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明細書 :組織片

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成29年7月27日(2017.7.27)
発明の名称または考案の名称 組織片
国際特許分類 C12N   5/077       (2010.01)
C12M   1/00        (2006.01)
C12M   3/00        (2006.01)
C12M   1/34        (2006.01)
C12Q   1/06        (2006.01)
FI C12N 5/077
C12M 1/00 A
C12M 3/00 A
C12M 1/34 A
C12Q 1/06
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 53
出願番号 特願2016-554142 (P2016-554142)
国際出願番号 PCT/JP2015/079364
国際公開番号 WO2016/060260
国際出願日 平成27年10月16日(2015.10.16)
国際公開日 平成28年4月21日(2016.4.21)
優先権出願番号 2014212008
2014212010
2014212014
優先日 平成26年10月16日(2014.10.16)
平成26年10月16日(2014.10.16)
平成26年10月16日(2014.10.16)
優先権主張国 日本国(JP)
日本国(JP)
日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KN , KP , KR , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ , UA , UG , US
発明者または考案者 【氏名】劉 莉
【氏名】李 俊君
【氏名】南 一成
【氏名】陳 勇
【氏名】中辻 憲夫
出願人 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100101454、【弁理士】、【氏名又は名称】山田 卓二
【識別番号】100062144、【弁理士】、【氏名又は名称】青山 葆
【識別番号】100106518、【弁理士】、【氏名又は名称】松谷 道子
【識別番号】100138911、【弁理士】、【氏名又は名称】櫻井 陽子
審査請求 未請求
テーマコード 4B029
4B063
4B065
Fターム 4B029AA07
4B029AA08
4B029BB11
4B029CC11
4B029FA15
4B029GA08
4B029GB09
4B063QA01
4B063QQ08
4B063QR77
4B063QS39
4B063QX04
4B065AA90X
4B065AA93X
4B065AB01
4B065BB03
4B065BB11
4B065BB12
4B065BB15
4B065BB25
4B065BB37
4B065BC03
4B065BC07
4B065BC41
4B065BD45
4B065CA44
4B065CA46
要約 本発明は、配列構造を示す培養細胞を含む組織片、特に心筋組織片を得る方法であって、配向性ファイバーシート上で細胞を培養することを含む、方法を提供する。本発明はまた、本発明の方法により製造される組織片を提供する。
また、本発明は、細胞の電気生理学的機能を評価するためのデバイス、並びに細胞の電気生理学的機能を評価するための方法を提供する。本発明はさらに、細胞培養用シートを提供する。
特許請求の範囲 【請求項1】
配向性ファイバーシートと、該配向性ファイバー上の培養心筋細胞とを含む、心筋組織片。
【請求項2】
配向性ファイバーシートが培養心筋細胞層の間に介在している、心筋組織片。
【請求項3】
該心筋細胞が多能性幹細胞から誘導された心筋細胞である請求項1または2に記載の心筋組織片。
【請求項4】
配向性ファイバーシートにおけるファイバーの直径が0.1μm~5μm、シートの幅1mm当たりのファイバーの本数30~15000本、シートの厚みが0.1μm~20μmである、請求項1~3いずれかに記載の心筋組織片。
【請求項5】
心筋細胞層の数が10層以上である、請求項1~4いずれかに記載の心筋組織片。
【請求項6】
配向性ファイバーシートが生体内分解性の材料で構成されている、請求項1~5いずれかに記載の心筋組織片。
【請求項7】
配向性ファイバーシートが分解されにくい素材で構成されている、請求項1~5いずれかに記載の心筋組織片。
【請求項8】
配向性ファイバーシートが、周囲にフレーム部を有する、請求項1~7何れかに記載の心筋組織片。
【請求項9】
フレーム部が配向性ファイバーシートと同一素材で構成されている、請求項8記載の心筋組織片。
【請求項10】
フレーム部が配向性ファイバーシートと別素材で構成されている、請求項8記載の心筋組織片。
【請求項11】
複数の配向性ファイバーシートと、該複数の配向性ファイバーシート上で培養された複数の心筋細胞層を含み、配向性ファイバーシートが同一配向方向にて心筋細胞層間に介在している、請求項1~10いずれかに記載の心筋組織片。
【請求項12】
さらに培養用チャンバー部分を有し、該心筋細胞が、該配向性ファイバーシート上の培養用チャンバー中にある、請求項1~4、6および7いずれかに記載の心筋組織片。
【請求項13】
該心筋細胞のβ-MHCの発現量が成人の正常心筋細胞の10%以上である、請求項1~12いずれかに記載の心筋組織片。
【請求項14】
細胞の機能評価に用いるための、請求項1~13いずれかに記載の心筋組織片。
【請求項15】
移植に用いるための、請求項6、8~11および13いずれかに記載の心筋組織片。
【請求項16】
複数の心筋組織片を配向性ファイバーシートの配向が同一となるよう重ねて培養する工程を含む、請求項11に記載の心筋組織片の製造方法。
【請求項17】
得られた心筋組織片の電気信号を、該心筋組織片と接触させた多電極アレイにより検出して心筋細胞の機能を評価する工程をさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
請求項14に記載の心筋組織片を多電極アレイに接触させて電気信号を検出することを含む、心筋細胞の機能評価方法。
【請求項19】
細胞機能を指標に医薬候補物質の有効性の評価を行う、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
細胞機能を指標に物質の安全性の評価を行う、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
滅菌された包装材および、その中に封入されている請求項1~15いずれかに記載の心筋組織片を含む製品。
【請求項22】
多電極アレイおよび、該多電極アレイ上の配向性ファイバーシートを含む、心筋細胞機能評価用デバイス。
【請求項23】
該配向性ファイバーシート上に培養用チャンバー部分をさらに有する、請求項22に記載の心筋細胞機能評価用デバイス。
【請求項24】
該培養用チャンバー部分の中に培養心筋細胞をさらに含む、請求項23に記載の心筋細胞機能評価用デバイス。
【請求項25】
請求項24記載のデバイスの培養心筋細胞の電気信号を多電極アレイにより検出する工程を含む、心筋細胞機能評価方法。
【請求項26】
シート状細胞培養部と該細胞培養部の周囲にフレームを含む、細胞培養用シート。
【請求項27】
該シート状細胞培養部がファイバーシートである、請求項26に記載の細胞培養用シート。
【請求項28】
シート状細胞培養部とフレームが同一素材で構成されている、請求項26または27に記載の細胞培養用シート。
【請求項29】
該シート状細胞培養部とフレームが異なる素材で構成されている、請求項26または27に記載の細胞培養用シート。
【請求項30】
該ファイバーシートにおいて、ファイバーがランダムな構造を有する、請求項27~29いずれかに記載の細胞培養用シート。
【請求項31】
該ファイバーシートにおいて、ファイバーが配向性の構造を有する、請求項27~29いずれかに記載の細胞培養用シート。
【請求項32】
該ファイバーシートが生体内分解性の素材で構成されている、請求項27~31いずれかに記載の細胞培養用シート。
【請求項33】
該ファイバーシートが分解されにくい素材で構成されている、請求項27~31いずれかに記載の細胞培養用シート。
【請求項34】
フレーム上に、スペーサーをさらに備える、請求項26~33いずれかに記載の細胞培養用シート。
【請求項35】
請求項26~34何れかに記載の細胞培養用シートと、該細胞培養用シート上の培養細胞を含む、組織片。
【請求項36】
複数の細胞培養用シートが培養細胞層間に介在している、請求項35記載の組織片。
【請求項37】
滅菌された包装材および、その中に封入されている請求項35または36に記載の組織片を含む製品。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、配列構造を示す培養細胞を含む組織片を得る方法を提供する。本発明はまた、本発明の方法により製造される組織片を提供する。
本発明はさらに、細胞の電気生理学的機能を評価するためのデバイス、並びに細胞の電気生理学的機能を評価するための方法を提供する。本発明はまた、細胞培養用シートを提供する。
【背景技術】
【0002】
心筋梗塞を始めとする重症心不全疾患の患者は日本で約80万人おり、年間約18万人が死亡している。現在のところ心臓移植が唯一の有効な治療法であるが、日本では極めて深刻なドナー不足であり、また免疫拒絶反応などの問題を抱えている。多能性幹細胞(例えば、胚性多能性幹細胞(ES)や人工多能性幹細胞(iPS))の樹立によって、心臓移植に代わる治療法として、心筋細胞再生治療による心筋機能を回復させることが出来ると期待されている。臨床において移植治療に用いるためには、生体内と同じ配列構造を模倣し、高成熟で安全な心筋組織片を得る必要がある。
【0003】
ヒトES/iPS細胞から心筋細胞を誘導する方法は種々提案されている。現在心筋細胞の誘導に使用されている最も一般的な方法は、胚様体のサイトカイン(例えば、DKK1、bFGF、アクチビンA(ActivinA)、およびBMP4)との懸濁培養、またはマウスEND2(近位内胚葉(visceralendoderm)様細胞)との接着共培養である(非特許文献1~4)。
【0004】
また本発明者らは、新規低分子化合物を用いた安定で高効率な臨床グレードの心筋分化誘導法(~98%)を提案している(非特許文献5、特許文献1)。かかる方法にて誘導した心筋細胞も、分化した細胞はヒト心筋細胞の重要な成熟マーカーであるβ-MHC遺伝子発現量が成体ヒト心臓の発現量と比べて少ない(~10%)、心筋配列組織構造を持たず、電気生理学的にも十分な成熟度が得られないという課題が残る。
【0005】
心筋細胞移植法として提案されている方法には大別すると以下の2種類がある:(1)心不全の疾患部に細胞を直接注射する方法(2)心筋細胞をシート状に成形し、疾患部に移植する方法。
【0006】
ヒトES細胞由来心筋細胞の直接注射法によって、モルモットの心筋梗塞を改善することに成功したとの報告がある(非特許文献6)。しかしながら直接注射法では、注入した細胞溶液が心筋組織より流出する、血流にのって全身に散布されるなど、細胞移植の効率が低いことが指摘されている。また生着する細胞が数%以下であり、治療効果も十分ではないと考えられている。
【0007】
また、細胞シート技術として温度応答性培養皿を用いた細胞のシート化技術が提案されている(非特許文献7)。かかる技術を用いて心筋シートを作成し、これを移植する臨床試験が開始されている。しかし、この技術を用いて構築された心筋シートは細胞が単層で、配向性がなくランダムに分布され、生体内の心筋構造を模倣することができない。そのため、心筋細胞収縮力が弱い、成熟度が低い、強度が低くハンドリングが難しいなどの課題が依然として残されている。また、支持体上に形成されたままで移植可能な心筋細胞シートの製造については未だ報告されていない。
【0008】
より効果的な移植やアッセイに使用するため、生体内細胞構造を模倣した構造の組織片の作製が望まれており、マイクロエンジニアリング手法で生体内細胞構造を模倣する研究が注目されている。例えば生体内において、心筋細胞は配列構造を有しており、マイクロラインや、マイクロパンチや、ファイバーなどの手法によって、培養心筋細胞を配列化させる試みが報告されている(非特許文献8~14)。
【0009】
医薬品の開発における安全性の評価には従来、動物由来の初代培養細胞や動物が使用されてきたが、ヒトの生体組織の細胞と機能との種差、ロットによる差など様々な問題を抱えている。また、現在では、全ての領域の医薬品について心毒性心電図QT延長に関する非臨床実験の実施を求める指針がある。iPS細胞のような多能性幹細胞から心筋細胞を誘導し、これを培養して得られる心筋組織片を用いて薬物の毒性評価や動態評価に応用することに対する産業界の需要は高い。
【0010】
細胞の電気生理学的評価には、細胞内電位を記録することができるパッチクランプ法がよく使われている。しかしながらパッチクランプ法には、パッチ電極により細胞が侵襲され、長期間の測定が難しい。また、手技が難しくスクリーニングに向かない。
【0011】
多電極技術の発展により、多電極上でヒトES/iPS細胞由来の心筋細胞を培養し、その電気生理学機能を評価することが可能となっている(非特許文献15および16)。この技術は細胞外電位活動を測定するため、細胞にダメージを与えずに、細胞培養しながらその機能を長期間観察・測定することができる。この技術により創薬スクリーニングに欠かせない薬物の毒性評価のみならず、ヒトES細胞及びiPS細胞のような多能性幹細胞から心筋細胞への分化誘導および成熟度プロセスをモニタリングすることも可能となっている。
【0012】
従来の心筋分化誘導法で得られる心筋細胞組織は心筋細胞の向きがバラバラで配向されておらず筋収縮力が弱い、QT延長実験等心電図を取得すると頻繁に不整脈が発生する、電極との接着性が弱く、長期培養ができないなど、創薬スクリーニングの応用に用いるための、安定した評価システムとして提供するにはまだまだ課題が残る。そもそも、心筋細胞がランダム、あるいは塊状に増殖した心筋細胞組織からの電気信号は、生体内の心筋組織における挙動を十分に模倣しているとは言い難い。
【先行技術文献】
【0013】

【特許文献1】国際出願公開第2013/111875号公報
【0014】

【非特許文献1】Laflamme,M.A. & Murry,C.E. Heart regeneration. Nature 473,326-335(2011).
【非特許文献2】Rajala,K.,Pekkanen-Mattila,M. & Aalto-Setala,K. Cardiac differentiation of pluripotent stem cells. Stem Cells Int 2011,383709(2011).
【非特許文献3】Yang,L. et al. Human cardiovascular progenitor cells develop from a KDR+ embryonic-stem-cell-derived population. Nature 453,524-528(2008).
【非特許文献4】Paige,S.L. et al. Endogenous Wnt/beta-catenin signaling is required for cardiac differentiation in human embryonic stem cells. PLoS One 5,e11134(2010).
【非特許文献5】Minami I,et al. A small molecule that promotes cardiac differentiation of human pluripotent stem cells under defined,cytokine- and xeno-free conditions. Cell Rep. 2012 Nov 29; 2(5): 1448-60.
【非特許文献6】Shiba Y,et al. Human ES-cell-derived cardiomyocytes electrically couple and suppress arrhythmias in injured hearts. Nature 489,322-325(2012)
【非特許文献7】Kawamura M,et al. Enhanced survival of transplanted human induced pluripotent stem cell-derived cardiomyocytes by the combination of cell sheets with the pedicled omental flap technique in a porcine heart. Circulation,128,587-594(2013)
【非特許文献8】D.-H. Kim et al. “Nanoscale cues regulate the structure and function of macroscopic cardiac tissue constructs” PNAS. 12(2),565-570(2010)
【非特許文献9】D.-H. Kim et al. “Nanopatterned cardiac cell patches promote stem cell niche formation and myocardial regeneration” Integrative Biology 4,1019-1033(2012)
【非特許文献10】Donghui Zhang et al. “Tissue-engineered cardiac patch for advanced functional maturation of human ESC-derived cardiomyocytes” 34 5813-5820(2013)
【非特許文献11】C.-W Hsiao et al. “Electrical coupling of isolated cardiomyocyte clusters grown on aligned conductive nanofirous meshes for their synchronized beating” Biomaterials 34,1063-1072(2013)
【非特許文献12】X. Zong et al. “Electrospun fine-textured scaffolds for heart tissue constructs” Biomaterials 26,5330-5338(2005)
【非特許文献13】I. C. Parrag et al. “Fiber alignment and coculture with fibroblasts improves the differentiated phenotype of murine embryonic stem cell-derived cardiomyocutes for cardiac tissue engneering” 109(39),813-822(2012)
【非特許文献14】J. Wang et al. “Effect of engineered anisotropy on the susceptibility of human pluripotent stem cell-derived ventricular cardiomyocytes to arrhythmias” Biomaterials 34(35),8878-8886(2013)
【非特許文献15】Otsuji T. G. et al. Progressive maturation in contracting cardiomyocytes derived from human embryonic stem cells: Qualitative effects on electrophysiological responses to drugs. Stem Cell Research,4,201-213(2010)
【非特許文献16】A. L. Lahti,et al. Silvennoinen and K. Aalto-Setala “Model for long QT syndrome type 2 using human iPS cells demonstrates arrhythmogenic characteristics in cell culture. Sisease Models & Mechanisms,5,220-230(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の第一の態様においては、一方向に配列された培養細胞を有する組織片、例えば心筋組織片を得ることのできる細胞培養用方法を提供することを目的とする。本発明はまた、当該方法を用いて得られる、配列された培養細胞を有する組織片並びに当該組織片の評価方法を提供することを目的とする。
本発明の第二の態様においては、培養細胞の電気生理学的機能を評価するためのデバイスを提供することを目的とする。
本発明の第三の態様においては、細胞培養の足場材として用いられる細胞培養用シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、下記を提供する:
(1) 配向性ファイバーシートと、該配向性ファイバー上の培養心筋細胞とを含む、心筋組織片。
(2) 配向性ファイバーシートが培養心筋細胞層の間に介在している、1の心筋組織片。
(3) 該心筋細胞が多能性幹細胞から誘導された心筋細胞である請求項1または2に記載の心筋組織片。
(4) 配向性ファイバーシートにおけるファイバーの直径が0.1μm~5μm、シートの幅1mm当たりのファイバーの本数30~15000本、シートの厚みが0.1μm~20μmである、1~3いずれかに記載の心筋組織片。
(5) 心筋細胞層の数が10層以上である、1~4いずれかに記載の心筋組織片。
(6) 配向性ファイバーシートが生体内分解性の材料で構成されている、1~5いずれかに記載の心筋組織片。
(7) 配向性ファイバーシートが分解されにくい素材で構成されている、1~5いずれかに記載の心筋組織片。
(8) 配向性ファイバーシートが、周囲にフレーム部を有する、1~7何れかに記載の心筋組織片。
(9) フレーム部が配向性ファイバーシートと同一素材で構成されている、8記載の心筋組織片。
(10) フレーム部が配向性ファイバーシートと別素材で構成されている、8記載の心筋組織片。
(11) 複数の配向性ファイバーシートと、該複数の配向性ファイバーシート上で培養された複数の心筋細胞層を含み、配向性ファイバーシートが同一配向方向にて心筋細胞層間に介在している、1~10いずれかに記載の心筋組織片。
(12) さらに培養用チャンバー部分を有し、該心筋細胞が、該配向性ファイバーシート上の培養用チャンバー中にある、1~4、6および7いずれかに記載の心筋組織片。
(13) 該心筋細胞のβ-MHCの発現量が成人の正常心筋細胞の10%以上である、1~12いずれかに記載の心筋組織片。
(14) 細胞の機能評価に用いるための、1~13いずれかに記載の心筋組織片。
(15) 移植に用いるための、6、8~11および13いずれかに記載の心筋組織片。
(16) 複数の心筋組織片を配向性ファイバーシートの配向が同一となるよう重ねて培養する工程を含む、11に記載の心筋組織片の製造方法。
(17) 得られた心筋組織片の電気信号を、該心筋組織片と接触させた多電極アレイにより検出して心筋細胞の機能を評価する工程をさらに含む、16に記載の方法。
(18) 14に記載の心筋組織片を多電極アレイに接触させて電気信号を検出することを含む、心筋細胞の機能評価方法。
(19) 細胞機能を指標に医薬候補物質の有効性の評価を行う、18に記載の方法。
(20) 細胞機能を指標に物質の安全性の評価を行う、18に記載の方法。
(21) 滅菌された包装材および、その中に封入されている1~15いずれかに記載の心筋組織片を含む製品。
(22) 多電極アレイおよび、該多電極アレイ上の配向性ファイバーシートを含む、心筋細胞機能評価用デバイス。
(23) 該配向性ファイバーシート上に培養用チャンバー部分をさらに有する、21に記載の心筋細胞機能評価用デバイス。
(24) 該培養用チャンバー部分の中に培養心筋細胞をさらに含む、23に記載の心筋細胞機能評価用デバイス。
(25) 24記載のデバイスの培養心筋細胞の電気信号を多電極アレイにより検出する工程を含む、心筋細胞機能評価方法。
(26) シート状細胞培養部と該細胞培養部の周囲にフレームを含む、細胞培養用シート。
(27) 該シート状細胞培養部がファイバーシートである、26に記載の細胞培養用シート。
(28) シート状細胞培養部とフレームが同一素材で構成されている、26または26に記載の細胞培養用シート。
(29) 該シート状細胞培養部とフレームが異なる素材で構成されている、26または27に記載の細胞培養用シート。
(30) 該ファイバーシートにおいて、ファイバーがランダムな構造を有する、27~29いずれかに記載の細胞培養用シート。
(31) 該ファイバーシートにおいて、ファイバーが配向性の構造を有する、27~29いずれかに記載の細胞培養用シート。
(32) 該ファイバーシートが生体内分解性の素材で構成されている、27~31いずれかに記載の細胞培養用シート。
(33) 該ファイバーシートが分解されにくい素材で構成されている、27~31いずれかに記載の細胞培養用シート。
(34) フレーム上に、スペーサーをさらに備える、26~33いずれかに記載の細胞培養用シート。
(35) 26~34何れかに記載の細胞培養用シートと、該細胞培養用シート上の培養細胞を含む、組織片。
(36) 複数の細胞培養用シートが培養細胞層間に介在している、35記載の組織片。
(37) 滅菌された包装材および、その中に封入されている35または36に記載の組織片を含む製品。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、配列した培養細胞を含む組織片を得ることができる。生体内において配列構造を取る心筋細胞などを本発明の方法によって培養して得られる配列構造を有する心筋組織片は、ランダムに増殖させた培養細胞と比べて成熟度が高く、また不整脈を生じ難い等、移植や薬物スクリーニングにおいて好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】配向性ファイバーシート上での心筋組織片の製造および、配向性ファイバーシートを貼り付けた多電極アレイシステムによる心筋細胞機能評価の一態様の概略図を示す。
【図2A】エレクトロスピニング法により製造したPLGA配向性ファイバーシート(AF)およびランダムファイバーシート(RF)を電子顕微鏡により撮影した写真。
【図2B】PLGA配向性ファイバーシート(AF)およびランダムファイバーシート(RF)を構成するファイバーの直径の分布を示す。
【図2C】PLGA配向性ファイバーシート(AF)およびランダムファイバーシート(RF)の弾力性を示す。
【図2D】エレクトロスピニングにより紡糸する際の、PLGAファイバーの素材濃度の変化によるファイバー直径の変化を示す。
【図2E】噴出時間40秒にて作製したPLGA配向性ファイバーシート中のファイバーの配向性を示す。
【図2F】エレクトロスピニング法における噴出時間を90秒(左)および300秒(右)の条件下で製造したPMGI配向性ファイバーシートの顕微鏡撮影写真。スケールバーは50μmを示す。
【図2G】噴出時間90秒にて製造したPMGI配向性ファイバーシートの配向性を示す。
【図2H】図2Fに示すそれぞれのPMGI配向性ファイバーシートの厚みを示す。
【図2I】図2Fに示すそれぞれのPMGI配向性ファイバーシートの、シートの厚み1mmあたりのファイバーの本数を示す。
【図3A】PLGA配向性ファイバーシート(AF)、ランダムファイバーシート(RF)、ゼラチンコーティングしたフラット基板またはPLGAコーティングしたフラット基板上に播種した心筋細胞の接着性を示す。
【図3B】エレクトロスピニングによる噴出時間10秒、40秒、10分、15分の条件下で作製したPLGA配向性ファイバーシートを示す。
【図3C】図3Bの条件下で作製したPLGA配向性ファイバーシートの厚みを示す。
【図3D】図3Bの条件下で作製したPLGA配向性ファイバーシートにおける、シートの幅1mmあたりのファイバーの本数を示す。
【図3E】図3Bの条件下で作製したPLGA配向性ファイバーシートに対する細胞接着性を示す。
【図3F】高密度および低密度PMGI配向性ファイバーシートおよびゼラチンコーティングした基板上でそれぞれ培養したヒトiPS(IMR90-1)細胞由来心筋細胞の接着性を示す。
【図4A】PMGI配向性ファイバーシートを多電極アレイに貼り付け、さらにPDMS培養用チャンバーをその上に設けたデバイスの写真。
【図4B】PS配向性ファイバーシート(左図)およびPLGA配向性ファイバーシート(右図)を多電極アレイに接着させたデバイスの写真。
【図5A】PMGI配向性ファイバーシートを貼り付けた多電極アレイ(AF)およびゼラチンコーティングした多電極アレイ(Flat)上で2日間培養した心筋細胞の写真。
【図5B】多電極アレイ上に貼り付けたPMGI配向性ファイバーシート上で14日間培養した心筋細胞の写真(左)、および多電極アレイより取り外した配向性ファイバー部分(右上)並びに多電極アレイ部分(右下)を示す。
【図5C】PMGI配向性ファイバーシートを貼り付けた多電極アレイ(AF)およびゼラチンコーティングした多電極アレイ(Flat)上で心筋細胞を14日間培養した際の電気シグナルの経時的な検出を示す。
【図5D】PMGI配向性ファイバーシートを貼り付けた多電極アレイ(AF)並びにゼラチンコーティングした多電極アレイ(Flat)上でそれぞれ32日間および14日間培養した心筋細胞の写真。
【図5E】PLGA配向性ファイバーシート(AF)、ランダムファイバーシート(RF)およびゼラチンコーティングした多電極アレイ(Flat)上の心筋細胞の電気活動シグナル検出率を示す。
【図5F】多電極アレイ上に配したゼラチンコーティングした多電極アレイ(Flat)上で10日間培養した心筋細胞(左)およびPLGA配向性ファイバーシート(AF)上で32日間培養した心筋細胞(右)を示す。
【図6A】PMGI配向性ファイバーシートを貼り付けた多電極アレイ(AF)並びにゼラチンコーティングした多電極アレイ(Flat)上で14日間培養した心筋細胞の電気活動パターンを示す。
【図6B】図6Aの電気活動パターンにおいて検出される不整脈の頻度(%)を示す。
【図6C】PMGI配向性ファイバーシートを貼り付けた多電極アレイ(AF)およびゼラチンコーティングした多電極アレイ(Flat)上で6日間培養した心筋細胞の活動電位の振幅を示す。
【図6D】図6Aの各電極上で14日間培養した際の電位振幅の経時的な変化を示す。
【図6E】高密度(AF-H)および低密度(AF)のPLGA配向性ファイバーシート、ランダムファイバーシート(RF)およびゼラチンコーティングした多電極アレイ(Flat)上の心筋細胞の電気活動パターンを示す。
【図6F】ゼラチンコーティングしたフラット上の心筋細胞で検出される不整脈(上段)並びに高密度(AF-H)および低密度(AF)のPLGA配向性ファイバーシート、ランダムファイバーシート(RF)およびゼラチンコーティングした多電極アレイ(Flat)上の心筋細胞から検出される不整脈の頻度(下段)を示す。
【図6G】PLGA配向性ファイバーシート(AF)、ランダムファイバーシート(RF)およびゼラチンコーティングした多電極アレイ(Flat)上の心筋細胞の振幅値の経時的変化を示す。
【図7A】PMGI配向性ファイバーシートを貼り付けた多電極アレイ(AF)、およびゼラチンコーティングした多電極アレイ(Flat)上で心筋細胞を14日間培養した後、心筋組織片の一点へ電気刺激を与えた場合の、興奮到達分布図(Activation map)を示す。
【図7B】図7Aのそれぞれのデバイス上の心筋細胞の、培養開始14日後における、興奮の伝播速度を示す。
【図7C】図7Aのぞれぞれのデバイス上の心筋細胞の、培養開始から14日間における、興奮伝播速度の経時的変化を示す。
【図7D】PLGA配向性ファイバーシート(AF)、ランダムファイバーシート(RF)およびゼラチンコーティングした多電極アレイ(Flat)上の心筋細胞の培養開始6日目、14日目における、電気刺激時の電気的興奮の到達分布図を示す。
【図7E】PLGA配向性ファイバーシート(AF)、ランダムファイバーシート(RF)およびゼラチンコーティングした多電極アレイ(Flat)上の心筋細胞の培養開始後6日目、14日目における興奮伝播速度を示す。
【図8A】PMGI配向性ファイバーシートを貼り付けた多電極アレイ(AF)並びにゼラチンコーティングした多電極アレイ(Flat)上で6日間培養した心筋細胞におけるQT間隔を示す。
【図8B】図8Aの各多電極アレイ上で14日間培養した際のQT間隔の経時的な変化を示す。
【図8C】高密度(AF-H)および低密度(AF)のPLGA配向性ファイバーシート、ランダムファイバーシート(RF)およびゼラチンコーティングした多電極アレイ(Flat)上の心筋細胞におけるT波の検出効率の経時的変化を示す。
【図8D】高密度(AF-H)および低密度(AF)のPLGA配向性ファイバーシート、ランダムファイバーシート(RF)およびゼラチンコーティングした多電極アレイ(Flat)上の心筋細胞の培養開始10日目におけるQT間隔延長を示す。
【図8E】高密度(AF-H)および低密度(AF)のPLGA配向性ファイバーシート、ランダムファイバーシート(RF)およびゼラチンコーティングした多電極アレイ(Flat)上の心筋細胞の経時的なQT間隔の変化を示す。
【図8F】PS配向性ファイバーシートが多電極アレイに接着しており、その上にガラスチャンバーを有する機能評価用デバイス(左図)および該デバイス上で培養した心筋細胞の、培養14日目におけるQT間隔を示す。
【図9A】PLGA配向性ファイバーシート(AF)、ランダムファイバー(RF)およびゼラチンコーティングしたフラット(Flat)上の心筋細胞における、心筋細胞特異的なマーカー(α-MHC、β-MHC、MLC2V、TnT2およびα-Actinin)についての免疫染色を行い、ファイバーおよびDAPI染色シグナルとマージした図を示す。
【図9B】図9Aのそれぞれの条件で培養した心筋組織片におけるβ-MHCのRNAレベルをRT-PCRにより検出したグラフを示す。
【図9C】PLGA配向性ファイバーシート(AF、上段)、ランダムファイバーシート(RF、中段)およびゼラチンコーティングしたフラット(Flat、下段)のそれぞれについて、図9AのTnT2についての染色シグナルを高速フーリエ変換した値を示す。
【図9D】PMGI配向性ファイバーシートを貼り付けた多電極アレイ(AF)およびゼラチンコーティングしたフラットな多電極アレイ(Flat)上で心筋細胞を14日間培養して得られた心筋組織片の、心筋細胞マーカー(MCL2Vおよびβ-MHC)ならびにアクチンについての免疫染色像を示す。配向性ファイバーの上で培養された心筋細胞はファイバーの方向に沿って、並んでいることがわかった。
【図10A】PLGA配向性ファイバーシート(AF)およびランダムファイバーシート(RF)上で製造した心筋組織片の電子顕微鏡による撮影図を示す。
【図10B】PMGI配向性ファイバーシート上で心筋細胞を培養して得られた心筋組織片を、急速凍結、ディープエッチ電子顕微鏡法により撮影した心筋組織片内部の構造を示す。
【図11A】PLGA配向性ファイバーシートを貼り付けた多電極アレイ(AF)、ランダムファイバーシートを貼り付けた多電極アレイ(RF)およびゼラチンコーティングした多電極アレイ(Flat)上で培養した心筋細胞へ、E-4031を添加した際のQT間隔延長を示す。
【図11B】ゼラチンコーティングしたフラットな多電極アレイ上の細胞における、E-4031添加5~10分後における不整脈の検出を示す。
【図11C】E-4031添加5~10後における、図11Aのそれぞれの多電極アレイ上の心筋細胞で検出された、不整脈の頻度(%)を示す。
【図12A】PLGA配向性ファイバーシートの周囲にフレームを有する細胞培養用シートならびに、該シート上で製造した心筋シート。
【図12B】PLGA配向性ファイバーシートの周囲にPLGAフレームを有する、PDMS製スペーサーに接着した細胞培養用シート。
【図12C】PS配向性ファイバーシートの周囲にPDMSフレームを有する、PDMS製スペーサーに接着した細胞培養用シート。
【図12D】粘着剤として市販の粘着剤であるシリコーン一液縮合型RVTゴムを用いて製造した、PLGA配向性ファイバーシートがガラスリングに接着している、細胞培養用シート。
【図12E】生体内分解性素材PLGAの分解性を示す写真。
【図13A】PLGAフレームを有するPLGA配向性ファイバーシート上で作製した心筋組織片を接着させたマウスの心臓を示す。
【図13B】PDMSフレームの三片を切り落として、PLGA配向性ファイバーシート状の心筋組織片を接着させたマウスの心臓を示す。
【図13C】PLGA配向性ファイバーシート上の心筋組織片を移植したヌードラットの心臓(左)における、ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色、ヒト特異的プローブによるin situ ハイブリダイゼーション(ISH)、cTnTの免疫染色像を示す。
【図14A】PLGA配向性ファイバーシート上で作製した単層の心筋組織片の二層化を示す。
【図14B】二層化させた心筋組織片の、二層化1分後および3時間後における拍動を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、配向性ファイバーシート上で細胞を培養する工程を含む、配列構造を有する組織片、例えば心筋組織片の製造方法を提供する。本発明の方法により製造した組織片は、例えば、移植および、例えば多電極アレイシステムを用いた電位測定による細胞機能評価に使用し得る。さらに、該細胞機能評価に基づいて、医薬候補物質の有効性および安全性を評価し得る。

【0020】
本発明はさらに、上記の製造方法により製造された、配向性ファイバーシートおよび、該配向性ファイバーシート上の培養細胞、例えば培養心筋細胞を含む、組織片を提供する。該組織片は、移植に使用しうる。また、多電極アレイシステムによって、電位測定による細胞機能評価およびそれに基づいた、医薬候補物質の安全性および有効性の評価に使用し得る。

【0021】
本明細書ならびに請求の範囲において、「組織片(tissue-like construct)」は、シート状の細胞培養用基材、例えばファイバーシートおよび、該シート状の基材上の培養細胞を含む、複合体を指す。組織片を構成する培養細胞が培養心筋細胞の場合、「心筋組織片(cardiac tissue-like construct)」という。なお、培養細胞から組織片が形成されるという点で、「組織片」を「再生組織片」あるいは「心筋組織片」を「再生心筋組織片」ということがある。

【0022】
本発明に用いられるファイバーシートは、ファイバーが集積されてなるシートである。該ファイバーシートでは、ファイバーはランダムに集積されていても、配向、特に一方向に配向するよう集積されていてもよい。

【0023】
本明細書において、「ランダムファイバーシート」は、ファイバーがランダムに集積されてなるファイバーシートを意味する。「配向性ファイバーシート」は、ファイバーが一方向に配向するよう集積されてなるファイバーシートであって、特に、シートを構成するファイバーのうち60%以上のファイバーが配向方向(0°)の±20°以内にあるものを意味する。好ましくは、シートを構成するファイバーのうち70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上のファイバーが配向方向の±20°以内にある配向性ファイバーシートが用いられる。

【0024】
ファイバーの素材はポリマーである。ファイバーの製造に用いられるポリマーとしては、細胞の増殖および生理活性に有意に影響を及ぼさないものであればよく、使用目的に応じて生体内分解性のものであっても生体内で分解されにくいものであってもよい。例えば、移植に用いる細胞シートの製造に用いる場合には、生体内分解性のものが好適に用いられる。一方、薬物のスクリーニングおよび/または心毒性試験に用いられる組織片の製造に用いる場合には、長期培養向き、強度の高いものが好適に用いられる。

【0025】
生体内分解性のポリマーとしては、医療用素材として知られている素材が好ましく、安全性が確認され、いずれかの先進国において生体内分解性の医療用材料に使用することが認可されているものが特に好適に用いられる。例えばポリビニルアルコール(PVA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ酪酸(PLA)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレン酢酸ビニル(PEVA)、ポリエチレンオキサイド(PEO)およびポリ乳酸とポリグリコール酸の共重合体(PLGA)が挙げられるがこれらに限定されない。PLGAは最終的に生体内で分解し、水と炭酸ガスとなって排出されることが知られている素材であり、特に好適に用いられる。PLGAはPLA(ポリ乳酸)とPGA(ポリグリコール酸)の組み合わせ比率によって、分解スピードを調節することが可能である。

【0026】
生体内で分解されにくいファイバーの素材としては、細胞培養に対して障害となるような成分を含まないものであって、かつファイバーを形成できるものであればよく例えば(ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド(PA)およびポリメチルグルタルイミド(PMGI)が挙げられるが、これらに限定されない。ポリメチルグルタルイミド(PMGI)およびポリスチレン(PS)が特に好適に用いられる。

【0027】
シートを構成するファイバーの直径は特に限定されないが、例えば0.1~5μm、好ましくは0.5~3μm、より好ましくは1~2.5μmのものが例示される。ファイバーの直径は、用いる素材、素材溶液の濃度および製造手法によって変動し得、素材および目的に応じて適宜最適なものを得ればよい。

【0028】
例えば、PLGAおよびPMGIを素材として用いる場合、ファイバーの直径が1~1.5μmであるものが例示される。また、PSを用いる場合は、ファイバーの直径は2~2.5μmであるものが例示される。

【0029】
本発明の組織片に用いる配向性ファイバーシートは、シートの厚みが0.1μm以上、例えば1μm~20μm、好ましくは1μm~15μmのものが好適に用いられる。移植に用い得る組織片には、5~20μm、より好ましくは5~15μmの厚みを有する配向性ファイバーシートが好適に用いられる。多電極アレイを用いた創薬スクリーニングに用い得る組織片製造には、好ましくは1~5μm、より好ましくは2μm~5μmの厚みを有するものが好適に用いられる。

【0030】
配向性ファイバーシートの幅1mmあたりのファイバー数(密度)は、用いるファイバーの直径によって変動し得る。したがって、該配向性ファイバーシートの密度は、用いる素材によって変動し得る。本発明の配向性ファイバーシートの密度は、10本/mm以上、好ましくは30~15000本/mm、より好ましくは50~13000本/mmのものが好適に用いられる。該配向性ファイバーシート幅1mm当たりのファイバーの数は、該シートを配向方向と垂直になるよう切断した断面の、配向方向と垂直方向の単位長さに対するファイバー数をカウントすることによって確認することができる。

【0031】
例えば、ファイバー直径が1~1.5μmである配向性ファイバーシート、例えばPLGAまたはPMGI配向性ファイバーシートは、好ましくは、1mmあたり150~15000本、より好ましくは200~13000本の密度を有する。該配向性ファイバーシートを移植に用い得る組織片の製造に用いる場合は、1mmあたり5000~15000本、より好ましくは8000~13000本の密度を有している配向性ファイバーシートが好ましい。また、該配向性ファイバーシートを、多電極アレイによる機能評価用の組織片製造に用いる場合は、該ファイバーシートは、好ましくは1mmあたり150~1000本、より好ましくは150~500本の密度を有する。

【0032】
例えば、ファイバー直径が2~2.5μmである配向性ファイバーシート、例えばPS配向性ファイバーシートは、好ましくは、1mmあたり30~1000本、より好ましくは50~500本、さらに好ましくは50~300本の密度を有する。該配向性ファイバーシートを移植に用い得る組織片の製造に用いる場合は、1mmあたり150~1000本、より好ましくは200~500本の密度を有している配向性ファイバーシートが好ましい。また、該配向性ファイバーシートを、多電極アレイによる機能評価用の組織片製造に用いる場合は、該ファイバーシートは、好ましくは1mmあたり30~100本、より好ましくは50~100本の密度を有する。

【0033】
本発明の配向性ファイバーシートは、例えばファイバーの素材となるポリマーを含む溶液または懸濁液を用い、エレクトロスピニング法によって製造することができる。エレクトロスピニング法では、ファイバーのコレクターとなるシート、例えばアルミテープのような金属製シートを巻き付けた回転ドラムを用い、ドラムを回転させながらノズルから噴射されるファイバーを回転ドラム上へ巻き取ることで、ファイバーシートを得る態様が例示されるがこれに限定されるものではない。

【0034】
かかる態様の場合には、ポリマーの種類、分子量、溶媒の種類、ポリマー溶液の濃度や温度、ノズルの口径、ポリマー溶液供給速度、ドラムの回転速度、ノズルとコレクターの距離、印可電圧等を調節することによって、所望の径のファイバーからなる所望の構成を有するシートを得ることができる。

【0035】
ポリマー溶液の濃度は、使用するポリマーの種類や分子量、溶媒により異なるため一概にはいえないが、0.1~40wt%に調製することが好ましい。ポリマー濃度が0.1wt%以上であれば生産性に優れ、ファイバー集積シートが得られやすい。また、ポリマー濃度が40wt%以下であれば、ポリマー溶液の粘度が上昇しすぎて、ノズルから噴出しにくくなることを防ぎやすい。

【0036】
ポリマー溶液の溶媒は、上記の濃度でポリマーを溶解させることができれば、特に限定されず、例えば、アセトン、トリアセトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、テトラヒドロフラン等を用いてよい。溶媒は、溶媒が揮発してノズルの先端にポリマーが詰まることを抑制しやすい点から、揮発性の高い溶媒を用いることが好ましい。また、溶媒は、ポリマーの溶解性の向上等のために、複数の溶媒を混合して用いてもよい。

【0037】
印可する電圧は、用いるポリマーの種類や物性により適宜設定すればよい。例えば0.1~50kv、特に1kv~40kvとすることが例示される。

【0038】
ノズルとコレクターの距離は、用いるポリマーの種類や物性、印可電圧により適宜設定すればよい。例えば10~1000mm、特に30mm~500mmとすることが例示される。

【0039】
本発明の配向性ファイバーシートの形状およびサイズは限定的ではなく、目的とする組織片の形状またはサイズに応じて適宜定めればよい。例えば、移植に用いる場合には、移植対象部分に応じて定めればよい。また、多電極システムを用いたアッセイに利用する場合には、使用する多電極アレイにあわせてサイズを定めればよい。

【0040】
本発明の方法により培養できる細胞の種類は、一方向へ配向した状態での培養が望まれる細胞であれば特に限定されない。例えば心筋細胞が例示される。心筋細胞としては、多能性幹細胞、例えばES細胞またはiPS細胞から誘導された細胞が例示される。多能性幹細胞から心筋細胞を誘導する方法は種々知られており、例えば特許文献1および非特許文献5に記載の方法が例示される。また、ES細胞またはiPS細胞由来の心筋細胞として市販されている細胞を用いてもよい。

【0041】
本発明の組織片製造方法においては、配向性ファイバーシート上に細胞を播種し、細胞を培養する。配向性ファイバーシートを通常使用される細胞培養用容器に設置して、細胞を播種して培地中で細胞培養を行えばよい。配向性ファイバーシートは、細胞培養容器の底面に接着させても、または該ファイバーシートを培地中で浮遊させてもよい。シートの接着には、例えば圧着、または、粘着剤、例えば後で剥がすことのできる接着剤を用いて接着する等、種々の方法を用いることができる。粘着剤は、細胞培養に影響を及ぼさない物質であればとくに限定されず、例えば、ポリマー溶液、例えばファイバー製造に用いたものと同じポリマー溶液、PDMSおよび市販の生体適合性粘着剤(例えばシリコーン一液縮合型RVTゴム(信越 KE-45-T))が挙げられる。

【0042】
あるいは、培養用チャンバーを形成して配向性ファイバーシート上に設置し、該チャンバー内で細胞を培養してもよい。本明細書並びに請求の範囲において、「培養用チャンバー」は、細胞培養時に、培地を投入するための壁として設置される構造体を指す。該チャンバーの素材は細胞培養に悪影響を及ぼさない物質であれば特に限定されない。例えば、透明、無毒の特性があり、マイクロ流体材料としてよく使われているポリジメチルシロキサン(PDMS)およびガラスが例示される。また、市販の細胞培養用プレートのごとく、チャンバーが設置された配向性ファイバーシートが複数一体となった構造体、例えば市販の6穴や96穴ウエル細胞培養用プレートの底部が配向性ファイバーシートとなっているごとき構造のものも本態様に含まれる。

【0043】
本発明の方法において細胞培養用培地、培養条件は公知の細胞培養法より培養する細胞、目的に応じて適宜選択すればよい。例えば、培養は、静置した状態で行っても、振盪しながら行ってもよい。本発明の方法により細胞を培養すると、一方向に配向するファイバーの配向方向に沿って培養細胞が配向した組織片を得ることができる。

【0044】
例えば、iPS細胞より誘導された心筋細胞を培養する場合の条件として下記が例示される:
播種:1~100×10/cm
培地:20%FBS含有IMDM(非特許文献5および以下の実施例2に記載)あるいは0.04~0.4%アルブミン含有IMDM(非特許文献5および以下の実施例2に記載)等
培養条件:37℃、5%COインキュベーター内で培養。適宜培地交換を行う。
例えば移植に用いる心筋組織片を調製する場合、かかる条件にて約4~10日培養すればよい。

【0045】
本発明の方法により心筋細胞を播種して培養した場合、生体内に近い配列構造を取る心筋細胞で構成される心筋組織片を得ることができる。本発明の方法により得られる心筋組織片に含まれる心筋細胞においては、細胞の成熟度を示す心筋細胞特異的なマーカーであるβ-MHCの発現が上昇することが確認された。また、かかる心筋細胞の電位活動を多電極アレイ上で調べたところ、生体の心臓において認められるものと類似したQT波形が確認された。

【0046】
本明細書において、「ファイバーシート上」で細胞を培養する、という記載は、ファイバーシートの片面に培養細胞が形成される態様で培養する場合、両面に培養細胞が形成される態様で培養する場合のいずれも含む。培養細胞がファイバーシートのファイバー間に入り込んでいてもよい。また、本明細書並びに請求の範囲における、「ファイバーシート上」の培養細胞または組織片という記載は、ファイバーシートの片面に培養細胞層が形成されている態様、ファイバーシートの両面に培養細胞層が形成されている態様のいずれをも含む。また、ファイバーシートのファイバー間に細胞が入り込んでいてもよい。

【0047】
シートの両面で細胞を培養するには、例えばファイバーシートの周囲にスペーサーを有するシートを用いてもよい。本明細書において、「スペーサー」は、シート面が培養容器の底面と接触しないようにするために、細胞培養用シートの周辺に設置する構造体である。スペーサーの素材は、細胞培養に影響を及ぼさず、かつシートから容易に剥がすことができる素材であれば特に限定されない。例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)およびガラスが例示される。スペーサーの貼り付け方法は限定的ではなく、例えばスペーサーをシートへ圧着する、細胞培養に影響を及ぼさず、後で剥がすことの可能な粘着剤を用いて接着する等、適宜常套の手段を用いればよい。該粘着剤は、細胞に影響を及ぼさないものであればよく、例えば、ポリマー溶液、例えばファイバー製造に用いたものと同じポリマー溶液およびPDMS、および市販の生体適合性粘着剤(例えばシリコーン一液縮合型RVTゴム(信越 KE-45-T))が挙げられる。

【0048】
配向性ファイバーシートにスペーサーを付した場合は、シートの片面に細胞を播種しても、または、片面ずつ順番に細胞を播種してもよい。片面ずつ細胞を播種する場合、まずスペーサーが付された面を上にして培養容器へ置き、シートの片面へ細胞を播種して細胞を接着させる。播種した細胞が接着した後、シートを反転させ、シートの反対面へ細胞を播種する。両面に細胞層を有する組織片を製造する場合、例えば、培養容器ごと振盪しながら培養を行ってもよい。シート両面に培養細胞層が形成されることにより、三次元立体構造を有する組織片を得ることが可能となる。

【0049】
配向性ファイバーシートの両面に培養細胞層を有する組織片は所望により複数重ねて用いても良い。具体的には、スペーサーを備えた細胞培養用シートの両面に培養細胞層を形成させたものを2以上準備し、各配向性ファイバーシートよりスペーサーを外し、2以上の配向性ファイバーシートの配列方向が同じとなるようこれらを重ね合わせる。あるいは振盪培養によって得られた2以上の組織片を同様に重ね合わせる。重ねて培養すると上下の組織片が結合して、一体となった、厚みのある三次元・多層配列構造を有する組織片、例えば心筋組織片を得ることができる。

【0050】
本発明の製造方法により、例えば10層以上の多層構造を有する組織片、例えば心筋組織片を得ることができる。こうして得られる三次元・多層配列構造を有する組織片は、多層構造の間にファイバー層による空隙が設けられることから、多層構造の内部にある細胞へも栄養が届き、組織片の可能な厚みに関する制限が少ない。

【0051】
本発明の製造方法により得られた組織片の性質、例えば細胞成熟度を、例えば、培養用容器またはガラス等の基板に接着して、免疫染色等のアッセイにより調べることができる。例えばiPS細胞から誘導された心筋細胞を本発明の製造方法に用いた場合、心筋細胞マーカーであるβ-MHCが強く発現した、配列構造を有する心筋細胞から構成される心筋組織片を得ることができる。

【0052】
本発明は、本発明の製造方法によって得られる心筋組織片を提供する。本発明の心筋組織片としては、含まれる心筋細胞のβ-MHCの発現量が成人由来の正常心筋細胞の5%以上、10%以上、または15%以上のもの、例えば約20%のものが例示される。

【0053】
本発明はさらに、製造した組織片、例えば心筋組織片の電気信号を、該組織片に接触させた多電極アレイにより検出して細胞機能を評価する工程を含む、組織片製造方法を提供する。

【0054】
本発明はさらに、組織片、例えば心筋組織片を多電極アレイに接触させて電気信号を検出することを含む、細胞の機能評価方法を提供する。

【0055】
培養細胞の細胞外電位を測定できる多電極アレイ(Multiple electrode array:MEA)システムとしては、例えばMulti-channel system MCS GmbH社(ドイツ)のマルチ電極アレイシステムやアルファメッドサイエンティフィック社のMEDシステムなどが市販されている。多電極アレイシステムとは基板上に配した多数の微小電極により複数の細胞からの電気信号を同時に観測し、あるいは細胞や組織へ電気的に刺激を与えて刺激に対する細胞の応答を観測することができるシステムである。多電極アレイシステムを用いることにより、細胞に損傷を与えることなく、細胞の機能を評価することができる。

【0056】
本発明の心筋組織片では、生体内における細胞により近い機能を観察することが期待される。具体的には、多電極アレイシステムによって、活動電位波形を測定し、電気信号を検出可能なチャネルの数、心拍数、電位振幅、QT間隔、T波の検出率、不整脈の有無などに基づいて心筋細胞の機能を評価することができる。

【0057】
本明細書並びに請求の範囲において、「多電極アレイ」とは基板上に微小電極が多数、例えば64個配された電極を意味する。

【0058】
さらに、本発明の心筋組織片を多電極アレイへ接触させ、細胞へ与えた電気刺激や薬物刺激の、細胞機能に対する影響を観察することができる。また、医薬候補物質安全性の評価において、候補物質が致死性の不整脈を発生させる可能性を評価することができる。

【0059】
配向性ファイバーシート上で製造した組織片、例えば心筋組織片を多電極アレイ上に接触させることによって、電気信号を測定することができる。本態様においては、配向性ファイバーシートを含む組織片、例えば心筋組織片を多電極アレイ上に接触させてよい。または、培養用チャンバーを有する配向性ファイバーシートの培養用チャンバー内で細胞を培養し、チャンバーごと多電極アレイ上に接触させてもよい。培養細胞は配向性ファイバーシートへ強く結合し、またシートが丈夫であるため、組織片の取り扱いが容易である。

【0060】
また、移植に用いるために製造した組織片、例えば心筋組織片を、多電極アレイシステムによって評価することも可能である。例えば、移植用組織片の培養と並行して同じ条件で確認用の組織片の培養を行い、適宜、該確認組織片から細胞外電位を計測しながらちょうど良い成熟度となったタイミングで組織片を移植に用いることができる。

【0061】
あるいは、移植用組織片を製造し、移植前に多電極アレイ上で細胞の機能を調べて移植用の組織片の状態が良いことを確認した上で移植することができる。本態様においては、同時に作成した複数の組織片から最も状態の良いものを選んで移植に供することも可能である。

【0062】
例えば、移植用の心筋組織片を作製する場合、その成熟度をQT間隔などを指標に確認して、移植のタイミングを図ることが可能である。さらに、多電極アレイを用い、得られる心筋組織片の拍動を観察して心筋組織片が不整脈を生じにくいことを移植前に確認した上で移植に用いることで、より安全性の高い治療を行うことができる。

【0063】
細胞機能はまた、配向性ファイバーシートを多電極アレイ上へ接着し、該配向性ファイバーシート上で培養している細胞から電気信号を測定することによって評価してもよい。本体用では細胞を培養しながら、当該培養細胞の活動電位を測定することによって、細胞の培養と同時に細胞の機能を評価することができる。

【0064】
本態様においては、細胞培養のために配向性ファイバーシートを貼り付けた多電極アレイごと培養容器へ投入しても、多電極アレイに貼り付けた配向性ファイバーシートが培養液に浸かるよう、多電極アレイ上に貼り付けた配向性ファイバーシート上に培養用チャンバーを設けてもよい。

【0065】
本発明はさらに、多電極アレイおよび、該多電極アレイ上に貼り付けたファイバーシートを含む、細胞機能評価用デバイスを提供する。該デバイスのファイバーシートは、ランダムファイバーシートであっても、または配向性ファイバーシートであってもよい。

【0066】
該デバイスに配向性ファイバーシートを用いる場合、該ファイバーシートは上記配向性ファイバーシートについて説明したような性質、例えば厚み、直径および密度を有していてよい。

【0067】
該細胞機能評価用デバイスは、デバイスごと細胞培養容器内に投入して用いてもよいし、ファイバーシート上に培養用チャンバーを有し、チャンバー内で細胞を培養するものでもよい。また市販の細胞培養用プレートのごとくチャンバーを有するデバイスを複数一体とした態様で提供されてもよい。

【0068】
本発明のデバイスにより、細胞機能の評価ができる細胞は特に限定されない。ファイバーシートが配向性ファイバーシートである場合は、生体内で配列した状態を構成している細胞、例えば心筋細胞の機能の評価に好適に用いられる。心筋細胞は、例えば、多能性幹細胞、例えばES細胞やiPS細胞から誘導された細胞であってもよい。

【0069】
細胞培養にあたっての細胞培養用培地、培養条件は公知の細胞培養法より培養する細胞、目的に応じて適宜選択すればよい。配向性ファイバーシートを貼り付けた多電極アレイ上で細胞を培養すると、一方向に配向するファイバーの配向方向に沿って培養細胞が配列し、多電極アレイ上に配列した培養細胞層が形成される。

【0070】
本発明のデバイスへ心筋細胞を播種して培養した場合、多電極アレイ上に配列した心筋細胞層が形成される。該細胞層は、従来の方法で得られるランダムなあるいは塊状の細胞層よりも、生体内の心筋細胞に近い構造となり、生体内における細胞により近い機能を観察することが期待される。

【0071】
本発明のデバイスは、培養用チャンバー中に培養細胞、例えば培養心筋細胞を有するものとして提供されてもよい。

【0072】
本発明のデバイスは、創薬の種々の段階において好適に用いることができる。具体的には、薬剤スクリーニングにおいて、医薬候補物質の有効性および/または安全性の評価に用いることができる。

【0073】
したがって、本発明はさらに、本発明のデバイスの、配向性ファイバーシート上の培養細胞、例えば培養心筋細胞の電気信号を多電極アレイにより検出する工程を含む、細胞機能評価方法を提供する。本発明の細胞機能評価方法は、さらに本発明のデバイスの配向性ファイバーシート上で細胞を培養する工程を含んでいてもよい。

【0074】
本発明のデバイス上で培養された心筋細胞は、細胞の成熟度を示す心筋細胞特異的なマーカーであるβ-MHCの発現やQT間隔の観察により、成熟度が高いものであることが確認された。また、本発明のデバイス上で培養した心筋細胞を培養した場合、細胞の電極上への接着性が高く、多電極上に配向性ファイバーシートを設けないで培養した場合と比して長期培養が可能、電気信号を検出可能なチャネル数が格段に多い、また不整脈の発生が格段に少ないことから、安定したアッセイを行うことができる。

【0075】
本発明はまた、配向性ファイバーシートを多電極アレイに接着させる工程、該配向性ファイバーシート上で細胞を培養する工程、および細胞の電気信号を多電極アレイにより検出する工程を含む、細胞機能評価方法を提供する。

【0076】
本発明はさらに、配向性ファイバーシート上の、配列構造を有する培養細胞の電気信号を、該細胞と接触させた多電極アレイにより検出する工程を含む、細胞機能評価方法を提供する。当該細胞機能評価方法において、細胞は、本発明のデバイス上、例えば配向性ファイバーシート上に設けられたチャンバー内で培養されていてもよい。あるいは、配向性ファイバーシート上、例えばシート上のチャンバー内で培養した、配列構造を有する細胞を、多電極アレイと接触させてもよい。

【0077】
本発明は、シート状細胞培養部および、該細胞培養部の周囲にフレームを含む、細胞培養用シートを提供する。当該細胞培養用シートは、組織片、例えば移植、または薬剤スクリーニングに使用し得る組織片の製造に用いることができる。

【0078】
本明細書ならびに請求の範囲において、「細胞培養用シート」は、細胞培養部を含む、組織片の製造に用い得る、シート状の細胞培養用の基材を指す。

【0079】
本明細書ならびに請求の範囲において、「シート状細胞培養部」は、本発明の細胞培養用シートの一部であって、細胞がその上で培養されるシート上の構造を有する部分を指す。

【0080】
細胞培養部は、その表面に細胞が接着して増殖できる素材並びに表面形状を有するものであればよく、従来から細胞培養用支持体に用いられるポリマー素材のシート、ポリマー線維の不織布、ゲル状シート、ナノ加工した基板などが例示される。細胞培養用の支持体に用いられるポリマーとしては、配向性ファイバーシートの素材として例示する樹脂がいずれも好適に用いられる。細胞培養部の素材並びに表面の形状は培養しようとする細胞に応じて適宜選択すればよい。

【0081】
本発明の細胞培養用シートの細胞培養部として、ポリマー製のファイバーを集積させてなるファイバーシートが例示される。該ファイバーシートは、ランダムファイバーシートであっても、配向性配向性ファイバーシートであってもよい。

【0082】
ファイバーシートの素材は、細胞培養用シートの使用目的に応じて、生体内分解性のものであっても、または生体内で分解されにくいものであってもよい。例えば、移植に用いる組織片の製造に用いる場合には、生体内分解性のものが好適に用いられる。一方、薬物のスクリーニングおよび/または安全性試験に用いられる組織片の製造に用いる場合には、長期培養に向き、強度の高いものが好適に用いられる。

【0083】
該細胞培養用シートの細胞培養部が配向性ファイバーシートである場合、該配向性ファイバーシートは、上記のような性質、例えば厚み、直径および密度を有していてよい。

【0084】
本明細書ならびに請求の範囲において、「フレーム」は、細胞培養部の周囲に形成された、枠状の部分を意味する。フレーム部分は、ピンセット等で挟むことができ、それによりファイバーシート部分の構造にダメージを与えずに細胞培養用シートを取り扱うことが容易となる。また、フレーム部分を形成することによって、ファイバーシート上に細胞を培養して組織片を作製した後、培養細胞部分にダメージを与えず、組織片を取り扱うことが容易となる。

【0085】
フレームの幅は限定的ではなく、用途によって適宜定めればよいが、例えば2mm~2cm程度、特に5mm~1.5cm程度とすればよい。

【0086】
フレームを構成する素材は、細胞増殖ならびに生理活性に有意に影響を及ぼさないものであって、ピンセット等で扱うことができる程度の強度を有していれば良く、特に限定されない。フレームを構成する素材は、生体内分解性の素材であっても、分解されにくい素材であってもよく、細胞培養部と同一であっても異なる素材であってもよい。フレーム部分は、例えば、細胞培養部、例えばファイバーシートを形成した後、その周囲に所望の幅となるよう樹脂素材を塗布した後、固化させることによって形成することができる。

【0087】
本発明の細胞培養用シートの形状およびサイズは限定的ではなく、目的とする組織片の形状やサイズに応じて適宜定めればよい。例えば、移植に用いる場合には、移植対象部分に応じて定めれば良い。また、得られる組織片を、多電極アレイシステムを用いたアッセイに利用する場合には、使用する多電極アレイにあわせてサイズを決めればよい。

【0088】
本発明の細胞培養用シートは、該細胞培養用シート上、例えばフレーム上に、スペーサーを有していてもよい。スペーサーは細胞培養に悪影響を及ぼさず、かつ組織片製造後にフレームから容易に剥がすことができる素材であれば特に限定されない。例えば、透明、無毒の特性があり、マイクロ流体材料としてよく使われているポリジメチルシロキサン(PDMS)が例示される。

【0089】
スペーサー幅は特に限定的でなく、シートを支えることができればよい。スペーサーの高さは目的とする組織片の厚み、使用する培養用容器のサイズ等に応じて適宜定めれば良い。

【0090】
フレームとスペーサーの接着方法は限定的ではなく、例えばフレーム上へスペーサーを圧着する、ポリマー溶液、例えばファイバーを形成するポリマー溶液を塗りつける、細胞培養に影響を及ぼさず、後で剥がすことの可能な粘着剤、例えば市販の生体適合性粘着剤(例えばシリコーン一液縮合型RVTゴム(信越 KE-45-T)で接着する等、適宜常套の手段を用いれば良い。または、細胞培養部を作成した後、これをスペーサーへ、例えば圧着などにより転写し、次いでスペーサー部分上に溶液としたポリマーを塗布する等によってフレームを形成してもよい。または、スペーサーに、粘着剤を塗布して、細胞培養部を接着すると同時に、フレームを作成してもよい。粘着剤は、例えば、ポリマー溶液、例えばファイバー製造に用いたものと同じポリマー溶液およびPDMS、および市販の生体適合性粘着剤(例えばシリコーン一液縮合型RVTゴム(信越 KE-45-T))であってよい。

【0091】
本発明の細胞培養用シートを用いて培養できる細胞の種類は特に限定されない。例えば細胞培養部に配向性ファイバーシートを用いる場合には、一方向へ配向した状態での培養が望まれる細胞であれば特に限定されない。例えば心筋細胞が例示される。心筋細胞としては、多能性幹細胞、例えばES細胞やiPS細胞から誘導された細胞が例示される。多能性幹細胞から心筋細胞を誘導する方法は種々知られており、例えば非特許文献5や特許文献1に記載の方法が例示される。また、ES細胞やiPS細胞や由来の心筋細胞として市販されている細胞を用いてもよい。

【0092】
本発明の方法においては、細胞培養部上に細胞を播種し、培養する。例えば、本発明の細胞培養用シートを通常使用される細胞培養用容器に設置し、細胞を播種して、培地中で細胞培養を行ってよい。細胞培養容器の底面に細胞培養用シートを培養後に剥がせるように貼り付けて用いてもよい。シートの貼り付けには、例えば圧着や、後で剥がすことのできる接着剤にて接着する等種々の方法を用いることができる。または、本発明の細胞培養用シートを、培地中で浮遊させて培養を行ってもよい。

【0093】
細胞培養用シート上に細胞を播種し、細胞を培養する。細胞培養用培地、培養条件は公知の細胞培養法より培養する細胞、目的に応じて適宜選択すればよい。例えば、培養は、静置した状態で行っても、振盪させながら行ってもよい。本発明の細胞培養用シート上で細胞を培養して製造される組織片は、細胞培養用シートのフレーム部分に培養細胞層が形成されない。よって、ピンセット等でフレーム部分を挟んで取り扱うことが可能なため、細胞を傷つけることなく組織片を取り扱うことができる。

【0094】
本発明の細胞培養用シートの細胞培養部に配向性ファイバーシートを用いる場合、一方向に配向するファイバーの配向方向に沿って培養細胞が配向して組織化した組織片を得ることができる。

【0095】
細胞培養部が配向性ファイバーシートである細胞培養用シート上に心筋細胞を播種して培養した場合、生体内に近い配列構造を取る心筋細胞で構成される心筋組織片を得ることができる。本発明の方法により得られる心筋組織片に含まれる心筋細胞においては、細胞の成熟度を示す心筋細胞特異的なマーカーであるβ-MHCの発現が上昇することが確認された。また、かかる心筋細胞の電位活動を多電極アレイ上で調べたところ、生体の心臓において認められるものと類似したQT波形が確認された。

【0096】
本発明はさらに、本発明の細胞培養用シートおよび、該細胞培養用シート上の培養細胞を含む、組織片を提供する。本発明は特に、本発明の細胞培養用シートおよび、該培養用シートの細胞培養部上に培養細胞を含む、組織片を提供する。

【0097】
本発明はさらに、本発明の細胞培養用シート上で、細胞を培養する工程を含む、組織片の製造方法を提供する。

【0098】
例えば、細胞培養部が配向性ファイバーシートである本発明の細胞培養用シートを用いて心筋細胞を培養して得られる心筋組織片は、心筋細胞が一方向に配列して組織化されており、生体内と同様の配向性を有している、より生体組織に近い組織片である。

【0099】
また、本発明の細胞培養用シートを用いて製造される組織片は、培養細胞が結合していないフレーム部分を有するため、細胞を傷つけることなく組織片を容易に取り扱うことができる。そのため、該組織片を用いて移植を行う場合、移植操作の効率が改善される。

【0100】
フレーム部分が生体内分解性素材で構成されている場合、フレーム部分を有する組織片をそのまま移植に用いても、または、フレームを切り落として移植に用いてもよい。フレームを切り落とす場合は、ピンセット等で挟むためのフレームの一部分以外を事前に切り落として、細胞層が形成されている部分を移植対象部分に接着させた後に、フレームの残りの部分を切り落として移植操作を行うことで、移植操作を効率良く行うことも可能である。また、フレーム部分が生体内で分解されにくい素材で構成されている場合は、同様にフレーム部分を切り落として、移植に用いることができる。

【0101】
本発明の細胞培養用シート上で製造された組織片は、該培養用シートの両面に培養細胞層を有するものを含む。両面に細胞層を有する組織片は、例えば、スペーサーを備えた、本発明の細胞培養用シートを用いて製造し得る。スペーサーを備えた細胞培養用シートを用いる場合は、該シートの片面に細胞を播種しても、または片面ずつ順番に細胞を播種してもよい。片面ずつ細胞を播種する場合は、まずスペーサーが付された面を上にして培養容器へ置き、シートの片面へ細胞を播種して細胞を接着させる。播種した細胞が接着した後、シートを反転させ、シートの反対面へ細胞を播種する。両面に細胞層を有する組織片の製造時には、振盪培養を行ってもよい。シート両面に培養細胞層が形成されることにより、三次元立体構造を有する組織片を得ることができる。

【0102】
両面に細胞層を有する組織片を、所望により複数重ねて用いても良い。具体的には、スペーサーを備えた細胞培養用シートの両面に培養細胞層を形成させたものを2以上準備し、各細胞培養用シートよりスペーサーを外し、2以上の組織片の配向方向が同じとなるようこれらを重ね合わせる。あるいは、振盪培養に得られた両面に培養細胞層が形成された組織片を同様に重ね合わせる。重ねてしばらく培養すると上下の組織片が結合して、一体となった、厚みのある三次元・多層配列構造を有する組織片を得ることができる。

【0103】
本発明の細胞培養用シートを用いて製造される、三次元・多層配列構造を有する組織片、例えば10層以上の構造を有する組織片は、多層構造の間にファイバー層による空隙が設けられることから、多層構造の内部にある細胞へも栄養が届き、組織片の可能な厚みに関する制限が少ない。

【0104】
例えばiPS細胞から誘導された心筋細胞を用いて、本発明の細胞培養用シート上で組織片を製造した場合、一方向に配列した、β-MHCが強く発現した心筋組織片を得ることができる。さらに、該心筋組織片は、多電極アレイシステムによる活動電位の測定により生体内で見られるものと類似したQT波形を示し得る。

【0105】
さらに、本発明の細胞培養用シート上で製造した組織片を、多電極アレイ上に置いて細胞外活動電位を測定することができる。したがって、本発明はさらに、多電極アレイにより電気信号を検出する工程を含む、組織片の機能評価方法を提供する。

【0106】
例えば移植用組織片を製造する場合、移植用組織片の培養と並行して同じ条件で確認用の組織片の培養を行い、適宜、確認用組織片から細胞外電位を計測しながら、ちょうど良い成熟度となったタイミングで組織片を移植に用いることができる。本態様においては、組織片を多電極アレイ上へ置く。例えば移植用心筋細胞を培養する場合、その成熟度をQT間隔を指標に確認して、移植のタイミングを図ることが可能である。

【0107】
あるいは、移植用組織片を製造し、移植前に多電極アレイ上で細胞の機能を調べて移植用の組織片の状態が良いことを確認した上で移植することができる。本態様においては、同時に作成した複数の組織片から最も状態の良いものを選んで移植に供することも可能である。

【0108】
例えば、心筋細胞を用いて移植用心筋組織片を製造する場合は、移植前に多電極アレイを用いて得られる心筋組織片が不整脈を生じにくいことを確認した上で移植に用いることで、より安全性の高い治療を行うことができる。

【0109】
本発明はさらに、本発明の細胞培養用シートを用いて製造した組織片を、例えば心筋組織片を滅菌された包装材に封入してなる製品を提供する。該製品は、滅菌された包装材中に、本発明の組織片を、細胞培養用の培地とともに含んでいてよい。包装材中に封入することにより、運搬が容易となる。

【0110】
該製品に用いる包装材としてはガス透過性と得気密性を併せ持つ包装材、例えば細胞培養用バッグ(タカラバイオ株式会社))が挙げられるが、これらに限定されるものではない。

【0111】
また、本発明の組織片はまた、多電極アレイを用いた創薬スクリーニングに好適に用いられる。移植用の組織片と同様に、好適なQT間隔時間を示すものや、不整脈を起こさないものを選んで薬剤スクリーニングに適用することができる。

【0112】
したがって、本発明は、シート状細胞培養部の周辺にフレームを有する細胞培養用シート上で製造した組織片から、多電極アレイにより電気信号を検出することにより、該組織片の細胞機能を評価する方法を提供する。さらに、本発明は、該細胞機能を指標に医薬候補物質の有効性および/または安全性を評価する方法を提供する。

【0113】
図1に本願の概要を示す。配向性ファイバーシートを用いて製造した心筋細胞片は、(A)機能評価または(B)移植および機能評価等に使用し得る。(A)機能評価プロセスに使用する場合、例えば該配向性ファイバーシートを多電極システムの電極上に転写する(a)。該ファイバーシート(b)上に、さらに培養用チャンバーを設置し、心筋細胞を培養し、電気信号をリアルタイムで測定して(c)、薬剤スクリーニングを行うことができる(d)。(B)移植および機能評価に使用できる組織片を製造する場合、配向性ファイバーシートの周囲に、所望によりフレームを作成し(a)、該ファイバーシート上に心筋細胞を播種する(b)。所望により、スペーサーを接着させた配向性ファイバーシートを使用してもよい。配向性ファイバーシート上で心筋細胞を配向した状態で培養する(c)。また、製造した心筋組織片(d)は、多電極アレイに接触させることによって機能を評価でき(e)、薬剤スクリーニングに使用し得る(f)。製造した組織片(d)を、所望により複数重ね合わせてさらに多層化させてよく(g)、これらの組織片を移植に使用することができる(h)。

【0114】
本発明を実施する具体的方法の一例を以下に示す。本発明はこれら具体的手法に限定されるものではない。
【実施例】
【0115】
実施例1.エレクトロスピニング法による配向性ファイバーシートの製造
1-1.PLGA配向性ファイバーシートの製造
A.製造手順
20~25%PLGA溶液(PLGA(PLA75%:PGA25%):Sigma, P-1941, 分子量:66,000~107,000)のTHF溶液を23Gのプラント針(ニプロ)を付けたシリンジにいれ、気泡を抜き、マイクロシリンジポンプに流速10mL/分でセットした。高速回転ドラムの表面にアルミ粘着テープ(三商)を貼り付け、シリンジの針先端から10cmの距離に設置した。プラント針にプラス電極、高速回転ドラムにマイナス電極を設置し、高速回転ドラムを3000回転/分で回転させた。マイクロシリンジポンプのスイッチを入れ、8kVの電圧下で、回転ドラム上のアルミ粘着テープの上にファイバーを一方向に配向させて噴出した(噴出時間:40秒)。ファイバー噴出後、配向性ファイバーシートが収集されたアルミテープを回収し、配向性ファイバーシートを得た。また、同様の方法でランダムにファイバーを噴出させ、ランダムファイバーシート(Random Fiber,RF)を作製した(噴出時間:20秒)(図2A)。
【実施例】
【0116】
B.PLGAファイバーの性質
PLGAファイバーシートの直径
上記Aで作製したPLGA配向性ファイバーシートおよびランダムファイバーシートを電子顕微鏡(JEOL JEM1400、日本)で撮影し、イメージソフトウェア(Image J)を用いてファイバーの直径サイズを測定した。直径サイズの分布図(図2B)に示すように、PLGAランダムファイバーシートおよびPLGA配向性ファイバーシートの平均直径サイズは1~1.5μmであった。
【実施例】
【0117】
PLGA配向性ファイバーシートの弾力性
上記Aに準じて作製したPLGA配向性ファイバーシート(噴出時間:40秒、厚み:2μm、密度:300本/mm)とPLGAランダムファイバーシート(噴出時間:20秒、厚み:2μm)の弾力性を比較するために、島津精密万能試験機(AGS-X)を用いて、引っ張り実験を行った。その結果、配向性ファイバーシートと配向方向に平行する方向の弾力性はランダムファイバーシートの弾力性よりも約3倍高い(220MPa)ことが示された(図2C)。
【実施例】
【0118】
PLGAファイバーシートの素材濃度の検討
ファイバーの直径は、装置の条件を一定とすればファイバーの素材濃度を変えることによって調節することができる。上記Aに記載のエレクトロスピニング条件下における、PLGA配向性ファイバーシート製造の最適素材濃度を検討するため、それぞれ20%、23%および25%のPLGA溶液を用いて、上記Aの方法に準じて配向性ファイバーシートを作製した。作製したファイバーの直径の分布を測定した結果、材料の濃度が増加するにつれて、ファイバーの直径も大きくなることが示された(図2D)。直径1~1.5μmのサイズのファイバーを安定して作製できる条件として、20~23%PLGA溶液を用いるのが適当であることが明らかになった。
【実施例】
【0119】
ファイバーシートの厚みおよび密度
上記Aの方法に準じて、噴出時間40秒の条件下で作製したPLGA配向性ファイバーシートを電子顕微鏡(JEOL JEM1400、日本)で撮影し、厚みを測定した。さらに、それぞれのファイバーシートについて、配向方向と垂直に切断した断面において、単位長さに対するPLGAファイバー数をカウントすることにより、シートの幅1mm当たりのファイバーの本数(密度)を調べた。該PLGA配向性ファイバーシートの厚みは2μm、密度は300本/mmであった。
【実施例】
【0120】
PLGA配向性ファイバーシート中のファイバーの配向性
さらに、PLGA配向性ファイバーシート(噴出時間:40秒)中のファイバーの配向性を調べるために、PLGA配向性ファイバーシートの電子顕微鏡写真から、イメージソフトウェア(Image J) を用いてファイバーの角度を測定した。配向性ファイバーシートを構成するファイバーのうち、90.8%以上のファイバーが配向方向(0°)の±20°以内にあることが確認できた(図2E)。また、上記Aに記載の条件で作製したPLGAランダムファイバーシートの厚みは、2μmであった。
【実施例】
【0121】
1-2.PMGI配向性ファイバーシートの製造
A.製造手順
ファイバーの材料として、PLGA溶液の代わりに、16%PMGI溶液(Michro chem)を用いて、上記1-1.Aの方法に準じて、PMGI配向性ファイバーシートを作製した。エレクトロスピニング法では、ファイバー噴出時間を増やすことによって、より高密度のファイバーを得ることが可能となる。噴出時間をそれぞれ、90秒および300秒として、低密度PMGI配向性ファイバーシート(AF(Low))および高密度PMGI配向性ファイバーシート(AF(High))を作製した(図2F;スケールバーは50μmを示す)。
B.PMGI配向性ファイバーシートの性質
それぞれの条件下で得られたPMGI配向性ファイバーの厚みおよび密度を上記1-1に記載の方法に準じて測定した。低密度PMGI配向性ファイバーシート(噴出時間:90秒)の厚みは2μmであり、高密度PMGI配向性ファイバーシート(噴出時間:300秒)の厚みは4μmであることがわかった(図2G)。さらに、各配向性ファイバーシートの密度は、低密度PMGI配向性ファイバーシートの場合は、300本/mm、高密度PMGI配向性ファイバーシートの場合は、400本/mmであることがわかった(図2H)。さらに、PMGI低密度配向性PMGIファイバーシートを用いて、上記1-1に記載の方法に準じて該PMGI配向性ファイバーシート中のファイバーの配向性を計測した結果、97%以上のファイバーが配向方向(0°)の±20°以内にあることがわかった(図2I)。
【実施例】
【0122】
1-3.ポリスチレン配向性ファイバーシートの製造
A.製造手順
30%ポリスチレン溶液(PS:Sigma、182435、分子量:130,000~290,000)のDMF溶液を27Gのプラント針(ニプロ)を付けたシリンジにいれ、気泡を抜き、マイクロシリンジポンプに流速1mL/時間でセットした。高速回転ドラムの表面にアルミ粘着テープ(三商)を貼り付け、シリンジの針先端から15cmの距離に設置した。プラント針にプラス電極、高速回転ドラムにマイナス電極を設置し、高速回転ドラムを1000回転/分で回転させた。マイクロシリンジポンプのスイッチを入れ、20kVの電圧下で、回転ドラム上のアルミ粘着テープの上にファイバーを一方向に配向させて噴出した(噴出時間:10分および50分)。ファイバー噴出後、配向性ファイバーシートが収集されたアルミテープを回収し、PS配向性ファイバーシートを得た。ナノファイバー作成装置:MECC、NF500、日本。
【実施例】
【0123】
B.PS配向性ファイバーシートの性質
上記Aで得られたPS配向性ファイバーシートの厚みおよび密度を、上記1-1に記載の方法に準じて測定した。低密度PSナノファイバー(噴出時間:10分、厚み:2μm、密度:50本/mm);高密度PSナノファイバー(噴出時間:50分、厚み:10μm、密度:300本/mm)。さらに、上記1-1に記載の方法に準じた測定により、該PS配向性ファイバーシート中のPSファイバーの平均直径サイズは2μmであり、該ファイバーシート中のファイバーは、0±5°以内にあることが明らかになった。
【実施例】
【0124】
実施例2.配向性ファイバーシート上の心筋細胞培養
2-1.PLGA配向性ファイバーシート上の心筋細胞
A.ヒトiPS細胞(IMR90-1)由来心筋細胞の培養
特許文献1および非特許文献5に記載の方法にしたがってヒトiPS(IMR90-1)細胞から分化誘導した心筋細胞を用いた。心筋細胞のコロニーを50ml遠心管に移し、50g×2分間遠心した。上清を捨て、PBS(GIBCO)で一回洗浄した。プロテアーゼ溶液(0.1%コラゲナーゼタイプI(Life technologies)、0.25%トリプシン、1U/mL DNaseI(Applied Biosystems)、116mM NaCl、20mM HEPES、12.5mM NaHPO、5.6mM グルコース、5.4mM KCl、0.8mM MgSO)を10ml加えて、ガスバーナーで滅菌したスターラーバーを遠心管中に2個入れ、20~30分間、37℃で撹拌した。細胞がある程度溶解している該プロテアーゼ溶液(pH7.35)を、別の回収用50ml遠心管にセットした40μmフィルター(MilliQ)に通した。FBS20%含有IMDM培地(SIgma-Aldrich)(組成:20%FBS(GIBCO)、1%MEM非必須アミノ酸溶液(Sigma)、1%ペニシリン-ストレプトマイシン(Gibco)、2mM L-グルタミン(Sigma)、0.5mM L-カルニチン(Sigma)、0.001%2-メルカプトエタノール(Gibco)、0.005N NaOHおよび10ng/mlBMP4含有、以下FBS20%培地)をフィルターの上からゆっくり20ml加えた。フィルター上に残ったコロニーを回収するために、6cmペトリディッシュ内でフィルターを裏返して、プロテアーゼ溶液5mlで裏側から洗い落とし、最初に用いたスターラーバー入り遠心管に戻し、20~30分間、37℃にて撹拌した。該プロテアーゼ溶液を、該回収用遠心管にセットした40μmフィルターに通し、FBS20%培地をフィルターの上から10ml加えた(プロテアーゼ溶液15mlとFBS培地30mlで計45ml)。該プロテアーゼ溶液45ml中の全細胞数を計測した。細胞を1000rpm×3分間遠心して、上清を捨てた。細胞に必要な濃度に合わせてFBS20%培地を加え(FBS20%培地100μlにつき細胞数が5x10個となるように調整し、次に2x10個に調整する)、ピペッティングにより懸濁した。
【実施例】
【0125】
PLGAを素材とする配向性ファイバーシート(AF、噴出時間:40秒、厚み:2μm)またはランダムファイバーシート(RF、噴出時間:20秒、厚み:2μm)を接着させたガラス、ゼラチンで表面をコーティングしたガラス(Gelatin Flat)およびファイバー化していないPLGAで表面をコーティングしたガラス(PLGA Flat)を基板として用いて、それぞれに対する心筋細胞の接着性を比較した。上記Aで得られた細胞懸濁液100μlを取り、PLGA配向性ファイバーシート(AF)、ランダムファイバーシート(RF)、ゼラチンフラットおよびPLGAフラットガラスにそれぞれ播種した(細胞数:2x10/基板1cm)。PLGAファイバーシートは疎水性が高いため、細胞懸濁液は楕円状の水滴状になる様子が観察された。37℃、5%COインキュベーター内に5時間~15時間静置して細胞を接着させた。細胞の接着状態を確認し、シートが沈むまでFBS20%培地を追加した。3日目にFBS(-)IMDM培地(組成:1%MEM 非必須アミノ酸溶液(Sigma)、1%ペニシリン-ストレプトマイシン(Gibco)、2mM L-グルタミン(Sigma)、0.5mM L-カルニチン(Sigma)、0.001%2-メルカプトエタノール(Gibco)、1~2%BSA(Wako)もしくはヒト血清アルブミン(Sigma-Aldrich)、4μM CHIR(Axon)および2μM BIO(Calbiochem)含有、以下FBS(-)培地)に培地を交換した。
【実施例】
【0126】
B.心筋細胞の接着性
各基板に対する細胞接着性を検討するために、細胞を播種した5時間後に、接着していない細胞を除き、接着している細胞数を測定した(図3A)。その結果、PLGAファイバーを接着した基板はファイバー化していないフラットな基板よりも明らかに細胞接着性が高いことが確認された。
【実施例】
【0127】
C.配向性ファイバーシート製造時の噴出時間の検討
細胞接着性に対する、配向性ファイバーシートの密度の影響を検討した。上述したとおり、エレクトロスピニング法では、ファイバー製造時の噴出時間を増やすことによって、より高密度のファイバーを得ることができる。噴出時間10秒、40秒、10分および15分の条件下で、実施例1-1.Aの方法に準じてPLGA配向性ファイバーを作製し、電子顕微鏡で撮影した(図3B)。さらに、それぞれの条件下で得られたファイバーシートの厚みを、実施例1-1.C記載の方法に準じて測定した。ファイバーの密度が高くなることにより、ファイバーシートの厚みも1μmから16μmまで上昇することが確認できた(図3C)。
【実施例】
【0128】
それぞれの製造条件下で得られたPLGA配向性ファイバーシートの顕微鏡写真(図3b)および厚み(図3C)から、各ファイバーの密度が、それぞれ、10秒:150本/mm、40秒:300本/mm、10分:100,000本/mm、15分:150,000本/mm程度であることが測定によりわかった(図3D)。
【実施例】
【0129】
各PLGA配向性ファイバーシート上で、上記AおよびBの方法に準じて、ヒトiPS(IMR90-1)由来心筋細胞を培養し、細胞接着性を測定した。その結果、ファイバーの密度が高くなるにつれて(特に噴出時間10分および15分で製造した場合)、細胞の接着率が再現性よく上昇することが明らかになった。一方、密度が低いファイバーを用いた場合、細胞接着率のばらつきがサンプル間で大きいことが確認された(図3E)。
【実施例】
【0130】
2-2.PMGI配向性ファイバーシート上の心筋細胞
PMGI配向性ファイバーシートを用いて、同様に細胞接着性に対するファイバーシート密度の影響を検討した。実施例1-2.Aと同様の方法で製造した低密度PMGI配向性ファイバーシート(噴出時間:90秒、厚み:2μm、密度:300本/mm)および高密度PMGI配向性ファイバーシート(噴出時間:300秒、厚み:4μm、密度:400本/mm)をそれぞれ接着した細胞培養用基板およびゼラチンで表面をコーティングした基板(Flat)上に、2-1の方法に準じて心筋細胞を播種し、5時間後における各基板に対する細胞接着性を比較した。その結果、PMGI配向性ファイバーシートにおいても、ファイバー密度が高い場合に、細胞接着率が上昇することが示された(図3F)。一方、低密度PMGI配向性ファイバーシート上の細胞とゼラチンコーティング基板上の細胞は、同程度の接着率を示した。
【実施例】
【0131】
実施例3.多電極アレイシステムによる細胞機能評価用デバイスの作製
実施例1に準じてエレクトロスピニング法により製造し、アルミ粘着テープの上に収集されたPMGI配向性ファイバーシート(AF、噴出時間:90秒、厚み:2μm、密度:300本/mm)を、圧力プレス機(MNP-001、アズワン)を用いて、64チャネル多電極アレイ(nitride-coated gold electrodes、multi-channel systems、ドイツ)(電極サイズ:30μm,spaced 200μm,8×8grid array)上に転写し、細胞機能評価用デバイスを得た(図4A、左)。さらに、細胞培養用PDMS製チャンバー(2cmx2cm)を作製し、電極上のPMGI配向性ファイバーシート上に接着させた(図4A、右)。一晩乾燥させて溶媒を蒸発させ、30分間UV照射により滅菌を行った後に、心筋細胞の機能評価に用いた。
PMGI配向性ファイバーシートの代わりにPSファイバーシート(噴出時間:10分、厚み:2μm、密度:50本/mm)およびPLGA配向性ファイバーシート(噴出時間:40秒、厚み:2μm、密度300本/mm)を多電極アレイ上に転写することにより、同様に細胞機能評価用デバイスが得られた(図4B)。
【実施例】
【0132】
実施例4.多電極アレイシステムによる心筋細胞の活動電位測定
4-1.PMGI配向性ファイバーシート上の心筋細胞の活動電位
A.培養心筋細胞の活動電位測定
実施例3で得られた、機能評価用デバイスのPDMSチャンバー内に、iPS細胞(IMR90-1)由来の心筋細胞を、実施例2の方法に準じて播種した。5時間後、細胞がしっかり接着していることを確認し、チャンバー全体に培地を添加した(FBS20%培地)。37℃インキュベーター内で細胞を培養し、2日目以降、培地をFBS(-)培地に交換し、4日間に一回培地交換を行った。培地を交換する前に、電気信号の測定を行った。測定は、多電極システムを37℃ヒートプレートの上に設置し、温度が安定するまで5分間待った後に行った。測定後、培地交換を行い、インキュベーターで培養を続けた。活動電位測定用のソフトウェアとしては、Multi-channel systems MC-RACK、データ解析用ソフトウェアとしてはOriginPro9.0を使用した。
【実施例】
【0133】
B.配向性ファイバーシート上の培養心筋細胞
上記Aの方法にしたがって、PMGI配向性ファイバーシートを転写した多電極アレイ(AF)および対照として、ゼラチンコーティングした多電極アレイ(Flat)上に心筋細胞を播種し、培養を行った。開始2日後には、顕微鏡観察により、PMGI配向性ファイバーシート上の培養細胞が配向性を示すことを確認した。一方、フラットな多電極アレイ上では、細胞が塊状に凝集しやすく、接着性が弱い様子が観察された(図5A)。14日間培養した後、ピンセットで該心筋組織片をファイバーシートごと電極から取り外した。その結果、細胞はファイバーシート側にしっかりと接着しており、多電極アレイ側には細胞およびファイバーは残っていない様子が観察された(図5B)。
【実施例】
【0134】
C.心筋細胞の経時的な電気信号測定
実施例3および上記Aの方法に準じて、多電極アレイ上に転写されているPMGI配向性ファイバーシート(AF)上で培養した心筋細胞から、培養開始後2日目、6日目、10日目、14日目において、電気信号を測定し、ゼラチンコーティングした多電極アレイ(Flat)上の細胞と比較した(図5C)。その結果、配向性ファイバーシート上で培養した細胞は、シグナル検出率が時間と共に増加し、6日目以降は全てのチャネルから電気信号を検出することができた(100%)。一方、フラットな多電極アレイ上で培養した心筋細胞は、6日目におけるシグナル検出率が配向性ファイバーシート上の細胞と比較して低かった(約60~80%)。また、培養開始から14日経過すると、フラットな多電極アレイ上の細胞は基板から剥離する傾向が見られたのに対し、PMGI配向性ファイバーシート上の細胞は培養開始から14日以上経過しても細胞の剥離は観察されず(図5D)、電気信号の検出率も低下しなかった。
【実施例】
【0135】
4-2.PLGA配向性ファイバーシート上の心筋細胞の活動電位
同様に、PLGA配向性ファイバーシート(AF、噴出時間:40秒、厚み:2μm、密度:300本/mm)およびPLGAランダムファイバーシート(RF、噴出時間:20秒、厚み2μm)をそれぞれ転写した多電極アレイおよびゼラチンでコーティングした多電極アレイ(Flat)上でヒトiPS(IMR90-1)由来心筋細胞を培養し、細胞の電気信号を測定した。ファイバーの構造によらず、ファイバーシートを転写した多電極アレイ上の心筋細胞からのシグナル検出率は時間と共に増加し、6日目からは全てのチャネルから電気信号を検出することができ(100%)、14日経過してもシグナルの検出率は低下しなかった。一方、フラットな多電極アレイを用いた場合、チャネルからのシグナル検出率が低かった(約80~90%)(図5E)。また、フラットな多電極アレイ上では、培養10日目の時点で細胞が剥離する傾向が見られたのに対し、PLGA配向性ファイバーシート上で培養した心筋細胞は、培養開始から32日後においても細胞の剥離は観察されなかった(図5F)。このことから、ファイバーシート上では、細胞接着性が高いために電気信号図の検出率が高く、ゼラチンコーティングした基板上では細胞の接着性が弱く、細胞密度が不均一なためにシグナル検出率が低くなると考えられる。
【実施例】
【0136】
また、細胞播種から5時間後の時点では、PLGA配向性ファイバーシート上の細胞とゼラチンコーティングした基板上の細胞接着性が同程度であったのに対し(図3A)、長期間の培養後では、PLGA配向性ファイバーシート上の細胞が、ゼラチンコーティング基板上の細胞よりも明らかに高い細胞接着性を示したことから(図5F)、配向性ファイバーシート上では、接着性が安定して長期間維持されることが示される。
【実施例】
【0137】
実施例5 配向性ファイバー上の心筋細胞の機能評価
5-1.PMGI配向性ファイバーシート上の心筋細胞の活動電位パターン
不整脈の検出
実施例3の方法に準じて、PMGI配向性ファイバーシート(AF、噴出時間:90秒、厚み:2μm、密度:300本/mm)を転写した多電極アレイおよびゼラチンコーティングした多電極アレイ(Flat)上で、実施例4の方法に準じて、ヒトiPS(IMR90-1)細胞由来心筋細胞を培養し、該心筋細胞から電気信号を測定した(n=6)。PMGI配向性ファイバーシート上の心筋細胞からは、培養開始から6日間、不整脈(arrhythmia)に対応する不規則な電気活動が全く検出されなかった(図6A下段並びに図6B)。これに対し、フラットな多電極アレイ上で培養した心筋細胞からは、実験サンプル数に対して40%の確率で不整脈が検出された(図6A上段並びに図6B)。
【実施例】
【0138】
電位振幅
また、PMGI配向性ファイバーシート(AF)上で培養した心筋細胞は、フラット上の細胞よりも電位振幅の値が高いことが確認された(図6Aおよび図6C)。さらに、電位振幅を、14日間経時的に測定した結果、フラットな電極上で培養した心筋細胞では、電位振幅値が変化しなかったのに対し、配向性ファイバーシート上の心筋細胞は、電位振幅値が経時的に上昇することがわかった(図6D)。
【実施例】
【0139】
5-2.PLGA配向性ファイバーシート上の心筋細胞の活動電位パターン
5-1と同様に、高密度PLGA配向性ファイバーシート(AF-H、噴出時間:10分、厚み:10μm、密度:10000本/mm)、低密度PLGA配向性ファイバーシート(AF、噴出時間:40秒、厚み:2μm、密度:300本/mm)、およびPLGAランダムファイバーシート(RF、噴出時間:20秒、厚み:2μm)をそれぞれ転写した多電極アレイ、および表面をゼラチンコーティングした多電極アレイ(Flat)を用いて、6日間培養したヒトiPS(IMR90-1)由来心筋細胞の電気信号を測定し、さらに14日間の電位振幅値を経時的に測定した。その結果、ファイバー構造の違いによらず、PLGAファイバー上で培養した心筋細胞は、電位振幅の値がフラットな多電極アレイ上で培養した細胞よりも高いことが確認でき、さらに、PLGAファイバー上で培養した心筋細胞からは、不整脈に相当する不規則な電気活動が全く見られなかった(図6E)。これに対し、従来細胞培養に使われているゼラチンコーティングした基板(Flat)を用いた場合には、頻繁に不整脈が検出された(図6EおよびF)。ゼラチンコーティング基板上の心筋細胞における不整脈の検出率は実験サンプル数に対して34.5%であった(図6F下段)。また、14日間の培養の間、フラットな多電極アレイ上の細胞の電位振幅値は変化しなかったのに対し、ファイバーシート上の心筋細胞の電位振幅値は、時間と共に上昇することが分かった(図6G)。特に培養開始から10日目以降において、配向性ファイバーシート培養条件で培養した心筋細胞が、ランダム培養条件下で培養した心筋細胞よりも振幅値が高い傾向が見られた。
【実施例】
【0140】
これらの結果により、電極に接着させたファイバーシート上で心筋細胞を培養することにより、不整脈を起こさない正常な培養細胞を安定して維持することができることが示された。かかる結果は、電極に接着させた配向性ファイバーシート上で心筋細胞を培養することにより、ファイバーを介して電極と細胞との接着性が高くなり、また細胞の分布が均一になることによるものであると考えられる。
【実施例】
【0141】
実施例6 配向性ファイバーシート上の心筋組織の興奮伝播方向および伝播速度
6-1.PMGI配向性ファイバーシート上の心筋組織の興奮伝播
心機能に重要である、心筋組織の興奮伝播方向および伝播速度について測定・評価を行った。実施例3および4の方法に準じて、PMGI配向性ファイバーシート(AF、噴出時間:90秒、厚み:2μm、密度:300本/mm)を転写した多電極アレイおよびゼラチンコーティングした多電極アレイ(Flat)上でヒトiPS(IMR90-1)由来心筋細胞を培養した。培養開始から14日後において、電極を介して、視野の中央部分に電気刺激(±1500 mV、40μs持続)をかけ、心筋細胞の電気信号を測定し、刺激によって引き起こされる電気的興奮の到達分布図を作製した(図7A)。等高線の形の変化は到達方向を表し、色の変化は伝播速度を表す。また、培養開始14日後における、興奮の伝播速度を定量化した(図7B)。
【実施例】
【0142】
心筋細胞の興奮伝播方向は配向性ファイバーの配向方向と一致しており、配向に平行な方向の興奮の伝播速度は、ファイバーの配向方向に対する垂直方向およびゼラチンコーティング上の伝播速度と比較して著しく速いことがわかった。一方、ゼラチンコーティング上で培養を行った場合、電気刺激に対して、応答反応が刺激点から起こらず、離れている場所から興奮が誘発される様子が観察された(図7A、右)。これは、図5Dに見られるように、培養開始14日目時点のゼラチンコーティング基板上では細胞の接着が弱く、細胞が擬集しやすくなっているため、細胞分布が不均一になっているためと推測される。また、興奮伝播速度を培養開始から14日間経時的に測定した結果、6日目以降において、配向性ファイバーと平行している方向の伝播速度はフラットな多電極アレイを用いた場合と比較して、明らかに速くなることが確認された(図7C)。なお、PMGIは非導電性のため配向性ファイバーシートは導線にはならない。
【実施例】
【0143】
6-2.PLGA配向性ファイバーシート上の心筋組織の興奮伝播
上記6-1と同様に、PLGA配向性ファイバーシート(AF、噴出時間:40秒、厚み:2μm、密度:300本/mm)およびPLGAランダムファイバーシート(RF、噴出時間:20秒、厚み:2μm)をそれぞれ転写した多電極アレイならびにゼラチンコーティングした多電極アレイ(Flat)上で培養した心筋細胞に、6日目、14日目において、視野の中央部分に電気刺激(±1500 mV, 40 μs持続)をかけ、心筋細胞の電気信号を測定し、電気的興奮の到達分布図を作製した(図7D)。また、6日目および14日目の興奮伝播速度をそれぞれ定量化した(図7E)。PLGA配向性ファイバーシートにおいても、興奮伝播方向は配向性ファイバーシートの方向(視野の左右方向)と一致していることがわかった(図7D、左欄)。また、ファイバーがない場合は、6-1の結果と同様に、電気刺激に対して、刺激点から応答反応が起こらず、離れている場所から興奮が誘発される様子が観察された(図7D、右欄)。
【実施例】
【0144】
また、培養後6日目および14日目の興奮伝播を比較した。その結果、ファイバーの有無または構造に関係なく、培養期間が延びると興奮伝播速度も速くなるものの、6日目ではそれぞれの基板上で培養された心筋細胞の伝播速度にはほとんど差がないが、14日目では、PLGA配向性ファイバーシートの平行方向の伝播速度が、垂直方向の伝播速度やランダムファイバーシート上およびフラット基板上の心筋組織の伝播速度と比較して、約3倍速いことが確認された(図7E)。なお、PLGAは非導電性であるため、配向性ファイバーシートは導線にはならない。
【実施例】
【0145】
これらの結果は、配向性ファイバーシート上の心筋細胞は、配列構造を持つことにより、ファイバーの配向方向の電気的結合構造が発達するため、ファイバーシートの平行方向の興奮伝播速度が、垂直方向およびフラット基板上の心筋組織の伝播速度と比較して著しく速くなることを示すものである。このことは、配向性ファバーシート上の心筋細胞は、成熟度および機能性が高いことを示している。
【実施例】
【0146】
実施例7 配向性ファイバーシート上の心筋細胞の心電図
7-1.PMGI配向性ファイバー上の心筋細胞の心電図
心筋細胞の電気生理学的成熟度と心毒性試験において、心電図QT間隔(電位依存性Na電流由来のQ波と電位依存性K電流由来のT波の間隔)が一つの代表的指標となる。実施例3および4に準じて、電極に転写したPMGI配向性ファイバーシート(AF、噴出時間:90秒、厚み:2μm、密度:300本/mm)およびゼラチンコーティングした多電極アレイ(Flat)上でヒトiPS(IMR90-1)由来心筋細胞を培養した。培養開始後10日目において、それぞれの細胞におけるQT間隔を測定した結果、PMGI配向性ファイバーシート上の心筋細胞では、QT間隔が、フラットな多電極アレイ上の心筋細胞より短いことが確認された(図8A)。さらに、それぞれの条件下で培養した心筋細胞からQT間隔を14日間、経時的に測定した結果、PMGI配向性ファイバーシート上の心筋細胞のQT間隔は、フラットな多電極上の細胞と比較して明らかに短くなっていることが分かった(図8B)。この結果は、配向性ファイバーシート上の培養心筋細胞は電気生理学的成熟度が高いことを示すものである。
【実施例】
【0147】
7-2.PLGA配向性ファイバー上の心筋細胞の心電図
A.T波の測定
QT間隔に加えて、心電図T波の検出率もまた、心筋細胞の電気生理学的な成熟度や心毒性を測定する指標の一つとして用いられる。実施例3および4に準じて、多電極アレイ上に接着させた低密度PLGA配向性ファイバーシート(AF、噴出時間:40秒、厚み:2μm、密度:300本/mm)および高密度PLGA配向性ファイバーシート(AF-H、噴出時間:10分、厚み:10μm、密度:10000本/mm)、PLGAランダムファイバーシート(RF、噴出時間:20秒、厚み:2μm)を転写した多電極アレイおよびゼラチンコーティングした多電極アレイ(Flat)上でそれぞれ培養したヒトiPS細胞(IMR90-1)由来心筋細胞から、心電図のT波にあたる電位依存性K電流由来のT波を多電極システムを用いて14日間経時的に検出し、検出効率を比較した(図8C)。
【実施例】
【0148】
6日目以後、高密度配向性ファイバー上において、全てのチャネルからT波を検出(100%)することができた。一方、低密度配向性/ランダムファイバーおよびゼラチンコーディング上の細胞では、6日目におけるT波の検出率が低かった(50~80%)。このことは、これらの基板上の細胞の成熟度が低いことを示唆するものである。また、これらの基板上では、T波の検出率は時間経過と共にさらに低くなる傾向が見られた。これは、細胞と電極との接着性が弱いことに関連していると考えられる。さらに、フラットな多電極アレイを用いた場合、10日目以降T波の検出率が顕著に低下した。これは、細胞が基板から細胞が剥がれる傾向が見られる(図5F)ことによると推測される。
【実施例】
【0149】
B.QT間隔
さらに、上記7-1と同様に、高密度PLGA配向性ファイバーシート(AF-H、噴出時間:10分、厚み:10μm、密度:10,000本/mm)、低密度PLGA配向性ファイバーシート(噴出時間:40秒、厚み:2μm、密度:300本/mm)およびランダムファイバーシート(噴出時間:20秒、厚み:2μm)をそれぞれ転写した多電極アレイ、ならびにゼラチンコーティングした多電極アレイ(Flat)を用いて、培養10日目における心筋細胞のQT間隔を測定した。その結果、配向性ファイバーシート上の心筋細胞のQT間隔が、ランダムファイバーシート上およびフラットな電極上の心筋細胞よりも短いこと、ならびに、高密度配向性ファイバーシート(AF-H)上で培養することで、QT間隔がさらに短くなることがわかった(図8D)。このことより、配向性ファイバーシート上で培養された心筋細胞は電気生理学的成熟度が高く、ファイバーの密度が高くなると成熟度がさらに高くなることが示唆される。
【実施例】
【0150】
さらに、7-1と同様に、それぞれの基板上の心筋細胞から、QT間隔を14日間経時的に測定した(図8E)。時間によるQT間隔の変化は見られなかったものの、高密度配向性ファイバーシート(AF-H)上で培養した心筋細胞のQT間隔が常に最短であった。このことから、配向性ファイバーシートの密度が高くなることにより、細胞の成熟度が高くなることが示された。また、低密度の配向性ファイバー(AF)およびランダムファイバーシート(RF)上では、高密度配向性ファイバーシート上の心筋細胞よりもQT間隔が長くなり、サンプル間のばらつきも大きいことが確認できた。これは、細胞の接着性とも関連していると考えられる。一方、フラットな電極上の細胞は、ファイバーシート上の心筋細胞よりも明らかにQT間隔が一番長いことから、電気生理学的成熟度が低いと考えられる。
【実施例】
【0151】
7-3.PS配向性ファイバーシート上の心筋細胞の心電図
実施例1-3の方法で作製したPS配向性ファイバーシート(噴出時間:50分、厚み:10μm、密度:300本/mm)を転写した多電極アレイを用いて、上記7-1と同様に培養開始6日目時点における細胞のQT間隔を測定した結果、該PS配向性ファイバーシート上の心筋細胞は0.16秒という非常に短いQT間隔を示した(図8F)。この値は、成人のQT間隔(約0.2秒)と近い値であり、このことは、該配向性ファイバーシート上の細胞は成人と同程度の電気生理学的成熟度が高いことを示すものである。
【実施例】
【0152】
実施例8 心筋マーカーを用いた心筋組織片の免疫染色およびRT-PCR
8-1.PLGA配向性ファイバーシート上の心筋組織の免疫染色
さらに、配向性ファイバーシート上の心筋組織片の細胞成熟度を調べるために、心筋細胞マーカーであるα-MHC、β-MHC、myosin light chain(MLC)-2V、cardiac troponin T(cTnT)2およびα-Actininについての免疫染色を行った。PLGA配向性ファイバーシート(噴出時間:40秒、厚み:2μm)、PLGAランダムファイバーシート(噴出時間:20秒、厚み:2μm)を接着させたガラス板およびゼラチンコーティングしたガラス板上で、iPS細胞由来培養組織片を14日間培養した。該細胞を4%ホルムアルデヒドで15分間固定し、PBSで5分間洗浄した(3回)。PBS-0.5%Triton X-100を用いて30分間透過処理を行い、PBSで5分間洗浄した(3回)。ブロッキング液(PBS中、5%正常ヤギ血清、5%正常ロバ血清、3%BSA、0.1%Tween20)を用いて1時間ブロッキング処理を行い、PBSで5分間洗浄した(3回)。一次抗体(α-actinin(マウスモノクローナル抗体 EA-53,Sigma)、cTnT2; マウスモノクローナル,Santa Cruz)、MLC-2v(ウサギポリクローナル、Proteintech Group,IL、米国)、α-MHC(ウサギモノクローナル抗体、Sigma)、β-MHC(マウスモノクローナル抗体、Santa Cruz)を用いて、4℃で一晩反応させた後、PBSで5分間洗浄した(3回)。二次抗体(DyLight 488-結合型抗マウスIgG、DyLight 488-結合型抗-ウサギIgG、DyLight 594-結合型抗マウスIgG、DyLight 594-結合型抗-ウサギIgG)を用いて、室温で1時間反応させ、PBSで5分間洗浄した(3回)。300nM 4,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI、invitrogen)を用いて、室温にて30分間核を染色し、PBSで5分間洗浄した(3回)。観察は、共焦点レーザー走査型顕微鏡(FV10i,Olympus)を用いて行った。
【実施例】
【0153】
図9AとしてファイバーおよびDAPI染色シグナルとマージした図を示す。観察の結果、ゼラチンコーティング上よりもファイバーシート上の細胞、特に配向性ファイバーシート上の心筋細胞において心筋成熟に関与しているβ-MHCが非常に強く発現することがわかった(図9A)。また、配向性ファイバーシート(AF)およびゼラチンコーティング(Flat)上で培養した心筋細胞中のβ-MHCのRNAレベルをRT-PCRによって測定した。その結果、β-MHCのRNAレベルは、ゼラチンコーティング上で培養した心筋細胞では、成人由来の正常心筋細胞の10%に満たないのに対し、配向性ファイバーシート上の心筋細胞では、20%程度まで上昇していた(図9B)。このことから、ファイバー、特に配向性ファイバーの存在により、心筋細胞が3次元構造および配向性構造をとることによって、心筋細胞の成熟度が亢進していることが示唆される。また、MLC2V、α-Actinin、TnT2の染色像から、心筋細胞が配向性ファイバーシートの方向に沿って配向していることが示された。さらに、cTnT2についての免疫染色の結果について高速フーリエ変換解析を行った結果、心筋細胞の配向方向がファイバーの方向と一致していることが定量的に示された(図9C)。
【実施例】
【0154】
8-2.PMGI配向性ファイバーシート上の心筋組織の免疫染色
上記8-1と同様に、多電極アレイに転写したPMGI配向性ファイバーシート(AF、噴出時間:90秒、厚み:2μm)とゼラチンコーティングした電極(Flat)の上でそれぞれ14日間培養したヒトiPS(IMR90-1)由来心筋細胞に対して、心筋細胞特異的なマーカーとしてのβ-MHCおよびMLC2V、ならびに細胞骨格系マーカーとしてのActin(一次抗体:ヤギポリクローナル抗体(Santa Cruz, SC 1616)、二次抗体:Alexa Fluor 488結合型抗ヤギIgG(Jackson ImmnoResearch #705-546-147))について、免疫染色を行った(図9D)。PLGA配向性ファイバーシートを用いた場合と同様に、β-MHCの発現は、PMGI配向性ファイバーシート上の細胞において、フラットな電極上の細胞と比較して非常に強いことが示された。また、MLC2VおよびActinについての染色像から、PMGI配向性ファイバーシート上の心筋細胞が配向性ファイバーシートに沿って配向していることが示された。この結果より、ファイバーシートが、心筋細胞の成熟度を亢進していることが示唆される。また、MLC2Vおよびアクチンの染色像から、心筋細胞は配向性ファイバーの方向に沿って配向していることが明らかになった。
【実施例】
【0155】
実施例9 配向性ファイバーシート上の心筋組織片の電子顕微鏡による観察
9-1.PLGA配向性ファイバーシート上の心筋組織片の観察
ファイバーシートと心筋細胞との接着構造、配向構造および組織片の3次元構造を調べるために、透過型電子顕微鏡(TEM)による観察を行った。PLGA配向性ファイバーシートおよびPLGAランダムファイバーを接着させたプラスチック製切片および、ゼラチンでコーティングしたフラットな切片を作製した。実施例2の方法に準じて、iPS細胞由来心筋細胞を各切片の表面に播き、14日間培養を行った。NaHCa緩衝液(100mM NaCl、30mM HEPES、2mM CaCl2、pH7.4)中2%グルタルアルデヒドを用いて細胞を固定した。それぞれの試料を0.25%オスミウム、0.25%KFe(CN)、1%タンニン酸、50mM 酢酸ウラニルで順番に処理し、後期固定処理を行った。エタノールシリーズで脱水処理を行い、65℃で重合処理を行った。ウルトラミクロトーム(Leica FC6,Vienna,AU)を用いて、厚みが60~100nmになるように、配向性ファイバーシートに対して垂直方向に凍結切片を作製し、断面を観察した。観察は、透過型電子顕微鏡(JEOL JEM1400、日本)を用いて行った。
【実施例】
【0156】
上記の切片を電子顕微鏡により観察した結果、PLGAファイバーシート上で培養した心筋細胞はファイバーに巻き付くように密着して結合していることがわかった(図10A)。さらに、配向性ファイバーシート上で作製した細胞組織片では、ランダムファイバーと異なり、心筋細胞内の筋線維の配列構造はファイバーの方向性と一致していることが確認された。さらに、この配向性ファイバーシート上の心筋細胞組織片の厚みは30~50μmであり、心筋細胞層がファイバーシートの両面に形成され、約10層の多層構造を有していることも明らかになった(図10A、左)。
【実施例】
【0157】
9-2.PMGI配向性ファイバーシート上の心筋組織片の観察
PMGI配向性ファイバー(噴出時間:90秒、厚み:2μm)およびゼラチンコーティング上で心筋細胞を培養して作製した心筋組織片を用いて、上記9-1と同様に透過型電子顕微鏡(TEM)による観察を行った。その結果、PLGA配向性ファイバーシートを用いた場合と同様に、PMGI配向性ファイバー上で14日間培養した心筋細胞は、ファイバーに巻き付くように密着して結合していること、筋線維の配列構造はファイバーの方向性と一致していることが観察された(図10B、右)。さらに、PMGI配向性ファイバーシート上の心筋細胞は、厚みが約30μmであり、心筋細胞層がファイバーシート両面に形成された、約10層の多層構造を有していることも明らかになった(図10B、左)。
【実施例】
【0158】
実施例10 電位依存性カリウムチャネル(HERGチャネル)阻害剤添加時のQT間隔延長
A.HERGチャネル阻害剤(E-4031)添加時のQT間隔延長
実施例3および4の方法に準じて、PLGA配向性ファイバーシート(AF、噴出時間:40秒、厚み:2μm、密度:300本/mm)およびランダムファイバーシート(RF、噴出時間:20秒、厚み:2μm)をそれぞれ転写した多電極アレイならびにゼラチンコーディングした多電極アレイ(Flat)上で培養した心筋細胞に、代表的なヒト遅延整流性カリウムイオンチャネル遺伝子(HERG)チャネル阻害剤であるE-4031を添加し、QT間隔の延長を5~10分間連続して調べた。hERGチャネルは、心臓内の内向き整流性電位開口型カリウムチャネルであって、遮断することによって、QT間隔延長が観察されることが知られている。使用濃度が増加、また細胞成熟度が低いすることによって、不整脈が起こされる。E-4031の添加により、ファイバーの構造およびファイバーの有無によらず、E-4031の濃度依存的にQT間隔の延長が観察された(図11A)。
【実施例】
【0159】
B.薬剤投入後の不整脈の検出
E-4031投入後5~10分間、心筋細胞からの電気信号を測定している間における、不整脈の有無を調べた。その結果、薬剤投入後のフラットな電極上の心筋細胞からは、ファイバーシート上の細胞と比較して不整脈が高い頻度で観察された(図11B~Cおよび表1)。これは、フラットな多電極アレイ上では細胞と基板の接着性が低く、また細胞の成熟度が低い(図9A)ためと考えられる。
【表1】
JP2016060260A1_000002t.gif
【実施例】
【0160】
実施例11 細胞培養部の周辺にフレーム部分を有する細胞培養用シートを用いた心筋組織片の製造
A.細胞培養部が配向性ファイバーシートである細胞培養用シートの製造
実施例1の方法に準じて、エレクトロスピニング法でPLGA配向性ファイバーシート(噴出時間:10分、厚み:10μm、密度:10000本/mm)を作製し、PDMSで作製したスペーサー(1.8 cmx1.8cm)上に転写した。さらに、配向性ファイバーシートと同じPLGA溶液にて転写部分を塗布してフレーム部分を形成し、一晩乾燥させてUV照射により滅菌した後に細胞培養に用いた(図12A)。
【実施例】
【0161】
異なるファイバー素材および、粘着剤を用いて、同様の方法により細胞培養用シートを製造することができる。図12Bは、PLGA配向性ファイバーシート(噴出時間:10分、厚み:10μm、密度:10000本/mm)を、ファイバーと同じPLGA溶液を接着剤としてPDMS製スペーサーに接着させて作製した細胞培養用シートを示す。フレーム部分は、配向性ファイバーシートを、スペーサーに生体適合性の粘着剤を塗布することによって、ファイバーシートをスペーサーに接着させると同時にフレーム部分を作製することもできる。また図12Cは、PS配向性ファイバーシート(噴出時間:50分、厚み:10μm、密度:300本/mm)および、粘着剤としてPDMS混合液(SILPOT 184,東レ、プレポリマー:架橋剤=10:1)を用いて製造した、PDMSスペーサーに接着した細胞培養シートを示す。図12Dは、シリコーン一液縮合型RVTゴム(信越KE-45-T)を用いて作成した、PLGA配向性ファイバーシート(噴出時間:10分、厚み:10μm、密度:10000本/mm)が、リング状のガラス内径22mm)(厚木ミクロ)に接着した細胞培養用シートを示す。該ガラスリングは、スペーサーとして用いても、または内側に培地を投入して培養用チャンバーとして用いてもよい。
【実施例】
【0162】
B.生体内分解材料であるPLGAの分解
移植を目的として組織片を製造する場合、安全性の高い生体内分解材料を用いて配向性ファイバーを作製することが望ましい。PLA(ポリ乳酸)とPGA(ポリグリコール酸)のコポリマーであるPLGAは、毒性のない生体分解性素材である。PLAとPGAの組み合わせ比率によって、分解スピードを調節することが可能である。上記Aに準じて作製したPLGA(PLA75%:PGA25%)配向性ファイバーの分解時間を培養条件下で調べた。実施例2の方法に準じて心筋細胞を播いてから、3ヶ月後には、PLGAファイバー(噴出時間:10分、厚み:10μm、密度:10000本/mm)が完全に分解されている様子が観察された(図12E)。
【実施例】
【0163】
実施例12 心筋細胞組織片の心臓への移植
A.心筋細胞組織片のマウス心臓への接着
配向性ファイバーシート上で製造した心筋組織とマウス摘出心臓との接着性を調べた。実施例11、Aの方法に準じて作製した、PLGA製フレームを有するPLGA配向性ファイバーシート(噴出時間:10分、厚み:10μm、密度:10000本/mm)上で、実施例2の方法に準じて心筋細胞を6日間培養し、培養組織片を作製した。該培養組織片をPLGA配向性ファイバーシートとともに剥がし、生後3ヶ月のマウスの心臓の表面に該ファイバー心筋組織片を静置した。静置から3時間後には、該心臓組織片が心臓膜に接着している様子が観察された(図13A)。ピンセットで該心筋組織片を持ち上げても、マウス心臓から剥がれることはなかった。また、PDMS製のフレーム部分を有するPLGA配向性ファイバーシート上で同様に心筋組織片を作製し、該フレーム部分の三辺を切り落として、細胞培養部分のみを同様にマウスの心臓表面に静置した場合にも、心筋組織片の心臓表面への接着が観察された(図13B)。
【実施例】
【0164】
B.心筋細胞組織片の生体ラットへの移植
上記Aと同様に、PLGA製のフレーム部分を有するPLGA配向性ファイバーシート(噴出時間:10分、厚み:10μm、密度:10000本/mm)上で作製した心筋組織片を、細胞培養開始6日後に、ヌードラットの心臓表面に移植した。移植2週間後、心臓を回収して、4%パラホルムアルデヒドで固定して脱水した後、パラフィン包埋して2μm切片を作製した。該切片の脱パラフィン処理を行った後、ヘマトキシリン・エオジン染色、ヒト特異的プローブによるIn situ hybridization(ISH)および心筋マーカーであるcTnTについての組織染色を行い、顕微鏡観察を行った(図13C)。その結果、移植された心筋組織片は宿主の心臓表面に生着していること、宿主心臓表面にヒトiPS細胞由来の心筋細胞が存在していることが明らかになった。
【実施例】
【0165】
実施例13 ファイバー上の心筋組織片の多層化
A.配向性ファイバー上の心筋組織片の二層化
配向性ファイバー上の心筋組織片を重ねることにより、さらに厚みのある心筋組織片を作製することが可能かどうかを検討した。実施例11の方法に準じて、PDMSスペーサーに接着した、PLGA製のフレーム部を有するPLGA配向性ファイバーシートを作製した(噴出時間:10分、厚み:10μm)。実施例2の方法に準じて、該PLGA配向性ファイバーシート上にiPS細胞(IMR90-1)由来心筋細胞を播種し、培養した。培養開始後14日目に、PLGA配向性ファイバーシートの両面に形成された心筋移植片を、配向方向が同一となるよう2層に重ねた(図14A、上段)。重ねた移植片は2時間後にはお互いに接着し、その接着強度はピンセットでは容易に剥がせない程度の強さであった(図14A、下段)。この結果から、配向性ファイバー上に形成した心筋組織片は容易に多層化できることが明らかになった。
【実施例】
【0166】
B.二層化した心筋組織片の拍動
上記Aで得た多層のPLGA配向性ファイバー上心筋組織片の機能を評価するために、該組織片をPDMSスペーサーから剥離して多電極アレイ(30μm spaced 200μm、8×8 grid array)上におき、電気信号を測定した。その結果、二層の心筋移植片は、重ねて1分後の時点では、それぞれの心筋移植片は単独で拍動していたが、3時間後には、二層の心筋組織片は同期して拍動することが確認された(図14B)。
【符号の説明】
【0167】
1:配向性ファイバー
2:多電極アレイ
3:配向性ファイバーシート+多電極アレイ
4:培養用チャンバー
5:多電極アレイ
6:フレーム
7:スペーサー
8:心筋組織片
図面
【図1】
0
【図2A】
1
【図2B】
2
【図2C】
3
【図2D】
4
【図2E】
5
【図2F】
6
【図2G】
7
【図2H】
8
【図2I】
9
【図3A】
10
【図3B】
11
【図3C】
12
【図3D】
13
【図3E】
14
【図3F】
15
【図4A】
16
【図4B】
17
【図5A】
18
【図5B】
19
【図5C】
20
【図5D】
21
【図5E】
22
【図5F】
23
【図6A】
24
【図6B】
25
【図6C】
26
【図6D】
27
【図6E】
28
【図6F】
29
【図6G】
30
【図7A】
31
【図7B】
32
【図7C】
33
【図7D】
34
【図7E】
35
【図8A】
36
【図8B】
37
【図8C】
38
【図8D】
39
【図8E】
40
【図8F】
41
【図9A】
42
【図9B】
43
【図9C】
44
【図9D】
45
【図10A】
46
【図10B】
47
【図11A】
48
【図11B】
49
【図11C】
50
【図12A】
51
【図12B】
52
【図12C】
53
【図12D】
54
【図12E】
55
【図13A】
56
【図13B】
57
【図13C】
58
【図14A】
59
【図14B】
60