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明細書 :トリチウムを含む放射能汚染水からのトリチウムの分離除去方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-004588 (P2018-004588A)
公開日 平成30年1月11日(2018.1.11)
発明の名称または考案の名称 トリチウムを含む放射能汚染水からのトリチウムの分離除去方法
国際特許分類 G21F   9/10        (2006.01)
B01D  59/26        (2006.01)
G21F   9/06        (2006.01)
FI G21F 9/10 E
B01D 59/26
G21F 9/06 591
請求項の数または発明の数 2
出願形態 OL
全頁数 8
出願番号 特願2016-135839 (P2016-135839)
出願日 平成28年7月8日(2016.7.8)
発明者または考案者 【氏名】橋爪 秀夫
【氏名】安藤 寿浩
【氏名】藤井 和子
【氏名】上原 章寛
【氏名】福谷 哲
出願人 【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100206829、【弁理士】、【氏名又は名称】相田 悟
【識別番号】100127513、【弁理士】、【氏名又は名称】松本 悟
審査請求 未請求
要約 【課題】大がかりな設備を使用することなく、かつ簡便な操作でトリチウムを含む放射能汚染水からトリチウムを除去する方法を提供する。
【解決手段】トリチウムを含む放射能汚染水を、酸化マグネシウムと接触させて、前記放射能汚染水中のトリチウム水(HTO)と前記酸化マグネシウムとの反応により水酸化マグネシウムを生成させた後、該水酸化マグネシウムを前記放射能汚染水から分離除去することを特徴とする、放射能汚染水からのトリチウムの分離除去方法である。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
トリチウムを含む放射能汚染水を酸化マグネシウムと接触させて水酸化マグネシウムを生成させた後、該水酸化マグネシウムを前記放射能汚染水から分離除去することを特徴とする、放射能汚染水からトリチウムを分離除去する方法。
【請求項2】
前記酸化マグネシウムが、軽質酸化マグネシウムである、請求項1に記載の、放射能汚染水からトリチウムを分離除去する方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、トリチウムを含む放射能汚染水からトリチウムを分離除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トリチウム(T)は、水素の放射性同位体であり、「三重水素」とも呼ばれる。トリチウムは通常、水中に存在するが、放射性物質であるため、これを多量に含む水、例えば原子力発電所の事故により発生する放射能汚染水、からは除去する必要がある。
しかし、トリチウムは、水中ではトリチウム水(HTO)として存在し、これは軽水(HO)とよく似た性質を有することから、他の放射性物質の除去に適用されるイオン交換樹脂、吸着材、フィルター等を用いた手法で分離除去することはできない。
【0003】
これまで、トリチウム水を含む水からトリチウムを分離する方法として、蒸留法、電気分解法等が開発されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
蒸留法は、トリチウム水が軽水よりも低い平衡蒸気圧を示し、沸点が高いことを利用して、蒸留塔でトリチウム水の蒸発と凝縮とを繰り返すことで、トリチウム水を液相に濃縮する方法である。
しかし、トリチウム水と軽水との平衡蒸気圧差はごく僅かであるため、分離係数は非常に小さいものとなる。このため、トリチウムを十分な濃度で濃縮するためには、蒸発と濃縮の繰り返し回数を多くする、蒸留塔を高くする、減圧下で運転するといった対策を講じる必要があり、多大な時間と大がかりな設備とを要することが課題であった。
【0005】
電気分解法は、トリチウム水の電気分解速度が軽水よりも小さいことを利用して、液相にトリチウムを濃縮する方法である。
この電気分解法は、多大な時間と電力を要するため、単独で利用されることはほとんどなく、他の分離方法と組み合わせる場合には、設備が大がかりになることが課題であった。
【0006】
最近、大がかりな設備を使用することなくトリチウムを含む放射能汚染水からトリチウムを分離する方法として、水素化したマンガン酸化物を接触させる方法(例えば、非特許文献2参照)や、α位の水素を持つ有機酸、有機酸アルカリ塩等を使用する方法(例えば、特許文献1参照)が報告されている。
【0007】
非特許文献2には、スピネル構造をしたリチウムマンガン酸化物のリチウムを水素に置換したマンガン酸化物を、トリチウムを含む放射能汚染水に接触させると、20分間の接触で汚染水のトリチウム濃度が低減すること、及びこのトリチウム濃度の顕著な低下はマンガン酸化物中の水素とトリチウムのイオン交換反応の基づくこと、が記載されている。
【0008】
特許文献1には、「トリチウムを含む放射性物質汚染水に、有機酸、有機酸アルカリ塩、水溶性アミノ酸、水溶性アミノ酸アルカリ塩を添加した有機酸、有機酸アルカリ塩、水溶性アミノ酸、水溶性アミノ酸アルカリ塩のうち少なくとも一つからなる有機物を投入する過程と、前記有機物が投入された前記放射性物質汚染水中に、微細気泡を循環させて、微細気泡界面を介してカルボン酸基α位の水素をトリチウムと置換せしめる反応を起こさせて、トリチウム置換生成物を生成させるトリチウム置換過程と、を有することを特徴とするトリチウム置換方法。」(請求項1)、及び「請求項1において生成されたトリチウム置換生成物を含む前記放射性物質汚染水を凝集反応槽に導き、無機塩類凝集剤を投入して、前記トリチウム置換生成物の不溶性あるいは疎水性を増加させる過程と、更に高分子凝集剤を投入して、無機塩類と反応した前記トリチウム置換生成物を凝集させる過程と、前記凝集されたトリチウム置換生成物を加圧浮上分離槽に流入させ、ナノバブルを含有する加圧水により攪拌し、ナノバブルによりトリチウム置換生成物を浮上分離する過程と、を有することを特徴とするトリチウム除去方法。」(請求項2)、が記載されている。
【先行技術文献】
【0009】

【特許文献1】国際公開2016/002938号
【0010】

【非特許文献1】小西哲之、「トリチウムの分離」、トリチウム研究会 ~トリチウムとその取扱いを知るために~、2014年3月4日、p.29-38
【非特許文献2】H. KOYANAKA and H. MIYATAKE, “Extracting tritium from water using aprotonic manganese oxide spinel.”, Separation Science and Technology, 2015,p.2142-2146
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、結晶構造と水素イオン含有量を制御したマンガン酸化物を使用する方法では、該マンガン酸化物の調製に手間がかかる。また、処理後には、トリチウムはマンガン酸化物に吸着しているにすぎないため、温度等の環境条件の僅かな変化によって脱着してしまい、トリチウムの確実な除去ができない恐れがある。
また、α位の水素を持つ有機酸、有機酸アルカリ塩等を使用する方法では、α位水素とトリチウムとの置換反応を起こさせるために、トリチウム水中に微細気泡を循環させる必要があり、かつトリチウムを除去する際に前記有機酸、有機酸アルカリ塩を不溶化処理及び凝集処理する必要があり、多くの作業を要するものである。
【0012】
そこで本発明では、上記課題を解決し、大がかりな設備を使用することなく、かつ簡便な操作でトリチウム含む放射能汚染水からトリチウムを分離除去する方法を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題の解決のために、本発明者は、酸化マグネシウムが水との高い反応性を有することに着目し、種々の検討を行った。その結果、トリチウムを含む放射能汚染水を酸化マグネシウムと接触させて水酸化マグネシウムを生成させると、放射能汚染水から放出される放射線量が減少することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち本発明は、上記課題を解決するために、以下の手段を採用する。
(1)トリチウムを含む放射能汚染水を酸化マグネシウムと接触させて水酸化マグネシウムを生成させた後、該水酸化マグネシウムを前記放射能汚染水から分離除去することを特徴とする、放射能汚染水からトリチウムを分離除去する方法。
(2)前記酸化マグネシウムが、軽質酸化マグネシウムである、前記(1)に記載の、放射能汚染水からトリチウムを分離除去する方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明のトリチウム分離除去方法を用いることにより、大がかりな設備を使用することなく、かつ簡便な操作でトリチウムを含む放射能汚染水からトリチウムを除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】トリチウムを含む放射能汚染水中での酸化マグネシウムの反応を示す模式図
【図2】放射能汚染水からトリチウムが分離除去されたことを確認するための操作を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の構成及び作用効果について、技術思想を交えて説明する。ただし、作用機構については推定を含んでおり、その正否は、本発明を制限するものではない。

【0018】
本発明におけるトリチウムを含む放射能汚染水とは、規制基準値である60Bq/cmを超えるトリチウムを含む水を意味する。

【0019】
本発明で使用される酸化マグネシウムは、水との反応性が高く、水と接触することで下記(式1)に示す反応により水酸化マグネシウムとなる性質をもつ。

【0020】
MgO + HO → Mg(OH) (式1)

【0021】
本発明で使用可能な酸化マグネシウムは特に限定されるものではなく、市販品をはじめ通常入手可能なものが使用できる。軽質のものでも重質のものでも使用できるが、反応性が高いことから軽質のものを使用することが好ましい。

【0022】
本発明において、酸化マグネシウムは、トリチウムを含む放射能汚染水に接触すると、水酸化マグネシウムを生成する際に、下記(式2)に示す反応により軽水(HO)よりもトリチウム水(HTO)と選択的に反応して、水酸化マグネシウム中にトリチウムを固定する。

【0023】
MgO + HTO → Mg(HT)O (式2)

【0024】
図1に、前記反応を模式的に示す。
前記反応により生成した水酸化マグネシウムは、トリチウムが化学的に結合しているため、多少の環境条件の変化ではトリチウムを放出することなく、その分解温度である300℃超までトリチウムを保持し続ける。
したがって、生成した水酸化マグネシウムを放射能汚染水から分離除去することで、放射能汚染水からトリチウムを確実に分離除去することができる。

【0025】
本発明における放射能汚染水と酸化マグネシウムとの接触態様は、特に限定されるものではなく、容器中の放射能汚染水に酸化マグネシウムを添加する態様、酸化マグネシウムの入った容器に放射能汚染水を注ぐ態様、パイプライン等の流路を流れる放射能汚染水に酸化マグネシウムを添加する態様等の種々の態様を適用できる。

【0026】
本発明における放射能汚染水と酸化マグネシウムとの反応条件は、特に限定されるものではなく、種々の温度、圧力において反応させることができる。また、撹拌及び/又は振とうしながら反応させてもよい。
常温常圧で静置して反応させることが、装置構成を単純にでき、操作も最小限で済むことから好ましい。その場合の静置時間は、酸化マグネシウムの反応率向上に伴うトリチウム除去量の増加と、短時間で処理を終えることによる時間当たりの処理量の増加とを考慮して、0.5~4時間とすることが好ましい。

【0027】
本発明における水酸化マグネシウムと放射能汚染水との分離方法は、特に限定されるものではなく、ろ過、遠心分離等の通常の固液分離法を採用できる。

【0028】
本発明においては、トリチウムを含む放射能汚染水からトリチウムが分離除去されたことは、該放射能汚染水(原液)におけるトリチウムの放射線量と、該原液に酸化マグネシウムを添加した溶液(処理液)におけるトリチウムの放射線量とを比較することにより確認した。
図2に、前記処理液の調製方法と放射線量測定方法の概略を模式的に示す。
まず、酸化マグネシウム(MgO)を容器に入れる(〔1〕)。次に、トリチウムを含む放射能汚染水を容器に加える(〔2〕)。次に、容器に密栓をして静置する(〔3〕)。所定時間経過後、容器内の上澄み液をシリンジで採取する(〔4〕)。次に、採取した上澄み液をシリンジフィルターに通して、固相を除去する(〔5〕)。次に、固相を除去した上澄み液を、発光剤で1/2000に希釈して測定用試料とし(〔6〕)、放射線量を測定した(〔7〕)。

【0029】
[放射線量測定用試料の調製方法及びの放射線量の測定方法]
本発明においては、測定用試料の調製及び放射線量の測定を、下記の条件で行った。
固相を除去した上澄み液100μlに発光剤(パーキンエルマー社製、Ultima Gold)20mlを加えて混合した後、液体シンチレーションカウンタ(パッカード社製 TRI-CARB 2750TR/LL)によりトリチウムの放射線量を測定した。測定は、5分間の測定を10回繰り返すことを1サイクルとし、これを6サイクル行って、測定値の標準誤差が±1000Bqの範囲内となった場合を有効とし、前記6サイクル(60回の測定)の平均値を放射線量とした。なお、前記測定値の標準誤差が±1000Bqの範囲外となった場合には、前記測定用試料と前記発光剤とが均一混合していなかったと判断し、測定結果を無効とした。
【実施例】
【0030】
以下に、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0031】
(比較例)
放射能汚染水を測定用試料とした。なお、以下に示す実施例1~4における放射能汚染水は、本比較例と同一のものを使用した。
【実施例】
【0032】
(実施例1)
上記比較例と同一の放射能汚染水10mlに軽質酸化マグネシウム(和光純薬工業株式会社製、品番:138-006652)1gを加え、容器に密栓をして常温常圧下で1.33時間静置した。その後、シリンジで容器内の上澄み液を採取し、シリンジフィルターを通して固相を除去して測定用試料とした。
【実施例】
【0033】
(実施例2)
常温常圧下での静置時間を4時間とした以外は、実施例1と同様にして、試料の調製を行った。
【実施例】
【0034】
(実施例3)
軽質酸化マグネシウム1gに替えて、重質酸化マグネシウム(和光純薬工業株式会社製、品番:131-00282)2gを用いた以外は、実施例2と同様にして、試料の調製を行った。
【実施例】
【0035】
(実施例4)
常温常圧下での静置時間を24時間とした以外は、実施例3と同様にして、試料の調製を行った。
【実施例】
【0036】
(参考例)
純水を測定用試料とした。
【実施例】
【0037】
比較例、実施例1~4及び参考例の測定用試料の放射線量を、上記トリチウムの放射線量の測定方法により測定した。測定結果を表1に示す。
【実施例】
【0038】
【表1】
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【実施例】
【0039】
表1より、トリチウムを含む放射能汚染水を酸化マグネシウムと接触させることで、汚染水中のトリチウムが減少することが分かる。これは、酸化マグネシウムが、汚染水中で水酸化マグネシウムを生成する際に、軽水(HO)よりもトリチウム水(HTO)と選択的に反応して、水酸化マグネシウム中にトリチウムを固定したためと推察される。
また、軽質の酸化マグネシウムを用いた場合の方が、重質のものを用いた場合よりも放射線量が低減されていることから、反応性の高い軽質の酸化マグネシウムの使用によって、より大きな効果が得られるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によれば、大がかりな設備を使用することなく、かつ簡便な操作でトリチウム水を含む水からトリチウムを除去することができる。したがって、本発明は、トリチウムを多量に含む放射能汚染水の浄化に有用である。
図面
【図1】
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【図2】
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