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明細書 :原発性アルドステロン症の検出方法及びモノクローナル抗体

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6345596号 (P6345596)
登録日 平成30年6月1日(2018.6.1)
発行日 平成30年6月20日(2018.6.20)
発明の名称または考案の名称 原発性アルドステロン症の検出方法及びモノクローナル抗体
国際特許分類 G01N  33/573       (2006.01)
G01N  33/574       (2006.01)
G01N  33/577       (2006.01)
C07K  16/40        (2006.01)
C12P  21/08        (2006.01)
FI G01N 33/573 A
G01N 33/574 Z
G01N 33/577 B
C07K 16/40 ZNA
C12P 21/08
請求項の数または発明の数 11
全頁数 12
出願番号 特願2014-539773 (P2014-539773)
出願日 平成25年10月2日(2013.10.2)
国際出願番号 PCT/JP2013/076787
国際公開番号 WO2014/054675
国際公開日 平成26年4月10日(2014.4.10)
優先権出願番号 2012222030
優先日 平成24年10月4日(2012.10.4)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成28年9月29日(2016.9.29)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
発明者または考案者 【氏名】岡村 均
【氏名】土居 雅夫
【氏名】佐藤 文俊
【氏名】笹野 公伸
【氏名】森本 玲
【氏名】伊藤 貞嘉
【氏名】中村 保宏
【氏名】高瀬 圭
個別代理人の代理人 【識別番号】110000796、【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
審査官 【審査官】池上 文緒
参考文献・文献 国際公開第2004/040971(WO,A1)
前川尚志ほか,ヒト副腎組織における3β-HSD subtypeの発現および特異性,日本病理学会会誌,2012年 3月,vol.101, no.1,p.426(P3-AM-67)
RHEAUME E., et al.,Mol. Endocrinol.,1991年,vol.5, no.8,p.1147-1157
『GANP?マウス技術』に関する特許が日本にて成立, 2012-Sep, 株式会社トランスジェニック, <URL: http://www.transgenic.co.jp/pressrelease/pdf/20120924.pdf>
AUCHUS RJ., et al.,J. Clin. Endocrinol. Metab.,2007年,vol.92, no.7,p.2648-2651
NAKAMURA Y., et al.,J. Clin. Endocrinol. Metab.,2011年,vol.96, no.8,E1272-E1278
J. Clin. Endocrinol. Metab. (2005) vol.90, no.9, p.5446-5455
調査した分野 C12N 15/00-15/90
C07K 16/40
G01N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
特許請求の範囲 【請求項1】
ヒトHSD3B1及び/又はヒトHSD3B2の発現量もしくは発現パターンのAPAとIHAの鑑別のための使用。
【請求項2】
ヒトHSD3B2を特異的に認識し、ヒトHSD3B1を認識せず、配列番号2に示されるHSD3B2ポリペプチドの39番目のArg(R)を認識し、配列番号1に示されるHSD3B1ポリペプチドの40番目のGly(G)を認識しない、ヒトHSD3B2に対するモノクローナル抗体を副腎サンプルに適用して、副腎におけるヒトHSD3B2ポリペプチドの発現量を測定する工程を含む、APAとIHAの鑑別方法。
【請求項3】
前記モノクローナル抗体が、ヒトの組織標本を用いた免疫組織化学的解析においてサブタイプ特異性を保持する、請求項2に記載のAPAとIHAの鑑別方法。
【請求項4】
前記モノクローナル抗体が、変性したHSD3B2ポリペプチドと未変性のHSD3B2ポリペプチドの両方を認識することができる、請求項2に記載のAPAとIHAの鑑別方法。
【請求項5】
副腎サンプルが副腎静脈血または摘出した副腎である、請求項2~4のいずれか1項に記載のAPAとIHAの鑑別方法。
【請求項6】
ヒトHSD3B2を特異的に認識し、ヒトHSD3B1を認識せず、配列番号2に示されるHSD3B2ポリペプチドの39番目のArg(R)を認識し、配列番号1に示されるHSD3B1ポリペプチドの40番目のGly(G)を認識しない、ヒトHSD3B2に対するモノクローナル抗体を含む、APAとIHAを鑑別診断するためのキット。
【請求項7】
前記モノクローナル抗体が、ヒトの組織標本を用いた免疫組織化学的解析においてサブタイプ特異性を保持する、請求項6に記載のキット。
【請求項8】
前記モノクローナル抗体が、変性したHSD3B2ポリペプチドと未変性のHSD3B2ポリペプチドの両方を認識することができる、請求項6に記載のキット。
【請求項9】
さらにヒトHSD3B1を特異的に認識する抗体を含む、請求項6~8のいずれか1項に記載のキット。
【請求項10】
ELISA、RIA、サンドイッチ測定法、ポリアクリルアミドゲル上のウェスタンブロット、免疫ブロット分析法または免疫組織化学染色方法で測定することを特徴とする請求項6~9のいずれか1項に記載のキット。
【請求項11】
ヒトHSD3B1及び/又はヒトHSD3B2の発現量もしくは発現パターンに基づきAFRとIHAを鑑別する方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、原発性アルドステロン症の検出方法及びモノクローナル抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
原発性アルドステロン症とは副腎から自律的にアルドステロンとよばれるステロイドが過剰に分泌される疾患であり、食塩感受性高血圧の原因となる。原発性アルドステロン症には大きく分けて腫瘍性と非腫瘍性(特発性)の2つの相異なる病態が存在する。形態的には、前者が片側性の腺腫(aldosterone producing adenoma, 以下APA)であるのに対し、後者は両側性の副腎過形成(idiopathic hyperaldosteronism, 以下IHA)である。APAとIHAではその治療方針が全く異なるため(前者が副腎摘除術、後者が薬物治療)、その鑑別診断は非常に重要となる。しかしながら、APAとIHAを区別できるような病態識別マーカーはこれまでに見つかっておらず、そのため最終的に病理標本を用いて確定診断が行われる際には上述のAPAとIHAの形態的な特徴の差のみが判定材料に用いられていた。
【0003】
3β水酸化ステロイド脱水素酵素(3β-hydroxysteroid dehydrogenase-isomerase, 以下略して3β-HSD)は、副腎や精巣、胎盤組織等で発現し、ステロイド合成の必須ステップを触媒する酵素である。ヒトの3β-HSDにはHSD3B1とHSD3B2とよばれる2種のサブタイプが存在する。しかしながら、これら2種類のサブタイプは構造的に類似しており、アミノ酸配列で比較すると両者は92% も一致するため(非特許文献1)、この酵素のサブタイプの違いを抗体によって識別することは困難だとされてきた。
【0004】
従来、原発性アルドステロン症の病理診断を行う際には、病変部のステロイド合成能を判定する目的でPan-HSD3B抗体(サブタイプ非特異性抗体)を用いた免疫組織染色により診断が広く行われてきた(非特許文献2および3)。しかしながら、このPan抗体ではサブタイプの区別がつかないため、APAやIHAの病巣部において発現する酵素がどちらのサブタイプであるかということは全くわからぬまま、APAとIHAの病変部にみられる形態的特徴の差のみを指標にAPAとIHAの病態鑑別が行われてきた。
【先行技術文献】
【0005】

【非特許文献1】Doi M et al., Nature Medicine, 16, 67-74, 2010
【非特許文献2】Nakamura Y et al., Clin Endocrinol Metab. 96, E1272-8, 2011
【非特許文献3】Sasano H 2000 The adrenal cortex. In: Stefaneanu L, Sasano H, Kovacs K (eds) Molecular and Cellular Endocrine Pathology. London: Arnold; pp221-pp252.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
APAとIHAの病態鑑別は、病変部にみられる形態的特徴の差のみを指標に行われてきたため、病態鑑別を間違えるケースがあった。
【0007】
本発明は、APAとIHAの病態鑑別を、副腎静脈血サンプルを用いて事前に間違いなく行う方法を提供するのみならず、摘出副腎を用いた病理検査で確実に行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の原発性アルドステロン症の検出方法、検出するための使用、モノクローナル抗体及びキットを提供するものである。
項1. 以下の工程(1)及び工程(2)を含む、アルドステロン産生腺腫(APA)及び/又は副腎過形成(IHA)の検出方法:
工程(1):アルドステロン(A)及びコルチゾール(F)を産生するための必須酵素である3βHSD(3β-hydroxy-Δ5-steroid dehydrogenase)の副腎サンプル中の活性を評価する工程
(ここで、前記3βHSDは、Aを産生するためのプレグネノロン(P5)からプロゲステロン(P4)を経由するA-経路と、Fを産生するための17ヒドロキシプレグネノロン(17OH-P5)から17ヒドロキシプロゲステロン(17OH-P4)を経由するF-経路に作用し、F-経路と比較したA-経路の相対頻度を示すA-経路/F-経路比(AFR、A-経路をF-経路で割算したもの)を算出することで3βHSD活性を評価する)、
工程(2):工程(1)で算出したA-経路/F-経路比(AFR)に基づいてAPA及び/又はIHAを検出する工程。
項2. ヒトHSD3B1及び/又はヒトHSD3B2の発現量もしくは発現パターンのAFR及び/又はIHAの検出のための使用。
項3. ヒトHSD3B2を特異的に認識し、ヒトHSD3B1を認識しない、ヒトHSD3B2に対するモノクローナル抗体。
項4. 配列番号2に示されるHSD3B2ポリペプチドの40番目のArg(R)を認識し、配列番号1に示されるHSD3B1ポリペプチドの40番目のGly(G)を認識しない、項3に記載のモノクローナル抗体。
項5. ヒトの組織標本を用いた免疫組織化学的解析においてサブタイプ特異性を保持する項3又は4に記載のモノクローナル抗体。
項6. 変性したHSD3B2ポリペプチドと未変性のHSD3B2ポリペプチドの両方を認識することができる、項3~5のいずれかに記載のモノクローナル抗体。
項7. 項3~6のいずれかに記載のモノクローナル抗体を副腎サンプルに適用して、副腎におけるヒトHSD3B2ポリペプチドの発現量を測定する工程を含む、項1に記載のAPA及び/又はIHAの検出方法。
項8. 副腎サンプルが副腎静脈血または摘出した副腎である、項5に記載のAPA及び/又はIHAの検出方法。
項9. 項3~6のいずれかに記載のヒトHSD3B2を特異的に認識するモノクローナル抗体を含む、APA及び/又はIHAを検出するためのキット。
項10. さらにヒトHSD3B1を特異的に認識する抗体を含む、項9に記載のキット。
項11. ELISA、RIA、サンドイッチ測定法、ポリアクリルアミドゲル上のウェスタンブロット、免疫ブロット分析法または免疫組織化学染色方法で測定することを特徴とする項9又は10に記載のキット。
【発明の効果】
【0009】
ヒトのHSD3B1とHSD3B2には極度の構造的類似性(92% identity)があり、両者を抗体によって識別することは困難とされてきたが、我々はGANPマウスを利用した高親和性抗体作製法を用いることによってHSD3B2に特異的なモノクローナル抗体を樹立することに成功した。HSD3B2に特異的な抗体は世界で初めてである。
【0010】
一方で、市販のHSD3B抗体に対してサブタイプ特異性を調べたところ、我々はHSD3B2に特異的な抗体は販売されていないが、Abnova社から販売されているHSD3B1抗体がHSD3B1に特異的でありHSD3B2には反応しないこと、さらに、我々が樹立したHSD3B2抗体とAbnova社のHSD3B1抗体は、それぞれHSD3B1とHSD3B2のアミノ末端領域にみられる1アミノ酸残基の違いをともに識別することによってサブタイプ特異性を獲得していることを見出した。
【0011】
重要なことに、上記2種類の抗体はヒトの組織標本を用いた免疫組織化学的解析においてもサブタイプ特異性を保持する。実際にヒトの正常副腎切片を用いて抗体染色を行ったところ、免疫陽性反応はHSD3B2抗体では副腎皮質のうち、アルドステロンを産生する球状層とコルチゾールを産生する束状層の両層に認められるのに対し、HSD3B1抗体では球状層に特異的であることを確認した。このようなHSD3B1とHSD3B2の発現分布の違いは、以前我々が行ったHSD3B1とHSD3B2のmRNAレベルにおける発現解析から得られた結果(非特許文献1)と完全に一致する。つまり、これら2種の抗体を併用することにより、ヒトのHSD3Bに対するサブタイプ別の鑑別診断が行えることを明らかにした。
【0012】
これまでは、原発性アルドステロン症の2大病変であるAPAとIHAにおいてその病巣部に発現する3βHSDのサブタイプは全く不明であった。上記2種類のサブタイプ特異的抗体を用いて腫瘍であるAPAと過形成に過ぎないIHAを比較したところ、APAの病巣部ではHSD3B2が強く発現し、HSD3B1の発現は低いこと、一方で、IHAの病巣部ではどちらのサブタイプも発現するが、特にHSD3B1の発現レベルが正常の副腎に比べて異常に亢進していることが分かった。これらの結果は、APAとIHAがHSD3B1とHSD3B2に対する抗体の染色性によって区別できることを示している。つまり、HSD3B1とHSD3B2を新たな病態識別マーカーとして使用することにより、これまでの形態のみを主体としたAPAとIHAの診断法に対して、分子メカニズムに基づく裏付けを与えることができる。
【0013】
特に、腫瘍にのみ染まるHSD3B2はきわめて重要である。なぜなら、過形成ならば薬剤投与で治療を進めることが可能であるが、腫瘍であれば手術適応であるからである。このため病理診断は極めて重要である。現在まで20例以上のAPAを染色したが、全例陽性で有り、極めて感度の高いすばらしいモノクローナル抗体である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1a】HSD3B1とHSD3B2の蛋白質配列。両者とも共通の保存されている領域を黄色で示す。黒の下線は抗体作成に用いた抗原の部位を示す。星印はHSD3B2抗体が識別認識するアミノ酸部位を示す。
【図1b】Westernブロットによる、HSD3B1とHSD3B2の抗体の特異性の検討。
【図1c】Westernブロットによる、HA(ヘマグルチニン)標識したHSD3B1、HSD3B2や一アミノ酸変異させた各種ミュータントの抗体の特異性の検討。
【図1d】二重免疫細胞化学による抗体の検定。
【図1e】HSD3B1抗体、HSD3B2抗体、CYP17A1抗体による、正常副腎(normal adrenal; NA)、および特発性アルドステロン症(Ideopathic hyperaldosternism)の副腎の免疫組織化学。Bar=1mm。
【図1f】HSD3B1抗体、HSD3B2抗体による、副腎腺腫(aldosterone producing adenoma; APA)、および、腫瘍周辺の健常副腎の免疫組織化学。Bar=1mm。
【図1g】副腎静脈サンプル(IVS)を用いた、各種副腎におけるA-経路/F-経路比(AFR、A-経路をF-経路で割算したもの)。
【図2】IHA及びAPAにおけるHSD3Bに関係するステロイド代謝を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、原発性アルドステロン症の検出方法、検出するための使用、HSD3B2ポリペプチドを特異的に検出するモノクローナル抗体及びキットに関する。

【0016】
(1)HSD3B2を特異的に検出するモノクローナル抗体
本発明のモノクローナル抗体は、配列番号2に示されるHSD3B2ポリペプチドを特異的に検出することができ、配列番号1に示されるHSD3B1ポリペプチドを認識しない。

【0017】
本発明のモノクローナル抗体が認識するアミノ酸を調べたところ、本発明のモノクローナル抗体は、配列番号2に示されるHSD3B2ポリペプチドの39番目のArg(R)を認識し、配列番号1に示されるHSD3B1ポリペプチドの40番目のGly(G)を認識しないことが明らかになった。

【0018】
本発明の抗体は、HSD3B2ポリペプチド(配列番号2)または40番目のArg(R)を有するそのペプチド断片(例えば、図1aの下線で示されるペプチド断片)を用いて得られるモノクローナル抗体であり、ヒトHSD3B2を特異的に認識し、ヒトHSD3B1を認識しない抗体産生細胞(ハイブリドーマ)を選別することにより得ることができる。

【0019】
本発明のモノクローナル抗体は、例えばHSD3B2蛋白質(配列番号2)のアミノ末端領域の39番目のArg(R)を有するポリペプチド(図1a下線部)とグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)の融合蛋白質を免疫原とし、免疫高感受性GANPマウス(Sakaguchi, N., et al. Generation of high-affinity antibody against T cell-dependent antigen in the Ganp gene-transgenic mouse. J Immunol 174, 4485-4494 (2005))を利用してハイブリドーマを作製した後、HSD3B2に反応するがHSD3B1に反応しない抗体を産生するハイブリドーマを選択し、これが産生するモノクローナル抗体を精製することで得られる。免疫の惹起は、通常1ng~10mgの量の免疫原を10~14日の日数を開けて1~5回に分けた操作で行うことができる。十分な免疫後、抗体産生能を有する器官(脾臓やリンパ節)を動物から無菌的に摘出し、細胞融合時の親株とする。なお、摘出する器官としては、脾臓が最も好ましい。細胞融合のパートナーとしては、ミエローマ細胞が用いられる。ミエローマ細胞には、マウス由来、ラット由来、ヒト由来等があるが、マウス由来が好ましい。細胞融合には、ポリエチレングリコールを用いる方法、細胞電気融合法等が挙げられるが、ポリエチレングリコールを用いる方法が簡便で好ましい。細胞融合しなかった脾臓細胞やミエローマ細胞とハイブリドーマとの選択は、例えばHATサプリメント(ヒポキサンチン-アミノプテリン-チミジン)を添加した血清培地で培養することで行うことができる。

【0020】
本発明の抗体を産生するハイブリドーマの選択は、前述の培養上清を採取し、HSD3B2の39番目のArg(R)を有するポリペプチドのGST融合蛋白質を固相化したEIAプレートでのELISAを行う。この際、陰性対象としてHSD3B1の40番目のGly(G)を有するポリペプチドのGST融合蛋白質を用いたELISAを行うことが好ましい。ELISAの結果、HSD3B2に反応するがHSD3B1には反応しないウェルを選択し、そのウェルの細胞をクローニングに供する。その強く発色した培養上清に対応するハイブリドーマを、HSD3B2ポリペプチドに反応する抗体を産生するハイブリドーマとして選択する。さらに、抗体産生ハイブリドーマを選別し単一化する作業(クローニング)が必要であり、限界希釈法、フィブリンゲル法、セルソーターを用いる方法等があるが限界希釈法が簡便で好ましい。これにより、目的とするモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを獲得することができる。

【0021】
上記方法により得られたハイブリドーマを培養することで、培養上清中にモノクローナル抗体を得ることができる。さらに、大量のモノクローナル抗体を得るには、in vivoおよびin vitroによる方法があるが、in vivoによる方法、特にマウス腹水で得る方法が好ましい。培養上清やマウス腹水からのモノクローナル抗体の精製は、硫酸アンモニウム塩折法、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ハイドロキシアパタイトカラムクロマトグラフィー等により行われるが、精製純度や簡便性を考慮するとアフィニティークロマトグラフィーが最も好ましい。さらに高純度のモノクローナル抗体を得る必要がある場合には、アフィニティークロマトグラフィーの後に最終精製としてゲルろ過クロマトグラフィーやイオン交換クロマトグラフィー等を行うのが好ましい。
本発明の抗体を用いることで、1ng/ml以上の濃度のHSD3B2ポリペプチドを検出することが可能である。特に、1~200ng/ml、好ましくは1~100ng/mlの濃度のHSD3B2ポリペプチドを検出することが可能である。

【0022】
本発明のモノクローナル抗体は、ヒトの組織標本を用いた免疫組織化学的解析においてもサブタイプ特異性を保持する。ヒトの組織標本としては、ホルマリンあるいはパラフィンで固定された標本が挙げられる。本発明のモノクローナル抗体は、固定され変性したHSD3B2ポリペプチドと細胞内の未変性のHSD3B2ポリペプチドの両方を認識することができるため、好ましい。

【0023】
本発明の抗体を備えた、HSD3B2ポリペプチドを検出するためのキットも、本発明の範囲に含まれる。当該キットは、本発明のモノクローナル抗体を備え、好ましくは使用される免疫染色もしくは免疫測定に必要な試薬が必要量備えられたものである。

【0024】
(2)抗体を用いる原発性アルドステロン症の検出方法もしくは診断方法及びその使用
本発明の方法は、本発明のモノクローナル抗体を使用した免疫染色により、副腎組織中のHSD3B2を検出する方法に係るものである。免疫染色において、抗原抗体反応の可視化は、常法により行うことができ、例えば、オートラジオグラフィー、金コロイド法、蛍光抗体法、酵素抗体法などが挙げられる。

【0025】
本発明の抗体は、副腎の静脈血中のHSD3B2を免疫学的測定方法により検出することで、原発性アルドステロン症の検出もしくは診断を行うことができる。免疫学的測定方法としては、ウエスタンブロット法(WB)、酵素免疫測定法(EIA)、放射免疫測定法(RIA)、化学発光免疫測定法(CLIA)、蛍光免疫測定法(FIA)等、検出系に西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)やアルカリ性ホスファターゼ(ALP)等の酵素、ヨウ素125 等の放射性同位元素(RI)、アクリジニウム化合物等の発光物質あるいはフルオレセインイソチオシアネート等の蛍光物質などを標識した抗体または抗原を用いる測定法等があるが、これらに限定されるものではない。本発明の方法では、特に酵素免疫測定法(EIA)の一種である酵素免疫定量法(ELISA)が好ましく用いられ、特にELISAがより好適である。また、簡便性に優れるイムノクロマト法も好適である。

【0026】
HSD3B2ポリペプチドは、APA組織に豊富に含まれるが、IHA組織にはあまり含まれない。従って、本発明の抗体により副腎組織中のHSD3B2ポリペプチドを検出する方法によれば、APAとIHAの鑑別診断を確実に行うことができる。例えば、APAもしくはIHAの診断が正しいかどうかを術後に行うことができ、死因の検証にも使用することができる。IHA組織はHSD3B1ポリペプチドが多く発現され、APA組織はHSD3B2ポリペプチドが多く発現されるので、HSD3B1ポリペプチドを特異的に検出可能なモノクローナル抗体を本発明の抗体と組み合わせて使用することで、APAとIHAの鑑別診断をさらに確実に行うことができる。

【0027】
IHAにおいては、HSD3B1ポリペプチドが副腎皮質の最外層に多く存在し、APAにおいては、HSD3B1ポリペプチドの副腎皮質最外層における存在量が少なくなり、その内側におけるHSD3B2ポリペプチドの発現量が非常に多くなるために、APAとIHAの診断は、容易に行うことができる。

【0028】
(3)A-経路/F-経路比(AFR)を用いた原発性アルドステロン症の検出方法もしくは診断方法及びその使用
図2に正常副腎、IHA及びAPAにおける3βHSDに関係するステロイド代謝を示す。3βHSDステップは、高活性(低Km)型(HSD3B1)と低活性(高Km)型(HSD3B2)により行われている。3βHSD変換は、異なる最終産物を生じる2つの経路からなり、一経路はアルドステロン(A)を生じる経路(A-経路)であり、他方はコルチゾール(F)を生じる経路(F-経路)である。A-経路では、アルドステロン(A)はプログネノロン(P5)からプロゲステロン(P4)に変換され、F-経路では、コルチゾールは17-ヒドロキシプログネノロン(17OH-P5)から17-オキシプロゲステロン(17OH-P4)に変換される。副腎皮質束状帯(ZF)においてはF-経路が働いており、P5はCYP17A1により17OH-P5に変換され、そこに存在するHSD3B2は17OH-P5を17OH-P4に変換し、最終的にFが生じる。一方、副腎皮質球状帯(ZG)においてはA-経路が働いており、HSD3B1とHSD3B2によりP5は直接P4に変換され、最終的にAが生じる。このA-経路は、IHA及びAPAにおいて大きく変化する。A-経路/F-経路比(AFR、A-経路をF-経路で割算したもの)はF-経路と比較したA-経路の相対頻度を示す。非病的(健常)副腎(APAの非腫瘍側の副腎)において、AFRは0.18-0.29である。IHAにおいて、HSD3B1を発現する細胞は過形成を示し、多量のアルドステロンを産生する。IHAのAFRは2つの群に分けられる。一方の群はAFRが非常に高い群(AFR=0.66-3.8)であり、他方の群はAFRの正常群(AFR=0.13-0.29)である。AFRスコアの差異は、IHAがAFRの明らかに異なる2種以上の患者群から構成され、高AFRのIHA患者群は3βHSDステップの高酵素活性型の増加による高アルドステロン血症を示す。APAにおいて、AFRは中程度であるが着実に増加する(AFR=0.31-0.47)。

【0029】
腫瘍細胞の大部分は低酵素活性型のHSD3B2を高発現する。腫瘍細胞はCYP17A1を欠くためにF-経路を欠き、A-経路のみが働き、低酵素活性型であっても、腫瘍細胞数は正常副腎の数十倍から数百倍の数に達するため、多量のアルドステロンを産生する。腫瘍細胞における大量のアルドステロン産生のために、HSD3B1とHSD3B2は腫瘍周囲の非腫瘍副腎の皮質球状帯(ZG)においてアルドステロンの産生は抑制される。

【0030】
本発明者は、APAにおいてHSD3B2が過剰発現し、IHAにおいてHSD3B1が過剰発現することを初めて見出し、それにより「AFR」がAPAとIHAの診断に役立つとの仮説を立てて健常者もしくはAPAの非腫瘍副腎、IHA患者、APA患者のA-経路(アルドステロン産生のための3βHSD活性)とF-経路(コルチゾールの産生のための3βHSD活性)を測定し、AFRによりIHAとAPAの診断が可能であることを明らかにした。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例を用いてより詳細に説明する。
(1)HSD3B1とHSD3B2の蛋白質配列のアラインメント(図1a)。
両者とも共通の保存されている領域を黄色で示す。黒の下線は抗体作成に用いた抗原の部位を示す。星印はHSD3B2抗体が識別認識するアミノ酸部位を示す。
【実施例】
【0032】
(2)Westernブロットによる、HSD3B1とHSD3B2の抗体の特異性の検討(図1b)。
COS-1細胞にHAタグで標識したHSD3B1やHSD3B2を発現させ、電気泳動後HSD3B1抗体、HSD3B2抗体を用いてWesternブロットを行った。HA抗体、pan-HSD3B抗体は、非特異的反応のコントロールとして用いている。pEZはHA標識したHSD3B1やHSD3B2を発現させるのに用いたプラスミドベクターである。Pan-HSD抗体は、HA抗体と同じ大きさの部位に、HSD3B1でもHSD3B2を発現させても検出される。これに対して、HSD3B1抗体はHSD3B1を発現させたときだけ認識し、HSD3B2を発現させても認識されない。また我々のHSD3B2抗体はHSD3B2を発現させたときだけ認識し、HSD3B1を発現させても認識されない。
【実施例】
【0033】
(3)Westernブロットによる、HA標識したHSD3B1、HSD3B2や一アミノ酸変異させた各種ミュータントの抗体の特異性の検討(図1c)。
これらの蛋白質はCOS-1細胞に発現させ、電気泳動後HSD3B1抗体、HSD3B2抗体、およびHA抗体を用いて検出した。重要なことにHSD3B1抗体はG40R変異は認識せず、HSD3B2抗体はG39G変異を認識しない。すなわちHSD3B1抗体はHSD3B1の40Gを認識する抗体で、HSD3B2抗体はHSD3B2の39Rを認識する抗体であると言える。
【実施例】
【0034】
(4)二重免疫細胞化学による抗体の検定(図1d)。
COS-1細胞にHA標識したHSD3B1やHSD3B2を発現させ、ホルマリン固定した後、HA抗体と共に、HSD3B1抗体やHSD3B2抗体で染色した。HA抗体はAlexa-488で緑に、HSD3B1およびHSD3B2抗体はAlexa594で赤に、核はDAPI(4',6-diamidino-2-phenylindole)で青に対比染色した。一番右には三者のMerge像を示す。
【実施例】
【0035】
(5)HSD3B1抗体、HSD3B2抗体、CYP17A1抗体による、正常副腎(normal adrenal; NA)、および特発性アルドステロン症(Ideopathic hyperaldosternism)の副腎の免疫組織化学(図1e)。
術後摘出標本をホルマリン固定し、パラフィンに包埋したものをサンプルとして用いた。HSD3B1は副腎球状層にしか存在せず、束状層細胞には存在しないことに注目。IHAではこの球状層細胞の免疫活性が上昇し、数も増える。CYP17A1はPredonisoloneを17-hydroxypredonisoloneに変換する酵素であるが、束状層にしか存在しない。従って、HSD3B1とCYP11B1の二重染色では綺麗に、全ての細胞が染め分けられた。HSD3B2の染色では、NA、IHAとも球状層も束状層の細胞も染色された。
【実施例】
【0036】
(6)HSD3B1抗体、HSD3B2抗体による、副腎腺腫(APA)、および、腫瘍周辺の健常副腎の免疫組織化学(図1f)。
術後摘出標本をホルマリン固定し、パラフィンに包埋したものを用いた。腺腫本体にはHSD3B2が極めて多く発現している細胞で満たされていることに注目。また、腫瘍本体のHSD3B1の発現は弱いか、ほとんど無い。腫瘍周囲の副腎組織の球状層ではHSD3B1の発現はほぼ消失し、HSD3B2の発現も減弱している。これに対しHSD3B2の束状層の発現レベルには何の変動も無かった。
【実施例】
【0037】
(7)副腎静脈サンプル(IVS)を用いた、各種副腎におけるA-経路/F-経路比(AFR、A-経路をF-経路で割算したもの)(図1g)。
A-経路では、アルドステロン(A)はプログネノロン(P5)からプロゲステロン(P4)に変換され、F-経路では、コルチゾールは17-ヒドロキシプログネノロン(17OH-P5)から17-オキシプロゲステロン(17OH-P4)に変換される(詳細は、図2の説明参照)。図に示したのは、非病的(健常)副腎(APAの非腫瘍側の副腎)6例(水色印)、APAの腫瘍側の副腎6例(桃色印)、IHAの両側(両側で14例:黒色印)の副腎のデータである。APA非病的副腎に対応する腫瘍副腎は同じ形の記号で表わされている。IHAに関しても同一症例は同じ記号で表している。
【実施例】
【0038】
非病的副腎において、AFRは0.18-0.29である。IHAにおいて、HSD3B1を発現する細胞は過形成を示し、多量のアルドステロンを産生する。IHAのAFRは2つの群に分けられる。一方の群はAFRが非常に高い群(AFR=0.66-3.8)であり、他方の群はAFRの正常群(AFR=0.13-0.29)である。AFRスコアの差異は、IHAがAFRの明らかに異なる病因を持つ患者群から構成され、このうち高AFRのIHA患者群は3βHSDステップの高酵素活性型の増加による高アルドステロン血症を示すと考えられる。APAにおいて、AFRは中程度であるが着実に増加する(AFR=0.31-0.47)。腫瘍細胞の大部分は低酵素活性型のHSD3B2を高発現するが、腫瘍細胞はCYP17A1を欠くためにF-経路を欠き、A-経路のみが働き、低酵素活性型であっても、腫瘍細胞数は正常副腎の数十倍から数百倍の数に達するため、多量のアルドステロンを産生する、と考えられる。
図面
【図1a】
0
【図1b】
1
【図1c】
2
【図1d】
3
【図1e】
4
【図1f】
5
【図1g】
6
【図2】
7