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明細書 :機械装置の動力伝達システム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-158389 (P2018-158389A)
公開日 平成30年10月11日(2018.10.11)
発明の名称または考案の名称 機械装置の動力伝達システム
国際特許分類 B25J  19/06        (2006.01)
F16D  27/00        (2006.01)
F16D   7/02        (2006.01)
FI B25J 19/06
F16D 27/00
F16D 7/02 B
F16D 7/02 C
請求項の数または発明の数 8
出願形態 OL
全頁数 13
出願番号 特願2017-055173 (P2017-055173)
出願日 平成29年3月21日(2017.3.21)
発明者または考案者 【氏名】シュミッツ アレクサンダー
【氏名】汪 偉
【氏名】オルガド アレクシス カルロス
【氏名】許 ▲晋▼誠
【氏名】小林 健人
【氏名】アルバレス ロペス ハビエル
【氏名】王 語詩
【氏名】菅野 重樹
出願人 【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100114524、【弁理士】、【氏名又は名称】榎本 英俊
審査請求 未請求
テーマコード 3C707
Fターム 3C707CY32
3C707HT39
3C707KS21
3C707KX15
3C707LS02
3C707LS03
3C707MS02
3C707MS03
3C707MS27
3C707MS29
要約 【課題】人間や物体に対する不意の衝突時等における安全性を確保しつつ、様々なニーズに応えた所望の動力伝達を実現すること。
【解決手段】動力伝達システム10は、入力部21から出力部22への伝達動力の上限値であるトルクリミット値を可変にする可変トルクリミッタ16と、入力部21の変位状態を検出する入力側変位センサ17Aと、出力部22の変位状態を検出する出力側変位センサ17Bと、センサ17A,17Bの検出結果に基づいて動力の伝達制御を行う制御装置19とを備えている。制御装置19は、伝達動力がトルクリミット値を超えるときに動力の伝達を遮断する安全対策用制御機能25と、ティーチングを行う際に動力の伝達を遮断するティーチング用制御機能26と、ロボットアーム11の目標動作や構造を考慮した演算により伝達動力の目標値を求め、当該目標値での動力の伝達を可能にトルクリミット値の調整を行う動作用制御機能27とを有する。
【選択図】 図1
特許請求の範囲 【請求項1】
入力部から出力部への伝達動力となるトルクや力の上限値であるリミット値を可変にする可変動力伝達装置を用い、前記入力部に繋がる入力側部位からの動力を前記出力部に繋がる出力側部位に伝達する機械装置の動力伝達システムにおいて、
前記入力部の変位状態を検出する入力側変位センサと、前記出力部の変位状態を検出する出力側変位センサと、これらセンサの検出結果に基づいて前記動力の伝達制御を行う制御装置とを更に備え、
前記可変動力伝達装置は、前記伝達動力が前記リミット値以下のときに、前記入力部及び前記出力部を一体的に動作可能にして前記動力をそのまま伝達し、前記伝達動力が前記リミット値を超えるときに、前記入力部及び前記出力部を相対的に動作可能にして前記動力を前記リミット値以下で伝達する構造をなし、
前記制御装置は、前記伝達動力が前記リミット値を超えるときに、前記動力の伝達を遮断する安全対策用制御機能と、前記出力部側部位を把持して当該部位の目標動作軌跡を手動で設定するティーチングを行う際に、前記動力の伝達を遮断するティーチング用制御機能と、前記機械装置の目標動作や構造を考慮した演算により前記伝達動力の目標値を求め、当該目標値での前記動力の伝達を可能に前記リミット値の調整を行う動作用制御機能とを有することを特徴とする機械装置の動力伝達システム。
【請求項2】
前記安全対策用制御機能では、前記入力側変位センサでの検出値と前記出力側変位センサでの検出値との間の差が予め設定された値よりも大きい場合に、前記動力の伝達を遮断するように前記可変動力伝達装置を作動させることを特徴とする請求項1記載の機械装置の動力伝達システム。
【請求項3】
前記入力部に前記動力を付与する駆動装置を更に備え、
前記ティーチング用制御機能では、前記ティーチングの開始時に前記動力の伝達を遮断する一方、前記ティーチングの終了時に前記動力の伝達を可能にするように前記可変動力伝達装置を作動させるとともに、前記開始時と前記終了時のそれぞれの前記出力側変位センサの検出値の差分を求め、前記終了時に、前記駆動装置の駆動により、前記入力側変位センサの検出値に対し前記差分の変位を生じさせることで、前記入力部からの動力を使って前記出力部を前記開始時の初期位置に戻すことを特徴とする請求項1記載の機械装置の動力伝達システム。
【請求項4】
前記可変動力伝達装置は、前記伝達動力が前記リミット値以下のときに、前記入力部と前記出力部の間に発生する静摩擦力を利用して前記動力を伝達する一方、前記伝達動力が前記リミット値を超えるときに、前記入力部と前記出力部の間に発生する動摩擦力を利用して前記動力を伝達するとともに、印加電圧の大きさによって前記各摩擦力を調整可能に設けられた電磁式の摩擦クラッチからなり、
前記動作用制御機能では、前記入力側変位センサでの検出値と前記出力側変位センサでの検出値との間の差が予め設定された値よりも大きいときと、そうでないときとで前記印加電圧を変えることで、前記リミット値を所定値に維持することを特徴とする請求項1記載の機械装置の動力伝達システム。
【請求項5】
前記出力側部位には、当該出力側部位での重力の影響をキャンセルする重力補償機構が設けられることを特徴とする請求項1記載の機械装置の動力伝達システム。
【請求項6】
入力部から出力部への伝達動力となるトルクや力の上限値であるリミット値を可変にする可変動力伝達装置を用い、前記入力部に繋がる入力側部位からの動力を前記出力部に繋がる出力側部位に伝達する機械装置の動力伝達システムにおいて、
前記入力部の変位状態を検出する入力側変位センサと、前記出力部の変位状態を検出する出力側変位センサと、これらセンサの検出結果に基づいて前記可変動力伝達装置の作動を制御する制御装置とを更に備え、
前記可変動力伝達装置は、前記伝達動力が前記リミット値以下のときに、前記入力部及び前記出力部を一体的に動作可能にして前記動力をそのまま伝達し、前記伝達動力が前記リミット値を超えるときに、前記入力部及び前記出力部を相対的に動作可能にして前記動力を前記リミット値以下で伝達する構造をなし、
前記制御装置は、前記伝達動力が前記リミット値を超えるときの安全対策のための安全対策用制御機能を有し、
前記安全対策用制御機能では、前記入力側変位センサでの検出値と前記出力側変位センサでの検出値との間の差が予め設定された値よりも大きい場合に、前記入力部から前記出力部への前記動力の伝達を遮断するように前記可変動力伝達装置を作動させることを特徴とする機械装置の動力伝達システム。
【請求項7】
入力部から出力部への伝達動力となるトルクや力の上限値であるリミット値を可変にする可変動力伝達装置を用い、前記入力部に繋がる入力側部位からの動力を前記出力部に繋がる出力側部位に伝達する機械装置の動力伝達システムにおいて、
前記入力部に前記動力を付与する駆動装置と、前記入力部の変位状態を検出する入力側変位センサと、前記出力部の変位状態を検出する出力側変位センサと、前記駆動装置の駆動と前記可変動力伝達装置の作動を制御する制御装置とを更に備え、
前記制御装置は、前記出力側部位を把持して当該出力側部位の目標動作軌跡を手動で設定するティーチングを行う際のティーチング用機能を有し、
前記ティーチング用制御機能では、前記ティーチングの開始時に前記動力の伝達を遮断する一方、前記ティーチングの終了時に前記動力の伝達を可能にするように前記可変動力伝達装置を作動させるとともに、前記開始時と前記終了時のそれぞれの前記出力側変位センサの検出値の差分を求め、前記終了時に、前記駆動装置の駆動により、前記入力側変位センサの検出値に対し前記差分の変位を生じさせることで、前記入力部からの動力を使って前記出力部を前記開始時の初期位置に戻すことを特徴とする機械装置の動力伝達システム。
【請求項8】
入力部から出力部への伝達動力となるトルクや力の上限値であるリミット値を可変にする可変動力伝達装置を用い、前記入力部に繋がる入力側部位からの動力を前記出力部に繋がる出力側部位に伝達する機械装置の動力伝達システムにおいて、
前記入力部の変位状態を検出する入力側変位センサと、前記出力部の変位状態を検出する出力側変位センサと、前記可変動力伝達装置の作動を制御する制御装置とを更に備え、
前記可変動力伝達装置は、前記伝達動力が前記リミット値以下のときに、前記入力部と前記出力部の間に発生する静摩擦力を利用し、前記入力部及び前記出力部を一体的に動作可能にして前記動力をそのまま伝達する一方、前記伝達動力が前記リミット値を超えるときに、前記入力部と前記出力部の間に発生する動摩擦力を利用し、前記入力部及び前記出力部を相対的に動作可能にして前記動力を前記リミット値以下で伝達するとともに、印加電圧の大きさによって前記各摩擦力を調整可能に設けられた電磁式の摩擦クラッチからなり、
前記制御装置は、前記機械装置の目標動作や構造を考慮した演算により前記伝達動力の目標値を求め、当該目標値での前記動力の伝達を可能に前記リミット値の調整を行う動作用制御機能を有し、
前記動作用制御機能では、前記入力側変位センサでの検出値と前記出力側変位センサでの検出値との間の差が予め設定された値よりも大きいときと、そうでないときとで前記印加電圧を変えることで、前記リミット値を所定値に維持することを特徴とする機械装置の動力伝達システム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、入力側から出力側に伝達されるトルクや力の上限値となるリミット値を可変にする可変動力伝達装置を使用し、所定の条件下で出力側への動力の伝達制御を行う機械装置の動力伝達システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ロボットと人間とが共生する環境下においては、当該環境に対するロボットの安全対策が重要になる。この安全対策として、ロボットが所望の動作を行っている最中に環境中の人間や物体に不意に衝突した場合に、当該衝突を緩和するコンプライアンス機能が必要になる。当該コンプライアンス機能としては、ロボットの可動部であるロボットアーム等に衝突時の衝撃緩和用のばね等の弾性要素を取り付けたものが一般的である。しかしながら、当該ばねを衝撃緩和用として用いる場合、例えば、衝突時にばねを弱めることでクッション性を高める等、ロボットの動作中にばねの弾性を調整する必要があり、このことがロボットアームの位置制御を難しくする一要因になる。また、ばね等の弾性要素は、ロボットの加速動作をスピーディーにしにくくするばかりか、ロボットの動作時における振動発生の要因にもなる。
【0003】
ところで、特許文献1には、ロボットハンドが所定以上の大きさの外力で他の物体等に衝突した際に、当該物体等に作用する力を逃がす衝突トルク緩衝機構を備えたロボットが開示されている。この衝突トルク緩衝機構は、ロボットハンド側とロボットアーム側との間の接続部分に潤滑剤を充填し、当該潤滑剤の粘性によって、ロボットアーム側にある程度までの外力が作用してもロボットハンド側とロボットアーム側の連結状態を維持する一方で、それを超える外力が作用したときに、ロボットハンド側とロボットアーム側の相対回転を許容することで、衝突時に物体に作用する力を緩衝するようになっている。
【0004】
前記特許文献1の衝突トルク緩衝機構において、ロボットハンド側とロボットアーム側の相対回転を許容するトルク値は、潤滑剤の粘性によって決まり、製品毎に一定値に設定される。ところが、昨今のロボットの様々な役割を考慮すると、前記トルク値を可変にすることにより、安全性を確保しつつ種々の動作を可能にするロボットが要請される。このため、本発明者らは、モータによって動作する入力部から、ロボットアーム側に繋がる出力部に伝達されるトルクを電気的に調整可能な電磁式の摩擦クラッチ等を用いたロボット制御システムを既に提案している(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2009-12088号公報
【特許文献2】特開2017-13207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ロボット動作に対する種々のニーズに対応するためには、前記特許文献2で提案した機能に加え、他の制御機能も必要になる。例えば、異常事態の発生により、前記入力部と前記出力部の間に予め設定したトルクリミット値を超えるトルクが作用した場合には、安全上の観点から、前記出力部側へのトルクの伝達を遮断して動力の付与を停止する必要がある。また、作業者が出力部側のロボットアームを直接把持して動かすことで、後に自動的に移動させるロボットアームの目標動作軌跡を記憶させるためのティーチング作業時においても、出力部側へのトルクの伝達を遮断し、出力部側に高いバックドライバビリティを確保することで、ティーチング作業を行い易くする必要がある。更に、印加電圧の調整により入力部と出力部との間に発生する摩擦力を調整することにより、トルクリミット値を可変にする電磁式の摩擦クラッチを用いた場合に、静摩擦力が作用しているときと動摩擦力が作用しているときとで、トルクの伝達特性が異なるため、一定のトルクリミット値を得るためには、当該伝達特性を考慮した印加電圧の制御が必要になる。これらの制御の必要性は、入力部に動力を付与する駆動装置として、モータ等の回転式のアクチュエータを利用した場合の他に、押圧力を付与する駆動シリンダ等の直動式のアクチュエータを利用した場合も同様となる。
【0007】
本発明は、先に提案した発明に関連して案出されたものであり、その目的は、人間や物体に対する不意の衝突時等における安全性を確保しつつ、様々なニーズに応えた所望の動力伝達を実現することができる機械装置の動力伝達システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、主として、入力部から出力部への伝達動力となるトルクや力の上限値であるリミット値を可変にする可変動力伝達装置を用い、前記入力部に繋がる入力側部位からの動力を前記出力部に繋がる出力側部位に伝達する機械装置の動力伝達システムにおいて、
前記入力部の変位状態を検出する入力側変位センサと、前記出力部の変位状態を検出する出力側変位センサと、これらセンサの検出結果に基づいて前記動力の伝達制御を行う制御装置とを更に備え、前記可変動力伝達装置は、前記伝達動力が前記リミット値以下のときに、前記入力部及び前記出力部を一体的に動作可能にして前記動力をそのまま伝達し、前記伝達動力が前記リミット値を超えるときに、前記入力部及び前記出力部を相対的に動作可能にして前記動力を前記リミット値以下で伝達する構造をなし、前記制御装置は、前記伝達動力が前記リミット値を超えるときに、前記動力の伝達を遮断する安全対策用制御機能と、前記出力部側部位を把持して当該部位の目標動作軌跡を手動で設定するティーチングを行う際に、前記動力の伝達を遮断するティーチング用制御機能と、前記機械装置の目標動作や構造を考慮した演算により前記伝達動力の目標値を求め、当該目標値での前記動力の伝達を可能に前記リミット値の調整を行う動作用制御機能とを有する、という構成を採っている。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、前記安全対策用制御機能を採用することにより、入力部側から出力部側への動力の伝達時に、出力側部位が周囲の人間や物体に衝突した場合等、出力部側に何等かの異常事態が発生した場合でも、入力側変位センサと出力側変位センサの検出値に基づき、当該異常事態の発生を自動的に検知できる。そして、当該検知によって、入力部から出力部への動力の伝達が遮断されるため、このようなトラブル発生時に、入力部側からの動力による周囲の人間や物体への危害の発生を最小限に抑えることができる。
【0010】
また、前記ティーチング用制御機能を採用することにより、出力部側部位を手で動かしながら目標動作軌跡を設定するティーチング作業時に、入力部から出力部への動力の伝達が遮断されるため、当該出力部がフリー動作可能となり、当該出力部側に高いバックドライバビリティが付与されて出力側部位が動き易くなって、ティーチングをスムーズに行うことができる。また、入力側変位センサと出力側変位センサの検出結果を用いた駆動装置の駆動により、ティーチングの終了時に出力部がどの位置にあっても、ティーチングを開始した初期位置に出力部を自動的に戻すことができる。つまり、ティーチング時に出力側部位を動かし易くするために、入力部と出力部との間の動力の伝達を一時的に遮断しても、ティーチングの終了時に、当該動力の伝達を許容し、各変位センサの検出結果に基づく入力部側の駆動装置の動力を使って、出力部を前記初期位置に確実に戻すことができる。従って、ティーチングの開始時と終了時との間で出力部の前記初期位置にズレを生じさせずに、ティーチング終了後に出力側部材を自動的に動作させる際に、ティーチングで設定された出力側部材の動作を確実に反映することができる。
【0011】
更に、可変動力伝達装置として電磁式の摩擦クラッチを用いた場合、入力部と出力部とが相対移動する前後において、それらの間に介在する摩擦力が静摩擦力の最大値から動摩擦力に変化し、前記リミット値が低下する特性がある。そこで、前記動作用制御機能によれば、当初は、目標となる伝達動力を最大静摩擦力に合せた第1の電圧値で電圧を印加し、入力側変位センサと出力側変位センサの検出結果により、静摩擦力から動摩擦力に変化するタイミングを自動検出した後に、目標となる伝達動力を動摩擦力に合せ、第1の電圧値よりも上昇した第2の電圧値で電圧を印加可能になる。このため、入力部と出力部とが相対移動する前後においても、摩擦力の種類を考慮し、常時一定となるリミット値を確保することができる。
【0012】
以上の本発明によれば、人間や物体に対する不意の衝突時等における安全性を確保でき、また、少ない力でのティーチング作業で動作再現を確実に行うことができ、更に、安全性を確保しながら、入力部から出力部に所望の目標値で確実に動力を伝達することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態に係る動力伝達システムの概略構成図。
【図2】変形例に係る図1と同様の概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。

【0015】
図1には、本実施形態に係る機械装置の動力伝達システムの概略構成図が示されている。この図において、前記動力伝達システム10は、所定の空間内で移動可能に設けられ、当該空間内で所定の作業を行うためのロボットアーム11と、ロボットアーム11に動力となるトルクを付与する駆動装置としてのモータ14と、ロボットアーム11とモータ14との間に配置され、モータ14からロボットアーム11への伝達動力である伝達トルクを可変に作動する可変動力伝達装置としての可変トルクリミッタ16と、可変トルクリミッタ16の入力側と出力側の変位状態を検出する変位センサ17と、変位センサ17の検出結果に基づき、入力側から出力側へ伝達制御を行う制御装置19とを備えている。なお、特に限定されるものではないが、ロボットアーム11を除く各部材や装置は、その関節部分等、ロボットアーム11の近傍に設けられている。

【0016】
前記ロボットアーム11は、モータ14の動力により、関節部分を回転運動させながら所定の空間内で移動可能にする公知の動力伝達機構からなる。当該ロボットアーム11の詳細な構造については、本発明の本質部分でないため、構造の図示及び詳細な説明を省略する。なお、ロボットアーム11としては、先端に物体の把持部を備えた片持ち状の多関節型の構造により、予め指令した動作によって、把持部で把持した物体(把持物体)を所定空間内で移動可能な構成を例示できる。

【0017】
本実施形態において、前記可変トルクリミッタ16は、特に限定されるものではないが、公知の電磁式の摩擦クラッチにより構成される。この可変トルクリミッタ16は、印加電圧の調整により、モータ14側からロボットアーム11側に伝達されるトルクの上限値であるリミット値(以下、「トルクリミット値」と称する)を可変に設けられている。ここで、印加電圧の値とトルクリミット値の関係は、制御装置19に予め記憶されており、当該制御装置19により、印加電圧の調整によるトルクリミット値の後述の制御が行われる。

【0018】
この可変トルクリミッタ16は、入力側部位となるモータ14側に繋がってモータ14の駆動によって回転可能に設けられた入力部21と、出力側部位となるロボットアーム11側に繋がるとともに、回転可能に設けられた出力部22と、これら入力部21と出力部22との間に配置されるとともに、摩擦力を利用して入力部21から出力部22へのトルクの伝達を可能に設けられた伝達部23とを備えている。

【0019】
この可変トルクリミッタ16では、入力部21の回転による入力トルクが、制御装置19で制御されたトルクリミット値以下のときに、入力部21と出力部22とが一体的に回転して、入力トルクをそのまま出力部22に伝達する一方、前記入力トルクが前記トルクリミット値を超えたときに、入力部21と出力部22の相対回転を許容するスリップ動作が発生し、前記トルクリミット値以下のトルクを出力部22に伝達するようになっている。

【0020】
なお、可変トルクリミッタ16としては、前記電磁式の摩擦クラッチの他に、例えば、伝達部23を磁性流体によって構成し、当該磁性流体の粘性の調整を電気的に行う磁性流体クラッチを採用できる。要するに、入力部21から出力部22への伝達トルクを前述のように調整できる限りにおいて、種々のクラッチ、トルクリミッタ、ブレーキ等の他の可変動力伝達装置を採用することができる。

【0021】
前記変位センサ17としては、制御装置19による後述の制御を行うための情報を検出可能なものであれば、特に限定されるものではない。本実施形態においては、変位センサ17として、可変トルクリミッタ16の入出力側それぞれに設けられたエンコーダが用いられている。可変トルクリミッタ16の入力側に配置された入力側エンコーダ17A(入力側変位センサ)は、入力部21の回転角度の変位量を検出する一方、同出力側に配置された出力側エンコーダ17B(出力側変位センサ)は、出力部22の回転角度の変位量を検出するようになっている。これら各エンコーダ17A、17Bの検出値は、所定時間毎に制御装置19に逐次伝送される。

【0022】
前記制御装置19は、CPU等の演算処理装置及びメモリやハードディスク等の記憶装置等からなるコンピュータによって構成されており、以下の各制御モードに応じ、モータ14の駆動制御や印加電圧の調整による可変トルクリミッタ16の作動制御を行うようになっている。

【0023】
すなわち、制御装置19は、入力部21から出力部22への伝達トルクがトルクリミット値を超えるときの安全対策のための安全対策用制御モードによる制御を行う安全対策用制御機能25と、ロボットアーム11を把持してその目標動作軌跡を手動で設定するティーチングを行う際のティーチング用制御モードによる制御を行うティーチング用制御機能26と、所望のトルクリミット値でロボットアーム11を動作させる動作用制御モードによる制御を行う動作用制御機能27とを有している。これら各機能25~27は、何れかの制御モードの選択によって次のように実行されるが、これら各機能25~27の少なくとも1つの機能のみを備えた制御装置19の構成にすることも可能である。

【0024】
前記安全対策用制御機能25では、可変トルクリミッタ16の作動制御により、次の安全対策用制御モードによる伝達制御が行われる。

【0025】
ここでは、入力側エンコーダ17Aと出力側エンコーダ17Bの検出値の差が計算され、当該差が予め設定された値を超えた場合に、入力部21と出力部22との間で前記スリップ動作が発生したと判断され、可変トルクリミッタ16によるトルクの伝達を遮断するために、前記トルクリミット値をほぼゼロ、若しくは、ロボットアーム11が落下しない程度の極小値にするように、ゼロ若しくは微弱の印加電圧が可変トルクリミッタ16に供給される。

【0026】
従って、この安全対策用制御モードによれば、出力側のロボットアーム11が周辺の人間や物体に衝突し、当該ロボットアーム11に外力が作用したとき等、入力部21と出力部22との間で何等かのトラブルが発生した場合、当該トラブルが、入力側エンコーダ17Aと出力側エンコーダ17Bで検出された変位角度の差の発生によって自動検出され、可変トルクリミッタ16の作動制御によって、入力部21と出力部22との間でのトルクの伝達が遮断される。従って、このような異常事態が発生した際に、ロボットアーム11が、モータ14の駆動から切り離されることになり、モータ14の動力の伝達により、ロボットアーム11が人間や物体に与える影響を最小限にでき、ロボットと人間の共生に必要な安全対策を講じることができる。

【0027】
前記ティーチング用制御機能26では、モータ14の駆動制御と可変トルクリミッタ16の作動制御により、次のティーチング用制御モードによる伝達制御が行われる。

【0028】
ティーチング作業を開始する際、図示しない作業者等により、制御装置19に対しティーチング用制御モードによる伝達制御が選択されると、前述の安全対策制御モードと同様、可変トルクリミッタ16によるトルクの伝達を遮断するように、可変トルクリミッタ16への印加電圧が調整される。その後、前記作業者等の手でロボットアーム11を把持しながら、当該ロボットアーム11が所望の目標動作軌跡に沿って動かされるとともに、出力側エンコーダ17Bで検出された変位角度が経時的に記憶される。そして、ティーチングが終了し、前記作業者等によって、ロボットアーム11の自動動作を開始するスイッチ等(図示省略)が投入されると、可変トルクリミッタ16でのトルクの伝達が許容されるとともに、ロボットアーム11が、モータ14の駆動によってティーチングの開始時の初期位置に自動的に戻された後、ティーチングによって指定した目標動作軌跡に沿って自動的に反復動作する。

【0029】
つまり、ティーチング用制御機能26では、ティーチングの開始時にトルクの伝達を遮断する一方、ティーチングの終了時にトルクの伝達を可能にするように、可変トルクリミッタ16を作動させるとともに、ティーチングの終了後、モータ14の駆動によって、ロボットアーム11を前記初期位置に自動的に戻す自動帰還制御が行われる。以下、この自動帰還制御について詳述する。

【0030】
ティーチング作業時においては、入力部21と出力部22との間でのトルクの伝達が遮断されているため、その開始時における出力部22の角度位置を前記初期位置とし、当該初期位置が、ティーチングの終了後のロボットアーム11の自動動作のスタート位置になると、当該終了後に、出力部22が前記初期位置に正確に一致するように、ロボットアーム11を動かさなければならない。手動では、前記初期位置を正確に一致させることが難しいが、前記自動帰還制御では、出力部22の前記初期位置への復元を確実に行える。

【0031】
すなわち、この自動帰還制御では、先ず、ティーチングの開始時の入力側エンコーダ17Aの検出値aと、出力側エンコーダ17Bの検出値bがそれぞれ記憶される。なお、ティーチングに伴い、出力側エンコーダ17Bの検出値bが所定時間t毎に記憶され、これらは、ティーチングの終了後の自動動作の制御に用いられる。そして、ティーチングの終了時の入力側エンコーダ17Aの検出値aと、出力側エンコーダ17Bの検出値bとがそれぞれ記憶される。この終了時においては、前述したように入力部21と出力部22との間でのトルクの伝達が可能になっている。そこで、前記開始時と前記終了時の出力側エンコーダ17Bの検出値bとbの差分であるΔbが算出され、前記開始時の出力部22の初期角度(初期位置)に戻すように、モータ14の駆動を使って、前記終了時の入力部21の回転位置となる検出値aに対して角度Δb分回転することにより、入力部21に連動する出力部22がΔb分回転され、ロボットアーム11が前記スタート位置に自動的に帰還することになる。

【0032】
従って、このティーチング用制御モードによれば、人間の手で行うティーチング時に、可変トルクリミッタ16により、モータ14側の入力部21とロボットアーム11側の出力部22とが非連結状態にされ、モータ14の駆動状態に関係無く、ロボットアーム11を軽い力でスムーズに動作させることができる。また、ティーチング時にロボットアーム11側がモータ14と切り離されるが、ティーチングの開始前後における入力側エンコーダ17Aの検出値と出力側エンコーダ17Bの検出結果を利用して、出力部22を前記初期位置に自動的に戻すことができる。このため、ティーチングの終了時に、ロボットアーム11がどの位置にあっても、モータ14の駆動を利用して、ティーチングを開始したときのスタート位置にロボットアーム11を正確に戻すことができる。この結果、ロボットアーム11は、ティーチングで設定した目標動作軌跡と実際の自動動作時の動作軌跡との間でズレを生じることなく、目標動作軌跡を確実に反映した状態でロボットアーム11を自動的に動作させることができる。

【0033】
前記動作用制御機能27では、モータ14の駆動制御と可変トルクリミッタ16の作動制御により、次の動作用制御モードによる伝達制御が行われる。

【0034】
この動作用制御機能27では、ロボットアーム11の目標動作や構造を考慮した演算により、入力部21から出力部22に伝達されるトルクの目標値である目標トルクを求め、当該目標トルクでの動力の伝達を可能にトルクリミット値の調整が行われる。すなわち、前述のティーチング等により設定されたロボットアーム11の目標動作に対応させて、ロボットアーム11の経時的な目標位置を特定するため、時間に対するロボットアーム11の関節部分の目標回転値(目標回転角度、目標回転速度、及び目標回転加速度)が求められる。更に、ロボットアーム11の現在位置情報に対応する出力側エンコーダ17Bからの回転角度がフィードバックされながら、ロボットアーム11の前記目標回転値と前記現在位置情報と、ロボットアーム11等の既知の慣性テンソルと、前記現在位置情報に応じて定まるコリオリ力のベクトルや向心力のベクトルとから前記目標トルクが公知の数式による演算によって求められる。そして、当該目標トルクが得られるように、モータ14の駆動制御が行われるとともに、可変トルクリミッタ16の作動制御により前記トルクリミット値が調整される。ここでは、前記目標トルクと同一若しくはそれよりも若干大きなトルクがトルクリミット値として設定され、当該トルクリミット値を超えるトルクが可変トルクリミッタ16に作用したときに、入力部21に対する出力部22の相対回転を許容し、可変トルクリミッタ16をスリップ動作させるように、可変トルクリミッタ16への印加電圧が決定される。

【0035】
ここで、本実施形態では、可変トルクリミッタ16として、電磁式の摩擦クラッチを用いていることから、動作用制御機能27では、入力部21と出力部22の間に介在する伝達部23での静摩擦力や動摩擦力の影響を考慮し、印加電圧を調整する制御を行うことが好ましい。以下、その理由を含めて具体的に述べる。

【0036】
可変トルクリミッタ16にトルクリミット値以下のトルクが作用している場合、入力部21と出力部22が連結して一体回転するが、この状態では、伝達部23での静摩擦力によって当該一体回転がなされる。一方、可変トルクリミッタ16にトルクリミット値を超えるトルクが作用すると、入力部21と出力部22とが相対回転するスリップ動作が生じるが、その際、伝達部23には動摩擦力が作用することで、トルクリミット値以下のトルクが伝達可能となっている。加えて、前記スリップ動作を開始する際には、最大の摩擦力(以下、「最大摩擦力」と称する。)が作用する。

【0037】
以上の電磁式の摩擦クラッチの特性により、目標トルクに合せて設定したトルクリミット値(以下、「目標リミット値」と称する)を得るために可変トルクリミッタ16に電圧を印加する際、次の問題が生じる。

【0038】
すなわち、可変トルクリミッタ16への印加電圧について、静摩擦力を考慮し、前記最大摩擦力に合せた目標リミット値が得られるような第1の電圧値で一定とした場合に、入力部21と出力部22とが相対回転した後は、最大摩擦力よりも小さな動摩擦力の影響によってトルクリミット値が低下してしまう。このため、入力部21と出力部22とが相対回転してしまうと、所望の大きさの目標リミット値が得られなくなってしまい、その後の入力部21からのトルクが当該所望の目標リミット値以下であっても、入力部21と出力部22との一体回転が補償されない場合が生じる。

【0039】
一方、可変トルクリミッタ16への印加電圧について、前記スリップ動作しているときの動摩擦力の影響に合せた目標リミット値が得られるような第2の電圧値、つまり、第1の電圧値よりも大きい電圧値で一定とした場合、前記最大摩擦力のときのリミット値が上がってしまい、所望の安全対策等を実現出来なくなる虞がある。

【0040】
そこで、動作用制御機能27では、先ず、前記安全対策用制御モードのときと同様、入力側エンコーダ17Aと出力側エンコーダ17Bの検出値の差が予め設定された値を超えた場合に、前記スリップ動作の発生が検知される。そして、当該スリップ動作の発生の検知により、それまでの印加電圧の大きさが変更される。つまり、入力部21と出力部22が一体回転しているときには、静摩擦力を考慮した前記第1の電圧値とし、前記スリップ動作が発生したと判断されると、動摩擦力を考慮した前記第2の電圧値に上昇させるように、可変トルクリミッタ16への印加電圧の制御がなされる。

【0041】
この態様によれば、伝達部23に作用する摩擦力の状態に関わらず、所望とするトルクリミット値を一定に保つことができ、意図しないスリップ動作や意図しないトルク伝達を回避することができ、より確実な安全対策を採ることができる。

【0042】
なお、図2に示されるように、前記実施形態の動力伝達システム10に対し、ロボットアーム11による重力の影響をキャンセルする重力補償機構32をロボットアーム11に更に設けることもできる。

【0043】
この重力補償機構32は、ロボットアーム11の自重に把持物体の重量を含めたロボットアーム11全体の重力への影響をキャンセルするように調整可能な公知の機構からなり、例えば、ばねを使ったリンク構造からなるスプリングバランス式の重力補償機構が挙げられる。当該重力補償機構32としては、ロボットアーム11のみの自重を補償するように、ばねの張力が事前に調整されるものの他に、把持物体の重量も含めた自重補償を行う場合には、ばねの張力が把持物体の重量に応じて動的に調整可能なアジャスタブル自重補償機構を採用可能である。その他、カウンターウエイト式のもの等、同一の作用を奏する種々の構造の重力補償機構32を採用することができる。

【0044】
この重力補償機構32を採用することにより、前述の動作用制御モードでの目標トルクを演算する際における重力項を省略することができ、当該演算を極めて簡単に行うことができる。また、前記各安全対策制御モードや前記ティーチング用制御モードで、トルクリミット値を最小値にしてモータ14側からロボットアーム11側へのトルクの伝達を遮断した際に、ロボットアーム11の自重による落下が防止されるとともに、ティーチング時にロボットアーム11を少ない力で移動させることができる。また、前記トルクの伝達の遮断時に、自重によるロボットアーム11の落下防止のための抵抗力を付与する必要がないため、当該遮断する際のトルクリミット値の最小値を極力小さくし、ゼロにすることも可能になる。その結果、ロボットでは多くの箇所に配置されるモータ14や可変トルクリミッタ16について、小型のものを使用でき、重力補償機構32を設けても、ロボットアーム11全体の軽量化を促進できる。

【0045】
また、前記実施形態における動力伝達システム10は、ロボットアーム11に適用しているが、本発明はこれに限らず、それ以外の機械装置に適用することもできる。例えば、入力側部位からの動力供給をモータ14等の駆動装置で行うものではなく、前記重力補償機構32を併用し、入力側からの動力供給を人力により行う強化外骨格装置にも適用可能である。この強化外骨格装置は、人間の関節に沿って配置されて人間のパワーアシストを可能にするものであり、重力補償機構32を併用することで、駆動装置を用いずにパワーアシストが可能となり、エネルギー効率を高めることができる。

【0046】
更に、前記実施形態では、入力側での動力供給を行う駆動装置として、回転式のアクチュエータであるモータ14を使用しているが、本発明はこれに限らず、前記駆動装置として、他の回転式のアクチュエータの他に、シリンダ等の直動式のアクチュエータを用いることもでき、この場合における前述のトルクは、押圧力等の並進力となる。

【0047】
その他、本発明における装置各部の構成は図示構成例に限定されるものではなく、実質的に同様の作用を奏する限りにおいて、種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0048】
10 動力伝達システム
11 ロボットアーム(出力側部位)
14 モータ(入力側部位)
16 可変トルクリミッタ(可変動作装置)
17A 入力側エンコーダ(入力側変位センサ)
17B 出力側エンコーダ(出力側変位センサ)
19 制御装置
25 安全対策用制御機能
26 ティーチング用制御機能
27 動作用制御機能
32 重力補償機構
図面
【図1】
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【図2】
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