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明細書 :テラヘルツ波を用いた皮膚角層水分量の計測方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2016-053528 (P2016-053528A)
公開日 平成28年4月14日(2016.4.14)
発明の名称または考案の名称 テラヘルツ波を用いた皮膚角層水分量の計測方法
国際特許分類 G01N  21/3586      (2014.01)
FI G01N 21/35 106
請求項の数または発明の数 6
出願形態 OL
全頁数 17
出願番号 特願2014-179672 (P2014-179672)
出願日 平成26年9月3日(2014.9.3)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用申請有り (1)開催日 平成26年3月4日 (2)集会名、開催場所 農業食料工学会関西支部131回例会 大阪府立大学(大阪府堺市中区学園町1番1号) (刊行物等) (1)発行日 平成26年6月5日 (2)刊行物 農業食料工学会関西支部報116号 農業食料工学会関西支部 (刊行物等) (1)ウェブサイトの掲載日 平成26年6月6日 (2)ウェブサイトのアドレス http://ocw.kyoto-u.ac.jp/ja/faculty-of-agriculture-jp/2013/20140606.pdf (刊行物等) (1)発行日 平成26年8月3日 (2)刊行物 International Symposium on Frontier of Terahertz Science講演要旨集 日本分光学会 テラヘルツ分光部会,応用物理学会 テラヘルツ電磁波技術研究会,Femtosecond SpectroscopyUnit at the Okinawa institute of Science and Technology,Graduate University (刊行物等) (1)開催日 平成26年8月5日 (2)集会名、開催場所 International Symposium on Frontier of Terahertz Science 沖縄科学技術大学院大学(沖縄県国頭郡恩納村字谷茶1919-1)
発明者または考案者 【氏名】小川 雄一
【氏名】白神 慧一郎
【氏名】赤宗 行三
【氏名】森田 美穂
【氏名】土田 克彦
出願人 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
【識別番号】591230619
【氏名又は名称】株式会社ナリス化粧品
個別代理人の代理人 【識別番号】100104307、【弁理士】、【氏名又は名称】志村 尚司
審査請求 未請求
テーマコード 2G059
Fターム 2G059AA01
2G059AA05
2G059BB10
2G059BB12
2G059CC09
2G059DD13
2G059EE02
2G059EE12
2G059FF04
2G059HH01
2G059JJ01
2G059KK01
2G059MM12
要約 【課題】 テラヘルツ波を用いて角層の水分量を測定する方法を提供する。
【解決手段】 本発明に係る角層の水分量計測方法は、テラヘルツ波出射面であるプリズム表面に皮膚表面を接触させ、好ましくは周波数が0.1THz以上3.0THz以下のテラヘルツ波を照射して吸収係数を求める工程を有する計測方法であって、屈折率が2.0以上、好ましくは2.5以上、さらに望ましくは3.0以上のプリズムを用いる方法である。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
テラヘルツ波を用いた全反射減衰分光法により皮膚角層水分量を計測する方法であって、 テラヘルツ波出射面であるプリズム表面に皮膚表面を接触させてテラヘルツ波を照射して吸収係数を求める工程を有することを特徴とする皮膚角層水分量の計測方法。
【請求項2】
前記プリズムの屈折率は、テラヘルツ波を用いた全反射減衰分光法により算出される角層の複素屈折率よりも大きく、当該角層の複素屈折率は前記真皮層と前記角層の界面における反射係数を考慮した二界面モデルを適用して算出されたことを特徴とする請求項1に記載の皮膚角層水分量の計測方法。
【請求項3】
前記プリズムの屈折率が、2.0以上である請求項1に記載の計測方法。
【請求項4】
前記プリズムの屈折率が、3.0以上である請求項1に記載の計測方法。
【請求項5】
周波数が0.1THz以上3.0THz以下のテラヘルツ波を照射することを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載の皮膚角層水分量の計測方法。
【請求項6】
前記求められた吸収係数と、水分量が既知である皮膚モデルを用いて測定された吸収係数との対比から角層の水分量を求める工程をさらに有する請求項1~5の何れか1項に記載の計測方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は皮膚角層水分量の計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚の最外層である角層は、水分の蒸発や微生物、毒物などに対する主要な保護バリアである。角層において、水分は角層の物質透過性、可塑性などの物理的性質や、皮膚表層の角層細胞の落屑に重要な作用を有する酵素の活性を制御することが知られている(非特許文献1)。したがって、角層における水分量やその変化を詳細に知るということは、角層機能を評価するために重要である。
【0003】
角層における水分量やその変化を計測する方法として、これまでにも種々の方法が考案されている。例えば、角層の電気伝導率や静電容量、誘電率などの電気的性質が、角層中の水分量によって変化する、ということに着目し、電気的性質の測定値から相対的な角層水分量を知ろうとする装置が提案されている(特許文献1、非特許文献2、非特許文献3)。
【0004】
これらの装置は皮膚を傷つけることなく、迅速かつ簡便に角層水分量を知ることができる点で有益であった。しかし、化粧品やその原料をはじめとする皮膚外用剤を塗布した状態の皮膚では、塗布物が電気の流れを阻害する、あるいは促進することにより測定値に影響を与える場合があり、必ずしも角層中の水分量のみを反映した計測値が得られるわけではない、という問題があった。
【0005】
また、角層中の水分量によって近赤外線の吸収度が変化する、ということに着目し、近赤外線を利用した拡散反射分光法あるいは全反射減衰分光法(Attenuated Total Reflection Spectroscopy:ATR法)により角層水分量を計測する方法が提案されている(非特許文献4)。
【0006】
これらの方法も皮膚を傷つけることなく角層水分量を知ることができる点で有益である。しかし、水の近赤外吸収スペクトルと化粧品や皮膚外用剤に含まれる物質、あるいは皮膚中の物質の吸収スペクトルとの分離が難しいことや、皮膚組織中での多重散乱やメラニン色素による吸収など、角層水分以外の物質による影響を受けやすい、といった問題があり、簡便かつ高精度に角層機能を評価するには十分な技術とは言えなかった。
【0007】
さらに、水を構成する水素原子の核磁気共鳴により得られる信号から皮膚中の水分量の分布を観察する方法も提案されている(非特許文献5)。核磁気共鳴を利用する方法は、皮膚を傷つけることなく水分量分布が画像として取得できるため、皮膚中のどの部位の水分量の情報を得たいか、という要望に応じてデータを取得することができる利点がある。しかし、非常に高価な装置や設備が必要であること、非常に強い磁場の中に試料をおく必要があること、皮膚に塗布する皮膚外用剤の組成によっては火傷などの事故が生じる可能性がある、といった問題があった。
【0008】
また、皮膚中の水分量によってラマン散乱の強度が変化するということに着目し、共焦点レーザー顕微ラマン分光装置の使用により、皮膚中の水分量の分布を計測する方法が提案されている(非特許文献6)。この方法では、角層を水とタンパクからなるものと仮定し、水を構成するOH基に由来するOH伸縮振動に基づくラマン散乱強度とタンパクを構成するCH3基に由来するCH3伸縮振動に基づくラマン散乱強度の比から、試料表面からの深さによる検出強度の変化を補正することで、各深さ地点での水分量を重量パーセントで表すことを可能にしている。しかしながら、化粧品や皮膚外用剤を塗布した状態の皮膚では、塗布物中にもCH3伸縮振動を有する物質が含まれていることがほとんどであるため、CH3伸縮振動によるラマン散乱強度を用いた補正が、正しい水分重量パーセントを与えないことがあるという問題があった。
【0009】
テラヘルツ波と呼ばれる0.1~10テラヘルツの電磁波は光波と電波の中間領域に位置する。テラヘルツ波は良好な物質透過性を有する、人体に対して安全に利用できる、生体組織内での散乱が小さい、水による吸収が非常に大きい、という特徴を持つ。これらの特徴に着目して、近年、テラヘルツ波を用いて水の分布の画像化や分光計測を行うことが試みられている。例えば、テラヘルツ波時間領域分光法を利用して、皮膚組織を構成する角層、表皮、真皮、皮下組織角層の各群屈折率の違いから生じる群屈折率不連続面で生じるテラヘルツ波のエコーパルスの強度情報から水分量を計測する方法が提案されている(非特許文献7)。
【0010】
この方法は空気—角層界面から得られるエコーパルスの強度を用いて角層水分量を推定する方法であるが、明瞭な界面が形成されていない角層—表皮境界面からのエコーが得られにくいことや、テラヘルツ波のパルス幅に対する角層の薄さのため、角層内部の水分に関する情報を精度良く得ることが困難であることなどの課題が残されていた。
【0011】
また、全反射する条件で試料にテラヘルツ波を入射し、その際に生じるテラヘルツ帯の表面波(エバネッセント波)と試料の相互作用によるテラヘルツ波の減衰を測定することで、試料の複素屈折率又は複素誘電率を求めることが試みられている(特許文献2、非特許文献8)。特許文献2では、入射角条件の異なる2つのスペクトルを測定することで、透過法のように極薄い厚みの液体層を必要とすることなく試料の複素屈折率を求めている。非特許文献8では、単層の細胞層などの極薄い薄膜試料に積層された水の影響を排除すべく、薄膜試料と水の界面における反射を考慮したいわゆる二界面モデルを用いて薄膜試料の複素誘電率を求めている。
【0012】
しかしながら、いずれの文献も複素屈折率又は複素誘電率が測定されたことを示しているにすぎない。また、皮膚の角層は単層の細胞層ではなく、死んだ角化細胞が複雑に積層したものであって、角層の水分量を測定する方法に利用できるかどうか分からなかった。
【先行技術文献】
【0013】

【特許文献1】特公昭63-19016号公報
【特許文献2】特開2008-304444号公報
【0014】

【非特許文献1】Rawlings A et al., The effect of glycerol and humidity on desmosome degradation in stratum corneum., Arch Dermatol Res, 287, 457-64, 1995.
【非特許文献2】Tagami H et al., Evaluation of the skin surface hydration in vivo by electrical measurement., J Invest Dermatol, 75, 500-7, 1980.
【非特許文献3】橋本久美子 et al., 角層水分量測定における高周波伝導度測定装置およびCorneometerの比較., 香粧会誌, 11, 252-8, 1987.
【非特許文献4】Potts RO et al., A noninvasive in vivo technique to quantitatively measure water concentration of the stratum corneum using attenuated total-reflectance infrared spectroscopy., Arch Dermatol Res, 277, 489-95, 1985.
【非特許文献5】Mirrashed F et al., In vivo quantitative analysis of the effect of hydration (immersion and Vaseline treatment) in skin layers using high-resolution MRI and magnetization transfer contrast. Skin Research and Technology, 10, 14-22, 2004.
【非特許文献6】Caspers PJ et al., In vivo confocal Raman microspectroscopy of the skin: Noninvasive determination of molecular concentration profiles., J Invest Dermatol, 116, 434-42, 2001.
【非特許文献7】安井武史 et al., テラヘルツ電磁波パルスを用いた非接触・局所皮膚水分量測定の開発, 生体医工学, 42, 390-4, 2004.
【非特許文献8】K. Shiraga et al., Determination of the complex dielectric constant of an epithelial cell monolayer in the terahertz region., Applied Physics Letters, 102, 053702, 2013.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ところで、ATR法を用いて測定する場合、皮膚の表面でテラヘルツ波が全反射する必要がある。全反射する条件は、入射側の媒質の屈折率と出射側の媒質の屈折率及び入射角とで一義的に決定される。つまり、ATR測定条件は、テラヘルツ波の入射角と、皮膚と接触させるプリズム(出射側の媒質)の屈折率及びプリズムと接触させる角層(入射側の媒質)の屈折率に依存する。
【0016】
しかしながら、皮膚は、角層・表皮層・真皮層・皮下組織層という積層構造をしており、角層下にある表皮層の水分による影響を受けるおそれがあるなどという理由から、これまでのところ、角層の屈折率を正確に測定する方法は知られておらず、角層の屈折率は不明であるというのが実情であった。従って、任意に設定した条件では入射したテラヘルツ波が全反射しているかどうか不明であり、角層において全反射する条件を正確に把握することができなかった。
【0017】
本発明はこのような背景技術に鑑みてなされたものであって、本発明は、テラヘルツ波を用いて角層の水分量を測定する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の計測方法は、テラヘルツ波を用いた全反射減衰分光法により皮膚角層水分量を計測する方法であって、テラヘルツ波出射面であるプリズム表面に皮膚表面を接触させてテラヘルツ波を照射して吸収係数を求める工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、テラヘルツ波を用いて皮膚角層の水分量を簡単に測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は本発明の測定概念を示す模式図である。
【図2】図2は二界面モデルの測定概念を示す模式図である。
【図3】図3は水の吸収スペクトルを示す図である。
【図4】図4はスクロース水溶液の吸収スペクトルを示す図である。
【図5】図5はスクロース水溶液の質量含水率と吸収係数の関係を示す図であって、(a)は0.5THzでの測定結果を、(b)は1.0THzでの測定結果を示す。●は実験値を、○は文献値を示す。
【図6】図6は角層モデルの吸収スペクトルを示す図である。
【図7】図7は角層モデルを用いた質量含水率と吸収係数の関係を示す図であって、(a)は0.25THzでの測定結果を、(b)は0.5THzでの測定結果を、(c)は1.0THzでの測定結果を示す図である。
【図8】図8はブタ皮膚(48時間乾燥)の吸収スペクトルを示す図である。
【図9】図9はブタ皮膚の質量含水率とストリッピング回数の関係を示す図であって、(a)は0.25THzでの測定結果を、(b)は0.5THzでの測定結果を、(c)は1.0THzでの測定結果を示す図である。
【図10】図10は二界面モデル適用後のブタ皮膚(48時間乾燥)の吸収スペクトルを示す図である。
【図11】図11は二界面モデル適用後のブタ皮膚の吸収係数とストリッピング回数との関係を示す図であって、(a)は0.25THzでの測定結果を、(b)は0.5THzでの測定結果を、(c)は1.0THzでの測定結果を示す図である。
【図12】図12は二界面モデルを用いて求められたブタ角層の複素屈折率を示す図の一例であって、(a)はその実部を、(b)はその虚部を示す。
【図13】図13は二界面モデルの適用前後による吸収係数の変化を示す図であって、適用前に対する変化率を示す。(a)は0.25THzでの測定結果を、(b)は0.5THzでの測定結果を、(c)は1.0THzでの測定結果を示す図である。
【図14】図14はアルブミン水溶液の吸収スペクトルを示す図である。
【図15】図15はアルブミン水溶液の質量含水率と吸収係数の関係を示す図である。(a)は0.25THzでの測定結果を、(b)は0.5THzでの測定結果を、(c)は1.0THzでの測定結果を示す図である。
【図16】図16は、アルブミン水溶液を角層モデルとした場合におけるブタ皮膚の質量含水率とストリッピング回数との関係(0.5THz)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の計測方法は、テラヘルツ波を用いた全反射減衰分光法により皮膚角層水分量を計測する方法であって、テラヘルツ波出射面であるプリズム表面に皮膚表面を接触させてテラヘルツ波を照射して皮膚の吸収係数を求める工程を有する。

【0022】
図1は本発明の測定概念を示す模式図である。全反射減衰分光法では、テラヘルツ波はATRプリズム(以下「プリズム」と称する。)表面と皮膚表面との界面で全反射する条件でプリズムに入射され、プリズム表面と皮膚表面の界面で反射されたテラヘルツ波は図示しない検出装置で観測される。このとき、反射テラヘルツ波の電場強度E~outは、数式1に示すように入射テラヘルツ波の電場強度Einとプリズムと皮膚表面の界面でのフレネル反射係数r~12との積で表され、E~out=r~12×Einの関係が成り立つとして解析が行われる。フレネル反射係数r~12は次の数式2により求められる。ここで、数式2中、n1はプリズムの屈折率、n~2は皮膚の複素屈折率、θはテラヘルツ波の入射角である。

【0023】
(数1)
E~out=r~12×Ein

【0024】
【数2】
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【0025】
ここで、テラヘルツ波の吸収を有する物質の場合、プリズム表面にある試料の厚さをt、試料の吸収係数をαとすると、反射テラヘルツ波から観測されるATRスペクトルの吸収強度A(t)は次の数式3の関係で示されるが、試料の厚さtがエバネッセント波の滲みだし深さdpよりも十分に大きいとき(t→∞)、ATRスペクトルの吸収強度A(∞)は数式4の関係で示され、吸収強度A(∞)はエバネッセント波の滲みだし深さdpと比例する。なお、エバネッセント波の滲みだし深さdpは、数式5に示すように入射波の電場強度が1/eに減衰する深さであり、入射テラヘルツ波の波長λ、プリズムの屈折率n1、試料の屈折率n2、プリズム表面に対する入射角θによって一義的に決まる。
【数3】
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【数4】
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【数5】
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【0026】
また、ATRスペクトルの吸収強度A(t)はエバネッセント波の滲みだし深さdp、すなわち入射テラヘルツ波の波長λに依存するので、ATRスペクトルを波長λで割る処理を行うATR補正により波長λによるピーク強度の均一化が図られる。

【0027】
一方、吸収のある物質における電磁波の伝搬は複素屈折率n~を用いて表せられる。複素屈折率n~は物質の消衰係数κを用いて数式6で示されるが、消衰係数κと当該物質の吸収係数αは数式7に示す比例関係にあることが知られている。なお、数式6中、nは物質の屈折率、iは虚数単位である。

【0028】
【数6】
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【0029】
【数7】
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【0030】
つまり、試料の厚さtがエバネッセント波の滲みだし深さdpよりも十分に大きい場合には、ATRスペクトルA(∞)は吸収係数αと比例し(数式4)、吸収係数αは消衰係数κと比例する(数式7)という関係にある。従って、ATRスペクトルの吸収強度A(t)を直接測定することや、物質の消衰係数κを求めることで吸収係数αが求められる。

【0031】
反射後のATRスペクトルはテラヘルツ時間領域分光法により観測できる。この方法では、取得したテラヘルツ波の時間波形をフーリエ変換することで反射スペクトルと位相差スペクトルを得る。試料の厚さtがエバネッセント波の滲みだし深さdpよりも十分に大きい場合には、反射スペクトルR(ω)と位相差スペクトルΦ(ω)はそれぞれ次の数式8及び数式9で示される。また、プリズムと試料の界面におけるフレネルの反射係数r~12は数式2で示される。従って、テラヘルツ時間領域分光法により得られた反射スペクトルR(ω)と位相差スペクトルΦ(ω)から、数式2と数式8、数式9の連立方程数の解を求めることで試料の複素屈折率n2~が求められる。なお、数式8及び数式9中のrrefは試料が載置しない場合のフレネル反射係数である。そして求められた複素屈折率n2~の虚部(消衰係数κ)と数式7から、物質の吸収係数αが求められる。すなわち、本発明の計測方法はテラヘルツ波出射面であるプリズム表面に皮膚を接触させながらテラヘルツ波を照射して得られる反射スペクトル及び位相差スペクトルを計測する工程と、得られた反射スペクトル及び位相差スペクトルとから角層の吸収係数を算出する工程とを備える。

【0032】
【数8】
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【0033】
【数9】
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【0034】
本発明の計測方法では皮膚を測定対象物としていることから上記で求められた吸収係数αは皮膚の吸収係数を表すことになるが、テラヘルツ波は水による吸収が非常に大きく、皮膚組織や体毛を構成するタンパク質や脂質、血液成分などによる吸収の影響を受けにくいことから、上記で求められた吸収係数αは皮膚の水分による吸収を表すと言える。

【0035】
本発明においては、プリズムと皮膚表面の界面においてテラヘルツ波が全反射する条件で、テラヘルツ波が出射される。ここで、テラヘルツ波の入射角は、0°よりも大きく90°よりも小さな角度であるので、全反射する条件は、プリズムの屈折率は少なくとも角層の複素屈折率と同じかそれ以上であることが必要となる。下記に述べるように本発明者の実測によると、0.1THz以上のテラヘルツ波を照射した場合、ブタ皮膚の角層の複素屈折率の実部は約2.5以下にあることが判明した。これは、角層の下層にある表皮層と角層との界面で生じる反射係数を考慮した下記に述べるいわゆる二界面モデルを用いて算出することで確認された。つまり、表皮層の複素屈折率と角層の厚みを用いて二界面モデルを適用することで、角層の複素屈折率が算出され得る。なお、算出に用いられる表皮層の複素屈折率は、例えば、ストリッピングによって角質を除去することで得られる表皮層を、ATR法で測定することで得られる。また、角層の厚みは、実測値をもちいることもできるが、ストリッピング回数をその厚みとしてもよく、また、推定値を利用してもよい。

【0036】
ブタ皮膚はヒトの皮膚とその組成や構造がよく似ており、ヒト皮膚の角層の複素屈折率とブタ皮膚の角層のそれとはほぼ同程度であると言える。従って、プリズムの屈折率は、測定に用いるテラヘルツ波の周波数によっても異なるが、概ね1THzより低周波数側では少なくとも2.0以上、好ましくは2.5以上、望ましくは3.0以上の屈折率を、また、概ね1THzよりも高周波帯域では2.0以上の屈折率を有するプリズムが用いられる。つまり、3.0以上の屈折率を有するプリズムであれば0.1THz以上のテラヘルツ波を用いて測定できる。このような屈折率を有するプリズムであれば、その材質は問われず、適宜選択される。例えば、その材質はシリコン(n=3.4)であり、MgO(n=3.1)であり得る。また、入射角はプリズムの屈折率やテラヘルツ波の周波数によっても異なり、全反射条件を満たす角度に設定される。

【0037】
本発明において照射され得るテラヘルツ波は、テラヘルツ波領域の電磁波であればよく、その周波数帯の下限は例えば0.1THzであり、0.25THzであり、0.5THzであり、1.0THzであり得る。また、その上限は例えば10.0THzであり、5.0THzであり、3.0THzであり、2.0THzであり得る。なお、下記に述べるように、テラヘルツ波の周波数が高くなるほど水の吸収係数αが大きくなるので感度がよくなるが、周波数が高くなると滲みだし深さdが小さくなりすぎて角層水分量が十分に反映されない傾向にある。一方、エバネッセント波の滲みだし深さdpは、数式5に示すようにテラヘルツ波の波長λに比例し、その周波数に反比例する関係にあるので、低周波数側では滲みだし深さdpが大きくなる。従って、低周波数側では角層下にある表皮層における吸収が主体となり、角層の吸収係数αを反映しているとは言えなくなる。このような観点からすると、0.1THz以上3.0THzのテラヘルツ波が好ましい。

【0038】
求められた吸収係数αは角層の水分量を反映した値であるところ、算出された吸収係数αから角層の相対的な水分量を知ることができる。また、吸収係数αは物質のモル濃度と比例関係にあることから、吸収係数αから物質のモル濃度が求められる。すなわち、既知の質量含水量と吸収係数αの関係を利用して、求められた吸収係数αから角層の質量含水量(含水率)が求められる。角層の質量含水量を求める場合には、例えば質量含水量が既知である角層モデルを用いて計測された吸収係数αとの対比により求めることができる。角層モデルは任意のモデルが用いられる。角層は死んだ角化細胞が重層化したものであるので、例えば、皮膚より採取したタンパク成分のパウダーを圧縮して得られたシートに水分を含ませたシートモデル、角層はタンパクと水で構成されると仮定したアルブミンタンパク水溶液からなるモデルが例示される。

【0039】
また、低周波側においてはエバネッセント波の滲みだし深さdpが角層の厚さdよりも大きくなり、表皮層の水分による影響を受けることが考えられる。従って、非特許文献8に記載された二界面モデルを適用して、補正された反射係数r~123を求めて、吸収係数αを求めることもできる。二界面モデルは、図2に示すように薄膜試料に積層試料が積層した状態で測定した場合に、プリズムと薄層試料との界面における反射係数r~12に変えて、薄層試料と積層試料との界面における反射係数r~23を考慮した全体の反射係数(補正された反射係数)r~123を用いるモデルを意味する。つまり、薄膜試料と積層試料の界面でも当該界面でのフレネル反射係数r~23に比例した減衰があるとして取り扱い、この減衰を除くことで薄膜試料における減衰を取り出して解析する。皮膚は極めて薄い角層に表皮層が積層された構造を有するので角層と表皮層との間に界面が存在するものと考えられる。そこで、この界面における反射係数r~23を考慮すれば、エバネッセント波が角層の厚さより滲みだした場合の誤差を小さくできる。

【0040】
角層と表皮層の界面における反射係数r~23は数式10により求められ、補正された反射係数r~123は次の数式11で求められる。また、吸収係数αは上記数式8、数式9において、反射係数r~12の代わりに補正された反射係数r~123を代入し、数式2、数式10、数式11と数式8、数式9の連立方程数の解を求めることで得られる。この補正に必要となる角層の厚さdや表皮層の複素屈折率n~3は実測値であり、推定値であり、文献値などであり得る。

【0041】
【数10】
JP2016053528A_000011t.gif

【0042】
【数11】
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【0043】
また、二界面モデルを適用する場合、エバネッセント波の滲みだし深さdpが角層の厚さdよりも小さい場合には補正による誤差が生じるため、エバネッセント波の滲みだし深さdpが角層の厚さdよりも大きくなる周波数帯が用いられる。例えば、好ましくは3THz以下であり、2THz以下であり、さらに好ましくは1.5THz以下、望ましくは1THz以下のテラヘルツ波であり得る。

【0044】
このように本発明の測定方法を用いることにより数十μmといった極めて薄い角層の水分量を、皮膚を傷付けることなく簡便に測定することができる。

【0045】
以下、本発明を下記の実施例に基づいてより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0046】
〔水の吸収係数の測定〕
角層の水分を測定するにあたり、まず水の吸収係数αを測定した。測定に用いたテラヘルツ全反射型減衰分光測定器は、ATRモジュールとしてSi(n=3.42)のプリズムを備え、入射角は57°である(以下同じ)。プリズム表面に水を滴下して測定した。なお、参照は空気とした。その結果を図3に示した。
【実施例1】
【0047】
次に、含水率の異なるスクロース水溶液を測定し、その吸収係数αとスクロース水溶液の質量含水率(スクロース濃度)との関係を調べた。プリズム表面に1mLのスクロース水溶液を滴下して測定した。その結果を図4及び図5に示す。この結果から、スクロース水溶液の質量含水率と吸収係数αは比例することが確認された(図5)。このときの決定係数Rは例えば0.5THz、1.0THz帯でそれぞれ0.99以上であり、0.5THzにおける吸収係数は文献値(Keiichiro Shiraga et al., Food Chemistry,140,315-320,2013)とほぼ一致した。
【実施例2】
【0048】
〔角層モデルにおける水の吸収係数〕
角層モデルを用いて角質モデルに含まれる水の吸収係数を測定した。皮膚真皮より採取した間質成分のパウダー(hide powder non-chromated, SIGMA社製)をプレスして得られたシートを角層モデル(シートモデル)とした。0.12gのパウダーに294Pa又は589Paの圧力を2秒間加えることを3回繰り返してシートを作製した。当該シートに200~500μLの蒸留水を滴下して、湿度100%の容器内で48時間静置して、シート内に水分を均質に行き渡らせた。含水率は、測定直後の湿潤質量と70℃で24時間乾燥後の乾燥質量とから算出した。
【実施例2】
【0049】
得られたシートをプリズムに載置して、重石を載せて測定を行った。その結果を図6及び図7に示した。図7に示すように質量含水率と吸収係数は比例し、吸収係数から質量含水率を求められることが示された。
【実施例3】
【0050】
〔ブタ皮膚の含水量の測定〕
ブタの皮膚を用いて、ブタの角質層の含水量を測定し、その後ストリッピングによる含水量の変化を測定した。凍結されたブタ皮膚(2cm×2cm)を室温(約20℃)で解凍した後、皮膚の側面を粘着テープで覆った状態で室温(約20℃)に48時間放置して乾燥状態にした。次に、この乾燥状態の皮膚に2mLの蒸留水を含ませた紙製ウエス(商品名「キムワイプ」、日本製紙クレア社製)を150秒間載せて放置した。その後、皮膚表面を紙製ウエスで軽く拭き、含水後の皮膚とした。また、測定後にセロハンテープを用いたストリッピングにより角層を除去しながら測定し、25回のストリッピングになるまで測定を繰り返した。このストリッピングでは1回のストリッピングによって1層の角層(厚さとして約1μm)が剥離され、25回のストリッピングではほぼ角層が除去されていると考えられる。
【実施例3】
【0051】
ブタ皮膚をプリズム上に載置し、重石を載せて測定を行った。含水率は、測定した吸収係数から、実施例2で得られた吸収係数と質量含水率の関係を示すグラフを用いて算出した。その結果を図8及び図9に示した。水やスクロース水溶液の場合と同様に、皮膚の吸収係数は高周波側で大きくなる傾向を示した。ストリッピングを重ねるにつれブタ皮膚の含水量は一次的に減少したが、その後増加する傾向を示した。乾燥後の皮膚に極めて短時間で吸水させた結果、最表層では吸水が生じたが、続く中間層部分では水が十分に吸水されずに含水率が低い状態となっており、皮膚の深い部分では十分に乾燥されなかった結果、高い含水率のままであったためと考えられる。この測定条件においては、エバネッセント波の滲みだし深さdpは約70~10μmと計算され、ブタ皮膚の角層の水分量が測定されているものと考えられる。これらの測定結果は、前記ブタ皮膚の含水状態を反映しているだけでなく、角層には水分勾配があるとの報告(Wu J et al., Confocal Raman microspectroscopy of stratum corneum : apre-clinical validation study, International Journal of Cosmetic Science, 30, 1, 47-56, 2008. : Egawa M et al., In vivo Estimation of Stratum Corneum Thickness from Water Concentration Profiles Obtained with Raman Spectroscopy, Acta Dermato Venereologica, 87, 4-8, 2007)とも一致しており、本発明に係る方法は妥当性のある方法であると言える。このように、本発明においては角層のような極めて薄い薄膜試料中の水分量又は水分量の変化を的確に捉えることができる。
【実施例4】
【0052】
〔二界面モデルを適用したブタ皮膚(角層)の含水量の測定〕
実施例3で得られた計測データから二界面モデルを用いてブタ皮膚の角層の吸収係数と質量含水量を算出した。その結果を図10及び図11に示した。また、角層の吸収係数を算出するために導出された角層の複素屈折率n~2の屈折率n(実部)及び消衰係数κ(虚部)と周波数の関係を示す図の一例を図12に示す。なお、二界面モデルにおいて反射係数r~123の計算に必要となるブタ皮膚の角層厚さdは30μmと仮定した。また、表皮層の複素屈折率n~3には、実施例3において25回のストリッピングを行ったときの複素屈折率を用いた。
【実施例4】
【0053】
図12に示すように角層の複素屈折率n~2の実部は2.5以下にあることが測定された。また、皮膚の吸収係数やストリッピング回数と吸収係数の関係は、実施例3と同じ傾向を示した。一方、二界面モデルの適用の有無について検討すると、図13に示すように、二界面モデルを適用した場合には皮膚の吸収係数は全体として小さくなる傾向を示し、低周波側において高周波側に比べて小さくなった。低周波側ではエバネッセント波の滲みだし深さは大きくなり、表皮の影響が排除された結果であると言える。また、適用の有無による吸収係数の変化は高周波数側の方が低周波数側よりも小さかった。
【実施例5】
【0054】
〔水溶性アルブミン溶液を用いた角層モデル〕
実施例2で用いた角層モデルは空隙の存在のために質量含水率が30%以下の水分量が測定できないことが懸念された。そこで、空隙が存在しないモデルとして質量濃度(w/w%)既知の水溶性アルブミンの水溶液を用いて同様の測定を行った。図14に吸収係数と周波数の関係を示す。また、図15に吸収係数と質量含水率の関係を示す。また、実施例3で得られた計測データから二界面モデルを用いて求めた質量含水率とストリッピング回数との関係を図16に示した。図15における質量含水率と吸収係数の関係は次の数式12から導いた。数式12において、MWは水の質量、MDはアルブミンの質量、Vは水溶液の体積、WMは水の質量濃度である。テラヘルツ帯において吸収係数の大きさは水分子のモル濃度と線形関係にあると考えられるが、アルブミン水溶液においては、質量含水率の算出には水分子の質量だけでなくアルブミンの質量も考慮すべきであり、質量含水率はモル濃度に比例しない。一方、アルブミン濃度が上昇した(質量含水率が低下した)ときの水の吸収係数の低下幅はアルブミンの増加量(吸収が無視できるほど小さい)に比例すると考えられるので、アルブミン濃度と水の吸収係数にも線形関係が成り立つと考えられる。そうすると、水の濃度及びアルブミン濃度は、A、B、C、Dを定数として、それぞれ数式13、数式14として表すことができる。そこで、測定された吸収係数と水の質量濃度、測定された吸収係数とアルブミンの質量濃度をそれぞれ一次関数で近似することでA、B、C、Dを求め、図15に示す関係(検量線)を得た。
【実施例5】
【0055】
アルブミン水溶液を角層モデルとして利用することで、空隙の影響が低減され、質量含水率が30%以下の場合でも角層の水分量を測定できた。また、この検量線から質量含水量とストリッピング回数との関係を求めたところ、実施例4と同様な傾向であった。
【実施例5】
【0056】
【数12】
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【実施例5】
【0057】
【数13】
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【実施例5】
【0058】
【数14】
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【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は皮膚角層の水分量を測定する新たな測定法を提供する。
図面
【図3】
0
【図4】
1
【図5】
2
【図6】
3
【図7】
4
【図8】
5
【図9】
6
【図10】
7
【図11】
8
【図12】
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【図13】
10
【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図1】
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【図2】
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