TOP > 国内特許検索 > 揮発性有機化合物の検出方法及び検出装置 > 明細書

明細書 :揮発性有機化合物の検出方法及び検出装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6624515号 (P6624515)
公開番号 特開2018-004392 (P2018-004392A)
登録日 令和元年12月6日(2019.12.6)
発行日 令和元年12月25日(2019.12.25)
公開日 平成30年1月11日(2018.1.11)
発明の名称または考案の名称 揮発性有機化合物の検出方法及び検出装置
国際特許分類 G01N  22/00        (2006.01)
FI G01N 22/00 Y
G01N 22/00 S
G01N 22/00 J
請求項の数または発明の数 5
全頁数 10
出願番号 特願2016-130569 (P2016-130569)
出願日 平成28年6月30日(2016.6.30)
審査請求日 平成30年8月28日(2018.8.28)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
発明者または考案者 【氏名】上野 祐子
【氏名】古川 一暁
【氏名】関 修平
【氏名】崔 旭鎮
【氏名】筒井 祐介
【氏名】櫻井 庸明
【氏名】酒巻 大輔
個別代理人の代理人 【識別番号】110001634、【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
審査官 【審査官】藤田 都志行
参考文献・文献 米国特許出願公開第2005/0183492(US,A1)
国際公開第2005/075954(WO,A1)
国際公開第2015/085074(WO,A1)
特開2008-268170(JP,A)
特開2016-45032(JP,A)
調査した分野 G01N 22/00
特許請求の範囲 【請求項1】
揮発性有機化合物のグラフェンへの吸着による前記グラフェンの電荷移動度の変化を、マイクロ波の誘電損失の時間変化に基づき検出し、
検出された前記電荷移動度の変化に基づき、前記グラフェンに吸着した揮発性有機化合物を検出することを特徴とする揮発性有機化合物の検出方法。
【請求項2】
前記グラフェンの電荷移動度の変化量に基づき、前記グラフェンに吸着した揮発性有機化合物の量を定量することを特徴とする、請求項1に記載の揮発性有機化合物の検出方法。
【請求項3】
前記グラフェンは、単層グラフェンであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の揮発性有機化合物の検出方法。
【請求項4】
前記グラフェンは、グラフェンが2層以上に積層された多層グラフェンであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の揮発性有機化合物の検出方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の揮発性有機化合物の検出方法に用いられる検出装置であって、マイクロ波源と、マイクロ波空洞共振器とを備え、前記マイクロ波空洞共振器は、グラフェンを有するセンサデバイスを設置可能な設置部を有することを特徴とする検出装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性有機化合物の検出方法及び検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有害大気汚染物質の約80%を占める揮発性有機化合物の中でも、ベンゼンなどに代表される芳香族ガスは、ppbレベルの低濃度においても発ガン性や脳神経系への深刻な影響の恐れがある。また、ニトロベンゼンなどに代表される数種の芳香族ガスは、爆発性を有する。以上の背景から、大気汚染対策や生体影響評価、空港等の重要施設におけるセキュリティ向上を目的として、大気中の揮発性有機化合物をオンサイトでリアルタイムに検出するセンサ開発の重要性が高まっている。
従来のガスセンサの代表的なものとして、水晶振動子ガスセンサがある。これは、水晶振動子表面に物質が付着すると、その質量に応じて共振周波数が変動する(下がる)性質を利用して、ガス分子の存在を検出するセンサである(非特許文献1)。この方法を用いた場合、以下のような問題が生じる。水晶振動子表面は、優れたガス吸着特性を示さないため、ガスセンサとして利用する場合は、有機薄膜材料による表面コーティングなど検出対象ガスが吸着しやすい検知膜を成膜してセンサを作製する必要がある。検知膜の成膜には、材料選定、作製法、膜厚条件など、それ自体が研究対象になるなど複雑であり、作製した個々のセンサの特性は、検知膜の性能に大きく依存するため、安定性や再現性に課題がある。
【0003】
一方、芳香族ガスに優れた吸着特性を示す材料として、グラフェンがある。グラフェンは、炭素のsp2結合のみから構成される2次元平面状構造を有する炭素同素体である(非特許文献2)。グラフェン作製法の代表的なものに、化学気相成長法(CVD法)がある。銅箔の表面に1層のグラフェンを大面積に成長することが可能であり(非特許文献3)、最近はウエハスケールで単結晶グラフェンを成長させることも可能である(非特許文献4)。
グラフェンは、π-π相互作用により、芳香族分子と強い吸着相互作用を示すため(非特許文献5)、この相互作用を利用したセンサ応用も検討されている。さらに、熱的・化学的安定にも優れるなど、実用・応用面に有利な特長もある。2次元結晶構造を有しているため、構造が柔軟に変化する有機薄膜材料と比較して、ガスセンサ材料としての特性の変動が起こりにくいという利点がある。
【0004】
グラフェンはその2次元構造に由来する特異な電子構造に基づいて、高い電荷移動度を有するため、グラフェンの電荷移動度を利用したトランジスタ型センサが報告されている(非特許文献6)。電界効果トランジスタは、材料の電荷移動度を評価する手法として用いることができるが、ガスセンサとして動作させることが可能である。ソース電極とドレイン電極間のゲート絶縁物表面に、たとえばグラフェンから成るチャネルを形成し、チャネル表面へのガス分子の吸着によって生じるソースとドレインとの間を流れる電流値変化を検出することにより、ガス分子の存在が検出できる(非特許文献7)。
【先行技術文献】
【0005】

【非特許文献1】野田和俊,愛澤秀信,電気学会論文誌E, 135, 292, (2015).
【非特許文献2】A. K. Geim, K. S. Novoselov, Nature Materials, 6, 183 (2007).
【非特許文献3】A. Reina et al.,"Large Area, Few-Layer Graphene Films on Arbitrary Substrates by Chemical Vapor Deposition", Nano Letters, 9, 30 (2009).
【非特許文献4】J. H. Lee et al.," Wafer-Scale Growth of Single-Crystal Monolayer Graphene on Reusable Hydrogen-Terminated Germanium", SCIENCE, 344, 286 (2014).
【非特許文献5】A. Rochefort and J. D. Wuest, “Interaction of Substituted Aromatic Compounds with Graphene” Langmuir, 25, 210 (2009).
【非特許文献6】Y. Ohno et al., “Label-Free Biosensors Based on Aptamer-Modified Graphene Field-Effect Transistors” J. Am. Chem. Soc., 132, 18012 (2010).
【非特許文献7】岩佐義宏,竹延大志,応用物理 77, 432 (2008).
【非特許文献8】Y. Honsho et al , “Evaluation of Intrinsic Charge Carrier Transport at Insulator-Semiconductor Interfaces Probed by a Non-Contact Microwaved Based Technique”, Scientific Reports, 3, 3182, (2013).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、電界効果トランジスタを用いたガスセンサには、以下の問題がある。デバイスの構造上、チャネルとソース・ドレインの接触部の抵抗が生じることを回避できないため、チャネルに用いる材料の特性を十分に発揮できず、安定性や再現性に課題がある。また、検出対象ガスが吸着しやすい検知膜を成膜したり、ガス分子を吸着する認識分子を表面修飾したりする場合は、水晶振動子ガスセンサと同様に、作製した個々のセンサの特性が検知膜や修飾分子の性能に大きく依存するなどの課題が生じる。
【0007】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、揮発性有機化合物の分析を、検知膜を用いずとも、より安定に再現性良く実施できる揮発性有機化合物の検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、揮発性有機化合物のグラフェンへの吸着による前記グラフェンの電荷移動度の変化を、マイクロ波の誘電損失の時間変化に基づき検出し、
検出された前記電荷移動度の変化に基づき、前記グラフェンに吸着した揮発性有機化合物を検出することを特徴とする揮発性有機化合物の検出方法である。
【0009】
本発明の一態様は、上記揮発性有機化合物の検出方法であって、前記グラフェンの電荷移動度の変化量に基づき、前記グラフェンに吸着した揮発性有機化合物の量を定量することを特徴とする。
【0010】
本発明の一態様は、上記揮発性有機化合物の検出方法であって、前記グラフェンは、単層グラフェンであることを特徴とする。
【0011】
本発明の一態様は、上記揮発性有機化合物の検出方法であって、前記グラフェンは、グラフェンが2層以上に積層された多層グラフェンであることを特徴とする。
【0012】
本発明の一態様は、上記揮発性有機化合物の検出方法に用いられる検出装置であって、マイクロ波源と、マイクロ波空洞共振器とを備え、前記マイクロ波空洞共振器は、グラフェンを有するセンサデバイスを設置可能な設置部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、揮発性有機化合物の分析を、安定的に再現性良く実施できる揮発性有機化合物の検出方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係るセンサデバイスおよびその作製法の一例を示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る検出装置の一例を示す模式図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る検出装置における、マイクロ波空洞共振器部分の一例を示す模式図である。
【図4】実施例で得られた、ニトロベンゼンの検出結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の揮発性有機化合物の検出方法の一実施形態を、図面を参照しながら説明する。
本実施形態では、グラフェンを有するセンサデバイスを用いて、揮発性有機化合物を検出する。まず、本実施形態に係るセンサデバイスについて説明する。

【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係るセンサデバイスおよびその作製法の一例を示す模式図である。センサデバイス1は、基板10の表面に、下部電極20、絶縁層30、グラフェン40、及び上部電極50がこの順で積層された構造を有する。グラフェン40は、揮発性有機化合物を吸着するため、センサデバイス1の表面に露出している。

【0017】
基板10の材料としては、絶縁体材料が適し、例えば石英、サファイア、他の無機固体材料や、ポリイミド、テフロン(登録商標)、他の有機高分子材料などが挙げられる。ここでは基板10の材料として石英を用いた例を示している。

【0018】
まず、この基板10の表面に下部電極20を作製する。下部電極20としては、金属電極が挙げられる。金属電極の材料としては、金、白金、銅、ニッケル、チタン他の金属が挙げられ、既存の蒸着法、例えば抵抗加熱蒸着、スパッタ蒸着、電子ビーム加熱蒸着、他、によって作製すればよい。ここではチタン(Ti)5nmと金(Au)30nmが積層された例を示している。

【0019】
次に、下部電極を覆う絶縁層30を形成する。絶縁層30の材料は、石英、他の無機絶縁体材料であってもよいし、高分子などの有機絶縁体であってもよい。ここでは絶縁層31として、二酸化ケイ素(SiO)が200nm厚さに積層された例を示している。絶縁層30には、絶縁性を高めるために、これらの材料を組み合わせた材料を用いてもよく、これらの材料を重ねあわせた複層を用いてもよい。最適な高分子材料には、アモルファスフッ素樹脂(サイトップ、旭硝子社製)、ポリ塩化ビニリデンフィルム(PVDCフィルム、サラン樹脂、旭化成製)などが挙げられる。ここでは絶縁層30として、アモルファスフッ素樹脂を有する絶縁層32が、絶縁層31上に積層された例を示している。絶縁層32はサイトップを180℃で1時間アニールして得られる。

【0020】
次にこの絶縁層30の表面に、グラフェン40を積層する。化学気相成長法(CVD法)により銅箔上に成長した単層グラフェン表面に、スピンコートによりポリマー薄膜41(たとえばポリメチルメタクリレート(PMMA))を形成し、グラフェン膜の担持膜を作製する。続いて、下部銅箔を酸(例えばFeClを0.05g/mL濃度で溶かした溶液)でエッチングし、ポリマーに担持したグラフェンを水上に浮遊した形態で作製する。この担持膜を図1の絶縁層形成までを施した基板10の下部電極20の上部にすくい取る。乾燥後、ポリマー薄膜41を有機溶剤(たとえばアセトン)で一晩処理し、ポリマー薄膜41を溶解除去する。

【0021】
続いて、上部電極50を、得られたグラフェン40表面の一部に作製する。上部電極50の配置および形状は、ガスの検出に必要なガス分子の吸着サイトが得られるグラフェン面積を露出するように作製すればよい。例えば、グラフェンの一部分全面を覆う形状や、リングや四角形などの内部をくり抜いた形状、くし形形状などであってもよい。上部電極50の構成は、下部電極20と同じであってもよく、異なっていてもよい。例えば、上部電極50の材料は、下部電極20同様、金、白金、銅、ニッケル、チタン他の金属であってもよく、既存の蒸着法、例えば抵抗加熱蒸着、スパッタ蒸着、電子ビーム加熱蒸着、他、によって作製すればよい。ここでは金30nmが積層された例を示している。
このようにして、実施形態に係るセンサデバイス1を製造できる。

【0022】
次に、実施形態の検出装置による、センサデバイス1を用いた揮発性有機化合物の検出について説明する。なお、本発明の揮発性有機化合物の検出方法は、下記実施形態の検出装置で実施されるものに限定されない。

【0023】
センサデバイス1は、図2に示す検出装置100に置き、その電荷移動度を計測する。
図2は、本発明の一実施形態に係る検出装置の一例を示す模式図である。
検出装置100は、マイクロ波空洞共振器110と、マイクロ波源120と、ゲート電圧制御部130と、増幅器140と、オシロスコープ150とを有する。マイクロ波源120、マイクロ波空洞共振器110及び増幅器140は、マイクロ波を伝送する導波路160によって接続されている。導波路160には、図2に示すように、ミキサー161、サーキュレーター162、アイソレーター163、方向性結合器164、移相器165、減衰器166が配置されている。マイクロ波空洞共振器110は、センサデバイス1を設置可能な設置部112を有している。検出装置は、マイクロ波空洞共振器内に検出対象の揮発性有機化合物を導入する導入路を有していてもよい。マイクロ波源としては、公知のマイクロ波発生装置が挙げられる。

【0024】
以下、実施形態の検出方法の手順の一例について説明する。図3は、検出装置100における、マイクロ波空洞共振器110部分の一例を模式的に示す断面図である。図3に示すように、センサデバイス1のグラフェンの少なくとも一部を、電荷移動度が測定可能なよう、マイクロ波空洞共振器110内に設置する。ここでマイクロ波空洞共振器110内には検出対象の揮発性有機化合物を含む気体Aが収容されている。すなわち、マイクロ波空洞共振器110内には、上記気体A及びセンサデバイス1が収容されている。マイクロ波源120から発生されたマイクロ波を、該マイクロ波空洞共振器に設置されたセンサデバイス1のグラフェンに照射し、気体A収容条件でのマイクロ波の誘電損失を、オシロスコープ150を用いて測定する。次いで、マイクロ波空洞共振器110内から気体Aを排出し、代わりに、検出対象の揮発性有機化合物を含まない気体Bを導入する。すなわち、マイクロ波空洞共振器110内には、上記気体B及びセンサデバイス1が収容されている。マイクロ波を、該マイクロ波空洞共振器に設置されたセンサデバイス1のグラフェンに照射し、気体B収容条件でのマイクロ波の誘電損失を測定する。そして、気体A収容条件でのマイクロ波の誘電損失と、気体B収容条件でのマイクロ波の誘電損失を比較し、マイクロ波の誘電損失の時間変化を検出できる。
ここで、本実施形態に係る誘電損失の「時間変化」とは、変化が同一のセンサデバイスに係る誘電損失の値であり、実施形態に検出方法において、同一のセンサデバイスへの検出対象の揮発性有機化合物の吸着状態が、時間で変化したことによる。
なお、気体Bは、検出対象の揮発性有機化合物を含まない気体としていたが、マイクロ波の誘電損失の時間変化を検出可能である範囲において、気体Aとは異なる濃度で揮発性有機化合物を含む気体であってもよい。
次いで、検出されたマイクロ波の誘電損失の時間変化に基づき、前記グラフェンの電荷移動度の変化を検出する。マイクロ波空洞共振器内での材料のマイクロ波吸収はその材料が持つ電気伝導率に比例することが知られている。すなわち、マイクロ波の誘電損失の時間変化の検出は、該グラフェンの電荷移動度の変化の検出となる。また、グラフェンの電荷移動度の変化は、グラフェンへの揮発性有機化合物の吸着の変化によるものであり、マイクロ波の誘電損失の値の時間変化から、揮発性有機化合物の存在を検出できる。この現象を利用して、材料(グラフェン)に電荷キャリアを注入した時のマイクロ波吸収の変化から、グラフェンに非接触及び非破壊で、材料の電荷移動度を検出可能である。センサデバイス1においてグラフェン40は、その表面に露出しており、マイクロ波空洞共振器110内のセンサデバイス1のグラフェンの電荷移動度を、検知膜を介さず測定可能である。

【0025】
また、この現象を利用して、材料(グラフェン)に電荷キャリアを注入した時のマイクロ波吸収の変化から、グラフェンに非接触及び非破壊で、材料の電荷移動度を絶対定量することが可能である。すなわち、グラフェンの電荷移動度の変化量に基づき、グラフェンに吸着した揮発性有機化合物の量を定量可能である。例えば、気体A収容条件でのマイクロ波の誘電損失量と、気体B収容条件でのマイクロ波の誘電損失量から、マイクロ波の誘電損失の変化量を求め、マイクロ波の誘電損失の変化量から、該グラフェンの電荷移動度の変化量を求める。グラフェンの電荷移動度の変化量は、グラフェンへの揮発性有機化合物の吸着量の変化量を反映しているので、マイクロ波の誘電損失の値から、揮発性有機化合物の量を定量できる。揮発性有機化合物を定量するには、例えば、既知の濃度の揮発性有機化合物に対する信号絶対値の変化量をあらかじめ測定しておき、検量線として用いればよい。
本実施形態の揮発性有機化合物の検出方法によれば、グラフェンに電荷キャリアが注入される前後の状態を比較することで、電極による電荷注入過程の影響を受けないという長所を持つ。

【0026】
本実施形態の揮発性有機化合物の検出方法の、検出対象物質としては、グラフェンに吸着可能で、吸着により電荷移動度の変化を生じさせる化合物であればよい。ここで、検出対象物がグラフェンに吸着するとは、グラフェンの電荷移動度の変化を生じさせる程度に、検出対象物とグラフェンとが接触又は近接することをいう。検出対象物とグラフェンとは直接接触してもよい。
検出対象の揮発性有機化合物は、気体であることが好ましく、芳香族ガスであることが好ましい。揮発性有機化合物とは、常温常圧で空気中に揮発し得る有機化合物である。常温とは20℃±15℃の範囲をいい、常圧とは一気圧を指す。芳香族ガスとは、芳香族化合物が気化した気体である。芳香族化合物としては、ベンゼン環を有する化合物が挙げられる。

【0027】
検出対象物質の揮発性有機化合物の気体中の物質濃度は、体積比率で0.01~2000ppmであってよく、0.1~2000ppmであってよく、1~500ppmであってもよく、10~300ppmであってもよい。

【0028】
実施形態の揮発性有機化合物の検出方法における、前記グラフェンとしては、単層グラフェンであってもよい。単層グラフェンは、電荷移動度が高いので、高感度な検出が可能となる。前記グラフェンとしては、単層グラフェンが2層以上積層された多層グラフェンであってもよい。多層グラフェンは、重ね合わせの配向によって、移動度が異なるので、互いに異なる配向を有する単層グラフェンが2層以上積層された多層グラフェンの膜の配向を使って、ガス検出感度を変えること(制御すること)が可能である。

【0029】
実施形態の検出装置によれば、実施形態の揮発性有機化合物の検出方法を実施できる。

【0030】
実施形態の揮発性有機化合物の検出方法によれば、検出対象の揮発性有機化合物等に対して優れたガス吸着特性を示すグラフェンを用いることによって、検知膜を成膜することなく、芳香族ガスの吸着に優れた揮発性有機化合物分析法が実現する。検知膜を用いずとも揮発性有機化合物を検出できるため、揮発性有機化合物を安定的に再現性良く検出できる。また、グラフェンが熱的・化学的安定性にも優れ、均一な特性を示す材料である特徴を活かし、安定性や再現性良く揮発性有機化合物の分析を実施できる。また、本実施形態では、グラフェンへの分子吸着により、電荷移動度が変化することを利用するが、グラフェンは高い移動度を有するため、検知膜としてガスを吸着する機能だけでなく、電荷移動度の変化という検出機能を同時に発現することができる。

【0031】
本実施形態の揮発性有機化合物の検出方法によれば、ガス分子の吸着に伴うグラフェンの電荷移動度の変化を、グラフェンに非接触及び非破壊で測定することにより、接触抵抗による影響を排除し、グラフェンの電荷移動度を損なうことなくより安定性や再現性良く実施できる。本実施形態で用いる電荷移動度の評価手法は、「時間分解マイクロ波電導度測定法」という、マイクロ波の誘電損失の時間変化を用いて、材料の電荷移動度を評価する手法である(非特許文献8)。この方法は、測定対象の材料(本実施形態ではグラフェン)中に、正電荷もしくは負電荷を選択的に発生させ、非接触及び非破壊で、電荷移動度を絶対定量することが可能である。この電荷移動度の変化から、吸着した揮発性有機化合物の分子数又は濃度を定量することが可能となる。

【0032】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【実施例】
【0033】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0034】
上記実施形態で例示のとおり作製したセンサデバイス1を、容量は、10cm程度のマイクロ波空洞共振器に挿入した。マイクロ波空洞共振器には、芳香族ガス導入ラインおよび参照ガスの導入ラインを接続した。芳香族ガス導入ラインからは、飽和蒸気圧(20Pa,200ppm)のニトロベンゼンを含む窒素ガスを、参照ガスの導入ラインからは、窒素ガスをそれぞれ流量10~20 L/minで,2分毎にラインを切り替えて導入した。
入射するマイクロ波の周波数を共振周波数に合わせた後、試料に対して30V,100Hzの矩形波で電圧を印加し、反射マイクロ波強度の変化をオシロスコープにて観測した。本測定で用いたデバイスでは、グラフェンの露出面積は0.14cmであり、注入した電荷キャリアは1011個である。
【実施例】
【0035】
図4に、ガス導入後の時間に対して、注入した電荷キャリアの数Nとその移動度μの積(Nμ)をプロットした結果を示す。電荷キャリアと芳香族ガスの関係は、線形関係C=k・Nμで近似できる(Cはガス濃度を表し、kは定数を表す)。ここで、図4(上)は正孔注入、図4(下)は電子注入に対する結果である。図の網かけ部分はニトロベンゼン導入時間に対応する。正孔、電子注入のどちらにおいても、ニトロベンゼンガス導入時に信号絶対値(正孔はプラス方向、電子はマイナス方向の信号)が増加した。ニトロベンゼンを定量するには、既知の濃度の芳香族ガスに対する信号絶対値の変化量をあらかじめ測定しておき、検量線として用いればよい。
【実施例】
【0036】
以上から、芳香族ガス分子の吸着に伴うグラフェンの電荷移動度の変化の測定を、マイクロ波の誘電損失の時間変化に基づき、グラフェンに非接触及び非破壊で測定することにより、接触抵抗による影響を排除し、グラフェンの特性を損なうことなく実施可能なことが示された。
本実施例により、グラフェン上に検知膜を成膜することなく、芳香族ガスの検出が可能なことが示された。
【符号の説明】
【0037】
1…センサデバイス,10…基板,20…下部電極,30…絶縁層,31…絶縁層,32…絶縁層,40…グラフェン,41…ポリマー薄膜,50…上部電極,100…検出装置,110…マイクロ波空洞共振器,112…設置部,120…マイクロ波源,130…ゲート電圧制御部,140…増幅器,150…オシロスコープ,160…導波路,ミキサー…161,サーキュレーター…162,アイソレーター…163,方向性結合器…164,移相器…165,減衰器…166
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3