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明細書 :テラヘルツ波を用いた皮膚角層水分量の計測方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2017-201254 (P2017-201254A)
公開日 平成29年11月9日(2017.11.9)
発明の名称または考案の名称 テラヘルツ波を用いた皮膚角層水分量の計測方法
国際特許分類 G01N  21/552       (2014.01)
G01N  21/3581      (2014.01)
G01N  21/3554      (2014.01)
FI G01N 21/552
G01N 21/3581
G01N 21/3554
請求項の数または発明の数 6
出願形態 OL
全頁数 13
出願番号 特願2016-092895 (P2016-092895)
出願日 平成28年5月5日(2016.5.5)
新規性喪失の例外の表示 特許法第30条第2項適用申請有り (1)開催日 平成27年11月7日 (2)集会名、開催場所 山岡育英会 研究発表会 長浜ロイヤルホテル(滋賀県長浜市大島町38) 〔刊行物等〕 (1)開催日 平成27年11月19日 (2)集会名、開催場所 日本分光学会 テラヘルツ分光部会 シンポジウム 作並温泉 岩松旅館 会議室(宮城県仙台市青葉区作並元木16) 〔刊行物等〕 (1)発行日 平成27年11月19日 (2)刊行物 本分光学会テラヘルツ分光部会 シンポジウム予稿集「テラヘルツ科学の最先端 II」P-26 公益社団法人 日本分光学会 テラヘルツ分光部会 公益社団法人 応用物理学会 テラヘルツ電磁波技術研究会 〔刊行物等〕 (1)開催日 平成28年2月8日 (2)集会名、開催場所 京都大学 地域環境科学専攻修士論文発表会 国立大学法人京都大学 農学部総合館(京都府京都市左京区吉田本町36番地1)
発明者または考案者 【氏名】小川 雄一
【氏名】赤宗 行三
【氏名】森田 美穂
出願人 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
【識別番号】591230619
【氏名又は名称】株式会社ナリス化粧品
個別代理人の代理人 【識別番号】100104307、【弁理士】、【氏名又は名称】志村 尚司
審査請求 未請求
テーマコード 2G059
Fターム 2G059AA01
2G059AA05
2G059BB10
2G059BB12
2G059CC09
2G059EE01
2G059EE02
2G059EE05
2G059EE12
2G059HH01
2G059JJ12
2G059MM01
要約 【課題】 テラヘルツ波を用いてヒト皮膚の角層中の水分量を測定する。
【解決手段】
テラヘルツ波射出面であるプリズム表面に試料である皮膚の表面を接触させながら、全反射する条件下で、0.1~2.0THz好ましくは0.6~1.2THz領域のテラヘルツ波を照射して、その反射率に対応するATR信号量を求め、含水量が既知である標準角層モデル、例えばヒト皮膚から採取した角層粉末を集めたものをヒト標準角層モデルとして求めたATR信号量との対比から、皮膚角層の水分量を求める。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
テラヘルツ波を用いた全反射減衰分光法により皮膚角層水分量を計測する方法であって、
テラヘルツ波射出面であるプリズム表面に試料である皮膚の表面を接触させて、テラヘルツ波を照射してその反射率又はATR信号量を求める工程と、
前記求められた反射率又はATR信号量から試料の角層水分量を求める工程を有することを特徴とする皮膚角層水分量の計測方法。
【請求項2】
水分量が既知である標準角層モデルを用いて求められた反射率又はATR信号量と、試料から求められた反射率又はATR信号量と、の対比から、前記角層水分量を求める工程をさらに有する請求項1記載の皮膚角層水分量の計測方法。
【請求項3】
試料に照射するテラヘルツ波の周波数は、
(1)参照皮膚モデルの複素屈折率から、当該参照皮膚モデルにおけるATR信号量としみ出し深さの関係を求める工程と、
(2)テラヘルツ波射出面であるプリズム表面に、試料の動物種と同一種の動物の皮膚表面を接触させて、任意の周波数のテラヘルツ波を照射してATR信号量を得る工程と、
(3)(2)で得られたATR信号量と、(1)で求められたATR信号量と周波数との関係から、テラヘルツ波射出面であるプリズム表面に、試料の動物種と同一種の動物の皮膚表面を接触させた時の周波数としみ出し深さの関係を推定する工程と、
(4)(3)で推定されたしみ出し深さと周波数の関係から、試料に照射するテラヘルツ波の周波数を決定する工程と、
により決定された請求項1又は2に記載の皮膚角層水分量の計測方法。
【請求項4】
0.1以上2.0THzの範囲、好ましくは0.6以上1.2THzの範囲であるテラヘルツ波を試料に照射して、反射率又はATR信号量を求める請求項1又は2に記載の皮膚角層水分量の計測方法。
【請求項5】
テラヘルツ波射出面であるプリズム表面に試料である皮膚の表面を接触させて、テラヘルツ波を照射してその反射率又はATR信号量から試料の角層水分量を計測する方法において、
(1)参照皮膚モデルの複素屈折率から、当該参照皮膚モデルにおけるATR信号量としみ出し深さの関係を求める工程と、
(2)テラヘルツ波射出面であるプリズム表面に、試料の動物種と同一種の動物の皮膚表面を接触させて、任意の周波数のテラヘルツ波を照射してATR信号量を得る工程と、
(3)(2)で得られたATR信号量と、(1)で求められたATR信号量と周波数との関係から、テラヘルツ波射出面であるプリズム表面に、試料の動物種と同一種の動物の皮膚表面を接触させた時の周波数としみ出し深さの関係を推定する工程とを有し、
(3)で推定されたしみ出し深さと周波数の関係から、試料に照射するテラヘルツ波の周波数を決定する方法。
【請求項6】
前記(2)の工程において照射するテラヘルツ波の周波数は、0.1~2.0THz、好ましくは0.5~1.5THzである請求項5に記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明はテラヘルツ波を用いた皮膚角層水分量の計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テラヘルツ波を用いて皮膚角層の水分量を計測する方法が特許文献1や特許文献2に開示されている。これらの方法は、0.1~3.0テラヘルツの電磁波を全反射する条件で皮膚に照射して求められた皮膚の吸収係数から皮膚角層の水分量を求める方法である。
【0003】
皮膚の吸収係数はテラヘルツ波時間領域分光法(THz-TDS法)によって求められる。テラヘルツ波時間領域分光法は、取得した反射テラヘルツ波の時間波形をフーリエ変換することで得られる反射スペクトルと位相差スペクトルから試料の複素屈折率や複素誘電率を求めることで、試料の物理化学的性質を求める方法である。皮膚の吸収係数は得られた複素屈折率から計算式によって得られ、含水量が既知である標準角層モデルの吸収係数との対比から皮膚角層の水分量が求められる。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開2016-053527号公報
【特許文献2】特開2016-053528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、皮膚の吸収係数は皮膚の複素屈折率から導出されるためにその算出が複雑となっていた。また、吸収係数の導出のためにテラヘルツ波時間領域分光装置が必要となる。この装置では、極めて短時間単位の時間波形を取得するために、高価な超短パルスレーザーとサブピコ秒の時間計測が必要となるので、高価な光学部品が多く必要とされ、装置全体が大掛かりで複雑になるという問題があった。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、このような複雑な装置を用いることなく比較的簡単な構成の装置及び方法により皮膚角層の水分量を測定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは前記テラヘルツ波時間領域分光装置を使うことなく種々の測定方法を試みたところ、照射されたテラヘルツ波と観測されたテラヘルツ波から得られるATR信号量と水分量が既知であるヒト皮膚から得た標準角層モデルとからヒト皮膚角層の水分量が測定され得ることを見いだし、本発明を完成するに至った。つまり、本発明に係る方法は、テラヘルツ波を用いた全反射減衰分光法により皮膚角層水分量を計測する方法であって、テラヘルツ波射出面であるプリズム表面に試料である皮膚の表面を接触させて、テラヘルツ波を照射して反射率又はATR信号量を求める工程を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る方法によると、試料である皮膚に向けて出射されたテラヘルツ波の反射波から得られるATR信号量から角層水分量が求められるので、テラヘルツ波時間領域分光装置のように2種類のパルス波を用いて時間波形を取得する必要がなく、簡便な構成の計測装置で皮膚角層水分量が簡単に測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は本発明に係る方法に使用され得る測定装置の概略構成図である。
【図2】図2はブタ皮膚におけるしみ出し深さとATR信号量の関係を示す図であって、(a)はしみ出し深さ及びATR信号量と周波数の関係を示す図、(b)はしみ出し深さとATR信号量の関係(検量線)を示す図である。
【図3】図3はヒト皮膚測定時のしみ出し深さと周波数の関係を示す図である。
【図4】図4は各含水率における角層粉末のATR信号量スペクトルである。凡例に示す数値は角層粉末の含水率を示す。
【図5】図5は角層粉末の質量含水率とATR信号量の関係を示す図であって、(a)は850GHzにおける関係を、(b)は660GHzにおける関係を示す。
【図6】図6はヒトの各部位における角層水分量の測定結果を示す図であって、(a)はTHz-CWによる測定結果を、(b)は電気的角層水分測定装置による測定結果を示す。
【図7】図7は化粧水を塗布した角層水分量の測定結果を示す図である。
【図8】図8は各種化粧料を塗布した角層水分量の測定結果を示す図であって、(a)はATR信号量の時間変化を示す図、(b)は角層水分量の時間変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る方法は、テラヘルツ波を用いた全反射減衰分光法(THz-ATR法)により皮膚角層水分量を計測する方法であって、テラヘルツ波射出面であるプリズム表面に皮膚表面を接触させて、テラヘルツ波を照射してその反射率又はATR信号量を求める工程と、前記求められた反射率又はATR信号量から皮膚角層水分量を求める工程を有する。

【0011】
全反射減衰分光法(ATR法)を用いて測定する場合、皮膚の表面でテラヘルツ波が全反射する必要がある。全反射する条件は、入射側の媒質の屈折率と出射側の媒質の屈折率及び入射角とで一義的に決定される。つまり、ATR法における測定条件は、テラヘルツ波の入射角と、皮膚と接触させるプリズム(出射側の媒質)の屈折率及び皮膚の角層(入射側の媒質)の屈折率に依存する。

【0012】
本発明による方法(以下においては「THz-CW法」ということがある。)では、この条件下でテラヘルツ波を照射して取得される反射波から反射率Rが求められる。反射率Rは次の数式1で定義される。本発明では好ましくは反射率Rから数式2により算出されるATR信号量が使用される。ATR信号量(ATRint)は、数式2で示されるように数式1で定義される反射率Rの逆数の常用対数である。

【0013】
〔数1〕
R=Eout/Ein

【0014】
〔数2〕
ATRint=log(1/R)

【0015】
ここで数式1におけるEinは入射されるテラヘルツ波の強度、Eoutは反射されるテラヘルツ波の強度である。テラヘルツ波はプリズム表面に接触させた試料に向けて出射され、プリズムを透過した後皮膚の表面で反射する。全反射条件では皮膚の表面でエバネッセント波が生じ、生じたエバネッセント波が皮膚角層中の水により吸収され、減衰された電磁波が反射テラヘルツ波として観察される。観察された反射テラヘルツ波の強度比から反射率R及びATR信号量を求めることができる。

【0016】
用いられるテラヘルツ波の周波数やテラヘルツ波の入射角、皮膚と接触させるプリズムの屈折率は全反射する条件が満たされればよく、特許文献1や2に記載されたように0.1~3THzのテラヘルツ波、入射角、プリズムの屈折率(プリズムの材質)が選択される。

【0017】
皮膚角層水分量を測定する観点からは、エバネッセント波のしみ出し深さと皮膚角層の厚さがほぼ等しいことが好ましい。このため、使用される入射テラヘルツ波の周波数は、入射角やプリズムの屈折率によっても異なるが、化粧料が塗布される前腕やほほを対象とするならば好ましくは0.6~1.5THz程度、より好ましくは0.6~1.2THz程度、さらに望ましくは0.8~1.0THzである。この範囲のテラヘルツ波ではエバネッセント波のヒト皮膚におけるしみ出し深さがヒト皮膚の角層の厚さとほぼ一致する。もっとも、皮膚の部位によっても角層の厚さが異なるので、上記範囲の周波数に限定されることなく、測定部位によって照射するテラヘルツ波の周波数を調整することが好ましい。THz-CW法における測定周波数は、複素屈折率が既知である参照皮膚モデルから求められるしみ出し深さと周波数の関係から推定され得る(実施例参照)。参照皮膚モデルは、試料である皮膚におけるしみ出し深さと周波数の関係を推定するために使用され、試料である皮膚におけるしみ出し深さがほぼ再現されるモデルである。また、参照皮膚モデルとしては、含水量やタンパク質などの皮膚構成が試料の皮膚のそれに近いモデルが好ましい。参照皮膚モデルは、任意の動物から切り取られた皮膚であってもよく、培養された皮膚などの人工皮膚、さらには切り取られずに生きた動物固体の皮膚であってもよい。参照皮膚モデルの動物種は試料である皮膚の動物種と同一であるか、皮膚の吸収係数が近似する動物種であることが好ましく、例えば試料がヒトの皮膚である場合の参照皮膚モデルとしては、ヒトの吸収係数と近いとされるブタが好ましく用いられる。複素屈折率は例えばTHz-TDS装置で計測することができ、当該参照皮膚モデルにおけるしみ出し深さと周波数の関係を複素屈折率から算出する。次いで、この関係からTHz-TDS法で求められたATR信号量としみ出し深さの関係を求める(工程(1))。また、複素屈折率が既知であれば計算によってATR信号量としみ出し深さの関係を求めてもよい。そして、試料である皮膚の動物種と同一種の皮膚表面における特定の周波数におけるTHz-CW法により測定されたATR信号量(工程(2))と、先に求められたTHz-TDS法で求められたATR信号量としみ出し深さの関係から、当該同一種の動物皮膚におけるTHz-CW法における周波数としみ出し深さの関係を推定する(工程(3))。なお、工程(2)において用いられる周波数は0.1~3THzの範囲であればよいが、好ましくはTHz-CW法におけるしみ出し深さが概ね5~40μmとなると推定される範囲、具体的には0.5~1.5THz、好ましくは0.6~1.2THzの範囲で任意に決定される(図3参照)。これら(1)~(3)の工程は複素屈折率が既知である参照皮膚モデルにおけるしみ出し深さを元に、THz-CW法において適切なしみ出し深さが得られる周波数を決定する工程である。THz-CW法では皮膚の複素屈折率を測定することができず、照射する周波数としみ出し深さの関係をTHz-CW法で推定することができないため、複素屈折率が既知である参照皮膚モデルからからTHz-CW法における両者の関係を推定することにしたものである。なお、(1)~(3)の工程は、試料である皮膚における周波数としみ出し深さとの関係を推定する工程であるので、(2)において用いられる皮膚は、試料である皮膚と同一の個体の皮膚である必要はなく、同一の個体であるか否かを問わず試料である皮膚と同一種の動物であればよい。また、皮膚におけるしみ出し深さはプリズムの屈折率や入射角に依存することより、測定装置に備えられたプリズムの屈折率や入射角が異なれば、照射する周波数としみ出し深さの関係が変動する。従って、それらが異なる装置を用いる場合や試料の動物種が変更する場合などには、複素屈折率を元にした計算や上記(1)~(3)の工程によって適切な周波数を決定し直すことが好ましい。

【0018】
得られた反射率RやATR信号量は、水分量が既知である標準角層モデルから得られた反射率RやATR信号量と対比される。反射率RやATR信号量の対比により、試料である皮膚角層中の水分量が求められる。標準角層モデルは各種の定量法に用いられる標準試料と同様な意義を有する。標準角層モデルは、任意に含水量が調整可能であり、各含水率において当該含水率の角層から得られるATR信号量や反射率を反映できるモデルである。対比に用いられる標準角層モデルは任意に選択され得る。標準角層モデルは、動物の角層そのものであることが好ましいが、角層そのもの水分量を調整することが困難であるので、人工的に作製されたモデルが使用され得る。試料がヒトの皮膚である場合、標準角層モデルは、例えば、ヒトの皮膚真皮から採取された間質成分のパウダーをプレスして得られたシート(特許文献1や2参照)であり、アルブミン水溶液であり、ヒトから採取した角層の乾燥粉末をプレスしたモデルでもあり得る。対比の方法は、例えばいわゆる検量線(線形、非線形を問わない)と対比する方法や1点の既知水分量から得られたATR信号量と対比する方法であり得る。また、標準角層モデルは試料の動物種によって適宜選択される。

【0019】
以下、本発明に係る方法について下記の実施例に基づいて説明するが、下記実施例は本発明の具体的態様を示す例にすぎず、本発明に係る方法は下記実施例に限定されないのは言うまでもない。
【実施例1】
【0020】
〔ヒト皮膚測定周波数の決定〕
エバネッセント波のしみ出し深さはテラヘルツ波の周波数によって異なるため、角層の厚みとエバネッセント波のしみ出し深さがほぼ等しくなる周波数のテラヘルツ波を用いることが望まれる。エバネッセント波のしみ出し深さの推定は、プリズムの屈折率np、入射角θ、試料の複素屈折率nsが既知である必要がある(特許文献1や2参照)。図1は本発明に係る計測方法(THz-CW法)に用いた装置の概略構成図である。当該装置は、エバネッセント波を出射する出射部1と、試料である皮膚を接触させるプリズム2と、皮膚で反射したエバネッセント波を検出する検出部3と、検出部3で検出したエバネッセント波から反射率やATR信号量を求める信号処理部4とを備える。当該装置は、この他に、図示しない出射されるエバネッセント波の周波数を調整する制御部やエバネッセント波の光源を備える(以下においてこの装置を用いた測定をTHz-CW法と称する。)。THz-CW法による測定では、屈折率npが3.42であるプリズムが備えられ、入射角θが51.6°に設定された装置が用いられた。しかし、しみ出し深さの推定に必要であるヒト角層の複素屈折率は未知である。そこで、参照皮膚モデルとして、ヒト皮膚のモデル皮膚として用いられることの多いユカタンミニブタの皮膚角層を用いて、その角層切片の複素屈折率をTHz-TDS法で測定し、得られた複素屈折率を用いてヒト皮膚角層のしみ出し深さを推定した。
【実施例1】
【0021】
まず、(1)THz-TDS装置(TAS7500SP、ADVANTEST社)を用い、表1に示す条件でブタ皮膚(n=4)の複素屈折率を測定した。リファレンスは空気とし、各ブタ皮膚に対して連続して3回サンプル測定は行い、その平均を結果とした。次に(2)ブタ皮膚の複素屈折率をもとにしみ出し深さdp_pig(数式3参照)と数式4、数式5、数式6を用いて入射角51.6°における円偏光入射のATR信号量を算出した(図2(a)参照)。THz-TDS装置における光源入射角は57°であり、THz-CW法における光源入射角(51.6°)と異なるので、このような換算を行い、両者を対比できるようにした。そして、しみ出し深さとATR信号量の関係を示す検量線(図2(b)参照)を線形近似によって求めた。なお数式6において円偏光の反射率はs偏光とp偏光の反射率の平均から求めた。(3)次に図1に示す構成を有する装置を用い、表2に示す条件で680GHzにおけるヒト前腕皮膚(被験者は23歳男性である)のATR信号量を8回測定した。リファレンスは空気とし、各測定ごとにリファレンスは測定しなおした。(4)(2)で求めた検量線に(3)で求めたヒト皮膚のATR信号量を代入して、680GHzにおけるヒト皮膚測定時のしみ出し深さdp_human(680)を推定した。(5)680GHzのブタ皮膚とTHz-CW法によるヒト皮膚測定時のしみ出し深さの比が各周波数ωで等しいと仮定し、次の数式7よりヒト皮膚測定時のしみ出し深さスペクトルを求めた。680GHzより低周波側における変動係数(複数回測定におけるばらつき)がほぼ一定なのに対し、680GHzより高周波側は周波数に応じて変動係数が大きくなる傾向にあったため、安定して皮膚を測定できる周波数として680GHzを選択した。
【実施例1】
【0022】
【表1】
JP2017201254A_000003t.gif
【実施例1】
【0023】
【数3】
JP2017201254A_000004t.gif
ただし、数式3中
JP2017201254A_000005t.gifJP2017201254A_000006t.gifである。
なお、n~2=n2+ik2、θは入射角、n1はプリズムの屈折率、n~2は皮膚の複素屈折率、n2は皮膚の屈折率、k2は皮膚の吸収係数である(以下同じ)。
【実施例1】
【0024】
【数4】
JP2017201254A_000007t.gif
なお、Eは電場強度、r~は複素反射係数、t~は複素透過係数、E~rは反射側の電場強度(Eoutに相当)、Eiは入射側の電場強度(Einに相当)である。
【実施例1】
【0025】
【数5】
JP2017201254A_000008t.gif
【実施例1】
【0026】
【数6】
JP2017201254A_000009t.gif
【実施例1】
【0027】
【表2】
JP2017201254A_000010t.gif
【実施例1】
【0028】
【数7】
JP2017201254A_000011t.gif
【実施例1】
【0029】
図2(a)はブタ皮膚のしみ出し深さ及びATR信号量と周波数の関係を示す図であり、同図(b)はしみ出し深さとATR信号量の関係である。図2(a)に示すように、しみ出し深さは低周波側ほど大きく、高周波側ほど小さくなり、ATR信号量も同様の傾向を示した。また、同図(b)に示すようにしみ出し深さとATR信号量には相関関係が成り立ち、しみ出し深さが小さいほど、ATR信号量も小さくなる関係になり、ATR信号量としみ出し深さを線形近似することで同図(b)に示すような検量線が得られた。次にTHz-CWを用いて680GHzにおいてヒト前腕皮膚を測定した。ヒト前腕皮膚のATR信号は0.118±0.0148となり、図2(b)の検量線からヒト皮膚測定時のしみ出し深さの推定値を算出すると、29.9±0.66μmとなった。この値は、共焦点ラマン分光法を用いた既存手法から得られている文献値の1つである22.6±4.43μmと近似する値であった。また、数式7からヒト皮膚測定時のしみ出し深さと周波数の関係を図3に示したところ、600~1000GHzの範囲でしみ出し深さは概ね35~15μmとなり、この範囲の周波数、好ましくは800~1000GHzの周波数(しみ出し深さは概ね30~15μm)でヒト前腕における角層と同等の厚みのしみ出し深さが実現できる。
【実施例1】
【0030】
〔標準角層モデルの測定〕
特許文献1や2では皮膚真皮から採取した間質成分をプレスしたシートやアルブミン水溶が用いられているが、ヒト角層により近いモデルとして、ヒトの皮膚から採取した角層粉末を用いて測定した。ヒトのかかとから採取した角層を水で洗浄したのち凍結乾燥器で水分を除去した後、粉末状に粉砕した。得られた角層粉末に水を均一に拡散することで任意の含水量の標準角層モデル(標準試料)とし、次の手順にてATR信号量を測定した。
【実施例1】
【0031】
(1)リファレンスとして、プリズム上に試料を置かずに空気を測定した。(2)プリズム上にエバネッセント波のしみ出し深さよりも十分な厚みを有する標準試料を置き、プリズムと角層粉末の密着性を保つために、角層粉末の上に1kgの重石を置いた。(3)各標準試料につきサンプル測定を表3に示す条件で連続で4回行い、その平均を結果とした。測定結果を図4及び図5に示した。
【実施例1】
【0032】
【表3】
JP2017201254A_000012t.gif
【実施例1】
【0033】
図4は各含水率における角層粉末のATR信号量スペクトル(10GHz区間でスムージング処理済み)である。各スペクトルは6回測定の平均値である.650~950GHzにおいてATR信号量は滑らかなスペクトルとなり、この領域に角層粉末由来の急峻なピークが存在しないことを示している。また、角層粉末の質量含水率が小さいほどATR信号量は小さくなる関係にあった。そして、図5に示すように角層粉末の質量含水率とATR信号量の間には強い相関関係が成り立ち、その関係はシグモイド型となった。
【実施例1】
【0034】
次に、ATR信号量と質量含水率の関係を次の数式8に示すBoltzmann関数を用いてフィッティングして検量線を作成した。
【実施例1】
【0035】
【数8】
JP2017201254A_000013t.gif
【実施例1】
【0036】
ここで、Wは質量含水率(%)、A1はW=0におけるATR信号量、A2はW=無限大におけるATR信号量、x0はATR=(A1+A2)/2となる質量含水率(%)、dxはW=x0における曲線の傾きである。その結果を表4に示した。各周波数ともにR2は0.997以上となり、600~1000GHzの範囲ではATR信号量と質量含水率の関係は非常に強いBoltzmann関数型の相関関係にあることが明らかとなった。この結果、ATR信号量を求めることで、角層の含水率を測定できると言える。
【実施例1】
【0037】
【表4】
JP2017201254A_000014t.gif
【実施例1】
【0038】
〔ヒト皮膚角層の水分量の測定〕
男性(23歳)の前腕内側における角層の水分量をTHz-CW法により測定した。(1)被験者は空調により温度、湿度を一定にした実験室で10分間安静にした。(2)リファレンスとしてプリズム上に試料を載せずに空気を測定した。(3)測定箇所をプリズムに密着させ、表5に示す条件でサンプル測定を行った。測定は日を変えて合計12回行い、847~852GHzのATR信号量の平均値と、表4における検量線(850GHzにおける数式)から結果を求めた。これによると、ATR信号量は0.113±6.16×10-3であり、質量含水率は39.3±1.73%となった。
【実施例1】
【0039】
【表5】
JP2017201254A_000015t.gif
【実施例2】
【0040】
〔ヒトの各部位における角層含水量の測定〕
実施例1の皮膚角層含水量の測定と同様にして、(1)肘内側、(2)前腕内側、(3)ほほ、(4)手の甲、(5)手のひらについてATR信号量を測定し、実施例1で求めた検量線(表4)を用いて含水率を求めた。ATR信号量の測定条件は表5と同じである。含水率は847~852GHzのATR信号量の平均値から求めた。また、参考として、電気的角層水分測定装置(SKICON-200EX、ヤヨイ社)を用いて測定を行い、その結果を比較した。この装置は皮膚の高周波コンダクタンスを測定する装置であり、コンダクタンスの大小から皮膚の水分量の多少を推定できる。この結果を図6に示した。身体部位によりその含水率が異なると言われているが、THz-CW法においても各部位により含水率が異なることが確認された。含水率は汗腺の多少にも左右されるだけでなく、各部位における各層の厚みが異なることにも影響される。ある報告では、角層の厚みは、手のひらが173μm、手の甲が29.3μmと厚く、前腕が22.6μm、ほほは16.8μmであるとされている。上記測定条件におけるしみ出し深さは概ね24μmであり、手のひらや手の甲では角層全体を測定できない。このために表面付近の低含水率部分の寄与が大きく、手のひらや手の甲では低い値が出る傾向にある一方、前腕やほほでは角層の水分量をほぼ正確に測定できていると考えられる。また、しみ出し深さと周波数の関係は図3で示されることから、テラヘルツ波の周波数を変えることで、エバネッセント波のしみ出し深さを各部位の角層厚みに応じて調整することで手のひらや手の甲でも各部位の角層水分量を測定できると考えられる。
【実施例3】
【0041】
〔化粧水を塗布した皮膚の角層含水量の測定〕
皮膚に化粧水を肌に塗布し、塗布後のATR信号量をモニタリングすることで、皮膚への浸透性や保水性に違いが現れるかを評価した。化粧水は、10%の1,3-ブチレングリコールと4%のグリセリンと0.2%のエチルバラベンと1%のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油と84.8%(何れも質量百分率である)の水からなる。THz-CW法による測定は次の方法で行われた。(1)前腕内側の皮膚4×3cm2の領域を測定部位としてボールペンでマークし、湿度・温度が安定した部屋にて5分間安静にした後、定常状態の皮膚を3回測定した。(2)0.6mLの化粧水を紙製ウエス(商品名キムワイプ、日本製紙クレシア社)に含ませた。(3)化粧水を含ませた紙製ウエスを測定部位に5分間密着させた。(4)密着後、乾いた紙製ウエス表面を軽く拭いて表面に付着した余分な化粧水を取り除いてから測定を行った。定常状態の皮膚測定時を0分として、5~20分までは2.5分間隔、20~30分までは5分間隔で測定した。塗布後、測定を行わない時間帯は皮膚には何も処理を施さず、大気と接するようにした。また、対照として水を用いて同様の測定を行った。被験者は24歳女性1名、23歳男性2名、23歳女性1名であり、23歳女性については日を変えて測定を2回行った。この結果、サンプル数は5となり、5回の平均値を結果とした。被験者の角層水分量は日によって多少異なると考えられるので、測定日ごとに、左右どちらか一方の腕に化粧水を、他方の腕に蒸留水を塗布して測定した。測定条件は表5のとおりである。その結果を図7に示した。図7にはATR信号量の変化を示し、5サンプルの標準誤差をエラーバーで示した。
【実施例3】
【0042】
これによると、化粧水や蒸留水を塗布することで角層中の含水率はそれぞれ上昇し、化粧水を塗布した場合には蒸留水を塗布した場合よりもATR信号量は高くなった。これから化粧水中の水が蒸留水に比べて皮膚に浸透しやすいことが示唆された。また、塗布後の時間経過により含水率が次第に減少するが、化粧水も蒸留水も同様な減少傾向を示したが、いずれの時間においても化粧水を塗布した場合の方が含水率が高く、特に塗布後5~10分においては化粧水を塗布した場合の減少率が小さく、蒸留水に比べて保水効果があることが示された。このようにTHz-CWによっても角層水分量を測定できることが明らかになった。
【実施例4】
【0043】
〔各種化粧料を塗布した皮膚の角層含水量の測定〕
皮膚に、化粧水(L1)、ワセリン(V)、O/W型乳液(OW)の3種類の化粧料を肌に塗布し、塗布後のATR信号量をモニタリングすることで、皮膚への浸透性や保水性に違いが現れるかを評価した。化粧水(L1)は実施例3と同じ処方からなり、O/W型乳液は、10%の1,3-ブチレングリコール、0.18%のL-アルギニン、4%のグリセリン、0.2%のエチルバラベン、1%のセタノール、6.71%の流動イソパラフィン、6.71%の2-エチルヘキサン酸セチル、0.2%のカルボキシルビニルポリマー、1%のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油と70%(何れも質量百分率である)の水からなる。THz-CW法による測定は次の方法で行われた。(1)前腕内側(左腕)の皮膚4×3cm2の領域を3箇所測定部位としてボールペンでマークし、湿度・温度が安定した部屋にて5分間安静にした後、定常状態の皮膚を3回測定した。(2)各化粧料のそれぞれ20μLをとり、測定領域にスパチュラで均一になるように塗布した。(3)塗布10分後、60分後、120分後、180分後に測定を行った。測定を行わないときの皮膚は処理を施さずに、大気と接するようにした。また、塗布場所による定常状態のATR信号量の違いを最小化するために、各化粧料の塗布する場所は固定した。被験者は23歳男性1名であり、日を変えて測定を5セット行い、5回の平均を結果とした。測定条件は表5に示す。この結果を図8に示す。
【実施例4】
【0044】
ワセリンを塗布した場合の質量含水率は塗布10分後27.7%まで低下した、その後継時的に増加し、最終的には46.3%まで増加した。ワセリン自体は水を含まない(含水率=0%)ので、塗布10分後の質量含水率の低下はワセリンが角層内に侵入した結果、角層中の水が排斥され、体積含水率が減少したことに起因すると考えられる。化粧水を塗布した場合は、塗布10分後の質量含水率は塗布前と比較して増加し、46.8%となって、3種類の化粧料中で最大となった。一方で、その後質量含水率は継時的に低下し、180分後の質量含水率は最も小さかった。化粧水中には保水成分が入っており、蒸留水と比較すると高い保水能を有することが示された(実施例3参照)が、ワセリンや乳液(OW)と比較すると化粧水の保水能は小さかった。乳液(OW)を塗布した場合は、塗布10分後の質量含水率は45.5%であるが、その後も質量含水率が増加し、180分後の質量含水率は49.3%と3種類の化粧料中で最も大きくなった。
【実施例4】
【0045】
ワセリンは皮膚表面を被覆し、水分の蒸発を防ぐ機能を、化粧水は角層に浸透しやすく、内部まで水分を届ける機能を、O/W型乳液は、塗布後揮発性成分はすぐに揮発してしまうが、油性成分が表面を被覆し、水分の蒸発を防ぐ機能を有すると一般的に言われている。上記実験結果はこれらの機能を端的に表すものであり、THz-CW法は種々の化粧料を塗布した皮膚の角層水分量を測定できることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は皮膚角層、特にヒトの皮膚角層の水分量を比較的簡便な装置で計測する方法を提供する。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
2
【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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