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明細書 :去勢抵抗性前立腺癌の治療

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-177658 (P2018-177658A)
公開日 平成30年11月15日(2018.11.15)
発明の名称または考案の名称 去勢抵抗性前立腺癌の治療
国際特許分類 A61K  31/7105      (2006.01)
G01N  33/50        (2006.01)
G01N  33/15        (2006.01)
C12N  15/113       (2010.01)
C12Q   1/68        (2018.01)
A61P  35/00        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
A61K  45/00        (2006.01)
A61K  48/00        (2006.01)
A61K  31/352       (2006.01)
FI A61K 31/7105
G01N 33/50 P
G01N 33/50 Z
G01N 33/15 Z
C12N 15/00 ZNAG
C12Q 1/68 A
A61P 35/00
A61P 43/00 105
A61K 45/00
A61K 48/00
A61K 31/352
A61P 43/00 121
請求項の数または発明の数 13
出願形態 OL
全頁数 21
出願番号 特願2017-075596 (P2017-075596)
出願日 平成29年4月5日(2017.4.5)
発明者または考案者 【氏名】内木 綾
【氏名】▲高▼橋 智
出願人 【識別番号】506218664
【氏名又は名称】公立大学法人名古屋市立大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100114362、【弁理士】、【氏名又は名称】萩野 幹治
審査請求 未請求
テーマコード 2G045
4B063
4C084
4C086
Fターム 2G045AA13
2G045AA16
2G045AA24
2G045AA26
2G045AA29
2G045BA13
2G045BB24
2G045CA25
2G045CA26
2G045CB01
2G045CB02
2G045CB03
2G045CB17
2G045CB26
2G045DA14
2G045FB01
2G045FB02
2G045GC12
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA18
4B063QA19
4B063QQ08
4B063QQ53
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR62
4B063QR66
4B063QS14
4B063QS25
4B063QS39
4B063QX02
4C084AA13
4C084AA17
4C084AA18
4C084AA19
4C084NA14
4C084ZB211
4C084ZB261
4C084ZC75
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA08
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB21
4C086ZB26
4C086ZC75
要約 【課題】去勢抵抗性前立腺癌に対する新規かつ有望な治療戦略を提供することを課題とする。
【解決手段】アンドロゲンレセプターバリアントAR-V7を標的にするRNA又はその発現を誘導する化合物を含む、去勢抵抗性前立腺癌治療薬が提供される。また、特定のマイクロRNAを指標とした、去勢抵抗性前立腺癌の発症又は増悪のリスクを予測する方法が提供される。更に、特定のマイクロRNAを指標としたスクリーニング方法が提供される。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
以下の(a)又は(b)を含む、去勢抵抗性前立腺癌治療薬:
(a)アンドロゲンレセプターバリアントAR-V7の3'非翻訳領域に存在する塩基配列UUGACACCAGUUUCUUUC(配列番号1)に対して80%以上の相補性を示す配列を含むRNA;
(b)(a)のRNAの発現を誘導する化合物。
【請求項2】
前記RNAが塩基配列GAAGGACACUGGUGUCAA(配列番号2)を含むマイクロRNAである、請求項1に記載の治療薬。
【請求項3】
前記マイクロRNAがhsa-miR-8080又は塩基配列GAAGGACACUGGUGUCAA(配列番号2)を含むその断片である、請求項2に記載の治療薬。
【請求項4】
前記化合物がルテオリン、アピゲニン又はケルセチンである、請求項1に記載の治療薬。
【請求項5】
去勢抵抗性前立腺癌細胞の増殖を抑制することで治療効果を発揮する、請求項1~4のいずれか一項に記載の治療薬。
【請求項6】
アンドロゲンレセプター拮抗薬及び/又はアンドロゲン合成阻害薬と併用される、請求項1~5のいずれか一項に記載の治療薬。
【請求項7】
前立腺癌患者由来の検体中のhsa-miR-8080のレベルを指標にすることを特徴とする、去勢抵抗性前立腺癌の発症又は増悪のリスクを予測する方法。
【請求項8】
以下のステップ(1)及び(2)を含む、請求項7に記載のリスク予測方法:
(1)前立腺癌患者から採取された検体中のhsa-miR-8080を検出するステップ;
(2)検出値に基づき、去勢抵抗性前立腺癌の発症又は増悪のリスクを判定するステップであって、hsa-miR-8080の低発現がリスクの高いことを示すステップ。
【請求項9】
前立腺癌患者が去勢抵抗性前立腺癌を発症しておらず、ステップ(2)では去勢抵抗性前立腺癌の発症のリスクが判定される、請求項8に記載のリスク予測方法。
【請求項10】
前立腺癌患者が去勢抵抗性前立腺癌の患者であり、ステップ(2)では去勢抵抗性前立腺癌の増悪のリスクが判定される、請求項8に記載のリスク予測方法。
【請求項11】
ステップ(1)で得られた検出値と、同一の前立腺癌患者から過去に採取された検体中の検出値との比較に基づきステップ(2)の判定を行う、請求項8~10のいずれか一項に記載のリスク予測方法。
【請求項12】
検体が、前立腺癌生検組織若しくは細胞、血清、血漿又は尿である、請求項7~11のいずれか一項に記載のリスク予測方法。
【請求項13】
以下のステップ(i)及び(ii)を含む、被検物質の去勢抵抗性前立腺癌に対する有効性を評価する方法:
(i)去勢抵抗性前立腺癌細胞、又はアンドロゲンレセプターバリアントAR-V7を強制発現させた細胞に被験物質を接触させるステップ;
(ii)前記細胞におけるhsa-miR-8080の発現を検出し、検出結果に基づき被検物質の去勢抵抗性前立腺癌に対する有効性を判定するステップであって、hsa-miR-8080の発現上昇が被検物質の有効性の指標となるステップ。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は去勢抵抗性前立腺癌の治療や診断に有用な技術に関する。詳しくは、去勢抵抗性前立腺癌の治療薬、去勢抵抗性前立腺癌の発症又は増悪の予測、及び去勢抵抗性前立腺癌治療薬の候補物質のスクリーニング方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
本邦の前立腺癌の罹患数は増加の一途をたどり、男性では第1位である(2015年の統計で98,400人)。前立腺癌はアンドロゲン依存性の腫瘍であり、アンドロゲンレセプター(AR)-アンドロゲン軸が中心的役割を果たすため、前立腺癌にはアンドロゲンの血中濃度を下げるホルモン療法が有用である。限局癌および局所進行型癌では、リスク分類により無治療経過観察、手術療法、放射線治療が選択される。局所進行型の超高リスク群や転移癌には、ホルモン療法が第一選択となるが、これらの進行性前立腺癌は数年でホルモン療法に抵抗性を示す去勢抵抗性前立腺癌(castration-resistant prostate cancer; CRPC)に進行し、癌の浸潤や転移が起こり予後不良である(図1)。CRPCの発症メカニズムには、アンドロゲン非依存性経路とアンドロゲン依存性経路が考えられている。前者は癌抑制遺伝子の変異、抗アポトーシス作用の亢進や神経内分泌性分化などが挙げられ、後者では、AR増幅、AR変異、アンドロゲン合成の活性化やアンドロゲン結合部位が欠損し、アンドロゲン非存在下でも活性化しうるAR(AR splice variants)が関与する(図2)。
【0003】
CRPCの治療方法には、抗アンドロゲン剤の休止、交替、エストロゲン剤やタキサン系製剤を用いた化学療法がある。CRPC新規治療薬として、AR受容体拮抗薬エンザルタミドやアンドロゲン合成阻害薬アビラテロンが開発され、本邦においても2014年に認可されている。しかしながら半年~1年以内の短期間で治療に対する抵抗性を獲得し、予後不良な経過をたどり、現状ではそれに対応できる治療法が確立されていない。ARスプライシングバリアントの一つであるAR-V7はCRPCの増殖やエンザルタミドやアビラテロンの治療抵抗性に関与し、近年CRPCの新しい治療標的として注目されている。CRPCの治療標的としてのAR-V7研究が展開されており、AR-V7阻害剤が開発されている(Galeteroneについて非特許文献1、特許文献1を参照。RORγagonistについて非特許文献2を参照)。
【0004】
マイクロRNAは、生体内に存在する22塩基程度の小分子RNAである。マイクロRNAは、3’非翻訳領域(3'UTR)に部分相補的配列を有する標的遺伝子に結合し、mRNAの不安定化や翻訳を抑制することで、タンパク質産生を抑制する。このマイクロRNAの機能は、遺伝子の転写後発現制御として重要な機構であり、遺伝子発現異常が原因の疾患の治療薬や予後マーカーとしての応用が期待される。
【0005】
CRPCとマイクロRNAに関しては種々の報告がある。たとえばmiR-212は標的遺伝子のhnRNPH1を介してARおよびAR-V7発現を調節し、CRPCの進行を抑制する(非特許文献3)。しかし、AR-V7の3'UTRに相補配列を有し、CRPCのAR-V7発現を調節しうるマイクロRNAはこれまでに見出されていない。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特表2016-528252号公報
【0007】

【非特許文献1】Oncotarget 6:27440-27460, 2015
【非特許文献2】Nature med 22:488-500, 2016
【非特許文献3】Clin Cancer Res 22:1744-1756, 2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、CRPCに対する新規かつ有望な治療戦略を提供することにある。より具体的には、治療効果の増大や予後の改善をもたらす治療薬及びそれを用いた治療法を提供すること、前立腺癌患者のCRPC発症リスク又はCRPC患者の増悪リスクの予測に有用な技術を提供すること、CRPC治療薬の開発に有用な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的の下、本発明者らはルテオリンに着目して研究を進めた。尚、ルテオリンについてはモデル動物を用いた実験において前立腺癌を予防する効果が認められているものの(後述の実施例の欄を参照)、CRPCに対する効果は不明である。
【0010】
CRPC細胞の増殖や治療抵抗性に関与するAR-V7に対するルテオリンの作用に焦点をあてつつ様々な実験を行った結果(後述の実施例の欄を参照)、ルテオリンがAR-V7の転写を抑制するとともにAR-V7タンパク質の分解を促進するという、驚くべき事実が明らかとなった。即ち、ルテオリンが、従来の薬剤とは異なる上に複合的な作用によって、CRPCに薬効を示すことが判明した。この知見はルテオリンがCRPCに対する治療薬として有望であることを示すとともに、ルテオリンを既存の薬剤と併用すれば治療効果の増大(相加的ないし相乗的効果)を期待できることを意味する。
【0011】
更なる検討の結果、ルテオリンが、AR-V7遺伝子の3'UTRに相補性を示す特定のマイクロRNAの発現を誘導し、AR-V7の翻訳を抑制することが判明した。言い換えれば、ルテオリンによって発現が誘導され、AR-V7の翻訳を抑制するという、CRPCに対する医薬として有望なマイクロRNA(核酸)を特定することに成功した。
【0012】
一方、ルテオリンの類似構造体にも、効果の差はあるものの、同様の作用が認められた。この知見は当該類似構造体が治療薬候補として有望であることを示すとともに、今後のドラッグデザインに有益な情報を提供する。
【0013】
以上の通り、鋭意検討の末、CRPCに対する新たな治療戦略の確立に有益な知見がもたらされた。ここで、CRPC細胞の増殖や治療抵抗性に関与する分子、即ち、AR-V7の発現調節に重要なマイクロRNAの特定に成功したことは別の観点からも重要である。即ち、当該マイクロRNAはCRPCの発症・増悪(進展)の指標(バイオマーカー)になり、それを利用すれば、CRPCの発症リスクや増悪リスクを評価できる。また、当該マイクロRNAはCRPC細胞の状態を表すことから、その発現変動は薬効評価のための指標となる。従って、当該マイクロRNAをバイオマーカーとしてCRPC治療薬候補をスクリーニングするためのアッセイ系を構築することができる。
以下の発明は上記の成果及び考察に基づく。
[1]以下の(a)又は(b)を含む、去勢抵抗性前立腺癌治療薬:
(a)アンドロゲンレセプターバリアントAR-V7の3'非翻訳領域に存在する塩基配列UUGACACCAGUUUCUUUC(配列番号1)に対して80%以上の相補性を示す配列を含むRNA;
(b)(a)のRNAの発現を誘導する化合物。
[2]前記RNAが塩基配列GAAGGACACUGGUGUCAA(配列番号2)を含むマイクロRNAである、[1]に記載の治療薬。
[3]前記マイクロRNAがhsa-miR-8080又は塩基配列GAAGGACACUGGUGUCAA(配列番号2)を含むその断片である、[2]に記載の治療薬。
[4]前記化合物がルテオリン、アピゲニン又はケルセチンである、[1]に記載の治療薬。
[5]去勢抵抗性前立腺癌細胞の増殖を抑制することで治療効果を発揮する、[1]~[4]のいずれか一項に記載の治療薬。
[6]アンドロゲンレセプター拮抗薬及び/又はアンドロゲン合成阻害薬と併用される、[1]~[5]のいずれか一項に記載の治療薬。
[7]前立腺癌患者由来の検体中のhsa-miR-8080のレベルを指標にすることを特徴とする、去勢抵抗性前立腺癌の発症又は増悪のリスクを予測する方法。
[8]以下のステップ(1)及び(2)を含む、[7]に記載のリスク予測方法:
(1)前立腺癌患者から採取された検体中のhsa-miR-8080を検出するステップ;
(2)検出値に基づき、去勢抵抗性前立腺癌の発症又は増悪のリスクを判定するステップであって、hsa-miR-8080の低発現がリスクの高いことを示すステップ。
[9]前立腺癌患者が去勢抵抗性前立腺癌を発症しておらず、ステップ(2)では去勢抵抗性前立腺癌の発症のリスクが判定される、[8]に記載のリスク予測方法。
[10]前立腺癌患者が去勢抵抗性前立腺癌の患者であり、ステップ(2)では去勢抵抗性前立腺癌の増悪のリスクが判定される、[8]に記載のリスク予測方法。
[11]ステップ(1)で得られた検出値と、同一の前立腺癌患者から過去に採取された検体中の検出値との比較に基づきステップ(2)の判定を行う、[8]~[10]のいずれか一項に記載のリスク予測方法。
[12]検体が、前立腺癌生検組織若しくは細胞、血清、血漿又は尿である、[7]~[11]のいずれか一項に記載のリスク予測方法。
[13]以下のステップ(i)及び(ii)を含む、被検物質の去勢抵抗性前立腺癌に対する有効性を評価する方法:
(i)去勢抵抗性前立腺癌細胞、又はアンドロゲンレセプターバリアントAR-V7を強制発現させた細胞に被験物質を接触させるステップ;
(ii)前記細胞におけるhsa-miR-8080の発現を検出し、検出結果に基づき被検物質の去勢抵抗性前立腺癌に対する有効性を判定するステップであって、hsa-miR-8080の発現上昇が被検物質の有効性の指標となるステップ。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】前立腺の発癌過程。CRPCはホルモン治療に抵抗性を示す。
【図2】ARおよびAR-V7の遺伝子構造と活性化機構。ARおよびAR-V7の遺伝子構造と活性化のシェーマを示した。正常AR(AR-FL)には、転写活性に関与するN末端ドメイン (NTD)、DNA結合に関与するDNA結合ドメイン (DBD)、核移行に関与するヒンジ領域 (HR)、アンドロゲン結合領域を有するリガンド結合ドメイン (LBD)が存在し、AR-V7ではLBDが欠損している。AR-FLはアンドロゲン存在下では、核内移行し活性化するが、非存在下では核内移行は起こらない。一方AR-V7は、アンドロゲン非存在下でも核内移行し活性化する。
【図3】CRPC細胞株においてAR-V7は高発現する。AR-FLおよびAR-V7のmRNA発現量を示した。定量的RT-PCR法(qRT-PCR)により定量化した。使用したプライマーは、AR-FL (フォワード: 5’-CAGCCTATTGCGAGAGAGCTG-3’(配列番号4), リバース: 5’-GAAAGGATCTTGGGCACTTGC-3’(配列番号5))、AR-V7 (フォワード: 5’-CCATCTTGTCGTCTTCGGAAATGTTA-3’(配列番号6), リバース: 5’-TTTGAATGAGGCAAGTCAGCCTTTCT-3’(配列番号7))で、以下のqRT-PCRも同様のプライマーで実施した。
【図4】CRPC細胞株はエンザルタミド(enzalutamide)に耐性を示す。22Rv1に対してCRPC治療薬エンザルタミドを10μMの濃度で48時間暴露した。A. AR-FLとAR-V7のタンパク質発現をウエスタンブロットで確認した。B. 5 x 105個播種し、24時間後から48時間エンザルタミドを投与したときの細胞数を表した。
【図5】ルテオリンの構造。
【図6】ルテオリンはステロイドホルモン存在の有無に関わらずCRPC細胞株の細胞増殖を抑制する。22Rv1に対して、通常培養下(ステロイドホルモン存在下)およびチャコール処理血清培養下(ステロイドホルモン除去下)において、ルテオリンを10μM、25μM又は50μMの濃度で48時間暴露したときの細胞増殖活性をWST-1により解析した結果を示した。
【図7】ルテオリンはAR-V7の転写活性を抑制する。22Rv1にルテオリンを10μM、25μM又は50μMの濃度で48時間暴露したときのAR-FLおよびAR-V7のmRNA発現量を示した。定量的RT-PCR法(qRT-PCR)により定量化した。
【図8】ルテオリンはAR-V7タンパク発現を低下させカスパーゼ依存性アポトーシスを誘導する。22Rv1に通常培養下およびチャコール処理血清培養下において、ルテオリンを10μM、25μM又は50μMの濃度で48時間暴露したときのタンパク質発現量をウエスタンブロットで確認した。尚、VCaPについても同様の結果が得られている(データ示さず)。
【図9】AR-V7発現はCRPCの細胞増殖に関与する。22Rv1において、AR-FLおよびAR-V7の遺伝子発現をsiRNAによりノックダウンしたときの、AR-FL、AR-V7のmRNAおよびタンパク質発現(A)と細胞増殖(B)を示した。使用したsiRNAは、AR-FL: 5’-UCAAGGAACUCGAUCGUAUTT-3’ (配列番号8)、AR-V7: 5’-GUAGUUGUGAGUAUCAUGATT-3’ (配列番号9)である。
【図10】ルテオリンの併用によりエンザルタミドの治療効果は向上する。22Rv1にエンザルタミドとルテオリンを併用投与し、48時間後のAR-FL、AR-V7タンパク質発現(A)と細胞増殖(B)を調べた。
【図11】ルテオリンはユビキチン-プロテアソーム系を介したAR-V7タンパクの分解を促進する。22Rv1にルテオリン 25μMとプロテアソーム阻害剤MG132 5μMを暴露し、16時間後のタンパク質発現を調べた。
【図12】ルテオリンの構造類似物質によるCRPCにおけるAR-V7タンパク質発現の抑制。A. ルテオリン、アピゲニン(apigenin)、ケルセチン(quercetin)、ケンフェロール(kaenpherol)とナリンゲニン(naringenin)の構造。B. 22Rv1にルテオリンとその構造類似物質を投与し、48時間後のAR-FL、AR-V7タンパク質発現を調べた(B)。
【図13】ルテオリン経口摂取はCRPCの腫瘍増殖を抑制する。22Rv1ヌードマウス皮下移植腫瘍に対するルテオリン経口摂取の効果を示した。A. 6週齢の雄ヌードマウス皮下に1 x 106個の22Rv1細胞を移植し、4日後に去勢、1週間後に腫瘍径の平均が均等になるように2群に分け、対照群とルテオリン混餌投与群を設け、4週間後に解剖した実験方法を示している。B. 1週間毎に計測した腫瘍径と代表的なマウス皮下腫瘍の肉眼像を示した。
【図14】ルテオリン経口摂取はCRPCのAR-V7を抑制する。22Rv1ヌードマウス皮下移植腫瘍のAR-FLおよびAR-V7タンパク質発現に対するルテオリン経口摂取の効果を示した。A. ウエスタンブロット、B. AR-V7の免疫染色組織像と陽性率。
【図15】ルテオリン経口摂取はCRPCにおけるアポトーシス促進と血管新生抑制を誘導する。22Rv1ヌードマウス皮下移植腫瘍のアポトーシスと血管新生に対するルテオリン経口摂取の効果を示した。アポトーシス:TUNEL染色による陽性率、血管新生:単位面積当たりのCD31陽性管腔数。
【図16】CRPCにおいてルテオリンにより発現上昇するマイクロRNA群(マイクロRNAアレイ解析)。22Rv1においてルテオリン 25μMの濃度で48時間暴露したときに、発現上昇するマイクロRNAをマイクロRNAアレイにより解析し、対照との比が高い順に示した。
【図17】CRPCにおいてルテオリンにより発現上昇するマイクロRNA群(マイクロRNAアレイ解析)。ルテオリンにより発現上昇するマイクロRNA群のうち、AR-FLやIGF-1の3’UTRに相補配列を有する遺伝子を示した。
【図18】miR-8080はAR-V7 3’UTRに部分相補配列をもつ。AR-V7の3’UTRにおけるmiR-8080の結合部位を示した。成熟型miR-8080は、5’-GAAGGACACUGGUGUCAACGGCU-3’ (配列番号3)の23塩基から構成され、その内の1-18塩基(GAAGGACACUGGUGUCAA:(配列番号2))がAR-V7と不完全な相同性を示す。
【図19】miR-8080はCRPC細胞においてルテオリンにより発現誘導される。22Rv1にルテオリン、アピゲニン及びケルセチンを25μMの濃度で48時間暴露したときのmiR-8080の発現量をqRT-PCRで確認した。
【図20】miR-8080の発現誘導によりCRPCのAR-V7翻訳が抑制され、細胞増殖の抑制とアポトーシスが誘導される。22Rv1にmiR-8080発現ベクター(左上)をリポフェクションし、48時間後のタンパク質発現(左下)、細胞形態(右上)と細胞増殖(右下)を調べた。
【図21】miR-8080阻害剤によりAR-V7発現が上昇し、ルテオリンによるAR-V7発現および細胞増殖の抑制作用が低下する。22Rv1にmiR-8080阻害剤を導入しルテオリンを25μMの濃度で投与し、48時間後のタンパク質発現(上)、細胞形態(左下)と細胞増殖(右下)を調べた。
【図22】ルテオリンの作用機序。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)の治療薬
本発明の第1の局面は、去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)の治療薬及びその用途に関する。「治療薬」とは、標的の疾病ないし病態(即ちCRPC)に対する治療的又は予防的効果を示す医薬のことをいう。治療的効果には、標的疾患/病態に特徴的な症状又は随伴症状を緩和すること(軽症化)、症状の悪化を阻止ないし遅延すること等が含まれる。後者については、重症化を予防するという点において予防的効果の一つと捉えることができる。このように、治療的効果と予防的効果は一部において重複する概念であり、明確に区別して捉えることは困難であり、またそうすることの実益は少ない。尚、予防的効果の典型的なものは、標的疾患/病態に特徴的な症状の再発を阻止ないし遅延することである。標的疾患/病態に対して何らかの治療的効果又は予防的効果、或いはこの両者を示す限り、標的疾患/病態に対する治療薬に該当する。

【0016】
去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)とは、去勢状態(例えば薬物による去勢や外科的去勢)にも関わらず、病状が進行している前立腺癌である。前立腺癌の治療には抗アンドロゲン療法が有効とされているが、抗アンドロゲン療法に抵抗性を示すようになると(即ちCRPCに進行すると)、有効な治療法がなく予後不良である。本発明の医薬は、このような治療困難な疾患に対する新規且つ有効な治療戦略を提供するものであり、その臨床的意義は大きい。

【0017】
本発明は、(i)ルテオリンが従来の薬剤とは異なる、複数の作用によってCRPCに薬効を示すという知見、(ii)ルテオリンによって発現が誘導され、AR-V7の翻訳を抑制するマイクロRNA(即ち、CRPCに対する核酸医薬として有望なマイクロRNA)を特定したという成果、(iii)ルテオリンの構造類似体にも同様の作用効果を認めたという事実、に基づく。

【0018】
本発明の治療薬は以下の(a)又は(b)を有効成分として含有する。
(a)アンドロゲンレセプターバリアントAR-V7の3’UTRに存在する塩基配列(UUGACACCAGUUUCUUUC:配列番号1)に対して80%以上の相補性を示す配列を含むRNA
(b)(a)のRNAの発現を誘導する化合物

【0019】
(a)のRNAを有効成分とした場合、当該RNAによってAR-V7の翻訳が抑制され、所望の薬効が発揮される。(b)の化合物を有効成分とした場合には、(a)のRNAの発現誘導を介して、同様の薬効が発揮される。このような薬効によって、CRPC細胞の増殖を抑制することができる。

【0020】
(a)のRNA(以下、「本発明のRNA」と呼ぶ)はその特有の作用を示すために、AR-V7の3’UTRに存在する塩基配列(UUGACACCAGUUUCUUUC:配列番号1)に対して80%以上の相補性を示す配列を含む。従って、塩基配列(配列番号1)に対して80%以上の相補性を示す部分(説明の便宜上、「相補的配列」配列と呼ぶ)が含まれている限りにおいて、(a)のRNAに該当する。塩基配列(配列番号1)と相補的配列の間の相補性は以下の通り計算することができる。尚、AR-V7遺伝子の全長配列を配列番号10(GenBank Accession No. FJ235916.1, DEFINITION: Homo sapiens androgen receptor splice variant 3 (AR) mRNA, complete cds, alternatively spliced.)に示す。
(相補的である位置の数)/(配列の長さ(即ち18))×100 (%)

【0021】
相補的配列を含み、且つ所望の効果(即ちCRPCに対する治療的又は予防的効果)を発揮し得る限りにおいて、本発明のRNAの長さ特に限定されない。但し、本発明のRNAの長さは、例えば19~28、好ましくは21~25である。

【0022】
好ましくは、本発明のRNAは、上記塩基配列(配列番号1)に対して高い相補性を示す塩基配列(GAAGGACACUGGUGUCAA:配列番号2)を含む、全長が21~25のマイクロRNAである。当該マイクロRNAに該当するものの一例はhsa-miR-8080であるが、hsa-miR-8080の断片(但し、塩基配列(GAAGGACACUGGUGUCAA:配列番号2)を含む)を用いることにしてもよい。尚、hsa-miR-8080の配列を配列番号3に示す。

【0023】
本発明のRNAに代えて、生体内で本発明のRNAを生成するように設計された核酸(Pre-miRNA、Pri-miRNA等)を用いることにしてもよい。

【0024】
(b)の化合物、即ち、本発明のRNAの発現を誘導する化合物の例はルテオリン、アピゲニン又はケルセチンである。これらの化合物は共通する骨格を有する(図12を参照)。この中でも、最も強い活性が認められたルテオリンは特に好ましい化合物である。(b)の化合物として、ルテオリン、アピゲニン又はケルセチンを採用すると、上記の作用効果(即ち、本発明のRNAの発現誘導を介してAR-V7の翻訳を抑制する)に加え、それ自体によるAR-V7の転写抑制及びAR-V7タンパク質の分解促進が生ずる。即ち、複合的な作用効果が発揮されることになる。

【0025】
本発明の治療薬の製剤化は常法に従って行うことができる。製剤化する場合には、製剤上許容される他の成分(例えば、緩衝剤、賦形剤、崩壊剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水、担体など)を含有させることができる。緩衝剤としてはリン酸緩衝液、クエン酸緩衝液などを用いることができる。賦形剤としては乳糖、デンプン、ソルビトール、D-マンニトール、白糖等を用いることができる。崩壊剤としてはデンプン、カルボキシメチルセルロース、炭酸カルシウム等を用いることができる。緩衝剤としてはリン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩等を用いることができる。乳化剤としてはアラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、トラガント等を用いることができる。懸濁剤としてはモノステアリン酸グリセリン、モノステアリン酸アルミニウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ラウリル硫酸ナトリウム等を用いることができる。無痛化剤としてはベンジルアルコール、クロロブタノール、ソルビトール等を用いることができる。安定剤としてはプロピレングリコール、アスコルビン酸等を用いることができる。保存剤としてはフェノール、塩化ベンザルコニウム、ベンジルアルコール、クロロブタノール、メチルパラベン等を用いることができる。防腐剤としては塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸、クロロブタノール等と用いることができる。

【0026】
製剤化する場合の剤型も特に限定されない。剤型の例は注射剤、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤及びシロップ剤である。

【0027】
本発明のRNAを有効成分とした場合には、当該RNAを単独で、或いは適当なベクター(例えばアデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター)に当該RNA又はその前駆体を発現するコンストラクトを組み込んだ後、製剤化することができる。標的化(DDS)、効果の維持、細胞内への取り込み効率等の改善・向上を目的として、リポソーム、高分子材料、アテロコラーゲン等の担体とともに製剤化することにしてもよい。

【0028】
本発明の治療薬はその剤型に応じて経口投与又は非経口投与(静脈内、動脈内、皮下、皮内、筋肉内又は腹腔内注射、経皮、経鼻、経粘膜など)によって対象に適用される。これらの投与経路は互いに排他的なものではなく、任意に選択される二つ以上を併用することもできる(例えば、経口投与と同時に又は所定時間経過後に静脈注射等を行う等)。ここでの「対象」は特に限定されず、ヒト及びヒト以外の哺乳動物(ペット動物、家畜、実験動物を含む。具体的には例えばマウス、ラット、モルモット、ハムスター、サル、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ニワトリ、ウズラ等である)を含む。好ましい一態様では、本発明の治療薬はヒトに対して適用される。

【0029】
本発明の治療薬の投与量は、期待される治療効果が得られるように設定される。治療上有効な投与量の設定においては一般に患者の症状、年齢、性別、及び体重などが考慮される。尚、当業者であればこれらの事項を考慮して適当な投与量を設定することが可能である。投与スケジュールとしては例えば1日1回~数回、2日に1回、或いは3日に1回などを採用できる。投与スケジュールの作成においては、患者の症状や有効成分の効果持続時間などを考慮することができる。

【0030】
本発明の治療薬を他の治療薬と併用することにしてよい。「併用」とは、同一の患者に対して本発明の治療薬と他の治療薬が投与されることを意味する。両者の投与のタイミング/時期は特に限定されず、即ち、いずれを先に投与してもよい。また、片方の治療薬による治療開始後のある時点において他方の治療薬による治療を開始したり、片方の治療薬による治療と他方の治療薬による治療を同時に開始したり、片方の治療薬による治療を一旦終了した段階で他方の治療薬による治療を開始するなど、様々な併用態様を採用し得る。

【0031】
他の治療薬の例として、アンドロゲンレセプター拮抗薬、アンドロゲン合成阻害薬、抗癌剤(化学療法剤)を挙げることができる。アンドロゲンレセプター拮抗薬はアンドロゲンレセプターへのアンドロゲンの結合を競合的に阻害し、その治療効果を発揮する。アンドロゲン合成阻害薬はアンドロゲンの合成に関与する酵素を阻害することでその治療効果を発揮する。また、抗癌剤(化学療法剤)は核酸合成の阻害や細胞分裂の阻害などによってその治療効果を発揮する。このように、これらの治療薬は本発明の治療薬とは異なる作用機序に基づき薬効を示す。従って、本発明の治療薬をこれらの薬剤(いずれか又は両方)と併用した場合には、相加的又は相乗的な効果によって、治療効果の増大や予後の改善などを期待できる。尚、アンドロゲンレセプター拮抗薬の具体例はエンザルタミドであり、アンドロゲン合成阻害薬の具体例はアビラテロンであり、抗癌剤(化学療法剤)の具体例はドセタキセル、カバジタキセルである。

【0032】
以上の記述から明らかな通り、本出願は、CRPCの患者に対して上記(a)のRNA又はその発現を誘導する化合物を治療上有効量投与することを特徴とする、CRPCの治療方法も提供する。

【0033】
2.去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)の発症・増悪リスクの予測
本発明の第2の局面は、去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)の発症又は増悪のリスクの予測に関する。後述の実施例に示す通り、本発明者らの検討によって、hsa-miR-8080がAR-V7の翻訳を抑制し、CRPC細胞の増殖抑制や治療抵抗性改善をもたらすことが判明した。この知見に基づき、本発明は、hsa-miR-8080をバイオマーカーとして用いた、CRPCの発症又は増悪のリスクを予測する方法(以下、「本発明のリスク予測方法」)を提供する。本発明のリスク予測方法によれば、CRPCの発症リスク又は増悪リスクを簡便且つ客観的に判定することが可能となる。尚、「バイオマーカー」とは、疾患の存在や状態等の指標となる生体分子のことをいう。「生体分子」は生体中に見出される分子(化合物)であるが、生体分子であるバイオマーカーの利用に際しては、生体から分離された試料/検体中の生体分子が用いられることになる。

【0034】
本発明のリスク予測方法では、前立腺癌患者由来の検体中におけるhsa-miR-8080のレベルが指標として用いられる。ここでの「レベル」は、典型的には「量」ないし「濃度」を意味する。但し、慣例及び技術常識に従い、検出対象であるhsa-miR-8080を検出できるか否か(即ち見かけ上の存在の有無)を表す場合にも用語「レベル」が用いられる。

【0035】
典型的には、本発明のリスク予測方法では、以下のステップ(1)及び(2)を行う。
(1)前立腺癌患者から採取された検体中のhsa-miR-8080を検出するステップ
(2)検出値に基づき、CRPCの発症又は増悪のリスクを判定するステップであって、hsa-miR-8080の低発現がリスクの高いことを示すステップ

【0036】
ステップ(1)では、前立腺癌患者から採取された検体中のhsa-miR-8080を検出する。検体は、本発明の実施に先立って採取しておく。検体としては前立腺癌生検試料(組織、細胞)、血液(血清、血漿)、尿等が用いられる。被検者である前立腺癌患者の病状/病態は特に限定されない。CRPCを発症していない患者を被検者とした場合は、CRPCの発症リスクの予測に本発明を利用することができる。他方、CRPCを発症している患者(即ちCRPCの患者)を被検者とすれば、CRPCの増悪リスクの予測に本発明を利用することができる。本発明のリスク予測方法によれば、バイオマーカーであるhsa-miR-8080のレベルという客観的な指標に基づいてCRPCの発症リスク又は増悪リスク(以下、これら二つをまとめて「CRPCリスク」と呼称する)を判定できる。判定結果は、前立腺癌の診断に有用な情報となり、より適切な治療方針の決定(効果的な治療法の選択など)に役立つ。従って、本発明は、治療効果の向上や患者のQOL(Quality of Life、生活の質)の向上に貢献する。

【0037】
このステップでは、検体中のhsa-miR-8080を検出するが、hsa-miR-8080のレベルを厳密に定量することは必須でない。即ち、後続のステップ(2)においてCRPCリスクが判定可能となる程度にhsa-miR-8080のレベルを検出すればよい。例えば、検体中のhsa-miR-8080のレベルが所定の基準値を超えるか否かが判別可能なように検出を行うこともできる。

【0038】
hsa-miR-8080の検出方法は特に限定されない。例えば、RT-PCR等、核酸増幅反応を利用した方法によって検出可能である。核酸増幅反応としては、PCR(Polymerase chain reaction)法若しくはその変法の他、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)法(Tsugunori Notomi et al. Nucleic Acids Research, Vol.28, No.12, e63, 2000; Kentaro Nagamine, Keiko Watanabe et al. Clinical Chemistry, Vol.47, No.9, 1742-1743, 2001)、ICAN(Isothermal and Chimeric primer-initiated Amplification of Nucleic acids)法(特許第3433929号、特許第3883476号)、NASBA(Nucleic Acid Sequence-Based Amplification)法、LCR(Ligase Chain Reaction)法、3SR(Self-sustained Sequence Replication)法、SDA(Standard Displacement Amplification)法、TMA(Transcription Mediated Amplification)法、RCA(Rolling Circle Amplification)等を採用することができる。

【0039】
ステップ(1)に続くステップ(2)では、検出結果に基づいてCRPCリスクを判定する。通常は、ステップ(1)で得られた検出値をコントロール(対照検体)の検出値と比較しつつ、或いは、コントロールの検出値等に基づき設定された基準値に照らして判定を行う。コントロールには、例えば、CRPCを発症していない前立腺癌患者のhsa-miR-8080レベル(陰性コントロール)、健常者のhsa-miR-8080レベル(陰性コントロール)、CRPCを発症した前立腺癌患者のhsa-miR-8080レベル(陽性コンコロール)を用いることができる。好ましくは、複数名(好ましくは50名以上、更に好ましくは100名以上)のコントロール対象者から取得した検出値に基づき、基準値を設定する。

【0040】
CRPCリスクの判定は定性的、定量的のいずれであってもよい。尚、ここでの判定は、その判定基準から明らかな通り、医師や検査技師など専門知識を有する者の判断によらずとも自動的/機械的に行うことができる。

【0041】
本発明では、「hsa-miR-8080の低発現がリスクの高いことを示す」との判定基準を採用する。換言すれば、hsa-miR-8080のレベル(測定値)が低いとリスクが高いと判定され、hsa-miR-8080のレベル(測定値)が高いとリスクが低いと判定される。より詳細には、例えば、被検者の病状/病態に応じて以下の様に判定することができる。

【0042】
<CRPCを発症していない被検者の場合>
(判定例1)
陰性コントロールの検出値と陽性コントールの検出値に基づき設定した基準値よりもhsa-miR-8080の検出値(検体中レベル)が低いときに「CRPCを発症する」又は「CRPCを発症する可能性が高い」と判定し、基準値よりもhsa-miR-8080の検出値(検体中レベル)が高いときに「CRPCを発症しない」又は「CRPCを発症する可能性が低い」と判定する。
(判定例2)
発症リスクを分ける複数の基準値を設定し、以下の通り判定する。この例では、4つの基準値(a<b<c<d)を設定することにしているが、基準値の数及びそれに伴うリスクのレベルの数はこれに限られるものではない。
hsa-miR-8080の検出値<aの場合: 発症する可能性80%以上
a≦hsa-miR-8080の検出値<bの場合: 発症する可能性60%~70%
b≦hsa-miR-8080の検出値<cの場合: 発症する可能性40%~50%
c≦hsa-miR-8080の検出値<dの場合: 発症する可能性20%~30%
d≦hsa-miR-8080の検出値の場合: 発症する可能性10%以下

【0043】
<CRPCを発症した被検者の場合>
(判定例1)
陽性コントールの検出値に基づき設定した基準値(CRPC患者の標準的なレベル)よりもhsa-miR-8080の検出値(検体中レベル)が低いときに「増悪する」又は「増悪する可能性が高い」と判定し、基準値よりもhsa-miR-8080の検出値(検体中レベル)が高いときに「増悪しない」又は「増悪する可能性が低い」と判定する。
(判定例2)
増悪リスクを分ける複数の基準値を設定し、以下の通り判定する。この例では、4つの基準値(a<b<c<d)を設定することにしているが、基準値の数及びそれに伴うリスクのレベルの数はこれに限られるものではない。
hsa-miR-8080の検出値<aの場合: 増悪する可能性80%以上
a≦hsa-miR-8080の検出値<bの場合: 増悪する可能性60%~70%
b≦hsa-miR-8080の検出値<cの場合: 増悪する可能性40%~50%
c≦hsa-miR-8080の検出値<dの場合: 増悪する可能性20%~30%
d≦hsa-miR-8080の検出値の場合: 増悪する可能性10%以下

【0044】
本発明の一態様では、同一の被検者について、現在の検出値と、過去のある時点での検出値とを比較し、検出値の変動、即ち、hsa-miR-8080のレベルの増減の有無及び/又は増減の程度を調べる。その結果得られる、hsa-miR-8080レベルの変動に関するデータは、CRPCリスクをモニターするため、治療効果を把握するため、或いは予後推定に有用な情報となる。具体的には例えば、hsa-miR-8080レベルの変動を根拠として、前回の検査から今回の検査までの間に発症リスクが高くなった又は低くなった或いは変化がないとの判定を行うことができる。このような評価を前立腺癌の治療と並行して行えば、治療効果の確認が行えることはもとより、CRPCへの進行の兆候を事前に把握することができる。これによって、より適切な治療方針の決定が可能となる。このように本発明は、治療効果の最大化及び患者のQOL向上に多大な貢献をし得る。

【0045】
以上の説明から明らかなように、ステップ(2)における判定結果は、今後の治療方針を検討する上で有用な情報を提供する。そこで本発明の一態様では、判定結果に基づき、被検者である前立腺癌患者の治療方針を決定又は変更するステップ(ステップ(3))を行う。治療方針は、判定結果(CRPCリスク)に応じて設計ないし選択される。例えば、CRPCを発症するリスクが低いと予測された前立腺癌患者には、前立腺癌に対する標準的な治療方針を推奨することができる。一方、CRPCを発症するリスクが高いと予測された前立腺癌患者には、CRPCの発症を前提とした治療(例えばアンドロゲン受容体拮抗薬、アンドロゲン合成阻害薬等の早期の使用)が推奨される。併せて、高頻度且つ定期的な受診、経過観察が望まれる。

【0046】
3.去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)治療薬候補の評価(スクリーニング方法)
上記の通り、本発明者らの検討によって、hsa-miR-8080がAR-V7の翻訳を抑制し、CRPC細胞の増殖抑制や治療抵抗性改善をもたらすことが判明した。この知見は、hsa-miR-8080の発現を上昇させる物質がCRPC治療薬の候補として有望であることを示唆する。そこで本発明の第3の局面は、hsa-miR-8080の発現を指標とした、被験物質のCRPCに対する有効性を評価する方法(以下、「本発明の評価方法」と呼ぶ)を提供する。本発明の評価方法は、例えば、CRPC治療薬の候補の探索(即ちスクリーニング)に有用である。

【0047】
本発明の評価方法では、以下のステップ(i)及び(ii)を行う。
(i)CRPC細胞、又はアンドロゲンレセプターバリアントAR-V7を強制発現させた細胞に被験物質を接触させるステップ
(ii)前記細胞におけるhsa-miR-8080の発現を検出し、検出結果に基づき被検物質のCRPCに対する有効性を判定するステップであって、hsa-miR-8080の発現上昇が被検物質の有効性の指標となるステップ

【0048】
本発明の評価方法は、AR-V7を発現する細胞を用いる点と、当該細胞における特定のマイクロRNA(即ち、hsa-miR-8080)の発現を指標にする点で特徴付けられる。ステップ(i)ではAR-V7を発現する細胞に被験物質を接触させる。AR-V7を発現する細胞として、CRPC細胞又はAR-V7を強制発現させた細胞が用いられる。CRPC細胞としては、22Rv1、VCaP等の細胞株が好適であるが、CRPC患者から単離した細胞、それを培養した細胞(継代培養後の細胞であってもよい)を用いることにしてもよい。一方、AR-V7を強制発現させた細胞は、例えば、CHO細胞、COS7細胞、293細胞、前立腺癌細胞株(例えばDU-145、LNCaP、PC-3)等の標的(宿主細胞)にAR-V7遺伝子を導入して作製することができる。遺伝子導入は常法で行うことができ、例えば、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターなどを利用すればよい。

【0049】
ステップ(i)での「接触」は、典型的には、上記細胞を培養中の培養液(培地)に被検物質を添加することによって行われる。被検物質の添加のタイミングは特に限定されない。従って、被検物質を含まない培地で細胞の培養を開始した後、ある時点で被検物質を添加することにしても、予め被検物質を含む培地で細胞の培養を開始することにしてもよい。

【0050】
被検物質には様々な分子サイズの有機化合物又は無機化合物を用いることができる。有機化合物の例として核酸、ペプチド、タンパク質、脂質(単純脂質、複合脂質(ホスホグリセリド、スフィンゴ脂質、グリコシルグリセリド、セレブロシド等)、プロスタグランジン、イソプレノイド、テルペン、ステロイド、ポリフェノール、カテキン、ビタミン(B1、B2、B3、B5、B6、B7、B9、B12、C、A、D、E等)を例示できる。医薬品、栄養食品、食品添加物、農薬、香粧品(化粧品)等の既存成分或いは候補成分も好ましい被検物質の一つである。植物抽出液、細胞抽出液、培養上清などを被検物質として用いてもよい。2種類以上の被検物質を同時に添加することにより、被検物質間の相互作用、相乗作用などを調べることにしてもよい。被検物質は天然物由来であっても、或いは合成によるものであってもよい。後者の場合には例えばコンビナトリアル合成の手法を利用して効率的なアッセイ系を構築することができる。

【0051】
被検物質を接触させる期間は任意に設定可能である。接触期間は例えば10分間~1週間、好ましくは1時間~3日間である。接触を複数回に分けて行うことにしてもよい。

【0052】
ステップ(i)に続くステップ(ii)では、被検物質を接触させた細胞におけるhsa-miR-8080の発現を検出し、検出結果に基づき被検物質のCRPCに対する有効性を判定する。即ち、本発明ではhsa-miR-8080の発現を利用して被検物質の有効性が判定される。より具体的には、hsa-miR-8080の発現上昇が認められることを、被検物質の有効性の指標に用いる。従って、hsa-miR-8080の発現が上昇する場合に被検物質は有効であると判定し、hsa-miR-8080の発現が上昇しない場合(発現量に変化がない又は発現量が低下する場合)に被検物質は有効でないと判定する。hsa-miR-8080の発現を上昇させた程度(レベル)に基づき、被検物質の作用・効果の強さ(程度)を決定することにしてもよい。また、複数の被検物質を用いた場合には、hsa-miR-8080の発現を上昇させた程度に基づき、各被検物質の作用・効果の強さを比較評価することにしてもよい。尚、miR-8080の発現の検出は、上記本発明のリスク予測方法(第2の局面)の場合と同様に行えばよい。

【0053】
通常は、比較対照として、被検物質を接触させない細胞(その他の条件は同一とする)(以下、「コントロール細胞」と呼ぶ)を用意し、そのhsa-miR-8080の発現も検出する。そして、当該コントロール細胞の発現レベルと比較することによって、被検物質がhsa-miR-8080の発現を上昇させたか判断する(好ましくは、発現上昇の程度についても判断する)。このようにコントロールとの比較によって被検物質の作用を判定すれば、より信頼性の高い判定結果が得られる。

【0054】
上でも言及したように、本発明の評価方法は、CRPCの治療薬候補の探索、即ちスクリーニングに有用である。本発明の評価方法をスクリーニングに利用する場合には、ステップ(ii)での判定結果に基づき有効な被検物質を選抜する。選択した物質が十分な薬効を有する場合には、当該物質をそのままCRPC治療薬の有効成分として使用することができる。一方で十分な薬効を有しない場合には化学的修飾などの改変を施してその薬効を高めた上で、CRPC治療薬の有効成分として使用することができる。勿論、十分な薬効を有する場合であっても、更なる薬効の増大を目的として同様の改変を施してもよい。
【実施例】
【0055】
CRPCの治療には、抗アンドロゲン療法や化学療法が用いられるが、短期間で治療耐性が生じる。CRPCに対する新規な治療戦略を見出すべく、以下の検討を行った。
【実施例】
【0056】
1.ヒトCRPC細胞株22Rv1におけるAR-V7高発現とエンザルタミド(enzaltamide)耐性
ヒトCRPC細胞株におけるAR-V7の発現を定量的RT-PCR法(qRT-PCR)で調べた。その結果、ヒトCRPC細胞株である22Rv1およびVCaPでは、定量的RT-PCR(qRT-PCR)によりAR-V7 mRNAの高発現を認めた(図3)。22Rv1にアンドロゲン受容体拮抗薬エンザルタミドを投与してもARやAR-V7のタンパク質発現は変化せず、癌細胞の増殖抑制作用は乏しかった(図4)。
【実施例】
【0057】
2.CRPC細胞に対するルテオリン(luteolin)の細胞増殖およびAR-V7発現の抑制とカスパーゼ依存性アポトーシス誘導
発明者のこれまでの研究から、フラボノイドの一種であるルテオリン(図5)が、ラット前立腺発がんやラットCRPC腫瘍の増殖を抑制することが明らかになっている(第22回日本がん予防学会(平成27年6月6日開催)、演題 ラット前立腺の発がんおよび去勢抵抗性細胞増殖に対するluteolinの予防・治療効果、第31回前立腺シンポジウム(平成28年12月12日開催)、演題 前立腺発がんおよび去勢抵抗性細胞増殖に対するluteolinの抑制効果、で発表)。詳細には、ラットを使った実験で、エゴマなどのシソ科種子に豊富に含有されるルテオリンの経口摂取は前立腺のがん化を抑制することが明らかとなり、ルテオリンによる酸化ストレス抑制、細胞死(アポトーシス)誘導や酸化ストレス制御遺伝子GPX2の抑制が予防効果につながる、との知見が得られている。
【実施例】
【0058】
ルテオリンを22Rv1に投与すると、通常血清培養下およびチャコール処理血清培養下いずれにおいても濃度依存性に細胞増殖が抑制された(図6)。その要因として、AR-V7のmRNAおよびタンパク質発現の低下、並びにカスパーゼ(caspase) 3,7の活性化を介したアポトーシスの誘導が考えられた(図7、8)。AR-V7発現がCRPC細胞の細胞増殖に関与することは、RNAiによるAR-V7発現抑制実験からも示された(図9)。
【実施例】
【0059】
3.ルテオリンによるエンザルタミドのCRPC治療効果の向上
ルテオリンのAR-V7発現抑制作用から、CRPCに対するエンザルタミドの治療効率を改善する可能性が予測された。22Rv1に対するエンザルタミドの細胞増殖抑制効果は、ルテオリンを併用投与することにより有意に高まった(図10)。
【実施例】
【0060】
4.CRPC細胞のAR-V7に対するルテオリンによるタンパク質分解促進
ルテオリンによるAR-V7タンパク質発現の抑制には、転写活性の抑制が関与していた(図7)が、AR-V7のmRNAとタンパク質の発現変化の程度に乖離があったため、転写後修飾の関与も示唆された。そこで、ルテオリンにプロテアソーム阻害剤を併用投与した検証を実施した。その結果、ルテオリンによるAR-V7タンパク質発現の抑制は、プロテアソーム阻害剤の存在により解除され、ルテオリンのAR-V7発現抑制には、ユビキチン-プロテアソーム系を介したタンパク質分解の促進が関与することがわかった(図11)。
【実施例】
【0061】
5.CRPC細胞に対するルテオリン構造類似物質のAR-V7発現抑制効果
ルテオリンにはフラバン骨格を有する類似構造体が存在する。そのうち、アピゲニン(apigenin)、ケルセチン(quercetin)、ケンフェロール(kaenpherol)とナリンゲニン(naringenin)の22Rv1におけるAR-V7発現への影響をルテオリンと比較したところ、ルテオリンより弱いAR-V7タンパク発現減少効果をアピゲニン、ケルセチンでは認めた(図12)。従って、フラバン骨格あるいはその一部がAR-V7発現抑制に影響し、側鎖により抑制能力が決定されうる可能性が示唆された。
【実施例】
【0062】
6.CRPC腫瘍に対するルテオリンの治療効果およびAR-V7発現の抑制
CRPCの細胞増殖やAR-V7発現に対するルテオリンの抑制効果を、生体においても検証した。ルテオリンの経口摂取により、毒性変化を生じることなく、去勢ヌードマウスの22Rv1 皮下腫瘍の体積は抑制された(図13)。腫瘍組織内のAR-V7タンパク質の発現はルテオリンにより減少し、培養状態だけでなく、経口摂取し生体で代謝された状態でも同様の効果を示すことが明らかになった(図14)。
【実施例】
【0063】
7.CRPC腫瘍に対するルテオリンのアポトーシス誘導と血管新生の抑制
22Rv1腫瘍の免疫学的解析により、ルテオリン投与群の腫瘍組織ではアポトーシス細胞の増加を認め、in vitro条件と同様の結果が得られた。またルテオリンによる腫瘍組織内の血管数減少が見られ、ルテオリンの腫瘍組織縮小作用には、血管新生の抑制が関わることが見出された(図15)。
【実施例】
【0064】
8.CRPC細胞におけるルテオリンによるmiR-8080発現の上昇
ルテオリンによるAR-V7発現抑制において、転写後修飾のうちタンパク質分解の他に、マイクロRNAによる翻訳抑制が関与するかを検討した。マイクロRNAアレイ解析により、ルテオリンにより発現誘導されるマイクロRNAを網羅的に解析し、miRBaseを用いてAR-V7の3’UTRに相補配列を有する候補遺伝子をスクリーニングした。ルテオリンにより発現上昇するマイクロRNA群には、AR-FLやIGF1といった前立腺癌の増殖やCRPCに深い関連が指摘されている遺伝子の3’UTRに標的配列をもつものが多く含まれている(図16、17)。AR-V7に対しては、既知のマイクロRNAの中ではmiR-8080のみが相同配列を有するマイクロRNAとして該当した(図18)。22Rv1におけるmiR-8080の発現は、ルテオリンにより4倍程度に増加し、アピゲニンやケルセチンにおいても約2倍に増加することが、定量的RT-PCRにおいて確認された(図19)。これらのフラボノイドによるmiR-8080の発現変動は、各々のAR-V7発現抑制効果と逆相関しており(図12)、miR-8080によるAR-V7翻訳調節の可能性が見出された。
【実施例】
【0065】
9.miR-8080発現誘導によるCRPC細胞のAR-V7翻訳抑制とアポトーシス誘導
次に、AR-V7がmiR-8080による翻訳修飾を受ける標的遺伝子であるかを確認するため、22Rv1にmiR-8080発現ベクターを導入した。その結果、AR-V7タンパク発現は抑制され、細胞増殖の有意な抑制が見られた。ウエスタンブロットによるタンパク質発現解析では、miR-8080の発現誘導によりカスパーゼ3,7の活性化が見られ、アポトーシスの関与が示唆された(図20)。
【実施例】
【0066】
10.miR-8080阻害によるルテオリンのAR-V7発現および細胞増殖に対する抑制効果の減弱
一方、22Rv1に対してmiR-8080の阻害剤を処理すると、AR-V7タンパク質の発現は増加した。さらにルテオリン による22Rv1のAR-V7発現抑制作用は、miR-8080阻害剤存在下では減弱し、ルテオリンの細胞増殖抑制効果も同様に減少した(図21)。以上のmiR-8080発現誘導および阻害実験の結果から、miR-8080がAR-V7に結合し翻訳を阻害していることが明らかとなった。
【実施例】
【0067】
<まとめ>
・ヒトCRPC細胞22Rv1では、AR(正常)およびAR-V7(変異)が高発現し、ARと比較してAR-V7がより細胞増殖に関与した(in vitro実験)。
・ルテオリンは22Rv1のAR-V7発現を著明に抑制した(in vitro実験)。
・去勢免疫不全マウスに22Rv1を移植し、ルテオリンをマウスに経口投与すると、22Rv1腫瘍組織内のAR-V7発現は低下した(ex vivo実験)。
・ルテオリンの構造類似物質であるフラボノイドであるアピゲニンやケルセチンも22Rv1のAR-V7発現を抑制した(in vitro実験)。
・ルテオリンはユビキチン・プロテアソーム系を介してAR-V7タンパクを分解した(in vitro実験)。
・マイクロRNA アレイにより、ルテオリンにより発現上昇しAR-V7の3’UTR(非翻訳領域)に部分相同配列をもつマイクロRNAとしてhsa-miR-8080を同定した(in vitro実験)。
・22Rv1にhsa-miR-8080を遺伝子導入するとAR-V7の発現が低下し細胞増殖の抑制とアポトーシスの誘導がおきた(in vitro実験)。
・22Rv1にhsa-miR-8080特異的阻害剤を導入すると、ルテオリン投与にかかわらずAR-V7発現は増加し、ルテオリンによる細胞増殖抑制効果が減弱した(in vitro実験)。
【実施例】
【0068】
以上の知見から、前立腺癌予防効果との共通機構として、酸化ストレス抑制、アポトーシス誘導や酸化ストレス制御遺伝子GPX2の抑制がCRPCの治療効果に関わるとともに、これらに加えて血管新生抑制もCRPC治療効果に関与するといえる(図22)。
【産業上の利用可能性】
【0069】
CRPCに対する新規治療薬としてAR受容体拮抗薬エンザルタミドやアンドロゲン合成阻害薬アビラテロンが使用されているが、短期間で治療抵抗性が生じ、予後不良になることが問題となっている。本発明の治療薬はこのような現状を打破する、新たな治療戦略を提供するものであり、その臨床上の意義は大きい。また、本発明の評価法(スクリーニング方法)は新薬の開発に有用であり、新たな治療薬及び治療法の確立に貢献する。一方、本発明のリスク予測方法がもたらす情報(検査結果)は、早期の治療介入の要否判断や治療経過(予後)の予測等に利用できる。従って、本発明はCRPCの治療方針の決定に有用であることはもとより、予防医療的見地からも利用価値が高い。
【0070】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
【配列表フリ-テキスト】
【0071】
配列番号1:人工配列の説明:AR-V7の3'UTRの部分配列
配列番号2:人工配列の説明:hsa-miR-8080の部分配列
配列番号4:人工配列の説明:AR-FL用フォワードプライマー
配列番号5:人工配列の説明:AR-FL用リバースプライマー
配列番号6:人工配列の説明:AR-V7用フォワードプライマー
配列番号7:人工配列の説明:AR-V7用リバースプライマー
配列番号8:人工配列の説明:AR-FLを標的にしたsiRNA
配列番号9:人工配列の説明:AR-V7を標的にしたsiRNA
配列番号11:人工配列の説明:AR-V7のC末端アミノ酸配列
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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