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明細書 :ポリマーアロイ及びその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6584754号 (P6584754)
公開番号 特開2016-014105 (P2016-014105A)
登録日 令和元年9月13日(2019.9.13)
発行日 令和元年10月2日(2019.10.2)
公開日 平成28年1月28日(2016.1.28)
発明の名称または考案の名称 ポリマーアロイ及びその製造方法
国際特許分類 C08F   2/00        (2006.01)
C08F 257/02        (2006.01)
C08F   2/44        (2006.01)
C08F 292/00        (2006.01)
FI C08F 2/00 C
C08F 257/02
C08F 2/44 C
C08F 292/00
請求項の数または発明の数 7
全頁数 13
出願番号 特願2014-137136 (P2014-137136)
出願日 平成26年7月2日(2014.7.2)
審査請求日 平成29年6月19日(2017.6.19)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
発明者または考案者 【氏名】植村 卓史
【氏名】北川 進
個別代理人の代理人 【識別番号】110000796、【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
審査官 【審査官】内田 靖恵
参考文献・文献 特表2009-519116(JP,A)
特開2002-239033(JP,A)
特開平08-297379(JP,A)
特表2011-526592(JP,A)
調査した分野 C08F 2/00
C08F 2/44
C08F 292/00

特許請求の範囲 【請求項1】
以下の工程を含む、分子レベルで相溶化したポリマーアロイの製造方法:
工程1:多孔性金属錯体の細孔内に最初のモノマーを充填する工程
工程2:一部の細孔内のモノマーを重合する工程
工程3:未反応のモノマーを除去する工程
工程4:未反応のモノマーが除去された細孔内に次のモノマーを充填する工程
工程5:細孔内のモノマーを部分的又は完全に重合する工程、
工程6:工程5の後で未重合のモノマーがある場合、工程3~工程5を必要な回数だけ繰
り返す工程
工程7:多孔性金属錯体の構造を壊してポリマーアロイを回収する工程。
【請求項2】
多孔性金属錯体の細孔内に2種以上のポリマーを含み、当該ポリマーが単分子鎖レベルでランダムに配置されているポリマーアロイが収容されてなる、多孔性金属錯体とポリマーアロイの複合体。
【請求項3】
請求項2に記載の複合体において、多孔性金属錯体の構造を壊してポリマーアロイを回収
することを特徴とする、分子レベルで相溶化したポリマーアロイの製造方法。
【請求項4】
多孔性金属錯体の細孔内に2種以上のポリマーが単分子鎖レベルでランダムに配置されるように分散し、相溶化したポリマーアロイ。
【請求項5】
2種以上のポリマー間の平均距離が3nm以下である、請求項4に記載のポリマーアロイ。
【請求項6】
2種以上のポリマーの溶解度パラメータが5以上異なることを特徴とする、請求項4又は5に記載のポリマーアロイ。
【請求項7】
請求項4から6のいずれか1項に記載された相溶化したポリマーアロイであって、当該相溶化後に前記多孔性金属錯体の構造が破壊されたことで前記多孔性金属錯体から単離された状態となった、ポリマーアロイ。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明はポリマーアロイ及びその製造方法に関し、詳しくは分子レベルで相溶化したポリマーアロイ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数のポリマーをアロイ化することで、機能の向上や創発的な物性が期待されるが、ほとんどのポリマーの組み合わせでは分子レベルで相溶化しない。一方、金属イオンと有機配位子からなる多孔性金属錯体の細孔を重合反応場として利用することで、得られるポリマーの一次構造や集積構造の制御ができることが報告されている(特許文献1~4)。しかしながら、特許文献1~4は、分子レベルで相溶化したポリマーアロイを得る方法は開示していない。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】特開2006-225579号公報
【特許文献2】特開2007-238874号公報
【特許文献3】特開平9-324006号公報
【特許文献4】特開平8-217811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ポリマーの相溶化を行うためにブロック共重合体などの相溶化剤を用いたり、架橋やグラフト重合を行って相溶化する手法が使われているが、新たな添加剤の混入やポリマー組成の変化が起こるため、適切な手法とは言えない。また、機械的混練による物理的な混和も行われているが、ドメインサイズは小さくなるものの、分子レベルで相溶化することはできていない。
【0005】
本発明は複数のポリマーを分子レベルで相溶化させる技術を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
多孔性金属錯体のナノ空間で複数のポリマーを合成し、錯体構造を壊すことで、空間内にランダム配置されたポリマー鎖の配置をある程度保ったまま、単離することにより上記課題を解決できることを本発明者は見出した。
【0007】
本発明は、以下のポリマーアロイ及びその製造方法を提供するものである。
項1. 以下の工程を含む、分子レベルで相溶化したポリマーアロイの製造方法:
工程1:多孔性金属錯体の細孔内に最初のモノマーを充填する工程
工程2:一部の細孔内のモノマーを重合する工程
工程3:未反応のモノマーを除去する工程
工程4:未反応のモノマーが除去された細孔内に次のモノマーを充填する工程
工程5:細孔内のモノマーを部分的又は完全に重合する工程、
工程6:工程5の後で未重合のモノマーがある場合、工程3~工程5を必要な回数だけ繰り返す工程
工程7:多孔性金属錯体の構造を壊してポリマーアロイを回収する工程。
項2. 多孔性金属錯体の細孔内に2種以上のポリマーが収容されてなる、多孔性金属錯体とポリマーの複合体。
項3. 項2に記載の複合体において、多孔性金属錯体の構造を壊してポリマーアロイを回収することを特徴とする、分子レベルで相溶化したポリマーアロイの製造方法。
項4. 2種以上のポリマーが分子レベルで相溶化したポリマーアロイ。
項5. 2種以上のポリマー間の平均距離が3nm以下である、項4に記載のポリマーアロイ。
項6. 2種以上のポリマーの溶解度パラメータが5以上異なることを特徴とする、項4又は5に記載のポリマーアロイ。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、溶解度パラメーターが大きく異なり、単純にブレンドしただけでは相溶化することが不可能な異種ポリマー組み合わせでさえ、分子レベルで相溶化することができる。また、得られたポリマーアロイは通常のブレンド体に比べ、高い熱安定性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】PSt(ポリスチレン)とPMMA(ポリメタクリル酸メチル)の合成
【図2】ポリマーの単離
【図3】HAADF-STEM測定
【図4】固体13C-NMR測定
【図5】緩和時間(T)測定
【図6】TG測定
【図7】XPRD測定
【図8】PSt(ポリスチレン)とPAN(ポリアクリロニトリル)の相溶化
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明で使用される多孔性金属錯体は、遷移金属イオンとそれを連結する有機架橋配位子によって多孔性3次元構造を有する金属錯体であり、好ましくは、遷移金属カチオンと第1有機架橋配位子から構成される2次元シートが層をなし、2座配位可能な第2有機架橋配位子が各層に存在する遷移金属カチオンに配位することで隣接するシートとシートを連結させ、その間に細孔が形成されている構造を有する配位ポリマー、相互嵌入型の配位ポリマーなどが挙げられる。本発明の多孔性金属錯体は、MOF、PCPなどとして知られている多孔性金属錯体を広く包含する。多孔性金属錯体の細孔は、1次元細孔、2次元細孔、3次元細孔のいずれでもよいが、1次元細孔が好ましい。細孔径は、3nm以下、好ましくは2nm以下、より好ましくは1.5nm以下であり、0.3nm以上、好ましくは0.5nm以上、より好ましくは0.7nm以上である。細孔の測定は、単結晶X線回折、粉末X線回折によって行うことができる。また、窒素吸着測定によっても細孔径を測定することができる。細孔径が大きすぎると1つの細孔内に多数のポリマーが形成される可能性があり、細孔径が小さすぎると細孔内でのポリマーの形成が困難になる。

【0011】
多孔性金属錯体は、第1有機架橋配位子とともに単座有機配位子を含んでいてもよい。単座有機配位子を加えることで、錯体結晶のサイズを調節することができる。

【0012】
遷移金属カチオンとしては、金属イオンとしては、周期表の1~12族に属する金属の金属イオン、具体的には、金、白金、銀、銅、ルテニウム、スズ、パラジウム、ロジウム、イリジウム、オスミウム、ニッケル、コバルト、亜鉛、鉄、イットリウム、マグネシウム、マンガン、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、カルシウム、カドミウム、バナジウム、クロム、モリブデン、スカンジウムなどのイオンが挙げられ、マグネシウム、カルシウム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、銅、亜鉛、カドミウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、白金、モリブデン、ジルコニウム、スカンジウムなどのイオンが好ましく、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、銀、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウムなどの金属のイオンがより好ましい。

【0013】
有機架橋配位子のうち、第1有機架橋配位子としては、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、フルオレン、インダン、インデン、ピレン、1,4-ジヒドロナフタレン、テトラリン、ビフェニレン、トリフェニレン、アセナフチレン、アセナフテンなどの芳香環に2個、3個又は4個のカルボキシル基が結合した化合物(前記有機配位子は、F,Cl、Br,Iなどのハロゲン原子、ニトロ基、アミノ基、アセチルアミノ基などのアシルアミノ基、シアノ基、水酸基、メチレンジオキシ、エチレンジオキシ、メトキシ、エトキシなどの直鎖又は分岐を有する炭素数1~4のアルコキシ基、メチル、エチル、プロピル、tert-ブチル、イソブチルなどの直鎖又は分岐を有する炭素数1~4のアルキル基、SH、トリフルオロメチル基、スルホン酸基、カルバモイル基、メチルアミノなどのアルキルアミノ基、ジメチルアミノなどのジアルキルアミノ基などの置換基で1,2又は3置換されていてもよい)、炭素数5~12個の環状飽和脂肪族多価カルボン酸化合物(例えば、1,2-シス-シクロプロパンジカルボン酸、1,2-トランス-シクロプロパンジカルボン酸、1,3-シス-シクロブタンジカルボン酸、1,3-トランス-シクロブタンジカルボン酸、1,4-シス-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-トランス-シクロヘキサンジカルボン酸及び1,3-アダマンタンジカルボン酸など)、(1α,2α,4α)-1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸、フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸などの不飽和2価カルボン酸などが挙げられ、好ましくは、イソフタル酸、5-メトキシイソフタル酸、5-メチルイソフタル酸、5-フルオロイソフタル酸、5-クロロイソフタル酸、5-ブロモイソフタル酸、5-ヨードイソフタル酸、5-ニトロイソフタル酸及び5-シアノイソフタル酸、テレフタル酸(tp)、2-メチルテレフタル酸、2-メトキシテレフタル酸、2-ニトロテレフタル酸、ジヒドロシクロブタ[1,2-b]テレフタル酸、4,4’-ジカルボキシジフェニルスルホン、2,6-ナフタレンジカルボン酸、9,10-アントラセンジカルボン酸、2,3-ピラジンジカルボン酸(pzdc)、テトラフルオロテレフタル酸、4,4’-ビ安息香酸、オクタフルオロ-4,4’-ビ安息香酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、2,7-フルオレンジカルボン酸、2,7-ピレンジカルボン酸、4,5,9,10-テトラヒドロピレン-2,7-ジカルボン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、アセチレンジガルボン酸等のジカルボン酸類が挙げられる。

【0014】
本発明の錯体には、第1有機架橋配位子と組み合わせて単座有機配位子、好ましくはモノカルボン酸をさらに有していてもよい。モノカルボン酸としては、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸、乳酸、ピルビン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、シクロヘキサンカルボン酸などが挙げられる。単座配位子を使用することで多孔性金属錯体のサイズを小さくし、細孔の長さを短くすることができる。

【0015】
有機架橋配位子のうち、第2有機架橋配位子としては、例えば、ピラジン、トランス-1,2-ビス(4-ピリジル)エチレン、1,4-ジシアノベンゼン、4,4’-ジシアノビフェニル、1,2-ジシアノエチレン、1,4-ビス(4-ピリジル)ベンゼン、トリエチレンジアミン(ted)、4,4’-ビピリジル(bpy)、ジアザピレン、2,5-ジメチルピラジン、2,2’-ジメチル-4,4’-ビピリジン、1,2-ビス(4-ピリジル)エチン、1,4-ビス(4-ピリジル)ブタジイン、1,4-ビス(4-ピリジル)ベンゼン、3,6-ジ(4-ピリジル)-1,2,4,5-テトラジン、2,2’-ビ-1,6-ナフチリジン、フェナジン、2,6-ジ(4-ピリジル)-ベンゾ[1,2-c:4,5-c’]ジピロール-1,3,5,7(2H,6H)-テトロン、N,N’-ジ(4-ピリジル)-1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボキシジイミド、トランス-1,2-ビス(4-ピリジル)エテン、4,4’-アゾピリジン、1,2-ビス(4-ピリジル)エタン、4,4’-ジピリジルスルフィド、1,3-ビス(4-ピリジル)プロパン、1,2-ビス(4-ピリジル)-グリコール、N-(4-ピリジル)イソニコチンアミド等が挙げられる。

【0016】
本発明で使用する多孔性金属錯体は、例えば以下の文献、総説(Angew. Chem. Int. Ed. 2004, 43, 2334-2375.;Angew. Chem. Int. Ed. 2008, 47, 2-14.;Chem. Soc. Rev., 2008, 37, 191-214.;PNAS, 2006, 103, 10186-10191.;Chem.Rev.,2011, 111, 688-764.;Nature, 2003, 423, 705-714.)などに記載されているが、これらに限定されず、公知の多孔性金属錯体あるいは今後製造され得る多孔性金属錯体を広く使用することができる。

【0017】
本発明で使用可能な金属錯体の例を以下に示す。
IRMOF-1, Zn4O(BDC)3 (H2BDC= benzenedicarboxylate)
MOF-69C, Zn3(OH2)(BDC)2
MOF-74, M2(DOBDC) (H2DOBDC=2,5-dihydroxyterephthalate, M=Zn, Co, Ni, Mg)
HKUST-1, Cu3(BTC)2 (H3BTC=1,3,5-benzenetricarboxylate)
MOF-177, Zn4O(BTB)2 (BTB=4,4’,4”-benzene-1,3,5-triyl-tribenzoate)
MOF-508, Zn(BDC)(bipy)0.5
Zn-BDC-DABCO,Zn2(BDC)2(DABCO), (DABCO=1,4-diazabicyclo[2.2.2]-octane)
Cr-MIL-101, Cr3F(H2O)2O(BDC)3
Al-MIL-110, Al8(OH)12{(OH)3(H2O)3}[BTC]3,
MIL-103, M(BTB), (M = light rare-earth elements [La-Ho])
Al-MIL-53, Al(OH)[BDC]
ZIF-8, Zn(MeIM)2, (H-MeIM=2-methylimidazole)
MIL-88B, Cr3OF(O2C-C6H4-CO2)3
MIL-88C, Fe3O(O2C-C10H6-CO2)3
MIL-88D, Cr3OF(O2C-C12H8-CO2)3
CID-1 [Zn2(ip)2(bpy)2] (Hip=isophthalic acid, bpy=4,4'-bipyridine)

【0018】
本発明において、多孔性金属錯体の細孔内に充填されるモノマーは、重合可能なものであればよいが、特に炭素数2~10の不飽和モノマーが好ましい。

【0019】
不飽和モノマーの例としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、ノネン、デセン、ブタジエン、イソプレン、シクロペンテン、シクロヘキセン、ノルボルネン、ノルボルナジエン、塩化ビニル、酢酸ビニル、メトキシビニル、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチルなどのアクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルなどのメタクリル酸エステル、アクリロニトリル、スチレン、ビニルナフタレン、ビニルシクロヘキサン、アセチレン、メチルアセチレン、2-エチニルピリジン、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ビニリデンフルオライド、ヘキサフルオロプロピレン等が挙げられる。

【0020】
本発明の多孔性金属錯体の細孔内にモノマーを収容する方法としては、モノマーがガス又は液体の場合には、例えばAngew. Chem. Int. Ed. 1999, 38, 140記載の方法と同様に、多孔性金属錯体とモノマーを直接接触させる方法が挙げられる。また、モノマーを適当な有機溶媒に溶解させた後、多孔性金属錯体と接触させてもよい。ここで使用される有機溶媒の例としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロオクタン、デカリン等の脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン、エチルベンゼン、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の芳香族炭化水素、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素等が挙げられる。

【0021】
本発明の多孔性配位ポリマーの細孔内に不飽和モノマーを収容し、部分的に重合させる。重合は、ラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合などのいずれであってもよい。

【0022】
重合を開始させる方法としては、ラジカル開始剤の存在下/非存在下に加熱あるいは光を照射する方法、酸性物質または塩基性物質を作用させる方法等が挙げられる。

【0023】
重合の反応温度は、好ましくは0~250℃程度、より好ましくは50~200℃程度であり、反応時間は1~48時間程度、好ましくは2~24時間程度、より好ましくは3~12時間程度である。反応温度と反応時間は、細孔における重合の程度を調節するための因子である。

【0024】
使用するラジカル開始剤としては、ラジカル重合の開始剤として通常使用される化合物が挙げられ、例えば、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、過酸化ベンゾイル等が挙げられる。

【0025】
使用する酸性物質としては、カチオン重合の開始剤として通常使用される化合物が用いられ、例えば、塩化アルミニウム、硫酸、塩酸等が挙げられる。

【0026】
使用する塩基性物質としては、ブチルリチウムなどのアルキルリチウムが挙げられる。

【0027】
本発明では、最初のモノマーを多孔性金属錯体の細孔に充填後、部分的に重合を行う。

【0028】
例えば、図1(A)の例ではスチレンを部分的に重合し、細孔の一部においてポリスチレンを形成させる。重合反応は連鎖反応であるので、一部の細孔内で連鎖反応が生じれば、その細孔では重合反応が進行するためポリマー鎖が形成される。一方、重合反応が進行しない細孔ではモノマーがそのまま残るため部分的に重合を行った後、細孔内に残存するモノマーを溶媒などにより除去する。次のモノマーを細孔内に充填し、部分的又は完全に重合を行う。図1(A)では、次のモノマーがMMA(メタクリル酸メチル)であり、ポリスチレン(PSt)とポリメタクリル酸メチル(PMMA)が細孔内に充填された多孔性金属錯体が得られる。なお、図1(A)では全ての細孔にポリマーが充填されているが、2種以上のポリマーが細孔内に存在していれば、一部の細孔においてポリマーが形成されていなくてもよい。また、1つの細孔内では1つのポリマー鎖が形成されることが好ましいが、2つ又は3つのポリマー鎖が1つの細孔内で形成されてもよい。また、1つの細孔内では連鎖的な重合反応が進行するため細孔全体にわたる長さのポリマー鎖が形成され得るが、重合反応が途中で停止して短いポリマー鎖が形成された場合、1つの細孔内で異種のポリマーが形成されることがあってもよい。

【0029】
次のモノマーを部分的に重合させた場合には、さらに細孔内に残存する次のモノマーの除去とさらにその次のモノマーの充填を行うことができ、以下、必要な回数だけ前のモノマーの細孔からの除去と次のモノマーの細孔への充填と重合を繰り返すことで、3種以上(例えば3種、4種又は5種、好ましくは3種)のポリマーを多孔性金属錯体の細孔内に充填することができる。

【0030】
細孔内におけるモノマーの重合反応を途中で止めるためには、反応温度、反応時間、重合開始剤(ラジカル重合)、酸性物質(カチオン重合)、塩基性物質(アニオン重合)の配合量などをモノマーの種類に応じて調節すればよい。ラジカル重合の停止は、例えばメタノールなどの低級アルコールを用いて行うことができる。メタノールなどの低級アルコールは残ったモノマーを溶解除去し、残存する低級アルコールは蒸発により除去することができる。

【0031】
図2(A)にはポリスチレン(PSt)とポリメタクリル酸メチル(PMMA)が細孔内に充填された多孔性金属錯体を得るために、PStの重合時間を5時間、7時間、9時間と延ばしていくと、PStの割合が0.26、0.55,0.71に増加することを示す。温度、時間、配合量などの適切な反応条件は、多孔性金属錯体、モノマー、重合開始剤/酸性物質/塩基性物質などの試薬の種類と配合量、溶媒、濃度などにより異なるので、各ポリマーが適切な割合で多孔性金属錯体中で形成されるための適切な反応条件は、反応条件を変えた複数の実験により決定できる。

【0032】
2種以上のポリマーを細孔内で順次反応させる場合、特に限定されるわけではないが、重合反応の遅いポリマーを先に形成させ、次いで重合反応の速いポリマーを順次形成するのが、ポリマー形成を途中で止めるために好ましい。

【0033】
多孔性金属錯体の細孔径は、モノマーが細孔内部に入り込み、細孔内である程度回転などの運動ができる程度の自由度が必要であるので、モノマーが大きくなるに従って細孔径の大きな多孔性金属錯体を選択することが望ましい。

【0034】
本発明において、細孔内にポリマーを含む多孔性金属錯体の複合体は、金属錯体の構造を保持している。これは、X線回折パターンにより確認することができる。

【0035】
次にポリマーを細孔内に含む多孔性金属錯体の構造を壊すことにより、細孔内でのポリマーの配置を部分的又は完全に反映したポリマーアロイを得ることができる。金属錯体の構造の破壊は、例えばキレート剤を作用させることにより金属イオンを錯体から引き抜くことで達成できる。使用されるキレート剤としては、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、EGTA(エチレングリコール-ビス-(b-アミノエチルエーテル)-N,N-四酢酸)、NTA(ニトリロ三酢酸)、DTPA(ジエチレントリアミン五酢酸)、HEIDA(N-(2-ヒドロキシエチル)イミノ二酢酸二ナトリウム塩)、IDS(イミノ二コハク酸ナトリウム塩)、MGDA(二酢酸メチルグリシン)、グルコン酸、2,2’-ビピリジル、イミノ二酢酸(IDA)、ニトリロトリスメチルリン酸(NTPO)、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ピリジルメチル)エチレンジアミン(TPEN)、ジエチレントリアミン、ジエチレントリアミン-N,N,N’,N”,N”-五酢酸(DTPA)、トリエチレンテトラアミン、トリエチレンテトラミン-N,N,N’,N”,N”’,N”’-六酢酸(TTHA)、1,10-フェナントロリン、O,O’-ビス(2-アミノフェニル)エチレングリコール-N,N,N’,N’-四酢酸(BAPTA)、N,N-ビス(2-ハイドロキシエチル)グリシン(Bicine)、トランス-1,2-ジアミノシクロヘキサン-N,N,N’,N’-四酢酸(CyDTA)などが挙げられる。金属錯体を構成する配位子は、ポリマーを溶解しない水又は有機溶媒で洗浄除去できる。

【0036】
本明細書において、有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどのエーテル類、アセトニトリル、酢酸エチルなどのエステル類、塩化メチレン、クロロホルム、ジクロルエタンなどの塩素化炭化水素、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素類、ヘキサン、シクロヘキサンなどの脂肪族又は脂環式炭化水素類、THF,DMF,DMSO,ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドンなどが挙げられる。

【0037】
多孔性金属錯体とポリマーを含む複合体(図1(B))、多孔性金属錯体部分を除去したポリマーアロイ(図2(B))は、いずれも粒子の形状を有し、多孔性構造を保持している。各ポリマーは複合体の各細孔内にランダムに配置されており、この配置をポリマーアロイで維持するために、ポリマーが単分子鎖レベルで分散された、分子レベルの相溶化が実現できる。

【0038】
2種以上のポリマーを含む溶液をキャストしてフィルムを作成する場合、2種以上のポリマーが相分離した海島構造を通常形成するが(図3A)、本発明のポリマーアロイは多孔性構造を保持しており(図3B)、分子レベルで2種以上のポリマーが相溶した構造を有する。これは、多孔性金属錯体の細孔に2種以上のポリマーを含む複合体と、この複合体から多孔性金属錯体を除いたポリマーアロイがいずれも粒子の形状を保持していることから、分子レベルで相溶化した構造が維持されていることが示される。

【0039】
本発明のポリマーアロイにおいて、2種以上のポリマーが3nm以下、例えば2~3nmの距離で存在していることは、固体NMR測定により回転系スピン格子緩和時間(T)を求め、相溶性を評価することで確認できる(図4)。異種ポリマーが2~3nm以内に存在すれば回転系スピン格子緩和時間(T)は近い値を取ることが知られている(J.Wang, M.K.Cheung, Y.Mi, Polymer, 2002, 43, 1357)。回転系スピン格子緩和時間(T)が約2ms以下であれば、2~3nm以内に異種ポリマーが存在すると考えられる。

【0040】
また、本発明のポリマーアロイは、相溶化により熱安定性が大幅に向上する。これは、熱重量(TG)測定により高温側にシフトすることにより確認できる(例えば図4、図5)。重量減少が始まる温度は、2種以上のポリマーをブレンドしたものと比較して20~200℃、好ましくは50~180℃、より好ましくは80~160℃程度高くなる。

【0041】
本発明のポリマーアロイが2種のポリマーA、Bから構成される場合、ポリマーA:ポリマーB(重量比)=1:99~99:1、好ましくは1:9~9:1、より好ましくは2:8~8:2。さらに好ましくは3:7から7:3、特に好ましくは4:6~6:4である。

【0042】
本発明のポリマーアロイを構成するポリマーの溶解度パラメータを以下に例示する。

【0043】
【表1】
JP0006584754B2_000002t.gif

【0044】
ポリマーは細孔内で合成してもよく、ポリマーを細孔内に導入してもよい。

【0045】
2種以上のポリマーにおいて、溶解度パラメータの最大の差の絶対値は0.1~8程度、好ましくは0.2~7.5程度、より好ましくは0.3~7程度である。溶解度パラメータが近いほど2つのポリマーは相溶しやすい。本発明の製造方法によれば、溶解度パラメータの差が5以上のポリマーであっても分子レベルで相溶化させることができ、溶解度パラメータの差が6.4であるポリスチレンとポリアクリロニトリルであっても分子レベルで相溶させることができる。
【実施例】
【0046】
以下に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0047】
参考例1
多孔性金属錯体[Zn(tp)ted]を、J. Phys. Chem. B 2002, 106, 1380記載の方法に準じて、硫酸亜鉛のメタノール溶液をtpのギ酸/メタノール(1/100)溶液中に加え、数日間室温で攪拌した後、tedのトルエン溶液を加え、オートクレーブ中433Kで数時間加熱し、得られた結晶を濾別することにより合成した。得られた錯体の1次元細孔サイズは0.75nmであった。
【実施例】
【0048】
実施例1
パイレックス(登録商標)製の反応管に参考例1で合成した[Zn(tp)ted]を200mg仕込み、80Paの減圧下、130℃で3時間乾燥させた。引き続きスチレン1mLとAIBN4mgを室温で投入し、過剰のスチレンを室温で80Paの減圧下2時間かけて完全に留去した。その後、反応管を70℃に加熱し、6時間反応させた。反応液にメタノールを加えて重合反応を停止し、未反応のスチレンを溶解除去し、さらにメタノールを減圧下に蒸発させた。次にメタクリル酸メチル1mLとAIBN 4mgを室温で投入し、過剰のメタクリル酸メチルを室温で80Paの減圧下2時間かけて完全に留去した。その後、反応管を70℃に加熱し、24時間反応させた。
【実施例】
【0049】
反応終了後、得られた粉末をメタノールで洗浄し、室温で乾燥させることにより、ポリスチレンとポリメタクリル酸メチルを収容した多孔性金属錯体[Zn(tp)ted]の複合体を得た。
【実施例】
【0050】
得られた複合体をEDTA・2Na水溶液と反応させて多孔性金属錯体を除去し、本発明のポリマーアロイを得た。ポリマーアロイにおいて、モル比でPSt:PMMA=1.0:0.8であった。
【実施例】
【0051】
得られた複合体とポリマーアロイについてX線回折測定とSEM画像を得た(図1,2)。
【実施例】
【0052】
PStとPMMAのキャストされたバルク(コントロール)と本発明のポリマーアロイについてのHAADF-STEMの測定結果を図3に示す。
【実施例】
【0053】
PStとPMMAのポリマーアロイについて固体13C-NMRを測定し、緩和時間(T1ρ)を測定した。結果を図4,図5に示す。
【実施例】
【0054】
さらに、PSt、PMMA、PStとPMMAのキャストされたバルク及びポリマーアロイについて熱重量(TG)を測定した結果を図6に示す。
【実施例】
【0055】
実施例2
パイレックス(登録商標)製の反応管に参考例1で合成した[Zn(tp)ted]を200mg仕込み、80Paの減圧下、130℃で3時間乾燥させた。引き続きスチレン1mLとAIBN4mgを室温で投入し、過剰のスチレンを室温で80Paの減圧下2時間かけて完全に留去した。その後、反応管を70℃に加熱し、6時間反応させた。反応液にメタノールを加えて重合反応を停止し、未反応のスチレンを溶解除去し、さらにメタノールを減圧下に蒸発させた。次にアクリロニトリル1mLとAIBN 4mgを室温で投入し、過剰のアクリロニトリルを室温で8kPaの減圧下2時間かけて完全に留去した。その後、反応管を100℃に加熱し、24時間反応させた。
【実施例】
【0056】
反応終了後、得られた粉末をメタノールで洗浄し、室温で乾燥させることにより、ポリスチレン(PSt、溶解度パラメータ=9.0)とポリアクリロニトリル(PAN、溶解度パラメータ=15.4)を収容した多孔性金属錯体[Zn(tp)ted]の複合体を得た。
【実施例】
【0057】
得られた複合体について実施例1と同様にしてEDTA・2Naを用いて多孔性金属錯体を除去し、本発明のポリマーアロイを得た。ポリマーアロイにおいて、モル比でPSt:PAN=1.0:1.0であった。
【実施例】
【0058】
PAN,PSt、ポリマーアロイについてXRPDを測定した。結果を図7に示す。
【実施例】
【0059】
さらに、キャストされたバルクPSt+PANと本発明のPSt+PAN(ポリマーアロイ)についてHAADF-STEM測定と緩和時間(T)測定の結果を図8に示す。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のポリマーアロイは、高機能エンジニアリングプラスチック、自動車用部品、航空機用部品、医療材料などの様々な分野に応用できる。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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