化を捉えることができる。従って、てんかん性発作の兆候を精度良く識別することが可能となる。
【0013】
(6)また、本発明に係るてんかん性発作兆候検知装置は、上記サンプルデータが、被検者の心電信号から生成されたR波の間隔を示すRRIデータであってもよい。
本構成によれば、心拍の変動を的確に把握することができる。
【0014】
(7)また、本発明に係るてんかん性発作兆候検知装置は、上記指標データ生成部が、所定幅の時間窓に含まれる上記RRIデータに対応するパワースペクトルを算出し、算出したパワースペクトルにおける第1周波数帯域の値と、パワースペクトルにおける第1周波数帯域よりも低周波数側の第2周波数帯域の値とを第1指標データとして生成するよう構成されているものであってもよい。
本構成によれば、時間窓に含まれるRRIデータのゆらぎ成分を捉えることが可能となる。これにより、自律神経系によって制御されている心拍数変動に特有のゆらぎ成分を指標とすることができるので、自律神経系に関連するてんかん性発作の兆候の検知精度向上を図ることができる。
【0015】
(8)また、本発明に係るてんかん性発作兆候検知装置は、上記第1周波数帯域が、0.15Hz~0.4Hzであってもよい。
ところで、呼吸周波数と同じ周波数である、0.15Hz~0.4Hzの成分は、略副交感神経系の活動性のみを反映している。このことから、本構成によれば、てんかん性発作の兆候が現れることに伴う副交感神経系の活動性の変動を捉えることができるので、その分、てんかん性発作の兆候の検知精度向上を図ることができる。
【0016】
(9)また、本発明に係るてんかん性発作兆候検知装置は、上記第2周波数帯域が、0.04Hz~0.15Hzであってもよい。
ところで、約10秒の周期をもつ0.04~0.15Hzの成分は、交感神経系と副交感神経系の両方の活動性を反映している。このことから、本構成によれば、てんかん性発作の兆候が現れることに伴う交換神経系と副交感神経系の両方の活動性の変動を捉えることができるので、その分、てんかん性発作の兆候の検知精度向上を図ることができる。
【0017】
(10)また、本発明に係るてんかん性発作兆候検知装置は、上記発作兆候検知モデルは、上記第1指標データが入力されると、第1指標データについて主成分分析を行うことにより算出される主成分得点および予測誤差からT2統計量およびQ統計量を管理値として算出し、上記識別器が、T2統計量およびQ統計量の少なくとも一方が上記管理領域を外れた場合、てんかん性発作の兆候が有ると識別する。
本構成によれば、識別器が、T2統計量およびQ統計量それぞれに対する管理領域を設定し、T2統計量およびQ統計量それぞれを独立して監視する。これにより、例えばT2統計量のみで指標データの変動を監視する構成とは異なり、てんかん性発作の兆候が現れたことに伴う、指標データ間の相関関係の変化を検知することができる。従って、てんかん性発作の兆候の検知精度向上を図ることができる。
【0018】
(11)また、本発明に係るてんかん性発作兆候検知装置は、上記発作兆候検知モデルが、上記第1指標データが入力されると、上記第1指標データについて主成分分析を行うことにより算出される主成分得点を、所定の非線形写像に基づいて特徴量に変換し、当該特徴量が所定の特徴量管理領域内である場合、上記管理値として第1値を出力し、特徴量が特徴量管理領域外である場合、管理値として第2値を出力し、上記識別器が、管理値が第2値である場合、てんかん性発作の兆候が有ると識別するよう構成されているものであってもよい。
本構成によれば、発作兆候検知モデルから出力される管理値が二値化されているので、識別器における、てんかん性発作の兆候の有無を識別する識別処理の簡素化を図ることができる。
【0019】
(12)他の観点から見た本発明に係るてんかん性発作兆候検知モデル生成装置は、発作間欠期におけるてんかん性発作患者の心電信号から生成されたサンプルデータに基づいて、心拍に関する複数種類の指標それぞれについての指標値を示す複数の指標データを生成する指標データ生成部と、複数の指標データについて主成分分析を行うことにより、複数種類の指標それぞれについての指標値から少なくとも1つの管理値を算出する所定の発作兆候検知モデルを生成するモデル生成部と、を備える。
【0020】
てんかん性発作患者にてんかん性発作が起きる頻度は少なく、てんかん性発作患者にてんかん性発作の兆候が現れている状態におけるサンプルデータを取得することは困難であるという実態がある。従って、このてんかん性発作の兆候が現れている状態におけるサンプルデータから第2指標データを生成するのも当然困難となる。
これに対して、本構成によれば、発作兆候検知モデルが、発作間欠期における第2指標データについて主成分分析を行うことにより生成される。つまり、発作兆候検知モデルの生成に際して、てんかん性発作の兆候が現れている状態における第2指標データは不要なので、その分、発作兆候検知モデルを比較的容易に生成できる。そして、発作兆候検知モデルを比較的容易に生成できることにより、てんかん性発作の兆候の検知を容易に行うことができる。
【0021】
(13)他の観点から見た本発明に係るてんかん性発作兆候検知方法は、被検者の心電信号から生成されたサンプルデータを取得するステップと、サンプルデータに基づいて心拍に関する複数種類の指標それぞれについての指標値を示す複数の第1指標データを生成するステップと、複数種類の指標それぞれについての指標値から少なくとも1つの管理値を算出する所定の発作兆候検知モデルを用いて、複数の第1指標データから算出される管理値に基づいて、てんかん性発作の兆候の有無を識別するステップと、を含み、発作兆候検知モデルが、発作間欠期における心電信号から生成されたサンプルデータに基づいて生成された、心拍に関する前記複数種類の指標それぞれについての指標値を示す複数の第2指標データについて主成分分析を行うことにより生成されたものである。
【0022】
(14)他の観点から見た本発明に係るてんかん性発作兆候検知モデル生成方法は、発作間欠期におけるてんかん性発作患者の心電信号から生成されたサンプルデータに基づいて、複数種類の心拍に関する指標となる指標データを生成するステップと、指標データについて主成分分析を行うことにより発作兆候検知モデルを生成するステップと、を含む。
【0023】
(15)他の観点から見た本発明にかかるてんかん性発作兆候検知プログラムは、被検者のてんかん性発作の兆候を検知するてんかん性発作兆候検知処理をコンピュータにより実現させるてんかん性発作兆候検知プログラムであって、てんかん性発作兆候検知処理は、被検者の心電信号から生成されたサンプルデータを取得するステップと、サンプルデータに基づいて心拍に関する複数種類の指標それぞれについての指標値を示す複数の第1指標データを生成するステップと、複数種類の指標それぞれについての指標値から少なくとも1つの管理値を算出する所定の発作兆候検知モデルを用いて、前記複数の第1指標データから算出される管理値に基づいて、てんかん性発作の兆候の有無を識別するステップとを含み、発作兆候検知モデルが、発作間欠期における心電信号から生成されたサンプルデータに基づいて生成された、心拍に関する複数種類の指標それぞれについての指標値を示す複数の第2指標データについて主成分分析を行うことにより生成されたものである。
【0024】
(16)他の観点から見た本発明に係るてんかん性発作兆候検知モデル生成プログラムは、被検者のてんかん性発作の兆候を検知するために用いるてんかん性発作兆候検知モデル生成処理をコンピュータにより実現させるてんかん性発作兆候検知モデル生成プログラムであって、てんかん性発作兆候検知モデル生成処理は、発作間欠期(てんかん性発作が生じていない状態)におけるてんかん性発作患者の心電信号から生成されたサンプルデータに基づいて、複数種類の心拍に関する指標となる指標データを生成するステップと、前記指標データについて主成分分析を行うことにより発作兆候検知モデルを生成するステップと、を含む。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、容易かつ精度良くてんかん性発作の兆候が検知できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施形態1に係るてんかん発作兆候検知システムの概略構成図である。
【図2】実施形態1に係る情報処理装置のブロック図である。
【図3】(a)は、心電信号の一例を示し、(b)は、(a)に示す心電信号に対応するR波データを示す。
【図4】実施形態1に係るRRIデータの一例を示し、(a)は被検者Pにストレスが加わっている場合、(b)は被検者Pにストレスが加わっていない場合を示す。
【図5】実施形態1に係る演算処理部のモデル構築動作を示すフローチャートである。
【図6】実施形態1に係るパワースペクトルの一例を示し、(a)は健常者にストレスが加わっている場合、(b)は健常者にストレスが加わっていない場合を示す。
【図7】実施形態1に係る、てんかん性発作の発作起始前と発作起始後の複数種類のHRV指標データの一例を示す図である。
【図8】実施形態1に係る、てんかん性発作が起きていない状態における複数種類のHRV指標データの一例を示す図である。
【図9】実施形態1に係る演算処理部のHRV指標データ生成処理における動作を示すフローチャートである。
【図10】実施形態1に係る演算処理部が、RRIデータから、各HRV指標データを生成する動作の動作説明図である。
【図11】(a)は、2つの変数(変数1、変数2)と2つの主成分(第1主成分、第2主成分)との関係を示す図であり、(b)は、2つの変数および2つの主成分とT2値との関係を示す図であり、(c)は、第1主成分と第2主成分と予測誤差との関係を示す図である。
【図12】実施形態1に係る演算処理部143の発作検知動作を示すフローチャートである。
【図13】第1主成分、第2主成分および予測誤差と、管理領域との関係を示す概念図である。
【図14】てんかん性発作患者について発作起始前と発作起始後のT2統計量およびQ統計量の時間プロファイルを示す図である。
【図15】発作間欠期のてんかん性発作患者についてのT2統計量およびQ統計量の時間プロファイルを示す図である。
【図16】実施形態2に係る演算処理部143のモデル構築動作を示すフローチャートである。
【図17】2次元のデータと、当該2次元のデータを、非線形写像を用いて写像した2次元の特徴量空間との関係を示す概念図である。
【図18】実施形態2に係る演算処理部143の発作検知動作を示すフローチャートである。
【図19】てんかん性発作患者について発作起始前と発作起始後の判定値の時間プロファイルを示す図である。
【図20】発作間欠期のてんかん性発作患者についての判定値の時間プロファイルを示す図である。
【図21】てんかん性発作患者について発作起始前と発作起始後のT2統計量およびQ統計量の時間プロファイルを示す図である。
【図22】発作間欠期のてんかん性発作患者についてのT2統計量およびQ統計量の時間プロファイルを示す図である。
【図23】てんかん性発作患者について発作起始前と発作起始後の判定値の時間プロファイルを示す図である。
【図24】発作間欠期のてんかん性発作患者についての判定値の時間プロファイルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
<実施形態1>
<1>構成
図1は、本実施形態に係るてんかん発作兆候検知システムの概略構成図である。

【0028】
てんかん発作兆候検知システムは、R波検出器12と、情報処理装置14と、を備える。
R波検出器12は、被検者Pについて計測した心電信号からR波を抽出し、抽出したR波を示す信号を無線送信する。また、R波検出器12には、被検者Pの体表に取り付けられる複数(図1では3つ)の電極16が接続されている。ここで、3つの電極16は、例えばプラス電極と、マイナス電極と、接地電極とから構成される。このR波検出器12は、例えば、特開2011-255051号公報に記載されているR波検出器と同じ構成とすることができる。

【0029】
情報処理装置14は、てんかん性発作の兆候を検知するてんかん性発作兆候検知装置として機能するとともに、後述の発作兆候検知モデルを生成するてんかん性発作兆候検知モデル生成装置としても機能する。
情報処理装置14は、R波検出器12から送信されるR波を示す信号に基づいて、R波間隔(以下、「RRI(R-R Interval)」と称する。)を示すRRIデータを取得することができる。

【0030】
図2は、本実施形態に係る情報処理装置14のブロック図である。
情報処理装置14は、通信部141と、RRI算出部142と、演算処理部143と、報知部144と、ユーザが情報処理装置14の電源投入または電源オフの操作を行うための操作部(図示せず)と、を備える。
通信部141は、例えば、R波検出器12から送信されたR波を示す無線信号を受信し、受信した無線信号からR波を示すデータを生成してRRI算出部142へ入力する。ここで、R波を示すデータとしては、例えば、R波を示す信号の振幅が所定の閾値電圧以上か否かに応じて値が「0」または「1」をとるデジタルデータ(以下、「R波データ」と称する。)が挙げられる。この場合、通信部141は、例えば、受信器からノイズフィルタを通じて取得した信号の振幅と所定の閾値電圧との比較結果に応じて出力が変動するコンパレータを備える構成とすることができる。

【0031】
RRI算出部142は、例えば専用のマイクロコンピュータから構成される。RRI算出部142は、例えば通信部141から取得したR波データに基づいて、R波の間隔を示すRRI変数の時系列データであるRRIデータを生成する。
図3(a)は、心電信号の一例を示し、図3(b)は、図3(a)に示す心電信号に対応するR波データを示す。図3に示すように、R波データは、心電信号におけるR波に対応する期間(信号強度Iが所定の強度閾値Ithを超える期間)が「1」に設定され、それ以外の期間が「0」に設定された矩形パルス列を表すデータである。そして、RRI算出部142は、例えばこのR波データから、時間的に隣り合う2つの矩形パルスの立下り時刻の時間間隔をRRI変数として算出し、算出した当該RRI変数を時系列に並べることにより、RRIデータを生成する。

【0032】
図4は、本実施形態に係るRRIデータの一例を示し、(a)は被検者Pにストレスが加わっている場合、(b)は被検者Pにストレスが加わっていない場合を示す。なお、図4(a)および(b)の横軸は、心拍の順番を表す。ここで、「被検者Pにストレスが加わっている場合」とは、例えば被検者Pが運動や作業をしている最中に相当する。また、「被検者Pにストレスが加わっていない場合」とは、例えば被検者Pが安静にしている最中に相当する。また、図4(a)および(b)は、いずれも被検者Pにてんかん性発作の兆候がなく、正常な状態で取得したRRIデータを示している。
図4(a)および(b)に示すように、RRIデータは、被検者Pにストレスが加わっていない場合、700ms~950msの範囲内で周期的に変化している。これに対し、被検者Pにストレスが加わっている場合、比較的高い値(800ms~1000ms)で推移する。このように、被検者Pにてんかん性発作の兆候がなく、被検者Pが通常に行動している場合であっても、RRIデータの時間プロファイルは大きく変わり得る。
また、RRI算出部142は、算出したRRIデータを演算処理部143へ入力する。

【0033】
演算処理部143は、例えばCPUとメモリとを含んで構成される。メモリは、RRIデータ記憶部と、発作兆候検知モデル記憶部と、プログラム記憶部とを含んで構成されている。ここで、RRIデータ記憶部は、RRIデータを記憶する。発作兆候検知モデル記憶部は、後述の発作兆候検知モデルを記憶する。プログラム記憶部は、後述のモデル構築動作およびてんかん性発作検知動作を実現するための所定のプログラムを記憶している。そして、演算処理部143では、CPUがプログラム記憶部に記憶された所定のプログラムを実行することにより後述の各種動作を行うことができる。また、プログラム記憶部および発作兆候検知モデル記憶部は、例えばROM(Read Only Memory)から構成され、RRIデータ記憶部がRAM(Random Access Memory)から構成されるものであってもよい。

【0034】
演算処理部143は、RRI算出部142から入力されるRRIデータをメモリのRRIデータ記憶部に格納する。演算処理部143は、RRIデータを取得し、取得したRRIデータに基づいて被検者の心拍に関する指標となる複数種類の指標データを生成し、生成した複数種類の指標データに基づいて、てんかん性発作の兆候の有無を識別する。即ち、演算処理部143は、RRIデータを取得する取得部、RRIデータに基づいて複数種類のHRV指標データを生成する指標データ生成部および複数種類の指標データから得られる管理値に基づいて、てんかん性発作の兆候の有無を識別する識別器、として機能する。
そして、演算処理部143は、てんかん性発作の兆候が有ると判定すると、報知部144を駆動させるための駆動信号を報知部144へ入力する。なお、この演算処理部143の動作の詳細は後述する。

【0035】
報知部144は、例えばスピーカ等から構成され、演算処理部143から駆動信号が入力されると鳴動する。なお、報知部144は、スピーカ等の限定されるものではなく、例えば、光を点滅させることにより被検者Pやその周囲の人にてんかん発作の兆候を視覚的に報知する構成であってもよい。

【0036】
<2>動作
次に、本実施形態に係る演算処理部143の動作について説明する。
本実施形態に係る演算処理部143は、多変量統計的プロセス管理(MSPC: Multivariate Statistic Process Control)を利用した識別器として機能する。ここでは、てんかん性発作の兆候の検知に必要なモデルを構築するモデル構築動作と、構築したモデルを用いて発作の兆候を検知する発作兆候検知動作とに分けて説明する。

【0037】
<2-1>モデル構築動作
初めに、演算処理部143が発作兆候検知モデルを生成するてんかん性発作兆候検知モデル生成装置の機能を実現する場合の動作(モデル構築動作)について説明する。ここにおいて、演算処理部143では、CPUがプログラム記憶部に記憶されたてんかん性発作兆候検知モデル生成プログラムを実行する。
ここでは、演算処理部143が、複数のてんかん性発作患者のてんかん性発作の発作間欠期(てんかん性発作が起きていない状態)におけるRRIデータを用いてモデル構築動作を行う。ここにおいて、てんかん性発作患者はN人存在するとし、各人に番号n(n=1,2,・・・,N)が付与されているものとする。
図5は、本実施形態に係る演算処理部143のモデル構築動作を示すフローチャートである。
まず、演算処理部143は、てんかん性発作患者それぞれに付与された番号nを「1」に設定する(ステップS11)。

【0038】
次に、演算処理部143は、n番目のてんかん性発作患者についてRRIデータを取得する(ステップS12)。ここでは、演算処理部143が、メモリに格納されたRRIデータを再構築する。具体的には、演算処理部143は、まず、RRI算出部142から入力されたR波を示すデータについて、R波が検出された第1時刻と、直前にR波が検出された第2時刻との間の時間間隔を、上記第1時刻におけるRRI値として算出していく。これにより、RRI値の経時変化を示すデータが生成される。その後、演算処理部143は、RRI値の経時変化を示すデータについてスプライン補間を行い等間隔にサンプリングすることで、時間的に等間隔に並んだRRI値の経時変化を示すデータをRRIデータとして生成する。

【0039】
つまり、演算処理部143が、心電信号から得られる時間間隔が異なる経時データについて、スプライン補間(補間処理)を行い等間隔にサンプリングすることにより、時間的に等間隔に並んだRRIデータを生成する。

【0040】
これにより、RRIデータとして時間的に等間隔に並んだデータを得ることができるので、時間窓を用いたHRV指標データ(第1指標データ)の生成が可能となる。

【0041】
続いて、演算処理部143は、取得したRRIデータ(RRI変数)から、てんかん性発作患者の心拍に関する指標となる複数種類の指標データ(以下、「HRV(Heart Rate Variability)指標データ」と称する。)を生成する(ステップS13)。このHRV指標データは、RRI平均値、RRI標準偏差、RMSSD、トータルパワー、NN50、pNN50、HRV三角指標、LF、HF、LF/HF比率の10種類のHRV指標変数が時系列に並んだデータから構成される。このHRVデータ生成処理の詳細は、後出<2-2>で詳細に説明する。

【0042】
ところで、HRV指標データは、時間領域のHRV指標データと、周波数領域のHRV指標データとに分類される。RRI平均値、RRI標準偏差、RMSSD、トータルパワー、NN50、pNN50、HRV三角指標は、時間領域のHRV指標データである。一方、LF、HF、LF/HF比率は、周波数領域のHRV指標データである。時間領域のHRV指標データは、RRIデータから直接算出され、周波数領域のHRV指標データは、RRIデータから得られるパワースペクトルから算出される。

【0043】
まず、時間領域のHRV指標データについて説明する。
RRI平均値は、時間窓内(例えば、時刻t-180sec~時刻t)におけるRRI値の平均値である。
RRI標準偏差は、時間窓内に含まれるRRIデータの標準偏差である。
RMSSDは、時間窓内に含まれるRRIデータについて、時間的に隣り合う2つのRRIデータの差分値の二乗平均の平方根である。
トータルパワーは、時間窓内に含まれるRRIデータの2乗和である。
NN50は、時間窓内に含まれるRRIデータについて、時間的に隣り合う2つのRRIデータのペアのうち、その差分が50msecを超えるペアの数である。
pNN50は、NN50を、時間窓内におけるRRIデータの総数で除して得られる値である。
HRV三角指標は、時間窓内に含まれるRRIデータについて、1/128sec間隔でヒストグラムを作成し、その後、各RRIデータを、当該RRIデータに対応するヒストグラムの高さで除することにより生成される。

【0044】
次に、周波数領域のHRV指標データについて説明する。
この周波数領域のHRV指標データの算出において、まず、演算処理部143が、時間窓(時刻t(第1時刻)と時刻t-180sec(第3時刻)との間)に含まれるRRIデータに対応するパワースペクトルを算出する。
そして、演算処理部143は、パワースペクトルにおける0.15Hz~0.4Hz(第1周波数帯域)および0.04~0.15Hz(第2周波数帯域)それぞれの積分値(第1積分値、第2積分値)を、HF、LF(HRV指標データ)として生成する。

【0045】
これにより、時間窓に含まれるRRIデータのゆらぎ成分を捉えることが可能となる。これにより、自律神経系によって制御されている心拍変動に特有のゆらぎ成分を指標とすることができるので、自律神経系に関連するてんかん性発作の兆候の検知精度向上を図ることができる。

【0046】
ところで、呼吸周波数と同じ周波数である、0.15Hz~0.4Hzの成分は、副交感神経系の活動性を反映している。このことから、HRV指標データとして上記HFを採用すれば、てんかん性発作の兆候が現れることに伴う副交感神経系の活動性の変動を捉えることができるので、その分、てんかん性発作の兆候の検知精度向上を図ることができる。ここで、上記HFとは、パワースペクトルにおける0.15Hz~0.4Hzの積分値である。

【0047】
また、約10秒の周期をもつ0.04~0.15Hzの成分は、交感神経系と副交感神経系の両方の活動性を反映している。このことから、HRV指標データとして上記LFを採用することにより、てんかん性発作の兆候が現れることに伴う交換神経系と副交感神経系の両方の活動性の変動を捉えることができるので、その分、てんかん性発作の兆候の検知精度向上を図ることができる。ここで、上記LFとは、パワースペクトルにおける0.04Hz~0.15Hzの積分値である。
また、LF/HF比率は、LFをHFで除して得られる値である。

【0048】
以上説明したように、演算処理部(指標データ生成部)143は、時間窓に含まれるRRIデータに基づいて、てんかん性発作の兆候の有無を識別する時刻t(第1時刻)におけるHRV指標データを生成する。言い換えると、演算処理部143は、時刻tと時刻tよりも時間窓長さ分だけ過去の時刻(例えば時刻t-180sec)(第3時刻)との間に含まれるRRIデータに基づいて、時刻tにおけるHRV指標データを生成する。

【0049】
図6は、本実施形態に係るパワースペクトルの一例を示し、(a)は健常者にストレスが加わっている場合、(b)は健常者にストレスが加わっていない場合を示す。
図6(b)に示すように、健常者にストレスが加わっていない場合、0.04~0.15Hzの帯域のパワー(LF)と、0.15~0.4Hzの帯域のパワー(HF)との比率は、1.4程度である。
これに対し、図6(a)に示すように、健常者にストレスが加わっている場合、パワースペクトルは0.04~0.15Hzの帯域にピークが発生し、LFとHFとの比率は13まで増加する。このように、健常者が通常に行動している場合であっても、パワースペクトルの形状は大きく変わり得る。

【0050】
図7および図8は、本実施形態に係る複数種類のHRV指標データの一例を示す図である。図7(a)および(b)は、それぞれてんかん性発作患者A1、B1について、てんかん性発作の発作起始前と発作起始後の各HRV指標データの時間プロファイルを示す図である。なお、図7(a)および(b)における縦線「ON」は、てんかん性発作患者A1、B1について、てんかん性発作が起きた時刻を示している。
図8(a)および(b)は、それぞれてんかん性発作患者C1、D1について、てんかん性発作が起きていない状態における各HRV指標データの時間プロファイルを示す図である。
図7(a)および(b)に示すように、各てんかん性発作患者A1、B1のてんかん性発作起始周辺では、各HRV指標データの時間プロファイルが変化しているものの、図8(a)および(b)に示すように、各てんかん性発作患者C1、D1にてんかん性発作が起きていない発作間欠期であっても、各HRV指標データの時間プロファイルが変化している。このように、各HRV指標データの時間プロファイルは、発作間欠期であっても、例えば食事や運動等の他の要因により変化し得る。

【0051】
図5に戻って、ステップS13の処理を行った後、演算処理部143は、てんかん性発作患者に付与された番号nが、てんかん性発作患者の総数N以下であるか否かを判定する(ステップS14)。
ステップS14において、てんかん性発作患者に付与された番号nがてんかん性発作患者の総数N未満であれば(ステップS14:Yes)、演算処理部143は、番号nを「1」だけインクリメントして(ステップS15)、再びステップS12の処理を行う。

【0052】
一方、ステップS14において、てんかん性発作患者に付与された番号nがてんかん性発作患者の総数N以上であれば(ステップS14:No)、演算処理部143は、N人のてんかん性発作患者について、複数種類のHRV指標データそれぞれについて平均値を算出する(ステップS16)。このとき、演算処理部143は、N人のてんかん性発作患者それぞれについて、発作間欠期におけるHRV指標データ全てを用いて平均値を算出する。

【0053】
次に、演算処理部143は、複数種類のHRV指標データ(第1指標データ)それぞれについて、ステップS13で算出した平均値を差し引く処理を行うことにより、新たなHRV指標データ(第2指標データ)を生成する(ステップS17)。なお、演算処理部143は、算出されたHRV指標データそれぞれについて、適当な定数を用いて正規化する処理を更に行うようにしてもよい。

【0054】
続いて、演算処理部143は、発作兆候検知モデルを生成するモデル生成処理を行う(ステップS18)。ここでは、演算処理部143は、時刻t、時刻t-Δt、時刻t-2Δtの3つの時刻における10種類のHRV指標変数から構成される計30個の変数を使って、主成分分析処理を行う。そして、演算処理部143は、主成分分析処理を行うことにより、てんかん性発作患者のHRV指標データから、後述のT2統計量およびQ統計量から構成される2つの管理値を算出するのに用いられる発作兆候検知モデルを生成する。ここで、時間Δtは、例えば1secに設定される。このモデル生成処理については、後出<2-2>で詳細に説明する。

【0055】
最後に、演算処理部143は、T2統計量およびQ統計量に対する管理限界を決定する(ステップS19)。これにより、T2統計量およびQ統計量それぞれに対して管理限界以下である管理領域が設定される。ここにおいて、管理限界は、例えば、複数のてんかん性発作患者について得られたT2統計量およびQ統計量それぞれの最大値に設定することができる。

【0056】
そして、演算処理部143は、生成した発作兆候検知モデルおよびT2統計量およびQ統計量それぞれに対する管理領域を示すデータを、前述の発作兆候検知モデル記憶部に記憶する。

【0057】
このように、本実施形態に係るてんかん性発作兆候検知システムでは、発作兆候検知モデルが、複数のてんかん性発作患者について得られた複数のHRV指標データ(第2指標データ)について主成分分析を行うことにより生成される。

【0058】
そして、複数のてんかん性発作患者について得られたHRV指標データ(第2指標データ)を用いることにより、発作兆候検知モデルの汎用性を高めることができる。

【0059】
また、本実施形態に係るてんかん性発作兆候検知システムでは、管理領域が、てんかん性発作患者の発作間欠期におけるHRV指標データ(RRIデータ)から算出されるT2統計量およびQ統計量に基づいて設定される。

【0060】
この場合、T2統計量およびQ統計量の2つの管理値に対して管理領域を設定すればよいので、例えば管理値が3種類以上の複数の指標データである構成に比べて、管理領域を比較的容易に設定することができるという利点がある。

【0061】
<2-2>HRV指標データ生成処理
次に、HRV指標データ生成処理について詳細に説明する。
図9は、本実施形態に係る演算処理部143のRRIデータ生成処理における動作を示すフローチャートである。ここにおいて、演算処理部143は、時間窓の長さをWに設定しているとする。また、RRIデータのデータ総数は、L(Lは正の整数)であるとする。

【0062】
まず、演算処理部143は、RRIデータの取得開始時刻から時間窓W以上の時間が経過した時刻t[l](≧W)の中から、時刻が最小となる時刻t[l0]を選択する(ステップS101)。ここで、時刻t[l]は、l番目のRRIデータに対応する時刻を示している。また、l番目のRRIデータに対応する時刻と、l+1番目のRRIデータに対応する時刻との間隔は、時間Δtであるとする。

【0063】
次に、演算処理部143は、時刻t[l]-W+Δt~時刻t[l](l≧l0)の間に対応するRRIデータを切り出す(ステップS102)。
続いて、演算処理部143は、切り出したRRIデータから前述の複数種類のHRV指標データそれぞれを生成する(ステップS103)。
その後、演算処理部143は、生成した複数種類のHRV指標データそれぞれについて、時間窓毎に、トータルパワーで正規化する処理を行う(ステップS104)。

【0064】
このように、時間窓に含まれるRRIデータのトータルパワー(RRIデータの大きさを反映した値)を用いて正規化することにより、HRV指標データ(第1指標データ)におけるてんかん性発作患者(被検者)間での個人差を低減することができる。また、HRV指標データとして、時間窓に含まれるRRIデータに関する統計的な指標値から構成されるデータを採用することができる。

【0065】
次に、演算処理部143は、切り出す対象となるRRIデータを変更するために、データ番号lを1だけインクリメントする(ステップS105)。
続いて、演算処理部143は、データ番号lがデータ総数L未満か否かを判定する(ステップS106)。
ステップS106において、データ番号lがデータ総数L未満であると判定されると(ステップS106:Yes)、演算処理部143は、再びステップS102の処理を行う。
一方、ステップS106において、データ番号lがデータ総数L以上であると判定されると、演算処理部143は、HRVデータ生成処理を終了する。

【0066】
図10は、本実施形態に係る演算処理部143が、RRIデータから、各HRV指標データを生成する動作の動作説明図である。
演算処理部143は、前述のステップS101~S106の一連の処理を行うことにより、RRIデータに対する時間窓を時間Δtずつ移動させながら各HRV指標データを生成していく。例えば、演算処理部143は、20分間のRRIデータに対して、時間窓の長さWを3分(180sec)、時間Δtを1secに設定した場合、時間窓を1secずつ移動させながら(図10中の矢印参照)、各時刻におけるHRV指標データを生成していく。例えば、時刻tにおける各HRV指標変数は、時刻t-180secから時刻tまでの間のRRIデータから算出される。このようにして、演算処理部143は、複数種類のHRV指標データを生成する。

【0067】
<2-3>モデル生成処理について
次に、前述のモデル生成処理(ステップS18)の内容について詳細に説明する。ここでは、主成分分析処理により主成分得点および予測誤差を算出する処理と、算出された主成分得点および予測誤差からT2統計量およびQ統計量を求める処理とに分けて説明する。

【0068】
<2-3-1>主成分得点および予測誤差を算出する処理
主成分分析処理では、複数の変数(例えばHRV指標変数)から主成分と呼ばれる新たな合成変数を生成する。
ここで、HRV指標変数が2つであり、主成分が2つの場合について説明する。
図11(a)は、2つのHRV指標変数(変数1、変数2)と2つの主成分(第1主成分、第2主成分)との関係を示す図であり、図11(b)は、2つのHRV指標変数および2つの主成分とT2統計量との関係を説明するための図であり、図11(c)は、第1主成分と第2主成分と予測誤差との関係を示す図である。
ここにおいて、HRV指標変数としては、前述の10種類のHRV指標変数から2つを選択すればよい。例えばRRI平均値とLFとを選択することができる。

【0069】
図11(a)に示すように、モデル生成処理では、HRV指標データを表す空間における一方向を第1主成分とし、その第1主成分と直交する空間の一方向を第2主成分に設定する。この手順を繰り返すことにより複数の主成分が設定される。ここで、第1主成分は、主成分得点の分散が最大となる方向に設定される。なお、「主成分得点」とは、主成分軸上の座標、即ち、主成分が張る空間へHRV指標データを射影して得られる値である。図11(a)の場合、第1主成分および第2主成分へHRV指標データを射影して得られる値が主成分得点となる。

【0070】
次に、主成分分析による主成分得点の算出方法と予測誤差の算出方法について下記式(1)~式(5)を用いて説明する。
HRV指標データを表すデータ行列をX∈RN×Pとする。ここで、PはHRV指標データの種類の数を表し、Nは各HRV指標データに含まれるデータ数を示す。図11に示すように、HRV指標データが2種類の場合、P=2となる。なお、各HRV指標データは、平均0に中心化されており、さらに正規化をしてもよい。ここで、「正規化」とは、例えば、前述のようにHRV指標データをトータルパワーで正規化することである。
ここで、上記データ行列Xの特異値分解を下記式(1)で表すとする。
【数1】
JP0006344912B2_000002t.gif

ここで、UとVとは直交行列であり、対角行列Sの対角要素には,特異値srが降順に並んでいる。採用する主成分の数をRとすると,第r主成分は、負荷量行列Vの第r列vrで与えられる。この第r列vrは、P次元のベクトルで表される。図11に示すように、変数が2つの場合、第r列vrは、2次元のベクトルとなる。

【0071】
また、第r主成分得点trは、下記式(2)で表される。
【数2】
JP0006344912B2_000003t.gif

ここで、urは、行列Uの第r列を表している。従って、R個の主成分それぞれに対応する主成分得点をまとめて表現すると、下記式(3)で表される。
【数3】
JP0006344912B2_000004t.gif

【0072】
式(1)~式(3)から分かるように、主成分という概念を導入することによって、P個のHRV指標変数で構成されるP次元のデータを、R個の主成分から構成されるR次元のデータへ変換することができる。なお、図11(a)に示すように、HRV指標データが2種類であり、主成分の数が2つの場合は、データの次元は変化しないことになる。

【0073】
そして、変数の個数Pよりも主成分の個数Rのほうが小さい場合、データ(HRV指標データ)を表現するための空間をP次元からR次元へ圧縮することができる。この場合、P次元空間の基底が、主成分となり、主成分得点がR次元空間における座標となる。このR次元空間におけるデータ行列をX’∈RN×Rとすると、X’とP次元空間におけるデータ行列Xとの間には、下記式(4)の関係が成立する。
【数4】
JP0006344912B2_000005t.gif

【0074】
ここにおいて、P次元からR次元に圧縮したことにより失われる情報は、予測誤差と呼ばれる。そして、この予測誤差を示すデータ行列をEとすると、Eは下記式(5)で表される。
【数5】
JP0006344912B2_000006t.gif

前述では、HRV指標データが2種類で、主成分数が2つの場合について例を挙げて説明したが、HRV指標データが3種類以上の場合も同様である。

【0075】
本実施形態に係るモデル生成処理では、演算処理部143が、時刻t、時刻t-Δt、時刻t-2ΔtにおけるHRV指標変数から構成される30個の変数(30次元のデータ)を使って、主成分分析処理を行う。ここにおいて、演算処理部143は、主成分数を例えば4つに設定する。この場合、HRV指標データを表現するための空間が、30次元から4次元に圧縮されることになる。

【0076】
<2-3-2>T2統計量およびQ統計量を算出する処理
次に、前述の主成分分析処理により得られる主成分得点および予測誤差からT2統計量およびQ統計量を算出する処理について説明する。
T2統計量は、主成分分析により得られる主成分得点から下記式(6)の関係式を用いて算出される。
【数6】
JP0006344912B2_000007t.gif

ここで、σ(tr)は、第r主成分得点trの標準偏差であり、T2統計量は、R次元空間の原点からのマハラノビス距離に対応している。

【0077】
このT2統計量を利用することによって、例えば、図11(a)に示すようにR次元空間において楕円形状に設定された管理限界が、図11(b)に示すような真円状の管理限界CL2に変形することができる。これにより、複数の主成分得点について標準偏差が異なる場合であっても、正常と異常を区別するのに適した上限値をT2統計量に対して設定すればよいこととなる。

【0078】
ところで、HRV指標データを表現する空間の次元を圧縮した場合(P>Rの場合)、主成分で張られる部分空間と、その直交補空間とに分解できる。
例えば、3個のHRV指標変数から構成される3次元の空間を、2つの主成分で張られる2次元の空間に圧縮したとする。この場合、図11(c)に示すように、2つの主成分に直交する1つの成分(予測誤差成分)で張られる1次元の空間(直線)を求めることができる。ここにおいて、あるHRV指標データ(図11(c)中のPo1参照)は、第1、第2主成分得点がt1、t2、予測誤差がe1であるとすることができる。そして、この予測誤差の大きさを反映する統計量、即ち、HRV指標データのうち、主成分で張られる部分空間では表現できない部分を表す統計量が、Q統計量である。
Q統計量は、主成分分析により得られる主成分得点から下記式(7)の関係式を用いて算出される。
【数7】
JP0006344912B2_000008t.gif

つまり、式(7)は、式(5)で表される予測誤差の2乗ノルムに相当する。

【0079】
本実施形態に係るモデル生成処理では、演算処理部143が、前述の30個の変数(30次元のデータ)を使う。ここにおいて、演算処理部143は、主成分数を例えば4つに設定する。この場合、T2統計量は、4つの主成分に対応する主成分得点から式(6)を用いて算出されることになる。また、Q統計量は、4つの主成分に直交する16個の主成分に対応する2乗予測誤差に相当することになる。ここで、演算処理部143は、てんかん性発作患者の発作間欠期のHRV指標データを用いて、T2統計量とQ統計量を算出する。

【0080】
<2-4>てんかん性発作兆候検知動作
次に、演算処理部143が、てんかん性発作の兆候を検知するてんかん性発作兆候検知装置の機能を実現する場合の動作(てんかん性発作兆候検知動作)について説明する。ここにおいて、演算処理部143では、CPUがプログラム記憶部に記憶されたてんかん性発作検知プログラムを実行する。
図12は、本実施形態に係る演算処理部143のてんかん性発作検知動作を示すフローチャートである。
まず、演算処理部143は、RRIデータを取得する(ステップS21)。ここでは、演算処理部143が、<2-1>で説明したステップS11の処理と同様に、メモリに格納されたRRIデータを再構築する。ここにおいて、演算処理部143は、時間窓の長さをWに設定した場合、t[l]が長さW以上になるまで、RRIデータの取得を継続する。

【0081】
次に、演算処理部143は、取得したRRIデータから、複数種類のHRV指標データを生成する(ステップS22)。このHRV指標データは、<2-1>で説明したのと同様に、RRI平均値、RRI標準偏差、RMSSD、トータルパワー、NN50、pNN50、HRV三角指標、LF、HF、LF/HF比率の10種類のHRV指標変数が時系列に並んだデータから構成される。

【0082】
ここにおいて、演算処理部143は、前述<2-2>で説明したステップS101~ステップS104の処理を行う。なお、演算処理部143は、前述<2-2>のステップS105以降の処理は行わない。具体的には、演算処理部143は、RRIデータを取得する毎に、当該RRIデータに対応する時刻と、当該時刻から前述の時間窓分だけ過去の時刻との間におけるRRIデータを用いて、各HRV指標データを生成していく。例えば、演算処理部143は、180secの時間窓を設定した場合、時刻tにおけるRRIデータを取得すると、時刻t-180sec+Δtから時刻tまでの間のRRIデータから時刻tにおける各HRV指標データを生成する。

【0083】
次に、演算処理部143は、発作兆候検知モデルを用いて、T2統計量およびQ統計量を算出する(ステップS23)。演算処理部143は、前述の発作兆候検知モデル記憶部から発作兆候検知モデルを取得する。
ここでは、演算処理部143は、発作兆候検知モデルを用いて、時刻t、時刻t-Δt、時刻t-2ΔtにおけるHRV指標変数から構成される30個の変数から、T2統計量およびQ統計量を算出する。なお、発作兆候検知モデルは、上記式(6)および式(7)の関係式で表現できる。

【0084】
次に、演算処理部143は、異常を検知したか否かを判定する(ステップS24)。ここでは、演算処理部143が、算出したT2統計量およびQ統計量のいずれか一方が管理領域を所定の判定期間以上外れ続けた場合、異常と判定する。この「判定期間」の長さの決め方については、後出<2-4>で詳細に説明する。

【0085】
このように、演算処理部(識別器)143は、T2統計量およびQ統計量(管理値)のいずれか一方が、管理領域を外れた状態が所定の判定時間以上継続した場合に、てんかん性発作の兆候が有ると識別する。

【0086】
これにより、てんかん性発作の兆候が現れていない場合における、T2統計量およびQ統計量の突発的な管理領域外れを以て、てんかん性発作の兆候があると識別されることがないので、てんかん性発作の兆候の誤識別を抑制することができる。

【0087】
ここで、演算処理部143が、3個の変数から構成される3次元の空間を、2つの主成分で張られる2次元の空間に圧縮した場合を例に挙げて説明する。
図13は、第1主成分、第2主成分および予測誤差と、管理領域との関係を示す概念図である。
この場合、演算処理部143は、前述のモデル構築処理における管理限界を設定する処理(ステップS19の処理)において、図13に示すような、管理限界を示す楕円柱で囲まれた管理領域を設定することになる。
そして、演算処理部143は、T2統計量に基づいて、第1主成分得点および第2主成分得点のいずれか一方が管理領域から外れたことを検知する。例えば、演算処理部143は、T2統計量に基づいて、予測誤差の値は管理領域内に収まっているが第1主成分得点が管理領域から逸脱している状態を検知できる(図13中の点APo1参照)。
また、演算処理部143は、Q統計量に基づいて、予測誤差が管理領域から外れたことを検知する。例えば、演算処理部143は、Q統計量に基づいて、第1主成分得点および第2主成分得点は管理領域内に収まっているが予測誤差の値が管理領域から逸脱している状態を検知できる(図13中の点APo2参照)。
つまり、演算処理部143は、T2統計量に基づいて、主成分得点が管理領域内に存在するか否かを判定し、Q統計量に基づいて、予測誤差が管理領域内に存在するか否かを判定する。そして、演算処理部143は、主成分得点および予測誤差の少なくとも一方が管理領域を所定の判定期間以上外れ続けた場合に異常を検知したものと判定する。

【0088】
ステップS24において、異常を検知したと判定されると(ステップS24:Yes)、演算処理部143は、異常を報知する処理を行い(ステップS25)、その後、ステップS26の処理を行う。ここで、異常を報知する処理とは、例えば、演算処理部143が報知部144に駆動信号を入力することにより、報知部144を駆動させる処理を意味する。

【0089】
一方、ステップS24において、異常を検知しないと判定されると(ステップS24:No)、演算処理部143は、ユーザにより終了操作がなされたか否かを判定する(ステップS26)。ここにおいて、演算処理部143は、例えば、ユーザが操作部から電源オフ操作を行った場合に更新される終了フラグを保持しておき、当該終了フラグの内容に基づいて終了操作がなされたか否かを判定するようにすればよい。

【0090】
ステップS26において、終了操作がなされていないと判定されると(ステップS26:No)、演算処理部143は、再びステップS21の処理を行う。
一方、ステップS26において、終了操作がなされたと判定されると(ステップS26:Yes)、演算処理部143は、そのまま処理を終了する。

【0091】
以上説明したように、本実施形態に係るてんかん性発作兆候検知システムでは、演算処理部(識別器)143が、発作兆候検知モデルを用いて算出されるT2統計量およびQ統計量の少なくとも一方が管理領域を外れた場合、てんかん性発作の兆候が有ると識別する。

【0092】
ここで、発作兆候検知モデルでは、てんかん性発作患者のHRV指標データについて主成分分析を行うことにより複数(例えば4つ)の主成分に対応する主成分得点tr(r=1~4)および予測誤差Eが算出される。そして、発作兆候検知モデルでは、主成分得点tr(r=1~4)からT2統計量を算出し、予測誤差EからQ統計量を算出する。

【0093】
即ち、演算処理部143は、T2統計量T2およびQ統計量Qそれぞれを独立して監視する。これにより、例えばT2統計量のみでHRV指標データの変動を監視する構成とは異なり、てんかん性発作の兆候が現れたことに伴う、HRV指標データ間の相関関係の崩れを検知することができる。従って、てんかん性発作の兆候の検知精度向上を図ることができる。

【0094】
更に、演算処理部(識別器)143は、発作兆候検知モデルを用いて、時刻t(第1時刻)、時刻t-Δtおよび時刻t-2Δt(第2時刻)それぞれにおけるHRV指標データからT2統計量およびQ統計量(管理値)を算出する。そして、演算処理部143は、算出されたT2統計量およびQ統計量に基づいて、てんかん性発作の兆候の有無を識別する。ここで、時刻t-Δtおよび時刻t-2Δtは、いずれも時刻tよりも過去の時刻である。

【0095】
これにより、演算処理部143は、HRV指標データの経時変化が考慮されたT2統計量およびQ統計量を算出することができるので、てんかん性発作の兆候が生じた場合に特有のHRV指標データの経時変化を捉えることができる。従って、てんかん性発作の兆候を精度良く識別することが可能となる。

【0096】
<2-5>判定期間の長さの設定方法について
次に、本実施形態に係る演算処理部143における上記判定期間の長さの設定方法について説明する。
判定期間は、てんかん性発作起始前に生じる、T2、Q統計量が管理限界を超え続ける期間の長さに基づいて設定する。

【0097】
図14(a)および(b)は、てんかん性発作患者について発作起始前と発作起始後のT2統計量およびQ統計量の時間プロファイルを示す図である。また、図15(a)および(b)は、発作間欠期のてんかん性発作患者C2、D2についてのT2統計量およびQ統計量の時間プロファイルを示す図である。なお、図14(a)および(b)における縦線ONは、発作起始時刻を示す。また、図14および図15における破線は、T2統計量およびQ統計量それぞれに対する管理限界T2th、Qthを示す。
図14(a)に示すように、てんかん性発作患者A2の場合、てんかん性発作起始約420sec前に、T2統計量が管理限界T2thを超え続ける期間I1が存在する。この期間I1は、約90secの長さである。また、発作起始約360sec前に、Q統計量が管理限界Qthを超え続ける期間I2が存在する。この期間I2の長さは、約50secである。
図14(b)に示すように、てんかん性発作患者B2の場合も、発作起始約100sec前に、T2統計量が管理限界T2thを超え続ける期間I3が存在する。この期間I3の長さは、約80secである。
一方、図15(a)および(b)に示すように、発作間欠期におけるてんかん性発作患者C2、D2の場合、管理限界T2th、Qthを超える期間はほとんど存在しない。なお、てんかん性発作の兆候が現れていない場合でも、T2統計量やQ統計量が、突発的に管理領域を外れることがある。しかし、T2統計量やQ統計量が、管理限界T2th、Qthを超える期間が存在しても高々10sec程度である。

【0098】
以上の結果から、判定期間の長さは、例えば80secに設定されれば、てんかん性発作患者A2、B2について、てんかん性発作の兆候を検知することができる。

【0099】
<3>まとめ
データ測定中にてんかん性発作患者にてんかん性発作が起きる頻度は少なく、てんかん性発作患者にてんかん性発作の兆候が現れている状態におけるRRIデータを取得することは困難であるという実態がある。従って、このてんかん性発作の兆候が現れている状態におけるRRIデータからHRV指標データ(第2指標データ)を生成するのも当然困難となる。

【0100】
これに対して、本実施形態に係るてんかん性発作兆候検知システムによれば、発作兆候検知モデルが、発作間欠期におけるHRV指標データについて主成分分析を行うことにより生成される。つまり、発作兆候検知モデルの生成に際して、てんかん性発作の兆候が現れている状態におけるHRV指標データは不要なので、その分、発作兆候検知モデルを比較的容易に生成できる。そして、発作兆候検知モデルを比較的容易に生成できることにより、てんかん性発作の兆候の検知を容易に行うことができる。

【0101】
また、本実施形態にかかるてんかん性発作兆候検知システムによれば、演算処理部(識別器)が、発作兆候検知モデルを用いることにより、被検者PについてのHRV指標データ(第1指標データ)間の相関関係を考慮して、てんかん性発作の兆候の有無を識別することが可能となる。従って、例えばHRV指標データについて個別にてんかん性発作の兆候の検知を行う構成に比べて、HRV指標データ間の相関関係を考慮できる分、てんかん性発作の兆候を精度良く検知することができる。

【0102】
<実施形態2>
本実施形態に係るてんかん発作兆候検知システムは、実施形態1に係る構成と同様である。但し、演算処理部143が行う処理内容が、実施形態1とは相違する。
演算処理部143は、「-1」(normaly値:第1値)または「1」(anormaly値:第2値)のいずれかを判定値(管理値)として出力する発作兆候検知モデルを用いて、てんかん性発作の兆候の有無を識別する。そして、演算処理部143は、発作兆候検知モデルから出力される判定値が「1」である場合、てんかん性発作の兆候が有ると識別する。

【0103】
ここで、発作兆候検知モデルは、HRV指標データが入力されると、当該HRV指標データに対応する主成分得点を、後述の非線形写像Φに基づいて特徴量に変換する。そして、発作兆候検知モデルは、当該特徴量が所定の特徴量管理領域内である場合、判定値として「-1」(normal値)を出力し、前記特徴量が特徴量管理領域外である場合、判定値として「1」(anormaly値)を出力する。
また、演算処理部143は、1クラスサポートベクターマシン(One-Class Support Vector Machine)を利用して特徴量管理領域を特定する。

【0104】
そこで、本実施形態では、演算処理部143の動作説明のみ行い、構成説明は省略する。演算処理部143の動作は、実施形態1と同様にモデル構築動作と発作検知動作に分けられる。初めに、演算処理部143が発作兆候検知モデルを生成するてんかん性発作兆候検知モデル生成装置の機能を実現する場合の動作(モデル構築動作)について説明する。ここにおいて、演算処理部143では、CPUがプログラム記憶領域に記憶されたてんかん性発作兆候検知モデル生成プログラムを実行する。

【0105】
図16は、本実施形態に係る演算処理部143のモデル構築動作を示すフローチャートである。なお、実施形態1と同様の処理については、同一の符号を付して適宜説明を省略する。
演算処理部143は、実施形態1で説明したステップS11~S17までの処理と同じ処理を行う。
演算処理部143は、各HRV指標データを正規化した後(ステップS17の後)、発作兆候検知モデルを生成するモデル生成処理を行う(ステップS218)。ここでは、演算処理部143は、時刻t、時刻t-Δt、時刻t-2Δtそれぞれにおける10種類のHRV指標変数から構成される計30個の変数を使って、主成分分析処理を行う。そして、演算処理部143は、主成分分析処理を行うことにより、てんかん性発作患者のHRV指標データから発作兆候検知モデルを生成する。この発作兆候検知モデルの詳細は後述する。なお、時間Δtは、例えば1secに設定される。また、発作兆候検知モデルの特徴量管理領域は、1クラスサポートベクターマシンを利用して特定される。

【0106】
そして、演算処理部143は、生成した発作兆候検知モデルを、前述の発作兆候検知モデル記憶部に記憶する。

【0107】
次に、ステップS218におけるモデル生成処理について詳細に説明する。
まず、演算処理部143が、実施形態1と同様な主成分分析処理を行い、各主成分に対応する主成分得点データを算出する。ここでは、演算処理部143が、複数(例えば5つ)の主成分それぞれの主成分得点データを算出する。その後、演算処理部143は、各主成分得点データを、所定の非線形写像Φを用いて特徴量空間上に写像する。そして、演算処理部143は、主成分得点データそれぞれに対応する特徴量空間上の座標(特徴量)に基づいて、原点からの距離が最大となるような超平面を特定する。ここにおいて、超平面は、特徴量空間において、モデル生成処理に用いるHRV指標データの多くがこの超平面を挟んで原点側とは反対側に存在するように配置されている。
そして、この超平面を挟んで原点側とは反対側に位置する非線形写像Φに対応する主成分得点データが存在する領域が、特徴量管理領域に相当する。

【0108】
図17(a)および(b)は、2次元のデータ(例えば2種類の主成分それぞれの主成分得点データ)と、当該2次元のデータを、非線形写像Φを用いて写像した2次元の特徴量空間との関係を示す概念図である。図17において、四角点は、2次元のデータのうちモデル生成処理に用いる正常なデータを示している。また、図17(b)中の直線HPは、超平面を示す。
図17(b)に示すように、特徴量空間において、モデル生成処理に用いるデータは、超平面HPを挟んで原点側とは反対側に存在する。
そして、図17(a)に示す主成分得点を表す2次元空間における、図17(b)における超平面HPを挟んで原点側とは反対側の領域に対応する領域ARが、特徴量管理領域に相当する。

【0109】
次に、演算処理部143が、特徴量管理領域を特定する方法について詳細に説明する。
ここで、特徴量空間における各変数をΦ(xi)(i=1,2,・・・,N)とすると特徴量空間内に配置される平面は、下記式(8)で表される。
【数8】
JP0006344912B2_000009t.gif

ここで、wは、各変数へのウェイトを示すウェイトベクトルである。また、Nは、例えば主成分得点データ(HRV指標データ)のデータ数に設定することができる。
そして、超平面は、特徴量空間内に配置される平面のうち、下記式(9)の関係式で表されるウェイトベクトルwを有するものとして特定される。
【数9】
JP0006344912B2_000010t.gif

ここで、ξi(i=1,2,・・・,N)は、ウェイトベクトルwで表される平面の超平面からのずれの程度を表す非負のスラック変数である。また、vは、原点から平面までの距離を決める係数である。

【0110】
ここで、式(9)は、ラグランジュの未定乗数法を利用して解くことができる。このとき、ラグランジュ関数L(w,ξ,ρ)として、下記式(10)で表される関数を設定する。
【数10】
JP0006344912B2_000011t.gif

ここで、αi、ξi(i=1,2,・・・,N)は、非負のラグランジュ乗数を表す。
そして、ラグランジュ関数L(w,ξ,ρ)の最適解において、下記式(11)で表される関係式が成立する。
【数11】
JP0006344912B2_000012t.gif

そして、式(11)から、下記式(12)の関係式が導き出される。
【数12】
JP0006344912B2_000013t.gif

【0111】
ここにおいて、式(9)の関係式は、式(12)の関係式を用いると、下記式(13)のように書き換えることができる。
【数13】
JP0006344912B2_000014t.gif

ここで、K(xi,yj)は、Φ(xi)とΦ(xj)との内積(カーネル)を表す。

【0112】
そして、演算処理部143は、式(13)を解くことにより、特徴量空間における超平面に対応するラグランジュ定数解αi(i=1,2,・・・,N)を算出することができる。

【0113】
次に、演算処理部143は、算出したラグランジュ定数解αi用いて、式(14)に示すような発作兆候検知を示す関数(以下、単に「発作兆候検知モデル」と称する。)を生成する。
【数14】
JP0006344912B2_000015t.gif

ここで、xは、判定対象となる主成分得点を表し、xsは、特徴量空間における超平面上の任意の点に対応する主成分得点である。また、sign(*)は、符号関数を表す。
発作兆候検知モデルF(x)は、特徴量空間において、主成分得点xに対応する特徴量Φ(x)が超平面を挟んで原点側よりも反対側にあれば、第1項が第2項に比べて小さくなるので、判定値として「-1」(normal値)を出力する。
一方、発作兆候検知モデルF(x)は、主成分得点xに対応する特徴量Φ(x)が超平面よりも原点側にあれば、第1項が第2項に比べて大きくなるので、判定値として「1」(anomaly値)を出力する。例えば、図17(a)および(b)に示すように、2つの主成分それぞれの主成分得点が、2つの主成分で表される二次元空間における点APの座標で表されるとする。この場合、点APは、非線形写像Φ(x)により、特徴量空間における超平面HPよりも原点側の点(図17(b)中の点AP)に写像されることになる。

【0114】
以上説明したように、本実施形態に係るてんかん性発作兆候検知システムでは、発作兆候検知モデルF(x)が、1クラスサポートベクターマシンを利用して特徴量管理領域を特定することにより生成される。ここで、1クラスサポートベクターマシンは、てんかん性発作患者の発作間欠期におけるHRV指標データから求まる複数(例えば5つ)の主成分に対応する主成分得点に対して適用される。

【0115】
本構成によれば、特徴量管理領域が、てんかん性発作患者の発作間欠期におけるHRV指標データに対応する主成分得点に対して、1クラスサポートベクターマシンを適用することにより特定される。従って、てんかん性発作患者の発作間欠期におけるHRV指標データの特性を比較的忠実に反映した特徴量管理領域を設定することが可能となる。

【0116】
次に、演算処理部143がてんかん性発作の兆候を検知するてんかん性発作検知装置の機能を実現する場合の動作(てんかん性発作兆候検知動作)について説明する。ここにおいて、演算処理部143では、CPUが、プログラム記憶部に記憶されたてんかん性発作兆候検知プログラムを実行する。
図18は、本実施形態に係る演算処理部143の発作検知動作を示すフローチャートである。なお、実施形態1と同様の処理については、同一の符号を付して適宜説明を省略する。
演算処理部143は、実施形態1で説明したステップS21およびS22までの処理と同じ処理を行う。

【0117】
続いて、演算処理部143は、前述のモデル生成処理により生成された発作兆候検知モデル(式(14)参照)を用いて、判定値(管理値)を算出する(ステップS223)。ここで、演算処理部143は、前述の発作兆候検知モデル記憶部から発作兆候検知モデルを取得する。

【0118】
その後、演算処理部143は、異常(てんかん性発作の兆候)を検知したか否かを判定する(ステップS224)。ここでは、演算処理部143が、判定値が「1」(anomaly値)の状態が所定の判定期間以上継続した場合、てんかん性発作の兆候を検知したと判定する。この「判定期間」の長さの設定方法については、後述する。

【0119】
ステップS224において、異常を検知したと判定されると(ステップS224:Yes)、演算処理部143は、異常を報知する処理を行い(ステップS25)、その後、ステップS26以降の処理を行う。
一方、異常を検知しないと判定されると(ステップS224:No)、演算処理部143は、ステップS26以降の処理を行う。

【0120】
次に、本実施形態に係る演算処理部143における上記判定期間の長さの設定方法について説明する。判定期間は、てんかん性発作の起始前に生じる、判定値が「1」(anormaly値)で継続する期間の長さに基づいて設定する。

【0121】
図19(a)および(b)は、てんかん性発作患者A2、B2について発作起始前と発作起始後の判定値の時間プロファイルを示す図である。また、図20(a)および(b)は、てんかん性発作患者C2、D2の発作間欠期についての判定値の時間プロファイルを示す図である。なお、図20(a)および(b)における縦線ONは、てんかん性発作起始時刻を示す。
図19(a)に示すように、てんかん性発作患者A2の場合、てんかん性発作起始約300sec前に、判定値が「1」(anormaly値)で継続する期間I21が存在する。この期間I21の長さは、約50secである。
また、図19(b)に示すように、てんかん性発作患者B2の場合も、てんかん性発作起始約90sec前に、判定値が「1」(anormaly値)で継続する期間I22が存在する。この期間I22の長さは、約80secである。

【0122】
一方、図20(a)および(b)に示すように、てんかん性発作患者C2、D2の発作間欠期の場合、判定値が「1」(anormaly値)で継続する期間はほとんど存在しない。また、判定値が「1」(anormaly値)で継続する期間が存在しても高々5sec程度である。

【0123】
以上の結果から、判定期間の長さは、例えば50secに設定されれば、てんかん性発作患者A2、B2について、てんかん性発作の兆候を検知することができる。

【0124】
結局、本実施形態に係るてんかん性発作兆候検知システムでは、演算処理部143が、HRV指標データに対応する特徴量が特徴量管理領域内か否かに応じて、「-1」または「1」の判定値を出力する発作兆候検知モデルF(x)を用いる。

【0125】
このように、発作兆候検知モデルから出力される判定値(管理値)が二値化されているので、演算処理部(識別器)143における、てんかん性発作の兆候の有無を識別する識別処理の簡素化を図ることができる。

【0126】
<変形例>
(1)実施形態1および2では、T2統計量およびQ統計量の少なくとも一方が管理限界を超えた状態、或いは判定値が「1」(anormaly値)の状態が所定の判定期間以上継続した場合にてんかん性発作の兆候が有ると識別する例について説明した。但し、演算処理部143は、上記状態が継続する期間の長さに基づいててんかん性発作の兆候有無の識別を行う構成に限定されるものではない。例えば、演算処理部143が、所定の期間内において上記状態を検知した回数に基づいて、てんかん性発作の兆候の有無を識別する構成であってもよい。

【0127】
具体的には、演算処理部143が、所定の期間内(例えば10min以内)に3回以上T2統計量およびQ統計量の少なくとも一方が管理限界を超えた場合に、てんかん性発作の兆候有りと識別するようにしてもよい。
或いは、演算処理部143が、所定の期間内(例えば10min以内)に判定値が3回以上「1」(anormaly値)となった場合に、てんかん性発作の兆候有りと識別するようにしてもよい。

【0128】
本構成によれば、演算処理部143が、上記状態の継続する期間の長さを計時する必要がなくなるので、演算処理部143における処理の簡素化を図ることができる。

【0129】
(2)実施形態1および2では、HRV指標データが、RRI平均値、RRI標準偏差、RMSSD、トータルパワー、NN50、pNN50、HRV三角指標、LF、HF、LF/HF比率の10種類から構成される例について説明した。
但し、HRV指標データの種類は、これらの線形なHRV指標データに限定されるものではなく、非線形なHRV指標データであってもよい。非線形なHRV指標データとしては、例えば、サンプルエントロピーやDFA(Detrended Fluctuation analysis)値、ローレンツプロット値等が挙げられる。

【0130】
サンプルエントロピーは、時間窓内に含まれるRRIデータの取り得る値の数を反映した値である。時間窓内に含まれるRRIデータの時間プロファイルの形状が、規則性がなく複雑なものであればあるほど、RRIデータの取り得る値が増大するので、サンプルエントロピーの値は大きくなる。
DFA値は、時間窓内に含まれるRRIデータのフラクタル相関特性の有無を示す変数である。
ローレンツプロット値は、時間窓内に含まれるRRIデータについて、横軸をk番目(kは正の整数)のRRIデータとし、縦軸をk+1番目のRRIデータとしてプロットして得られる相関図の特性を示す値である。

【0131】
次に、本変形例に係る演算処理部143における判定期間の長さの設定方法について説明する。
まず、演算処理部143が、MSPCを利用した識別器を構成することにより、発作の兆候の検知を行う場合について説明する。
この場合、判定期間は、実施形態1と同様に、てんかん性発作の起始前に生じる、T2、Q統計量が管理限界を超え続ける期間の長さに基づいて設定する。

【0132】
図21(a)および(b)は、てんかん性発作患者A2、B2について発作起始前と発作起始後のT2統計量およびQ統計量の時間プロファイルを示す図である。また、図22(a)および(b)は、てんかん性発作患者C2、D2について発作起始前と発作起始後のT2統計量およびQ統計量の時間プロファイルを示す図である。なお、図20(a)および(b)における縦線ONは、発作起始時刻を示す。また、図21および図22における破線は、T2統計量およびQ統計量それぞれに対する管理限界T2th、Qthを示す。
なお、演算処理部143による発作兆候検知モデルを生成する際の主成分数は、3つに設定されている。
図21(a)に示すように、てんかん性発作患者A2の場合、てんかん性発作起始約350sec前に、T2統計量が管理限界T2thを超え続ける期間I31が存在する。この期間I31は、約20secの長さである。また、てんかん性発作起始約350sec前に、Q統計量が管理限界Qthを超え続ける期間I32が存在する。この期間I2の長さは、約20secである。
図21(b)に示すように、てんかん性発作患者B2の場合も、てんかん性発作起始約100sec前に、T2統計量が管理限界T2thを超え続ける期間I33が存在する。この期間I33の長さは、約10secである。

【0133】
一方、図22(a)および(b)に示すように、てんかん性発作患者C2、D2の発作間欠期の場合、T2統計量が管理限界T2thを超える期間は存在しない。また、てんかん性発作患者C2の場合、Q統計量が管理限界Qを超える期間は存在しない。てんかん性発作患者D2の場合、Q統計量が管理限界Qthを超える期間期間が存在するがその長さは高々5sec未満である(図22(b)のQ統計量参照)。

【0134】
以上の結果から、判定期間の長さは、例えば10secに設定されれば、てんかん性発作患者A2、B2について、てんかん性発作の兆候を検知することができる。

【0135】
次に、演算処理部143が、OcSVM(One-Class Support Vector Machine)を構成することにより、発作の兆候を検知する場合について説明する。
この場合、判定期間は、てんかん性発作の起始前に生じる、判定値が「1」(anormaly値)で継続する期間の長さに基づいて設定する。

【0136】
図23(a)および(b)は、てんかん性発作患者A2、B2について発作起始前と発作起始後の判定値の時間プロファイルを示す図である。また、図24(a)および(b)は、てんかん性発作患者C2、D2の発作間欠期についての判定値の時間プロファイルを示す図である。なお、図23(a)および(b)における縦線ONは、発作起始時刻を示す。また、演算処理部143による発作兆候検知モデルを生成する際の主成分数は、3つに設定されている。
図23(a)に示すように、てんかん性発作患者A2の場合、てんかん性発作起始約300sec前に、判定値が「1」(anormaly値)で継続する期間I41が存在する。この期間I41の長さは、約40secである。
また、図23(b)に示すように、てんかん性発作患者B2の場合も、てんかん性発作起始前約150sec前に、判定値が「1」(anormaly値)で継続する期間I42が存在する。この期間I42の長さは、約20secである。

【0137】
一方、図24(a)および(b)に示すように、てんかん性発作患者C2、D2の発作間欠期の場合、判定値が「1」(anormaly値)で継続する期間はほとんど存在しない。また、判定値が「1」(anormaly値)で継続する期間が存在しても高々5sec程度である。

【0138】
以上の結果から、判定期間の長さは、例えば20secに設定されれば、てんかん性発作患者A2、B2について、てんかん性発作の兆候を検知することができる。

【0139】
(3)実施形態1では、演算処理部143が、T2統計量とQ統計量とについて個別に管理限界を設けて、異常を検知する構成について説明したが、例えば、T2統計量とQ統計量との両方に依存する判定量を設定し、当該判定量に管理限界を設けて管理してもよい。
具体的には、演算処理部143が、下記式(15)で求められる判定量Jに対して、管理限界を設けて異常を検知するようにしてもよい。
【数15】
JP0006344912B2_000016t.gif

ここで、T2は、T2統計量を表し、QはQ統計量を表し、kは、所定の係数を表す。

【0140】
本構成によれば、管理すべき対象が判定量Jだけになるので、演算処理部143における処理負荷の軽減を図ることができる。

【0141】
(4)実施形態1および2や変形例(2)では、演算処理部143が主成分得点を算出する主成分の数が、3~5に設定されている例について説明したが、主成分得点を算出する主成分の数はこれらに限定されるものではない。
例えば、複数(30個)のHRV指標データの分散を算出し、当該複数のHRV指標データの分散のうちの少なくとも1つよりも大きい分散を有する主成分について、主成分得点を算出するようにしてもよい。

【0142】
(5)なお、実施形態1および2や各変形例では、サンプルデータとして、心電信号における隣り合うR波の時間間隔を示すRRIデータを用いる例について説明したが、サンプルデータの種類はこれに限定されるものではない。例えば、サンプルデータとして、心電信号における隣り合うP波やQ波、S波、T波の間隔を示すデータ、或いは、P波とR波の間隔を示すデータ(PRIデータ)を用いてもよい。

【0143】
(6)また、実施形態1および2や各変形例では、1つの情報処理装置14が、てんかん性発作兆候検知装置およびてんかん性発作兆候検知モデル生成装置の両方として機能する例について説明した。但し、例えば、てんかん性発作兆候検知装置と、てんかん性発作兆候検知モデル生成装置とが、別個の装置から構成されるものであってもよい。
【符号の説明】
【0144】
12 R波検出器
14 情報処理装置
16 電極
141 通信部
142 算出部
143 演算処理部
144 報知部
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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