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明細書 :金属ナノ粒子複合体およびその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6188700号 (P6188700)
登録日 平成29年8月10日(2017.8.10)
発行日 平成29年8月30日(2017.8.30)
発明の名称または考案の名称 金属ナノ粒子複合体およびその製造方法
国際特許分類 C08G  79/00        (2006.01)
FI C08G 79/00
請求項の数または発明の数 6
全頁数 13
出願番号 特願2014-536867 (P2014-536867)
出願日 平成25年9月18日(2013.9.18)
国際出願番号 PCT/JP2013/075109
国際公開番号 WO2014/046107
国際公開日 平成26年3月27日(2014.3.27)
優先権出願番号 2012206494
優先日 平成24年9月20日(2012.9.20)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成28年9月15日(2016.9.15)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
発明者または考案者 【氏名】北川 宏
【氏名】山田 鉄兵
【氏名】小林 浩和
【氏名】向吉 恵
個別代理人の代理人 【識別番号】110000796、【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
審査官 【審査官】小森 勇
参考文献・文献 国際公開第2013/021944(WO,A1)
調査した分野 C08G 79/00
特許請求の範囲 【請求項1】
有機系構造体に金属ナノ粒子が分散した構造を有し、前記有機系構造体は金属及び金属を還元可能な多価配位子を含む多孔性配位高分子(Porous Coordination Polymer(PCP))又は金属-有機物構造体(Metal-Organic Framework(MOF))の構造とカーボンを含むことを特徴とする、金属ナノ粒子複合体において、
金属ナノ粒子の金属が、金、白金、銀、銅、ルテニウム、スズ、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ニッケル、またはコバルト、あるいはこれらから選ばれる2種以上の金属の合金である、複合体
【請求項2】
金属ナノ粒子の金属が、ニッケルまたはコバルト、あるいはこれらの合金である、請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
有機系構造体が少なくとも部分的にカーボンを含む、請求項1または2に記載の複合体。
【請求項4】
前記カーボンが、グラッシーカーボン、グラファイト、カーボンオニオン、コークス、カーボンシャフト、カーボンナノウォール、カーボンナノコイル、カーボンナノチューブ、カーボンナノツイスト、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボンナノロープ、カーボンブラックからなる群から選ばれる、請求項に記載の複合体。
【請求項5】
金属及び金属を還元可能な多価配位子を含む多孔性配位高分子(PCP)又は金属-有機物構造体(MOF)を加熱して金属ナノ粒子を析出させることを特徴とする、有機系構造体に金属ナノ粒子が分散した構造を有する請求項1~のいずれかに記載の金属ナノ粒子複合体の製造方法。
【請求項6】
前記加熱を真空下で行う、請求項に記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ナノ粒子複合体とその製造方法に関する。
【0002】
なお、本明細書において、MOFとPCPを総称して「PCP」と記載する場合がある。
【背景技術】
【0003】
これまで多数のPCP/金属ナノ粒子複合体が開発されてきたが、複合体ならではの反応を効率よく実現するためには、金属ナノ粒子がPCP内部で直接接した複合体が必要である。また複合体の生産コストから、簡単かつ確実にPCP/金属ナノ粒子複合体を作製する方法が必要とされている。
【0004】
PCP/金属ナノ粒子を作製するには金属ナノ粒子を合成しその周囲をPCPで被覆する、または合成したPCP内(あるいは外)で金属ナノ粒子の合成を行い、PCPに金属ナノ粒子を埋め込むという手法がとられてきた。
【0005】
非特許文献1は、PCPを予め作製した後に金属ナノ粒子を複合化しているため、金属ナノ粒子はPCPの外部又は表面付近に付着した構造を有し、金属ナノ粒子とPCPの複合効果は限られたものであった。
【0006】
非特許文献2は、酸化鉄の存在下に金属イオン(Al、Cu)と配位子(bpdc、btc)を作用させて金属イオンと配位子の複合体を形成させているが、この複合体は薬物の徐放性製剤などの用途に用いられるものであり、酸化鉄はその磁性により磁石を用いて目的の位置に輸送するためのものであり、酸化鉄ナノ粒子の表面の一部でPCPと一体化しているだけであり、酸化鉄粒子はPCPの内部に存在しない。
【0007】
非特許文献3は、CVDを利用してルテニウムをMOFの内部で析出させる技術を開示しているが、この方法では、ルテニウムはMOFの表面で析出しやすく、表面付近に析出した金属のサイズが大きくなり、かつ、中心付近でのルテニウム金属の析出量が少なくなる問題がある。
【0008】
非特許文献4は、メソポーラスMOFの内部にニッケルナノ粒子を有する複合体を開示しその還元触媒の活性をラネーニッケルと比較しているが、触媒活性はラネーニッケルと同程度であり、さらなる触媒活性の向上が求められていた。
【先行技術文献】
【0009】

【非特許文献1】Eur.J.Inorg.Chem., 2010, 3701-3714
【非特許文献2】ChemComm, 2011, 47, 3075-3077
【非特許文献3】J. Am. Chem. Soc., 2008, 130, 6119-6130
【非特許文献4】ChemComm, 2010, 46, 3086-3088
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、保護剤を使用せずに、金属ナノ粒子が分散した複合体を作製することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の複合体及びその製造方法を提供するものである。
項1. 有機系構造体に金属ナノ粒子が分散した構造を有し、前記有機系構造体は金属及び金属を還元可能な多価配位子を含む多孔性配位高分子(Porous Coordination Polymer(PCP))又は金属-有機物構造体(Metal-Organic Framework(MOF))の構造とカーボンを含むことを特徴とする、金属ナノ粒子複合体。
項2. 金属ナノ粒子の金属が 周期表の1~12族に属する金属の1種又は2種以上である、項1に記載の複合体。
項3. 金属ナノ粒子の金属が、金、白金、銀、銅、ルテニウム、スズ、パラジウム、ロジウム、イリジウム、オスミウム、ニッケル、コバルト、亜鉛、鉄、イットリウム、マグネシウム、マンガン、チタン、ジルコニウム、ハフニウムあるいはこれらから選ばれる2種以上の金属の合金である、項2に記載の複合体。
項4. 有機系構造体が少なくとも部分的にカーボンを含む、項1~3のいずれかに記載の複合体。
項5. 前記カーボンが、グラッシーカーボン、グラファイト、カーボンオニオン、コークス、カーボンシャフト、カーボンナノウォール、カーボンナノコイル、カーボンナノチューブ、カーボンナノツイスト、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボンナノロープ、カーボンブラックからなる群から選ばれる、項4に記載の複合体。
項6. 金属及び金属を還元可能な多価配位子を含む多孔性配位高分子(PCP)又は金属-有機物構造体(MOF)を加熱して金属ナノ粒子を析出させることを特徴とする、有機系構造体に金属ナノ粒子が分散した構造を有する項1~5のいずれかに記載の金属ナノ粒子複合体の製造方法。
項7. 前記加熱を真空下で行う、項6に記載の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の複合体は、多孔質な有機系構造体の内部に高い活性を有する金属ナノ粒子が均一に分散されることができるため、有機合成の触媒、電極触媒などの触媒としての活性が高く、極めて有用である。
【0013】
また、加熱時間、加熱温度によって有機系構造体と金属ナノ粒子の割合を調節できる。つまり、錯体の多価配位子に由来する有機系構造体と金属ナノ粒子の比を変化させることで物性の制御を簡単に行うことができる。
【0014】
1つの好ましい実施形態において、本発明の複合体を加熱して有機物を分解させた場合、重量減少は70重量%以下であり、本発明の複合体は金属ナノ粒子の割合が非常に大きく、金属ナノ粒子の特性を十分に引き出すことができる。
【0015】
PCPなどの錯体内に金属ナノ粒子を導入するには、従来の方法では金属ナノ粒子を合成し、PCPなどの錯体と複合させる手法と、PCPなどの錯体を合成し、金属ナノ粒子を合成する手法があり、どちらも何段階も反応を行う必要がある。またPCPなどの錯体の内部に金属ナノ粒子が単分散した複合体を得るのは難しい。
【0016】
本発明は金属ナノ粒子がPCPに由来する有機系構造体の内部に分散し、かつ保護剤を使用せず金属ナノ粒子とPCPなどに由来する有機系構造体が直接接触した複合体を簡単に作製する初めてのものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1で得られたNi複合体の粉末X線回折の結果を示す。250℃-12hではPCPの構造がほぼ完全に残されているが、300℃-12h、350℃-12hと温度が高くなるに従ってPCPの構造は一部が残るのみとなり、400℃-12hではPCPの構造は完全に消失した。
【図2】実施例1で得られたNi複合体(400℃-12h)の走査透過型電子顕微鏡(STEM)写真を示す。特にBF STEM像に、オニオンカーボンの構造が明瞭に示されている。観察試料:400-12h XRPDからはNiのピークしかみられない。
【図3】実施例1で得られたNi複合体(400℃-12h)の高分解能透過電子顕微鏡(HRTEM)写真を示す。オニオンカーボンに似ているシート状の有機物である。Niナノ粒子が複合体の表面及び内部に一様に分散していることが明らかになった。
【図4】実施例1で得られたNi複合体(400℃-12h)と真空下の熱処理前のPCP試料(Ni2(dhtp))のラマン測定結果を示す。Ni複合体(400℃-12h)でオニオンカーボンのピークが確認された。
【図5】実施例1で得られたNi複合体(250℃、300℃、350℃、400℃、6h、12h、24h)及び真空下の熱処理前のPCP試料(Ni2(dhtp))のラマン測定結果を示す。
【図6】実施例1で得られたNi複合体の77KでのN吸着の結果を示す。300℃、350℃、400 ℃で12時間加熱して合成した複合体は低圧での吸着量が減少しており、MOFの構造が壊れていることを示す。300℃-12hの複合体はヒステリシスが見られた。
【図7】実施例2で得られたCo複合体の粉末X線回折の結果及び高分解能透過電子顕微鏡(HRTEM)写真を示す。Coでも同様に金属ナノ粒子が一様に分散した複合体が得られることが示された。
【図8】2Kと300Kにおける磁気測定結果(左:複合体、右:Ni2(dhtp))
【図9】350-12h、400-12h(Ni-MOF-74をそれぞれ350℃、400℃で12時間処理した本発明の複合体)、Niバルク+カーボン(比較例)、未処理のNi-MOF-74の電極触媒:エタノール酸化反応におけるサイクリックボルタモグラムを示す。本発明の複合体(350-12h、400-12h)は高い触媒活性が示された。
【図10】製造例1で得られたNi錯体について、大気圧下(空気中)で350℃、12時間加熱した粉末X線回折の結果を示す。Ni酸化物(NiO)複合体が得られていることが示された。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の複合体は、金属ナノ粒子が有機系の構造体に分散した複合体である。好ましい実施形態では、金属ナノ粒子は有機系の構造体に高密度及び/又は均一に分散した複合体である。

【0019】
本発明の複合体は、錯体を減圧下、不活性雰囲気下、還元雰囲気下もしくは酸化雰囲気下、好ましくは真空下で加熱することにより製造することができる。錯体を減圧下(好ましくは真空下)、不活性雰囲気下もしくは還元雰囲気下で加熱した場合には、錯体中の金属イオンが還元されて金属単体のナノ粒子が形成される。一方、酸化雰囲気(酸素などが存在する雰囲気)では、金属酸化物のナノ粒子が得られ得る。本明細書において、「金属ナノ粒子」は金属単体(0価)のナノ粒子と金属酸化物のナノ粒子の両方を含む。また、PCP、MOFなどの錯体が2種以上の金属から構成される場合、得られる金属ナノ粒子は合金になり得る。

【0020】
錯体を減圧下(好ましくは真空下)、不活性雰囲気下、還元雰囲気下もしくは酸化雰囲気下で加熱した場合には、錯体を構成する多価配位子はカーボンに変換される。カーボンへの変換の程度は加熱温度及び加熱時間により決定される。例えば、実施例1に示されるNi複合体の場合には、250℃、300℃、350℃ではカーボンとともにPCPの構造が残っているが、400℃ではPCPの構造は消失してカーボンに変換される。このように加熱温度と加熱時間を調整することで、有機系構造体におけるPCPなどの錯体の構造部分あるいはカーボンの部分の割合を変えることができ、さらにカーボンの種類(グラッシーカーボン、グラファイトなど)を目的のものに変化させることができる。例えば、PCPの構造を利用してガス状の反応物質を金属ナノ粒子(触媒)と反応させる場合には、PCPの構造を残しておく方が有利であり、電極触媒などのように、有機系構造体であるカーボンと金属ナノ粒子が密に集積した構造が望ましい場合には、加熱温度を上げるか、反応時間を長くして、PCPなどに由来する構造を完全に破壊してカーボンの割合を高め、細孔の割合を少なくすればよい。

【0021】
本明細書において、有機系構造体としては、PCPなどの錯体を構成する多価配位子を含んでいてもよく、その少なくとも一部はカーボンなどの材料で置換されている。錯体を構成する多価配位子は、金属イオンを還元し、徐々に水素を失ってカーボンに変化していく。有機系構造体は、有機系の多価配位子の一部がカーボンに至るまでの様々な有機系の材料を含むものであればよい。

【0022】
複合体の製造原料に使用する錯体は、有機多価配位子と金属イオンを含むものである。有機多価配位子は、2価以上の有機配位子を含み、2価以上の有機配位子は、別個の(隣接する)2つの金属イオンに配位することで、1次元、2次元又は3次元に広がった錯体となる。本発明の製造方法で使用する錯体は、金属錯体が少なくとも1次元に重合した、換言すれば1つの有機配位子に2以上の金属イオンが配位することが必要である。このような錯体には、MOF、PCPなどが含まれるが単核錯体は含まれない。

【0023】
PCPは、通常2層以上(例えば2~100層、好ましくは3~50層、より好ましくは4~30層、特に4~20層)の金属と配位子からなる層を有し、この層が繰り返される。金属イオンを層ごとに変えることで、種々の金属ナノ粒子を含む複合体が得られる。

【0024】
本明細書において、MOF、PCPなどの錯体としては、金属イオンと有機配位子から構成され、カウンターアニオンを含んでいてもよい。金属イオンとしては、周期表の1~12族に属する金属の金属イオン、具体的には、金、白金、銀、銅、ルテニウム、スズ、パラジウム、ロジウム、イリジウム、オスミウム、ニッケル、コバルト、亜鉛、鉄、イットリウム、マグネシウム、マンガン、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、カルシウム、カドミウム、バナジウム、クロム、モリブデン、スカンジウムなどのイオンが挙げられ、マグネシウム、カルシウム、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、銅、亜鉛、カドミウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、白金、モリブデン、ジルコニウム、スカンジウムなどのイオンが好ましく、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、銀、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウムなどの金属のイオンがより好ましい。金属イオンは、単一の金属イオンを使用してもよく、2種以上の金属イオンを併用してもよい。2種以上の金属イオンを併用した錯体を使用することで、金属ナノ粒子が合金である複合体を得ることができる。

【0025】
MOF、PCPなどの錯体を構成する有機配位子としては、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、フルオレン、インダン、インデン、ピレン、1,4-ジヒドロナフタレン、テトラリン、ビフェニレン、トリフェニレン、アセナフチレン、アセナフテンなどの芳香環に2個、3個又は4個のカルボキシル基が結合した化合物(前記有機配位子は、F,Cl、Br,Iなどのハロゲン原子、ニトロ基、アミノ基、アセチルアミノ基などのアシルアミノ基、シアノ基、水酸基、メチレンジオキシ、エチレンジオキシ、メトキシ、エトキシなどの直鎖又は分岐を有する炭素数1~4のアルコキシ基、メチル、エチル、プロピル、tert-ブチル、イソブチルなどの直鎖又は分岐を有する炭素数1~4のアルキル基、SH、トリフルオロメチル基、スルホン酸基、カルバモイル基、メチルアミノなどのアルキルアミノ基、ジメチルアミノなどのジアルキルアミノ基などの置換基で1,2又は3置換されていてもよい)、フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸などの不飽和2価カルボン酸、ピラジン、4,4’-ビピリジル、ジアザピレン、などの2以上の環内窒素原子により配位可能な含窒素芳香族化合物(前記置換基により1、2または3置換されていてもよい。)などが挙げられる。好ましい2価以上の有機配位子としては、イソフタル酸、テレフタル酸などが挙げられる。有機配位子は、OH、アルコキシ基、アルキル基などの電子供与性基であると、加熱時の金属イオンの還元が起こりやすくなるので好ましい。例えば2,5-ジヒドロキシテレフタル酸の場合、錯体の加熱時に酸化されてキノン構造をとり得るので、これが金属イオンの還元とそれに伴う金属ナノ粒子の形成を促進する可能性がある。配位子が中性の場合、金属イオンを中和するのに必要なカウンターアニオンを有する。このようなカウンターアニオンとしては、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、メタンスルホン酸イオン、トルエンスルホン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、過塩素酸イオンなどが挙げられる。

【0026】
MOF、PCPなどの錯体を構成する有機配位子は単座の配位子を含んでいてもよい。単座の配位子の割合が多くなると、錯体のサイズを小さくすることができ、得られる複合体のサイズを小さくすることができる。単座の配位子としては、安息香酸などのカルボキシル基を1個含む配位子、ピリジン、イミダゾールなどの配位可能な窒素原子を1個含む配位子が挙げられるが、これらに限定されない。

【0027】
上記の金属イオンと有機配位子を含む錯体は、シート状などの二次元細孔又は複数のシートがアキシャル位に配位する二座配位子を構成要素として含む三次元細孔を有するPCPを包含するが、例えば以下のPCPを使用することもできる。
IRMOF-1, Zn4O(BDC)3 (H2BDC= benzenedicarboxylic acid)
MOF-69C, Zn3(OH2)(BDC)2
MOF-74, M2(DOBDC) (H2DOBDC=2,5-dihydroxyterephthalic acid, M=Zn, Co, Ni, Mg)
HKUST-1, Cu3(BTC)2 (H3BTC=1,3,5-benzenetricarboxylic acid)
MOF-508, Zn(BDC)(bipy)0.5
Zn-BDC-DABCO,Zn2(BDC)2(DABCO), (DABCO=1,4-diazabicyclo[2.2.2]-octane)
Cr-MIL-101, Cr3F(H2O)2O(BDC)3
Al-MIL-110, Al8(OH)12{(OH)3(H2O)3}[BTC]3,
Al-MIL-53, Al(OH)[BDC]
ZIF-8, Zn(MeIM)2, (H-MeIM=2-methylimidazole)
MIL-88B, Cr3OF(O2C-C6H4-CO2)3
MIL-88C, Fe3O(O2C-C10H6-CO2)3
MIL-88D, Cr3OF(O2C-C12H8-CO2)3
CID-1 [Zn2(ip)2(bpy)2] (Hip=isophthalic acid, bpy=4,4'-bipyridine)

【0028】
本発明で使用するPCPは、例えば以下の文献、総説(Angew. Chem. Int. Ed. 2004, 43, 2334-2375.;Angew. Chem. Int. Ed. 2008, 47, 2-14.;Chem. Soc. Rev., 2008, 37, 191-214.;PNAS, 2006, 103, 10186-10191.;Chem.Rev.,2011, 111, 688-764.;Nature, 2003, 423, 705-714.)などに記載されているが、これらに限定されず、公知のPCPあるいは今後製造され得るPCPを広く使用することができる。

【0029】
本発明の製造方法において、MOF、PCPなどの錯体を構成する金属イオンが加熱により有機配位子と反応して酸化還元反応が起こり、金属イオンが金属ナノ粒子に変換されると考えられる。従って、金属ナノ粒子は錯体を構成する金属を含むナノ粒子となる。錯体の加熱を減圧下、好ましくは真空下で行うことで、金属イオンが還元されて金属ナノ粒子が形成される。金属ナノ粒子は錯体の表面及び内部において同時にかつ多数形成されて、金属ナノ粒子が分散された複合体になる。錯体を加熱することで小さい金属ナノ粒子が徐々に成長し、大きな金属ナノ粒子になる。従って、錯体の加熱の条件を制御することで、金属ナノ粒子のサイズを制御することができる。

【0030】
本明細書において、「高密度」とは、金属ナノ粒子が0.1~85質量%、好ましくは1~85質量%、より好ましくは10~85質量%、の割合で含まれる複合体を意味する。錯体を加熱すると最初は小さい金属ナノ粒子が錯体の表面及び内部において多数形成される。このように金属ナノ粒子が錯体の表面及び内部で数多く形成されることで、均一に金属ナノ粒子が分散した複合体が得られる。加熱温度を高くするか、加熱時間を長くすることで金属イオンは金属ナノ粒子に変化していくので、加熱による反応の初期では金属ナノ粒子の重量割合は少なくなるが、小さい金属ナノ粒子が多数形成されているので、「高密度」であるといえる。

【0031】
加熱時の温度は100~1000℃程度、好ましくは150~700℃程度、より好ましくは200~650℃程度、さらに好ましくは250~650℃程度、特に好ましくは250~450℃程度である。
錯体の加熱は減圧下、不活性雰囲気下、還元雰囲気下、酸化雰囲気下、好ましくは真空下に行うことができる。加熱反応時の減圧下の圧力としては、1000Pa程度以下、好ましくは100Pa程度以下、特に5~100Pa程度である。

【0032】
加熱反応の時間は、1秒~30日間程度、好ましくは1時間~7日間程度である。
上記のような条件で錯体を加熱することで、錯体を構成する金属イオンは還元されて金属単体のナノ粒子となる。また、有機配位子は、加熱により少なくとも一部が変化、例えばカーボンに変化する。複合体の有機系構造体は、錯体の配位子に由来するものである。
本発明の好ましい金属ナノ粒子複合体は、金属ナノ粒子がほぼ均一に複合体の表面及び内部に分散している。金属ナノ粒子がほぼ均一に分散していることは、TEM写真により確認することができる。

【0033】
複合体中に含まれる金属ナノ粒子の平均粒径は、1~100nm程度、好ましくは1~20nm程度である。複合体中の金属ナノ粒子の平均粒径は、TEMなどの顕微鏡写真により確認することができる。金属ナノ粒子の形状は特に限定されず、球状、楕円体状、リン片状など、任意の形状であってよい。

【0034】
本発明の複合体における金属ナノ粒子の割合は、0.05~95重量%程度、好ましくは0.1~85重量%程度、より好ましくは1~80重量%程度、特に好ましくは2~75重量%程度であり、有機系構造体は99.95~5重量%程度、好ましくは99.9~15重量%程度、より好ましくは99~20重量%程度、特に好ましくは98~25重量%程度である。なお、錯体の加熱処理の初期では錯体を構成する金属イオンの一部が金属ナノ粒子となり、その割合は反応時間を長くするか反応温度を上げることにより増加していくが、有機系構造体には錯体由来の金属もしくは金属イオンが残存していてもよい。従って、有機系構造体には、金属もしくは金属イオン、金属酸化物などの無機系の成分が含まれていてもよい。

【0035】
金属ナノ粒子は、金属、合金もしくは金属酸化物から構成される。

【0036】
金属ナノ粒子の金属は、MOF、PCPなどの金属錯体に由来するので、金属ナノ粒子を構成する金属が挙げられる。但し、金属錯体が2種以上の金属から構成される場合には合金を含み、加熱時に酸化される場合には金属酸化物になり得る。

【0037】
金属ナノ粒子を構成する金属としては、周期表の1~12族に属する金属又はその合金もしくは酸化物(複合酸化物を含む)が挙げられ、具体的には金、白金、銀、銅、ルテニウム、スズ、パラジウム、ロジウム、イリジウム、オスミウム、ニッケル、コバルト、亜鉛、鉄、イットリウム、マグネシウム、マンガン、チタン、ジルコニウム、ハフニウムあるいはこれらから選ばれる2種以上の金属の合金、酸化物もしくは複合酸化物が挙げられ、さらに好ましくは金、白金、銀、銅、ルテニウム、パラジウム、ロジウム、イリジウム、オスミウム、ニッケル、コバルト、亜鉛、鉄、イットリウム、マグネシウム、チタン、あるいはこれらの2種以上の合金などが挙げられる。金属酸化物としては、PtO、CuO、酸化ルテニウム(IV)、酸化ロジウム、酸化ルテニウム、Fe、Fe、ZnO、酸化オスミウム(IV)、あるいは2種以上の金属を含む複合酸化物などが挙げられる。

【0038】
金属ナノ粒子が鉄又はその酸化物のナノ粒子である場合、BCC(体心立方格子構造)とFCC(面心立方格子構造)のいずれであってもよい。

【0039】
「有機系構造体」とは、PCP、MOFなどの有機配位子と金属から構成される1次元、2次元又は3次元に広がった構造体を減圧下に加熱することで、有機配位子の一部又は全部が分解して残存した、有機配位子に由来する構造体である。有機系構造体は、PCPまたはMOFに由来する構造が残っているものが好ましい。PCPまたはMOFに由来する構造はX線回折などにより確認することができる。減圧下での加熱を高温及び/又は長時間行うと、PCPまたはMOFに由来する構造が徐々に壊れてカーボン系の材料の割合が増加する。

【0040】
1つの実施形態では、金属イオンが還元されて金属ナノ粒子を形成する場合、金属イオンは有機配位子により還元されたものと考えられ、この場合、有機配位子は酸化される。反応の進行に従って、有機配位子からカーボンが生じ、その割合が増加することになる。なお、減圧下での加熱は、不活性雰囲気(窒素、アルゴンなどの不活性ガスを含む)で行ってもよく、酸化雰囲気(酸素、オゾンなどの酸化剤を含む)あるいは還元雰囲気(水素などの還元剤を含む)で行うことで、「有機系構造体」の酸化もしくは還元の程度を変化させることができる。また、酸化雰囲気で加熱処理を行った場合には、金属ナノ粒子を金属酸化物として析出させることもできる。

【0041】
有機系構造体を構成するカーボンとしては、グラッシーカーボン、グラファイト、カーボンオニオン、コークス、カーボンシャフト、カーボンナノウォール、カーボンナノコイル、カーボンナノチューブ、カーボンナノツイスト、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボンナノロープ、カーボンブラックなどが挙げられる。

【0042】
有機系構造体は、多孔質であるのが好ましい。金属ナノ粒子は、複合体の孔の中に保持されており、一部は有機系構造体に支えられているが活性な表面が露出している。この活性な表面の割合が大きいので、本発明の複合体は、金属ナノ粒子を提供する材料として好ましい。

【0043】
本発明の複合体は触媒として好ましく使用することができる。本発明の複合体により触媒されるガス、金属ナノ粒子触媒、生成物は、例えば以下のような組み合わせが挙げられる。

【0044】
1つの好ましい実施形態において、本発明の複合体はカーボンと金属ナノ粒子から構成され、導電性であり、バインダー無しで金属ナノ粒子がカーボンに保持されているため、電極触媒として非常に有用である。

【0045】
【表1】
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【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例に基づきより詳細に説明するが、本発明がこれら実施例に限定されないことはいうまでもない。
【実施例】
【0047】
製造例1:PCP錯体の調製
3000mlナスフラスコに溶媒としてDMF-エタノール-水(容量で1:1:1)2000 ml、Ni(NO3)2・6H2O(23.8 g)、2,5-ジヒドロキシテレフタル酸(H4dhtp、4.8 g)を加え、100℃で5日間撹拌して反応させた。析出した三次元構造金属錯体(Ni2(dhtp))を吸引濾過により回収した後、メタノール、水で洗浄した。続いて、25℃で24時間減圧下で乾燥し、目的の金属錯体(Ni2(dhtp))12gを得た。目的の金属錯体が得られたことは、粉末X線構造解析で確認した。得られた金属錯体を、以下「Ni-MOF-74」と称することがある。
【実施例】
【0048】
製造例2:PCP錯体の調製
300mlナスフラスコに溶媒としてDMF-エタノール-水(容量で1:1:1)200 ml、Co(NO3)2・6H2O(2.4 g)、2,5-ジヒドロキシテレフタル酸(H4dhtp、0.5 g)を加え、100℃で5日間撹拌して反応させた。析出した三次元構造金属錯体(Co2(dhtp))を吸引濾過により回収した後、メタノール、水で洗浄した。続いて、25℃で24時間減圧下で乾燥し、目的の金属錯体(Co2(dhtp))0.8gを得た。目的の金属錯体が得られたことは、粉末X線構造解析で確認した。
【実施例】
【0049】
実施例1
製造例1で得られたNi錯体について、以下の表2の反応温度及び反応時間において、真空ポンプを用いた減圧下(真空下)で加熱して、本発明のNi複合体を製造した。
【実施例】
【0050】
【表2】
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【実施例】
【0051】
得られたNi複合体について、粉末X線回折の結果を図1に、走査透過型電子顕微鏡(STEM)写真を図2に、高分解能透過電子顕微鏡(HRTEM)写真を図3に、ラマン測定結果を図4、図5に、77KでのN吸着の結果を図6に各々示す。
【実施例】
【0052】
実施例2
製造例2で得られたCo錯体について、400℃で18時間、真空ポンプを用いた減圧下(真空下)で加熱して、本発明のCo複合体を製造した。
【実施例】
【0053】
得られたCo複合体について、粉末X線回折の結果及び高分解能透過電子顕微鏡(HRTEM)写真を図7に示す。
【実施例】
【0054】
実施例3
実施例1で得られたNi複合体(400℃-12h)について、磁気測定を実施した。複合体4.5 mgをゼラチンカプセル内に詰め、さらにPVPのエタノール溶液を用いて固めたものをSQUID測定用ロッドに取り付け、2 K及び300 Kにおける磁場依存性を測定した。MOFについては、Ni2(dhtp)3.1 mgをラップで包み、複合体と同様に磁場依存性を測定した。結果を図8に示す。
【実施例】
【0055】
複合体では2Kでヒステリシスが観測されたが、Ni2(dhtp)の場合ではどの温度でも観測されず、Niナノ粒子との複合化反応が進行することにより磁石への応答が変化することがわかった。反応条件を変えてNiナノ粒子の比率を変えることで磁気特性を自在にコントロールできるため、この結果は、熱分解を用いた手法で作製した複合体が新しい磁性材料としての可能性を持っていることを示している。
【実施例】
【0056】
実施例4
実施例1で得られたNi複合体(350℃-12h、400℃-12h)を電極触媒として用い、エタノール酸化反応を実施した。複合体10mgをエタノール2 mlと「ナフィオン(登録商標)」〔デュポン社製、固形分濃度5質量%の十倍希釈サンプル〕100 μlの混合溶媒に添加し、超音波を照射して懸濁液とした。この懸濁液30μLをグラッシーカーボン電極〔3mm径、電極面積は7.1mm2〕に塗布し、乾燥することで修飾電極を得た。この修飾電極を濃度1.0Mの水酸化ナトリウムおよび0.5 Mエタノールの混合溶液中に浸漬し、室温、大気圧下、アルゴン雰囲気において、銀塩化銀電極電位に対して-0.45~1.00Vの走査範囲で、50mV/sの走査速度で電位をサイクルした。結果を図9に示す。
【実施例】
【0057】
上記複合体(350℃-12h、400℃-12h)に代えて原料のNi-MOF-74、Ni粒子をカーボンに吸着させた複合体(Ni+カーボン;比較例)を電極触媒として、同様にサイクリックボルタモグラムを行った。これらの結果を合わせて図9に示す。
【実施例】
【0058】
なお、300℃-12hで加熱処理した複合体は、Niナノ粒子の生成量は少ないが、サイクリックボルタモグラムにおいて、エタノールの酸化反応に対応する触媒電流が十分に観測され、単位重量あたりの触媒活性はNi粒子をカーボンに吸着させた複合体よりも優れていることを本発明者らは確認している。
【実施例】
【0059】
文献1(Materials Letters, 2011, 65, 3396-3398.)と同様、0.6 V付近に、エタノールの酸化反応に対応する電流ピークが確認できる。複合体においてもエタノールの酸化反応に対応する触媒電流が観測されたことから、当該複合体は触媒活性を有することがわかった。さらに、350℃-12h、400℃-12h のサンプルに関してはNi粉末を用いたものに比べ、エタノール酸化電流値は高く、高い触媒活性を示すことがわかった。
【実施例】
【0060】
実施例5
製造例1で得られたNi錯体について、以下の表2の反応温度及び反応時間において、大気圧下(空気中)で350℃、12時間加熱して、本発明のNi複合体を製造した。Niナノ粒子は、Ni酸化物(NiO)になっていた。
【実施例】
【0061】
得られたNi複合体について、粉末X線回折の結果を図10に示す。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
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【図9】
8
【図10】
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