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明細書 :熱輻射光源

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2017-152637 (P2017-152637A)
公開日 平成29年8月31日(2017.8.31)
発明の名称または考案の名称 熱輻射光源
国際特許分類 H01L  33/06        (2010.01)
FI H01L 33/00 112
請求項の数または発明の数 8
出願形態 OL
全頁数 11
出願番号 特願2016-035999 (P2016-035999)
出願日 平成28年2月26日(2016.2.26)
発明者または考案者 【氏名】野田 進
【氏名】井上 卓也
【氏名】カン ドンヨン
【氏名】浅野 卓
出願人 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110001069、【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 5F241
Fターム 5F241AA02
5F241CA04
5F241CA05
5F241CA40
要約 【課題】波長選択性に優れ、且つ、速い応答速度で光の強度を制御することができる熱輻射光源を提供する。
【解決手段】熱輻射光源10は、量子井戸構造を有する層である量子井戸構造層111を挟むようにn型半導体から成るn層112とp型半導体から成るp層113が設けられた板状の基台11と、基台11の表面に設けられた、量子井戸構造層111における量子井戸内のサブバンド間における遷移エネルギーに対応する波長の光が共振するように孤立部材(第1孤立部材121、第2孤立部材122)が周期的に並んで成るフォトニック結晶部12と、基台11に設けられた、量子井戸構造層111に電圧を印加する電圧印加手段(電源14)とを備える。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
a) 量子井戸構造を有する層である量子井戸構造層を挟むようにn型半導体から成る層であるn層とp型半導体から成る層であるp層が設けられた板状の基台と、
b) 前記基台の表面に設けられた、前記量子井戸構造層における量子井戸内のサブバンド間における遷移エネルギーに対応する波長の光が共振するように孤立部材が周期的に並んで成るフォトニック結晶部と、
c) 前記基台に接続された、前記量子井戸構造層に電圧を印加する電圧印加手段と
を備えることを特徴とする熱輻射光源。
【請求項2】
前記フォトニック結晶部が、形状又は大きさが異なる2種類以上の前記孤立部材を有することを特徴とする請求項1に記載の熱輻射光源。
【請求項3】
前記量子井戸構造層の前記基台の前記表面側の面が該表面から100nm以下だけ離れた位置にあることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱輻射光源。
【請求項4】
前記量子井戸構造層が窒化物半導体から成ることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の熱輻射光源。
【請求項5】
前記量子井戸構造層がGaNを有することを特徴とする請求項4に記載の熱輻射光源。
【請求項6】
前記量子井戸構造層がGaNから成る層とAl1-xGaxN(0<x<1)から成る層を交互に複数回積層したものであることを特徴とする請求項5に記載の熱輻射光源。 前記孤立部材が、電子又は正孔がドープされていない半導体材料から成ることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の熱輻射光源。
【請求項8】
a) 量子井戸構造を有する層である量子井戸構造層を挟むようにn型半導体から成る層であるn層とp型半導体から成る層であるp層が設けられた板状の基台と、
b) 前記基台の表面に設けられた、前記量子井戸構造層における量子井戸内のサブバンド間における遷移エネルギーに対応する波長の光が共振するように孤立部材が周期的に並んで成るフォトニック結晶部と
を備えることを特徴とする熱輻射光源用素子。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は熱輻射光源に関する。熱輻射光源は、熱輻射により放射される電磁波を光源とする装置であるが、熱を入力とし、光(電磁波)を出力する熱-光変換装置と捉えることができる。この入力たる熱が電磁波(赤外線)で与えられる場合、波長変換装置とも捉えることができる。また、熱ではなく電気エネルギーを投入することにより熱輻射を発生させる装置と捉えることもできる。本発明における「熱輻射光源」は、これらいずれをも対象とする。
【背景技術】
【0002】
熱輻射光源は、物体に熱を与えるだけで発光を得ることができる、という利点を有する。熱輻射光源は、例えば赤外線を用いた各種センサの光源に用いることができ、特に、エンジンの排ガス中の成分を分析するガスセンサにおいて、エンジンの廃熱をセンシングのための赤外線に変換する光源として好適に用いることができる。
【0003】
熱が与えられた物体が発する電磁波は、その温度に依存した波長範囲に広がるスペクトルを有する。例えば物体を数十℃~数百℃に加熱することにより得られる電磁波の波長範囲は数μm~数十μmとなり、高温になるほど、その範囲は短波長側に広がる。しかし、前述の赤外線センサでは一般に特定の波長の赤外線のみを利用するため、このような熱輻射光源を用いると、特定波長以外の不要な赤外線が被測定物に照射されてしまい、被測定物が加熱されてしまう等の悪影響が生じる。また、電気エネルギーを投入することにより熱輻射を発生させる場合において、広帯域の輻射が生じる光源では消費電力の増大が問題となる。
【0004】
このような問題点を解決するべく、特許文献1、非特許文献1及び非特許文献2では、フォトニック結晶内に量子井戸構造が形成された熱輻射光源が提案されている。フォトニック結晶とは、周期的な屈折率分布を有する物であって、当該周期に対応した特定の波長を有する光の定在波が形成され得るものである。量子井戸構造とは、エネルギーバンドギャップの大きさが異なる複数種の、厚さ数nm~十数nm程度の半導体の層を積層することにより井戸型のエネルギーポテンシャル(量子井戸)を形成した物の構造をいう。
【0005】
特許文献1では主に、量子井戸構造を有するスラブ(板材)に周期的に空孔が設けられたフォトニック結晶が用いられている。このフォトニック結晶では、スラブと空孔が異なる屈折率を有することから、周期的な屈折率分布が形成されている。一方、非特許文献1及び非特許文献2では、量子井戸構造を有する孤立部材が周期的に並べられたフォトニック結晶を基台上に配置した構成が用いられている。当該孤立部材は、周囲の空間(空気)とは異なる屈折率を有することから、周囲の空間と合わせて周期的な屈折率分布を形成している。孤立部材には、基台上面から上方に延びる部材が複数個孤立して2次元状に配置されたものや、基台上面に平行な方向に長い部材が複数個孤立して、互いに平行に1次元状に配置されたものがある(後者の例は、孤立部材は基台上面に平行な方向と共に、基台正面から上方にも延びているといえる)。以下、特許文献1に記載のフォトニック結晶を「空孔型フォトニック結晶」、非特許文献1及び非特許文献2に記載のフォトニック結晶を「孤立部材型フォトニック結晶」と呼ぶ。
【0006】
これら各文献に記載の熱輻射光源では、熱源から熱が供給されると、量子井戸構造の量子井戸内に形成される離散的な複数のエネルギー準位(サブバンド)間において遷移(サブバンド間遷移)が生じ、その遷移エネルギーに対応した波長を中心とした有限の波長帯をもつ発光が生じる。そして、当該量子井戸構造が設けられたフォトニック結晶内において、該フォトニック結晶の周期により定まる1つの波長を有する光が共振して増幅される。これにより、各文献に記載の熱輻射光源は、当該特定波長において鋭いピークを有する波長スペクトルを持つ光を生成することができる。
【0007】
また、特許文献1の熱輻射光源では、スラブの表裏両面に電極が設けられている。この熱輻射光源では、当該電極を用いて量子井戸構造に電圧を印加することにより、量子井戸内の電子又は正孔の数を変化させ、それにより上記特定波長の光の強度を制御することができる。光の強度は、量子井戸構造に与える熱の強弱によっても変化するが、その速度は極めて遅く、特許文献1のように電圧を用いて制御することで初めて、1MHzに達する高速の変調動作が可能になる。
【先行技術文献】
【0008】

【特許文献1】国際公開WO2015/129668号
【0009】

【非特許文献1】Takuya Inoue(井上卓也)他、"Design of single-mode narrow-bandwidth thermal emitters for enhanced infrared light sources"(高性能な赤外光源用単一モード狭帯域熱輻射体の設計)、Journal of the Optical Society of America B、(米国)、 Optical Society of America(米国光学会)発行、2013年1月、第30巻第1号第165~172頁
【非特許文献2】Takuya Inoue(井上卓也)他、"Single-peak narrow-bandwidth mid-infrared thermal emitters based on quantum wells and photonic crystals"(量子井戸及びフォトニック結晶に基づく単一ピーク狭帯域中赤外線域熱輻射体)、Applied Physics Letters、(米国)、American Institute of Physics(米国物理学協会)発行、2013年5月13日、第102巻第19号第191110-1~191110-4頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
空孔型フォトニック結晶を用いた熱輻射光源と孤立部材型フォトニック結晶を用いた熱輻射光源で計算及び実験を行うと、後者の方が、波長スペクトルにおいて幅がより狭く、且つ、目的の波長以外に生じる不要な輻射ピークをほとんど含まない、単一波長に近い発光が生じる。これは、孤立部材が上方に延びていることにより、量子井戸のサブバンド間遷移により生じる光の電界の方向と孤立部材が物理的に延びる方向が一致し、その結果、フォトニック結晶の共振波長の制御(共振波長を所定の値にすること)及び共振により外部に生じる輻射ピークの増強が容易になることによる。従って、波長選択性の点では孤立部材型フォトニック結晶を用いた熱輻射光源の方が望ましい。しかしながら、非特許文献1及び2に記載の孤立部材型フォトニック結晶を用いた熱輻射光源では、量子井戸構造に電圧を印加することができず、光の強度を速い応答速度で制御することができない。
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、波長選択性に優れ、且つ、速い応答速度で光の強度を制御することができる熱輻射光源を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために成された本発明に係る熱輻射光源は、
a) 量子井戸構造を有する層である量子井戸構造層を挟むようにn型半導体から成る層であるn層とp型半導体から成る層であるp層が設けられた板状の基台と、
b) 前記基台の表面に設けられた、前記量子井戸構造層における量子井戸内のサブバンド間における遷移エネルギーに対応する波長の光が共振するように孤立部材が周期的に並んで成るフォトニック結晶部と、
c) 前記基台に接続された、前記量子井戸構造層に電圧を印加する電圧印加手段と
を備えることを特徴とする。
【0013】
従来、フォトニック結晶を用いた熱輻射光源では、量子井戸構造に熱が供給されることにより生じる特定波長の光を増幅するためには、光の共振を司るフォトニック結晶の内部に量子井戸構造を設けておく必要があると考えられていた。しかしながら、本発明者が計算及び実験で検証した結果、孤立部材型フォトニック結晶を用いた熱輻射光源において、量子井戸構造をフォトニック結晶の外の基台に設けても、基台内の量子井戸構造から生成された特定波長の光がフォトニック結晶の周期的屈折率分布と結合して共振し、増幅されることが明らかになった。
【0014】
本発明では、このように量子井戸構造を基台内に設け、量子井戸構造層に電圧を印加する電圧印加手段を基台に設けることにより、量子井戸内の電子又は正孔の数を変化させ、それにより、加熱時に量子井戸構造から生じてフォトニック結晶部で共振する光の強度を制御することができる。
【0015】
フォトニック結晶部(孤立部材型フォトニック結晶)には、基台表面から垂直に延びる孤立部材が2次元状に配置されたものや、基台上面に平行な方向に長い部材が複数個孤立して、互いに平行に1次元状に配置されたものを用いることができる。
【0016】
単一の孤立部材を周期的に配置したフォトニック結晶では、全ての孤立部材が同位相で共振することにより自由空間への光の回折効果が過度に強まり、フォトニック結晶内に光が留まる時間が短くなるおそれがある。光がフォトニック結晶内に留まる時間と得られる発光スペクトルの線幅は反比例の関係にあるため、上記の構造の場合は、発光線幅が広がるおそれがある。一方、異なる2種類以上の孤立部材を周期的に配置したフォトニック結晶では、異なる孤立部材間で光を逆位相で共振させることが可能であり、光の回折効果が適度に相殺されることにより光が長時間フォトニック結晶部に閉じ込められ、最終的に線幅の狭い発光スペクトルが得られる。従って、フォトニック結晶部は、形状又は大きさが異なる2種類以上の孤立部材を有することが望ましい。
【0017】
量子井戸構造で生成されてフォトニック結晶部で共振する特定波長の光の強度を高くするためには、前記量子井戸構造層の前記基台の前記表面側の面と該表面の距離はできるだけ近いほどよく、例えば100nm以下とすることが望ましい。
【0018】
量子井戸構造を有する熱輻射光源では、加熱温度を高くするほど、量子井戸構造で生成される光の出力を大きくすることができる。また、加熱温度を高くするほど、量子井戸構造からの発光の波長帯を(特に短波長側に)広くすることができ、それに応じてフォトニック結晶部の周期長を定めることにより、共振によって増幅される波長の選択範囲を広くすることができる。そこで、本発明に係る熱輻射光源において、量子井戸構造には、耐熱性に優れた窒化物半導体から成るものを用いることが望ましい。窒化物半導体を用いることにより、加熱温度を600℃程度まで高くすることができ、例えば量子井戸構造にGaAs(電圧制御が可能な最大加熱温度が約250℃)を用いた場合と比較すると光の出力を約10倍にすることができる。また、量子井戸構造に窒化物半導体を用いることにより、発光波長帯を2~10μmという広い範囲とすることができ、それにより、CO2(吸収波長4.3μm)、CO(同4.8μm)、CH4(同3.3μm)等の様々な気体や化合物のセンシング用の光源として用いることができる。窒化物半導体として、GaN、InN、AlN、あるいはそれらの混晶を用いることができる。
【0019】
孤立部材には、電子又は正孔がドープされていない半導体材料から成るものを用いることが望ましい。これにより、自由キャリア吸収に由来する不要な広帯域の発光を抑えることができる。
【0020】
本発明に係る熱輻射光源用素子は、
a) 量子井戸構造を有する層である量子井戸構造層を挟むようにn型半導体から成る層であるn層とp型半導体から成る層であるp層が設けられた板状の基台と、
b) 前記基台の表面に設けられた、前記量子井戸構造層における量子井戸内のサブバンド間における遷移エネルギーに対応する波長の光が共振するように孤立部材が周期的に並んで成るフォトニック結晶部と
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、波長選択性に優れた孤立部材型フォトニック結晶を用いて、速い応答速度で光の強度を制御することができる熱輻射光源が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る熱輻射光源の一実施形態を示す斜視図(a)、A-A'断面図(b)及びフォトニック結晶部のB-B'断面図(c)。
【図2】本発明に係る熱輻射光源につき、電極間に電圧を印加していない状態(a)及び印加した状態(b)における電子のエネルギー状態を示す図。
【図3】本実施形態の熱輻射光源につき、電極間に電圧を印加していない状態(実線)及び印加した状態(破線)における光の放射率を計算で求めた結果を示すグラフ。
【図4】基台のn層と同じ材料から成る孤立部材を用いた熱輻射光源につき、電極間に電圧を印加していない状態(実線)及び印加した状態(破線)における光の放射率を計算で求めた結果を示すグラフ。
【図5】本実施形態の熱輻射光源につき、n層及びp層の厚みの異なる複数の例で光の放射率を計算で求めた結果を示すグラフ。
【図6】本発明に係る熱輻射光源の他の実施形態を示す斜視図(a)及びC-C'断面図(b)。
【図7】他の実施形態の熱輻射光源につき、電極間に電圧を印加していない状態(実線)及び印加した状態(破線)における光の放射率を、Ex偏光(a)及びEy偏光(b)に分けて計算で求めた結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1~図7を用いて、本発明に係る熱輻射光源の実施形態を示す。

【0024】
(1) 本発明に係る熱輻射光源の一実施形態の構成
図1に、本発明に係る熱輻射光源の一実施形態を示す。この熱輻射光源10は、基台11と、該基台11の表面に設けられたフォトニック結晶部12を有し、後述のように基台11と一体に形成された電極(n層112及びp層113)が設けられている。

【0025】
基台11は、板状の量子井戸構造体111の表裏両面をn型半導体から成るn層112とp型半導体から成るp層113で挟んだ構成を有している。n層112は量子井戸構造体111よりもフォトニック結晶部12寄りに、p層113はその反対側に設けられている。

【0026】
本実施形態では、量子井戸構造体111には、GaNに電子がドープ(1×1018cm-3)されたGaN層と、Al1-xGaxN(0<x<1)のうちx=0.6であるAlGa0.6Nから成り電子や正孔がドープされていないAlGaN層を交互に50層ずつ積層したものを用いる。GaN層及びAlGaN層の1層あたりの厚みはいずれも3nmとする。GaNとAl0.4Ga0.6Nはバンドギャップが重なり、Al0.4Ga0.6NよりもGaNの方がバンドギャップが小さいため、GaN側を底とする量子井戸が形成され、GaNにサブバンドが形成される。ここで、AlGaN層におけるN原子1個当たりのAl原子の数(1-x)は上記の値には限定されないが、(1-x)の値が大きく(xの値が小さく)なるほどGaNとのバンドギャップの大きさの差が大きくなるため、より高エネルギー(短波長)の発光を得ることができる。一方、(1-x)の値が0.4を超えると作製時に転位やクラックが生じるおそれがある。そのため、本実施形態では、(1-x)の値は0.4とした。

【0027】
本実施形態では、n層112には電子がドープ(5×1018cm-3)されたGaNから成るものを、p層113には正孔がドープ(1×1018cm-3)されたGaNから成るものを、それぞれ用いる。n層112の厚みd1は50nm、p層113の厚みd2は250nmとする。なお、上記実施形態とは逆に、量子井戸構造体111よりもフォトニック結晶部12寄りにp層を設け、その反対側にn層を設けてもよい。量子井戸構造体111とフォトニック結晶部12の間に設ける半導体層(図1の例ではn層112)の厚みは薄いほどよく、例えば100nm以下とすることが望ましい。

【0028】
フォトニック結晶部12は、半径r1、厚みdの円柱状の第1孤立部材121が基台11の表面に立設されるように周期長aの正方格子状に配置されると共に、半径r2、厚みdの円柱状の第2孤立部材122が前記表面に立設されるように周期長aの正方格子状に配置されて成る。各第2孤立部材122は、第1孤立部材121が正方格子の格子点に周期長aで並ぶ2方向にそれぞれ、第1孤立部材121からa/2ずれた位置に配置されている。本実施形態では、周期長aは3.0μm、半径r1は0.23a(=0.69μm)、半径r2は0.18a(=0.54μm)、厚みdは1.2μmとした。第1孤立部材121及び第2孤立部材122はいずれも、電子や正孔がドープされていないGaNから成る。

【0029】
n層112には電源14の負極が、p層113には電源14の正極が、それぞれ接続されている。n層112及びp層113が電極として機能している。電源14が上述の電圧印加手段に該当する。熱輻射光源10と電源14を接続する回路中にはスイッチ15が設けられている。

【0030】
(2) 本実施形態の熱輻射光源の動作
図2を用いて、本実施形態の熱輻射光源10の動作を説明する。
熱輻射光源10では、量子井戸構造体111の量子井戸の底側に該当するGaN層に電子がドープされていることから、スイッチ15がOFFの状態で熱源から熱輻射光源10を加熱することにより、量子井戸に形成されているサブバンド間で電子が遷移し、その遷移エネルギーに対応した波長を中心とした有限の波長帯の発光が生じる(図2(a))。この波長帯内の光のうち、フォトニック結晶部12の周期長に対応した特定の波長を有する光のみが、フォトニック結晶部12において共振して増幅され、熱輻射光源10の外部に放出される。

【0031】
スイッチ15をOFFからONに切り替えると、量子井戸構造体111にドープされた電子がn層112へ移動し、それにより量子井戸内の電子の数が減少する(図2(b))。これにより、量子井戸構造体111からの光の強度が低下し、フォトニック結晶部12で共振して増幅され、熱輻射光源10の外部に放出される光の強度も低下する。このように、電極であるn層112とp層113の間への(すなわち量子井戸構造体111への)電圧の印加のOFF/ONにより、熱輻射光源10の外部に放出される光の強度を制御することができる。

【0032】
本実施形態では、半径が異なる第1孤立部材121と第2孤立部材122がそれぞれ周期長aで配置されているため、フォトニック結晶部12内においてこの周期長aに対応する媒質内波長λi(=3.0μm)を有する光が増幅される。当該波長の光は、空気中では波長λが(neffλi/na)となる。ここでneffはフォトニック結晶部12内の光が感じる有効屈折率であり、naは空気の屈折率(=1)である。当該有効屈折率neffは、第1孤立部材121及び第2孤立部材122の材料の屈折率やそれらがフォトニック結晶部12内で占める体積の割合に依存する。また、フォトニック結晶部12の厚みが薄い場合には、基台11の屈折率が当該有効屈折率neffに影響を与えることもある。当該有効屈折率neffは、これらのパラメータに基づいて計算(シミュレーション)するか、予備実験を行うことにより求められる。

【0033】
また、本実施形態では、半径が異なる第1孤立部材121と第2孤立部材122を用いているため、異なる孤立部材間で光が逆位相で共振し、光の回折効果が適度に相殺されるため、光が長時間フォトニック結晶に閉じ込められる。その結果、線幅が狭い発光スペクトルが得られる。

【0034】
本実施形態の熱輻射光源10につき、電極間に電圧を印加していない状態(OFF状態)と印加した状態(ON状態)における外部への光の放射率を計算で求めた。その結果を図3にグラフで示す。ここで放射率とは、光源の熱輻射強度を、同じ温度の黒体輻射強度で規格化した値である。グラフの横軸は空気中における光の波数(波長の逆数)で示した。この結果から、OFF状態では波数が約2500cm-1、波長が約4μmのところに強いピークが存在するのに対して、ON状態では同波数(同波長)のところのピーク高さはわずかであり、電圧のOFF/ONによって光の強度の強弱が制御されることを確認することができる。OFF時のピークのQ値は105である。なお、波数が約2500cm-1以外のところにも弱いピークが存在するが、これはn層112及びp層113の自由キャリア吸収によるものであり、その強度は特許文献1に記載の熱輻射光源よりも弱い。

【0035】
次に、第1孤立部材121及び第2孤立部材122の材料を、上述の電子や正孔がドープされていないGaN(アンドープGaN)の代わりに、n層112と同じ材料(電子がドープされたGaN)とした場合について、同様の計算を行った。この構成は、第1孤立部材121及び第2孤立部材122とn層112を一体で作製した場合に相当する。計算結果を図4に示す。OFF状態ではアンドープGaNの場合と同じ波数に同様の強いピークが存在するのに対して、ON状態では、OFF状態よりは弱いものの、アンドープGaNの場合よりも強いピークが同じ波数に現れる。これは、第1孤立部材121及び第2孤立部材122において自由キャリア吸収による発光が生じることによると考えられる。この結果から、光の強度の強弱をより明確に切り替えるためには、孤立部材には電子又は正孔がドープされていない半導体材料を用いることが望ましいといえる。

【0036】
次に、n層112の厚みをd1nm、p層113の厚みをd2=(300-d1)nm、量子井戸構造体111の厚みを一定(300nm)として、d1が50~250nmの範囲内の異なる複数の場合について計算を行った。計算結果を図5に示す。n層112が厚いほど、すなわち量子井戸構造体111の位置がフォトニック結晶部12から離れてゆくほど、光の出力が弱くなってゆく。特に、d1が150nm以上になると、放射率の低下が顕著になる。

【0037】
(3) 本発明に係る熱輻射光源の他の実施形態
図6に、本発明に係る熱輻射光源の他の実施形態を示す。この熱輻射光源20は、上記と同じ構成の基台11を有する。基台11のn層112側の表面にはフォトニック結晶部22が設けられている。フォトニック結晶部22は、基台11の表面に直方体の棒状の第1孤立部材221及び第2孤立部材222が平行に、交互に配置されて成る。隣接する第1孤立部材221同士、及び隣接する第2孤立部材222同士の間隔(周期長)aは共に3.1μmである。第1孤立部材221の幅W1は0.27a(=約0.84μm)、第2孤立部材222の幅W2は0.18a(=約0.56μm)である。第1孤立部材221及び第2孤立部材222の基台11からの高さはいずれも1.2μmである。第1孤立部材221及び第2孤立部材222の材料は、アンドープGaNである。なお、これらの数値及び材料は一例であって、適宜変更可能である。

【0038】
本実施形態の熱輻射光源20につき、OFF状態とON状態における外部への光の放射率を計算で求めた。この計算の際、第1孤立部材221及び第2孤立部材222は無限長を有するとした。計算は、第1孤立部材221及び第2孤立部材222の幅方向に電界が振動する偏光(「Ex偏光」とする)と、長さ方向に電界が振動する偏光(「Ey偏光」とする)に分けて行った。計算結果を図7に示す。Ex偏光は、OFF状態において波数2500cm-1(波長4nm)付近に強いピークが見られ、ON状態ではこのピークが弱くなっている。OFF状態でのQ値は116であった。それに対してEy偏光は、OFF状態及びON状態のいずれもおいても強いピークは見られなかった。このように、熱輻射光源20では、第1孤立部材221及び第2孤立部材222の幅方向に電界が振動する直線偏光(Ex偏光)の光を生成して外部に放出することができ、その光の強弱を制御することができる。
【符号の説明】
【0039】
10、20…熱輻射光源
11…基台
111…量子井戸構造体
112…n層
113…p層
12、22…フォトニック結晶部
121、221…第1孤立部材
122、222…第2孤立部材
14…電源
15…スイッチ
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6