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明細書 :ファイバー・オン・ファイバーを用いた細胞の3次元培養方法及びそのための基材

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6452249号 (P6452249)
登録日 平成30年12月21日(2018.12.21)
発行日 平成31年1月16日(2019.1.16)
発明の名称または考案の名称 ファイバー・オン・ファイバーを用いた細胞の3次元培養方法及びそのための基材
国際特許分類 C12M   3/00        (2006.01)
C12N   1/04        (2006.01)
C12N   5/0735      (2010.01)
C12N   5/10        (2006.01)
FI C12M 3/00 A
C12N 1/04
C12N 5/0735
C12N 5/10
請求項の数または発明の数 22
全頁数 23
出願番号 特願2015-521463 (P2015-521463)
出願日 平成26年6月3日(2014.6.3)
国際出願番号 PCT/JP2014/064789
国際公開番号 WO2014/196549
国際公開日 平成26年12月11日(2014.12.11)
優先権出願番号 2013117242
優先日 平成25年6月3日(2013.6.3)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成29年5月26日(2017.5.26)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
発明者または考案者 【氏名】亀井 謙一郎
【氏名】中辻 憲夫
【氏名】劉 莉
個別代理人の代理人 【識別番号】100080791、【弁理士】、【氏名又は名称】高島 一
【識別番号】100125070、【弁理士】、【氏名又は名称】土井 京子
【識別番号】100136629、【弁理士】、【氏名又は名称】鎌田 光宜
【識別番号】100121212、【弁理士】、【氏名又は名称】田村 弥栄子
【識別番号】100117743、【弁理士】、【氏名又は名称】村田 美由紀
【識別番号】100163658、【弁理士】、【氏名又は名称】小池 順造
【識別番号】100174296、【弁理士】、【氏名又は名称】當麻 博文
審査官 【審査官】伊達 利奈
参考文献・文献 特表2008-514341(JP,A)
国際公開第2012/077691(WO,A1)
特開2007-325543(JP,A)
国際公開第2012/158899(WO,A1)
特開2013-081783(JP,A)
TUZLAKOGLU K. et al.,,Tissue Engineering Part A, 2011, Vol.17, No.3-4, pp.463-473
SHALUMON K.T. et al.,,IET Nanobiotechnology, 2012, Vol.6, No.1, pp.16-25
VAQUETTE C. et al.,,Journal of Biomedical Materials Research Part A, 2010, Vol.94A, No.4, pp.1270-1282
調査した分野 C12M 3/00
C12N 5/00
特許請求の範囲 【請求項1】
ガーゼと
ゼラチン及びコラーゲンからなる群より選択される生体高分子からなるナノファイバーを含有し
エレクトロスピニング法によりガーゼにナノファイバーが塗布され、かつ
ナノファイバーどうし、並びにガーゼ及びナノファイバーが架橋された、
多能性幹細胞の培養用基材であって、多能性幹細胞が未分化状態を保持したまま増殖される基材
【請求項2】
生体高分子がゼラチンである、請求項1記載の基材。
【請求項3】
ゼラチンの分子量が30kDa~70kDaである、請求項1又は2に記載の基材。
【請求項4】
ガーゼがコットンガーゼである、請求項1~3のいずれか1項に記載の基材。
【請求項5】
生体高分子がゼラチンであり、支持体がコットンガーゼである、請求項1~4のいずれか1項に記載の基材。
【請求項6】
多能性幹細胞がES細胞又はiPS細胞である、請求項1~のいずれか1項に記載の基材。
【請求項7】
多能性幹細胞がヒト由来である、請求項1~6のいずれか1項に記載の基材。
【請求項8】
培養が多能性幹細胞の維持増幅培養である、請求項1~のいずれか1項に記載の基材。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項に記載の基材を含む、多能性幹細胞凍結剤。
【請求項10】
請求項1~のいずれか1項に記載の基材上に多能性幹細胞を播種し、該細胞を静置培養することを特徴とする、多能性幹細胞の培養方法。
【請求項11】
酵素を含まない解離液を用いて基材から多能性幹細胞を解離させ、該細胞を請求項1~のいずれか1項に記載の基材上に播種し、該細胞をさらに静置培養することを特徴とする、請求項10記載の方法。
【請求項12】
継代時に、細胞を単一細胞にまで分散させることを特徴とする、請求項11記載の方法。
【請求項13】
細胞を無血清培地で培養することを特徴とする、請求項1012のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
無血清培地がxenoフリー培地である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
無血清培地がタンパク質不含培地である、請求項13記載の方法。
【請求項16】
多能性幹細胞がES細胞又はiPS細胞である、請求項1015のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
多能性幹細胞がヒト由来である、請求項1016のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
培養が多能性幹細胞の維持増幅培養である、請求項16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
基材が請求項5記載の基材である、請求項10~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
請求項に記載の凍結剤を用いて多能性幹細胞を凍結保存する方法。
【請求項21】
培養がフィーダー細胞の非存在下で行われる、請求項1~のいずれか1項に記載の基材。
【請求項22】
培養がフィーダー細胞の非存在下で行われる、請求項1019のいずれか1項に記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞、例えば、胚性幹細胞(ES細胞)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)などの多能性幹細胞をはじめとする幹細胞、特にヒト多能性幹細胞の培養に適した培養基材、並びにそれを用いた幹細胞の培養方法等に関する。より詳細には、本発明は、ゼラチン、コラーゲン、セルロース等の生体高分子からなるナノファイバー(バイオナノファイバー)をガーゼやスポンジ等の支持体上に塗布した細胞の培養用基材、当該培養用基材を含む細胞凍結剤、並びに当該培養用基材を用いて、継代時、酵素処理を行うことなく単一細胞にまで分散させることによる、細胞の維持増幅方法、細胞凍結方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト多能性幹細胞は適切な条件下において無制限に増殖が可能であり、また生体組織のどの細胞にも分化できる性質(多分化能)を持つことから、細胞移植治療・創薬スクリーニング・再生医療など様々な分野への応用が期待されている。しかし、従来のヒト多能性幹細胞の培養法では、フィーダー細胞や各種高分子などを細胞培養基材として用いてきたが、これらの方法は準備操作が煩雑である上に品質が安定していないため、安定したヒト多能性幹細胞の培養・供給は困難であった。特に、ヒト多能性幹細胞の高品質・大量・全自動培養法の開発には、より安定・安価な方法が必要であるが、未だにそのような方法は確立されていない。
【0003】
従来行われてきた培養皿を用いる2次元培養では、培養皿が100枚単位で必要であること、個々の培養皿から継代操作が必要であること等の事情から、ヒト多能性幹細胞の高品質・大量・全自動培養法の開発には不向きである。そこで、限られたスペースでの多能性幹細胞の大量培養を可能にするためには、3次元培養化が必須となっている。これまで、浮遊培養やマイクロビーズなどを用いた培養法が開発されてきたが(非特許文献1、2)、細胞塊の凝集や撹拌による細胞表面でのずり応力などが問題となっており、実用化には至っていない。
【0004】
近年、フィーダー細胞を用いない新規ヒト多能性幹細胞培養法の開発が盛んに行われている。現在、広く使用されている細胞培養基材としては、マトリゲルや組換えタンパク質(非特許文献3)等が挙げられるが、これらの材料はコストが高く、また、ロット間による品質の差が大きいなど安定性に欠けている。
【0005】
このような条件で培養されたヒト多能性幹細胞は不安定な状態になり、その結果、細胞増殖速度の異常、非常に不均一な細胞群への変質、分化能の損失、核型の変異等の異常を引き起こしてしまう。
これに代わるものとして、ポリマーなどの高分子を用いた細胞培養基材の開発も報告され(非特許文献4、5)、製品化されるようになってきたが、安定した製品は得られるものの、非常に高価であり、また細胞株によっては適さない場合もあるなど、安定・安価な細胞培養基材を作製するには至っていない。
【0006】
細胞培養基材は、目的の細胞群に必要な酸素と栄養を供給し、しかも安定的な形状を保持することが条件であるが、近年ナノファイバーが注目されている。ナノファイバーは、繊維径がナノメートルのオーダーの極細繊維であり、ナノファイバーからなる構造体は細胞外マトリクスと近似したサイズであり、比表面積の増大により細胞接着性が向上する、3次元培養が可能となる等の利点があることから、合成ポリマー(非特許文献6)や、合成ポリマーとコラーゲンやゼラチン等の生体高分子との混合物(非特許文献6、7)からなるナノファイバーが作製されているが、フィーダー細胞を用いない培養系では、ヒトES細胞を維持増殖することができないと報告されている(非特許文献7)。
一方、生体高分子のみからなるナノファイバーを多能性幹細胞の培養基材として用いたという報告は皆無である。
【0007】
加えて、従来、ヒト多能性幹細胞の継代には、コラゲナーゼ、ディスパーゼ、トリプシン、等の酵素を用いた手法か、セルストレイナーやピペッティング等による機械的継代方法が行われてきたが、酵素を用いた手法では、酵素反応による細胞へのダメージがあり、また細胞に対する酵素反応が不均一である。しかも、単一細胞まで分散させると細胞が死滅してしまうといった問題点がある。一方、機械的な継代方法は、細胞のダメージが非常に大きく、問題点が多い。
【先行技術文献】
【0008】

【非特許文献1】Tissue Eng Part C Methods., 16(4), 573-582 (2010)
【非特許文献2】Curr Protoc Stem Cell Biol Chapter 1, Unit 1C 11 (2010)
【非特許文献3】Nataure Biotechnology, 28(6): 581-583 (2010)
【非特許文献4】Nataure Biotechnology, 28(6): 606-610 (2010)
【非特許文献5】Nataure Biotechnology, 28(6): 611-615 (2010)
【非特許文献6】Advanced Drug Delivery Reviews, 61(12): 1084-1096 (2009)
【非特許文献7】Journal of Cellular and Molecular Medicine, 13(9B): 3475-3484 (2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、ヒト多能性幹細胞を安定して大量に供給することができる、安価な新規培養基材を提供し、それを用いた安価かつ簡便なヒト多能性幹細胞の培養方法を提供することである。また、本発明の別の目的は、継代時に酵素処理を必要とせず、かつ単一細胞に分散させても細胞が死滅しないような、ヒト多能性幹細胞の培養用基材を提供し、もって、より均一なヒト多能性幹細胞の培養物を提供することである。さらに、本発明の別の目的は、当該培養基材を含む細胞凍結剤、及び細胞凍結方法も提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、ヒト多能性幹細胞の培養用基材として、生体適合性が高く安価な生体材料を用いることに着目し、エレクトロスピニング法を用いて、生体材料をナノファイバー化することを考案していた。そこで、上記の目的を達成すべく、当該ナノファイバーの物理的な強度をさらに高めるために、ガーゼやスポンジ等の支持体に、当該ナノファイバーを塗布することを試みた。そして、得られた培養用基材を「ファイバー・オン・ファイバー」と命名した。
【0011】
ファイバー・オン・ファイバーはその形状をフレキシブルに変えることができるため、折り畳んで使用することができる。そこで、本発明者らは、単一細胞にまで分散させたヒトES細胞又はヒトiPS細胞の懸濁液を4枚のファイバー・オン・ファイバー上に載せ、折り畳んでES細胞用培地中で培養した。その結果、このファイバー・オン・ファイバー基材上で培養したヒト多能性幹細胞は、マトリゲルでコーティングしたディッシュ上での培養と比べて約2倍増の細胞数を示し、マトリゲル上で培養した細胞に比べて細胞密度がより高かった。加えて、ガーゼやスポンジ等はガラス・プラスチック基材等と比べて多孔性であるため、培養液に当該ファイバー・オン・ファイバーを浸漬すると、培養液が自然に浸透することで細胞への培養液の供給も改善された。
このファイバー・オン・ファイバーは形状がフレキシブルであるため、容器を選ぶ必要がなく、細胞に栄養が届く条件であれば任意の容器で培養が可能であること、すなわち、多能性幹細胞等の幹細胞をはじめとする所望の細胞を大量かつ容易に培養することができることが明らかとなった。さらに本発明者らは、このファイバー・オン・ファイバー基材を用いて長期継代培養しても、多能性幹細胞が多能性及び正常な核型を維持していることを確認した。しかも、ファイバー・オン・ファイバー基材を用いて凍結・解凍操作を行っても、多能性幹細胞がコロニーを形成し、細胞生存率が高いことも見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下の通りのものである。
[1] 支持体上に、ゼラチン、コラーゲン及びセルロースからなる群より選択される生体高分子からなるナノファイバーを含有してなる、細胞の培養用基材。
[2] 該ナノファイバーが架橋処理されている、上記[1]記載の基材。
[3] 生体高分子がゼラチン又はコラーゲンである、上記[1]又は[2]記載の基材。
[4] 生体高分子がゼラチンである、上記[1]又は[2]記載の基材。
[5] ナノファイバーがエレクトロスピニング法により得られる、上記[1]~[4]のいずれかに記載の基材。
[6] 支持体が、ガーゼ及びスポンジからなる群より選択される上記[1]~[5]のいずれかに記載の基材。
[7] 細胞が幹細胞である、上記[1]~[6]のいずれかに記載の基材。
[8] 幹細胞が多能性幹細胞である、上記[7]記載の基材。
[9] 多能性幹細胞がES細胞又はiPS細胞である、上記[8]記載の基材。
[10] 多能性幹細胞がヒト由来である、上記[8]又は[9]記載の基材。
[11] 培養が細胞の維持増幅培養である、上記[1]~[10]のいずれかに記載の基材。
[12] 上記[1]~[6]のいずれかに記載の基材を含む、細胞凍結剤。
[13] 上記[1]~[6]のいずれかに記載の基材上に細胞を播種し、該細胞を静置培養することを特徴とする、細胞の培養方法。
[14] 酵素を含まない解離液を用いて基材から細胞を解離させ、該細胞を上記[1]~[6]のいずれかに記載の基材上に播種し、該細胞をさらに静置培養することを特徴とする、上記[13]記載の方法。
[15] 継代時に、細胞を単一細胞にまで分散させることを特徴とする、上記[14]記載の方法。
[16] 細胞を無血清培地で培養することを特徴とする、上記[13]~[15]のいずれかに記載の方法。
[17] 無血清培地がxenoフリー培地である、上記[16]記載の方法。
[18] 無血清培地がタンパク質不含培地である、上記[16]記載の方法。
[19] 細胞が幹細胞である、上記[13]~[18]のいずれかに記載の方法。
[20] 幹細胞が多能性幹細胞である、上記[19]記載の方法。
[21] 多能性幹細胞がES細胞又はiPS細胞である、上記[20]記載の方法。
[22] 多能性幹細胞がヒト由来である、上記[20]又は[21]記載の方法。
[23] 培養が細胞の維持増幅培養である、上記[13]~[22]のいずれかに記載の方法。
[24] [12]に記載の凍結剤を用いて細胞を凍結保存する方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の培養基材は、物理的な強度が高い上に形状がフレキシブルであるので、3次元培養が可能となり、省スペース化を実現しつつ細胞の大量供給が可能となる。また、本発明の培養基材は生体適合性が高く安価であるので、安定供給が容易となる。さらに、本発明の培養基材は容易に形状を変化させることができるので、容器を選ばず凍結保存することができる。
また、本発明の培養基材を用いると、培養液の浸漬により培養液が浸透するため、細胞への培養液の容易な供給が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】コットンガーゼ上にナノファイバーを塗布して得られたファイバー・オン・ファイバーの電顕写真(左)、コットンガーゼの電顕写真(右)である。
【図2】ファイバー・オン・ファイバーを培養液に浸漬し、その上にヒトES細胞(H9)を播いた際の写真である。
【図3】ファイバー・オン・ファイバー上で5日間培養したヒトES細胞(H9)の電顕写真である。
【図4】ファイバー・オン・ファイバー上で培養したヒトES細胞(H9)を多能性幹細胞マーカーであるアルカリフォスファターゼ染色した写真である。
【図5】アルカリフォスファターゼ染色されたヒトES細胞(H9)の顕微鏡写真である。
【図6】コットンガーゼ上にヒトES細胞(H9)を培養し、その後アルカリフォスファターゼ染色を行った対照試験の写真である。
【図7】ファイバー・オン・ファイバー上で培養したヒトES細胞(H9)における多能性幹細胞マーカー(SSEA4)の発現を示すフローサイトメトリーの結果を示す図である。
【図8】ファイバー・オン・ファイバー上で培養したヒトES細胞(H9)における多能性幹細胞マーカーの発現を示す免疫細胞染色写真である。
【図9】35-mmディッシュ中で、1枚又は4枚のファイバー・オン・ファイバーを折り畳むことで3次元培養化を行った写真である。
【図10】1枚又は4枚のファイバー・オン・ファイバー上にヒトES細胞(H9)を播いてこれらを折り畳み、3次元培養化を行った後の細胞数を示す図である。
【図11】32枚のファイバー・オン・ファイバーを折り畳み、ヒト多能性幹細胞を大量培養(100 mL)する際の写真である。
【図12】ファイバー・オン・ファイバー上で10回継代培養したヒトES細胞(H9)のアルカリフォスファターゼ染色写真である。
【図13】ファイバー・オン・ファイバー上で10回継代培養したヒトES細胞(H9)の多能性幹細胞マーカーの発現を示すフローサイトメトリーの結果を示す図である。
【図14】ファイバー・オン・ファイバー上で20回以上継代培養したヒトES細胞(H1、H9)及びヒトiPS細胞(253G1)の多能性幹細胞マーカー(SSEA4)及び分化マーカー(SSEA1)の発現を示すフローサイトメトリーの結果を示す図である。
【図15】ファイバー・オン・ファイバー上で長期間(10回以上継代)培養したヒトES細胞(H9)及びヒトiPS細胞(253G1)の核型解析の結果を示す図である。
【図16】A.ファイバー・オン・ファイバー上で培養したヒトES細胞(H9)が、外胚葉(左)、中胚葉(中央)、内胚葉(右)全ての胚葉に分化可能であることを示す図である。上段は、それぞれの胚葉の検出マーカーに対する蛍光標識抗体(左から順に、抗チューブリンIII抗体、抗α-SMA抗体、抗SOX17抗体)で染色した顕微鏡写真を、下段はDAPI染色した細胞の顕微鏡写真を示す。B.ファイバー・オン・ファイバー上で10回以上継代培養したヒトES細胞(H1)が、中胚葉(左)、外胚葉(中央)、内胚葉(右)全ての胚葉に分化可能であることを示す図である。左から順に、抗α-SMA抗体、抗チューブリンIII抗体、抗SOX17抗体で免疫染色(核をDAPIで二重染色)した顕微鏡写真を示す。
【図17】ファイバー・オン・ファイバー上で10回以上継代培養したヒトES細胞(H1、H9)及びヒトiPS細胞(253G1)におけるテラトーマ形成能を示す図である。神経上皮(外胚葉)、軟骨(中胚葉)及び内肺葉(腸管様上皮)の三胚葉系列すべてに分化することが確認された。
【図18】ファイバー・オン・ファイバー上で培養したヒトES細胞(H9)をピンセットで形を変え、チューブに挿入する際の写真である。
【図19】ファイバー・オン・ファイバー上で培養したヒトES細胞(H9)の凍結前(左)、解凍4日後(右)の細胞の電顕写真である。
【図20】ファイバー・オン・ファイバー上で培養したヒトES細胞(H1)を、凍結・解凍した後の細胞における多能性幹細胞マーカーの発現を示すフローサイトメトリーの結果を示す図である。
【図21】ファイバー・オン・ファイバー上で培養したヒトES細胞(H1)を、凍結・解凍した後の細胞をアルカリフォスファターゼ染色した写真である。
【図22】ファイバー・オン・ファイバー上で培養したヒトES細胞(H1)を凍結保存液に入れ、凍結・解凍した後の細胞生存率を示す図である。
【図23】A.ファイバー・オン・ファイバーを培養基質として用いたヒト多能性幹細胞の大量培養装置の写真である。B.Aの装置で大量培養したヒトES細胞(H1)の多能性幹細胞マーカー(SSEA4)及び分化マーカー(SSEA1)の発現を示すフローサイトメトリーの結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、ゼラチン、コラーゲン及びセルロースからなる群より選択される生体高分子からなるナノファイバーを含有してなる、細胞の培養用基材(以下、本発明の培養基材と略記する場合がある)を提供する。

【0016】
本発明の培養基材が適用可能な細胞は特に制限されず、静置培養が可能な任意の細胞(例えば、リンパ球、上皮細胞、内皮細胞、筋肉細胞、線維芽細胞(皮膚細胞等)、毛細胞、肝細胞、胃粘膜細胞、腸細胞、脾細胞、膵細胞(膵外分泌細胞等)、脳細胞、肺細胞、腎細胞、脂肪細胞等の分化した細胞、未分化な組織前駆細胞や幹細胞など)に用いることが可能である。

【0017】
好ましい一実施態様においては幹細胞が挙げられる。幹細胞は、自己複製能と別の種類の(幹細胞以外の)細胞に分化する能力を有するものであれば特に制限されず、三胚葉系列すべてに分化し得る多能性幹細胞、一般に胚葉を超えた分化は行えないが多様な細胞腫に分化可能な多分化能を有する幹細胞、分化可能な細胞腫が一種類に限定されている単能性幹細胞のいずれにも適用できる。

【0018】
多能性幹細胞は、未分化状態を保持したまま増殖できる「自己再生能」と三胚葉系列すべてに分化できる「分化多能性」とを有する未分化細胞であれば特に制限されず、例えば、ES細胞、iPS細胞の他、始原生殖細胞に由来する胚性生殖(EG)細胞、精巣組織からのGS細胞の樹立培養過程で単離されるmultipotent germline stem(mGS)細胞、骨髄から単離されるmultipotent adult progenitor cell(MAPC)、培養線維芽細胞や骨髄幹細胞由来の多能性細胞(Muse細胞)等が挙げられる。ES細胞は体細胞から核初期化されて生じた核移植ES(ntES)細胞であってもよい。好ましくはES細胞またはiPS細胞である。

【0019】
多分化能を有する幹細胞としては、例えば、神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、肝幹細胞、膵幹細胞、皮膚幹細胞等が挙げられるが、これらに限定されない。また、単能性幹細胞としては、例えば、筋幹細胞、生殖幹細胞、歯髄幹細胞等が挙げられるが、これらに限定されない。

【0020】
本発明の方法により培養される細胞が、分化細胞、組織前駆細胞、多分化能を有する幹細胞、あるいは単能性幹細胞である場合、これらの細胞は自体公知の方法により、それらが存在する任意の哺乳動物の組織から単離することができる。単離された細胞は、初代培養細胞としてそのまま適用することもできるし、あるいは自体公知の方法により維持培養した後で適用することができる。また、これらの培養細胞を不死化して得られる種々の細胞株を用いることもできる。
一方、細胞が多能性幹細胞の場合、本発明の方法は、いずれかの多能性幹細胞が樹立されているか、樹立可能である、任意の哺乳動物において適用することができ、例えば、ヒト、マウス、サル、ブタ、ラット、イヌ等が挙げられるが、好ましくはヒトまたはマウス、より好ましくはヒトである。以下に種々の多能性幹細胞の調製方法について具体的に説明するが、他の公知の手法も制限なく使用することができる。

【0021】
I. 多能性幹細胞の調製
ES細胞は、対象動物の受精卵の胚盤胞から内部細胞塊を取出し、内部細胞塊を線維芽細胞のフィーダー上で培養することによって樹立することができる。また、継代培養による細胞の維持は、白血病抑制因子(leukemia inhibitory factor (LIF))、塩基性線維芽細胞成長因子(basic fibroblast growth factor (bFGF))などの物質を添加した培養液を用いて行うことができる。ヒトおよびサルのES細胞の樹立と維持の方法については、例えばUS5,843,780; Thomson JA, et al. (1995), Proc Natl. Acad. Sci. U S A. 92:7844-7848;Thomson JA, et al. (1998), Science. 282:1145-1147;H. Suemori et al. (2006), Biochem. Biophys. Res. Commun., 345:926-932;M. Ueno et al. (2006), Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 103:9554-9559;H. Suemori et al. (2001), Dev. Dyn., 222:273-279;H. Kawasaki et al. (2002), Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 99:1580-1585;Klimanskaya I, et al. (2006), Nature. 444:481-485などに記載されている。

【0022】
ES細胞作製のための培養液として、例えば0.1 mM 2-メルカプトエタノール、0.1 mM 非必須アミノ酸、2 mM L-グルタミン酸、20% KSRおよび4 ng/mL bFGFを補充したDMEM/F-12培養液(もしくは、合成培地:mTeSR、Stem Proなど)を使用し、37℃、2% CO2/98% 空気の湿潤雰囲気下でヒトES細胞を維持することができる(O. Fumitaka et al. (2008), Nat. Biotechnol., 26:215-224)。また、ES細胞は、3~4日おきに継代する必要があり、このとき、継代は、例えば1 mM CaCl2および20% KSRを含有するPBS中の0.25% トリプシンおよび0.1 mg/mLコラゲナーゼIVを用いて行うことができる。

【0023】
ES細胞の選択は、一般に、アルカリホスファターゼ、Oct-3/4、Nanogなどの遺伝子マーカーの発現を指標にしてReal-Time PCR法で行うことができる。特に、ヒトES細胞の選択では、OCT-3/4、NANOG、ECADなどの遺伝子マーカーの発現を指標とすることができる(E. Kroon et al. (2008), Nat. Biotechnol., 26:443-452)。

【0024】
ヒトES細胞株は、例えばWA01(H1)およびWA09(H9)は、WiCell Reserch Instituteから、KhES-1、KhES-2およびKhES-3は、京都大学再生医科学研究所(京都、日本)から入手可能である。

【0025】
精子幹細胞は、精巣由来の多能性幹細胞であり、精子形成のための起源となる細胞である。この細胞は、ES細胞と同様に、種々の系列の細胞に分化誘導可能であり、例えばマウス胚盤胞に移植するとキメラマウスを作出できるなどの性質をもつ(M. Kanatsu-Shinohara et al. (2003) Biol. Reprod., 69:612-616; K. Shinohara et al. (2004), Cell, 119:1001-1012)。神経膠細胞系由来神経栄養因子(glial cell line-derived neurotrophic factor (GDNF))を含む培養液で自己複製可能であるし、またES細胞と同様の培養条件下で継代を繰り返すことによって、精子幹細胞を得ることができる(竹林正則ら(2008),実験医学,26巻,5号(増刊),41~46頁,羊土社(東京、日本))。

【0026】
胚性生殖細胞は、胎生期の始原生殖細胞から樹立される、ES細胞と同様な多能性をもつ細胞であり、LIF、bFGF、幹細胞因子(stem cell factor)などの物質の存在下で始原生殖細胞を培養することによって樹立し得る(Y. Matsui et al. (1992), Cell, 70:841-847; J.L. Resnick et al. (1992), Nature, 359:550-551)。

【0027】
人工多能性幹(iPS)細胞は、特定の初期化因子を、DNA又はタンパク質の形態で体細胞に導入することによって作製することができる、ES細胞とほぼ同等の特性、例えば分化多能性と自己複製による増殖能、を有する体細胞由来の人工の幹細胞である(K. Takahashi and S. Yamanaka (2006) Cell, 126:663-676; K. Takahashi et al. (2007), Cell, 131:861-872; J. Yu et al. (2007), Science, 318:1917-1920; Nakagawa, M.ら,Nat. Biotechnol. 26:101-106 (2008); WO 2007/069666)。初期化因子は、ES細胞に特異的に発現している遺伝子、その遺伝子産物もしくはnon-coding RNAまたはES細胞の未分化維持に重要な役割を果たす遺伝子、その遺伝子産物もしくはnon-coding RNA、あるいは低分子化合物によって構成されてもよい。初期化因子に含まれる遺伝子として、例えば、Oct3/4、Sox2、Sox1、Sox3、Sox15、Sox17、Klf4、Klf2、c-Myc、N-Myc、L-Myc、Nanog、Lin28、Fbx15、ERas、ECAT15-2、Tcl1、beta-catenin、Lin28b、Sall1、Sall4、Esrrb、Nr5a2、Tbx3またはGlis1等が例示され、これらの初期化因子は、単独で用いても良く、組み合わせて用いても良い。初期化因子の組み合わせとしては、WO2007/069666、WO2008/118820、WO2009/007852、WO2009/032194、WO2009/058413、WO2009/057831、WO2009/075119、WO2009/079007、WO2009/091659、WO2009/101084、WO2009/101407、WO2009/102983、WO2009/114949、WO2009/117439、WO2009/126250、WO2009/126251、WO2009/126655、WO2009/157593、WO2010/009015、WO2010/033906、WO2010/033920、WO2010/042800、WO2010/050626、WO2010/056831、WO2010/068955、WO2010/098419、WO2010/102267、WO2010/111409、WO2010/111422、WO2010/115050、WO2010/124290、WO2010/147395、WO2010/147612、Huangfu D,et al. (2008), Nat. Biotechnol., 26: 795-797、Shi Y, et al. (2008), Cell Stem Cell, 2: 525-528、Eminli S, et al. (2008), Stem Cells. 26:2467-2474、Huangfu D, et al. (2008), Nat Biotechnol. 26:1269-1275、Shi Y, et al. (2008), Cell Stem Cell, 3, 568-574、Zhao Y, et al. (2008), Cell Stem Cell, 3:475-479、Marson A, (2008), Cell Stem Cell, 3, 132-135、Feng B, et al. (2009), Nat Cell Biol. 11:197-203、R.L. Judson et al., (2009), Nat. Biotech., 27:459-461、Lyssiotis CA, et al. (2009), Proc Natl Acad Sci U S A. 106:8912-8917、Kim JB, et al. (2009), Nature. 461:649-643、Ichida JK, et al. (2009), Cell Stem Cell. 5:491-503、Heng JC, et al. (2010), Cell Stem Cell. 6:167-174、Han J, et al. (2010), Nature. 463:1096-1100、Mali P, et al. (2010), Stem Cells. 28:713-720、Maekawa M, et al. (2011), Nature. 474:225-229に記載の組み合わせが例示される。

【0028】
上記初期化因子には、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤[例えば、バルプロ酸 (VPA)、トリコスタチンA、酪酸ナトリウム、MC 1293、M344等の低分子阻害剤、HDACに対するsiRNAおよびshRNA(例、HDAC1 siRNA Smartpool(登録商標) (Millipore)、HuSH 29 mer shRNA Constructs against HDAC1 (OriGene)等)等の核酸性発現阻害剤など]、MEK阻害剤(例えば、PD184352、PD98059、U0126、SL327およびPD0325901)、Glycogen synthase kinase-3阻害剤(例えば、BioおよびCHIR99021)、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害
剤(例えば、5-azacytidine)、ヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤(例えば、BIX-01294 等の低分子阻害剤、Suv39hl、Suv39h2、SetDBlおよびG9aに対するsiRNAおよびshRNA等の核酸性発現阻害剤など)、L-channel calcium agonist (例えばBayk8644)、酪酸、TGFβ阻害剤またはALK5阻害剤(例えば、LY364947、SB431542、616453およびA-83-01)、p53阻害剤(例えばp53に対するsiRNAおよびshRNA)、ARID3A阻害剤(例えば、ARID3Aに対するsiRNAおよびshRNA)、miR-291-3p、miR-294、miR-295およびmir-302などのmiRNA、Wnt Signaling(例えば、soluble Wnt3a)、神経ペプチドY、プロスタグランジン類(例えば、プロスタグランジンE2およびプロスタグランジンJ2)、hTERT、SV40LT、UTF1、IRX6、GLISl、PITX2、DMRTBl等の樹立効率を高めることを目的として用いられる因子も含まれており、本明細書においては、これらの樹立効率の改善目的にて用いられた因子についても初期化因子と別段の区別をしないものとする。

【0029】
初期化因子は、タンパク質の形態の場合、例えばリポフェクション、細胞膜透過性ペプチド(例えば、HIV由来のTATおよびポリアルギニン)との融合、マイクロインジェクションなどの手法によって体細胞内に導入してもよい。

【0030】
一方、DNAの形態の場合、例えば、ウイルス、プラスミド、人工染色体などのベクター、リポフェクション、リポソーム、マイクロインジェクションなどの手法によって体細胞内に導入することができる。ウイルスベクターとしては、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター(以上、Cell, 126, pp.663-676, 2006; Cell, 131, pp.861-872, 2007; Science, 318, pp.1917-1920, 2007)、アデノウイルスベクター(Science, 322, 945-949, 2008)、アデノ随伴ウイルスベクター、センダイウイルスベクター(WO 2010/008054)などが例示される。また、人工染色体ベクターとしては、例えばヒト人工染色体(HAC)、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC、PAC)などが含まれる。プラスミドとしては、哺乳動物細胞用プラスミドを使用しうる(Science, 322:949-953, 2008)。ベクターには、核初期化物質が発現可能なように、プロモーター、エンハンサー、リボゾーム結合配列、ターミネーター、ポリアデニル化サイトなどの制御配列を含むことができるし、さらに、必要に応じて、薬剤耐性遺伝子(例えばカナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子など)、チミジンキナーゼ遺伝子、ジフテリアトキシン遺伝子などの選択マーカー配列、緑色蛍光タンパク質(GFP)、βグルクロニダーゼ(GUS)、FLAGなどのレポーター遺伝子配列などを含むことができる。また、上記ベクターには、体細胞への導入後、初期化因子をコードする遺伝子もしくはプロモーターとそれに結合する初期化因子をコードする遺伝子を共に切除するために、それらの前後にLoxP配列を有してもよい。

【0031】
また、RNAの形態の場合、例えばリポフェクション、マイクロインジェクションなどの手法によって体細胞内に導入しても良く、分解を抑制するため、5-メチルシチジンおよびpseudouridine (TriLink Biotechnologies)を取り込ませたRNAを用いても良い(Warren L, (2010) Cell Stem Cell. 7:618-630)。

【0032】
iPS細胞誘導のための培養液としては、例えば、10~15% FBSを含有するDMEM、DMEM/F12又はDME培養液(これらの培養液にはさらに、LIF、penicillin/streptomycin、puromycin、L-グルタミン、非必須アミノ酸類、β-メルカプトエタノールなどを適宜含むことができる。)または市販の培養液[例えば、マウスES細胞培養用培養液(TX-WES培養液、トロンボX社)、霊長類ES細胞培養用培養液(霊長類ES/iPS細胞用培養液、リプロセル社)、無血清培地(mTeSR、Stemcell Technology社)などが含まれる。

【0033】
培養法の例としては、例えば、37℃、5% CO2存在下にて、10% FBS含有DMEM又はDMEM/F12培養液上で体細胞と初期化因子とを接触させ約4~7日間培養し、その後、細胞をフィーダー細胞(例えば、マイトマイシンC処理STO細胞、SNL細胞等)上にまきなおし、体細胞と初期化因子の接触から約10日後からbFGF含有霊長類ES細胞培養用培養液で培養し、該接触から約30~約45日又はそれ以上ののちにiPS様コロニーを生じさせることができる。

【0034】
あるいは、37℃、5% CO2存在下にて、フィーダー細胞(例えば、マイトマイシンC処理STO細胞、SNL細胞等)上で10% FBS含有DMEM培養液(これにはさらに、LIF、ペニシリン/ストレプトマイシン、ピューロマイシン、L-グルタミン、非必須アミノ酸類、β-メルカプトエタノールなどを適宜含むことができる。)で培養し、約25~約30日又はそれ以上ののちにES様コロニーを生じさせることができる。望ましくは、フィーダー細胞の代わりに、初期化される体細胞そのものを用いる(Takahashi K, et al. (2009), PLoS One. 4:e8067またはWO2010/137746)、もしくは細胞外基質(例えば、Laminin(WO2009/123349)およびマトリゲル(BD社))を用いる方法が例示される。

【0035】
この他にも、血清を含有しない培地を用いて培養する方法も例示される(Sun N, et al. (2009), Proc Natl Acad Sci U S A. 106:15720-15725)。さらに、樹立効率を上げるため、低酸素条件(0.1%以上、15%以下の酸素濃度)によりiPS細胞を樹立しても良い(Yoshida Y, et al. (2009), Cell Stem Cell. 5:237-241またはWO2010/013845)。
上記培養の間には、培養開始2日目以降から毎日1回新鮮な培養液と培養液交換を行う。また、核初期化に使用する体細胞の細胞数は、限定されないが、培養ディッシュ100cm2あたり約5×103~約5×106細胞の範囲である。

【0036】
iPS細胞は、形成したコロニーの形状により選択することが可能である。一方、体細胞が初期化された場合に発現する遺伝子(例えば、Oct3/4、Nanog)と連動して発現する薬剤耐性遺伝子をマーカー遺伝子として導入した場合は、対応する薬剤を含む培養液(選択培養液)で培養を行うことにより樹立したiPS細胞を選択することができる。また、マーカー遺伝子が蛍光タンパク質遺伝子の場合は蛍光顕微鏡で観察することによって、発光酵素遺伝子の場合は発光基質を加えることによって、また発色酵素遺伝子の場合は発色基質を加えることによって、iPS細胞を選択することができる。

【0037】
核移植により得られたクローン胚由来のES細胞(nt ES細胞)は、受精卵由来のES細胞とほぼ同じ特性を有している(T. Wakayama et al. (2001), Science, 292:740-743; S. Wakayama et al. (2005), Biol. Reprod., 72:932-936; J. Byrne et al. (2007), Nature, 450:497-502)。すなわち、未受精卵の核を体細胞の核と置換することによって得られたクローン胚由来の胚盤胞の内部細胞塊から樹立されたES細胞がnt ES(nuclear transfer ES)細胞である。nt ES細胞の作製のためには、核移植技術(J.B. Cibelli et al. (1998), Nature Biotechnol., 16:642-646)とES細胞作製技術(上記)との組み合わせが利用される(若山清香ら(2008),実験医学,26巻,5号(増刊), 47~52頁)。核移植においては、哺乳動物の除核した未受精卵に、体細胞の核を注入し、数時間培養することで初期化することができる。

【0038】
Multilineage-differentiating Stress Enduring cells(Muse細胞)は、WO2011/007900に記載された方法にて製造された多能性幹細胞であり、詳細には、線維芽細胞または骨髄間質細胞を長時間トリプシン処理、好ましくは8時間または16時間トリプシン処理した後、浮遊培養することで得られる多能性を有した細胞であり、SSEA-3およびCD105が陽性である。

【0039】
II. 生体高分子
本発明の培養基材に用いられる生体高分子は、ゼラチン、コラーゲン及びセルロースからなる群より選択される。
ゼラチンは、主として牛骨および牛皮、豚皮を原料として製造されるが、鮭などの魚の皮や鱗を原料とする場合もあり、その由来については特に限定されない。これらの原料からゼラチンを抽出・精製する方法は周知である。また、市販のゼラチンを用いることもできる。
コラーゲンは、ゼラチン製造の過程で酸・アルカリによる変性前のコラーゲン原料から精製することができる。コラーゲンの由来にも特に限定はない。また、市販のコラーゲン、例えば、細胞培養用のコーティング基質として市販されているもの等を用いることもできる。
セルロースは植物等から周知の方法によって抽出・精製することができ、いかなるものを用いてもよい。
生体高分子の分子量は特に限定されないが、分子量が小さいとエレクトロスピニング法によりナノファイバーを形成できない場合があるので、例えば、ゼラチンの場合、10 kDa以上、好ましくは20-70 kDa、より好ましくは30-40 kDaの範囲で適宜選択することができる。

【0040】
III. ナノファイバーの作製
これらの生体高分子からナノファイバーを作製する方法は特に限定されず、例えばエレクトロスピニング法、コンジュゲート溶融紡糸法、メルトブロー法等が挙げられるが、簡便で応用性が広いエレクトロスピニング法が好ましく用いられる。
エレクトロスピニング法による場合、まず生体高分子を適当な溶媒に溶解する。ここで用いられる溶媒としては、ゼラチン、コラーゲン、セルロースを溶解し得る溶媒であれば、無機溶媒、有機溶媒を問わずいかなるものも使用可能であるが、例えば、ゼラチンナノファイバーの作製においては、酢酸やギ酸等が好ましく用いられ得る。コラーゲンナノファイバーの作製においては、例えば、1,1,1,2,2,2-ヘキサフルオロ-2-プロパノール等が用いられ得る。あるいは、セルロースナノファイバーの作製においては、高極性イオン液体が用いられ得る。
生体高分子溶液の濃度は特に限定されないが、好ましい繊維径及び均一性を得るためには、例えば、ゼラチンの酢酸溶液を用いる場合には、5-15 w/v%、好ましくは8-12 w/v%の濃度範囲で使用することが望ましい。

【0041】
エレクトロスピニング法は自体公知の手法に従って実施することができる。エレクトロスピニング法の原理は、電気の力で材料をスプレーし、ナノサイズの繊維にすることである。生体高分子溶液をシリンジに充てんし、先端に注射針のようなノズルを設置したものに、シリンジポンプを接続して流速を与えるようにする。ノズルから適当な距離の位置にナノファイバーが収集するコレクタ(平板でもよいし、巻き取り式とすることもできる。平板なコレクタ上に後述の支持体を設置して、直接、支持体上にナノファイバーを形成させて本発明の培養基材とすることもできる)を設置し、ノズル側に電源の+極、コレクタ側に-極を接続する。シリンジポンプの電源を入れるとともに、電圧をかけることにより、コレクタ上に生体高分子が噴射され、ナノファイバーが形成される。ここで、電圧、ノズルからコレクタまでの距離、ノズルの内径などにより、繊維形態や繊維径が変動するが、当業者であれば、これらを適宜選択して所望の繊維径を有し、かつ均一なナノファイバーを作製することができる。例えば、後述の実施例で用いた各種条件を採用することもできるし、上述の非特許文献4および5に記載の条件を適宜用いることもできる。

【0042】
上記のようにして生成するナノファイバーは、1-1000 nm、好ましくは10-800 nm、より好ましくは50-500 nmの繊維径を有するものであればよい。

【0043】
ナノファイバーに好適な3次元特性を与え、かつ継代時の細胞の解離を容易にするために、生成したナノファイバーは適当な架橋剤を用いて架橋処理することが好ましい。架橋剤の種類は特に制限はないが、好ましい架橋剤として、水溶性カルボジイミド(WSC)、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)等が挙げられる。2種類以上の架橋剤を混合して用いてもよい。架橋処理は、例えば、架橋剤を適当な溶媒に溶解し、該架橋剤溶液中に得られたナノファイバーを浸漬することにより行うことができる。当業者であれば、架橋剤の種類に応じて、溶液濃度、架橋処理時間を適宜設定することができる。
尚、架橋剤と培養基材に機能性を付与する公知のペプチドをコンジュゲートしておけば、当該架橋処理により、同時にナノファイバー基材上に機能性ペプチドが付与されることになるので、この点でも有用である。

【0044】
IV. ファイバー・オン・ファイバーの作製
上記のようにして生成するナノファイバーを、支持体上に塗布することで、ファイバー・オン・ファイバーを作製することができる。
塗布する方法は、ナノファイバーが支持体上に均一に塗布されれば、限定されないが、簡便で応用性が広いエレクトロスピニング法により、ナノファイバーを支持体上に生成される方法が好ましく用いられる。

【0045】
支持体としては、フレキシブルかつ強度が保持されるものが好ましい。支持体の種類は特に制限はないが、好ましい支持体として、ガーゼ、及びスポンジ等が挙げられる。これらの素材としては、特に限定されないが、生体適合性のポリマーであることが好ましく、例えば、コットン、リネン、コラーゲンスポンジ、生物由来のセルロース誘導体、シリコーンポリマー、セグメント化ポリウレタン等が挙げられるが、これらに限定されない。

【0046】
V. ファイバー・オン・ファイバー基材を用いた細胞の培養
このようにして得られた、支持体上に生体高分子からなるナノファイバーを含有してなる本発明の培養基材(ファイバー・オン・ファイバー基材)は、多能性幹細胞等の幹細胞をはじめとする各種細胞の培養(例えば、維持増幅培養、分化誘導培養、脱分化誘導培養など)のために使用される。従って、本発明はまた、本発明の培養基材上に細胞、好ましくは幹細胞、より好ましくは多能性幹細胞を播種し、該細胞を静置培養することによる、該細胞の培養方法、好ましくは維持増幅培養方法を提供する。
以下に、多能性幹細胞の維持増幅培養方法を例にとって本発明をより具体的に説明するが、多能性幹細胞や他の幹細胞から種々の分化細胞へ分化誘導する場合や、組織前駆細胞もしくは組織幹細胞、あるいは分化細胞をより未分化な状態に脱分化させたり、他の幹細胞、組織前駆細胞又は分化細胞を維持増幅培養したりする場合についても、それぞれ、公知の方法を、従来使用されている培養基材に代えて本発明の培養基材を適用することで、容易に実施することができる。

【0047】
まず、樹立され、フィーダー細胞やマトリゲル、コラーゲン等のマトリクス上で付着培養されていた多能性幹細胞を酵素処理により解離した後、好ましくは細胞死を抑制するためにROCK阻害剤(例えば、Y-27632等)を添加した培地(上記I.において多能性幹細胞の培養用培地として例示したものを同様に使用することができる。好ましくは無血清培地であり、より好ましくは培養される多能性幹細胞とは異種の動物由来のタンパク質を含まない(Xenoフリー)培地であり、さらに好ましくは血清アルブミンやbFGF等のタンパク質を含まない培地が使用される。)に懸濁し、培養容器(例えば、ディッシュ、ペトリディッシュ、組織培養用ディッシュ、マルチディッシュ、マイクロプレート、マイクロウエルプレート、マルチプレート、マルチウエルプレート、チャンバースライド、シャーレ、チューブ、トレイ、培養バック等)中に載置した、上記本発明の培養基材上に、約0.5×104-約10×104細胞/cm2、好ましくは約2×104-約6×104細胞/cm2の細胞密度となるように播種する。該培養基材は、多能性幹細胞の播種に先立って、上記培地と同じ組成(ROCK阻害剤は不要)の培地を含浸させ、本培養と同様の条件下でプレインキュベートしておくことが望ましい。

【0048】
多能性幹細胞を播種後、好ましくは培養容器から培地を除去し、新鮮な培地(ROCK阻害剤を含むことが望ましい)と交換し、1日培養する。培養は、例えば、CO2インキュベーター中、約1-約10%、好ましくは約2-約5%のCO2濃度の雰囲気下、約30-約40℃、好ましくは約37℃で行われる。翌日ROCK阻害剤を含まない培地と交換し、以後は1-2日毎に新鮮な培地と交換することが望ましい。培養は1-7日間、好ましくは3-6日間、より好ましくは4-5日間行われる。

【0049】
本発明はまた、酵素を含まない解離液を用いて基材から細胞(例えば、多能性幹細胞等の幹細胞など)を解離させ、該細胞を本発明の培養基材上に再播種し、該細胞をさらに静置培養することによる、該細胞の培養方法(例えば、維持増幅方法など)を提供する。ヒト多能性幹細胞は、従来の継代培養法で単一細胞化すると、細胞死を起こしやすいという問題点があるため、ある程度のサイズの細胞塊として継代されたりもするが、本発明の培養基材を用いた場合、酵素を含まない解離液を用いて容易に基材から細胞を解離させることができ、さらにわずかなピペッティング操作により単一細胞まで分散させることができる。上記の架橋された基材を用いれば、基材の形態は保持されるので、より基材と細胞の分離が容易になる。
酵素を含まない解離液としては、従来から機械的に細胞を解離する方法において使用されている解離液を同様に用いることができ、例えば、ハンクス液やクエン酸とEDTAを組み合わせた溶液等が挙げられる。

【0050】
本発明の特筆すべき点は、ヒト多能性幹細胞を単一細胞にまで分散させた際、単一細胞化された多能性幹細胞において、細胞死の割合が顕著に抑制されることが挙げられる。これにより、より均一なヒト多能性幹細胞の細胞集団を調製することが可能となるからである。したがって、本発明はまた、本発明の培養基材を用いて、継代時に、酵素処理を行うことなく多能性幹細胞を単一細胞にまで分散させることによる、細胞死が抑制され、かつ細胞の均一化を可能とする、多能性幹細胞の維持増幅方法を提供する。基材から解離された細胞を、単一細胞にまで分散させるには、ROCK阻害剤を含む培地中で該細胞を10回程度緩やかにピペッティングするだけでよい。本方法によれば単一細胞化された細胞の死滅が顕著に抑制されるので、ROCK阻害剤を培地に添加するのは約1日間で十分である。ROCK阻害剤を長期間細胞に接触させるのは安全面から避けることが望ましいので、本発明の当該効果は極めて有意義である。

【0051】
幹細胞、とりわけヒト幹細胞は移植医療等への応用が期待されることから、安全な移植を可能とするため、ウイルスやその他に人体にとって有害な夾雑物質の混入を極力避ける必要がある。従って、特にヒト幹細胞の維持増幅培養においては、無血清培地の使用、より好ましくは異種動物由来成分を含まないxenoフリー培地の使用、さらに好ましくはタンパク質不含培地の使用が望まれる。本発明の培養基材を用いて継代培養を続ければ、これらのいずれの培地を用いた場合でも血清含有培地などと遜色ない増殖効率を得ることができる。
ここで、無血清培地の例としては、組換え動物タンパク質を含むmTeSR培地などが、xenoフリー培地の例としては、ヒト血清アルブミン、ヒトbFGFを含むTeSR2培地などが、タンパク質不含培地の例としては、E8培地などが、それぞれ挙げられる。

【0052】
本発明の培養基材から解離された(好ましくは単一細胞にまで分散させた)多能性幹細胞は、継代培養の際には、上記のフィーダー細胞等を用いた付着培養から本発明の培養基材上に移行させる場合と同様に、約0.5×104-約10×104細胞/cm2、好ましくは約2×104-約6×104細胞/cm2の細胞密度となるように、新しい培養基材上に播種する。この培養基材も、上記と同様、多能性幹細胞の播種に先立って、本培養の際と同じ組成(ROCK阻害剤は不要)の培地を含浸させ、本培養と同様の条件下でプレインキュベートしておくことが望ましい。

【0053】
多能性幹細胞を再播種後、好ましくは培養容器から培地を除去し、新鮮な培地(ROCK阻害剤を含むことが望ましい)と交換し、1日培養する。培養は、例えば、CO2インキュベーター中、約1-約10%、好ましくは約2-約5%のCO2濃度の雰囲気下、約30-約40℃、好ましくは約37℃で行われる。翌日ROCK阻害剤を含まない培地と交換し、以後は1-2日毎に新鮮な培地と交換することが望ましい。培養は1-7日間、好ましくは3-6日間、より好ましくは4-5日間行われる。

【0054】
上記の操作を繰り返し実施することにより、多能性幹細胞を、長期にわたって多能性と正常な形質を維持した状態で、極めて良好な増殖効率で維持増幅することができる。このようにして、良質の多能性幹細胞を安定して大量に増幅することが可能となり、細胞移植治療や薬剤スクリーニングのための分化細胞のソースとして十分な量の多能性幹細胞を供給することができる。

【0055】
VI. ファイバー・オン・ファイバー基材を用いた細胞の凍結保存
ファイバー・オン・ファイバー基材上で培養した細胞を、当該基材ごと容器に挿入して凍結保存することができる。容器は凍結に適したものであればよく、容量、形(チューブ、バッグ、アンプル、バイアル等)など限定されない。当業者は適宜、好適な容器を選択することができる。また、当業者は該培養後の基材をピンセット等でその形を変えて、容器に挿入することもできる。

【0056】
細胞の凍結には、当業者必要に応じて、細胞凍結用の溶液を添加することができる。当該溶液としては、凍結下で細胞を保護することができる溶液であればよい。例えば、mFreSR(ベリタス社)、霊長類ES細胞用凍結保存液(リプロセル社)、CRYO-GOLD Human ESC / iPSC Cryopreservation Medium(システムバイオサイエンス)、セルバンカー3(十慈フィールド)等の市販品を使用することもできる。

【0057】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0058】
実施例1 ゼラチンナノファイバーの作製
(1)材料
ゼラチン溶液
・ゼラチン (SIGMA G2625 MW: 30 kDa; ニッピ ニッピハイグレードゼラチン AP MW: 8 kDa)
・氷酢酸 (AA; SIGMA P-338826)
・無水酢酸エチル (EA; SIGMA P270989)

架橋バッファー
・水溶性カルボジイミド (WSC; DOJINDO Catalog344-03633)
・N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS; SIGMA Catalog56480)
・99.5% エタノール (Wako)

ガーゼ BEMCOT(登録商標)S-2(旭化成)
カルチャーカバーガラス25mmφ及び32mmφ
シリコンウェハー
高圧電源 (TECHDEMPAZ Japan)
真空ポンプ(Vacuum Pump)
【実施例】
【0059】
(2)操作手順
10%w/v ゼラチン溶液(AA:EA = 3:2) 1 mLの調製
2 mLチューブに30 kDaゼラチン0.1 g(最終濃度10%w/v)、滅菌蒸留水0.2 mLを入れた。次にドラフト内で氷酢酸0.42 mL(最終濃度42%w/v)、無水酢酸エチル0.31 mL(最終濃度28%w/v)を加え、チューブをボルテックスしてよく攪拌した。ゼラチンが十分に溶けたら、チューブをローターにセットし、一昼夜転倒混和した(室温度:20℃以上)。
【実施例】
【0060】
エレクトロスピニング法によるゼラチンナノファイバーの支持体への塗布
上記のようにして調製した各種濃度のゼラチン溶液を23Gのブラント針(ニプロ)を付けたシリンジに入れ、気泡を抜いた後、マイクロシリンジポンプに流速0.2 mL/hでセットした。シリコンウェハーの中央にカルチャーカバーガラスを2枚並べて置き、ガラスの両端の一部をセロテープで固定した。シリコンウェハーを万力で垂直に固定し、マイクロシリンジポンプにセットするシリンジの針から10 cmほどの距離に置いた。ブラント針に+電極(赤線)、シリコンウェハーに-電極(緑線)を取り付け、マイクロシリンジポンプのスイッチを入れ、11 kVの電圧をかけて、シリコンウェハー上のガーゼ又はガラスにファイバーを噴出させた。電圧を止め、シリコンウェハーを180度回転させて再度ファイバーを同じ時間噴出させた。ファイバー噴出後、ウェハー上のガーゼ(ファイバー・オン・ファイバー)又はガラス(対照ナノファイバー)を静かに外してシャーレに入れた。このシャーレをデシケーターに入れ、真空ポンプをかけながら一昼夜乾燥させた。
【実施例】
【0061】
0.2 M WSC/NHS架橋バッファーの調製(40 mL)
50 mLファルコンチューブにWSC を1.52 g、NHSを0.92 g入れた。該チューブに99.5% エタノールを30 mL加えてボルテックスし、試薬を溶かした後、40 mLになるように99.5%エタノールで定量し、再度ボルテックスした。
【実施例】
【0062】
架橋処理
デシケーターで乾燥させたゼラチンナノファイバー(ファイバー・オン・ファイバー又は対照ナノファイバー)を表面が浸る程度の量の架橋バッファーに4時間浸漬した。ナノファイバーを取り出し、99.5%エタノールに5~10分浸けて洗浄した(この操作を2回繰り返した)。次にキムワイプを敷いたシャーレの上でナノファイバーを風乾した後、デシケーターに入れ、一昼夜乾燥させた。
【実施例】
【0063】
実施例2 ヒト多能性幹細胞のファイバー・オン・ファイバー上への継代方法
(1)材料
mTeSR 1 STEM CELL ベリタス ST-05850
Y-27632 Wako 257-00511(1 mg)253-00513(5 mg)
Cell Dissociation Buffer enzyme-free, Hanks’-based GIBCO 13150-016
TrypLE Express GIBCO 12605-010
ヒト胚性幹細胞:H9、H1
ヒト人工多能性幹細胞:253G1
【実施例】
【0064】
(2)操作手順
ナノファイバーの前処理
直径300nm±100nmのゼラチンナノファイバーをコットンガーゼ(BEMCOT(登録商標)S-2)に吹きかけることによって作製したファイバー・オン・ファイバーを35 mmディッシュ (6-well プレート) にセットし、99.5%エタノール1 mLで3回洗浄し滅菌処理した。3回目は丁寧に吸引し、クリーンベンチ内で乾燥した。ファイバー・オン・ファイバーを培地に浸し、37℃でインキュベートした。35-mmディッシュにmTeSR 1を2 mL入れた。
【実施例】
【0065】
MEFフィーダーからナノファイバー上へのヒト多能性幹細胞の移行
MEFフィーダー上のヒト多能性幹細胞コロニー(60 mmディッシュ)に、酵素解離液TrypLE Express 2 mLを加え、そのままインキュベートし、約2分後にディッシュをゆすって顕微鏡下で、MEFが剥がれてきていること及びコロニーが丸くなっていることを確認した後、酵素解離液を吸引除去した(必要に応じてmTeSR 1 1~2 mLでリンスした)。10 μM Y-27632を含有するmTeSR 1(mTeSR 1(+Y27632))4 mLで細胞を回収して、10回ぐらいピペッティングし、シングルセルにした。細胞数をカウントした後、1000 rpmで3分間遠心し上清を吸引除去し、mTeSR 1(+Y27632)で、必要な細胞濃度に再懸濁した。前処理していたファイバー・オン・ファイバー上の培地を吸引除去し、該ファイバー・オン・ファイバーに1~1.5 mL(細胞密度は2×105~3×105cells/sample)を播種した。翌日、培地をmTeSR 1(+Y27632)2 mLに交換し、2日目からY-27632を含まないmTeSR 1で培養し、毎日培地交換を行った。
【実施例】
【0066】
ナノファイバーからナノファイバーへの継代
PBSで2回細胞をリンスした後、酵素不含細胞解離液Cell Dissociation Buffer 1 mLを加え、37℃で5分間インキュベートした後、該解離液を吸引除去した(TrypLE Expressを用いる場合1 mLを加えたら、すぐ吸引除去した後、2分ほどインキュベートした)。mTeSR1(+Y27632)2 mLで細胞を回収し (1 mL×2回)、10回ぐらいピペッティングし、シングルセルにした。以後の操作はMEFフィーダーからの移行の場合と同様に行った。
【実施例】
【0067】
複数のファイバー・オン・ファイバーを折り畳んでの使用
35-mmディッシュ中で4枚のファイバー・オン・ファイバーを折り畳むことで、3次元培養化を行った。平面培養で使用する培養液量(35-mmディッシュで3 mLの培地)で、より多くの細胞数を培養することが可能となった。
【実施例】
【0068】
(3)結果
ファイバー・オン・ファイバーの構造
上述の方法で得られたファイバー・オン・ファイバーの走査電子顕微鏡写真を図1に示す。ゼラチンナノファイバーがコットンガーゼの繊維間に網目状になっていることが分かった。以後の実験には、当該ファイバー・オン・ファイバーを用いた。
【実施例】
【0069】
ファイバー・オン・ファイバー上でのヒト多能性幹細胞の培養
ファイバー・オン・ファイバーを培養液に浸漬し、その上でヒト多能性幹細胞(H9ヒトES細胞)を培養した(図2)。結果を図3に示す。ヒト多能性幹細胞がコロニーを形成することが確認された。当該細胞を多能性幹細胞マーカーであるアルカリフォスファターゼ染色した結果を図4に示す。赤色に染色されたコロニーが観察され、ヒト多能性幹細胞が培養後でもアルカリフォスファターゼを強く発現していることが確認された。しかも、染色された細胞は繊維上に均一に分散していた(図5)。また、当該ファイバー・オン・ファイバーは培養中・培養後・染色後のどのタイミングにおいても、当該ファイバー・オン・ファイバーをピンセット等でつまみ上げる等を行うことで、その形状を自由に変更することが可能であった。つまり、ファイバー・オン・ファイバーはフレキシブルな形状を保持しつつ、ヒト多能性幹細胞を培養することができることが示された。
【実施例】
【0070】
これに対し、コットンガーゼ上にヒトES細胞(H9)を培養し、その後アルカリフォスファターゼ染色を行った対照試験では、数個のコロニーが確認されたものの、図4で示されるようなコロニー数を確認することができなかった(図6)。この結果から、ゼラチンナノファイバーの存在により、細胞接着や細胞増殖が促進されることが示された。
【実施例】
【0071】
フローサイトメトリーによる多能性幹細胞マーカーの定量的発現量解析
ヒトES細胞(H9)をファイバー・オン・ファイバー上で培養した後の細胞について、多能性幹細胞マーカー(SSEA4)の発現を、フローサイトメトリーを用いて解析した(図7)。当該細胞のうち、98.7%の細胞がSSEA4を強く発現していることを確認することできた。また、細胞群が均一であることも確認することができた。
【実施例】
【0072】
免疫細胞染色法による多能性幹細胞マーカー発現の確認
ヒトES細胞(H9)をファイバー・オン・ファイバー上で培養した後の細胞について、免疫細胞染色により、未分化マーカー(TRA-1-60)の発現を調べた。比較のために、マトリゲル上で1回継代したヒトES細胞(H9)における当該マーカーの発現も調べた。結果を図8に示す。ヒトES細胞(H9)において、未分化マーカーが強く発現していることが確認された。
【実施例】
【0073】
複数枚のファイバー・オン・ファイバーを折り畳んでの使用
35-mmディッシュ中で、1枚又は4枚のファイバー・オン・ファイバーを折り畳むことで3次元培養化を行い(図9)、細胞数を測定した。結果を図10に示す。対照として、平面基板上に塗布したナノファイバーを用いた。平面培養で使用する培養液量(35-mmディッシュで3 mLの培地)で、より多くの細胞数を培養することが可能であった。
さらに、図11に示すように32枚のファイバー・オン・ファイバーを折り畳み、ヒト多能性幹細胞を大量に培養する(100 mL)等、容器の形状・容量に応じて基材を入れる量をコントロールすることも可能となった。
【実施例】
【0074】
ファイバー・オン・ファイバー上でのヒト多能性幹細胞の長期培養
ファイバー・オン・ファイバー上でヒトES細胞(H9)を10回継代培養した後、アルカリフォスファターゼ染色した結果を図12に示す。長期培養後も未分化マーカーを強く発現していることが確認された。
【実施例】
【0075】
フローサイトメトリーによる多能性幹細胞マーカーの定量的発現量解析
ファイバー・オン・ファイバー上でヒトES細胞(H9)を10回継代培養した後の細胞における多能性幹細胞マーカー(SSEA4)の発現を、フローサイトメトリーを用いて解析した。比較のために、マトリゲル上で1回継代したヒトES細胞(H9)における当該マーカーの発現も調べた。結果を図13に示す。ファイバー・オン・ファイバーで培養したヒトES細胞(H9)の大半でSSEA4が強く発現していることを確認することができた。また、マトリゲル上で培養したものと比べ、細胞群がより均一であることも確認された。
さらに、ファイバー・オン・ファイバー上でヒトES細胞(H1、H9)及びヒトiPS細胞(253G1)を20回以上継代培養した後の細胞における多能性幹細胞マーカー(SSEA4)及び分化マーカー(SSEA1)の発現を、フローサイトメトリーを用いて解析した。結果を図14に示す。98.4%(H1)、98.6%(H9)及び96.3%(253G1)の細胞がSSEA4を強く発現していることを確認することできた。一方、いずれの多能性幹細胞においても、SSEA1を発現している細胞はほとんど確認できなかった。
【実施例】
【0076】
ファイバー・オン・ファイバー上で長期間培養したヒト多能性幹細胞の核型解析
ファイバー・オン・ファイバー上で10回以上継代培養したヒトES細胞(H9)及びヒトiPS細胞(253G1)の細胞について、マルチカラーFISHによる核型解析を行った。結果を図15に示す。ファイバー・オン・ファイバー上で10回以上継代・培養後も、両細胞共に正常な核型を保持していることを確認することができた(図15)。
【実施例】
【0077】
ファイバー・オン・ファイバー上で長期間(10回以上継代)培養したヒト多能性幹細胞の分化能の確認
胚様体(Embryoid body)形成による、ファイバー・オン・ファイバー上で培養したヒト多能性幹細胞の分化能の確認を行った。外胚葉、中胚葉、内胚葉の検出マーカーに対する蛍光標識抗体(それぞれ、抗チューブリンIII抗体、抗α-SMA抗体、抗SOX17抗体)で染色した結果を図16に示す。ファイバー・オン・ファイバー上で10回以上継代・培養した後でも、ヒト多能性幹細胞は、外胚葉、中胚葉及び内胚葉全ての胚葉に分化可能であることが確認された(ヒトES細胞(H9,図16A)、ヒトES細胞(H1,図16B))。
【実施例】
【0078】
ファイバー・オン・ファイバー上で長期間(10回以上継代)培養したヒト多能性幹細胞のテラトーマ形成能の確認
ファイバー・オン・ファイバー上で10回以上継代・培養したヒトES細胞(H1、H9)又はヒトiPS細胞(253G1)1x106細胞を、Materigel/DMEM-F12培地に懸濁し、免疫不全マウス(C.B-17/Icr-scid/scid Jcl、雌、6~8週齢、3匹)の皮下と腹膜の間に注入した。4~8週間後、腫瘍を切除し、固定・パラフィン包埋した後、切片標本をヘマトキシリン-エオシン染色した。結果を図17に示す。いずれのヒト多能性幹細胞についても、すべての胚葉に分化可能であることが確認された。
【実施例】
【0079】
実施例3 ファイバー・オン・ファイバー上で培養したヒト多能性幹細胞の凍結保存ファイバー・オン・ファイバー上で培養したヒト多能性幹細胞の凍結・解凍
ファイバー・オン・ファイバー上で培養したヒト多能性幹細胞を、ピンセットを用いてその形を変えてチューブに挿入し凍結した(図18)。凍結前、解凍4日後の当該細胞の形態を図19に示す。凍結及び解凍を行っても当該細胞はコロニーを形成することが確認された。
【実施例】
【0080】
フローサイトメトリーによる凍結・解凍後の多能性幹細胞マーカーの定量的発現量解析
市販の細胞凍結保存液(セルバンカー3、mFreSR)にファイバー・オン・ファイバー上で培養したヒトES細胞(H1)を入れ、2日間凍結後解凍した細胞における多能性幹細胞マーカー(SSEA4、TRA-1-60)及び分化マーカー(SSEA1)の発現を、フローサイトメトリーを用いて解析した。結果を図20に示す。ファイバー・オン・ファイバー上で培養したヒトES細胞(H1)の大半でSSEA4、TRA-1-60が強く発現していたのに対し、SSEA1を発現している細胞を確認することはほぼなかった。
【実施例】
【0081】
免疫細胞染色法による凍結・解凍後の多能性幹細胞マーカー発現の確認
ファイバー・オン・ファイバー上で培養したヒトES細胞(H1)を、3日間凍結後、解凍した当該細胞をアルカリフォスファターゼ染色した。結果を図21に示す。凍結及び解凍を行っても未分化マーカーを強く発現していることが確認された。
【実施例】
【0082】
ファイバー・オン・ファイバー上で培養したヒト多能性幹細胞の凍結・解凍後の細胞数
細胞凍結保存液(セルバンカー3、mFreSR)にファイバー・オン・ファイバー上で培養したヒトES細胞(H1)を入れ、2日以上凍結後解凍し、細胞数を測定した。結果を図22に示す。いずれの細胞凍結保存液を用いても、約75%(セルバンカー3)、約85%(mFreSR)の高生存率を示した。
【実施例】
【0083】
実施例4 ファイバー・オン・ファイバーを用いたヒトES細胞の大量培養
mTeSR-1培養液55 mLを含むガス透過性の細胞培養バッグ(ニプロ製;図23A)中に、ファイバー・オン・ファイバー上で培養したヒトES細胞(H1)1.2x106細胞を封入し、5% CO2、37℃で7日間培養した。培養期間中、2回培地交換を行った。培養終了後に細胞数を測定したところ、9.55x107細胞/55 mL(=3.47x109細胞/L)であり、7日間で細胞数は79.6倍に増加した。大量培養後の細胞における多能性幹細胞マーカー(SSEA4)及び分化マーカー(SSEA1)の発現を、フローサイトメトリーを用いて解析した。結果を図23Bに示す。99.7%の細胞がSSEA4を強く発現していることを確認することできた。一方、SSEA1を発現している細胞はほとんど確認できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0084】
細胞を継続培養して増殖生産できる効率速度としては、今回の発明では5日間毎に10倍の生産速度に到達している。この効率速度は、既報のヒト多能性幹細胞の分散培養における5倍程度などに比較して格段に優れている。また従来の実験室レベルで複雑な手作業による接着培養方法(4日毎に4倍程度、または3日毎に3倍程度)に比較しても、優れた増殖速度である。今回開発したファイバー・オン・ファイバーの手法は、3次元細胞培養化することによって、培地中における単位体積当りの細胞数を増加することができる方法であり、ヒト多能性幹細胞の大量培養実用化への道となる。さらに、支持体として生体適合性の高いポリマーを用いるので、細胞移植治療への応用も拓くことができる。
【0085】
本発明を好ましい態様を強調して説明してきたが、好ましい態様が変更され得ることは当業者にとって自明であろう。例えば、3次元培養が可能であり、省スペース化を実現しつつ細胞の大量供給が可能となること、培養液の浸漬により培養液が浸透して、細胞への培養液の供給が容易になること等の本発明の培養基材の特徴は、多能性幹細胞をはじめとする幹細胞の維持増幅培養のみならず、任意の細胞のあらゆる培養に有利な効果をもたらすものである。よって、本発明は、本発明が本明細書に詳細に記載された以外の方法で実施され得ることを意図する。即ち、本発明は添付の「請求の範囲」の精神及び範囲に包含されるすべての変更を含むものである。
【0086】
ここで述べられた特許及び特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、ここに引用されたことによって、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。
【0087】
本出願は、2013年6月3日付で日本国に出願された特願2013-117242を基礎としており、ここで言及することにより、その内容はすべて本明細書に包含される。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13
【図15】
14
【図16】
15
【図17】
16
【図18】
17
【図19】
18
【図20】
19
【図21】
20
【図22】
21
【図23】
22