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明細書 :微細機械共振器の作製方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6032759号 (P6032759)
公開番号 特開2015-149689 (P2015-149689A)
登録日 平成28年11月4日(2016.11.4)
発行日 平成28年11月30日(2016.11.30)
公開日 平成27年8月20日(2015.8.20)
発明の名称または考案の名称 微細機械共振器の作製方法
国際特許分類 H03H   3/007       (2006.01)
C30B  29/36        (2006.01)
B81C   1/00        (2006.01)
FI H03H 3/007 Z
C30B 29/36 A
B81C 1/00
請求項の数または発明の数 3
全頁数 10
出願番号 特願2014-023028 (P2014-023028)
出願日 平成26年2月10日(2014.2.10)
審査請求日 平成28年1月12日(2016.1.12)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
発明者または考案者 【氏名】岡本 創
【氏名】山口 浩司
【氏名】須田 淳
【氏名】足立 亘平
個別代理人の代理人 【識別番号】100064621、【弁理士】、【氏名又は名称】山川 政樹
【識別番号】100098394、【弁理士】、【氏名又は名称】山川 茂樹
【識別番号】100153006、【弁理士】、【氏名又は名称】小池 勇三
審査官 【審査官】橋本 和志
参考文献・文献 特開2009-182561(JP,A)
特開2009-239103(JP,A)
特開2000-019197(JP,A)
特開2013-151057(JP,A)
特開2009-173507(JP,A)
米国特許第6306773(US,B1)
欧州特許出願公開第2258655(EP,A1)
足立 亘平 Kohei Adachi,高Q値単結晶4H-SiCマイクロカンチレバー ,平成25年電気学会全国大会講演論文集 [3] エレクトロニクス/情報工学システム/センサ・マイクロマシン THE 2013 ANNUAL MEETING RECORD I.E.E. JAPAN,日本,一般社団法人電気学会,2013年 3月 5日,178-179
調査した分野 H03H 3/007
B81C 1/00
C30B 29/36
特許請求の範囲 【請求項1】
SiC基板の上に単結晶SiCから構成された微細機械共振器構造を形成する構造形成工程と、
前記微細機械共振器構造に対してガスエッチング処理を行い、前記微細機械共振器構造の表面を平滑化する表面処理工程と
を備えることを特徴とする微細機械共振器の作製方法。
【請求項2】
請求項1記載の微細機械共振器の作製方法において、
前記構造形成工程では、電気化学エッチングにより前記微細機械共振器構造を形成することを特徴とする微細機械共振器の作製方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の微細機械共振器の作製方法において、
前記表面処理工程では、水素で希釈した塩化水素でガスエッチングを行い、前記ガスエッチングは、1450℃未満の温度条件で行うことを特徴とする微細機械共振器の作製方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、SiCより構成された微細な構造を作製する微細機械構造の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
機械的な動作で種々の機能を発揮するマイクロエレクトロメカニカルシステム(MEMS)が、センサーなどさまざまな応用で使用されている。現在、MEMSは、主にSiを用いて作製されている。これに対し、Siに比較して、高いヤング率,高温での高い降伏強度、高い化学的安定性などの特徴を有する炭化ケイ素(SiC)が、MEMSの材料として注目を集めている。SiCを用いたMEMS(SiC-MEMS)の研究開発は、Si上に堆積した3C-SiCや、多結晶SiC,アモルファスSiCが中心であった。しかしながら、3C-SiCは、結晶欠陥を多く含み、また、多結晶SiC,アモルファスSiCは、単結晶SiCに比べると、上述した特性が劣るという問題がある。
【0003】
これに対し、高品質SiC単結晶ウエハーを用いてMEMSを作る研究も一部行われている。高品質SiC単結晶ウエハーを用いる場合、微細加工は難しいが、結晶欠陥が少なく、SiC本来の特性が得られる。発明者らは、単結晶SiCウエハーにSiCのp層およびn層を積層し、光電気化学エッチングもしくは電気化学エッチングを用い、p層またはn層の選択的エッチングを行うことで、薄膜(メンブレン)やブリッジ、カンチレバーなどのMEMSの基本構造を作製する技術を提案している(非特許文献1参照)。
【0004】
単結晶SiCで作製したカンチレバー共振器は、230000という非常に高いQ値を持つ素晴らしい共振特性を持つ。これは、Si基板上に形成した3C-SiC薄膜により形成したカンチレバー共振器のQ値の約10倍であり、また、Siカンチレバー共振器の20倍に相当する(非特許文献1参照)。この結果は、高感度センサーなど、MEMSの応用上、極めて有用な特性である。このように、高温環境下で利用可能な厳環境MEMS用材料として、SiCが期待を集めている。
【0005】
現在、SiCを材料としたMEMSである微細機械共振器は、半導体装置の製造技術を利用して作製されている(非特許文献1,2参照)。この1例について説明する。
【0006】
まず、p型SiC基板を用意する(第1工程)。p型SiC基板の代わりに、n型もしくは半絶縁型のSiC基板の上に、p型SiCをエピタキシャル成長した基板を用いてもよい。
【0007】
次に、p型SiC基板の主表面に、機械共振器となるn型SiC層を形成する(第2工程)。例えば、エピタキシャル成長もしくはイオン注入法により、n型SiC層を形成すればよい。次に、形成したn型SiC層の上に、公知のフォトリソグラフィー技術により、所定の形状のマスクパターンを形成する(第3工程)。
【0008】
次に、形成したマスクパターンをマスクとし、反応性イオンエッチング(RIE)などにより、n型SiC層を選択的にエッチング除去し、マスクパターン形成領域以外のp型SiC表面を露出させる(第4工程)。マスクパターンの下には、n型SiC層による機械共振器構造が形成された状態となる。次に、マスクパターンを除去する(第5工程)。
【0009】
次に、p型SiC基板に接続する電極を形成する(第6工程)。例えば、p型SiC基板の裏面に電極を形成すればよい。また、n型もしくは半絶縁型のSiC基板を用いた場合は、エピタキシャル成長したp型SiC層の露出している部分に電極を形成すればよい。
【0010】
次に、n型SiC層による機械共振器構造の下部のp型SiCを除去し、n型SiCによる機械共振器を可動可能にする(第7工程)。例えば、上述した電極を用いた電気化学エッチングにより、露出しているp型SiCの選択的なエッチングを実施すればよい。次に、十分に洗浄し、また、上記電極が、後のプロセスで必要なければ酸などを用いて電極を除去する(第8工程)。
【0011】
次に、機械共振器を可動可能にするためのp型SiCのエッチングが不十分であり、ポーラスあるいはスポンジ状のSiCが残留している場合がある(非特許文献1参照)。この残留物を除去するために、熱酸化を行う(第9工程)。SiC単結晶の熱酸化速度は非常に遅く、一方、上記SiC残留物は表面積/体積比が非常に大きいため、SiC単結晶の熱酸化が無視できる程度の時間の処理時間で、上記残留物の酸化が完了する。残留物は、酸化により、SiO2となる。酸化を行った後に、残留物をウエットエッチングで除去する。熱酸化には表面清浄化や表面変質層の除去効果もある(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【0012】

【非特許文献1】足立 亘平、渡辺 直樹、岡本 創、山口 浩司、木本 恒暢、須田 淳、「高いQ値を持つ単結晶4H-SiCマイクロカンチレバー」、応用物理学会、SiCおよび関連ワイドギャップ半導体研究会 第21回講演会予稿集、P-102、2012年。
【非特許文献2】Kohei Adachi, et al. , "Single-crystalline 4H-SiC micro cantilevers with a high quality factor", Elsevier, Sensors and Actuators A, vol.197, pp.122-125, 2013.
【非特許文献3】C. Hallin, et al. , "In situ substrate preparation for high-quality SIC chemical vapour deposition", Elsevier, J. Crystal Growth, vol.181, pp.241-253, 1997.
【非特許文献4】Shun-ichi Nakamura, et al. ,"Formation of periodic steps with a unit-cell height on 6H-SiC 0001 surface by HCl etching", APPLIED PHYSICS LETTERS, vol.76, no.23, pp.3412-3414, 2000.
【非特許文献5】A. Nakajima, et al. ,"Step control of vicinal 6H-SiC(0001)surface by H2 etching", J. APPLIED PHYSICS, vol.97, 104919, 2005.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、更なる高いQ値の実現により、より厳しい環境で用いられるMEMSとしてのみならず、高感度センシングや電気機械的な演算素子などへの応用が広がる。しかしながら、SiCを用いたマイクロ機械共振器では、更なる高いQ値とすることが容易ではないという問題がある。Q値はエネルギー散逸が小さくなるほど大きくなる。しかしながら、230,000という極めて高いQ値が既に実現されているSiCマイクロ機械共振器の場合は、低Q値の場合は無視できるような僅かなエネルギー散逸過程についても、低減に取り組まなければ、更なるQ値の向上はできず、更なるQ値の向上は容易ではない。
【0014】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、SiCを用いたマイクロ機械共振器で、更なる高いQ値が得られるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る微細機械共振器の作製方法は、SiC基板の上に単結晶SiCから構成された微細機械共振器構造を形成する構造形成工程と、微細機械共振器構造に対してガスエッチング処理を行い、微細機械共振器構造の表面を平滑化する表面処理工程とを備える。
【0016】
上記微細機械共振器の作製方法において、構造形成工程では、電気化学エッチングにより微細機械共振器構造を形成すればよい。
【0017】
上記微細機械共振器の作製方法において、表面処理工程では、水素で希釈した塩化水素でガスエッチングを行い、ガスエッチングは、1450℃未満の温度条件で行うとよい。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したことにより、本発明によれば、SiCを用いたマイクロ機械共振器で、更なる高いQ値が得られるようなるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1A】図1Aは、本発明の実施の形態における微細機械共振器の作製方法を説明する、各工程の状態を示す構成図である。
【図1B】図1Bは、本発明の実施の形態における微細機械共振器の作製方法を説明する、各工程の状態を示す構成図である。
【図1C】図1Cは、本発明の実施の形態における微細機械共振器の作製方法を説明する、各工程の状態を示す構成図である。
【図1D】図1Dは、本発明の実施の形態における微細機械共振器の作製方法を説明する、各工程の状態を示す構成図である。
【図1E】図1Eは、本発明の実施の形態における微細機械共振器の作製方法を説明する、各工程の状態を示す構成図である。
【図2】図2は、高温ガスエッチングによる表面平滑化をせずに作製したマイクロカンチレバーの室温・真空中での共振特性を示す特性図である。
【図3】図3は、本発明の実施の形態における高温ガスエッチングによる表面平滑化をして作製したマイクロカンチレバーの室温・真空中での共振特性を示す特性図である。
【図4】図4は、マイクロカンチレバーの長さとQ値の関係とを示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。図1A~図1Eは、本発明の実施の形態における微細機械共振器の作製方法を説明する、各工程の状態を示す構成図である。図1A~図1Eでは、断面を模式的に示している。

【0021】
まず、p型SiC基板101を用意する(第1工程)。例えば、(0001)面より[11-20]方向に8°傾いたp型の4H-SiC(単結晶)基板を用いればよい。

【0022】
次に、図1Aに示すように、p型SiC基板101の主表面に、4H-SiCをエピタキシャル成長させることで、層厚1μm程度にn型SiC層102を形成する。ドナー密度は、4.5×1018cm-3とすればよい。

【0023】
次に、図1Bに示すように、n型SiC層102の上に、ニッケル(Ni)からなるマスクパターン103を形成する。例えば、真空蒸着法などにより、n型SiC層102の上に、層厚150nm程度にNi層を形成する。次に、形成したNi層を、公知のリソグラフィー技術およびエッチング技術によりパターニングし、マスクパターン103を形成する。エッチングにおいては、リン酸、酢酸、硝酸の混合液をエッチング液として用いれば、SiCに対してNi層を選択的にエッチングできる。

【0024】
次に、形成したマスクパターン103をマスクとし、反応性イオンエッチング(RIE)などにより、n型SiC層102を選択的にエッチング除去し、図1Cに示すように、マスクパターン形成領域以外のp型SiC基板101表面を露出させ、更なる、p型SiC基板101をエッチングし、凹部104を形成する。SiCのエッチング量を、層厚方向2μm程度とすればよい。RIEは、CF4、O2混合ガスを用い、また圧力30Paとし、電力100Wでプラズマを生成し、処理時間は20分とした。

【0025】
上述したマスクパターン103を用いたn型SiC層102のエッチング加工により、n型SiC層102に、微細機械共振器構造105が形成される(構造形成工程)。微細機械共振器構造105は、例えば、片もち梁構造のカンチレバーである。なお、この時点では微細機械共振器構造105の下部のエッチングは完了していないので、微細機械共振器構造105はまだ可動可能状態とはなっていない。後述する電気化学エッチングにより、微細機械共振器構造105は可動可能となる。このようにして微細機械共振器構造105を形成した後、マスクパターン103を除去する。例えば、リン酸、酢酸、硝酸の混合液を用い、Niからなるマスクパターン103を溶解除去すればよい。

【0026】
次に、p型SiC基板101の裏面に、電極(不図示)を形成する。例えば、Ti(40nm)/Al(200nm)/Ni(60nm)の積層構造からなる電極を形成すればよい。これらは、蒸着により形成できる。また、電極を形成した後、Ar雰囲気中で1000℃・2分間の条件で熱処理を行い、オーム性電極とする。

【0027】
次に、形成した電極を用い、p型SiC基板101の電気化学エッチングを行う。5.4重量%の濃度としたKOH水溶液をエッチング液として用い、また、液温は80-85℃とし、定電流モードで電気化学エッチングを実施した。電流値は、エッチング液と接している面積で換算し、数mA/cm2の電流密度に相当する条件とした。この電気化学エッチングにより、n型SiC層102に対してp型SiC基板101を選択的にエッチングし、図1Dに示すように、微細機械共振器構造105の下部領域に、空間106を形成する。空間106の形成により、微細機械共振器構造105が可動可能となる。この処理において、微細機械共振器構造105の基板側裏面に、ポーラスあるいはスポンジ状のSiC残留物107が残る。

【0028】
次に、十分に洗浄を行った後、酸を用いて裏面のオーム性電極を除去する。次に、大気圧、純酸素雰囲気、1150℃・2時間の条件で熱酸化を行い、SiC残留物107を酸化する。酸化により、SiC残留物107は、SiO2となり、これをフッ酸水溶液でSiO2を除去し、図1Eに示すように、微細機械共振器構造105の基板側裏面に、残留物のない状態とする。

【0029】
次に、微細機械共振器構造105に対してガスエッチング処理を行い、微細機械共振器構造105の表面を平滑化する(表面処理工程)。例えば、誘導加熱型の横型コールドウォールCVD装置を用いる。この装置の処理室内に、上述したように微細機械共振器構造105を形成したp型SiC基板101を搬入し、密閉状態とした後、水素で希釈したHClを用いてガスエッチングを行う。圧力は大気圧とし、水素流量は1slmとし、HClガス流量は流量比で0.3%となるように設定した。この条件で、1300℃に昇温し10分間保持してガスエッチングを行い、この後、自然冷却し、取り出した。なお、ガスエッチングにおける温度条件は、1450℃未満であることが望ましい。

【0030】
上記条件における単結晶SiCエッチングレートはおよそ7nm/分であり、作製した幅数十μm,長さ数十~数百μmの微細機械共振器構造105に対し、幅,長さにおいては無視できる量である。なお、微細機械共振器構造105の厚さについては、考慮すべき量である。従って、表面平滑化のためのガスエッチングで見込まれる減少量に対応させ、n型SiC層102の形成厚さを、適宜に設定しておけばよい。

【0031】
次に、実際に作製した微細機械共振器構造の特性を評価した結果について説明する。以下では、微細機械共振器の1つであるマイクロカンチレバーを作製した。厚さ1μm、長さ100μm、幅15μmの単結晶4H-SiCによるカンチレバーである。また、高温ガスエッチングによる表面平滑化をせずに作製したマイクロカンチレバーと、高温ガスエッチングによる表面平滑化をして作製したマイクロカンチレバーとを作製し、両者の特性を比較した。高温ガスエッチングによる表面平滑化の条件は、雰囲気は水素および塩化水素の混合雰囲気(塩化水素濃度0.3%)、また大気圧とし、また、1300℃・10分間とした。この処理により、マイクロカンチレバーの厚さが減少し0.9μmとなった。

【0032】
まず、高温ガスエッチングによる表面平滑化をせずに作製したマイクロカンチレバーの室温・真空中での共振特性は、図2に示すように、共振周波数172.65kHzにおいてQ値は203,000であった。

【0033】
一方、高温ガスエッチングによる表面平滑化をして作製したマイクロカンチレバーの室温・真空中での共振特性は、図3に示すように、共振周波数158.761kHzにおいて496,000という極めて高いQ値が実現されている。なお、高温ガスエッチングにより厚さが変化したため、周波数が変化している。この点については、前述したように、エッチング量を見込んで予め少し厚めにマイクロカンチレバーを作製しておけばよい。

【0034】
以上の結果より明らかなように、SiCで構成した微細機械共振器構造を作製した後、高温ガスエッチングを行い構造体の表面を平滑化することで、より高いQ値の微細機械共振器を実現することができることが分かる。これは、SiCで構成した微細機械共振器構造における、表面摩擦によるエネルギー散逸を低減できたためと考えられる。共振器の性能は共振周波数fとQ値の積であるfQ積が指標となるが、fQ積で比較しても、高温ガスエッチングによる表面平滑化の効果は、fQ積を倍増させるものとなっている。

【0035】
次に、SiCを用いた微細機械共振器における高温ガスエッチングによる表面平滑化の効果は、特定の寸法に限られないことについて図4を用いて説明する。図4は、マイクロカンチレバーの長さとQ値の関係とを示す特性図である。図4において、白丸は、高温ガスエッチングによる表面平滑化をせずに作製したマイクロカンチレバーの特性を示し、黒丸は、高温ガスエッチングによる表面平滑化したマイクロカンチレバーの特性を示している。図4に示されているように、いずれの寸法(長さ)においても、Q値を倍増させる効果が見られる。

【0036】
以上に説明したように、本発明によれば、高温ガスエッチングによる表面平滑化を行うようにしたので、SiCを用いたマイクロ機械共振器で、更なる高いQ値が得られるようになる。

【0037】
高温ガスエッチングは、電気化学エッチングの処理により微細機械共振器構造を形成する場合に特に効果的である。電気化学エッチングで微細機械共振器構造を形成した場合、空間を形成する部分、例えば、可動部の裏側が特に荒れやすい。また、残留物の問題もある。発明者らは、これらの問題が、熱酸化および酸化膜除去法で解消できるものと考えた(非特許文献1,2参照)。しかしながら、上述した熱酸化による手法では、残留物は除去できるが、平坦化の効果は不十分であることが判明した。

【0038】
上述した部分は、小さなギャップの場合が多く、ウエットエッチングなどでは溶液の循環などが容易ではなく、平坦化は困難である。ガスエッチングの場合でも、気相でのエッチング化学種の輸送などの制約があり難しいと思われた。これに対し、発明者らの鋭意の検討の結果、気相での輸送が律速しないようにエッチングレートを小さくすることで、ガスエッチングにより、このように入り組んだ微細な領域であっても平坦化ができるという知見を得るに至った。

【0039】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。

【0040】
例えば、ガスエッチングは、水素で希釈した塩化水素中を用いる処理に限るものではない。SiCに対するガスエッチングとしては、純粋な水素中でのガスエッチング、水素に僅かにシランや炭化水素を加えてSiCガスエッチングの反応を制御する方法などもある。また、上述したガス以外のより反応性の強いガスを用いる処理もある。

【0041】
ここで、本発明では、SiCを用いたマイクロ機械共振器の形状を平坦化するものであり、このためには、実用的な処理時間の範囲で、共振器構造に実質的な影響を与えることなく、僅かなエッチング量で処理できることが重要となり、可能な範囲で反応性の低い処理条件が、結晶面(ファセット面)の発達などの効果を期待できるので適している。この観点では、純粋な水素中でのガスエッチング、水素に僅かにシランや炭化水素を加えたガスエッチング、および水素で希釈した塩化水素中を用いるガスエッチングがよい。

【0042】
なお、純粋な水素中でのガスエッチング、水素に僅かにシランや炭化水素を加えたガスエッチングは、エッチング条件が適切でないと、炭素が優先的にエッチングされて表面にSiの残留物が生成されることがあり、これを防ぐために、一般にエッチング温度をやや高温(1450℃以上)などに設定する必要がある。一方、水素で希釈した塩化水素中を用いるガスエッチングの場合、Siが塩素により除去されるので、1300℃などの低い温度でも処理が可能であり、熱ストレスや高温による影響などを避けるためには有利である。この処理により、形状が平滑化されてなめらかになるだけではなく、原子レベルで表面が清浄化された状態になる。

【0043】
ところで、一般に、SiCの結晶成長の前処理などでは、塩化水素を用いないエッチングが主流となっている。塩化水素ガスは、装置を腐食させる可能性があり、装置の設計が複雑になるとともに、除害装置も必要となる。さらに、エッチング時の手順もエッチング終了時に塩化水素を完全に排気するなどの手間がかかり、一般には使用を避けることが望ましいためである。塩化水素を用いずにエッチング処理を行う場合、1450℃以上の高温が必要であるが、SiC結晶成長装置は1500~1800度程度に加熱できる装置が一般的であり問題とされていない。

【0044】
一方、SiCのMEMS応用を検討した場合、塩化水素をいれて1300℃程度と1450℃未満に低温化する効果が、発明者らの検討により非常に大きいことが判明した。SiCは、Siに比べると高い降伏強度をもつが、高温になるに従い降伏強度が低下、すなわち、転位の運動が容易となり、転位の導入がされやすくなる。さらにブリッジやカンチレバーなどの構造では、応力集中がある。1450℃以上の温度ではこの応力集中により転位が導入され、結晶欠陥(転位)による新たなエネルギー散逸をもたらすことになる。Q値は、さまざまなエネルギー散逸の合計で決まるので、結晶欠陥が導入されると、表面平坦性の向上によるエネルギー散逸の低減の効果が失われてしまう。

【0045】
もちろん、一般的な塩化水素を用いないエッチングにおいても、応力集中を極力低減するような構造にして、かつ、エッチング温度を可能な限り下げるなどである程度回避できるが、ガスエッチングの処理温度を1450℃未満と大幅に低温化することは、設計の自由度向上の意味で大きな意味を持つ。したがって、ガスエッチングに用いる装置が複雑になったとしても、低温化の効果が十分得られる。

【0046】
また、上述では、微細機械共振器の例としてマイクロカンチレバーについて説明してきたが、これに限定されるものでなく、例えば薄膜(メンブレン)やブリッジなどの微細機械共振器に対しても、本発明は適用可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0047】
101…p型SiC基板、102…n型SiC層、103…マスクパターン、104…凹部、105…微細機械共振器構造、106…空間、107…SiC残留物。
図面
【図1A】
0
【図1B】
1
【図1C】
2
【図1D】
3
【図1E】
4
【図2】
5
【図3】
6
【図4】
7