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明細書 :中性子による長寿命核分裂生成物の処理方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2017-198622 (P2017-198622A)
公開日 平成29年11月2日(2017.11.2)
発明の名称または考案の名称 中性子による長寿命核分裂生成物の処理方法
国際特許分類 G21F   9/00        (2006.01)
H05H   3/06        (2006.01)
H05H   6/00        (2006.01)
G21K   5/02        (2006.01)
FI G21F 9/00 N
H05H 3/06
H05H 6/00
G21K 5/02 N
請求項の数または発明の数 5
出願形態 OL
全頁数 11
出願番号 特願2016-091774 (P2016-091774)
出願日 平成28年4月28日(2016.4.28)
発明者または考案者 【氏名】森 義治
出願人 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100147485、【弁理士】、【氏名又は名称】杉村 憲司
【識別番号】100167623、【弁理士】、【氏名又は名称】塚中 哲雄
【識別番号】100165696、【弁理士】、【氏名又は名称】川原 敬祐
審査請求 未請求
テーマコード 2G085
Fターム 2G085AA20
2G085BA15
2G085BA17
2G085DA03
2G085EA09
要約 【課題】高速炉や加速器駆動原子炉を用いることなく、加速器単体で高強度の中性子を発生させて、効率的に長寿命核分裂生成物に原子核変換を施すことが可能な、中性子による長寿命核分裂生成物の処理方法を提供する。
【解決手段】重陽子等の中性子を含む一次粒子をFFAG加速器10内で所定条件下で加速させ、板状ターゲット18に衝突させることで、一次粒子のブレークアップにより高エネルギーで一方向にビームを形成する第一の中性子と、板状ターゲット中の原子核の励起により低エネルギーで拡散する第二の中性子が生じる。そこで、第一の中性子のビームの進行方向に第一のLLFP20を配置し、板状ターゲット18の近傍に第二のLLFP24を配置する。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
複数のセクターマグネット及び少なくとも一つの高周波加速装置をリング状に配置してなるFFAG加速器内に、中性子を含む一次粒子を導入する工程と、
前記FFAG加速器における磁場勾配係数kを下記の式(1)に設定しつつ、高周波電場の周波数を固定した条件下で、磁場と電場の作用で前記一次粒子を前記FFAG加速器内で周回させつつ高エネルギーに加速する工程と、
前記FFAG加速器内に配置した板状ターゲットに、加速した前記一次粒子を衝突させて、前記一次粒子のブレークアップにより高エネルギーの第一の中性子が生じ、前記板状ターゲット中の原子核の励起により低エネルギーの第二の中性子が生じる工程と、
前記第一の中性子が、前記一次粒子の前記板状ターゲットへの入射経路の延長方向にビームを形成し、当該ビームの進行方向に配置した第一の長寿命核分裂生成物に衝突して、該第一の長寿命核分裂生成物に原子核変換を施し、
前記第二の中性子が、前記板状ターゲットの周囲に拡がり、前記板状ターゲットの近傍に配置した第二の長寿命核分裂生成物に原子核変換を施す工程と、
を有することを特徴とする、中性子による長寿命核分裂生成物の処理方法。

【数1】
JP2017198622A_000005t.gif
ここで、Tは前記一次粒子が貯蔵ビームを形成する段階での前記一次粒子の運動エネルギーであり、Mは前記一次粒子の静止質量エネルギーである。
【請求項2】
前記一次粒子が、重水素の原子核又は三重水素の原子核である、請求項1に記載の長寿命核分裂生成物の処理方法。
【請求項3】
前記板状ターゲットに衝突する際の前記一次粒子の核子当たりのエネルギーが50MeV/核子以上であり、前記板状ターゲットの厚さが1mm以上である、請求項1又は2に記載の長寿命核分裂生成物の処理方法。
【請求項4】
前記第一の中性子のビームの先に、前記第一の長寿命核分裂生成物に替えて、第二のターゲットを配置し、
該第二のターゲットに前記ビームを衝突させて負パイ中間子を発生させ、
前記第一の長寿命核分裂生成物を前記第二のターゲットの近傍に配置して、
前記負パイ中間子が崩壊してなる負ミュオンが、前記第一の長寿命核分裂生成物に原子核変換を施す、請求項1~3のいずれか一項に記載の長寿命核分裂生成物の処理方法。
【請求項5】
前記第一の中性子のビームの先に、前記第一の長寿命核分裂生成物に替えて、第一空間中に置かれた第二のターゲットを配置し、
該第二のターゲットに前記ビームを衝突させて負パイ中間子を発生させ、
前記第二のターゲットが配置された前記第一空間に隣接して、重水素-三重水素分子(DT分子)のガスを充填した第二空間を形成し、該第二空間の周囲に閉じ込め磁場を形成し、
前記負パイ中間子が、前記閉じ込め磁場の作用で前記第一空間から前記第二空間に移動し、
前記第二空間にて、前記負パイ中間子が崩壊してなる負ミュオンが核融合反応を起こして第三の中性子が発生し、
前記第一の長寿命核分裂生成物を前記第二のターゲットの近傍に配置して、
前記第三の中性子が前記第一の長寿命核分裂生成物に原子核変換を施す、請求項1~3のいずれか一項に記載の長寿命核分裂生成物の処理方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、加速器を用いて発生させた中性子による長寿命核分裂生成物の処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
原子炉の運転に伴い排出される長寿命核分裂生成物(LLFP:Long-Lived Fission Product)の処理問題は、原子力利用の最大の問題である。現状では地層処分による埋設処理が想定されているが、大きな反対がある。また、高速炉や加速器駆動原子炉による核分裂によって生成した中性子を利用して、原子核変換によりLLFPを放射能的に無害化する技術も知られている。
【0003】
ここで、加速器で高エネルギーに加速した陽子等の一次粒子を固定原子核ターゲットに衝突させて生成した中性子や負ミュオン等の二次粒子を用いて、原子核変換によりLLFPを放射能的に無害化し、さらに資源として再利用することは、原理的には可能である。これを実現するためには、従来にない高強度でかつ高効率に中性子を生成させると同時に、生成した中性子を局在化させることが極めて重要である。しかしながら従来、高強度の中性子を局在化して生成可能な、加速器を含む中性子発生システムは開発されておらず、そのため、高速炉や加速器駆動原子炉を用いることなく、加速器単体でLLFPの処理をする技術は存在しなかった。
【0004】
例えば、線形加速器から加速された一次粒子のビームを取り出して、これを固定原子核ターゲットに当てて中性子を発生する方法がある。しかし、この方法では、ビーム入射方向の長さが1m以上という長大なターゲットが必要であり、中性子生成部を局在化することができない。そのため、この方法ではLLFPを効率良く原子核変換処理することが困難であった。
【0005】
また、特許文献1には、リング状FFAG(Fixed Field Alternating Gradient)加速器内で、磁場と電場の作用で陽子又は重陽子である一次粒子を周回させつつ加速して、このFFAG加速器内に配置した板状ターゲットに、加速した一次粒子を衝突させて、原子核反応により中性子を発生させる技術が記載されている。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開2006-155906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、加速された一次粒子のエネルギーが2.5~10MeVと小さいため、高強度の中性子を生成することができず、しかも、生成した中性子は板状ターゲットの周囲に大きな放出角で拡がる。つまり、高強度の中性子を局在化して生成することはできなかった。なお、特許文献1の図1では、板状ターゲットの周囲に広がった中性子のうち、ある一方向に進行する中性子を破線矢印で図示し、この中性子を重水槽に通して熱中性子又は熱外中性子を得ることを記載している。
【0008】
本発明は上記課題に鑑み、高速炉や加速器駆動原子炉を用いることなく、加速器単体で高強度の中性子を発生させて、効率的に長寿命核分裂生成物(LLFP)に原子核変換を施すことが可能な、中性子による長寿命核分裂生成物の処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討したところ以下の知見を得た。すなわち、FFAG加速器において磁場勾配係数kを所定の値に設定することによって、従来の10倍以上の50MeV/核子以上(すなわち、一次粒子が重陽子の場合100MeV以上)という高エネルギーに一次粒子を加速できることがわかった。そして、FFAG加速器内で加速させる一次粒子として、重陽子等の、中性子を含む一次粒子を用いて、これを上記の高エネルギーで板状ターゲットに衝突させると、一次粒子自身が中性子と陽子に分離する反応(ブレークアップ)と、板状ターゲット中の原子核が励起して中性子生成を起こす反応という、二種類の原子核反応が生じることがわかった。
【0010】
しかも、前者の反応で発生した中性子は、その速度が一次粒子とほぼ等しく、従ってエネルギーはほぼ単一(単色)で、一次粒子が重陽子であればその1/2の高エネルギーの中性子ビームが生成された。しかも、その中性子ビームの放出方向は、ほぼ前方(一次粒子のターゲットへの入射経路の延長方向)に集中した。また、後者の反応で発生した中性子は、ターゲット中の原子核からの生成であるので、低エネルギーまで分布し、放出角分布もターゲットの周りに大きく拡がった。このようにして、合計で1×1018~1×1019n/secという、LLFPの効率的な原子核変換にも十分な高強度の中性子を高エネルギー成分と低エネルギー成分に分離して、それぞれ局在化して生成することができた。なお、二種類の中性子の強度比は、概ね1:1であった。
【0011】
そこで、高エネルギーの中性子ビームの進行方向(前方、リングから離れた場所)には第一のLLFPを配置して、高エネルギーの中性子ビームで第一のLLFPに原子核変換を施し、板状ターゲットの近傍には第二のLLFPを配置して、低エネルギーの中性子で第二のLLFPに原子核変換を施すことを、本発明者は着想した。その結果、効率的にLLFPに原子核変換を施すことが可能となった。
【0012】
また、指向性の高い高エネルギーの中性子ビームを生成することができたので、これを直接的にLLFPの原子核変換に利用するのみならず、さらなる応用技術も実現できた。すなわち、中性子ビームの先に第二のターゲットを配置すれば、高エネルギーの中性子が第二のターゲットに衝突することで負パイ中間子が発生する。この負パイ中間子は崩壊して負ミュオンになる。この負ミュオンも、LLFPに原子核変換を施すのに非常に有効である。
【0013】
それに替えて、あるいはそれに加えて、この負ミュオンを重水素-三重水素分子(DT分子)に入れることで、核融合反応を起こすことができる。その結果、1つの負ミュオン当たり125~150個という大量の中性子が発生する。この大量の中性子でLLFPに原子核変換を施すことも非常に有効である。
【0014】
なお、特許文献1の技術において、加速する一次粒子として陽子を用いた場合には、そもそも一次粒子のブレークアップ反応は生じない。また、加速する一次粒子として重陽子を用いた場合にも、加速エネルギーが2.5~10MeVと小さいため、やはり一次粒子のブレークアップ反応は生じない。このため、特許文献1の技術では、中性子の強度は高々1×1012~1×1013n/secであり、指向性の高い高エネルギーの中性子ビームを生成することができないのである。
【0015】
本発明は上記の知見に基づいて完成されたものであり、その要旨構成は以下のとおりである。
(1)複数のセクターマグネット及び少なくとも一つの高周波加速装置をリング状に配置してなるFFAG加速器内に、中性子を含む一次粒子を導入する工程と、
前記FFAG加速器における磁場勾配係数kを下記の式(1)に設定しつつ、高周波電場の周波数を固定した条件下で、磁場と電場の作用で前記一次粒子を前記FFAG加速器内で周回させつつ高エネルギーに加速する工程と、
前記FFAG加速器内に配置した板状ターゲットに、加速した前記一次粒子を衝突させて、前記一次粒子のブレークアップにより高エネルギーの第一の中性子が生じ、前記板状ターゲット中の原子核の励起により低エネルギーの第二の中性子が生じる工程と、
前記第一の中性子が、前記一次粒子の前記板状ターゲットへの入射経路の延長方向にビームを形成し、当該ビームの進行方向に配置した第一の長寿命核分裂生成物に衝突して、該第一の長寿命核分裂生成物に原子核変換を施し、
前記第二の中性子が、前記板状ターゲットの周囲に拡がり、前記板状ターゲットの近傍に配置した第二の長寿命核分裂生成物に原子核変換を施す工程と、
を有することを特徴とする、中性子による長寿命核分裂生成物の処理方法。

【数1】
JP2017198622A_000003t.gif
ここで、Tは前記一次粒子が貯蔵ビームを形成する段階での前記一次粒子の運動エネルギーであり、Mは前記一次粒子の静止質量エネルギーである。
【0016】
(2)前記一次粒子が、重水素の原子核又は三重水素の原子核である、上記(1)に記載の長寿命核分裂生成物の処理方法。
【0017】
(3)前記板状ターゲットに衝突する際の前記一次粒子の核子当たりのエネルギーが50MeV/核子以上であり、前記板状ターゲットの厚さが1mm以上である、上記(1)又は(2)に記載の長寿命核分裂生成物の処理方法。
【0018】
(4)前記第一の中性子のビームの先に、前記第一の長寿命核分裂生成物に替えて、第二のターゲットを配置し、
該第二のターゲットに前記ビームを衝突させて負パイ中間子を発生させ、
前記第一の長寿命核分裂生成物を前記第二のターゲットの近傍に配置して、
前記負パイ中間子が崩壊してなる負ミュオンが、前記第一の長寿命核分裂生成物に原子核変換を施す、上記(1)~(3)のいずれか一項に記載の長寿命核分裂生成物の処理方法。
【0019】
(5)前記第一の中性子のビームの先に、前記第一の長寿命核分裂生成物に替えて、第一空間中に置かれた第二のターゲットを配置し、
該第二のターゲットに前記ビームを衝突させて負パイ中間子を発生させ、
前記第二のターゲットが配置された前記第一空間に隣接して、重水素-三重水素分子(DT分子)のガスを充填した第二空間を形成し、該第二空間の周囲に閉じ込め磁場を形成し、
前記負パイ中間子が、前記閉じ込め磁場の作用で前記第一空間から前記第二空間に移動し、
前記第二空間にて、前記負パイ中間子が崩壊してなる負ミュオンが核融合反応を起こして第三の中性子が発生し、
前記第一の長寿命核分裂生成物を前記第二のターゲットの近傍に配置して、
前記第三の中性子が前記第一の長寿命核分裂生成物に原子核変換を施す、上記(1)~(3)のいずれか一項に記載の長寿命核分裂生成物の処理方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明の中性子による長寿命核分裂生成物の処理方法によれば、高速炉や加速器駆動原子炉を用いることなく、加速器単体で高強度の中性子を発生させて、効率的に長寿命核分裂生成物に原子核変換を施すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】上段は、本発明の一実施形態による長寿命核分裂生成物の処理方法を実現する中性子生成システムの構成を示す概略図であり、下段は、板状ターゲット18における原子核反応の態様を示す模式図である。
【図2】本発明の他の実施形態による長寿命核分裂生成物の処理方法を実現する中性子生成システムの構成を示す概略図である。
【図3】本発明のさらに他の実施形態による長寿命核分裂生成物の処理方法を実現する中性子生成システムの構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(第一の実施形態)
図1を参照して、本発明の一実施形態による長寿命核分裂生成物(LLFP)の処理方法を説明する。図1に示す中性子生成システムは、FFAG加速器10と、一次ビーム源16と、板状ターゲット18とを有する。FFAG加速器10は、複数のセクターマグネット12及び少なくとも一つ(図1では二つ)の高周波加速装置14をリング状に配置してなる。

【0023】
このFFAG加速器10内に、一次ビーム源16から、中性子を含む一次粒子を導入する。一次粒子としては、中性子を含むものであれば特に限定されないが、重水素の原子核(すなわち重陽子)又は三重水素(トリチウム)の原子核とすることが好ましい。これらは板状ターゲット18と衝突することにより、既述のブレークアップ反応を生じさせやすいからである。一次粒子の導入時の核子当たりのエネルギーは、後述する、板状ターゲット18に衝突する際の一次粒子の核子当たりのエネルギーの1/4~1/2が好ましい。1/4以上であれば、高周波加速装置14で要する電力が過大となることがなく、1/2以下であれば、一次ビーム源16の負担(コスト、使用電力)が過大となることがない。

【0024】
また、一次粒子のビーム電流は、中性子の強度を十分に確保する観点から、100mA以上とすることが好ましい。

【0025】
導入された一次粒子は、FFAG加速器10内を磁場と電場の作用により周回しつつ、高エネルギーに加速される。このとき、一次粒子が加速されるということは、ビーム速度及び周回軌道長の変化によって、周回ごとに周回時間が変化することを意味する。そのため、一般的には高周波加速装置14からの高周波電波の周波数を一定にしては、加速は実現できないと考えられる。しかしながら、本実施形態では、FFAG加速器10における磁場勾配係数k(k = (R/B)×(dB/dR)、R:ビーム軌道半径、B:軌道上の磁場強度)を下記の式(1)に設定する。

【数2】
JP2017198622A_000004t.gif
ここで、Tは一次粒子が貯蔵ビームを形成する段階での一次粒子の運動エネルギーであり、Mは一次粒子の静止質量エネルギーである。

【0026】
この条件のもとでは周回時間に対してビームエネルギーが緩やかに畝るように変化するので、この一次粒子の加速態様は、蛇行加速(Serpentine acceleration)ともよばれる。本実施形態では、これにより、高周波加速装置14からの高周波電場の周波数を一定の値に固定しても、一次粒子を高エネルギーに加速できる。しかも、特許文献1の技術では実現できなかったような高エネルギーにまで、一次粒子を加速できる。例えば、一次粒子の導入時の核子当たりのエネルギーが上記の場合、板状ターゲット18に衝突する際の一次粒子の核子当たりのエネルギーは50MeV/核子以上、さらには1000MeV/核子程度にすることができる。すなわち、一次粒子が重陽子の場合には、一次粒子の全運動エネルギーは100MeV以上、さらには2000MeV程度にすることができる。板状ターゲット18に衝突する際の一次粒子の核子当たりのエネルギーが50MeV/核子以上になることで、一次粒子のブレークアップにより高エネルギーの第一の中性子を効率良く生成でき、1000MeV/核子以下であれば、中性子とは別に生成した負ミュオンのエネルギーが高くなりすぎることがない。なお、電場の周波数は概ね数MHz以上数10MHz以下となるが、特に限定されることはなく、さらに高い周波数にしてもよい。

【0027】
このようにして、磁場勾配係数kを上記のように設定しつつ、高周波電場の周波数を固定した条件下で、磁場と電場の作用で一次粒子をFFAG加速器10内で周回させつつ高エネルギーに加速する。そして、FFAG加速器10内に配置した板状ターゲット18に、加速した一次粒子を衝突させる。

【0028】
板状ターゲット18は、一般的な原子核ターゲットとすればよく、例えばベリリウム、リチウム、及びこれらの化合物などから選択した材料で構成することができる。また、板状ターゲット18の主面の形状は特に限定されないが、例えば楔形とすることができる。板状ターゲット18の厚さは、衝突時の一次粒子の核子当たりのエネルギーに応じて選定することが好ましく、50MeV/核子の場合に1~2mm程度、100MeV/核子の場合には2~5mm程度とすることが好ましく、上記上限値として想定される1000MeV/核子の場合には10~50mm程度とすることが好ましい。

【0029】
上記のような高エネルギーで加速した一次粒子のビームを板状ターゲット18に衝突させると、一次粒子のブレークアップにより高エネルギーの第一の中性子が生じ、それとともに、板状ターゲット18中の原子核の励起により低エネルギーの第二の中性子が生じる。

【0030】
第一の中性子は、高エネルギーなので、一次粒子の板状ターゲット18への入射経路の延長方向に指向性の高いビームを形成する。しかも、ターゲットが薄い板状であるため、生成した第一の中性子はターゲット内の原子核と殆ど衝突せず、したがって、単一(単色)のエネルギーを持った中性子ビームとなる。例えば、衝突時の一次粒子のエネルギーが200MeVで、一次粒子が重陽子の場合、その1/2の100MeV程度の高エネルギーの中性子ビームが形成される。つまり、核子当たりエネルギーで標記すれば、板状ターゲット18に衝突する際の一次粒子のエネルギーと同等のエネルギーの中性子ビームが形成される。

【0031】
他方で、第二の中性子は、板状ターゲット18中の原子核からの生成であるので、低エネルギーまで分布し、板状ターゲット18の周りに大きく拡がる。例えば、衝突時の一次粒子のエネルギーが200MeVで、一次粒子が重陽子の場合、第二の中性子のエネルギーは平均で数MeV~30MeV程度となる。

【0032】
なお、板状ターゲット18に衝突してエネルギーを失い減速した一次粒子は、FFAG加速器10内で上記高エネルギーにまで再加速される。また、既述のように、一次粒子のエネルギーに見合ったターゲット厚みとすることにより、ターゲットでの電磁的エネルギー損失とビーム加速によるエネルギー増加が平衡するため、一次粒子のビームを一定エネルギーで貯蔵することが可能となり、当該一次粒子ビームがくり返し多数回(100回程度)ターゲットに衝突する過程で連続的に中性子が生成される。すなわち、ある1つの一次粒子が1回の衝突でブレークアップ反応を生じる確率は低いが、くり返し衝突することによって、ある1つの一次粒子がブレークアップ反応を生じる可能性は高まる。換言すると、1回の衝突でブレークアップ反応が生じる一次粒子は、衝突する全一次粒子のうちごく一部であり、大部分の一次粒子は衝突によりエネルギーを失うものの壊れずに周回を続ける。しかし、この一次粒子を再び加速してターゲットに衝突させることにより、最大の効率で第一の中性子を発生させることができる。また、一次粒子がくり返しターゲットに衝突するたびに、低エネルギーの第二の中性子は生成することになる。一次粒子を一次ビーム源16から連続的に供給すれば、上記のメカニズムで、第一の中性子及び第二の中性子ともに、連続的に生成することができる。

【0033】
本実施形態では、このようにして、合計で1×1018~1×1019n/secという、LLFPの効率的な原子核変換にも十分な高強度の中性子を高エネルギー成分と低エネルギー成分に分離して、それぞれ局在化して生成することができた。そこで、図1に示すように、第一の中性子が形成するビームの進行方向に第一のLLFP20を配置し、板状ターゲット18の近傍に第二のLLFP24を配置する。すると、第一の中性子が形成するビームは、第一のLLFP20に衝突して原子核変換を施し、第二の中性子は、第二のLLFP24に原子核変換を施す。このようなLLFP処理システムによって、効率的にLLFPに原子核変換を施して、放射能を出さない安定な物質に変換することが可能となった。

【0034】
第一のLLFP20の周囲には遮蔽板22を配置し、第二のLLFP24の周囲には遮蔽板26を配置する。これら遮蔽板22,26は、原子核変換に伴い発生するγ線等の放射線を遮蔽するものであれば、公知又は任意の材質からなるものとすればよい。本実施形態では、中性子の発生を局在化できた結果、LLFPの配置もコンパクトにでき、放射線遮蔽もコンパクトに行える利点を有する。

【0035】
(第二の実施形態)
図2を参照して、本発明の他の実施形態による長寿命核分裂生成物(LLFP)の処理方法を説明する。

【0036】
FFAG加速器10によって高エネルギーの第一の中性子と低エネルギーの第二の中性子を生成する構成は、図1に示す第一の実施形態と同じであるため、説明を省略する。本実施形態では、図2に示すように、第一の中性子のビームの先に、第一のLLFP20ではなく、真空又は大気の第一空間32中に置かれた第二のターゲット36を配置し、この第二のターゲット36に第一の中性子のビームを衝突させる。

【0037】
第二のターゲット36付近の構成を説明する。筐体28内は、隔壁30によって第一空間32と第二空間34に区画されている。第一空間32は真空又は大気とし、その中に第二のターゲット36を配置する。第二空間34には、後述の生成する負ミュオンを減速するための物質(グラファイト等、図示せず)を設置する。筐体28の周囲には、閉じ込め磁場を発生するためのソレノイドコイル38を配置する。そして、第二のターゲットの近傍、より厳密には筐体28及び閉じ込め磁場の外側に、本実施形態では筐体28の周囲に、第一のLLFP20を配置する。

【0038】
筐体28及び隔壁30の材質は、上記のように第一空間32と第二空間34とを区画できれば特に限定されず、例えば、厚さ数mm程度の鉄板や鋼板を挙げることができる。第二のターゲット36は、一般的な原子核ターゲットとすればよく、例えばベリリウム、リチウム、及びこれらの化合物などから選択した材料で構成することができる。また、閉じ込め磁場を発生できるものであればソレノイドコイル38に限定されず、トーラス型、ヘリカル型等にしてもよい。なお、ソレノイドコイル38は、後述の生成する負パイ中間子を第二空間34に滞留する時間を増やして、負パイ中間子を効率的に負ミュオンに変換する役割を果たす。

【0039】
中性子ビームのエネルギーが300MeV以上の場合、第二のターゲット36に中性子ビームが衝突すると、負パイ中間子(π-)が発生する。ここで、第二のターゲット36は、中性子ビームの進行方向の厚さを10~100mmの範囲として、複数個(好適には10~100個)配置して、合計の厚さを1m程度とすることが好ましい。厚さ1mの単一ターゲットを用いると、発生した負パイ中間子がターゲット内でパイ中間子(π0)に変化してしまうため、分割した複数のターゲットとするのである。

【0040】
本実施形態では、1つの中性子当たり0.2個の負パイ中間子が発生し、負パイ中間子は2.6×10-8秒の寿命で崩壊して負ミュオン(μ-)となる。例えば、第一の実施形態で第一及び第二の中性子の合計強度が上記1×1018~1×1019n/secの場合、第一の中性子の強度はその半分の、5×1017~5×1018n/secとなるが、この場合、1×1017~1×1018個/secの強度の負ミュオンを得ることができる。この大量の負ミュオンが第一のLLFP20に原子核変換を施すことができる。なお、本実施形態で第一のLLFP20に衝突する負ミュオンの強度は、第一の実施形態で第一のLLFP20に衝突する第一の中性子の強度の1/5となるが、負ミュオンは中性子に比べて100倍近く核変換効率が高いため、本実施形態では第一の実施形態よりも高い効率(20倍)でLLFPに原子核変換を施すことができる。換言すると、本実施形態では、第一の中性子の強度を第一の実施形態よりも1/20程度としても、第一のLLFP20の処理効率は第一の実施形態と同等とすることができる。

【0041】
(第三の実施形態)
図3を参照して、本発明のさらに他の実施形態による長寿命核分裂生成物(LLFP)の処理方法を説明する。

【0042】
FFAG加速器10によって高エネルギーの第一の中性子と低エネルギーの第二の中性子を生成する構成は、図1に示す第一の実施形態と同じであるため、説明を省略する。また、本実施形態では、図2と同様に、第一の中性子のビームの先に、第一のLLFP20ではなく、真空又は大気の第一空間32中に置かれた第二のターゲット36を配置し、この第二のターゲット36に第一の中性子のビームを衝突させる。第二のターゲット36付近の構成に関して、本実施形態では第二空間34に10~100気圧の重水素-三重水素分子(DT分子)のガスを充填する以外は、図2と同様である。

【0043】
中性子ビームのエネルギーが300MeV以上の場合、第二のターゲット36に中性子ビームが衝突すると、負パイ中間子(π-)が発生する。負パイ中間子は、閉じ込め磁場の作用で第一空間32から第二空間34に移動し、その過程で、崩壊してなる負ミュオン(μ-)となる。負ミュオンは、重水素-三重水素分子(DT分子)に入ると核融合反応が起きる。その結果、DT分子が充填された第二空間34において、核融合反応によって1つの負ミュオン当たり125~150個という大量の中性子(第三の中性子)が発生する。第三の中性子の強度は、第一の中性子の強度の25~30倍となる。この大量の第三の中性子が第一のLLFP20に原子核変換を施すことができる。なお、第三の中性子のエネルギーは14MeV程度である。
反応式:μ- + DT → n + He +μ-

【0044】
本実施形態においても、第二空間34で核融合反応を起こさなかった負ミュオンが、第一のLLFP20に原子核変換を施すことができる。

【0045】
(負ミュオン触媒核融合による発電)
図3に示す第三の実施形態は、発電技術としても有用である。負ミュオン触媒核融合においては、1つの負ミュオンで約3GeVのエネルギーを生成する。これは、235Uの核分裂エネルギーの約15倍に相当する。そのため、このエネルギーを電力に変換する発電方法及び発電システムも、本発明を構成する。この電力で、例えば、本実施形態におけるLLFPの処理システムに必要な電力を賄うことができる。

【0046】
負ミュオン触媒核融合によって生じたエネルギーを電力に変換する発電機構は特に限定されず、公知又は任意の発電機構を用いることができる。例えば、図3において第一のLLFP20と同様に、第二のターゲット36の近傍にリチウムブランケット(図示せず)を配置して、第三の中性子のエネルギーをブランケット内で熱エネルギーに変換し、熱交換器(蒸気発生器)を通じて蒸気を発生させ、発電タービンを回して発電機を回転させ、発電することができる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の中性子による長寿命核分裂生成物の処理方法によれば、高速炉や加速器駆動原子炉を用いることなく、加速器単体で高強度の中性子を発生させて、効率的に長寿命核分裂生成物に原子核変換を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0048】
10 FFAG加速器
12 セクターマグネット
14 高周波加速装置
16 一次ビーム源
18 板状ターゲット
20 第一のLLFP
22 遮蔽板
24 第二のLLFP
26 遮蔽板
28 筐体
30 隔壁
32 第一空間(真空又は大気)
34 第二空間(DT分子充填)
36 第二のターゲット
38 ソレノイドコイル
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2