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明細書 :トランス及び該トランスを用いたレクテナ

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-190800 (P2018-190800A)
公開日 平成30年11月29日(2018.11.29)
発明の名称または考案の名称 トランス及び該トランスを用いたレクテナ
国際特許分類 H01L  41/107       (2006.01)
H02J  50/27        (2016.01)
H01Q   1/50        (2006.01)
H01L  41/316       (2013.01)
H01L  41/083       (2006.01)
H01L  41/47        (2013.01)
C23C  14/48        (2006.01)
C23C  14/34        (2006.01)
FI H01L 41/107
H02J 50/27
H01Q 1/50
H01L 41/316
H01L 41/083
H01L 41/47
C23C 14/48 D
C23C 14/34 R
請求項の数または発明の数 10
出願形態 OL
全頁数 22
出願番号 特願2017-090568 (P2017-090568)
出願日 平成29年4月28日(2017.4.28)
発明者または考案者 【氏名】柳谷 隆彦
【氏名】唐澤 嶺
出願人 【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110001069、【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 4K029
5J046
Fターム 4K029AA24
4K029BA58
4K029CA06
4K029CA08
4K029CA15
4K029DA08
4K029DC03
4K029DC15
4K029DC35
4K029DC39
4K029JA02
5J046TA03
要約 【課題】電圧を昇圧するためのトランスを提供する。
【解決手段】トランス10は、薄膜に垂直な垂直分極成分を有する1枚のみの圧電体薄膜110から成る、又は同一の厚さを持ち同一の圧電材料から成る複数枚の圧電体薄膜を、隣接する圧電体薄膜同士で垂直分極成分が互いに逆方向になるように複数枚積層して成る第1圧電体薄膜形成体11と、第1圧電体薄膜形成体11と直接又は振動伝達体(絶縁体層13)を介して接触し、圧電体薄膜110と同じ厚さを持ち同じ圧電材料から成る圧電体薄膜120-1~120-10を、圧電体薄膜110よりも多い枚数だけ隣接する圧電体薄膜120-1~120-10同士で垂直分極成分が互いに逆方向になるように積層して成り、第1圧電体薄膜形成体11に隣接する圧電体薄膜120-1と該圧電体薄膜に隣接する圧電体薄膜110同士で垂直分極成分が互いに逆方向である第2圧電体薄膜形成体12とを備える。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
a) 圧電材料から成る薄膜であって該薄膜に垂直な方向の分極ベクトルの成分である垂直分極成分を有する1枚のみの圧電体薄膜から成る、又は同一の厚さを持ち同一の圧電材料から成る複数枚の圧電体薄膜を、隣接する圧電体薄膜同士で垂直分極成分が互いに逆方向になるように複数枚積層して成る第1圧電体薄膜形成体と、
b) 少なくとも一部で前記第1圧電体薄膜形成体と直接又は振動伝達体を介して接触し、前記第1圧電体薄膜形成体の圧電体薄膜と同じ厚さを持ち同じ圧電材料から成る圧電体薄膜を、前記第1圧電体薄膜形成体の圧電体薄膜よりも多い枚数だけ該第1圧電体薄膜形成体の圧電体薄膜に平行に、隣接する圧電体薄膜同士で垂直分極成分が互いに逆方向になるように積層して成り、前記第1圧電体薄膜形成体に隣接する圧電体薄膜と該圧電体薄膜に隣接する該前記第1圧電体薄膜形成体の圧電体薄膜同士で垂直分極成分が互いに逆方向である第2圧電体薄膜形成体と、
c) 前記第1圧電体薄膜形成体の厚さ方向の両端に設けられた1対の第1電極と、
d) 前記第2圧電体薄膜形成体の厚さ方向の両端に設けられた1対の第2電極と
を備えることを特徴とするトランス。
【請求項2】
a) 圧電材料から成る薄膜であって該薄膜に平行な方向の分極ベクトルの成分である平行分極成分を有する1枚のみの圧電体薄膜から成る、又は同一の厚さを持ち同一の圧電材料から成る複数枚の圧電体薄膜を、隣接する圧電体薄膜同士で平行分極成分が互いに逆方向になるように複数枚積層して成る第1圧電体薄膜形成体と、
b) 少なくとも一部で前記第1圧電体薄膜形成体と直接又は振動伝達体を介して接触し、前記第1圧電体薄膜形成体の圧電体薄膜と同じ厚さを持ち同じ圧電材料から成る圧電体薄膜を、前記第1圧電体薄膜形成体の圧電体薄膜よりも多い枚数だけ該第1圧電体薄膜形成体の圧電体薄膜に平行に、隣接する圧電体薄膜同士で平行分極成分が互いに逆方向になるように積層して成り、前記第1圧電体薄膜形成体に隣接する圧電体薄膜と該圧電体薄膜に隣接する該前記第1圧電体薄膜形成体の圧電体薄膜同士で平行分極成分が互いに逆方向である第2圧電体薄膜形成体と、
c) 前記第1圧電体薄膜形成体の厚さ方向の両端に設けられた1対の第1電極と、
d) 前記第2圧電体薄膜形成体の厚さ方向の両端に設けられた1対の第2電極と
を備えることを特徴とするトランス。
【請求項3】
a) 同一の厚さを持ち同一の圧電材料から成る複数枚の圧電体薄膜を、該圧電体薄膜に垂直な方向の分極ベクトルの成分である垂直分極成分が、隣接する圧電体薄膜同士で互いに逆方向になるように複数枚積層して成る第1圧電体薄膜形成体と、
b) 少なくとも一部で前記第1圧電体薄膜形成体と直接又は振動伝達体を介して接触し、該第1圧電体薄膜形成体と同じ厚さを持つ圧電体薄膜形成体であって、該第1圧電体薄膜形成体の圧電体薄膜と同じ圧電材料から成り垂直分極成分を有する1枚の圧電体薄膜から成る第2圧電体薄膜形成体と、
c) 前記第1圧電体薄膜形成体の厚さ方向の両端及び該第1圧電体薄膜形成体において隣接する圧電体薄膜同士の境界に設けられた第1電極と、
d) 前記第2圧電体薄膜形成体の厚さ方向の両端に設けられた1対の第2電極と
を備えることを特徴とするトランス。
【請求項4】
a) 同一の厚さを持ち同一の圧電材料から成る複数枚の圧電体薄膜を、該圧電体薄膜に平行な方向の分極ベクトルの成分である垂直分極成分が、隣接する圧電体薄膜同士で互いに逆方向になるように複数枚積層して成る第1圧電体薄膜形成体と、
b) 少なくとも一部で前記第1圧電体薄膜形成体と直接又は振動伝達体を介して接触し、該第1圧電体薄膜形成体と同じ厚さを持つ圧電体薄膜形成体であって、該第1圧電体薄膜形成体の圧電体薄膜と同じ圧電材料から成り平行分極成分を有する1枚の圧電体薄膜から成る第2圧電体薄膜形成体と、
c) 前記第1圧電体薄膜形成体の厚さ方向の両端及び該第1圧電体薄膜形成体において隣接する圧電体薄膜同士の境界に設けられた第1電極と、
d) 前記第2圧電体薄膜形成体の厚さ方向の両端に設けられた1対の第2電極と
を備えることを特徴とするトランス。
【請求項5】
前記第1圧電体薄膜形成体及び前記第2圧電体薄膜形成体における圧電体薄膜が、該圧電体薄膜と同じ圧電材料から成り分極が薄膜に平行である圧電体薄膜よりも大きい電気機械結合係数k152を有するように、分極が該薄膜の法線に対して傾斜していることを特徴とする請求項2又は4に記載のトランス。
【請求項6】
前記振動伝達体が絶縁材料から成ることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載のトランス。
【請求項7】
a) 電波を受信する電波受信部と、受信した電波の交流電気信号を出力する交流電気信号出力部を有するアンテナと、
b) 前記交流電気信号出力部が前記第1電極に接続された、請求項1~6のいずれかに記載のトランスと
を備えることを特徴とするレクテナ。
【請求項8】
さらに、前記トランスの第2電極に接続された、交流電力を直流電力に変換する整流回路を備えることを特徴とする請求項7に記載のレクテナ。
【請求項9】
請求項2に記載のトランスにおける第1圧電体薄膜形成体若しくは第2圧電体薄膜形成体、又は請求項4に記載のトランスにおける第1圧電体薄膜形成体を製造する方法であって、
Sc, Y, La, Pr, Nd, Sm, Gd, Dy, Ho, Tm, Ybから選択される1又は2以上の元素であるR及びAlを有するターゲットをスパッタすることにより、R及びAlを有するスパッタ粒子を形成し、基板を冷却しつつ該基板の表面に、前記スパッタ粒子を該表面の法線に対して傾斜した角度で入射させて該表面に堆積させることにより、0<x<1であるAlRxNから成る圧電体薄膜を所定の厚さまで成膜する単位成膜工程と、
前記スパッタ粒子が前記基板の表面に入射する軌跡の該表面への射影が180°回転するように前記ターゲットと該基板の相対的な位置を変更する位置変更工程と
をそれぞれ2回以上、交互に繰り返すことを特徴とする圧電体薄膜形成体製造方法。
【請求項10】
請求項2に記載のトランスにおける第1圧電体薄膜形成体若しくは第2圧電体薄膜形成体、又は請求項4に記載のトランスにおける第1圧電体薄膜形成体を製造する方法であって、
Sc, Y, La, Pr, Nd, Sm, Gd, Dy, Ho, Tm, Ybから選択される1又は2以上の元素であるR及びAlを有するターゲットをスパッタすることにより、R及びAlを有するスパッタ粒子を形成し、基板を冷却しつつ該基板の表面に、窒素イオンを含むイオンビームを該表面の法線に対して傾斜した角度で照射しつつ、前記スパッタ粒子を堆積させることにより0<x<1であるAlRxNから成る圧電体薄膜を所定の厚さまで成膜する単位成膜工程と、
前記イオンビームの前記基板の表面への射影が180°回転するように該イオンビームと該基板の相対的な位置を変更する位置変更工程と
それぞれ2回以上、交互に繰り返すことを特徴とする圧電体薄膜形成体製造方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧の大きさを変換するトランス、及び該トランスを用いた、電波を電力に変換するレクテナに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エネルギー問題やインフラの老朽化等の社会問題に対応するために、屋内外に多数の様々なセンサを設置し、それらのセンサで取得される大量のデータを収集して解析するという、センサを用いたビッグデータ技術が検討されている。個々のセンサを動作させるためにはそれらセンサに電力を供給する必要があるが、このように多数のセンサを用いる場合、個々のセンサを管理するには大きな手間を要するため、管理をほとんど行うことなく電力の供給を行うことが重要となる。例えば、商用電源から電力をセンサに供給する場合には、センサを設置する箇所毎に電力会社と契約したり、センサの設置箇所での既存の商用電源を使用するために設置箇所の所有者の許可を得る等の手間を要する。一方、センサの電源として太陽電池を用いると、管理の手間はさほど要しないが、曇天時や夜間には必要な電力を得ることができない。
【0003】
それに対して、屋内外を伝播する電波を電力に変換するレクテナは、商用電源のような管理の手間を要しないうえに、曇天時や夜間にも安定して電力を供給することができるという利点を有する。レクテナにより得ることができる電力は小さいものの、一般にセンサを動作させるためには電圧が所定のしきい値以上でありさえすれば電流は微弱であってもよいため、センサの電源としては使用することができる。その場合、レクテナには、電圧をしきい値電圧以上とするために、電波を変換して得た交流電力の電圧を昇圧するトランスを設ける(例えば特許文献1参照)。センサで使用する電力が直流電力である場合には、トランスの後段に整流回路を設ける。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特開2015-092802号公報
【特許文献2】特開2006-083010号公報
【特許文献3】特開2012-116736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のトランスは一般的なセンサよりも大きいため、従来のトランスを有するレクテナをセンサの電源として用いると、電源を含んだセンサの設置空間を大きく取る必要があり、センサの設置箇所が制約される。そのため、トランスを小型化することが望まれる。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、センサ用の電源において電圧を昇圧するために好適に用いることができるトランス、及び該トランスを用いたレクテナを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために成された本発明に係るトランスの第1の態様は、
a) 圧電材料から成る薄膜であって該薄膜に垂直な方向の分極ベクトルの成分である垂直分極成分を有する1枚のみの圧電体薄膜から成る、又は同一の厚さを持ち同一の圧電材料から成る複数枚の圧電体薄膜を、隣接する圧電体薄膜同士で垂直分極成分が互いに逆方向になるように複数枚積層して成る第1圧電体薄膜形成体と、
b) 少なくとも一部で前記第1圧電体薄膜形成体と直接又は振動伝達体を介して接触し、前記第1圧電体薄膜形成体の圧電体薄膜と同じ厚さを持ち同じ圧電材料から成る圧電体薄膜を、前記第1圧電体薄膜形成体の圧電体薄膜よりも多い枚数だけ該第1圧電体薄膜形成体の圧電体薄膜に平行に、隣接する圧電体薄膜同士で垂直分極成分が互いに逆方向になるように積層して成り、前記第1圧電体薄膜形成体に隣接する圧電体薄膜と該圧電体薄膜に隣接する該前記第1圧電体薄膜形成体の圧電体薄膜同士で垂直分極成分が互いに逆方向である第2圧電体薄膜形成体と、
c) 前記第1圧電体薄膜形成体の厚さ方向の両端に設けられた1対の第1電極と、
d) 前記第2圧電体薄膜形成体の厚さ方向の両端に設けられた1対の第2電極と
を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明に係るトランスの第2の態様は、
a) 圧電材料から成る薄膜であって該薄膜に平行な方向の分極ベクトルの成分である平行分極成分を有する1枚のみの圧電体薄膜から成る、又は同一の厚さを持ち同一の圧電材料から成る複数枚の圧電体薄膜を、隣接する圧電体薄膜同士で平行分極成分が互いに逆方向になるように複数枚積層して成る第1圧電体薄膜形成体と、
b) 少なくとも一部で前記第1圧電体薄膜形成体と直接又は振動伝達体を介して接触し、前記第1圧電体薄膜形成体の圧電体薄膜と同じ厚さを持ち同じ圧電材料から成る圧電体薄膜を、前記第1圧電体薄膜形成体の圧電体薄膜よりも多い枚数だけ該第1圧電体薄膜形成体の圧電体薄膜に平行に、隣接する圧電体薄膜同士で平行分極成分が互いに逆方向になるように積層して成り、前記第1圧電体薄膜形成体に隣接する圧電体薄膜と該圧電体薄膜に隣接する該前記第1圧電体薄膜形成体の圧電体薄膜同士で平行分極成分が互いに逆方向である第2圧電体薄膜形成体と、
c) 前記第1圧電体薄膜形成体の厚さ方向の両端に設けられた1対の第1電極と、
d) 前記第2圧電体薄膜形成体の厚さ方向の両端に設けられた1対の第2電極と
を備えることを特徴とする。
【0009】
第1及び第2の態様のトランスでは、圧電体薄膜の材料及び厚さにより定まる周波数を有する交流電圧を1対の第1電極の間に印加すると、第1圧電体薄膜形成体内には、圧電体薄膜の厚さを半波長とする振動が励起される。第1の態様では圧電体薄膜がそれに垂直な方向の分極ベクトルの成分(垂直分極成分)を有するため、圧電体薄膜は該圧電体薄膜に垂直な方向に振動する。一方、第2の態様では圧電体薄膜がそれに平行な方向の分極ベクトルの成分(平行分極成分)を有するため、圧電体薄膜は該圧電体薄膜に平行な方向に振動する。この振動は第1圧電体薄膜形成体から、直接又は振動伝達体を介して、該第1圧電体薄膜形成体の少なくとも一部で接触する第2圧電体薄膜形成体に伝播する。
【0010】
振動が伝播した第2圧電体薄膜形成体は、第1圧電体薄膜形成体の圧電体薄膜と同じ厚さであって同じ圧電材料から成る圧電体薄膜を有し、且つ、第1圧電体薄膜形成体の圧電体薄膜の分極と同じ方向の分極の成分(第1の態様では垂直分極成分、第2の態様では平行分極成分)を有するため、第2圧電体薄膜形成体内にも第1圧電体薄膜形成体の振動周波数と同じ周波数であって同じ方向の振動が生じる。この第2圧電体薄膜形成体の振動により、第2電極間に、該振動の周波数に対応する周波数を有する交流電圧が生じる。第2電極間の交流電圧の大きさは、第1電極間に印加した交流電圧に、第2圧電体薄膜形成体の圧電体薄膜の枚数を第1体圧電体薄膜形成体の圧電体薄膜の枚数で除した係数を乗じた値となる。第2圧電体薄膜の枚数は第1圧電体薄膜の枚数よりも多いため、第2電極間の交流電圧の大きさは、第1電極間に印加した交流電圧よりも大きくなる。
【0011】
このように、本発明に係る第1及び第2の態様のトランスは、第1電極間に印加した交流電圧を昇圧して第2電極間に取り出す昇圧トランスとして機能する。その反対に、第2圧電体薄膜形成体の共振周波数と同じ周波数の交流電圧を第2電極間に印加した場合には、第1電極間に、第2電極間の電圧よりも小さい交流電圧が取り出され、本発明に係る第1及び第2の態様のトランスは降圧トランスとして機能する。
【0012】
本発明に係るトランスの第3の態様は、
a) 同一の厚さを持ち同一の圧電材料から成る複数枚の圧電体薄膜を、該圧電体薄膜に垂直な方向の分極ベクトルの成分である垂直分極成分が、隣接する圧電体薄膜同士で互いに逆方向になるように複数枚積層して成る第1圧電体薄膜形成体と、
b) 少なくとも一部で前記第1圧電体薄膜形成体と直接又は振動伝達体を介して接触し、該第1圧電体薄膜形成体と同じ厚さを持つ圧電体薄膜形成体であって、該第1圧電体薄膜形成体の圧電体薄膜と同じ圧電材料から成り垂直分極成分を有する1枚の圧電体薄膜から成る第2圧電体薄膜形成体と、
c) 前記第1圧電体薄膜形成体の厚さ方向の両端及び該第1圧電体薄膜形成体において隣接する圧電体薄膜同士の境界に設けられた第1電極と、
d) 前記第2圧電体薄膜形成体の厚さ方向の両端に設けられた1対の第2電極と
を備えることを特徴とする。
【0013】
本発明に係るトランスの第4の態様は、
a) 同一の厚さを持ち同一の圧電材料から成る複数枚の圧電体薄膜を、該圧電体薄膜に平行な方向の分極ベクトルの成分である垂直分極成分が、隣接する圧電体薄膜同士で互いに逆方向になるように複数枚積層して成る第1圧電体薄膜形成体と、
b) 少なくとも一部で前記第1圧電体薄膜形成体と直接又は振動伝達体を介して接触し、該第1圧電体薄膜形成体と同じ厚さを持つ圧電体薄膜形成体であって、該第1圧電体薄膜形成体の圧電体薄膜と同じ圧電材料から成り平行分極成分を有する1枚の圧電体薄膜から成る第2圧電体薄膜形成体と、
c) 前記第1圧電体薄膜形成体の厚さ方向の両端及び該第1圧電体薄膜形成体において隣接する圧電体薄膜同士の境界に設けられた第1電極と、
d) 前記第2圧電体薄膜形成体の厚さ方向の両端に設けられた1対の第2電極と
を備えることを特徴とする。
【0014】
第3及び第4の態様のトランスでは、第1電極が上記のように設けられていることにより、第1圧電体薄膜形成体の各圧電体薄膜では厚さ方向の両端に1つずつ第1電極が存在することとなる。このような第1電極を用いて、第1圧電体薄膜形成体の圧電体薄膜の材料及び厚さにより定まる周波数を有する交流電圧を、各圧電体薄膜の厚さ方向の両端に印加する。ここで、各第1電極に付与する電位を第1圧電体薄膜形成体の厚さ方向に向かって交互に逆極性とすることにより、圧電体薄膜に印加される電圧の極性は隣接する圧電体薄膜同士で互いに逆極性となる。そして、垂直分極成分(第3の態様)又は平行分極成分(第4の態様)もまた、隣接する圧電体薄膜同士で互いに逆方向となっていることから、この交流電圧の印加によって、各圧電体薄膜は同じ方向に振動する。その結果、第1圧電体薄膜形成体全体には、該第1圧電体薄膜形成体全体の厚さを半波長とする振動が生成され、該振動が第2圧電体薄膜形成体に伝播する。
【0015】
振動が伝播した第2圧電体薄膜形成体は、第1圧電体薄膜形成体(の全体)と同じ厚さであって同じ圧電材料から成る圧電体薄膜を有し、且つ、第1圧電体薄膜形成体の圧電体薄膜の分極と同じ方向の分極の成分(第3の態様では垂直分極成分、第4の態様では平行分極成分)を有するため、第2圧電体薄膜形成体内にも第1圧電体薄膜形成体の振動周波数と同じ周波数であって同じ方向の振動が生じる。この第2圧電体薄膜形成体の振動により、第2電極間に、該振動の周波数に対応する周波数を有する交流電圧が生じる。ここで、第2電極間の圧電体薄膜の厚さが、第1圧電体薄膜形成体において互いに逆極性である2個の第1電極に挟まれる1枚の圧電体薄膜の厚さよりも大きいため、第2電極間に発生する交流電圧の大きさは、第1圧電体薄膜形成体における1枚の圧電体薄膜間に印加される交流電圧よりも大きくなる。
【0016】
このように、本発明に係る第3及び第4の態様のトランスは、第1電極間に印加した交流電圧を昇圧して第2電極間に取り出す昇圧トランスとして機能する。その反対に、第2圧電体薄膜形成体の共振周波数と同じ周波数の交流電圧を第2電極間に印加した場合には、第1圧電体薄膜形成体における個々の圧電体薄膜を挟む2枚の第1電極間に、第2電極間の電圧よりも小さい交流電圧が取り出され、本発明に係る第3及び第4の態様のトランスは降圧トランスとして機能する。
【0017】
第1又は第3の態様において、圧電体薄膜が有する垂直分極成分は、分極ベクトルが圧電体薄膜に垂直である場合のみならず、分極ベクトルが圧電体薄膜に対して傾斜している場合にも存在する。すなわち、分極ベクトルが圧電体薄膜に平行でなければ、垂直分極成分は存在する。また、第2又は第4の態様において、圧電体薄膜が有する平行分極成分は、分極ベクトルが圧電体薄膜に平行である場合のみならず、分極ベクトルが圧電体薄膜に対して傾斜している場合にも存在する。すなわち、分極ベクトルが圧電体薄膜に垂直でなければ、平行分極成分は存在する。
【0018】
圧電体薄膜の厚さは、電圧を変換する交流電圧の周波数と圧電体薄膜の材料に基づいて定める。圧電体薄膜を構成する圧電材料は、圧電体薄膜内を伝播する音波の音速を左右する。第1又は第2の態様では、当該音速をv、各圧電体薄膜の厚さをd、第1及び第2圧電体薄膜形成体内の振動の周波数、すなわち交流電圧の周波数をfとすると、第1及び第2圧電体薄膜形成体内の振動の波長λはλ=2dとなり、v=λf=2dfとなる。従って、各圧電体薄膜の厚さdは、d=v/(2f)とすればよい。一方、第3又は第4の態様では、音速をv、第1及び第2圧電体薄膜形成体の厚さをD、交流電圧の周波数をfとすると、D=v/(2f)とすればよい。例えば、第1又は第2の態様において、周波数fが1GHzであって、圧電体薄膜内の音速が10000m/secであれば、1枚当たりの圧電体薄膜の厚さdは5μmとなる。この場合において、例えば電圧を10倍に昇圧する場合には、圧電体薄膜は最少で、第1圧電体薄膜形成体に1枚、第2圧電体薄膜形成体に10枚、合計11枚設ければよいため、トランス全体の厚さは最小で55μmとなる。なお、圧電体薄膜内の音速は、縦波と横波で相違するため、留意する必要がある。
【0019】
本発明に係る第1~第4のトランスはいずれも、圧電体薄膜の積層体から構成されるため、寸法を小さくすることができる。
【0020】
第1~第4の態様において、前記振動伝達体は絶縁材料から成るものであることが望ましい。これにより、第1電極と第2電極を振動伝達体で絶縁することができる。
【0021】
なお、絶縁材料から成る振動伝達体を設けなくとも、例えば第1圧電体薄膜形成体と第2圧電体薄膜形成体を部分的に面接触させ、面接触していない部分に第1電極及び第2電極を取り付けることにより、第1電極と第2電極が絶縁した状態とすることができる。その場合には、第1圧電体薄膜形成体と第2圧電体薄膜形成体を、振動伝達体を介することなく直接、面接触させることができる。
【0022】
第1~第4の態様のトランスにおいて、第1及び第2圧電体薄膜形成体を構成する圧電体薄膜の圧電材料には以下のようなものを用いることができる。圧電体薄膜では、スパッタ法等の通常の方法で作製すると薄膜に垂直な分極が形成されることが多いため、第1の態様における垂直分極成分を有する圧電体薄膜の圧電材料には種々のものを用いることができ、例えば、通常の方法で作製されたZnO(酸化亜鉛)やAlN(窒化アルミニウム)等のウルツ鉱構造を有するものを好適に用いることができる。
【0023】
一方、第2又は第4の態様における平行分極成分を有する圧電体薄膜は、特定の圧電材料を用いて特定の方法で作製することにより得ることができる。例えば、特許文献2に記載のように、基板の表面に、ウルツ鉱構造を有する圧電材料のプラズマの密度勾配や温度勾配を形成しつつ圧電材料を堆積させることにより、薄膜に平行な分極を有する圧電体薄膜を作製することができる。ここで、密度勾配や温度勾配の方向を180°ずつ変えながら繰り返し圧電材料を堆積させてゆくことにより、第1及び第2圧電体薄膜形成体を作製することができる。あるいは、特許文献3に記載のように、基板の表面に、該表面に対して傾斜した(該表面に垂直ではない)イオンビームを照射しつつ堆積させることにより、薄膜に対して傾斜した圧電体薄膜を作製することができる。ここで、基板の表面へのイオンビームの射影の方向を180°ずつ変えながら繰り返し圧電材料を堆積させてゆくことにより、平行分極成分が互いに逆方向になるように積層した圧電体薄膜形成体が得られる。このような圧電体薄膜形成体は、第2の態様における第1及び第2圧電体薄膜形成体として用いることができる。この方法により圧電体薄膜を作製することができる圧電材料として、ウルツ鉱構造を有するものや、Ga1-xRxN(RはSc, Y, La, Pr, Nd, Sm, Gd, Dy, Ho, Tm, Ybから選択される1又は2以上の元素、0<x<1)、AlRxN等が挙げられる。
【0024】
第2又は第4の態様のトランスにおいて、前記第1圧電体薄膜形成体及び前記第2圧電体薄膜形成体における圧電体薄膜が、該圧電体薄膜と同じ圧電材料から成り分極が薄膜に平行である圧電体薄膜よりも大きい電気機械結合係数k152を有するように、分極が該薄膜の法線に対して傾斜していることが望ましい。これにより、分極が薄膜に平行である圧電体薄膜よりも効率よく横波を第1圧電体薄膜形成体及び前記第2圧電体薄膜形成体内に生成することができ、入力電圧が小さい場合にも、より確実に電圧を昇圧することができる。
【0025】
本発明に係るレクテナは、
a) 電波を受信する電波受信部と、受信した電波の交流電気信号を出力する交流電気信号出力部を有するアンテナと、
b) 前記交流電気信号出力部が前記第1電極に接続された、前記第1~第4の態様のいずれか1つのトランスと
を備えることを特徴とする。
【0026】
本発明に係るレクテナでは、アンテナの入力部で受信された電波の交流電気信号が出力部からトランスの第1電極に入力される。そして、トランスにおいて、前述のように交流電気信号の電圧から昇圧された交流電力が第2電極から取り出される。
【0027】
本発明に係るレクテナによれば、寸法を小さくすることが可能な本発明に係るトランスを用いるため、レクテナの寸法も小さくすることができる。そのため、本発明に係るレクテナはセンサ用の電源として好適に用いることができる。
【0028】
また、本発明に係るレクテナでは、圧電体薄膜の厚さ及び圧電材料により定まる振動周波数と同じ特定の周波数の電波がアンテナに受信されたときにのみ電力が得られる。従って、当該特定の周波数の電波を送信することで、レクテナに接続されたセンサなどの機器を起動させ、当該特定の周波数の電波を停止することで当該機器を停止させる、という方法で当該機器を使用することができる。
【0029】
本発明に係るレクテナはさらに、前記トランスの第2電極に接続された、交流電力を直流電力に変換する整流回路を備えることができる。これにより、トランスにおいて電圧が昇圧された交流電力を変換した直流電力が得られる。
【0030】
第2の態様のトランスにおける第1圧電体薄膜形成体若しくは第2圧電体薄膜形成体、又は第4の態様のトランスにおける第1圧電体薄膜形成体は、
Sc, Y, La, Pr, Nd, Sm, Gd, Dy, Ho, Tm, Ybから選択される1又は2以上の元素であるR及びAlを有するターゲットをスパッタすることにより、R及びAlを有するスパッタ粒子を形成し、基板を冷却しつつ該基板の表面に、前記スパッタ粒子を該表面の法線に対して傾斜した角度で入射させて該表面に堆積させることにより、0<x<1であるAlRxNから成る圧電体薄膜を所定の厚さまで成膜する単位成膜工程と、
前記スパッタ粒子が前記基板の表面に入射する軌跡の該表面への射影が180°回転するように前記ターゲットと該基板の相対的な位置を変更する位置変更工程と
をそれぞれ2回以上、交互に繰り返すことにより好適に製造することができる。
【0031】
あるいは、第2の態様のトランスにおける第1圧電体薄膜形成体若しくは第2圧電体薄膜形成体、又は第4の態様のトランスにおける第1圧電体薄膜形成体は、
Sc, Y, La, Pr, Nd, Sm, Gd, Dy, Ho, Tm, Ybから選択される1又は2以上の元素であるR及びAlを有するターゲットをスパッタすることにより、R及びAlを有するスパッタ粒子を形成し、基板を冷却しつつ該基板の表面に、窒素イオンを含むイオンビームを該表面の法線に対して傾斜した角度で照射しつつ、前記スパッタ粒子を堆積させることにより0<x<1であるAlRxNから成る圧電体薄膜を所定の厚さまで成膜する単位成膜工程と、
前記イオンビームの前記基板の表面への射影が180°回転するように該イオンビームと該基板の相対的な位置を変更する位置変更工程と
それぞれ2回以上、交互に繰り返すことによっても好適に製造することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明により、センサ用の電源において電圧を昇圧するために好適に用いることができるトランス、及び該トランスを用いたレクテナが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係るトランス及びレクテナの一実施形態を示す概略図。
【図2】本実施形態のトランス及びレクテナの動作を示す概略図。
【図3】本実施形態のトランスの変形例であって、圧電体薄膜の分極の方向が異なる例を示す概略図。
【図4】本実施形態のトランスの変形例であって、第1圧電体薄膜形成体の第1圧電体薄膜及び第2圧電体薄膜形成体の第2圧電体薄膜の枚数が異なる例を示す概略図。
【図5】本実施形態のトランスの変形例(a)及び該トランスを用いたレクテナ(b)を示す概略図。
【図6】本実施形態のトランスとその支持部を示す概略図。
【図7】本実施形態のトランスにおける圧電体薄膜形成体を製造するための装置の一例を示す概略図。
【図8】本実施形態のトランスにおける圧電体薄膜形成体の製造方法を示す概略図。
【図9】本実施形態のトランスにおける圧電体薄膜形成体を製造するための装置の変形例を示す概略図。
【図10】変形例の装置を用いて本実施形態のトランスにおける圧電体薄膜形成体を製造する方法を示す概略図。
【図11】本実施形態のトランスにおける圧電体薄膜形成体の一例を示す顕微鏡写真。
【図12】Al1-xScxNから成る圧電体薄膜における法線に対するc軸の角度と電気機械結合係数k152の関係を示すグラフ。
【図13】本実施形態のトランスにおける圧電体薄膜形成体につき、横波変換損失の周波数による相違の測定値及び計算値を、圧電体薄膜形成体の圧電体薄膜が(a)1枚の場合、及び(b)12枚の場合について求めた結果を示すグラフ。
【図14】本実施形態のトランスについて、第1圧電体薄膜形成体側のインピーダンス及び第2圧電体薄膜形成体側のインピーダンスの周波数による相違をシミュレーションで求めた結果を示すグラフ。
【図15】本実施形態のトランスについて、挿入損失の周波数による相違をシミュレーションで求めた結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0034】
図1~図15を用いて、本発明に係るトランス及びレクテナの実施形態を説明する。

【0035】
(1) 本実施形態のトランス及びレクテナの構成
図1(a)は第1の態様のトランスの一実施形態であるトランス10につき、構成を概略的に示したものである。図1(b)はトランス10を有するレクテナ20の構成を概略的に示したものである。

【0036】
トランス10は、第1圧電体薄膜形成体11と、第2圧電体薄膜形成体12と、絶縁体層13と、第1電極14と、第2電極15を有する。

【0037】
第1圧電体薄膜形成体11は、厚さdを有する1枚のみの圧電体薄膜から成る。この圧電体薄膜を第1圧電体薄膜110と呼ぶ。第1圧電体薄膜110の分極Pは、該第1圧電体薄膜110に垂直な方向を向いている。第2圧電体薄膜形成体12は、第1圧電体薄膜110と同じ圧電材料及び厚さdを有し第1圧電体薄膜110と平行に設けられた10枚の第2圧電体薄膜120-1~120-10が、第1圧電体薄膜110の上に積層した構成を有する。第2圧電体薄膜120-1~120-10のうち第1圧電体薄膜110に最近接の第2圧電体薄膜120-1は、絶縁体層13を介して第1圧電体薄膜110と面接触している。第2圧電体薄膜120-1の分極Pは、該第2圧電体薄膜120-1に垂直であって、第1圧電体薄膜110の分極Pと逆方向を向いている。また、第2圧電体薄膜120-1~120-10の分極Pはそれぞれ、隣接する第2圧電体薄膜の分極Pと逆方向を向いている。以上のように、第1圧電体薄膜110及び第2圧電体薄膜120-1~120-10の分極Pはいずれもそれら圧電体薄膜に垂直であり、前述の垂直分極成分を有する。

【0038】
絶縁体層13は、第1圧電体薄膜形成体11と第2圧電体薄膜形成体12の間、すなわち第1圧電体薄膜110と第2圧電体薄膜120-1の間に設けられている。絶縁体層13は、後述のように第1圧電体薄膜形成体11の両表面間に所定の電圧が印加された際に該第1圧電体薄膜形成体11に生じる振動が第2圧電体薄膜形成体12に伝播する程度に十分に薄い。従って、絶縁体層13は前記振動伝達体に該当する。また、絶縁体層13は、第1圧電体薄膜形成体11と第2圧電体薄膜形成体12の間で電流のリークが生じない厚さに形成されている。

【0039】
第1電極14は、第1圧電体薄膜形成体11の絶縁体層13側の表面に設けられた第1の2電極142と、該表面と反対側の第1圧電体薄膜形成体11の表面に設けられた第1の1電極141から成る1対の電極である。第2電極15は、第2圧電体薄膜形成体12の絶縁体層13側の表面に設けられた第2の1電極151と、該表面の反対側の第2圧電体薄膜形成体12の表面に設けられた第2の2電極152から成る1対の電極である。各電極には、第1圧電体薄膜形成体11又は第2圧電体薄膜形成体12の側方に引き出された端子が接続されている。

【0040】
なお、図1(a)ではトランス10の構成を分かりやすく示すために、実際よりも、横方向に対する縦方向(各圧電体薄膜の厚さ方向)の大きさの比を大きくして描いている。

【0041】
レクテナ20は、アンテナ21と、トランス10と、整流回路22を有する。なお、図1(b)ではレクテナ20の構成を分かりやすく示すために、アンテナ21、トランス10及び整流回路22の実際の大きさの相違とは異なり、トランス10を最も大きく描いている。実際には、これら3つの構成要素のうち、トランス10が最も小さい。

【0042】
アンテナ21は、電波を受信する入力部と、入力部から入力した電波の交流電気信号を出力する出力部を有し、出力部はトランス10の第1の2電極142に接続されている。第1の1電極141は接地されている。

【0043】
整流回路22は、入力部221から入力される交流電力を整流して直流電力に変換して出力部222から出力する回路である。整流回路22の入力部221は、トランス10の第2の1電極151及び第2の2電極152に接続されている。整流回路22の出力部222には、センサ等の負荷を接続する。整流回路は種々のものが知られており、図1ではその一例を示したが、本実施形態においても既知の種々の整流回路をそのまま用いることができる。また、レクテナを用いて交流電力を得る場合には、整流回路22は省略する。

【0044】
(2) 本実施形態のトランス及びレクテナの動作
図2を用いて、本実施形態のトランス10及びレクテナ20の動作を説明する。本実施形態のトランス10は上記第1の態様のトランスであり、第1の1電極141と第1の2電極142の間に、後述の共振周波数と同じ周波数を有する交流の入力電圧Vinが印加されると、第1圧電体薄膜110が該薄膜に垂直方向の分極Pを有することにより、第1圧電体薄膜110には該共振周波数を有する縦波の基本モードの振動が生じる。この縦波の波長は第1圧電体薄膜110の厚さdの2倍であり、言い換えれば、第1圧電体薄膜110の厚さ方向に半波長分の縦波が生成されている。図2(a)に、この縦波を模式的に太い波線で示す。共振周波数fは、第1圧電体薄膜110の厚さd及び該第1圧電体薄膜110内の音速vとの間でv=λf=2dfの関係を有する。

【0045】
第1圧電体薄膜110の縦波の振動は、絶縁体層13を介して第2圧電体薄膜形成体12に伝播する。第2圧電体薄膜形成体12は、第1圧電体薄膜110と同じ厚さであって同じ圧電材料から成る10枚の第2圧電体薄膜120-1~120-10を有し、各第2圧電体薄膜120-1~120-10は隣接する第2圧電体薄膜の分極Pと逆方向を向いているため、第2圧電体薄膜形成体12内には、第1圧電体薄膜110の縦波と同じ波長及び周波数を有する縦波の振動が形成される。この第2圧電体薄膜形成体12の振動により、第2の1電極151と第2の2電極152の間に、この振動の周波数と同じ周波数を有する交流電圧が生じる。その際、10枚の第2圧電体薄膜120-1~120-10の各々において薄膜の両表面間に第1圧電体薄膜110の両表面間と同じ振動に対応した同じ大きさの交流の電位差が生じ、10枚の第2圧電体薄膜120-1~120-10でそれぞれ生じる電位差が加算されるため、第2の1電極151と第2の2電極152の間には、第1圧電体薄膜110の両表面間の電圧(すなわち入力電圧)の10倍の大きさを有する交流の出力電圧Vout=10Vinが生じる。このように、トランス10は、入力電圧を10倍に昇圧する機能を有する。

【0046】
その反対の動作として、第2の1電極151と第2の2電極152の間に、前記共振周波数と同じ周波数を有する交流電圧を入力すると、該交流電圧の1/10の大きさを有する出力電圧が第1の1電極141と第1の2電極142の間に出力される。

【0047】
本実施形態のレクテナ20では、図2(b)に示すように、アンテナ21が前記共振周波数と同じ周波数の電磁波を受信すると、該電磁波が変換された交流電気信号が、アンテナ21から第1の2電極142に入力される。これにより第1の1電極141(接地)と第1の2電極142の間に印加される交流電圧が、前述のようにトランス10によって10倍の大きさに昇圧され、出力電圧が第2の1電極151と第2の2電極152の間に出力される。この出力電圧が整流回路22の入力部221に入力されたうえで直流に変換され、直流電圧が整流回路22の出力部222から出力される。こうして出力された直流電圧を有する電力は、センサを起動させる電力等に用いることができる。

【0048】
(3) 本実施形態のトランス及びレクテナの変形例等
図3(a)~(c)に、本実施形態のトランス10の変形例を示す。これらの変形例では、各圧電体薄膜の分極Pの方向が上記実施形態のトランス10と異なっており、それ以外の構成は上記実施形態のトランス10と同じである。

【0049】
図3(a)に示したトランス10Aは上記第2の態様のトランスである。このトランス10Aでは、第1圧電体薄膜形成体11Aの第1圧電体薄膜110Aは、分極Pが該第1圧電体薄膜110Aに平行な一方向を向いている。第2圧電体薄膜形成体12Aの圧電体薄膜のうち第1圧電体薄膜110Aに最近接の第2圧電体薄膜120-1Aでは、分極Pは該第2圧電体薄膜120-1Aに平行であって第1圧電体薄膜110Aの分極Pと逆方向を向いている。第2圧電体薄膜形成体12Aの第2圧電体薄膜120-1A~120-10Aの分極Pはそれぞれ、第2圧電体薄膜に平行であって隣接する第2圧電体薄膜と逆方向を向いている。

【0050】
このように各圧電体薄膜の分極Pが形成されていることにより、第1の1電極141と第1の2電極142の間に交流の入力電圧が印加されると、第1圧電体薄膜110A内に、該第1圧電体薄膜110Aの厚さを半波長とする横波の基本モードの振動が生じ、この振動が第2圧電体薄膜形成体12Aの第2圧電体薄膜120-1A~120-10Aに伝播する。これにより、第2圧電体薄膜形成体12A内に、第1圧電体薄膜110Aの横波と同じ波長及び周波数を有する横波の振動が形成される。そして、この第2圧電体薄膜形成体12Aの振動により、第2の1電極151と第2の2電極152の間に、この振動の周波数と同じ周波数を有する交流の出力電圧が出力される。第2圧電体薄膜形成体12Aが第1圧電体薄膜形成体11Aの10倍の枚数の第2圧電体薄膜120-1A~120-10Aを有するため、出力電圧の大きさはトランス10の場合と同様に入力電圧の大きさの10倍となる。

【0051】
以上のように、トランス10Aでは、第1圧電体薄膜形成体11A及び第2圧電体薄膜形成体12A内に形成される振動が横波であるという点を除いて、トランス10と同様に動作する。

【0052】
図3(b)に示したトランス10Bでは、第1圧電体薄膜形成体11Bの第1圧電体薄膜110Bの分極Pは、薄膜の法線に対して角度θだけ傾斜した方向を向いている。第2圧電体薄膜形成体12Bの圧電体薄膜のうち第1圧電体薄膜110Bに最近接の第2圧電体薄膜120-1Bでは、分極Pは薄膜の法線に対して角度θだけ傾斜している。また、第2圧電体薄膜120-1Bの分極Pの薄膜に平行な面への射影は、第1圧電体薄膜110Bの分極Pの同面への射影と逆方向(180°異なる方向)になっている。すなわち、第2圧電体薄膜120-1Bの平行分極成分は第1圧電体薄膜110Bの平行分極成分と逆方向を向いている。また、第2圧電体薄膜120-1B~120-10Bの平行分極成分はそれぞれ、隣接する第2圧電体薄膜の平行分極成分と逆方向を向いている。一方、各圧電体薄膜の垂直分極成分はいずれも同方向を向いている。このように各圧電体薄膜の平行分極成分が形成されていることにより、トランス10Bではトランス10Aと同様に、第1の1電極141と第1の2電極142の間に交流の入力電圧が印加されると、第1圧電体薄膜形成体11B及び第2圧電体薄膜120-1B~120-10B内に横波の振動が生成され、第2の1電極151と第2の2電極152の間に入力電圧の10倍の大きさを有する出力電圧が出力される。

【0053】
図3(c)に示したトランス10Cは、第2圧電体薄膜120-1C、120-3C、120-5C、120-7C、及び120-9Cの分極が、トランス10Bの第2圧電体薄膜120-1B等の分極と180°異なる方向を向いている点を除いて、トランス10Bと同じ構成を有する。トランス10Cの各圧電体薄膜では、隣接する圧電体薄膜同士の垂直分極成分は互いに逆方向を向き、平行分極成分は全て同じ方向を向いている。このような構成により、トランス10Cの第1の1電極141と第1の2電極142の間に交流の入力電圧が印加されると、第1圧電体薄膜形成体11B及び第2圧電体薄膜120-1B~120-10B内に縦波の振動が生成され、第2の1電極151と第2の2電極152の間に入力電圧の10倍の大きさを有する出力電圧が出力される。

【0054】
図4に、本実施形態のトランス10の他の変形例を示す。これらの変形例では、圧電体薄膜の数が上記トランス10、10A、10B及び10Cとは異なる。なお、図4では各圧電体薄膜の分極Pを薄膜に垂直な方向として示しているが、各圧電体薄膜の分極Pが薄膜に平行である場合や薄膜に対して傾斜している場合にも同様に、以下に述べる圧電体薄膜の数の相違による出力電圧の相違が生じる。

【0055】
図4(a)に示したトランス10Dでは、第1圧電体薄膜形成体11Dは1枚の第1圧電体薄膜110Dから成り、第2圧電体薄膜形成体12Dは4枚の第2圧電体薄膜120-1D~120-4Dから成る。トランス10Dの第1の1電極141と第1の2電極142の間に交流の入力電圧が印加されると、第2の1電極151と第2の2電極152の間に、入力電圧の4倍の大きさを有する出力電圧が出力される。

【0056】
ここまでの例では第1圧電体薄膜形成体は1枚のみの圧電体薄膜から成るものを用いているが、2枚以上の圧電体薄膜から成る第1圧電体薄膜形成体を用いてもよい。図4(b)に示したトランス10Eでは、第1圧電体薄膜形成体11Eは2枚の第1圧電体薄膜110-1E及び110-2Eから成り、第2圧電体薄膜形成体12Eは5枚の第2圧電体薄膜120-1E及び120-5Eから成る。トランス10Eの第1の1電極141と第1の2電極142の間に交流の入力電圧が印加されると、第2の1電極151と第2の2電極152の間に、入力電圧の5/2倍の大きさを有する出力電圧が出力される。

【0057】
図5(a)に示すトランス10Fは、上記第3の態様のトランスである。このトランス10Fは、それぞれ厚さdを有する5枚の第1圧電体薄膜110-1F~110-5Fから成る第1圧電体薄膜形成体11Fと、厚さ5d、すなわち第1圧電体薄膜形成体11Fと同じ厚さを有する1枚の第2圧電体薄膜120Fから成る第2圧電体薄膜形成体12Fと、第1圧電体薄膜形成体11Fと第2圧電体薄膜形成体12Fの間に設けられた絶縁体層13を有する。第1圧電体薄膜110-1F~110-5Fは、分極が該第1圧電体薄膜に垂直であり、隣接する第1圧電体薄膜同士では分極Pが逆方向になっている。第2圧電体薄膜120Fの分極は該第2圧電体薄膜120Fに垂直である。なお、図5(a)の欄外に示すように、第1圧電体薄膜110-1F~110-5F及び第2圧電体薄膜120Fの分極Pは、それら薄膜に平行(これは上記第4の態様のトランスに対応)であってもよいし、該薄膜の法線に対して傾斜していてもよい。

【0058】
第1圧電体薄膜形成体11Fには、隣接する第1圧電体薄膜の厚さ方向の両端及び隣接する圧電体薄膜同士の境界(4箇所)に第1電極141F~146Fが(合計6個)設けられている。第2圧電体薄膜形成体12Fの厚さ方向の両端には、1対の第2電極151F及び152Fが設けられている。各第1電極141F~146Fのうち、第1電極141F、143F、145Fには高周波電源が接続され、第1電極142F、144F、146Fは接地される(図5(a)に一点鎖線で図示。なお、高周波電源及び接地はトランス10Fの構成要素ではない。)。すなわち、第1電極141F~146Fには、厚さ方向に向かって順に、高周波電源及び接地が交互に接続される。これにより、各第1圧電体薄膜110-1F~110-5Fには厚さ方向に交流電圧が印加されるようになっている。

【0059】
このトランス10Fは、第1電極141F~146Fによって各第1圧電体薄膜110-1F~110-5Fに交流の入力電圧が印加されると、第1圧電体薄膜110-1F、3F及び5F(ハイフン以下が奇数)と、第1圧電体薄膜110-2F及び4F(同・偶数)に印加される電圧は互いに逆極性となる一方、分極Pがも互いに逆方向であるため、全ての第1圧電体薄膜110-1F~110-5Fは同じ方向に振動する。これにより、振動の波長は、第1圧電体薄膜形成体11Fの厚さ方向の全体で半波長となる。この振動が第2圧電体薄膜形成体12Fに伝播すると、第2圧電体薄膜形成体12Fにおいても同じく振動の波長は厚さ方向の全体で半波長となる。この振動により、第2電極151F、152F間に、該振動の周波数に対応する周波数を有する交流の出力電圧が生じる。ここで、第2電極151F、152F間の第2圧電体薄膜120Fの厚さが、第1電極141F~146Fにおいて隣接する電極同士の間にある各第1圧電体薄膜110-1F~110-5Fの厚さよりも大きいため、第2電極151F、152F間の出力電圧の大きさは、各第1圧電体薄膜110-1F~110-5F間に印加された入力電圧よりも大きくなる。

【0060】
図5(b)に示すレクテナ20Fは、図5(a)で示した高周波電源の代わりにトランス10Fにアンテナ21を第1電極141F、143F、145Fに接続すると共に、第2電極151F、152Fに整流回路22を接続したものである。レクテナ20Fの動作は、トランス10Fの動作を除いて、前述のレクテナ20と同じである。

【0061】
これまでに述べた実施形態及びその変形例のトランスは、図6に示すように支持部で支持することにより、第1圧電体薄膜形成体及び第2圧電体薄膜形成体の振動のエネルギーがトランスの外に漏れて損失となることを抑えることができる。なお、図6ではトランス10の場合を例として示しているが、各変形例のトランスにおいても同様の支持部を用いることができる。図6(a)に示した支持部16Aは、板状の部材の中央を刳り抜いて空洞161を形成したものであり、空洞161の周囲の枠体162により、トランス10の下面(第1の1電極141の下面)の外周部を支持している。トランス10のうち空洞161に面する領域では、トランス10が空気と面しており、第1圧電体薄膜形成体11及び第2圧電体薄膜形成体12の振動のエネルギーがトランス10の外に漏れることが抑えられる。

【0062】
図6(b)に示した支持部16Bは、音響ブラッグ反射器から成る。音響ブラッグ反射器は、音響インピーダンスが異なる2種類の層を交互に複数層ずつ積層して成る。音響ブラッグ反射器の各層の厚さを、トランス10における振動周波数を有する音波のブラッグ反射が生じるように定めておくことにより、トランス10の第1圧電体薄膜形成体11及び第2圧電体薄膜形成体12の振動のエネルギーが外部に漏れることが抑えられる。

【0063】
(4) 本実施形態及びその変形例のトランス及びレクテナの効果
本実施形態及びその変形例によれば、圧電体薄膜を積層した構成により寸法の小さいトランスを得ることができ、当該トランスを用いたレクテナの寸法も小さくすることができる。本実施形態及びその変形例に係るレクテナは、商用電源との接続が不要であり、昼夜を問わず且つ天候の影響を受けることなく電力を供給することができるうえに、設置空間を小さくすることができるため、センサ等の機器の電源に好適に用いることができる。また、圧電体薄膜の厚さ及び圧電材料により定まる振動周波数と同じ特定の周波数の電波を送信することで、レクテナに接続された機器を起動させたり、当該特定の周波数の電波を停止することで当該機器を停止させるという方法で使用することも可能になる。

【0064】
(5) 圧電体薄膜形成体及びその製造方法の一例
ここでは、圧電体薄膜形成体及びその製造方法の一例を説明する。まず、製造方法の一例として、図3(b)に示した第2圧電体薄膜形成体12Bのように、各圧電体薄膜の分極が薄膜の法線に対して傾斜し、隣接する圧電体薄膜同士で平行分極成分が互いに逆方向を向いた、Al1-xRxNから成る圧電体薄膜形成体を製造する方法を説明する。

【0065】
図7に、この例の製造方法で用いる圧電体薄膜形成体製造装置30を示す。圧電体薄膜形成体製造装置30は、真空チャンバ31内に、マグネトロン電極32と、マグネトロン電極32に対向しつつ後述のように傾斜して設けられた板状の陽極33を有する。マグネトロン電極32は、陽極33との対向面にスパッタターゲットTが略水平に載置されると共に、マッチングボックス341を介して高周波電源34が接続されている。スパッタターゲットTには、Alから成る板状のターゲットT-ALの上に、Rから成る粒状のターゲットT-Rを載置したものを用いる。陽極33は、板面の法線が鉛直方向(マグネトロン電極32のスパッタターゲットTを載置する面の法線)に対して60°傾斜して配置されている。陽極33は、マグネトロン電極32との対向面に基板Sが取り付けられると共に、接地されている。また、陽極33には、冷却水により基板Sを冷却する冷却機構35が設けられている。真空チャンバ31の壁面には、真空チャンバ31内にガスを導入するガス導入口36、及び当該ガスを導入する前に真空チャンバ31内の空気等を排出するガス排出口37が設けられている。

【0066】
図8を用いて、圧電体薄膜形成体製造装置30を用いた圧電体薄膜形成体製造方法を説明する。なお、図8では、陽極33を実際の向きから60°回転させて、陽極33の板面が図の左右を向くように描いている。まず、基板Sを陽極33に取り付けると共に、ターゲットT-AL及びT-Rをマグネトロン電極32に載置する。基板Sには、例えば石英ガラスから成るものを用いることができる。この状態で、真空チャンバ31内の気体をガス排出口37から排出したうえで、ガス導入口36から窒素ガスとアルゴンガスの混合ガスを導入する。窒素ガスとアルゴンガスの混合比は、例えば分圧で窒素ガス1に対してアルゴンガス2とし、混合ガス全体の圧力は例えば0.75Paとする。これら混合比や圧力は、この例には限定されない。また、アルゴンガスの代わりに他の不活性ガスを用いてもよいし、混合ガスではなく窒素ガスのみを用いてもよい。

【0067】
次に、冷却機構35により基板Sを冷却しつつ、高周波電源34からマグネトロン電極32に高周波電力を投入する。これにより、ターゲットT-AL及びT-Rの周囲にプラズマが生成され、該プラズマによってターゲットT-AL及びT-Rがスパッタされる。それにより生成される、Al及びRから成るスパッタ粒子は、基板Sの表面の法線に対して傾斜した角度で該基板Sの表面に入射する(図8(a))。このように基板Sの表面に入射したスパッタ粒子が堆積してゆき、Al1-xRxNから成る圧電体薄膜41が形成される(図8(b))。その際、スパッタ粒子が基板Sの表面の法線に対して傾斜した角度で入射するため、圧電体薄膜41の分極は、薄膜の法線に対して傾斜した角度(θAとする)となる(図8(b))。圧電体薄膜41が所定の厚さになる時間だけスパッタを継続した後、高周波電源34からマグネトロン電極32への高周波電力の供給を停止する。ここまでが、前述の単位成膜工程である。

【0068】
その後、基板Sをその表面の法線を軸として180°回転させたうえで陽極33に取り付ける(位置変更工程、図8(c))。そのうえで、圧電体薄膜41の表面に、上記と同じ方法によりAl1-xRxNから成る圧電体薄膜42(図8(d), (e))を形成する。この圧電体薄膜42の分極は、薄膜の法線に対して角度θAだけ傾斜し、薄膜への射影が圧電体薄膜41における薄膜への射影とは逆方向となる。すなわち、圧電体薄膜41の平行分極成分と圧電体薄膜42の平行分極成分は互いに逆方向となる。

【0069】
以降、これまでと同じ操作を繰り返すことにより、隣接する圧電体薄膜同士の平行分極成分が互いに逆方向である圧電体薄膜形成体を作製することができる。

【0070】
図9に、変形例の圧電体薄膜形成体製造装置30Aを示す。この圧電体薄膜形成体製造装置30Aは、陽極33Aの板面の法線が鉛直方向を向くように陽極33Aが配置されている点と、真空チャンバ31の壁面にイオンビーム照射装置38が設けられている点で、前述の圧電体薄膜形成体製造装置30と構成が相違している。その他の点では、圧電体薄膜形成体製造装置30Aの構成は圧電体薄膜形成体製造装置30の構成と同じである。イオンビーム照射装置38は、窒素イオン及びアルゴンイオンから成るイオンビームを、基板Sの表面の法線に対して傾斜した角度で該表面に照射するように設置されている。

【0071】
図10を参照しつつ、圧電体薄膜形成体製造装置30Aを用いて圧電体薄膜形成体を製造する方法を説明する。まず、基板Sを陽極33Aに取り付けると共に、ターゲットT-AL及びT-Rをマグネトロン電極32に載置する。この状態で、真空チャンバ31内の気体をガス排出口37から排出したうえで、ガス導入口36から窒素ガスとアルゴンガスの混合ガスを導入する。冷却機構35により基板Sを冷却しつつ、高周波電源34からマグネトロン電極32に高周波電力を投入することにより、ターゲットT-AL及びT-Rをスパッタする。それと同時に、イオンビーム照射装置38によって基板Sの表面にイオンビームを照射する(図10(a))。これにより、Al及びRから成るスパッタ粒子が基板Sの表面に堆積して圧電体薄膜41が形成され、その際、基板Sの表面にイオンビームが照射されていることにより、圧電体薄膜41の分極が薄膜の法線に対して傾斜した状態となる(図10(b))。圧電体薄膜41が所定の厚さになる時間だけスパッタを継続した後、高周波電源34からマグネトロン電極32への高周波電力の供給を停止する。

【0072】
その後、基板Sをその表面の法線を軸として180°回転させたうえで陽極33に取り付け(図10(c))、圧電体薄膜41の表面に、上記と同じ方法によりAl1-xRxNから成る圧電体薄膜42(図10(d), (e))を形成する。この圧電体薄膜42の分極は、薄膜の法線に対して、圧電体薄膜41の場合と同じ角度だけ傾斜し、薄膜への射影が圧電体薄膜41における薄膜への射影とは逆方向となる。以降、これまでと同じ操作を繰り返すことにより、隣接する圧電体薄膜同士の平行分極成分が互いに逆方向である圧電体薄膜形成体を作製することができる。

【0073】
図11に、圧電体薄膜形成体製造装置30を用いて作製した、Al1-xScxNから成る圧電体薄膜形成体の断面の顕微鏡写真を示す。この圧電体薄膜形成体では、12枚の圧電体薄膜が積層しており、各圧電体薄膜の分極の方向(c軸方向と同じ)は薄膜に対して傾斜している。また、分極の傾斜の方向(分極の薄膜表面への射影の方向)は、隣接する圧電体薄膜同士で互いに逆方向となっている。

【0074】
圧電体薄膜に横波の振動を生成する場合において、圧電体薄膜の法線に対するc軸の傾斜角度が、圧電材料毎に定まる所定の範囲内にある場合に、c軸が圧電体薄膜に平行である場合よりも電気機械結合係数k152が大きくなり、横波をより効率的に生成することができる。例えば図12に示すように、Al1-xScxNでは、圧電体薄膜の法線に対するc軸の角度が約6~68°の範囲内において、c軸が圧電体薄膜に平行である場合よりも電気機械結合係数k152が大きくなる。本実施形態のトランスにおいて、c軸がそのような傾斜角度を有する圧電体薄膜を用いることにより、入力電圧が小さい場合にも、より確実に電圧を昇圧することができる。

【0075】
図13に、本実施形態のトランスにおける圧電体薄膜形成体につき、横波変換損失の周波数による相違の測定値、及び分極の向きを考慮した理論モデル(Masonモデル)で求めた計算値を、圧電体薄膜形成体の圧電体薄膜が(a)1枚の場合、及び(b)12枚の場合について求めた結果をグラフで示す。圧電体薄膜はAl1-xScxNから成るものであり、1枚の圧電体薄膜の厚さは3.4μmである。(b)の実験値は、図11に示した圧電体薄膜形成体で得られたものである。グラフ中に○印で示したデータは測定値、実線で示したデータは計算値である。図13(a), (b)共に、横波変換損失の周波数による変化が測定値と計算値で同じ傾向を示しており、理論モデルと良く合った測定値が得られているといえる。従って、図13(b)の実験値を求めた図11の圧電体薄膜形成体は、理論モデルの通り、隣接する圧電体薄膜同士の平行分極成分が互いに逆方向になっているといえる。

【0076】
次に、トランス10D(第1圧電体薄膜が1枚、第2圧電体薄膜が4枚)の場合について、第1圧電体薄膜形成体11D側のインピーダンス及び第2圧電体薄膜形成体12D側のインピーダンスの周波数による相違をシミュレーションで求めた結果を図14に示す。このシミュレーションでは、1枚の圧電体薄膜の厚さを5μmとし、厚さ方向の電気機械結合係数kt2を40%とした。また、第1の1電極141及び第1の2電極142に接続される、トランス10Dにとっての電源のインピーダンスが標準的な50Ωである場合と、ダイポールアンテナで想定される(73+42.5j)Ω(jは虚数単位)である場合について、トランス10Dの挿入損失の周波数による相違をシミュレーションで求めた結果を図15に示す。図14より、このトランス10Dは周波数が約0.55GHzのときに動作することがわかり、図15より、この動作周波数において挿入損失が他の周波数よりも絶対値が小さく(損失が小さく)、効率よく電圧の変換を行うことができることがわかる。
【符号の説明】
【0077】
10、10A、10B、10C、10D、10E、10F…トランス
11、11A、11B、11C、11D、11E、11F…第1圧電体薄膜形成体
110、110A、110B、110C、110D、110-E1、110-E2、110-F1~110-F5…第1圧電体薄膜
12、12A、12B、12C、12D、12E…第2圧電体薄膜形成体
120-1~120-10、120-1A~120-10A、120-1B~120-10B、120-1C~120-10C、120-1D~120-4D、120-1E~120-5E、120F…第2圧電体薄膜
13…絶縁体層
14、141F~144F…第1電極
141…第1の1電極
142…第1の2電極
15、151F、152F…第2電極
151…第2の1電極
152…第2の2電極
20、20F…レクテナ
21…アンテナ
22…整流回路
221…入力部
222…出力部
30、30A…圧電体薄膜形成体製造装置
31…真空チャンバ
32…マグネトロン電極
33、33A…陽極
34…高周波電源
341…マッチングボックス
35…冷却機構
36…ガス導入口
37…ガス排出口
38…イオンビーム照射装置
41、42…圧電体薄膜
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
14