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明細書 :身体のゆらぎの定量的測定方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-205597 (P2019-205597A)
公開日 令和元年12月5日(2019.12.5)
発明の名称または考案の名称 身体のゆらぎの定量的測定方法
国際特許分類 A61B   5/11        (2006.01)
FI A61B 5/11 210
請求項の数または発明の数 4
出願形態 OL
全頁数 8
出願番号 特願2018-102035 (P2018-102035)
出願日 平成30年5月29日(2018.5.29)
発明者または考案者 【氏名】吉川 研一
【氏名】馬場 ひかり
【氏名】鷹取 慧
【氏名】剣持 貴弘
【氏名】善本 淳
出願人 【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
個別代理人の代理人 【識別番号】110001427、【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 4C038
Fターム 4C038VA04
4C038VA11
4C038VB15
4C038VB31
4C038VB35
4C038VC05
要約 【課題】簡易且つ定量的に被検者の身体のゆらぎを測定できる測定方法を提供する。
【解決手段】被検者の身体のゆらぎを時間反転対称性にて定量的に測定する、身体のゆらぎの定量的測定方法であって、t秒時の重心位置Y(t)と、遅延時間をτとした場合におけるt+τ秒時の重心位置Y(t+τ)との相関関係であるtime-delay mapを作成し、時間反転対称性が保存されている場合は、平衡機能は正常であり、時間反転対称性が破れている場合は、平衡機能は異常であると判断する。
【選択図】図4
特許請求の範囲 【請求項1】
被検者の身体のゆらぎを時間反転対称性にて定量的に測定する、身体のゆらぎの定量的測定方法であって、
t秒時の重心位置Y(t)と、遅延時間をτとした場合におけるt+τ秒時の重心位置Y(t+τ)との相関関係であるtime-delay mapを作成し、
時間反転対称性が保存されている場合は、平衡機能は正常であり、
時間反転対称性が破れている場合は、平衡機能は異常であると判断することを特徴とする、身体のゆらぎの定量的測定方法。
【請求項2】
t秒時の重心位置Y(t)とt+τ秒時の重心位置Y(t+τ)との値を直行する二次元上にて重心位置を複数プロットしたtime-delay mapにおいて、原点を通る傾き1の直線の上下でプロット数の偏りがない場合は時間反転対称性が保存されており平衡機能は正常であり、原点を通る傾き1の直線の上下でプロット数の偏りがある場合は時間反転対称性が破れており平衡機能は異常であると判断する、ことを特徴とする請求項1に記載の身体のゆらぎの定量的測定方法。
【請求項3】
t秒時の重心位置Y(t)とt+τ秒時の重心位置Y(t+τ)との値を直行する二次元上にて重心位置を複数プロットしたtime-delay mapにおいて、原点を通る傾き1の直線よりも上にあるプロットの個数Puと原点を通る傾き1の直線よりも下にあるプロットの個数Pdとをカウントし、下記(1)の絶対値が0.1以下の場合は時間反転対称性が保存されており平衡機能は正常であり、下記(1)の絶対値が0.1よりも大きい場合は時間反転対称性が破れており平衡機能は異常であると判断する、ことを特徴とする請求項2に記載の身体のゆらぎの定量的測定方法。
【数1】
JP2019205597A_000005t.gif

【請求項4】
前記遅延時間τは、0.1秒以上30秒以下であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の身体のゆらぎの定量的測定方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、被検者の平衡機能を適切に評価できる身体のゆらぎの定量的測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマーをはじめとする神経系の認知機能障害は、早期の発見や治療が重要なため(非特許文献1,2)、様々な早期発見用の検査方法が開発されている。例えばMMSE検査や長谷川式簡易知能評価スケールといった、記憶力、言語力、見当識等を問う検査方式は早期発見用の検査方法として主流であるが(非特許文献3)、質問内容が、日にち、曜日等、簡単な質問が多いため、被験者から積極的な協力が得られないという課題がある。また、最近になって、脳内のアミロイドβの蓄積量を、陽電子放射断層撮影法(PET)を利用して検査する、アミロイドPETが導入されつつあるが(特許文献1,2)、検査費用が高額であるという、コスト面の課題がある。
【0003】
認知機能障害と重心動揺との間には関連があり、被検者の重心動揺を指標とする認知機能検査が提案されている(非特許文献4)。重心動揺の解析として時間変化のフーリエ解析によりパワースペクトルを求める手法があるが(非特許文献5)、この手法ではゆらぎの時間発展情報が欠落する。
【先行技術文献】
【0004】

【特許文献1】特表2014-532177号公報
【特許文献2】特表2014-530352号公報
【0005】

【非特許文献1】Blennow K, de Leon MJ, Zetterberg H (2006) Alzheimer's disease. Lancet 368, 387-403.
【非特許文献2】Drachman DA (2006) Aging of the brain, entropy, and Alzheimer disease. Neurology 67, 1340-1352.
【非特許文献3】中野今治、水澤英洋編集:よくわかるアルツハイマー病、2004、永井書店
【非特許文献4】八田武志、高齢者の重心動揺と認知機能の発達について、2013、日心第77回大会
【非特許文献5】Xu, B.; Identifying Fabric Structures with Fast Fourier Transform Techniques. Text. Res. J.,66-3, (1996) 496-506
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、神経系の認知機能障害の診断にも応用できる簡易且つ定量的な身体のゆらぎの定量的測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明にかかる身体のゆらぎの定量的測定方法は、被検者の身体のゆらぎを時間反転対称性にて定量的に測定する、身体のゆらぎの定量的測定方法であって、t秒時の重心位置Y(t)とt+τ秒時の重心位置Y(t+τ)との相関関係であるtime-delay mapを作成し、時間反転対称性が保存されている場合は、平衡機能は正常であり、時間反転対称性が破れている場合は、平衡機能は異常であると判断することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、簡易且つ定量的に被検者の身体のゆらぎを測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】t秒時の重心位置Y(t)とt+τ秒時の重心位置Y(t+τ)との値を直行する二次元上にて重心位置を複数プロットしたtime-delay mapの概念図である。
【図2】本実施例にかかる身体のゆらぎの定量的測定方法の実験設備の概略を説明する図である。
【図3】被検者の開眼時の前後方向についての時系列データであり、そのうち(A)は平常時であり、(B)は飲酒時である。
【図4】被検者の開眼時の前後方向についての遅延時間τが3秒の場合のtime-delay mapであり、そのうち(A)は平常時であり、(B)は飲酒時である。
【図5】被検者の開眼時の前後方向についての遅延時間τが0.5秒の場合のtime-delay mapであり、そのうち(A)は平常時であり、(B)は飲酒時である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。

【0011】
本発明においては、被検者の身体のゆらぎ、即ち、被検者の重心のゆらぎを時間反転対称性にて定量的に測定する。重心のゆらぎの時間反転対称性は、time-delay mapを作成することにより評価する。time-delay mapは時間発展マップとも呼ばれ、任意の時刻tと遅延時間τを用い、時刻tにおける重心位置Y(t)とt+τ秒時の重心位置Y(t+τ)との値を、直行する二次元上にてプロットしたマップである。時間反転対称性が保存されている場合は、平衡機能は正常であり、時間反転対称性が破れている場合は、平衡機能は異常であると判断する。

【0012】
図1は、t秒時の重心位置Y(t)とt+τ秒時の重心位置Y(t+τ)との値を直行する二次元上にて重心位置を複数プロットしたtime-delay mapである。図1において、(B)に示されるように原点を通る傾き1の直線であるY(t+τ)=Y(t)の上下でプロット数の偏りがない場合は時間反転対称性が保存されており平衡機能は正常である。一方(A)及び(C)に示されるように原点を通る傾き1の直線の上下でプロット数の偏りがある場合は時間反転対称性が破れており平衡機能は異常であると判断することができる。

【0013】
具体的には、time-delay mapにおいて、原点を通る傾き1の直線よりも上にあるプロットの個数Puと原点を通る傾き1の直線よりも下にあるプロットの個数Pdとをカウントする。そして下記(1)の絶対値が0.1以下の場合は時間反転対称性が保存されており平衡機能は正常であり、下記(1)の絶対値が0.1よりも大きい場合は時間反転対称性が破れており平衡機能は異常であると判断する。

【0014】
【数1】
JP2019205597A_000003t.gif

【0015】
遅延時間τは、重心のゆらぎの時間反転対称性を適切に評価できる限り特に限定されるものではないが、例えば遅延時間τは0.1秒以上30秒以下、好ましくはτは0.5秒以上20秒以下、特に好ましくはτは3秒以上10秒以下とすることができる。

【0016】
本実施形態にかかる発明において、被検者の身体のゆらぎを定量的に測定することにより、例えば被検者の認知症の罹患可能性及び罹患の有無の診断としての応用が可能である。即ち、t秒時の重心位置Y(t)と、遅延時間をτとした場合におけるt+τ秒時の重心位置Y(t+τ)との相関関係であるtime-delay mapを作成し、作成されたtime-delay mapの形状から、認知症の罹患可能性がどれぐらいあるか、又は、認知症罹患の有無の診断が可能で有り、更には、作成されたtime-delay mapの形状から具体的な認知症の病態(例えば、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、レビー小体型認知症、パーキンソン型認知症、前頭側頭型認知症等)を診断することも可能である。

【0017】
本実施形態にかかる発明において、被検者の身体のゆらぎを定量的に測定することにより、例えば被検者の耳石器の異常の有無の診断としての応用が可能である。耳石器の機能評価には、例えば直線運動刺激(Linear translation)法、偏垂直回転(Off-vertical axis rotation)法等が知られているが、熟練した測定技術が必要となる等の問題があるところ、t秒時の重心位置Y(t)と、遅延時間をτとした場合におけるt+τ秒時の重心位置Y(t+τ)との相関関係であるtime-delay mapを作成し、作成されたtime-delay mapの形状から被検者の耳石器の機能を定量的に評価することで簡易且つ定量的にめまい診断等が可能となる。

【0018】
高齢者は全身持久力や筋力だけではなくバランス能力も低下する。本実施形態にかかる発明において、被検者が高齢者である場合、被検者の身体のゆらぎを定量的に測定することにより、例えば高齢者の転倒リスクの評価法としての応用が可能である。t秒時の重心位置Y(t)と、遅延時間をτとした場合におけるt+τ秒時の重心位置Y(t+τ)との相関関係であるtime-delay mapを作成し、作成されたtime-delay mapの形状から被検者の転倒リスクがどの程度存在するか簡易且つ定量的に診断可能となる。
【実施例】
【0019】
(1)実施例1
図2は、本実施例にかかる身体のゆらぎの定量的測定方法の実験設備の概略を説明する図である。図2(A)に示すように重心動揺計として、ビデオゲーム機Nintendo WiiのコントローラーであるバランスWiiボードを使用した。バランスWiiボードは端に4つの高性能ストレインゲージ式フォースセンサを内蔵している。PCにBluetooth(登録商標)で接続したWiiボードの制御は、WiimoteLibを利用し、Excelのシートに質量と足圧中心座標値を直接記録できるようにプログラミングした。
【実施例】
【0020】
図2(B)に示すように被検者の重心動揺の軌跡を左右方向の時系列データと前後方向の時系列データとして測定するように、被検者の正面及び側面にそれぞれ被検者の重心位置を撮影するカメラを設置した。
【実施例】
【0021】
体重60.0kgの被検者の平常時の重心動揺のデータと、飲酒時の重心動揺のデータとを比較して本実施例にかかる身体のゆらぎの定量的測定方法の測定精度を検討した。実験手順は下記に従った。
・開眼平常時のデータを計測(5分)
・5分間休憩
・閉眼平常時のデータを計測(5分)
・5分間休憩
・37.5%の蒸留酒(ウォッカ)を30秒以内に25mL摂取
・10分後、気分が悪い等の症状がないか確認した後、37.5%の蒸留酒(ウォッカ)を30秒以内に25mL摂取
・5分間時間をおき、酩酊状態となるのを待つ
・開眼飲酒時のデータを計測(5分)
・5分間休憩
・閉眼飲酒時のデータを計測(5分)
なお、血中アルコール濃度(%)は被験者の体重が60kgの場合、0.0375%で爽快期にあたる。
【実施例】
【0022】
上記のように重心動揺の軌跡は左右方向の時系列データと前後方向の時系列データとして測定されるが、本実施例においては前後方向について解析した。時間tは0秒からスタートして60秒まで測定した。図3は被検者の開眼時の前後方向についての時系列データであり、そのうち(A)は平常時であり、(B)は飲酒時である。時間tは30秒後から60秒後までを記載している。
【実施例】
【0023】
次に、この前後方向の時系列データを使用し、遅延時間τは3秒としてtime-delay mapを作成した。Y(t)は時系列データのものをそのまま用い、Y(t+τ)はY(t)の時刻τ後のデータを用いて作成した。図4は被検者の開眼時の前後方向についてのtime-delay mapであり、そのうち(A)は平常時であり、(B)は飲酒時である。時間tは30秒後から60秒後までを記載している。
【実施例】
【0024】
(A)に示されるように、平常時のtime-delay mapでは傾き1の斜め線から大きく離れず、密集しているのが分かる。即ち平常時のtime-delay mapでは、原点を通る傾き1の直線の上下でプロット数の偏りがなく、時間反転対称性が保存されており、平衡機能は正常であることがわかる。一方、(B)に示されるように、飲酒時におけるtime-delay mapでは傾き1の斜め線から大きく離れた位置をプロットが通過しており、約3秒前からの重心の移動量が大きいことが分かる。即ち、飲酒時のtime-delay mapでは、原点を通る傾き1の直線の上下でプロット数の偏りがあり、時間反転対称性が破れており、平衡機能は異常であることがわかる。(B)に示されるように、30秒から40秒手前までの移動量の大きさについては軌跡からも分かるが、time-delay mapを見ることで40秒以降の時間帯でも同様の結果が得られている事が分かる。
【実施例】
【0025】
(2)実施例2
次に、t秒時の重心位置Y(t)とt+τ秒時の重心位置Y(t+τ)との値を直行する二次元上にて重心位置を複数プロットしたtime-delay mapにおいて、原点を通る傾き1の直線よりも上にあるプロットの個数Puと原点を通る傾き1の直線よりも下にあるプロットの個数Pdとをカウントし、下記(1)の絶対値を検討することで重心動揺の定量的評価を試みた。
【実施例】
【0026】
【数2】
JP2019205597A_000004t.gif
【実施例】
【0027】
実験手順及び実験設備は、原則実施例1と同じであるが、遅延時間τは0.5秒としてtime-delay mapを作成し、平常時では13秒~17秒、飲酒時では44秒~49秒のデータを使用した。図5は被検者の開眼時の前後方向についてのtime-delay mapであり、そのうち(A)は平常時であり、(B)は飲酒時である。(A)に示されるように、平常時のtime-delay mapでは傾き1の斜め線から大きく離れず、密集しており綺麗な楕円にて点群を囲むことができる。上記(1)の絶対値は0.07であった。一方、(B)に示されるように、飲酒時のtime-delay mapでは傾き1の斜め線から大きく離れており、点群はいびつな形を形成していた。上記(1)の絶対値は0.32であった。
【実施例】
【0028】
この実験結果から、上記(1)の絶対値が0.1以下の場合は時間反転対称性が保存されており平衡機能は正常であり、(1)の絶対値が0.1よりも大きい場合は時間反転対称性が破れており平衡機能は異常であると判断できる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
認知症の診断に利用できる。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4