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明細書 :自閉症スペクトラム障害診断支援装置、自閉症スペクトラム障害診断支援方法及びプログラム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-175530 (P2018-175530A)
公開日 平成30年11月15日(2018.11.15)
発明の名称または考案の名称 自閉症スペクトラム障害診断支援装置、自閉症スペクトラム障害診断支援方法及びプログラム
国際特許分類 A61B   5/0484      (2006.01)
A61B   5/0476      (2006.01)
A61B  10/00        (2006.01)
FI A61B 5/04 320M
A61B 5/04 322
A61B 10/00 H
請求項の数または発明の数 9
出願形態 OL
全頁数 14
出願番号 特願2017-081212 (P2017-081212)
出願日 平成29年4月17日(2017.4.17)
発明者または考案者 【氏名】王 鋼
出願人 【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100095407、【弁理士】、【氏名又は名称】木村 満
【識別番号】100168114、【弁理士】、【氏名又は名称】山中 生太
【識別番号】100133592、【弁理士】、【氏名又は名称】山口 浩一
【識別番号】100162259、【弁理士】、【氏名又は名称】末富 孝典
審査請求 未請求
テーマコード 4C127
Fターム 4C127AA03
4C127DD01
4C127DD02
4C127FF02
4C127GG01
4C127GG13
要約 【課題】自閉症傾向を客観的に評価することができる自閉症スペクトラム障害診断支援装置、自閉症スペクトラム障害診断支援方法及びプログラムを提供する。
【解決手段】自閉症スペクトラム障害診断支援装置1は、視覚刺激として呈示される視対象と聴覚刺激として呈示される環境音の音源とが一致するか否かを判断するプライミング課題に従事する被験者200の事象関連電位に基づいて、被験者200の自閉症傾向を評価する評価部を備える。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
視覚刺激として呈示される視対象と聴覚刺激として呈示される環境音の音源とが一致するか否かを判断するプライミング課題に従事する被験者の事象関連電位に基づいて、前記被験者の自閉症傾向を評価する評価部を備える、
自閉症スペクトラム障害診断支援装置。
【請求項2】
前記視覚刺激として前記視対象の画像を前記被験者に示す視覚刺激部と、
前記視覚刺激部が前記画像を示した後に、前記聴覚刺激として前記環境音を出力する聴覚刺激部と、
前記被験者の左後頭部に取り付けられた電極を介して前記被験者の脳波信号を測定する測定部と、
前記視対象と前記音源とが一致する試行において測定された脳波信号及び前記視対象と前記音源とが一致しない試行において測定された脳波信号の少なくとも一方から前記事象関連電位を抽出する抽出部と、
をさらに備え、
前記評価部は、
前記事象関連電位の代表値を算出する、
請求項1に記載の自閉症スペクトラム障害診断支援装置。
【請求項3】
前記事象関連電位の代表値は、
前記聴覚刺激部が前記環境音を出力した後の前記事象関連電位の振幅の平均値である、
請求項2に記載の自閉症スペクトラム障害診断支援装置。
【請求項4】
前記事象関連電位の代表値は、
前記聴覚刺激部が前記環境音を出力した後200~600msの前記事象関連電位の振幅の平均値である、
請求項2又は3に記載の自閉症スペクトラム障害診断支援装置。
【請求項5】
前記電極は、
拡張10-20法におけるP7の位置に取り付けられる、
請求項2から4のいずれか一項に記載の自閉症スペクトラム障害診断支援装置。
【請求項6】
前記電極は、
拡張10-20法におけるPO7の位置に取り付けられる、
請求項2から5のいずれか一項に記載の自閉症スペクトラム障害診断支援装置。
【請求項7】
前記視覚刺激部は、
前記画像を示す前及び前記聴覚刺激部が前記環境音を出力する前に、前記被験者に凝視点の画像を示す、
請求項2から6のいずれか一項に記載の自閉症スペクトラム障害診断支援装置。
【請求項8】
視覚刺激として提示される視対象と聴覚刺激として提示される環境音の音源とが一致するか否かを判断するプライミング課題に従事する被験者の事象関連電位に基づいて、前記被験者の自閉症傾向を評価する評価ステップを含む、
自閉症スペクトラム障害診断支援方法。
【請求項9】
コンピュータを、
視覚刺激として提示される視対象と聴覚刺激として提示される環境音の音源とが一致するか否かを判断するプライミング課題に従事する被験者の事象関連電位に基づいて、前記被験者の自閉症傾向を評価する評価部として機能させる、
プログラム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、自閉症スペクトラム障害診断支援装置、自閉症スペクトラム障害診断支援方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
自閉症は、社会的・コミュニケーション障害の連続体(スペクトラム)上にあると考えられ、自閉症スペクトラム障害とも言われる。健常者と自閉性障害者との間に明確な境界を設定せずに連続体として自閉症傾向を評価する方法が考案されている。非特許文献1には、健常な知能を有する成人の自閉症スペクトラム上の個人差を測定できる自己回答式の尺度として自閉症スペクトラム指数(Autism-Spectrum Quotient、以下「AQ」ともいう)が提案されている。
【0003】
AQは、自閉症スペクトラム障害の症状を特徴づける5つの領域(社会的スキル、注意の切り替え、細部への注意、コミュニケーション及び想像力)についての各10問ずつの50問の回答に基づいて評価される。回答形式は、4肢選択の強制選択法である。各質問に対する回答が自閉症傾向とされる回答の場合にAQスコアが加算される。
【0004】
一方、思考又は認知による脳電気生理学的な活動を反映する事象関連電位(Event-Related Potential、以下「ERP」ともいう)を用いて、神経学的障害を評価する方法が提案されている。特許文献1には、P300が統合失調症のマーカーとなり得ることが示されている。P300とは、高頻度の刺激と低頻度の刺激とをランダムに与えて、低頻度の刺激が提示された数を数えるオドポール課題において、低頻度の刺激が提示されたときに潜時300ms付近に現れるERPである。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特表2016-501056号公報
【0006】

【非特許文献1】若林明雄、「自閉症スペクトラム指数(AQ)日本語版について」、自閉症とADHDの子どもたちへの教育支援とアセスメント(「自閉症児・ADHD児における社会的障害の特徴と教育的支援に関する研究」報告書)、独立行政法人国立特殊教育総合研究所、2003年2月、p.47-56
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
AQは、被験者が自閉症スペクトラム障害にあてはまるかどうかという概略的な診断に使用できる。しかし、被験者自身が回答するAQでは、回答の基準に個人差が生じる懸念がある。このため、自閉症傾向が同じ程度の場合でも、スコアが異なる場合がある。
【0008】
特許文献1に開示された神経学的障害の評価は、ERPを用いるため、被験者の統合失調症を客観的に評価できる。しかし、自閉症スペクトラム障害と統合失調症とは異なる疾患であって、P300が自閉症スペクトラム障害の症状の評価に適用できるか否かは不明である。
【0009】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、自閉症傾向を客観的に評価することができる自閉症スペクトラム障害診断支援装置、自閉症スペクトラム障害診断支援方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の観点に係る自閉症スペクトラム障害診断支援装置は、
視覚刺激として呈示される視対象と聴覚刺激として呈示される環境音の音源とが一致するか否かを判断するプライミング課題に従事する被験者の事象関連電位に基づいて、前記被験者の自閉症傾向を評価する評価部を備える。
【0011】
この場合、上記発明の第1の観点に係る自閉症スペクトラム障害診断支援装置は、
前記視覚刺激として前記視対象の画像を前記被験者に示す視覚刺激部と、
前記視覚刺激部が前記画像を示した後に、前記聴覚刺激として前記環境音を出力する聴覚刺激部と、
前記被験者の左後頭部に取り付けられた電極を介して前記被験者の脳波信号を測定する測定部と、
前記視対象と前記音源とが一致する試行において測定された脳波信号及び前記視対象と前記音源とが一致しない試行において測定された脳波信号の少なくとも一方から前記事象関連電位を抽出する抽出部と、
をさらに備え、
前記評価部は、
前記事象関連電位の代表値を算出する、
こととしてもよい。
【0012】
また、前記事象関連電位の代表値は、
前記聴覚刺激部が前記環境音を出力した後の前記事象関連電位の振幅の平均値である、
こととしてもよい。
【0013】
また、前記事象関連電位の代表値は、
前記聴覚刺激部が前記環境音を出力した後200~600msの前記事象関連電位の振幅の平均値である、
こととしてもよい。
【0014】
また、前記電極は、
拡張10-20法におけるP7の位置に取り付けられる、
こととしてもよい。
【0015】
また、前記電極は、
拡張10-20法におけるPO7の位置に取り付けられる、
こととしてもよい。
【0016】
また、前記視覚刺激部は、
前記画像を示す前及び前記聴覚刺激部が前記環境音を出力する前に、前記被験者に凝視点の画像を示す、
こととしてもよい。
【0017】
本発明の第2の観点に係る自閉症スペクトラム障害診断支援方法は、
視覚刺激として提示される視対象と聴覚刺激として提示される環境音の音源とが一致するか否かを判断するプライミング課題に従事する被験者の事象関連電位に基づいて、前記被験者の自閉症傾向を評価する評価ステップを含む。
【0018】
本発明の第3の観点に係るプログラムは、
コンピュータを、
視覚刺激として提示される視対象と聴覚刺激として提示される環境音の音源とが一致するか否かを判断するプライミング課題に従事する被験者の事象関連電位に基づいて、前記被験者の自閉症傾向を評価する評価部として機能させる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、自閉症傾向を客観的に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】自閉症スペクトラム障害診断支援システムの構成及び利用の態様を示す図である。
【図2】視対象の一部を示す図である。
【図3】図1に示す自閉症スペクトラム障害診断支援装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【図4】図1に示す自閉症スペクトラム障害診断支援装置の機能構成を示すブロック図である。
【図5】プライミング課題の時間構成を示す図である。
【図6】プライミング課題を行う被験者のERPを示す図である。
【図7】自閉症スペクトラム障害診断支援装置による評価処理のフローチャートを示す図である。
【図8】実施例におけるERPの平均振幅とAQスコアとを示す図である。
【図9】実施例におけるERPの平均振幅と細部への注意に関するスコアとを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本発明は下記の実施の形態及び図面によって限定されるものではない。

【0022】
(実施の形態)
本発明の実施の形態に係る自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder、以下、単に「ASD」とする)診断支援システム100について説明する。図1は、本実施の形態に係るASD診断支援システム100の構成及び利用の態様を示す。

【0023】
ASD診断支援システム100は、プライミング課題に従事する被験者200の脳波信号を解析して被験者200の自閉症傾向を評価するためのシステムである。自閉症傾向とは、ASDの特性を有する状態をいう。

【0024】
プライミング課題とは、先行する刺激の処理が後続の刺激の処理を促進又は抑制するプライミング効果が得られる課題である。本実施の形態では、被験者200は、視覚刺激及び聴覚刺激を1試行に含むプライミング課題を行う。該プライミング課題では、被験者200は、視覚刺激として呈示される視対象と聴覚刺激として呈示される環境音の音源とが一致するか否かを1試行ごとに判断する。

【0025】
プライミング課題における被験者200に呈示する刺激の順番は特に限定されない。本実施の形態では、視覚刺激の呈示後に聴覚刺激が呈示される。ASD診断支援システム100において、被験者200に与える視覚刺激及び聴覚刺激は、ASD診断支援装置1によって制御される。

【0026】
ASD診断支援装置1は、ディスプレイ等の表示装置2と接続されている。ASD診断支援装置1は、表示装置2を介して、視対象の画像を被験者200に示す。視対象は、特有の環境音を発する音源となり得るものであれば特に限定されず、動物、コンピュータ用品、コミュニケーションツール、台所用品、楽器、スポーツ、機械、乗物、武器及び工具等である。より具体的には、視対象は図2に例示される。

【0027】
図1に戻って、ASD診断支援装置1は、スピーカー等の音声出力装置3と接続されている。ASD診断支援装置1は、音声出力装置3を介して、先行する視覚刺激で画像が示された視対象と音源とが一致する環境音(一致の環境音)及び該視対象と音源とが一致しない環境音(不一致の環境音)を聴覚刺激として出力する。プライミング課題の1試行において、一致の環境音及び不一致の環境音のいずれかが音声出力装置3から出力される。

【0028】
例えば、視対象が動物、楽器及び機械の場合、一致の環境音は、それぞれ動物の鳴き声、楽器の音及び機械の動作音である。すなわち、視覚刺激における視対象と聴覚刺激における環境音の音源とが概念上一致する一致の試行では、視対象がトランペットであるのに対して環境音がトランペットを吹いた際の音である。一方、視覚刺激における視対象と聴覚刺激における環境音の音源とが概念上一致しない不一致の試行では、視対象が鍵であるのに対して環境音が馬の鳴き声である。

【0029】
ASD診断支援装置1は、マウス等の入力装置4と接続されている。入力装置4は、左ボタン4aと右ボタン4bを備え、各ボタンに対応する2つの識別可能な入力信号をASD診断支援装置1に入力する。被験者200は、出力された環境音が一致の環境音であると判断した場合には左ボタン4aを押下する。一方、被験者200は、出力された環境音が不一致の環境音であると判断した場合には右ボタン4bを押下する。視覚刺激の呈示後に聴覚刺激が呈示され、被験者200が入力装置4の左ボタン4a又は右ボタン4bを押下することで1試行のプライミング課題が完了する。

【0030】
ASD診断支援装置1は、電極5と接続されている。電極5には、基準電極と複数の探査電極とが含まれる。電極5は、拡張10-20法に準拠してヘッドキャップに配置されている。被験者200がヘッドキャップを装着することで、電極5が頭皮に接触する。ASD診断支援装置1は、電極5を介して、プライミング課題を行う被験者200の脳波信号を取得する。

【0031】
次に、ASD診断支援装置1のハードウェア構成について、図3を参照して説明する。ASD診断支援装置1は、ROM(Read Only Memory)10と、RAM(Random Access Memory)20と、外部記憶装置30と、脳波計40と、CPU(Central Processing Unit)50と、を備える。ROM10と、RAM20と、外部記憶装置30と、脳波計40と、CPU50とは、装置内バスで相互に接続されている。

【0032】
ROM10は、各種初期設定、ハードウェアの検査及びソフトウェアプログラムのロード等を行うための初期プログラム等を記憶する。RAM20は、CPU50が実行する各種ソフトウェアプログラム及びソフトウェアプログラムの実行に必要なデータ等を一時的に記憶する。外部記憶装置30は、ハードディスク等であって、各種ソフトウェアプログラム及びソフトウェアプログラムの実行に必要なパラメータ等の各種データを記憶する。

【0033】
脳波計40は、電極5を介して、基準電極と探査電極との電位差に対応する被験者200の脳波信号を測定する。脳波信号を歪みなく低ノイズで測定するために、脳波計40は、帯域通過フィルタを用いる。脳波計40は、脳波信号を増幅しアナログ/デジタル変換して数値化する。

【0034】
CPU50は、データを送信可能に表示装置2及び音声出力装置3に接続されている。また、CPU50は、データを受信可能に入力装置4に接続されている。CPU50は、外部記憶装置30に記憶されたソフトウェアプログラムをRAM20に読み出して、ソフトウェアプログラムを実行制御することにより、以下で説明する機能構成を実現する。

【0035】
図4を参照して、ASD診断支援装置1の機能構成を説明する。ASD診断支援装置1は、入力部51と、記憶部52と、視覚刺激部53と、聴覚刺激部54と、測定部55と、抽出部56と、評価部57と、を備える。

【0036】
入力部51は、入力装置4とCPU50とで実現される。入力部51は、入力装置4から入力された左ボタン4a及び右ボタン4bに対応する入力信号を視覚刺激部53に出力する。また、入力部51は、聴覚刺激の呈示後に被験者200が押下した左ボタン4a又は右ボタン4bに対応する入力信号に基づいて、被験者200の判断の正否を試行ごとに記憶部52に記憶させる。

【0037】
記憶部52は、外部記憶装置30とCPU50とで実現される。記憶部52は、視覚刺激で呈示する視対象の画像に対応する画像データと、聴覚刺激で呈示する環境音に対応する音データとを記憶する。より詳細には、記憶部52は、視対象の画像に対応する画像データと、一致の環境音及び不一致の環境音に対応する音データのいずれか一方とを対応付けて記憶する。

【0038】
視覚刺激部53は、視覚刺激として視対象の画像を被験者200に示す。視覚刺激部53は、記憶部52を参照し、視対象の画像に対応する画像データを表示装置2に出力する。

【0039】
聴覚刺激部54は、視覚刺激部53が画像を示した後に、聴覚刺激として環境音を出力する。より詳細には、聴覚刺激部54は、記憶部52を参照し、視覚刺激部53が示した画像データに対応付けられた音データを音声出力装置3に出力する。これにより、一致の試行においては一致の環境音が出力され、不一致の試行においては、不一致の環境音が出力される。

【0040】
図5は、プライミング課題の1試行の時間構成を示す図である。被験者200による入力装置4を介した入力を契機に、視覚刺激部53は、500msの凝視点の画像、400msの視対象の画像、1000msの凝視点の画像、400msのブランクの画像(黒色背景画像)及びフィードバックの画像を表示する。聴覚刺激部54は、ブランクの画像が示される400msの間に環境音を出力する。聴覚刺激の呈示後、被験者200は、聴こえた環境音が一致の環境音であるか不一致の環境音であるかを判断して、左ボタン4a又は右ボタン4bを押下する。視覚刺激部53は、記憶部52を参照し、被験者200の判断の正否等の情報をフィードバックの画像として示す。

【0041】
図5に示す時間構成の場合、記憶部52は、凝視点の画像、視対象の画像、凝視点の画像、ブランクの画像及びフィードバックの画像を、それぞれ上記の時間表示するように連結した画像データに、一致の環境音又は不一致の環境音に対応する音データを対応付けて記憶してもよい。

【0042】
本実施の形態では、一致の試行を100回及び不一致の試行を100回として、プライミング課題の試行回数は200回である。この場合、記憶部52は、一致の試行用として、100種類の視対象の画像に対応する画像データと音源が各視対象に一致する環境音に対応する音データとを対応付けて記憶する。また、記憶部52は、不一致の試行用として、100種類の視対象の画像に対応する画像データと音源が各視対象に一致しない環境音に対応する音データとを対応付けて記憶する。

【0043】
図4に戻って、測定部55は、脳波計40とCPU50とで実現される。測定部55は、被験者200に取り付けられた電極5を介して被験者200の脳波信号を測定する。探査電極は、被験者200の左後頭部に取り付けられる。好ましくは、探査電極は、拡張10-20法におけるP7及びPO7の位置に配置される。測定部55は、測定した脳波信号を数値化し、記憶部52に記憶させる。

【0044】
抽出部56は、脳波信号からERPを抽出する。ERPは持続して生じる自発的な脳の電気活動(背景脳波)に重畳して現れる。このため、1試行ごとのERPの波形を直接観察するのは難しい。そこで、上記のように複数回の試行で得られた脳波波形を事象の生起時点にそろえて加算平均する。こうすることで、事象とは時間的に無関係に生じる脳波成分が相殺され、事象に時間的に関連した電位としてERPが抽出できる。

【0045】
ERPを抽出する解析区間は、特に限定されず、例えば聴覚刺激の呈示前から聴覚刺激の呈示後600ms、800ms、900ms又は1000msまでである。より具体的には、抽出部56は、脳波信号の基線として聴覚刺激の呈示前100msから聴覚刺激の呈示までの平均電位を解析区間の脳電位から差し引き、加算平均法でERPを抽出する。

【0046】
抽出部56は、一致の試行において測定された脳波信号から一致のERPを抽出する。また、抽出部56は、不一致の試行において測定された脳波信号から不一致のERPを抽出する。抽出部56は、一致のERPと不一致のERPとを記憶部52に記憶させる。

【0047】
図6は、拡張10-20法におけるP7の位置の探査電極を介して測定された脳波信号から抽出されたERPを時間に対してプロットした波形を示す。時間0msは聴覚刺激部54が視対象に一致の環境音又は不一致の環境音の出力を開始した時点tに対応する(図5参照)。一致のERPと不一致のERPとで、200ms以降の波形が特に大きく相違する。

【0048】
評価部57は、視覚刺激として呈示される視対象と聴覚刺激として呈示される環境音の音源とが一致するか否かを判断するプライミング課題に従事する被験者200のERPに基づいて、被験者200の自閉症傾向を評価する。評価部57は、ERPの代表値として、一致のERPの代表値及び不一致のERPの代表値の少なくとも一方を算出する。ERPの代表値は、例えばERPの振幅の平均値、中央値及び最頻値である。

【0049】
下記実施例に示すように、一致の試行及び不一致の試行それぞれにおいて、視覚刺激後のERPの振幅の平均値がAQスコア等の自閉症傾向の指標に相関する。そこで、好ましくは、評価部57は、ERPの代表値として、聴覚刺激部54が環境音を出力した後の一致のERPの振幅の平均値及び不一致のERPの振幅の平均値をそれぞれ算出する。好適には、評価部57は、聴覚刺激部54が環境音を出力した後100~800ms、150~750ms、180~650ms又は200~600msの一致のERPの振幅の平均値及び不一致のERPの振幅の平均値をそれぞれ算出する。

【0050】
次に、図7を参照して、ASD診断支援装置1による評価処理のフローチャートを説明する。評価処理が開始されると、入力部51は、プライミング課題の試行回数nを0にする(ステップS1)。入力部51は、被験者200による入力を待つ(ステップS2;No)。被験者200が入力すると(ステップS2;Yes)、測定部55は被験者200の脳波信号を測定し(ステップS3)、視覚刺激部53は凝視点の画像を500ms間表示する(ステップS4)。なお、測定部55は、被験者200の脳波信号を聴覚刺激呈示後800msまで測定する。続いて、視覚刺激部53は、視対象の画像を400ms間表示する(ステップS5)。詳細には、視覚刺激部53は一致の試行用の画像データ及び不一致の試行用の画像データの内、これまでに表示されていない画像データから無作為に選択した画像データを表示装置2に出力する。さらに、視覚刺激部53は、凝視点の画像を1000ms間表示する(ステップS6)。

【0051】
次に、聴覚刺激部54は、視覚刺激部53が示した画像データに対応付けられた音データに対応する環境音を400ms間出力する(ステップS7)。その後、視覚刺激部53は、ブランクの画像を1100ms間表示する(ステップS8)。視覚刺激部53は、フィードバックの画像を表示する(ステップS9)。そして、入力部51は、nに1を加算する(ステップS10)。

【0052】
nが200未満の場合(ステップS11;No)、入力部51は、ステップS2に戻る。nが200の場合(ステップS11;Yes)、抽出部56は、ERPを抽出する(ステップS12)。最後に、評価部57は、被験者200のERPに基づいて、被験者200の自閉症傾向を評価する(ステップS13)。そして、ASD診断支援装置1は評価処理を終了する。

【0053】
以上詳細に説明したように、本実施の形態に係るASD診断支援装置1によれば、視覚刺激と聴覚刺激とを組み合わせたプライミング課題に従事する被験者200のREPに基づいて自閉症傾向を評価する。該ERPは自閉症傾向を反映するうえ、評価に被験者200による質問への回答が必要ないため、自閉症傾向を客観的に評価することができる。ASD診断支援装置1による客観的な自閉症傾向の評価は、ASDの早期発見又は診断に有用である。また、ASD診断支援装置1によれば、健常な被験者200から重い自閉症の被験者200までの自閉症傾向を連続体として評価することができる。

【0054】
本実施の形態では、ERPの代表値として、聴覚刺激部54が一致の環境音及び不一致の環境音を出力した後200~600msのERPの振幅の平均値をそれぞれ算出するようにした。環境音の出力後200~600msにおいて拡張10-20法におけるP7の位置に配置された探査電極を介して測定された脳波信号から抽出された不一致のERPの振幅の平均値は、AQスコア及びコミュニケーションに関する指標に相関する。このため、自閉症傾向の程度及びコミュニケーションに関する症状の程度を客観的に評価することができる。一方、環境音の出力後200~600msにおいてP7の位置に配置された探査電極を介して測定された脳波信号から抽出された一致のERPの振幅の平均値は、細部への注意に関する指標に相関する。このため、細部への注意に関する症状の程度を客観的に評価することができる。

【0055】
また、環境音の出力後200~600msにおいて拡張10-20法におけるPO7の位置に配置された探査電極を介して測定された脳波信号から抽出された一致のERPの振幅の平均値は、コミュニケーションに関する指標に相関する。このため、コミュニケーションに関する症状の程度を客観的に評価することができる。

【0056】
また、ASD診断支援装置1は、環境音を出力する前に、凝視点の画像を示してもよいこととした。これにより、被験者200を視覚刺激と聴覚刺激の認知に集中させることができるので、プライミング課題による電気生理学的反応をより反映したERPを抽出することができる。この結果、自閉症傾向をより適正に評価することができる。

【0057】
なお、上記実施の形態では、記憶部52が凝視点の画像、視対象の画像、ブランクの画像及びフィードバックの画像を連結した画像データを記憶してもよいこととしたが、これに限らない。例えば、記憶部52が凝視点の画像、視対象の画像、ブランクの画像及びフィードバックの画像をそれぞれ個別に記憶し、視覚刺激部53がタイマーを参照して、所定のタイミングで各画像を表示するようにしてもよい。なお、凝視点の画像は、被験者200の注意を引く画像であれば、任意の画像でよく、例えば、図形、記号等である。

【0058】
また、入力部51は、タイマーを参照して、視覚刺激呈示から被験者200が左ボタン4a又は右ボタン4bを押下するまでの反応時間も試行ごとに記憶部52に記憶させてもよい。また、評価部57は、記憶部52を参照し、終了した試行における被験者200の判断の正解率を算出して、記憶部52に記憶させてもよい。視覚刺激部53は、フィードバックの画像に、判断の正否とともに、反応時間及びそれまでに終了した試行における正解率を示してもよい。なお、表示装置2及び音声出力装置3へのASD診断支援装置1からの各種データの送信、入力装置4からASD診断支援装置1への入力信号の入力は無線通信で行うようにしてもよい。

【0059】
なお、プライミング課題の試行回数は、200回に限らない。試行回数は、複数回、好ましくは数十回、より好ましくは数百回である。好適には、プライミング課題の試行回数は、100~300回、150~250回又は200回である。また、プライミング課題では、聴覚刺激の呈示後に視覚刺激を呈示するようにしてもよい。

【0060】
また、電極5は、国際式10-20法に準拠してヘッドキャップに配置されてもよい。上記の拡張10-20法におけるP7は、国際式10-20法におけるT5に相当する。

【0061】
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。

【0062】
刺激呈示用コンピュータに、ディスプレイ、スピーカー及びマウスを接続した。ディスプレイの解像度は1280×960ピクセルである。ディスプレイのリフレッシュレートは60Hzとした。ディスプレイは薄暗く静かな部屋に設置した。被験者が座った状態で被験者の目とディスプレイとの間の距離が57cmになるように、ディスプレイ前に椅子を配置した。

【0063】
刺激呈示用コンピュータは、椅子に座った被験者に図5に1試行の時間構成を示すプライミング課題を行わせた。被験者がマウスをクリックすると、1試行が開始される。まず、ディスプレイに凝視点の画像が500ms間表示される。次に視対象の画像がディスプレイに400ms間表示される。そして、ディスプレイに凝視点の画像が1000ms間表示された後、一致の試行の場合、先に表示された視対象に音源が一致する環境音がスピーカーから400ms間出力される。不一致の試行の場合、先に表示された視対象に音源が一致しない環境音がスピーカーから400ms間出力される。続いてディスプレイに黒の背景画像が1100ms間表示される。

【0064】
例えば、視覚刺激では、図5に示すように視対象として羊の画像がディスプレイに表示される。一致の試行では、聴覚刺激において羊の鳴き声がスピーカーから出力され、不一致の試行では、音源が羊ではない、例えばトランペットの音がスピーカーから出力される。

【0065】
被験者は、聴こえた環境音の音源が表示された視対象と一致すると判断した場合は、マウスの左ボタンを押す。一方、聴こえた環境音の音源が表示された視対象と一致しない環境音と判断した場合、被験者はマウスの右ボタンを押す。最後に、フィードバックとして、被験者の判断の正否、聴覚刺激の呈示から被験者がマウスの左ボタン又は右ボタンを押下するまでの反応時間、これまでの試行における判断の正解率がディスプレイに表示される。なお、聴覚刺激の呈示から1500ms以内に左ボタン又は右ボタンが押下されなかった試行は、応答なしとした。

【0066】
本実施例では、一致の試行100回及び不一致の試行100回を無作為の順番で含む200試行を、医師によりASDと診断された5名を含む34名の被験者それぞれに行わせた。

【0067】
視対象の画像データ及び環境音の音データを作成するために、multimodal stimulus set(MULTIMOST、Till R.Schneider、外2名、「Multisensory identification of natural objects in a two-way crossmodal priming paradigm」、Experimental Psychology、2008年、Vol.55(2)、pp.121-132)をwebサイトから取得した。取得した画像のサイズを約19.3°×20.5°に統一し、環境音のサンプリング時間が22kHz及び環境音の大きさが約70dBになるように調整してプライミング課題に用いた。視対象の種類は200種類で、その一部を図2に示す。

【0068】
プライミング課題を行う被験者の頭皮に、拡張10-20法に準拠して探査電極を取り付けた。基準電極は、FCzとした。脳波信号は、脳波記録計(Neurofax、日本光電社製)を用いて測定した。サンプリング周波数1kHzで脳波信号をデジタル変換し、記録用コンピュータに記録した。フィルタはオンライン処理としてノッチフィルター60Hzを、オフライン処理として帯域通過フィルタ1-40Hzを使用した。

【0069】
計測した脳波信号はBESA ver.5.2.2(MEGIS Software GmbH社製)を用いて処理した。ERP解析の解析区間は、聴覚刺激呈示前100msから聴覚刺激呈示後800ms間とした。ERP解析における基線は、聴覚刺激呈示前100msからオンセットまでの平均電位を用いた。ERP解析では、一致及び不一致の試行それぞれについて、脳電位を加算平均法により各被験者のERPを抽出した。

【0070】
一方、各被験者が回答したAQ日本語版に基づいて、各被験者のAQスコアを評価した。

【0071】
(結果)
図8は、各被験者のAQスコアに対して、不一致の試行における聴覚刺激の呈示後200~600msのP7の探査電極を介して測定された脳波信号から抽出されたERPの平均振幅をプロットした図である。ERPの平均振幅は、AQスコアと相関していた(相関係数r=0.4)。なお、ASDと診断された被験者は、図8において四角の印で示されている。

【0072】
図9は、各被験者の細部への注意に関する10問に基づくスコアに対して、一致の試行における聴覚刺激の呈示後200~600msのP7の探査電極を介して測定された脳波信号から抽出されたERPの平均振幅をプロットした図である。ERPの平均振幅は、細部への注意に関するスコアと相関していた(相関係数r=0.37)。なお、ASDと診断された被験者は、図9において四角の印で示されている。

【0073】
表1は、各探査電極について、一致及び不一致の試行それぞれの聴覚の呈示後200~600msのERPの平均振幅と、AQスコア及び5つの領域の各スコアとの相関係数を示す。一致の試行におけるP7の探査電極を介して測定された脳波信号から抽出されたERPの平均振幅が細部への注意に関するスコアに有意に相関していた(p<0.05)。不一致の試行におけるP7の探査電極を介して測定された脳波信号から抽出されたERPの平均振幅がAQスコア及びコミュニケーションに関するスコアにそれぞれ有意に相関していた(p<0.05)。また、一致の試行におけるPO7の探査電極を介して測定された脳波信号から抽出されたERPの平均振幅がコミュニケーションに関するスコアに有意に相関していた(p<0.01)。

【0074】
【表1】
JP2018175530A_000003t.gif

【0075】
上述した実施の形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本発明の範囲内とみなされる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、ASDの診断支援に好適である。
【符号の説明】
【0077】
1 自閉症スペクトラム障害診断支援装置
2 表示装置
3 音声出力装置
4 入力装置
4a 左ボタン
4b 右ボタン
5 電極
10 ROM
20 RAM
30 外部記憶装置
40 脳波計
50 CPU
51 入力部
52 記憶部
53 視覚刺激部
54 聴覚刺激部
55 測定部
56 抽出部
57 評価部
100 自閉症スペクトラム障害診断支援システム
200 被験者
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8