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明細書 :アミロイドβ蛋白並びにタウ蛋白及び/又はリン酸化タウ蛋白の測定方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-169349 (P2018-169349A)
公開日 平成30年11月1日(2018.11.1)
発明の名称または考案の名称 アミロイドβ蛋白並びにタウ蛋白及び/又はリン酸化タウ蛋白の測定方法
国際特許分類 G01N  33/53        (2006.01)
FI G01N 33/53 D
請求項の数または発明の数 7
出願形態 OL
全頁数 12
出願番号 特願2017-068409 (P2017-068409)
出願日 平成29年3月30日(2017.3.30)
発明者または考案者 【氏名】遠山 育夫
【氏名】清水 志乃
【氏名】亀島 直子
出願人 【識別番号】504177284
【氏名又は名称】国立大学法人滋賀医科大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110000796、【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
審査請求 未請求
要約 【課題】一度の採取により得られた鼻腔内検体を用いた、アミロイドβ蛋白並びにタウ蛋白及び/又はリン酸化タウ蛋白の量を同時測定する方法を提供する。
【解決手段】以下の工程(I)及び(II)を含む、鼻腔内検体中のアミロイドβ蛋白並びにタウ蛋白及び/又はリン酸化タウ蛋白の量を同時測定する方法:(I) 鼻腔から採取した鼻腔内検体を、可溶化剤及び界面活性剤を含む抽出液中に溶出させる工程、及び(II) 工程(I)で得られた抽出液から、免疫学的測定法により、鼻腔内検体中のアミロイドβ蛋白並びにタウ蛋白及び/又はリン酸化タウ蛋白の量を測定する工程。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
以下の工程(I)及び(II)を含む、鼻腔内検体中のアミロイドβ蛋白並びにタウ蛋白及び/又はリン酸化タウ蛋白の量を同時測定する方法:
(I) 鼻腔から採取した鼻腔内検体を、可溶化剤及び界面活性剤を含む抽出液中に溶出させる工程、及び
(II) 工程(I)で得られた抽出液から、免疫学的測定法により、鼻腔内検体中のアミロイドβ蛋白並びにタウ蛋白及び/又はリン酸化タウ蛋白の量を測定する工程。
【請求項2】
前記可溶化剤が、グアニジン又はその塩である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記界面活性剤が、ドデシルマルトシドである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程(II)において、更に、総蛋白量の測定を行う、請求項1~3のいずれか一項に記載の測定方法。
【請求項5】
工程(I)において、鼻腔内検体を溶出させた抽出液に対して、更に、熱処理、フィルター濾過及び脱塩からなる群から選択される少なくとも1種の処理を行う、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記鼻腔内検体が一度の採取により得られたものである、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
鼻腔から採取した鼻腔内検体を、可溶化剤及び界面活性剤を含む抽出液中に溶出させる手段と、
上記手段で得られた抽出液から、免疫学的測定法により、鼻腔内検体中のアミロイドβ蛋白並びにタウ蛋白及び/又はリン酸化タウ蛋白の量を測定する手段
とを備える、鼻腔内検体中のアミロイドβ蛋白並びにタウ蛋白及び/又はリン酸化タウ蛋白の量の同時測定システム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、鼻腔内検体中のアミロイドβ蛋白並びにタウ蛋白及び/又はリン酸化タウ蛋白の量を同時測定する方法に関する。また、本発明は、鼻腔内検体中のアミロイドβ蛋白並びにタウ蛋白及び/又はリン酸化タウ蛋白の量の同時測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病は、初老期から老年期に起こる進行性の認知症を特徴とする疾患であり、現在、国内の患者数は460万人以上と言われている。さらに今後、人口の高齢化に伴いその数は確実に増加すると予想される。アルツハイマー病は、これまで根本治療法がなかったが、1999年にワクチン療法がモデルマウスで成功して以来、根本治療法開発への期待が高まっている。これら根本治療法を有効に活用するためには、早期且つ簡便にアルツハイマー病を診断する方法が不可欠である。
【0003】
アルツハイマー病の臨床症状は、記憶障害、高次脳機能障害(失語、失行、失認、構成失行)等である。その症状は他の認知症疾患でも共通して見られることが多く、臨床症状だけでアルツハイマー病と確定診断することは極めて困難である。
【0004】
一方、アルツハイマー病の特徴的な病理組織所見としては、老人斑と神経原線維変化がある。前者の主構成成分はβシート構造をとったアミロイドβ蛋白であり、後者のそれは過剰リン酸化されたタウ蛋白である。アルツハイマー病においては臨床症状が発症するかなり前から、脳内では凝集したアミロイドβ蛋白の蓄積等の上記病理的組織変化が始まっていることが知られている。また、過剰リン酸化されたタウ蛋白の蓄積は、アミロイドβ蛋白の蓄積よりは遅れて生じてくると考えられているが、神経原線維変化はアミロイドβ蛋白の蓄積と比べて疾患の重症度と密接に関連していると考えられている。そのため、アミロイドβ蛋白とタウ蛋白の両方を検出することで、アルツハイマー病の早期診断と重症度の診断が可能となる。
【0005】
このような観点から、近年、脳内アミロイドβ蛋白に選択的に結合する造影剤を用いたポジトロン断層撮影法(PET)、シングルフォトン断層撮影法(SPECT)、及び核磁気共鳴イメージング法(MRI)による老人斑の画像化についての研究が進められている。また、タウ蛋白に結合するPETやSPECT用の放射性造影剤の研究も進められている。
【0006】
本発明者らは、侵襲性が低いアルツハイマー病の診断方法として、鼻腔から綿棒などにより採取した鼻腔内検体を用いることでアミロイドβ蛋白及びタウ蛋白の濃度を測定できることを報告している(特許文献1、2、非特許文献1)。特許文献1、2、及び非特許文献1で報告されている方法では、アミロイドβ蛋白を検出するために、可溶化剤としてギ酸を添加することが行われている。これは、検体中ではアミロイドβ蛋白が凝集しているため、ギ酸により凝集を解きほぐして、可溶性アミロイドβモノマーとすることで、アミロイドβ蛋白の検出が可能となるためである。
【0007】
しかしながら、ギ酸は蛋白を分解させてしまうことから、タウ蛋白又はリン酸化タウ蛋白を測定できなくなる。そのため、アミロイドβ蛋白とタウ蛋白又はリン酸化タウ蛋白の両方を測定するためには、2箇所から検体を採取する必要があり、患者の負担となる可能性がある。
【先行技術文献】
【0008】

【特許文献1】国際公開第2011/092796号
【特許文献2】特許第5850374号公報
【0009】

【非特許文献1】Nanjo T et al.: Development of a method to measure Aβ42 in nasal cavity and its application in normal human volunteers. Journal of Brain Science, 44: 5-23, 2014.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、一度の採取により得られた鼻腔内検体を用いた、アミロイドβ蛋白並びにタウ蛋白及び/又はリン酸化タウ蛋白の量を同時測定する方法を提供することを目的とする。また、本発明は、一度の採取により得られた鼻腔内検体を用いた、アミロイドβ蛋白並びにタウ蛋白及び/又はリン酸化タウ蛋白の量の同時測定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、鼻腔内検体における可溶化剤としてグアニジン塩酸塩を使用することで、アミロイドβ蛋白の凝集体を可溶性アミロイドβモノマーとすることができ、且つタウ蛋白及びリン酸化タウ蛋白が分解されずにこれらを測定可能であるという知見を得た。結果として、一度の採取により得られた鼻腔内検体を用いて、アミロイドβ蛋白並びにタウ蛋白及び/又はリン酸化タウ蛋白の量を同時に測定することが可能となる。
【0012】
本発明は、これら知見に基づき、更に検討を重ねて完成されたものであり、次のアミロイドβ蛋白並びにタウ蛋白及び/又はリン酸化タウ蛋白の量を同時測定する方法及び同時測定システムを提供するものである。
【0013】
項1.以下の工程(I)及び(II)を含む、鼻腔内検体中のアミロイドβ蛋白並びにタウ蛋白及び/又はリン酸化タウ蛋白の量を同時測定する方法:
(I) 鼻腔から採取した鼻腔内検体を、可溶化剤及び界面活性剤を含む抽出液中に溶出させる工程、及び
(II) 工程(I)で得られた抽出液から、免疫学的測定法により、鼻腔内検体中のアミロイドβ蛋白並びにタウ蛋白及び/又はリン酸化タウ蛋白の量を測定する工程。
項2.前記可溶化剤が、グアニジン又はその塩である、項1に記載の方法。
項3.前記界面活性剤が、ドデシルマルトシドである、項1又は2に記載の方法。
項4.工程(II)において、更に、総蛋白量の測定を行う、項1~3のいずれか一項に記載の測定方法。
項5.工程(I)において、鼻腔内検体を溶出させた抽出液に対して、更に、熱処理、フィルター濾過及び脱塩からなる群から選択される少なくとも1種の処理を行う、項1~4のいずれか一項に記載の方法。
項6.前記鼻腔内検体が一度の採取により得られたものである、項1~5のいずれか一項に記載の方法。
項7.鼻腔から採取した鼻腔内検体を、可溶化剤及び界面活性剤を含む抽出液中に溶出させる手段と、
上記手段で得られた抽出液から、免疫学的測定法により、鼻腔内検体中のアミロイドβ蛋白並びにタウ蛋白及び/又はリン酸化タウ蛋白の量を測定する手段
とを備える、鼻腔内検体中のアミロイドβ蛋白並びにタウ蛋白及び/又はリン酸化タウ蛋白の量の同時測定システム。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、一度の採取により得られた鼻腔内検体を用いて、アミロイドβ蛋白並びにタウ蛋白及び/又はリン酸化タウ蛋白の量を同時に測定することが可能となる。そのため、検体の採取が一度で済むので、アルツハイマー病のようなアミロイドβ蛋白及びタウ蛋白が蓄積する疾患の診断において、患者の負担を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】試験例2における、界面活性剤を入れないか又は各種の界面活性化剤を入れたバッファーを使用した場合のタウ蛋白の回収率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。

【0017】
なお、本明細書において「含む(comprise)」とは、「本質的にからなる(essentially consist of)」という意味と、「のみからなる(consist of)」という意味をも包含する。

【0018】
本発明の鼻腔内検体中のアミロイドβ蛋白並びにタウ蛋白及び/又はリン酸化タウ蛋白の量を同時測定する方法は、以下の工程(I)及び(II)を含むことを特徴とする。
(I) 鼻腔から採取した鼻腔内検体を、可溶化剤及び界面活性剤を含む抽出液中に溶出させる工程
(II) 工程(I)で得られた抽出液から、免疫学的測定法により、鼻腔内検体中のアミロイドβ蛋白並びにタウ蛋白及び/又はリン酸化タウ蛋白の量を測定する工程

【0019】
本発明における「アミロイドβ蛋白」としては、特に断りが無い限りAβ42とAβ40を示す。アミロイドβモノマーにおいて、特に重要なのが、42個のアミノ酸からなるアミロイドβモノマー(Aβ42)と、40個のアミノ酸からなるアミロイドβモノマー(Aβ40)である。脳組織におけるアルツハイマー病の特徴的な現象として知られる老人班の形成には、Aβ42とAβ40の凝集性及び吸着性が起因していると考えられている。現在、実際の臨床現場では、髄液中のAβ42とAβ40が測定指標とされている。

【0020】
鼻腔内検体としては、綿棒やスワブ等の採取具を被験対象の鼻粘膜に擦過することによって鼻粘液を採取することで得られる鼻汁や鼻腔内粘膜擦過物である。擦過する部分は、鼻粘液を採取できる限り特に制限されず、例えば、嗅裂、上鼻甲介、中鼻甲介、下鼻甲介、鼻中隔などが挙げられる。

【0021】
本発明における被験対象としては、哺乳動物(ヒト、サル、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、マウス、ラット等)であり、特にヒトである。

【0022】
本発明では、鼻腔内検体は一度の採取により得られたものであることを特徴とする。このように一度の採取で済むため、患者の負担を軽減することができる。

【0023】
本発明の工程(I)は、鼻腔から採取した鼻腔内検体を、可溶化剤及び界面活性剤を含む抽出液中に溶出させる工程である。

【0024】
工程(I)では、例えば、鼻粘液を採取した綿棒やスワブ等を抽出液に浸漬させることにより、鼻腔内検体を抽出液中に溶出させる。具体的には、抽出液が入ったマイクロチューブ等の容器に鼻粘液を採取した綿棒やスワブ自体を入れ、攪拌することにより行う。

【0025】
可溶化剤は、鼻腔内検体から抽出液に溶出したアミロイドβ蛋白の凝集体を解きほぐして、可溶性アミロイドβモノマーにするために用いられる。可溶性アミロイドβモノマーにすることで、アミロイドβ蛋白の量を正確に測定することが可能となる。

【0026】
可溶化剤としては、アミロイドβ蛋白の凝集体を解きほぐして、可溶性アミロイドβモノマーにすることができるものであれば特に制限なく使用することができる。中でも、グアニジン又はその塩が好ましく、グアニジン塩酸塩が特に好ましい。グアニジン又はその塩を可溶化剤として使用することで、タウ蛋白及びリン酸化タウ蛋白の分解を防ぐことができる。可溶化剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。抽出液中の可溶化剤の濃度は、通常0.1~20M程度、好ましくは1~10M程度である。

【0027】
界面活性剤は、容器内壁等に対する蛋白質の吸着や鼻粘液への蛋白質の吸着を抑制するために用いられる。界面活性剤を使用することで、アミロイドβ蛋白、タウ蛋白、リン酸化タウ蛋白の量をより正確に測定することが可能となる。

【0028】
界面活性剤としては、容器内壁等に対する蛋白質の吸着や鼻粘液への蛋白質の吸着を抑制することができるものであれば特に制限なく使用でき、陽イオン界面活性剤、陰イオン界面活性剤、両性界面活性剤、及び非イオン界面活性剤のいずれも使用することができる。中でも、非イオン界面活性剤が好ましく、アルキルグリコシド、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(Tween (登録商標) 20など)、及びオクチルフェノールエトキシレート(Triton X-100など)がより好ましく、ドデシルマルトシド(n-ドデシル-β-マルトシド)が特に好ましい。界面活性剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。抽出液中の界面活性剤の濃度は、通常0.001~10容量%程度、好ましくは0.01~5容量%程度である。

【0029】
抽出液には、アミロイドβ蛋白、タウ蛋白及びリン酸化タウ蛋白の溶出を阻害しない限り、可溶化剤及び界面活性剤以外の添加剤を含ませることができる。そのような添加剤として、緩衝剤、金属塩等が挙げられる。緩衝剤としては、例えば、トリス塩酸緩衝剤、リン酸カリウム緩衝剤、酢酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、グリシン塩酸緩衝剤、HEPES緩衝剤、MES緩衝剤等が挙げられる。金属塩としては、例えば、カリウム塩、ナトリウム塩、マグネシウム塩等が挙げられる。溶出液のpHは、通常5~9程度である。溶出液の溶媒としては、通常、水である。

【0030】
工程(I)では、鼻腔内検体を溶出させた抽出液に対して、更に、熱処理、フィルター濾過、脱塩、濃縮などの処理を行うことができる。

【0031】
熱処理の条件は、溶出液に含まれる蛋白質を可溶化させることができる条件であれば特に制限されず、加熱温度は通常50~100℃であり、加熱時間は通常1~60分間である。

【0032】
フィルター濾過では、カラムの目詰まり等を防止するため、溶出液に含まれる夾雑物の除去を行う。このようなフィルターとしては、例えば、粒子径が0.2μm以上あるいは分画分子量が100,000~1,000,000であるものが挙げられる。

【0033】
脱塩では、可溶化剤の除去やバッファーの交換を行う。脱塩は、公知の手法により行うことができ、そのような手法としては、例えば、脱塩カラム、透析、限外濾過、ゲル濾過クロマトグラフィー、沈殿/再懸濁などが挙げられ、好ましくは脱塩カラムである。

【0034】
工程(I)のいずれかの時点で、抽出液をアミロイドβ蛋白の測定用と、タウ蛋白及び/又はリン酸化タウ蛋白の測定用の2つに分けることが望ましい。

【0035】
本発明の工程(II)は、工程(I)で得られた抽出液から、免疫学的測定法により、鼻腔内検体中のアミロイドβ蛋白並びにタウ蛋白及び/又はリン酸化タウ蛋白の量を測定する工程である。

【0036】
免疫学的測定法は、測定するペプチド又は蛋白質に特異的に結合する抗体などの結合物質を使用する手法であり、各種公知の手法を用いて実施できる。免疫学的測定法としては、例えば、ELISA法、ウエスタンブロット法、ラジオイムノアッセイ、タンパク質マイクロアレイ等が挙げられる。ELISA法で測定を行う場合には、Aβ42、Aβ40、リン酸化タウ蛋白、タウ蛋白などの測定用の市販のELISAキットを利用することができる。

【0037】
工程(II)において、上記に加えて、更に、総蛋白量の測定を行うこともできる。総蛋白量の測定は、例えば、BCA法、Bradford法、Lowry法、紫外線吸収法、ピロガロールレッド-モリブデン錯体発色法などにより行うことができる。

【0038】
本発明の測定方法により得られた、アミロイドβ蛋白並びにタウ蛋白及び/又はリン酸化タウ蛋白の量の値は、アミロイドβ蛋白及びタウ蛋白が蓄積する疾患の診断に利用することができる。例えば、アミロイドβ蛋白、タウ蛋白及びリン酸化タウ蛋白の量の値を、又はこれらの値を用いて各種演算を行って求めた値を、予め定められた量と比較することにより、疾患のリスクの判定を行い得る。また、特許文献2に記載されているように、タウ蛋白の量の2乗と、アミロイドβ蛋白の量の2乗との和の平方根を求め、これを予め定められた閾値と比較することにより、疾患のリスクの判定を行い得る。

【0039】
アミロイドβ蛋白が蓄積する疾患としては、アルツハイマー病の他、ダウン症候群が挙げられ、タウ蛋白が蓄積する疾患としては、アルツハイマー病の他、進行性核上性麻痺(PSP)、大脳皮質変性症、前頭側頭型認知症、ピック病等が挙げられる。

【0040】
本発明の鼻腔内検体中のアミロイドβ蛋白並びにタウ蛋白及び/又はリン酸化タウ蛋白の量の同時測定システムは、
鼻腔から採取した鼻腔内検体を、可溶化剤及び界面活性剤を含む抽出液中に溶出させる手段と、
上記手段で得られた抽出液から、免疫学的測定法により、鼻腔内検体中のアミロイドβ蛋白並びにタウ蛋白及び/又はリン酸化タウ蛋白の量を測定する手段
とを備えることを特徴とする。

【0041】
本発明のシステムは、上述した方法を実現するためのシステムであり、鼻腔内検体、可溶化剤、界面活性剤、抽出液、免疫学的測定法などは前述するものと同様である。

【0042】
上記の鼻腔内検体を可溶化剤及び界面活性剤を含む抽出液中に溶出させる手段としては、例えば、鼻粘液を採取した綿棒やスワブ等を抽出液に浸漬する手段が挙げられ、具体的には、抽出液が入ったマイクロチューブ等の容器に鼻粘液を採取した綿棒やスワブ自体を投入し、攪拌する手段が挙げられる。

【0043】
上記の免疫学的測定法により、鼻腔内検体中のアミロイドβ蛋白並びにタウ蛋白及び/又はリン酸化タウ蛋白の量を測定する手段としては、例えば、ELISAを実施する分析装置などを挙げることができる。

【0044】
本発明のシステムは、更に、鼻腔内検体を溶出させた抽出液に対して、熱処理、フィルター濾過、脱塩、濃縮などを行う手段、総蛋白量の測定手段などを備え得る。

【0045】
本発明の方法及びシステムによれば、患者から一度の採取により得られた鼻腔内検体を用いて、アミロイドβ蛋白並びにタウ蛋白及び/又はリン酸化タウ蛋白の量を同時に測定することが可能となる。そのため、従来では2箇所から検体を採取する必要があったが、検体の採取が一度で済むことになるので、アルツハイマー病のようなアミロイドβ蛋白及びタウ蛋白が蓄積する疾患の診断を行う場合に、患者の負担を軽減することができる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を更に詳しく説明するため実施例を挙げる。しかし、本発明はこれら実施例等になんら限定されるものではない。
【実施例】
【0047】
なお、以下の試験例における界面活性剤の濃度(%)は容量%を示す。
【実施例】
【0048】
試験例1
倫理委員会の承認のもと、アルツハイマー(AD)例14名、健常者17名を対象とした。滋賀医科大学医学部附属病院脳神経センターの受診者及び患者の介護者の中から、インフォームドコンセントにより、書面による承諾を得られた症例について実施した。年齢、性別ともに、AD例と老年正常者群で有意な差を認めなかった。血液一般検査では、両群に有意な差は見られなかった。
【実施例】
【0049】
<方法>
1)鼻腔(嗅裂、下鼻甲介)を綿棒で擦過した。
2)200 mMのNaCl、8Mの塩酸グアニジン、2 mM EDTA、及び0.05%のドデシルマルトシドを加えた50 mMのトリス塩酸バッファー(pH 8.0)(本試験例においてグアニジン溶液と略する) 100μl中に綿棒を入れて、よく洗った。
3)70℃で10分間加熱した。
4)0.2μmのPTFEフィルターで濾過した。
【実施例】
【0050】
当該濾液約100μlを以下のAとBの2つのステップに分けて測定を行った。
【実施例】
【0051】
(Aステップ)
A-1.濾液の45μlを300Kオメガフィルターで限外濾過し、更にグアニジンを除いたバッファー(以下、置換バッファーと略する)90μlを入れて300Kオメガフィルターを洗浄して、総量で135μlの濾液を得た。
A-2.置換バッファーで膨潤したG-10カラム1 mlをカラムに充填した後、膨潤溶液を遠心除去した。
A-3.濾液120μl、置換バッファー 40μlの順にカラムに添加し、遠心(800 x g, 2 min)によりゲル濾過液を回収することで、サンプル中のグアニジン塩酸塩の除去を行った。
A-4. この溶液をサンプルとし、市販のELISA kit (Aβ42、Aβ40)及び総タンパク測定キットを用いて、Aβ42、Aβ40の測定、及び総タンパク測定を行った。用いた試薬は、下記の通りである。
・Human/Rat βAmyloid(42) ELISA Kit, High Sensitive (和光純薬工業(株)、292-64501)
・Human/Rat βAmyloid(40) ELISA Kit II (和光純薬工業(株)、294-64701)
・プロテインアッセイラピッドキットワコー(和光純薬工業(株)、293-56101)
【実施例】
【0052】
(Bステップ)
B-1.置換バッファーで膨潤したG-10カラム0.7 mLをカラムに充填した後、膨潤溶液を遠心除去した。
B-2.濾液40μl、置換バッファー 10μlの順にカラムに添加し、遠心(800 x g, 2 min)によりゲル濾過液を回収することで、サンプル中のグアニジン塩酸塩の除去を行った。
B-3.この溶液をサンプルとし、市販のELISA kit (tTau・pTau)及び総タンパク測定キットを用いて、総タウ・リン酸化タウの測定、及び総タンパク測定を行った。用いた試薬は、下記の通りである。
・TAU (Total) Human ELISA Kit (Invitrogen,KHB0041)
・TAU [pT181] Human ELISA Kit (Invitrogen,KHO0631)
・プロテインアッセイラピッドキットワコー(和光純薬工業(株)、293-56101)
【実施例】
【0053】
<結果>
結果を表1及び2に示す。嗅裂においては、AD例の92.9%、健常例の94.1%で蛋白量、Aβ42、Aβ40、タウ蛋白、及びリン酸化タウ蛋白の同時測定が可能であった。下鼻甲介においては、AD例の100%、健常例の94.1%で同時測定が可能であった(表1)。従来法では、
Aβ42とタウ蛋白の同時測定も(試験例3)、タウ蛋白とリン酸化タウ蛋白の同測定もできなかったが(試験例4)、本発明により、Aβ42、Aβ40、タウ蛋白、及びリン酸化タウ蛋白の同時測定がすべて可能になった。
【実施例】
【0054】
このように同時測定が可能になったことで、バイオマーカー間の比較ができるようになった。例えば、リン酸化タウ蛋白量をタウ蛋白量で割ることで補正すると、嗅裂方向において、AD群で高い傾向を示した(p=0.062, 表2)。
【実施例】
【0055】
【表1】
JP2018169349A_000002t.gif
【実施例】
【0056】
【表2】
JP2018169349A_000003t.gif
【実施例】
【0057】
試験例2
インフォームドコンセントにより、書面による承諾を得られた症例について実施した。
【実施例】
【0058】
<方法>
1)鼻腔を綿棒で擦過した。
2)色々な界面活性化剤を入れたバッファーに綿棒を入れて、よく洗った。そこに一定量のタウ蛋白を加えて処理し、どのくらいの量を回収できるか検討した。
バッファーは、200 mMのNaCl、8Mの塩酸グアニジン、2 mM EDTAを加えた50 mMのトリス塩酸バッファー(pH 8.0)を基本とし、界面活性剤を加えないか、又は以下の(A)~(E)のいずれかの界面活性剤を加えた(本試験例において、これらの溶液をグアニジン溶液とし、それぞれの溶液からグアニン塩酸塩を除いた溶液を置換バッファーと略する)。
(A) 0.05% Tween-20
(B) 0.5% Tween-20
(C) 0.05% ドデシルマルトシド
(D) 0.5% デオキシコール酸ナトリウム
(E) 0.1% SDS
3)それぞれの溶液100μlに一定量のタウ蛋白を入れたチューブを70℃で10分加熱した。
4)0.2μmのPTFEフィルターで濾過をした。
5)濾液の45μlを300Kオメガフィルターで限外濾過し、更にグアニジンを除いた置換バッファー90μlを入れて300Kオメガフィルターを洗浄し、総量で135μlの濾液を得た。
6)置換バッファーで膨潤したG-10カラム1 mlをカラムに充填した後、膨潤溶液を遠心除去した。
7)濾液120μl、置換バッファー40μlの順にカラムに添加し、遠心(800 x g, 2 min)によりゲル濾過液を回収することで、サンプル中のグアニジン塩酸塩の除去を行った。
8)脱塩した溶液から10μl取り総蛋白量を測定し、残り150μlで総タウ蛋白を測定した。総タウ蛋白の測定にはTAU (Total) Human ELISA Kitを、総蛋白量の測定にはプロテインアッセイラピッドキットワコーを用いた。
【実施例】
【0059】
<結果>
結果を図1に示す。加えたタウ蛋白をすべて回収できたのは、0.05% ドデシルマルトシドであった。添加物なし、0.5% Tween-20の場合は約90%、0.05% Tween-20は約80%タウ蛋白を回収できたが、0.5% デオキシコール酸ナトリウムと0.1% SDSはタウ蛋白を回収できなかった。
【実施例】
【0060】
試験例3
従来法により、アミロイドβ蛋白とリン酸化タウ蛋白の同時測定を試みた。健常者5名に対して実施した。
【実施例】
【0061】
本試験例では綿棒を用いて下鼻甲介の鼻粘膜組織を擦過し、鼻粘膜組織が付着した綿球を、超純水270μlを予め添加したマイクロチューブに投入した。そして、綿球の先から3.0 cmの位置で切断し、攪拌して綿棒に付着した鼻粘膜組織検体を溶出させた。本試験例では、市販されているプラ軸綿棒(医療補助用綿棒HUBY-COTIX EM3-50S((株)山洋))を使用した。
【実施例】
【0062】
次に、綿棒を引き上げて綿球を超純水から浮かした状態にし、蓋をすることでマイクロチューブに固定し、14000gで遠心することで綿球を脱水した。その後、マイクロチューブから綿棒を取り出し、マイクロチューブ内の溶液を27Gニードル装着のシリンジで30回吸込及び吐出を繰り返し懸濁した。このうち、10μlを総蛋白量の測定に用い、60μlをタウ蛋白の定量に用いた。総タウ蛋白質の測定にはTAU (Total) Human ELISA Kitを、総蛋白量の測定にはプロテインアッセイラピッドキットワコーを用いた。
【実施例】
【0063】
残りの懸濁液200μlは以下のようにしてAβ42の測定に用いた。
【実施例】
【0064】
懸濁後の溶液のうち200μlを試験管に移し、抽出液として100%ギ酸を500μl添加、攪拌し、70℃に保たれた恒温層で1時間静置した。1時間後に恒温層から試験管を取り出し、溶液をフィルター(NANOSEP 100K OMEGA(PALL):100 kDa以上のタンパク質を排除し、100 kDa以下の分子量のタンパク質のみを通過させるフィルター)で分画ろ過した。ろ液を試験管に移し、溶液量が20μlになるまで遠心エバポレーターで減圧濃縮した。濃縮した溶液を攪拌した後、1 mol/l Tris(pH未調整)を480μl加え、500μl溶液に調製した。なお、各溶液のpHを測定し中和の成否を記録用紙へ記録し、pH7.0~8.6程度の範囲であることを確認した。これら溶液をアミロイドβ蛋白の測定用試料とした。
【実施例】
【0065】
アミロイドβ蛋白の測定は、アミロイドβ蛋白を測定するELISAの測定キットを用いて実施した(Human/Rat βAmyloid(42) ELISA Kit、High-Sensitive)。測定に先立って、検量線を作成するための溶液を、Aβ42のスタンダード溶液を用いて、0.05、0.1、0.2、0.25、1、2、2.5、5、10、又は20 pMに調製した。調製後は、検量線を作成するための溶液と測定用試料1 mlをそれぞれ、測定キットのマイクロタイタープレートに100μl添加した。
【実施例】
【0066】
Aβ42と総タウ蛋白の測定結果を表3に示す。Aβ42は測定できたが、総タウ蛋白は測定できなかった。総蛋白量は測定可能であった。
【実施例】
【0067】
【表3】
JP2018169349A_000004t.gif
【実施例】
【0068】
従来法により、総タウ蛋白とリン酸化タウ蛋白の同時測定を試みた。
【実施例】
【0069】
倫理委員会の承認を得て、アルツハイマー病患者6例(71-84歳、男性3例、女性3例)と健常者1例(72歳、男性)で実施した。
【実施例】
【0070】
鼻腔の嗅裂、中鼻道、下鼻甲介、総鼻道から、綿棒を用いて鼻粘膜組織を擦過し、鼻粘膜組織が付着した綿球を、超純水270μlを予め添加したマイクロチューブに投入した。そして綿球の先から3.0 cmの位置で切断し、攪拌して綿棒に付着した鼻粘膜組織検体を溶出させた。
【実施例】
【0071】
次に、綿棒を引き上げて綿球を超純水から浮かした状態にし、蓋をすることでマイクロチューブに固定し、14000gで遠心することで綿球を脱水した。その後、マイクロチューブから綿棒を取り出し、マイクロチューブ内の溶液を27Gニードル装着のシリンジで30回吸込及び吐出を繰り返し懸濁した。この懸濁後を半分に分けて、総タウ蛋白とリン酸化タウ蛋白の測定を行った。総タウ蛋白の測定はTAU (Total) Human ELISA Kitを、リン酸化タウの測定はTau [pT181] Human ELISA Kitを用いた。
【実施例】
【0072】
その結果、総タウ蛋白は測定できたが、リン酸化タウ蛋白は全例で検出できなかった。すなわち、従来法では、同一の鼻サンプルを用いた総タウ蛋白とリン酸化タウ蛋白の同時測定はできなかった。
図面
【図1】
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