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明細書 :水分量測定方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6331140号 (P6331140)
公開番号 特開2016-053527 (P2016-053527A)
登録日 平成30年5月11日(2018.5.11)
発行日 平成30年5月30日(2018.5.30)
公開日 平成28年4月14日(2016.4.14)
発明の名称または考案の名称 水分量測定方法
国際特許分類 G01N  21/3581      (2014.01)
G01N  21/552       (2014.01)
FI G01N 21/3581
G01N 21/552
請求項の数または発明の数 6
全頁数 16
出願番号 特願2014-179671 (P2014-179671)
出願日 平成26年9月3日(2014.9.3)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用 (1)開催日 平成26年3月4日 (2)集会名、開催場所 農業食料工学会関西支部131回例会 大阪府立大学(大阪府堺市中区学園町1番1号) (刊行物等) (1)発行日 平成26年6月5日 (2)刊行物 農業食料工学会関西支部報116号 農業食料工学会関西支部 (刊行物等) (1)ウェブサイトの掲載日 平成26年6月6日 (2)ウェブサイトのアドレス http://ocw.kyoto-u.ac.jp/ja/faculty-of-agriculture-jp/2013/20140606.pdf (刊行物等) (1)発行日 平成26年8月3日 (2)刊行物 International Symposium on Frontier of Terahertz Science講演要旨集 日本分光学会 テラヘルツ分光部会,応用物理学会 テラヘルツ電磁波技術研究会,Femtosecond SpectroscopyUnit at the Okinawa institute of Science and Technology,Graduate University (刊行物等) (1)開催日 平成26年8月5日 (2)集会名、開催場所 International Symposium on Frontier of Terahertz Science 沖縄科学技術大学院大学(沖縄県国頭郡恩納村字谷茶1919-1)
審査請求日 平成29年8月1日(2017.8.1)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
【識別番号】591230619
【氏名又は名称】株式会社ナリス化粧品
発明者または考案者 【氏名】小川 雄一
【氏名】白神 慧一郎
【氏名】赤宗 行三
【氏名】森田 美穂
【氏名】土田 克彦
個別代理人の代理人 【識別番号】100104307、【弁理士】、【氏名又は名称】志村 尚司
審査官 【審査官】吉田 将志
参考文献・文献 特開2011-232290(JP,A)
特開2009-122007(JP,A)
国際公開第2010/044193(WO,A1)
米国特許出願公開第2011/0205528(US,A1)
特開2013-108764(JP,A)
米国特許出願公開第2013/0126736(US,A1)
調査した分野 G01N 21/00-83
G01J 3/00-4/04
7/00-9/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
テラヘルツ波全反射減衰分光法を用いた薄膜試料の水分量測定方法であって、
薄膜試料に積層試料を積層した状態の測定対象物に対してテラヘルツ波をプリズムを介して前記薄膜試料側から照射してテラヘルツ波の減衰を観測する工程と、
前記薄膜試料と前記積層試料の界面における反射係数を用いてテラヘルツ波の減衰を修正する工程と、
当該修正されたテラヘルツ波から前記薄膜試料の吸収係数を求める工程と、
を有する薄膜試料中の水分量測定方法。
【請求項2】
テラヘルツ波全反射減衰分光法を用いた薄膜試料の水分量測定方法であって、
薄膜試料に積層試料を積層した状態の測定対象物に対してテラヘルツ波を前記薄膜試料側からプリズムを介して前記薄膜試料側から照射して時間領域スペクトルを測定する工程と、
前記積層試料の複素屈折率と前記プリズムの屈折率と前記薄膜試料の厚みを用いて、積層状態にある測定対象物の反射係数を算出する工程と、
前記測定された時間領域スペクトルと前記算出した測定対象物の反射係数から、前記薄膜試料の吸収係数を求める工程と、
を有する薄膜の水分量測定方法。
【請求項3】
前記薄膜試料の厚みよりも大きな滲みだし深さを有するエバネッセント波を生じる周波数帯のテラヘルツ波を照射する請求項1又は2に記載の水分測定方法。
【請求項4】
前記測定対象物は皮膚であって、前記薄膜試料は皮膚の角層、前記積層試料は皮膚の表皮層である請求項1~3の何れか1項に記載の水分量測定方法。
【請求項5】
屈折率が2.0以上であるプリズムを用いる請求項4に記載の水分量測定方法。
【請求項6】
既知の含水率と吸収係数の相関関係から、前記薄膜試料の含水率を求める工程をさらに有する請求項1~5の何れか1項に記載された水分量測定方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は水分量測定方法、特に角層の水分量測定法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、皮膚の水分を測定するために、電気的特性を利用した方法や核磁気共鳴画像法、近赤外分光法、共焦点ラマン分光法など種々の方法が提案されてきた。しかしながら、これらの方法では、水と化粧品や皮膚外用剤に含まれる物質、あるいは皮膚中の物質の吸収スペクトルとの分離が難しいことや、角層水分以外の物質による影響を受けやすい、といった問題などがあり、化粧品が与える皮膚、特に角層の水分量への影響を知る上では従来の方法では十分であるとは言えなかった。
【0003】
ところで、0.1~10THzの周波数を有するテラヘルツ波は水に強く吸収される特性を有する電磁波である。近年、この特性に鑑み、テラヘルツ波を用いて生体試料中の水分を測定する試みが行われている。例えば、特許文献1では、生体試料のような薄切片試料の透過率と、薄切片試料の厚さとから試料の吸収係数を求め、水分の吸収係数から薄切片試料の含有水分の体積分率を求めることが試みられている。また、非特許文献1には、皮膚表面からテラヘルツ波を照射し、皮膚を構成する各層の界面で生じたエコーパルスの強度差を測定することで、皮膚の含水量を求めることが試みられている。
【0004】
しかしながら、前者の方法は生体試料の薄切片を用いる方法であるので、ヒトや動物の皮膚を傷つけることになり、好ましい方法であるとは言えない。後者の方法は皮膚を傷つけることなく測定できるので好ましい方法であるとは言えるが、この方法では空気-角層界面と角層-表皮界面の2つのエコーパルスを時間的に分離できないなどの理由により、角層の水分を測定できない。また、後者の方法では、空気-角層界面におけるエコーパルス強度から群屈折率の変化を求めて、皮膚(角層)表面における含有水分量の変化を求めているが、角層の含水量(絶対量)を測定することは困難であると言える。
【0005】
また、全反射する条件で試料にテラヘルツ波を入射し、その際に生じるテラヘルツ帯の表面波(エバネッセント波)と試料の相互作用によるテラヘルツ波の減衰を測定することで、試料の複素屈折率又は複素誘電率を求めることが試みられている(特許文献2、非特許文献2)。この方法は、全反射減衰分光測定法(Attenuated Total Reflection Spectroscopy:ATR法)と言われる方法である。特許文献2では、入射角条件の異なる2つのスペクトルを測定することで、透過法のような極薄い厚みの液体層を必要とすることなく試料の複素屈折率を求めている。非特許文献2では、単層の細胞層などの極薄い薄膜試料に積層された水の影響を排除すべく、薄膜試料と水の界面における反射を考慮したいわゆる二界面モデルを用いて薄膜試料の複素誘電率を求めている。
【0006】
しかしながら、いずれの文献も複素屈折率又は複素誘電率が測定されたことを示しているにすぎない。また、皮膚の角層は単層の細胞層ではなく、死んだ角化細胞が複雑に積層したものであって、角層の水分量を測定する方法に利用できるかどうか分からなかった。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特開2009-122007号公報
【特許文献2】特開2008-304444号公報
【0008】

【非特許文献1】安井ら、生体医工学、Vol.42、No.4、190-194、2004
【非特許文献2】K. Shiraga et al., Applied Physics Letters, 102, 053702(2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、角層の厚みはヒトや動物種で異なり、個体差もある。また、ヒトの角層の厚みは部位差および個人差が大きい。テラヘルツ波の減衰はエバネッセント波の滲みだし深さとも関係し、テラヘルツ波の減衰から含水率が求められたとしても、角層のごく浅い部分の吸収しか測定していないおそれがある。また、皮膚は外側から大きく分けて、角層・表皮層・真皮層・皮下組織層という積層構造をしており、角層が薄いところでは角層下にある表皮層の水分による影響を受けるおそれもある。
【0010】
本発明はこのような背景技術に鑑みてなされたものであって、本発明は、テラヘルツ波を用いて角層のような薄膜試料の水分量をできるだけ正確に測定する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る測定方法は、テラヘルツ波全反射減衰分光法を用いた薄膜試料の水分量測定方法であって、薄膜試料に積層試料を積層した状態の測定対象物に対してテラヘルツ波をプリズムを介して前記薄膜試料側から照射してテラヘルツ波の減衰を観測する工程と、前記薄膜試料と前記積層試料の界面における反射係数を用いてテラヘルツ波の減衰を修正する工程と、当該修正されたテラヘルツ波から前記薄膜試料の吸収係数を求める工程と、を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、テラヘルツ波を用いて角層中の水分量を測定する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は二界面モデルの測定概念を示す模式図である。
【図2】図2は水の吸収スペクトルを示す図である。
【図3】図3はスクロース水溶液の吸収スペクトルを示す図である。
【図4】図4はスクロース水溶液の質量含水率と吸収係数の関係を示す図であって、(a)は0.5THzでの測定結果を、(b)は1.0THzでの測定結果を示す。●は実験値を、○は文献値を示す。
【図5】図5は角層モデルの吸収スペクトルを示す図である。
【図6】図6は角層モデルを用いた質量含水率と吸収係数の関係を示す図であって、(a)は0.25THzでの測定結果を、(b)は0.5THzでの測定結果を、(c)は1.0THzでの測定結果を示す図である。
【図7】図7は誘電体薄膜に蒸留水を滴下して測定した解析結果を示す図であって、(a)は10μmの誘電体薄膜を、(b)は20μmの誘電体薄膜を、(c)は30μmの誘電体薄膜を用いた場合の解析結果である。
【図8】図8は誘電体薄膜に蒸留水を滴下して測定した解析結果を示す図であって、(d)は40μmの誘電体薄膜を、(e)は50μmの誘電体薄膜を用いた場合の解析結果である。
【図9】図9はブタ皮膚(48時間乾燥)の吸収スペクトルを示す図である。
【図10】図10はブタ皮膚の質量含水率とストリッピング回数との関係を示す図であって、(a)は0.25THzでの測定結果を、(b)は0.5THzでの測定結果を、(c)は1.0THzでの測定結果を示す図である。
【図11】図11は二界面モデル適用後のブタ皮膚(48時間乾燥)の吸収スペクトルを示す図である。
【図12】図12は二界面モデル適用後のブタ皮膚の吸収係数とストリッピング回数の関係を示す図であって、(a)は0.25THzでの測定結果を、(b)は0.5THzでの測定結果を、(c)は1.0THzでの測定結果を示す図である。
【図13】図13は二界面モデルを用いて求められた角層の複素屈折率を示す図であって、(a)はその実部を、(b)はその虚部を示す。
【図14】図14は二界面モデルの適用前後による吸収係数の変化を示す図であって、適用前に対する変化率を示す。(a)は0.25THzでの測定結果を、(b)は0.5THzでの測定結果を、(c)は1.0THzでの測定結果を示す図である。
【図15】図15はアルブミン水溶液の吸収スペクトルを示す図である。
【図16】図16はアルブミン水溶液の質量含水率と吸収係数の関係を示す図である。(a)は0.25THzでの測定結果を、(b)は0.5THzでの測定結果を、(c)は1.0THzでの測定結果を示す図である。
【図17】図17は、アルブミン水溶液を角層モデルとした場合におけるブタ皮膚の質量含水率とストリッピング回数との関係(0.5THz)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る方法は、全反射減衰分光法において、好ましくは水分量を求めたい薄膜試料よりも大きな滲みだし深さのエバネッセント波が生じるように、薄膜試料と積層試料を含む積層体である測定対象物に対してテラヘルツ波を照射した上で、前記薄膜試料と前記積層試料の界面での反射を考慮して解析を行う方法である。薄膜試料と積層試料の界面での反射を考慮して解析する方法は既に公知でありいわゆる二界面モデルと称される(非特許文献2参照)。

【0015】
図1は当該二界面モデルの説明図である。全反射減衰分光法では、テラヘルツ波はATRプリズム(以下「プリズム」と称する。)表面と薄膜試料との界面で全反射する条件でプリズムに入射し、プリズム表面と薄膜試料の界面で反射されたテラヘルツ波は図示しない検出装置で観測される。このとき、反射テラヘルツ波の電場強度E~outは、数式1に示すように入射テラヘルツ波の電場強度Einに係数aを掛けたものとして表される。二界面モデルを用いない場合、係数aにはプリズムと薄膜試料の界面でのフレネル反射係数r~12が用いられ、E~out=r~12×Einの関係が成り立つとして解析が行われる。一方、二界面モデルを用いた場合は、薄膜試料と積層試料の界面でも当該界面でのフレネル反射係数r~23に比例した減衰があるとして取り扱い、この減衰による影響を除くことで薄膜試料における減衰を取り出して解析する。このために、係数aにはプリズムと薄膜試料の界面でのフレネル反射係数r~12に、薄膜試料と積層試料の界面でのフレネル反射係数r~23を考慮した全体の反射係数r~123が用いられ、E~out=r~123×Einの関係が成り立つとして解析が行われる。つまり、二界面モデルを用いた解析では、プリズムと薄膜試料の界面でのフレネル反射係数r~12を薄膜試料と積層試料の界面でのフレネル反射係数r~23で修正した全体の反射係数r~123が用いられる。言い換えると、二界面モデルは、観測されたテラヘルツ波の減衰を薄膜試料と積層試料の界面でのフレネル反射係数を用いて修正したモデルであると言える。薄膜試料の含水量の算出に必要な薄膜試料の吸収係数αは、下記に述べるように、検出装置で観測された反射スペクトルと位相差スペクトルから全体の反射係数r~123を算出し、算出された全体の反射係数r~123から薄膜試料の複素屈折率n~2を算出することで求められる。

【0016】
(数1)
E~out = a×Ein (1≧a≧0)

【0017】
ここでプリズムの屈折率をn1、薄膜試料の複素屈折率をn~2、積層試料の複素屈折率をn~3、テラヘルツ波の入射角をθとすると、薄膜試料と積層試料の界面でのフレネル反射係数r~23は次の数式2で示される。

【0018】
【数2】
JP0006331140B2_000002t.gif

【0019】
また、薄膜試料とプリズムの界面のフレネル反射係数r~12は数式3で表されるので、薄膜試料の厚みをdとすると、2つの界面が存在するときの全体の反射係数r~123は、次の数式4で示される。

【0020】
【数3】
JP0006331140B2_000003t.gif

【0021】
【数4】
JP0006331140B2_000004t.gif

【0022】
ここで、試料がテラヘルツ波の吸収を有する物質の場合、プリズム表面にある試料の厚さをt、試料の吸収係数をαとすると、反射テラヘルツ波から観測されるATRスペクトルの吸収強度A(t)は次の数式5の関係で示される。なお、エバネッセント波の滲みだし深さdpは、入射波の電場強度が1/eに減衰する深さであり、入射テラヘルツ波の波長λ、プリズムの屈折率n1、試料の屈折率n~2、プリズム表面に対する入射角θによって一義的に決まる。

【0023】
【数5】
JP0006331140B2_000005t.gif

【0024】
一方、吸収のある物質における電磁波の伝搬は複素屈折率n~を用いて表せられる。複素屈折率n~は物質の消衰係数κを用いて数式6で示されるが、消衰係数κと当該物質の吸収係数αは数式7に示す比例関係にあることが知られている。なお、数式6中、nは物質の屈折率、iは虚数単位である。

【0025】
【数6】
JP0006331140B2_000006t.gif

【0026】
【数7】
JP0006331140B2_000007t.gif

【0027】
つまり、ATRスペクトルの吸収強度A(t)は吸収係数αと比例し(数式5)、吸収係数αは消衰係数κと比例する(数式7)という関係にある。従って、ATRスペクトルの吸収強度A(t)を直接測定することや物質の消衰係数κを求めることで吸収係数αが求められる。

【0028】
反射後のATRスペクトルはテラヘルツ時間領域分光法により観測できる。この方法では、取得したテラヘルツ波の時間波形をフーリエ変換することで反射スペクトルと位相差スペクトルが得られる。エバネッセント波の滲みだし深さdpが試料の厚さtよりも大きい場合には、反射スペクトルR(ω)と位相差スペクトルΦ(ω)はそれぞれ次の数式8及び数式9で示される。また、薄膜試料と積層試料の界面でのフレネル反射係数r~23は数式2、プリズムと試料の界面におけるフレネル反射係数r~12は数式3、全体の反射係数r~123は数式4でそれぞれ示される。従って、テラヘルツ時間領域分光法により得られた反射スペクトルR(ω)と位相差スペクトルΦ(ω)から、数式2、数式3、数式4と数式8、数式9の連立方程数の解を求めることで薄膜試料の複素屈折率n~2が求められる。数式8及び数式9においてrrefは測定対象物が載置しない場合のフレネル反射係数である。そして求められた複素屈折率n~2の虚部(消衰係数κ)と数式7から、薄膜試料の吸収係数αが求められる。すなわち、本発明に係る計測方法はテラヘルツ波出射面であるプリズム表面に測定対象物である試料(薄膜試料に積層試料が積層された試料)を接触させながらテラヘルツ波を照射して得られる反射スペクトル及び位相差スペクトルを計測する工程と、得られた反射スペクトル及び位相差スペクトルとから試料の吸収係数αを算出する工程とを備え、吸収係数αの算出にあたり、プリズムと薄膜試料の界面でのフレネル反射係数r~12と薄膜試料と積層試料の界面でのフレネル反射係数r~23とから求められた全体の反射係数r~123が用いられる方法でもある。さらに言い換えると、薄膜試料に積層試料を積層した状態の測定対象物に対してテラヘルツ波を前記薄膜試料側からプリズムを介して前記薄膜試料側から照射して時間領域スペクトルを測定する工程と、前記積層試料の複素屈折率と前記プリズムの屈折率と前記薄膜試料の厚みを用いて、積層状態にある測定対象物の反射係数を算出する工程と、前記測定された時間領域スペクトルと前記算出した測定対象物の反射係数から、前記薄膜試料の吸収係数を求める工程とを有する方法であるとも言える。なお、反射係数r~123や薄膜試料の複素屈折率n~2の算出に必要となる薄膜試料の厚さdや積層試料の複素屈折率n~3は実測値であり、推定値であり、文献値などであり得る。

【0029】
【数8】
JP0006331140B2_000008t.gif

【0030】
【数9】
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【0031】
上記で求められた吸収係数αは薄膜試料の吸収係数を表すが、テラヘルツ波は水による吸収が非常に大きく、水以外の物質に吸収をほとんど示さないので、水を含む薄膜試料では、上記で求められた吸収係数αは薄膜試料が含む水分による吸収を表すと言える。特に当該薄膜試料に水分を含む積層試料が積層された場合には、二界面モデルを適用することによって積層試料が含む水分による影響が排除される。

【0032】
本発明における測定対象物は薄膜試料を含む対象物である。測定対象物は薄膜試料と薄膜試料に積層された積層試料を含む積層体であり、測定時に薄膜試料に対して積層試料を載置した対象物でもあり得る。積層体は薄膜試料と積層試料からなる2層積層体に限らず、2以上の積層試料を含む多層積層体でもありえる。また、積層試料は水を含む液体、例えば水溶液でもあり得る。積層体である測定対象物として例えばヒトや動物の皮膚が例示される。皮膚は上記のように最外層から角層、表皮層などが積層された構造を有しており、角層を薄膜試料、その他の層を積層試料として扱える。皮膚に適用した場合、皮膚組織や体毛を構成するタンパク質や脂質、血液成分などによる吸収の影響を受けることがなく、しかも表皮層の水分による影響が可能な限り排除された状態で角層の水分量が測定される。本発明では、薄膜試料と積層試料の間に明確な界面を有する対象物が好適であると言えるが、必ずしも明確な界面を有しない対象物でも差し支えない。なお、本発明において薄膜試料の厚みは特に制限はなく、その厚みは例えば約1mm以下であり、0.5mm以下であり、0.1mm以下である。

【0033】
本発明において用いられるテラヘルツ波の周波数はテラヘルツ帯の周波数帯域である0.1~10THzである。本発明において、測定対象である薄膜試料の厚さ方向全域における含水量を測定するには、生じたエバネッセント波の滲みだし深さが薄膜試料の厚みよりも深いことが好ましい。従って、エバネッセント波の滲みだし深さが薄膜試料の厚みよりも大きくなるように、薄膜試料の厚みに適切なテラヘルツ波の周波数帯域が選択される。エバネッセント波の滲みだし深さdpは、数式10に示されるようにテラヘルツ波の波長λに比例し、その周波数に反比例する関係にある。低周波数側では滲みだし深さdpが大きくなるので、低周波側のテラヘルツ波が好ましい。また、下記に述べるように、テラヘルツ波の周波数が高くなるほど水の吸収係数αが大きくなるので感度がよくなるが、周波数が高くなると滲みだし深さdが小さくなりすぎて角層水分量が十分に反映されない傾向にある。一方、低周波数側ではエバネッセント波の滲みだし深さdpが大きくなりすぎ、二界面モデルによっても補正が足りず、薄膜試料ではなくそれに積層された積層試料による吸収が主体となるおそれがある。例えば、皮膚角層の厚さは10~70μm程度であるので、皮膚角層の水分量の測定では、その周波数の上限は5.0THzであり、3.0THzであり、2.0THzであり、1.5THz以下であり、1.0THzであり得る。

【0034】
【数10】
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【0035】
プリズムの屈折率(材質)やテラヘルツ波の入射角は適宜調整できる。具体的には、シリコン(n=3.4)やMgO(n=3.1)が好ましい。また、全反射するための条件は少なくとも出射側の媒質の屈折率が入射側の媒質の屈折率よりも大きいことである。つまり、プリズムの屈折率は薄層試料の屈折率よりも大きいことが必要である。従って、皮膚への照射を考えた場合、測定に用いるテラヘルツ波の周波数によっても異なるが、概ね1THzより低周波数側では少なくとも2.0以上、好ましくは2.5以上、望ましくは3.0以上の屈折率を、また、概ね1THzよりも高周波帯域では2.0以上の屈折率を有するプリズムが用いられる。つまり、3.0以上の屈折率を有する上記シリコンやMgOのプリズムであれば0.1THz以上のテラヘルツ波を用いることができる。これは、下記に述べるように本発明者らの実測によると、0.1THz以上のテラヘルツ波を照射した場合、ブタ皮膚の角層の複素屈折率の実部は約2.5以下にあることが判明したことに基づく(図13参照)。さらに詳しく言えば、皮膚をストリッピングして得られる表皮層について測定して得られる複素屈折率と角層の厚みを用いて二界面モデルを適用することで算出した角層の複素屈折率から決定され得る。上記のとおり、複素屈折率の算出に際して必要となる角層の厚みは、実測値を用いることもできるが、ストリッピング回数からその厚みを求めてもよく、また、文献値など利用してもよい。なお、ヒトへの適用に際して、ヒトの皮膚以外に、ブタなどのモデル動物の皮膚を用いて算出してもよい。特に、ブタ皮膚はヒト皮膚の組成や構造とよく似ており、ヒト皮膚の角層の複素屈折率とブタ皮膚の角層のそれとはほぼ同程度であると言えるからである。入射角はプリズムの屈折率やテラヘルツ波の周波数によっても異なり、全反射条件を満たす角度に設定される。

【0036】
求められた吸収係数αは薄膜試料の水分量を反映した値であるところ、算出された吸収係数αから薄膜試料の相対的な水分量を知ることができる。また、吸収係数αは物質のモル濃度と比例関係にあることから、吸収係数αから物質のモル濃度が求められる。すなわち、既知の質量含水量と吸収係数αの関係を利用して、求められた吸収係数αから薄膜試料の質量含水量(含水率)が求められる。例えば、皮膚の角層を測定する場合には、質量含水量が既知である角層モデルを用いて計測された吸収係数αとの対比により求めることができる。角層モデルは任意のモデルが用いられる。角層は死んだ角化細胞が重層化したものであるので、例えば、皮膚より採取したタンパク成分のパウダーを圧縮して得られたシートに水分を含ませたシートモデル、角層はタンパクと水で構成されると仮定したアルブミンタンパク水溶液からなるモデルが例示される。

【0037】
以下、本発明を下記の実施例に基づいてより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0038】
〔水の吸収係数の測定〕
角層の水分を測定するにあたり、まず水の吸収係数αを測定した。測定に用いたテラヘルツ全反射型減衰分光測定器のATRモジュールはシリコン(n=3.4)のプリズムを備え、入射角は57°である(以下同じ)。プリズム表面に水を滴下して測定した。なお、参照は空気とした。その結果を図2に示した。
【実施例1】
【0039】
次に、含水率の異なるスクロース水溶液を測定し、その吸収係数αとスクロース水溶液の質量含水率(スクロース濃度)との関係を調べた。プリズム表面に1mLのスクロース水溶液を滴下して測定した。その結果を図3及び図4に示す。この結果から、スクロース水溶液の質量含水率と吸収係数αは比例することが確認された(図4)。このときの決定係数Rは例えば0.5THz、1.0THzでそれぞれ0.99以上であり、0.5THzにおける吸収係数は文献値(Keiichiro Shiraga et al., Food Chemistry,140,315-320,2013)とほぼ一致した。
【実施例2】
【0040】
〔角層モデルにおける水の吸収係数〕
角層モデルを用いて角質モデルに含まれる水の吸収係数を測定した。皮膚真皮より採取した間質成分のパウダー(hide powder non-chromated, SIGMA社製)をプレスして得られたシートを角層モデル(シートモデル)とした。0.12gのパウダーに294Pa又は589Paの圧力を2秒間加えることを3回繰り返してシートを作製した。当該シートに200~500μLの蒸留水を滴下して、湿度100%の容器内で48時間静置して、シート内に水分を均質に行き渡らせた。含水率は、測定直後の湿潤質量と70℃で24時間乾燥後の乾燥質量とから算出した。
【実施例2】
【0041】
得られたシートをプリズムに載置して、重石を載せて測定を行った。その結果を図5及び図6に示した。図6に示すように質量含水率と吸収係数は比例し、吸収係数から角層モデル中の含水率を算出できることが示された。
【実施例3】
【0042】
〔二界面モデルを用いた解析〕
次に二界面モデルによる解析を試みた。プリズム上に、厚さ10μmの誘電体薄膜(日東電工社製)を、厚みが10μm、20μm、30μm、40μm、50μmとなるように貼り付け、その上に1mLの蒸留水を滴下し、図1に示すように2つの界面(プリズムと誘電体薄膜の界面及び誘電体薄膜と水の積層との界面)が存在するようにした。また、誘電体薄膜はエバネッセント波の滲みだし深さよりも十分に深くなるような厚さになるまでプリズムに貼り付けて測定した。この測定から、誘電体薄膜の吸収係数を求めた。その結果を図7及び図8に示した。低周波側においては二界面モデルを用いて求めた計算値と、実際に用いた誘電体薄膜の吸収係数はほぼ一致していたが、誘電体薄膜の厚みが40μm、50μmの時には誘電体薄膜単体の測定値よりも高周波側で小さい値となった。この結果から、滲み出し深さdpが薄膜の厚さよりも大きくなるような周波数帯のテラヘルツ波を用いれば、二界面モデルにより薄膜の水分を正確に測定できると考えられる。また、誘電体膜上の水分の影響も排除されていると言える。
【実施例4】
【0043】
〔ブタ皮膚の含水量の測定〕
二界面モデルを適用するに先だって、二界面モデルを用いずにブタの角質層の含水量を求めた。その後、ストリッピングによる水分量の変化を測定した。凍結されたブタ皮膚(2cm×2cm)を室温(約20℃)で解凍した後、皮膚の側面を粘着テープで覆った状態で室温(約20℃)に48時間放置して乾燥状態にした。次に、この乾燥状態の皮膚に2mLの蒸留水を含ませた紙製ウエス(商品名「キムワイプ」、日本製紙クレア社製)を150秒間載せて放置した。その後、皮膚表面を紙製ウエスで軽く拭き、含水後の皮膚とした。また、測定後にセロハンテープを用いたストリッピングし、25回のストリッピングになるまで測定を繰り返した。このストリッピングでは1回のストリッピングによって1層の角層(厚さとして約1μm)が剥離され、25回のストリッピングではほぼ角層が除去されていると考えられる。
【実施例4】
【0044】
ブタ皮膚をプリズム上に載置し、重石を載せて測定を行った。含水率は、測定した吸収係数から、実施例2で得られた吸収係数と質量含水率の関係を示すグラフを用いて算出した。その結果を図9及び図10に示した。水やスクロース水溶液の場合と同様に、得られた吸収係数は高周波側で大きくなる傾向を示した。ストリッピングを重ねるにつれブタ皮膚の含水量は一次的に減少したが、その後増加する傾向を示した。乾燥後の皮膚に極めて短時間で吸水させた結果、最表層では吸水が生じたが、続く中間層部分では水が十分に吸水されずに含水率が低い状態となっており、皮膚の深い部分では十分に乾燥されなかった結果、高い含水率のままであったためと考えられる。
【実施例5】
【0045】
〔二界面モデルを適用したブタ皮膚(角層)の含水量の測定〕
実施例4で得られた計測データから二界面モデルを用いてブタ皮膚の角層の吸収係数と質量含水量を算出した。その結果を図11及び図12に示した。また、角層の吸収係数を算出するために導出された角層の複素屈折率n~2の屈折率n(実部)及び消衰係数κ(虚部)と周波数の関係を示す図の一例を図13に示す。なお、二界面モデルにおいて反射係数r~123の計算に必要となるブタ皮膚の角層厚さdは30μmと仮定した。また、表皮層の複素屈折率n~3には、実施例4において25回のストリッピングを行ったときの複素屈折率を用いた。
【実施例5】
【0046】
図13に示すように角層の複素屈折率n~2の実部は2.5以下にあることが測定された。また、皮膚の吸収係数やストリッピング回数と吸収係数の関係は、実施例4と同じ傾向を示した。一方、二界面モデルの適用の有無について検討すると、図14に示すように、二界面モデルを適用した場合には皮膚の吸収係数は全体として小さくなる傾向を示し、低周波側において高周波側に比べて小さくなった。低周波側ではエバネッセント波の滲みだし深さは大きくなり、表皮層の影響が排除された結果であると言える。また、適用の有無による吸収係数の変化は高周波数側の方が低周波数側よりも小さかった。
【実施例6】
【0047】
〔水溶性アルブミン溶液を用いた角層モデル〕
実施例2で用いた角層モデルは空隙の存在のために質量含水率が30%以下の水分量が測定できないことが懸念された。そこで、空隙が存在しないモデルとして質量濃度(w/w%)既知の水溶性アルブミンの水溶液を用いて同様の測定を行った。図15に吸収係数と周波数の関係を示す。また、図16に吸収係数と質量含水率の関係を示す。また、実施例4で得られた計測データから二界面モデルを用いて求めた質量含水率とストリッピング回数との関係を図17に示した。図16における質量含水率と吸収係数の関係は次の数式11から導いた。数式11において、MWは水の質量、MDはアルブミンの質量、Vは水溶液の体積、WMは水の質量濃度である。テラヘルツ帯において吸収係数の大きさは水分子のモル濃度と線形関係にあると考えられるが、アルブミン水溶液においては、質量含水率の算出には水分子の質量だけでなくアルブミンの質量も考慮すべきであり、質量含水率はモル濃度に比例しない。一方、アルブミン濃度が上昇した(質量含水率が低下した)ときの水の吸収係数の低下幅はアルブミンの増加量(吸収が無視できるほど小さい)に比例すると考えられるので、アルブミン濃度と水の吸収係数にも線形関係が成り立つと考えられる。そうすると、水の濃度及びアルブミン濃度は、A、B、C、Dを定数として、それぞれ数式12、数式13として表すことができる。そこで、測定された吸収係数と水の質量濃度、測定された吸収係数とアルブミンの質量濃度をそれぞれ一次関数で近似することでA、B、C、Dを求め、図16に示す関係(検量線)を得た。
【実施例6】
【0048】
アルブミン水溶液を角層モデルとして利用することで、空隙の影響が低減され、質量含水率が30%以下の場合でも角層の水分量を測定できた。また、この検量線から質量含水量とストリッピング回数との関係を求めたところ、実施例5と同様な傾向であった。
【実施例6】
【0049】
【数11】
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【実施例6】
【0050】
【数12】
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【実施例6】
【0051】
【数13】
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【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は薄膜試料中の水分量を測定する新たな測定法を提供する。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
4
【図6】
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【図7】
6
【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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