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明細書 :セルロース及びヘミセルロースを含む組成物を製造する方法、並びにその組成物を用いて糖化を行う方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-039954 (P2018-039954A)
公開日 平成30年3月15日(2018.3.15)
発明の名称または考案の名称 セルロース及びヘミセルロースを含む組成物を製造する方法、並びにその組成物を用いて糖化を行う方法
国際特許分類 C08B  16/00        (2006.01)
C08B  37/00        (2006.01)
C07H   3/02        (2006.01)
C08L   1/02        (2006.01)
C08K   3/30        (2006.01)
FI C08B 16/00
C08B 37/00
C07H 3/02
C08L 1/02
C08K 3/30
請求項の数または発明の数 5
出願形態 OL
全頁数 14
出願番号 特願2016-176865 (P2016-176865)
出願日 平成28年9月9日(2016.9.9)
発明者または考案者 【氏名】渡辺 隆司
【氏名】大橋 康典
【氏名】パンナライ カムデージ
出願人 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110000796、【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 4C057
4C090
4J002
Fターム 4C057AA05
4C057AA30
4C057BB02
4C090AA04
4C090BA24
4C090BA61
4C090BB11
4C090BB15
4C090BC01
4C090CA31
4J002AB011
4J002AB041
4J002AB051
4J002AH002
4J002DG046
4J002FD196
4J002GT00
要約 【課題】
セルロース及びヘミセルロースを含む組成物を高収率で植物原料から得る製造方法を提供する。
【解決手段】
リグノセルロースを含む植物材料を、
一般式:MIMIII(SO4)2・12H2O(式中、MIは1価の陽イオンを表わし、MIIIは3価の金属を表わす)で表わされるミョウバンを含む液体中において加熱することにより、
セルロース及びヘミセルロースを含む固形状組成物と、
リグニンの分解生成物と
を含む混合物を得る工程
を含む、製造方法。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
セルロース及びヘミセルロースを含む組成物を製造する方法であって、
リグノセルロースを含む植物材料を、
一般式:MIMIII(SO4)2・12H2O(式中、MIは1価の陽イオンを表わし、MIIIは3価の金属を表わす)で表わされるミョウバンを含む液体中において加熱することにより、
セルロース及びヘミセルロースを含む固形状組成物と、
リグニンの分解生成物と
を含む混合物を得る工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記加熱を、前記液体を80℃~240℃とすることにより行う、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記加熱を、前記液体にマイクロ波を照射することにより行う、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ミョウバンが、前記一般式中、MIがカリウムであるミョウバンである、請求項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の製造方法により得られたセルロース及びヘミセルロースを含む固形状組成物から、酵素糖化処理により単糖を得る工程を含む、単糖の製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース及びヘミセルロースを含む組成物を製造する方法、及びその組成物から単糖を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境の悪化や化石資源の枯渇の問題が顕在化しており、持続可能な循環型社会のための新たな資源としてバイオマスに注目が集まっている。特に、化学製品やエネルギーを再生可能なバイオマスから得ようとするコンセプトである「バイオリファイナリ」の実現が急務となっている。
【0003】
現在、バイオマス資源として穀物が用いられているが、コスト高や食糧費高騰等の問題から、大規模な普及には至っていない。そこで、木材や稲藁等、植物材料が含有するリグノセルロースを利用するための研究開発が進められている。リグノセルロースとはセルロース、ヘミセルロース等の多糖類及びリグニンから構成される植物性有機物である。セルロースやヘミセルロース等の多糖類から酵素糖化処理によりグルコース、キシロース及びマンノース等の単糖を得ることができ、これらの単糖はさらに液体燃料(バイオエタノール)及び化学品原料等として活用できる。
【0004】
リグノセルロースはセルロース、ヘミセルロース等の多糖類とリグニンとが強固に結合した構造をしている。したがって、セルロースやヘミセルロース等の多糖類を植物材料から効率的に得るためには、リグニンと多糖類との結合を破壊する等の前処理が有効である。
【0005】
このようなリグノセルロースの前処理については、さまざまな方法が開発されている。例えば、銅及び過酸化物を含む水溶液中でリグニンを解重合する方法(特許文献1)、モリブテン酸又は過酸化物を含む水溶液中でリグニンを解重合する方法(特許文献2)、微量のタングステン酸又はモリブデン酸塩触媒を含有する過酸化水素水により木質系バイオマスのリグニンを分解する方法(特許文献3)、古紙等に含まれるリグニンをタングステン酸ソーダ又はモリブデン酸ソーダにより除去し糖化反応を促進させる方法(特許文献4)、有機溶媒とルイス酸との組み合わせにより、脱リグニンを促進させる方法(非特許文献1)等である。
【0006】
また、外部加熱ではなく、マイクロ波照射を利用した内部加熱を用いて糖成分を製造する方法が開発されている。酢酸水溶液中でマイクロ波照射することで前処理を行う方法(非特許文献2)、酸化剤の存在下でマイクロ波の照射を行うことでリグニンの分離、分解を行う方法(特許文献5)、リグノセルロース物質と蒸解液の混合物にマイクロ波を照射することで、蒸解時の脱リグニン速度を向上させる方法(特許文献6)、マイクロ波処理とアルカリ処理とを組み合わせた方法(非特許文献3)等が開示されている。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特表2001-515136号公報
【特許文献2】特開2001-316994号公報
【特許文献3】特開2006-149343号公報
【特許文献4】特開2006-88136号公報
【特許文献5】特開昭60-88191号公報
【特許文献6】特開2004-285531号公報
【0008】

【非特許文献1】青山正和、他3名「含水有機溶媒による木材の脱リグニン」、林産試場報、第5巻第2号、1991年
【非特許文献2】真柄謙吾、他3名「リグノセルロースのマイクロ波照射(第9報)」、木材学会誌、第34巻第5号、1988年
【非特許文献3】Zhu,S.et al., “Pretreatment by microwave/alkali of rice straw and its enzymic hydrolysis”,Process Biochemistry,40(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、従来のリグノセルロースの前処理方法においては、目的物であるセルロース及びヘミセルロースを含む組成物の収率の面で改善の余地があることを見出した。本発明はこの課題を解決するものであり、具体的には、セルロース及びヘミセルロースを含む組成物を高収率で植物原料から得る方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記した課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、植物原料を溶媒中でミョウバン存在下にて加熱することにより、セルロース及びヘミセルロースを含む組成物を高収率で得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、下記の実施形態を含む。
項1.
セルロース及びヘミセルロースを含む組成物を製造する方法であって、
リグノセルロースを含む植物材料を、
一般式:MIMIII(SO4)2・12H2O(式中、MIは1価の陽イオンを表わし、MIIIは3価の金属を表わす)で表わされるミョウバンを含む液体中において加熱することにより、
セルロース及びヘミセルロースを含む固形状組成物と、
リグニンの分解生成物と
を含む混合物を得る工程
を含む、方法。
項2.
前記加熱を、前記液体を80℃~240℃とすることにより行う、項1に記載の製造方法。
項3.
前記加熱を、前記液体にマイクロ波を照射することにより行う、項1又は2に記載の製造方法。
項4.
前記ミョウバンが、前記一般式中、MIがカリウムであるミョウバンである、項1~3のいずれか一項に記載の製造方法。
項5.
項1~4のいずれか一項に記載の製造方法により得られたセルロース及びヘミセルロースを含む固形状組成物から、酵素糖化処理により単糖を得る工程を含む、単糖の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、バイオマスとして有用な、セルロース及びヘミセルロースを含む組成物を、高収率で植物原料から得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】サトウキビバガス前処理パルプのエタノール発酵の評価結果を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、セルロース及びヘミセルロースを含む組成物を製造する方法であって、
(1)リグノセルロースを含む植物材料を、
一般式:MIMIII(SO4)2・12H2O(式中、MIは1価の陽イオンを表わし、MIIIは3価の金属を表わす)で表わされるミョウバンを含む液体中において加熱することにより、
セルロース及びヘミセルロースを含む固形状組成物と、
リグニンの分解生成物と、
を含む混合物を得る工程
を含む、方法に関する。

【0015】
工程(1)
工程(1)においては、リグノセルロースに結合しているリグニンの低分子化、リグニンと多糖との間の結合の切断、多糖結晶構造の変化及びへミセルロースの溶脱等の結果、リグニンの分解生成物と、セルロース及びヘミセルロースを含む固形状組成物とが少なくとも生成する。工程(1)においては、さらに単糖やオリゴ糖等の低分子の糖類が生成することもある。

【0016】
本工程において得られるリグニンの分解生成物は、フェノール類等の芳香族化合物を含む。

【0017】
必要に応じて本発明の方法は、バイオマスとして利用し得る、セルロース及びヘミセルロースを含む固形状組成物を、上記混合物から回収する工程(2)を、工程(1)に加えてさらに備えていてもよい。

【0018】
セルロース及びヘミセルロースは、糖化処理を行うことで、グルコース、キシロース及びマンノース等の単糖を含む、低分子の糖類に変換される。この糖類に対してさらに発酵等の処理を行うことで、液体燃料として利用できるエタノールに加えて、メタン、コハク酸、イタコン酸、乳酸等の有用な化学物質を生産することができる。また、必要に応じて、糖化と発酵とを同時に行うこともできる。

【0019】
また、本工程で得られる単糖は、そのまま糖化処理を行わなくてもエタノール生産のために利用できるなど、それ自体有用である。

【0020】
本工程で得られる、オリゴ糖等のその他の低分子糖類及びリグニンの分解生成物等も、有用化学物質の生産のために利用できる。

【0021】
本工程において用いる原料である植物材料は、少なくともリグノセルロースを含み、さらにリグニン、セルロース、ヘミセルロース等を含み得る植物由来の材料をいう。植物材料は、例えば木材由来のものや草本由来のもの等が挙げられる。木材由来の植物材料としては、スギ、マツ、ヒノキ、イヌマキ、イヌガヤ、セコイア、アスナロ、イチイなどの針葉樹やイチョウを含む裸子植物、ブナ、ケヤキ、ツバキ、ナラ、サクラ、クスノキ、シイ、カエデ、クリ、ユーカリ、アカシア、タケ、スイッチグラス、ネピアグラス等の広葉樹を含む被子植物などから得られたものを用いることができる。また、、コーンストーバー等も用いることができる。なお、針葉樹由来の植物材料に含まれるリグインは主にグアイシルリグニンから構成され、一方で、広葉樹由来の植物材料に含まれるリグニンは主にグアイシルリグニンとシリンギルリグニンとから構成される。草本由来の植物材料としては、サトウキビ残渣であるバガスや、稲藁、麦藁、もみ殻等の草本由来のもの等が挙げられる。

【0022】
本工程において用いる原料である植物材料は、公知の方法を用いて粉末状やチップ状、フレーク状、繊維状、角材状等に加工したものであってもよい。なかでも、反応の効率化という観点から、粉末状、チップ状、フレーク状、又は繊維状に植物材料を加工したものが好ましい。

【0023】
植物材料を粒子状に加工した場合、植物材料の粒径は限定されないが、好ましくは、0.1μm~5mmのものを用いることができる。また、植物材料をチップ状に加工した場合、植物材料の大きさや厚みは限定されないが、好ましくは、大きさは5mm~50mm、厚みは0.1mm~5mmのものを用いることができる。

【0024】
また、糖成分の製造の効率化のため、アルコールとベンゼンとの混合液の還流による脂溶性低分子の除去や、水を混合して加熱することによる水溶性低分子の除去などの前処理による調製を行ったものでもよい。これらの前処理は、糖化処理で高い収率を確保できるのであれば、省略した方が好ましい。前処理後は、植物材料を乾燥させてから本工程に用いてもよく、乾燥させないままで本工程に用いてもよい。

【0025】
本工程において用いるミョウバンは、一般式:MIMIII(SO4)2・12H2O(式中、MIは1価の陽イオンを表わし、MIIIは3価の金属を表わす)で表わされるミョウバンである。なかでもMIがカリウムであるミョウバンが好ましく、MIがカリウムであり、かつMIIIがアルミニウムであるミョウバンがより好ましい。

【0026】
本工程において用いる液体としては、例えば水や有機物等を用いることができる。有機物としては、具体的には、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、オクタノール、ブタンジオール、トリメチロールプロパン、メチルエチルケトン、アセチルアセトン、ジメチルスルホキシド、ニトロベンゼン、テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサン、N,N-ジメチルホルムアミド等が挙げられる。水や有機物等は単体で用いてもよく、水と有機物とを混合して用いてもよい。水と有機物との混合物を用いる場合には、1体積部の水に対し、0.1体積部~10体積部の有機物を混合することが好ましい。また、分散媒は酸やアルカリ等を含むものであってもよい。

【0027】
なかでも、環境に負荷を与えないという観点からは、プロパノールと水との混合物やグリセロールを用いることが好ましい。また、環境負荷低減の観点からは、マイクロ波のエネルギーを、高い効率で熱に変換するものを用いることが好ましい。マイクロ波のエネルギーを熱に変換する効率は、誘電損失を比誘電率で割った値である損失角(タンジェントデルタ)という数値で表される。損失角が大きい有機物としては、エチレングリコール、エタノール、ジメチルスルホキシド、グリセロール、プロパノール、メタノール、ブタノールなどが挙げられ、これらを単体で又は水と混合して用いることで、少ないエネルギーで加熱することができる。

【0028】
植物材料を加熱する際は、例えば、粉末状、チップ状等の植物材料を上記液体中に分散させた分散液を加熱することによって、上記植物材料を加熱することができる。ただし、植物材料の一部は分散媒に溶解している場合もある。ミョウバンは、植物材料を分散させる前に予め液体に溶解させてもよく、植物材料を分散させた後に液体に添加して溶解させてもよい。

【0029】
植物材料と液体との重量比は限定されないが、好ましくは植物材料:液体が1:1~1:100であり、より好ましくは植物材料:液体が1:5~1:20である。液体の量が少なければ加熱速度が速くなるためである。

【0030】
本工程において、ミョウバンの最適な量は植物材料の種類によって異なる。例えば、ブナ由来の植物材料であれば、好ましくは植物材料1gに対し1μmol~1000μmol、より好ましくは植物材料1gに対し60μmol~720μmolであり、さらに好ましくは植物材料1gに対し180μmol~360μmolである。植物材料に対するミョウバンの量が多いと、糖類とリグニンとの分離の効果を十分に得ることができ、一方、植物材料に対するミョウバンの量が少ないと反応後の溶媒の処理が容易になるためである。

【0031】
本工程において、液体のpHは特に限定されず、本発明の効果が得られる範囲内において適宜設定できる。特に限定されないが、アルカリ条件下であれば目的物の収率が向上する傾向があり、好ましい。具体的には、アルカリ性の場合、液体において水酸化金属(MIII(OH)3)が析出する。しかし、高アルカリ性となると、テトラヒドロキシ金属酸イオン[MIII(OH)4-]となり溶解する。テトラヒドロキシ金属酸イオン[MIII(OH)4-]となり溶解するアルカリ条件が好ましい。ミョウバンの種類によっても異なるが、例えば硫酸カリウムアルミニウム十二水和物(AlK(SO4)2・12H2O)の場合、pH12以上が好ましい。

【0032】
本工程における加熱は、液体にマイクロ波を照射することにより行うこともできる。マイクロ波の照射により、植物材料を構成する物質内の荷電粒子や電気双極子に振動電磁場の影響を与え、回転または振動させて内部から自己発熱させて加熱することができる。外部熱源による加熱と異なり、熱伝導や対流の影響をほとんど無視することができ、迅速かつ均一に植物材料を加熱することができる。

【0033】
上記において、マイクロ波とは、電磁波のうち波長の短い部分にあるものをいい、波長約1m以下の電波や遠赤外部に接する1mm以下のサブミリ波も含む。本発明におけるマイクロ波の周波数は、例えば周波数300MHz~30GHzであればよく、好ましくは周波数2000MHz~6000MHzである。また、周波数2450MHzのマイクロ波や、周波数5800MHzのマイクロ波がよく用いられる。しかし、本工程において用いられるマイクロ波は、これら周波数帯に限定されるものではなく、それ以外の周波数のものであってもよい。上記のとおり、マイクロ波を物質に照射すると、被照射物質はマイクロ波に応じて振動し、振動により摩擦熱が発生することで物質自体が発熱する。上記範囲であれば本発明の効果を得ることができるが、被照射物質のサイズ等によって最適なマイクロ波の波長及び周波数は変わる場合があるため、植物材料の産地、構造及び種類等並びに前処理方法に応じてマイクロ波の波長及び周波数を最適化すればよい。

【0034】
本工程により上記液体中の植物材料にマイクロ波を照射する際には、マイクロ波が液体中に分散した植物材料に均一に照射されるように、前記液体はスターラ及び撹拌機等で撹拌されていることが好ましい。

【0035】
本工程によりマイクロ波の照射を行う時間は限定されないが、1分~60分が好ましく。10分~30分がさらに好ましい。反応時間が長ければ糖類とリグニンとを十分に分離することができ、一方、反応時間が短ければ、コストが安くなり、また、有用な化学物質をも分解してしまう可能性が抑えられるためである。

【0036】
本工程における加熱温度は限定されないが、80℃~240℃に植物材料を加熱することが好ましい。また、150℃~180℃に植物材料を加熱することがさらに好ましい。加熱温度が高いと、糖類とリグニンとを十分に分離することができ、一方で加熱温度が低いと、有用な化学物質をも分解してしまうリスクを回避できるためである。本発明においては、糖類が過分解しない程度の温度で、糖類とリグニンとを効果的に分離することが好ましい。また、本発明による反応においては、急速な加熱により所定の反応温度まで短時間で達することが好ましい。加熱が急速であれば、低い反応温度で生成される副産物が少なくなるためである。

【0037】
工程(2)
また、本発明は、工程(1)により得られた混合物から、固形状多糖類を回収する工程を含みうる。上記のように、工程(1)において得られる混合物は、少なくとも、液体に溶解乃至分散したリグニンの分解生成物と、セルロース、ヘミセルロース等からなる固形状多糖類を含む糖成分と、を含む混合物である。本工程により、かかる混合物から、糖化処理に供することのできるセルロース、ヘミセルロース等からなる固形状多糖類を、不溶性画分として回収することができる。不溶性画分には、固形状多糖類の他に、工程(1)で分解できなかった残存リグニンが含まれる場合がある。なお、上記混合物に含まれ得るリグニンの分解生成物や、低分子の糖類も、有用な化学物質の生産に用いられる。

【0038】
本工程では、公知の固液分離法、すなわち、濾過、遠心等の手法を用いて、固形状多糖類を回収することができる。濾過では、工程(1)において得られた混合物を多孔質の濾材に通し、孔を通過できない固形状多糖類を分散媒から抽出する。濾材としては、濾紙、ガラス繊維フィルタ、メンブランフィルタ、濾過板等を用いることができる。濾過、遠心ともに、バッチ式又は連続式のいずれであってもよい。

【0039】
本工程において用いることのできる濾材は、得られる固形状多糖類が確実に捕捉できるような孔径を選択すればよい。例えば1μm~50μmの粒子を保留するものを用いることができる。また、濾過速度を向上させるため、減圧、加圧、遠心等の圧力をかけて濾過を行ってもよい。

【0040】
本工程で抽出された固形状多糖類は、糖化処理により低分子の糖に変換することができる。糖化処理には、セルラーゼ等の酵素を用いることができる。また、酸による分解によって糖化処理を行うこともできる。ここで使用する酸としては、特に限定されないが、例えば、酸としては、硫酸、塩酸、リン酸、マレイン酸、ギ酸、酢酸及びトリフルオロ酢酸等が挙げられる。ここで得られた低分子の糖は、微生物を利用して発酵等の処理を施すことで、エタノール、メタン、コハク酸、イタコン酸、乳酸等の有用な化合物を得ることができる。また、固形状多糖類を抽出した後の混合物に含まれるリグニンの分解生成物からも、芳香族化合物等の有用な化学物質等を得ることが可能である。

【0041】
本工程により固形状多糖類を抽出しなくても、固形状多糖類やリグニンの分解生成物等が混合した状態においても固形状多糖類の糖化処理を行うことも可能である。この場合、糖化処理後に得られる糖化混合物は、リグニンの分解生成物と低分子の糖類とを含む状態にある。そのため、そのまま発酵の原料として利用してもよいし、クロマトグラフィ等の方法によりリグニンの分解生成物と低分子の糖類とを分離してそれぞれ利用してもよい。
【実施例】
【0042】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0043】
[実施例1]
マイクロ波反応用20ml容のガラスバイアルに、サトウキビバガス(0.4 g)、ミョウバン(0-480 μM/gバイオマス)と50% の2-プロパノール中を、バイオマスと溶媒が1:30になるよう加え、マイクロ波照射装置 Initiator+Sixty(バイオタージ・ジャパン)を用いて、900 rpm で攪拌しながら2.45GHzのマイクロ波を照射し、180℃で30分反応させた。反応物を室温まで放冷した後濾紙を用いて濾過し、可溶性画分と不溶性のパルプ画分に分離した。パルプ画分はアセトンで洗浄後、蒸留水で3回洗浄した。分離した不溶性画分は、セルラーゼで酵素糖化し、糖化後生成した還元糖をDNS法で定量した。可溶性画分は、溶媒を分離した後、50 mM 酢酸緩衝液 (pH 4.5) 中、40 FPU / g 基質のTrichoderma viride由来のセルラーゼで45℃、48時間酵素糖化し、糖化後生成した還元糖をDNS法で定量した。定量結果を表1にしめす。
触媒を使用しない他は同様にして試験を行った。結果を合わせて表1に示す(比較例1)。
【実施例】
【0044】
【表1】
JP2018039954A_000002t.gif
【実施例】
【0045】
[実施例2]
マイクロ波反応用20ml容のガラスバイアルに、サトウキビバガス(0.4 g)、ミョウバン(360 μM/gバイオマス)と水分含量の異なる2-プロパノールあるいはグリセロール中、バイオマスと溶媒が1:30になるよう加え、マイクロ波照射装置 Initiator+Sixty(バイオタージ・ジャパン)を用いて、900 rpm で攪拌しながら2.45GHzのマイクロ波を照射し、180℃で30分反応させた。2-プロパノール溶液は、80wt%、70wt%、50wt%、30wt%で2-プロパノールを含む水溶液を使用した。グリセロール溶液は、100%、90wt%、70wt%、50wt%、30wt%でグリセロールを含む水溶液を使用した。反応物を室温まで放冷した後濾紙を用いて濾過し、可溶性画分と不溶性のパルプ画分に分離した。パルプ画分はアセトンで洗浄後、蒸留水で3回洗浄した。分離した不溶性画分は、セルラーゼで酵素糖化し、糖化後生成した還元糖をDNS法で定量した。可溶性画分は、溶媒を分離した後、50 mM 酢酸緩衝液 (pH 4.5) 中、40 FPU / g 基質のTrichoderma viride由来のセルラーゼで45℃、48時間酵素糖化し、糖化後生成した還元糖をDNS法で定量した。定量結果を表2にしめす。
【実施例】
【0046】
【表2】
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【実施例】
【0047】
[実施例3]
マイクロ波反応用20ml容のガラスバイアルに、木材(1.0 g)、触媒(0-180 μM/gバイオマス)と50% の2-プロパノール中を、バイオマスと溶媒が1:20になるよう加え、マイクロ波照射装置 Initiator+Sixty(バイオタージ・ジャパン)を用いて、900 rpm で攪拌しながら2.45GHzのマイクロ波を照射し、160℃あるいは180℃で30分反応させた。木材としては、スギ、ファルカタリア、ユーカリ材の木粉を用いた。触媒としては、硫酸アルミニウム (Al2(SO4)3) (比較例2)あるいは、ミョウバン( AlK(SO4)2)を使用した。反応物を室温まで放冷した後濾紙を用いて濾過し、可溶性画分と不溶性のパルプ画分に分離した。パルプ画分はアセトンで洗浄後、蒸留水で3回洗浄した。分離した不溶性画分は、50 mM 酢酸緩衝液 (pH 4.5) 中、40 FPU / g 基質のTrichoderma viride由来のセルラーゼで45℃、48時間酵素糖化し、糖化後生成した還元糖をDNS法で定量した。可溶性画分は、溶媒を分離した後、セルラーゼで酵素糖化し、糖化後生成した還元糖をDNS法で定量した。定量結果を表3にしめす。
触媒を使用しない他は同様にして試験を行った。結果を合わせて表3に示す(比較例3)。
【実施例】
【0048】
【表3】
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【実施例】
【0049】
[実施例4]
マイクロ波反応用20ml容のガラスバイアルに、木材(1.0 g)、ミョウバン(0-180 μM/gバイオマス)とグリセロール中、バイオマスと溶媒が1:20になるよう加え、マイクロ波照射装置 Initiator+Sixty(バイオタージ・ジャパン)を用いて、900 rpm で攪拌しながら2.45GHzのマイクロ波を照射し、160℃あるいは180℃で30分反応させた。木材としては、スギ、ファルカタリア、ユーカリ材の木粉を用いた。触媒としては、硫酸アルミニウム (Al2(SO4)3) (比較例4)あるいは、ミョウバン( AlK(SO4)2)を使用した。反応物を室温まで放冷した後濾紙を用いて濾過し、可溶性画分と不溶性のパルプ画分に分離した。パルプ画分はアセトンで洗浄後、蒸留水で3回洗浄した。分離した不溶性画分は、セルラーゼで酵素糖化し、糖化後生成した還元糖をDNS法で定量した。可溶性画分は、溶媒を分離した後、50 mM 酢酸緩衝液 (pH 4.5) 中、40 FPU / g 基質のTrichoderma viride由来のセルラーゼで45℃、48時間酵素糖化し、糖化後生成した還元糖をDNS法で定量した。定量結果を表4にしめす。
触媒を使用しない他は同様にして試験を行った。結果を合わせて表4に示す(比較例5)。
【実施例】
【0050】
【表4】
JP2018039954A_000005t.gif
【実施例】
【0051】
[実施例5]
1Lのステンレス製マイクロ波反応装置に、サトウキビバガス(45 g)、ミョウバン(360 μM/gバイオマス)と70%グリセロールをバイオマスと溶媒が1:20の比率になるよう加え、攪拌しながら2.45GHzのマイクロ波を照射し、180℃で30分反応させた。反応物を室温まで放冷した後、濾紙を用いて濾過し、可溶性画分と不溶性のパルプ画分に分離した。パルプ画分はアセトンで洗浄後、蒸留水で3回洗浄した。分離した不溶性画分は、50 mMコハク酸緩衝液(pH 5.0)中、Trichoderma reesei由来の11 FPU / g 基質のセルラーゼで50℃、48時間酵素糖化し、糖化後生成した還元糖をDNS法で定量した。定量結果を表1にしめす。得られたパルプを糖源として、2Lのジャーファーメンター中、アルコール生産菌Zymomonas mobilisを用いて並行複発酵(SSF)によりエタノールを生産した。即ち、乾燥重量100g相当の前処理パルプに10 mlの5%ポリエチレングリコールと Trichoderma reesei由来の11 FPU / g 基質のセルラーゼを加え、50 mMコハク酸緩衝液(pH 5.0)中、150 rpm で攪拌しながら、50℃で48時間酵素糖化した。この糖化液を35℃に温度を下げるとともにpHを5.5に調整し、Zymomonas mobilisの種菌120 mlと1.2 ml の100 mg/mlクロラムフェニコール溶液を加えて100 rpmで攪拌しながらエタノール発酵を行った。発酵液は、経時的にサンプリングしてグルコース濃度とエタノール濃度を測定した(図1)。
図面
【図1】
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