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明細書 :希土類金属の回収方法、溶融塩電解装置及びバイポーラー電極型隔膜

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-083968 (P2018-083968A)
公開日 平成30年5月31日(2018.5.31)
発明の名称または考案の名称 希土類金属の回収方法、溶融塩電解装置及びバイポーラー電極型隔膜
国際特許分類 C25C   7/04        (2006.01)
C25C   3/34        (2006.01)
C22B  59/00        (2006.01)
C22B   7/00        (2006.01)
FI C25C 7/04 302
C25C 3/34 Z
C22B 59/00
C22B 7/00 F
請求項の数または発明の数 11
出願形態 OL
全頁数 12
出願番号 特願2016-227281 (P2016-227281)
出願日 平成28年11月22日(2016.11.22)
発明者または考案者 【氏名】大石 哲雄
【氏名】野平 俊之
【氏名】安田 幸司
【氏名】小西 宏和
出願人 【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100096714、【弁理士】、【氏名又は名称】本多 一郎
【識別番号】100124121、【弁理士】、【氏名又は名称】杉本 由美子
【識別番号】100176566、【弁理士】、【氏名又は名称】渡耒 巧
【識別番号】100180253、【弁理士】、【氏名又は名称】大田黒 隆
審査請求 未請求
テーマコード 4K001
4K058
Fターム 4K001AA39
4K001BA04
4K001BA22
4K001DA14
4K001HA12
4K001KA08
4K001KA09
4K058AA13
4K058AA23
4K058BA26
4K058BB06
4K058CB04
4K058CB19
4K058DD13
4K058DD17
4K058EB13
4K058EC04
4K058ED04
要約 【課題】従来の希土類金属の回収方法が有する欠点を克服し、希土類金属の回収を、長期にわたって安定して操業することができる希土類金属の回収方法を提供する。
【解決手段】陽極6と陰極7との間を、希土類金属合金を含むバイポーラー電極型隔膜5で分画して陽極室3及び陰極室4を形成し、陽極室3側に希土類金属イオンを供給しながら、前記陽極6と陰極7との間に電圧を印加して溶融塩電解を行わせて、希土類金属を前記バイポーラー電極型隔膜5中で拡散透過させ、前記陰極7表面に希土類金属又はその合金を析出させる希土類金属の回収方法において、前記バイポーラー電極型隔膜5が、希土類金属合金5aを溶融塩に対して不活性な材料5bで保持してなる。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
陽極と陰極との間を、希土類金属合金を含むバイポーラー電極型隔膜で分画して陽極室及び陰極室を形成し、陽極室側に希土類金属イオンを供給しながら、前記陽極と陰極との間に電圧を印加して溶融塩電解を行わせて、希土類金属を前記バイポーラー電極型隔膜中で拡散透過させ、前記陰極表面に希土類金属又はその合金を析出させる希土類金属の回収方法において、
前記バイポーラー電極型隔膜が、希土類金属合金を溶融塩に対して不活性な材料で保持してなることを特徴とする希土類金属の回収方法。
【請求項2】
前記溶融塩に対して不活性な材料が多孔体又はメッシュ体であり、該溶融塩に対して不活性な材料の隙間に、前記希土類金属合金を埋め込んで保持した請求項1記載の希土類金属の回収方法。
【請求項3】
前記溶融塩に対して不活性な材料が多孔体又はメッシュ体であり、該溶融塩に対して不活性な材料で前記希土類金属合金を挟んで保持した、又は前記溶融塩に対して不活性な材料の表面に前記希土類金属合金を含む膜を配設した請求項1記載の希土類金属の回収方法。
【請求項4】
前記希土類金属合金が固相状態である請求項1~3のいずれか一項に記載の希土類金属の回収方法。
【請求項5】
前記希土類金属合金が軟化した固相状態、固液共存状態、又は液相状態である請求項1~3のいずれか一項に記載の希土類金属の回収方法。
【請求項6】
前記溶融塩に対して不活性な材料が溶融塩に不活性な金属単体または合金、溶融塩に不活性なセラミックス、若しくは溶融塩に不活性な元素である請求項1~5のいずれか一項に記載の希土類金属の回収方法。
【請求項7】
前記耐食性金属単体または合金が、Mo、W、Nb,Taの単体あるいはこれらの何れかを含む合金である請求項6記載の希土類金属の回収方法。
【請求項8】
電解槽と、前記電解槽を陽極室と陰極室とに分画するバイポーラー電極型隔膜と、前記陽極室内に設けられた陽極と、前記陰極室に設けられた陰極と、を備え、前記陽極と前記陰極との間に電圧を印加して溶融塩電解を行う溶融塩電解装置において、
前記バイポーラー電極型隔膜が、希土類金属合金を溶融塩に対して不活性な材料で保持してなることを特徴とする溶融塩電解装置。
【請求項9】
前記溶融塩に対して不活性な材料が多孔体又はメッシュ体であり、該溶融塩に対して不活性な材料の隙間に、前記希土類金属合金を埋め込んで保持した請求項8記載の溶融塩電解装置。
【請求項10】
前記溶融塩に対して不活性な材料が多孔体又はメッシュ体であり、該溶融塩に対して不活性な材料で前記希土類金属合金を挟んで保持した、又は前記溶融塩に対して不活性な材料の表面に前記希土類金属合金を含む膜を配設した請求項8記載の溶融塩電解装置。
【請求項11】
電解槽と、前記電解槽を陽極室と陰極室とに分画するバイポーラー電極型隔膜と、前記陽極室内に設けられた陽極と、前記陰極室に設けられた陰極と、を備え、前記陽極と前記陰極との間に電圧を印加して溶融塩電解を行う溶融塩電解装置に用いられる前記バイポーラー電極型隔膜であって、
希土類金属合金を溶融塩に対して不活性な材料で保持してなることを特徴とするバイポーラー電極型隔膜。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融塩を用いて希土類金属と他の金属との分離又は希土類金属間相互の分離を行って希土類金属を回収する方法、その回収する方法に用いられる溶融塩電解装置、その溶融塩電解装置に用いられるバイポーラー電極型隔膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
希土類金属は、資源の偏在性や需要増加による価格高騰などが原因となって、近年リサイクルに対する要求が高まっている。しかし、現行のリサイクル技術は複雑かつ高コストであることから広くは用いられず、特に廃棄物からはほとんどリサイクルされていない。例えば、希土類金属の用途として大きな割合を占めている希土類磁石では、磁石から酸で浸出し、溶解した希土類金属をシュウ酸若しくは炭酸などで沈殿させたのち、加熱乾燥して希土類酸化物を形成し、さらに溶融塩電解で単体若しくは合金として回収している。しかしながら、リサイクルの対象は製造工程中の切削くずや規格外品等の工程内廃棄物に限られていた。
【0003】
また、本発明者らによる、希土類金属と遷移金属との合金をバイポーラー電極型隔膜として利用して溶融塩電解することで希土類金属含有物から希土類金属を選択的に回収する方法がある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特許第5504515号公報(特許請求の範囲その他)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の希土類金属の回収方法は、バイポーラー電極型隔膜が希土類金属と遷移金属との合金等であった。これらは脆い材料であるために、長期にわたって安定操業するには、なお改善の余地があった。
【0006】
本発明は、上記課題を鑑みて、希土類金属の回収を、長期にわたって安定して操業することができる希土類金属の回収方法を、その方法の実施に用いて好適な溶融塩電解装置及びバイポーラー電極型隔膜と共に提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、希土類金属と遷移金属との合金をバイポーラー電極型隔膜として利用して溶融塩電解する希土類金属の回収方法について、さらに研究を重ねた結果、上記のバイポーラー電極型隔膜の希土類金属と遷移金属との合金を、溶融塩に対して不活性な材料で保持することにより、希土類金属と遷移金属との合金の破損リスクを大幅に軽減し得ることを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0008】
すなわち、本発明の希土類金属の回収方法は、陽極と陰極との間を、希土類金属合金を含むバイポーラー電極型隔膜で分画して陽極室及び陰極室を形成し、陽極室側に希土類金属イオンを供給しながら、前記陽極と陰極との間に電圧を印加して溶融塩電解を行わせて、希土類金属を前記バイポーラー電極型隔膜中で拡散透過させ、前記陰極表面に希土類金属又はその合金を析出させる希土類金属の回収方法において、
前記バイポーラー電極型隔膜が、希土類金属合金を溶融塩に対して不活性な材料で保持してなることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の溶融塩電解装置は、電解槽と、前記電解槽を陽極室と陰極室とに分画するバイポーラー電極型隔膜と、前記陽極室内に設けられた陽極と、前記陰極室に設けられた陰極と、を備え、前記陽極と前記陰極との間に電圧を印加して溶融塩電解を行う溶融塩電解装置において、
前記バイポーラー電極型隔膜が、希土類金属合金を溶融塩に対して不活性な材料で保持してなることを特徴とする。
【0010】
さらに、本発明のバイポーラー電極型隔膜は、電解槽と、前記電解槽を陽極室と陰極室とに分画するバイポーラー電極型隔膜と、前記陽極室内に設けられた陽極と、前記陰極室に設けられた陰極と、を備え、前記陽極と前記陰極との間に電圧を印加して溶融塩電解を行う溶融塩電解装置に用いられる前記バイポーラー電極型隔膜であって、
希土類金属合金を溶融塩に対して不活性な材料で保持してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の希土類金属の回収方法によれば、操業中にバイポーラー電極型隔膜が破損するリスクを大幅に軽減して希土類金属の回収を、長期にわたって安定して操業することができ、ひいては希土類金属の回収プロセスの工業化を図ることができるという効果が奏される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の希土類金属の回収方法を実施するのに用いて好適な溶融塩電解装置の実施形態1の模式図である。
【図2】本発明の希土類金属の回収方法を実施するのに用いて好適な溶融塩電解装置の実施形態2の模式図である。
【図3】本発明の希土類金属の回収方法を実施するのに用いて好適な溶融塩電解装置の実施形態3の模式図である。
【図4】本発明の希土類金属の回収方法を実施するのに用いて好適な溶融塩電解装置の実施形態4の模式図である。
【図5】実施例に用いられた装置の模式図である。
【図6】実施例1でハステロイ板を用いた際に得られた合金の断面反射電子像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の希土類金属の回収方法、溶融塩電解装置、バイポーラー電極型隔膜を、図面を参照しつつ、より具体的に説明する。

【0014】
図1は、本発明の希土類金属の回収方法を実施するのに用いて好適な溶融塩電解装置の実施形態1の模式図である。図1において、溶融塩電解装置1は、電解槽2と、電解槽2を陽極室3と陰極室4とに分画するバイポーラー電極型隔膜5と、陽極室3内に設けられた陽極6と、陰極室4に設けられた陰極7と、を備えている。

【0015】
本発明の希土類金属の回収方法は、陽極室3側に希土類金属イオンを供給しながら、陽極6と陰極7との間に電圧を印加して溶融塩電解を行わせて、希土類金属を前記バイポーラー電極型隔膜5中で拡散透過させ、陰極7表面に希土類金属又はその合金を析出させる。

【0016】
本発明方法における電解条件としては、これまでの溶融塩電解において通常用いられている条件を使用すればよく、特に制限はない。すなわち、浴温度としては400~1200℃、好ましくは500~900℃、電解電圧としては0.5~20V、電解電流としては、0.001~10A/cmの範囲が用いられる。電解電流は高いほど処理速度も高く好ましいが、同時に発熱量が増加するとともにバイポーラー電極型隔膜の破損や分離性の低下などのリスクも増大するため、これらの要因を総合的に勘案した上で最も効率的な値を選択することができる。このような電解電流としては、0.005~5A/cmの範囲が好ましく、0.01~2A/cmの範囲が特に好ましい。
この電解処理は、大気中で行うこともできるが、副反応を避けるために不活性雰囲気中で行うのが好ましい。

【0017】
本発明方法において希土類金属が分離、回収される作用機構を説明する。
図1において、バイポーラー電極型隔膜5により分けられた陽極室3に、希土類含有合金例えば水素吸蔵合金や希土類磁石からなる陽極6を、陰極室4に金属例えばFeからなる陰極7を浸漬し、両極間に電圧を印加すると、陽極6に含まれる希土類金属は選択的に酸化され、陽極室内3に希土類金属イオン(図中に「RE」で示した。図2~図4においても同様。)として溶解する。この陽極室内3の希土類金属イオンは、隔膜5の陽極室側表面で還元されてただちに合金化されるとともに、合金内部に速やかに拡散する。

【0018】
次に、隔膜5の陰極室4側表面では希土類金属が選択的に酸化され、陰極室4内に希土類金属イオンとして溶解する。この希土類金属イオンは陰極7において還元され、希土類金属の単体又は合金として析出する。いっぽう、不純物は希土類金属合金を透過できないため、陽極室側にそのまま残存する傾向がある。この際、陽極6として用いた希土類含有合金中あるいは汚染物質中の希土類金属以外の金属、例えばNiやCoなどの一部が溶解し、隔膜5の陽極室3側表面に析出する可能性もあるが、これらは陰極室4側へ拡散せず、仮に拡散した場合でも適切な電解条件下では陰極室4に溶出することはないので、陰極7では不純物の少ない希土類金属を回収することができる。

【0019】
また、陽極6として複数の希土類金属を含む希土類含有合金を用いた場合、あるいは複数の希土類金属化合物を陽極室3に添加した場合は、各希土類金属の合金隔膜5中の移動速度、隔膜5との合金化又は隔膜5から酸化溶解する電位などの相違を利用して、希土類金属の相互分離をすることができる。

【0020】
本発明方法においては、陽極室3へ希土類金属イオンを供給する手段としては、希土類化合物、例えば希土類金属塩を陽極室3側の溶融塩に添加する方法、陽極6として希土類金属を含む材料、例えば希土類金属合金を用いて陽極溶解させる方法などがある。図1の装置では陽極6として希土類金属合金を用いている。

【0021】
本発明方法においては、溶融塩を入れた電解槽2をバイポーラー電極型隔膜5で分画し、一方の分画に陽極6を、他方の分画に陰極7を浸漬し、陽極室3に希土類金属イオンを供給しながら、電解処理するのであるが、この際の溶融塩としては、特に制限はなく、通常の溶融塩電解において使用されている溶融塩の中から任意に選んで用いることができる。

【0022】
このような溶融塩としては、アルカリ金属ハロゲン化物、例えばNaCl、KCl、LiCl、NaF、KF及びLiF、アルカリ土類金属ハロゲン化物、例えばMgCl2、CaCl2、BaCl2、MgF2、CaF2及びBaF2、希土類金属ハロゲン化物、例えばNdCl3、DyCl3、NdF3及びDyF3のうちの少なくとも1つを含む溶融塩を挙げることができる。そのほか、酸化物、シュウ酸塩、硫酸塩や炭酸塩も用いることができる。

【0023】
また、陽極6及び陰極7の電極材料としても、これまで溶融塩電解の際に電極として普通に用いられていたものの中から任意に選んで用いることができる。このようなものとしては、例えばFe、Ni、Co、Cu、Mo、Ta、Wのような金属および合金、炭素繊維、グラファイトなどの炭素材料を挙げることができる。

【0024】
この際、陽極材料として希土類金属含有合金、例えば水素吸蔵合金スクラップ、Nd-Fe-BやSm-Coのような希土類磁石スクラップを用いると、希土類金属イオン供給源を兼用させることができる。

【0025】
次に、本発明方法において用いるバイポーラー電極型隔膜5は、希土類金属合金を含む。希土類金属合金は、好ましくは希土類金属と遷移金属との合金、例えばRE-Ni(ただし、REはSc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuの中から選ばれた少なくとも1種)合金やRE-Fe合金がある。特に好ましいのは、希土類金属と鉄族金属の合金、更に好ましいのはREM(ただしREは前記と同じ、Mは鉄族金属)である。
かかる希土類金属合金の成分である希土類金属は、陽極室3に供給される希土類金属イオンと同じ希土類元素の金属であることが好ましい。

【0026】
バイポーラー電極型隔膜5の希土類金属合金は、陽極室3の希土類金属イオンを隔膜5中に拡散させて選択的に透過させる。この選択透過性により陰極側で不純物の少ない希土類金属を回収することができる。しかしながら、バイポーラー電極型隔膜5の希土類金属合金は、脆い材料である。

【0027】
そこで、本発明方法では、バイポーラー電極型隔膜5の脆い希土類金属合金を、溶融塩に対して不活性な材料で保持する。具体的には、例えば溶融塩に対して不活性な材料が多孔体又はメッシュ体(網状体)であり、該溶融塩に対して不活性な材料の隙間に、希土類金属合金を埋め込んで保持する。また、別の例では、溶融塩に対して不活性な材料が多孔体又はメッシュ体であり、該溶融塩に対して不活性な材料で希土類金属合金を挟んで保持する。または、希土類金属合金を保持できるのであれば、必ずしも挟まなくても足り、溶融塩に対して不活性な材料の1枚の表面で、希土類金属合金を保持することもできる。例えば、該溶融塩に対して不活性な材料の表面に希土類金属合金を含む膜を配設する。この場合において、溶融塩に対して不活性な材料と希土類金属合金との境界は必ずしも明確でなくてもよく、例えば、バイポーラー電極型隔膜の厚さ方向に、溶融塩に対して不活性な材料の組成と希土類金属合金の組成とが、なだらかに変化して境界が不明確であってもよい。

【0028】
図1に示した実施形態1の溶融塩電解装置1のバイポーラー電極型隔膜5は、希土類金属合金5aが、多孔体又はメッシュ体の溶融塩に対して不活性な材料5bの隙間に埋め込まれている。

【0029】
溶融塩に対して不活性な材料5bは、例えば溶融塩に不活性な金属、換言すれば溶融塩と反応しない遷移金属を含む金属又は合金(以下、「溶融塩不活性合金」と言う。)や、溶融塩に不活性な化合物を含む耐食性セラミックス(以下、「溶融塩不活性セラミックス」と言う。)、および溶融塩に不活性な炭素等の元素(以下、「溶融塩不活性元素」と言う。)、である。

【0030】
溶融塩に不活性な遷移金属は、溶融塩の組成によって適切なものを選択できるが、例えばMo、W、Nb、Ta等である。これらの金属の単体又は合金を溶融塩不活性合金に用いることができる。
溶融塩不活性セラミックスは、アルミナ、ジルコニア、チタニア、ムライト、シリコンカーバイド等を用いることができる。
溶融塩不活性元素は、ガラス状、黒鉛状、繊維状等の各種炭素材料やSi等を用いることができる。

【0031】
溶融塩に対して不活性な材料5bとしての溶融塩不活性合金、溶融塩不活性セラミックス、あるいは溶融塩不活性元素は多孔体又はメッシュ体の形態とされ、その隙間に、希土類金属合金5aを埋め込んで保持する。埋め込みは、含浸等の公知の方法により行うことができる。あるいは、溶融塩に対して不活性な材料5bと、希土類金属合金5aの母材となる金属、とにより構成される材料を希土類金属と部分的に合金化させることで、微視的に、溶融塩に対して不活性な材料5bの隙間に、希土類金属合金5aを介在させて、同様の効果を持たせることもできる。

【0032】
本実施形態のバイポーラー電極型隔膜5は、選択透過性を有する希土類金属合金5aを、一定の強度を有する溶融塩に対して不活性な材料5bで保持することにより、希土類金属合金5aの脆い特性を補い、隔膜の破損リスクを大幅に低減することができる。

【0033】
図2は、本発明の希土類金属の回収方法を実施するのに用いて好適な溶融塩電解装置の実施形態2の模式図である。図2において、図1と同一の部材には同一の符号を付していて、以下の実施形態2の説明では、実施形態1と同一部材についての重複する説明は省略する。

【0034】
図2の溶融塩電解装置11のバイポーラー電極型隔膜15は、板状の希土類金属合金5aが、板又は枠の形状を有する多孔体又はメッシュ体の溶融塩に対して不活性な材料5cに挟まれて保持されている。このバイポーラー電極型隔膜15の構造以外は、実施形態1と同様の構成を有している。

【0035】
溶融塩に対して不活性な材料5cは、実施形態1の溶融塩に対して不活性な材料5bと同様の材料を用いることができる。溶融塩に対して不活性な材料5cによる希土類金属合金5aの挟み込みは、公知の方法により行うことができる。

【0036】
本実施形態のバイポーラー電極型隔膜15は、選択透過性を有する希土類金属合金5aを、一定の強度を有する溶融塩に対して不活性な材料5cで挟んで保持することにより、希土類金属合金5aの脆い特性を補い、隔膜の破損リスクを大幅に低減することができる。
図2に示した例とは別の例として、板状の多孔質材料からなる、溶融塩に対して不活性な材料5cの一方の又は両方の表面に、希土類金属合金5aを含む膜を配設することもできる。

【0037】
上述した実施形態1及び実施形態2は、バイポーラー電極型隔膜5、15の希土類金属合金5aが、固相状態の例であった。本発明に用いられるバイポーラー電極型隔膜の希土類金属合金は、軟化した固相状態、固液共存状態、又は液相状態の態様であってもよい。希土類金属合金が、固相で脆い材料であっても、融点よりやや低い温度ないし液相になる温度域であれば、軟化して破損リスクを大幅に低減できる。また、希土類金属合金の融点は組成によっても変化するため、適切な組成範囲に維持することで同様の効果を得ることができる。ただし、希土類金属合金は、軟化した固相状態、固液共存状態、又は液相状態である場合は機械的強度が低下するため、これらの態様の希土類金属合金を保持する材料が別途に必要である。これらの態様の実施形態を以下に説明する。

【0038】
図3は、本発明の希土類金属の回収方法を実施するのに用いて好適な溶融塩電解装置の実施形態3の模式図である。図3において、図1と同一の部材には同一の符号を付していて、以下の実施形態3の説明では、実施形態1と同一部材についての重複する説明は省略する。

【0039】
図3の溶融塩電解装置21のバイポーラー電極型隔膜25は、軟化した固相状態、固液共存状態、又は液相状態の希土類金属合金5dが、多孔体又はメッシュ体の溶融塩に対して不活性な材料5bの隙間に埋め込まれている。このバイポーラー電極型隔膜25の構造以外は、実施形態1と同様の構成を有していて、溶融塩に対して不活性な材料5bについても実施形態1と同様の構成とすることができる。

【0040】
本実施形態のバイポーラー電極型隔膜25は、選択透過性を有する希土類金属合金5dを、一定の強度を有する溶融塩に対して不活性な材料5bで保持する。希土類金属合金5dは、軟化した固相状態、固液共存状態、又は液相状態である。これらの状態であっても、希土類金属合金5dは、選択透過性を有し、バイポーラー電極型隔膜として用いることができることが、本発明者らの研究により確認されている。軟化した固相状態、固液共存状態、又は液相状態を有する希土類金属合金5dを、一定の強度を有する溶融塩に対して不活性な材料5bで保持することにより、バイポーラー電極型隔膜25としての形態を保持することができる。また、かかる構造のバイポーラー電極型隔膜25は、軟化した固相状態、固液共存状態、又は液相状態を有する希土類金属合金5dにより、隔膜の破損リスクを大幅に低減することも可能である。

【0041】
図4は、本発明の希土類金属の回収方法を実施するのに用いて好適な溶融塩電解装置の実施形態4の模式図である。図4において、図1~3と同一の部材には同一の符号を付していて、以下の実施形態4の説明では、実施形態1~3と同一部材についての重複する説明は省略する。

【0042】
図4の溶融塩電解装置31のバイポーラー電極型隔膜35は、軟化した固相状態、固液共存状態、又は液相状態を有する希土類金属合金5dが、板又は枠の形状を有する多孔体又はメッシュ体の溶融塩に対して不活性な材料5cに挟まれて保持されている。このバイポーラー電極型隔膜35の構造以外は、実施形態1~3と同様の構成を有している。

【0043】
本実施形態のバイポーラー電極型隔膜35は、選択透過性を有する希土類金属合金5dを、一定の強度を有する溶融塩に対して不活性な材料5cで保持する。希土類金属合金5dは、軟化した固相状態、固液共存状態、又は液相状態である。軟化した固相状態、固液共存状態、又は液相状態を有する希土類金属合金5dを、一定の強度を有する溶融塩に対して不活性な材料5cで保持することにより、バイポーラー電極型隔膜35としての形態を保持することができる。また、かかる構造のバイポーラー電極型隔膜35は、軟化した固相状態、固液共存状態、又は液相状態を有する希土類金属合金5dにより、隔膜の破損リスクを大幅に低減することも可能である。
図4に示した例とは別の例として、板状の多孔質材料からなる、溶融塩に対して不活性な材料5cの一方の又は両方の表面に、軟化した固相状態、固液共存状態、又は液相状態を有する希土類金属合金5aを含む膜を配設することもできる。

【0044】
上述した実施形態1、2のようにバイポーラー電極型隔膜35の希土類金属合金5aが固相状態を有するか、又は、実施形態3、実施形態4のように希土類金属合金5dが、軟化した固相状態、固液共存状態、又は液相状態を有するかは、溶融塩電解時の浴温度とも関係する。

【0045】
浴温度の上限は使用する溶融塩の種類に依存するが、一般的に塩化物系を主体とすれば1000℃以下であれば、塩の蒸気圧が10-6気圧以下で、蒸発がほとんど起こらない。望ましくは900℃以下(塩の蒸気圧が10-8気圧以下)である。また、フッ化物系を主体とすれば同様に1200℃以下、望ましくは1000℃以下である。

【0046】
一方、浴温度の下限は使用する合金隔膜の組成および融点で決定されるが、固相であれば下限は無く、溶融塩の共融点で決定される(一般に400℃以上)。また、融点をケルビン表示した値の0.6倍以上の温度で、金属の粒界すべりに起因する粒成長速度が大きくなることが一般的に知られている。例えばFeDy合金の融点(相分離点)は1270℃であり、ケルビン表示した値の0.6倍の温度は652℃である。それ以上の温度では材料の軟化が起こりやすく、隔膜の破損リスクが大幅に低減できる。さらに、同組成の合金を1270℃以上1305℃以下に保つと、Dy‐Fe合金の固液共存状態に、1305℃以上であれば単一の液相となる。このように、浴温度の温度範囲は使用する合金隔膜の組成および固相、軟化した固相、固液共存、液相のいずれを用いるかによって選択することができる。
【実施例】
【0047】
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
以下の実施例では、バイポーラー電極型隔膜の希土類金属合金および溶融塩に対して不活性な材料について、種々の実験を行った。
【実施例】
【0048】
(実施例1)
図5に示す、電解槽8に作用極9と対極10を備える装置を用いて溶融塩電解を行った。作用極9は、希土類金属合金の母材となるニッケルを主成分とし、溶融塩に不活性な金属としてモリブデンを一定量含有する合金であるインコネルやハステロイの板材を用いた。対極10はグラッシーカーボン棒を用いた。溶融塩は、真空乾燥した共融組成のLiCl-KCl(45:55、質量%)を450℃にてAr雰囲気下で溶融し、一晩バブリングしたのち無水DyClを0.5mol%添加したものを用いた。かかる溶融塩を電解槽8内に収容し、溶融塩に作用極9と対極10を浴中に浸漬させ、溶融塩の温度を450℃から550℃の範囲内で保持して電解した。その結果、高い選択透過性が既に確認されているジスプロシウム-ニッケル合金の形成を確認した。モリブデンは粒界に金属の状態で残存していると考えられるため、ここで得られた試料は、残存するモリブデンに由来する一定の強度と、ジスプロシウム‐ニッケル合金に由来する高い選択透過性を併せ持つ隔膜材料として期待できる。
【実施例】
【0049】
図6は厚さ0.1mmのハステロイ板を用いた際に得られた合金の断面反射電子像である。元のハステロイが全部合金化した部分5eと未反応のハステロイが残存した部分5fとが混在しているが、未反応のハステロイが残存していた部分は限定的であるうえ、その未反応部位の厚さは最大でも0.025mmであった。
【実施例】
【0050】
表1は厚さ0.1mmのニッケルおよびハステロイ板、およびそれらを合金化させた試料の破断強度測定結果である。参考のため、厚さ0.05mmのハステロイ板の測定値も記載している。
【実施例】
【0051】
【表1】
JP2018083968A_000003t.gif
【実施例】
【0052】
ニッケルの場合、合金化により破断強度が33Nまで低下するのに対し、合金化したハステロイは221Nの破断強度を保っていた。合金化したハステロイの破断強度の一部は未反応のハステロイによるものと考えられるが、破断強度はハステロイ板の厚さに比例することから、これに由来する強度は最大でも100Nである。実際には単純な引き算ではないものの、合金化したハステロイの強度は100Nから200N以上と見積もられ、ニッケルから作製した合金に比較して3倍以上の破断強度を持つと判断される。
【実施例】
【0053】
(実施例2)
実施例2では、図5の作用極9として亜鉛を用い、軟化した固相状態、および液相状態での希土類合金形成を確認した。
亜鉛が軟化した固相状態として存在する653Kの浴温度において、希土類塩化物を添加したLiCl-KCl溶融塩中で電解を行ったところ、希土類-亜鉛合金の形成が確認された。
また、亜鉛が液相状態となる723Kの浴温度において、同様の実験を行った際も、希土類-亜鉛合金の形成が確認された。
以上の結果から、基材が液相であっても固相と同様に希土類合金の形成は可能であり、バイポーラー電極型隔膜として利用可能と考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
溶融塩電解による希土類金属の回収にあたり、バイポーラー電極型隔膜の長寿命化が可能となり、希土類磁石や水素吸蔵合金あるいはそれらの工程内スクラップから希土類金属をリサイクルすることの工業化に有用である。
【符号の説明】
【0055】
1 溶融塩電解装置
2 電解槽
3 陽極室
4 陰極室
5 バイポーラー電極型隔膜
6 陽極
7 陰極
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5