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明細書 :涙道撮像方法、涙道撮像装置及びこれらに用いる点眼薬

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-099142 (P2018-099142A)
公開日 平成30年6月28日(2018.6.28)
発明の名称または考案の名称 涙道撮像方法、涙道撮像装置及びこれらに用いる点眼薬
国際特許分類 A61B   3/10        (2006.01)
A61F   9/007       (2006.01)
FI A61B 3/10 R
A61F 9/007 200C
請求項の数または発明の数 8
出願形態 OL
全頁数 15
出願番号 特願2016-244978 (P2016-244978)
出願日 平成28年12月19日(2016.12.19)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用申請有り 開催日:平成28年6月19日 集会名:第122回京都眼科学会 場 所:京都府立医科大学附属図書館 〔刊行物等〕 頒布日:平成28年7月1日 刊行物名:フォーサム2016東京 プログラム・講演抄録集 掲載箇所:第158頁右下欄 〔刊行物等〕 開催日:平成28年7月2日 集会名:第5回日本涙道・涙液学会総会(フォーサム2016東京) 場 所:東京国際フォーラム 〔刊行物等〕 開催日:平成28年10月30日 集会名:京都大学同窓会学会 場 所:京都大学百周年時計台記念館 百周年記念ホール
発明者または考案者 【氏名】藤本 雅大
【氏名】宇治 彰人
【氏名】吉村 長久
【氏名】樋渡 史子
【氏名】山田 尚史
【氏名】大林 康二
出願人 【識別番号】503278393
【氏名又は名称】株式会社システムズエンジニアリング
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100115303、【弁理士】、【氏名又は名称】岩永 和久
審査請求 未請求
テーマコード 4C316
Fターム 4C316AA11
4C316AB02
4C316AB11
4C316FY08
4C316FZ02
要約 【課題】非接触かつ非侵襲で涙道の2次元及び3次元断層画像を撮像し、また、涙液の流速と流量を測定することにより、涙道閉塞、涙小管炎、機能性流涙などの各種涙道疾患の検査又は診断のために用いられる、または涙道疾患の治療効果予測(手術適応の有無を含む)に併用される涙道撮像方法・装置及びこれらに用いる点眼薬を提供する。
【解決手段】光散乱剤を含む点眼薬をOCT撮像前に被検体に点眼し被検体の眼の組織学的及び動的オプティカル・コヒーレンス・トモグラフィー(OCT)撮像を行うと、涙点12,13から始まり涙小管14,15を経て総涙小管16に至る涙道の撮像が可能である。また、ドップラーOCT撮像を行うと涙液の流れの速度が計測できる。さらに、点眼薬を点眼しなくても、被検体の眼瞼結膜31を露出させ、眼瞼結膜31を通して経結膜的に組織学的OCT撮像を行うと、前述した涙道の撮像が可能である。
【選択図】図4
特許請求の範囲 【請求項1】
涙道粘膜よりも光を強く散乱する光散乱剤を含む点眼薬を被検体に点眼した後、前記被検体の涙道をオプティカル・コヒーレンス・トモグラフィー(OCT)で撮像する涙道撮像方法。
【請求項2】
皮膚内部組織よりも光を強く散乱する光散乱剤を含む点眼薬を被検体に点眼した後、経皮膚的に涙道をOCTで撮像する涙道撮像方法。
【請求項3】
涙道粘膜の10分の1以上の強度で光を散乱する光散乱剤を含む点眼薬を被検体に点眼した後、前記被検体の涙道を動的OCTで撮像する涙道撮像方法。
【請求項4】
涙道粘膜の10分の1以上の強度で光を散乱する光散乱剤を含む点眼薬を被検体に点眼した後、ドップラーOCTで撮像し、涙液の流速を決定する工程をさらに含む涙道撮像方法。
【請求項5】
被検体の涙道をOCTで経結膜的に撮像する涙道撮像方法。
【請求項6】
光を散乱する光散乱剤を含む請求項1から4のいずれか記載の涙道撮像方法に使用するOCT撮像用の点眼薬。
【請求項7】
前記光の波長が750nm~1900nmの範囲内の赤外線である請求項6に記載の点眼薬。
【請求項8】
使用する光の波長が750nm~1900nmの範囲内にあり、被検体への照射光強度が1mW以上であり、OCTプローブの出射光の方向を両眼の中心と角膜頂点を通る面に対して、経下眼瞼結膜の撮像においては上に15度以上、経上眼瞼結膜の撮像においては下に15度以上の角度に設定できることを特徴とする涙道撮像用のOCT装置。


発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体の涙道の2次元及び3次元立体断層画像を撮像し、また、撮像した画像を用いて涙液の流れの速度(流速)と流量を計測する涙道撮像方法及び涙道撮像装置、並びにこれらに用いる点眼薬に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトを例として、ヒトの涙器図を図1に示す。涙液は涙腺11で産生され眼10の表面に流入する。涙液は眼10の全体に広がり、一部が蒸発し、残りは涙道を通過して鼻腔に排出される。涙道は、上眼瞼内側部に開口した上涙点12とそれにつながる上涙小管14、下眼瞼内側部に開口した下涙点13とそれにつながる下涙小管15、上下の涙小管が合流した総涙小管16、涙嚢17、鼻涙管18から構成される。
【0003】
涙道のいずれかの個所で閉塞や狭窄が生ずると、涙液が円滑に排出されず滞留するために流涙症(いわゆる涙目)となり、また涙液の滞留は常在菌の増殖・炎症を誘発し、涙小管炎、涙嚢炎、眼瞼縁炎を引き起こす。従って、涙道の状態を把握することは、流涙症やそれに付随する炎症の予防・診断にとって重要である。
【0004】
涙道内腔の状態を見るためには、一般に涙道内視鏡が用いられる(例えば、特許文献1参照)。涙道内視鏡では、涙点拡張針で涙点を拡張後に、細径の内視鏡を涙道内に挿入し、通水チャネルより蒸留水(もしくは生理食塩水)を注入して内腔を強制的に確保した状態で、狭窄・閉塞の有無と涙道上皮表面を観察する。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2004-16317号公報
【特許文献2】特開2004-167080号公報
【0006】

【非特許文献1】G. Liu他、Biomedical Optics Express誌、第3巻、10号 (2012)2669-2680ページ
【非特許文献2】A. Mariampillai他、Optics Letters誌、第35巻、8号(2010)1257-1259ページ
【非特許文献3】H. Ren他、Optics Letters誌、第27巻、6号(2002)409-411ページ
【非特許文献4】藤本雅大、宇治彰人他、「フォーサム2016東京」学会プログラム・講演抄録集、158ページ
【非特許文献5】S. L. Jacques, Physics in Medicine and Biology誌、第58巻、(2013)R37-R61ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
現在の涙道診療では涙道閉塞を評価する検査法として涙管通水検査、涙道造影検査、涙道内視鏡検査、Computed tomography(CT)などがあるが、侵襲または被曝を伴う検査であり、非接触かつ簡便に涙道の断面を評価可能な検査はない。
【0008】
特許文献1に開示されるような涙道内視鏡では、内腔の定性的な評価は可能であるが、実際に涙小管の狭窄を定量的に評価することや涙小管断面の評価はできない。また、涙点閉塞時の涙小管の評価も不可能である。プローブを挿入して観察するため侵襲的であり、被検体への負担が大きい。また、涙道内視鏡では涙道の涙液排出機能を評価することはできない。
【0009】
そこで、本発明は、非接触かつ非侵襲で涙道の2次元及び3次元断層画像を撮像し、また、涙液の流速と流量を測定することにより、涙道閉塞、涙小管炎、機能性流涙などの各種涙道疾患の検査又は診断のために用いられる、または涙道疾患の治療効果予測(手術適応の有無を含む)に併用される涙道撮像方法、涙道撮像装置及びこれらに用いる点眼薬を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者らは、光散乱剤を含む点眼薬をOCT撮像前に被検体に点眼することにより、涙点から始まり涙小管を経て総涙小管に至る涙道を造影して撮像できることを見出し、さらには被検体の眼瞼結膜を露出させ眼瞼結膜を通して経結膜的にOCT撮像を行うと涙道が撮像できることも見出し、本発明を完成した。
【0011】
第1の手段は、涙道粘膜よりも光を強く散乱する光散乱剤を含む点眼薬を被検体に点眼した後、前記被検体の涙道をオプティカル・コヒーレンス・トモグラフィー(OCT)で撮像する涙道撮像方法である。
【0012】
第2の手段は、皮膚内部組織よりも光を強く散乱する光散乱剤を含む点眼薬を被検体に点眼した後、経皮膚的に涙道をOCTで撮像する涙道撮像方法である。
【0013】
第3の手段は、涙道粘膜の10分の1以上の強度で光を散乱する光散乱剤を含む点眼薬を被検体に点眼した後、前記被検体の涙道を動的OCTで撮像する涙道撮像方法である。
【0014】
第4の手段は、涙道粘膜の10分の1以上の強度で光を散乱する光散乱剤を含む点眼薬を被検体に点眼した後、ドップラーOCTで撮像し、涙液の流速を決定する工程をさらに含む涙道撮像方法である。
【0015】
第5の手段は、被検体の涙道をOCTで経結膜的に撮像する涙道撮像方法である。
【0016】
第6の手段は、光を散乱する光散乱剤を含む第1の手段から第4の手段に使用するOCT撮像用の点眼薬である。
【0017】
第7の手段は、前記光が、波長が750nm~1900nmの範囲内の赤外線である第6の手段の点眼薬である。
【0018】
第8の手段は、使用する光の波長が750nm~1900nmの範囲内にあり、被検体への照射光強度が1mW以上であり、OCTプローブの出射光の方向を両眼の中心と角膜頂点を通る面に対して、経下眼瞼結膜の撮像においては上に15度以上、経上眼瞼結膜の撮像においては下に15度以上の角度に設定できることを特徴とする涙道撮像用のOCT装置である。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、非接触で被検体の涙道の2次元及び3次元断層画像を撮像することにより、涙道の閉塞や狭窄の状態が撮像できるので流涙症(涙目)の診断に役立つ。また、涙点近傍の涙道の3次元的形状も決定できるので、涙点プラグの選択にも役立ちうる。さらに、涙液の流速と流量を測定することにより、機能性流涙の診断、また涙道疾患の治療効果予測にも有用である。また、非接触かつ簡便な検査であり、被検体への負担が軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】ヒトの涙器図である。
【図2】ヒトの眼を説明するための図である。(a)は縦断面、(b)は正面図である。
【図3】涙道のOCT撮像を実施する様子を示した図である。(a)は被検体であるイヌの眼瞼皮膚を通して撮像する場合、(b)は座位の被検体である人の下眼瞼結膜を通して撮像する場合、(c)は仰臥位の被検体である人の上眼瞼結膜を通して撮像する場合である。
【図4】涙道のOCT撮像を実施する様子を示した図である。(a)はOCTプローブの配置、(b)はB-走査方向の例を示す。
【図5】生体組織の光散乱係数と水の光吸収係数の波長依存性を示す図である。
【図6】眼瞼結膜を通して涙道を撮像したOCT撮像画像の例を示す図である。(a)は点眼薬を点眼後の組織学的OCT画像、(b)は点眼薬を点眼する前の組織学的OCT画像を示す。
【図7】涙点を含み、経結膜的および経皮膚的に撮像したOCT撮像画像の例を示す図である。(a)は動的OCT画像、(b)は組織学的OCT画像である。
【図8】OCTプローブからの出射光の方向を定義する図である。

【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
涙道の解剖学的部位を、ヒトを例として図2に示す。図2(a)は、横から見た前眼部の縦断面図であり、上眼瞼34、下眼瞼35、角膜36、水晶体37が示してある。上眼瞼は自然の状態において、外側は上眼瞼皮膚32で、内側が上眼瞼結膜30である。下眼瞼を翻転した状態において、下側が下眼瞼皮膚33で上側が下眼瞼結膜31である。このような眼瞼の状態を眼瞼結膜が露出していると呼ぶ。
【0022】
下眼瞼を翻転した状態において、正面から見た眼を図2(b)に示す。下眼瞼結膜31が露出している。涙点は眼瞼皮膚と眼瞼結膜の境界にあり、図には上涙点12と下涙点13が黒丸で示してある。涙小管は涙点から眼瞼内を鼻側に走行する。これを眼の前から目視しようとすると、図2(b)の上眼瞼の場合のように眼瞼が自然の状態では、眼瞼皮膚を通して見ることになる。このような場合を「経皮膚的」に見ると呼ぶ。図2(b)の下眼瞼の場合の様に眼瞼を翻転した場合は眼瞼結膜31を通して見ることになり、このような場合を「経結膜的」に見ると呼ぶ。いずれの場合も、涙小管14,15は目視では観察できない。
【0023】
オプティカル・コヒーレンス・トモグラフィー(以下「OCT」と略す)は、不透明な生体組織の断層画像を撮像できる方法である(例えば、特許文献2参照)。通常のOCTは、被検体に光(赤外光を含む)を照射し、照射光路に沿って後方散乱(後方反射も含むものとする。以下同様)される光の強度を光路の奥行方向の位置の関数として測定する。この測定をA-走査と呼ぶ。A-走査を照射光に対し横方向に照射位置を移動させて複数回行い、後方散乱光強度を白黒の濃淡(グレースケール)に変換して2次元表示すれば白黒の2次元断層画像が得られる。この走査をB-走査と呼ぶ。B-走査の断層面を移動して2次元断層画像を複数取得し、3次元表示のための画像処理を行えば3次元立体断層画像が得られる。なお、白黒の濃淡に代わりに、疑似カラーを用いて表示することもできる。
【0024】
通常のOCTで撮像されるのは、組織学的断層画像であり、得られる画像を「組織学的OCT画像」と呼ぶ。
【0025】
組織学的OCT画像の撮像のほかに、OCTには被検体の中の動的変動を抽出し画像化する「動的OCT(ダイナミックOCT)」の手法がある。動的変動の例としては血流があり、流れる血球から散乱された光の周波数の変化(ドップラーシフト)から流れの向きと流速が決定でき、「ドップラーOCT」と呼ぶ(例えば、非特許文献1参照)。ドップラーOCTは当業者にはよく知られた確立された方法である。
【0026】
また、血管中の血球はOCTの光の照射領域内には複数あり、それらの相対位置が変化すると散乱された光の干渉によって光の後方散乱強度が変動する。これはスペックル変動と呼ばれる。OCT画像信号の時間変化から変動しない信号部分を引き去ると、組織学的OCT画像では画像内の主たる部分を占めていた静的組織画像部分が引き去られ、スペックル変動による画像が得られ、組織学的OCT画像では弁別が困難な深部の微細な血管の信号を際立たせて撮像することができる(例えば、非特許文献1、非特許文献2参照)。この方法は、スペックル変動OCTと呼ばれる。
【0027】
血管中の血球の位置変動の原因には、血流の他にブラウン運動もあり、血流の流速が遅くなるとブラウン運動がスペックル信号変動の主因になるという報告がある(例えば、非特許文献3)。ここでは、ドップラーOCTとスペックル変動OCTを総称して「動的OCT」と呼び、動的OCTで撮像された画像を、「動的OCT画像」と呼ぶ。動的OCTも、当業者にはよく知られた確立された方法である。
【0028】
スペックル変動OCT画像を一組の複数の組織学的OCT画像から求める式の一例を示す(非特許文献2)。2次元B-走査断層画像を、走査面を移動せずにN枚連続して取得し、i番目に取得されたB-走査の番号をiとする。B-走査の横方向と奥行方向の画像ピクセル(画素)の位置(番号)をそれぞれj、kとする。ピクセルの位置(j,k)でのB-走査の画素信号I(i,j,k)の平均値<I(j,k)>は次式で与えられる。
【数式1】
【0029】
JP2018099142A_000003t.gif
【数式2】
【0030】
スペックル変動の各ピクセルでの平均値SV(j,k)は、各ピクセル位置の信号強度から平均値を引いた値の2乗和を求め、B-走査画像数Nで割った次式で与えられる。
【数式3】
【0031】
JP2018099142A_000004t.gif
【0032】
スペックル変動のOCT画像は、SV(j,k)の信号強度を濃淡に変換して2次元画面に表示すれば求められる。
【0033】
仮に組織学的OCT画像が静的であって、各信号I(i,j,k)が誤差なして測定できれば、各I(i,j,k)は平均値に等しいので、数式2の値は零になる。しかし、血球が動くために組織学的OCT信号が時間変動しているピクセルのスペックル変動信号SV(j,k)は零にならない。従って、スペックル変動OCTでは、血管の信号が相対的に強調されて撮像される。これが動的OCTによる造影効果である。ただし、組織学的OCT画像が静的であっても、有限時間内の実際の測定では各信号I(i,j,k)は測定誤差を持つので、数式2は厳密には零にならない。このため、誤差による残像があり、これはスペックル変動画像にとっては雑音(画像ノイズ)になる。
【0034】
涙道内の涙液の透明度は高く、血球の様に光を強く散乱する粒子は通常の涙液中にはない。従って通常の涙道に対しては動的OCT撮像を行い造影効果を得ることは難しい。しかし、光を強く散乱する粒子を含む点眼薬を点眼すると、造影効果により涙道の鮮明な組織学的OCT撮像が可能になること(非特許文献4)、更には、涙道中を点眼薬が流れ、光を強く散乱する粒子が光学的には血管中の血球と類似の作用をし、ドップラーOCTとスペックル変動OCTを含む涙道の動的OCT撮像も可能になることを発明者等は見出した。
【0035】
第1の手段の実施形態の例を図3(a)に示す。この図では被検体48は非ヒト動物のイヌであるが、涙道の研究にはウサギもよく用いられる。適切な検査位置に調節するため、被検体48は昇降台81の上にのせられている。OCTプローブ50は、涙道粘膜よりも光を強く散乱する光散乱剤を含む点眼薬を被検体に点眼した後の閉じた眼39の眼瞼皮膚に向けられている。OCTプローブ50は、金属のフレキシブルチューブで構成されるフリーアーム46の先端に取り付けられており、OCTプローブ50から出射される光ビームを軸として自由に回転できるようになっていて、所望のB-走査の方向が設定できるようになっている。フリーアーム46の他端は、OCT装置43が置かれた昇降台47に固定されていて、水平面内で自由に回転できるようになっている。
【0036】
OCTプローブ50は、光ファイバー(不図示)及び光ファイバーを挿通した導線45でOCT装置43と接続されている。OCT装置43内には、図示されていない光源、OCT干渉光学システム、光検出装置、コンピュータなどが内蔵されている。取得された散乱光データーからコンピュータを用いて計算処理により構成されたOCT画像は、表示器44に表示される。
【0037】
図4は、図2に示す眼の構造図を点線で示している。涙道の構造は細い実線で図4(b)に示している。図4(a)に示すOCTプローブとその位置及び方向(まとめて配置と呼ぶ)を示す52,53,54の照射光出口の先につけられた双方向矢印は、照射ビームと被検体からの後方散乱光の方向を示している。図4(b)に示す双方向矢印55,56,57はB-走査の方向を示す。
【0038】
図3に示す昇降台47、昇降台81、フリーアーム46、光ファイバーを挿通した導線45は、図4(a)に示すOCTプローブの各配置を選択的に実現するための機構である。図3において、OCTプローブ50は自由回転できるようにフリーアーム46に取り付けられているが、これは、図4(b)に示す各B-走査の方向を選択的に実現するための機構である。
【0039】
図4において、OCTプローブの配置52とB-走査の方向55を選択することにより涙点を含む経皮膚的および経結膜的撮像が可能になる。OCTプローブの配置53とB-走査の方向56を選択することにより、涙点13と涙小管15と総涙小管16を経結膜的に撮像可能となる。OCTプローブの配置54とB-走査の方向57を選択することにより、涙点12と涙小管14と総涙小管16と涙嚢17を経皮膚的に撮像可能となる。
【0040】
なお、図4の各撮像条件を実現する方法は図3に示した方法に限定されるものではない。例えば、フリーアーム46に替わり、昇降台81や顎台82やベッド51に同等の機能を有する機構を付加し、その機構にOCTプローブ50を取り付けて実施できる。また、超高速測定のOCTを用いれば手振れの影響が無視できるので、フリーアーム46は取り外して、検者(非図示)がOCTプローブ50を手で持って所望の配置とB-走査の向きに設定して実施することも可能である。
【0041】
図3(a)では、OCTプローブの配置54を採用し、B-走査は図4(b)に示す57の方向を採用した。この矢印は上涙小管14に沿って図示してあるが、実際の測定ではB-走査面をずらして複数の画像を取得するので、その複数の画像が涙小管全体を含むように設定すればよい。OCTプローブの配置54は、上眼瞼皮膚を通した経皮膚的OCT撮像のための配置である。
【0042】
第1の手段の別の実施形態の例を図3(b)に示す。この例では被検体48はヒトである。OCT装置43の処理によって取得された2次元及び3次元断層画像は表示器44に表示される。OCTプローブはフリーアーム46の先端に取り付けられ、照射する光ビームを任意の方向に向けて照射でき、照射光ビームを軸とする回転によってB-走査を所望の方向に設定可能にしている。図に付記された双方向矢印は、変更可能な回転方向を示している。OCTプローブ50が先端に取り付けられたフリーアーム46は、上下移動が可能な昇降台47に取り付けられている。
【0043】
被検体48は椅子49に座った座位で、顔は顎台82で固定され、被検体48自身または図示していない検者が下眼瞼結膜を翻転させている。40は下眼瞼35が翻転され、下眼瞼結膜が露出された眼である。第1の手段の実施では、涙道粘膜よりも光を強く散乱する光散乱剤を含む点眼薬が点眼されている。フリーアーム46によってOCTプローブ50の位置と方向と回転を調整し、照射光ビームは下眼瞼結膜にできるだけ直角に当たり、B-走査の方向が下涙点を通り下涙小管の方向になるようにしてOCT画像を撮像する。また、撮像して得られた2次元断層画像をB-走査面をずらしながら複数枚取得してコンピュータ処理することによって、3次元断層画像を構成することができる。
【0044】
更に別の第1の手段の実施形態として、上眼瞼結膜を通した経結膜的OCT撮像の例を示す。図3(b)に示す実施形態でも、上眼瞼34を翻転して露出させ、上眼瞼結膜30を通して経結膜的にOCT計測を行うことは可能であるが、図3(c)に示すように、被検体をベッド51に寝かせ、上眼瞼結膜30を露出し、斜め上から光を照射すると、上眼瞼結膜30の涙道のOCT撮像は容易になる。ベッドは点線の様に水平にすることもできる。手術中への適用の場合は、このような水平配置になることが多い。図3(c)では、フリーアーム46にフレキシブルチューブを使用した例が示してある。OCTプローブ50の位置と照射ビーム方向とB-走査方向とが最適な状態に調整できれば、フリーアーム46はどのような方法を用いてもよい。
【0045】
第1の手段の実施例について述べる。図3(b)に示すOCTシステムを用い、OCT装置43として周波数走査方式のOCTを用いた。主な測定条件は、光源の中心周波数は1310nm、被検体への照射光強度は12mW、A-走査の繰り返し周波数は50kHz、A-走査の奥行深度は5mm、プローブ光の走査範囲は縦7mm、横7mmである。また、使用する光の波長領域が750nm~1900nmの範囲内であり、照射光強度が1mW以上である。
【0046】
被検体に、涙道粘膜よりも光を強く散乱する光散乱剤を含む点眼薬として、涙道の治療薬であるレバミピド点眼薬(大塚製薬株式会社製。商品名:ムコスタ点眼薬UD2%)を点眼し、フリーアーム46によってOCTプローブ50の配置を図4(a)に示す53に調整し、照射光ビームは下眼瞼結膜にできるだけ直角に当て、B-走査の方向をOCTプローブ50の回転により図4(b)の56に調整して下涙点を通り下涙小管の方向になるようにしてOCT画像を撮像した。
【0047】
撮像された組織学的OCT画像を図6(a)に示す。涙小管粘膜62、点眼薬61に満たされた下涙小管15が鮮明に撮像されている。このように、従来はOCTでは撮像が困難とされていた涙道を、涙道粘膜よりも光を強く散乱する光散乱剤を含む点眼薬を点眼した後OCT撮像を行えば鮮明に撮像可能であることを本願発明者は実証した(非特許文献4)。
【0048】
本願発明者は、涙道の治療薬であるレバミピド点眼薬を用いたが、この点眼薬は涙道粘膜の治癒のための薬品であり、涙道の造影剤として用いる例はなく、本願発明者の知見に基づくものである(非特許文献4)。より望ましくは、上記実施形態の実施に最適な点眼薬の使用である。
【0049】
涙道粘膜よりも光を強く散乱する光散乱剤を含む点眼薬の条件に付いて述べる。光の散乱能は光散乱係数μ(単位は1/cm)で特徴づけられる。生体組織の光散乱係数は、例えば非特許文献5で総合報告がなされている。光散乱係数は動物の種類に依存するが、用いる波長λにも強く依存する。赤外領域の波長依存性の近似式は次式で与えられる。
【0050】
JP2018099142A_000005t.gif
【0051】
上記総合報告によれば、報告されている粘膜組織の定数の値は、a=18.8(1/cm)、b=1.62である。これらの定数を用いて計算される散乱係数よりも10%程度散乱係数が大きい点眼薬を涙道に導入すれば、涙道は周りの涙道粘膜と弁別抽出されて撮像される。従って、第1の手段で用いる涙道粘膜よりも光を強く散乱する光散乱剤を含む点眼薬とは、OCT撮像に利用する光の中心波長λ(nm)において、数式3にa=20(1/cm)、b=1.62を代入して計算し求まる散乱係数よりも大きい散乱係数を有する点眼薬である。この要件は第1の手段の最低の要件であり、より散乱係数が大きい点眼薬がより望ましい。
【0052】
図6(a)の測定では、経結膜的に撮像を行ったが、例えば被検体が白子症(アルビノ)である場合は、被検体組織中での光の減衰が弱く、涙道粘膜よりも光を強く散乱する光散乱剤を含む点眼薬を点眼後にOCT撮像すれば、経皮膚的にも涙道の撮像は可能である。従って第1の手段の実施の形態は、図4に示す撮像条件のすべてを含むものとする。
【0053】
第2の手段の実施形態は、皮膚内部組織よりも光を強く散乱する光散乱剤を含む点眼薬を被検体に点眼した後、経皮膚的に涙道をOCTで撮像する。非特許文献5で報告されている数式3の近似式に基づいて計算した粘膜、全血、皮膚内部組織の光散乱係数の波長依存性を図5に示す。破線91、一点鎖線92、実線93はそれぞれ粘膜、全血、皮膚内部組織の散乱係数を示す。点線90は、水の光吸収係数を示す。経皮膚的測定の場合、皮膚内部組織の中の涙道を撮像するため光を強く散乱する光散乱剤を含む点眼薬の散乱係数は、皮膚内部組織の散乱係数より約10%以上大きいことが望ましい。非特許文献5によると、皮膚内部組織の散乱係数の近似値は数式3で、a=45.3(1/cm)、b=1.292を代入して求められる。従って、第2の手段に用いる皮膚内部組織よりも光を強く散乱する光散乱剤を含む点眼薬は、数式3にa=50(1/cm)、b=1.292を代入して得られる散乱係数よりも大きな散乱係数を持つ点眼薬である。
【0054】
経皮膚的撮像は、眼瞼を翻転する必要がなく、経結膜的撮像に比べ、検者と被検体双方の負担が軽減され、より安定した撮像が可能になるという利点がある。
【0055】
図4には、第2の手段として、OCTプローブの配置を図4(a)に示す54とし、B-走査の方向は図4(b)に示す57とする上眼瞼を通した経皮膚的測定の例がしめしてある。この例では、1つのB-走査で取得される2次元断層画像中に涙小管の大部分が撮像されるという利点がある。しかし、B-走査の走査面を移動させて複数の2次元断層画像を取得し、それから3次元断層立体画像を構成すれば、B-走査の方向に関係なく3次元立体断層画像中に涙点と涙小管と総涙小管を含む涙道が撮像できるので、第2の手段とするOCTプローブの配置とB-走査の方向は図4の例示に限定されたものでない。また、下眼瞼皮膚を通した経皮膚的撮像も可能である。
【0056】
第3の手段の実施の形態は、涙道粘膜の10分の1以上の強度で光を散乱する光散乱剤を含む点眼薬を被検体に点眼した後、前記被検体の涙道を動的OCTで撮像する涙道撮像方法である。
【0057】
第3の手段の実施例を示す。前述の第1の手段の実施例と同じOCT撮像システムを用い、レバミピド点眼薬を被検者に点眼した後撮像したスペックル変動を利用する動的OCT画像を撮像した結果を図7(a)に示す。比較のため、同時に測定した組織学的OCT画像を図7(b)に示す。この撮像では、プローブの配置を図4(a)の52、B-走査の方向を図4(b)の55とした。従って、縦の点線94を境にして、眼瞼結膜31と眼瞼皮膚33を通して撮像した像が一枚の画像の中に同時撮像されている。図7(a)の動的OCT画像の特徴は、図7(b)の組織学的OCT画像で支配的である粘膜や皮膚の画像の大半が弱くなり、血球が動いている血管の像75や涙道内を流れている点眼薬の像74が造影強調されて撮像されていることである。眼球72と眼瞼結膜31の境界に滞留する点眼薬73の動的OCT画像が強調されているのはブラウン運動によるものである。眼瞼結膜31の表面に滞留する点眼薬の像についても同様である。
【0058】
図7(b)に示す組織学的OCT画像において、点眼薬の像74の強度は皮膚内部組織の像76と強度が同程度であるが、図7(a)では、点眼薬の像74は皮膚内部組織像よりも強度が約1桁強く、涙道粘膜の像62よりも約2桁強い。また、血管の光散乱能は図5に示されているように使用した波長領域では皮膚内部組織とほぼ同じであるが、図7(a)の動的OCT画像では血管の強度は皮膚内部組織よりも約1桁強い。(強度が弱く撮像されている血管は、この画像の断層面から中心がずれている血管である。)このことは、第3の手段を用いて動的OCTにより涙道を弁別抽出して撮像するためには点眼薬の散乱係数は、涙道粘膜の散乱係数約10分の1以上でよいことを示す。
【0059】
非特許文献5によれば、前述したように粘膜組織の散乱係数は数式3に定数の値、a=18.8(1/cm)、b=1.62を代入して求められる。第3の手段の実施の形態で、光を涙道粘膜の10分の1以上の強度で散乱する光散乱剤を含む点眼薬とは、動的OCT撮像に用いる光の中心周波数において、数式3にa=1.9(1/cm)、b=1.62を代入して求められる散乱係数よりも大きい散乱係数を有する点眼薬とする。ただし、涙道を図7(a)に示すような大きな信号対雑音比で撮像するためには、より大きな散乱係数を有する点眼薬がより望ましい。
【0060】
図7(a)に示すように、眼球72と眼瞼結膜31の間で滞留する点眼薬が動的OCTで造影強調されて撮像できていることは、涙道閉塞などで涙道内に滞留する点眼薬も散乱剤のブラウン運動によって造影強調されて撮像できることを示している。
【0061】
更に、図7(a)において涙道内の点眼薬の像の強度から判断して、動的OCTを用いれば、涙道は血管と同様に経皮膚的にも撮像できることが分かる。従って、第3の手段の実施は、経結膜的にも経皮膚的にも可能である。
【0062】
第4の手段の実施の形態は、涙道粘膜の10分の1以上の強度で光を散乱する光散乱剤を含む点眼薬を被検体に点眼した後ドップラーOCTで撮像し、涙液の流速を決定する工程をさらに含む涙道撮像方法である。
【0063】
図7に示すように、スペックル変動を用いた動的OCTを用いると、組織学的OCT画像では判別ができない涙道74や血管75が造影強調されて明確に判別抽出可能である。しかし、流速は測定できない。ドップラーOCTを用いると涙液の光の周波数のドップラーシフトから流速(流れの速さと向き)が計測できる。血流のドップラーOCTによる画像化や流速測定は当業者には周知の確立された方法である。しかし、点眼薬を用いた涙液の速度の計測はこれまでに報告例がなく、本発明が初めてである。
【0064】
血流の場合の例では、ドップラーOCTによる造影効果は、スペックル変動OCTと同程度である(例えば非特許文献1)。従って、第4の手段に用いる涙道粘膜の10分の1以上の強度で光を散乱する光散乱剤を含む点眼薬の条件は、第3の手段の場合と同じで、ドップラーOCT撮像に用いる光の中心周波数において、数式3にa=1.9(1/cm)、b=1.62を代入して求められる散乱係数よりも大きい散乱係数を有することである。
【0065】
ドップラーOCTを用いて涙道中の涙液の流速を求める方法は、すでに確立されている血管中の血流を求める各種の方法が適用できる(例えば非特許文献1、非特許文献3)。組織学的測定又は動的OCTによって計測する涙道の内径が測定できるので、流速測定と組み合わせて流量が測定できる。なお、求めた流速と流量は涙道を満たした点眼薬についての値であり、涙液とは厳密には異なるが、涙液及び点眼薬が細管の中を流れるモデルシステムを用いて校正することができる。第4の手段の実施の形態における「涙液の流速を決定する工程をさらに含む」とは、これらの処理を含むことを意味する。
【0066】
第5の手段の実施形態は、被検体の涙道をOCTで経結膜的に撮像する涙道撮像方法である。
【0067】
図6(b)は、図6(a)の撮像に用いたのと同じOCT撮像装置を用い、点眼する前に経結膜的に組織学的OCT撮像したものである。コントラストは点眼後に比べると悪いが、下涙小管15を満たす涙液60、涙小管粘膜62が撮像されている。このような経結膜的な涙道撮像はこれまで報告例はなく、本発明者等の発明が最初である(非特許文献4)。図6(a)に比べて涙小管の管腔が細く撮像されているのは、図6(b)の2次元断層画像の断層面が下涙小管の最大径を切り取っていないからである。
【0068】
第6の手段の実施形態は、第1から4の手段に使用する光を散乱する光散乱剤を含むOCT撮像用の点眼薬である。光を強く散乱する光散乱剤を含む点眼薬は、通常は液体状であり、点眼して用いる。液体が光を強く散乱する場合、小さい粒子が懸濁している場合が多い。懸濁した粒子と溶媒の光の屈折率の差が大きいほど、また粒子径が大きいほど、さらに粒子濃度が高いほど、光の散乱係数は大きくなる。このような点眼薬に替わり、粉末状の粒子を眼に入れて涙液の中に懸濁させても同様の効果を得ることができる。涙道粘膜よりも光を強く散乱する光散乱剤を含む点眼薬にはこのような粒子粉末も含まれるものとする。更に、通常の状態では光を強く散乱しないが、眼に導入した場合、涙液と反応して光を強く散乱する効果を生じる点眼薬も、含まれるものとする。
【0069】
第6の手段の、光を散乱する光散乱剤を含むOCT撮像用の点眼薬の要件について述べる。散乱係数の値がOCT計測に用いる光の中心波長おいて、数式3にa=1.9(1/cm)、b=1.62を代入して求められる散乱係数よりも大きいことである。この条件で手段3と手段4に用いることができる。また、散乱係数の値がOCT計測に用いる光の中心波長おいて、数式3にa=20(1/cm)、b=1.62を代入して求められる散乱係数よりも大きい散乱係数を有する点眼薬は、手段1に用いることができる。更に、散乱係数の値がOCT計測に用いる光の中心波長おいて、数式3にa=50(1/cm)、b=1.292を代入して求められる散乱係数よりも大きい散乱係数を有する点眼薬は、手段2に用いることができる。
【0070】
第7の手段の実施形態では、第6の手段を用いる光の波長領域が、波長750nm~1900nmの範囲内の赤外線である点眼薬を用いる。OCT用いる望ましい光の波長は、生体組織の主要成分である水の吸収係数と、生体組織の光の散乱係数で決定される。水の吸収係数90と、粘膜91と全血92と皮膚内部組織93の散乱係数の波長依存性を図5に示す。水の吸収係数が大きいほど光の減衰が大きく、OCT画像の画像深達度が浅くなり、涙道の撮像が困難になる。この条件からは図5に示すように波長が短い方がより望ましい。しかし、光散乱係数は、光を散乱する能力を示していると同時に、散乱によって失われる光の減衰の能力も表している。図5に示すように、波長が短いほど散乱係数は増加する。従って、波長が短いほど、散乱による減衰が大きく、深い画像深達度のためには波長が長い方がより望ましい。これら2つの条件から、生体軟組織のOCT撮像の中心波長は水の吸収係数が極小値を示す800nm、1100nm、1300nm、1700nm近辺が望ましいとして選択される。OCT撮像の分解能上げるためには、広帯域光が必要で、中心波長を中心として波長幅の広い光が必要で、波長領域は750nmから1900nmの範囲内である必要がある。波長が750nm以下になると光散乱係数が大きくなため散乱による光の減衰が大きくなりOCT画像の画像深達度が浅くなり、涙道の撮像が困難になる。波長が1900nm以上になると、水による光の吸収が強くなり、涙道の撮像が困難になる。
【0071】
第8の手段の実施形態は、使用する光の波長領域が750nm~1900nmの範囲内であり、照射光強度が1mW以上であり、OCTプローブの出射光の方向を、両眼の中心と角膜頂点を通る面に対して、経下眼瞼結膜の撮像においては上に15度以上、経上眼瞼結膜の撮像においては下に15度以上の角度に設定できることを特徴とする涙道撮像用のOCT装置である。
【0072】
波長領域の制限は第7の手段の実施形態で述べたとおりである。照射光強度が1mW以上でないと感度が低くなり、涙道の撮像が困難になる。
【0073】
経結膜的に涙道を撮像するためには図4に示すように眼瞼を翻転し眼瞼結膜を露出する必要があるが、眼瞼を翻転できる角度に限度があり、OCTプローブからの出射光の方向を、例えば図4(a)に示すOCTプローブの配置53の照射光出口に示した両矢印のように傾ける必要がある。この傾きの角度の定義を図8に示す。左眼の中心A、左眼の角膜の頂点C、右眼の中心B、右眼の角膜の頂点Dを最も精度よく含む面をABFEとする。(4点では平面は規定できないので近似平面を考える。)複数の被検体で実験したところ、OCTプローブからの出射光の方向(図4(a)の両矢印の方向)が、経下眼瞼結膜で撮像するには面ABFEから上に15度以上傾けて設定できなければ涙道の撮像が困難であることが分かった。経上眼瞼結膜で撮像するためには、OCTプローブからの出射光の方向を面ABFEから下に15度以上傾けて設定できなければ涙道の撮像が困難であることが分かった。従って、第8の手段を実施するためには、OCTプローブの出射光の方向を、両眼の中心と角膜頂点を通る面ABFEに対して、経下眼瞼結膜の撮像においては上に15度以上、経上眼瞼結膜の撮像においては下に15度以上の角度に設定できなければならない。
【0074】
経皮膚的撮像は、OCTプローブからの出射光の方向が通常の眼科機器の様に水平に固定されていても、被検体の顔を傾けることで実施可能である。また、望ましいB-走査の方向が図4(b)に示してあるが、3次元の立体断層画像を測定すればB-走査の方向に拘わらず画像処理によって涙道に沿った断層画像を切り出すことができる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、被検体の涙道閉塞、涙小管炎、機能性流涙などの各種涙道疾患の検査又は診断のために用いられる、または涙道疾患の治療効果予測(手術適応の有無を含む)に併用されるものとして有用である。
【符号の説明】
【0076】
10 眼
11 涙腺
12 上涙点
13 下涙点
14 上涙小管
15 下涙小管
16 総涙小管
17 涙嚢
18 鼻涙管
30 上眼瞼結膜
31 下眼瞼結膜
32 上眼瞼皮膚
33 下眼瞼皮膚
34 上眼瞼
35 下眼瞼
36 角膜
37 水晶体
39 眼瞼を閉じた眼
40 下眼瞼結膜を露出した眼
41 上眼瞼結膜を露出した眼
43 OCT装置
44 表示器
45 光ファイバーおよび導線
46 フリーアーム
47 昇降台
48 被検体
49 椅子
50 OCTプローブ
51 ベッド
52 眼瞼皮膚と眼瞼結膜の境界にある涙点に向けられたOCTプローブの配置
53 眼瞼結膜に向けられたOCTプローブの配置
54 眼瞼皮膚に向けられたOCTプローブの配置
55 涙点と眼瞼皮膚と眼瞼結膜を撮像するB-走査の方向
56 経結膜的に涙道を撮像するB-走査の方向
57 経皮膚的に涙道を撮像するB-走査の方向
60 涙液
61 点眼薬
62 涙小管粘膜
72 眼球
73 眼と眼瞼結膜との境に滞留する点眼薬
74 点眼薬で満たされた涙小管
75 血管
76 下眼瞼皮膚
81 昇降台
82 顎台
90 水による光の吸収係数の波長依存性
91 粘膜の光の散乱係数の波長依存性
92 全血の光の散乱係数の波長依存性
93 皮膚内部組織の光の散乱係数の波長依存性
94 眼瞼結膜と眼瞼皮膚との境

図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7