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明細書 :磁気光学測定方法および磁気光学測定装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成30年10月25日(2018.10.25)
発明の名称または考案の名称 磁気光学測定方法および磁気光学測定装置
国際特許分類 G01R  33/26        (2006.01)
G01R  33/032       (2006.01)
H01L  29/82        (2006.01)
FI G01R 33/26
G01R 33/032
H01L 29/82 Z
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 23
出願番号 特願2017-560070 (P2017-560070)
国際出願番号 PCT/JP2016/086855
国際公開番号 WO2017/119237
国際出願日 平成28年12月12日(2016.12.12)
国際公開日 平成29年7月13日(2017.7.13)
優先権出願番号 2016003038
優先日 平成28年1月8日(2016.1.8)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DJ , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KH , KN , KP , KR , KW , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ
発明者または考案者 【氏名】橋本 佑介
【氏名】齊藤 英治
出願人 【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100095359、【弁理士】、【氏名又は名称】須田 篤
【識別番号】100143834、【弁理士】、【氏名又は名称】楠 修二
審査請求 未請求
テーマコード 2G017
5F092
Fターム 2G017AA02
2G017AD12
2G017AD15
5F092AA20
5F092AC21
5F092BD06
要約 【課題】スピン波の空間情報を取得することができる磁気光学測定方法および磁気光学測定装置を提供する。
【解決手段】磁性を有する被測定物1に対し、ポンプ光照射手段11により、パルス光から成るポンプ光を照射する。被測定物1に対して、プローブ光照射手段12により、ポンプ光から所定の遅延時間だけ遅らせてプローブ光を照射する。第1偏光手段14により、被測定物1への照射前に、プローブ光を所定の角度で直線偏光する。第2偏光手段15により、プローブ光が被測定物1を通過した後の通過光を、所定の角度を含む範囲内で角度を変えながら直線偏光する。強度取得手段16により、第2偏光手段15で直線偏光した角度ごとに、通過光の強度分布を取得する。解析手段17により、第2偏光手段15による直線偏光の角度と、その角度ごとに取得された通過光の強度分布とに基づいて、ポンプ光による被測定物1の応答情報を取得する。
【選択図】図3
特許請求の範囲 【請求項1】
磁性を有する被測定物に対し、パルス光から成るポンプ光を照射するポンプ光照射工程と、
前記被測定物に対して、前記ポンプ光から所定の遅延時間だけ遅らせて、所定の角度で直線偏光されたプローブ光を照射するプローブ光照射工程と、
前記プローブ光が前記被測定物を通過した後の通過光を、前記所定の角度を含む範囲内で角度を変えながら直線偏光させる偏光工程と、
前記通過光を直線偏光した角度ごとに前記通過光の強度分布を取得する強度取得工程と、
前記通過光を直線偏光した角度と、その角度ごとの前記通過光の強度分布とに基づいて、前記ポンプ光による前記被測定物の応答情報を得る応答情報取得工程とを、
有することを特徴とする磁気光学測定方法。
【請求項2】
前記応答情報取得工程は、前記被測定物の応答情報として、前記ポンプ光により励起された前記被測定物のスピン波の空間情報を得ることを特徴とする請求項1記載の磁気光学測定方法。
【請求項3】
前記強度取得工程は、前記通過光の光軸に対して垂直な平面で、前記通過光の強度分布を取得し、
前記応答情報取得工程は、前記平面上の所定の位置(x,y)ごとに、前記通過光を偏光した各角度αと、各角度αに対応する前記通過光の強度Iとの関係を、二次関数でフィッティングすることにより、前記通過光の強度Iと、前記ポンプ光により前記被測定物で発生するファラデー効果による前記プローブ光の直線偏光の回転角θとを求め、この回転角θの前記平面上の分布から、前記ポンプ光により励起された前記被測定物のスピン波の空間情報を得ることを
特徴とする請求項1記載の磁気光学測定方法。
【請求項4】
前記強度取得工程は、前記通過光の光軸に対して垂直な平面で、前記通過光の強度分布を取得し、
前記応答情報取得工程は、前記平面上の所定の位置(x,y)ごとに、前記通過光を偏光した各角度α(i=1~N、Nは前記通過光を偏光した角度を変えたときの全ての測定回数)と、各角度αに対応する前記通過光の強度I(i)との関係を、
【数1】
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の関係式でフィッティングすることにより、前記通過光の強度Iと、前記ポンプ光により前記被測定物で発生するファラデー効果による前記プローブ光の直線偏光の回転角θとを求め、この回転角θの前記平面上の分布から、前記ポンプ光により励起された前記被測定物のスピン波の空間情報を得ることを
特徴とする請求項1記載の磁気光学測定方法。
【請求項5】
前記遅延時間を変化させながら各工程を繰り返す繰り返し工程と、
各遅延時間に対して前記応答情報取得工程で得られた前記被測定物の応答情報から、前記被測定物の応答の時空間情報を得る時空間情報取得工程とを、
有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の磁気光学測定方法。
【請求項6】
前記遅延時間を変化させながら各工程を繰り返す繰り返し工程と、
各遅延時間に対して前記応答情報取得工程で得られた前記被測定物の空間情報から、前記被測定物の応答の時空間情報を得る時空間情報取得工程とを有し、
前記応答情報取得工程は、各遅延時間に対して、前記関係式の右辺の3×3行列の計算を1回行い、得られた3×3行列を全ての位置(x,y)でのフィッティングに共通して利用することにより、前記被測定物のスピン波の空間情報を得ることを
特徴とする請求項4記載の磁気光学測定方法。
【請求項7】
前記被測定物の応答の時空間情報をフーリエ変換することにより、前記被測定物の逆空間情報を得ることを特徴とする請求項5または6記載の磁気光学測定方法。
【請求項8】
前記偏光工程で前記通過光を直線偏光する各角度を、前記繰り返し工程の各遅延時間に対して同じにすることを特徴とする請求項5乃至7のいずれか1項に記載の磁気光学測定方法。
【請求項9】
前記被測定物の応答の時空間情報をフーリエ変換することにより、前記被測定物の逆空間情報として、前記ポンプ光により励起された前記被測定物のスピン波の分散関係を得ることを特徴とする請求項5乃至8のいずれか1項に記載の磁気光学測定方法。
【請求項10】
前記ポンプ光および前記プローブ光は、ピコ秒またはフェムト秒レーザーから成ることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の磁気光学測定方法。
【請求項11】
前記ポンプ光は、その進行方向に対して垂直な断面でのスポット径が10μm以下であることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の磁気光学測定方法。
【請求項12】
前記プローブ光は、その進行方向に対して垂直な断面でのスポット径が100μm~2mmであることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載の磁気光学測定方法。
【請求項13】
前記偏光工程で、前記通過光を直線偏光する角度の範囲は、前記所定の角度-10°~前記所定の角度+10°の範囲であることを特徴とする請求項1乃至12のいずれか1項に記載の磁気光学測定方法。
【請求項14】
前記強度取得工程は、前記通過光を受光して、前記通過光の強度分布画像を取得することを特徴とする請求項1乃至13のいずれか1項に記載の磁気光学測定方法。
【請求項15】
磁性を有する被測定物に対し、パルス光から成るポンプ光を照射し、
前記被測定物に対してプローブ光を照射し、
前記プローブ光が前記被測定物を通過した後の通過光を測定することにより、前記ポンプ光による前記被測定物の応答の実空間情報を取得し、
前記実空間情報を逆空間情報にフーリエ変換することにより、前記被測定物の応答の分散関係を得ることを
特徴とする磁気光学測定方法。
【請求項16】
前記プローブ光は、所定の角度で直線偏光されており、前記被測定物に対して、前記ポンプ光から所定の遅延時間だけ遅らせて照射され、
前記通過光を、前記所定の角度を含む範囲内で角度を変えながら直線偏光させて、その直線偏光の角度ごとに前記通過光の強度分布を取得し、
前記通過光を直線偏光した角度と、その角度ごとの前記通過光の強度分布とに基づいて、前記実空間情報を取得し、
前記遅延時間を変化させながら前記プローブ光を照射し、各遅延時間に対して、前記通過光の直線偏光の角度ごとの前記通過光の強度分布を取得して前記実空間情報を取得し、
各遅延時間に対して得られた前記実空間情報をフーリエ変換することにより前記分散関係を得ることを
特徴とする請求項15記載の磁気光学測定方法。
【請求項17】
磁性を有する被測定物に対し、パルス光から成るポンプ光を照射可能に設けられたポンプ光照射手段と、
前記被測定物に対して、前記ポンプ光から所定の遅延時間だけ遅らせてプローブ光を照射可能に設けられたプローブ光照射手段と、
前記被測定物への照射前に、前記プローブ光を所定の角度で直線偏光可能に設けられた第1偏光手段と、
前記プローブ光が前記被測定物を通過した後の通過光を、前記所定の角度を含む範囲内で角度を変えながら直線偏光可能に設けられた第2偏光手段と、
前記第2偏光手段で直線偏光した角度ごとに、前記通過光の強度分布を取得可能に設けられた強度取得手段と、
前記第2偏光手段による直線偏光の角度と、その角度ごとに前記強度取得手段で取得された前記通過光の強度分布とに基づいて、前記ポンプ光による前記被測定物の応答情報を取得可能に設けられた解析手段とを、
有することを特徴とする磁気光学測定装置。
【請求項18】
前記解析手段は、前記被測定物の応答情報として、前記ポンプ光により励起された前記被測定物のスピン波の空間情報を取得可能であることを特徴とする請求項17記載の磁気光学測定装置。
【請求項19】
前記強度取得手段は、前記通過光の光軸に対して垂直な平面で、前記通過光の強度分布を取得可能に設けられ、
前記解析手段は、前記平面上の所定の位置(x,y)ごとに、前記通過光を偏光した各角度αと、各角度αに対応する前記通過光の強度Iとの関係を、二次関数でフィッティングすることにより、前記通過光の強度Iと、前記ポンプ光により前記被測定物で発生するファラデー効果による前記プローブ光の直線偏光の回転角θとを求め、この回転角θの前記平面上の分布から、前記ポンプ光により励起された前記被測定物のスピン波の空間情報を取得可能であることを
特徴とする請求項17記載の磁気光学測定装置。
【請求項20】
前記強度取得手段は、前記通過光の光軸に対して垂直な平面で、前記通過光の強度分布を取得可能に設けられ、
前記解析手段は、前記平面上の所定の位置(x,y)ごとに、前記通過光を偏光した各角度α(i=1~N、Nは前記通過光を偏光した角度を変えたときの全ての測定回数)と、各角度αに対応する前記通過光の強度I(i)との関係を、
【数2】
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の関係式でフィッティングすることにより、前記通過光の強度Iと、前記ポンプ光により前記被測定物で発生するファラデー効果による前記プローブ光の直線偏光の回転角θとを求め、この回転角θの前記平面上の分布から、前記ポンプ光により励起された前記被測定物のスピン波の空間情報を取得可能であることを
特徴とする請求項17記載の磁気光学測定装置。
【請求項21】
前記遅延時間を変化可能に設けられた遅延時間変更手段を有し、
前記強度取得手段は、各遅延時間ごと、および前記第2偏光手段で直線偏光した角度ごとに、前記通過光の強度分布を取得可能であり、
前記解析手段は、各遅延時間に対して前記被測定物の応答情報を取得して、前記被測定物の応答の時空間情報を取得可能であることを
特徴とする請求項17乃至20のいずれか1項に記載の磁気光学測定装置。
【請求項22】
前記遅延時間を変化可能に設けられた遅延時間変更手段を有し、
前記強度取得手段は、各遅延時間ごと、および前記第2偏光手段で直線偏光した角度ごとに、前記通過光の強度分布を取得可能であり、
前記解析手段は、各遅延時間に対して、前記関係式の右辺の3×3行列の計算を1回行い、得られた3×3行列を全ての位置(x,y)でのフィッティングに共通して利用することにより、前記被測定物のスピン波の空間情報を取得し、その各遅延時間の前記被測定物のスピン波の空間情報から、前記被測定物の応答の時空間情報を取得可能であることを
特徴とする請求項20記載の磁気光学測定装置。
【請求項23】
前記解析手段は、前記被測定物の応答の時空間情報をフーリエ変換することにより、前記被測定物の逆空間情報を取得可能であることを特徴とする請求項21または22記載の磁気光学測定方法。
【請求項24】
前記第2変更手段は、前記通過光を直線偏光する各角度を、各遅延時間に対して同じにするよう構成されていることを特徴とする請求項21乃至23のいずれか1項に記載の磁気光学測定装置。
【請求項25】
前記解析手段は、前記被測定物の応答の時空間情報をフーリエ変換することにより、前記被測定物の逆空間情報として、前記ポンプ光により励起された前記被測定物のスピン波の分散関係を取得可能であることを特徴とする請求項21乃至24のいずれか1項に記載の磁気光学測定装置。
【請求項26】
前記強度取得手段は、前記通過光を受光して、前記通過光の強度分布画像を取得可能に設けられていることを特徴とする請求項17乃至25のいずれか1項に記載の磁気光学測定装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気光学測定方法および磁気光学測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の高度情報化社会において、我々の生活を支える情報処理を担うデバイスは、増加の一途をたどっている。これらのデバイスによる消費電力の増加は社会的課題と認知されており、その解決に向けて様々な取り組みがなされている。そのような取り組みにより発展している分野の一つとして、スピントロニクスがあげられる。
【0003】
スピントロニクスは、従来のエレクトロニクスに代わる情報処理技術である。エレクトロニクスでは、電子のもつ電荷によってビットを表現し、電流によって情報を伝達している。これに対してスピントロニクスでは、電子の持つスピンによってビットを表現し、スピン流によって情報を伝達している。スピントロニクスは、ジュール熱などの損失が少なく、エレクトロニクスに比較して消費電力が少ない情報処理が実現できると期待されており、すでに記憶素子での実用化がなされている。
【0004】
この様な背景の中、スピントロニクスに適した材料開発も大きく進展してきた。スピントロニクスに利用される材料は、磁性体である。磁性体は、その内部の電子スピンがある方向に固定されており、自発磁化を発現している。この自発磁化の運動は、磁性体中を波として伝搬することが知られており、一般にスピン波あるいはマグノンと呼ばれる。このスピン波は、前述のスピン流の一種であり、スピントロニクスにおいて情報の伝達を担うことができる。電荷を一切利用せず、このスピン波だけによって情報処理及び伝達を実現する技術はマグノニクスと呼ばれ、このマグノニクスを利用したデバイスは、さらに電力消費の小さなデバイスとして期待されている。したがって、スピン波の性質を同定することが、スピントロニクスにおける材料開発において重要である。
【0005】
物質中の波の性質は、分散関係によって特徴づけられる。分散関係とは、物質中における波の振動数と波数との関係である。分散関係を測定によって決定することが、波の性質の同定に他ならない。
【0006】
スピン波の分散関係の測定方法として、中性子散乱が知られている。また、近年では、スピン波を、ポンプ・アンド・プローブ法によって直接観測する方法が開発されている(例えば、特許文献1、2参照)。ポンプ・アンド・プローブ法を利用することにより、スピン波を実空間でとらえることが可能である。また、スピン波の実空間での時間変化を測定する方法も開発されている(例えば、非特許文献1乃至3参照)。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特開2014-60229号公報
【特許文献2】特開2015-15340号公報
【0008】

【非特許文献1】T. Satoh, et al., ”Directional control of spin-wave emission by spatially shaped light”, Nature Photonics, 2012, vol.6, p.662-666
【非特許文献2】Y. Hashimoto et al., ”Ultrafast time-resolved magneto-optical imaging of all-optical switching in GdFeCo with femtosecond time-resolution and a μm spatial resolution”, Review of Scientific Instruments, 2014, 85, 063702
【非特許文献3】N. Ogawa, et al., ”Photodrive of magnetic bubbles via magnetoelastic waves”, Proceedings of the National Academy of Science, 2015, vol.112, No.29, 8977-8981
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、中性子散乱では、波数の大きな波しか測定できず、スピン波の分散関係の全容を知ることはできないという課題があった。また、特許文献1に記載のポンプ・アンド・プローブ法を用いる方法では、高い分解能で測定しようとすると、広範囲のイメージングを行う必要があるため、測定に膨大な時間がかかり、スピン波の分散関係どころか、スピン波の空間情報を求めるのも困難であるという課題があった。このため、特許文献2では、測定によりスピン波の分散関係を求めのではなく、理論的なモデルから分散関係を計算しておき、測定されたスピン波の実空間像にフィッティングすることで、分散関係の類推を行っている。
【0010】
また、非特許文献1に記載の実空間での時間変化を測定する方法では、高い分解能で測定しようとすると、広範囲だけでなく、長時間のイメージングを行う必要があるため、測定に膨大な時間がかかり、スピン波の空間情報および時間情報を求めるのはやはり困難であるという課題があった。このため、スピン波の分散関係を求めるのも困難であるという課題があった。また、非特許文献2に記載の方法では、微小な磁化のダイナミクスをとらえているが、スピン波の空間情報および時間情報の取得には至っていない。また、非特許文献3に記載の実空間でのイメージングでは、測定される光強度信号が、磁化に由来する成分だけを抽出できておらず、スピン波の伝搬を見ることはできていないという課題があった。
【0011】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、スピン波の空間情報を取得することができる磁気光学測定方法および磁気光学測定装置を提供することを目的とする。また、スピン波の空間情報および時間情報を、広範囲かつ長時間に渡って、現実的な測定時間内に取得することができる磁気光学測定方法および磁気光学測定装置を提供することも目的とする。さらに、スピン波の分散関係を直接決定することができる磁気光学測定方法および磁気光学測定装置を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明に係る磁気光学測定方法は、磁性を有する被測定物に対し、パルス光から成るポンプ光を照射するポンプ光照射工程と、前記被測定物に対して、前記ポンプ光から所定の遅延時間だけ遅らせて、所定の角度で直線偏光されたプローブ光を照射するプローブ光照射工程と、前記プローブ光が前記被測定物を通過した後の通過光を、前記所定の角度を含む範囲内で角度を変えながら直線偏光させる偏光工程と、前記通過光を直線偏光した角度ごとに前記通過光の強度分布を取得する強度取得工程と、前記通過光を直線偏光した角度と、その角度ごとの前記通過光の強度分布とに基づいて、前記ポンプ光による前記被測定物の応答情報を得る応答情報取得工程とを、有することを特徴とする。
【0013】
本発明に係る磁気光学測定装置は、磁性を有する被測定物に対し、パルス光から成るポンプ光を照射可能に設けられたポンプ光照射手段と、前記被測定物に対して、前記ポンプ光から所定の遅延時間だけ遅らせてプローブ光を照射可能に設けられたプローブ光照射手段と、前記被測定物への照射前に、前記プローブ光を所定の角度で直線偏光可能に設けられた第1偏光手段と、前記プローブ光が前記被測定物を通過した後の通過光を、前記所定の角度を含む範囲内で角度を変えながら直線偏光可能に設けられた第2偏光手段と、前記第2偏光手段で直線偏光した角度ごとに、前記通過光の強度分布を取得可能に設けられた強度取得手段と、前記第2偏光手段による直線偏光の角度と、その角度ごとに前記強度取得手段で取得された前記通過光の強度分布とに基づいて、前記ポンプ光による前記被測定物の応答情報を取得可能に設けられた解析手段とを、有することを特徴とする。
【0014】
本発明に係る磁気光学測定方法は、本発明に係る磁気光学測定装置により好適に実施することができる。本発明に係る磁気光学測定方法および磁気光学測定装置は、ポンプ・アンド・プローブ法を利用して、被測定物の応答情報を得ることができる。すなわち、磁性を有する被測定物に対し、ポンプ光を照射することにより、被測定物の内部の磁化が歳差運動をはじめ、この歳差運動が伝搬してスピン波となる。プローブ光は、磁気光学効果を通じて、磁化の歳差運動の情報を獲得する。ここで、一般に知られている様に、光の進行方向と平行な磁化の運動は、ファラデー効果を通じて直線偏光の偏光角をθだけ回転させる。ファラデー効果は磁気光学効果の一つであり、磁化が存在することで、物質の誘電率テンソルに非対角成分が生じることに起因している普遍的な現象である。本発明に係る磁気光学測定方法および磁気光学測定装置は、被測定物の応答情報として、プローブ光を通じて、このファラデー効果による直線偏光の回転角(ファラデー回転角)θの空間分布を取得することができる。さらに、このθの空間分布は、スピン波を発生させる磁化の歳差運動に起因しているため、ポンプ光により励起された被測定物のスピン波の空間情報を得ることができる。
【0015】
本発明に係る磁気光学測定方法および磁気光学測定装置は、具体的には以下の原理に従って、被測定物の応答情報として、スピン波の空間情報を得ることができる。すなわち、通過光の光軸に対して垂直な平面の、平面上の位置(x,y)での通過光の強度分布I(x,y,α,τ)は、(1)式で表される。この強度分布Iは、例えばCCDカメラなどで通過光を受光することにより、通過光の強度分布画像として測定することができる。
【0016】
【数1】
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ここで、τは所定の遅延時間、θαは、偏光子などにより付加される測定パラメータである直線偏光回転角、θは、測定系に由来するバックグランドノイズによって生じる直線偏光回転角、θは、ファラデー効果に由来する直線偏光回転角(ファラデー回転角)、θは、θ+θである。直線偏光の回転角が十分に小さいとき、具体的には少なくとも±10°の範囲にあるとき(1)式は次の(2)式のように近似できる。
【0017】
【数2】
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ただし、通過光が厚い偏光子を通るときに光の経路が変わってしまい、得られる像にズレが生じることがある。この時は、偏光子に対してレーザー側にλ/2波長板を設置し、偏光子の代わりにλ/2波長板を回転させれば良い。この時、λ/2波長板の角度をαλ/2とするとα=-2αλ/2として上記式に代入する。具体的には、(3)式が得られる。
I(x,y,α,τ)=I(θ-2αλ/2 (3)
以下の議論では簡単のために、偏光子を回転させる系を考慮して議論する。
【0018】
(3)式は、偏光子などによる回転角αを変数とした二次関数になっている。このため、所定の遅延時間τを設定した後、偏光子などによる回転角αを変数として、通過光をCCDカメラなどにより測定することにより、光強度Iをαの関数として(3)式でフィッティングすることができる。これにより、強度Iおよびθについて、実測値を得ることができる。θに含まれるバックグランドノイズθは、ポンプ光の照射がないシグナルとの差分をとることで除去することが可能であり、結果としてθ=θとなり、ファラデー回転角θを直接測定することができる。
【0019】
以上の原理から、本発明に係る磁気光学測定方法で、前記強度取得工程は、前記通過光の光軸に対して垂直な平面で、前記通過光の強度分布を取得し、前記応答情報取得工程は、前記平面上の所定の位置(x,y)ごとに、前記通過光を偏光した各角度αと、各角度αに対応する前記通過光の強度Iとの関係を、(3)式でフィッティングすることにより、前記通過光の強度Iと、前記ポンプ光により前記被測定物で発生するファラデー効果による前記プローブ光の直線偏光の回転角θとを求め、この回転角θの前記平面上の分布から、前記ポンプ光により励起された前記被測定物のスピン波の空間情報を得ることが好ましい。
【0020】
また、本発明に係る磁気光学測定装置で、前記強度取得手段は、前記通過光の光軸に対して垂直な平面で、前記通過光の強度分布を取得可能に設けられ、前記解析手段は、前記平面上の所定の位置(x,y)ごとに、前記通過光を偏光した各角度αと、各角度αに対応する前記通過光の強度Iとの関係を、(3)式でフィッティングすることにより、前記通過光の強度Iと、前記ポンプ光により前記被測定物で発生するファラデー効果による前記プローブ光の直線偏光の回転角θとを求め、この回転角θの前記平面上の分布から、前記ポンプ光により励起された前記被測定物のスピン波の空間情報を取得可能であることが好ましい。
【0021】
具体的にθを求める方法としては、例えば、以下の方法がある。すなわち、所定の各位置(x,y)、CCDカメラの場合は各ピクセル(x,y)において、通過光を偏光した角度α(i=1~N)のときに得られる強度I(i)は、それぞれ(3)式で表されるため、全ての角度αの式をまとめると、(4)式の線形方程式で表すことができる。Nは、角度αを変えたときの全ての測定回数である。
【0022】
【数3】
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【0023】
ここで、右辺の3×N行列の転置行列を、(4)式の両辺の左からかけることにより、(5)式が得られる。
【数4】
JP2017119237A1_000006t.gif

【0024】
この(5)式を用いることにより、パラメータである偏光角αと、実測値である各位置でのプローブ光の強度I(i)とから、磁化の歳差運動情報であるファラデー回転角θ(=θ)を計算することができる。この計算では、例えば、最小二乗法を使用してθを求めることができる。こうして、(5)式を用いて全ての位置でのθを求めることにより、スピン波の空間情報を得ることができる。
【0025】
さらに、本発明に係る磁気光学測定方法および磁気光学測定装置は、ポンプ光に対するプローブ光の遅延時間τを変化させることにより、各時刻におけるスピン波の空間情報を取得することができる。すなわち、本発明に係る磁気光学測定方法は、前記遅延時間を変化させながら各工程を繰り返す繰り返し工程と、各遅延時間に対して前記応答情報取得工程で得られた前記被測定物の応答情報から、前記被測定物の応答の時空間情報を得る時空間情報取得工程とを有することが好ましい。また、本発明に係る磁気光学測定装置は、前記遅延時間を変化可能に設けられた遅延時間変更手段を有し、前記強度取得手段は、各遅延時間ごと、および前記第2偏光手段で直線偏光した角度ごとに、前記通過光の強度分布を取得可能であり、前記解析手段は、各遅延時間に対して前記被測定物の応答情報を取得して、前記被測定物の応答の時空間情報を取得可能であることが好ましい。
【0026】
この遅延時間を変化させる場合、各遅延時間において(5)式を用いて各位置(各ピクセルなど)でのθを計算することにより、被測定物の応答の時空間情報、すなわちスピン波の空間情報および時間情報を得ることができる。しかし、(5)式の計算では、右辺の3×3行列の計算量が大きいため、各ピクセルごとに(5)式の3×3行列を計算していると、その計算量が厖大になってしまい、現実的な測定時間内にスピン波の時空間情報を得ることはできない。
【0027】
そこで、各遅延時間において、(5)式の3×3行列をピクセルごとに計算するのではなく、その遅延時間に対応する偏光角αに対して(5)式の3×3行列の計算を1回行い、ここで得られた3×3行列を全てのピクセルに共通して利用することにより、各遅延時間で、その行列計算を1回だけで済ませることができる。これにより、計算量を大幅に減らすことができ、現実的な時間内に、各位置(ピクセル)、各遅延時間においてファラデー回転角θを計算し、被測定物の応答の時空間情報を得ることができる。また、そのθの時空間情報から、スピン波の空間情報および時間情報を得ることができる。計算時間を大幅に短縮することができるため、広範囲かつ長時間に渡って被測定物の応答情報を測定することができ、広範囲かつ長時間に渡ってスピン波の時空間情報を得ることができる。
さらに、通過光を直線偏光する各角度αを、各遅延時間に対して同じにすることにより、遅延時間が変わっても(5)式の右辺の3×3行列は変化しないため、その行列計算を1回だけで済ませることができ、計算量をさらに減らすことができる。
さらに、このフィッティングの計算には、グラフィックプロセッサ(GPU)を利用することが好ましい。GPUの並列処理を活用することで、一般的なCPUを利用した場合と比較して、3倍以上の計算速度が得られる。
【0028】
さらに、本発明に係る磁気光学測定方法および磁気光学測定装置は、前記被測定物の応答の時空間情報をフーリエ変換することにより、前記被測定物の逆空間情報を得ることができる。ここで、(5)式を用いて求める物理量は、ファラデー回転角θであり、これは被測定物の誘電率の非対角成分に相当する。この非対角成分は、被測定物の磁化の面直成分に比例する成分を有し、この磁化の面直成分は、外場であるポンプ光に対する被測定物の線形応答として評価できる。これは、一般的な線形応答の理論によれば、(6)式のように書ける。
【0029】
【数5】
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ここで、<M(r;t)>は位置r、時刻tにおける磁化の面直成分の期待値、χ(r;t)は試料の応答関数、H(r’;t’)は外場であるポンプ光である。外場としてのポンプ光はパルス光から成っているため、これを時間・空間におけるδ関数とみなすと、ポンプ光の照射位置と時刻を、空間と時間の原点として、(6)式は(7)式のようになる。
【0030】
【数6】
JP2017119237A1_000008t.gif

【0031】
すなわち、ファラデー回転角θを測定することは、被測定物の応答関数を直接測定していることに等しい。このため、(8)式に示すように、得られたファラデー回転角θをフーリエ変換することにより、応答関数のフーリエ変換、すなわち分散関係を直接求めることができる。
【数7】
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【0032】
ここで、ファラデー回転角θの時空間情報を求めることは、スピン波の時空間情報を求めることに対応しているため、ファラデー回転角θの時空間情報のフーリエ変換は、スピン波の分散関係を求めることに対応している。このように、本発明に係る磁気光学測定方法および磁気光学測定装置は、被測定物の応答の時空間情報をフーリエ変換することにより、前記被測定物の逆空間情報として、前記ポンプ光により励起された前記被測定物のスピン波の分散関係を得ることができる。
【0033】
本発明に係る磁気光学測定方法で、前記ポンプ光および前記プローブ光は、ピコ秒またはフェムト秒レーザーから成ることが好ましい。本発明に係る磁気光学測定装置で、前記ポンプ光照射手段は、前記ポンプ光としてフェムト秒レーザーを照射可能であり、前記プローブ光照射手段は、前記プローブ光としてフェムト秒レーザーを照射可能であることが好ましい。この場合、ギガヘルツ以上の周波数分解能に優れた被測定物の応答情報を得ることができる。
【0034】
本発明に係る磁気光学測定方法で、前記ポンプ光は、その進行方向に対して垂直な断面でのスポット径が10μm以下であることが好ましい。本発明に係る磁気光学測定装置で、前記ポンプ光照射手段は、前記ポンプ光を、その進行方向に対して垂直な断面でのスポット径が10μm以下で照射可能であることが好ましい。この場合、ポンプ光が長短様々な波数成分を含むため、被測定物内に長短さまざまな波数を持つスピン波を同時に励起することができる。さらにポンプ光としてフェムト秒レーザーを使用することにより、ポンプ光を時間・空間におけるδ関数により近づけることができ、被測定物の応答関数を高精度で得ることができる。また、その応答情報をフーリエ変換することにより、被測定物の分散関係を高精度で得ることができる。
【0035】
本発明に係る磁気光学測定方法で、前記プローブ光は、その進行方向に対して垂直な断面でのスポット径が100μm以上であることが好ましい。本発明に係る磁気光学測定装置で、前記プローブ光照射手段は、前記プローブ光を、その進行方向に対して垂直な断面でのスポット径が100μm以上で照射可能であることが好ましい。また、プローブ光のスポット径は、100μm~2mmであってもよい。この場合、広範囲に渡って被測定物の応答情報を測定することができる。また、プローブ光のスポット径は、スピン波の減衰長よりも大きいことが望ましい。この場合、スピン波の時間変化の様子が全てイメージに収まるため、被測定物の分散関係を高精度で得ることができる。
【0036】
本発明に係る磁気光学測定方法および磁気光学測定装置で、被測定物は、磁性を有しているものであればいかなるものであっても良い。被測定物は、例えば、磁性体であっても、磁性体を含む物質であってもよい。また、被測定物は、スピン波の減衰長よりも大きいことが望ましい。この場合、被測定物の端での反射波との干渉によって、スピン波の自由な伝搬が影響を受けない。そのため、被測定物の分散関係を高精度で得ることができる。
【0037】
本発明に係る磁気光学測定方法は、磁性を有する被測定物に対し、パルス光から成るポンプ光を照射し、前記被測定物に対してプローブ光を照射し、前記プローブ光が前記被測定物を通過した後の通過光を測定することにより、前記ポンプ光による前記被測定物の応答の実空間情報を取得し、前記実空間情報を逆空間情報にフーリエ変換することにより、前記被測定物の応答の分散関係を得てもよい。また、この場合、前記プローブ光は、所定の角度で直線偏光されており、前記被測定物に対して、前記ポンプ光から所定の遅延時間だけ遅らせて照射され、前記通過光を、前記所定の角度を含む範囲内で角度を変えながら直線偏光させて、その直線偏光の角度ごとに前記通過光の強度分布を取得し、前記通過光を直線偏光した角度と、その角度ごとの前記通過光の強度分布とに基づいて、前記実空間情報を取得し、前記遅延時間を変化させながら前記プローブ光を照射し、各遅延時間ごとに、前記通過光の直線偏光の角度ごとの前記通過光の強度分布を取得して前記実空間情報を取得し、各遅延時間ごとに得られた前記実空間情報をフーリエ変換することにより前記分散関係を得てもよい。この場合、スピン波の実空間情報を取得することができ、さらに、スピン波の分散関係を直接決定することができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、スピン波の空間情報を取得することができる磁気光学測定方法および磁気光学測定装置を提供することができる。また、スピン波の空間情報および時間情報を、広範囲かつ長時間に渡って、現実的な測定時間内に取得することができる磁気光学測定方法および磁気光学測定装置を提供することもできる。さらに、スピン波の分散関係を直接決定することができる磁気光学測定方法および磁気光学測定装置を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施の形態の磁気光学測定装置を示す側面図である。
【図2】本発明の実施の形態の磁気光学測定方法を示すフロー図である。
【図3】本発明の実施の形態の磁気光学測定方法および磁気光学測定装置により得られた、遅延時間が(a)-0.4ns、(b)0.1ns、(c)0.5ns、(d)1.0ns、(e)5.0ns、(f)10.0nsのときのスピン波の空間情報を示す説明図である。
【図4】本発明の実施の形態の磁気光学測定方法および磁気光学測定装置により得られた、伝搬方向が(a)0度、(b)15度、(c)30度、(d)45度、(e)60度、(f)75度、(g)90度のときのスピン波の分散関係を示す説明図である。
【図5】本発明の実施の形態の磁気光学測定方法および磁気光学測定装置により得られた、伝搬方向と外部磁場がそれぞれ(a)0度、25Oe、(b)0度、75Oe、(c)0度、125Oe、(d)45度、25Oe、(e)45度、75Oe、(f)45度、125Oeのときのスピン波の分散関係を示す説明図である。
【図6】本発明の実施の形態の磁気光学測定方法および磁気光学測定装置により得られた、時間が(a)2ns、(b)4ns、(c)6ns、(d)8nsのときのスピン波の分散関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態について説明する。
図1乃至図6は、本発明の実施の形態の磁気光学測定方法および磁気光学測定装置を示している。
図1に示すように、磁気光学測定装置10は、光源(図示せず)とポンプ光照射手段11とプローブ光照射手段12と遅延時間変更手段13と第1偏光手段14と第2偏光手段15と強度取得手段16と解析手段17とを有している。

【0041】
光源は、波長800nm、パルス幅80fsのフェムト秒レーザーを射出可能になっている。また、光源は、射出したレーザー光を、二つに分波し、一方をそのままポンプ光としてポンプ光照射手段11に伝搬し、他方をパラメトリック増幅器に入力して波長630nmへと変調した後、プローブ光としてプローブ光照射手段12に伝搬するよう構成されている。

【0042】
ポンプ光照射手段11は、偏光子11aとハーフミラー11bと対物レンズ11cとを有している。偏光子11aは、ポンプ光を直線偏光とするための偏光子から成っている。なお、λ/4波長板を用いて、ポンプ光を円偏光としてもよい。ポンプ光照射手段11は、光源からのポンプ光の偏光を、偏光子11aで調整した後、ハーフミラー11bにより対物レンズ11cの光軸にポンプ光を導入し、磁性を有する被測定物1にポンプ光を照射するよう構成されている。ポンプ光照射手段11は、対物レンズ11cにより、ポンプ光を被測定物1の一点に集光して照射するようになっている。なお、図1に示す具体的な一例では、被測定物1は、ビスマスがドープされたイットリウム鉄ガーネット(Bi:YIG)であり、厚さ4μmで面積1cm×1cmの磁性体薄膜から成っている。

【0043】
ポンプ光照射手段11は、被測定物1に対し、フェムト秒レーザーのパルス光から成るポンプ光を照射可能になっている。ポンプ光照射手段11は、ポンプ光を、その進行方向に対して垂直な断面でのスポット径が10μm以下で照射可能になっている。図1に示す具体的な一例では、被測定物1の一点に集光されるポンプ光のスポット径は、約4μmである。このように、ポンプ光は、実質的に、空間的にも時間的にもδ関数的なパルス入力とみなすことが可能である。

【0044】
プローブ光照射手段12は、被測定物1に対し、フェムト秒レーザーから成る、光源からのプローブ光を照射可能になっている。プローブ光照射手段12は、プローブ光を、その進行方向に対して垂直な断面でのスポット径が100μm~2mmで照射可能になっている。図1に示す具体的な一例では、空間的に広範囲な情報を獲得するために、プローブ光のビーム径は、1mm程度に調整されている。

【0045】
遅延時間変更手段13は、プローブ光照射手段12のプローブ光の光路に設けられた遅延光路から成っている。遅延時間変更手段13は、ポンプ光から所定の遅延時間だけ遅らせて、プローブ光を被測定物1に照射可能になっている。遅延時間変更手段13は、プローブ光の光路を延ばしたり縮めたりすることにより、遅延時間を変化可能になっている。

【0046】
第1偏光手段14は、グランテーラープリズムから成り、プローブ光から被測定物1に照射する前に、プローブ光を所定の角度で直線偏光可能に配置されている。第2偏光手段15は、1/2波長板15aとグランテーラープリズムから成る偏光子15bとから成っている。1/2波長板15aは、回転ステージに取り付けられており、通過光の光軸回りに任意の角度に設定できるよう構成されている。偏光子15bは、その直線偏光面が第1偏光手段14の直線偏光面と直交を成す、直交クロスニコル配置で設けられている。図1に示す具体的な一例では、被測定物1を通過した通過光は、ポンプ光とは逆向きに進み、対物レンズ11cによって平行光線に調整され、ハーフミラー11bを透過した後、第2偏光手段15に入射されて、1/2波長板15aおよび偏光子15bにより直線偏光されるようになっている。

【0047】
図1に示す具体的な一例では、磁気光学測定装置10は、第1偏光手段14によるプローブ光の直線偏光角を、0°としている。プローブ光が被測定物1を通過した後の通過光は、被測定物の磁化を反映して、その直線偏光角がファラデー角θ(=θ)だけ回転される。このため、1/2波長板15aのファスト軸と第1変更手段14の偏光軸とが成す角度をαとすると、1/2波長板15aによって通過光の偏光角は、2(θ-α)となる。この偏光角を持った通過光は、直交クロスニコル配置に置かれた偏光子15bを通過することにより、当初のプローブ光の直線偏光面に直交する成分が抽出される。

【0048】
強度取得手段16は、CCDカメラを有し、第2偏光手段15で直線偏光された通過光の強度分布を、通過光の光軸に対して垂直な平面で取得可能に設けられている。強度取得手段16は、遅延時間変更手段13による各遅延時間ごと、および第2偏光手段15で直線偏光した角度ごとに、通過光の強度分布を取得可能になっている。また、強度取得手段16は、CCDカメラの前段にカラーフィルタ16aを有し、ポンプ光の反射光がCCDカメラに入射するのを防止するようになっている。図1に示す具体的な一例では、強度取得手段16は、16μm×16μmの範囲に数百万画素を有するものから成っている。また、強度取得手段16は、100μm×100μmの領域をイメージング可能になっている。

【0049】
解析手段17は、コンピュータから成り、遅延時間変更手段13による各遅延時間ごとに、第2偏光手段15による直線偏光の角度と、その角度ごとに強度取得手段16で取得された通過光の強度分布とに基づいて、ポンプ光による被測定物1の応答情報を取得可能になっている。これにより、解析手段17は、被測定物1の応答の時空間情報を取得可能になっている。また、解析手段17は、被測定物1の応答の時空間情報をフーリエ変換することにより、被測定物1の逆空間情報として、ポンプ光により励起された被測定物1のスピン波の分散関係を取得可能になっている。

【0050】
本発明の実施の形態の磁気光学測定方法は、磁気光学測定装置10により好適に実施することができる。本発明の実施の形態の磁気光学測定方法は、被測定物1の面内磁化の歳差運動のうち、その面直成分をファラデー効果による直線偏光の回転角θとしてプローブ光で捕捉する。この回転角θの情報は、CCDカメラによって検出されるプローブ光強度から算出され、CCDカメラの持つ空間分解能に相当する高分解な空間情報を取得することができる。また、プローブ光の遅延時間を変化させることにより、各時刻における空間情報を取得することができる。ポンプ光およびプローブ光がフェムト秒レーザーから成るため、時間的にも高い分解能を実現することができる。

【0051】
本発明の実施の形態の磁気光学測定方法では、まず、被測定物1を面内に磁化するために、被測定物1に適当な外部磁場を印加しておく。次に、図2に示すように、遅延時間変更手段13により、ポンプ光とプローブ光との間の遅延時間を決定する(ステップ21)。次に、第2偏光手段15の1/2波長板15aの回転角αを、ある角度αに設定する(ステップ22)。ポンプ光およびプローブ光を照射し、強度取得手段16のCCDカメラにより、プローブ光の通過光の強度分布を取得する(ステップ23)。これにより、CCDカメラのピクセル(画素)ごとに、強度I(1)が得られる(ステップ24)。遅延時間を固定したまま、1/2波長板15aの回転角αをαに変えて(ステップ25)、強度取得手段16により通過光の強度分布を取得する(ステップ26)。これにより、CCDカメラのピクセルごとに、強度I(2)が得られる(ステップ27)。

【0052】
同様にして、遅延時間を固定したまま、1/2波長板15aの回転角αを所定の範囲(例えば、-10°~+10°)の間で変えながら、通過光の強度分布を繰り返し取得する(ステップ28)。これにより、CCDカメラのピクセルごとに、強度I(i)が得られる(ステップ29)。CCDカメラのピクセルごとに、強度Iをαの関数として(3)式でフィッティングする。実際には、(3)式から変形された(5)式を用い、最小二乗法を使用してフィッティングを行い、磁化の歳差運動情報であるファラデー回転角θを求める(ステップ30)。これにより、ピクセルごとにファラデー回転角θが求まり、ポンプ光により励起された被測定物1のスピン波の空間情報を取得することができる。次に、遅延時間を変化させて、上記のステップ22~30を繰り返す(ステップ31)。これにより、各時刻におけるスピン波の空間情報、すなわち、スピン波の時空間情報を取得することができる。

【0053】
本発明の実施の形態の磁気光学測定方法では、ステップ30において、各遅延時間ごとに(5)式を用いてフィッティングを行い、θを求めている。このような計算プロセスを行うにあたり、最も計算量が大きいものは、(5)式の右辺の3×3行列を得る工程にある。このプロセスをできる限り小さくすることが現実的な測定に不可欠である。具体的には、ピクセル毎に(5)式の3×3行列を計算するのではなく、各遅延時間において、対応する1/2波長板15aの回転角αに対して(5)式の3×3行列の計算を1回行い、ここで得られた3×3行列を全てのピクセルに共有して利用することで、計算時間を短縮することができる。これにより、計算時間を大幅に減らすことができ、現実的な時間内にピクセル毎のファラデー回転角θを、各遅延時間で測定することができる。また、計算時間を大幅に短縮することができるため、広範囲かつ長時間に渡って被測定物1の応答情報を測定することができ、広範囲かつ長時間に渡ってスピン波の時空間情報を得ることができる。

【0054】
本発明の実施の形態の磁気光学測定方法および磁気光学測定装置10により得られた被測定物1のスピン波の時空間情報を、図3に示す。なお、被測定物1は、ビスマスがドープされたイットリウム鉄ガーネット(Bi:YIG)薄膜である。図3(a)~(f)は、それぞれ遅延時間 -0.4ns、0.1ns、0.5ns、1.0ns、5.0ns、10.0nsにおける測定結果である。図3(b)に示すように、ポンプ光照射直後では、ポンプ光が照射された原点の位置において、被測定物1の磁化の歳差運動が励起されていることがわかる。また、時間の経過とともに、励起された歳差運動が伝搬している様子が確認できる。被測定物1の大きさが1cm×1cmであり、プローブ光のスポット径1mmよりも十分に大きいため、被測定物1の端による反射や散乱の影響がなく、スピン波の伝搬が直接観察できていると考えられる。

【0055】
得られた被測定物1のスピン波の時空間情報をフーリエ変換することにより、スピン波の周波数(Frequency:ω)と波数(Wavenumber:k)との関係、すなわちスピン波の分散関係が得られる。得られたスピン波の分散関係を、図4に示す。本発明の実施の形態の磁気光学測定方法および磁気光学測定装置10では、ポンプ光照射手段11で照射されるポンプ光のスポット径が4μm、プローブ光照射手段12で照射されるプローブ光のスポット径が1mmであり、実際にイメージングされる領域をおよそ100μm×100μm と広くできるため、ポンプ光は時間・空間においてδ関数とみなせる。このため、被測定物1のスピン波の時空間情報をフーリエ変換することにより、被測定物1の逆空間情報として、被測定物1のスピン波の分散関係を直接得ることができる。図4(a)~(g)に示すように、スピン波の伝搬方向(φの値)に依存して、分散関係(例えば、図4(d)中のA~D)が変化しているのが確認できる。ここで、φは、外部から印加された磁場と、スピン波の伝搬方向との成す角である。

【0056】
なお、このフーリエ変換を十分な精度で行うためには、高い時空間分解能を維持しながら、広範囲かつ長時間に渡ってスピン波の伝搬が測定できる必要がある。本発明の実施の形態の磁気光学測定方法および磁気光学測定装置10によれば、高い時間分解能および空間分解能で、広範囲かつ長時間に渡ってスピン波の時空間情報を得ることができる。すなわち、時間分解能は、ポンプ光のパルス幅とプローブ光のパルス幅とで決まっており、サブピコ秒の分解能を備えている。また、空間分解能は、プローブ光の波長による回折限界によって決まっており、1μm程度である。およそ100μm×100μmのイメージング領域を、数百万画素数のCCDカメラで測定するため、100画素程度でこの空間分解能に相当するデータを取得している。この100画素分のデータを平均化することで、100回分の積算に相当する処理を行い、1μmの空間分解能上限に近い測定が可能になっている。また、サブピコ秒の分解能で、数十ナノ秒以上の長時間のイメージングが可能である。また、フィッティングプロセスの高速化により、測定を高速で行うことができるため、多数のイメージを用いた高精度化が実現できる。

【0057】
本発明の実施の形態の磁気光学測定方法および磁気光学測定装置10では、測定時に、被測定物1を面内に磁化するために、被測定物1に適当な外部磁場が印加されているが、その外部磁場を変化させたときのスピン波の分散関係を求め、図5に示す。図5(a)~(f)に示すように、得られた分散関係のうち原点(0GHz、0cm-1)を通るもの(図中の破線のもの)は、被測定物1に印加する外部磁場を変化させても変化しないことが確認された。この外部磁場に依存しない分散は、フォノンの伝搬が見えていると考えられる。一方で、1GHz~1.5GHzあたりに現れる分散は、磁場が強くなるにつれて、グラフ上方に移動する振る舞いが確認された。この振る舞いは、磁場の増加によって強磁性共鳴周波数が増えたことによるスピン波の分散のシフトと考えられる。このため、これらの分散は、スピン波に対応している。

【0058】
また、スピン波の分散関係の強度の時間変化を、図6に示す。この分散関係の強度の時間変化は、図3で得られた実時空間イメージから、2ns程度の時間幅の画像を抽出して得ることができる。具体的には、半値幅を2nsとしたガウス関数フィルタを時間軸データへ適用した後に、実時間イメージをフーリエ変換することにより得ることができる。図6(a)~(d)に示すように、2nsから8nsになるに従って、分散関係の強度が大きくなっており、時間の経過とともに分散関係の強度が変化することが確認された。特に、フォノンとスピン波の分散とが交差する領域の強度が、時間とともに増大する様子が認められた。このように、本発明の実施の形態の磁気光学測定方法および磁気光学測定装置10によれば、分散関係の時間変化も測定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明に係る磁気光学測定方法および磁気光学測定装置によれば、YIGに代表される様々な磁性材料について、簡便にスピン波の分散関係を決定することができるため、材料の磁気特性の特定や、スピントロニクスデバイスの評価・試験などに利用することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 被測定物
10 磁気光学測定装置
11 ポンプ光照射手段
11a 偏光子
11b ハーフミラー
11c 対物レンズ
12 プローブ光照射手段
13 遅延時間変更手段
14 第1偏光手段
15 第2偏光手段
15a 1/2波長板
15b 偏光子
16 強度取得手段
16a カラーフィルタ
17 解析析手段
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5