【0026】 本発明におけるBDVゲノムとしては、態様Aにおける場合も含めて、ボルナウイルス科(Bornaviridae)ボルナウイルス属(Bornavirus)哺乳類1ボルナウイルス(Mammalian 1 bornavirus)に属するボルナウイルス又はその変異株の遺伝子であればよい。哺乳類1ボルナウイルス(Mammalian 1 bornavirus)には、ボルナ病ウイルス1(Borna disease virus 1:BoDV-1)、ボルナ病ウイルス2(Borna disease virus 2:BoDV-2)等が含まれる。具体的には、例えば、He80、H1766、StrainV、huP2br等のウイルス株や、No/98、Bo/04w、HOT6の変異株を用いることができる。これらのゲノム配列は、例えば、以下から入手可能である。 He80;GenBank Accession# L27077, Cubitt,B., Oldstone,C. and de la Torre,J.C. Sequence and genome organization of Borna disease virus. J. Virol. 68 (3), 1382-1396 (1994). H1766;GenBank Accession# AJ311523, Pleschka,S., Staeheli,P., Kolodziejek,J., Richt,J.A., Nowotny,N. and Schwemmle,M. Conservation of coding potential and terminal sequences in four different isolates of Borna disease virus. J. Gen. Virol. 82 (PT 11), 2681-2690 (2001). Strain V;GenBank Accession# U04608, Briese,T., Schneemann,A., Lewis,A.J., Park,Y.S., Kim,S., Ludwig,H. and Lipkin,W.I. Genomic organization of Borna disease virus. Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 91 (10), 4362-4366 (1994). huP2br;GenBank Accession# AB258389, Nakamura,Y., Takahashi,H., Shoya,Y., Nakaya,T., Watanabe,M., Tomonaga,K., Iwahashi,K., Ameno,K., Momiyama,N., Taniyama,H., Sata,T., Kurata,T., de la Torre,J.C., Ikuta,K. Isolation of Borna disease virus from human brain tissue, J. Virol 74 (2000) 4601-4611. No/98;GenBank Accession# AJ311524, Nowotny,N. and Kolodziejek,J. Isolation and characterization of a new subtype of Borna disease virus. J. Gen. Virol. 74, 5655-5658 (2000). Bo/04w;GenBank Accession# AB246670, Watanabe,Y., Ibrahim,M.S., Hagiwara,K., Okamoto,M., Kamitani,W., Yanai,H., Ohtaki,N., Hayashi,Y., Taniyama,H., Ikuta,K. and Tomonaga,K. Characterization of a Borna disease virus field isolate which shows efficient viral propagation and transmissibility. Microbes and Infection 9 (2007) 417-427.
【0045】 HamRzの塩基配列は、Yanai et al., Microbes and Infections 8 (2006) 1522-1529、Mercier et al., J. Virol. 76 (2002) 2024-2027及びInoue et al., J. Virol. Methods 107 (2003) 229-236等に記載されている。 HDVRzの塩基配列は、Ferre-D'Amare,A.R., Zhou,K. and Doudna,J.A. Crystal structure of a hepatitis delta virus ribozyme. Nature 395 (6702), 567-574 (1998)等に記載されている。 本発明においては、これらの文献に記載されているHamRzの塩基配列をコードするcDNA及びHDVRzの塩基配列をコードするcDNAを用いることができる。本発明における好ましいHamRzの塩基配列及びHDVRzの塩基配列を以下に示す。 HamRz: 5’-UUGUAGCCGUCUGAUGAGUCCGUGAGGACGAAACUAUAGGAAAGGAAUUCCUAUAGUCAGCGCUACAACAAA-3’ (配列番号2) HDVRz: 5’-GGCCGGCAUGGUCCCAGCCUCCUCGCUGGCGCCGGCUGGGCAACACCAUUGCACUCCGGUGGCGAAUGGGAC-3’ (配列番号3)
【0046】 (c)プロモーター配列 本発明における(c)プロモーター配列としては、RNAポリメラーゼII系のプロモーター配列、RNAポリメラーゼI系のプロモーター配列、T7ポリメラーゼ系のプロモーター配列が挙げられる。中でもRNAポリメラーゼII系のプロモーター配列が好ましい。RNAポリメラーゼII系のプロモーターとしては、CMVプロモーター、CAGGSプロモーターが挙げられる。中でも、CAGGSプロモーターが好ましい。このようなプロモーター配列は、例えば、J.A. Sawicki, R.J. Morris, B. Monks, K. Sakai, J. Miyazaki, A composite CMV-IE enhancer/b-actin promoter is ubiquitously expressed in mouse cutaneous epithelium, Exp. Cell Res. 244 (1998) 367-369に記載されている。
【0051】 2.ウイルスベクターの作製方法 本発明のウイルスベクターの作製方法としては特に限定されず、自体公知の遺伝子工学的手法を用いればよい。具体的には、例えば、態様Aのウイルスベクターの場合、Yanai et al., Microbes and Infection 8 (2006), 1522-1529の“Materials and methods”の2.2 Plasmid constructionに記載されている方法において、CAT遺伝子をBDVのゲノム配列に置き換え、さらにP遺伝子の下流に連結する非翻訳領域(P遺伝子とM遺伝子との間の非翻訳領域)内に目的とする外来性遺伝子を挿入して得られたウイルスベクターを鋳型にして、PCR等によりG遺伝子に欠損変異等を挿入することで、G遺伝子が欠損したウイルスベクター(G遺伝子欠損型BDVのウイルスベクターともいう)を作製する。ついで、得られたG遺伝子欠損型BDVのウイルスベクターの所望の領域に、ABVゲノムのG遺伝子を挿入することによって、本発明の自己複製型(持続感染型)のウイルスベクターを作製することができる。上記方法により作製されるウイルスベクターとしては、例えば、ABVゲノムのG遺伝子を外来性遺伝子の上流に挿入した場合、(a)組換えウイルスRNAのcDNAとして、BDVゲノムをコードするcDNAのP遺伝子の翻訳領域とM遺伝子の翻訳領域との間の非翻訳領域に、ABVゲノムのG遺伝子と外来性遺伝子をこの順に挿入した組換えBDVゲノムのcDNA(例えば、図3(a)に模式的に示される構造を有する組換えウイルスのcDNA)を有するものである。なお、G遺伝子欠損型BDVのウイルスベクターの作製において、好ましくは、L遺伝子のイントロン部分も同様にPCRにより削りとることができる。また、M遺伝子についても、同様に、G遺伝子欠損型BDVのウイルスベクターを鋳型にPCR等により欠損させて作製することができる(G遺伝子及びM遺伝子欠損型BDVのウイルスベクターともいう)。
【0063】 BDVゲノムのN遺伝子、P遺伝子、L遺伝子及びM遺伝子としては、例えば、上述したCubitt,B., Oldstone,C. and de la Torre,J.C. Sequence and genome organization of Borna disease virus. J. Virol. 68 (3), 1382-1396 (1994)に記載されている配列の遺伝子を、ABVゲノムのG遺伝子としては、例えば、上述した国際塩基配列データベースから以下のアクセッション番号:PaBV-1:GU249595、PaBV-2:EU781967、PaBV-3:FJ169440、PaBV-4:JN014948、PaBV-7:JX065210、PaBV-5:KR612223、CnBV-1:KC464471、CnBV-2:KC464478、CnBV-3:KC595273、EsBV-1:KF680099、ABBV-1:KF680099、ABBV-2:KJ756399、PaBV-6:FJ794743、PaBV-8:KJ950625に記載されている配列の遺伝子をそれぞれ用いることができる。また、これらの遺伝子として、上記の配列に従って合成したRNAを使用することもできる。さらに、BDVゲノムのN、P、L及びM蛋白質、あるいはABVゲノムのG蛋白質それぞれで保存されているアミノ酸配列をもとにハイブリダイゼーション、PCR法により断片を取得することが可能である。さらに他の既知の各遺伝子の配列を基に設計したミックスプライマーを用い、ディジェネレートRT-PCRによって断片を取得することが可能である。取得した断片は通常の手法により塩基配列を決定することができる。さらに、本発明における各遺伝子は該遺伝子にコードされる蛋白質が、それぞれ該当する蛋白質が元来有する機能を保持している限り、塩基配列の一部が他の塩基と置換、削除又は新たに塩基が挿入されていてもよく、さらには塩基配列の一部が転位されていてもよい。これら誘導体のいずれも本発明に用いることができる。上記一部とは、例えばアミノ酸残基換算で、1乃至数個(1~5個、好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個)であってよい。
【0064】 このようなN遺伝子として、例えば、BDVゲノムのN遺伝子と少なくとも約90%、好ましくは約95%以上、より好ましくは約98%以上の配列同一性を有し、かつN蛋白質の機能を有するポリペプチドをコードするRNAも、本発明におけるBDVゲノムのN遺伝子として使用できる。また、BDVゲノムのP遺伝子と少なくとも約90%、好ましくは約95%以上、より好ましくは約98%以上の配列同一性を有し、かつP蛋白質の機能を有するポリペプチドをコードするRNAも、本発明におけるBDVゲノムのP遺伝子として使用できる。BDVゲノムのL遺伝子と少なくとも約90%、好ましくは約95%以上、より好ましくは約98%以上の配列同一性を有し、かつL蛋白質の機能を有するポリペプチドをコードするRNAも、本発明におけるBDVゲノムのL遺伝子として使用できる。ABVゲノムのG遺伝子と少なくとも約90%、好ましくは約95%以上、より好ましくは約98%以上の配列同一性を有し、かつG蛋白質の機能を有するポリペプチドをコードするRNAも、本発明におけるABVゲノムのG遺伝子として使用できる。BDVゲノムのM遺伝子と少なくとも約90%、好ましくは約95%以上、より好ましくは約98%以上の配列同一性を有し、かつM蛋白質の機能を有するポリペプチドをコードするRNAも、本発明におけるBDVゲノムのM遺伝子として使用できる。配列同一性は、CLUSTAL W ,GCG program, GENETYX,BLAST searchにより決定される。
【0065】 水疱性口内炎ウイルス、狂犬病ウイルス、麻疹ウイルス、レトロウイルス等のBDV以外のウイルスの外殻遺伝子として、例えば、水疱性口内炎ウイルスはGeneBank,No:J02428.1、狂犬病ウイルスはGeneBank,No:AB044824.1に記載されている配列の遺伝子等を用いることができる。好ましくは、これらの外殻遺伝子中の外殻蛋白質の細胞外配列及び細胞膜貫通配列をコードする配列を用いる。外殻遺伝子中の外殻蛋白質の細胞外配列及び細胞膜貫通配列をコードする配列は、Garry CE, Garry RF. Proteomics computational analyses suggest that the bornavirus glycoprotein is a class III viral fusion protein (γ penetrene). Virol J. 145(6), Sep-18(2009)等に記載されている。また、これらの遺伝子として、上記の配列に従って合成したRNAを使用することもできる。さらに、このような外殻遺伝子と少なくとも約90%、好ましくは約95%以上、より好ましくは約98%以上の配列同一性を有し、かつ外殻蛋白質の機能を有するポリペプチドをコードするRNAも、本発明におけるウイルスの外殻遺伝子として使用できる。
【0067】 これらのヘルパープラスミドは、自体公知の遺伝子工学的手法により作製することができる。例えば、BDVゲノムのN遺伝子を発現するプラスミド、BDVゲノムのP遺伝子を発現するプラスミド及びBDVゲノムのL遺伝子を発現するプラスミドは、Yanai et al., Microbes and Infection 8 (2006), 1522-1529の“Materials and methods”の2.2 Plasmid constructionに記載されている方法により作製することができる。
【0087】 組換えウイルスをin vitroで細胞に感染させる方法としては、例えば、培養細胞に感染させる場合には、上記精製方法により得られた組換えウイルスを含む上清をダルベッコ変法イーグル培地等の培養培地又はリン酸緩衝生理食塩水等により段階希釈して希釈液を作製することが好ましい。希釈液中の組換えウイルスの濃度としては、ウイルスを感染させる細胞の種類等により適宜選択すればよいが、例えば、哺乳類の神経細胞等であれば、通常MOI(multiplicity of infection、感染価)約0.01~10(細胞1個に対してウイルス粒子0.01から10個が感染する量)、好ましくはMOI約1~10となるようにする。この希釈液を用いて、組換えウイルスを細胞に感染させる。
【0088】 組換えウイルスを生体細胞(動物)に感染させる際には、上記のように高度に精製されたウイルス粒子を、例えばリン酸緩衝生理食塩水に浮遊させ、該リン酸緩衝生理食塩水により希釈を行った後に適量を動物へ感染させることが好ましい。希釈液中の組換えウイルスの濃度は、感染対象により適宜選択すればよい。例えば、感染対象が哺乳類の神経細胞であれば、組換えウイルスを含む希釈液のウイルス力価(focus-forming unit (FFU))を約1×10-1~1×109FFUとして個体に接種することが好ましい。また、組換えウイルスを含む希釈液は、マウス又はラットに接種する際には、ウイルス力価を通常約1×10-1~1×107FFUとすることが好ましい。イヌ又はネコ、ヒトに接種する際には、ウイルス力価を通常約10~1×108FFUとすることが好ましく、ウシ又はウマに接種する際には、ウイルス力価を通常1×105~1×1012FFUとすることが好ましい。ヒトに接種する際には、ウイルス力価を通常約1×105~1×109FFUとすることが好ましい。また、組換えウイルスを生体細胞に感染させる際には、後述する外来性遺伝子導入剤も好適に用いることができる。