TOP > 国内特許検索 > 移植材料及びその調製方法 > 明細書

明細書 :移植材料及びその調製方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成29年4月20日(2017.4.20)
発明の名称または考案の名称 移植材料及びその調製方法
国際特許分類 A61L  27/38        (2006.01)
A61K  35/22        (2015.01)
A61K  35/407       (2015.01)
A61K  35/42        (2015.01)
A61K  35/34        (2015.01)
A61K  35/38        (2015.01)
A61K  35/39        (2015.01)
A61P   3/10        (2006.01)
A61K  31/713       (2006.01)
A61K  45/00        (2006.01)
A61K   9/48        (2006.01)
C12N  15/09        (2006.01)
C12N  15/113       (2010.01)
C12N   5/10        (2006.01)
C12Q   1/06        (2006.01)
C12Q   1/68        (2006.01)
C12N   5/071       (2010.01)
FI A61L 27/38 100
A61K 35/22
A61K 35/407
A61K 35/42
A61K 35/34
A61K 35/38
A61K 35/39
A61P 3/10
A61K 31/713
A61K 45/00
A61K 9/48
C12N 15/00 A
C12N 15/00 G
C12N 5/10
C12Q 1/06
C12Q 1/68 A
C12N 5/071
国際予備審査の請求
全頁数 17
出願番号 特願2016-521166 (P2016-521166)
国際出願番号 PCT/JP2015/064792
国際公開番号 WO2015/178490
国際出願日 平成27年5月22日(2015.5.22)
国際公開日 平成27年11月26日(2015.11.26)
優先権出願番号 2014107529
優先日 平成26年5月23日(2014.5.23)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US
発明者または考案者 【氏名】角 昭一郎
【氏名】大木 理恵子
【氏名】坂田 直昭
出願人 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
【識別番号】316010816
【氏名又は名称】大木 理恵子
個別代理人の代理人 【識別番号】110000796、【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 4B063
4B065
4C076
4C081
4C084
4C086
4C087
Fターム 4B063QA08
4B063QA20
4B063QQ02
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR36
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX02
4B065AA90X
4B065BA01
4B065CA44
4C076AA53
4C076BB32
4C076CC50
4C076FF21
4C076FF65
4C081AB11
4C081BA12
4C081CD34
4C081DA16
4C084AA17
4C084MA70
4C084NA05
4C084NA13
4C084NA14
4C084ZC351
4C084ZC352
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA13
4C086NA14
4C086ZC35
4C087AA02
4C087AA04
4C087AA05
4C087BB41
4C087BB47
4C087BB50
4C087BB51
4C087BB52
4C087BB55
4C087CA04
4C087MA37
4C087MA67
4C087NA05
4C087NA13
4C087ZC35
要約 本発明は、臓器もしくは組織の細胞を含む移植材料の調製方法であって、前記細胞がPHLDA3の発現抑制下の細胞から構成されることを特徴とする、移植材料の調製方法を提供するものである。
特許請求の範囲 【請求項1】
臓器もしくは組織の細胞を含む移植材料の調製方法であって、前記細胞がPHLDA3の発現抑制下の細胞から構成されることを特徴とする、移植材料の調製方法。
【請求項2】
前記移植材料が腎臓、肝臓、肺、心臓、小腸、膵臓または膵島の移植材料である、請求項1に記載の移植材料の調製方法。
【請求項3】
移植材料を構成する細胞がMEN1の機能を保持している、請求項1又は2に記載の移植材料の調製方法。
【請求項4】
移植材料の調製をPHLDA3の発現又は機能を抑制する物質の作用下に行うことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の移植材料の調製方法。
【請求項5】
PHLDA3の発現抑制剤がPHLDA3のsiRNAであり、PHLDA3のsiRNAを細胞内に導入して移植材料の調製を行う、請求項4に記載の移植材料の調製方法。
【請求項6】
ジェノタイプがPHLDA3(-/-)またはPHLDA3(+/-)の細胞を用いて移植材料を調製することを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の移植材料の調製方法。
【請求項7】
細胞が生体適合性のカプセルに封入されている、請求項1~6のいずれかに記載の移植材料の調製方法。
【請求項8】
臓器又は組織の細胞から構成される移植材料であって、細胞のジェノタイプがPHLDA3(-/-)またはPHLDA3(+/-)である、移植材料。
【請求項9】
非ヒト哺乳動物由来である請求項8に記載の移植材料。
【請求項10】
移植材料が膵島である、請求項8又は9に記載の移植材料。
【請求項11】
PHLDA3抑制剤を含む糖尿病治療薬。
【請求項12】
PHLDA3プロモーターの制御下にレポーター遺伝子を含む発現ベクターを導入した細胞に候補物質を作用させ、レポーター遺伝子の発現量を低下させる候補物質を選択することを特徴とする、糖尿病治療薬のスクリーニング方法。
【請求項13】
PHLDA3の発現又は機能を抑制する物質を有効成分とする移植効率向上剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、移植材料およびその調製方法、糖尿病治療薬並びに糖尿病治療薬のスクリーニング方法に関する。
【0002】
また、本発明は、移植効率向上剤に関する。
【背景技術】
【0003】
糖尿病患者の治療として、膵臓移植より患者の体への負担が少ないという事で膵島移植が行われている。
【0004】
膵島移植の際の最大の課題は、未だ低率の移植成績を向上させる事にあるが、現行の膵島分離法では、100%の膵島を確保する事は不可能である。加えて、膵島分離過程による障害や、分離膵島が無血管状態となり虚血にさらされる事などの理由から膵島のアポトーシスが誘導され、分離後よりその数は減少し、インスリン分泌能は著しく低下する。さらに、移植後(現行の方法では門脈内に直接投与する)には、血液凝固反応などによって惹起される炎症反応物質・細胞の影響や膵島自身が末梢門脈を塞栓する事で移植部位の虚血が助長される事により、移植した膵島の大部分が早期に失われる。この現象は、膵島に限らず全ての移植材料に適用でき、移植材料を保護し、その機能を維持することが求められている。
【0005】
膵島保護のためにEIF-5A1の遺伝子発現をsiRNAにより抑制することが提案されているが(特許文献1)、この方法ではその効果の程度や持続時間が共に限定的であった。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】WO2009/026317
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、移植材料を調製する過程での移植細胞のアポトーシスを抑制し、高いレベルで機能を保持することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題に鑑み研究を重ねた結果、PHLDA3の発現を抑制することで膵島細胞を含む臓器、組織の細胞のアポトーシスを抑制し、機能を維持し、優れた移植材料が得られることを見出した。
【0009】
本発明は、以下の移植材料およびその調製方法、糖尿病治療薬、スクリーニング方法および移植効率向上剤を提供するものである。
項1. 臓器もしくは組織の細胞を含む移植材料の調製方法であって、前記細胞がPHLDA3の発現抑制下の細胞から構成されることを特徴とする、移植材料の調製方法。
項2. 前記移植材料が腎臓、肝臓、肺、心臓、小腸、膵臓または膵島の移植材料である、項1に記載の移植材料の調製方法。
項3. 移植材料を構成する細胞がMEN1の機能を保持している、項1又は2に記載の移植材料の調製方法。
項4. 移植材料の調製をPHLDA3の発現又は機能を抑制する物質の作用下に行うことを特徴とする項1~3のいずれかに記載の移植材料の調製方法。
項5. PHLDA3の発現抑制剤がPHLDA3のsiRNAであり、PHLDA3のsiRNAを細胞内に導入して移植材料の調製を行う、項4に記載の移植材料の調製方法。
項6. ジェノタイプがPHLDA3(-/-)またはPHLDA3(+/-)の細胞を用いて移植材料を調製することを特徴とする、項1~3のいずれかに記載の移植材料の調製方法。
項7. 細胞が生体適合性のカプセルに封入されている、項1~6のいずれかに記載の移植材料の調製方法。
項8. 臓器又は組織の細胞から構成される移植材料であって、細胞のジェノタイプがPHLDA3(-/-)またはPHLDA3(+/-)である、移植材料。
項9. 非ヒト哺乳動物由来である項8に記載の移植材料。
項10. 移植材料が膵島である、項8又は9に記載の移植材料。
項11. PHLDA3抑制剤を含む糖尿病治療薬。
項12. PHLDA3プロモーターの制御下にレポーター遺伝子を含む発現ベクターを導入した細胞に候補物質を作用させ、レポーター遺伝子の発現量を低下させる候補物質を選択することを特徴とする、糖尿病治療薬のスクリーニング方法。
項13. PHLDA3の発現又は機能を抑制する物質を有効成分とする移植効率向上剤。
【発明の効果】
【0010】
移植材料の細胞のアポトーシスを促進するPHLDA3遺伝子のノックダウン又はノックアウトにより脆弱な細胞の強靱化がはかれる。また、PHLDA3遺伝子のジェノタイプが(-/-)または(+/-)である動物においては膵島の肥大・増生が起こり、非常に高い収率の膵島分離が可能となる。
【0011】
2型が悪化してインスリン依存性になった場合でも、PHLDA3を抑制することでβ細胞機能の再生が起こり、糖尿病が治療できる。自己免疫が関与する1型糖尿病や移植後の免疫拒絶を回避するためには、免疫抑制やカプセル化による免疫隔離を行うことが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】A) p53 の構造とN 末端転写活性化ドメイン内のリン酸化部位。 B) Akt/mTOR 経路とPHLDA3 によるAkt 抑制機構。PHLDA3 はあたかもAkt のドミナントネガティブ体のように機能し、Akt 活性化を抑制する。C) がん遺伝子Akt とがん抑制遺伝子p53 は互いに制御し合い、Akt/p53 ネットワークを形成している。p53 の新規標的遺伝子PHLDA3 もまたAkt 経路を抑制するがん抑制遺伝子である。D) PHLDA3 の構造。
【図2】A) PHLDA3 野生型のマウスとPHLDA3 欠損マウスの膵島のヘマトキシリン・エオジン染色。 B) PHLDA3 野生型のマウスとPHLDA3 欠損マウスの膵島のβ細胞(インスリン陽性)とα細胞(グルカゴン陽性)の分布。
【図3】A) Akt 活性とAkt の下流シグナル因子をウエスタンブロット法で検出した。各因子の活性は、β-アクチン を基準に数値化している。 B) PHLDA3 野生型のマウスとPHLDA3 欠損マウスの膵島。各マウスの膵島細胞の面積を算出し、グラフに示した。 C) ストレプトゾトシン(STZ) 誘導性の糖尿病マウスにおける血中グルコース濃度。D) STZ 投与したPHLDA3野生型のマウスとPHLDA3 欠損マウスの膵島のβ細胞(インスリン陽性)とα細胞(グルカゴン陽性)を検出した。
【図4】膵島細胞におけるPHLDA3発現のAkt活性、細胞増殖及びアポトーシスに及ぼす効果。(A) MIN6 細胞におけるPHLDA3発現のAkt活性に対する効果。MIN6細胞は35の感染多重度でAd-LacZ又はAd-PHLDA3で形質導入し、感染の30時間後に収穫した。Akt活性化及びAkt下流シグナリング分子のリン酸化をウェスタンブロッティング及び総Aktレベルに対する標準化(P-Akt)またはβ-アクチンレベルにより定量化した(P-p70 S6K, P-S6, P-Mdm2)。(B及びC) RIN 細胞におけるPHLDA3 発現のsiRNA抑制の有効性。RIN細胞はコントロール又はPHLDA3 siRNAによりトランスフェクトされた。PHLDA3 mRNAレベルはトランスフェクトの31時間後に定量RT-PCRにより分析し、βアクチンに対して標準化した(B)。未処理に対しγ線照射(20 Gy)に供した細胞を用いてPHLDA3タンパク質レベルを感染48時間後にウェスタンブロッティングにより測定した(C)。γ線照射したサンプルは、PHLDA3タンパク質を発現するバンドを同定するために含めた(PHLDA3 はp53活性化により誘導される)。(D) RIN細胞におけるPHLDA3発現のAkt 活性化に対する効果。RIN細胞は(B)と同様にトランスフェクトし、Akt 活性化を感染31時間後にウェスタンブロッティングにより測定し(左)、総Aktレベルに対する標準化により定量した(右)。(E) RIN細胞増殖に対するPHLDA3発現の効果。RIN細胞は(B)と同様にトランスフェクトし、BrdUで3 h標識され、トランスフェクトの28時間後に収穫した。BrdU陽性細胞をZiva Ultrasensitive BrdUアッセイにより定量した。 (F)初代膵島細胞におけるPHLDA3発現のsiRNA抑制。単離された初代膵島細胞をコントロール又はPHLDA3 siRNAによりトランスフェクトし、30時間後に収穫し、PHLDA3 mRNAレベルを定量RT-PCRにより(B)と同様に分析した。(G)初代膵島細胞におけるPHLDA3発現のAkt活性化に対する効果。細胞は(F)と同様にsiRNAでトランスフェクトされ、トランスフェクトの48 h後にグルコース(30 mM)で20分間処理した。Akt活性化のレベルを(D)と同様に分析した。(H) 初代膵島細胞増殖に対するPHLDA3発現の効果。細胞は(F)と同様にトランスフェクトされ、BrdUで4 h標識され、トランスフェクトの30 h後に収穫した。BrdU陽性細胞は(E)と同様に分析した。(I及びJ)初代ラット膵島のSTZ-誘導アポトーシスに対するPHLDA3発現の効果。単離した膵島を3匹のラットからプールし、コントロール又はPHLDA3 siRNAによりトランスフェクトした。トランスフェクトの75 h後に膵島をSTZ (20 μg/mL)で30分間処理した。膵島を次いで終夜培養し、総RNAを調製し、PHLDA3発現を定量RT-PCRにより(B)と同様に分析し(I), またはTUNEL 染色とFACS分析に供した(J)。
【図5】PHLDA3 肝臓内膵島移植データ 150 IEQs移植
【発明を実施するための形態】
【0013】
PHLDA3は、p53(図1A)の標的遺伝子であり、127 のアミノ酸からなるタンパク質をコードする。PHLDA3 タンパク質は、PIP2 やPIP3 との結合に働くPH ドメインのみから構成され、PHLDA3 タンパク質がAkt とPIP3 の結合を競合的に阻害し、p53 によるAkt 活性抑制経路を担っている(図1 B、C)。

【0014】
本発明において使用するPHLDA3のデータベースのアクセッション番号は、各々ヒトPHLDA3 (Hs00385313_m1)、マウスPHLDA3(Mm00449846_m1)、ラットPHLDA3(Rn01483684_m1)である。これら以外の哺乳動物のPHLDA3の塩基配列およびアミノ酸配列は同様にデータベースに登録されている。

【0015】
PHLDA3はがん抑制遺伝子であるが、本発明者はPHLDA3ノックアウトマウスにおいて膵内分泌腫瘍(NET)は発生せず、PHLDA3とMEN1が同時に欠損又は大幅な機能低下した場合にのみ膵内分泌腫瘍が生じることを確認した。従って、PHLDA3がノックダウンされた膵島移植材料あるいはPHLDA3がノックアウトされた哺乳動物由来の膵島移植材料は、がん化のおそれはなく、移植材料として好適に用いることができる。膵島細胞のPHLDA3のジェノタイプはヘテロ型(+/-)あるいは変異ホモ型(-/-)のいずれでもよく、いずれも膵島の過形成、インスリン分泌の亢進が生じ得る。PHLDA3のヘテロ型(+/-)の膵島/膵島細胞は、膵島細胞の機能、増殖能は十分高く、かつ、MEN1遺伝子の欠損又は大幅な機能低下を生じた場合であっても膵内分泌腫瘍(NET)は生じないため好ましい移植材料である。

【0016】
文献(Mamm Genome. 1999 Dec;10(12):1150-9)は、Tih1(PHLDA3の別名)が多くの臓器、組織で発現することを開示しており、PHLDA3は膵島細胞のみではなく、多くの臓器、組織で同様に機能していることが推測される。従って、PHLDA3のジェノタイプをヘテロ型(+/-)あるいは変異ホモ型(-/-)とするか、或いは膵島以外の臓器・組織についてPHLDA3タンパク質の阻害剤を作用させることで移植用の臓器、組織の細胞のアポトーシスを抑制でき、移植材料の調製時における機能低下を軽減ないし阻止できる。移植用の臓器、組織としては腎臓、肝臓、肺、心臓、小腸、膵臓、膵島などが挙げられる。

【0017】
PHLDA3タンパク質の発現又は機能の阻害剤は、移植細胞の機能を高め、アポトーシスを抑制するので、移植効率向上剤として有用である。

【0018】
好ましい移植材料は膵島であるので、以下は膵島を中心に説明するが膵島以外の臓器・組織の移植材料についても同様である。

【0019】
膵島細胞は、臓器移植用の膵臓から分離されてもよく、ES細胞あるいはiPS細胞などの膵島細胞に分化可能な幹細胞から分化誘導して調製してもよい。ES細胞あるいはiPS細胞はPHLDA3をノックアウトしてもよく、膵島細胞への分化の過程でPHLDA3をノックダウンしてもよい。同様に膵臓から膵島移植材料を調製する場合、PHLDA3をノックダウンしてもよい。さらに、PHLDA3はヘテロ型(+/-)であっても膵島の過形成が生じ(図3A)、膵島細胞の増殖能の亢進、アポトーシスの抑制、インスリン分泌能の向上などの効果はノックダウンと同様に十分に有効である。膵島移植材料は、ヒトの膵臓から調製できるが、PHLDA3のジェノタイプはヘテロ型(+/-)あるいは変異ホモ型(-/-)の非ヒト哺乳動物(ブタが好ましい)の肥大化した膵島を移植材料として利用することができる。

【0020】
PHLDA3のノックダウンは、siRNA、shRNA、マイクロRNAなどのRNAiを利用して行ってもよく、PHLDA3の阻害剤を膵島細胞に作用させてもよい。

【0021】
膵臓からの膵島の分離は、常法に従い行うことができ、例えばコラゲナーゼ灌流液などにより膵臓を処理し、膵島を含む処理物を遠心分離することで行うことができる。PHLDA3のノックダウンは、膵島を分離後に行えばよい。PHLDA3のsiRNAなどは、例えばリポフェクタミン2000などの細胞導入剤を用いて膵島細胞内に導入することができる。膵島移植材料はアルブミンなどを共存させてもよく、冷蔵保存される。

【0022】
膵島細胞の由来は哺乳動物であれば特に限定されない。哺乳動物としては、ヒト、ウシ、ウマ、ブタ、マウス、ラット、ハムスター、ヤギ、ウサギ、イヌ、ネコ、サルなどが挙げられる。たとえばヒトに膵島移植を行う場合、ヒト由来の膵島が好ましいがブタ膵島などの非ヒト哺乳動物由来の膵島をヒトに移植することもできる。

【0023】
膵島移植材料は、膵島細胞のみで構成されてもよく、膵島細胞と生体適合性材料を共存させてもよい。生体適合性材料としては、コラーゲン、接着分子(ラミニン、フィブロネクチン、ナイドジェン)、エラスチン類、プロテオグリカン類、ヒアルロン酸類、グリコサミノグリカン鎖、キトサン、アルギン酸塩、生分解性ポリマー(ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクタムなど)、さらにポリビニルアルコール(PVA)、ハイドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC-Na)、ハイドロキシエチルセルロース(HEC)などのセルロース誘導体、アガロース、デンプン、デキストラン、プルランなどの多糖及びその誘導体、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレンオキサイド、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリ(メタ)アクリル酸等のホモポリマー、或いはこれらと多糖などとの共重合体、混合物及び他のモノマーの共重合体、アルギン酸などのポリアニオンとポリ-L-リジンなどのポリカチオンとのポリイオンコンプレックス膜などが挙げられる。本発明の膵島移植材料は、生体適合性材料によりカプセル化されていてもよい。

【0024】
さらに本発明は、糖尿病治療薬の新しいスクリーニング方法を提供する。具体的には、PHLDA3プロモーターの制御下にレポーター遺伝子を連結した発現ベクターを細胞内に導入し、当該細胞に薬物の候補物質を作用させ、レポーター遺伝子の発現量を低下させる、すなわちPHLDA3の発現を抑制する候補物質を選抜する。PHLDA3の発現を抑制する薬物候補物質は膵島/膵島細胞の増殖、インスリン産生および分泌を増大させることで糖尿病治療薬として有用である。

【0025】
本発明のスクリーニングに用いる細胞は、細菌などの原核細胞、酵母、植物細胞、動物細胞などの真核細胞のいずれでもよいが、真核細胞が好ましく、動物細胞がより好ましい。動物細胞としては、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、サル、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタなどの哺乳類、ニワトリ、アヒルなどの鳥類、カエルなどの両生類、イモリなどの爬虫類、魚介類、昆虫のいずれの細胞でもよく、哺乳類細胞が好ましく、ヒト細胞が最も好ましい。

【0026】
レポーターとしては、lacZ、ルシフェラーゼ(ウミボタル、ホタル、ウミシイタケ、オワンクラゲ、エクオリン)、GFP,YFP,BFP,CFP、DsREDまたはRFPなどの蛍光タンパク質、クロラムフェニコール・アセチルトランスフェラーゼなどが挙げられる。

【0027】
前記細胞は、プロモーターの他に、エンハンサー、転写終結因子、タンパク質コード遺伝子の前の開始コドン(ATG)、イントロンのスプライシングシグナル、終止コドンを含むことができる。

【0028】
PHLDA3遺伝子発現の抑制は、siRNAなどの核酸を用いて行ってもよい。また、糖尿病治療は、PHLDA3タンパク質の機能阻害剤を用いて行ってもよい。PHLDA3 タンパク質はAkt とPIP3 の結合を競合的に阻害するので、PHLDA3 存在下におけるAkt とPIP3 の結合を促進する物質のスクリーニングを行うことにより糖尿病治療薬を得ることができる。

【0029】
PHLDA3タンパク質阻害剤を糖尿病患者に投与すると膵島を再生することができる。さらに、膵臓摘出時に臓器保存液中にPHLDA3タンパク質阻害剤を含ませておき、分離操作中や移植時まで持続的に作用させておけば膵島細胞のアポトーシスが抑制できる。
【実施例】
【0030】
本発明を以下の代表的な実施例によって詳細に説明するが、本発明の範囲は以下に例示される実施態様に限定されるものではない。
【実施例】
【0031】
実施例1:PHLDA3の膵島に対する作用
PHLDA3 遺伝子欠損(+/-、-/-)マウスを論文(Frank D, et al. (2002) Placental overgrowth in mice lacking the imprinted gene Ipl. Proc Natl Acad Sci USA 99(11):7490-7495.)に従い得た。これらのPHLDA3 遺伝子欠損(+/-、-/-)マウスでは膵島の過形成が観察された(図2A)。
【実施例】
【0032】
そこで、本発明者らは、過形成を起こした膵島がどのような細胞により構成されているのかを調べた。膵島は主に、インスリンを産生するβ細胞と、それを取り囲みグルカゴンを産生するα細胞から構成される。これら糖代謝に関わるホルモンを認識する抗体を用いて膵島を免疫染色すると、PHLDA3 遺伝子欠損マウスの膵島では、野生型マウスに比べてインスリン陽性のβ細胞の異常増殖が起きていることがわかった(図2B)。PHLDA3 欠損マウスから単離した膵島ではAkt のリン酸化とそれに伴うAkt の下流因子のリン酸化(S6K とその基質であるS6、またGsk3βやMdm2 のリン酸化)が観察され、Akt/mTOR 経路の活性化が確認された(図3A)。また、PHLDA3 遺伝子欠損マウスにおいて膵島細胞の肥大が観察された(図3B)。さらに我々は、インスリンを産生するβ細胞特異的にアポトーシスを誘導するストレプトゾトシン(STZ)をPHLDA3 遺伝子野性型および欠損マウスに投与した。STZ を投与したマウスにおけるβ細胞のアポトーシスは、血中のグルコース濃度の上昇を指標として検出する。STZ 投与後のPHLDA3 遺伝子欠損マウスの血中グルコース濃度は、野生型マウスに比べて有意に低く(図3C)、PHLDA3 遺伝子欠損マウスにおいてはβ細胞の減少が抑制されており(図3D)、PHLDA3 遺伝子欠損β細胞がアポトーシス抵抗性になっている事が示された。
【実施例】
【0033】
これらの結果から、PHLDA3を抑制することで膵島を保護し、糖尿病を治療できることが明らかになった。
【実施例】
【0034】
また、PHLDA3 遺伝子部分欠損(+/-)マウスは完全欠損(-/-)マウスと同様な膵島細胞に対する作用が観察され、PHLDA3はノックアウトする必要はなく、発現量を少し低下させ(ノックダウン)、がん化のリスクなしに糖尿病治療が可能であることが実証された。
【実施例】
【0035】
実施例2:膵島細胞のsiRNAによるノックダウンの効果
膵NETは膵島分泌細胞由来である。膵島 β 細胞におけるPHLDA3の機能を分析するために、膵臓β細胞由来の細胞株であるRIN細胞及びMIN6細胞を調べた(図4A-4E)。RIN細胞は検出可能なレベルのPHLDA3発現を有するが、MIN6は非常に低いレベルのPHLDA3発現しか示さなかった。本発明者は最初に機能獲得アプローチを使用してPHLDA3がMIN6 細胞におけるAkt のリプレッサーとして機能することを確認した。図4Aに示されるように、PHLDA3の発現はAkt 活性化レベルの低下とAkt下流のシグナリング分子のリン酸化の減少をもたらす。同様な結果は、PHLDA3-/-マウス胎児線維芽細胞を用いても得られた。次に、本発明者はPHLDA3に対するsiRNA を用いてRIN 細胞におけるPHLDA3発現のノックダウンを行い(図4B及び4C)、増大したAkt活性化と細胞増殖を確認した(図4D及び4E)。本発明者は正常な初代ラット膵島細胞を用いて同様な結果を得た。すなわち、PHLDA3発現のノックダウンはグルコース刺激の存在下及び非存在下でAkt活性化と有意な細胞増殖促進を生じた(図4F-4H)。次に、本発明者はインスリン産生β細胞特異的な毒性を示すストレプトゾトシン(STZ)により誘発された膵島細胞のアポトーシスに対するPHLDA3発現の効果を分析した。siRNAによるPHLDA3発現の抑制は単離されたラット膵島においてあまり強くなかったが(図4I)、このノックダウンはSTZ処理によるアポトーシス細胞数を有意に減少した(図4J)。これらの結果は、PHLDA3のノックダウンが膵島細胞の増殖を促進し、アポトーシスを抑制することを実証する。
【実施例】
【0036】
実施例3:肝臓内膵島移植
PHLDA3遺伝子はp53標的遺伝子であり、これを介して癌遺伝子Aktを抑制することで発がんを抑制する。PHLDA3は肺・膵神経内分泌腫瘍の発症抑制に関与していることが明らかになったが、その検討の際、PHLDA3の抑制により、膵臓内の膵ランゲルハンス島(膵島:血糖のコントロールに関与)が過形成を起こし、通常に比べ大きく、またその内容はベータ細胞(インスリンの分泌に関与)のみが増殖していることが明らかになった。この結果は、PHLDA3の操作により膵島の機能が通常よりも向上されることを示唆するものであり、膵島を移植することで血糖の是正を図る糖尿病の細胞治療:膵島移植に応用できるのではないかと考えられた。そこでわれわれは、PHLDA3ノックアウトマウス(以降KO)より膵島を分離・確保し、糖尿病マウスに移植することで、野生型のマウス(以降WT)の膵島に比べ膵島移植の効果が向上するか検討を進めている。
【実施例】
【0037】
・PHLDA3 KO膵島の肝臓内移植の治療効果
臨床における膵島移植は門脈を介して肝臓に生着させる肝臓内移植が主流である。まず、肝臓内膵島移植におけるPHLDA3 KO膵島の治療効果をWT膵島移植群と比較することで検討した。移植膵島は150であるが、これは血糖値を正常化させるために必要最低限の膵島数(マージナルドナー数)を下回る(我々の検討では、肝臓内膵島移植に必要なマージナルドナー数は200-300膵島である)。図5A. 肝臓内膵島移植後の糖尿病マウスの血糖推移を示す。移植後56日までの評価であるが、PHLDA3 KO膵島移植群はWT膵島移植群に比べ、特に移植後42以降劇的に血糖が改善した。図5B. KO膵島移植群において血糖が正常化(200mg/dL以下)したマウスも多く、WTが10%であったのに対し、KOは42%であった(有意差はなし)。図5C. グルコース溶液を腹腔内投与した後の経時的な血糖推移(糖負荷試験)を示す。縦軸は血糖値の時間経過の積(血糖変化面積:GTT-AUC)であるが、KO群で有意に低値であった。これはKOにおける糖負荷後の血糖変化がWTに比べ低値で経過したことを示す。図5D. 移植後の血清インスリン値の変化を示す。これも有意差はないものの、KOはWTに比べ高値であった。移植後の基礎血清インスリン値に上昇傾向がみられ、KO移植群における耐糖能の改善につながったものと考えられた。図5E. 移植後56日にマウスより肝臓を摘出し、標本観察を行い、生着した膵島の数を比較した。WT群では膵島の生着が見られないものが多かったのに対し、KO群ではほとんどのサンプルに膵島が確認できた。有意差こそないが、KO群で多くの膵島が生着している傾向が認められた。
【実施例】
【0038】
以上より、肝臓内移植の系でKO群に優れた耐糖能の改善効果が認められた。肝臓内移植は門脈、すなわち血管内の移植であるため、膵島の脱落の原因となる急性の凝固反応や、膵島そのものが末梢血管を塞栓するために起こる虚血が誘導され過酷な移植環境であると考えられている。今回の結果より、PHLDA3 KO膵島はこれらの条件、すなわち急性ストレスに対する抵抗性があると考えられる。PHLDA3の操作により、肝臓内膵島移植の移植効果が劇的に改善される可能性が示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0039】
1型糖尿病患者数については、年齢別に、子供の1 型糖尿病は世界的に急増、世界の15 歳以下の1 型糖尿病の子供の数は49 万5100 人、15~25歳の患者数はこれ以上であり、さらには25才以上の人も含めると総患者数は何百万人存在する。若い人では血糖管理が比較的容易であるが、30 才台以降の人では管理が難しく、膵島移植を希望する人が多い。現在、膵島移植は、全世界で年間数十例の患者に行われている。
【0040】
PHLDA3 発現を抑制した膵島やPHLDA3 遺伝子欠損ブタから得られる膵島は移植後の生着率が高く糖尿病治療に非常に有効である。さらにはPHLDA3 低分子阻害剤が開発されれば、膵島頑強化・増幅・移植成績向上も可能であり、2型糖尿病における膵島細胞の機能低下を遅延もしくは抑制できる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4