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明細書 :動物用飼料原料及びその用途

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2016-195558 (P2016-195558A)
公開日 平成28年11月24日(2016.11.24)
発明の名称または考案の名称 動物用飼料原料及びその用途
国際特許分類 A23K  20/00        (2016.01)
A23K  50/10        (2016.01)
FI A23K 1/16 301C
A23K 1/18 B
請求項の数または発明の数 8
出願形態 OL
全頁数 17
出願番号 特願2015-076670 (P2015-076670)
出願日 平成27年4月3日(2015.4.3)
発明者または考案者 【氏名】木村 功
【氏名】齋藤 三四郎
【氏名】小川 順
【氏名】岸野 重信
出願人 【識別番号】302042678
【氏名又は名称】株式会社J-オイルミルズ
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100106448、【弁理士】、【氏名又は名称】中嶋 伸介
審査請求 未請求
テーマコード 2B005
2B150
Fターム 2B005BA04
2B150AA02
2B150AB01
2B150AB06
2B150AB07
2B150DA35
要約 【課題】動物の消化管内の発酵を促進することにより、消化を改善し、病気を予防し、飼料の利用効率を高め、そして少量の飼料で畜産産物を効率的に生産する技術を提供する。
【解決手段】本発明は、アセトン可溶物含有量が10質量%以下であり、全リン脂質中のホスファチジルコリン含量が25~50質量%であるレシチンを含む飼料原料を提供する。本発明は、また、上記飼料原料を、リン脂質の質量基準で0.1~5質量%含む飼料を提供する。上記飼料は、10質量%以上の粗飼料を含むことが好ましい。本発明の飼料用原料及びそれを配合した飼料は、特に反芻動物に有用である。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
アセトン可溶物含有量が10質量%以下であり、全リン脂質中のホスファチジルコリン含量が25~50質量%であるレシチンを含む動物用飼料原料。
【請求項2】
消化管での短鎖脂肪酸産生を向上させることを特徴とする、請求項1に記載の動物用飼料原料。
【請求項3】
請求項1の動物用飼料原料を、リン脂質の質量基準で0.1~5質量%含む飼料。
【請求項4】
10質量%以上の粗飼料を含む、請求項3に記載の動物用飼料。
【請求項5】
反芻動物用である、請求項3に記載の動物用飼料。
【請求項6】
請求項1に記載の動物用飼料原料を、リン脂質の質量基準で8~400g/日、動物に給与することを含む、動物の飼育方法。
【請求項7】
アセトン可溶物含有量が10質量%以下であり、全リン脂質中のホスファチジルコリン含量が25~50質量%であるレシチンを含む、消化管での短鎖脂肪酸産生向上剤。
【請求項8】
請求項7に記載の短鎖脂肪酸産生向上剤を動物に給与することを含む、動物の消化管での短鎖脂肪酸の産生を向上させる方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のレシチンを含む動物用飼料原料とその用途に関し、より詳細には消化機能を改善する飼料原料とその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
家畜の消化管の機能を調節することは、消化機能を改善し、消化機能の低下による病気を予防し、その結果、畜産産物を効率的に生産するのに有効である。消化管での消化には、摂食物の消化管内の発酵が大きく影響する。そのため、発酵を制御する微生物製剤を家畜へ投与することがよく行われる。
【0003】
ウシ等の反芻動物は、通常の動物で利用できないような繊維質をエネルギー源として利用するために、ルーメン(第一胃)という反芻胃を発達させている。ルーメン内は、摂取した飼料、唾液、発酵産物等によって恒常性が保たれ、微生物が棲息するのに適した環境となっている。
【0004】
ルーメン発酵の経路を図1に示す。飼料には、セルロース、ヘミセルロース、デンプン等の炭水化物が大量に含まれる。炭水化物は、ルーメン内の微生物の酵素によって、酢酸、酪酸、プロピオン酸等の短鎖脂肪酸(VFAや揮発性脂肪酸ともいう)、乳酸、メタン、二酸化炭素、水素等に変換される。変換された短鎖脂肪酸の大部分は、ルーメン壁から吸収され、動物の主要なエネルギー源となる。この場合、特に酢酸、プロピオン酸の生成を促すことが好ましい。
【0005】
ルーメン発酵経路の途中で生成する乳酸がプロピオン酸へ変換されないまま、ルーメン内に蓄積すると、反芻動物の生育に影響を及ぼす。非特許文献1によれば、ルーメンpHが5.8以下の状態を亜急性ルーメンアシドーシスという。亜急性ルーメンアシドーシスが続くと、家畜は、摂餌量の低下、下痢、ルーメン粘液の損傷、蹄葉炎、肝膿瘍等の疾病を発する。ルーメンアシドーシスは、ルーメン内でLactobacillus、Streptococcus bovis等の乳酸産生菌が増殖して、乳酸がルーメン内に蓄積し、ルーメン液のpH(以下、「ルーメンpH」という)が5以下となる状態をいう。ルーメンアシドーシスになると、家畜は、食欲喪失、乳量激減、横臥、起立不能等の臨床症状を示す。したがって、反芻動物のルーメン内の乳酸の蓄積を抑え、乳酸からプロピオン酸の変換を促進する手法が望まれる。一方、ピルビン酸からアセチルCoAへの変換を促す手法も、乳酸の蓄積量を抑制するために有効である。
【0006】
動物の飼育においては、限られた穀物資源をより有効に利用することも重要な課題である。例えば、反芻動物用飼料が反芻胃で発酵して得られる短鎖脂肪酸が、乳腺で乳脂肪、乳糖及び乳タンパク質を合成するための原料となる。
【0007】
乳成分の合成量は、乳腺に蓄えられるグルコース、アミノ酸、酢酸、酪酸、遊離脂肪酸、グリセリン、無機物類等の乳成分原料によって規定される。乳成分原料の生成量は、給与飼料中の炭水化物、タンパク質及び脂質の化学的特性(消化性や代謝・内分泌特性)とその配合比率によって大きく変動する。
【0008】
非特許文献2によれば、乳牛に酢酸を給与することで、乳量の増加、乳脂肪濃度及び乳糖濃度が上昇し、またプロピオン酸を給与することで乳タンパク質濃度が上昇することが報告されている。
【0009】
牛乳の乳脂率は、平均3.9%である。乳脂肪の主成分は、97~98%を占めるトリグリセリド(TG)である。TGを構成するC4~C16脂肪酸は、ルーメン内で生産された酢酸及び酪酸を用いて乳腺で合成される。C16~C18脂肪酸は、飼料由来の脂肪や体脂肪から乳脂肪に取り込まれる。よって、乳脂率は、飼養管理によっても変動する。
【0010】
非特許文献3(p91~92)によれば、低脂肪乳の現象としては、濃厚飼料の給比率の上昇や粗飼料の給比率の減少によってルーメン内の発酵パターンが変化して、酢酸や酪酸の供給量が不足すること、同様の原因によりプロピオン酸の生産量やグルコース供給量が増加し、内分泌制御に起因する乳腺への脂肪供給不足が生じること、不飽和度の高い植物性脂肪の過給によりルーメン内の微生物叢が影響を受けること、乳腺におけるトランス型多価不飽和脂肪酸による乳脂肪酸合成が阻害されること等が指摘されている。したがって、低乳脂肪の発生を防止するには、ルーメン内発酵を適切に維持し、ルーメン内でのVFA(特に酢酸及び酪酸)の生成を促進することが重要である。そして、ルーメン内を酢酸が優勢となる発酵状態に維持し、乳腺への酢酸供給量を増加させるためには、飼料の粗飼料配合量の適正化に加えて、繊維の消化性を改善することが重要である。よって、乳の生産量及び乳成分量を高めるために、飼料を特定の短鎖脂肪酸へ効率的に変換できることが望ましい。
【0011】
反芻動物は、夏場の暑熱ストレスにより、飼料の摂取量が低下し、生体内のエネルギーが不足して乳量や乳成分量が低下することが知られている。泌乳初期には、摂食エネルギーよりも乳として排出されるエネルギーの方が多くなる。体内のエネルギーバランスがマイナスとなることと、代謝障害や繁殖障害の発生が多くなることが知られている(非特許文献3 p57-64)。
【0012】
高泌乳牛やその他の家畜のエネルギー源として、特に暑熱時のエネルギー補給用に、脂肪酸カルシウムを配合した飼料を給与する方法が知られている。(非特許文献3 p91-92)。脂肪酸カルシウムは、ルーメン内では消化されず、第四胃以降で消化吸収されるため、エネルギーを効率良く補給できるとされる。
【0013】
これらの従来方法は、不足しがちとなった生体内のエネルギーの補完を目的とするものであり、家畜の消化管内での発酵を促進するものではなかった。
【先行技術文献】
【0014】

【非特許文献1】三森真琴、「亜急性ルーメンアシドーシスにおけるルーメン微生物の動態」、日獣会誌、65、(2012)、p503-510
【非特許文献2】Brit.J.Nutr.,15、(1961)、p361-369
【非特許文献3】日本飼養標準「乳牛 2006年版」(中央畜産会、平成19年9月20日発行、p57-64、p91-92
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
そこで、本発明の課題は、動物の消化管内の発酵を促進することにより、消化を改善し、病気を予防し、飼料の利用効率を高め、そして少量の飼料で畜産産物を効率的に生産する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、前記課題を鋭意検討した結果、特定のレシチンを含む飼料原料を動物に給与することにより、前記課題を解決できることを見出した。すなわち、本発明は、アセトン可溶物含有量が10質量%以下であり、全リン脂質に対するホスファチジルコリン含量が25~50質量%であるレシチンを含む動物用飼料原料を提供する。
【0017】
上記動物用飼料原料は、例えば消化管での短鎖脂肪酸産生を向上させるために使用される。
【0018】
本発明は、また、上記動物用飼料原料を、リン脂質の質量基準で0.1~5質量%含む飼料を提供する。
【0019】
上記動物用飼料は、10質量%以上の粗飼料を含むことが好ましい。本明細書において、粗飼料という用語は、粗繊維含量が高く、可消化養分が少ない成分を意味する。
【0020】
上記動物用飼料は、特に反芻動物用である。
【0021】
本発明は、また、上記動物用飼料原料を、リン脂質の質量基準で8~400g/日、動物に給与することを含む、動物の飼育方法を提供する。
【0022】
本発明は、また、アセトン可溶物含有量が10質量%以下であり、全リン脂質に対するホスファチジルコリン含量が25~50質量%であるレシチンを含む、消化管での短鎖脂肪酸産生向上剤を提供する。
【0023】
本発明は、また、上記短鎖脂肪酸産生向上剤を動物に給与することを含む、動物の消化管での短鎖脂肪酸の産生を向上させる方法を提供する。
【発明の効果】
【0024】
特定のレシチンを含む本発明の動物用飼料原料を飼料に添加すると、それを給餌された動物は、消化管の発酵が促進される。消化管の発酵促進は、飼料中に含まれる繊維質(セルロースやヘミセルロース)のような発酵し難い炭水化物を微生物が代謝しやすくする。
【0025】
飼料が粗飼料(その主要成分は繊維質である)を例えば10質量%以上含む場合、本発明の動物用飼料原料が、消化管での繊維質の発酵を顕著に促進し、繊維質から短鎖脂肪酸(VFA)への変換と導く。具体的には、VFAの総産生量(酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸の全てを合わせたもの)が増大する。VFAの中でも、動物の主要なエネルギー源となり得る有益な酢酸、プロピオン酸及び酪酸の産生が特に促進される。
【0026】
本発明の動物用飼料原料は、VFAを定量的にも定性的にも優位に産生する結果として、飼料の利用効率を改善し、すなわち少量の飼料で畜産産物を効率的に生産することを可能とする。乳牛の場合には、乳量の増加、乳脂肪濃度、乳糖濃度及び乳タンパク濃度の上昇も可能である。肉牛の場合には、体重の増加と肉質の改善が可能である。
【0027】
反芻動物のルーメン発酵経路の途中で生成する乳酸がルーメン内に蓄積すると、ルーメン液のpHが下がり、ルーメンアシドーシスになる。その結果、反芻動物は、食欲喪失、乳量激減、横臥、起立不能等の病気を招来しやすい。本発明の飼料原料をリン脂質の質量基準で8~400g/日、動物に給与することを含む本発明の動物の飼育方法によれば、上記乳酸はプロピオン酸に変換されやすくなる。また、ピルビン酸からアセチルCoAへの変換が促進することで乳酸の産生が抑制され酢酸産生量が増加する。したがって、反芻動物のルーメンアシドーシスやそれによる食欲喪失、乳量激減、横臥、起立不能等の病気を予防することができる。
【0028】
ルーメン内でのVFAの増産、及びルーメンアシドーシスとそれに基づく病気の予防という効果は、飼料原料の形態のほかに、アセトン可溶物含有量が10質量%以下であり、全リン脂質に対するホスファチジルコリン含量が25~50質量%であるレシチンを含む、消化管での短鎖脂肪酸産生向上剤という形態で動物に単独投与することによっても得られる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】反芻動物のルーメン発酵の経路図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の動物用飼料原料は、アセトン可溶物含有量が10質量%以下であり、全リン脂質に対するホスファチジルコリン含量が25~50質量%であるレシチンを含む。このレシチンは、アセトン可溶物含有量が上記範囲である限り、その由来を問わない。例えば、レシチンの原料種子には、大豆、菜種、ひまわり、綿実、とうもろこし、落花生、パーム、ゴマ、米、紅花、エゴマ、アマニ等が挙げられる。好ましくは大豆及び菜種である。

【0031】
リン脂質は、分子構造中にリン酸エステルを持った脂質である。リン脂質の具体例には、ホスファチジルコリン(狭義のレシチン)、ホスファチジルエタノールアミン、リゾホスファチジルコリン、リゾホファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、スフィンゴミエリン等がある。本明細書において、「レシチン」という用語は、少なくとも一種の上記リン脂質を含み、さらに糖脂質、オリゴ糖のような不純物を含み得る混合物を意味する。

【0032】
本発明に使用可能のレシチンのアセトン可溶物含有量は、10質量%以下であり、好ましく4質量%以下であり、さらに好ましくは3質量%以下である。このようなレシチンは、例えば、植物油の製造工程中の脱ガム工程で分離されるガム質を、通常、水分1%以下に乾燥することによりクルードレシチンを得て、次に、このクルードレシチンを溶剤分別にかけて、脂質及びその他の微量成分を除去することにより得られる。こうして得られるレシチンを、以下、脱油レシチンということがある。脱油レシチンの組成は、油糧種子によって変動するが、リン脂質を通常、50~80質量%を含み、好ましくは55~75%質量%含む。

【0033】
本発明の動物用飼料原料には、上記レシチン以外に、本発明の作用効果を阻害しない限り、保存安定性や酸化安定性向上を目的としたエトキシキン、BHT、BHA、TBHQ、トコフェロール、アスコルビン酸、アスコルビン酸パルミテート等の助剤を添加可能である。

【0034】
本発明は、また、上記動物用飼料原料を含む動物用飼料を提供する。上記レシチン以外の飼料原料として、生草、サイレージ、乾草、わら類;米、玄米、ライ麦、小麦、大麦、トウモロコシ、マイロ、大豆等の穀類;大豆粕、脱皮大豆粕、大豆蛋白濃縮物、分離大豆蛋白、大豆蛋白分離副産物、菜種粕、綿実粕、ルピナス種粕、コーングルテンミール、コーングルテンフィード、アルファルファ粉、ポテトプロテイン、ヒヨコマメ、エンドウマメ、インゲンマメ、レンズマメ、ブラックビーン、等の植物性蛋白源;肉骨粉、血粉、フェザーミール、ポークミール、チキンミール、脱脂粉乳等の動物性蛋白源;植物性油脂、動物性油脂、粉末精製牛脂、肝油等の油脂類;バイオエタノール蒸留粕(DDGS)、ビール粕、焼酎粕、酒粕、ワイン粕、ウイスキー粕、醤油粕等の発酵副産物類;おから、茶抽出粕、野菜・果物抽出粕、コーヒー粕等の食品工業副産物類;リジン、メチオニン、スレオニン、トリプトファン、バリン、イソロイシン等のアミノ酸類;ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、パントテン酸カルシウム、ニコチン酸アミド、葉酸、ビタミンC、ビオチン、コリン等のビタミン類又はビタミン用作用物質;亜鉛、カルシウム、セレン、鉄、リン等のミネラル類;硫酸マグネシウム、硫酸鉄、硫酸銅、硫酸亜鉛、ヨウ化カリウム、硫酸コバルト、炭酸カルシウム、リン酸三カルシウム、塩化ナトリウム、リン酸カルシウム、塩化コリン等の無機塩類;色素が挙げられる。

【0035】
乳牛、肉牛の飼料分野では、上記動物用飼料原料が、可消化養分や粗繊維の含量によって、粗飼料と濃厚飼料とに大別される。粗飼料は、粗繊維含量が高く、可消化養分が少ない成分である。具体的には、生草、サイレージ、乾草、わら類、等が含まれる。

【0036】
濃厚飼料は、可消化養分が多く、粗繊維含量が低い成分である。具体的には、穀類、そうこう類、植物性油かす類、発酵副産物類等が含まれる。

【0037】
反芻動物のルーメン内発酵を安定的に維持する基本的な栄養管理指標として、従来、粗飼料と濃厚飼料の比率(粗濃比)が採用されている。反芻動物へ与える飼料の粗濃比は、粗飼料給与比率で通常、10~90質量%である。

【0038】
VFA、特に酢酸は、一般的に、粗飼料を発酵した際に生産されるが、発酵性が悪いと言われている。本発明の飼料原料は、後述の実施例1~4に示すように、粗飼料の発酵を促進することでVFAの産生を促している。したがって、本発明の飼料原料を給与することは、乳牛の場合には乳量の増加、乳成分量の増加が期待でき、肉牛の場合には増体、肉質の改善効果が期待できる。

【0039】
本発明の動物用飼料原料を含む動物用飼料において、粗飼料の下限の割合は、通常、10質量%であり、好ましくは15質量%であり、さらに好ましくは30質量%である。一方、粗飼料の上限の割合は、通常、90質量%であり、好ましくは80質量%であり、さらに好ましくは60質量%である。

【0040】
本発明の動物用飼料は、前記動物用飼料原料を、リン脂質質量で通常、0.1~5質量%、好ましくは0.1~4質量%、より好ましくは0.2~3質量%含む。

【0041】
本発明の動物用飼料には、飼料の品質の低下防止、栄養成分の有効利用の促進等のために、栄養源以外の助剤を、本発明の効果を阻害しない範囲で使用してもよい。そのような例には、抗酸化剤、防カビ剤、粘結剤、乳化剤、pH調整剤、抗菌剤、呈味料、着香料、酵素、生菌剤、有機酸等が挙げられる

【0042】
本発明の動物用飼料原料の適用対象は、ウシ、ヤギ、ヒツジ等の反芻動物、ブタ、ウマ、ウサギ、ニワトリ、アヒル、七面鳥、ガチョウ、アイガモ、キジ、魚類等の家畜動物や犬、猫等の愛玩動物である。好ましくは、ウシ、ヤギ、ヒツジ等の反芻動物であり、より好ましくはウシである。

【0043】
アセトン可溶物含有量が10質量%以下であり、全リン脂質中のホスファチジルコリン含量が25~50質量%であるレシチンは、上記したとおり、消化管での短鎖脂肪酸産生を向上させる。本発明は、前記レシチンを、飼料原料用途以外に、消化管での短鎖脂肪酸産生向上剤としての用途もまた提供する。本発明は、また、上記短鎖脂肪酸産生向上剤を動物に給与することを含む、動物の消化管での短鎖脂肪酸の産生を向上させる方法もまた、提供する。
【実施例】
【0044】
以下に、実施例及び比較例を示して、本発明をより詳細に説明する。しかし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
〔実施例1~4、比較例1~3〕脱油レシチンのin vitro試験
in vitroのウシルーメン液を用いた発酵試験において、脱油レシチンが添加されたときの、短鎖脂肪酸の生成に及ぼす影響を調べた。比較のため、大豆又は菜種由来の脂質(大豆油又は菜種油)が添加されたときの発酵試験も行なった。
【実施例】
【0045】
(1)飼料Aの作製
粗飼料としてイタリアンライグラス(乾草)と濃厚飼料として市販濃厚飼料(製品名:そよ風の薫り、日本配合飼料株式会社製)とを質量基準で1:1にて混合することにより飼料Aを得た。以下、粗飼料と濃厚飼料との比率(質量基準)を、粗濃比ということがある。市販濃厚飼料の表示を表1に示す。
【実施例】
【0046】
【表1】
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【実施例】
【0047】
(2)脱油レシチンの準備
脱油レシチンとして菜種由来のものと大豆由来のものを、以下の手順で用意した。
(2)-1脱油菜種レシチンの調製
菜種油製造時の脱ガム工程で副生したガム質を、減圧乾燥することにより、クルード菜種レシチンを得た。クルード菜種レシチンは、アセトン可溶物35~40質量%を含む粘稠なペースト状であった。このクルード菜種レシチンを5倍量のアセトンに溶解し、静置分離にて下層を回収し、再び5倍量のアセトンに溶解した。この操作を5回繰り返した。得られた下層部を減圧乾燥することにより、アセトン可溶物が1.0質量%になるまで脱油された菜種レシチンを得た。また、この菜種由来の脱油レシチンは、1.0質量%の水分を有し、粉末状であった。脱油菜種レシチンの組成を、表2に示す。
【実施例】
【0048】
(2)-2脱油大豆レシチンの準備
大豆由来の脱油レシチンには、市販の脱油大豆レシチン(製品名:レシチンPW、株式会社J-オイルミルズ製)を用意した。この脱油大豆レシチンの水分は、2.0質量%、そしてアセトン可溶物は2.8質量%であった。脱油大豆レシチンの組成を、表2に示す。
【実施例】
【0049】
【表2】
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【実施例】
【0050】
(3)ルーメン液採取
ルーメンフィステルを装着したF1ウシ(月齢40ヶ月)をルーメン液発酵試験に用いた。このウシを、コンクリート敷の牛房へ個体ごとに収容した。ウシに飼料Aを、1日当たり8kg(濃厚飼料4kg/日)、3週間、給与した。なお、試験3週間前及び試験中は、ウシに抗菌剤、その他薬剤を投与しなかった。
【実施例】
【0051】
(4)発酵試験
飼料Aの3週間給与の翌朝(給餌前)に、ウシからルーメン液を約500mL採取した。採取したルーメン液500mLを4重ガーゼで濾過した。この濾液とMcDougall’s Bufferとを5:4の割合で混合することにより、ルーメン濾液を希釈した。得られたルーメン希釈液9mLを15mL容バイアル瓶に分注した。
【実施例】
【0052】
McDougall’s Bufferに1質量%のウシ血清アルブミン(BSA)及び菜種由来又は大豆由来の脱油レシチンを1質量%又は3質量%を加えた液を、超音波発生器にかけて、BSA乳化液を作製した。
【実施例】
【0053】
上記BSA乳化液1mLを、前記バイアル瓶に分注して、前記ルーメン希釈液と混合して発酵試験液を得た。発酵試験液中の脱油レシチンの含有量は、0.1質量%又は0.3質量%となった(実施例1~4)。
【実施例】
【0054】
比較のため、上記McDougall’s Bufferに、1質量%のBSAのみを添加して作製した乳化液1mLを前記バイアル瓶に分注して、前記ルーメン希釈液9mLと混合して発酵試験液を得た(比較例1)。
【実施例】
【0055】
さらに、上記McDougall’s Bufferに、1質量%のBSA及び3質量%の菜種油(製品名:さらさらキャノーラ油、株式会社J-オイルミルズ製)、又は大豆油(製品名:J大豆白絞油NS、株式会社J-オイルミルズ製)を添加して作製した乳化液1mLを前記バイアル瓶に分注して、前記ルーメン希釈液9mLと混合して発酵試験液を得た。発酵試験液中の菜種油又は大豆油の含有量は、0.3質量%となった(比較例2~3)。
【実施例】
【0056】
上記発酵試験液を用いた発酵試験の発酵基質として、繊維質からなる炭水化物としてセルロース(濾紙)を採用した。具体的には、上記ルーメン希釈液及び上記BSA乳化液の入ったバイアル瓶内に、100mgの濾紙(製品名:ワットマンNo.1、GEヘルスケア・ジャパン株式会社製)を、投入した。その後、バイアル瓶中の気相を窒素ガスで置換し、ブチルゴム栓とアルミシールで密栓した。得られた混合液を、37℃で24時間、振とう培養した。1実験区につき、発酵実験を2反復で行った。
【実施例】
【0057】
上記培養後の発酵試験液のVFA(酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、及びイソ吉草酸)の濃度を以下の手順で測定した。ルーメン液0.5mLに対しヘキサン0.5mLを添加した。これを懸濁させた後、遠心分離(4℃、10,000rpm,5min)により、水層とヘキサン層に分けた。水層をVFA分析用サンプルとして回収した。回収したサンプルを、以下の条件のガスクロマトグラフィー(GC)にかけた。
〔GC条件〕
Injection temp.:250℃
Column:Nukol(Supelco Inc.),30m×0.25mm×0.25μm
Initial temp.:100℃
Program rate:15℃/min
Final temp.:185℃
Detector:FID(250℃)
Carrier flow rate:1.0mL/min
Carrier gas:He
【実施例】
【0058】
上記培養後の発酵試験液の乳酸濃度は、F-キット乳酸(J.K.インターナショナル)を用いて測定した。結果を表3及び4に示す。
【表3】
JP2016195558A_000005t.gif

【実施例】
【0059】
【表4】
JP2016195558A_000006t.gif

【実施例】
【0060】
表3及び4に示したとおり、発酵基質をセルロースとするin vitro発酵試験において、ルーメン液に脱油レシチンを添加した実施例1~4では、総VFA量が、それを含まないルーメン液を用いた比較例1よりも、6~14%増大した。また、脱油レシチンに代えて菜種油又は大豆油を用いた比較例2~3では、VFAの減少によりルーメン発酵が抑制された。何れの試験区も、乳酸量に変化は見られなかった。これらのことから、脱油レシチンには、ルーメン液内の繊維質の発酵を促進する効果があることがわかった。
【実施例】
【0061】
〔実施例5~7、比較例4〕脱油レシチンのin vivo試験(1)
脱油レシチンを含む飼料を動物へ給餌したときの短鎖脂肪酸の産生に及ぼす影響を調べるため、in vivoのウシルーメン液を用いた発酵試験を実施した。
【実施例】
【0062】
ルーメンフィステルを装着したF1ウシ(メス)3頭(平均月齢40ヶ月)を投与試験に用いた。このウシを、コンクリート敷の牛房へ個体ごとに収容した。試験3週間前及び試験中は、ウシに抗菌剤、その他薬剤を投与しなかった。
【実施例】
【0063】
(飼料Bの作製)
上記飼料Aに、実施例3に記載の脱油大豆レシチンを、リン脂質質量基準で0.294質量%になるように添加することにより、飼料Bを得た。
【実施例】
【0064】
(飼料Cの作製)
上記飼料Aに、実施例3に記載の脱油大豆レシチンを、リン脂質質量基準で0.589質量%になるように添加することにより、飼料Cを得た。
【実施例】
【0065】
(飼料Dの作製)
上記飼料Aに、実施例3に記載の脱油大豆レシチンを、リン脂質質量基準で0.883質量%になるように添加することにより、飼料Dを得た。
【実施例】
【0066】
1回当たり4kgの飼料A~Dを、1日2回、5日間給与した。飼料B~Dを投与したウシは、大豆由来の脱油レシチンをそれぞれ、36g/日(リン脂質投与量23.5g/日)、72g/日(リン脂質投与量47.1g/日)、及び108g/日(リン脂質投与量70.6g/日)摂取したことになる。
【実施例】
【0067】
給与試験開始後の毎翌朝の給餌前に、ルーメンフィステルからルーメン液を約50mL採取した(計4日間)。このルーメン液を4重ガーゼでろ過し、5N-塩酸を用いてpH2に調整することで反応を停止させ、以下の分析まで冷蔵保管した。この液のVFA(酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、及びイソ吉草酸)の濃度を、ガスクロマトグラフィーにて測定した。測定値は、4日間のサンプルの平均値±標準偏差で示した。結果を表5に示す。
【実施例】
【0068】
【表5】
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【実施例】
【0069】
表5に示したとおり、脱油大豆レシチンを含む飼料を投与した実施例7~9では、総VFA量がそれを飼料A(比較例4)に比べて15~19%増大した。しかも、総VFA量は、脱油大豆レシチンの投与量の濃度依存的に増加した。特に、酢酸及びプロピオン酸の増加が顕著であった。
【実施例】
【0070】
〔実施例8及び9、比較例5及び6〕脱油レシチンのin vivo試験(2)
ルーメンフィステルを装着したF1ウシ(メス)2頭(平均月齢33ヶ月)を投与試験に用いた。このウシを、コンクリート敷の牛房へ個体ごとに収容した。試験3週間前及び試験中は、ウシに抗菌剤、その他薬剤を投与しなかった。
【実施例】
【0071】
(飼料Eの作製)
上記飼料Aに、実施例1に記載の脱油菜種レシチンをリン脂質質量基準で0.271質量%添加することにより、飼料Eを得た。
【実施例】
【0072】
(飼料Fの作製)
上記粗飼料と上記濃厚飼料とを粗濃比1:4にて混合することにより、飼料Fを得た。
【実施例】
【0073】
(飼料Gの作製)
上記飼料Fに、実施例1に記載の脱油菜種レシチンを、リン脂質質量基準で0.433質量%添加することにより、飼料Gを得た。
【実施例】
【0074】
飼料A、又は飼料E~Gを、1回当たり2kgの濃厚飼料を含む飼料量にて、1日2回、3日間給与した。飼料E又はGを与えたウシの脱油菜種レシチン摂取量は、36g/日(リン脂質投与量21.7g/日)となった。
【実施例】
【0075】
給与試験後の翌朝の給餌前に、ルーメンフィステルからルーメン液を約50mL採取した。このルーメン液を4重ガーゼでろ過し、5N-塩酸を用いてpH2に調整することで反応を停止させ、以下の分析まで冷蔵保管した。この液のVFA(酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、及びイソ吉草酸)の濃度を、ガスクロマトグラフィーにて測定した。結果を表6に示す。
【実施例】
【0076】
【表6】
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【実施例】
【0077】
表6から以下のことがわかる。脱油菜種レシチンを含む飼料を投与した実施例8では、総VFA量が脱油菜種レシチンを含まない飼料を投与した比較例5よりも35%増大した。飼料の粗濃比を変えた実施例9でも、同様に、総VFA量が脱油菜種レシチンを含まない飼料を投与した比較例6よりも29%増大した。特に、酢酸、プロピオン酸及び酪酸の増加が顕著であった。
【実施例】
【0078】
表5及び6から、脱油レシチンは、油糧種子の由来に依存せず、短鎖脂肪酸の産生を促進する効果を有することが判明した。
【実施例】
【0079】
粗濃比が1:1(粗飼料50質量%)の実施例8と粗濃比が1:4(粗飼料20%)の実施例9とを比べると、粗飼料の比率の高い実施例8の方が、VFA量の増大が大きかった。本発明の脱油レシチンは、粗飼料を有効に発酵させることでVFA(特に酢酸)の産生を促している。したがって、脱油レシチンを含む本発明の飼料原料は、粗飼料の割合が高い飼料に添加することが好ましいといえる。
図面
【図1】
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