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明細書 :T細胞の分化誘導方法、T細胞の製造方法、T細胞、医薬組成物、及び、スクリーニング方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第5900865号 (P5900865)
登録日 平成28年3月18日(2016.3.18)
発行日 平成28年4月6日(2016.4.6)
発明の名称または考案の名称 T細胞の分化誘導方法、T細胞の製造方法、T細胞、医薬組成物、及び、スクリーニング方法
国際特許分類 C12N   5/0783      (2010.01)
C12Q   1/02        (2006.01)
A61K  35/14        (2015.01)
A61P  37/06        (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
A61P  31/12        (2006.01)
FI C12N 5/0783
C12Q 1/02
A61K 35/14 Z
A61P 37/06
A61P 35/00
A61P 31/12
請求項の数または発明の数 12
全頁数 16
出願番号 特願2014-512405 (P2014-512405)
出願日 平成25年3月12日(2013.3.12)
国際出願番号 PCT/JP2013/056758
国際公開番号 WO2013/161408
国際公開日 平成25年10月31日(2013.10.31)
優先権出願番号 2012101390
優先日 平成24年4月26日(2012.4.26)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成26年11月26日(2014.11.26)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
発明者または考案者 【氏名】菅井 学
【氏名】清水 章
【氏名】南部 由希子
個別代理人の代理人 【識別番号】110000040、【氏名又は名称】特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ
審査官 【審査官】山本 匡子
参考文献・文献 RUST,C. et al,PHENOTYPICAL AND FUNCTIONAL CHARACTERIZATION OF SMALL INTESTINAL TCR-GAMMA-DELTA-POSITIVE T CELLS IN,Scandinavian Journal of Immunology,1992年,Vol.35, No.4,p.459-468
SINKORA, M. et al.,, Development of .GAMMA..DELTA. thymocyte subsets during prenatal and postnatal ontogeny, Immunology,2005年,Vol.115, No.4,,p. 544-555
TANG,X. et al,Anti-TCR antibody treatment activates a novel population of nonintestinal CD8 alpha alpha+TCR alpha,Journal of Immunology,2007年,Vol.178, No.10,p.6043-6050
NIKOLOVA,M. et al,Isolation of a CD8alphaalpha+ CD4- tumour T-cell clone with cytotoxic activity from a CD4+ CD8- cuta,British Journal of Dermatology,2003年,Vol.148, No.1,p.24-29
Ho LP. et al.,CD4(-)CD8alphaalpha subset of CD1d-restricted NKT cells controls T cell expansion.,J Immunol. ,2004年 6月15日,172(12),p.7350-8
Van Coppernolle S. et al.,Functionally mature CD4 and CD8 TCRalphabeta cells are generated in OP9-DL1 cultures from human CD34+ hematopoietic cells.,J Immunol. ,2009年10月15日,183(8),p.4859-70
Shi Q. et al.,CD4+ Foxp3+ regulatory T cells induced by TGF-β, IL-2 and all-trans retinoic acid attenuate obliterative bronchiolitis in rat trachea transplantation.,Int Immunopharmacol.,2011年 8月11日,11(11),p.1887-94
Konkel JE. et al.,Control of the development of CD8αα+ intestinal intraepithelial lymphocytes by TGF-β.,Nat Immunol. ,2011年 2月 6日,12(4),p.312-9
調査した分野 C12N 5/00-28
A61K 35/12-768
A61L 27/00-60
C12Q 1/00-70
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
WPIDS/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
CD4+CD8- T細胞をIL-2、TGF-β1、及びatRAが存在する条件下でin vitro培養することを含む、CD4+CD8- T細胞からCD4-CD8αα+ T細胞を分化誘導する方法。
【請求項2】
前記CD4+CD8- T細胞が、ナイーブCD4 T細胞である、請求項1記載の分化誘導方法。
【請求項3】
前記CD4+CD8- T細胞として、抗原特異的CD4+CD8- T細胞又は抗原特異的CD4+CD8- T細胞を増殖させた細胞集団を使用する、請求項1記載の分化誘導方法。
【請求項4】
前記培養が、TCRを刺激する手段がコーティングされた培養プレート上で行われる、請求項1から3のいずれかに記載の分化誘導方法。
【請求項5】
前記培養が、6日以上である、請求項1から4のいずれかに記載の分化誘導方法。
【請求項6】
培養開始時のCD4+CD8- T細胞の数が、5.0 x 105個/mL以下である、請求項1から5のいずれかに記載の分化誘導方法。
【請求項7】
培養開始時のatRAの濃度が、1μMを超える、請求項1から6のいずれかに記載の分化誘導方法。
【請求項8】
前記培養が、さらに、抗CD28抗体、抗IFN-γ抗体、及び抗IL-4抗体からなる群から選択される一種類、二種類、又は三種類の抗体が存在する条件下で行われる、請求項1から7のいずれかに記載の分化誘導方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の分化誘導方法を行うことを含む、CD4-CD8αα+ T細胞の製造方法。
【請求項10】
CD4+CD8- T細胞からCD4-CD8αα+ T細胞への分化誘導を促進又は抑制する物質のスクリーニングにおける、請求項1から8のいずれかに記載の分化誘導方法の使用。
【請求項11】
CD4+CD8- T細胞からCD4-CD8αα+ T細胞へのin vivoでの分化誘導を促進又は抑制する物質のスクリーニング方法であって、テスト物質の存在下で請求項1から8のいずれかに記載の分化誘導方法を行うこと、及び、テスト物質の非存在下と比べてCD4-CD8αα+ T細胞の分化誘導の効率を促進又は抑制したテスト物質を候補物質として選択することを含む、スクリーニング方法。
【請求項12】
請求項1から8のいずれかに記載の分化誘導方法請求項10に記載の分化誘導方法の使用又は請求項11に記載のスクリーニング方法を行うためのキットであって、CD4+CD8- T細胞、IL-2、TGF-β1、atRA、及びTCRを刺激する手段がコーティングされた培養プレートからなる群から選択される少なくとも1つを含むキット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本開示は、T細胞の分化誘導方法、T細胞の製造方法、T細胞、医薬組成物、及び、スクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特異的抗原に対して、免疫反応を惹起するか、免疫寛容を誘導するかを正しく選択することが、獲得免疫反応制御において最も重要である。自己抗原に対する免疫寛容は胸腺で作られる制御性T細胞(nTreg)、腸管での過剰な免疫反応抑制には誘導性制御性T細胞(iTreg)が重要であり、これらはともにCD4+Foxp3+ T細胞であることが知られている。自己免疫疾患を治療する目的で、過剰な免疫反応や自己に対する免疫反応を抑えるため、CD4+Foxp3+制御性T細胞を使うという試みが行われてきている。また、腫瘍に対する免疫抑制状態を解除し腫瘍を治療する目的で、CD4+Foxp3+制御性T細胞を抑えるという方向の試みも行われている。また、iTregは、ナイーブCD4 T細胞から試験管内で誘導できること、及び、レチノイン酸がiTregの誘導効率を上昇させることが報告されている(非特許文献1及び2)。
【0003】
一方、CD8+ T細胞にも、制御性T細胞のものがあることが報告されている。CD8αβ+CD122+CD44+ICOSL+TCRαβ+ T細胞は、免疫応答を減衰させることが知られている(非特許文献3)。また、CD8αα+CD122+TCRαβ+ T細胞は、実験的自己免疫性脳炎(EAE)を阻害する制御性T細胞のスクリーニングによって同定された(非特許文献4及び5)。CD8αα+TCRαβ+ T細胞の移植が、ナイーブCD4 T細胞をSCIDマウスに移植することで発生する大腸炎を抑制できることが報告されている(非特許文献6)。また、非肥満性糖尿病マウスは、CD8αα+TCRαβ+ T細胞の発生が損なわれており、これらの細胞集団がなんらかの制御的な役割を持つことが指摘されている(非特許文献7)。
【先行技術文献】
【0004】

【非特許文献1】DiPaolo RJ et al. Autoantigen-specific TGFbeta-induced Foxp3+ regulatory T cells prevent autoimmunity by inhibiting dendritic cells from activating autoreactive T cells. J Immunol. (2007) 179, 4685.
【非特許文献2】Coombes JL et al. A functionally specialized population of mucosal CD103+ DCs induces Foxp3+ regulatory T cells via a TGF-beta and retinoic acid-dependent mechanism. J Exp Med. (2007) 204, 1757.
【非特許文献3】Kim, H.J., Verbinnen, B., Tang, X., Lu, L. & Cantor, H. Inhibition of follicular T-helper cells by CD8(+) regulatory T cells is essential for self tolerance. Nature 467, 328-332 (2010).
【非特許文献4】Tang, X., Maricic, I. & Kumar, V. Anti-TCR antibody treatment activates a novel population of nonintestinal CD8 alpha alpha+ TCR alpha beta+ regulatory T cells and prevents experimental autoimmune encephalomyelitis. J Immunol 178, 6043-6050 (2007).
【非特許文献5】Kumar, V. Homeostatic control of immunity by TCR peptide-specific Tregs. J Clin Invest 114, 1222-1226 (2004).
【非特許文献6】Poussier, P., Ning, T., Banerjee, D. & Julius, M. A unique subset of self-specific intraintestinal T cells maintains gut integrity. J Exp Med 195, 1491-1497 (2002).
【非特許文献7】Zucchelli, S. et al. Defective central tolerance induction in NOD mice: genomics and genetics. Immunity 22, 385-396 (2005).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、CD4-CD8αα+ T細胞を分化誘導する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、一又は複数の実施形態において、CD4+CD8- T細胞をIL-2、TGF-β1、及びatRAが存在する条件下でin vitro培養することを含む、CD4+CD8- T細胞からCD4-CD8αα+ T細胞を分化誘導する方法に関する。
【0007】
本開示は、一又は複数の実施形態において、in vitroで存在する、CD4+CD8- T細胞由来のCD4-CD8αα+ T細胞に関する。
【0008】
本開示は、一又は複数の実施形態において、CD4+CD8- T細胞からCD4-CD8αα+ T細胞へのin vivoでの分化誘導を促進又は抑制する物質のスクリーニング方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、ナイーブCD4 T細胞からCD4-CD8αα+ T細胞へのin vitroでの分化が、TGF-β1、atRA、及びIL-2によって促進されることを示す図である。 図1aは、抗CD3ε抗体でコートされたプレート上で抗CD28抗体、IL-2、TGF-β1、及びatRAにより刺激されたナイーブCD4 T細胞をFACSで解析した結果の一例である。 図1bは、CD8αβ+ T細胞を図1aと同じ条件で刺激し、CD4-CD8αα+ T細胞への分化をFACSで解析した結果の一例である。 図1cは、様々なILをTGF-β1及びatRAと組み合わせてナイーブCD4 T細胞を刺激し、CD4-CD8αα+ T細胞をFACSで解析した結果の一例である。 図1dは、様々な濃度のatRAをTGF-β1及びIL-2と組み合わせてナイーブCD4 T細胞を刺激し、CD4-CD8αα+ T細胞をFACSで解析した結果の一例である。 図1a~dの各実験は少なくとも3回行い、代表的なデータを示した。
【図2】図2は、in vitroでの分化したCD4-CD8αα+ T細胞の遺伝子発現を確認した図である。 図2aは、ナイーブCD4 T細胞を図1aと同じ条件で刺激し、示した遺伝子の発現をFACS解析で評価した一例の図である。 図2bは、ナイーブCD4 T細胞を図1aと同じ条件で刺激し、CD4+ T細胞とCD8+ T細胞をそれぞれ選別し、CD4+ T細胞、CD8+ T細胞、及びナイーブCD4 T細胞における遺伝子発現をRT-PCRを用いて解析した結果の一例を示す。 図2a~bの各実験は少なくとも3回行い、代表的なデータを示した。
【図3】図3は、免疫後の脾臓内のCD8αα+ T細胞を確認した図である。FACS解析図は、NP-CGG/alumで免疫した後の脾臓にCD8αα+CD8αβ-CD4-TCRαβ T細胞の存在を示す。棒グラフは、免疫後及び未免疫の脾臓におけるCD4- T細胞中のCD8αα T細胞の存在比を示す。*P < 0.05; N = 3
【図4】図4は、Rag2-/-マウス内でCD4+TCRαβ T細胞からCD8αα+ T細胞が発生したことを示す図である。ナイーブCD4 T細胞(CD45.2)を移植して6カ月経過したRag2-/-マウス(CD45.1)のリンパ球のFACS解析を行った。リンパ球は、脾臓、パイエル板(PP)、並びに、小腸及び大腸の上皮内リンパ球(IEL)を用いた。 上段のFACS解析図は、TCRαβ+CD45.2+ T細胞についてCD4とCD8αの発現を解析した結果の一例である。 中段のFACS解析図は、CD4-CD8+ T細胞(I)についてCD8αとCD8βの発現を解析した結果の一例である。 下段のFACS解析図は、CD4+CD8+ T細胞(II)についてCD8αとCD8βの発現を解析した結果の一例である。
【図5】図5は、ナイーブCD4 T細胞からCD4-CD8αα+ T細胞への分化転換にはRunx3が必要であることを示す図である。野生型又はRunx3-/-の胎仔肝臓(FL)由来のナイーブCD4 T細胞を図1aと同じ条件で刺激し、CD4-CD8αα+ T細胞をFACSで解析した結果の一例である。各実験は少なくとも3回行い、代表的なデータを示した。
【図6】図6は、ナイーブCD4 T細胞からCD4-CD8αα+ T細胞がin vivoで発生するためにはRunx3が必要であることを示す図である。全トランス型レチノイン酸(atRA)を投与した野生型又はRunx3-/-の胎仔肝臓(FL)から得たナイーブCD4 T細胞(CD45.2)を移植したRag2-/-マウス(CD45.1)のリンパ球のFACS解析を行った。リンパ球は、脾臓、パイエル板(PP)、小腸及び大腸の上皮内リンパ球(IEL)、並びに、小腸及び大腸の固有層リンパ球(LPL)を用いた。各実験は少なくとも3回行い、代表的なデータを示した。
【図7】図7は、CD4+ T細胞からCD4-CD8αα+ T細胞への分化転換は免疫応答の間に起こることを示す図である。 図7aは、ナイーブCD4 T細胞(CD45.2)をRag2-/-マウスに注入し、免疫後の1、3、及び6日後に脾臓からTCRαβ+CD45.2+ T細胞についてCD4とCD8αの発現をFACS解析した結果の一例である。 図7bは、図7aで使用したマウスの組織から得たリンパ球のFACS解析の一例であって、TCRαβ+CD45.2+ T細胞のCD4、CD8α、CD8βの発現を調べた。リンパ球は、パイエル板(PP)、小腸及び大腸の上皮内リンパ球(IEL)、並びに、小腸及び大腸の固有層リンパ球(LPL)を用いた。 各実験は少なくとも3回行い、代表的なデータを示した。
【図8】図8は、CD4+ T細胞からCD4-CD8αα+ T細胞への分化転換は免疫応答の間に起こり、免疫反応を減衰することを示す図である。 図8aは、Rag2-/-マウスに野生型又はRunx3-/-のリンパ球を注入し、実験的自己免疫性脳炎(EAE)を誘導した後の神経疾患の兆候を追跡調査した結果の一例を示す。左のグラフは、2回の独立した実験から得たマウス10個体の平均EAE臨床スコアを、平均±標準誤差で示す。右のグラフは、2回の独立した実験から得たマウス10個体の疾病罹患率(%)を示す。 図8bは、ナイーブCD4 T細胞に由来する様々なT細胞サブセットの分化と機能を説明する図である。ナイーブCD4 T細胞は、様々なヘルパーT細胞、すなわち、Th1、Th2、Th9、Th17、及びTFH細胞に分化することで、免疫反応を促進する。細胞障害性T、B、及び他の免疫応答性細胞は、これらのCD4 T細胞の助けを受けて効果的に免疫応答に参加することができるようになる。強い又は長期の炎症は、CD4 T細胞からCD8αα制御性T細胞(CD8ααTreg)への分化転換に必要なTGF-β1及び全トランス型レチノイン酸(atRA)を誘導する。よって、同じ2つの因子が2つの制御性T細胞サブセット、すなわち、CD8ααTreg及び誘導性制御性T細胞(iTreg)を誘導する。本開示が示すとおり、CD8αα T細胞の分化には、iTregに比べてより強くかつより継続的な刺激が必要である。それゆえ、この2つのTregは異なる免疫調節機能を持つことが考えられる。CD8ααTregの機能の1つとして、慢性炎症反応における負のフィードバックループの確立が考えられる。すなわち、新たに発生したCD8ααT細胞(α4β7+CCR9+)は、腸に移動し、CD8αβメモリー細胞のようなその他の機能を持つことが考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示において、分子の後ろに「+」又は「-」が付いていない場合、特に言及がなければ、その分子が陽性であることを意味する。すなわち、例えば、「CD4 T細胞」は「CD4+T細胞」を意味する。

【0011】
本開示において、「細胞」は、特に言及がない場合、ヒト又はヒト以外の動物の細胞をいう。ヒト以外の動物は、限定されないが、一又は複数の実施形態において、マウスである。

【0012】
本開示では、以下の略語を使用することがある。
IL:インターロイキン
TGF-β:トランスフォーミング増殖因子ベータ
atRA:オールトランスレチノイン酸又はトレチノイン
Treg:制御性T細胞
TCR:T細胞受容体
IFN-γ:インターフェロンガンマ
FACS:蛍光活性セルソーター(フローサイトメトリーと同義)

【0013】
T細胞は胸腺において、CD8αβT細胞、CD4 T細胞、CD8ααT細胞の三つの細胞系譜への分化決定がなされ、その後末梢において分化の変更はないと一般的に考えられている。本開示は、その一般的な考えに反し、一度分化したCD4 T細胞が、末梢においてCD8ααT細胞に再分化(分化転換)するという知見に基づく。

【0014】
[CD4-CD8αα+ T細胞の分化誘導方法]
本開示は、一又は複数の実施形態において、CD4+CD8- T細胞をIL-2、TGF-β1、及びatRAが存在する条件下でin vitro培養することを含む、CD4+CD8- T細胞からCD4-CD8αα+ T細胞を分化誘導する方法(以下、「本開示にかかる分化誘導方法」ともいう)に関する。

【0015】
〔CD4+CD8- T細胞〕
前記CD4+CD8- T細胞は、一又は複数の実施形態において、ナイーブCD4 T細胞である。本開示において「ナイーブCD4 T細胞」は、未成熟T細胞が胸腺で成熟した後、末梢に放出され、一度も抗原により活性化されていないCD4+ T細胞をいう。ナイーブCD4 T細胞の取得方法は、特に制限されず、従来知られた又は今後開発されるナイーブCD4 T細胞の取得方法を適用できる。ナイーブCD4 T細胞の取得方法は、一又は複数の実施形態において、例えば動物個体の脾臓、リンパ節又は末梢血を採取し、適切な培地又は希釈液を用いて細胞の懸濁液を調製し、該懸濁液から細胞特異的表層マーカーを用いて単離する方法などが挙げられる。マーカー陽性とマーカー陰性のナイーブT細胞の分離する方法としては、例えば、マーカーに対する抗体を結合したマグネティックビーズを上記細胞懸濁液に添加し、マグネティックビーズを磁石で集めることにより、マーカーを発現しているT細胞を分離する方法(マグネティックビーズ法)が挙げられる。

【0016】
前記CD4+CD8- T細胞は、一又は複数の実施形態において、抗原特異的CD4+CD8- T細胞である。抗原特異的CD4+CD8- T細胞は、一又は複数の実施形態において、免疫した動物個体の脾臓、リンパ節又は末梢血を採取し、適切な培地又は希釈液を用いて細胞の懸濁液を調製し、該懸濁液から細胞特異的表層マーカーを用いて単離する方法が挙げられる。また、抗原特異的CD4+CD8- T細胞は、一又は複数の実施形態において、in vitroにおいて特異抗原を貪食させた抗原提示細胞に反応するCD4+CD8- T細胞を単離すること、或いは、in vitroにおいて特異抗原を貪食させた抗原提示細胞によって細胞集団中で抗原特異的CD4+CD8- T細胞のみを増殖させることなどによって得ることができる。

【0017】
培養に使用する前記CD4+CD8- T細胞数、すなわち、培養開始時のCD4+CD8- T細胞の数は、一又は複数の実施形態において、5.0 x 105個/mL以下、3.0 x 105個/mL以下、又は1.0 x 105個/mL以下である。CD4-CD8αα+ T細胞への分化誘導効率を向上する点からは、培養開始時の細胞数はより少ないことが好ましい。培養開始時のCD4+CD8- T細胞の数の下限は、特に制限されないが、CD4-CD8αα+ T細胞への分化誘導効率を向上する点から、一又は複数の実施形態において、1.0 x 103個/mL以上、又は、1.0 x 104個/mL以上である。

【0018】
〔TCRを刺激する手段がコーティングされた培養プレート〕
本開示にかかる分化誘導方法における前記培養は、一又は複数の実施形態において、TCRを刺激する手段がコーティングされた培養プレート上で行われる。TCRを刺激する手段が培養プレートにコーティングされることで、CD4-CD8αα+ T細胞への分化誘導効率を向上できるとい利点がある。前記TCRを刺激する手段は、CD4+CD8- T細胞に発現しているTCRを刺激できるもので有れば特に限定されず、一又は複数の実施形態において、CD4+CD8- T細胞に発現している分子に対する抗体である。前記抗体は、特に限定されず、一又は複数の実施形態において、抗CD3抗体である。前記抗CD3抗体は、一又は複数の実施形態において、抗CD3ε抗体である。

【0019】
培養プレートにコーティングされるTCRを刺激する手段の量は、一又は複数の実施形態において、抗CD3抗体に換算した値として、0.5μg/mL以上、1.0μg/mL以上、3.0μg/mL以上、又は、5.0μg/mL以上である。CD4-CD8αα+ T細胞への分化誘導効率を向上する点からは、TCRへの刺激は強いほど好ましく、よって、培養プレートにコーティングされるTCRを刺激する手段の量は多いほど好ましい。培養プレートにコーティングされるTCRを刺激する手段の量の上限は、特に制限されず、CD4-CD8αα+ T細胞への分化誘導を阻害しない程度であり、一又は複数の実施形態において、30μg/mL以下である。

【0020】
TCRを刺激する手段がコーティングされる培養プレートは、特に制限されず、従来知られた又は今後開発される細胞培養用のプレートが使用できる。

【0021】
〔培養時間〕
本開示にかかる分化誘導方法における前記培養の時間は、一又は複数の実施形態において、6日以上、7日以上、8日以上、又は9日以上である。CD4-CD8αα+ T細胞への分化誘導効率を向上する点からは、前記培養の時間はiTregの誘導よりも長い培養日数であることが好ましい。前記培養時間の上限は、特に制限されず、CD4-CD8αα+ T細胞への分化誘導を阻害しない程度であり、一又は複数の実施形態において、20日以下である。

【0022】
〔atRA〕
本開示にかかる分化誘導方法における前記培養において、オールトランスレチノイン酸(atRA)は必須の成分である。前記培養開始時におけるatRAの存在量は、一又は複数の実施形態において、10 nM以上、100 nM以上、1μM以上、1μMを超える、2μM以上、5μM以上、又は、10μM以上である。CD4-CD8αα+ T細胞への分化誘導効率を向上する点からは、atRAの存在量は、多いほど好ましい。atRNの存在量の上限は、特に制限されず、CD4-CD8αα+ T細胞への分化誘導を阻害しない程度であり、一又は複数の実施形態において、100μM以下である。

【0023】
〔IL-2〕
本開示にかかる分化誘導方法における前記培養において、IL-2は必須の成分である。前記培養開始時におけるIL-2の存在量は、一又は複数の実施形態において、10 ng/mL以上、又は15 ng/mL以上である。IL-2の存在量の上限は、特に制限されず、CD4-CD8αα+ T細胞への分化誘導を阻害しない程度であり、一又は複数の実施形態において、100 ng/mL以下である。

【0024】
〔TGF-β1〕
本開示にかかる分化誘導方法における前記培養においてTGF-β1は必須の成分である。前記培養開始時におけるTGF-β1の存在量は、一又は複数の実施形態において、0.5 ng/mL以上、又は1 ng/mL以上である。TGF-β1の存在量の上限は、特に制限されず、CD4-CD8αα+ T細胞への分化誘導を阻害しない程度であり、一又は複数の実施形態において、50 ng/mL以下である。

【0025】
「(細胞を)IL-2、TGF-β1、及びatRAが存在する条件下でin vitro培養すること」は、限定されない一又は複数の実施形態において、IL-2、TGF-β1、及びatRAが添加された培養培地で細胞を培養することをいう。本開示にかかる分化誘導方法における前記培養において培地を交換する場合、前述した所定の濃度のIL-2、TGF-β1、及びatRAが添加された新しい培地を使用することができる。

【0026】
〔その他の成分〕
本開示にかかる分化誘導方法における前記培養は、一又は複数の実施形態において、さらに、共刺激抗体及び/又はサイトカインのブロッキング抗体の存在下で行う。前記共刺激抗体は、限定されない一又は複数の実施形態において、抗CD28抗体である。前記サイトカインのブロッキング抗体は、限定されない一又は複数の実施形態において、抗IFN-γ抗体、及び抗IL-4抗体である。本開示にかかる分化誘導方法における前記培養は、一又は複数の実施形態において、抗CD28抗体、抗IFN-γ抗体、及び抗IL-4抗体から選択される一種類若しくは二種類、又は、三種類全ての抗体の存在下で行う。CD4-CD8αα+ T細胞への分化誘導効率を向上する点からは、これらの三種類の抗体(抗CD28抗体、抗IFN-γ抗体、及び抗IL-4抗体)が存在することが好ましい。すなわち、本開示にかかる分化誘導方法における前記培養は、一又は複数の実施形態において、「CD4+CD8- T細胞をIL-2、TGF-β1、atRA、抗CD28抗体、抗IFN-γ抗体、及び抗IL-4抗体が存在する条件下でin vitro培養すること」である。

【0027】
前記培養開始時における抗CD28抗体の存在量は、一又は複数の実施形態において、300 ng/mL以上、又は500 ng/mL以上である。抗CD28抗体の存在量の上限は、特に制限されず、CD4-CD8αα+ T細胞への分化誘導を阻害しない程度であり、一又は複数の実施形態において、20μg/mL以下である。前記培養開始時における抗IFN-γ抗体の存在量は、一又は複数の実施形態において、500 ng/mL以上、又は1μg/mL以上である。抗IFN-γ抗体の存在量の上限は、特に制限されず、CD4-CD8αα+ T細胞への分化誘導を阻害しない程度であり、一又は複数の実施形態において、30μg/mL以下である。前記培養開始時における抗IL-4抗体の存在量は、一又は複数の実施形態において、500 ng/mL以上、又は1μg/mL以上である。抗IL-4抗体の存在量の上限は、特に制限されず、CD4-CD8αα+ T細胞への分化誘導を阻害しない程度であり、一又は複数の実施形態において、30μg/mL以下である。

【0028】
〔その他の培養条件〕
本開示にかかる分化誘導方法における前記培養の温度は、一又は複数の実施形態において、35~39℃、36~38℃、又は37℃で行う。前記培養の培地は、特に制限されず、T細胞の培養に使用できる従前知られた又は今後開発される培地が使用できる。

【0029】
[CD4-CD8αα+ T細胞の製造方法]
本開示は、一又は複数の実施形態において、本開示にかかる分化誘導方法を行うことを含む、CD4-CD8αα+ T細胞の製造方法に関する。本開示にかかる製造方法は、一又は複数の実施形態において、前記分化誘導方法後にCD4-CD8αα+ T細胞を分離又は単離する工程を含んでもよい。或いは、本開示にかかる製造方法は、一又は複数の実施形態において、前記分化誘導方法後にCD4-CD8αα+ T細胞を含む細胞集団を製造対象物としてもよい。よって、本開示は、一又は複数の実施形態において、本開示にかかる製造方法により製造されるCD4-CD8αα+ T細胞、又はCD4-CD8αα+ T細胞を含む細胞集団に関する。

【0030】
[CD4-CD8αα+ T細胞・細胞集団]
本開示は、一又は複数の実施形態において、in vitroで存在する、CD4+CD8- T細胞由来のCD4-CD8αα+ T細胞に関する。また、本開示は、一又は複数の実施形態において、in vitroで存在する、CD4+CD8- T細胞由来のCD4-CD8αα+ T細胞を含む細胞集団に関する。本開示にかかるCD4+CD8- T細胞由来のCD4-CD8αα+ T細胞は、一又は複数の実施形態において、Runx3が発現している。

【0031】
本開示において「in vitroで存在する」とは、限定されない一又は複数の実施形態において、生体外で存在することをいい、限定されない一又は複数の実施形態において、生体外で分化誘導されたことをいう。本開示において「CD4+CD8- T細胞由来の」とは、限定されない一又は複数の実施形態において、CD4+CD8- T細胞から発生した細胞であることをいい、限定されない一又は複数の実施形態において、CD4+CD8- T細胞が分化転換した細胞であることをいう。

【0032】
本開示にかかるCD4+CD8- T細胞由来のCD4-CD8αα+ T細胞は、一又は複数の実施形態において、CD4 T細胞になりやすい抗原受容体を持ち、細胞障害性T細胞機能を持った細胞集団といえる。また、CD4+ T細胞由来の多様なTCRを持つため、多様な抗原特異性を示すことができ、より様々な免疫抑制反応に対応できる可能性がある。さらに、本開示にかかるCD4+CD8- T細胞由来のCD4-CD8αα+ T細胞は、一又は複数の実施形態において、他のCD4T細胞の助けなしに活性化されるCD8 T細胞といえる。それゆえ、本開示にかかるCD4+CD8-T細胞由来のCD4-CD8αα+ T細胞は、限定されない一又は複数の実施形態において、自己免疫疾患の治療、或いは、抗腫瘍効果の向上、及び抗ウイルス効果の向上に有用となる可能性がある。また、本開示にかかるCD4+CD8- T細胞由来のCD4-CD8αα+ T細胞は、後述する実施例に示すとおり、一又は複数の実施形態において、制御性T細胞としての機能を持ちうる。

【0033】
[医薬組成物及びその用途]
したがって、本開示は、一又は複数の実施形態において、本開示にかかるCD4+CD8- T細胞由来のCD4-CD8αα+ T細胞、又は該T細胞を含む細胞集団を含む医薬組成物に関する。また、本開示は、一又は複数の実施形態において、自己免疫疾患、悪性腫瘍、又は、ウイルス感染症の予防、改善、進行抑制、及び/又は、治療のための医薬組成物であって、本開示にかかるCD4+CD8- T細胞由来のCD4-CD8αα+ T細胞、又は該T細胞を含む細胞集団を含む医薬組成物に関する。

【0034】
本開示にかかる医薬組成物は、一又は複数の実施形態において、本開示にかかるCD4+CD8- T細胞由来のCD4-CD8αα+ T細胞、又は該T細胞を含む細胞集団に加えて薬学上許容可能なキャリヤを含む。本開示において「薬学上許容可能な」という用語は、動物、及び/又は、ヒトでの使用について、日本薬局法、合衆国薬局方、欧州薬局方又は他の一般に認められている薬局方に記載されていることを意味する。本開示において「キャリヤ」という用語は、治療薬を一緒に投与する希釈剤、アジュバント、賦形剤又はビヒクルをいう。医薬組成物は、所望ならば、少量のpH緩衝剤を含むこともできる。適当な薬学キャリヤの例は、「レミントン製薬科学(Remington's Pharmaceutical Sciences)」E W Martin著に記載されている。本開示にかかる医薬組成物は、一又は複数の実施形態において、自己免疫疾患、悪性腫瘍、又は、ウイルス感染症の予防、改善、進行抑制、及び/又は、治療に有効量の前記細胞又は細胞集団を含む。

【0035】
本開示にかかる医薬組成物は、様々な形態であることができる。本開示にかかる医薬組成物は、一又は複数の実施形態において、固体、半固体、又は、液体の投薬形態が挙げられ、例えば、凍結乾燥製剤、液体溶液、懸濁液、注射用液、又は、輸液用液などが挙げられる。好ましい形態は、目的とする投与用式及び治療用途によって変化しうる。本開示にかかる医薬組成物の対象への投与方法は、通常の手段によって行うことができる。本開示にかかる医薬組成物は、一又は複数の実施形態において、所望な組織に、移植片として、又は、直接輸送することで、患者に投与されうる。本開示にかかる医薬組成物は、任意の適当な方法によって所望な組織に輸送することができ、一又は複数の実施形態において、カテーテル、トロカール、カニューレ、ステンなどの器具を用いて体内部位に輸送することができる。

【0036】
本開示は、一又は複数の実施形態において、自己免疫疾患、悪性腫瘍、又は、ウイルス感染症の予防、改善、進行抑制、及び/又は、治療のための本開示にかかるCD4+CD8- T細胞由来のCD4-CD8αα+ T細胞、又は該T細胞を含む細胞集団に関する。また、本開示は、一又は複数の実施形態において、自己免疫疾患、悪性腫瘍、又は、ウイルス感染症の予防、改善、進行抑制、及び/又は、治療のための医薬組成物を製造するための本開示にかかるCD4+CD8- T細胞由来のCD4-CD8αα+ T細胞、又は該T細胞を含む細胞集団の使用に関する。さらに、本開示は、一又は複数の実施形態において、自己免疫疾患、悪性腫瘍、又は、ウイルス感染症の予防、改善、進行抑制、及び/又は、治療の方法であって、本開示にかかるCD4+CD8- T細胞由来のCD4-CD8αα+ T細胞、又は該T細胞を含む細胞集団を対象に投与することを含む方法に関する。本開示にかかる医薬組成物又は本開示にかかるCD4+CD8- T細胞由来のCD4-CD8αα+ T細胞若しくは該T細胞を含む細胞集団の投与対象としては、ヒト以外の動物、又はヒトが挙げられる。

【0037】
[スクリーニング方法]
本開示は、一又は複数の実施形態において、CD4+CD8- T細胞からCD4-CD8αα+ T細胞への分化誘導を促進又は抑制する物質のスクリーニング方法に関する。前記スクリーニング方法は、一又は複数の実施形態において、本開示にかかる分化誘導方法を行うことを含む。前記スクリーニング方法は、その他の一又は複数の実施形態において、本開示にかかる分化誘導方法を行い、分化誘導の効果を指標として、テスト物質から候補物質を選択することを含む。

【0038】
本開示は、一又は複数の実施形態において、CD4+CD8- T細胞からCD4-CD8αα+ T細胞へのin vivoでの分化誘導を促進又は抑制する候補物質のスクリーニング方法であって、テスト物質の存在下で本開示にかかる分化誘導方法を行うこと、テスト物質の非存在下の場合と比べてCD4-CD8αα+ T細胞の分化誘導の効率を促進又は抑制したテスト物質を候補物質として選択することを含むスクリーニング方法に関する。

【0039】
本開示にかかるスクリーニング方法は、一又は複数の実施形態において、さらなる検討を行って分化誘導を促進又は抑制する物質と判断するべき「候補物質」の選択を目的としてもよい。また、本開示にかかるスクリーニング方法は、一又は複数の実施形態において、選択された候補物質のさらなる検討を行って分化誘導を促進又は抑制する物質と判断する工程を含んでもよい。

【0040】
〔テスト物質〕
本開示にかかるスクリーニング方法におけるテスト物質は、特に限定されない。本開示において「物質」は、一又は複数の実施形態において、化合物、組成物、混合物、抽出物、天然物、又は合成物であってよい。テスト物質は、一又は複数の実施形態において、スクリーニングライブラリーを利用してもよく、特に限定されないが、化合物若しくはその塩、組成物、混合物、抽出物、天然物、又は合成物のライブラリーが利用できる。

【0041】
[キット]
本開示は、一又は複数の実施形態において、本開示にかかる分化誘導方法を行うためのキット、又は、本開示にかかるスクリーニング方法を行うためのキットに関する。本開示にかかるキットは、一又は複数の実施形態において、CD4+CD8- T細胞、IL-2、TGF-β1、atRA、TCRを刺激する手段がコーティングされた培養プレート、抗CD28抗体、抗IFN-γ抗体、抗IL-4抗体、培地、及び、本開示にかかる分化誘導方法の説明書から選択される少なくとも1つを含みうる。

【0042】
すなわち、本開示は以下の一又は複数の実施形態に関しうる;
[A1] CD4+CD8- T細胞をIL-2、TGF-β1、及びatRAが存在する条件下でin vitro培養することを含む、CD4+CD8- T細胞からCD4-CD8αα+ T細胞を分化誘導する方法;
[A2] 前記CD4+CD8- T細胞が、ナイーブCD4 T細胞である、[A1]記載の分化誘導方法;
[A3] 前記CD4+CD8- T細胞として、抗原特異的CD4+CD8- T細胞又は抗原特異的CD4+CD8- T細胞を増殖させた細胞集団を使用する、[A1]記載の分化誘導方法;
[A4] 前記培養が、TCRを刺激する手段がコーティングされた培養プレート上で行われる、[A1]から[A3]のいずれかに記載の分化誘導方法;
[A5] 前記培養が、6日以上である、[A1]から[A4]のいずれかに記載の分化誘導方法;
[A6] 培養開始時のCD4+CD8- T細胞の数が、5.0 x 105個/mL以下である、[A1]から[A5]のいずれかに記載の分化誘導方法;
[A7] atRAの濃度が、1μMを超える、[A1]から[A6]のいずれかに記載の分化誘導方法;
[A8] 前記培養が、さらに、抗CD28抗体、抗IFN-γ抗体、及び抗IL-4抗体からなる群から選択される一種類、二種類、又は三種類の抗体が存在する条件下で行われる、[A1]から[A7]のいずれかに記載の分化誘導方法;
[A9] [A1]から[A8]のいずれかに記載の分化誘導方法を行うことを含む、CD4-CD8αα+ T細胞の製造方法;
[A10] [A1]から[A8]のいずれかに記載の分化誘導方法により製造される、CD4-CD8αα+ T細胞;
[A11] in vitroで存在する、CD4+CD8- T細胞由来のCD4-CD8αα+ T細胞;
[A12] in vitroで存在する、CD4+CD8- T細胞由来のCD4-CD8αα+ T細胞を含む細胞集団;
[A13] Runx3が発現している、[A11]のT細胞、又は、[A12]記載の細胞集団;
[A14] [A11]から[A13]のいずれかに記載のT細胞又は細胞集団を含む医薬組成物;
[A15] 自己免疫疾患、悪性腫瘍、又は、ウイルス感染症の予防、改善、進行抑制、及び/又は、治療のための[A14]記載の医薬組成物;
[A16] CD4+CD8- T細胞からCD4-CD8αα+ T細胞への分化誘導を促進又は抑制する物質のスクリーニングにおける、[A1]から[A8]のいずれかに記載の分化誘導方法の使用;
[A17] CD4+CD8- T細胞からCD4-CD8αα+ T細胞へのin vivoでの分化誘導を促進又は抑制する物質のスクリーニング方法であって、テスト物質の存在下で[A1]から[A8]のいずれかに記載の分化誘導方法を行うこと、及び、テスト物質の非存在下と比べてCD4-CD8αα+ T細胞の分化誘導の効率を促進又は抑制したテスト物質を候補物質として選択することを含む、スクリーニング方法;
[A18] [A1]から[A8]のいずれかに記載の分化誘導方法又は[A16]又は[A17]記載のスクリーニング方法を行うためのキットであって、CD4+CD8- T細胞、IL-2、TGF-β1、atRA、及びTCRを刺激する手段がコーティングされた培養プレートからなる群から選択される少なくとも1つを含むキット。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本開示をさらに詳細に説明するが、これらは例示的なものであって、本開示はこれら実施例に制限されるものではない。
【実施例】
【0044】
[ナイーブCD4 T細胞からCD4-CD8αα+ T細胞へのin vitro分化誘導]
C57BL/6脾臓細胞よりナイーブCD4 T細胞を分離調製し、in vitroにてCD8ααT細胞を分化誘導した。ナイーブCD4 T細胞からCD4-CD8αα+ T細胞へのin vitro分化誘導条件は下記の条件であった。
【実施例】
【0045】
〔ナイーブCD4 T細胞からCD4-CD8αα+ T細胞へのin vitro分化誘導条件〕
ナイーブCD4+TCRαβ+ T細胞は、Magntic Activated Cell Sorting(MACS)法の適切なキットを用い、C57BL/6脾臓細胞より調製した。ナイーブCD4 T細胞(1 x 105 個/mL)を、抗CD28抗体(1μg/mL)、抗IFN-γ抗体(3μg/mL)、抗IL-4抗体(3μg/mL)、TGF-β(3 ng/mL)、IL-2(20 ng/mL)、atRA(10 nM-10μM)存在下で抗CD3抗体コーティングプレート(5μg/mL)を用いて7-9日間培養した。
【実施例】
【0046】
前記in vitro分化誘導条件では、iTreg(誘導性制御性T細胞;CD4+Foxp3+制御性T細胞)の誘導に使用されるIL-2、TGF-β1、及び全トランス型レチノイン酸(以下、「atRA」ともいう。)の3つ全ての要素が必要であった。一方、iTregの誘導にはatRAは必須ではなく、単なるサポート要素である。in vitro分化誘導した細胞のFACS解析(FACSCaliburor FACSAria、Becton Dickinson社製)の結果を図1aに示す。図1aに示す通り、CD4-CD8αα+ T細胞が、ナイーブCD4 T細胞からin vitroで分化誘導された。
【実施例】
【0047】
〔CD8αβ+ T細胞からCD8αα+ T細胞へのin vitro分化誘導〕
ナイーブCD4 T細胞に換えて、ナイーブCD4 T細胞と同様に調製したCD8αβ+TCRαβ+ T細胞を用いた以外は図1aで採用した前記in vitro分化誘導条件と同様に誘導処理を行った。そのFACS解析(同上)の結果を図1bに示す。図1bに示す通り、CD8αβ+ T細胞を使用した場合には、CD8αα+ T細胞の発生は観察されなかった。
【実施例】
【0048】
〔in vitro分化誘導に用いるインターロイキン〕
ヘルパーT細胞サブセットの分化にはインターロイキン(IL)が重要な役割をしている。そこで、IL2に換えて様々なILを採用した図1aで採用した前記in vitro分化誘導条件にてナイーブCD4 T細胞を刺激した。そのFACS解析(同上)の結果を図1cに示す。図1cに示すとおり、IL-2がCD8αα+ T細胞の発生に最も強力な効果を有していた。
【実施例】
【0049】
〔in vitro分化誘導におけるTCRシグナル強度及びatRA濃度〕
CD8αα+ T細胞のin vitro分化誘導におけるTCRシグナル強度(抗CD3抗体濃度)及びatRA濃度と誘導効率を検討した。その結果を図1dに示す。図1dは、CD8αα+ T細胞のin vitro分化誘導効率は、TCRの刺激が強い(抗CD3抗体が多い)ほど、また、atRAの濃度が高いほど向上した。
【実施例】
【0050】
[分化誘導されたCD4-CD8αα+ T細胞の遺伝子発現パターン]
in vitroで分化したCD4-CD8αα+ T細胞の遺伝子発現を確認した。ナイーブCD4 T細胞を図1aで採用した前記in vitro分化誘導条件で刺激し、様々な遺伝子の発現をFACS解析で評価した。その結果の一例を図2aに示す。図2aに示すとおり、CD8αα集団において、Granzyme A及びBの発現が増加する一方、Foxp3の発現が減少した。また、CD8αα集団において、CD122及びICOSLの細胞表面における発現が増加した。
【実施例】
【0051】
次に、ナイーブCD4 T細胞を図1aで採用した前記in vitro分化誘導条件で刺激し、CD4+ T細胞とCD8+ T細胞をそれぞれ選別し、CD4+ T細胞(iTreg)、CD8+ T細胞(CD8ααT細胞)、及びナイーブCD4 T細胞における遺伝子発現をRT-PCRを用いて解析した。その結果の一例を図2bに示す。図2bに示すとおり、Runx1及びThPOKは特異的にナイーブCD4 T細胞で発現していた。また、分化誘導後、CD8ααT細胞ではRunx3の発現が確認されたが、ナイーブCD4 T細胞及びiTregサブセットではRunx3の発現の発現は確認されなかった。
【実施例】
【0052】
[脾臓内でのCD8αα+ T細胞の確認]
腹腔内に100μgのNP-チキンガンマグロブリン(CGG)(in alum)を注入することで免疫した野生型C57BL/6マウスの脾臓からリンパ球を回収し、該脾臓にCD8αα+CD8αβ-CD4-TCRαβ T細胞の存在することを確認した。その結果図3に示す。図3に示すとおり、免疫後の脾臓内のCD8αα T細胞の割合は、未免疫の脾臓に比べて増加した。
【実施例】
【0053】
[CD4-CD8αα+ T細胞がCD4+TCRαβ T細胞からin vivoで発生することの確認]
C57BL/6脾臓細胞よりナイーブCD4 T細胞を分離調製し、RAG2欠損(Rag2-/-)マウス(リンパ球が出来ないマウス)に移植後、in vivoでCD8ααT細胞に再分化出来るか評価した。移植には、0.5-2.5 x 106個のナイーブCD4 T細胞(CD45.2)を使用した。ナイーブCD4 T細胞を移植して6カ月経過したRag2-/-マウス(CD45.1)のリンパ球のFACS解析を行った。その結果を図4に示す。移植後20日後ではCD8ααT細胞は検出できなかったが、移植後6カ月後においては、図4に示すとおり、CD8ααT細胞の発生が確認された。すなわち、in vitroの分化誘導と同様に、in vivoにおいてもナイーブCD4 T細胞からCD4-CD8αα+ T細胞への分化転換が起きることが確認された。
【実施例】
【0054】
[in vitroの分化誘導におけるRunx3の必要性]
Runx3欠損マウスより調製したナイーブCD4 T細胞を用いて、CD4-CD8αα+ T細胞をin vitroで分化誘導できるかどうかを確認した。野生型又はRunx3-/-の胎仔肝臓(FL)由来のナイーブCD4 T細胞を図1aで採用した前記in vitro分化誘導条件で刺激した。誘導後の細胞集団をFACSで解析した。その結果を図5に示す。図5に示すとおり、Runx3-/-ナイーブCD4 T細胞は、CD4-CD8αα+ T細胞へのin vitro分化転換をすることはできなかった。
【実施例】
【0055】
[in vivoの分化転換におけるRunx3の必要性]
Runx3欠損マウスよりナイーブCD4 T細胞を分離調製し、RAG2欠損(Rag2-/-)マウス(リンパ球が出来ないマウス)に移植後、in vivoでCD4-CD8αα+ T細胞に分化転換できるか評価した。野生型又はRunx3-/-の胎仔肝臓(FL)由来の0.5-2.5 x 106個のナイーブCD4T細胞(CD45.2)をRag2-/-マウス(CD45.1)に移植した。大豆オイルに溶解した200μg/100μLのatRAを腹腔内に注入して免疫し、その6日後にリンパ球を回収してFACS解析を行った。脾臓、パイエル板(PP)、小腸及び大腸の上皮内リンパ球(IEL)、並びに、小腸及び大腸の固有層リンパ球(LPL)のリンパ球の結果を図6に示す。
【実施例】
【0056】
図6に示すとおり、野生型ナイーブCD4 T細胞からCD4-CD8αα+ T細胞へのatRA依存的in vivo分化転換が、末梢リンパ組織で起こっていた。一方、atRA依存的in vivo分化転換は、Runx3欠損ナイーブCD4 T細胞では起らなかった。したがって、ナイーブCD4 T細胞からCD4-CD8αα+ T細胞への分化転換において、Runx3は極めて重要な役割を果たすことが確認された。
【実施例】
【0057】
[in vivo分化転換のタイミング]
C57BL/6脾臓細胞よりナイーブCD4 T細胞(CD45.2)を分離調製し、RAG2欠損(Rag2-/-)マウス(CD45.1)に上記と同様に移植後、大豆オイルに溶解した200μg/100μLのatRAを腹腔内に注入して免疫し、その免疫後の1、3、及び6日後にリンパ球(CD45.2)を回収してFACS解析を行った。その結果を図7a及びbに示す。図7aに示すとおり、脾臓では、1、3、及び6日後に約1%のCD8ααT細胞が検出された。この値は、通常の免疫時の値である。図7bに示すとおり、6日後のパイエル板、IEL、LPLには、1及び3日後に比べて著しく大きなCD4-CD8αα+ T細胞集団が確認された。これらの結果は、ナイーブCD4 T細胞からCD4-CD8αα+ T細胞への分化転換が免疫応答の部位で起こり、新たに発生したCD4-CD8αα+ T細胞が腸へ移動していること示唆する。
【実施例】
【0058】
[制御性T細胞としての機能]
多発性硬化症マウス疾患モデル(実験的自己免疫性脳炎(EAE))にて、Runx3欠損マウスと野生型マウスを比較した。EAEは、CD8T細胞が病態の抑制に重要であることが知られている。したがって、この自己免疫疾患モデルは、CD4-CD8αα+ T細胞の制御性T細胞としての機能を調べるために適している。
【実施例】
【0059】
具体的には、Rag2-/-マウスに野生型又はRunx3-/-のリンパ球を注入し、EAEを誘導した後の神経疾患の兆候を追跡調査した。その結果を図8aに示す。図8aに示すとおり、実験開始直後では、EAE臨床スコア及びEAE罹患率に両遺伝子型間で違いはなかった。しかし、Runx3-/-マウスでは、EAEからの回復ができず、6週後のEAE臨床スコアにおいて有意な差がでた(P = 0.0010)。これらのデータは、CD4-CD8αα+ T細胞が、免疫応答時の負の影響を低減する負のフィードバックループにおいて、重要な制御的役割、すなわち、制御性T細胞としての役割を担っていることを示唆する(図8b参照)。
図面
【図8】
0
【図1】
1
【図2】
2
【図3】
3
【図4】
4
【図5】
5
【図6】
6
【図7】
7