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明細書 :ヒトにおける骨髄腫瘍の発症又は発症リスクを検査する指標の取得方法、ヒトにおけるDDX41遺伝子の体細胞変異の存在又は将来的な発生を予測する指標の取得方法、並びに、これらの検査又は予測のためのキット

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2017-104035 (P2017-104035A)
公開日 平成29年6月15日(2017.6.15)
発明の名称または考案の名称 ヒトにおける骨髄腫瘍の発症又は発症リスクを検査する指標の取得方法、ヒトにおけるDDX41遺伝子の体細胞変異の存在又は将来的な発生を予測する指標の取得方法、並びに、これらの検査又は予測のためのキット
国際特許分類 C12Q   1/68        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
G01N  33/53        (2006.01)
FI C12Q 1/68 ZNAA
C12N 15/00 A
G01N 33/53 D
G01N 33/53 M
請求項の数または発明の数 12
出願形態 OL
全頁数 22
出願番号 特願2015-239547 (P2015-239547)
出願日 平成27年12月8日(2015.12.8)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用申請有り 1.刊行物名:第74回日本癌学会学術総会プログラム 掲載アドレス:http://www.congre.co.jp/jca2015/data/Oct10.pdf 掲載日:平成27年9月11日 2.刊行物名:第74回日本癌学会学術総会プログラム 発行者名:日本癌学会 掲載頁:241頁(演題番号:E-1316) 頒布日:平成27年9月16日 3.刊行物名:第74回日本癌学会学術総会要旨集(電子抄録) 掲載アドレス:http://www.myschedule.jp/jca2015/search/detail_program/id:5210 掲載日:平成27年9月18日 4.研究集会名:第74回日本癌学会学術総会 開催日:平成27年10月8日~9日(発表日:平成27年10月10日)
発明者または考案者 【氏名】小川 誠司
【氏名】牧島 秀樹
【氏名】吉田 健一
出願人 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100091096、【弁理士】、【氏名又は名称】平木 祐輔
【識別番号】100118773、【弁理士】、【氏名又は名称】藤田 節
【識別番号】100130443、【弁理士】、【氏名又は名称】遠藤 真治
審査請求 未請求
テーマコード 4B024
4B063
Fターム 4B024AA12
4B024CA04
4B024CA20
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QQ42
4B063QS31
要約 【課題】ヒト、特に黄色人種、における骨髄腫瘍の発症又は発症リスクを検査するための手段を提供する。
【解決手段】ヒトにおける骨髄腫瘍の発症又は発症リスクを検査するための指標の取得方法であって、野生型DDX41遺伝子によりコードされるポリペプチドの特定のアミノ酸配列において第500位、第259位、第363位、第364位、第3位、第7位、第35位、第187位及び第256位から選択される1以上のアミノ酸での変異を生じる、DDX41遺伝子の1以上の胚細胞変異を検出する方法。更に別の特定の配列のcDNA塩基配列において、第1496位、第776、第1088位~第1090位、第7位、第19位、第104位、第560位、第766から選択される1以上の変異を検出する方法。
【選択図】図5
特許請求の範囲 【請求項1】
ヒトにおける骨髄腫瘍の発症又は発症リスクを検査するための指標の取得方法であって、
野生型DDX41遺伝子によりコードされるポリペプチドの配列番号2に示すアミノ酸配列において第500位、第259位、第363位、第364位、第3位、第7位、第35位、第187位及び第256位からなる群から選択される1以上のアミノ酸での変異を生じる、DDX41遺伝子の1以上の胚細胞変異を検出することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記アミノ酸での変異が、配列番号2に示すアミノ酸配列における、
第500位のアラニンのフレームシフト変異、
第259位のチロシンのシステインへの置換、
第363位のセリン及び第364位のチロシンの、1つのチロシンへの置換、又は、第363位のセリンの欠失、
第3位のグルタミン酸のリジンへの置換、
第7位のグルタミン酸のナンセンス変異、
第35位のプロリンのアルギニンへの置換、
第187位のリジンのアルギニンへの置換、及び
第256位のグルタミン酸のリジンへの置換
からなる群から選択される1以上の変異である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
DDX41遺伝子の変異が、配列番号1に示す野生型DDX41のcDNA塩基配列における位置として、
第1496位のシトシンの重複、
第776位のアデニンのグアニンへの置換、
第1088位から第1090位のシトシン-シトシン-チミンの欠失、又は、第1087位から第1089位のチミン-シトシン-シトシンの欠失、
第7位のグアニンのアデニンへの置換、
第19位のグアニンのチミンへの置換、
第104位のシトシンのグアニンへの置換、
第560位のアデニンのグアニンへの置換、及び
第766位のグアニンのアデニンへの置換、
からなる群から選択される1以上の変異である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記アミノ酸での変異が、配列番号2に示すアミノ酸配列における、
第500位のアラニンのフレームシフト変異、及び
第259位のチロシンのシステインへの置換、
のうち1以上の変異である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
DDX41遺伝子の変異が、配列番号1に示す野生型DDX41のcDNA塩基配列における位置として、
第1496位のシトシンの重複、及び
第776位のアデニンのグアニンへの置換、
のうち1以上の変異である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
骨髄腫瘍が、骨髄異形成症候群(MDS)及び/又は急性骨髄性白血病(AML)である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
検査するMDS及び/又はAMLの発症又は発症リスクが、進行型MDS及び/又はAMLの発症又は発症リスクである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
CUX1遺伝子の変異を検出することを更に含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
ヒトにおけるDDX41遺伝子の体細胞変異の存在又は将来的な発生を予測するための指標の取得方法であって、
野生型DDX41遺伝子によりコードされるポリペプチドの配列番号2に示すアミノ酸配列において第500位、第259位、第363位、第364位、第3位、第7位、第35位、第187位及び第256位からなる群から選択される1以上のアミノ酸での変異を生じる、DDX41遺伝子の1以上の胚細胞変異を検出することを特徴とする方法。
【請求項10】
前記DDX41遺伝子の体細胞変異が、
野生型DDX41遺伝子によりコードされる配列番号2に示すアミノ酸配列における、第525位のアルギニンの変異を生じるDDX41遺伝子の体細胞変異である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ヒトにおける骨髄腫瘍の発症又は発症リスクを検査する方法、並びに、ヒトにおけるDDX41遺伝子の体細胞変異の存在又は将来的な発生を予測する方法のうち少なくとも1つの方法に用いるキットであって、
DDX41遺伝子のうち、変異した場合に、野生型DDX41遺伝子によりコードされるポリペプチドの配列番号2に示すアミノ酸配列において第500位、第259位、第363位、第364位、第3位、第7位、第35位、第187位及び第256位からなる群から選択される1以上のアミノ酸での変異を生じる塩基を1以上含む部位を増幅できるように設計されたプライマーセット、
DDX41遺伝子のうち、変異した場合に、野生型DDX41遺伝子によりコードされるポリペプチドの配列番号2に示すアミノ酸配列において第500位、第259位、第363位、第364位、第3位、第7位、第35位、第187位及び第256位からなる群から選択される1以上のアミノ酸での変異を生じる塩基を1以上含む部位と結合できるように設計されたプローブ、及び
DDX41遺伝子による翻訳産物であるポリペプチドのうち、配列番号2に示す野生型のアミノ酸配列において第500位、第259位、第363位、第364位、第3位、第7位、第35位、第187位及び第256位からなる群から選択される1以上のアミノ酸に対応するアミノ酸を含む部位を認識する抗体
からなる群から選択される1種以上を含有するキット。
【請求項12】
CUX1遺伝子の変異を検出するための試薬を更に含む、請求項11に記載のキット。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトにおける骨髄異形成症候群(MDS)、急性骨髄性白血病(AML)等の骨髄腫瘍の発症又は発症リスクを検査する方法、検査のための指標の取得方法、ヒトにおけるDDX41遺伝子の体細胞変異の存在又は将来的な発生を予測する方法、予測のための指標の取得方法並びに、これらの方法のためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
骨髄異形成症候群(MDS)および急性骨髄性白血病(AML)はいずれも骨髄腫瘍に分類される疾患でMDS発症後AMLへ移行すると考えられている。両疾患は中高年齢で発症するため、発症と関連する遺伝子変異はこれまで後天性の遺伝子変異(体細胞変異)であると考えられていた。しかし、発明者らはコーカサス人種のMDS・AML患者と健常者を対象に遺伝子解析を行い、MDS・AML患者の中にDDX41遺伝子の胚細胞変異を有する症例が認められること、当該変異が遺伝するとほぼ全例でMDS又はAMLが発症することを初めて報告している(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【0003】

【非特許文献1】Polprasert et al., 2015, Cancer Cell 27, 658-670
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の通りMDS/AMLは、従来、発症と関連する遺伝子変異はこれまで後天性の遺伝子変異(体細胞変異)であると考えらており、胚細胞変異を調べることでMDS/AMLの発症又は発症リスクを検査することは従来不可能と考えられてきた。
【0005】
非特許文献1ではコーカサス人種でのMDS/AML患者に特異的な胚細胞変異が認められることが報告されているが、東アジア人種等の黄色人種では変異部位が同一であるとは限らない。また、コーカサス人種ではMDS/AMLの家族性症例が知られているのに対して、黄色人種ではMDS/AMLは孤発性症例のみが知られており家族性症例は従来知られていなかったため、黄色人種でのMDS/AMLは、コーカサス人種でのMDS/AMLとは異質なものと考えられていた。しかも、家族性疾患とは異なり、孤発性疾患では、疾患と相関する胚細胞変異を特定することは困難である。従って、非特許文献1に開示の知見を、黄色人種での胚細胞変異を調べMDS/AMLの発症又は発症リスクを検査することに応用することは不可能であった。
【0006】
そこで本発明は、ヒト、特に東アジア人種等の黄色人種、におけるMDS、AML等の骨髄腫瘍の発症又は発症リスクを検査するための手段を提供することを目的とする。本発明はまた、MDS、AML等の骨髄腫瘍の治療のために有用な指標を取得するための手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の課題を解決するための手段として以下の発明を提供する。
(1) ヒトにおける骨髄腫瘍の発症又は発症リスクを検査するための指標の取得方法であって、
野生型DDX41遺伝子によりコードされるポリペプチドの配列番号2に示すアミノ酸配列において第500位、第259位、第363位、第364位、第3位、第7位、第35位、第187位及び第256位からなる群から選択される1以上のアミノ酸での変異を生じる、DDX41遺伝子の1以上の胚細胞変異を検出することを特徴とする方法。
(2) 前記アミノ酸での変異が、配列番号2に示すアミノ酸配列における、
第500位のアラニンのフレームシフト変異、
第259位のチロシンのシステインへの置換、
第363位のセリン及び第364位のチロシンの、1つのチロシンへの置換、又は、第363位のセリンの欠失、
第3位のグルタミン酸のリジンへの置換、
第7位のグルタミン酸のナンセンス変異、
第35位のプロリンのアルギニンへの置換、
第187位のリジンのアルギニンへの置換、及び
第256位のグルタミン酸のリジンへの置換
からなる群から選択される1以上の変異である、(1)に記載の方法。
(3) DDX41遺伝子の変異が、配列番号1に示す野生型DDX41のcDNA塩基配列における位置として、
第1496位のシトシンの重複、
第776位のアデニンのグアニンへの置換、
第1088位から第1090位のシトシン-シトシン-チミンの欠失又は第1087位から第1089位のチミン-シトシン-シトシンの欠失、
第7位のグアニンのアデニンへの置換、
第19位のグアニンのチミンへの置換、
第104位のシトシンのグアニンへの置換、
第560位のアデニンのグアニンへの置換、及び
第766位のグアニンのアデニンへの置換、
からなる群から選択される1以上の変異である、(1)又は(2)に記載の方法。
(4) 前記アミノ酸での変異が、配列番号2に示すアミノ酸配列における、
第500位のアラニンのフレームシフト変異、及び
第259位のチロシンのシステインへの置換、
のうち1以上の変異である、(2)に記載の方法。
(5) DDX41遺伝子の変異が、配列番号1に示す野生型DDX41のcDNA塩基配列における位置として、
第1496位のシトシンの重複、及び
第776位のアデニンのグアニンへの置換、
のうち1以上の変異である、(3)に記載の方法。
(6) 骨髄腫瘍が、骨髄異形成症候群(MDS)及び/又は急性骨髄性白血病(AML)である、(1)~(5)のいずれかに記載の方法。
(7) 検査するMDS及び/又はAMLの発症又は発症リスクが、進行型MDS及び/又はAMLの発症又は発症リスクである、(6)に記載の方法。
(8) CUX1遺伝子の変異を検出することを更に含む、(1)~(7)のいずれかに記載の方法。
(9) ヒトにおけるDDX41遺伝子の体細胞変異の存在又は将来的な発生を予測するための指標の取得方法であって、
野生型DDX41遺伝子によりコードされるポリペプチドの配列番号2に示すアミノ酸配列において第500位、第259位、第363位、第364位、第3位、第7位、第35位、第187位及び第256位からなる群から選択される1以上のアミノ酸での変異を生じる、DDX41遺伝子の1以上の胚細胞変異を検出することを特徴とする方法。
(10) 前記DDX41遺伝子の体細胞変異が、
野生型DDX41遺伝子によりコードされる配列番号2に示すアミノ酸配列における、第525位のアルギニンの変異を生じるDDX41遺伝子の体細胞変異である、(9)に記載の方法。
(11) ヒトにおける骨髄腫瘍の発症又は発症リスクを検査する方法、並びに、ヒトにおけるDDX41遺伝子の体細胞変異の存在又は将来的な発生を予測する方法のうち少なくとも1つの方法に用いるキットであって、
DDX41遺伝子のうち、変異した場合に、野生型DDX41遺伝子によりコードされるポリペプチドの配列番号2に示すアミノ酸配列において第500位、第259位、第363位、第364位、第3位、第7位、第35位、第187位及び第256位からなる群から選択される1以上のアミノ酸での変異を生じる塩基を1以上含む部位を増幅できるように設計されたプライマーセット、
DDX41遺伝子のうち、変異した場合に、野生型DDX41遺伝子によりコードされるポリペプチドの配列番号2に示すアミノ酸配列において第500位、第259位、第363位、第364位、第3位、第7位、第35位、第187位及び第256位からなる群から選択される1以上のアミノ酸での変異を生じる塩基を1以上含む部位と結合できるように設計されたプローブ、及び
DDX41遺伝子による翻訳産物であるポリペプチドのうち、配列番号2に示す野生型のアミノ酸配列において第500位、第259位、第363位、第364位、第3位、第7位、第35位、第187位及び第256位からなる群から選択される1以上のアミノ酸に対応するアミノ酸を含む部位を認識する抗体
からなる群から選択される1種以上を含有するキット。
(12) CUX1遺伝子の変異を検出するための試薬を更に含む、(11)に記載のキット。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ヒト、特に東アジア人種等の黄色人種、におけるMDS、AML等の骨髄腫瘍の発症又は発症リスクを検査するための指標の取得が可能となる。各変異は胚細胞変異であり、一般に、MDS、AML等の骨髄腫瘍は高齢時に発症するため子孫に遺伝するリスクが高いが、本発明によれば、骨髄腫瘍を発症前の段階から早期発見することができ、予防に繋げることが可能となる。
【0009】
本発明の他の態様によれば、ヒト、特に東アジア人種等の黄色人種、におけるDDX41遺伝子の体細胞変異の存在又は将来的な発生を予測するための指標の取得が可能になる。DDX41遺伝子の体細胞変異のうち一部はDDX41遺伝子がコードするポリペプチドのアミノ酸配列に変異を起こすが、このようなアミノ酸配列の変異は、骨髄腫瘍を対象とした新薬開発のターゲットとして有効である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】MDS/AML患者での、実施例で見出されたDDX41遺伝子の変異を示す図である。
【図2】MDS/AML症例における、DDX41遺伝子変異症例の割合を人種別に示した図である。
【図3】MDS/AML症例のうち、DDX41遺伝子変異症例がCUX1体細胞変異陽性である割合と、DDX41野生型症例がCUX1体細胞変異陽性である割合を示す図である。
【図4】MDS/AML症例のうち低リスク症例と高リスク症例のそれぞれについて、DDX41遺伝子変異陽性症例の割合を示す図である。
【図5】MDS/AML症例及び健常者での、DDX41遺伝子の胚細胞変異の割合を説明するための図である。
【図6】DDX41遺伝子変異の地理的分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
<遺伝子>
本発明において「遺伝子」とは、ゲノムDNA、mRNA、cDNA等のポリヌクレオチドを含み、天然に存在するものだけでなく人為的に調製されたものであってもよい。また「DDX41遺伝子」や「CUX1遺伝子」といったとき、これらの遺伝子の遺伝情報を保持するポリヌクレオチドを指し、アミノ酸配列をコードするセンス鎖には限らず、その相補鎖(鋳型鎖)であるアンチセンス鎖であってもよく、全体である必要はなく一部の断片であってもよい。また前記ポリヌクレオチドは、DNAの二本鎖であってもよいし、DNAやRNAの一本鎖であってもよい。

【0012】
DDX41 (DEAD (Asp-Glu-Ala-Asp) ボックスポリペプチド41, DEAD (Asp-Glu-Ala-Asp) box polypeptide 41) 遺伝子はヒト第5染色体上に存在し、その代表的なcDNA塩基配列(GenBank Accession No. NM_016222のCDS)は配列番号1に示す通りであり、配列番号1に示す塩基配列がコードするポリペプチドのアミノ酸配列は配列番号2に示す通りである。本発明では、DDX41遺伝子に含まれる塩基の位置を示すために、配列番号1に示すcDNA塩基配列における塩基の位置を用いるが、該位置は、DDX41遺伝子が配列番号1に示すcDNA塩基配列以外の形態の遺伝子、例えばゲノムDNA、mRNA(他のアイソフォームのmRNAでもよい)、cDNA(他のアイソフォームのcDNAでもよい)等の各ポリヌクレオチドである場合には、各形態の遺伝子における、配列番号1に示すcDNA塩基配列の位置に対応する位置の塩基を意味する。例えば「配列番号1に示す野生型DDX41のcDNA塩基配列における位置として、第1496位のシトシンの重複」と表現した場合は、ゲノムDNA、mRNA(他のアイソフォームのmRNAでもよい)、cDNA(他のアイソフォームのcDNAでもよい)等の各ポリヌクレオチド中での、配列番号1に示すcDNA塩基配列の第1496位のシトシンに対応する位置において、cDNA上でのシトシンに対応する塩基(ゲノムDNAセンス鎖、cDNAセンス鎖及びmRNAではシトシンであり、ゲノムDNAアンチセンス鎖及びcDNAアンチセンス鎖ではグアニン)が2つ重複して存在する変異を包含する。

【0013】
CUX1 (カット-ライクホメオボックス1,cut-like homeobox 1) 遺伝子はヒト第7染色体上に存在し、その代表的なcDNA塩基配列(GenBank Accession No. NM_001202543のCDS)は配列番号3に示す通りであり、配列番号3に示す塩基配列がコードするポリペプチドのアミノ酸配列は配列番号4に示す通りである。CUX1遺伝子についても、DDX41遺伝子と同様に、CUX1遺伝子に含まれる塩基の位置を示すために、配列番号3に示すcDNA塩基配列における塩基の位置を用いる。

【0014】
<ヒトにおける骨髄腫瘍の発症又は発症リスクを検査する指標の取得方法>
本発明において「ヒトにおける骨髄腫瘍の発症又は発症リスクを検査する指標の取得方法」とは、「ヒトにおける骨髄腫瘍の発症又は発症リスクを判定するためのデータ(又は指標)を取得する方法」、「ヒトにおける骨髄腫瘍の発症又は発症リスクの検査を補助(又は支援)する方法」と表現することもできる。

【0015】
本発明の方法の対象となるヒトは、特に限定されるものではなく、骨髄腫瘍が既に発症しているヒトであってもよいし、本方法の実施時点では発症していないヒトであってもよい。ヒトの人種としては、好ましくは黄色人種であり、より好ましくは東アジア人種である。東アジア人種とは、日本、朝鮮半島、中国を含む、アジア大陸の東部及びその周辺の出身の先祖を持つ人々を指す。

【0016】
本発明の方法は検査対象のヒトから分離した試料を用いて行うことができる。
本発明の方法は、野生型DDX41遺伝子によりコードされるポリペプチドの配列番号2に示すアミノ酸配列において第500位、第259位、第363位、第364位、第3位、第7位、第35位、第187位及び第256位からなる群から選択される1以上のアミノ酸での変異を生じる、DDX41遺伝子の1以上の胚細胞変異を検出することを特徴とする。これらの変異は、DDX41遺伝子によりコードされるポリペプチドの機能を変化又は喪失させる変異である可能性がある。

【0017】
検出された変異が体細胞変異ではなく胚細胞変異であることは、例えば、被験体の正常組織から取得した試料において変異の存在を確認することにより判断することができ、より好ましくは正常組織から取得した試料と、骨髄腫瘍の腫瘍組織又は腫瘍組織と疑われる組織から取得した試料との両方おいて変異の存在を確認することにより判断することができる。正常組織から取得した試料のみを用いる場合は、複数回の測定を行い、及び/又は、正常組織の複数個所から取得された試料を用いて測定を行い、変異を確認することにより該変異が胚細胞変異であると判断することが好ましい。

【0018】
本発明の方法では、配列番号2の第500位、第259位、第363位、第364位、第3位、第7位、第35位、第187位及び第256位からなる群のうち、少なくとも1以上のアミノ酸での変異を生じる、DDX41遺伝子の少なくとも1つの胚細胞変異を検出すればよいが、前記群は、より好ましくは第500位、第259位、第363位、第364位及び第35位からなり、更に好ましくは第500位及び第259位からなり、最も好ましくは第500位からなる。本発明者らはこれらの胚細胞変異を有するヒトが、MDS、AML等の骨髄腫瘍を発症するリスクが特に高いことを見出した。

【0019】
本発明では、ポリペプチドにおけるアミノ酸又は遺伝子における塩基の各変異を、所定の1又は2の表現により特定するが、同一変異を更に別の表現でも特定することができる場合があり、それらは全て同一の変異として扱う。

【0020】
本発明の方法では、ヒト被験体が、前記のDDX41遺伝子の胚細胞変異の1つ以上をDDX41遺伝子の対立遺伝子座の少なくとも一方に有していれば、該ヒト被験体が骨髄腫瘍を発症している、又は現時点で発症していなくても将来的に発症のリスクがあると判定することができる。なお、実施例に示す本発明者らの調査の範囲では、DDX41胚細胞変異陽性患者はいずれも、上記のDDX41胚細胞変異のうち1つのみを有しており、且つ、該変異は対立遺伝子座の一方のみに認められている。

【0021】
野生型DDX41遺伝子によりコードされるポリペプチドの配列番号2に示すアミノ酸配列での上記各アミノ酸の変異とは、ミスセンス変異(他アミノ酸への変異)、ナンセンス変異(遺伝子中での終止コドンへの変異)、フレームシフト変異(遺伝子中での塩基の挿入及び/又は欠失により、遺伝子中での塩基の変異位置に対応するアミノ酸及び/又はそれより下流のアミノ酸配列が変化する変異)、インフレーム欠失変異等を包含する。配列番号2の前記各位置でのこれらのアミノ酸変異は、配列番号2での各位置のアミノ酸だけでなく、それよりも下流のアミノ酸配列の変異を伴い得る。

【0022】
各アミノ酸での変異は上記のいずれであってもよいが、典型的には、前記アミノ酸での変異が、配列番号2に示すアミノ酸配列における、
第500位のアラニンのフレームシフト変異、
第259位のチロシンのシステインへの置換、
第363位のセリン及び第364位のチロシンの、1つのチロシンへの置換、又は第363位のセリンの欠失、
第3位のグルタミン酸のリジンへの置換、
第7位のグルタミン酸のナンセンス変異、
第35位のプロリンのアルギニンへの置換、
第187位のリジンのアルギニンへの置換、及び
第256位のグルタミン酸のリジンへの置換
からなる群から選択される1以上の変異であり、
より好ましくは、
配列番号2に示すアミノ酸配列における、
第500位のアラニンのフレームシフト変異、
第259位のチロシンのシステインへの置換、
第363位のセリン及び第364位のチロシンの、1つのチロシンへの置換、又は第363位のセリンの欠失、及び
第35位のプロリンのアルギニンへの置換
のうち1以上の変異であり、
特に好ましくは
配列番号2に示すアミノ酸配列における、
第500位のアラニンのフレームシフト変異、及び
第259位のチロシンのシステインへの置換、
のうち1以上の変異である。

【0023】
配列番号2での第500位のアラニンのフレームシフト変異は、DDX41遺伝子において、配列番号1に示す野生型DDX41のcDNA塩基配列における位置として、第1496位のシトシンの重複により生じるものであることが好ましいがこれには限定されない。ここで「第1496位のシトシンの重複」は、配列番号1に示す野生型DDX41のcDNA塩基配列における位置として第1496位の1塩基のシトシンが2塩基のシトシン-シトシンに置換されたと表現することができる変異であり、「第1495位と第1496位との間へのシトシンの挿入」、「第1495位のシトシンの重複」等の各種表現で表すことができる。

【0024】
配列番号2での第259位のチロシンのシステインへの置換は、DDX41遺伝子において、配列番号1に示す野生型DDX41のcDNA塩基配列における位置として、第776位のアデニンのグアニンへの置換により生じるものであることが好ましいがこれには限定されない。

【0025】
配列番号2での第363位のセリン及び第364位のチロシンの、1つのチロシンへの置換(又は第363位のセリンの欠失)は、DDX41遺伝子において、配列番号1に示す野生型DDX41のcDNA塩基配列における位置として、第1088位から第1090位のシトシン-シトシン-チミンの欠失(又は第1087位から第1089位のチミン-シトシン-シトシンの欠失)により生じるものであることが好ましいがこれには限定されない。

【0026】
配列番号2での第3位のグルタミン酸のリジンへの置換は、DDX41遺伝子において、配列番号1に示す野生型DDX41のcDNA塩基配列における位置として、第7位のグアニンのアデニンへの置換により生じるものであることが好ましいがこれには限定されない。

【0027】
配列番号2での第7位のグルタミン酸のナンセンス変異は、DDX41遺伝子において、配列番号1に示す野生型DDX41のcDNA塩基配列における位置として、第19位のグアニンのチミンへの置換により生じるものであることが好ましいがこれには限定されない。

【0028】
配列番号2での第35位のプロリンのアルギニンへの置換は、DDX41遺伝子において、配列番号1に示す野生型DDX41のcDNA塩基配列における位置として、第104位のシトシンのグアニンへの置換により生じるものであることが好ましいがこれには限定されない。

【0029】
配列番号2での第187位のリジンのアルギニンへの置換は、DDX41遺伝子において、配列番号1に示す野生型DDX41のcDNA塩基配列における位置として、第560位のアデニンのグアニンへの置換により生じるものであることが好ましいがこれには限定されない。

【0030】
配列番号2での第256位のグルタミン酸のリジンへの置換は、DDX41遺伝子において、配列番号1に示す野生型DDX41のcDNA塩基配列における位置として、第766位のグアニンのアデニンへの置換により生じるものであることが好ましいがこれには限定されない。

【0031】
本発明では、被験体から分離された試料において上記胚細胞変異の1つ以上が検出された場合に、該被験体は骨髄腫瘍を発症している、又は現時点で発症していなくても将来的に発症のリスクがあると判定するための指標とすることができる。本発明において「骨髄腫瘍」とは、骨髄系細胞を由来とする腫瘍性疾患を指し、骨髄異形成症候群(MDS)、急性骨髄性白血病(AML)、MDS/MPN(骨髄異形成骨髄増殖性腫瘍)、MPN(骨髄増殖性腫瘍)等の疾患を包含する総称である。本発明の方法は「骨髄腫瘍」がMDS及び/又はAMLである場合に特に有効である。本発明者らは図4に示すように、MDS及び/又はAML症例のなかでも特に骨髄芽球が骨髄で5%を超える進行型MDSの症例及びAMLの症例において特に高頻度に上記胚細胞変異を見出した。このことから、本発明の方法により上記胚細胞変異が検出された被験体は進行型MDS又はAMLが発症している、又は現時点で発症していなくても将来的に発症のリスクがあると判定するための指標を取得することができる。

【0032】
本発明の方法において、各変異の有無を検出する手段は特に限定されず任意の手段を採用することができる。各変異の検出は、DDX41遺伝子において各アミノ酸での変異を生じる塩基での変異の有無を検出することにより行ってもよいし、DDX41遺伝子がコードするポリペプチドにおいて各アミノ酸の変異の有無を検出することにより行ってもよい。なお本発明では、配列番号2で前記1つ以上のアミノ酸での変異を生じるDDX41遺伝子の塩基の変異が存在するとは、変異DDX41遺伝子の転写・翻訳産物として、所定のアミノ酸が変異した変異体ポリペプチドが実際に被験体内で存在する必要はなく、変異DDX41遺伝子が転写され翻訳されたと仮定した時に所定のアミノ酸が変異した変異体ポリペプチドを生じさせるDDX41遺伝子の塩基の変異が被験体内に存在すればよい (他の遺伝子での変異についても同様である)。DDX41遺伝子での変異の検出方法としては、プライマーセットを用いて核酸増幅し増幅産物をシークエンシングする方法、変異部位に特異的にハイブリダイズするプローブを用いる方法、リアルタイムPCRやDNAチップを用いる方法等が挙げられる。DDX41遺伝子がコードするポリペプチドにおいて各アミノ酸の変異の有無を検出する方法としては免疫染色法やタンパクアレイ法が挙げられる。

【0033】
以下では、ヒト生体から分離された試料に含有されるゲノムDNA、mRNA(又はmRNAから調製されたcDNA)、ポリペプチドを用いて変異を検出する実施形態について個別に説明する。

【0034】
(1) ゲノムDNAでの変異を検出する実施形態
ヒトから分離された試料に含有されるゲノムDNAを用いて変異を検出する場合、ヒトから分離された試料からゲノムDNAを抽出する。抽出方法は特に限定されず公知の方法を使用することができる。

【0035】
ヒトから分離された試料は、特に限定されるものではなく、ゲノムDNAを抽出可能なものであればよい。具体的には、例えば、血液、骨髄液、毛髪、爪、口腔粘膜、皮膚、尿、便、他の臓器を過去に別の目的で採取した場合の病理標本(例えばヘリコバクターピロリ菌検出目的の胃粘膜生検等)等を挙げることができる。また、ヒトから分離した細胞を培養し、増殖したものからゲノムDNAを抽出してもよい。

【0036】
また、抽出したゲノムDNAは、例えば、PCR(Polymerase Chain Reaction)法、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)法、NASBA(Nucleic acid sequence based amplification)法、TMA(Transcription-mediated amplification)法、SDA(Strand Displacement Amplification)法、ICAN(Isothermal and Chimeric primer-initiated Amplification of Nucleic acids)法などの通常行われる遺伝子増幅法により増幅して用いてもよい。このとき分析すべきDDX41遺伝子の少なくとも1つの変異を含む領域を増幅すればよい。

【0037】
本発明で分析する変異はDDX41遺伝子のエクソン領域に含まれる変異であるため、ゲノムDNAからエクソン領域のみを切り出したものを検出対象試料としてもよい。

【0038】
調製されたゲノムDNAを含有する試料を用いて、DDX41遺伝子での変異の有無を検出する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、ゲノムDNA又は増幅産物をシークエンシングする方法、特異的オリゴヌクレオチドプローブ法、オリゴヌクレオチドライゲーションアッセイ(Oligonucleotide Ligation Assay)法、PCR-SSCP法、PCR-CFLP法、PCR-PHFA法、インベーダー法、RCA(Rolling Circle Amplification)法、プライマーオリゴベースエクステンション(Primer Oligo Base Extension)法等を挙げることができる。

【0039】
なお、変異の検出において使用するプライマーセット、プローブ等の各核酸材料はDNAシンセサイザーなどにより作製することができる。

【0040】
また、ゲノムDNA又は増幅産物を適当な制限酵素で消化し、切断された断片のサイズの違いをサザンブロッティングなどで検出することによっても、遺伝子における変異の有無を検出することができる。

【0041】
このように、被験体(ヒト生体)から分離された試料に含有されるゲノムDNAを用いて、ヒトにおけるMDS、AML等の骨髄腫瘍の発症又は発症リスクを検査するための指標を得ることができる。該指標は、具体的には、所定の変異が見出された場合に、該被験体はMDS、AML等の骨髄腫瘍が発症している、又は現時点で発症していなくても将来的に発症のリスクがあると判定するための指標である。

【0042】
(2) mRNA又はcDNAでの変異を検出する実施形態
被験体(ヒト生体)から分離された試料に含有されるmRNAを用いて変異を検出する場合、通常はまず、ヒト生体から分離された試料からmRNAを抽出する。抽出方法は特に限定されず公知の方法を使用することができる。

【0043】
上記被験体から分離された試料は、特に限定されるものではなく、mRNAを抽出可能であり、DDX41遺伝子を発現している、または発現している可能性があるものであればよい。

【0044】
次に、抽出したmRNAから逆転写反応によってcDNAを調製する。さらに、得られたcDNAは必要に応じてゲノムDNAに関して上述したような遺伝子増幅法により増幅してもよい。

【0045】
調製されたcDNAを含有する試料を用いて、DDX41遺伝子における変異の有無を検出する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、上記ゲノムDNAを用いて遺伝子の変異を検出する場合と同様の方法を用いて、DDX41遺伝子の変異の有無を検出することができる。

【0046】
このように、被験体(ヒト生体)から分離された試料に含有されるmRNA又はcDNAを用いて、ヒトにおけるMDS、AML等の骨髄腫瘍の発症又は発症リスクを検査するための指標を得ることができる。該指標は、具体的には、所定の変異が見出された場合に、該被験体はMDS、AML等の骨髄腫瘍が発症している、又は現時点で発症していなくても将来的に発症のリスクがあると判定するための指標である。

【0047】
(3) ポリペプチドでの変異を検出する実施形態
被験体(ヒト生体)から分離された試料に含有されるポリペプチド(タンパク質)を用いて変異を検出する実施形態では、まず、被験体から分離された試料からポリペプチドを抽出する。抽出方法は特に限定されず公知の方法を使用することができる。

【0048】
ヒト生体から分離された試料は、特に限定されるものではなく、ポリペプチドを抽出可能であり、DDX41遺伝子の翻訳産物(すなわちDDX41タンパク質)を発現している、または発現している可能性があるものであればよい。

【0049】
調製されたポリペプチドを含有する試料を用いて、DDX41遺伝子における変異の有無を検出する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、DDX41遺伝子の翻訳産物であるポリペプチドについて、上記で挙げたような所定のアミノ酸変異を有するポリペプチドのみ又は所定のアミノ酸変異を有さないポリペプチドのみを特異的に認識する抗体を作製し、該抗体を用いたELISA法やウエスタンブロット法により変異を検出することができる。

【0050】
また、前記ポリペプチドを含有する試料から、DDX41遺伝子の翻訳産物(ポリペプチド)を単離し、直接または必要に応じ、酵素等で切断し、プロテインシークエンサーや、質量分析装置を利用して変異を検出することができる。

【0051】
さらに、前記ポリペプチドを含有する試料から、DDX41遺伝子の翻訳産物(ポリペプチド)を単離し、該ポリペプチドの等電点に基づいて、変異を検出することもできる。

【0052】
このように、被験体(ヒト生体)から分離された試料に含有されるポリペプチドを用いて、ヒトにおけるMDS、AML等の骨髄腫瘍の発症又は発症リスクを検査するための指標を得ることができる。該指標は、具体的には、所定の変異が見出された場合に、該被験体はMDS、AML等の骨髄腫瘍が発症している、又は現時点で発症していなくても将来的に発症のリスクがあると判定するための指標である。

【0053】
以下、本発明の方法についての説明に戻る。
本発明の方法は、より好ましくは、DDX41遺伝子の胚細胞変異に加えて、CUX1遺伝子の体細胞変異を検出することを更に含む。CUX1遺伝子の体細胞変異は、MDS/AMLを始めとする骨髄腫瘍において、腫瘍抑制遺伝子として、予後不良な病型において機能消失型の変異あるいはハプロ欠失を来たすことを以前に我々は報告している。そこで、被験体においてDDX41遺伝子の胚細胞変異が認められた症例において更にCUX1遺伝子の変異を検出し、CUX1遺伝子の変異が検出された場合には、該被験体での骨髄腫瘍の不良な予後を予測することができる。CUX1遺伝子の変異の位置は特に限定されないが、例えば配列番号4のアミノ酸配列での第142位、第439位、第796位、第815位及び第890位からなる群から選択される1以上のアミノ酸での変異を生じる、CUX1遺伝子の1以上の変異である。CUX1遺伝子の変異の検出は、上述のDDX41遺伝子での変異の検出方法と同様の方法で検出可能である。この場合に検出するCUX1遺伝子の変異は通常は体細胞変異である。CUX1遺伝子の変異が体細胞変異であることは、骨髄腫瘍の腫瘍組織又は腫瘍組織と疑われる組織から取得した試料において変異の存在を確認することにより判断することができ、より好ましくは、骨髄腫瘍の腫瘍組織又は腫瘍組織と疑われる組織から取得した試料において変異の存在を確認することができ、且つ、正常組織から取得した試料において変異の存在を確認することが出来ない場合に該変異が体細胞変異であると判断することができる。本発明のこの実施形態は、骨髄腫瘍を発症していることが予め確認されている被験体に対して特に有用である。

【0054】
<ヒトにおけるDDX41遺伝子の体細胞変異の存在又は将来的な発生を予測するための指標の取得方法>
本発明の他の実施形態は、被験体において、野生型DDX41遺伝子によりコードされるポリペプチドの配列番号2に示すアミノ酸配列において第500位、第259位、第363位、第364位、第3位、第7位、第35位、第187位及び第256位からなる群から選択される1以上のアミノ酸での変異を生じる、DDX41遺伝子の1以上の胚細胞変異を検出し、該変異が検出された場合に、当該被験体においてDDX41遺伝子の体細胞変異が存在する又は将来的に発生する可能性があると予測するための指標を取得する方法に関する。

【0055】
この時、存在又は将来的な発生を予測する「DDX41遺伝子の体細胞変異」としては、野生型DDX41遺伝子によりコードされる配列番号2に示すアミノ酸配列における、第525位、第227位、第232位、第191位、第183位、第530位、第592位、第321位、第35位、第499位、第370位、第219位及び第377位からなる群から選択される1以上のアミノ酸での変異、より好ましくは第525位、第227位及び第232位からなる群から選択される1以上のアミノ酸での変異、を生じるDDX41遺伝子の体細胞変異が特に好ましい。実施例に示す本発明者らの調査では、上記のDDX41胚細胞変異のうち1つを対立遺伝子座の一方に有する、骨髄腫瘍を罹患した被験体では、高い確率で、対立遺伝子座の他方に上記のDDX41遺伝子の体細胞変異の1つを有することが明らかとなった。配列番号2に示すアミノ酸配列における第525位のアルギニンの変異としてはヒスチジンへの置換が挙げられるがこれには限定されない。配列番号2に示すアミノ酸配列における第227位のスレオニンの変異としてはメチオニン又はアラニンへの置換が挙げられるがこれには限定されない。配列番号2に示すアミノ酸配列における第232位のスレオニンの変異としてはアラニンへの置換が挙げられるがこれには限定されない。存在又は将来的な発生を予測する「DDX41遺伝子の体細胞変異」としては、第525位のアルギニンのヒスチジンへの置換を生じるDDX41遺伝子の体細胞変異が特に好ましい。このようなDDX41タンパク質のアミノ酸の変異は、MDS、AML等の骨髄腫瘍を対象とした医薬のターゲットとして有効であることから、本発明の方法により、DDX41遺伝子の体細胞変異の存在又は将来的な存在を予測することで、該被験体に対する有効な治療又は予防のための医薬の選択が支援される。

【0056】
<キット>
本発明のキットは、上記で説明した、ヒトにおけるMDS、AML等の骨髄腫瘍の発症又は発症リスクを検査する方法、並びに、ヒトにおけるDDX41遺伝子の体細胞変異の存在又は将来的な発生を予測する方法のうち少なくとも1つの方法に用いるキットである。

【0057】
前記キットは、下記のプライマーセット、プローブ及び抗体からなる群から選択される1以上を備える。
前記キットに含まれるプライマーセットは、DDX41遺伝子のうち、それが変異した場合に、野生型DDX41遺伝子によりコードされるポリペプチドの配列番号2に示すアミノ酸配列において第500位、第259位、第363位、第364位、第3位、第7位、第35位、第187位及び第256位からなる群から選択される1以上のアミノ酸での変異を生じる塩基を1以上含む部位を特異的に増幅できるように設計されたプライマーセットである。

【0058】
DDX41遺伝子における前記塩基としては、配列番号1に示す野生型DDX41のcDNA塩基配列における位置として、
第1495位のシトシン及び第1496位のシトシンのうち一方又は両方の塩基、
第776位のアデニン、
第1088位のシトシン、第1089位のシトシン及び第1090位のチミンのうち1~3個の塩基、又は、第1087位のチミン、第1088位のシトシン及び第1089位のシトシンのうち1~3個の塩基、
第7位のグアニン、
第19位のグアニン、
第104位のシトシン、
第560位のアデニン、及び
第766位のグアニンからなる群から選択される少なくも1つの塩基に対応する位置にある塩基が特に好ましい。

【0059】
前記プライマーセットにおける各プライマーは、典型的には、塩基数が10以上、好ましくは15以上、50以下、好ましくは30以下のDNAを含み、必要に応じて増幅、検出、標識、固定化等の各種目的のためのDNA領域や、標識分子等が連結されたものであってもよい。

【0060】
前記プライマーセットは、DDX41遺伝子が前記塩基に関して野生型である場合と変異型である場合との両方において前記塩基を含む部位を増幅可能なように設計されていてもよいし、DDX41遺伝子が前記塩基に関して変異型である場合にのみ前記塩基を含む部位を増幅可能なように設計されていてもよいし、DDX41遺伝子が前記塩基に関して野生型である場合にのみ前記塩基を含む部位を増幅可能なように設計されていてもよい。

【0061】
前記プライマーセットを用いて増幅反応を行う場合の鋳型としてはDDX41遺伝子を含むゲノムDNA、mRNAから調製されたcDNA、これらの断片等を用いることができる。

【0062】
前記プライマーセットを含む本発明のキットは、核酸増幅反応に必要な他の成分や、核酸シークエンシングに必要な他の成分を含むことができ、下記のプローブを含んでもよい。

【0063】
前記キットに含まれるプローブは、DDX41遺伝子のうち、変異した場合に、野生型DDX41遺伝子によりコードされるポリペプチドの配列番号2に示すアミノ酸配列において第500位、第259位、第363位、第364位、第3位、第7位、第35位、第187位及び第256位からなる群から選択される1以上のアミノ酸での変異を生じる塩基を1以上含む部位と特異的に結合できるように設計されたプローブである。

【0064】
DDX41遺伝子における前記塩基としては、配列番号1に示す野生型DDX41のcDNA塩基配列における位置として、
第1495位のシトシン及び第1496位のシトシンのうち一方又は両方の塩基、
第776位のアデニン、
第1088位のシトシン、第1089位のシトシン及び第1090位のチミンのうち1~3個の塩基、又は、第1087位のチミン、第1088位のシトシン及び第1089位のシトシンのうち1~3個の塩基、
第7位のグアニン、
第19位のグアニン、
第104位のシトシン、
第560位のアデニン、及び
第766位のグアニンからなる群から選択される少なくも1つの塩基に対応する位置にある塩基が特に好ましい。

【0065】
前記プローブは、典型的には、塩基数が10以上、好ましくは15以上、50以下、好ましくは40以下、より好ましくは30以下のDNAを含み、必要に応じて増幅、検出、標識、固定化等の各種目的のためのDNA領域や、標識分子等が連結されたものであってもよい。前記プローブはまた固相担体上に固定化されていてもよい。

【0066】
前記プローブは、DDX41遺伝子が前記塩基に関して野生型である場合と変異型である場合との両方において前記塩基を含む部位と結合可能なように設計されていてもよいし、DDX41遺伝子が前記塩基に関して変異型である場合にのみ前記塩基を含む部位と結合可能なように設計されていてもよいし、DDX41遺伝子が前記塩基に関して野生型である場合にのみ前記塩基を含む部位と結合可能なように設計されていてもよい。

【0067】
前記プローブが結合するDDX41遺伝子としては、ゲノムDNA、mRNA、cDNA、これらの断片等を用いることができ、ゲノムDNA及びcDNAとは適宜一本鎖化された状態で前記プローブとの結合に用いることができる。

【0068】
前記プローブを含む本発明のキットは、プローブとDDX41遺伝子との結合体の検出に必要な他の成分を含むことができる。該キットは前記プライマーセットと前記プローブとを組み合わせて含むことができる。

【0069】
前記抗体は、DDX41遺伝子による翻訳産物であるポリペプチドのうち、配列番号2に示す野生型のアミノ酸配列において第500位、第259位、第363位、第364位、第3位、第7位、第35位、第187位及び第256位からなる群から選択される1以上のアミノ酸に対応するアミノ酸を含む部位を特異的に認識するする抗体である。

【0070】
前記抗体は、必要に応じて検出、標識、固定化等の各種目的のためのタグ部分や、標識分子等が連結されたものであってもよい。前記抗体はまた固相担体上に固定化されていてもよい。

【0071】
前記抗体は、前記ポリペプチドにおいて、前記アミノ酸が変異型である場合にのみ前記アミノ酸を含む部位を認識可能なように設計されていてもよいし、前記アミノ酸が野生型である場合にのみ前記アミノ酸を含む部位を認識可能なように設計されていてもよい。

【0072】
前記ポリペプチドにおいて前記アミノ酸の変異型としては、配列番号2に示す野生型アミノ酸配列における、第500位のアラニンのフレームシフト変異、第259位のチロシンのシステインへの置換、第363位のセリン及び第364位のチロシンの、1つのチロシンへの置換(或いは第363位のセリンの欠失)、第3位のグルタミン酸のリジンへの置換、第7位のグルタミン酸のナンセンス変異、第35位のプロリンのアルギニンへの置換、第187位のリジンのアルギニンへの置換、及び、第256位のグルタミン酸のリジンへの置換からなる群から選択される1以上の変異型の場合が挙げられる。

【0073】
前記抗体を含む本発明のキットは、ELISA法、ウエスタンブロット法等の検出法に必要な成分を含むことができる。

【0074】
本発明のキットは、CUX1遺伝子の変異を検出するための試薬を更に含むことが好ましい。CUX1遺伝子の変異としては、CUX1遺伝子がコードするポリペプチドのアミノ酸配列に変異を生じる変異であることが好ましく、CUX1遺伝子の変異の位置は特に限定されないが、例えば配列番号4のアミノ酸配列での第142位、第439位、第796位、第815位及び第890位からなる群から選択される1以上のアミノ酸での変異を生じるCUX1遺伝子の変異である。

【0075】
CUX1遺伝子の変異を検出するための試薬としては、CUX1遺伝子のうち上記変異を生じる塩基を1以上含む部位を特異的に増幅できるように設計されたプライマーセットや、CUX1遺伝子のうち上記変異を生じる塩基を1以上含む部位に特異的に結合できるように設計されたプローブや、CUX1遺伝子による翻訳産物であるポリペプチドのうち変異を生じ得るアミノ酸に対応するアミノ酸を含む部位を認識するする抗体が挙げられる。

【0076】
<ヒトにおける骨髄腫瘍の発症又は発症リスクを検査する方法>
本発明の他の実施形態は、
ヒトにおける骨髄腫瘍の発症又は発症リスクを検査する方法であって、
野生型DDX41遺伝子によりコードされるポリペプチドの配列番号2に示すアミノ酸配列において第500位、第259位、第363位、第364位、第3位、第7位、第35位、第187位及び第256位からなる群から選択される1以上のアミノ酸での変異を生じるDDX41遺伝子の1以上の胚細胞変異を検出することを特徴とする方法
に関する。

【0077】
この実施形態における、各アミノ酸及び塩基の変異、検出方法、好ましい実施形態等については、<ヒトにおける骨髄腫瘍の発症又は発症リスクを検査するための指標の取得方法>の欄で説明したのと同様である。

【0078】
<ヒトにおけるDDX41遺伝子の体細胞変異の存在又は将来的な発生を予測する方法>
本発明の他の実施形態は、
ヒトにおけるDDX41遺伝子の体細胞変異の存在又は将来的な発生を予測する方法であって、
野生型DDX41遺伝子によりコードされるポリペプチドの配列番号2に示すアミノ酸配列において第500位、第259位、第363位、第364位、第3位、第7位、第35位、第187位及び第256位からなる群から選択される1以上のアミノ酸での変異を生じるDDX41遺伝子の1以上の胚細胞変異を検出することを特徴とする方法
に関する。

【0079】
この実施形態における、各アミノ酸及び塩基の変異、検出方法、好ましい実施形態等については、<ヒトにおける骨髄腫瘍の発症又は発症リスクを検査するための指標の取得方法>及び<ヒトにおけるDDX41遺伝子の体細胞変異の存在又は将来的な発生を予測するための指標の取得方法>の欄で説明したのと同様である。
【実施例】
【0080】
本発明について理解を深めるために、以下に本発明を実施例に示してより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではないことはいうまでもない。
【実施例】
【0081】
<骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndromes; MDS)、急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia; AML)における遺伝子変異の同定>
本実施例では、MDSあるいはAMLと診断された患者であり、インフォームドコンセントが得られた患者について、京都大学の倫理委員会によって承認されたプロトコルに従って、本発明のための検体を採取し、網羅的な遺伝子変異解析を行った。調査した上記患者は全て東アジア人種の日本人であった。
【実施例】
【0082】
本実施例では、1070例のMDSあるいはAMLの患者から採取した正常組織由来の検体及び腫瘍組織由来の検体を用いて、標的ディープシーケンス解析を行い、DDX41およびその他のMDS/AMLの発症に重要な遺伝子の変異解析を実施した。以上により、DDX41の胚細胞性および体細胞遺伝子異常を解明することを試みた。
【実施例】
【0083】
(1)標的ディープシーケンス解析による変異遺伝子の同定
まず、1070例のMDSとAML患者の正常組織および腫瘍組織由来の検体を対象とし、DNAについて標的ディープシーケンス解析を行った。ゲノム領域のうち、DDX41タンパク質をコードするエクソン領域を、SureSelect Target Enrichment(アジレント・テクノロジー株式会社)を用いて濃縮し、HiSeq2000(Illumina 社)を用いて塩基配列を決定した。胚細胞変異は正常組織由来DNA及び腫瘍組織由来DNAの両方に含まれるのに対して、体細胞変異は腫瘍組織由来DNAのみに含まれることから、腫瘍組織由来のDNAの塩基配列と正常組織由来のDNAの塩基配列を比較することにより、遺伝子の胚細胞性変異と体細胞変異を確認した。野生型DDX41ゲノムDNAにおける、DDX41タンパク質をコードするエクソン領域の塩基配列(GenBank Accession No. NM_016222)、すなわちcDNA配列を配列番号1に示し、配列番号1のcDNA塩基配列がコードするDDX41タンパク質のアミノ酸配列を配列番号2に示す。
【実施例】
【0084】
DDX41遺伝子についての標的ディープシーケンス解析の結果を下記表及び図1に示す。本実施例では、胚細胞遺伝子変異に関しては、2人以上の患者に由来する検体において検出された変異のみを胚細胞遺伝子変異として扱った。
【実施例】
【0085】
【表1】
JP2017104035A_000003t.gif
【実施例】
【0086】
標的ディープシーケンス解析により、我々は1070例の孤発性のMDS/AMLにおいて、44個(約4%)の胚細胞性遺伝子変異、23個(約2%)の体細胞変異を検出した。図2の「東アジア人種」のデータが上記試験からのデータであり、比較のために示す「コーカサス人種」のデータはPolprasert et al., 2015, Cancer Cell 27, 658-670に報告されたものである。
【実施例】
【0087】
(2)標的シーケンス解析による胚細胞変異と体細胞変異の合併頻度の同定および変異パターンの解析
我々のコホートの検索により、胚細胞遺伝子変異及び体細胞遺伝子変異の一方又は両方が認められた44例のうち、およそ50%の症例において、DDX41の胚細胞変異と体細胞変異が同時に認められた(図2「東アジア人種」)。DDX41の胚細胞変異陰性症例には、DDX41の体細胞変異がほとんど見つからず、DDX41の胚細胞変異と体細胞変異とは有意に対立遺伝子座に起こることを、サブクローニングの手法で明らかにした。また今回の調査の範囲では、DDX41胚細胞変異陽性患者はいずれも、1つのDDX41胚細胞変異のみを有しており、且つ、該変異を対立遺伝子座の一方のみに有していることがサブクローニングの手法で明らかとなった。以上からMDS/AMLの発症に関するDDX41の変異形式は2ヒット理論(同じ遺伝子起こる2回の変異が病因となる)によって説明される。
【実施例】
【0088】
図1に示す通り、DDX41遺伝子の標的ディープシーケンス解析の結果、少なくとも複数回認められた頻度の高いDDX41の胚細胞変異として、ホットスポットフレームシフト変異A500fs(22例)(計2.2%)、ホットスポットミスセンス変異Y259C(6例)、E256K(2例)、K187R(2例)、P35R(4例)、E3K(2例)(計2%)、インフレーム欠失変異363_364del(4例)(計0.4%)、ナンセンス変異E7X(2例)(計0.2%)を認めた。
【実施例】
【0089】
DDX41の体細胞変異としては、ホットスポットミスセンス変異R525H(8例)を始め、T227A/M(計3例)、T232A(2例)、A191fs、F183S、G530D、I592F、P321L、P35R、P499S、Q370X、R219H、T377N(それぞれ1例ずつ)を認めた。これらの変異のうち複数の症例において変異が認められたR525H、T232A、T227A/Mについて塩基の変異とアミノ酸の変異との対応関係を次表に示す。
【実施例】
【0090】
【表2】
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【実施例】
【0091】
これらの体細胞変異は、高頻度に胚細胞変異陽性例に合併して認められ(図2)、2ヒットの変異形式を呈していた。以上から、MDS/AMLにおいて、DDX41の胚細胞変異のみならず体細胞変異を検索することは、より詳細な病態を明らかにするのに有用である。また、DDX41の胚細胞変異の存在を指標として、DDX41タンパク質のR525H変異等の体細胞変異の存在又は将来的な発生を予測することができる。
【実施例】
【0092】
MDS/AML症例全体(1070)についてDDX41以外の遺伝子に関しても標的ディープシーケンスにて体細胞変異を検索すると、DDX41変異がある症例(44)において、有意に高頻度にCUX1体細胞変異の合併を認めた(図3)。野生型CUX1ゲノムDNAにおける、CUX1タンパク質をコードするエクソン領域の塩基配列(GenBank Accession No. NM_001202543)、すなわちcDNA配列を配列番号3に示し、配列番号3のcDNA塩基配列がコードするCUX1タンパク質のアミノ酸配列を配列番号4に示す。DDX41変異がある症例(44)において確認されたCUX1遺伝子の体細胞変異を下記表にまとめた。
【実施例】
【0093】
【表3】
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【実施例】
【0094】
CUX1は、MDS/AMLを始めとする骨髄腫瘍において、腫瘍抑制遺伝子として、予後不良な病型において機能消失型の変異あるいはハプロ欠失を来たすことを以前に我々は報告している。したがって、DDX41変異が認められた症例では、CUX1の変異が起きているか確認することで、不良な予後を予測できる。
【実施例】
【0095】
実際、MDS/AML症例全体に関して病型毎に変異頻度を解析した結果、骨髄芽球(幼若な骨髄系細胞)が骨髄で5%を超える進行型の病型を呈する症例では、より高頻度にDDX41胚細胞または体細胞変異を認めた(図4)。この結果は、DDX41変異を検索することがMDS/AMLの病型の鑑別および予後予測に有用である可能性を示唆している。なお、症例によって高リスク型か低リスク型かを評価できないものがあり、図4ではリスクを評価できた症例のみについてDDX41変異陽性患者の割合を示す。
【実施例】
【0096】
(3)DDX41の胚細胞変異の濃縮率と地域差の解析
図1に示した全てのDDX41胚細胞変異A500fs、Y259C、E256K、K187R、P35R、E3K、del363_364、E7Xに関して一般健常者における頻度を確認した。一般健常者でのDDX41遺伝子の変異の有無はthe Exome Aggregation Consortium (ExAC) データベース(Broad Institute)(URL: http://exac.broadinstitute.org)を用いて推定した(コーカサス人種: n=33,362 , 東アジア人種: n=4,327)。東アジア人種4327人中、A500fs(1例)、Y259C(3例)、K187R(3例)の変異は検出されたが、E256K、P35R、E3K、del363_364、E7Xは認められないほど稀であった。
【実施例】
【0097】
図5に、上記研究で求めた東アジア人種でのMDS/AML症例1070例での各DDX41胚細胞変異及びD140のフレームシフト変異が認められた例数と、Polprasert et al., 2015, Cancer Cell 27, 658-670にて報告されているコーカサス人種でのMDS/AML症例1045例での上記各DDX41胚細胞変異及びD140のフレームシフト変異が認められた例数と、上記データベースからのコーカサス人種及び東アジア人種での各DDX41胚細胞変異の例数とをそれぞれ示す。
【実施例】
【0098】
健常人に対するMDS/AMLにおける、DDX41の胚細胞変異の濃縮度を評価する目的でオッズ比を求めると、それぞれA500fs(オッズ比=91; 95%信頼区間=15-3746 (p<0.0001))、Y259C(オッズ比=8.0; 95%信頼区間=1.7-50 (p=0.0004))、E256K(オッズ比=20; 95%信頼区間=0.97-422 (p=0.004))(*)、K187R(オッズ比=2.7; 95%信頼区間=0.23-24 (p=0.26))、P35R(オッズ比=36.5; 95%信頼区間=2.0-679 (p<0.0001))(*)、E3K(オッズ比=20; 95%信頼区間=0.97-422 (p=0.004))(*)、363_364del(オッズ比=36.5; 95%信頼区間=2.0-679 (p<0.0001))(*)、E7X(オッズ比=20; 95%信頼区間=0.97-422 (p=0.004))(*)であった(図5)。(*)はWoolf-Haldane補正を行った変異を指す。東アジア人種において確認されたこれらのDDX41胚細胞変異のオッズ比は、東アジア人種における、健常人に対するMDS/AML症例での各変異のオッズ比である。一方、コーカサス人種において確認されたDDX41胚細胞変異D140fsについて、コーカサス人種における、健常人に対するMDS/AML症例でのオッズ比を求めたところ、オッズ比=19, 95%信頼区間=5.8-59 (【0099】
全てのDDX41胚細胞変異A500fs、Y259C、E256K、K187R、P35R、E3K、del363_364、E7Xをまとめて計算すると、東アジア人種における、健常人に対するMDS/AML症例でのDDX41胚細胞変異を有するオッズ比は15; 95%信頼区間=2.3-961(p=0.0001)であった。DDX41の胚細胞変異は、全体として有意にMDS/AMLで濃縮していた。
【実施例】
【0100】
さらに、コーカサス人種33362人の検討により、E256K(1例)、E3K(2例)は認められたが、A500fs、Y259C、del363_364、E7X、K187R、P35Rは認められず、東アジア人種と分布は異なっていた。
【実施例】
【0101】
以上より、A500fs、Y259Cは東アジア人種に固有な変異であり、E256KとE3Kはより広い地域に分布する、コーカサス・アジア人種を含む全世界的に分布する胚細胞変異であることが確認された(図6)。
【実施例】
【0102】
これらの結果は、日本のみならず、地球上のどの地域でDDX41のシークエンスを行うかによって、異なる変異が予想されることを示している。東アジアで変異を調べる際には、A500fs、Y259Cを優先的に、続いてその他の変異を調べることが推奨される。
【実施例】
【0103】
(4)DDX41の胚細胞変異の臨床的意義
Polprasert et al., 2015, Cancer Cell 27, 658-670の報告によれば、DDX41の胚細胞変異は常染色体優性遺伝形式で発症するため、50%の確率で子供に遺伝し白血病の原因となる。したがって、家族性の高齢発症MDS/AML家系を認めた場合には、DDX41の胚細胞変異が原因である可能性がある。したがって、DDX41遺伝子をシークエンスし、変異の有無を確認すべきである。
【実施例】
【0104】
さらに、家族歴が不明な孤発例のMDS/AMLであっても、DDX41の変異が認められた場合には、家族内に、MDS/AMLが高い確率で将来認められる可能性がある。保因者の家族が他の疾患で若年で死亡していたり、子供がまだ若年であれば、家族例は明らかとならないことがあるからである。DDX41の変異は、実子には50%の確率で遺伝し、同じ両親をもつ同胞(兄弟姉妹)にも、50%の確率で陽性者が存在する。この情報により、さもなければ発見されない疾患リスクを、発症よりも数年から数10年前に見積もることができる。
【実施例】
【0105】
DDX41の胚細胞変異の検索は、MDS/AMLに対する造血幹細胞移植を考慮する際にも重要である。MDS/AML症例においてDDX41変異を検索し、陽性であれば、ドナー候補となる同胞、両親、子が同様の変異を持っていないか検索すべきである。
【実施例】
【0106】
家族内の造血幹細胞移植ドナー候補にDDX41変異が陽性であれば、そのドナーから移植が行われた場合、移植後ドナー由来白血病の確率が高まる。したがって、ドナー候補としての優先順位は下がり、非血縁のドナー候補を考慮すべきである。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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