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明細書 :高密度リポタンパク質およびその細胞親和性ペプチドを融合した高密度リポタンパク質の点眼による後眼部薬物デリバリー

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6818264号 (P6818264)
登録日 令和3年1月5日(2021.1.5)
発行日 令和3年1月20日(2021.1.20)
発明の名称または考案の名称 高密度リポタンパク質およびその細胞親和性ペプチドを融合した高密度リポタンパク質の点眼による後眼部薬物デリバリー
国際特許分類 A61K  47/42        (2017.01)
A61K  47/24        (2006.01)
A61K   9/08        (2006.01)
A61K   9/127       (2006.01)
A61K   9/06        (2006.01)
A61K  31/506       (2006.01)
A61P  27/06        (2006.01)
A61P  27/02        (2006.01)
A61P  27/12        (2006.01)
A61P  27/10        (2006.01)
A61K  47/64        (2017.01)
A61K  47/22        (2006.01)
A61K  47/28        (2006.01)
A61K  45/00        (2006.01)
A61K  49/14        (2006.01)
A61K  49/18        (2006.01)
C07K  19/00        (2006.01)
C07K  14/47        (2006.01)
C07K  14/775       (2006.01)
FI A61K 47/42
A61K 47/24
A61K 9/08
A61K 9/127
A61K 9/06
A61K 31/506
A61P 27/06
A61P 27/02
A61P 27/12
A61P 27/10
A61K 47/64
A61K 47/22
A61K 47/28
A61K 45/00
A61K 49/14
A61K 49/18
C07K 19/00
C07K 14/47
C07K 14/775
請求項の数または発明の数 17
全頁数 25
出願番号 特願2016-566501 (P2016-566501)
出願日 平成27年12月25日(2015.12.25)
国際出願番号 PCT/JP2015/086203
国際公開番号 WO2016/104690
国際公開日 平成28年6月30日(2016.6.30)
優先権出願番号 2014263018
優先日 平成26年12月25日(2014.12.25)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成30年12月19日(2018.12.19)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
発明者または考案者 【氏名】須田 謙史
【氏名】村上 達也
【氏名】吉村 長久
【氏名】後藤 謙元
個別代理人の代理人 【識別番号】100100158、【弁理士】、【氏名又は名称】鮫島 睦
【識別番号】100126778、【弁理士】、【氏名又は名称】品川 永敏
【識別番号】100150500、【弁理士】、【氏名又は名称】森本 靖
審査官 【審査官】榎本 佳予子
参考文献・文献 特開2010-280570(JP,A)
WANG Y et al.,Apolipoprotein A-I Binds and Inhibits the Human Antibacterial/Cytotoxic Peptide LL-37,J Biol Chem,1998年12月11日,Vol.273, No.50,Page.33115-33118,ISSN 0021-9258, 特にRESULTS
WANG Y et al.,The antimicrobial peptide LL-37 binds to the human plasma protein apolipoprotein A-I,Rapid Commun Mass Spectrom,2004年,Vol.18, No.5,Page.588-589,ISSN 0951-4198, 全文
日薬理誌,2013年,Vol.141,p.220-221
膜(MEMBRANE),2003年,Vol.28, No.2,p.55-60
田原耕平ら,後眼部への薬物送達を目的とした生体適合性ナノ粒子点眼製剤の開発,大和証券ヘルス財団研究業績集,2013年 3月 1日,Vol.36,pp.73-76,要約等
廣中耕平ら,後眼部送達を目指したリポソーム点眼製剤の設計,日本薬学会年会要旨集,2008年 3月 5日,Vol.128, No.4,pp.112, ISSN 0918-9823,全文
KAUR Indu Pal and KAKKAR Shilpa,Nanotherapy for posterior eye disease,Journal of Controlled Release,2014年 5月24日,Vol.193,pp.100-112,Abstract, 2.Routes for Posterior Delivery
調査した分野 A61K 47/00-47/69
A61K 9/00- 9/72
A61K 31/00-33/44
A61K 45/00-45/08
A61K 49/00-49/22
A61P 1/00-43/00
C07K 14/47
C07K 14/775
C07K 19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
高密度リポタンパク質、および細胞親和性ペプチドからなる、細胞親和性ペプチド結合高密度リポタンパク質であって、
該細胞親和性ペプチドは、ペネトラチンまたはポリアルギニン(R8)である、該細胞親和性ペプチド結合高密度リポタンパク質。
【請求項2】
該高密度リポタンパク質が、アポリポタンパク質、並びにジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)およびジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)からなる群から選ばれる少なくとも1種のリン脂質からなる、
請求項1に記載の細胞親和性ペプチド結合高密度リポタンパク質。
【請求項3】
該細胞親和性ペプチドが、ペネトラチンである、請求項1または2のいずれかに記載の細胞親和性ペプチド結合高密度リポタンパク質。
【請求項4】
該アポリポタンパク質が、アポリポタンパク質A-I、アポリポタンパク質A-II、アポリポタンパク質C、アポリポタンパク質E、およびそれらの部分断片あるいは遺伝子改変型アポリポタンパク質からなる群から選ばれる、少なくとも1種である、請求項2または3のいずれかに記載の細胞親和性ペプチド結合高密度リポタンパク質。
【請求項5】
アポリポタンパク質A-Iおよびその遺伝子改変型アポリポタンパク質A-Iからなる群から選ばれるアポリポタンパク質、およびジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)からなる高密度リポタンパク質、および
ペネトラチン、
からなる、請求項1に記載の細胞親和性ペプチド結合高密度リポタンパク質。
【請求項6】
粒径が直径10~20nmである、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の細胞親和性ペプチド結合高密度リポタンパク質。
【請求項7】
該高密度リポタンパク質1分子あたり、1分子以上の蛍光標識物質、生体活性物質または薬物から選ばれる少なくとも1種類の化合物を更に含む、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の細胞親和性ペプチド結合高密度リポタンパク質を含有する複合体。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の細胞親和性ペプチド結合高密度リポタンパク質、該高密度リポタンパク質中に含まれる後眼部疾患の診断、予防または治療に有効な薬物、および医薬的に許容され得る添加剤を含む、後眼部疾患の診断、予防または治療のための医薬組成物。
【請求項9】
後眼部疾患が、加齢黄斑変性症、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、緑内障、網膜動静脈閉塞症、網膜変性疾患、変性近視、黄斑円孔、黄斑上膜、網膜剥離、白内障、硝子体混濁、およびぶどう膜炎からなる群から選ばれる少なくとも1種の疾患である、請求項8に記載の後眼部疾患の診断、予防または治療のための医薬組成物。
【請求項10】
i)アポリポタンパク質に細胞親和性ペプチドを結合させて、結合タンパク質を得る(ここで、該細胞親和性ペプチドは、ペネトラチンまたはポリアルギニン(R8)ある);
ii)a)上記i)で得られた結合タンパク質に、リン脂質、適宜、蛍光標識物質、生体活性物質または薬物から選ばれる少なくとも1種類の化合物を含むリポソームを混合することにより、細胞親和性ペプチドを結合した粗高密度リポタンパク質を製造する;あるいは、
b)得られたコール酸ミセル、および生体活性物質または薬物から選ばれる少なくとも1種類の化合物との混和により、細胞親和性ペプチドを結合した粗高密度リポタンパク質を製造する;
iii)超遠心法により、未反応のリポソーム、リン脂質ミセル、アポリポタンパク質を除去することによって、該細胞親和性ペプチドを結合した粗高密度リポタンパク質を精製する、
ことを含む、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の該細胞親和性ペプチド結合高密度リポタンパク質または請求項7に記載の複合体の製造方法。
【請求項11】
点眼用である、請求項8に記載の医薬組成物。
【請求項12】
該薬物が、眼内の脈絡膜新生血管の抑制のための薬剤、あるいは加齢黄斑変性、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、および網膜動静脈閉塞症からなる群から選ばれる疾患の診断、予防又は治療剤の少なくとも1種類の化合物である、加齢黄斑変性症、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、および網膜動静脈閉塞症からなる群から選ばれる少なくとも1種の後眼部疾患の診断、予防または治療のための請求項8または9のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項13】
該薬物がパゾパニブである、請求項8、9または12のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
アポリポタンパク質A-Iおよびその遺伝子改変型アポリポタンパク質A-Iからなる群から選ばれるアポリポタンパク質、およびジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)からなる高密度リポタンパク質、およびペネトラチンからなる細胞親和性ペプチド結合高密度リポタンパク質、
パゾパニブ、および
医薬的に許容され得る添加剤を含む、
後眼部疾患の診断、予防または治療のための点眼用医薬組成物。
【請求項15】
後眼部疾患が、加齢黄斑変性症、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、または網膜動静脈閉塞症からなる群から選ばれる少なくとも1種の疾患である、請求項14に記載の後眼部疾患の診断、予防または治療のための点眼用医薬組成物。
【請求項16】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の細胞親和性ペプチド結合高密度リポタンパク質を含む、後眼部薬物デリバリー用キャリア。
【請求項17】
アポリポタンパク質A-Iおよびその遺伝子改変型アポリポタンパク質A-Iからなる群から選ばれるアポリポタンパク質、およびジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)からなる高密度リポタンパク質、およびペネトラチンからなる細胞親和性ペプチド結合高密度リポタンパク質を含む、請求項16に記載の点眼用の後眼部薬物デリバリー用キャリア。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、高密度リポタンパク質(High-density lipoprotein)(HDL)およびその細胞親和性ペプチドの複合体の点眼による後眼部薬物デリバリーに関する。より具体的には、後眼部への薬物デリバリー用キャリアとしての細胞親和性ペプチド結合高密度リポタンパク質、該高密度リポタンパク質に後眼部疾患の治療のための薬物を封入した医薬組成物、並びに該高密度リポタンパク質を用いた後眼部薬物デリバリーシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、加齢黄斑変性や糖尿病網膜症などの後眼部疾患に対して薬物の硝子体内注射が行われるようになってきている。このような侵襲的局所投与法は、直接薬物を眼内に注入するため確実な治療効果が期待できる反面、注射による眼内炎の危険性や注射を反復して行わないといけないという煩雑性が問題視されている。しかしながら、眼には外界から眼内への物質移行を制御するバリア機能が存在するため、点眼や経静脈投与などによる非侵襲的投与による、眼球内への薬物到達は容易でなく、特に、網膜等の後眼部への薬物送達効率は極めて低い。眼内ドラッグデリバリーの様々な投与経路を図1に示す。
【0003】
この問題点を打開すべく、薬物キャリアを用いたキャリアによる点眼用ドラッグデリバリーの開発が試みられている。中でも、生体ナノ材料は生体物質から構成されているためにキャリアに対する生体防御反応が起こりにくいと予想されること、またナノ物質の持つ動態特性により薬効持続時間の延長が期待されること等が利点として挙げられる。本発明では、主に血中で脂質輸送を担う生体ナノ材料である高密度リポタンパク質(HDL)に着目した。HDLの粒径はおよそ百ナノメートル(nm)未満と小さく、しかもタンパク質工学的手法により、細胞親和活性、血管内皮細胞集積性など、様々な機能をHDLに付与し得ることから、点眼による後眼部への薬物デリバリーキャリアとして適していると期待される。
【0004】
現在眼科領域に応用されている薬物キャリアとしては、後眼部到達用リポソームが知られている(特許文献1および2)。当該後眼部到達用リポソームでは、クマリン-6という蛍光色素をリポソームに内包させ、その蛍光強度を測定することで、後眼部へのドラッグデリバリーが確認されたことが知られている。
【0005】
一方で、該後眼部到達用リポソームでは、そのサイズが小さくなるごとに、後眼部へのリポソームの到達性が高まり、その結果薬剤の集積性も高まることが期待されると報告されており(非特許文献1)、点眼用ドラッグキャリアのサイズは20nm以下が望ましいことを示唆する報告もある(非特許文献2)。
しかしながら、一般に100nm未満のサイズのリポソームを作製できるという報告は少ない。従って、ドラッグデリバリーの効率を向上するのを目的に、ナノ材料のサイズをより小さくすることが期待できる新たな生体材料を開発することが求められている。
【0006】
親和性ペプチドを融合した高密度リポタンパク質(cHDL)は、悪性腫瘍細胞への抗癌剤細胞内デリバリーを目的としたものが、これまで知られているが(非特許文献3)、HDLを含め粒径100nm以下のリポタンパク質について、点眼剤としての薬物デリバリーを目的とするものは知られてはいない。
【0007】
高密度リポタンパク質(HDL)中に、細胞親和性ペプチドのような機能性ペプチドを融合することによって、融合された高密度リポタンパク質自体が新たな動態特性を獲得し、また融合する機能性ペプチド自体が有する生体活性を該ペプチドが含む高密度リポタンパク質(HDL)に付与することも期待し得る。
【先行技術文献】
【0008】

【特許文献1】国際公開第2009/107753号パンフレット
【特許文献2】特開2011-246464号公報
【0009】

【非特許文献1】廣中耕平 他著、J Controlled Release 2009; 136: 247-53
【非特許文献2】Kompella, U. B. 他著、Molecular Vision 2006; 12: 1185-1198
【非特許文献3】村上達也 他著、Nanomedicine (London, U. K.) 2010; 5: 867-79
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明者は高密度リポタンパク質(HDL)を鋭意研究した結果、HDL(例えば、再構成(つまり、人工)HDL(rHDL))は内包する化合物(例えば、薬物)を後眼部へ到達させることができ、機能性ペプチド、特に細胞親和性ペプチド(CP)を結合(例えば、融合)した、当該細胞親和性ペプチド(CP)結合高密度リポタンパク質(cHDL)は、さらにその到達量を増加させることができ、その結果、点眼による後眼部への薬物デリバリーのためのキャリアとして有用であることを見出した。よって、本発明は、内包する化合物(例えば、薬物)を後眼部へ到達させることができ、また細胞毒性を有しない、細胞親和性ペプチドを結合(例えば、融合)した高密度リポタンパク質(cHDL)およびその製造方法を提供する。また、本発明は、該細胞親和性ペプチド結合高密度リポタンパク質を用いた後眼部への薬物デリバリーシステム、該高密度リポタンパク質および薬物を含有する後眼部疾患の診断、予防または治療のための医薬組成物、並びに該薬物デリバリーシステムまたは該医薬組成物を用いる、後眼部疾患の診断、予防または治療のための方法をも提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の態様を提供するが、これに限定されるものではない。
【0012】
項[1] 後眼部薬物デリバリー用キャリアとしての高密度リポタンパク質。
項[2] 高密度リポタンパク質、および細胞親和性ペプチドからなる、後眼部薬物デリバリー用キャリアとしての細胞親和性ペプチド結合高密度リポタンパク質。
項[3] 該高密度リポタンパク質が、アポリポタンパク質、およびリン脂質を含む、項[1]記載の高密度リポタンパク質または項[2]記載の細胞親和性ペプチド結合高密度リポタンパク質。
項[4] 該細胞親和性ペプチドが細胞膜透過性ペプチドである、項[2]または[3]のいずれかに記載の該細胞親和性ペプチド結合高密度リポタンパク質。
項[4-1] 該細胞親和性ペプチドが塩基性細胞膜透過性ペプチドである、項[2]または[3]のいずれかに記載の該細胞親和性ペプチド結合高密度リポタンパク質。
項[5] 該細胞親和性ペプチドがアポリポタンパク質上で結合した結合タンパク質である、項[2]乃至[4]のいずれか1項に記載の該細胞親和性ペプチド結合高密度リポタンパク質。
項[6] 該アポリポタンパク質が、アポリポタンパク質A-I、アポリポタンパク質A-II、アポリポタンパク質C、アポリポタンパク質E、およびそれらの部分断片あるいは遺伝子改変型アポリポタンパク質からなる群から選ばれる、少なくとも1種である、項[1]記載の高密度リポタンパク質または項[2]乃至[5]のいずれか1項に記載の細胞親和性ペプチド結合高密度リポタンパク質。
項[6-1] 該アポリポタンパク質が、アポリポタンパク質A-I、およびその遺伝子改変型アポリポタンパク質A-Iからなる群から選ばれる、少なくとも1種である、項[1]記載の高密度リポタンパク質または項[2]乃至[5]のいずれか1項に記載の細胞親和性ペプチド結合高密度リポタンパク質。
項[7] 該細胞親和性ペプチドが、TATぺプチド、ペネトラチン、ポリアルギニン(R8)、ポリヒスチジン(H16)、LL-37、トランスポータン、Pep-1、およびMTSからなる群から選ばれる、少なくとも1種である、項[2]乃至[6]のいずれか1項に記載の該細胞親和性ペプチド結合高密度リポタンパク質。
項[8] 該リン脂質が、ホスファチジルコリンである、項[1]記載の高密度リポタンパク質または項[2]乃至[7]のいずれか1項に記載の細胞親和性ペプチド結合高密度リポタンパク質。
項[8-1] 該リン脂質が、炭素数が12~18の脂肪酸基のグリセロリン脂質である、項[1]記載の高密度リポタンパク質または項[2]乃至[7]のいずれか1項に記載の細胞親和性ペプチド結合高密度リポタンパク質。
項[9] 粒径が直径100nm未満である、項[1]記載の高密度リポタンパク質または[2]乃至[8]のいずれか1項に記載の細胞親和性ペプチド結合高密度リポタンパク質。
項[9-1] 粒径が直径10~20nmの範囲である、項[1]記載の高密度リポタンパク質または[2]乃至[8]のいずれか1項に記載の細胞親和性ペプチド結合高密度リポタンパク質。
項[10] 項[1]記載の該高密度リポタンパク質1分子あたり、1分子以上の蛍光標識物質、生体活性物質または薬物から選ばれる少なくとも1種類の化合物を更に含む、項[1]記載の高密度リポタンパク質または項[2]乃至[9]のいずれか1項に記載の細胞親和性ペプチド結合高密度リポタンパク質を含有する複合体。
項[11] 点眼用である、項[1]記載の高密度リポタンパク質、項[2]乃至[9]のいずれか1項に記載の細胞親和性ペプチド結合高密度リポタンパク質、または項[10]記載の複合体。
【0013】
項[12] 項[1]記載の高密度リポタンパク質または項[2]乃至[9]のいずれか1項に記載の細胞親和性ペプチド結合高密度リポタンパク質、および後眼部疾患の診断、予防または治療に有効な薬物を含む、後眼部薬物デリバリーシステム。
項[13] 項[1]記載の高密度リポタンパク質または項[2]乃至[9]のいずれか1項に記載の細胞親和性ペプチド結合高密度リポタンパク質、該高密度リポタンパク質中に含まれる後眼部疾患の診断、予防または治療に有効な薬物、および医薬的に許容され得る添加剤を含む、後眼部疾患の診断、予防または治療のための医薬組成物。
項[14] 項[12]記載の後眼部薬物デリバリーシステムまたは項[13]記載の医薬組成物を用いる、後眼部疾患の診断、または治療のための方法。
項[15] 後眼部疾患が、加齢黄斑変性症、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、緑内障、網膜動静脈閉塞症、網膜変性疾患、変性近視、黄斑円孔、黄斑上膜、網膜剥離、白内障、硝子体混濁、およびぶどう膜炎からなる群から選ばれる少なくとも1種の疾患である、項[12]記載の後眼部薬物デリバリーシステム、項[13]記載の後眼部疾患の診断、予防または治療のための医薬組成物、あるいは項[14]記載の後眼部疾患の診断、予防または治療のための方法。
項[15-1] 後眼部疾患が、加齢黄斑変性症、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、および網膜動静脈閉塞症からなる群から選ばれる少なくとも1種の疾患である、項[12]記載の後眼部薬物デリバリーシステム、項[13]記載の後眼部疾患の診断、予防または治療のための医薬組成物、あるいは項[14]記載の後眼部疾患の診断、予防または治療のための方法。
項[15-2] 点眼用である、項[12]記載の後眼部薬物デリバリーシステム、項[13]記載の後眼部疾患の診断、予防または治療のための医薬組成物、あるいは項[14]記載の後眼部疾患の診断、予防または治療のための方法。
【0014】
項[16] i)アポリポタンパク質に細胞親和性ペプチドを結合させて、結合タンパク質を得る;
ii)a)上記i)で得られた結合タンパク質に、リン脂質、適宜、蛍光標識物質、生体活性物質または薬物から選ばれる少なくとも1種類の化合物を含むリポソームを混合することにより、細胞親和性ペプチドを結合した粗高密度リポタンパク質を製造する;あるいは、
b)得られたコール酸ミセル、および生体活性物質または薬物から選ばれる少なくとも1種類の化合物との混和により、細胞親和性ペプチドを結合した粗高密度リポタンパク質を製造する;
iii)超遠心法により、未反応のリポソーム、リン脂質ミセル、アポリポタンパク質を除去することによって、該細胞親和性ペプチドを結合した粗高密度リポタンパク質を精製する、
ことを含む、項[2]乃至[9]のいずれか1項に記載の該細胞親和性ペプチド結合高密度リポタンパク質または項[10]記載の複合体の製造方法。
【0015】
項[17] 後眼部疾患の診断、予防または治療のための医薬の製造における、項[1]記載の高密度リポタンパク質、項[2]乃至[9]のいずれか1項に記載の該細胞親和性ペプチド結合高密度リポタンパク質、または項[13]記載の医薬組成物の使用。
項[18] 後眼部疾患の診断、予防または治療において使用するための、項[1]記載の高密度リポタンパク質、項[2]乃至[9]のいずれか1項に記載の該細胞親和性ペプチド結合高密度リポタンパク質、または項[13]記載の医薬組成物。
【0016】
項[19] a)アポリポタンパク質およびリン脂質を含む高密度リポタンパク質(HDL)
(ここで、
該アポリポタンパク質は、アポリポタンパク質A-Iおよびその遺伝子改変型アポリポタンパク質A-Iからなる群から選ばれる少なくとも1種であるアポリポタンパク質であり、そして
該リン脂質は、炭素数が12~18の脂肪酸基のグリセロリン脂質である);
b)塩基性細胞膜透過性ペプチドからなる群から選ばれる細胞親和性ペプチド(CPP);及び
c)適宜、蛍光標識物質、生体活性物質または薬物から選ばれる少なくとも1種類の化合物
を含む、
粒径が直径100nm未満(例えば、直径10~20nm)である細胞親和性ペプチド結合高密度リポタンパク質(cHDL)。
項[20] 1)a)アポリポタンパク質およびリン脂質を含む高密度リポタンパク質(HDL)
(ここで、
該アポリポタンパク質は、アポリポタンパク質A-Iおよびその遺伝子改変型アポリポタンパク質A-Iからなる群から選ばれる少なくとも1種であるアポリポタンパク質であり、そして
該リン脂質は、炭素数が12~18の脂肪酸基のグリセロリン脂質である);
b)塩基性細胞膜透過性ペプチドからなる群から選ばれる細胞親和性ペプチド;及び
c)適宜、眼内の血管新生血管(例えば、脈絡膜新生血管)の抑制のための薬剤、あるいは加齢黄斑変性、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、および網膜動静脈閉塞症からなる群から選ばれる疾患の診断、予防又は治療剤の少なくとも1種類の化合物を含む、
粒径が直径100nm未満(例えば、直径10~20nm)である、細胞親和性ペプチド結合高密度リポタンパク質(cHDL);及び、
2)医薬的に許容され得る添加剤、
を含む、加齢黄斑変性症、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、および網膜動静脈閉塞症からなる群から選ばれる少なくとも1種の疾患の診断、予防または治療のための医薬組成物。
【発明の効果】
【0017】
本発明の細胞親和性ペプチドを含む高密度リポタンパク質(cHDL)は、内包する化合物(薬物)を後眼部へ到達させることができ、結果としてその化合物の網膜細胞組織中での高い集積性を示す。また、本発明のcHDLは、細胞毒性を有しない。よって、本発明の細胞親和性ペプチドを結合(例えば、融合)した高密度リポタンパク質は、点眼による後眼部への薬物デリバリー用のキャリアとして有用である。また、これにより、本発明のcHDL中に後眼部疾患の診断、予防または治療のための薬物を封入することにより、該薬物を後眼部へ高い濃度で移行することができ、治療効果の向上および薬物の副作用の軽減が達成できる。例えば、血管新生の抑制における顕著な効果が達成できる。また、点眼による非侵襲的局所投与が可能となることから、侵襲的局所時に伴う眼内炎等の副作用の危険性の低下、或いは注射を反復して行わないといけないなどの煩雑性をも軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、眼内ドラッグデリバリーの様々な投与経路を模式的に示す図面である。該模式図は、Progress in Retinal and Eye Research 2013, 36: 172-198に記載されている。
【図2】図2は、本発明の細胞親和性ペプチドを結合(例えば、融合)した高密度リポタンパク質(cHDL)の構造の例を模式的に示す図面である。
【図3】図3は、細胞毒性試験の結果を示す図面である。該図面中、cHDL、rHDLを、ネガティブコントロールとしてのHBSS/HEPES溶液、およびポジティブコントロールとしての塩化ベンザルコニウムと比較した結果を示す。
【図4】図4は、後眼部細胞組織への到達確認試験の結果を示す蛍光顕微鏡観察の結果を示す図面である。該図面中、点眼30分後のcHDLおよびバッファーを比較した結果を示す。
【図5】図5は、後眼部細胞組織への到達確認試験における蛍光強度の結果を数値化した図面である。該図面中、cHDL、rHDL、該ネガティブコントロールとしてのHBSS/HPES溶液、およびポジティブコントロールとしての小サイズのリポソームであるDSPC ssLip(submicron sized small uni-lamella vesicle)と比較した結果を示す。
【図6】図6は、後眼部薬物デリバリーシステムとしての血管新生モデル試験における、薬物を内包するcHDLの有無による点眼後の脈絡膜新生血管面積の抑制結果を示す図面である。該図面中、cHDL中に薬物としてのPazopanibが内包された場合と、内包されていないPazopanibのみの場合とを比較した結果を示す。
【図7】図7は、後眼部薬物デリバリーシステムとしての血管新生モデル試験における、cHDL中に内包される薬物の有無による点眼後の脈絡膜新生血管面積の抑制結果を示す図面である。該図面中、cHDL中に薬物としてのPazopanibが内包された場合と、内包されていないcHDLのみの場合とを比較した結果を示す。
【図8】図8は、リン脂質としてDMPC、DPPC、またはDSPCを使用した場合の各cHDLについて、後眼部細胞組織への到達確認試験の結果を示す蛍光顕微鏡観察の結果を示す図面である。該図面は、点眼30分後の、DMPC、DPPC、またはDSPCを使用した場合の各cHDLについて比較した結果を示す。
【図9】図9は、図8で得られた後眼部細胞組織への到達確認試験における蛍光強度の結果を数値化した図面である。該図面中、DMPC、DPPC、またはDSPCを使用した場合の各cHDLを比較した結果を示す。
【図10】図10は、細胞親和性ペプチド(CPP)としてTATペプチド、ペネトラチン(PEN)ペプチド、ポリアルギニン(R8)を使用した場合の各cHDLについて、CPPなしのcHDLの場合と比較した、後眼部細胞組織への到達確認試験の結果を示す蛍光顕微鏡観察の結果を示す図面である。該図面は、点眼30分後の、TATペプチド、ペネトラチン(PEN)ペプチド、ポリアルギニン(R8)を使用した場合の各cHDLについて、CPPなしのcHDLと比較した結果を示す。
【図11】図11は、図10で得られた後眼部細胞組織への到達確認試験における蛍光強度の結果を数値化した図面である。該図面中、TATペプチド、ペネトラチン(PEN)ペプチド、ポリアルギニン(R8)を使用した場合の各cHDLについて、CPPなしのcHDLと比較した結果を示す。
【図12】図12は、種々の濃度のクマリンー6を使用して製造したcHDLの場合について、後眼部細胞組織への到達確認試験の結果を示す蛍光顕微鏡観察の結果を示す図面である。該図面は、点眼30分後の、クマリンー6の濃度が0.03mM、0.05mM、0.1mMまたは0.2mMの場合について各cHDLを比較した結果を示す。
【図13】図13は、図12で得られた後眼部細胞組織への到達確認試験における蛍光強度の結果を数値化した図面である。該図面中、クマリンー6の濃度が0.03mM、0.05mM、0.1mMまたは0.2mMの場合について各cHDLを比較した結果を示す。
【図14】図14は、後眼部薬物デリバリーシステムとしての血管新生モデル試験における、Pazopanibを薬剤として用いたときの、キャリアとしてcHDLを使用した場合を、ポジティブコントロールとしてカプチゾールまたは実施例3に記載するssLipを使用した複合体の場合と比較した点眼後の脈絡膜新生血管面積の抑制結果を示す図面である。該図面中、cHDLの場合とカプチゾールの場合、cHDLの場合とssLipの場合とを対比した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明をさらに詳細に説明する。
(定義)
以下に、本明細書および特許請求の範囲中で使用する用語の定義を示す。

【0020】
本発明の高密度リポタンパク質(HDL)とは、アポリポタンパク質A-I(apoA-I)を含むリポタンパク質を意味し、天然物血漿由来の高密度リポタンパク質、またはアポリポタンパク質またはその遺伝子改変型アポリポタンパク質とリン脂質とを化学合成的な手法もしくは遺伝子工学的な手法により製造される再構成(すなわち、人工)高密度リポタンパク質(rHDL)のいずれであってもよい。該高密度リポタンパク質(HDL)は、主な構成成分としてアポリポタンパク質およびリン脂質を含む。人工学的に高密度リポタンパク質(HDL)を調製する場合には、アポリポタンパク質の1モルに対して、数十倍~数百倍モルのリン脂質を用いることができる。また、該高密度リポタンパク質(HDL)は、適宜機能性ペプチドとしての細胞親和性ペプチド(CP)を結合(例えば、融合)することによって、細胞親和性ペプチド結合(例えば、融合)高密度リポタンパク質(cHDL)として得ることができる。また、任意の構成成分として蛍光標識物質を含んでいてもよい。これら高密度リポタンパク質(HDL)または細胞親和性ペプチド結合高密度リポタンパク質(cHDL)は後眼部薬物デリバリー用キャリアとして使用することができる。

【0021】
本発明のHDLの密度は、天然由来のHDLである場合には約1.063~1.210g/mLの範囲(Antonio M. Gotto, Jr.らMethods Enzymol. 1986; 128: 3-41を参照)であり、一方rHDLの場合には天然由来のHDLの大きさに準じるが、製造時に所望する大きさの密度に調整することができるため、例えば天然の低密度リポタンパク質(LDL)の密度である約1.019~約1.063g/mLの範囲(Antonio M. Gotto, Jr.らの同文献を参照)をも含み得る。

【0022】
また、高密度リポタンパク質(HDL)の粒径は、天然由来のHDLである場合には約5~12nmの範囲(Antonio M. Gotto, Jr.らの同文献を参照)であり、一方rHDLの場合には天然由来のHDLの大きさに準じるが、製造時に所望する大きさの粒径に調整することができるため、例えば天然のLDLの粒径の大きさである直径が約18~約25nmの範囲(Antonio M. Gotto, Jr.らの同文献を参照)をも含み得て、また直径が約1000nm未満、約200nm未満、または約100nm未満の粒径に調整することもできる。ここで、本発明の高密度リポタンパク質は、細胞親和性ペプチドの結合(例えば、融合)の有無に関係なく、そのサイズが小さいほど、後眼部への到達性が高まることが期待され、従って典型的には粒径は直径が約100nm未満、好ましくは約10~約50nm、より好ましくは約10~約20nmである。

【0023】
構成成分としての「アポリポタンパク質」とは、リポタンパク質を構成する脂質以外のタンパク質部分を意味する。本発明におけるアポリポタンパク質は、天然のリポタンパク質中に含まれることが一般に知られるアポリポタンパク質およびその遺伝子改変型アポリポタンパク質を含むが、これらに限定されない。高密度リポタンパク質(HDL)中に含まれることが知られるアポリポタンパク質およびその遺伝子改変型アポリポタンパク質が好ましい。例えば、アポリポタンパク質A~Eの群に属するタンパク質を挙げられ、好ましくはアポリポタンパク質A-I(apoA-I)、アポリポタンパク質A-II(apoA-II)、アポリポタンパク質C(apoC)、アポリポタンパク質E(apoE)、およびそれらの遺伝子改変型アポリポタンパク質からなる群から選ばれる、少なくとも1種であるが、これらに限定されるものではない。より好ましくは、アポリポタンパク質A-I(apoA-I)およびその遺伝子改変型apoA-Iを挙げられる。遺伝子改変型アポリポタンパク質とは、アポリポタンパク質の機能(例えば、脂質結合機能)と同等の機能を有する変異体または類似体等(つまり、機能的同等物)を意味する。例えばアポリポタンパク質の部分断片およびそれらを組み合わせたアポリポタンパク質を挙げられる。アポリポタンパク質A-Iの遺伝子改変型アポリポタンパク質の例としては、N末端43アミノ酸欠損apoA-Iを挙げられる。

【0024】
構成成分としての「リン脂質」とは、1つまたは複数のリン酸エステル部位を有する脂質を意味する。本発明におけるリン脂質とは、天然のリポタンパク質中に含まれることが一般に知られるリン脂質を含む。高密度リポタンパク質(HDL)中に含まれることが知られるリン脂質が好ましいが、これに限定されない。例えば、グリセリンを骨格とするグリセロリン脂質、スフィンゴシンを骨格とするスフィンゴリン脂質が挙げられる。スフィンゴリン脂質としては、例えばスフィンゴミエリン、スフィンゴシン-1-リン酸、セラミドを挙げられる。
グリセロリン脂質としては、例えばホスファチジルグリセロール、ホスファチジルセリン、ホスファチジルコリン、及びホスファチジルエタノールアミンを挙げられ、ホスファチジルコリンが好ましい。アシル基におけるアルキル基の炭素数が約9~約23(つまり、炭素数が約10~24の脂肪酸基)と、好ましくは約11~約17(つまり、炭素数が約12~18の脂肪酸基)と、より好ましくは約13~約17(つまり、炭素数が約14~18の脂肪酸基)と長鎖のグリセロリン脂質が好ましい。ここで、該脂肪酸基は1個以上の炭素-炭素不飽和二重結合を含んでいてもよいが、該炭素-炭素不飽和二重結合を含まないことが好ましい。典型的な例としては、ジラウロイルホスファチジルコリン(DLPC)、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、エッグホスファチジルコリン(PC)、および1-パルミトイル-2-オレオイルホスファチジルコリン(POPC)を挙げられるが、これらに限定されるものではない。当該リン脂質は、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。本発明におけるリン脂質とは、例えば脂質膜の硬さを調整し、また安定化した複合体が形成する、さらには薬物等の化合物を内包するのに寄与する役割を果たしているものと考えられる。

【0025】
構成成分としての「細胞親和性ペプチド(CP)」とは、細胞膜に結合し、その後細胞内に移行することが可能な細胞親和性を示すペプチドを意味する。ここで、本発明の細胞親和性には、細胞膜透過性、細胞接着性、血管内皮細胞集積性、エンドソーム脱出性、細胞核集積性、ミトコンドリア集積性などを含むが、これらに限定されない。
本発明における細胞親和性ペプチドとは、天然のタンパク質由来の天然ペプチドおよび人工的に製造する合成ペプチド(例えば、キメラペプチド)を含む。細胞親和性ペプチドは、そのアミノ酸配列による化学的特性により、塩基性細胞親和性ペプチド、両親媒性細胞親和性ペプチド、および疎水性細胞親和性ペプチドを含む。塩基性細胞親和性ペプチドが好ましく、塩基性細胞膜透過性ペプチドがより好ましい。例えば、塩基性細胞親和性ペプチド(例えば、HIV-1ウイルスのTATタンパク質(Trans-activator of transcription protein)由来のTATペプチド、ショウジョウバエ由来のペネトラチン(PEN)、ポリアルギニン(例えば、アルギニンの8量体(R8))、ポリヒスチジン((例えば、ヒスチジンの16量体(H16))、抗菌性ペプチド由来のLL-37ペプチド)、両親媒性細胞親和性ペプチド(例えば、キメラペプチドであるトランスポータンやPep-1ペプチド)、および疎水性細胞親和性ペプチド(例えば、ファージディスプレー法によって得られる合成ペプチドであるPep-1ペプチド、膜タンパク質のシグナルペプチド由来のペプチドであるミトコンドリアターゲティングシグナル(MTS))からなる群から選ばれる少なくとも1種を挙げられるが、これらに限定されるものではない。

【0026】
該細胞親和性ペプチド(CP)は、本発明の高密度リポタンパク質(HDL)と結合(例えば、融合)することで、細胞親和性ペプチド結合高密度リポタンパク質(cHDL)を形成する。該細胞親和性ペプチド(CP)は、好ましくはアポリポタンパク質上で結合(例えば、融合)しており、より好ましくはアポリポタンパク質のC末端で結合(例えば、融合)している。ここで、結合手法は、化学合成的な手法(例えば、カップリング方法)または生物学的手法(例えば、遺伝子工学的方法)であってよい。ここで、「融合」とは、該細胞親和性ペプチドと高密度リポタンパク質(HDL)とが遺伝子工学的方法により、形質転換(融合)遺伝子を作成して人工的に結合させることを意味する。高密度リポタンパク質上の融合する官能基および位置は、融合させる細胞親和性ペプチドに応じて適宜改変し得る。本発明の細胞親和性ペプチドを融合した高密度リポタンパク質(cHDL)の構造例の模式図を図2に示す。

【0027】
任意の構成成分としての「蛍光標識物質」とは、蛍光標識として作用する物質を意味する。本発明における蛍光標識とは、タンパク質の蛍光標識に使用することができる標識物質であり、本発明の高密度リポタンパク質(cHDL)中に封入され、内包される。化学合成物質および蛍光タンパク質を含むが、化学合成物質が好ましい。タンパク質へと反応する官能基としては、N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)エステル(アミン反応性)、イソシアナート(アミン反応性)、マレイミド(SH反応性)、ヒドラジド(アルデヒド反応性)などが利用でき、それらの官能基を有する蛍光標識物質を使用することができる。該蛍光標識試薬は市販のものを使用することができ、あるいは化学的合成または生物学的合成により調製してもよい。例えば、フルオレセイン、ローダミン、クマリン-6、Cy色素(登録商標)、Alexa Fluor(登録商標)、HiLyte Fluor(登録商標)等の化学合成物質、およびフィコエリトリン(PE)、アロフィコシアニン(APC)等の蛍光タンパク質を含むが、これらに限定されない。

【0028】
任意の構成成分としての「生体活性物質」とは、生体内の生理的調節機能に対して作用する性質を有する物質、例えば眼(例えば、後眼部)内の生理的調節機能に作用する物質を意味する。例えば、眼科組成物に通常用いられる充血除去成分(例えば、α-アドレナリン作動薬、具体的には塩酸エピネフリン、塩酸エフェドリン等)、眼筋調節薬成分(例えば、コリンエステラーゼ阻害剤、具体的にはトロピカミド等)、抗炎症薬成分または収斂薬成分(例えば、硫酸亜鉛、インドメタシン、ブロムフェナクナトリウム等)、抗ヒスタミン薬成分又は抗アレルギー薬成分(例えば、塩酸ジフェンヒドラミン、マレイン酸クロルフェニラミン等)、ビタミン類(例えば、パルミチン酸レチノール、アスコルビン酸等)、アミノ酸(例えば、アスパラギン酸ナトリウム、グルタミン酸ナトリウム等)、酸性ムコ多糖類(例えば、コンドロイチン硫酸ナトリウム)、局所麻酔薬成分(例えば、クロロブタノール、塩酸プロカイン等)などが例示できる。

【0029】
任意の構成成分としての「薬物」とは、例えば眼部疾患の診断、予防または治療に有効な薬物が挙げられ、前眼部疾患、後眼部疾患、外眼部疾患の診断、予防または治療に有効な薬物を含む。具体的には、後述する「後眼部疾患の診断、予防または治療に有効な薬物」を挙げられる。

【0030】
上記本発明の高密度リポタンパク質(HDL)(例えばrHDL)、細胞親和性ペプチド結合高密度リポタンパク質(cHDL)はこれらタンパク質1分子当たり、1分子以上の蛍光標識物質、生体活性物質または薬物から選ばれる少なくとも1種類の化合物を更に含むことにより、複合体を形成する。

【0031】
本発明の細胞親和性ペプチド結合高密度リポタンパク質(cHDL)中、cHDL含有溶液に対する構成比率として、
アポリポタンパク質を例えば約0.01~0.5μmoL/L、典型的には約0.05~0.1μmoL/L、
リン脂質を例えば約0.5~250μmoL/L、典型的には約2.5~20μmoL/L、および
適宜、アポリポタンパク質と等量のモル比で融合した細胞親和性ペプチド
を含む。
また、適宜、蛍光標識物質、生体活性物質または薬物から選ばれる少なくとも1種類の化合物を、例えば約0.01~25μmoL/L、典型的には約0.02~約10μmoL/L、約0.05~約2μmoL/L(例えば、0.03μmoL/L、0.05μmoL/L、0.1μmoL/L、0.2μmoL/L)の割合で含んでいてもよい。

【0032】
本発明の細胞親和性ペプチド結合高密度リポタンパク質(cHDL)の一態様として、例えばアポリポタンパク質の1mg/mL当たり、リン脂質を約0.1~100mg/mL、約1~50mg/mL、約2~20mg/mL、典型的には約5mg/mL、および適宜、蛍光標識物質、生体活性物質または薬物から選ばれる少なくとも1種類の化合物を約0.001~1mg/mL、約0.01~0.5mg/mL、約0.02~0.1mg/mL、典型的には約0.05mg/mL、含む。また、好ましい一態様としては、例えばアポリポタンパク質の1mg/mL当たり、リン脂質を約5mg/mL、および適宜、蛍光標識物質、生体活性物質または薬物から選ばれる少なくとも1種類の化合物を約0.05mg(50μg)/mLを含む。

【0033】
「後眼部薬物デリバリー用キャリア」とは、後眼部へ薬物を送達するための担体を意味する。本発明の細胞親和性ペプチドを結合(例えば、融合)した高密度リポタンパク質(cHDL)は、眼内の血液房水関門や血液網膜関門によってそれ単独では後眼部へ到達することが困難な薬物を、細胞親和性ペプチドを結合(例えば、融合)した高密度リポタンパク質(cHDL)内に封入することにより、高濃度の薬物を網膜細胞組織に移行することが可能となる。特に、後眼部疾患の診断、予防または治療に有効な薬物を運搬することにより、後眼部疾患の診断、予防または治療の治療効果が大きく向上し得る。

【0034】
本発明の細胞親和性ペプチドを結合(例えば、融合)した高密度リポタンパク質(cHDL)は、後眼部薬物デリバリー用キャリアとして有用であり、従って「後眼部薬物デリバリー用システム」を構築することができる。

【0035】
「後眼部疾患用医薬組成物」とは、後眼部疾患を診断、予防または治療するための医薬組成物を意味し、構成成分として、上述の本発明の細胞親和性ペプチドを結合(例えば、融合)した高密度リポタンパク質(cHDL)、該高密度リポタンパク質中に含まれる(例えば、封入)後眼部疾患の診断、予防または治療に有効な薬物、および適宜、医薬的に許容され得る添加剤を含む。

【0036】
「後眼部疾患の診断、予防または治療に有効な薬物」とは、以下の薬物を挙げられるが、これらに限定されるものではない。例えば、加齢黄斑変性症の診断、予防又は治療剤、糖尿病網膜症の診断、予防又は治療剤、糖尿病黄斑浮腫の診断、予防又は治療剤、網膜動静脈閉塞症の診断、予防又は治療剤、ぶどう膜炎の診断、予防又は治療剤、網膜変性疾患の診断、予防又は治療剤、網膜剥離の診断、予防又は治療剤、緑内障の診断、予防又は治療剤、白内障の診断、予防又は治療剤、硝子体混濁の診断、予防又は治療剤等が挙げられ、具体的には、血管内皮増殖因子(VEGF)阻害薬(例えば、VEGF抗体、VEGFアプタマー、siRNA)、ステロイド製剤(例えば、デキサメタゾン、ベタメタゾン、フルオロメトロン、プレドニゾロン)、非ステロイド製剤(例えば、インドメタシン、ブロムフェナック、ジクロフェナックナトリウム等)、プロスタグランジン製剤(例えば、ラタノプロスト、タフルプロスト)、ピレノキシン、グルタチオン、メマンチン、エピネフリン、塩酸ピロカルピン、カルバコール、塩酸ドルゾラミド、アセタゾラミド、マレイン酸チモロール、塩酸カルテオロール、塩酸ベタキソロール、塩酸ブナゾシン、イソプロピルウノプロストン、プラノプラフェン、アスピリン、パゾパニブ(Pazopanib)等を含むが、これらに限定されない。例えば、眼内の血管新生血管(例えば、脈絡膜新生血管)の抑制のための薬剤が挙げられる。好ましくは、加齢黄斑変性、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、又は網膜動静脈閉塞症、の診断、予防又は治療剤が挙げられる。

【0037】
「医薬的に許容され得る添加剤」としては、本発明の効果を妨げない限り、上記の成分に加えて、各種用途に応じて、種々の活性成分または薬効成分(薬理活性成分および生理活性成分を含む)や添加剤(例えば、緩衝化剤、等張化剤、pH調整剤、防腐剤・保存剤、安定化剤、増粘剤、キレート剤、界面活性剤、香料等)を組み合わせて含有してもよい。このような成分は、眼刺激等の問題がない濃度範囲内で適宜配合することができ、成分の種類は特に制限されないが、例えば以下のものを例示する。緩衝化剤(例えば、リン酸ナトリウム)、等張化剤(例えば、塩化ナトリウム)、pH調整剤(例えば、ホウ酸)、防腐剤・保存剤(例えば、塩化ベンザルコニウム)、安定化剤(例えば、マンニトール)、増粘剤(例えば、アルギン酸ナトリウム)、キレート剤(例えば、エデト酸ナトリウム)、界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート)、香料(例えば、メントール)。

【0038】
本発明の医薬組成物は、点眼剤、眼軟膏剤、点鼻剤、点耳剤、注射剤などの剤型で使用することができ、点眼剤が好ましい。

【0039】
「点眼用」とは、非侵襲的な投与様式で点眼剤として使用するための形態を意味する。点眼剤は、薬物の水に対する溶解性と水溶液中での安定性に応じて、水性点眼剤、用時溶解点眼剤、懸濁性点眼剤、または油性点眼剤/眼軟膏剤とその剤型を決めることができる。該点眼剤は、点眼用として医薬的に許容され得る添加剤、例えば緩衝化剤、等張化剤、pH調整剤、界面活性剤、安定化剤、防腐剤等を含み得るが、これらに限定されるものではない。点眼剤のpHは、眼科製剤に許容される範囲内である限りにおいて、通常4~8の範囲内が好ましい。緩衝化剤としては、例えばリン酸塩(例えば、リン酸ナトリウム)、酢酸塩(例えば、酢酸ナトリウム)などが挙げられる。等張化剤としては、例えば塩化ナトリウムなどの無機物塩、濃グリセリンなどのグリセリンなどを挙げられる。pH調整剤としては、例えばホウ酸などの有機酸等を挙げられる。界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレートなどのポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類)、両性界面活性剤(例えば、アルキルジアミノエチルグリシンなどのグリシン型、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタインなどの酢酸ベタイン型)、陰イオン性界面活性剤(例えば、テトラデセンスルホン酸ナトリウムなどのスルホン酸塩、ラウリル硫酸ナトリウムなどのアルキル硫酸塩)、および陽イオン性界面活性剤(例えば、塩化ベンザルコニウムなどのアルキル第4級アンモニウム塩)が挙げられ、非イオン性界面活性剤が好ましい。安定化剤としては、例えば有機酸塩(例えば、クエン酸ナトリウム、マンニトール)などが挙げられる。防腐剤としては、例えば塩化ベンザルコニウム、パラベンなどが挙げられる。

【0040】
「後眼部薬物デリバリーシステム」とは、上述の本発明の後眼部薬物デリバリー用キャリア細胞親和性ペプチドを結合(例えば、融合)した高密度リポタンパク質(cHDL)を、後眼部疾患の診断、予防または治療に有効な薬物と組み合わせることにより、後眼部薬物デリバリー用システムを構築することができる。

【0041】
後眼部疾患を患っているかまたは患う危険を有する患者に、上述の後眼部薬物デリバリーシステムを適用することによって、または上述の後眼部疾患用医薬組成物を投与する方法により、後眼部疾患を診断、予防または治療することが可能となる。

【0042】
「後眼部疾患」とは、眼内の硝子体、網膜、脈絡膜、強膜または視神経における疾患を意味する。例えば、加齢黄斑変性症、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、網膜動静脈閉塞症、ぶどう膜炎、網膜変性疾患(例えば、網膜色素変性疾患)、変性近視、黄斑円孔、黄斑上膜、網膜剥離、緑内障、白内障、硝子体混濁等を挙げられるが、これらに限定されるものではない。例えば、眼内の血管新生血管(例えば、脈絡膜新生血管)が原因の疾患が挙げられる。好ましくは、加齢黄斑変性、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、網膜動静脈閉塞症が挙げられる。

【0043】
次に、本発明の細胞親和性ペプチドを結合(例えば、融合)した高密度リポタンパク質(cHDL)の製造方法について、以下記載するが、これらに限定されるものではない。
本発明の目的の細胞親和性ペプチドを結合(例えば、融合)した高密度リポタンパク質(cHDL)の製造方法の1例としては、
i)アポリポタンパク質に、細胞親和性ペプチドを遺伝子工学的手法により、融合させて、融合タンパク質を得る;そして、
ii)得られた融合タンパク質に、リン脂質、更に必要に応じて蛍光標識物質、生体活性物質または薬物から選ばれる少なくとも1種類の化合物を含むリポソームを混合することにより、粗cHDLを製造する(Spontaneous interaction法);あるいは、リポソーム形成を経由しない、コール酸ミセルとの混和(例えば、リン脂質の相転移温度で混和する)により、粗cHDLを製造する(コール酸透析(cholate-dialysis)法);
iii)超遠心法により、未反応のリポソーム、リン脂質ミセル、アポリポタンパク質を除去することにより、粗cHDLを精製する、
ことを含む。

【0044】
遺伝子工学的手法としては、メチラーゼやDNAポリメラーゼI/DNAリガーゼを用いるDNA編集や、polymerase chain reaction (PCR)法を挙げられる。具体的には、大腸菌発現ベクターpCOLD Iの制限酵素Xba I認識部位に、5’,3’両末端にXba I認識配列を付加したTATペプチド遺伝子をDNAリガーゼで挿入する。DNAシークエンス解析により、TATペプチド遺伝子が順方向で挿入されたベクターを選択する。次に、N末端43アミノ酸欠損apoA-I遺伝子の5’末端側に制限酵素Kpn I認識配列を、3’末端側に制限酵素Pst I認識配列を付加した遺伝子をPCR法により作製し、上記のpCOLD IのKpn IとPst I認識部位間にDNAリガーゼを用いて挿入する。以上の操作により、N末端43アミノ酸欠損apoA-IのC末端側にTATペプチドが融合されたポリペプチド遺伝子を作製できたことになる。

【0045】
好ましい1態様において、本発明は、
a)アポリポタンパク質およびリン脂質を含む高密度リポタンパク質(HDL)
(ここで、
該アポリポタンパク質は、アポリポタンパク質A-Iおよびその遺伝子改変型アポリポタンパク質A-Iからなる群から選ばれる少なくとも1種であるアポリポタンパク質であり、そして
該リン脂質は、炭素数が12~18の脂肪酸基のグリセロリン脂質である);
b)塩基性細胞膜透過性ペプチドからなる群から選ばれる細胞親和性ペプチド(CPP);及び
c)適宜、蛍光標識物質、生体活性物質または薬物から選ばれる少なくとも1種類の化合物
を含む、
粒径が直径100nm未満(例えば、直径10~20nm)である細胞親和性ペプチド結合高密度リポタンパク質(cHDL)、
を提供する。

【0046】
好ましい別の1態様において、本発明は、
1)a)アポリポタンパク質およびリン脂質を含む高密度リポタンパク質(HDL)
(ここで、
該アポリポタンパク質は、アポリポタンパク質A-Iおよびその遺伝子改変型アポリポタンパク質A-Iからなる群から選ばれる少なくとも1種であるアポリポタンパク質であり、そして
該リン脂質は、炭素数が12~18の脂肪酸基のグリセロリン脂質である);
b)塩基性細胞膜透過性ペプチドからなる群から選ばれる細胞親和性ペプチド;及び
c)適宜、眼内の血管新生血管(例えば、脈絡膜新生血管)の抑制のための薬剤、あるいは加齢黄斑変性、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、および網膜動静脈閉塞症からなる群から選ばれる疾患の診断、予防又は治療剤の少なくとも1種類の化合物を含む、
粒径が直径100nm未満(例えば、直径10~20nm)である、細胞親和性ペプチド結合高密度リポタンパク質(cHDL);及び、
2)医薬的に許容され得る添加剤、
を含む、加齢黄斑変性症、糖尿病網膜症、糖尿病黄斑浮腫、および網膜動静脈閉塞症からなる群から選ばれる少なくとも1種の疾患の診断、予防または治療のための医薬組成物、
を提供する。

【0047】
本発明の細胞親和性ペプチド結合高密度リポタンパク質(cHDL)を製造する際の典型的な構成成分の配合比率は以下の通りである。
融合前の高密度リポタンパク質(HDL)に対して等モル比の該細胞親和性ペプチドを仕込むことにより、融合タンパク質を作製する。
次に、仕込み量として、融合前の高密度リポタンパク質(HDL)の1モルに対して、数倍~数千倍モル、数十倍~数百倍モル、例えば約5倍~約2000倍モル、約20倍~約500倍モル、約30倍~約200倍モルのリン脂質を仕込むことにより、cHDLを調製する。

【0048】
上記で製造した細胞親和性ペプチドを結合(例えば、融合)した高密度リポタンパク質(cHDL)の粒径は、超音波照射法、凍結融解法、ホモジナイゼーション法などを用いて微粒子に調整することができるが、これらの方法に限定されない。得られたタンパク質の粒径は、特定の方法を用いて測定し、決定することができる。粒径は、市販のゼータサイザーを用いて測定し、決定することができる。
【実施例】
【0049】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0050】
(実施例1)
以下の方法により、高密度リポタンパク質(HDL)を作製した。
細胞親和性HDL(cHDL)の作製
(方法)
遺伝子改変型apoA-IのC末端に、細胞親和作用を有するTAT(Trans-activator of transcription protein)ペプチドをつなげた融合タンパク質を作製した。この融合型apoA-Iに、リン脂質としてジミストリルホスファチジルコリン(DMPC)と蛍光標識物質としてのクマリン-6からなる粒径100nm程度の小サイズのリポソームを混和することにより、cHDLを作製した(Spontaneous interaction法)。遺伝子改変型apoA-Iとリポソームの混和物から反応しなかったリポソームやリン脂質ミセル、またリン脂質や蛍光物質と結合していないアポリポタンパク質を除去するために、超遠心法によりcHDLを精製した。
同様な方法で、比較対照として、TATペプチドを含まないリコンビナントHDL(rHDL)をも作製した。また、比較対照として、リポソームのssLip(submicron sized small uni-lamella vesicle)のジステアロイル ホスファチジルコリン(DSPC)を国際公開第2009/107753号パンフレットに記載の方法に従って調製した。上記の得られたHDLおよび調製したDSPCのそれぞれの組成を、タンパク質、リン脂質およびクマリン-6の各含量、並びに粒径、表面電位について調べた。タンパク質はローリー(Lowry)法で、リン脂質はCテスト(C test Wako(登録商標))で、クマリン-6は蛍光分光光度計FluoroMaxを用いる蛍光分光法で、粒径および表面電荷状態は動的光散乱法(DLS)を用いて、それぞれ体積平均径(MV)およびゼータ電位として求めた。
【実施例】
【0051】
(結果)
Spontaneous interaction法と超遠心法により、粒径が直径10~20nmの小サイズのHDLを得ることができた。各HDLのサイズおよびそれを構成するタンパク質、リン脂質およびクマリン-6の各濃度、並びにゼータ電位は下記表の通りである。
【表1】
JP0006818264B2_000002t.gif
タンパク質はローリー(Lowry)法で、リン脂質はCテスト(C test Wako(登録商標))で、クマリン-6は蛍光分光光度計FluoroMaxを用いる蛍光分光法で、体積平均径およびゼータ電位は動的光散乱法(DLS)によって求めた。
【実施例】
【0052】
(実施例2)
次に、製造した各HDLを用いた膜毒性試験を行った。
cHDLの毒性評価
(方法)
得られた各HDLの角膜毒性を調べるために、ヒト角膜培養細胞を使って細胞毒性試験を行った。該試験は、cHDL、rHDL、および比較対照の塩化ベンザルコニウム、酵素活性を測定する比色定量法で行い、検出試薬はCCK-8(Cell Counting Kit-8)を用いる、CCK-8試験を使用した。
【実施例】
【0053】
(結果)
cHDL、rHDL共に、ネガティブコントロールの代表例であるHBSS/HEPES溶液と同等以上の細胞生存率を示し、ポジティブコントロールの代表例である塩化ベンザルコニウム(市販点眼剤に含まれている防腐剤)と比べて有意に細胞毒性が低かった(図3)。
【実施例】
【0054】
(実施例3)
次に、製造したcHDLの網膜への到達効率を調べた。
cHDLの網膜への到達効率
(方法)
実験動物マウスであるC57/B6に、クマリン-6濃度が0.1μmoL/mLの、cHDL、rHDL、粒径100nmのDSPCリポソームをそれぞれ3μLずつマウスの眼表面に点眼し、30分後に眼球摘出を行い、凍結切片を作製し、凍結標本で網膜を観察し、コンフォーカル顕微鏡で網膜内層の蛍光強度を観察し、結果を比較した。
(結果)
共焦点顕微鏡観察により、cHDL点眼群では、クマリン-6を有しないHBSS/HEPESバッファーの点眼群には見られない蛍光が網膜内層に観察された(図4)。
【実施例】
【0055】
これら蛍光強度の結果を、cHDL、rHDL、該ネガティブコントロールとしてのHBSS/HPES溶液、およびポジティブコントロールとしてのリポソームのDSPC ssLipについて数値化した(図5)。HBSS/HEPES点眼群と比較して、cHDL、rHDL、粒径100nmのDSCPリポソーム点眼群のいずれも網膜内層の蛍光強度は向上していた。また、cHDLは、rHDLおよび粒径100nmのDSCPリポソームのいずれと比べても蛍光強度は高かった。このことにより、本発明のHDL(例えば、rHDL)は有意な大きさでクマリン-6を網膜内層へ到達させ得ることが示唆されており、特に細胞親和性ペプチドを結合したcHDLは極めて高い程度でクマリン-6を網膜に到達し得ることが示唆される。
【実施例】
【0056】
(実施例4)
以下の方法により、後眼部薬物デリバリーシステムのモデル試験として血管新生モデルの試験を行った。
後眼部薬物デリバリーシステムのモデル試験(例、血管新生モデル)
6~8週齢のC57BL6マウスの網膜にアルゴンレーザーを照射し、脈絡膜新生血管を作製した。レーザー照射直後から1週間、点眼液を一日三回、一回3μL点眼し、1週間後に眼球摘出した。免疫染色法にて脈絡膜新生血管を染色し、フラットマウント法にてコンフォーカル顕微鏡下で脈絡膜新生血管の面積を測定することで治療効果を判定した。1)1mg/mLのアポリポタンパク質濃度を有するcHDL溶液1mLおよびcHDLを含まない緩衝液1mLに、それぞれ1mgのパゾパニブ(Pazopanib)を混和したもの(図6)、2)アポリポタンパク質と等モル比のPazopanibを内包するcHDL溶液およびPazopanibを内包していないcHDL溶液(いずれもアポリポタンパク質濃度:1.5mg/mL)(図7)、をそれぞれ二者間で比較した。ここで、Pazopanibを内包したcHDL溶液は、実施例1におけるクマリン-6の代わりにPazopanibを用いて調製した。
結果、いずれの場合も基剤を内包したcHDL溶液の点眼で脈絡膜新生血管の面積が縮小しており、血管新生阻害作用を有する薬剤がcHDLへの内包を通じて疾患部位まで到達していることが示唆された(図6、図7)。このことは、薬剤としてのパゾパニブが後眼部へ到達し、血管新生を抑制する効果を示唆する。
【実施例】
【0057】
(実施例5)
網膜への薬剤到達に対するリン脂質の種類の役割を検討するために、種々のリン脂質を用いて細胞親和性HDL(cHDL)を作製し、網膜への到達効率を調べた。
1)細胞親和性HDL(cHDL)の作製
(方法)
異なるリン脂質(具体的には、DMPC、DPPC、DSPCの三種類)を用いて、各種高密度リポタンパク質(cHDL)を、以下の方法により作製した。
具体的には、クマリン-6・リン脂質・コール酸からなるミセルを事前に作製し、そのミセルとapoA-Iをリン脂質の相転移温度で混和することにより作製した(コール酸透析法)。ここで、各リン脂質の相転移温度は以下の通りである。DMPCは24℃、DPPCは40-41℃、及びDSPCは55℃。
クマリン-6の濃度は0.05μmol/mlに統一して使用した。得られたcHDLは、実施例1の方法に準じて超遠心法により精製した。
上記の得られたcHDLのそれぞれの組成を、実施例1の方法に準じて、タンパク質、リン脂質およびクマリン-6の各含量、並びに粒径について調べた。
【実施例】
【0058】
(結果)
Spontaneous interaction法と超遠心法により、粒径が直径10~20nmの小サイズのcHDLを得ることができた。各cHDLの粒径サイズおよびそれを構成するタンパク質、リン脂質およびクマリン-6の各濃度は下記表2の通りである。
【表2】
JP0006818264B2_000003t.gif
【実施例】
【0059】
2)cHDLの網膜への到達効率
(方法)
次に、上記製造した各種cHDLの網膜への到達効率を調べた。
具体的には、実施例3と同様の方法でコンフォーカル顕微鏡で網膜内層の蛍光強度を観察し、結果を比較した。
【実施例】
【0060】
(結果)
共焦点顕微鏡観察により、網膜内層の蛍光強度を比較した。その結果を、図8に示す。DSPC>DPPC>DMPCの順に蛍光強度が高かった。
また、これら蛍光強度の結果を実施例3の方法に準じて数値化した(図9)。
この結果から、上記本発明のHDLは有意な大きさでクマリン-6を網膜内層へ到達させ得ることが示唆されており、特に細胞親和性ペプチドを結合したcHDLは極めて高い程度でクマリン-6を網膜に到達し得ることが示唆される。また、スフィンゴリン脂質のアシル基におけるアルキル基の炭素数が多い、長鎖のリン脂質ほど網膜への到達効率を向上させることが示唆された。
【実施例】
【0061】
(実施例6)
種々の細胞膜透過性ペプチド(CPP)を用いる細胞親和性HDL(cHDL)
網膜への薬剤到達に対する網膜への薬剤到達に対する細胞膜透過性ペプチド(CPP)の種類の役割を検討するために、種々の細胞膜透過性ペプチドを用いて細胞親和性HDL(cHDL)を作製し、網膜への到達効率を調べた。
1)細胞親和性HDL(cHDL)の作製
(方法)
異なるCPP(具体的には、TATペプチド、ペネトラチン(PEN)ペプチド、ポリアルギニン(R8))の三種類)を用いて、前記[0042]に記載する遺伝子工学的手法と同様の方法に従って、N末端43アミノ酸欠損apoA-Iに融合したタンパクを作製した。次に、実施例5と同様の方法でDSPC・クマリン-6からなるcHDLを作製した。クマリン-6の濃度は0.03μmol/mlに統一して使用した。得られたcHDLは、実施例1の方法に準じて超遠心法により精製した。
上記の得られたcHDLのそれぞれの組成を、実施例1の方法に準じて、タンパク質、リン脂質およびクマリン-6の各含量、並びに粒径、表面電位について調べた。
【実施例】
【0062】
(結果)
Spontaneous interaction法と超遠心法により、粒径が直径10~20nmの小サイズのcHDLを得ることができた。各cHDLの粒径サイズおよびそれを構成するタンパク質、リン脂質およびクマリン-6の各濃度、並びにゼータ電位は下記表3の通りである。
【表3】
JP0006818264B2_000004t.gif
【実施例】
【0063】
2)cHDLの網膜への到達効率
(方法)
次に、上記製造した各種cHDLの網膜への到達効率を調べた。
具体的には、実施例3と同様の方法で共焦点顕微鏡で網膜内層の蛍光強度を観察し、結果を比較した。
【実施例】
【0064】
(結果)
共焦点顕微鏡観察により、網膜内層の蛍光強度を比較した。その結果を、図10に示す。PEN>R8≧TAT>CPPなしの順に蛍光強度が高かった。
また、これら蛍光強度の結果を実施例3の方法に準じて数値化した(図11)。
この結果から、上記本発明のHDLは有意な大きさでクマリン-6を網膜内層へ到達させ得ることが示唆されており、特に細胞親和性ペプチドを結合したcHDLは極めて高い程度でクマリン-6を網膜に到達し得ることが示唆される。また、PENが最も網膜への到達効率を向上させることが示唆された。
【実施例】
【0065】
(実施例7)
網膜への薬剤到達における濃度依存性
PENペプチド・DSPC・クマリン-6を含むcHDLを用いて、網膜への薬剤到達における濃度依存性を検証した。
クマリン-6の濃度が0.03μmol/ml、0.05μmol/ml、0.1μmol/ml、0.2μmol/mlでそれぞれ調整したcHDL溶液を、上記実施例5または6と同様な方法を用いて製造した。次いで、各溶液を実施例3と同様の方法で網膜内層の蛍光強度を比較した。その結果を、図12に示す。クマリンー6の濃度が高いほど蛍光強度が高い傾向が認められた。
また、これら蛍光強度の結果を実施例3の方法に準じて数値化した(図13)。
この結果から、cHDL中に含有されている薬剤の濃度が高ければ、網膜へ高濃度の薬剤を到達させることができることが示唆され、よって網膜への薬剤到達における濃度は、適用するcHDL中に含有されている薬剤の濃度に依存することが分かった。
【実施例】
【0066】
(実施例8)
本願発明のcHDLと従来のキャリアとの薬物デリバリー用キャリアとしての比較実験
後眼部への薬物デリバリー用キャリアとしての有用性について、本願発明のcHDLを従来のキャリアと比較検討した。
薬剤としてパゾパニブを選択し、パゾパニブのポジティブコントロールキャリアとして治験などで一般的に使われているカプチゾール、および実施例3において比較対象とした小サイズのリポソーム(ssLip)を選択した。そして、パゾパニブを有する本願発明のパゾパニブ内包cHDLを、パゾパニブ内包したこれらキャリアの複合体と、キャリアとしての有用性を比較検討した。
具体的には、本願発明のcHDLとしては、実施例4の2)と同様の方法にて調製したcHDLを使用した。一方で、上記比較対象キャリアは、文献1(Yafai et al. Eur J Pharmacol. 2011; 666: 12-8)および文献2(特表第2013-525501号公報)に記載の方法と同様に、7%カプチゾール溶液にパゾパニブを溶解することで比較カプチゾール溶液を作製した。また、ssLipへのパゾパニブの内包は、実施例1と同様の方法で作製したssLipに、DMSOに溶解したパゾパニブを混和し、次いでゲル濾過カラムを用いて内包されていないパゾパニブを除去することで精製し、比較ssLip溶液を作製した。
本実験ではパゾパニブ濃度を統一するために、文献3(国際公開第2011-069053号パンフレット)及び文献4(Escudero-Ortiz et al. Ther Drug Monit. 2015; 37: 172-9)に記載する方法に準ずる方法で超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)を用いて各サンプルの濃度測定を行った。濃度が既知のパゾパニブ標準物質溶液を用いてクロマトグラフィーの保持時間を確認し、保持時間に位置するピークの面積を計量することで検量線を作成した。各サンプルでも同一の保持時間に位置するピーク面積を計量し、検量線からパゾパニブ濃度を定量し、各サンプルが同一濃度になるよう適宜希釈した。
これら調製した各溶液を、マウスへの点眼の回数を1日2回に変更した点を除いて実施例4に記載する方法に準じて血管新生モデルのマウスに点眼適用して、脈絡膜新生血管(CNV)の面積の縮小の効果を調べた。
その結果を図14に示す。本発明のcHDLをキャリアとして用いた場合は、比較対象のカプチゾール及びssLipのいずれかを用いた場合と比較して、脈絡膜新生血管の面積が有意に縮小していた(図14)。このことから、血管新生作用を有する薬剤がcHDLへの内包を通じて疾患部位まで有効に到達していることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の細胞親和性ペプチドを結合(例えば、融合)した高密度リポタンパク質(cHDL)は内包する化合物(例えば、薬物)を後眼部へ到達させることができ、網膜細胞中での化合物の集積性が高く、細胞毒性を有しない。よって、該cHDLに薬物を内包させることにより点眼による新たな薬物デリバリーを提供することが可能となり、後眼部疾患を効率的に診断、予防、治療することができると期待される。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12
【図14】
13