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明細書 :参照電極用素子及びイオンセンサ装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6778109号 (P6778109)
登録日 令和2年10月13日(2020.10.13)
発行日 令和2年10月28日(2020.10.28)
発明の名称または考案の名称 参照電極用素子及びイオンセンサ装置
国際特許分類 G01N  27/333       (2006.01)
G01N  27/30        (2006.01)
G01N  27/416       (2006.01)
G01N  27/414       (2006.01)
FI G01N 27/333 331C
G01N 27/30 311Z
G01N 27/416 353Z
G01N 27/414 301A
G01N 27/414 301R
G01N 27/414 301X
G01N 27/416 351B
G01N 27/416 351K
G01N 27/333 331N
請求項の数または発明の数 9
全頁数 14
出願番号 特願2016-546636 (P2016-546636)
出願日 平成27年8月31日(2015.8.31)
国際出願番号 PCT/JP2015/074691
国際公開番号 WO2016/035752
国際公開日 平成28年3月10日(2016.3.10)
優先権出願番号 2014178565
優先日 平成26年9月2日(2014.9.2)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 平成30年6月12日(2018.6.12)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
発明者または考案者 【氏名】辻井 敬亘
【氏名】ベグ スンチョル
【氏名】澤田 和明
【氏名】太齋 文博
【氏名】奥村 弘一
【氏名】服部 敏明
個別代理人の代理人 【識別番号】110000796、【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
審査官 【審査官】櫃本 研太郎
参考文献・文献 国際公開第2005/108451(WO,A1)
特表2009-509175(JP,A)
特表2012-507371(JP,A)
特表2010-513869(JP,A)
特開2003-279532(JP,A)
特開2008-060540(JP,A)
CHOVELON, J. M. et al.,Sensitization of dielectric surfaces by chemical grafting:application to pH ISFETs and REFETs,Sensors and Actuators B,ELSEVIER SEQUOIA S.A.,1992年,Vol.B8, No.1,pp.221-225
清水 一輝 ほか,PMMA濃厚ブラシを用いたpH不感応デバイスの開発,電子情報通信学会技術研究報告,電子情報通信学会,2015年 7月27日,Vol.115, No.170,pp.1-4
RADHI, Muhammed Mizher,Electrochemical Characterization of the redox couple of Fe(III)/Fe(II) mediated by grafted poylymer,Research on Chemical Intermediates,2014年 5月,Vol.40, No.5,p.1975-1987,ISSN 0922-6168, 特にAbstract
CHANG, Kow-Ming et al.,Development of FET-Type Reference Electrodes for pH-ISFET Applications,Journal of the Electrochemical Society,2010年,Vol.157, No.5,p.J143-J148,特に第1頁左欄
調査した分野 G01N 27/26-27/49
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
特許請求の範囲 【請求項1】
(A)イオンセンシング素子、並びに、
(B)(i)基材及び
(ii)前記基材の表面に、重合性官能基を有するモノマーが重合してなる高分子グラフト鎖からなるポリマーブラシ層を有する機能性膜を備えた、参照電極用素子であって、該参照電極用素子の表面に前記機能性膜を有する参照電極用素子を備えた、イオンセンサ装置。
【請求項2】
前記モノマーが、疎水性モノマーである、請求項1に記載のイオンセンサ装置。
【請求項3】
前記モノマーが、(メタ)アクリレート系モノマー又はスチレン誘導体である、請求項2に記載のイオンセンサ装置。
【請求項4】
前記モノマーが、メタクリル酸メチル又はスチレンである請求項3に記載のイオンセンサ装置。
【請求項5】
ポリマーブラシ層の厚さが、10nm~1μmである、請求項1~4のいずれか1項に記載のイオンセンサ装置。
【請求項6】
高分子グラフト鎖の重量平均分子量が、1000~300,000である請求項1~5のいずれか1項に記載のイオンセンサ装置。
【請求項7】
高分子グラフト鎖の分子量分布指数(PDI)が、1.5以下である請求項1~6のいずれか1項に記載のイオンセンサ装置。
【請求項8】
複数のイオンセンシング素子が、センサアレイを構成する、請求項1~7のいずれか1項に記載のイオンセンサ装置。
【請求項9】
センサアレイを構成する素子の1又は複数が、前記参照電極用素子である、請求項8に記載のイオンセンサ装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、参照電極用素子及びイオンセンサ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高い精度でイオン濃度を測定することができるイオンセンサが提案されている(特許文献1)。また、関連技術が特許文献2~4に開示されている。
【0003】
一般に、pHセンサなどのイオンセンサにおいては、参照電極を測定対象の試料に接触させて、その電位を安定させている。
【0004】
医療、生化学分野などの正確な測定値が要求される場合は、参照電極にガラス電極が採用される。ガラス電極は試料の電極を安定させ、pHの測定精度を向上させる点では極めて有用である。しかし、ガラス参照電極は、筺体にガラスを使用するため、破損しやすく、破損が生じると内部の塩化カリウムが漏出する。また、ガラスが破損に至らなくても液絡部から塩化カリウムが漏出する。この塩化カリウムは細胞に悪影響を与えるので、医療・生化学分野の試料に対して用いるときにはその取扱いに十分な注意を要する。また、ガラス製の筺体を有するガラス参照電極は小型化が困難であり、この点からpHセンサアレイの用途を制限するおそれがある。
【0005】
他方、Pt又はAg/AgClなどの単体を参照電極に使用すれば、破損のおそれもないし、また参照電極自体を小型化することも容易である。しかしながら、かかる参照電極では試料の電位に揺ぎが生じ、測定精度の信頼性が不十分である。
【0006】
特許文献4には、複数のイオンセンシング素子の間での応答特性の差異に着目した、ガラス参照電極を用いることなく、pHを特定するための方法及びその装置並びにイオン濃度を特定する方法が開示されている。斯かる発明においては、所定の演算行うことを特徴としている。
【0007】
近年、表面修飾法の一つとして、表面開始によるリビング・グラフト重合による高分子グラフト鎖からなるポリマーブラシ層の形成が、技術的に確立されている。例えば、ポリマーブラシ層を備える複合粒子を使用した、電気化学デバイスが提案されている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【0008】

【特許文献1】特開2009-236502号公報
【特許文献2】特開2002-98667号公報
【特許文献3】国際公開WO2006/095903号
【特許文献4】国際公開WO2014/109314号
【特許文献5】国際公開WO2011/049113号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、主に、参照電極用素子及びイオンセンサ装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、基材の表面に重合性官能基を有するモノマーが重合してなる高分子グラフト鎖からなるポリマーブラシ層を備える機能性膜は、測定対象のイオン濃度に関わらずほぼ一定の出力をすることを見出した。本発明は、斯かる発見にさらに検討を重ねて、発明をするに至ったものである。
【0011】
すなわち、本発明は下記の態様を包含する。
【0012】
項1、基材の表面に重合性官能基を有するモノマーが重合してなる高分子グラフト鎖からなるポリマーブラシ層を備える機能性膜を備えた、参照電極用素子。
【0013】
項2、前記モノマーが、疎水性モノマーである、項1に記載の参照電極用素子。
【0014】
項3、前記モノマーが、(メタ)アクリレート系モノマー又はスチレン誘導体である、項2に記載の参照電極用素子。
【0015】
項4、前記モノマーが、メタクリル酸メチル又はスチレンである項3に記載の参照電極用素子。
【0016】
項5、ポリマーブラシ層の厚さが、1nm~1μmである、項1~4のいずれか1項に記載の参照電極用素子。
【0017】
項6、イオンセンシング素子、及び、項1~5のいずれか1項に記載の参照電極用素子を備えた、イオンセンサ装置。
【0018】
項7、複数のイオンセンシング素子が、センサアレイを構成する、項6に記載のイオンセンサ装置。
【0019】
項8、センサアレイを構成する素子の1又は複数が、項1~5のいずれか1項に記載の参照電極用素子である、請求項7に記載のイオンセンサ装置。
【0020】
本発明は、以下の態様をも包含する。
【0021】
項A、基材の表面に重合性官能基を有するモノマーが重合してなる高分子グラフト鎖からなるポリマーブラシ層を備える、機能性膜。
【0022】
項B、前記モノマーが、疎水性モノマーである、項Aに記載の機能性膜。
【0023】
項C、前記モノマーが、(メタ)アクリレート系モノマー又はスチレン誘導体である、項Bに記載の機能性膜。
【0024】
項D、前記モノマーが、メタクリル酸メチル又はスチレンである項Cに記載の機能性膜。
【0025】
項E、ポリマーブラシ層の厚さが、1nm~1μmである、項A~Dのいずれか1項に記載の機能性膜。
【発明の効果】
【0026】
本発明により、参照電極用素子及びイオンセンサ装置に係る新規な発明が提供される。本発明の機能性膜を備えた参照電極用素子は、従来から知られているガラス参照電極を使用する参照電極等に換えて使用をすることができ、従来品と比べて、イオンセンサ装置の小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】イオンセンシング用素子の例を示す。
【図2】(A)イオンセンシング用素子と、(B)本発明の参照電極用素子との構造差異を示す。
【図3】センサアレイの概念図を示す。
【図4】センサアレイを備えたイオンセンサ装置の構成の例を示す。
【図5】膜厚20nmのPMMA、P(PEGMA)及びP(DEMM-TFSI)の電位応答の測定結果を示す。Si3N4膜を参照電極とした。
【図6】膜厚11.6、19.6及び56.6nmのPMMAの、pH4.01、6.86及び9.18の溶液に対する電圧出力の測定結果を示す。膜厚11.6、19.6及び56.6nmのPMMAからなるポリマーブラシ層(PMMA brush)を備えたイオンセンシング素子は、平均出力(Average Output)が0.60±0.04(7.4%)であり、pH及び厚さに関わらず、一定の出力をする。一方、ポリマーブラシ層(PMMA brush)を有さないイオンセンシング素子(Without the brush)は、pH4.01(出力:0.81V)とpH9.18(0.37V)との出力差ΔV=0.44V (54%)であった。
【発明を実施するための形態】
【0028】
機能性膜
本発明の機能性膜は、該機能性膜の基材の表面に重合性官能基を有するモノマーが重合してなる高分子グラフト鎖からなるポリマーブラシ層を備える。

【0029】
本発明の機能性膜は、例えば、後述の参照電極用素子を構成するものとして使用することができる。

【0030】
基材
機能性の基材は、イオンセンシング素子においてイオン濃度に応じてポテンシャルの変化を生じることができる、イオン感応性の基材であれば、特に限定されるものではない。

【0031】
ここで、本明細書において、イオンセンサが測定の対象とするイオンは、水素イオン(プロトン)、ナトリウム、カリウム、リチウム、ルビジウム、セシウム、マグネシウム、カルシウムなどの金属イオンを包含する。好ましい測定対象は水素イオンであるが、これに限定されるものではない。

【0032】
このような基材の一例として、Siなどの無機、金属系材料が挙げられる。

【0033】
ポリマーブラシ層
本発明の機能性膜は、重合性官能基を有するモノマーが重合してなる高分子グラフト鎖からなるポリマーブラシ層を備える。

【0034】
ここで、「高分子グラフト鎖」は、モノマー単独のホモポリマーに限定されず、種類の異なる複数のモノマーのランダムコポリマーやブロックコポリマーをも包含する。

【0035】
「ポリマーブラシ層」とは、多数の高分子グラフト鎖が高密度で表面に垂直方向に異方的な形態を有する状態、機能性膜の基材の表面に結合している際の当該高分子グラフト層を指す。

【0036】
上記高分子グラフト鎖は、単独モノマーのホモポリマー、種類の異なる複数のモノマーのランダムコポリマーやブロックコポリマーからなる。ポリマーブラシ層を形成する際、リビングラジカル重合により形成することが好適であるので、当該重合官能基はラジカル重合性官能基であることが好適である。特にアクリル基、メタクリロイル基が好ましい。

【0037】
ポリマーブラシ層を形成するための好ましいモノマーとしては、下記の疎水性の(メタ)アクリレート系(メタクリレート系及びアクリレート系)モノマー、スチレン誘導体が例示される:
メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、t-ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、n-オクチルメタクリレート、2-メトキシエチルメタクリレート、ブトキシエチルメタクリレート、メトキシテトラエチレングリコールメタクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルメタクリレートなどの、メタクリレート系モノマー。特に、アルキル又はシクロアルキルメタクリレート。

【0038】
メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、ベンジルアクリレート、グリシジルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、n-オクチルアクリレート、2-メトキシエチルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、メトキシテトラエチレングリコールアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレートなどのアクリル系モノマー。特に、アルキル又はシクロアルキルアクリレート。

【0039】
スチレン、o-、m-、p-メトキシスチレン、o-、m-、p-t-ブトキシスチレン、o-、m-、p-クロロメチルスチレン、o-、m-、p-クロロスチレンなどのスチレン誘導体。

【0040】
上記以外にも、下記のモノマーを使用することもできる。

【0041】
ジエチレングリコールメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、2-イソシアノエチルメタクリレート、2-(アセトアセトキシ)エチルメタクリレート、2-(リン酸)エチルメタクリレート(2-(Methacryloyloxy)ethylphosphate)、トリアルコキシシリルプロピルメタクリレート、ジアルコキシメチルシリルプロピルメタクリレートなどの、その他のメタクリレート系モノマー。さらに、メタクリル酸またはそのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩もしくはアミン塩。

【0042】
2-(N,N-ジエチル-N-メチルアミノ)エチルメタクリレート/トリフルオロスルホニルイミニウム(N(CFSO)塩、2-(N-エチル-N-メチル-N-水素化アミノ)エチルメタクリレート/トリフルオロスルホニルイミニウム(N(CFSO)塩、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムメタクリレート/フルオロハイドロジェネーション((FH))塩、N-エチル-N-メチルピロリジニウムメタクリレート/フルオロハイドロジェネーション((FH))塩などのイオン液体性のメタクリレート。

【0043】
ジエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、2-(ジメチルアミノ)エチルアクリレート、2-イソシアノエチルアクリレート、2-(アセトアセトキシ)エチルアクリレート、2-(リン酸)エチルアクリレート(2-(acryloyloxy)ethylphosphate)、トリアルコキシシリルプロピルアクリレート、ジアルコキシメチルシリルプロピルアクリレートなどのその他のアクリル系モノマー。さらには、アクリル酸またはそのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩もしくはアミン塩。

【0044】
2-(N,N-ジエチル-N-メチルアミノ)エチルアクリレート/トリフルオロスルホニルイミニウム(N(CFSO)塩、2-(N-エチル-N-メチル-N-水素化アミノ)エチルアクリレート/トリフルオロスルホニルイミニウム(N(CFSO)塩、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアクリレート/フルオロハイドロジェネーション((FH))塩、N-エチル-N-メチルピロリジニウムアクリレート/フルオロハイドロジェネーション((FH))塩などのイオン液体性のアクリレート。

【0045】
o-、m-、p-スチレンスルホン酸、o-、m-、p-アミノスチレンなどのその他のスチレン誘導体。

【0046】
ビニルエステル類(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニル、酢酸ビニル)、ビニルピリジン類(例えば、2-、3-、4-ビニルピリジン)、上記以外のスチレン誘導体(例えば、α-メチルスチレン)、ビニルケトン類(例えば、ビニルメチルケトン、ビニルヘキシルケトン、メチルイソプロペニルケトン)、N-ビニル化合物(例えば、N-ビニルピロリドン、N-ビニルピロール、N-ビニルカルバゾール、N-ビニルインドール)、(メタ)アクリルアミドおよびその誘導体(例えば、N-イソプロピルアクリルアミド、N-イソプロピルメタクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド)、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、マレイン酸およびその誘導体(例えば、無水マレイン酸)、ハロゲン化ビニル類(例えば、塩化ビニル、塩化ビニリデン、テトラクロロエチレン、ヘキサクロロプロピレン、フッ化ビニル)、オレフィン類(例えば、エチレン、プロピレン、1-ヘキセン、シクロヘキセン)なども使用することができる。

【0047】
上記の中でも、メタクリル酸メチル及びスチレンが特に好ましい例として挙げられるが、これに限定されるものではない。

【0048】
高分子グラフト鎖の重量平均分子量は、特に限定されない。高分子グラフト鎖の重量平均分子量は、1000~300,000が好適であり、2000~100,000がより好適であり、4000~70,000が更に好適である。

【0049】
高分子グラフト鎖の分子量分布指数(polydispersity index; PDI)(重量平均分子量/数平均分子量)は、膜の均一性ひいては要求特性の向上という観点では1.5以下であることが好適であり、1.3以下であることがより好適であり、1.2以下であることがさらに好適である。

【0050】
高分子グラフト鎖は、結合基部を介して、機能性膜の基材と結合するものとすることができる。結合基部の原料となる化合物は、機能性膜の基材に結合する基と後述するリビングラジカル重合のための重合開始基とを有する化合物である。例えば、Siからなる機能性膜の基材の場合、当該原料化合物の一例は、例えば、以下の式:

【0051】
【化1】
JP0006778109B2_000002t.gif

【0052】
(式中、スペーサー鎖長nは、3~10の整数であることが好ましく、4~8の整数がより好ましく、6が最も好ましい;Rは、C1~C3アルキルであることが好ましく、C1又はC2アルキルがより好ましい;Rは、C1又はC2アルキルであることが好ましい;Xは、ハロゲン原子が好ましく、特にBrが好ましい)で表される、重合開始基含有シランカップリング剤である。

【0053】
当該重合開始基含有シランカップリング剤は、例えばWO2006/087839に記載された方法に従い製造可能である。代表的な重合開始基含有シランカップリング剤には、例えば(2-ブロモ-2-メチル)プロピオニルオキシヘキシルトリエトキシシラン(BHE)等が挙げられる。尚、グラフト密度調整の観点から、重合開始基含有シランカップリング剤に加え、重合開始基を含有しないシランカップリング剤(例えば、一般に使用されるアルキルシランカップリング剤)を使用することができる。なお、機能性膜の基材自体が既に重合開始部位を有している等の場合(例えば、元々有している場合や、プラズマ処理等により表面処理された結果として形成された場合)には、結合基部は存在していなくともよい(機能性膜の基材が結合基部を有しているともいえる)。

【0054】
本発明の機能性膜は、高分子グラフト鎖がその基材の表面上に結合基を介して超高密度で結合している(ブラシ状)。ここで、機能性膜表面上のグラフト鎖の表面占有率は、0.01(数%)以上の高密度であることが好ましく、より好ましくは0.05(5%)以上であり、更により好ましくは0.1(10%)以上である。

【0055】
表面占有率(σ)は、下記式(1)で表されるように、グラフト密度(σ)にグラフ
ト鎖部分の単量体の断面積を乗じた値である。グラフト鎖も一定の幅を持っているため、それぞれのグラフト鎖はグラフト鎖を中心軸とした円柱と捉えることができる。グラフト密度はグラフトポリマー側部表面の単位面積におけるグラフト鎖の数を示すため、表面占有率は、グラフト鎖を主鎖から垂直方向に直線上に伸ばした状態で、グラフトポリマー側部表面に対して、グラフト鎖の先端部が占める割合を表す値である。表面占有率は、0より大きく、数値が大きくなる程、グラフト鎖の先端部が側部表面に対して占める割合は大きくなる。そのため、表面占有率は、グラフト鎖の自由度を反映する数値であると考えられる。表面占有率が高いことにより、グラフト鎖の構造上の自由度が制限され、グラフト鎖が主鎖に対して、略垂直方向に延びた状態を維持できると考えられる。グラフト鎖が主鎖に対して、略垂直方向に延びることで、グラフトポリマーの外表側面はグラフト鎖が主鎖に対して垂直に立った構造を取りやすくなり、その構造に特有の性質を示すと推測される。

【0056】
表面占有率(σ)とは、下記式(1):

【0057】
【数1】
JP0006778109B2_000003t.gif

【0058】
(式中、σは下記式(2):

【0059】
【数2】
JP0006778109B2_000004t.gif

【0060】
より求められるグラフト密度[鎖/nm]を示す。グラフト鎖部分の単量体1個当たりの体積(v[nm])は、下記式(3):

【0061】
【数3】
JP0006778109B2_000005t.gif

【0062】
より求められる。)
により導き出される数値である。

ポリマーブラシ層の厚さは特に限定されるものではない。ポリマーブラシ層の厚さを通常1nmから1μm程度、好ましくは5~100nm程度、より好ましくは10~60nm程度とすることができる。なお、当該膜厚は、乾燥時の膜厚を意味する。

【0063】
本発明の機能性膜は、重合性官能基を有するモノマーが重合してなる高分子グラフト鎖からなるポリマーブラシ層を備えることで、イオン濃度に関わらず、一定のポテンシャルの変化を生じることができる。斯かる効果は、ポリマーブラシ層が高い遮蔽性の効果を発揮し、溶媒(例えば、水)及び溶媒中のイオンと、機能性膜の基材との接触を遮蔽するためと推測される。ただし、本発明はこの推測に束縛されるものではない。

【0064】
製造方法
本発明の機能性膜は、公知の手法に基づき作成することができる。例えば、下記の工程を含む手法により本発明の機能性膜を製造をすることができる:
結合基部の原料となる化合物と機能性膜膜の基材とを反応させて、重合開始基を基材表面に形成させる第一工程;及び
表面に重合開始基を有する基材とモノマーとをリビングラジカル重合条件下で接触させて、高分子グラフト鎖が超高密度で機能性膜の基材に結合した機能性膜を得る第二工程。

【0065】
以下、各工程を詳述する。

【0066】
第一工程
第一工程は、周知の手法により実施できる。例えば、機能性膜の基材として無機、金属系材料(例えば、Si)を使用し、結合基部の原料となる化合物として重合開始基含有シランカップリング剤を使用した場合、水の存在下でシランカップリング剤を加水分解させてシラノールとし、部分的に縮合させてオリゴマー状態とする。この状態で、基材表面に水素結合的に吸着させた後、無機、金属系材料を乾燥処理することで脱水縮合反応を起こさせ、重合開始基を基材表面上に形成させる。

【0067】
ここで、基材表面上のグラフト密度は、重合開始基含有シランカップリング剤と重合開始基を含有しないシランカップリング剤との割合を調整することで、自在に変更することができる。シランカップリング剤のうちすべてが重合開始基含有シランカップリング剤である場合、以下の重合後に10%を超える表面占有率を達成できる。

【0068】
第二工程
第二工程は、リビングラジカル重合条件下でモノマー原料(例えば、疎水性重合性モノマーなど)を重合させることにより実施する。なお、モノマーの種類は、1種を単独で、または、2種以上の複数を組み合わせ使用することができる、ここで、リビングラジカル重合とは、連鎖移動反応及び停止反応のない、又は無視できるほど小さい重合反応では、重合反応終了後でも生成重合体の末端に重合活性を保持しており、モノマーを加えると再び重合反応を開始させることができるような重合を意味する。リビングラジカル重合の特徴としては、モノマーと重合開始剤との濃度比を調節することにより任意の平均分子量をもつ重合体の合成ができること、また、生成する重合体の分子量分布が極めて狭いこと、ブロック共重合体へ応用できること、等が挙げられる。尚、「リビングラジカル重合条件下」とは、基材の表面上に設けた重合開始基を基点とするリビングラジカル重合が確実にかつ良好に進行するために当業者が適宜選択した重合条件を採用することを意味する。

【0069】
ここで、グラフト鎖を形成する際には、特に、原子移動ラジカル重合法(ATRP)、可逆移動触媒重合法(RTCP)により重合することが好ましい。原子移動ラジカル重合法に使用される触媒は、特に限定されない。原子移動ラジカル重合法に使用される触媒の具体例として、塩化銅(I)等の一価の銅触媒と、前記銅触媒に対して1モル当量のビピリジン(bpy)等の二座の配位子との組合せが挙げられる。更に、前記組合せに、二塩化銅(II)を加えることが好ましい。この方法によると、狭い分子量分布指数(例えば1.3未満)を保持したまま、重合率に比例して数平均分子量Mnを容易に増大させることができる結果、分子量の制御されたポリマーの合成や数千から数十万の分子量範囲での分子量制御が可能となる。可逆移動触媒重合法に使用される触媒は、特に限定されない。可逆移動触媒重合法に使用される触媒の具体例として、1,4-シクロヘキサジエンなどの炭素触媒とラジカル発生剤との組合せが挙げられる。この方法によれば、特に優れたアミノ基耐性を発揮する。

【0070】
上記得られた機能性膜は、適宜洗浄、乾燥等により、夾雑物(未反応原料、副生成物、溶媒等)を、除去することができる。

【0071】
参照電極用素子
本発明の参照電極用素子は、上記機能性膜を備えるものであれば、その他の構造は特に限定されるものではない。

【0072】
参照電極用素子の構成は、一例として、本発明の機能性膜(濃厚ブラシ膜)を備える以外は、特許文献1に記載の電荷集積型のイオンセンサのセンシング部(イオンセンシング用素子)に準じた構成とすることができる。斯かるイオンセンサの一例を、図1に示す。

【0073】
図2に、本発明の参照電極用素子と、通常のイオンセンシング用素子との構造差異を示す。

【0074】
すなわち、本発明の1つの態様においては、センシング部(図1において、2に対応)はp型化されたシリコン基板表面を備えて、電荷供給部(図1において、3に対応)はシリコン基板へn型不純物をドープして形成される。電荷蓄積部(図1において、5に対応)もシリコン基板へn型不純物をドープして形成される。シリコン基板表面の上にはシリコン酸化膜(SiO膜)からなる絶縁膜(図1において、7に対応)を介して、基材(図1において、8に対応)がSiからなり、その表面に重合性官能基を有するモノマーが重合してなる高分子グラフト鎖からなるポリマーブラシ層を表面に備える機能性膜が積層されている。

【0075】
本発明の参照電極用素子は、上記の本発明の機能性膜が発揮するイオン濃度に関わらず、一定のポテンシャルの変化を生じることができるとの特異な効果を有するイオンセンシング素子である。このような効果に基づき、イオンセンサ装置の参照電極として用いることができる。

【0076】
イオンセンサ装置
本発明のイオンセンサ装置は、イオンセンシング用素子(ポリマーブラシ層を有さない)と上記参照電極用素子(ポリマーブラシ層を有する)とを備えるものであれば、その他の構造は特に限定されるものではない。

【0077】
イオンセンサ装置の一例として、参照電極として本発明の参照電極用素子を備える以外は、図1に示す特許文献1に記載の電荷集積型のイオンセンサの構成に準じた装置とすることができる。

【0078】
すなわち、本発明の1つの態様においては、イオンセンサ1は水溶液のイオン濃度に応じてポテンシャルが変化するセンシング部2と、このセンシング部2へ電荷を供給する電荷供給部3と、センシング部2と電荷供給部3との間に形成される電荷供給調節部4と、センシング部2から転送された電荷を蓄積する電荷蓄積部5と、センシング部2と電荷蓄積部5との間に形成される電荷転送調節部6とを備えている。上記において、センシング部2はp型化されたシリコン基板表面からなり、電荷供給部3はシリコン基板へn型不純物をドープして形成される。電荷蓄積部5もシリコン基板へn型不純物をドープして形成される。

【0079】
センシング部2の上にはシリコン酸化膜からなる絶縁膜7を介してSiからなるイオン感応膜8が積層されている。pH感応膜8の上側には溶液槽が設けられ、参照電極9が溶液に浸漬されている。電荷蓄積部5は図示しないリセット部に接続されている。

【0080】
センサアレイ
本発明のイオンセンサ装置は、図3に示すセンサアレイを備えるイオンセンサ装置とすることができる。センサアレイにおいては、イオンセンサ素子が二次元的に複数個配置されてなる。センサアレイの一例が、特開2000-055874号公報に開示されている。

【0081】
図3に、センサアレイを示す概念図を示す。センサアレイ11は、複数の検出画素により構成され、各検出画素12は、素子i(i1、i2・・・)を備える。センサアレイ11には、図4に示すように、検出された値を記憶するための記憶装置15(出力保存部151、第1の保存部153、電位保存部155を備える)、及び、センサアレイ11と記憶装置15を制御して試料のイオン濃度を特定する制御装置17(電位特定部171、pH特定部173を備える)が接続される。

【0082】
斯かるセンサアレイを備えるイオンセンサ装置において、素子の1又は複数を上記参照電極イオンセンサ素子とする。このような構成とすることで、センサアレイのみの構成によりセンシング用イオンセンサ素子と参照電極イオンセンサ素子との両方を備えることができる。
【符号の説明】
【0083】
1 イオンセンサ
2 素子
3 電荷供給部
4 電荷供給調節部
5 電荷蓄積部
6 電荷転送調節部
7 絶縁膜
8 機能性膜
11 センサアレイ
12 画素
15 記憶装置
17 制御装置
【実施例】
【0084】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。
【0085】
実施例1:製造例
イオンセンシング素子のセンシング部のSi3N4の表面において、表面開始原子移動ラジカル重合(SI-ATPR)により、メタクリル酸メチル(MMA)、メタクリル酸PEG(PEGMA)及びN,N-diethyl-N-(2-methacryloylethyl)-N-methyl- ammonium bis(trifluoro-methylsulfonyl)imide (DEMM-TFSI)のそれぞれについて重合反応を行い、ポリマーブラシ(濃厚ポリマーブラシ、Concentrated polymer brush、CPB)層を備えたイオンセンシング素子を作製した。
【0086】
イオンセンシング素子の構造は、Sawada, K., et al., Communications and Computer Sciences, 2014. E96-A(3): p.726-733に記載のイオン感応性電界効果トランジスタ(ion-sensitive field effect transistor、ISFET)の構造に準じた。SI-ATPRによるCPBの製造は、文献:M. Ejaz, et al., Macromolecules, 1998, 31(17), pp.5934-5936、Nomura, A. et al., Polymer Chemistry, 2012, 3(1), pp.148-153に記載の手法に準じた。
【0087】
得られたポリマーブラシ層の物性値を、下記表1に示す。物性値の測定は、文献:Yoshikawa, C., et al., Macromolecules, 2006, 39(6), pp.2284-2290、Nomura, A., Polymer Chemistry, 2012, 3(1), pp.148-153に記載の手法に準じた。
【0088】
【表1】
JP0006778109B2_000006t.gif

【0089】
実施例2:測定例
実施例1で製造したイオンセンシング素子を用いて、pHに対する応答を、文献:Hattori, T., et al., Electroanalysis, 2012. 24(1):p.114-120に記載の方法に準じて、金属塩化物(NaCl、RbCl、CsCl、MgCl2、CaCl2)に対する応答、及び、界面活性剤(ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、塩化セチルピリジニウム(CPC))をそれぞれ測定した。
【0090】
ポリマーブラシ層を有さないイオンセンシング素子(その構造は、Sawada, K., et al., Communications and Computer Sciences, 2014. E96-A(3): p.726-733に記載のCCD-type pH image sensorの構造に準じる)を対照として用いた(図中、「without the brush」)。
【0091】
結果を図5に示す。
【0092】
図5から明らかなとおり、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)からなるポリマーブラシ層を備えたイオンセンシング素子は、pH及び金属塩化物に対する電位応答特性が顕著に低下した。
【0093】
さらに、ポリマーブラシ層の厚さを11.6nm、19.1nm又は56.6nmとしたポリメタクリル酸メチル(PMMA)からなるポリマーブラシ層を備えたイオンセンシング素子の、pH(pH4.01、pH6.86、pH9.16)に対する電位応答を測定した。
【0094】
結果を図6に示す。出力電圧は、参照電極を基準とした値を示す。
【0095】
図6から明らかなとおり、PMMAからなるポリマーブラシ層を備えたイオンセンシング素子は、pH及び厚さに関わらず、一定の出力をする。このことは、PMMAからなるポリマーブラシ層を備えたイオンセンシング素子が、参照電極としての有用性を備えていること示している。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5