お問合せ
サイトマップ
English
検索
J-STOREについて
注目の特許
中国の大学の特許
クイック検索
国内特許検索
外国特許検索
特許マップ検索
技術シーズ検索
研究報告検索
テクニカルアイ検索
技術シーズ統合検索
よくあるQ&A
使い方
TOP
>
国内特許検索
>
放射性物質による汚染分布を測定するための汚染分布測定装置
> 明細書
明細書 :放射性物質による汚染分布を測定するための汚染分布測定装置
発行国
日本国特許庁(JP)
公報種別
特許公報(B2)
特許番号
特許第6419448号 (P6419448)
公開番号
特開2015-184189 (P2015-184189A)
登録日
平成30年10月19日(2018.10.19)
発行日
平成30年11月7日(2018.11.7)
公開日
平成27年10月22日(2015.10.22)
発明の名称または考案の名称
放射性物質による汚染分布を測定するための汚染分布測定装置
国際特許分類
G01T 1/167 (2006.01)
FI
G01T 1/167 H
G01T 1/167 C
請求項の数または発明の数
5
全頁数
22
出願番号
特願2014-062157 (P2014-062157)
出願日
平成26年3月25日(2014.3.25)
審査請求日
平成29年3月24日(2017.3.24)
特許権者または実用新案権者
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
発明者または考案者
【氏名】谷垣 実
【氏名】佐藤 信浩
【氏名】小林 康浩
個別代理人の代理人
【識別番号】100099793、【弁理士】、【氏名又は名称】川北 喜十郎
【識別番号】100154586、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 正広
審査官
【審査官】道祖土 新吾
参考文献・文献
特開2013-242180(JP,A)
特開昭52-152278(JP,A)
特開2014-169943(JP,A)
特開2013-134105(JP,A)
特開平01-061679(JP,A)
特開平03-185383(JP,A)
特開2002-168957(JP,A)
調査した分野
G01T 1/16
G01T 1/167- 1/169
特許請求の範囲
【請求項1】
放射性物質による汚染分布を測定するための汚染分布測定装置であって、
空間線量率を測定する第1の放射線検出器及び第2の放射線検出器と、
第1
向き以外の向きから第1の放射線検出器に入射する放射線を遮蔽するように、第1の放射線検出器を覆って配置される第1の遮蔽体と、
前記
第1
向きから第2の放射線検出器に入射する放射線を遮蔽
し、前記第1向き以外の向きからの放射線は入射
するように、第2の放射線検出器の、前記
第1
向きに対向する面を覆って配置される第2の遮蔽体とを備える汚染分布測定装置。
【請求項2】
前記第1の遮蔽体は前記第2の遮蔽体を兼ねており、
前記
第2の放射線検出器は、前記
第1
向きに関して、前記第1の遮蔽体を挟んで
前記
第1の放射線検出器と反対側に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の汚染分布測定装置。
【請求項3】
さらに、現在位置に関する位置データを取得する位置情報取得手段と、
前記第1、第2の放射線検出器によって測定される空間線量率データ及び当該線量率データが測定された地点における位置データを関連付けて放射線量率マップデータを作成するマップデータ作成手段と、
前記第1、第2の放射線検出器、前記位置情報取得手段、及び前記マップデータ作成手段を制御して、前記放射線量率マップデータの自動収集を行わせる制御手段とを備える請求項1又は2に記載の汚染分布測定装置。
【請求項4】
前記第1の遮蔽体は、前記第1向きに反対の第2向きから前記第1の放射線検出器に入射する放射線及び前記第1向きと直交する任意の第3向きから前記第1の放射線検出器に入射する放射線を遮蔽するように、前記第1の放射線検出器を覆って配置され、
前記第2の放射線検出器は、前記第2向き及び前記任意の第3向きに関して全指向性を有するように構成されていることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の汚染分布測定装置。
【請求項5】
前記第2の放射線検出器には、前記第2向き及び前記任意の第3向きから前記第2の放射線検出器に入射する放射線を遮蔽する遮蔽体が設けられていないことを特徴とする請求項4に記載の汚染分布測定装置。
発明の詳細な説明
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性物質による汚染分布を測定するための汚染分布測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
福島第1原子力発電所で発生した大規模な放射性物質の漏洩事故のような原子力災害が発生した場合、漏れ出した放射性物質は半径数十km~数百km(あるいはそれ以上)の広範囲の地域に拡散する。このような原子力災害が発生した場合、空間線量率の分布を示すマップ(以下、放射線量率マップと呼ぶ)を作製することは、拡散した放射性物質がどこにどのくらい分布しているかを推定するため、及び、住民の被曝管理や放射性物質の拡散状況を推定するために重要であり、住民の避難区域や屋内退避区域を画定したり、住民が無用の被曝をしないように種々の規制区域を設けたりするために有用である。また、放射線量率マップの作製することは、除染計画や被害を受けた地域の環境修復の計画等を立てる上でも非常に重要である。放射性物質による環境汚染(以下、単に汚染ともいう)への対処は、1)放射性物質の環境中の分布の把握、2)的確な除染作業、3)除染の確認、検証、という手順を踏むことが一般的であるからである。
【0003】
なお、空間線量率(又は放射線量率)とは、対象とする空間の単位時間当たりの放射線量のことである。放射線の量を、物質が放射線から吸収したエネルギー量(吸収線量)で測定する場合、空間線量率は、吸収線量の単位であるGy(グレイ)を用いてGy/h(グレイ/時)で表される。あるいは、放射線の量を、生体の被曝の影響による生物学的影響の大きさ(線量当量)で測定する場合、空間線量率は、線量当量の単位であるSv(シーベルト)を用いてSv/h(シーベルト/時)で表される。なお、線量当量は、吸収線量に生体への影響に応じた係数をかけることにより求められる。
【0004】
放射線は目に見えず、また放射性物質の化学的挙動は天然に存在する安定同位体などと同じである。そのため、放射性物質の環境中の分布を測定するためには、放射線検出器を用いる必要がある。ここで、除染を行うためには、特に、地表における放射性物質の分布を測定することが重要になるが、地表における放射性物質の分布を精確に測定するためには、放射線検出器をどのように設置すべきかが問題となる。
【0005】
従来行われている放射性物質の分布を測定する方法として、以下の1)~3)の方法などが挙げられる。
1)地表付近(地表から1cmあるいは5cm離れた距離)に放射線検出器を配置する。
2)測定対象の地表部分の周囲を遮蔽物で囲い、その中に放射線検出器を入れて測定する。
3)地表付近(地表から1cmあるいは5cm離れた距離)と地表から一定の高さ(50cm~1m)の位置に放射線検出器を配置し、2つの検出器の差を読む。
第1の方法は最も基本的な測定方法である。また、第2、第3の測定方法は、非特許文献1,2にも記載されている測定方法であり、福島県や環境省などが除染時の放射性物質の分布を確認するため、あるいは、除染後の放射性物質の分布を検証のための標準的な測定方法として推奨している。
【先行技術文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013-242180号公報
【0007】
【非特許文献1】福島県「生活空間における放射線量低減化対策に係る手引き」
【非特許文献2】環境省「平成25年除染等工事共通仕様書(第4版)」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の第1から第3の測定方法においては、いずれも、地表間近に放射線検出器を配置している。これは、地表間近に放射線検出器を近づけると、地表における汚染からの放射線の寄与が増えることを利用している。この場合、地表からの汚染により地表付近の空間線量率は上昇するため、汚染の度合いは相応の精度で把握できる。地表が平らな場合、地表間近で放射線検出器を一定の高さ(例えば、非特許文献2では地表から1cm)に保ちながら移動させる事で、連続的な測定も可能である。しかし、現実の環境、例えば公園、宅地、田畑などで作業する場合、地表間近に検出器を配置して測定する事は非常に難しい。石や土の塊、作物、草木等の障害物、法面や段差といった地形の問題があるからである。地表が平らではない場所で、地表から1cm(又は5cm)の高さを保ちながら移動しつつ連続的な測定を行う事は事実上不可能であるといえる。そのため、ある地点で放射線検出器の高さを調整して測定し、次の地点へ移動して放射線検出器の高さを調整して測定するという手順を繰り返すことになる。
【0009】
一般に環境中の空間線量率を測定する放射線検出器は指向性を持たない。そのため、地表の間近に放射線検出器を配置した場合、地表に分布する放射性物質からだけでなく、周囲の木や建物などの汚染からの影響も受けてしまう。そのためより正確に測定しようとすると上述の第2の方法のように、地表に分布する放射性物質からの放射線を効率的に選択して放射線検出器に入射させることができるように、放射線検出器の周囲を遮蔽する必要がある。ここで、γ線を遮蔽するためには、原子番号の大きな元素を多く含む材料を用いることが好ましい。そのため、上述の遮蔽体として、一般には鉛ブロック等が用いられる。鉛ブロックは、γ線に対する遮蔽効果は高いが、比重が大きいため、鉛ブロックの移動や設置に大きな労力を要する。
【0010】
これらの事情から、従来の手法では測定しようとする区画についてくまなく移動しつつ連続的に測定することは困難である。そのため、区画を面的に測定することに代えて、当該区画での放射線量上昇の原因と想定される場所を作業監督者などと協議しながら決定し、それらの地点での測定を以て区画の確認を終えたこととしている場合が一般的である(非特許文献2参照)。この場合には、適切な地点の選定には除染に関して経験を積んだ者があたる必要がある。しかしながら、区画内におけるどの地点を選択すべきかについては、明確な指標があるわけではなく、除染作業者らの勘に頼ることになる。さらに、除染作業者自身はもちろん、対象区画の所有者や周辺の住民などからも除染し残しがないのかといった不安がある。また状況が変化して異なる地点が除染後の線量上昇の原因になった場合にそれを把握できるのか、という疑問が残る。
【0011】
また、上記第3の方法に関連して、特許文献1には、棒状の機器支持ロッドと、機器支持ロッドの、高さの異なる位置に取り付けられた2つの放射線検出器と、GPS受信機と、送信機とを備えるガンマプロッタHが開示されている。機器支持ロッドの、地表約1000mm及び地表付近の2カ所にそれぞれ放射線検出器が取り付けられており、これらの測定値及びGPS受信機によって取得された現在位置情報とが関連づけられて、送信機によりサーバに送信される。特許文献1に記載のガンマプロッタHにおいては、2つの放射線検出器が機器支持ロッドの高さの異なる2つの位置に固定されているため、機器支持ロッドを地表に対して垂直に維持したまま移動することにより、上記第3の測定方法に基づいた空間線量率の測定を、移動しつつ連続的に行うことができる。しかしながら、特許文献1に記載のガンマプロッタHにおいても、一方の放射線検出器が地表付近に配置されていることには変わりないため、石や土の塊、作物、草木等の障害物、法面や段差のような平らでない地形について測定を行うことは非常に困難である。
【0012】
本発明の目的は、石や土の塊、作物、草木等の障害物、法面や段差のような平らでない地形においても、容易に、移動しつつ連続的に空間線量率の測定を行って、放射性物質による汚染分布を測定することができる可搬型の汚染分布測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の態様に従えば、放射性物質による汚染分布を測定するための汚染分布測定装置であって、
空間線量率を測定する第1の放射線検出器及び第2の放射線検出器と、
向き以外の向きから第1の放射線検出器に入射する放射線を遮蔽するように、第1の放射線検出器を覆って配置される第1の遮蔽体と、
前記
第1
向きから第2の放射線検出器に入射する放射線を遮蔽
し、前記第1向き以外の向きからの放射線は入射
するように、第2の放射線検出器の、前記
第1
向きに対向する面を覆って配置される第2の遮蔽体とを備える汚染分布測定装置が提供される。
【0014】
本発明の汚染分布測定装置において、第1の遮蔽体が、所定の向き以外の向きから第1の放射線検出器に入射する放射線を遮蔽するように、第1の放射線検出器を覆っているので、第1の放射線検出器に所定の向き(例えば地表方向)に指向性を持たせることができる。これにより、所定向き以外の方向から第1の放射線検出器に入射する成分(後述の間接線成分)を抑えつつ、所定向きから第1の放射線検出器に入射する成分(後述の直接線成分)を効率よく測定できる。さらに、第2の遮蔽体が、所定の向きから第2の放射線検出器に入射する放射線を遮蔽するように、第2の放射線検出器の、前記所定の向きに対向する面を覆っている。これにより、所定向きから第2の放射線検出器に入射する直接線成分を抑えつつ、第2の放射線検出器に入射する間接線成分を効率よく測定することができる。これらの2つの放射線検出器によって測定される空間線量率の測定値から、所定向きから第1の放射線検出器に入射する直接線成分のみを抽出することができ、所定の向きの直下に存在する放射性物質による汚染を特定することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、除染時の放射性物質の分布を容易に確認することができるとともに、除染後の放射性物質の分布を容易に検証することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は本実施形態に係る放射性物質による汚染分布を測定するための測定原理を示す概略図である。
【図2】図2は汚染分布測定装置1の概略図である。
【図3】図3は第1放射線検出器10の概略図である。
【図4】図4はKURAMAシステム1の概略図である。
【図5】図5はNaIシンチレーション検出器10の概略図である。
【図6】図6は3次元マップ上に空間線量率の大きさによって色分けされたマーカーを表示した空間線量率マップの一例である。
【図7】図7は、2次元マップ上に空間線量率の大きさによって色分けされたマーカが表示された空間線量率マップの一例である。
【図8】図8はKURAMA-IIシステム200の概略図である。
【図9】図9はパルス波高スペクトルの一例である。
【図10】図10は汚染分布測定システム200A全体をリュックに詰めた状態で、人が背負っている状態を示す写真である。
【図11】図11は実証実験を行った福島県A市のマップである。
【図12】図12(a)は、第1放射線検出器10で測定された空間線量率をプロットしたものであり、図12(b)は、第2放射線検出器20で測定された空間線量率をプロットしたものである。
【図13】図13(a)は、運動広場および駐車場付近において第1放射線検出器10で測定された空間線量率をプロットしたものであり、図13(b)は同じ場所において第2放射線検出器20で測定された空間線量率をプロットしたものである。
【図14】図14(a)は、集会所の中庭および道路をはさんで反対側の駐車場付近において第1放射線検出器10で測定された空間線量率をプロットしたものであり、図14(b)は同じ場所において第2放射線検出器20で測定された空間線量率をプロットしたものである。
【図15】図15(a)は、集会所前を通る道路の路側部分において第1放射線検出器10で測定された空間線量率をプロットしたものであり、図15(b)は同じ場所において第2放射線検出器20で測定された空間線量率をプロットしたものである。
【図16】図16は、運動公園およびその周辺の測定についての経時変化をプロットしたものである。
【図17】図17は、運動公園およびその周辺の測定について、局所成分Φ
L
を評価した空間線量率マップである。
【図18】図18は、集会所周辺の測定について、局所成分Φ
L
を評価した空間線量率マップである。
【図19】図19は、集会所前を通る道路の測定について、局所成分Φ
L
を評価した空間線量率マップである。
【図20】図20は、果樹園における局所成分Φ
L
のマップである。
【図21】図21は、Ge検出器で測定された
134
Csと
137
Csの総量(Bq)と、第1放射線検出器10により測定された空間線量率とのプロットである。
【図22】図22は、Ge検出器で測定された
134
Csと
137
Csの総量(Bq)と、第2放射線検出器20により測定された空間線量率とのプロットである。
【図23】図23は、Ge検出器で測定された
134
Csと
137
Csの総量(Bq)と、局所成分Φ
L
とのプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
まず、本実施形態に係る放射性物質による汚染分布を測定するための汚染分布測定装置1について、その測定原理について説明した後、具体的な構成について詳細に説明する。
<測定原理の概略>
【0018】
一般に、環境中のある点における空間線量率Φは、その点の直下の汚染源からの放射線に起因する空間線量率Φ
L
と、周囲の汚染源からの放射線に起因する空間線量率Φ
F
との和として、以下の数式のように表される(図1参照)。
【0019】
【数1】
【0020】
ここで、空間線量率Φ
F
の原因となる汚染源は、遠方を含む周囲の様々な箇所に分布している。そのため、広範な環境汚染が発生しているとすると、空間線量率Φ
F
には、汚染源から放出された放射線が直接放射線検出器に入射する成分(以下、直接線成分ともいう)だけではなく、例えば、建物や木などの周囲の構造物、地表、大気による反射及び/又は散乱を受けて放射線検出器に入射する成分(以下、間接線成分ともいう)も多く含まれていると考えられる。間接線成分は、特定の方向から放射線検出器に入射するのではなく、あらゆる方向から放射線検出器に入射することになる。このことから、空間線量率Φ
F
は比較的一様な放射線場と近似する事が可能である。以下の説明において、「空間線量率Φ
F
」を「空間線量率の均一成分Φ
F
」、あるいは単に「均一成分Φ
F
」とも称する。
【0021】
一方、測定対象である直下の汚染源は近距離である事から、空間線量率Φ
L
においては直接線成分が大部分を占めていると考えられる。言い換えると、直下の汚染源から放射線検出器へ直接入射する放射線が空間線量率Φ
L
を構成していると考えられる。以下の説明において、「空間線量率Φ
L
」を「空間線量率の局所成分Φ
L
」、あるいは、単に「局所成分Φ
L
」とも称する。汚染分布を測定するためには、局所成分Φ
L
を精確に測定することが重要であるが、広範な汚染が発生している場合、直下に存在する汚染源の放射性物質の総量は周囲の放射性物質の総量に比べると少ないため、直下の汚染源に放射線検出器を十分近づけないと直下の汚染源の放射性物質の寄与を十分に判別することができない。例えば、均一に表面だけが汚染された地表を想定した場合には、高さ1mで測定された空間線量率における、直下から半径1mの範囲の地表の汚染の寄与は10%程度にしかならない。このように、放射線検出器を地表から高い位置に配置した場合には、周囲の汚染源からの放射線に起因する均一成分Φ
F
に対する、直下の汚染源からの放射線に起因する局所成分Φ
L
の比率が低くなってしまい、精確に局所成分Φ
L
を測定することが困難となる。それゆえ、従来の方法では、均一成分Φ
F
に対する、局所成分Φ
L
の比率がなるべく高くなるように、地表付近に放射線検出器を配置していた。
【0022】
これに対して、本発明においては、局所成分Φ
L
における直接線成分の寄与が大きいことを鑑み、これを効率よく測定するために、地表方向に指向性を持った放射線検出器(以下、放射線検出器Aと呼ぶ)を用意することとした。具体的には、地表方向以外の方向からの放射線が放射線検出器Aに入射しないように、放射線検出器Aの地表と対向する面を除く部分を覆う遮蔽体を放射線検出器Aの周りに配置することとした。しかしながら、地表方向に指向性を持つ放射線検出器Aにおいても、均一成分Φ
F
の一部が混入しているはずである。なぜならば、放射線検出器Aには、遮蔽体により覆われていない部分があり、この遮蔽体により覆われていない部分の立体角Ω
A
に相当する分の均一成分Φ
F
は、放射線検出器Aによって測定されることになるからである。また、遮蔽体はγ線やX線などの放射線を完全に遮蔽するとは限らない。例えば、遮蔽体の厚さが十分でない場合においては、一部の放射線は遮蔽体を透過して放射線検出器Aに入射する。これらのことを考慮すると、放射線検出器Aに遮蔽体をとりつけた場合における遮蔽率をQとしたとき、放射線検出器Aにより検出される空間線量率Φ
A
は、以下の数式(数2)によって表すことができる。なお、遮蔽率Qは、全立体角から均等に放射線が入射したと仮定した場合に、遮蔽体によって遮蔽される割合を表すものであり、放射線検出器Aの、遮蔽体により覆われていない部分の立体角Ω
A
と遮蔽体を透過する放射線の透過確率とに依存する。なお、遮蔽体が十分に厚く、γ線等の透過確率がゼロに近い場合には、下記数式における(1-Q)の値は、立体角Ω
A
とほぼ同じになる。
【0023】
【数2】
【0024】
ここで、遮蔽体の遮蔽率Qは、遮蔽体の形状及び材質に基づいて計算したり、シミュレーションを行ったりすることにより算出することができるため、均一成分Φ
F
を精確に求めることができれば、放射線検出器Aにより測定される空間線量率Φ
A
と均一成分Φ
F
に基づいて、測定対象となる局所成分Φ
L
を求めることができる。そこで、放射線検出器Aと別に、指向性の無い放射線検出器Bを用意し、均一成分Φ
F
を決定することを考える。放射線検出器Bが指向性を持たない場合には、放射線検出器Bによって測定される空間線量率Φ
B
は、上述のように均一成分Φ
F
と局所成分Φ
L
との和となる。しかし、地表に均一に汚染源が分布している場合における、地表から1m離した位置での測定における、直下から半径1mの範囲の地表の汚染の寄与の例から分かるように、放射線検出器Bの高さが1m程度であれば、放射線検出器Bによって測定される空間線量率Φ
B
に含まれる局所成分Φ
L
は均一成分Φ
F
に比べて小さいため、これを無視しても差し支えない。つまり、放射線検出器Bを用いて測定される空間線量率Φ
B
は、主に、周囲の汚染源からの放射線に起因する均一成分Φ
F
にほぼ等しいことがわかる。このことから、指向性のない放射線検出器Bを地表から離して配置することにより、均一成分Φ
F
を測定することができる。
【0025】
さらに、後述のように、放射線検出器Bを遮蔽体の直上に置くことにより、直下の地表の汚染からの直接線成分を効率よく遮蔽することができる。言い換えると、放射線検出器Bによって測定される空間線量率Φ
B
に含まれる局所成分Φ
L
をさらに小さく抑えることができる。この状態で高さ一定のまま放射線検出器A、Bを移動させることにより、地表の汚染物質の分布を把握することができる。
【0026】
なお、上述のように遮蔽体の遮蔽率Qは、計算やシミュレーションにより求めることもできるが、発明者らは以下のような方法により、実験的に遮蔽率Qを求めることができることを見いだした。局所成分Φ
L
がほぼゼロである場所において測定を行った場合には、放射線検出器Aによって測定される空間線量率Φ
A
は(1-Q)×Φ
F
となり、放射線検出器Bによって測定される空間線量率Φ
B
はΦ
F
となる。ここで、空間線量率Φ
B
に対する空間線量率Φ
A
の比(Φ
A
/Φ
B
)を計算すると、(1-Q)となる。このことから、放射性物質による汚染がない直下にはない場所において、放射線検出器Aによって測定される空間線量率Φ
A
と放射線検出器Bによって測定される空間線量率Φ
B
とを測定して両者の比を計算することにより、実験的に遮蔽体の遮蔽率Qを求めることができる。
<汚染分布測定装置1の概略>
【0027】
次に、本実施形態に係る汚染分布測定装置1の具体的な構成について、図面を参照しつつ説明する。図2に示すように、汚染分布測定装置1は、第1放射線検出器10と、第2放射線検出器20と、第1放射線検出器10に入射する放射線の立体角を制限するコリメータ30とを主に備える。第1放射線検出器10と第2放射線検出器20とは同じ構造を有しているので、以下、第1放射線検出器10を例に挙げて説明する。
【0028】
第1放射線検出器10は、後述のKURAMA-IIシステム200において用いられている放射線検出器と同じものである。第1放射線検出器10はCsIシンチレーション検出器であり、図3に示されるように、CsI結晶11と、CsI結晶11に光学的に接続された光電子増倍管、MPPC(Multi-Pixel Photon Counter)等の受光素子12と、受光素子12からの出力されるパルス信号を出力するパルス信号出力部13とを有する。なお、本実施形態においては、受光素子12としてMMPCを採用している。MMPCは複数のガイガーモードAPD(アバランシェ フォトダイオード)のピクセルを含む、常温で使用できる小型の光半導体素子であり、光電子増倍管と比較して低電圧で動作可能であるとともに、磁場の影響を受けにくいという優れた特性を有している。
【0029】
コリメータ30は厚さ約1cmの有底の略円筒形の鉛によって構成されており、第1放射線検出器10の、CsI結晶11の前面11a(CsI結晶11の受光素子12とは反対側の面)を除いて、第1放射線検出器10を取り囲むように配置されている。第1放射線検出器10の、CsI結晶11の前面11aから入射する放射線(γ線やX線)はコリメータ30により遮られることはないが、それ以外の方向からの放射線は、コリメータ30により遮蔽される。
【0030】
図2に示されるように、コリメータ30と第1放射線検出器10とを組み合わせた状態で、第1放射線検出器10の、CsI結晶11の前面11aが地表側(図2の下側)を向くように配置される。そして、第2放射線検出器20は、コリメータ30の上方に15cm~30cm程度離れた状態で配置される。このように、第2放射線検出器20をコリメータ30の上方に配置することにより、第2放射線検出器20に入射する直下の地表の汚染からの直接線成分を効率よく遮蔽することができる。なお、第2放射線検出器20とコリメータ30との間の距離は必要に応じて適宜調整することが可能である。例えば、コリメータ30と第2放射線検出器20とが接触するように配置してもよく、互いの距離を15cm以下、あるいは30cm以上にしてもよい。
【0031】
第1放射線検出器10には、コリメータ30が取り付けられているため、第1放射線検出器10のCsI結晶11の前面11a以外から入射する放射線をコリメータ30により遮蔽することができる。そして、上述のように、第1放射線検出器10のCsI結晶11の前面11aを地表に向けることにより、周囲の汚染源からの放射線に起因する均一成分Φ
F
をコリメータ30により低下させつつ、直下の汚染源からの放射線に起因する局所成分Φ
L
を効率よく測定することができる。言い換えると、周囲の汚染源からの放射線に起因する均一成分Φ
F
に対する、直下の汚染源からの放射線に起因する局所成分Φ
L
の比率を高めることができる。
【0032】
そして、コリメータ30のさらに上方に配置された第2放射線検出器20においては、第1放射線検出器10の場合とは逆に、コリメータ30により、直下の汚染源からの放射線に起因する局所成分Φ
L
を低くしつつ、周囲の汚染源からの放射線に起因する均一成分Φ
F
を効率的に測定することができる。言い換えると、周囲の汚染源からの放射線に起因する均一成分Φ
F
に対する、直下の汚染源からの放射線に起因する局所成分Φ
L
の比率を低く抑えることができる。
【0033】
このように、本実施形態のコリメータ30は、第1放射線検出器10に対しては、CsI結晶11の前面11aを除いて、第1放射線検出器10を取り囲むように配置されているので、周囲の汚染源からの放射線に起因する均一成分Φ
F
を低く抑える機能を有している。同時に、第2放射線検出器20に対しては、CsI結晶11の前面11aを地表から遮るように配置されているので、直下の汚染源からの放射線に起因する局所成分Φ
L
を低く抑える機能を有している。そして、第1放射線検出器10により測定された空間線量率から、第2放射線検出器20により測定された空間線量率に第1放射線検出器10の立体角をかけた値を引くことによって、直下の汚染源からの放射線に起因する局所成分Φ
L
を算出することができる。
【0034】
ここで、本実施形態の汚染分布測定装置1においては、コリメータ20を取り付けた放射線検出器10を、必ずしも地表付近に密着させるように配置する必要がなく、例えば、地表から1m程度離した状態で測定を行うことができる。そのため、現実の環境(例えば公園、宅地、田畑など)で測定を行う場合において、例えば、石や土の塊、作物、草木等の障害物、法面や段差などがあって地表面が平らでない場所においても容易に測定を行うことができる。
【0035】
本実施形態の汚染分布測定装置1は、単独でも使用することができるが、本発明者の1人が中心となって京都大学において開発された空間線量率マップを作製するためのシステムであるKURAMA-IIシステム200と組み合わせて使用することができる。なお、KURAMAとは、「Kyoto University RAdiation MApping」の略である。
【0036】
ここで、KURAMA-IIシステム200は、本発明者の1人が中心となって開発したKURAMAシステム100を改良したものである。そこで、KURAMA-IIシステム200について説明する前に、先ず、その基となったKURAMAシステム100について説明し、次に、KURAMA-IIシステム200についてKURAMAシステム100との違いを中心に説明する。
<KURAMAシステム100の概略>
【0037】
図4に示されるように、KURAMAシステム100は空間線量率を測定する放射線測定器としてのNaIシンチレーション検出器110と、全地球測位システム(GPSシステム)を利用して現在位置の情報を取得するGPSユニット120(位置情報取得機構)と、NaIシンチレーション検出器110及びGPSユニット120により取得されたデータ(線量率データ及び位置データ)を処理するデータ処理システム130と、NaIシンチレーション検出器110からのアナログ出力をA/D変換してデータ処理システム130に取り込むためのインターフェースユニット140と、データ処理システム130により処理されたデータを後述のサーバ190に送信するデータ送信ユニット150とを主に備える。
【0038】
図5に示されるように、NaIシンチレーション検出器110は、発光中心としてのタリウム(Tl)がドープされたNaI結晶111及びNaI結晶111に光学的に接続された光電子増倍管(不図示)が内部に配置された円筒形状の測定部112と、光電子増倍管に所定の電圧を印加する高圧電源や光電子増倍管からの出力信号を成形し波高分別するための電子回路が配置された本体部113と、測定部112及び本体部113を電気的に接続するケーブル114とを主に備える。本体部113には、測定された、単位時間あたりの放射線(γ線又はX線)の線量(空間線量率)を表示するメータ113a、NaIシンチレーション検出器110の測定レンジを切り替えるレンジスイッチ113b、測定された空間線量率に対応したアナログ電圧信号を出力する出力部113c等が設けられている。
【0039】
ここで、NaI結晶111の内部にγ線、X線などの放射線が入射した場合、NaI結晶111を構成する原子と放射線との相互作用により、高エネルギーの電子が放出されることがある。放出された高エネルギーの電子は、周りの原子を励起させつつエネルギーを失うが、励起された周りの原子からはシンチレーション光が発せられる。言い換えると、放出された高エネルギーの電子の運動エネルギーがシンチレーション光に変換される。このシンチレーション光の光量は、放出された電子の運動エネルギーの大きさに依存し、放出された電子の運動エネルギーの大きさは、NaI結晶111を構成する原子と放射線との相互作用の大きさに依存する。このことから、NaI結晶111から発せられるシンチレーション光の光量を測定することにより、γ線、X線などの放射線がNaI結晶111を構成する原子との相互作用によって結晶内部で失ったエネルギーの大きさを求めることができる。具体的には、NaI結晶111から発せられたシンチレーション光の光量を、NaI結晶111に光学的に接続された不図示の光電子増倍管により測定する。光電子増倍管からの出力信号は、本体部113に配置された電子回路により信号処理され、空間線量率が求められる。測定された空間線量率がメータ113aに表示されるとともに出力部113cから空間線量率の大きさに応じたアナログ電圧信号(例えば、0~10mV)が出力される。
【0040】
インターフェースユニット140は、出力部113cから出力されるアナログ電圧信号を増幅するオペアンプ141と、オペアンプ141により増幅されたアナログ電圧信号をデジタル信号に変換するAD変換器142とを主に備える。なおオペアンプ141は、例えば0~10mVの低電圧のアナログ電圧信号を0-10Vのアナログ電圧信号に増幅する。
【0041】
インターフェースユニット140のAD変換器142によりAD変換された、空間線量率に関する情報を含むデジタル信号(以下、空間線量率信号と呼ぶ)と、現在位置の情報を含むGPSユニット120からの出力信号(以下、GPS出力信号と呼ぶ)とがデータ処理システム130に入力される。データ処理システム130は、空間線量率信号とGPS出力信号から、現在位置に関する情報(測定位置データ)を抽出するとともに、その位置での空間線量率データを抽出する。そして、測定位置データ(例えば、緯度情報及び経度情報)と空間線量率データとを関連付けて空間線量率マップデータ(放射線量率マップデータ)を作成し、これをテキストファイルに記録する。このテキストファイルには、1~10秒間隔で、空間線量率マップデータ(すなわち、測定位置データ及びその位置における空間線量率データ)が追加更新される。
【0042】
空間線量率マップデータが順次記載されたテキストファイルは、データ送信ユニット150によりサーバ190に送信される。サーバ190上に置かれたファイルは、他のユーザとの間で共有することも可能である。
【0043】
上述のように、テキストファイルには、測定位置データと、それに関連付けられた空間線量率データとが記載されているので、これを用いて空間線量率マップを作製することができる。具体的には、例えば白地図を用意して、白地図上の測定位置に対応する箇所に、空間線量率の大きさによって色分けされたマーカー(例えばドットなど)を表示してもよい。あるいは、等高線マップを作製してもよい。
【0044】
また、測定位置データ及び空間線量率データを、電子地図データ(例えば、Google社のGoogle Earth(登録商標)等)と組み合わせることも可能である。この場合には、上述のようなGoogle社のGoogle Earth(登録商標)を用いて、3次元マップ上に空間線量率の大きさによって色分けされたマーカが表示された空間線量率マップ(図6参照)や、2次元マップ上に空間線量率の大きさによって色分けされたマーカが表示された空間線量率マップ(図7参照)などの、視覚的に分かり易い空間線量率マップを形成することができる。
<KURAMA-IIシステム200の概略>
【0045】
さらに、本発明者が中心となって、上記KURAMAシステム100を、単に空間線量率のデータを収集するだけでなく、γ線のエネルギー測定も同時に行えるように改良し、以下のようなKURAMA-IIシステム200を開発した。
【0046】
以下、図8を参照しつつ、KURAMA-IIシステム200について説明する。なお、上述のKURAMAシステム1と相違する点について説明することとし、共通する構成要素については同一の参照符号を付してその説明を省略する。
【0047】
図8に示すように、KURAMA-IIシステム200は、CsIシンチレーション検出器210と、GPSユニット120と、データ処理システム130と、インターフェースユニット240と、データ送信ユニット150と、コントローラ260とを有する。後述のように、インターフェースユニット140は、National Instrument社のCompact RIOシステムにより実現されている。また、前述のKURAMAシステム100においては、データ処理システム130はネットブックと呼ばれる軽量、小型のノート型パソコンにおいて起動するプログラムにより実現されていた。KURAMA-IIシステム200においては、インターフェースユニット240を構成するCompact RIOシステムに搭載される小型のPCモジュールにおいて起動するプログラムにより実現されている。また、GPSユニット120及びデータ送信ユニット150も、PCモジュールに対して、USBなどを介して取り付けられる小型モジュールである。また、コントローラ260も、同じPCモジュールにより実現されている。つまり、KURAMA-IIシステム200は、実質的には、インターフェースユニット240、データ処理システム130、コントローラ260等を構成するCompact RIOシステムと、CsIシンチレーション検出器210と、GPSユニット120及びデータ送信ユニット150等の小型モジュールとによって構成されている。そして、これらの各装置(ユニット)は同一の筐体の中に配置することも可能である。そのため、KURAMAシステム100に比べて、格段に携帯性に優れているとともに、ユーザーが各ユニットの接続作業を行う必要がほとんどないため、誤接続などのトラブルの発生を抑えることができる。
【0048】
また、KURAMA-IIシステム200においては、NaIシンチレーション検出器110に代えて、CsIシンチレーション検出器210を採用している。その理由は以下の通りである。一般に、物質とγ線との相互作用は、物質を構成する元素の原子番号が大きくなるほど大きくなることが知られている。ここで、Naの原子番号は11であるのに対して、Csの原子番号は55であることから、NaIシンチレーション検出器とCsIシンチレーション検出器とを比べると、CsIシンチレーション検出器の方がγ線に対する感度が高いと言える。そのため、KURAMA-IIシステム200においては、NaIシンチレーション検出器110に代えてCsIシンチレーション検出器210を採用することにより、γ線に対する感度を維持しつつ、システム全体をKURAMAシステム1と比べてさらに小型軽量化することができた。
【0049】
インターフェースユニット240は、パルス信号出力部213から出力されるパルス信号を増幅するアンプ(パルスシェーピングアンプ)241と、アンプ141の出力信号(アナログ信号)をデジタル信号(デジタル値)に変換するAD変換器242と、FPGA243と、CPU244とを有する。なお、FPGA243とはField Programmable Gate Arrayの略であり、製造後に購入者や設計者が構成を設定できる集積回路である。KURAMA-IIシステム200においては、インターフェースユニット140として、National Instrument社製のCompact RIOシステムを採用している。上述のアンプ241、AD変換器242、FPGA243、CPU244は、Compact RIOシステムに搭載されるモジュールとして実装されている。なお、前述のように、CPU244は、Compact RIOシステムに搭載されるPCモジュールにより実現されており、このPCモジュールはデータ処理システム130及びコントローラ260を兼ねている。ここで、Compact RIOシステムは、再構成可能な組込制御、集録システムであり、例えば、LabVIEW(登録商標)を用いて各モジュールを直接制御するプログラムを容易に作製することができる。また、KURAMA-IIシステム200においては、FPGA243を用いることにより、AD変換器242から出力されるデジタル信号に基づいて、パルスのピーク高さの波高弁別、及びノイズレベルのディスクリミネーションをソフトウェア的に実現している。FPGA243により得られたパルスのピーク高さに関する情報はCPU244へ送られ、CPU244は、図9に示されるようなパルス波高スペクトルを作製することができる。
【0050】
また、KURAMA-IIシステム200においては、複数の放射線検出器を用いることもできる。さらに、KURAMA-IIシステム200は、徒歩用の構成として、バッテリーで駆動するように構成でき、且つ、GPSとして高精度のDGPS(ディファレンシャルGPS)を利用することもできる。徒歩用に構成されたKURAMA-IIシステム(以下、歩行型KURAMA-IIシステムという)は軽量で可搬性に優れており、例えば、人が背負って徒歩で移動しつつ測定することができる。
<汚染分布測定システム200Aの概要及びその検証実験>
【0051】
本発明者らは、バッテリーで駆動するように構成し、且つ、GPSとして高精度のDGPS(ディファレンシャルGPS)を採用した歩行型KURAMA-IIシステム200において、CsIシンチレーション検出器210に代えて、上記汚染分布測定装置1を組み込むことにより、汚染分布測定システム200Aを作製した。汚染分布測定システム200Aは上述の汚染分布測定装置1を備えているため、容易に、直下の汚染源からの放射線に起因する局所成分Φ
L
を算出することができる。また、歩行型KURAMA-IIシステム200を採用しているため、移動しつつ測定を行うことにより、容易に汚染分布のマッピングを測定することができる。例えば、図10の写真に示されるように、汚染分布測定システム200A全体をリュックに詰めた状態で、人が背負って測定を行うことができる。
【0052】
本実施形態にかかる汚染分布測定システム200Aを実証するために、本発明者らは福島県A市において、汚染分布測定システム200Aの測定試験を行った。図11に示される、運動広場および駐車場、集会所、集会所前の道路において、汚染分布測定システム200Aをリュックに詰めて背負った状態で、測定者が徒歩で移動することにより測定を行った。なお、歩行型KURAMA-IIシステムを採用しているので、測定中に、付き添い者がPC上のGoogle Earth(登録商標)でほぼリアルタイムでモニタすることができる。また、測定者自身も例えばタブレット端末を利用することにより、端末の画面上に表示されるグラフと数値で現在位置の緯度経度や2台の放射線検出器10、20の測定値をリアルタイムでモニタすることができる。
【0053】
図12(a)、(b)は、コリメータ30により地表方向に指向性を持たせている第1放射線検出器10で測定された空間線量率と、指向性を持たない第2放射線検出器20で測定された空間線量率とをプロットしたものである。これによれば、第1放射線検出器10の空間線量率はあまり上がらないのに第2放射線検出器20の空間線量率が高くなっているように見える場所がみられる。このことは、空間線量率が直下の汚染源からの寄与以外に大きく左右される可能性を示唆している。すなわち、直下の地表が汚染されていない場合であっても、例えばその近くにある建物や木などが汚染していることによって、均一成分Φ
F
が高くなっていることがありうると考えられる。
【0054】
図13(a)、(b)は、運動広場および駐車場付近において測定された空間線量率をプロットしたものである。ここで、図13(a)はコリメータ30により地表方向に指向性を持たせている第1放射線検出器10により測定された空間線量率をプロットしたものであり、図13(b)は指向性を持たない第2放射線検出器20により測定された空間線量率をプロットしたものである。なお、運動広場内は中央部に芝が植えられており、すでに除染がなされて日常的に利用されている。周辺部についてはまだ除染が終わっていない。これを反映して、図13(a)、(b)において、運動広場内の空間線量率は駐車場付近に比べて低くなっていることがわかる。
【0055】
図14(a)、(b)は、集会所の中庭および道路をはさんで反対側の駐車場付近において測定された空間線量率をプロットしたものである。図14(a)はコリメータ30により地表方向に指向性を持たせている第1放射線検出器10により測定された空間線量率をプロットしたものであり、図14(b)は指向性を持たない第2放射線検出器20により測定された空間線量率をプロットしたものである。なお、集会所の中庭は、未舗装であり、部分的に草に覆われたり小石に覆われたりしている。
【0056】
図15(a)、(b)は、集会所前を通る道路の路側部分において測定された空間線量率をプロットしたものである。図15(a)はコリメータ30により地表方向に指向性を持たせている第1放射線検出器10により測定された空間線量率をプロットしたものであり、図15(b)は指向性を持たない第2放射線検出器20により測定された空間線量率をプロットしたものである。なお、道路は舗装されており、集会所前から150mくらい南に下った辺りから樹木の生えた山の縁あるいは山に挟まれた状態が続く。
【0057】
以上の測定結果から地表の汚染に関する考察を行なった。図13~15を見ると、放射線検出器10、20によって測定される空間線量率は、よく似た傾向を示すものの、おおむね第1放射線検出器10において測定される空間線量率が、第2放射線検出器20により測定される空間線量率より低いことが分かる。これは、放射線検出器10のCsI結晶11の前面11aが地表面に向けられているとともに、放射線検出器10のCsI結晶11の前面11aを除く部分が、鉛製のコリメータ30により覆われている事に起因すると考えられる。
【0058】
図16は、運動公園およびその周辺の測定についての経時変化をプロットしたものである。下側のグラフは、放射線検出器10、20の測定値の経時変化を示し、上側のグラフは、第2放射線検出器20の測定値に対する第1放射線検出器10の測定値の比率の経時変化を示している。
【0059】
これを見ると、放射線検出器10、20により測定される空間線量率の測定値は、全体的にはよく似た挙動を示しており、第2放射線検出器20の測定値に対する第1放射線検出器10の測定値の比率はおおむね0.4~0.5程度であることがわかる。第1放射線検出器10に取り付けられているコリメータ30による遮蔽により、上および側方からのγ線が7~8割阻止されていると考えられる。このことを考慮すれば、直下に汚染がなく、均一成分Φ
F
だけが測定されるような状況であれば、第1放射線検出器10と第2放射線検出器20の測定値の比率が0.4~0.5程度となることは理解できる。つまり、本測定の条件においては、上述の数式(数2)における(1-Q)の値は0.4~0.5程度となることがわかった。
【0060】
なお、図16をみると、第2放射線検出器20の測定値に対する第1放射線検出器10の測定値の比率が大きく増加しているところが見られる。このことは、その時点において、指向性を持たない第2放射線検出器20の測定値の増加率に比べて、地表方向に指向性を有する第1放射線検出器10の測定値の増加率が大きくなっていることを意味している。言い換えると、地表からの寄与が大きくなっていること、すなわち、その時点において、直下に汚染があったことを意味している。例えば、図16における10時半を挟んだ10分間の測定値に着目すると、第2放射線検出器20では10時半前と10時半後にほぼ同じ高さのピークが観測されている。これに対して、第2放射線検出器20の測定値に対する第1放射線検出器10の測定値の比率をみると、10時半前には高さ約0.6のピークが見られるのに対して、10時半を過ぎてからは目立ったピークは見られず、約0.4で推移している。これと同様の変動は10時50~55分頃、11時~11時10分過ぎなどでも確認される。また、第1放射線検出器10の測定値が第2放射線検出器20の測定値とほぼ同じかそれ以上になっている地点もあり、地表からの寄与が極めて高い地点の存在も伺える。
【0061】
これらをふまえ、上述の数式(数2)に示した関係式から、局所成分Φ
L
を評価したものが図17である。なお、第2放射線検出器20の測定値に対する第1放射線検出器10の測定値の比率が0.4であるとして評価を行った。上述のように、第2放射線検出器20の測定値に対する第1放射線検出器10の測定値の比率はおおむね0.4~0.5であったが、その中でも、当該比率が0.4となるのは第1放射線検出器10の測定値に対して地上からの寄与が最も少ない場合であると考えられ、測定点に均一場のみ存在する場合に一番近いと考えられるためである。
【0062】
図17に示した地表汚染の評価を一般的な空間線量率マップで得られる図13と比べると、下の(A)~(D)のように、単純な空間線量率マップとは異なった傾向が読み取れる。
(A)運動広場内の測定経路上には大きな汚染は存在しない。
(B)運動広場東側の南北方向経路では空間線量率は高いにも関わらず大きな汚染の存在は示唆されない。
(C)運動公園西側の法面は比較的汚染が集積する一方、同じ法面のコンクリート階段は汚染が低い。
(D)運動公園隣接の駐車場には小さなホットスポットが存在し、駐車場内の汚染の度合いもまだらになっている。
このような結果は、しばしば除染を実施しても思ったように空間線量率が下がらないといわれている場合をうまく説明できる可能性がある。例えば、(B)の傾向は、空間線量率の高い場所であっても、その原因は地表にある汚染ではないことを示唆している。空間線量率が高くなっている運動広場東側の南北方向経路は、側溝の上であり、従来であれば汚染した土砂が集積していると推定されて除染対象となりがちであるが、ここを除染しても線量率は下がらない可能性が高いことになる。
【0063】
同じ手法を集会所と道路について当てはめた結果が図18及び19に示されている。図18の集会所では比較的汚染が均一に分布しているが、車の出入り口に相当する部分の汚染が低くなっている。これは出入り口は車や人が繰り返し通る事で汚染土が削れて除去されてしまっているためと考えられる。また、図19では道路が全区間にわたって線量率が上がっているにもかかわらず、道路部分の半分くらいは運動公園並みに地表からの寄与が低い。これは、地表に汚染が存在するのではなく、道路に迫っている山の汚染が道路上の空間線量率を押し上げている可能性が高いことを示唆している。また、地表の寄与が高いところがみられるが、これらは山からの汚染土の湧き出しが側溝や未舗装道路の表面にたまっている可能性があると考えられる。
【0064】
以上説明してきたように、本実施形態に係る汚染分布測定システム200Aを用いることによって、地表の汚染の分布状況を把握するために有効な情報が得られることがわかった。上述のように、汚染分布測定システム200Aは検出器をリュックサックの中に入れた状態で、測定者が背負って測定を行うことができる。そのため少なくとも一つの放射線検出器を地表付近に配置して行わなければならない従来の測定と比べて、きわめて容易に測定を行うことができる。本実施形態に係る汚染分布測定システム200Aを用いることにより、除染前の計画策定や除染後の効果確認を容易に行うことができ、除染作業の効率化や確実性の向上に大きく寄与することができる。
【0065】
さらに、本発明者らは本実施形態に係る汚染分布測定システム200Aで測定した局所成分Φ
L
と、実際の表土の一部をサンプリングして測定した汚染密度との比較を行い、本実施形態に係る汚染分布測定システム200Aの有用性を検証する実験を行った。
【0066】
福島県B市のある果樹園において、上述の手順と同様のやり方で局所成分Φ
L
を測定し、図20に示されるような局所成分Φ
L
のマップを作成した。そして、局所成分Φ
L
の高い地点及び低い地点を含むように、6つの代表地点を選択した。選択された代表地点は図20において四角のマーカーで表示されている。なお、各マーカーの近傍に示されている数字は、汚染分布測定システム200Aによる測定地点を識別するための識別番号である。
【0067】
各代表地点において、表土をサンプルとして数百gずつ採取し、サンプルから放出されるγ線をGe検出器により測定して、
134
Csと
137
Csの総量(Bq)を求めた。なお、Ge検出器はエネルギー分解能が高く、サンプル中の
134
Csと
137
Csのベクレル数を個別に評価することもできる。しかしながら、汚染分布測定システム200Aにおける空間線量率測定では、
134
Csからのγ線が空間線量率へ与える寄与と
137
Csからのγ線が空間線量率へ与える寄与とを個別に評価していない。そこで、汚染分布測定システム200Aで測定される空間線量率との比較を行うため、Ge検出器で
134
Csと
137
Csの総量を求めることとした。
【0068】
図21にGe検出器で測定された
134
Csと
137
Csの総量(Bq)と、コリメータ30により地表方向に指向性を持たせている第1放射線検出器10により測定された空間線量率とのプロットが示されている。図22にGe検出器で測定された
134
Csと
137
Csの総量(Bq)と、指向性を持たない第2放射線検出器20により測定された空間線量率とのプロットが示されている。これらをみると、第1放射線検出器10または第2放射線検出器20を単独に用いて空間線量率を測定した場合には、実際に地表からサンプリングした表土に含まれる
134
Csと
137
Csの総量との間に、あまり良い相関がみられないことが分かった。これに対して、図23には、Ge検出器で測定された
134
Csと
137
Csの総量(Bq)と上述の方法により算出した局所成分Φ
L
とのプロットが示されている。これを見ると、第1放射線検出器10または第2放射線検出器20を単独に用いて空間線量率を測定した場合に比べ、上述の手順で求めた局所成分Φ
L
の方が明らかに、実際に地表からサンプリングした表土に含まれる
134
Csと
137
Csの総量と良い相関を示すことが分かった。このことは、上述の手順で求めた局所成分Φ
L
が実際の表土に含まれる
134
Csと
137
Csの総量(Bq)を評価するために有用であることを示している。但し、6つの代表地点のうち2つの代表地点(166と367)が相関から外れているように見えるなど、局所成分Φ
L
と表土に含まれる
134
Csと
137
Csの総量との間には十分よい相関が認められるとまでは言えない。この理由としては、汚染分布測定システム200Aの測定値は第1放射線検出器10の視野の範囲(半径1m程度)の汚染の平均を見ている一方、採取した表土は採取点の半径10~20cm程度であり、視野の範囲内の汚染のムラを反映していると考えられる。発明者らの知見によれば、第1放射線検出器10の視野の範囲で複数の地点で表土をサンプリングして、その汚染密度の平均を評価する事で改善されると考えられる。
【0069】
上記実施形態において、コリメータ30は鉛により形成されていたが、必ずしも鉛によって形成されていなくてもよい。上述のように原子番号が大きな元素を多く含む方が放射線の遮蔽効果は高くなることを鑑みると、鉛で形成することが好ましいが、軽量化のために、例えば鉄などでコリメータを作成してもよい。また、コリメータ30の形状も必要に応じて適宜変更しうる。また、上記実施形態においてコリメータ30は、第1放射線検出器の地表に対向する面以外の部分を覆うとともに、第2放射線検出器20の地表に対向する面を地表から遮蔽していたが、本発明はこのような構成には限られない。例えば、第1放射線検出器の地表に対向する面以外の部分を覆うコリメータと、第2放射線検出器20の地表に対向する面を地表から遮蔽するコリメータとを別に設けることもできる。
【0070】
上記実施形態において、第1放射線検出器10はコリメータ30により地表方向に指向性を持つように構成されていたが、指向性を持たせる方向は、汚染を検出したい方向に向けられていればよく、必ずしも地表方向には限らない。例えば、ビルの壁面などの、地表面とは異なる面について測定を行いたい場合には、その面を向いた方向に指向性を持たせるように、コリメータを配置すればよい。
【0071】
上記実施形態において、放射線検出器としてCsIシンチレーション検出器を用いていたが、本発明は必ずしもこのような構成には限られない。例えば、NaIシンチレーション検出器やBaF
2
シンチレーション検出器のような他のシンチレーション検出器を用いることもできる。あるいは、GM管などのガス検出器や、Ge検出器のような半導体検出器を用いることもできる。
【0072】
上記実施形態において、移動する測定者が汚染分布測定システム200Aを携帯していたが、本発明はこのような構成には限られない。例えば、汚染分布測定システム200Aを、車、自転車、オートバイなどの他の移動手段に搭載して、移動しつつ測定を行うこともできる。
【符号の説明】
【0073】
1 汚染分布測定装置
10 第1放射線検出器
20 第2放射線検出器
30 コリメータ
200A 汚染分布測定システム
図面
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】