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明細書 :複合粒子

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2017-101123 (P2017-101123A)
公開日 平成29年6月8日(2017.6.8)
発明の名称または考案の名称 複合粒子
国際特許分類 C08F 292/00        (2006.01)
G01N  33/543       (2006.01)
B01J  20/30        (2006.01)
B01J  20/281       (2006.01)
FI C08F 292/00
G01N 33/543 525W
G01N 33/543 525U
G01N 33/543 525E
B01J 20/30
B01J 20/26 L
請求項の数または発明の数 7
出願形態 OL
全頁数 23
出願番号 特願2015-233672 (P2015-233672)
出願日 平成27年11月30日(2015.11.30)
発明者または考案者 【氏名】大野 工司
【氏名】吉田 慎一
【氏名】多胡 善幸
出願人 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
個別代理人の代理人 【識別番号】110000040、【氏名又は名称】特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ
審査請求 未請求
テーマコード 4G066
4J026
Fターム 4G066AA22C
4G066AA27C
4G066AB03D
4G066AB07D
4G066AB09D
4G066AC03B
4G066AC12D
4G066BA09
4G066BA20
4G066CA20
4G066EA02
4G066FA09
4G066FA37
4J026BA05
4J026BA27
4J026DB30
4J026GA01
要約 【課題】均一な粒径、及び、高い分散安定性を示し、特定に分子に特異的に結合する、生体分子の検出や分離に有用な粒子の提供。
【解決手段】高分子グラフト鎖、微粒子及びアフィニティー・リガンドを含む複合粒子で、前記高分子グラフト鎖の一方の末端は、グラフト密度が0.1本鎖/nm2以上で前記微粒子表面に結合し、前記高分子グラフト鎖の別の一方の末端に、前記アフィニティー・リガンドが結合し、前記高分子グラフト鎖の全長の20%未満に前記アフィニティー・リガンドが結合されている複合粒子。前記高分子グラフト鎖が、前記粒子表面上の重合開始基を基点とした(メタ)アクリル酸誘導体、(メタ)アクリルアミド誘導体、及びスチレン誘導体から選択される1以上の単量体のリビングラジカル重合によって得られ、かつ、前記高分子グラフト鎖の全長の20%未満の部位に、前記アフィニティー・リガンドと結合性の単量体を更に含む複合粒子。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
高分子グラフト鎖、微粒子およびアフィニティー・リガンドを含む複合粒子であり、
前記高分子グラフト鎖の一方の末端は、グラフト密度が0.1本鎖/nm2以上で前記微粒子表面に結合され、
前記高分子グラフト鎖の別の一方の末端に、前記アフィニティー・リガンドが結合され、前記高分子グラフト鎖の全長の20%未満に前記アフィニティー・リガンドが結合されている
複合粒子。
【請求項2】
前記高分子グラフト鎖が、前記粒子表面上の重合開始基を基点としたアクリル酸誘導体、メタクリル酸誘導体、アクリルアミド誘導体、メタクリルアミド誘導体およびスチレン誘導体からなる群から選択される1以上のモノマーのリビングラジカル重合によって得られ、かつ、
前記高分子グラフト鎖の全長の20%未満の部位に、前記アフィニティー・リガンドと結合性のモノマーをさらに含む
請求項1に記載の複合粒子。
【請求項3】
前記高分子グラフト鎖の数平均分子量(Mn)が、10,000以上であり、かつ、320,000以下である請求項1または2に記載の複合粒子
【請求項4】
前記アフィニティー・リガンドと結合しうる分子、または、前記分子を含む対象を、請求項1~3のいずれかに記載の複合粒子と接触させる工程を含む、前記分子を検出する方法。
【請求項5】
前記アフィニティー・リガンドと結合しうる分子、または、前記分子を含む対象を、請求項1~3のいずれかに記載の複合粒子と接触させる工程を含む、前記分子を精製する方法。
【請求項6】
前記アフィニティー・リガンドと結合しうる分子、または、前記分子を含む対象を、請求項1~3のいずれかに記載の複合粒子と接触させる工程を含む、前記分子の変化を誘発する方法。
【請求項7】
末端の位置にアフィニティー・リガンドと結合する部位を有する高分子グラフト鎖が表面に結合された微粒子と、アフィニティー・リガンドとを反応させる工程を含む請求項1に記載の複合粒子の製造方法であり、
前記高分子グラフト鎖の一方の末端は、グラフト密度が0.1本鎖/nm2以上で前記微粒子表面に結合されている製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、複合粒子、詳細には、特定分子への特異的結合能を有する複合粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
生体分子の検出や分離に有用な粒子に生化学的機能や生体適合性を持たせるため、粒子表面をポリマーで修飾する技術開発は古くより盛んに行われてきた(非特許文献1)。これらの技術の発展系として、抗体などのアフィニティー・リガンドをポリマー部分に付与して、特定分子に特異的に結合する機能を持たせる技術開発も、同様に多くの研究例が報告されている。
【0003】
このようなポリマーによる粒子表面修飾技術の1つとして、表面開始リビングラジカル重合を利用して、長さの揃ったポリマーを極めて高い密度で粒子表面にグラフトする技術がある(特許文献1、非特許文献2)。この技術によって合成されたポリマー付与粒子は、均一な粒径、および、高い分散安定性を示す。また、ポリマーが親水性の場合には、タンパク質の非特異吸着が抑制されるという特徴を示すので、それをバイオ・医療用途で活かした研究報告例もある(特許文献2、3、非特許文献3、4)。
【0004】
しかし、粒子表面にアフィニティー・リガンド等の新たな物質を固定化するということは、粒子表面の構造や性質の改変につながるため、粒径・表面構造の均一性や分散安定性の維持(凝集の回避)には、マイナスに作用する(非特許文献5)。アフィニティー・リガンドを適切なコントロール下でポリマー部分に固定化し、そのリガンド固定化ポリマー付与粒子が特定の分子に特異的に結合することを実証した上で、かつ、生理的条件下での均一な粒径および生理的条件下での分散安定保持という技術ハードルをクリアした例は、まだ無い。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】国際公開第2005-108451号公報
【特許文献2】特開2010-280594号公報
【特許文献3】国際公開第2012-073588号公報
【0006】

【非特許文献1】Kango S.ら著、「Progress in Polymer Science」、2013年、38巻、1232-1261頁
【非特許文献2】Ohno K.ら著、「Macromolecules」、2005年、38巻、2137-2142頁
【非特許文献3】Ohno K.ら著、「Macromolecules」、2012年、13巻、927-936頁
【非特許文献4】Ohno K.ら著、「Macromolecules」、2013年、14巻、3453-3462頁
【非特許文献5】Laurent S.ら著、「Chem. Rev.」、2008年、108巻、2064-2110頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、均一な粒径、および、高い分散安定性を示し、かつ、特定の分子に特異的に結合するという特徴を有する、生体分子の検出や分離に有用な粒子の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、高分子グラフト鎖、微粒子およびアフィニティー・リガンドを含む複合粒子であり、
前記高分子グラフト鎖の一方の末端は、グラフト密度が0.1本鎖/nm2以上で前記微粒子表面に結合され、
前記高分子グラフト鎖の別の一方の末端に、前記アフィニティー・リガンドが結合され、前記高分子グラフト鎖の全長の20%未満に前記アフィニティー・リガンドが結合されている
複合粒子である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の複合粒子は、特定分子への特異的結合能を有するという利点がある。さらに、本発明の複合粒子は、制御された固定化アフィニティー・リガンドを有し、かつ、生理的条件下での均一な粒径および生理的条件下での分散安定保持も両立するという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、ELISA法による抗体固定化量の定量のための検量線である。
【図2】図2は、複合粒子の結合センサーグラムの重ね合せである。
【図3】図3は、別の複合粒子の結合センサーグラムの重ね合せである。
【図4】図4は、抗原発現細胞の蛍光強度分布である。
【図5】図5は、別の抗原発現細胞の蛍光強度分布である。
【図6】図6は、別の抗原発現細胞の蛍光強度分布である。
【図7】図7は、各複合粒子の蛍光強度分布である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、高分子グラフト鎖、微粒子およびアフィニティー・リガンドを含む複合粒子であり、
前記高分子グラフト鎖の一方の末端は、グラフト密度が0.1本鎖/nm2以上で前記微粒子表面に結合され、
前記高分子グラフト鎖の別の一方の末端に、前記アフィニティー・リガンドが結合され、前記高分子グラフト鎖の全長の20%未満に前記アフィニティー・リガンドが結合されている
複合粒子である。

【0012】
本明細書において、グラフトされた合成高分子鎖を「高分子グラフト鎖」、または、単に「グラフト鎖」と表記する。高分子グラフト鎖とは、微粒子表面から重合反応によってモノマーを2個以上伸長して形成された高分子鎖を意味する。なお、本明細書において、「ポリマー」は高分子と基本的に同義である。

【0013】
本明細書において、「アフィニティー・リガンド」とは、抗原と抗体の結合に代表される、特異的な分子間の親和力に基づいて、ある分子の集合から目的の分子を選択的に捕集(結合)する物質(官能基)を指す用語であり、単に「リガンド」と表記した場合も、「アフィニティー・リガンド」と同義である。代表的なリガンドとしては、抗体(イムノグロブリン)類が挙げられるが、特定の分子に特異的に結合する能力があれば物質は特に限定されず、タンパク質、糖、核酸、または、合成化合物のいずれであってもよい。

【0014】
本明細書において、「固定化」とは、アフィニティー・リガンドを高分子グラフト鎖に結合させることを指す。その結合は、共有結合であることが好ましいが、これに限定されず、例えば、イオン結合や疎水結合でも良い。

【0015】
本発明において、微粒子の大きさ、構造、および、物質については、特に限定されない。本明細書においては、複合粒子と区別が難しい場合などに、「コア粒子」と表記する。コア粒子の大きさとしては、いわゆる「微粒子」とよばれる程度の大きさが好ましく、「ナノ粒子」と呼ばれる程度の大きさがさらに好ましいが、これに限定されない。コア粒子の大きさ(投影面積円相当径(平均粒径))としては、1nm以上が好ましく、2nm以上がより好ましく、5nm以上がさらにより好ましく、10nm以上がさらにより好ましい。コア粒子の大きさとしては、150μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、50μm以下がさらにより好ましく、10μm以下がさらにより好ましい。コア粒子の構造としては、真球粒子が好ましいが、これに限定されず、例えば、中空粒子や多孔質粒子であっても良い。コア粒子の材料としては、無機粒子が好ましいが、これに限定されず、例えば、高分子粒子であっても良い。無機粒子を構成する物質としては、金属、金属酸化物、ケイ素酸化物などが挙げられるが、これらに限定されない。

【0016】
本発明において、「特定分子への特異的結合能」は、一般的な生化学的手法によって確認することができる。例えば、「特定分子への特異的結合能」は、表面プラズモン(SPR)装置を用いた分析によって求めることが可能である。流路添加が難しい大きな粒子の場合には、例えば、等温滴定カロリメトリ(ITC)装置を用いて「特定分子への特異的結合能」を分析することが可能である。特定分子への特異的結合に関し、特異的分子を高発現する細胞を利用して、フローサイトメトリ(FACS)装置を用いて分析しても良いし、各種イメージング装置を用いて、in vivoで評価しても構わない。

【0017】
本発明における複合粒子の特徴として、当該高分子グラフト鎖が0.1本鎖/nm2以上の密度で粒子表面に結合している点が挙げられる。本明細書において、「密度」とは、粒子表面の単位面積(nm2)あたりの表面に結合したグラフト鎖の本数のことであり、「グラフト密度」もこれと同義である。グラフト密度は、0.1本鎖/nm2以上が好ましく、0.2本鎖/nm2以上がより好ましい。グラフト密度は、1.5本鎖/nm2以下が好ましく、1.0本鎖/nm2以下がより好ましく、0.5本鎖/nm2以下がさらにより好ましい。グラフト密度(s)は、元素分析等により微粒子表面から伸長して形成された高分子グラフト鎖の量(グラフト量、w)を求め、その値とコア粒子の表面積(S、nm2)、グラフトポリマーの数平均分子量(Mn)ならびにアボガドロ数(Av)を用いて次の式より算出される。

算出方法:s=(w/Mn)Av/S


【0018】
本発明における複合粒子の別の特徴は、前記高分子グラフト鎖の別の一方の末端に、前記アフィニティー・リガンドが結合され、前記高分子グラフト鎖の全長の20%未満に前記アフィニティー・リガンドが結合されていることである。「前記高分子グラフト鎖の別の一方の末端」とは、グラフト鎖のコア粒子表面で結合している末端とは反対側の末端のことであり、複合粒子の外側または表層を意味する。このアフィニティー・リガンドが固定化される部分が、高分子グラフト鎖の全長に占める割合は、20%未満であり、15%未満であることが好ましく、10%未満であることがより好ましい。前記割合が20%未満であると、高分子グラフト鎖の高度に伸張した構造を保持することができ、本発明の複合粒子のアフィニティー・リガンドが、前記アフィニティー・リガンドと結合しうる分子と効率よく結合できるためである。これによって、本発明によって得られた複合粒子において、アフィニティー・リガンドは、複合粒子の外側または表層にのみ存在するからである。

【0019】
前記高分子グラフト鎖は、例えばリビングラジカル重合によって得ることができる。「リビングラジカル重合(LRP)」は、分子量分布などの制御が可能なリビング重合の1種であり、安定な共有結合種(ドーマント種)から可逆的にラジカル種を生成させることで重合が可能となる。なお、「精密ラジカル重合(CRP)」と呼ばれる重合と同義である。この重合方法を材料表面に適応した技術が、「表面開始リビングラジカル重合」であり、コア粒子表面に重合開始基を導入し、グラフト密度を一定に保持しつつグラフト重合を進行させることができる。つまりグラフト量はグラフト鎖の数平均分子量に比例して増大させることができ、重合をリビング的に進行させ、全てのグラフト鎖をほぼ均等に成長させることができる。これにより、鎖長と鎖長分布が規制された高分子鎖を従来にない高い表面密度で粒子表面に成長させることができる。

【0020】
この重合に用いるモノマーの種類としては、アクリル酸誘導体、メタクリル酸誘導体、アクリルアミド誘導体、メタクリルアミド誘導体およびスチレン誘導体からなる群から選択される1以上が好ましいが、これらに限定されず、当業者の認識する範囲で適宜選択されてもよい。例えば、本発明においては、メタクリル酸誘導体は好ましいモノマーの1つである。なお、本発明においては、結合の選択性向上のため、タンパク質の非特異吸着は抑制できた方が良く、親水性のモノマーを用いることによって、これを達成することが可能である。この目的においては、例えば、側鎖がオリゴのポリエチレングリコール(PEG)となっているメタクリル酸誘導体である、ポリエチレングリコールモノメタクリレート(PEGMA)は、好ましいモノマーの1つである。

【0021】
本発明の複合粒子において、アフィニティー・リガンドは高分子グラフト鎖の先端に近い位置に固定化されるため、先端に近い部分とそれ以外の部分のモノマー組成が異なることが好ましい。好ましい形態の1つとして、好ましくは、アフィニティー・リガンドと結合性のモノマーが先端に近い部分にのみ、例えば、末端から20%未満、好ましくは15%未満、より好ましくは10%未満の長さの鎖は、前記アフィニティー・リガンドと結合性のモノマーをさらに含むことが挙げられる。したがって、本発明における高分子グラフト鎖は、モノマー組成が異なる2つ以上のブロックからなるコポリマー(共重合型)であることが好ましい。なお、アフィニティー・リガンドと結合性のモノマーが含まれるブロックは先端に近い部分の1ブロックに限定される必要は無い。例えば、高分子グラフト鎖が3つ以上のブロックからなる場合に、先端に近い部分のブロックだけでなく、コア粒子と近接するブロックにもアフィニティー・リガンドと結合性のモノマーを含んでいても良い。この場合、例えば、コア粒子と近接するブロックのモノマーを、高分子グラフト鎖間を共有結合を介した架橋に利用しても良いし、検出用の色素類の固定化に利用しても良い。

【0022】
アフィニティー・リガンドを高分子グラフト鎖に固定化するために利用する前記アフィニティー・リガンドと結合性のモノマーの構造は特に限定されない。アフィニティー・リガンドを共有結合で固定化する場合には、モノマーの側鎖にリガンドと共有結合を形成可能な反応性官能基を有することが好ましい。抗体などのタンパク質性リガンドと共有結合を形成するには、タンパク質のアミノ基、カルボキシル基、および/または、チオール基と反応する官能基を有することが好ましい。例えば、タンパク質性リガンドのアミノ基に対しては、ベンジルオキシカルボニル、または、N-ヒドロキシスクシンイミドなどを側鎖に持つモノマーが利用でき、活性エステルとアミノ基のカップリング反応によってタンパク質性リガンドを固定化できる。アフィニティー・リガンドの固定化は、共有結合を介した固定化に限定されず、例えば、側鎖にビオチンを有したモノマーを利用して、アビジンを融合したタンパク質性のアフィニティー・リガンドを、アビジン‐ビオチン結合によって固定化しても良い。このような組合せとして、他にはグルタチオンとグルタチオン‐S-トランスフェラーゼ(GST)の結合が例として挙げられる。

【0023】
前記アフィニティー・リガンドと結合性のモノマーの具体例としては、ニトロフェニルオキシカルボニルポリエチレングリコールメタクリレート(MEONP)、N-ヒドロキシスクシンイミドメタクリレート(NHSMA)が挙げられる。

【0024】
アフィニティー・リガンドを高分子グラフト鎖に固定化する先端部分の組成は、全てがリガンドと結合性のモノマーである必要は無く、むしろ、一定の割合で含有されることが好ましい。この比率に関しては、アフィニティー・リガンドのサイズ等に依存するため、特に限定はされないが、例えば、リガンドが抗体の場合には、2種類以上のモノマーを用いた重合反応において、抗体を固定化可能なモノマーの含有率(モル比)は、20%未満であることが好ましく、10%未満であることがより好ましい。リガンドと結合性のモノマーは、高分子グラフト鎖の全長にわたって含まれる必要は特にないが、本技術を活用すると、グラフト鎖1本あたり1点以上のリガンド固定化点を先端部分のみに限定して形成することが可能である。前記先端部分とは、例えば、高分子グラフト鎖の末端から20%未満、好ましくは15%未満、より好ましくは10%未満の部分を意味する。この技術は、高分子鎖の末端にのみ固定化点を形成する技術、および、高分子鎖にランダムに固定化点を形成する技術と比較して、効率よく、かつ、効果的に(結合に有利な状態で)、リガンドを固定化できるというメリットがある。

【0025】
すなわち、本発明の複合粒子において、前記高分子グラフト鎖が、前記粒子表面上の重合開始基を基点としたアクリル酸誘導体、メタクリル酸誘導体、アクリルアミド誘導体、メタクリルアミド誘導体およびスチレン誘導体からなる群から選択される1以上のモノマーのリビングラジカル重合によって得られ、かつ、
前記高分子グラフト鎖の全長の20%未満、好ましくは15%未満、より好ましくは10%未満の部位に、前記アフィニティー・リガンドと結合性のモノマーをさらに含むのが好ましい。

【0026】
高分子グラフト鎖に固定化されたリガンドの量を解析する方法は特に限定されない。例えば、固定化反応前後の反応溶液中のリガンド濃度から固定化量を逆算することが可能であり、リガンドに結合する分子を固相に固定化した系でELISAを行うことによって算出することも可能である。

【0027】
本発明において、複合粒子の高分子グラフト鎖の数平均分子量(Mn)は、特に限定はされない。複合粒子の高分子グラフト鎖の数平均分子量(Mn)の下限値としては、10,000以上が好ましく、30,000以上がより好ましく、50,000以上がさらにより好ましく、70,000以上がさらにより好ましく、100,000以上がさらにより好ましい。複合粒子の高分子グラフト鎖の数平均分子量(Mn)の上限値としては、320,000以下が好ましく、240,000以下がより好ましい。分散安定性、かつ、特定の分子への特異的結合能の両方に優れるには、複合粒子の高分子グラフト鎖の数平均分子量(Mn)が30,000~150,000程度であることが好ましく、この範囲では、分子量が大きければ大きい程、それらの性能に優れることがある。なお、本発明において、例えば高分子グラフト鎖の数平均分子量(Mn)が100,000であった場合、リガンド固定化を固定化する先端部分の数平均分子量(Mn)は、100,000の20%である20,000以下に収まる。

【0028】
すなわち、本発明の複合粒子において、前記高分子グラフト鎖の数平均分子量(Mn)は、好ましくは10,000以上であり、かつ、320,000以下であり、より好ましくは30,000以上であり、かつ、320,000以下であり、さらに好ましくは50,000以上であり、かつ、240,000以下であり、さらにより好ましくは70,000以上であり、さらにより好ましくは100,000以上であり、かつ、240,000以下である。

【0029】
高分子グラフト鎖の数平均分子量(Mn)はモノマーの分子量に依存する側面があるため、高分子グラフト鎖の数平均重合度で表した方が良い場合もある。前記数平均重合度の好適な範囲は、およそ10~100,000であり、例えばモノマーの分子量が500であるときは、高分子グラフト鎖の数平均重合度は、20~640が好ましく、60~480がより好ましい。高分子グラフト鎖の数平均分子量Mnは、例えばゲル濾過カラム分析により測定することができ、高分子グラフト鎖の数平均重合度は、数平均分子量/モノマー分子量で算出することができる。

【0030】
なお、高分子グラフト鎖がモノマー組成が異なる2つ以上のブロックからなるコポリマー(共重合型)である場合、各ブロックにおけるコポリマーの分子量分布(Mw/Mn)は、1.0~1.5であるのが好ましい。この場合、複合粒子は均質なグラフト表面を有するからである。高分子グラフト鎖の分子量Mwは、ゲル濾過などの分析によって求めることが可能である。

【0031】
本発明の複合粒子は、前記のように、特定分子への特異的結合能を有するという利点がある。さらに、本発明の複合粒子は、制御された固定化アフィニティー・リガンドを有し、かつ、生理的条件下での均一な粒径および生理的条件下での分散安定保持も両立するという利点がある。

【0032】
本発明の複合粒子は、抗体の固定化部位が単に先端部分に制御されているだけでなく、標的分子に対する結合力が高分子グラフト鎖の鎖長に依存し、グラフト鎖長が長い方が、複合粒子の標的分子結合能が大きく向上する。これは、粒子に固定化したリガンドが、標的分子にアクセスしやすい位置に固定化されているだけではなく、その自由度が確保されていることが標的分子への結合において重要であり、本発明の複合粒子がそれを両立していることを示している。一方で、本発明の複合粒子の標的分子(発現細胞)への結合力は、抗体固定化量には依存しないという特徴を示す。これは、例えば抗体のような製造にコストが掛かるリガンドを固定化する際に、非常に大きなメリットとなる。

【0033】
本発明の複合粒子は、例えば以下のようにして製造することができる。まず、重合開始基含有カップリング剤としての化合物を、化学吸着法により粒子表面に固定する。そして、1種類以上のモノマーを供給してリビングラジカル・グラフト重合を行う。重合開始基含有カップリング剤を予め微粒子表面に固定することにより、微粒子表面上でグラフト密度を一定に保持しつつグラフト重合を進行させることができる。なお、リビングラジカル・グラフト重合の間、微粒子の表面に固定していない重合開始剤を共存させてもよい。重合開始基含有カップリング剤としての化合物は、粒子との親和性等を考慮して選択することができる。例えば、粒子がケイ素酸化物や金属酸化物からなる場合、重合開始基含有カップリング剤としては、シラン化合物、チタン化合物、ジルコニウム化合物、および、アルミニウム化合物が好ましく、特にシラン化合物が好ましい。具体的には、(2-ブロモ-2-メチル)プロピオニルオキシプロピルトリエトキシシラン(BPE)、(2-ブロモ-2-メチル)プロピオニルオキシヘキシルトリエトキシシラン(BHE)、エチル2-ブロモイソブチレート(EBIB)等が挙げられる。

【0034】
粒子表面のグラフト密度は、重合開始基含有カップリング剤と重合開始基を含有しないカップリング剤(例えばアルキルシラン)との割合を調整することで、変更することができる。具体的には、粒子がケイ素酸化物の粒子である場合、重合開始基含有カップリング剤と重合開始基を含有しないカップリング剤との割合が1:0であれば、グラフト密度は0.1本鎖/nm2以上となる。重合終了後、目的とする複合粒子は、反応液から当該分野で通常用いられる方法、例えば抽出、蒸留、洗浄、濃縮、沈殿、ろ過、乾燥、吸着、析出、クロマトグラフィーなどの方法を単独または組み合わせることにより、単離することができる。

【0035】
また、高分子グラフト鎖が、モノマー組成が異なる2つ以上のブロックからなるコポリマー(共重合型)の場合、順次ブロックを製造してもよい。その際、製造に用いるモノマーの種類や組成はブロックごとに互いに異なる。

【0036】
また、高分子グラフト鎖が、3つ以上のブロックからなる場合に、先端部分のブロックだけでなく、コア粒子と近接するブロックにもアフィニティー・リガンドと結合性のモノマーを含む場合がある。このような高分子グラフト鎖は、1つめのブロックおよび2つめのブロックを製造後、1つめのブロックのアフィニティー・リガンドと結合性のモノマー同士を架橋してもよい。このように架橋することにより、最終的に得られる本発明の複合粒子は、グラフト鎖の脱離を抑止できるという利点が得られる。前記架橋するためには、ヘキサメチレンジアミン等のジアミン類、1,2-エタンジチオール等のジチオール類等を用いることができる。

【0037】
なお、所望の高分子グラフト鎖長を得るための重合条件に関しては、シリカナノ粒子に関しては、特許文献2(特開2010-280594号公報)、および非特許文献3(Ohno K.ら著、「Macromolecules」、2012年、13巻、927-936頁)を、酸化鉄ナノ粒子に関しては、特許文献3(国際公開第2012-073588号公報)、および非特許文献4(Ohno K.ら著、「Macromolecules」、2013年、14巻、3453-3462頁)を参照できる。

【0038】
最後に、末端の位置にアフィニティー・リガンドと結合する部位を有する高分子グラフト鎖が表面に結合された微粒子と、アフィニティー・リガンドとを反応させる。前記反応は、アフィニティー・リガンドが抗体、タンパク質などの場合、例えば、冷暗所にて1時間~2日間静置することにより行う。前記反応は、アフィニティー・リガンドが核酸または合成化合物などの場合、例えば、4~25℃で、1時間~2日間反応させることにより行う。

【0039】
すなわち、本発明は、末端、例えば末端から20%未満、好ましくは15%未満、より好ましくは10%未満の位置にアフィニティー・リガンドと結合する部位を有する高分子グラフト鎖が表面に結合された微粒子と、アフィニティー・リガンドとを反応させる工程を含む本発明の複合粒子の製造方法であり、
前記高分子グラフト鎖の一方の末端は、グラフト密度が0.1本鎖/nm2以上で前記微粒子表面に結合されている。

【0040】
また、本発明は、アフィニティー・リガンドと結合しうる分子を検出する方法であって、
前記アフィニティー・リガンドと結合しうる分子、または、前記分子を含む対象を、本発明の複合粒子と接触させる工程を含む。

【0041】
前記方法において、当該分子を含む対象とは、具体的には細胞や組織が挙げられるが、これらに限定はされない。

【0042】
検出する方法における複合粒子のコア粒子としては、蛍光染色されたラテックスビーズや量子ドット、または、MRIで検出可能な超常磁性酸化鉄ナノ粒子などが例として挙げられるが、これらに限定はされない。また蛍光色素を側鎖に有するモノマーを複合粒子の高分子グラフト鎖に含有しても良い。

【0043】
また、本発明は、アフィニティー・リガンドと結合しうる分子を精製する方法であって、
前記アフィニティー・リガンドと結合しうる分子、または、前記分子を含む対象を、本発明の複合粒子と接触させる工程を含む。

【0044】
前記方法において、当該分子を含む対象とは、具体的には細胞や組織が挙げられるが、これらに限定はされない。

【0045】
精製する方法における複合粒子のコア粒子としては、磁石で回収可能な酸化鉄微粒子、または、クロマト充填剤として利用可能な多孔質ビーズが例として挙げられるが、これらに限定はされない。

【0046】
また、本発明は、アフィニティー・リガンドと結合しうる分子の変化を誘発する方法であって、
前記アフィニティー・リガンドと結合しうる分子、または、前記分子を含む対象を、本発明の複合粒子と接触させる工程を含む。

【0047】
前記方法において、当該分子を含む対象とは、具体的には細胞や組織が挙げられるが、これらに限定はされない。

【0048】
変化を誘発する方法において、複合粒子中に薬効成分を含有するなどして複合粒子に何らかの薬効を持たせることによって、前記分子、または、前記分子を発現する組織または細胞に対してのみ、刺激、活性化、阻害、または、損傷などの作用を及ぼすことも可能である。

【0049】
以下に本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は、以下の実施例により限定されない。
本明細書の記載において、以下の略語を使用する。
THF:テトラヒドロフラン
BPE:(2-ブロモ-2-メチル)プロピオニルオキシプロピルトリエトキシシラン
PEGMA:ポリエチレングリコールメタクリレート
MEONP:ニトロフェニルオキシカルボニルポリエチレングリコールメタクリレート
EBIB:エチル2-ブロモイソブチレート
GPC:ゲル濾過クロマトグラフィー
SPR:表面プラズモン共鳴
NMR:核磁気共鳴
FACS:蛍光活性化セルソーター

【0050】
[製造例1-1]
<重合開始基を表面に有する微粒子の製造>
<重合開始基を表面に有する酸化鉄ナノ粒子の製造>
平均粒径(投影面積円相当径)20nmのオレイン酸被覆酸化鉄ナノ粒子(合成法は特許文献3参照)をTHFに分散させ、分散液(1質量%)を製造した。前記分散液へアンモニア水(1質量%)を加え、しばらく攪拌した後、BPE(2質量%)を加え、3日間、室温で攪拌した。攪拌中、この溶液へ定期的に超音波照射した。その後、溶液を遠心分離して粒子を回収し、その粒子をTHF中に再分散し、次いで遠心分離することを繰り返すことにより、重合開始基を表面に有する酸化鉄ナノ粒子(投影面積円相当径(平均粒径)は20nm)を得た。なお、BPEの合成法は特許文献2参照。また、市販の酸化鉄ナノ粒子溶液(米国NN-Labs社製、粒径:5nm、20mLのトルエン中、100mg)をTHF(80g)中に分散させ、その後、28%アンモニア水(1.65g)とTHF(25g)の混合液を滴下し、しばらく攪拌した後、BPE(1g)とTHF(25g)の混合液を滴下することによっても、重合開始基を表面に有する酸化鉄ナノ粒子を製造能なことを確認した。

【0051】
[製造例1-2]
<重合開始基を表面に有する微粒子の製造>
<重合開始基を表面に有するシリカ微粒子の製造>
平均粒径(SEM径)130nmのシリカ微粒子(日本触媒(株)製、製品名「シーホスターKE-E10」)として、のエタノール分散液(7.7質量%、30mL)を28%アンモニア水溶液(13.9g)とエタノール(200mL)の混合液中へ加えた。その混合液を40℃で2時間攪拌した後、エタノール(10mL)に溶解したBPE(2g)を滴下し、40℃で18時間攪拌した。その後、遠心分離により回収したシリカ微粒子を、エタノール、次いでアニソールにより洗浄した後、重合開始基を表面に有するシリカ微粒子を得た。この重合開始基を表面に有するシリカ微粒子は、アニソール中で保存した。

【0052】
[実施例1]
製造例1-1において得られた重合開始基を表面に有する酸化鉄ナノ粒子をコアにし、3つのブロックの高分子グラフト鎖と、アフィニティー・リガンドが結合した、複合粒子を製造した。その複合粒子の構成は、以下のスキーム1に表される。なお、合成時のモル比は合成した複合粒子の一部を保存し、高分子グラフト鎖におけるモノマー転化率はNMRにより、EBIBから生成する遊離ポリマーの分子量及び分子量分布はゲル濾過クロマトグラフィ(GPC)により求めた。

【0053】
【化1】
JP2017101123A_000002t.gif

【0054】
(1)高分子グラフト鎖第1ブロック(架橋層)の合成
遊離開始剤としてエチル2-ブロモイソブチレート(EBIB、3.9mg)、水溶性モノマーとしてポリエチレングリコールメチルエ-テルメタクリレート(PEGMA、17g)、活性エステル基含有モノマーとしてニトロフェニルオキシカルボニルポリエチレングリコールメタクリレート(MEONP、3g)、触媒としてCuBr(28mg)、銅錯体のリガンドとして4,4-ジノニルビピリジン(dNbipy、163mg)、溶媒としてテトラヒドロフラン(THF、29g)および、製造例1-1において得られた重合開始基を表面に有する酸化鉄ナノ粒子のTHF溶液(8.4質量%、8.3g)を混合し、脱気、次いで封管後、60℃で18時間重合させた。本過程におけるPEGMAとMEONPのモル比は、9:1とした。その結果、数平均分子量(Mn)が38,000、分子量分布指数(Mw/Mn)が1.23のフリーポリマーが形成し、第1ブロックが表面に結合した酸化鉄ナノ粒子が得られた。

【0055】
(2)高分子グラフト鎖第2ブロック(中間層)の合成
(1)において得られたポリPEGMAが表面に結合した酸化鉄ナノ粒子をマクロ開始剤として下記のようにして第2ブロック(中間層)を製造した。EBIB(0.6mg)、PEGMA(15g)、CuCl(31mg)、dNbipy(260mg)、THF(14g)、および(1)において得られたポリPEGMAが表面に結合した酸化鉄ナノ粒子のTHF溶液(2.77質量%、10.8g)を混合し、脱気、次いで封管後、60℃で20時間重合させた。その結果、数平均分子量(Mn)が128,000、分子量分布指数Mw/Mnが1.26のフリーポリマーが形成し、第2ブロックおよび第1ブロックが表面に結合した酸化鉄ナノ粒子が得られた。

【0056】
(3)第1ブロックのジアミンによる架橋
MEONP由来の活性エステル基を用いてポリマー鎖を架橋するために、(2)において得られた第2ブロックおよび第1ブロックが表面に結合した酸化鉄ナノ粒子(684mg)、ヘキサメチレンジアミン(6mg)、トリエチルアミン(2.6mg)、およびTHF(53g)を混合し24時間室温にて撹拌した。架橋した粒子の精製は、遠心分離によりTHFへの再分散を繰り返すことにより行い、第2ブロックおよび第1ブロックが表面に結合し、第1ブロックが架橋された酸化鉄ナノ粒子を得た。

【0057】
(4)高分子グラフト鎖第3ブロック(固定化層)の合成
(3)において得られた、第2ブロックおよび第1ブロックが表面に結合し、第1ブロックが架橋された酸化鉄ナノ粒子をマクロ開始剤として下記のようにして第3ブロックを製造した。EBIB(1.5mg)、PEGMA(6.8g)、MEONP(1.23g)、CuCl(7.9mg)、dNbipy(66mg)、THF(12g)、および(3)において得られた、第2ブロックおよび第1ブロックが表面に結合し、第1ブロックが架橋された酸化鉄ナノ粒子のTHF溶液(2.1質量t%、7.1g)を混合し、脱気、次いで封管後、60℃で24時間重合した。本過程におけるPEGMAとMEONPのモル比は、9:1とした。その結果、数平均分子量(Mn)が25,000、分子量分布指数Mw/Mnが1.08のフリーポリマーが生成し、第3ブロック、第2ブロックおよび第1ブロックが表面に結合し、第1ブロックが架橋された酸化鉄ナノ粒子が得られた。粒子の精製は、遠心分離によりTHF,アセトン、水、およびリン酸緩衝液(pH=8.0)への再分散を繰り返すことにより行った。第3ブロック重合後のグラフト密度は0.12本鎖/nm2であり、高分子グラフト鎖全体のグラフト密度は0.12本鎖/nm2であった。

【0058】
(5)第3ブロックへの抗体の固定化
(4)において得られた第3ブロック、第2ブロックおよび第1ブロックが表面に結合し、第1ブロックが架橋された酸化鉄ナノ粒子(125mg)をリン酸緩衝液(5g)に分散させ、抗マウスCD105抗体(Rat Anti Mouse CD105-UNLB、MJ7/17、SouthernBiotech社製、0.5mg/mL、1mL)を加えた。反応溶液は冷暗所で2日間静置した。粒子の精製は、遠心分離により純水への再分散を繰り返すことにより行った。その結果、第3ブロック、第2ブロックおよび第1ブロックが表面に結合し、第1ブロックが架橋され、第3ブロックに抗体が結合した複合粒子が得られた。

【0059】
[条件検討1:ポリマー鎖長の制御を目的とした溶液重合による検討]
酸化鉄ナノ粒子表面へのポリマーブラシの付与(グラフト)は、表面開始リビングラジカル重合によって行う。グラフトポリマーの鎖長制御には、適切な重合条件の設定が鍵となる。最初に、遊離開始剤(エチル2-ブロモイソブチレート)(EBIB)を用い、ポリマーブラシの主要なモノマーであるPEGMA(ポリエチレングリコールメタクリレート)のリビングラジカル重合を様々な条件で行った。

【0060】
EBIBおよびPEGMA以外に、触媒としてCuCl、銅錯体のリガンドとして4,4-ジノニルビピリジン(dNbipy)、溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を、所定濃度にて混合し、脱気次いで封管後、50℃で重合した。各種試薬の比率、および、生成ポリマーのスペックを表1にまとめた。

【0061】
【表1】
JP2017101123A_000003t.gif

【0062】
表1に示すように、重合開始剤/モノマー/触媒の比率と重合時間の調節によって、様々な分子量を有し、かつ、分子量分布指数が小さいポリマーを合成することができる。所望の高分子グラフト鎖を製造する場合には、当業者であれば、これを参考に重合条件の目安を見出すことができる。

【0063】
[条件検討2:グラフト重合の条件設定]
前記条件検討1の溶液重合によって見出した重合条件をグラフト重合に適用し、様々な鎖長のポリマーブラシが付与された複合酸化鉄ナノ粒子を合成した。具体的には、固定開始剤(BPE)で修飾した酸化鉄ナノ粒子に、条件検討1と同様に、PEGMA、CuCl、dNbipy、およびTHFを混合し、脱気次いで封管後、50℃で重合した。なお、グラフト鎖の分子量分析のため、遊離開始剤としてEBIBも反応液に混合している。重合条件の詳細に関しては、表2に併せて記載した。

【0064】
合成したポリマーブラシ付与酸化鉄ナノ粒子のスペックを表2に示した。溶液重合で見出した条件をグラフト重合に適用することで、所望のグラフト鎖長を有し、かつ、グラフト密度が0.1本鎖/nm2以上である複合酸化鉄ナノ粒子を合成できた。

【0065】
【表2】
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【0066】
[実施例2]
(5)の工程において抗マウスCD105抗体の代わりに抗マウスVEGFR2抗体(Rat Anti Mouse VEGF Receptor 2 Antibody (Avas12a1)を用いた以外は、実施例1と同様にして、複合粒子を得た。得られた複合粒子にお高分子グラフト鎖全体のグラフト密度は0.12本鎖/nm2であった。

【0067】
[実施例3]
重合反応温度を50℃とし、第二ブロックについて、表2のエントリー5の重合条件を適用した以外は実施例1と概ね同様にして、複合粒子を得た。得られた複合粒子にお高分子グラフト鎖全体のグラフト密度は0.15本鎖/nm2であった。

【0068】
[実施例4]
製造例1-1において得られた重合開始基を表面に有する酸化鉄ナノ粒子の代わりに製造例1-2において得られた重合開始基を表面に有するシリカ微粒子を用い、(1)および(3)の工程を省略し、(5)の工程を以下のように変更した以外は、実施例1と同様にして、複合粒子を得た。

【0069】
(5)の工程において、固定化するリガンドとして、aHER-IgGをパパインによって、FabとFcに断片化し、Fabのみを分離精製した低分子化抗体aHER-Fabを用いた。aHER-Fabの調製方法は、パパイン消化用緩衝液(0.1M AcOH-AcONa,2mM EDTA,1mMシステイン、pH5.5)に溶解し、Papain Agarose from papaya latexパパイン固定化アガロース(SIGMA社)を添加し、ローテーターで混和させながら、37℃で約8時間インキュベートした。パパイン固定化アガロースから分離した反応溶液から、MabSelect SuReカラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社)を利用したアフィニティークロマトグラフィーにより、素通り画分でaHER-Fabを回収することで分離精製した。

【0070】
このaHER-Fabを、第3ブロックおよび第2ブロックが表面に結合したシリカ微粒子10mg(1質量%)に2nmol(1.5μg)の割合で固定化反応させた。固定化量の定量に関しては、反応前の溶液、および、反応後に複合粒子を除いた溶液のそれぞれのA280値(タンパク質由来のUV吸収)を比較し、0.5nmolが固定化されたことを確認した。

【0071】
[実施例5]
第二ブロックについて、表2のエントリー6の重合条件を適用した以外は実施例1と同様にして、複合粒子を得た。

【0072】
[実施例6]
第二ブロックについて、表2のエントリー3の重合条件を適用した以外は実施例1と同様にして、複合粒子を得た。

【0073】
[比較例1]
(4)および(5)の工程を省略した以外は、実施例1と同様にして、複合粒子を得た。

【0074】
[比較例2]
第二ブロックについて、表2のエントリー2の重合条件を適用した以外は実施例1と同様にして、複合粒子を得た。

【0075】
[ELISA法による抗体固定化量の定量]
(1)実施例3の複合粒子
Total Human IgG ELISA kit (AlerCHEK社製)を用いて、フリーの抗HER2抗体(aHER2-IgG)の検量線を作成し、実施例3の複合粒子への抗体固定化量を定量した。得られた検量線を図1に、定量結果を表3に示す。標準的なELISA法によって、抗体が複合粒子に固定化されていることを確認できた。

【0076】
(2)実施例1の複合粒子
実施例1の複合粒子に固定化した抗体はラット抗体なので、定量キットとして、Rat IgG ELISA (Life Diagnostics社製)を利用し以外は、前記(1)と同様にして、実施例1の複合粒子について抗体固定化量を定量した。定量の結果、実施例1の複合粒子の粒子濃度1.0wt%あたりの固定化量は0.07nM(約0.1nM)と算出された。その結果を表3に示す。

【0077】
(3)実施例2および比較例1の複合粒子
前記(1)と同様にして、実施例2の複合粒子ならびに比較例1の複合粒子について抗体固定化量を定量した。その結果を表3に示す。

【0078】
【表3】
JP2017101123A_000005t.gif

【0079】
実施例1~6ならびに比較例1および2の複合粒子の物性を以下の表4にまとめる。

【0080】
【表4】
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【0081】
[SPRによる抗原分子への特異的結合の検出]
SPR原理に基づく分子間相互作用解析装置Biacore3000(GEヘルスケア社製)を用いて、aHER2-MPのHER2に対する結合を分子レベルで確認した。

【0082】
(1)実施例3の複合粒子
装置専用のアミンカップリング・キットを用いて、HER2/Fc chimera(R&D Systems社)を、センサーチップCM4にリガンドとして固定化した。実施例3の複合粒子および比較例1の複合粒子を、ランニング緩衝液(20mMのNa-Pi、150mMのNaCl、0.005%P20、pH7.4)で粒子濃度1、2、4、および8mgFe/mLに希釈調整した溶液をアナライトとした。流速20μL/minにて、アナライトを120秒添加して結合相を観測し、さらにランニング緩衝液に切り換え120秒の解離相を観測した。繰返し測定のため、20mMのNaOH水溶液を60秒添加し、センサーチップを洗浄および再生した。解析は装置付随の解析ソフトで、1:1結合モデルにてフィッティング解析した。なお、ポジティブコントロールとして、フリー抗体であるaHER2-IgGに関しても、nMオーダーで希釈し、同様の測定・解析を実施した。

【0083】
比較例1の複合粒子(ネガティブコントロール)の結合センサーグラムの重ね合せを図2(a)に、実施例3の複合粒子の結合センサーグラムの重ね合せを図2(b)に示す。図2(a)から、実施例3の複合粒子のHER2/Fc chimeraに対する結合レスポンスが確認でき、かつ、それが濃度依存的にレスポンスが増大することも確認できた。前記ELISAでの定量結果に基づき、結合解離定数KDをフィッティング解析した結果、および実施例3の複合粒子に固定化された抗体の結合解離定数は、2.39×10-11[M]であった。フリーの抗HER2抗体(aHER2-IgG)の結合解離定数を同様に求めた結果、5.45×10-11[M]であったので、および実施例3の複合粒子に固定化された抗体は、抗体自体の結合能を損なうことなく機能していることが確認できた。

【0084】
(2)実施例4の複合粒子
前記(1)と同様にして、実施例4の複合粒子の抗原分子への特異的結合を検出した。実施例4の複合粒子に固定化されたFabのKDを、Fab濃度15nM相当を添加した際のセンサーグラムから算出した結果、9.0×10-9[M]であった。フリーの抗HER2抗体Fab断片(aHER-Fab)のKDを別に測定および算出した結果、1.8×10-9[M]であった。従って、実施例4の複合粒子に固定化されたaHER-Fabは同オーダーのKDを維持しており、複合粒子としても、抗体自体の結合能を大きく損なうことなく機能していることが確認できた。この結果から、本発明の技術を、サイズや物質が異なる粒子に適応しても、また、異なる構造のリガンドに適応しても、同じような効果が得られることが確認できた。

【0085】
(3)実施例5および6の複合粒子
前記(1)と同様にして、実施例5および6の複合粒子ならびに比較例2の複合粒子の抗原分子への特異的結合を検出した。なお、固定化した抗体の濃度が各々40nM相当になるよう実施例5および6の複合粒子ならびに比較例2の複合粒子の溶液を調整し、その溶液を添加した際の結合センサーグラムの重ね合わせを図3に示した。実施例6の複合粒子に関し、濃度1点での粗いフィッティング解析を行った結果、結合解離定数KDは1.3×10-11[M]であり、実施例1と同じオーダーであることが分かった。実施例5の複合粒子は、結合レスポンスが小さく、結合解離定数KDは低下したが、センサーグラムの形状は実施例6の複合粒子の場合に類似している。一方、比較例2の複合粒子は、センサーグラムの形状が他とは大きく異なっていた。これは、HER2への特異的な結合とは別の非特異結合が見えていると推測される。すなわち、比較例2および実施例5と比較することにより、グラフト鎖の鎖長をより長くすることにより、特定分子への結合能が飛躍的に向上することが確認できた。

【0086】
[FACSによる抗原発現細胞への特異的結合の検出]
(1)実施例3の複合粒子
FACS装置BD FACS Calibur HG(ベクトン・ディッキンソン社製)を用いて、aHER2-MPのHER2高発現細胞に対する結合を細胞レベルで確認した。

【0087】
使用した細胞は、ヒト乳癌細胞由来のHER2高発現株であるSKBR3から培養した細胞である。培養したSKBR3をトリプシン処理で浮遊細胞とした後にEDTA緩衝液に置換し、粒子濃度6mgFe/mLの実施例3の複合粒子を添加した。反応条件は、反応細胞数が1×106細胞であり、温度および時間は4℃/時間とした。ここで、バッファーのみを添加したものをネガティブコントロール、および、フリーの抗HER2抗体(aHER2-IgG、1mg/mL)を添加したものをポジティブコントロールとした。その後、洗浄を3回繰り返した後で、二次抗体としてFITC標識抗ヒトIgG抗体(Goat anti-human IgG(H+L)、KPL社製、200倍希釈)を同じ条件で細胞に反応させ、その後同様の洗浄処理を行った。測定細胞数を10000細胞とした。得られたネガティブコントロールの細胞の蛍光強度分布を図4(a)に、ポジティブコントロールの細胞の蛍光強度分布を図4(b)に、実施例3の複合粒子の細胞の蛍光強度分布を図4(c)に示す。

【0088】
図4(c)に示すように、実施例3の複合粒子を反応させた細胞の蛍光強度分布は、aHER2-IgGで反応させた場合(図4(b))と同様の蛍光強度シフトを示した。従って、実施例3の複合粒子が細胞レベルにおいても、特異的な結合能を示すことが確認できた。

【0089】
(2)実施例1および2の複合粒子
細胞株としてCD105およびVEGFR2の両方を高発現するBend3(マウス脳血管内皮腫瘍細胞株)を、細胞と反応させる試験物質aCD105-MP.1およびaVEGFR-MP.1は粒子濃度1wt%のものを用い、ポジティブコントロールには、固定化時に用いたフリーの抗CD105抗体(aCD105-IgG)2μg/mL、および、フリーの抗VEGFR2抗体(aVEGFR-IgG)2μg/mLを用いた。ネガティブコントロールには、抗体定量に使用した、ELISAキットに付属の標品であるラットIgG(ラット血液から製造された抗体混合物)を用いた。二次抗体は、PE(Phycoerythrin)標識抗ラットIgG抗体(×50希釈)を用い、反応条件は室温30分とした以外は、前記(1)と同様にして、実施例1の複合粒子について抗原発現細胞への特異的結合を検出した。

【0090】
得られたポジティブコントロールの細胞の蛍光強度分布を図5(a)に、実施例1の複合粒子の細胞の蛍光強度分布を図5(b)に示す。実施例1の複合粒子を反応させた細胞の蛍光強度分布のピークが全体的に右にシフトした。実施例1の複合粒子(図5(b))の場合は、ポジティブコントロール(図5(a))の場合と比べると、そのシフト値(ピークトップの蛍光強度)小さい値となった。これらの結果は、抗体固定化量の違いや細胞上の標的分子の発現量の違いが要因と考えられる。少なくとも、有意なピークシフトがあったということは、細胞との特異的結合があるということを示す。重要な点として、抗体固定化量が0.1nM~10nM程度の範囲において、抗体固定化量に依存することなく、本発明の複合粒子としての特異的な結合能は同じように発揮されることを示すことが確認できた点が挙げられる。

【0091】
(3)実施例5および6の複合粒子
検出感度の向上を図るべく、細胞株としてBT-474(ヒト乳癌細胞株)、二次抗体としてPE(Phycoerythrin)標識抗ヒトIgG抗体を用いた以外は、前記(1)と同様にして、実施例5および6の複合粒子について抗原発現細胞への特異的結合を検出した。なお、この系でも、ポジティブコントロールのフリーの抗HER2抗体(aHER-IgG)を反応させると結合が検出できること、および、検出感度が10倍以上高くなったことを確認した。より低濃度(20nM)のaHER-IgGで同様の蛍光シフトが得られたことを示す蛍光強度分布を図6に示した。

【0092】
この実験系にて細胞レベルでの結合を評価した結果、図7のグラフに示す通り、粒子濃度(固定化抗体濃度)に依存した蛍光強度の増加割合は、比較例2の複合粒子より実施例5の複合粒子と実施例6の複合粒子のほうが大きかった。上記SPRでの分子レベルでの評価結果と合わせて、実施例5の複合粒子と実施例6の複合粒子は特異的な結合能が十分発揮できていると考えられる。また、実施例6の複合粒子は、実施例5の複合粒子と比べると、結合能が高いという結果も確認できた。

【0093】
実施例5と比較例2の複合粒子は、高分子グラフト鎖の長さがほぼ同じであることを考慮すれば、抗体固定化量の比率の相違により、実施例5の複合粒子の結合能が向上したと考えられる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6