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明細書 :病原性微生物検出のための方法及びキット

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-038384 (P2018-038384A)
公開日 平成30年3月15日(2018.3.15)
発明の名称または考案の名称 病原性微生物検出のための方法及びキット
国際特許分類 C12Q   1/04        (2006.01)
C12M   1/00        (2006.01)
G01N  21/78        (2006.01)
G01N  21/77        (2006.01)
FI C12Q 1/04
C12M 1/00 A
G01N 21/78 C
G01N 21/77 D
請求項の数または発明の数 7
出願形態 OL
全頁数 24
出願番号 特願2017-099579 (P2017-099579)
出願日 平成29年5月19日(2017.5.19)
優先権出願番号 2016172515
優先日 平成28年9月5日(2016.9.5)
優先権主張国 日本国(JP)
発明者または考案者 【氏名】野地 博行
【氏名】田端 和仁
出願人 【識別番号】503360115
【氏名又は名称】国立研究開発法人科学技術振興機構
個別代理人の代理人 【識別番号】230104019、【弁護士】、【氏名又は名称】大野 聖二
【識別番号】100149076、【弁理士】、【氏名又は名称】梅田 慎介
審査請求 未請求
テーマコード 2G054
4B029
4B063
Fターム 2G054AA10
2G054CA20
2G054CE02
2G054EA03
2G054GA04
4B029AA07
4B029BB13
4B029CC01
4B029FA15
4B063QA18
4B063QQ03
4B063QQ05
4B063QQ10
4B063QQ35
4B063QR15
4B063QR58
4B063QR79
4B063QX01
要約 【課題】インフルエンザウイルス等の病原性微生物を高感度に検出するために利用可能な技術の提供。
【解決手段】生物試料中の病原性微生物を検出する方法であって、前記病原性微生物を収容可能な複数の収容部が形成されている下層部と、当該下層部における当該収容部が形成されている面に対向している上層部との間の空間に、前記生物試料と、前記病原性微生物の表面又は内部に存在する酵素による反応の基質となる物質と、を含む親水性溶媒を導入する導入手順と、前記空間に疎水性溶媒を導入して、前記収容部内に、疎水性溶媒で被覆されかつ前記病原性微生物と前記物質を包含する、親水性溶媒の液滴を形成する封入手順と、前記液滴中における前記酵素と前記物質との反応により生成する反応生成物を光学的に検出する検出手順と、を含み、前記親水性溶媒が、前記反応生成物の酸解離定数(pKa)よりも大きいpH値を有する、病原性微生物検出方法を提供する。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
病原性微生物に感染した対象又は感染した疑いがある対象から分離された生物試料中の前記病原性微生物を検出する方法であって、
前記病原性微生物を収容可能な複数の収容部が、疎水性の上面を有する側壁によって互いに隔てられて形成されている下層部と、当該下層部における当該収容部が形成されている面に対向している上層部との間の空間に、前記生物試料と、前記病原性微生物の表面又は内部に存在する酵素による反応の基質となる物質と、を含む親水性溶媒を導入する導入手順と、
前記空間に疎水性溶媒を導入して、前記収容部内に、疎水性溶媒で被覆されかつ前記病原性微生物と前記物質を包含する、親水性溶媒の液滴を形成する封入手順と、
前記液滴中における前記酵素と前記物質との反応により生成する反応生成物を光学的に検出する検出手順と、を含み、
前記親水性溶媒が、前記反応生成物の酸解離定数(pKa)よりも大きいpH値を有する、方法。
【請求項2】
前記病原性微生物がインフルエンザウイルスであり、前記酵素がノイラミニダーゼであり、前記物質が4-メチルウンベリフェリル-α-D-ノイラミン酸(4-Methylumbelliferyl-N-acetyl-α-D-neuraminic acid)であり、前記反応生成物が4-メチルウンベリフェロンである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
病原性微生物に感染した対象又は感染した疑いがある対象から分離された生物試料中の前記病原性微生物を検出するためのキットであって、
前記病原性微生物を収容可能な複数の収容部が疎水性の上面を有する側壁によって互いに隔てられて形成されている下層部と、前記下層部における前記収容部が形成されている面に対して空間を隔てて対向している上層部とを備えるアレイと、
前記病原性微生物の表面又は内部に存在する酵素による反応の基質となる物質と、
前記酵素と前記物質との反応により生成する反応生成物の酸解離定数(pKa)よりも大きいpH値を有する親水性溶媒と、
疎水性溶媒と、を含むキット。
【請求項4】
疎水性溶媒と界面接触する親水性溶媒中において、酵素と、該酵素による反応の基質となる物質とを反応させ、反応生成物を検出する方法であって、
前記親水性溶媒が、前記反応生成物の酸解離定数(pKa)よりも大きいpH値を有する、方法。
【請求項5】
前記親水性溶媒が病原性微生物を含み、
前記酵素が前記病原性微生物の表面又は内部に存在する基質切断活性を有する酵素であり、
前記物質が発色基質であり、
前記酵素による前記発色基質の切断により生成する反応生成物を光学的に検出する、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記病原性微生物がインフルエンザウイルスであり、前記酵素がノイラミニダーゼであり、前記発色基質が4-メチルウンベリフェリル-α-D-ノイラミン酸(4-Methylumbelliferyl-N-acetyl-α-D-neuraminic acid)であり、前記反応生成物が4-メチルウンベリフェロンである、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記親水性溶媒が、前記病原性微生物に感染した対象又は感染した疑いがある対象から分離された生物試料を含む、請求項5又は6記載の方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、病原性微生物検出のための方法及びキットに関する。より詳しくは、疎水性溶媒に被覆された親水性溶媒の極小容積中において、病原性微生物の表面又は内部の酵素による反応の結果生成する反応生成物を光学的に検出することによって病原性微生物の検出を行う方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、イムノクロマトグラフィを用いた簡易なインフルエンザウイルス検査キットが開発されている(特許文献1参照)。イムノクロマトグラフィを用いる方法は、数分から数十分の間にインフルエンザウイルスを検出できるので、感染の診断や治療等に活用されている。
【0003】
また、従来、インフルエンザウイルスが有する酵素であるノイラミニダーゼと発色基質との反応に基づいて光学的にインフルエンザウイルスを検出する技術が知られている(特許文献2、3参照)。発色基質としては、例えば、4-メチルウンベリフェリル-α-D-ノイラミン酸(4-Methylumbelliferyl-N-acetyl-α-D-neuraminic acid:4MU-NANA、特許文献2参照)や、4-アルコキシ-N-アセチルノイラミン酸又は4,7-ジアルコキシ-N-アセチルノイラミン酸の誘導体(特許文献3参照)などが用いられている。例えば、発色基質として4MU-NANAを用いた方法では、ノイラミニダーゼによる4MU-NANAの分解によって蛍光物質である4-メチルウンベリフェロンが生成する。生成した4-メチルウンベリフェロンの量に基づいてノイラミニダーゼの酵素活性値を算出することができ、さらに酵素活性値に基づいてインフルエンザウイルスの粒子数を定量することができる。
【0004】
本発明に関連して、非特許文献1には、液滴がオイルで覆われており、外部から液滴に直接アクセス可能なフェムトリットルオーダーの液滴のアレイを用いて、一分子酵素アッセイを行う方法が記載されている。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2008-275511号
【特許文献2】特開2011-139656号
【特許文献3】特表2002-541858号
【0006】

【非特許文献1】S. Sakakihara et al., Lab Chip, 2010, 10, 3355-3362
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のイムノクロマトグラフィに基づくインフルエンザウイルスの検出方法は、簡便ではあるものの、検出のために103~104pfu/ml程度のウイルスが必要であり、検出感度が低いという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、インフルエンザウイルス等のウイルスを高感度に検出するために利用可能な技術を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明は、以下の[1]~[25]を提供する。
[1] 病原性微生物に感染した対象又は感染した疑いがある対象から分離された生物試料中の前記病原性微生物を検出する方法であって、
前記病原性微生物を収容可能な複数の収容部が、疎水性の上面を有する側壁によって互いに隔てられて形成されている下層部と、当該下層部における当該収容部が形成されている面に対向している上層部との間の空間に、前記生物試料と、前記病原性微生物の表面又は内部に存在する酵素による反応の基質となる物質と、を含む親水性溶媒を導入する導入手順と、
前記空間に疎水性溶媒を導入して、前記収容部内に、疎水性溶媒で被覆されかつ前記病原性微生物と前記物質を包含する、親水性溶媒の液滴を形成する封入手順と、
前記液滴中における前記酵素と前記物質との反応により生成する反応生成物を光学的に検出する検出手順と、を含み、
前記親水性溶媒が、前記反応生成物の酸解離定数(pKa)よりも大きいpH値を有する、方法。
[2] 前記反応生成物の検出強度に基づいて前記病原性微生物の数及び/又は亜種を決定する手順をさらに含む、[1]の方法。
[3] 前記病原性微生物がインフルエンザウイルスであり、前記酵素がノイラミニダーゼであり、前記物質が4-メチルウンベリフェリル-α-D-ノイラミン酸(4-Methylumbelliferyl-N-acetyl-α-D-neuraminic acid)であり、前記反応生成物が4-メチルウンベリフェロンである、[1]又は[2]の方法。
[4] 前記病原性微生物がコロナウイルス、重症急性呼吸器症候群(SARS)コロナウイルス、中東呼吸器症候群(MERS)ウイルス、ムンプウイルス、麻疹ウイルス、ニパウイルス、イヌジステンパーウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、B型肝炎ウイルス、ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV)、エボラウイルス、C型肝炎ウイルス、ラッサウイルス、ハンタウイルス、狂犬病ウイルス、日本脳炎ウイルス、黄熱ウイルス、デング熱ウイルス、風疹ウイルス、ロタウイルス及びノロウイルスからなる群より選択される一以上であり、前記酵素がヘマグルチニンエステラーゼ、ノイラミニダーゼ、逆転写酵素及びRNA依存RNAポリメラーゼからなる群より選択される一以上である、[1]又は[2]の方法。
[5] 前記物質が4-メチルウンベリフェロン(4-Methylumbelliferone)を含む誘導体、フルオレセイン(Fluorescein)を含む誘導体、レゾルフィン(Resorufin)を含む誘導体及びローダミン(Rhodamine)を含む誘導体からなる群より選択される一以上である、[1]又は[2]の方法。
【0010】
[6] 病原性微生物の感染の有無を診断する方法であって、
感染した疑いがある対象から生物試料を分離する手順と、
前記病原性微生物を収容可能な複数の収容部が、疎水性の上面を有する側壁によって互いに隔てられて形成されている下層部と、当該下層部における当該収容部が形成されている面に対向している上層部との間の空間に、前記生物試料と、前記病原性微生物の表面又は内部に存在する酵素による反応の基質となる物質と、を含む親水性溶媒を導入する導入手順と、
前記空間に疎水性溶媒を導入して、前記収容部内に、疎水性溶媒で被覆されかつ前記病原性微生物と前記物質とを包含する、親水性溶媒の液滴を形成する封入手順と、
前記液滴中における前記酵素と前記物質との反応により生成する反応生成物を光学的に検出する検出手順、(ここで、前記反応生成物の検出は、前記病原性微生物の感染を示す)と、
を含む、方法。
[7] 前記親水性溶媒が、前記反応生成物の酸解離定数(pKa)よりも大きいpH値を有する、[6]の方法。
[8] 前記反応生成物の検出強度に基づいて病原性微生物の数及び/又は亜種を決定する手順をさらに含む、[6]又は[7]の方法。
[9] 前記病原性微生物がインフルエンザウイルスであり、前記酵素がノイラミニダーゼであり、前記物質が4-メチルウンベリフェリル-α-D-ノイラミン酸(4-Methylumbelliferyl-N-acetyl-α-D-neuraminic acid)であり、前記反応生成物が4-メチルウンベリフェロンである、[6]~[8]のいずれかの方法。
[10] 前記病原性微生物がコロナウイルス、重症急性呼吸器症候群(SARS)コロナウイルス、中東呼吸器症候群(MERS)ウイルス、ムンプウイルス、麻疹ウイルス、ニパウイルス、イヌジステンパーウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、B型肝炎ウイルス、ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV)、エボラウイルス、C型肝炎ウイルス、ラッサウイルス、ハンタウイルス、狂犬病ウイルス、日本脳炎ウイルス、黄熱ウイルス、デング熱ウイルス、風疹ウイルス、ロタウイルス及びノロウイルスからなる群より選択される一以上であり、前記酵素がヘマグルチニンエステラーゼ、ノイラミニダーゼ、逆転写酵素及びRNA依存RNAポリメラーゼからなる群より選択される一以上である、[6]~[8]のいずれかの方法。
[11] 前記物質が4-メチルウンベリフェロン(4-Methylumbelliferone)を含む誘導体、フルオレセイン(Fluorescein)を含む誘導体、レゾルフィン(Resorufin)を含む誘導体及びローダミン(Rhodamine)を含む誘導体からなる群より選択される一以上である、[6]~[8]のいずれかの方法。
【0011】
[12] 病原性微生物に感染した対象又は感染した疑いがある対象から分離された生物試料中の前記病原性微生物の薬剤感受性を検出する方法であって、
前記病原性微生物を収容可能な複数の収容部が、疎水性の上面を有する側壁によって互いに隔てられて形成されている下層部と、当該下層部における当該収容部が形成されている面に対向している上層部との間の空間に、前記生物試料と、前記病原性微生物の表面又は内部に存在する酵素による反応の基質となる物質と、前記酵素の阻害薬を含む親水性溶媒を導入する導入手順と、
前記空間に疎水性溶媒を導入して、前記収容部内に、疎水性溶媒で被覆されかつ前記病原性微生物と前記物質と前記阻害薬とを包含する、親水性溶媒の液滴を形成する封入手順と、
前記液滴中における前記酵素と前記物質との反応により生成する反応生成物を光学的に検出する検出手順、(ここで、前記阻害薬の存在下における前記反応生成物の検出強度が、前記阻害薬の非存在下における前記反応生成物の検出強度よりも減少する場合、前記病原性微生物が前記阻害薬に感受性を有することを示す)と、
を含む、方法。
[13] 前記親水性溶媒が、前記反応生成物の酸解離定数(pKa)よりも大きいpH値を有する、[12]の方法。
[14] 前記病原性微生物がインフルエンザウイルスであり、前記酵素がノイラミニダーゼであり、前記物質が4-メチルウンベリフェリル-α-D-ノイラミン酸(4-Methylumbelliferyl-N-acetyl-α-D-neuraminic acid)であり、前記反応生成物が4-メチルウンベリフェロンであり、前記阻害薬がノイラミニダーゼ阻害薬である、[12]又は[13]の方法。
【0012】
[15] 抗病原性微生物薬剤をスクリーニングする方法であって、
病原性微生物を収容可能な複数の収容部が、疎水性の上面を有する側壁によって互いに隔てられて形成されている下層部と、当該下層部における当該収容部が形成されている面に対向している上層部との間の空間に、前記病原性微生物と、前記病原性微生物の表面又は内部に存在する酵素による反応の基質となる物質と、候補化合物とを含む親水性溶媒を導入する導入手順と、
前記空間に疎水性溶媒を導入して、前記収容部内に、疎水性溶媒で被覆されかつ前記病原性微生物と前記物質と前記候補化合物とを包含する、親水性溶媒の液滴を形成する封入手順と、
前記液滴中における前記酵素と前記物質との反応により生成する反応生成物を光学的に検出する検出手順、(ここで、前記候補化合物の存在下における前記反応生成物の検出強度が、前記候補化合物の非存在下における前記反応生成物の検出強度よりも減少する場合、前記候補化合物が抗病原性微生物活性を有することを示す)と、
を含む、方法。
[16] 前記親水性溶媒が、前記反応生成物の酸解離定数(pKa)よりも大きいpH値を有する、[15]の方法。
[17] 前記病原性微生物がインフルエンザウイルスであり、前記酵素がノイラミニダーゼであり、前記物質が4-メチルウンベリフェリル-α-D-ノイラミン酸(4-Methylumbelliferyl-N-acetyl-α-D-neuraminic acid)であり、前記反応生成物が4-メチルウンベリフェロンであり、前記候補化合物としてノイラミニダーゼ阻害薬がスクリーニングされる、[15]又は[16]の方法。
【0013】
[18] 病原性微生物に感染した対象又は感染した疑いがある対象から分離された生物試料中の前記病原性微生物を検出するためのキットであって、
前記病原性微生物を収容可能な複数の収容部が疎水性の上面を有する側壁によって互いに隔てられて形成されている下層部と、前記下層部における前記収容部が形成されている面に対して空間を隔てて対向している上層部とを備えるアレイと、
前記病原性微生物の表面又は内部に存在する酵素による反応の基質となる物質と、
前記酵素と前記物質との反応により生成する反応生成物の酸解離定数(pKa)よりも大きいpH値を有する親水性溶媒と、
疎水性溶媒と、を含むキット。
[19] 前記病原性微生物がインフルエンザウイルスであり、前記酵素がノイラミニダーゼであり、前記物質が4-メチルウンベリフェリル-α-D-ノイラミン酸(4-Methylumbelliferyl-N-acetyl-α-D-neuraminic acid)であり、前記反応生成物が4-メチルウンベリフェロンである、[18]のキット。
[20] 前記病原性微生物がコロナウイルス、重症急性呼吸器症候群(SARS)コロナウイルス、中東呼吸器症候群(MERS)ウイルス、ムンプウイルス、麻疹ウイルス、ニパウイルス、イヌジステンパーウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、B型肝炎ウイルス、ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV)、エボラウイルス、C型肝炎ウイルス、ラッサウイルス、ハンタウイルス、狂犬病ウイルス、日本脳炎ウイルス、黄熱ウイルス、デング熱ウイルス、風疹ウイルス、ロタウイルス及びノロウイルスからなる群より選択される一以上であり、前記酵素がヘマグルチニンエステラーゼ、ノイラミニダーゼ、逆転写酵素及びRNA依存RNAポリメラーゼからなる群より選択される一以上である、[18]のキット。
[21] 前記物質が4-メチルウンベリフェロン(4-Methylumbelliferone)を含む誘導体、フルオレセイン(Fluorescein)を含む誘導体、レゾルフィン(Resorufin)を含む誘導体及びローダミン(Rhodamine)を含む誘導体からなる群より選択される一以上である、[18]のキット。
【0014】
[22] 疎水性溶媒と界面接触する親水性溶媒中において、酵素と、該酵素による反応の基質となる物質とを反応させ、反応生成物を検出する方法であって、
前記親水性溶媒が、前記反応生成物の酸解離定数(pKa)よりも大きいpH値を有する、方法。
[21] 前記親水性溶媒が病原性微生物を含み、
前記酵素が前記病原性微生物の表面又は内部に存在する基質切断活性を有する酵素であり、
前記物質が発色基質であり、
前記酵素による前記発色基質の切断により生成する反応生成物を光学的に検出する、[22]の方法。
[22] 前記病原性微生物がインフルエンザウイルスであり、前記酵素がノイラミニダーゼであり、前記発色基質が4-メチルウンベリフェリル-α-D-ノイラミン酸(4-Methylumbelliferyl-N-acetyl-α-D-neuraminic acid)であり、前記反応生成物が4-メチルウンベリフェロンである、[21]の方法。
[23] 前記病原性微生物がコロナウイルス、重症急性呼吸器症候群(SARS)コロナウイルス、中東呼吸器症候群(MERS)ウイルス、ムンプウイルス、麻疹ウイルス、ニパウイルス、イヌジステンパーウイルス、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、B型肝炎ウイルス、ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV)、エボラウイルス、C型肝炎ウイルス、ラッサウイルス、ハンタウイルス、狂犬病ウイルス、日本脳炎ウイルス、黄熱ウイルス、デング熱ウイルス、風疹ウイルス、ロタウイルス及びノロウイルスからなる群より選択される一以上であり、前記酵素がヘマグルチニンエステラーゼ、ノイラミニダーゼ、逆転写酵素及びRNA依存RNAポリメラーゼからなる群より選択される一以上である、[21]の方法。
[24] 前記発色基質が4-メチルウンベリフェロン(4-Methylumbelliferone)を含む誘導体、フルオレセイン(Fluorescein)を含む誘導体、レゾルフィン(Resorufin)を含む誘導体及びローダミン(Rhodamine)を含む誘導体からなる群より選択される一以上である、[21]の方法。
[25] 前記親水性溶媒が、前記病原性微生物に感染した対象又は感染した疑いがある対象から分離された生物試料を含む、[21」~[24]のいずれかの方法。
【0015】
本発明において、「病原性微生物」には、細菌及びウイルスが含まれるものとする。細菌としては、特に限定されないが、例えば大腸菌群や腸炎ビブリオ菌、カンピロバクター、エンテロバクター、バチルス属細菌が挙げられる。また、ウイルスとしては、特に限定されないが、例えば、コロナウイルス、SARSウイルス、MARSウイルス、インフルエンザウイルス、ムンプウイルス、麻疹ウイルス、ニパウイルス、イヌジステンパーウイルス、HIV、B型肝炎ウイルス、HTLV、エボラウイルス、C型肝炎ウイルス、ラッサウイルス、ハンタウイルス、狂犬病ウイルス、黄熱ウイルス、デング熱ウイルス、風疹ウイルス、ロタウイルス及びノロウイルスなどが挙げられる。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、インフルエンザウイルス等の病原性微生物を高感度に検出するために利用可能な技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る病原性微生物検出方法の導入手順と封入手順を説明するための図である。
【図2】ウイルスの粒子表面に存在する酵素と発色基質との反応による反応生成物を説明するための図である。
【図3】親水性溶媒のpHが検出感度に及ぼす影響を検討した結果を示すグラフである(実施例1)。
【図4】親水性溶媒の緩衝物質濃度が検出感度に及ぼす影響を検討した結果を示すグラフである(実施例2)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。

【0019】
1.病原性微生物検出方法
本発明に係る病原性微生物検出方法は、病原性微生物に感染した対象又は感染した疑いがある対象から分離された生物試料中の病原性微生物を検出するために用いられるものである。本発明に係る病原性微生物検出方法は、以下の手順を含む。
(1A)病原性微生物を収容可能な複数の収容部が、疎水性の上面を有する側壁によって互いに隔てられて形成されている下層部と、当該下層部における当該収容部が形成されている面に対向している上層部との間の空間に、前記生物試料と、前記病原性微生物の粒子表面又は内部に存在する酵素による反応の基質となる物質と、を含む親水性溶媒を導入する導入手順。
(2A)前記空間に疎水性溶媒を導入して、前記収容部内に、疎水性溶媒で被覆されかつ前記病原性微生物と前記物質を包含する、親水性溶媒の液滴を形成する封入手順。
(3A)前記液滴中における前記酵素と前記物質との反応により生成する反応生成物を光学的に検出する検出手順。

【0020】
本発明において、生物試料とは、検出対象となる病原性微生物が含まれ得る、生体由来の材料であれば特に限定されない。生物試料としては、例えば、鼻腔吸引液、鼻腔ぬぐい液、咽頭ぬぐい液、気管ぬぐい液、唾液、喀痰、血液(全血、血清及び血漿を含む)、尿、細胞や組織、臓器の抽出液等が挙げられる。

【0021】
病原性微生物は、表面もしくは内部に酵素を有するものであって、該酵素による反応の結果光学的に検出し得る反応生成物を生成するものであれば特に限定されない。病原性微生物は、より具体的には、発色基質に対する基質切断活性を有する酵素を表面又は内部に有し、該酵素による発色基質の切断によって発色団としての反応生成物を遊離させるものとされる。また、病原性微生物は、基質である単量体を結合させて重合体を合成する活性を有する酵素を表面又は内部に有し、該酵素による重合体の合成に伴って発色団としての反応生成物を生成させるものであってもよい。病原性微生物とその酵素の組み合わせとして、例えば以下が例示される。

【0022】
【表1】
JP2018038384A_000003t.gif

【0023】
[導入手順(A1)]
図1Aを参照して導入手順(A1)を説明する。本実施形態では、病原性微生物(以下、ウイルスを例に説明する)を収容可能な複数の収容部が疎水性の上面を有する側壁によって互いに隔てられて形成されている下層部と、当該下層部における前記収容部が形成されている面に対して空間を隔てて対向している上層部とを備えるアレイを用いて、本発明に係る病原性微生物検出方法を実施する場合について説明する。

【0024】
アレイ1において、下層部10は、ウイルス粒子を収容可能な複数の収容部13が、疎水性の上面を有する側壁12によって互いに隔てられて形成されている。また、上層部20は、下層部10における収容部13が形成されている面に対向している。

【0025】
本工程では、下層部10と上層部20との間の空間30に、親水性溶媒42を導入する。親水性溶媒42には、生物試料に由来するウイルス2が含まれ得る。また、親水性溶媒42には、ウイルス2の粒子表面(あるいは内部)に存在する酵素による反応の基質となる物質3(以下「基質3」と称する)が含まれる。親水性溶媒42は、例えば上層部20及び下層部10の少なくとも一方に形成されている貫通孔(図示せず)から空間30内に導入することができる。空間30内に導入された親水性溶媒42は、図に示すように、下層部10と上層部20とが対向する面に平行な方向に流れる。

【0026】
親水性溶媒42としては、水が用いられる。親水性溶媒42は、基質3から生じる反応生成物の酸解離定数(pKa)よりも大きいpH値を有するものとされる(詳しくは後述する)。

【0027】
基質3としては、酵素との反応後に反応前とは異なる光学特性を有する反応生成物を生成するものであればよく、反応前後で吸光度や旋光度が変化する物質や、反応後に蛍光を呈するようになる物質が用いられる。基質3については詳しく後述する。

【0028】
親水性溶媒42は、酵素と基質3との反応の最適化に必要な緩衝物質を含んでいてもよい。さらに、親水性溶媒42中の緩衝物質を所定の濃度以上に設定することで、検出手順(3)において反応生成物の検出をより高感度化できる(詳しくは後述する)。

【0029】
緩衝物質としては、特に限定されないが、蛍光色素のpKaにあわせてMES(2-Morpholinoethanesulfonic acid)、ADA(N-(2-Acetamido)iminodiacetic acid)、PIPES(Piperazine-1,4-bis(2-ethanesulfonic acid))、ACES(N-(2-Acetamido)-2-aminoethanesulfonic acid)、BES(N,N-Bis(2-hydroxyethyl)-2-aminoethanesulfonic acid)、TES(N-Tris(hydroxymethyl)methyl-2-aminoethanesulfonic acid)HEPES(4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid)等のいわゆるグッドバッファー(Good's Buffer)や、Tris(Tris(hydroxymethyl)aminomethane)、DEA(Diethanolamine)等が用いられ得る。

【0030】
また、親水性溶媒42は、界面活性剤を含んでいてもよい。界面活性剤を含むことで、ウイルス2の内部に存在する酵素を表面に露出させられる場合がある。また、界面活性剤を含むことで、親水性溶媒42が、空間30及び収容部13内へ導入され易くなる傾向がある。

【0031】
界面活性剤としては、特に限定されないが、例えばTWEEN20(CAS番号:9005-64-5、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン)及びTriton X-100(CAS番号:9002-93-1、一般名ポリエチレングリコールモノ-4-オクチルフェニルエーテル(n≒10))などが挙げられる。第一の溶媒20への界面活性剤の添加濃度は、特に限定されないが、好ましくは0.01~1%である。

【0032】
さらに、界面活性剤としては、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性イオン界面活性剤、天然由来の界面活性剤などを広く用いることができる。

【0033】
陰イオン性界面活性剤としては、例えば、カルボン酸型、硫酸エステル型、スルホン酸型、リン酸エステル型に分類される。このうち、具体的には、例えば、ドデシル硫酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、α-スルホ脂肪酸メチルエステルナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルエトキシレート硫酸ナトリウムなどが挙げられ、中でも、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを用いることが好ましい。

【0034】
陽イオン性界面活性剤としては、例えば、第四級アンモニウム塩型、アルキルアミン型、複素環アミン型に分類される。具体的には、例えば、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、セチルトリピリジニウムクロライド、ドデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライドなどが挙げられる。

【0035】
非イオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシエチレンモノ脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノ脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、アルキルポリグリコシド、N-メチルアルキルグルカミドなどが挙げられる。中でも、ドデシルアルコールエトキシレート、ノニルフェノールエトキシレート、ラウロイルジエタノールアマイドの他、Triton X(Triton X-100など)、Pluronic(登録商標)(Pluronic F-123、F-68など)、Tween (Tween 20、40、60、65、80、85など)、Brij(登録商標)(Brij 35、58、98など)、Span (Span 20、40、60、80、83、85)の名前で市販されているものが好ましい。

【0036】
両性界面活性剤としては、例えば、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ドデシルアミノメチルジメチルスルホプロピルベタイン、3-(テトラデシルジメチルアミニオ)プロパン-1-スルホナートなどがあるが、3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンスルホナート(CHAPS)、3-[(3-コラミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-2-ヒドロキシ-1-プロパンスルホナート(CHAPSO)などを用いることが好ましい。

【0037】
天然由来の界面活性剤としては、例えば、レシチン、サポニンが好ましく、レシチンとして称される化合物のうち、具体的には、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルグリセロールなどが好ましい。また、サポニンとしてはキラヤサポニンが好ましい。

【0038】
本手順により、ウイルス2と基質3が収容部13に入る。親水性溶媒42中において、ウイルス2が十分に低い濃度に希釈されている場合、1つの収容部13に入るウイルス2の数は0又は最大で1となり得る。親水性溶媒42中において、ウイルス2の濃度がより高い場合には、1つの収容部13には2以上のウイルス2が導入され得る。

【0039】
[封入手順(A2)]
図1Bを参照して封入手順(2)を説明する。本手順では、下層部10と上層部20との間の空間30に疎水性溶媒43を導入する。

【0040】
疎水性溶媒43は、導入手順(1)で用いた親水性溶媒42と混ざり合いにくい溶媒(非混和性の溶媒)であればよい。疎水性溶媒43として、例えば飽和炭化水素、不飽和炭化水素、芳香族炭化水素、シリコーンオイル、パーフルオロカーボン、ハロゲン系溶媒、及び疎水性イオン液体からなる群より選択される少なくとも1つ又はこれを含む混合物等を好適に用いることができる。飽和炭化水素としては、例えばアルカン、シクロアルカンなどが挙げられる。アルカンとしては、例えばデカン、ヘキサデカン等が挙げられる。不飽和炭化水素としては、例えばスクアレン等が挙げられる。芳香族炭化水素としては、例えばベンゼン、トルエン等が挙げられる。パーフルオロカーボンとしては、例えばフロリナート(登録商標)FC40(SIGMA社製)等が挙げられる。ハロゲン系溶媒としては、例えばクロロホルム、塩化メチレン、クロロベンゼン等が挙げられる。疎水性イオン液体とは少なくとも水中では解離しないイオン液体をさし、例えば1—Butyl—3—methylimidazolium Hexafluorophosphate等が挙げられる。イオン液体とは、室温において液体で存在する塩をさす。

【0041】
疎水性溶媒43も、親水性溶媒42と同様に、上層部20及び下層部10の少なくとも一方に形成されている貫通孔(図示せず)から空間30内に導入すればよい。空間30内に導入された疎水性溶媒43は、図に示すように、下層部10と上層部20とが対向する面に平行な方向に流れ、空間30内の親水性溶媒42が疎水性溶媒43によって置換される。これにより、収容部13内に、疎水性溶媒43で被覆されかつウイルス2と基質3を包含する、親水性溶媒42の液滴が形成される。

【0042】
そして、親水性溶媒42の液滴の極小容積中で共存する、ウイルス2の粒子表面又は内部に存在する酵素と基質3との反応が進行し、反応生成物4が生成する。図2を参照して詳しく説明する。ウイルス2の粒子表面又は内部には酵素5が存在している(図には酵素5がウイルス表面に存在する場合を示した)。基質3が、酵素5と接触し反応すると、反応生成物4が生成する。発色生成物4は、基質3と異なる光学特性を示し、例えば吸光度や旋光度のシフトや、発光(蛍光)を示す。

【0043】
本手順により、ウイルス2と基質3が、極小容積の液滴中に封入されるため、酵素5と基質3との反応によって該液滴中に反応生成物4が極小容積中に生成される。これによって、反応生成物4の光学検出が可能とされる。収容部13の容積(すなわち、親水性溶媒42の液滴の容積)は、特に限定されないが、例えば10aL~100nL、好ましくは1fL~1pLである。

【0044】
ウイルス2がインフルエンザウイルスであり(表1参照)、基質3に4-メチルウンベリフェリル-α-D-ノイラミン酸(4-Methylumbelliferyl-N-acetyl-α-D-neuraminic acid:4MU-NANA)を用いる場合を例により具体的に説明する。

【0045】
インフルエンザウイルスの粒子表面にはノイラミニダーゼ(酵素5)が存在している。4MU-NANA(基質3)が、ノイラミニダーゼと接触し反応すると、蛍光物質である4-メチルウンベリフェロン(反応生成物4)が生成する。

【0046】
4MU-NANAのノイラミニダーゼによる加水分解に由来して、下記式で示される、蛍光を呈する発色団として4-メチルウンベリフェロン(4MU)が生成する。基質3は、ノイラミニダーゼによるノイラミン酸の加水分化によって光学的に検出可能な発色団を遊離させるものであれば、4MU-NANAに限られず、従来公知のものを用いることができる。反応生成物4の4MUは、下記式で示されるように水酸基を有する。

【0047】
【化1】
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【0048】
本発明に係る検出方法では、この4MUの水酸基から水素を脱離させ、4MUを電荷を有する状態とするため、親水性溶媒42のpH値を4MUの酸解離定数(pKa)7.79よりも大きく設定する。4MUの水酸基から水素を脱離させることにより、疎水性溶媒43で被覆された、親水性溶媒42の液滴に含まれる4MUが、その電荷のために疎水性溶媒43へ移行できず、結果として親水性溶媒42の液滴中に高濃度に蓄積することとなる。

【0049】
仮に、親水性溶媒42のpH値が4MUの酸解離定数(pKa)よりも小さい場合、4MUは水酸基を有する状態となるため、電荷を有さないかあるいは水酸基から水素が脱離している場合に比して電荷が小さくなる。親水性溶媒42の液滴に含まれる4MUが電荷を有さない場合あるいは電荷が小さい場合には、親水性溶媒42と界面接触する疎水性溶媒43へ4MUが移行しやすくなるため、4MUが親水性溶媒42の液滴中から失われたり、液滴中の4MU濃度が低下したりする。

【0050】
従来、ノイラミニダーゼと4MU-NANAとの反応は、ノイラミニダーゼによる酵素反応の至適pHである5付近のpH条件下で行い、遊離した4MUの検出を、4MUの蛍光効率(量子効率)が最大化されるpHである10付近のpH条件下で行っていた。これに対して、本発明は、ノイラミニダーゼと4MU-NANAとの反応及び4MUの検出を、いずれも、4MUのpKa7.79よりも大きいpH条件下で行う点を技術的特徴の1つとするものである。

【0051】
なお、基質3と酵素5の反応は、本手順前においても、基質3と酵素5が接触すれば進行し得るものであるが、本手順においてウイルス2と基質3を包含する親水性溶媒42の液滴が形成される前には、生成した反応生成物4が極小容積中に蓄積されることがない。このため、反応生成物4の光学検出において、封入手順(2)前に生成した反応生成物4の影響は無視できる程度に小さい。

【0052】
4MUを含む4-メチルウンベリフェリル-α-D-ノイラミン酸の他に、同様に、親水性溶媒42の液滴中から、当該液滴を被覆する疎水性溶媒43への反応生成物4の移行の問題を生じ得る発色基質として以下が挙げられる。

【0053】
4-メチルウンベリフェロン(4-Methylumbelliferone)を含む誘導体であって、4MU-NANA以外のもの。ここで、「誘導体」とは、構造中に、「発色団」としての4MUと、酵素5との反応によって切断される「基質」とを有する化合物を意味する。

【0054】
フルオレセイン(Fluorescein)を発色団として含む誘導体。酵素5と接触し反応すると、酵素5により基質が切断され、蛍光物質であるフルオレセイン(pKa:6.4)が反応生成物4として遊離する。フルオレセインの構造を以下に示す。

【0055】
【化2】
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【0056】
レゾルフィン(Resorufin)を発色団として含む誘導体。酵素5と接触し反応すると、酵素5により基質が切断され、蛍光物質であるレゾルフィン(pKa:6.0)が反応生成物4として遊離する。レゾルフィンの構造を以下に示す。

【0057】
【化3】
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【0058】
ローダミン(Rhodamine)を発色団として含む誘導体。酵素5と接触し反応すると、酵素5により基質が切断され、蛍光物質であるローダミン(pKa:6.0)が反応生成物4として遊離する。ローダミンの構造を以下に示す。

【0059】
【化4】
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【0060】
これらの誘導体を基質3として用いる場合には、親水性溶媒42のpH値を、誘導体から生じる反応生成物4の酸解離定数(pKa)よりも大きく設定する。これにより、各反応生成物4を電荷を有する状態とし、疎水性溶媒43への移行(漏れ出し)を防止して、親水性溶媒42の液滴中に反応生成物4を高濃度に蓄積させることができる(実施例1参照)。

【0061】
さらに、親水性溶媒42の液滴中から疎水性溶媒43への反応生成物4の漏れ出しは、親水性溶媒42中の緩衝物質を所定の濃度以上に設定することで、さらに効果的に防止できる(実施例2参照)。緩衝物質の濃度は、例えば50mM以上、好ましくは100mM以上、より好ましくは500mM以上、さらに好ましくは1M以上とされる。

【0062】
[検出手順(A3)]
本手順では、親水性溶媒42の液滴中に生成した反応生成物4の光学検出を行う。

【0063】
反応生成物4の光学検出は、基質3と反応生成物4との光学特性の差を検出することが可能な公知の手段を用いて行うことができる。例えば、イメージセンサや吸光度計、旋光度計を用いて特定の吸光度や旋光度のシフトを検出すること、イメージセンサや蛍光顕微鏡、蛍光測定器を用いて特定の蛍光波長を検出することにより、反応生成物4を光学的に検出できる。

【0064】
ウイルス2がインフルエンザウイルスであり、基質3に4MU-NANAを用いる場合においては、生成する4MU(反応生成物4)の蛍光検出を行う。

【0065】
検出された反応生成物4(例えば4MU)の検出強度(例えば蛍光強度)に基づけばウイルスの粒子数及び/又は亜種(サブタイプ)を決定することができる。

【0066】
具体的には、インフルエンザウイルスの場合、まず、検出された蛍光強度と、予め作成した蛍光強度とノイラミニダーゼ活性との関係を規定した標準曲線とを用いてノイラミニダーゼの酵素活性値を算出する。次に、算出された酵素活性値と、予め作成した酵素活性値とウイルス粒子数との関係を規定した標準曲線を用いてインフルエンザウイルスの粒子数を定量する。これにより、対象から分離された生物試料中にウイルスが含まれているかの判定に加えて、ウイルス量を定量的に決定することもでき(アナログ定量)、対象におけるインフルエンザウイルスの感染の有無及び感染の強度を診断できる。標準曲線には、蛍光強度とウイルス粒子数との関係を直接規定したものを用いてもよい。

【0067】
また、例えばインフルエンザウイルスではB型ウイルスに比してA型ウイルスのほうが高いノイラミニダーゼ活性を有することが知られている。そして、本発明者らは、本発明に係る検出方法を用いてA型ウイルスとB型ウイルスがノイラミニダーゼ活性において2倍程度相違し、両者を活性値の大小に基づいて有効に区別して検出できることを見出している。このような場合、まず、検出された蛍光強度と、予め作成した蛍光強度とノイラミニダーゼ活性との関係を規定した標準曲線とを用いてノイラミニダーゼの酵素活性値を算出する。次に、算出された酵素活性値と、予め作成した酵素活性値とサブタイプとの関係式を用いてインフルエンザウイルスのサブタイプを決定できる。例えばインフルエンザウイルスであれば、算出された酵素活性値が基準値以上であればA型と判定し、基準値未満であればB型と判定できる。これにより、対象から分離された生物試料中にウイルスが含まれているかの判定に加えて、ウイルスサブタイプを決定することもでき、対象における感染インフルエンザウイルスのサブタイプを診断できる。関係式には、蛍光強度とサブタイプとの関係を直接規定したものを用いてもよい。

【0068】
さらに、上述の通り、親水性溶媒42中において、ウイルス2が十分に低い濃度に希釈されている場合、1つの収容部13に入るウイルス2の数は0又は最大で1となり得る。この場合、反応生成物4が検出された収容部13の数と、反応生成物4が検出されない収容部13の数との比率を用いて、予め作成した当該比率とウイルス粒子数との関係を規定した標準曲線に基づいて、ウイルス量を定量的に決定することもできる(デジタル定量)。
封入手順(2)においては、親水性溶媒42の液滴中に反応生成物4を高濃度に蓄積させることができるため、ウイルス2が1粒子のみ収容部13に入っている場合であっても、反応生成物4の検出を高感度に行うことができる。従って、本発明に係る検出方法によれば、生物試料中にごく微量に含まれるウイルスであっても高感度に検出でき、病原性微生物の量を高精度に決定することが可能となる。

【0069】
また、親水性溶媒42の液滴中に反応生成物4を高濃度に蓄積させられることにより高い蛍光強度が得られるため、光学検出において比較的感度の低い簡易な撮像装置を用いることができ、例えばスマートフォンに搭載されたカメラなどでの光学検出が可能と期待される。スマートフォンに搭載されたカメラなどの簡易な撮像装置による光学検出は、比較的規模の小さな病院や診療所、個人における本発明に係る病原性微生物の検出方法の実施を容易にし得る。さらに、スマートフォンが備える通信手段を利用すれば、病原性微生物の検出情報をサーバに送信し、蓄積された情報(ビックデータ)を解析することで、流行の地域、時期及びサブタイプなどの把握や予測に供することが可能と期待される。

【0070】
上記では、ウイルス2がインフルエンザウイルスであり、基質3に4MU-NANAを用いる場合を例に説明した。本発明において、例えば、コロナウイルス、重症急性呼吸器症候群(SARS)コロナウイルスあるいは中東呼吸器症候群(MERS)ウイルスを検出対象とする場合、基質3には、これらのウイルスが表面に有するヘマグルチニンエステラーゼ(酵素5)によって加水分解を受け、上述のような発色団(反応生成物4)を遊離させるものを用いればよい。

【0071】
また、例えば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、B型肝炎ウイルスあるいはヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV)を検出対象とする場合、基質3には、これらのウイルスが表面又は内部に有する逆転写酵素(酵素5)によって重合化される核酸モノマーであってよい。核酸モノマーに蛍光色素をラベルしておくことで、重合による反応生成物である核酸鎖において、核酸モノマーに比して増加した蛍光強度が検出される。同様に、例えば、エボラウイルス、C型肝炎ウイルス、ラッサウイルス、ハンタウイルス、狂犬病ウイルス、日本脳炎ウイルス、黄熱ウイルス、デング熱ウイルス、風疹ウイルス、ロタウイルスあるいはノロウイルスを検出対象とする場合、基質3には、これらのウイルスが表面又は内部に有するRNA依存RNAポリメラーゼ(酵素5)によって重合化される核酸モノマーに蛍光色素をラベルしたものを用いることができる。なお、核酸モノマーの核酸鎖への重合に伴って、蛍光強度が増加する構成に限らず、反応後に反応前とは異なる光学特性(吸光度、旋光度及び蛍光等)が現れる構成であれば広く採用可能である。

【0072】
このように、本発明に係る検出方法において、基質は、検出対象とする病原性微生物が表面又は内部に有する酵素によって適宜選択され得るものである。この際、選択された反応生成物のpKaに応じて、導入手順(1)で用いられる親水性溶媒のpH値を当該pKaよりも大きくなるように設計すればよい。

【0073】
また、基質は、例えば、インフルエンザウイルスとムンプウイルスのように同一酵素(ノイラミニダーゼ)を有する病原性微生物であっても、それぞれの病原性微生物の酵素の基質特異性に応じて異なる設計にされ得る。例えば、インフルエンザウイルスの検出するための発色基質として4MU-NANAを用い、ムンプウイルスを検出するための発色基質としての4MU-NANAにおいてその加水分解により生成する発色団を4MUからフルオレセインなどの他の蛍光物質に変更したものを用いる。このように、基質の一部を変更することで、それぞれの発色基質のノイラミニダーゼに対する親和性が、同一種の酵素であっても、対インフルエンザウイルス酵素と対ムンプウイルスの酵素との間で変化し得る。これによって、本発明に係る検出方法では、両者を区別して検出することも可能である。

【0074】
2.病原性微生物の薬剤感受性の検出方法
本発明に係る病原性微生物に感染した対象又は感染した疑いがある対象から分離された生物試料中の病原性微生物の薬剤感受性を検出する方法は、以下の手順を含む。
(B1)病原性微生物を収容可能な複数の収容部が、疎水性の上面を有する側壁によって互いに隔てられて形成されている下層部と、当該下層部における当該収容部が形成されている面に対向している上層部との間の空間に、前記生物試料と、前記病原性微生物の表面又は内部に存在する酵素による反応の基質となる物質と、前記酵素の阻害薬を含む親水性溶媒を導入する導入手順。
(B2)前記空間に疎水性溶媒を導入して、前記収容部内に、疎水性溶媒で被覆されかつ前記病原性微生物と前記物質と前記阻害薬とを包含する、親水性溶媒の液滴を形成する封入手順。
(B3)前記液滴中における前記酵素と前記物質との反応により生成する反応生成物を光学的に検出する検出手順、(ここで、前記阻害薬の存在下における前記反応生成物の検出強度が、前記阻害薬の非存在下における前記反応生成物の検出強度よりも減少する場合、前記病原性微生物が前記阻害薬に感受性を有することを示す)。

【0075】
[導入手順(B1)]
本発明に係る病原性微生物の薬剤感受性の検出方法の導入手順(B1)は、薬剤感受性の評価対象となる酵素阻害薬が親水性溶媒に含まれる点でのみ、上述の病原性微生物検出方法の導入手順(A1)と異なる。導入手順(B1)では、病原性微生物及び基質に加えて、病原性微生物の表面又は内部に存在する酵素の阻害薬が収容部に入ることとなる。

【0076】
[封入手順(B2)]
本発明に係る病原性微生物の薬剤感受性の検出方法の封入手順(B2)の操作は、上述の病原性微生物検出方法の封入手順(A2)に同じである。封入手順(B2)では、収容部内に、疎水性溶媒で被覆されかつ病原性微生物、基質及び阻害薬を包含する、親水性溶媒の液滴が形成されることとなる。

【0077】
[検出手順(B3)]
本発明に係る病原性微生物の薬剤感受性の検出方法の検出手順(B3)では、上述の病原性微生物検出方法の検出手順(A3)と同様にして、親水性溶媒の液滴中に生成した反応生成物の光学検出を行う。

【0078】
阻害薬の存在下における前記反応生成物の検出強度を、阻害薬の非存在下における前記反応生成物の検出強度と比較し、前者が後者よりも減少する場合、阻害薬によって親水性溶媒の液滴中における反応生成物の生成が抑制されていることが示される。すなわち、病原性微生物が有する酵素が阻害されていることから、病原性微生物が阻害薬に感受性を有することが示される。
一方、阻害薬の非存在下における前記反応生成物の検出強度が、阻害薬の非存在下における前記反応生成物の検出強度と比較して同等である場合、親水性溶媒の液滴中における反応生成物の生成は阻害剤によって抑制されていないことが示される。すなわち、病原性微生物が有する酵素は阻害されていないことから、病原性微生物が阻害薬に耐性を有することが示される。

【0079】
具体的には、病原性微生物がインフルエンザウイルスである場合には、例えば、基質として4MU-NANA、阻害薬としてノイラミニダーゼ阻害剤(オセタミビル、ザナミビル等)を用いて、ノイラミニダーゼ阻害剤の存在下と非存在下の条件以外を同一とした2試験群について、生成する4MUの蛍光検出を行う。ノイラミニダーゼ阻害剤の存在下における4MUの検出強度を、ノイラミニダーゼ阻害剤の非存在下における4MUの検出強度と比較し、前者が後者よりも減少する場合、ノイラミニダーゼ阻害剤によって親水性溶媒の液滴中における4MUの生成が抑制されていることが示される。すなわち、インフルエンザウイルスが有するノイラミニダーゼが阻害されていることから、インフルエンザウイルスがノイラミニダーゼ阻害剤に感受性を有することが示される。
一方、ノイラミニダーゼ阻害剤の非存在下における4MUの検出強度が、ノイラミニダーゼ阻害剤の非存在下における4MUの検出強度と比較して同等である場合、親水性溶媒の液滴中における4MUの生成はノイラミニダーゼ阻害剤によって抑制されていないことが示される。すなわち、インフルエンザウイルスが有するノイラミニダーゼは阻害されていないことから、インフルエンザウイルスがノイラミニダーゼ阻害剤に耐性を有することが示される。

【0080】
このような薬剤感受性の検出を行い得る病原微生物と酵素阻害薬の組合わせとしては、例えば、コロナウイルス、重症急性呼吸器症候群(SARS)コロナウイルスあるいは中東呼吸器症候群(MERS)ウイルスを検出対象とする場合、これらのウイルスが表面に有するヘマグルチニンエステラーゼ(HE)の阻害薬(HE抗体, 3,4-dichloroisocoumarin, 9-O-Acetylated Polysialoside等)が挙げられる。

【0081】
また、例えば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、B型肝炎ウイルスあるいはヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV)を検出対象とする場合、これらのウイルスが表面又は内部に有する逆転写酵素の阻害薬(レトロビル(グラクソ・スミスクライン・Inc.、ジドブジン/AZT)、ヴァイデックス(ブリストル・マイヤーズスクイブ・Inc.、ジダノシン/ddI)、ハイビッド(ホフマン-ラ・ロシュ社)(ザルシタビン/ddC)、ゼリット(ブリストル・マイヤーズスクイブ社、スタブジン/d4T)、エピビル(グラクソ・スミスクライン社、ラミブジン/3TC)およびコンビビル(グラクソ・スミスクライン社、ジドブジン/ラミブジン)ビラミューン(ベーリンガーインゲルハイム・ファーマシューティカルズ・Inc.、ネビラピン)、レスクリプター(ファルマシア/アップジョン社、デラビルジン)およびサスティバ(デュポン・ファーマ・Co.、エファビレンズ)等)が挙げられる。
同様に、例えば、エボラウイルス、C型肝炎ウイルス、ラッサウイルス、ハンタウイルス、狂犬病ウイルス、日本脳炎ウイルス、黄熱ウイルス、デング熱ウイルス、風疹ウイルス、ロタウイルスあるいはノロウイルスを検出対象とする場合、これらのウイルスが表面又は内部に有するRNA依存RNAポリメラーゼの阻害薬(ファビピラビル、リバビリン等)が挙げられる。

【0082】
さらに、例えば、大腸菌群、腸炎ビブリオ菌、カンピロバクター、エンテロバクターあるいはバチルス属菌を検出対象とする場合、これらの細菌が表面又は内部に有するガラクトシダーゼの阻害薬(Castanospermine、Conduritol B Epoxide、Bromoconduritol、2-Deoxy-D-Galactose等)、グルクロニダーゼの阻害薬(アセトグラトン、D-glucaro-1,4-lactone、リゾリン脂質類等)、キモトリプシン、トリプシンの阻害薬(大豆、鶏卵等由来トリプシンインヒビター、Arg4-Met5-マリノスタチン、Phenylmethylsulfonyl fluoride、Aminoethyl benzylsulfonyl fluoride、Aprotinin、Tosyl lysine chloromethyl ketone、tosyl phenylalanine chloromethyl ketone等)、キシロシダーゼの阻害薬(Castanospermine、Xyl-amidine等)が挙げられる。

【0083】
このように、本発明に係る病原性微生物の薬剤感受性の検出方法において、阻害薬は、検出対象とする病原性微生物が表面又は内部に有する酵素によって適宜選択され得るものである。

【0084】
3.抗病原性微生物薬剤のスクリーニング方法
本発明に係る抗病原性微生物薬剤をスクリーニングする方法は、以下の手順を含む。
(C1)病原性微生物を収容可能な複数の収容部が、疎水性の上面を有する側壁によって互いに隔てられて形成されている下層部と、当該下層部における当該収容部が形成されている面に対向している上層部との間の空間に、前記病原性微生物と、前記病原性微生物の表面又は内部に存在する酵素による反応の基質となる物質と、候補化合物とを含む親水性溶媒を導入する導入手順。
(C2)前記空間に疎水性溶媒を導入して、前記収容部内に、疎水性溶媒で被覆されかつ前記病原性微生物と前記物質と前記候補化合物とを包含する、親水性溶媒の液滴を形成する封入手順。
(C3)前記液滴中における前記酵素と前記物質との反応により生成する反応生成物を光学的に検出する検出手順、(ここで、前記候補化合物の存在下における前記反応生成物の検出強度が、前記候補化合物の非存在下における前記反応生成物の検出強度よりも減少する場合、前記候補化合物が抗病原性微生物活性を有することを示す)。

【0085】
[導入手順(C1)]
本発明に係る抗病原性微生物薬剤のスクリーニング方法の導入手順(C1)は、抗病原性微生物活性の評価対象となる候補化合物が親水性溶媒に含まれる点でのみ、上述の病原性微生物検出方法の導入手順(A1)と異なる。導入手順(C1)では、病原性微生物及び基質に加えて、候補化合物が収容部に入ることとなる。

【0086】
[封入手順(C2)]
本発明に係る抗病原性微生物薬剤のスクリーニング方法の封入手順(C2)の操作は、上述の病原性微生物検出方法の封入手順(A2)に同じである。封入手順(C2)では、収容部内に、疎水性溶媒で被覆されかつ病原性微生物、基質及び候補化合物を包含する、親水性溶媒の液滴が形成される。

【0087】
[検出手順(C3)]
本発明に係る抗病原性微生物薬剤のスクリーニング方法の検出手順(C3)では、上述の病原性微生物検出方法の検出手順(A3)と同様にして、親水性溶媒の液滴中に生成した反応生成物の光学検出を行う。

【0088】
候補化合物の存在下における前記反応生成物の検出強度を、候補化合物の非存在下における前記反応生成物の検出強度と比較し、前者が後者よりも減少する場合、候補化合物によって親水性溶媒の液滴中における反応生成物の生成が抑制されていることが示される。すなわち、病原性微生物が有する酵素が阻害されていることから、候補化合物が抗病原性微生物活性を有することが示される。
一方、候補化合物の非存在下における前記反応生成物の検出強度が、候補化合物の非存在下における前記反応生成物の検出強度と比較して同等である場合、親水性溶媒の液滴中における反応生成物の生成は阻害剤によって抑制されていないことが示される。すなわち、病原性微生物が有する酵素は阻害されていないことから、候補化合物が抗病原性微生物活性を有しないことが示される。

【0089】
4.病原性微生物検出キット
本発明に係るキットは、病原性微生物に感染した対象又は感染した疑いがある対象から分離された生物試料中の病原性微生物を検出するためのキットであって、
前記病原性微生物を収容可能な複数の収容部が疎水性の上面を有する側壁によって互いに隔てられて形成されている下層部と、前記下層部における前記収容部が形成されている面に対して空間を隔てて対向している上層部とを備えるアレイと、
前記病原性微生物の粒子表面又は内部に存在する酵素による反応の基質となる物質と、
前記酵素と前記物質との反応により生成する反応生成物の酸解離定数(pKa)よりも大きいpH値を有する親水性溶媒と、
疎水性溶媒と、を含む。

【0090】
本発明に係るキットは、上述したアレイ1と、基質3、親水性溶媒42及び疎水性溶媒43を含むものである。基質3、親水性溶媒42及び疎水性溶媒43については既に説明した通りであるので、以下にはアレイ1の構成をさらに詳しく説明する。

【0091】
アレイ1の下層部10は、板状部材11と疎水性の上面を有する側壁12とを備えている。下層部10には、複数の収容部13が側壁12によって互いに隔てられて形成されている。

【0092】
板状部材11は親水性表面を有していることが好ましい。「親水性表面」とは、親水性溶媒との親和性が疎水性溶媒との親和性よりも高い表面を指す。板状部材11としては、固体材料であればよいが、例えばガラス、シリコン、高分子樹脂等を用いることができる。

【0093】
側壁12は、板状部材11の表面上、好ましくは親水性表面上に設けられている、複数の収容部13の各々を隔てる構造物である。側壁12は、疎水性の上面を有している。「疎水性」とは、ここでは「親油性」と同じ意味で用いられ、疎水性溶媒との親和性が親水性溶媒との親和性よりも高いことをいう。

【0094】
なお、側壁12は、その上面、すなわち上層部20と対向する面が疎水性であればよく、側面、すなわち収容部13内の内壁は、疎水性であっても親水性であってもよい。

【0095】
例えば、側壁12は、親水性の構造物と、その上面に形成されている疎水性層とにより構成されていてもよい。親水性の構造物には、例えばガラス、シリコン、高分子樹脂等を用いることができる。疎水性層には、例えば撥水性の樹脂、フッ素系高分子樹脂等を用いることができる。フッ素系高分子樹脂としては、例えばアモルファスフッ素樹脂等が挙げられる。アモルファスフッ素樹脂は、高い疎水性を有し、かつ、生体試料に対する毒性が低いという理由で、好ましく用いられる。

【0096】
上記アモルファスフッ素樹脂としては、例えば、CYTOP(登録商標)、TEFLON(登録商標)AF2400、およびTEFLON(登録商標)AF1600から選択した少なくとも1つを好適に用いることができる。中でも、微細加工が容易であるという理由で、CYTOP(登録商標)が最も好ましい。

【0097】
また例えば、側壁12は、疎水性の材料により構成されていてもよい。側壁12として、例えばフッ素系高分子樹脂、パラキシリレン系高分子樹脂等を用いることができる。フッ素系高分子樹脂としては、例えばアモルファスフッ素樹脂等が挙げられる。アモルファスフッ素樹脂としては上述の樹脂を好適に用いることができる。

【0098】
側壁12は、板状部材11上に複数の収容部13が形成されるように構成されていればよく、例えば収容部13が形成される位置に孔が形成されている板形状の構造物であってもよい。

【0099】
収容部13は、板状部材11の表面の一部を底面としており、底面が親水性である。収容部13の底面及び側面によって囲まれた領域の形状は、例えば円柱形状、角柱形状等であってもよい。

【0100】
本実施形態では、収容部13の底面が親水性であり、かつ側壁12の上面が疎水性である。これにより、導入手順(1)において、親水性溶媒42を効率よく収容部13の中に導入することができるとともに、封入手順(2)において疎水性溶媒43が収容部13に入り込むことを防止することができる。

【0101】
上層部20は、例えばガラス、シリコン、高分子樹脂等を用いることができる。上層部20は、下層部10における収容部13が形成されている面に対して空間30を隔てて対向している。すなわち、側壁12と疎水性層22との間に空間30があいている。この空間30は、流路を構成する。この構成により、アレイ1はフローセル構造となっている。

【0102】
空間30は、下層部10と上層部20との間に、下層部10と上層部20とが互いに対向する面と平行な方向に流体を流すための流路として用いられうる。

【0103】
下層部10又は上層部20には、空間30に流体を導入するための貫通孔(図示せず)が形成されていてもよい。例えば、下層部10は、収容部13が形成されている領域と、収容部13が形成されていない領域とを有していてもよい。そして、下層部10における収容部13が形成されていない領域、又は上層部20におけるこの領域と対向する部分に、貫通孔が形成されていてもよい。

【0104】
本実施形態においては、空間30の上面を構成する上層部20の表面が疎水性であり、空間30の下面が側壁12の疎水性上面及び収容部13である。したがって、空間30のうち、収容部13の底面以外の部分は全て疎水性となっている。これにより、導入手順(1)において、親水性溶媒42を効率よく各収容部13内に導入することができる。また、封入手順(2)において、各収容部13内に疎水性溶媒43を入り込ませることがない。したがって、疎水性溶媒43を空間30内に導入することにより、各収容部13に液滴を効率よく形成させることができる。
【実施例】
【0105】
[試験例1:親水性溶媒のpH値の検討]
以下の手順によって、親水性溶媒のpH値が検出感度に及ぼす影響を検討した。
まず、金らの報告(" Quantifying genetically inserted fluorescent protein in single iPS cells to monitor Nanog expression using electroactive microchamber arrays", Lab on Chip, 2014, Issue 4, Vol.14, p.730-736)に従って、Droplet array device(DAD)を作成した。カバーガラス(24mm×32mm)を洗浄、乾燥した後、アモルファスフッ素樹脂(CYTOP 816AP、旭硝子)をスピンコートし、180℃で1時間焼成した。アモルファスフッ素樹脂がコートされたカバーガラスに、ポジ型フォトレジスト(AZ-4903、AZ Electronic Materials)をスピンコートして、55℃で3分間焼成した後、さらに110℃で5分間焼成した。直径3μmの穴を5μm間隔で有するフォトマスクを用いてフォトリソグラフィーを行った。酸素プラズマでドライエッチング後、洗浄したカバーガラスをDADとして得た。DADは、直径4μm、深さ3μmのウェル(収容部)を有し(約100万個/10mm2)、ウェルの底面はカバーガラスが露出している。得られたDADを用いて図1に示すようなフローセル構造のアレイを作成した。
【実施例】
【0106】
pH6.5~9.0に調整したバッファー溶液(33mM DEA-HCl, 4mM CaCl2)に4-MUを50μMになるように溶解した。
4-MUを溶解したバッファー溶液30μLをアレイに導入し各ウェルにバッファー溶液を充填した(図1A参照)。続いて、アレイに疎水性溶媒(FC40)を200μL導入し、各ウェルに疎水性溶媒で被覆された親水性溶媒の液滴を形成させた。
蛍光顕微鏡(IX8, OLYMPUS)に接続されたCMOSカメラ(Neo sCMOS, Andor)で、各液滴の蛍光画像を撮影し、蛍光強度を測定した。各ウェルにつき10mm2の領域を120分割して撮影を行った。1枚の画像には約8,600個のウェルが含まれる。蛍光画像を画像解析ソフト(Meta-Morph, Molecular Devices)で解析し、蛍光強度を算出した。
【実施例】
【0107】
結果を図3に示す。バッファー溶液のpH値を、4MUのpKa(7.79)よりも大きく設定することで、4MUの蛍光をより高感度に検出できた。pH値8以上では、4MUが電荷を有する状態となり、4MUのFC40への移行(漏れ出し)が抑制されたためと考えられる。
【実施例】
【0108】
[試験例2:親水性溶媒の緩衝物質濃度の検討]
以下の手順によって、親水性溶媒の緩衝物質濃度が検出感度に及ぼす影響を検討した。
【実施例】
【0109】
DEAの濃度を25mM~1Mに調整したバッファー溶液(4mM CaCl2、pH6.5)に4-MUを50μMになるように溶解した。
4-MUを溶解したバッファー溶液30μLをアレイに導入し各ウェルにバッファー溶液を充填した(図1A参照)。続いて、アレイに疎水性溶媒(FC40)を200μL導入し、各ウェルに疎水性溶媒で被覆された親水性溶媒の液滴を形成させた。
蛍光顕微鏡下でタイムラプス撮影を行い、各液滴の蛍光強度を測定した。
【実施例】
【0110】
結果を図4に示す。DEA濃度1Mでは、露光による退色の影響を差し引くと、蛍光強度の経時的な減少はみられなかった。DEA濃度500mM,100mMでも、蛍光強度の減少は、観察後30分まで顕著に抑制された。DEA濃度50mMでは観察後10分で蛍光強度が維持されていたが、25mMでは蛍光強度の減少がみられた。
【実施例】
【0111】
本発明に係る検出方法において検出に要する時間は数分程度であることを考慮すると、バッファー溶液中の緩衝物質の濃度を50mM以上に設定することで、4MUの蛍光をより高感度に検出できることが示された。バッファー溶液中の緩衝物質を所定の濃度以上に設定することで、4MUのFC40の移行(漏れ出し)を抑制できたと考えられる。
【符号の説明】
【0112】
1:アレイ、2:ウイルス、3:基質、4:反応生成物、5:酵素、10:下層部、11:板状部材、12:側壁、13:収容部、20:上層部、30:空間、42:親水性溶媒、43:疎水性溶媒
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3