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明細書 :斜面崩壊予測方法及び斜面崩壊予測装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6450129号 (P6450129)
公開番号 特開2015-232537 (P2015-232537A)
登録日 平成30年12月14日(2018.12.14)
発行日 平成31年1月9日(2019.1.9)
公開日 平成27年12月24日(2015.12.24)
発明の名称または考案の名称 斜面崩壊予測方法及び斜面崩壊予測装置
国際特許分類 G01W   1/00        (2006.01)
E02D  17/20        (2006.01)
FI G01W 1/00 Z
E02D 17/20 106
請求項の数または発明の数 14
全頁数 27
出願番号 特願2014-203340 (P2014-203340)
出願日 平成26年10月1日(2014.10.1)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用 平成25年度 砂防地すべり技術研究成果報告会、平成25年11月12日 (刊行物等) 平成25年度 砂防地すべり技術研究成果報告会 講演論文集、一般財団法人 砂防・地すべり技術センター、平成25年11月12日 (刊行物等) 深層崩壊セミナー、平成25年11月22日 (刊行物等) 砂防学会誌、第66巻、第6号、公益社団法人砂防学会 平成26年3月15日 (刊行物等) http://www.bluemoon.kais.kyoto-u.ac.jp/start-jp.html、http://www.bluemoon.kais.kyoto-u.ac.jp/KOMOKU/nagiso-140718.pdf、平成26年7月18日 (刊行物等) 配布資料、平成26年8月1日
優先権出願番号 2014098393
優先日 平成26年5月12日(2014.5.12)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成29年7月5日(2017.7.5)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
発明者または考案者 【氏名】小杉 賢一朗
個別代理人の代理人 【識別番号】110001069、【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
審査官 【審査官】苗村 康造
参考文献・文献 特開2005-200972(JP,A)
特開2010-150862(JP,A)
特開2004-003274(JP,A)
特開平10-268065(JP,A)
小杉賢一朗 外6名,山体基岩内部の地下水位変動を解析するための実効雨量に基づく関数モデル,砂防学会誌,2013年11月,Vol.66、No.4,PP.21-32
倉本和正 外5名,RBFネットワークを用いた非線形がけ崩れ発生限界雨量線の設定に関する研究,土木学会論文集,2001年 3月,No.672/6-50,PP.117-132
調査した分野 E02D 17/00~ 17/20
G01W 1/00~ 1/18
E01F 7/00
G08B 23/00~ 31/00
G06F 17/60
特許請求の範囲 【請求項1】
対象地点における降雨イベントによる斜面崩壊の発生を予測する斜面崩壊予測方法であって、
a) ある時刻における蓄積雨量が半減するまでの時間である半減期をパラメータとして、過去の降雨イベントが前記蓄積雨量に及ぼす影響の持続性を表した雨量指標である実効雨量の現時点までの時系列値を、前記対象地点の過去の降雨イベントの降雨量データを用い、所定の長半減期及び該長半減期より短い短半減期についてそれぞれ算出し、
b) 前記長半減期をパラメータとする第1実効雨量をX軸、前記短半減期をパラメータとする第2実効雨量をY軸とするXY座標平面に、前記第1実効雨量の時系列値の最大値を通り前記Y軸と平行な第1境界線及び前記第2実効雨量の時系列値の最大値を通り前記X軸と平行な第2境界線を設定して判定用XY座標平面を作成し、
c) 斜面崩壊発生の予測対象となる降雨イベントの降雨量データから、前記長半減期をパラメータとする第3実効雨量の時系列値及び前記短半減期をパラメータとする第4実効雨量の時系列値を、前記予測対象降雨イベントの進行と共に順次算出し、
d) 同じ時刻における前記第3実効雨量の時系列値及び前記第4実効雨量の時系列値をそれぞれX値、Y値とする点を測定点としたとき、該測定点が、前記判定用XY座標平面において前記第1境界線を超える領域に位置するとき、又は前記第2境界線を超える領域に位置するときに斜面崩壊が発生する可能性があると判定することを特徴とする斜面崩壊予測方法。
【請求項2】
請求項1に記載の斜面崩壊予測方法において、
前記対象地点の過去の降雨イベントの降雨量データから求められた、同じ時刻の前記第1実効雨量の時系列値及び前記第2実効雨量の時系列値をそれぞれX値及びY値とする複数の点を前記判定用XY座標平面にプロットし、
前記複数の点のうちある時刻の点を注目点としたとき、該注目点とX値が同じ点の中に前記注目点よりもY値が大きい点が存在しない場合、及び前記注目点よりもX値が大きい点の中に前記注目点とY値が同じ点及び前記注目点よりもY値が大きい点のいずれもが存在しない場合は、前記注目点を第3境界点として抽出する作業を繰り返し、
抽出された全ての第3境界点をX値が小さい順に繋いだ線を、前記第1実効雨量及び前記第2実効雨量の相乗効果による実効雨量の最大値を表す第3境界線として前記判定用XY座標平面に設定し、
前記判定用XY座標平面において、前記測定点が前記第3境界線を超える領域に位置するときに斜面崩壊が発生する可能性があると判定することを特徴とする斜面崩壊予測方法。
【請求項3】
請求項2に記載の斜面崩壊予測方法において、
複数の、長半減期及び短半減期の組み合わせについて、それぞれ第1~第3境界線を設定した判定用XY座標平面を求め、
これら複数の判定用XY座標平面の全てについて、対応する第3実効雨量の時系列値及び第4実効雨量の時系列値からなる測定点が、前記X軸と前記Y軸と前記第1境界線と前記第2境界線と前記第3境界線とに囲まれた第1領域、前記第1境界線と前記第2境界線と前記第3境界線とに囲まれた第2領域、前記第1境界線を超過し且つ前記第2境界線よりも前記X軸側の第3領域、前記第2境界線を超過し且つ前記第1境界線よりも前記Y軸側の第4領域、前記第1境界線及び前記第2境界線の両方を超過する第5領域のいずれの領域に位置するかを判別し、各時刻における判別結果の集計から、斜面崩壊の発生を予測することを特徴とする斜面崩壊予測方法。
【請求項4】
請求項2に記載の斜面崩壊予測方法において、
複数の、長半減期及び短半減期の組み合わせについて、それぞれ第1~第3境界線を設定した判定用XY座標平面を求め、
これら複数の判定用XY座標平面の全てについて、対応する第3実効雨量の時系列値及び第4実効雨量の時系列値からなる測定点が、前記X軸と前記Y軸と前記第1境界線と前記第2境界線と前記第3境界線とに囲まれた第1領域、前記第1境界線と前記第2境界線と前記第3境界線とに囲まれた第2領域、前記第1境界線を超過し且つ前記第2境界線よりも前記X軸側の第3領域、前記第2境界線を超過し且つ前記第1境界線よりも前記Y軸側の第4領域、前記第1境界線及び前記第2境界線の両方を超過する第5領域のいずれの領域に位置するかを判別し、少なくとも1個の判定用XY座標平面において測定点が第2~第5領域のいずれかに位置するとき、斜面崩壊の発生の可能性が高いと予測することを特徴とする斜面崩壊予測方法。
【請求項5】
請求項2に記載の斜面崩壊予測方法において、
複数の、長半減期及び短半減期の組み合わせについて、それぞれ第1~第3境界線を設定した判定用XY座標平面を求め、
これら複数の判定用XY座標平面の全てについて、対応する第3実効雨量の時系列値及び第4実効雨量の時系列値からなる測定点のうち直近の測定点が、前記X軸と前記Y軸と前記第1境界線と前記第2境界線と前記第3境界線とに囲まれた第1領域、前記第1境界線と前記第2境界線と前記第3境界線とに囲まれた第2領域、前記第1境界線を超過し且つ前記第2境界線よりも前記X軸側の第3領域、前記第2境界線を超過し且つ前記第1境界線よりも前記Y軸側の第4領域、前記第1境界線及び前記第2境界線の両方を超過する第5領域のいずれの領域に位置するかを判別し、
その結果を表すシンボルを、横軸を長半減期、縦軸を短半減期とする二次元座標平面にプロットした二次元判定図を作成することを特徴とする斜面崩壊予測方法。
【請求項6】
請求項1に記載の斜面崩壊予測方法において、
前記対象地点の過去の降雨イベントの降雨量データから求められた、同じ時刻の前記第1実効雨量の時系列値及び前記第2実効雨量の時系列値をそれぞれX値及びY値とする複数の点を前記判定用XY座標平面にプロットし、
前記複数の点のうちある時刻の点を注目点としたとき、該注目点とX値が同じ点の中に前記注目点よりもY値が大きい点が存在しない場合、及び前記注目点よりもX値が大きい点の中に前記注目点とY値が同じ点及び前記注目点よりもY値が大きい点のいずれもが存在しない場合は、前記注目点を第3境界点として抽出する作業を繰り返し、
抽出された全ての第3境界点をX値が小さい順に繋いだ線を、前記第1実効雨量及び前記第2実効雨量の相乗効果による実効雨量の最大値を表す第3境界線として前記判定用XY座標平面に設定し、
前記判定用XY座標平面において、前記測定点のうち直近の測定点が前記X軸と前記Y軸と前記第1境界線と前記第2境界線と前記第3境界線とに囲まれた領域に位置するとき、次の測定点が前記第1~第3境界線を超えることになる単位時間あたりの降雨量を算出することを特徴とする斜面崩壊予測方法。
【請求項7】
請求項6に記載の斜面崩壊予測方法において、
複数の、長半減期及び短半減期の組み合わせについて、それぞれ第1~第3境界線を設定した判定用XY座標平面を求め、
これら複数の判定用XY座標平面の全てについて、対応する第3実効雨量の時系列値及び第4実効雨量の時系列値からなる測定点のうち直近の測定点が前記X軸と前記Y軸と前記第1境界線と前記第2境界線と前記第3境界線とに囲まれた領域に位置するとき、次の測定点が前記第1~第3境界線を超えることになる単位時間あたりの降雨量を算出し、
該単位時間あたりの降雨量を、横軸を長半減期、縦軸を短半減期とする二次元座標平面にプロットした二次元判定図を作成することを特徴とする斜面崩壊予測方法。
【請求項8】
対象地点における降雨イベントによる斜面崩壊の発生を予測する斜面崩壊予測装置であって、
a) ある時刻における蓄積雨量が半減するまでの時間である半減期をパラメータとして、過去の降雨イベントが前記蓄積雨量に及ぼす影響の持続性を表した雨量指標である実効雨量の現時点までの時系列値を、前記対象地点の過去の降雨イベントの降雨量データを用い、所定の長半減期及び該長半減期より短い短半減期についてそれぞれ算出する、既往実効雨量算出手段と、
b) 前記長半減期をパラメータとする第1実効雨量をX軸、前記短半減期をパラメータとする第2実効雨量をY軸とするXY座標平面に、前記第1実効雨量の時系列値の最大値を通り前記Y軸と平行な第1境界線及び前記第2実効雨量の時系列値の最大値を通り前記X軸と平行な第2境界線を設定して判定用XY座標平面を作成する、判定用XY座標平面作成手段と、
c) 斜面崩壊発生の予測対象となる降雨イベントの降雨量データから、前記長半減期をパラメータとする第3実効雨量の時系列値及び前記短半減期をパラメータとする第4実効雨量の時系列値を、前記予測対象降雨イベントの進行と共に順次算出する、予測用実効雨量算出手段と、
d) 同じ時刻における前記第3実効雨量の時系列値及び前記第4実効雨量の時系列値をそれぞれX値、Y値とする点を測定点としたとき、該測定点が、前記判定用XY座標平面において前記第1境界線を超える領域に位置するとき、又は前記第2境界線を超える領域に位置するときに斜面崩壊が発生する可能性があると判定する判定手段と
を備えることを特徴とする斜面崩壊予測装置。
【請求項9】
請求項8に記載の斜面崩壊予測装置において、
前記判定用XY座標平面作成手段が、同じ時刻の前記第1実効雨量の時系列値及び前記第2実効雨量の時系列値をそれぞれX値及びY値とする複数の点を前記判定用XY座標平面にプロットし、前記複数の点のうちある時刻の点を注目点としたとき、該注目点とX値が同じ点の中に前記注目点よりもY値が大きい点が存在しない場合、及び前記注目点よりもX値が大きい点の中に前記注目点とY値が同じ点及び前記注目点よりもY値が大きい点のいずれもが存在しない場合は、前記注目点を第3境界点として抽出する作業を繰り返し、抽出された全ての第3境界点をX値が小さい順に繋いだ線を、前記第1実効雨量及び前記第2実効雨量の相乗効果による実効雨量の最大値を表す第3境界線として前記判定用XY座標平面に設定し、
前記判定手段が、前記判定用XY座標平面において前記測定点が前記第3境界線を超える領域に位置するときに斜面崩壊が発生する可能性があると判定することを特徴とする斜面崩壊予測装置。
【請求項10】
請求項9に記載の斜面崩壊予測装置において、
前記既往実効雨量算出手段が、長さが異なる3種類以上の半減期について前記実効雨量の時系列値を算出し、
前記判定用XY座標平面作成手段が、前記3種類以上の半減期から2種類の半減期を選択することにより形成される、複数の、長半減期と短半減期の組み合わせについて、それぞれ前記第1~第3境界線を設定した判定用XY座標平面を求め、
前記判定手段が、前記複数の判定用XY座標平面の全てについて、対応する第3実効雨量の時系列値及び第4実効雨量の時系列値からなる測定点が、前記X軸と前記Y軸と前記第1境界線と前記第2境界線と前記第3境界線とに囲まれた第1領域、前記第1境界線と前記第2境界線と前記第3境界線とに囲まれた第2領域、前記第1境界線を超過し且つ前記第2境界線よりも前記X軸側の第3領域、前記第2境界線を超過し且つ前記第1境界線よりも前記Y軸側の第4領域、前記第1境界線及び前記第2境界線の両方を超過する第5領域のいずれの領域に位置するかを判別し、各時刻における判別結果の集計から、斜面崩壊の発生を予測することを特徴とする斜面崩壊予測装置。
【請求項11】
請求項9に記載の斜面崩壊予測装置において、
前記既往実効雨量算出手段が、長さが異なる3種類以上の半減期について前記実効雨量の時系列値を算出し、
前記判定用XY座標平面作成手段が、前記3種類以上の半減期から2種類の半減期を選択することにより形成される、複数の、長半減期と短半減期の組み合わせについて、それぞれ前記第1~第3境界線を設定した判定用XY座標平面を求め、
前記判定手段が、前記複数の判定用XY座標平面の全てについて、対応する第3実効雨量の時系列値及び第4実効雨量の時系列値からなる測定点が、前記X軸と前記Y軸と前記第1境界線と前記第2境界線と前記第3境界線とに囲まれた第1領域、前記第1境界線と前記第2境界線と前記第3境界線とに囲まれた第2領域、前記第1境界線を超過し且つ前記第2境界線よりも前記X軸側の第3領域、前記第2境界線を超過し且つ前記第1境界線よりも前記Y軸側の第4領域、前記第1境界線及び前記第2境界線の両方を超過する第5領域のいずれの領域に位置するかを判別し、少なくとも1個の判定用XY座標平面において測定点が第2~第5領域のいずれかに位置するとき、斜面崩壊の発生の可能性が高いと予測することを特徴とする斜面崩壊予測装置。
【請求項12】
請求項9に記載の斜面崩壊予測装置において、
前記判定用XY座標平面作成手段が、複数の、長半減期及び短半減期の組み合わせについて、それぞれ第1~第3境界線を設定した判定用XY座標平面を求め、
これら複数の判定用XY座標平面の全てについて、対応する第3実効雨量の時系列値及び第4実効雨量の時系列値からなる測定点のうち直近の測定点が、前記X軸と前記Y軸と前記第1境界線と前記第2境界線と前記第3境界線とに囲まれた第1領域、前記第1境界線と前記第2境界線と前記第3境界線とに囲まれた第2領域、前記第1境界線を超過し且つ前記第2境界線よりも前記X軸側の第3領域、前記第2境界線を超過し且つ前記第1境界線よりも前記Y軸側の第4領域、前記第1境界線及び前記第2境界線の両方を超過する第5領域のいずれの領域に位置するかを判別し、
その結果を表すシンボルを、横軸を長半減期、縦軸を短半減期とする二次元座標平面にプロットした二次元判定図を作成する二次元判定図作成手段を有することを特徴とする斜面崩壊予測装置。
【請求項13】
請求項8に記載の斜面崩壊予測装置において、
前記判定用XY座標平面作成手段が、前記対象地点の過去の降雨イベントの降雨量データから求められた、同じ時刻の前記第1実効雨量の時系列値及び前記第2実効雨量の時系列値をそれぞれX値及びY値とする複数の点を前記判定用XY座標平面にプロットし、前記複数の点のうちある時刻の点を注目点としたとき、該注目点とX値が同じ点の中に前記注目点よりもY値が大きい点が存在しない場合、及び前記注目点よりもX値が大きい点の中に前記注目点とY値が同じ点及び前記注目点よりもY値が大きい点のいずれもが存在しない場合は、前記注目点を第3境界点として抽出する作業を繰り返し、抽出された全ての第3境界点をX値が小さい順に繋いだ線を、前記第1実効雨量及び前記第2実効雨量の相乗効果による実効雨量の最大値を表す第3境界線として前記判定用XY座標平面に設定し、
前記判定用XY座標平面において、前記測定点のうち直近の測定点が前記X軸と前記Y軸と前記第1境界線と前記第2境界線と前記第3境界線とに囲まれた領域に位置するとき、次の測定点が前記第1~第3境界線を超えることになる単位時間あたりの降雨量を算出する超過降雨量算出手段を備えることを特徴とする斜面崩壊予測装置。
【請求項14】
請求項13に記載の斜面崩壊予測装置において、
前記判定用XY座標平面作成手段が、複数の、長半減期及び短半減期の組み合わせについて、それぞれ第1~第3境界線を設定した判定用XY座標平面を求め、
前記超過雨量算出手段が、前記複数の判定用XY座標平面の全てについて、対応する第3実効雨量の時系列値及び第4実効雨量の時系列値からなる測定点のうち直近の測定点が前記X軸と前記Y軸と前記第1境界線と前記第2境界線と前記第3境界線とに囲まれた領域に位置するとき、次の測定点が前記第1~第3境界線を超えることになる単位時間あたりの降雨量を算出し、
該単位時間あたりの降雨量を、横軸を長半減期、縦軸を短半減期とする二次元座標平面にプロットした二次元判定図を作成する二次元判定図作成手段を有することを特徴とする斜面崩壊予測装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、降雨に伴って発生する崖崩れや山崩れなどの斜面崩壊の発生を予測する斜面崩壊予測方法及び斜面崩壊予測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
崖崩れや山崩れ等の斜面崩壊の発生は人命や財産等に甚大な被害をもたらす。このため、斜面崩壊の的確な予測方法の確立は、斜面崩壊を回避するための対策を講じたり、警戒・避難の時期を判断したりする上で重要である。
【0003】
斜面崩壊は、降雨時間が長い場合や降雨強度が大きい場合に発生しやすい。ただし、降雨時間が短い場合でも降雨強度が非常に大きければ、あるいは、降雨強度が小さい場合でも降雨時間が長く、それまでの降雨総量が多ければ斜面崩壊が発生することがある。このように、斜面崩壊の発生は、降雨総量と降雨強度の両方の影響を受ける。従って、降雨総量の影響を評価するための雨量指標(長期的雨量指標)と、降雨強度の影響を評価するための雨量指標(短期的雨量指標)を併用して、斜面崩壊の発生を予測することが効果的である。
【0004】
そこで、長期的雨量指標と短期的雨量指標を用いて降雨状況を表したスネーク曲線と呼ばれるグラフを用いた予測方法が一般的に知られている。スネーク曲線は、長期的雨量指標と短期的雨量指標をそれぞれ横軸、縦軸とするグラフに、各時刻における長期的雨量指標と短期的雨量指標を表す点をプロットし、それらを線で繋いだもので、降雨時系列による点の軌跡を追跡することにより斜面崩壊の発生を予測する。
【0005】
図1に、長期的雨量指標として半減期72時間の実効雨量(72h実効雨量)を、短期的雨量指標として半減期1.5時間の実効雨量(1.5h実効雨量)を用いたスネーク曲線の例を示す。実効雨量は、ある地点における先行降雨がその後の該地点の蓄積雨量に及ぼす影響の持続性を、半減期をパラメータとして表現した雨量指標である。半減期をM[h]とすると、時刻t[h] における実効雨量X(M,t)[mm]は次式(1)で定義される。
【数1】
JP0006450129B2_000002t.gif

ここで、X(M,t-1)[mm]は1時間前の実効雨量、R(t)[mm]は時刻t-1~tの間の雨量(時間雨量)である。減少係数α[h-1]は、半減期Mを用いた次式(2)で求められる。
【数2】
JP0006450129B2_000003t.gif

【0006】
実効雨量の式(1)では、ある時刻に降った雨量Rが半減期M[h]経過するとR/2となり、更に半減期M[h]が経過するとR/4になるというように、指数関数的に降雨の影響が減少する。従って、半減期Mが短い場合は、降雨の影響は時間と共に急激に減少することになり、実効雨量は実質的に降雨強度を表す指標となる。一方、半減期が長い場合は、降雨の影響がより長期間持続することになり、半減期を無限大に設定すれば実効雨量は積算雨量に等しくなる。図2に、ある年の各月における時間雨量を示すグラフ(a)、及び、この時間雨量について、半減期M[h]を1.5、72、216、720、及び3000に設定したときの実効雨量を表すグラフ(b)~(f)を示す。図2においては、例えば半減期1.5[h]の実効雨量は地面の表層に貯留される水分量の指標を表し、半減期72[h]の実効雨量は地面から深層に貯留される水分量の指標を表す。

【0007】
スネーク曲線上の境界線CLは、崩壊発生限界の雨量線を示す。スネーク曲線において、境界線CLより右上側に点がプロットされた時点で斜面崩壊が発生すると判断される。従って、スネーク曲線を用いた斜面崩壊の予測では、縦軸及び横軸に用いる雨量指標(半減期)の適切な選択と、適切な境界線CLの設定が重要となる。
【0008】
スネーク曲線の横軸及び縦軸に用いられる長期的雨量指標及び短期的雨量指標として、以下の例が挙げられる。
第一の例は、斜面崩壊の予測のために長年用いられてきた例であり、長期的雨量指標として積算雨量を、短期的雨量指標として時間雨量を利用したものである(非特許文献1)。
第二の例は、斜面内部の雨水貯留量を、図3に示すようなタンクモデルで評価した土壌雨量指数を長期的雨量指標とする例である(非特許文献2、非特許文献3)。1993年に牧原及び平沢によって提案され、近年、広く用いられている。
第三の例は、降雨の総量と強度の影響を半減期により調節した実効雨量を指標とする例であり、半減期を異ならせた様々な実効雨量について多くの検討が加えられてきた。特に、1993年に開催された総合土砂災害対策検討会(建設省)で提案された、半減期72時間の実効雨量を長期的雨量指標とし、半減期1.5時間の実効雨量を短期的雨量指標とする方法が普及している(非特許文献4)。
【0009】
一方、境界線については、例えば図4に示すように、対象地域における既往の斜面崩壊発生実績及び斜面崩壊非発生実績に基づいて、「見逃し」と「空振り」を共にできるだけ少なくすることができる直線をスネーク曲線上に引き、この直線を境界線CLとする方法が永年用いられてきた(非特許文献1)。近年では、ニューラルネットワークを用いた方法により、「見逃し」と「空振り」を最小にする非直線型の境界線CLを引く方法(非特許文献4)が提案され、広く使用されるようになっている。
【0010】
ここで、「見逃し」とは、実際は斜面崩壊が発生している事例を非発生と判断してしまうことを指し、「空振り」とは、実際は斜面崩壊が発生していない事例を斜面崩壊が発生すると判断してしまうことを指す。「見逃し」が起きると、警戒・避難の勧告や指示がなされていない状況で斜面崩壊が発生するため、人的・物的被害が拡大する。一方、「空振り」が繰り返されると、対象地域の住民の斜面崩壊に対する意識が次第に低下するため、実際には斜面崩壊が発生する場合でも、勧告や指示を受けても警戒したり、避難行動をとったりしなくなるおそれがある。
従って、斜面崩壊を予測する上では「見逃し」と「空振り」をいかに少なくできるかが重要となる。
【先行技術文献】
【0011】

【非特許文献1】寺田秀樹・中谷洋明(2001):土砂災害警戒避難基準雨量の設定手法,国土技術政策総合研究所資料第5号,国土交通省,58pp.
【非特許文献2】牧原康隆・平沢正信(1993):斜面崩壊危険度予測におけるタンクモデルの精度,気象庁研究時報,Vol.45,No.2,p.35-70
【非特許文献3】国土交通省気象庁ホームページ、"土壌雨量指数",[online],平成26年5月2日検索],インターネット<URL:http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/bosai/dojoshisu.html>
【非特許文献4】倉本和正・鉄賀博己・東寛和・荒川雅生・中山弘隆・古川浩平(2001):RBF ネットワークを用いた非線形がけ崩れ発生限界雨量線の設定に関する研究,土木学会論文集,No.672/VI-50,p.117-132
【非特許文献5】小杉賢一朗・藤本将光・山川陽祐・正岡直也・糸数哲・水山高久・木下篤彦(2013):山体基岩内部の地下水位変動を解析するための実効雨量に基づく関数モデル,砂防学会誌,Vol.66,No.4,p.21-32
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
力学的視点に立つと、斜面崩壊は、降雨によって地下水位が上昇し、ある臨界レベルを超過したときに発生すると考えることができる。従って、地下水位が上昇する様子や臨界レベルを適切に表現することができれば、斜面崩壊の発生予測における「見逃し」や「空振り」を少なくすることができる。
【0013】
地下水位が上昇する様子(上昇する量やタイミング)は、雨の降り方、つまり、降雨時間や単位時間あたりの降雨量等によって決まるが、同じように雨が降っても地点によって地下水位が上昇する様子が異なる。これは、植生、地形、土壌、及び岩石の性質(保水性や透水性)が地点ごとに異なるため、雨が浸透する速さ、上流域からの水の集まりやすさ、下流域への水の通過しやすさがばらつくからである。
同様に、斜面崩壊が発生する地下水位の臨界レベルも、地点の植生、地形、土壌や岩石の性質(間隙の量や破壊に対する強度)に依存するため、地点ごとに異なる。
【0014】
従って、地下水位の上昇の様子を適切に表現することができる雨量指標や、斜面崩壊の発生及び非発生の境界を矛盾無く説明できる境界線CLは地点毎に異なるはずである。しかしながら、従来は、地点に関係なく、一律の雨量指標を使用して地下水位の上昇の様子を表現し、既往の斜面崩壊の発生・非発生の実績に基づいて境界線CLを設定しており、斜面崩壊発生の予測精度に限界があった。
【0015】
本発明が解決しようとする課題は、各対象地点において発生する斜面崩壊を正確に予測することができる斜面崩壊予測方法及び斜面崩壊予測装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために成された本発明に係る斜面崩壊予測方法は、
対象地点における降雨イベントによる斜面崩壊の発生を予測する方法であって、
a) ある時刻における蓄積雨量が半減するまでの時間である半減期をパラメータとして、過去の降雨イベントが前記蓄積雨量に及ぼす影響の持続性を表した雨量指標である実効雨量の現時点までの時系列値を、前記対象地点の過去の降雨イベントの降雨量データを用い、所定の長半減期及び該長半減期より短い短半減期についてそれぞれ算出し、
b) 前記長半減期をパラメータとする第1実効雨量をX軸、前記短半減期をパラメータとする第2実効雨量をY軸とするXY座標平面に、前記第1実効雨量の時系列値の最大値を通り前記Y軸と平行な第1境界線及び前記第2実効雨量の時系列値の最大値を通り前記X軸と平行な第2境界線を設定して判定用XY座標平面を作成し、
c) 斜面崩壊発生の予測対象となる降雨イベントの降雨量データから、前記長半減期をパラメータとする第3実効雨量の時系列値及び前記短半減期をパラメータとする第4実効雨量の時系列値を、前記予測対象降雨イベントの進行と共に順次算出し、
d) 同じ時刻における前記第3実効雨量の時系列値及び前記第4実効雨量の時系列値をそれぞれX値、Y値とする点を測定点としたとき、該測定点が、前記判定用XY座標平面において前記第1境界線を超える領域に位置するとき、又は前記第2境界線を超える領域に位置するときに斜面崩壊が発生する可能性があると判定することを特徴とする。
【0017】
ここで、降雨量データには、例えば気象庁や国土交通省等の公的機関が提供するデータ、民間の気象情報提供サービス企業が提供するデータを利用することができる。また、実効雨量の時系列値とは、複数の時刻における実効雨量の値を、時間の経過に従って並べたものをいう。時系列値を求める時刻の間隔は等間隔でも良く、不等間隔でも良い。通常、上述の公的機関や民間企業による降雨量データの提供が一定時間毎(例えば1時間毎)に行われることを考慮すると、実効雨量の時系列値の算出も一定時間毎に行うことが好ましいが、降雨イベントの最中及びその前後は、実効雨量の時系列値を算出する間隔を短くし、ある降雨イベントと、その次の降雨イベントの間の降雨量がゼロの期間、或いは降雨イベントの最中であっても降雨量が微量である期間は、時系列値を求める間隔を長くしても良い。
【0018】
上記の斜面崩壊予測方法においては、前記対象地点の過去の降雨イベントの降雨量データから求められた、同じ時刻の前記第1実効雨量の時系列値及び前記第2実効雨量の時系列値をそれぞれX値及びY値とする複数の点を前記判定用XY座標平面にプロットし、
前記複数の点のうちある時刻の点を注目点としたとき、該注目点とX値が同じ点の中に前記注目点よりもY値が大きい点が存在しない場合、及び前記注目点よりもX値が大きい点の中に前記注目点とY値が同じ点及び前記注目点よりもY値が大きい点のいずれもが存在しない場合は、前記注目点を第3境界点として抽出する作業を繰り返し、
抽出された全ての第3境界点をX値が小さい順に繋いだ線を、前記第1実効雨量及び前記第2実効雨量の相乗効果による実効雨量の最大値を表す第3境界線として前記XY座標平面に設定し、
前記測定点が、前記第3境界線を超える領域に位置するときに斜面崩壊が発生する可能性があると判定することが好ましい。
【0019】
上記の方法において、同じ時刻の前記第1実効雨量の時系列値及び前記第2実効雨量の時系列値をそれぞれX値及びY値とする複数の点を前記判定用XY座標平面にプロットしたものは、「スネーク曲線」に相当する。スネーク曲線は、斜面崩壊の発生の予測に一般的に用いられているグラフであり、上記方法では、スネーク曲線を構成する複数の点を使って第3境界線を設定した。このため、より適切な境界線に基づいて斜面崩壊の発生の可能性を予測することができる。
【0020】
斜面崩壊の発生を正確に予測する上では、長半減期及び短半減期の選択が重要である。これら2種類の半減期の選択を誤ると、判定用XY座標平面に適切な境界線を設定することができず、また、測定点が降雨イベントの性質や対象地点の保水性・透水性を反映したものとならない。この結果、判定用XY座標平面における測定点の位置に基づいて斜面崩壊の発生の可能性を予測しても、その予測が「空振り」に終わったり、「見逃し」になったりするおそれがある。
【0021】
そこで、本発明の斜面崩壊予測方法においては、複数の、長半減期及び短半減期の組み合わせについて、それぞれ第1~第3境界線を設定した判定用XY座標平面を求め、
これら複数の判定用XY座標平面の全てについて、対応する第3実効雨量の時系列値及び第4実効雨量の時系列値からなる測定点が、前記X軸と前記Y軸と前記第1境界線と前記第2境界線と前記第3境界線とに囲まれた第1領域、前記第1境界線と前記第2境界線と前記第3境界線とに囲まれた第2領域、前記第1境界線を超過し且つ前記第2境界線よりも前記X軸側の第3領域、前記第2境界線を超過し且つ前記第1境界線よりも前記Y軸側の第4領域、前記第1境界線及び前記第2境界線の両方を超過する第5領域のいずれの領域に位置するかを判別し、各時刻における判別結果の集計から、斜面崩壊の発生を予測すると良い。
この方法によれば、斜面崩壊が発生しない状況であるにも関わらず、斜面崩壊が発生する可能性が高いと予測してしまう、「空振り」を減らすことができる。
【0022】
また、本発明の斜面崩壊予測方法においては、複数の、長半減期及び短半減期の組み合わせについて、それぞれ第1~第3境界線を設定した判定用XY座標平面を求め、
これら複数の判定用XY座標平面の全てについて、対応する第3実効雨量の時系列値及び第4実効雨量の時系列値からなる測定点が、前記X軸と前記Y軸と前記第1境界線と前記第2境界線と前記第3境界線とに囲まれた第1領域、前記第1境界線と前記第2境界線と前記第3境界線とに囲まれた第2領域、前記第1境界線を超過し且つ前記第2境界線よりも前記X軸側の第3領域、前記第2境界線を超過し且つ前記第1境界線よりも前記Y軸側の第4領域、前記第1境界線及び前記第2境界線の両方を超過する第5領域のいずれの領域に位置するかを判別し、少なくとも1個の判定用XY座標平面において測定点が第2~第5領域のいずれかに位置するとき、斜面崩壊の発生の可能性が高いと予測することが好ましい。
この方法によれば、斜面崩壊の発生の可能性を見落としてしまう、「見逃し」を回避することができる。
【0023】
さらに、本発明の斜面崩壊予測方法においては、複数の、長半減期及び短半減期の組み合わせについて、それぞれ第1~第3境界線を設定した判定用XY座標平面を求め、
これら複数の判定用XY座標平面の全てについて、対応する第3実効雨量の時系列値及び第4実効雨量の時系列値からなる測定点のうち直近の測定点が、前記X軸と前記Y軸と前記第1境界線と前記第2境界線と前記第3境界線とに囲まれた第1領域、前記第1境界線と前記第2境界線と前記第3境界線とに囲まれた第2領域、前記第1境界線を超過し且つ前記第2境界線よりも前記X軸側の第3領域、前記第2境界線を超過し且つ前記第1境界線よりも前記Y軸側の第4領域、前記第1境界線及び前記第2境界線の両方を超過する第5領域のいずれの領域に位置するかを判別し、
その結果を表すシンボルを、横軸を長半減期、縦軸を短半減期とする二次元座標平面にプロットした二次元判定図を作成するようにしても良い。
本発明においては、長半減期及び短半減期の設定が重要であるが、前記二次元判定図を作成することにより、長半減期及び短半減期の組み合わせの違いによる判定結果の変化を視覚的に認識することができる。従って、二次元判定図を参考にして、適切な長半減期及び短半減期を設定することができる。
【0024】
また、本発明の斜面崩壊予測方法は、上述の判定用XY座標平面において、測定点のうち直近の測定点が前記X軸と前記Y軸と前記第1境界線と前記第2境界線と前記第3境界線とに囲まれた領域に位置するとき、次の測定点が前記第1~第3境界線を超えることになる単位時間あたりの降雨量を算出することを特徴とする。
この方法によれば、斜面崩壊の発生の可能性を定量的に予測することができる。
【0025】
この場合、複数の、長半減期及び短半減期の組み合わせについて、それぞれ第1~第3境界線を設定した判定用XY座標平面を求め、
これら複数の判定用XY座標平面の全てについて、対応する第3実効雨量の時系列値及び第4実効雨量の時系列値からなる測定点のうち直近の測定点が前記X軸と前記Y軸と前記第1境界線と前記第2境界線と前記第3境界線とに囲まれた領域に位置するとき、次の測定点が前記第1~第3境界線を超えることになる単位時間あたりの降雨量を算出し、
該単位時間あたりの降雨量を、横軸を長半減期、縦軸を短半減期とする二次元座標平面にプロットした二次元判定図を作成するようにしても良い。
この方法によれば、長半減期及び短半減期の組み合わせの違いによる斜面崩壊をもたらす降雨量の変化を視覚的に認識することができる。従って、二次元判定図を参考にして、適切な長半減期及び短半減期を設定することができる。
【0026】
また、本発明に係る斜面崩壊発生予測装置は、対象地点における降雨イベントによる斜面崩壊の発生を予測する装置であって、
a) ある時刻における蓄積雨量が半減するまでの時間である半減期をパラメータとして、過去の降雨イベントが前記蓄積雨量に及ぼす影響の持続性を表した雨量指標である実効雨量の現時点までの時系列値を、前記対象地点の過去の降雨イベントの降雨量データを用い、所定の長半減期及び該長半減期より短い短半減期についてそれぞれ算出する、既往実効雨量算出手段と、
b) 前記長半減期をパラメータとする第1実効雨量をX軸、前記短半減期をパラメータとする第2実効雨量をY軸とするXY座標平面に、前記第1実効雨量の時系列値の最大値を通り前記Y軸と平行な第1境界線及び前記第2実効雨量の時系列値の最大値を通り前記X軸と平行な第2境界線を設定して判定用XY座標平面を作成する、判定用XY座標平面作成手段と、
c) 斜面崩壊発生の予測対象となる降雨イベントの降雨量データから、前記長半減期をパラメータとする第3実効雨量の時系列値及び前記短半減期をパラメータとする第4実効雨量の時系列値を、前記予測対象降雨イベントの進行と共に順次算出する、予測用実効雨量算出手段と、
d) 同じ時刻における前記第3実効雨量の時系列値及び前記第4実効雨量の時系列値をそれぞれX値、Y値とする点を測定点としたとき、該測定点が、前記判定用XY座標平面において前記第1境界線を超える領域に位置するとき、又は前記第2境界線を超える領域に位置するときに斜面崩壊が発生する可能性があると判定する判定手段と
を備えることを特徴とする。
【0027】
上記の斜面崩壊予測装置においては、
前記判定用XY座標平面作成手段が、同じ時刻の前記第1実効雨量の時系列値及び前記第2実効雨量の時系列値をそれぞれX値及びY値とする複数の点を前記判定用XY座標平面にプロットし、前記複数の点のうちある時刻の点を注目点としたとき、該注目点とX値が同じ点の中に前記注目点よりもY値が大きい点が存在しない場合、及び前記注目点よりもX値が大きい点の中に前記注目点とY値が同じ点及び前記注目点よりもY値が大きい点のいずれもが存在しない場合は、前記注目点を第3境界点として抽出する作業を繰り返し、抽出された全ての第3境界点をX値が小さい順に繋いだ線を、前記第1実効雨量及び前記第2実効雨量の相乗効果による実効雨量の最大値を表す第3境界線として前記判定用XY座標平面に設定し、
前記判定手段が、前記判定用XY座標平面において前記測定点が前記第3境界線を超える領域に位置するときに斜面崩壊が発生する可能性があると判定することが好ましい。
【0028】
また、前記既往実効雨量算出手段が、長さが異なる3種類以上の半減期について前記実効雨量の時系列値を算出し、
前記判定用XY座標平面作成手段が、前記3種類以上の半減期から2種類の半減期を選択することにより形成される、複数の、長半減期と短半減期の組み合わせについて、それぞれ前記第1~第3境界線を設定した判定用XY座標平面を求め、
前記判定手段が、前記複数の判定用XY座標平面の全てについて、対応する第3実効雨量の時系列値及び第4実効雨量の時系列値からなる測定点が、前記X軸と前記Y軸と前記第1境界線と前記第2境界線と前記第3境界線とに囲まれた第1領域、前記第1境界線と前記第2境界線と前記第3境界線とに囲まれた第2領域、前記第1境界線を超過し且つ前記第2境界線よりも前記X軸側の第3領域、前記第2境界線を超過し且つ前記第1境界線よりも前記Y軸側の第4領域、前記第1境界線及び前記第2境界線の両方を超過する第5領域のいずれの領域に位置するかを判別し、各時刻における判別結果の集計から、斜面崩壊の発生を予測するようにしても良い。
【0029】
さらに、前記既往実効雨量算出手段が、長さが異なる3種類以上の半減期について前記実効雨量の時系列値を算出し、
前記判定用XY座標平面作成手段が、前記3種類以上の半減期から2種類の半減期を選択することにより形成される、複数の、長半減期と短半減期の組み合わせについて、それぞれ前記第1~第3境界線を設定した判定用XY座標平面を求め、
前記判定手段が、前記複数の判定用XY座標平面の全てについて、対応する第3実効雨量の時系列値及び第4実効雨量の時系列値からなる測定点が、前記X軸と前記Y軸と前記第1境界線と前記第2境界線と前記第3境界線とに囲まれた第1領域、前記第1境界線と前記第2境界線と前記第3境界線とに囲まれた第2領域、前記第1境界線を超過し且つ前記第2境界線よりも前記X軸側の第3領域、前記第2境界線を超過し且つ前記第1境界線よりも前記Y軸側の第4領域、前記第1境界線及び前記第2境界線の両方を超過する第5領域のいずれの領域に位置するかを判別し、少なくとも1個の判定用XY座標平面において測定点が第2~第5領域のいずれかに位置するとき、斜面崩壊の発生の可能性が高いと予測することも良い構成である。
【0030】
さらに、上記の斜面崩壊予測装置において、
前記判定用XY座標平面作成手段が、複数の、長半減期及び短半減期の組み合わせについて、それぞれ第1~第3境界線を設定した判定用XY座標平面を求め、
これら複数の判定用XY座標平面の全てについて、対応する第3実効雨量の時系列値及び第4実効雨量の時系列値からなる測定点のうち直近の測定点が、前記X軸と前記Y軸と前記第1境界線と前記第2境界線と前記第3境界線とに囲まれた第1領域、前記第1境界線と前記第2境界線と前記第3境界線とに囲まれた第2領域、前記第1境界線を超過し且つ前記第2境界線よりも前記X軸側の第3領域、前記第2境界線を超過し且つ前記第1境界線よりも前記Y軸側の第4領域、前記第1境界線及び前記第2境界線の両方を超過する第5領域のいずれの領域に位置するかを判別し、その結果を表すシンボルを、横軸を長半減期、縦軸を短半減期とする二次元座標平面にプロットした二次元判定図を作成する二次元判定図作成手段を備えるようにしても良い。
【0031】
また、前記判定用XY座標平面作成手段が、前記対象地点の過去の降雨イベントの降雨量データから求められた、同じ時刻の前記第1実効雨量の時系列値及び前記第2実効雨量の時系列値をそれぞれX値及びY値とする複数の点を前記判定用XY座標平面にプロットし、前記複数の点のうちある時刻の点を注目点としたとき、該注目点とX値が同じ点の中に前記注目点よりもY値が大きい点が存在しない場合、及び前記注目点よりもX値が大きい点の中に前記注目点とY値が同じ点及び前記注目点よりもY値が大きい点のいずれもが存在しない場合は、前記注目点を第3境界点として抽出する作業を繰り返し、抽出された全ての第3境界点をX値が小さい順に繋いだ線を、前記第1実効雨量及び前記第2実効雨量の相乗効果による実効雨量の最大値を表す第3境界線として前記判定用XY座標平面に設定し、
前記判定用XY座標平面において、前記測定点のうち直近の測定点が前記X軸と前記Y軸と前記第1境界線と前記第2境界線と前記第3境界線とに囲まれた領域に位置するとき、次の測定点が前記第1~第3境界線を超えることになる単位時間あたりの降雨量を算出する超過降雨量算出手段を備えるようにしても良い。
前記第1~第3境界線を超えることになる単位時間あたりの降雨量の大きさから、斜面崩壊の発生の可能性を定量的に予測することができる。
【0032】
この場合、前記判定用XY座標平面作成手段が、複数の、長半減期及び短半減期の組み合わせについて、それぞれ第1~第3境界線を設定した判定用XY座標平面を求め、
前記超過雨量算出手段が、前記複数の判定用XY座標平面の全てについて、対応する第3実効雨量の時系列値及び第4実効雨量の時系列値からなる測定点のうち直近の測定点が前記X軸と前記Y軸と前記第1境界線と前記第2境界線と前記第3境界線とに囲まれた領域に位置するとき、次の測定点が前記第1~第3境界線を超えることになる単位時間あたりの降雨量を算出し、
該単位時間あたりの降雨量を、横軸を長半減期、縦軸を短半減期とする二次元座標平面にプロットした二次元判定図を作成する二次元判定図作成手段を設けると、長半減期及び短半減期の組み合わせの違いによる斜面崩壊をもたらす降雨量の変化を視覚的に認識することができ、上記二次元判定図を参考にして適切な長半減期及び短半減期を設定することができる。
【0033】
なお、本発明において、斜面崩壊が発生する可能性の有無の判定に用いる測定点は、通常は直近の測定点であるが、これに限定されるものではない。例えば、第3実効雨量及び第4実効雨量の時系列値の取得間隔(測定間隔)が短い場合には、直近の測定点よりも1ないし複数回分だけ過去に遡った測定点を用いても良い。また、判定に用いる測定点は1個に限らず、複数個でも良い。
【発明の効果】
【0034】
本発明に係る斜面崩壊予測方法及び装置では、対象地域の過去の降雨イベントの降雨量データに基づいて境界線が設定された判定用XY座標平面を作成し、斜面崩壊の発生を予測する対象となる降雨イベントの進行と共に得られる降雨量データから得られる測定点と前記判定用XY座標平面に設定された境界線との位置関係に基づいて、斜面崩壊の発生の可能性を判定する。従って、斜面崩壊の発生の予測に、対象地点の保水性や透水性、予測対象となる降雨イベントの性質等を反映させることができ、「見逃し」や「空振り」を回避した、正確な斜面崩壊予測を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】斜面崩壊の発生予測に用いるスネーク曲線図の例を示す図。
【図2】時間雨量(a)と各種半減期の実効雨量(b)~(f)を示すグラフ。
【図3】タンクモデルを用いた土壌雨量指数の説明図。
【図4】スネーク曲線図における境界線CLの最適化を説明する図。
【図5】スネーク曲線図において、各時刻の点をその時刻に観測された地下水位の大きさに応じて塗り分けた例を示す図。
【図6】スネーク曲線における境界線CLの定義を説明するための図。
【図7】判定用グラフを用いた予測対象となる降雨イベントのスネーク曲線の判定結果を示す図。
【図8】長半減期及び短半減期の組み合わせが異なる複数のスネーク曲線から求めた判定結果のシンボルを示す二次元判定図の一例を示す図。
【図9】本発明に係る斜面崩壊予測装置の概略構成図。
【図10】本発明に係る斜面崩壊予測方法の実施例1に用いた庄原災害時の雨量データ。
【図11】庄原災害時の二次元判定図による既往最大値超過の判定結果。
【図12】本発明に係る斜面崩壊予測方法の実施例2を示すものであり、梨子沢災害の発生場所及びその付近の観測所を示す地図(国土地理院地図に加筆)。
【図13】3箇所の観測所における観測データを示すグラフ。
【図14】既往降雨イベント及び梨子沢災害の原因となった今回の降雨イベントの時間雨量及び積算雨量を示すグラフ。
【図15】既往降雨イベント及び今回の降雨イベントの、横軸を土壌雨量指数、縦軸を時間雨量としたスネーク曲線と土壌雨量指数既往最大値と時間雨量既往最大値とAN境界線によって得られる既往最大値を示す図。
【図16】既往降雨イベント及び今回の降雨イベントの、横軸を半減期51hの実効雨量、縦軸を半減期0.9hの実効雨量としたスネーク曲線と半減期51h実効雨量既往最大値と半減期0.9h実効雨量既往最大値とAN境界線によって得られる既往最大値を示す図。
【図17】長半減期及び短半減期の組み合わせが異なる複数のスネーク曲線から求めた、測定点がAN境界線を超えるまでに必要な1時間の降雨量を示す二次元判定図。
【図18】現時点までの降雨量データに今後1時間の予測降雨量を加えて求めたスネーク曲線(a)及び、現時点までの降雨量データにAN境界線を超過する最小の1時間降雨量を加えて求めたスネーク曲線(b)。
【図19】斜面崩壊予測システムの概念図。
【発明を実施するための形態】
【0036】
斜面崩壊が発生する地下水位の臨界レベルを自然斜面において正確に予測するのは困難であることから、地下水位が既往最大値を超えて上昇しているときには、いつ斜面崩壊が発生してもおかしくない状態にあると考えるべきである。本発明では、このような考えに基づき、地下水位の既往最大値を基準として臨界レベルを設定することとした。これにより、斜面崩壊発生予測における「見逃し」を極力なくすことができると考えられる。

【0037】
降雨中の地下水位の予測は、本発明者が2013年に提案した、基岩内部の地下水位の変動を解析するための関数モデルの考え方を活用した(非特許文献5)。
本発明者は、半減期の長い実効雨量と半減期の短い実効雨量をそれぞれ横軸、縦軸とするスネーク曲線において、各時刻の点をその時刻に観測された地下水位の大きさに応じて塗り分けたとき、横軸及び縦軸の実効雨量の半減期を最適化することにより、横軸及び縦軸の実効雨量の大きさに応じて点の色がきれいに塗り分けられることを、非特許文献5に示した。つまり、半減期の異なる2種類の実効雨量からスネーク曲線を作成したとき、2種類の半減期の組み合わせが最適であれば、地下水位上昇の様子を再現できる。

【0038】
図5に、半減期72時間の実効雨量を横軸に、半減期1.5時間の実効雨量を縦軸にしたスネーク曲線図(a)、及び半減期1061時間の実効雨量を横軸に、半減期77時間の実効雨量を縦軸にしたスネーク曲線図(b)の例を示す。同図では、各時刻の点の色をその時刻に観測された地下水位が低いものから順に塗り分けている。なお、ここでは、図5を白と黒の濃淡図で表しているが、実際は、茶色、赤色、黄色、黄緑色、青色に塗り分けている。同図(a)では、広い範囲に亘って異なる色の点が混在しているのに対して、同図(b)では、複数の点が色ごとにまとまって存在しており、実効雨量と地下水位の間に相関関係があると推定される。

【0039】
以上より、図5(b)のスネーク曲線図上では、実効雨量が既往最大値を超過しているときは、地下水位も既往最大値を超過していると考えられ、このスネーク曲線図を用いて斜面崩壊の発生を予測する場合は、実効雨量の既往最大値を境界線CLに設定することが、最も理に適っている。実効雨量の既往最大値は、本発明における、第1実効雨量の時系列値の最大値(第1境界線)及び第2実効雨量の時系列値の最大値(第2境界線)、並びに第1実効雨量と第2実効雨量の相乗効果による実効雨量の最大値(第3境界線)に相当する。第1~第3境界線については後述する。

【0040】
しかし、スネーク曲線図の縦軸及び横軸にとる実効雨量の半減期をどのような値に設定したときに、図5(b)に示すようなスネーク曲線図を得ることができるか、すなわち、地下水位上昇の様子を最も良く表現できる半減期が何であるかは地点ごとに異なる。このため、適切な半減期の組み合わせを全ての対象地点において正確に予測することは困難である。

【0041】
これに対して、横軸に設定する実効雨量の半減期(以下「長半減期」ともいう。)と縦軸に設定する実効雨量の半減期(以下「短半減期」ともいう)を種々の長さに変化させ、あらゆる半減期の組合せについて、地下水位の既往最大値の超過が起きているかどうかを判定すると、いかなる地下水位上昇パターンを示す地点であっても地下水位の既往最大値の超過を検出できる。地下水位の既往最大値では、少なくとも斜面崩壊は発生しておらず、それを超えたときに斜面崩壊が発生するか否かは不明であるため、上記のように、あらゆる半減期の組合せについて、地下水位の既往最大値の超過が起きているかどうかを判定することは、斜面崩壊の発生の予測の「空振り」や「見逃し」の回避につながる。

【0042】
ただし、上述したように、長半減期と短半減期の最適な組み合わせを選択することができれば、1個の組み合わせについて、地下水位の既往最大値の超過が起きているかどうかを判定するだけで、「空振り」や「見逃し」を回避した斜面崩壊の予測を行うことができる。
また、長半減期と短半減期の全ての組み合わせについて、地下水位の既往最大値の超過が起きているかどうかを判定することは、現実的に不可能である。「空振り」や「見逃し」を少なくするためには、判定に用いる長半減期と短半減期の組み合わせの数が多い方が有効であるが、少なくとも2個の組み合わせについて、上述した判定を行うことにより、1個の組み合わせについて判定を行う場合よりも斜面崩壊の予測精度を上げることができる。

【0043】
実効雨量の既往最大値、つまり地下水位の既往最大値は、あくまでも過去の降雨時における地下水位の最大値であり、斜面崩壊が発生するときの地下水位を表しているわけではない。このため、雨量の観測期間が短い間は、実効雨量が既往最大値を超過したことに基づいて斜面崩壊の発生を予測しても、「空振り」となる事態が頻繁に起こる可能性が高い。しかし、「空振り」が起きる度に実効雨量の既往最大値が更新され、境界線CLが引き上げられるため、雨量の観測を継続することによって次第に「空振り」は減少する。

【0044】
また、本発明で使用する雨量指標(2種類の実効雨量)は、従来技術と異なり、「地下水位上昇の様子を最も良く再現できる雨量指標」という明確な物理的意味を持っている(図5参照)。このため、実際の降雨時における地下水位の変動を計測することができれば、適切な半減期を特定できる。つまり、本発明では、対象地点での地下水位の観測結果を斜面崩壊の発生予測に直接反映できるという利点を持つ。このため、地下水位の観測データの蓄積により「空振り」を効率的に減らすことができる。

【0045】
さらに、本発明では、実効雨量の既往最大値を超過したか否かを判断し、その判断結果に基づき、斜面崩壊の発生を予測する。このような判断は、多くの住民が常日頃から行っている「この程度の雨は、これまでも起きたことがあるから大丈夫だ」「今回のような大雨は、初めて起きるから危険だ」といった、自らの過去の経験に基づく斜面崩壊の危険性の判断に通じるものであるため、たとえ「空振り」が起きたとしても、従来の予測技術に比べて住民に許容され易く、警戒・避難に対する意識低下を招きにくい。

【0046】
実効雨量が既往最大値を超過したか否かの判定は、例えば図6に示したスネーク曲線図を用いて行う。図6のスネーク曲線図は、本発明の判定用XY座標平面に相当する。
まず、対象地点において降雨イベントが発生する直前までの長期時間雨量データを用いて、半減期がそれぞれM,M(ただしM≧Mとする)の2種類の実効雨量X(M,t),X(M,t)を算定し、実効雨量X(M,t)を横軸に、実効雨量X(M,t)を縦軸にとってスネーク曲線図を描く。このスネーク曲線図で「既往最大値超過」は、以下の4つのケースに分類される。

【0047】
まず、スネーク曲線図上に、実効雨量X(M,t) =Xmax(M)(X(M,t)の既往最大値)と実効雨量X(M,t) =Xmax(M)(X(M,t)の既往最大値)の2本の直線を引く。これら2本の直線が本発明の第1境界線及び第2境界線に相当する。これら2本の直線によって作られる4つの領域のうち領域Bは、実効雨量X(M,t)が単独で既往最大値を超過しているケースに相当する。領域Cは、実効雨量X(M,t)が単独で既往最大値を超過しているケースを表している。領域Dは、実効雨量X(M,t)と実効雨量X(M,t)の両方が、それぞれの既往最大値を超過しているケースである。

【0048】
これに対して領域(N+A)は、実効雨量X(M,t)と実効雨量X(M,t)がいずれも既往最大値を超過していないケースであり、そのうち領域Nは実効雨量X(M,t)と実効雨量X(M,t)の組み合わせでみても既往範囲内にあるケースを、領域Aは実効雨量X(M,t)と実効雨量X(M,t)の組合せでみると既往最大値を超過しているケースを表している。

【0049】
領域Aと領域Nを分離する境界線(以下「AN境界線」と呼ぶ)を定めるために、AN境界線上にある点(以下、AN境界点と呼ぶ)を次の方法で抽出する。すなわち、ある時刻におけるスネーク曲線上の点pに対し、点pとX(M,t)が等しい点の中に、点pよりもX(M,t)が大きいものが無く、且つ、点pよりもX(M,t)が大きい点の中に、点pとX(M,t)が等しい点、及び点pよりもX(M,t)が大きい点が無い場合に、点pをAN境界点と判断する。従って、最初に選んだ点pが本発明の注目点に相当し、AN境界点が第3境界点に相当する。
その上で、抽出された全てのAN境界点を実効雨量X(M,t)が小さいものから順に並び換え、図6に示すように直線で結ぶ。これにより得られる階段状の線をAN境界線とする。AN境界線が本発明の第3境界線に相当する。なお、並び換えた後の最初のAN境界点の実効雨量X(M,t)は既往最大値Xmax(M)に一致し、最後のAN境界点の実効雨量X(M,t)は既往最大値Xmax(M)に一致する。


【0050】
以上の手順で領域Nおよび領域A~Dを定めた上で、当該イベント中のスネーク曲線図の軌跡を重ねることによって、各時刻の点がいずれの領域に属するかを調べる(図7)。その結果から、各時刻について、既往最大値超過の有無の判定、ならびに超過が起きている場合には、領域A~Dのいずれに位置するケースに該当するかの判定を行う。

【0051】
以上説明した解析を、半減期M及びMを種々の値に設定して実施する。そして各時刻に得られた結果を図8の二次元判定図に表示する。二次元判定図は、横軸を半減期M、縦軸を半減期Mとし、これら半減期M,Mの組み合わせによるスネーク曲線図において、当該時刻の点が領域A~Dもしくは領域Nのいずれに存在しているかを、それぞれの領域に対応するシンボルで表した図である。従って、この二次元判定図は、請求項5及び12に係る二次元判定図に相当する。なお、二次元判定図の対角線上の点は半減期M = 半減期Mのスネーク曲線図の結果、つまり、1種類の実効雨量を単独で評価した場合の、既往最大値超過の有無の判定結果を示している。この場合は、領域NもしくはDのいずれかであり、領域A~Cにはならない。

【0052】
斜面崩壊の形態には様々なものがある。地表面近くの厚さ0.5~2m程度の土層が崩れる「表層崩壊」と、山体を構成する岩石の層(基岩層)も含めて厚さ数十メートルに及ぶ大規模な崩れが生じる「深層崩壊」が両極端なものであるが、それらの中間的な形態を示す斜面崩壊も多く見られる。本発明の方法では、「あらゆる半減期を持つ2種類の実効雨量の組み合わせについて、既往最大値超過を判定する」ため、斜面崩壊の形態別に着目すべき雨量指標に違いがあることを定量的に示すことができると期待される。従って、その結果から降雨量データを基にして起こり得る斜面崩壊の形態を精度良く予測でき、よりきめの細かい警戒・避難体制を整えることができる。

【0053】
また、本発明の方法では、斜面崩壊の発生予測だけでなく、地震や樹木の風倒被害、人為的な土地改変等に起因する斜面の変化が斜面崩壊に与える影響を評価できる。例えば、大きな地震を経験した地域では、斜面の強度が低下して過去に崩壊を引き起こさなかった規模の降雨でも崩壊が発生することが懸念され、境界線CLの引き下げが検討されることが多々ある。本発明の手法に基づき、スネーク曲線図の半減期を連続的に変化させて降雨の長期的・短期的影響を漏らさず評価することによって、実際に既往最大値超過が発生しない状況下で斜面崩壊が起こるのか否かについて、客観的かつ定量的な検討を加えることが可能になる。

【0054】
以上の本発明に係る斜面崩壊予測方法を実行するための斜面崩壊予測装置の概略図を図9に示す。斜面崩壊予測装置10は、データ受信部11、既往実効雨量算出部12、判定用XY座標平面作成部13、予測用実効雨量算出部14、判定部15、二次元判定図作成部17、及びこれらを制御する制御部16を備える。制御部16には、プリンタやディスプレイなどの出力装置30が接続されている。

【0055】
制御部16からの指令を受けてデータ受信部11が降雨量データ提供装置20から降雨量データを取得すると、制御部16は該降雨量データを既往実効雨量算出部12に送る。
降雨量データ提供装置20は、例えば国土交通省の防災情報提供センターや観測所、気象庁のアメダス観測所等の過去の降雨量データが格納されたデータベースを備えた機関を指す。データ受信部11は、降雨量データ提供装置20から降雨量データを直接受信しても良く、インターネットを介してデータベースにアクセスすることにより降雨量データを取得しても良い。制御部16を介してデータ受信部11から降雨量データを受け取った既往実効雨量算出部12は、予め設定された複数の半減期について、過去の降雨量データ及び新たに取得した降雨量データを用いて実効雨量の時系列値を算出する。

【0056】
判定用XY座標平面作成部13は、これら実効雨量の時系列値から複数の任意の2種類の半減期の組み合わせを抽出し、各組の2個の半減期のうち時間が長い方を長半減期、時間が短い方を短半減期としてスネーク曲線を求める。そして、スネーク曲線に基づいて第1~第3の境界線を設定した判定用XY座標平面図を作成し、保存する。
判定用XY座標平面図は、新たな降雨量データを受信する毎に作成され、保存される。

【0057】
一方、予測用実効雨量算出部14は、新たに取得した降雨量データを用いて、予め設定された複数の半減期の実効雨量を算出する。そして、2種類の半減期の組み合わせについて求めた実効雨量の時系列値を示す点(測定点)を、対応する半減期の組み合わせの判定用XY座標平面図にプロットする。判定部15は測定点の位置と第1~第3境界線との位置関係から斜面崩壊の発生の可能性を予測する。判定部15は、判定用XY座標平面作成部13が作成した複数の判定用XY座標平面図について、斜面崩壊の発生の可能性を予測し、その結果を記憶する。また、測定点が第1~第3境界線を越えていない場合は、境界線を越えることになる次の一定時間(例えば1時間)の(もしくは,「単位時間あたりの」)降雨量を予測する。従って、ここでは判定部15が超過降雨量算出手段としても機能する。

【0058】
二次元判定図作成部17は、XY座標平面作成部13が記憶する予測結果を表すシンボルを、横軸を長半減期、縦軸を短半減期とする二次元座標平面にプロットした二次元判定図を作成する。予測結果を表すシンボルとしては、例えば、斜面崩壊の可能性の高さに応じて大きさの異なる図形、色が異なる図形などを用いることができる。
次に、具体的な降雨量データを用いて解析を行った事例を説明する。
【実施例1】
【0059】
(1)対象災害
広島県庄原市川北町では、2010年7月16日に発生した豪雨により斜面崩壊が集中的に発生し、土石流を伴って、死者1名、重傷者1名、家屋損壊38棟の被害をもたらした。崩壊した斜面は火山岩、堆積岩、火山灰由来のクロボク土層が混在する複雑な地質を呈し、スギ・ヒノキ人工林、広葉樹二次林を植生とするが、伐採跡地も含まれていた。斜面崩壊の大半は、幅10~15m、長さ20~60m、深さ0.5~1.5mの規模で、表層崩壊に分類された。以下では、この災害を庄原災害と呼ぶ。
【実施例1】
【0060】
図10に、庄原市の最寄りの広島県大戸観測所で観測された雨量データと、大雨警報発表時刻、斜面崩壊開始時刻、及び土砂災害警戒情報発表時刻を示す。図10より、庄原災害を引き起こした降雨イベントは、降雨強度が大きい集中豪雨であると考えられるが、これに先行する5日間に累積雨量260~270mm程の大雨があったことも災害発生に大きな影響を与えていたと思われる。図10に示すように、広島地方気象台より庄原市に大雨警報が発表されたのは7月16日の16時39分であり、土砂災害警戒情報が発表されたのは18時10分であった。しかし、16時55分には斜面崩壊・土石流発生の目撃情報が寄せられており、17時前から多くの斜面崩壊が発生し始めていたと考えられる。
【実施例1】
【0061】
(2)解析に用いた雨量データ
図10に示した広島県大戸観測所のデータは長期間に渡って遡って取得することができない。そこで、被災地から約7km離れた地点にある気象庁アメダス庄原観測所(北緯34度51.6分,東経133度1.4分,標高300m)の雨量データを用いて実効雨量既往最大値の計算を行った。庄原観測所の雨量データは、庄原災害から約34年7ヶ月前の1976年1月1日1時まで遡ることができる。実効雨量の計算は、初期値を0とした上で、データの先頭時刻から連続して行った。ただし既往最大値の評価は、災害が発生した年の1月1日午前0時から30年間遡った期間を対象とした。これは、実効雨量の計算結果に初期値が与える影響を取り除くことを目的とした処置である。
【実施例1】
【0062】
半減期M,M(ただしM≧M)を0.1h~3000hの範囲で、その対数値の変化量が一定になるようにして、計21通りに変化させた。ここで半減期の設定範囲(0.1h~3000h)は,実効雨量が、降雨強度や積算雨量といった先行降雨の影響の持続性に関する両極端な指標も十分にカバーすることを意図して定めている。特に最大値(3000h)に関しては、非特許文献5において、本発明者らが地下水位データの再現に用いた最大値(1400h)を考慮し、その約2倍の値に設定している。半減期の設定間隔については、連続した傾向が得られることを確認した上で定めている。
【実施例1】
【0063】
(3)結果
庄原災害に関する二次元判定図を図11に示す。降雨開始から1時間が経過した7月16日16時00分(積算雨量38mm;図10参照)には、既に48.6h≦M≦ 1070h、0.100h≦M≦ 0.469hの範囲で領域Aが出現し、既往最大値超過が起きていたことがわかる(図11a)。単独の実効雨量に着目した場合には、この時刻にいずれの実効雨量も既往最大値を超過していなかった。
72mmの時間雨量が降った直後の 17時00分には、多くの半減期M,Mの組合せで既往最大値超過が発生した(図11b)。ただし、この時刻には、136h≦M≦Mの範囲の組合せでは既往最大値超過は発生していなかった。さらに、63mmの時間雨量が降った18時00分には、既往最大値超過は半減期M、Mが大きな範囲にも拡大し(図11c)、降雨終了時の19時00分になると半減期Mが小さな範囲で縮小した(図11d)。
【実施例1】
【0064】
(4)考察
庄原災害時の降り始め1時間(15~16時)の雨量は38mm(図10)であり、既往最大値64mm(1998年8月22日に記録)と比べると、6割程度のあまり大きな値ではなかった。しかしながら、先行する5日間に累積271mmの降雨が降っていた。二次元判定図(図11)では、先行降雨の影響により48.6h≦M≦ 1070hの横軸実効雨量が大きく増加したことと、15~16時の38mmの時間雨量によって0.100h≦M≦ 0.469hの縦軸実効雨量が増加したことの組み合わせによって、既往最大値超過が16時00分の段階で発生したことを示すことができている。
【実施例1】
【0065】
一方、半減期72時間の実効雨量を長期的雨量指標、半減期1.5時間の実効雨量を短期的雨量指標に用いる従来技術の方法では、既往最大値超過が初めて判定されたのは17時00分であり(図示せず)、斜面崩壊の発生開始よりも遅れた。また従来技術のうち、土壌雨量指数を長期的雨量指標、時間雨量を短期的雨量指標に用いる方法で得られた結果を図11の二次元判定図中のサブウィンドウ(各パネル中の実線の四角形)内に示した。この場合も、既往最大値超過が初めて判定されたのは17:00であり(図11bのサブウィンドウ内のシンボル「●」参照)、斜面崩壊の発生開始よりも遅れることがわかる。
このことから、実際の斜面崩壊の発生開始よりも既往最大値超過の判定が遅れていた従来の判定方法と異なり、本発明に係る予測方法によれば、庄原災害発生の1時間前から危険度が増加している状況を予測でき、従来技術に比べて「見逃し」を少なく抑えることができる。
【実施例2】
【0066】
(1)対象災害
長野県南木曽町では、台風8号の影響を受けた豪雨によって、2014年7月9日の17:40頃に梨子沢(なしざわ)と呼ばれる木曽川の支流で土石流が発生した。以下、この災害を「梨子沢災害」と呼ぶ。梨子沢災害が起こった当日は昼過ぎまで晴れており、雨の降り始めは土石流発生の約2時間前であった。このように、土石流は不意を突く形で発生しており、南木曽町に避難勧告が出されたのは、土石流発生から10分後の17:50であった。また、土砂災害警戒情報が発表されたのは、さらに25分を経過した18:15であった。
【実施例2】
【0067】
図12に、土石流が発生した梨子沢流域及びその付近の降雨観測所(気象庁の南木曽観測所、国土交通省の三留野観測所及び蘭観測所)の位置を示す。図12から分かるように、南木曽観測所が土石流発生流域に最寄りの観測所である。
これらの3つの観測所における梨子沢災害当日の10分間雨量を図13に示す。いずれの観測所でも7月9日の3:00以降は降雨が一旦休止していたが、15:30過ぎに再開し、短時間のうちに降雨強度が増したことがわかる。最大10分間雨量は蘭観測所で最も多く23mmであり、次に多いのが南木曽観測所の17mmであった。
【実施例2】
【0068】
15:30から土石流が発生する17:40までの積算雨量は、土石流発生流域に最寄りの南木曽観測所で84mmに達したが、三留野観測所及び蘭観測所に比べれば少なかった。また、土石流発生までの1時間(16:40~17:40)の雨量は南木曽観測所で70mmに達したが、この値も蘭観測所の97mmに比べると少なかった。このように、土石流発生流域に最寄りの南木曽観測所の雨量は、他の2つの観測所に比べて若干少ない傾向にあった。また気象庁の統計によると、南木曽観測所における既往最大1時間雨量は89mm、最大10分間雨量は18mmであり、今回の降雨イベントにおいて既往最大値を上回る値を記録したわけではなかった。
【実施例2】
【0069】
(2)既往降雨イベントとの比較
(2-1)時間雨量、積算雨量、及び先行雨量の比較
梨子沢災害から30年前の1984年まで遡り、その期間に発生した主な降雨イベントを抽出し、それら既往降雨イベントと、梨子沢災害をもたらした降雨イベントについて、南木曽観測所で観測された時間雨量(正時の値)と積算雨量を比較した。以下、抽出した既往降雨イベントを、その発生年を用いて「S60イベント」、「H16イベント」、「H12イベント」、「H18イベント」という。同様に、梨子沢災害をもたらした降雨イベントを「H26イベント」という。
図14a~14dは、3つの既往降雨イベント(H16イベント、H12イベント、H18イベント)とH26イベントの時間雨量と積算雨量を示すグラフである。また、4つの既往イベント(S60イベント、H16イベント、H12イベント、H18イベント)と、H26イベントの諸元をまとめた表1を下記に示す。
【表1】
JP0006450129B2_000004t.gif
【実施例2】
【0070】
なお、ここでは、24時間以上の無降雨期間によって降雨イベントを区切りっており、これによると、H26イベントは2014年7月6日の18:00に開始したことになる。図14d及び表1に示すように、H26イベントの、降雨開始から土石流発生までの積算雨量は194mmであった。
【実施例2】
【0071】
図14aに示すH16イベントは、前述の既往最大1時間雨量(89mm)を観測したイベントであり、かなりの集中豪雨であったといえる。積算雨量は比較的少ないが、終盤にはH26イベントに匹敵する値にまで上昇していた。
図14bに示すH12イベントは、時間雨量のピーク(最大値)は小さいものの比較的短時間にまとまった量の雨が降り、積算雨量はH26イベントよりも85mmほど多くなった。
図14cに示すH18イベントは、時間雨量のピークはH16イベントよりもさらに小さいが、降雨の継続時間が150時間と長く、積算雨量は非常に多くなった。
表1に示したS60イベントは、降雨継続時間が262時間と極めて長く、積算雨量はH26イベントの2.7倍に達したが、時間雨量のピークは小さかった。
表1から分かるように、各降雨イベントに先行する2日間の雨量(先行2日間雨量)は、H26イベントで最も多かったが、その他の先行雨量は、H26イベント以外の降雨イベントのいずれかが最大値を示した。
【実施例2】
【0072】
以上より、時間雨量、積算雨量、先行雨量の各々を指標とした場合に、H26イベントの特殊性は検出されず、H26イベントが既往降雨イベントを上回る異常な降雨イベントであったと結論づけることはできなかった。
【実施例2】
【0073】
(2-2)スネーク曲線を用いた比較
土砂災害警戒情報発表の基準には、横軸を土壌雨量指数、縦軸を時間雨量としたスネーク曲線が用いられることが多い。そこで、各降雨イベントのスネーク曲線を求めた。
まず、1984年1月1日の1:00 からH26イベント開始直前までの約30年間の時間雨量データ(南木曽観測所)を用いて土壌雨量指数を計算し、既往スネーク曲線を描いた(図15a~15d中の灰色丸印)。各図中の太い実線は既往スネーク曲線の最大値を結んだものであり、以下、「既往最大値線」という。この既往最大値線の右上の領域にスネーク曲線が入ると既往最大値を超過したことになる。
【実施例2】
【0074】
次に、既往降雨イベント(H16、H12、H18イベント)及びH26イベントのスネーク曲線を黒色丸印及び白色丸印で図15a~15d中に書き込んだ。既往降雨イベントのスネーク曲線はいずれもAN境界線まで上昇しており、 H26イベント開始直前までの既往最大値の一部を形成する降雨イベントであったことが分かる。また、図15dより、H26イベントのスネーク曲線は、土石流が発生した時刻になると既往最大値線を僅かに超えて既往最大値超過を示す領域に侵入していたことが分かる。
【実施例2】
【0075】
上述したように、土砂災害の警戒・避難には、図15に示すスネーク曲線の他、横軸を半減期の長い実効雨量、縦軸を半減期の短い実効雨量とするスネーク曲線が活用されることも多い。そこで、図15と同様の解析を、横軸を半減期51hの実効雨量、縦軸を半減期0.9hの実効雨量としたスネーク曲線を用いて行った。その結果を図16に示す。図16dをみると、H26イベントのスネーク曲線は土石流発生時には既往最大値線を顕著に超過しており、既往最大値超過が発生したことが明らかである。このような解析を、横軸実効雨量の半減期と縦軸実効雨量の半減期が異なる様々な組合せで行ったところ、横軸半減期が13h~173h、縦軸半減期が0.1h~2.0 hの範囲にあるときに、H26イベントの土石流発生時において既往最大値超過の発生が検出されることが分かった。
【実施例2】
【0076】
H26イベントでは、先行2日間の雨量が多く(表1)、さらにイベント開始以降の積算雨量が100mmを超えたところに、既往最大値には及ばないが、かなりの強度の雨が降った(図14dのイベント開始から72h経過付近)。上述した解析結果は、縦軸と横軸の雨量指標を適切に設定したスネーク曲線を用いることによって、このような特殊性を「既往最大値超過」として検出でき、その結果、既往降雨イベントを上回る異常な降雨イベントが可能であることを示唆するものであった。
【実施例2】
【0077】
(3)異常降雨イベント発生の予測
図15d及び図16dでは、7月9日の17:00に既往範囲内にあったスネーク曲線が、その後、土石流発生までに降った49mmの雨で既往最大値を超過した。このように、与えられた雨量を用いて既往最大値超過の有無を算出する代わりに、7月9日17:00の時点において、今後1時間にどれだけの雨が降ったら既往最大値を超過するかを計算した。その結果、図15dの場合は47.1mm、図16dの場合は35.6mmの値が得られた。
【実施例2】
【0078】
このような計算を、横軸実効雨量の半減期(長半減期M)と縦軸実効雨量の半減期(短半減期M)を0.1h~3000hの範囲で変化させて作成したスネーク曲線を用いて行った。その結果を図17に示す。図17は、スネーク曲線から求められた既往最大値を超過する雨量を、横軸を「横軸実効雨量半減期(h)」、縦軸を「縦軸実効雨量半減期(h)」とする二次元座標上に示すと共に、雨量の大きさ毎に色分けしたグラフである。このグラフは、請求項7及び14に係る二次元判定図に相当する。つまり、横軸実効雨量の半減期が40~100hで、且つ縦軸実効雨量の半減期が1.3hの領域では既往最大値を超過する雨量は34.3mmとなり、最も少なかった。実際には、これを上回る49mmの雨が降った結果、土石流が発生した。
【実施例2】
【0079】
H26イベントで土石流発生の直接の誘因となった降雨(図13a)のように、急激に発達する雲によりもたらされる集中豪雨の予報は難しく、今回の土石流の発生予測は困難であったのは事実である。ただし、(2-2)節で検討したように、H26イベントでは、先行雨量、ならびに降雨イベント開始以降の累積雨量の影響も大きかったと考えられる。このため、これらの影響を考慮した図17の解析を行うことによって、17:00の時点で、34mmという特別に大きくはない時間雨量によって、土石流をもたらす異常降雨イベントになることが予測できた可能性がある。
【実施例2】
【0080】
従って、降雨イベント中のある時点における、今後1時間の予測降雨量の横軸実効雨量及び縦軸実効雨量を計算し、その結果得られるスネーク曲線が既往最大値線を超えるか否かに基づき、土石流発生の可能性を予測することができる。予測降雨量は、気象データ(雨量、風向、風速、気温等)や天気図等から求めることができる。
具体的には、図18(a)に示すように、17:00の時点における今後1時間の予測降雨量が49mmのとき、その横軸実効雨量及び縦軸実効雨量の点(「18:00」で示す点)は既往最大値線を超えた領域に位置する。このことから、今後1時間の間に土石流が発生する危険性があると予測することができる。
【実施例2】
【0081】
また、今後1時間の降雨量を種々変化させたときのスネーク曲線を作成し、既往最大値線を超えたときの今後1時間の降雨量の中から最小値を求めて、この最小値と今後1時間の予測降雨量との比較から、土石流発生の可能性(土石流発生の危険性)を定量的に評価することも可能である。例えば、図18(b)に示すように、17:00の時点における今後1時間の降雨量が38mmのときに、その横軸実効雨量及び縦軸実効雨量を示す点が既往最大値線上に位置する場合、この値(38mm)と予測降雨量(49mm)を比較し、今後1時間の間に土石流が発生する可能性の程度を判定することができる。例えば、既往最大値線上に位置するときの降雨量が予測降雨量の0~50%の場合は可能性が「非常に大きい」、50~80%の場合は可能性が「大きい」、80%~100%のときは可能性が「中位」、100%~のときは可能性が「小さい」といった判定が可能である。
【実施例2】
【0082】
さらに、上述した二次元判定図(図8)と本実施例で用いた二次元判定図(図17)を用いて、土石流の発生を予測するシステムを構築することができる。例えば図19(a)、(b)は、ある地点における過去の降雨量データから得られた現時点における二種類の二次元判定図を示している。このシステムでは、これら二次元判定図が液晶ディスプレイ等に表示される。そして、液晶ディスプレイに表示された判定図のいずれかにおいてユーザが任意の点を選択(クリック)すると、該選択した点の長半減期Mと短半減期Mをそれぞれ横軸及び縦軸とするスネーク曲線が自動的に作成され(図19(c))、さらに、今後1時間の降雨量の違いによって得られる推定点が書き込まれる。図19(c)では、今後1時間の降雨量0mm、20mm、38mm、40mm、49mm、60mmの場合の推定点が表示された例を示す。
従って、ユーザは、推定点の位置から土石流の発生を引き起こす、今後1時間の降雨量を推定することができる。

【実施例2】
【0083】
このように、上記した第1実施例及び第2実施例はそれぞれ斜面崩壊予測方法として有用であるが、さらに、これらの実施例に示す方法を併用すれば、より一層斜面崩壊予測精度を向上させることができる。
【実施例2】
【0084】
本発明は直ちに実用化可能なものであり、斜面崩壊予測精度を向上させる効果も大きい。ただし、さらなる精度向上に向けて、以下の課題を挙げることができる。
【実施例2】
【0085】
実効雨量の既往最大値を算定する期間の設定方法の検討が必要である。上記実施例では、気象庁から公開され入手が容易なデータを用いることで、約30年間を解析の対象としたが、より長期間の降雨量データを利用すれば更に正確な既往最大値を算定することができ、崩壊予測における「空振り」を減らすことができる。その一方で、斜面の特性に経年変化があることを考慮すれば、むやみに過去に遡ることが必ずしも良いとは限らず、適切な期間があることも考えられる。より多くの災害事例を解析することで、知見を蓄積する必要がある。
【符号の説明】
【0086】
10…斜面崩壊予測装置
11…データ受信部
12…既往実効雨量算出部
13…判定用XY座標平面作成部
14…予測用実効雨量算出部
15…判定部
16…制御部
17…二次元判定図作成部
20…降雨量データ提供装置
30…出力装置
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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