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明細書 :物体マーキング用高分子薄膜およびその製造方法、物体測定キット、物体の測定方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-010151 (P2019-010151A)
公開日 平成31年1月24日(2019.1.24)
発明の名称または考案の名称 物体マーキング用高分子薄膜およびその製造方法、物体測定キット、物体の測定方法
国際特許分類 A61B   5/107       (2006.01)
B32B   7/022       (2019.01)
C08J   5/18        (2006.01)
FI A61B 5/10 300Q
B32B 7/02 101
C08J 5/18 CER
C08J 5/18 ZBP
C08J 5/18 CFD
C08J 5/18 CFH
請求項の数または発明の数 10
出願形態 OL
全頁数 17
出願番号 特願2017-127228 (P2017-127228)
出願日 平成29年6月29日(2017.6.29)
発明者または考案者 【氏名】藤枝 俊宣
【氏名】山岸 健人
【氏名】鉄 祐磨
【氏名】武岡 真司
出願人 【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100080089、【弁理士】、【氏名又は名称】牛木 護
【識別番号】100161665、【弁理士】、【氏名又は名称】高橋 知之
【識別番号】100178445、【弁理士】、【氏名又は名称】田中 淳二
【識別番号】100146134、【弁理士】、【氏名又は名称】清水 聡子
【識別番号】100121153、【弁理士】、【氏名又は名称】守屋 嘉高
【識別番号】100188994、【弁理士】、【氏名又は名称】加藤 裕介
【識別番号】100194892、【弁理士】、【氏名又は名称】齋藤 麻美
【識別番号】100207653、【弁理士】、【氏名又は名称】中村 聡
審査請求 未請求
テーマコード 4C038
4F071
4F100
Fターム 4C038VA04
4C038VB22
4C038VC05
4F071AA12X
4F071AA22X
4F071AA43
4F071AA67
4F071AA75
4F071AF20Y
4F071AF58Y
4F071AH19
4F071BA02
4F071BB02
4F071BC01
4F071BC17
4F100AK01A
4F100AK01B
4F100AK12A
4F100AK12B
4F100AK21
4F100AK41A
4F100AK41B
4F100AK42
4F100AK73A
4F100AK73B
4F100AL02A
4F100AL02B
4F100AL09A
4F100AL09B
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100CA13C
4F100DC21C
4F100EH46
4F100EJ08
4F100EJ86
4F100HB00C
4F100HB31
4F100JK07A
4F100JK07B
4F100JL11
4F100JM02
4F100JN13C
4F100YY00A
4F100YY00B
要約 【課題】
本発明の課題は、測定対象への干渉や被験者や測定者の負担が少なく、物体に正確に標識を付与できる物体マーキング用高分子薄膜と、物体を精密に解析できる物体測定キットと物体測定方法を提供することである。
【解決手段】
単層膜又は積層膜からなり、低ヤング率で、かつ密着性を有する高分子膜であって、該高分子膜の膜面の少なくとも一方に、一つ以上のマーキング領域を有し、各マーキング領域内に一つ以上の標識を備えることを特徴とする物体マーキング用高分子薄膜である。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
単層膜又は積層膜からなり、低ヤング率で、かつ密着性を有する高分子膜であって、該高分子膜の膜面の少なくとも一方に、一つ以上のマーキング領域を有し、各マーキング領域内に一つ以上の標識を備えることを特徴とする物体マーキング用高分子薄膜。
【請求項2】
前記高分子膜が、超薄膜であることを特徴とする、請求項1に記載の物体マーキング用高分子薄膜。
【請求項3】
前記高分子膜が、接着剤層を含まないことを特徴とする、請求項1又は2に記載の物体マーキング用高分子薄膜。
【請求項4】
前記高分子膜が、スチレン系エラストマー、シリコーン、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、グリコール酸/L-乳酸共重合体及びグリコール酸/DL-乳酸共重合体から選択される乳酸共重合体、ポリラクトン又はラクトン共重合体、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)共重合体(PLGA)、ポリエチレングリコール(PEG)化されたPLGA、PLGA-PLA-PEGコポリマー、又は電解質ポリマーからなる群から1種以上選択される高分子化合物の薄膜であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の物体マーキング用高分子薄膜。
【請求項5】
前記高分子膜のヤング率が10GPa以下であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の物体マーキング用高分子薄膜。
【請求項6】
前記高分子膜の密着エネルギーが、2μJ以上1000μJ以下であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の物体マーキング用高分子薄膜。
【請求項7】
各マーキング領域内の一つ以上の標識が、着色剤若しくは蛍光剤で塗布されてなる塗布部、凹凸部及び貫通孔からなる群から一つ以上選択されることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の物体マーキング用高分子薄膜。
【請求項8】
高分子化合物を成膜して、低ヤング率で、かつ密着性を有する高分子膜を作製する成膜工程と、成膜工程で得られた高分子膜の一つ以上のマーキング領域内に一つ以上の標識を形成する標識パターン形成工程とを含むことを特徴とする、物体マーキング用高分子薄膜の製造方法。
【請求項9】
低ヤング率で、かつ密着性を有する高分子膜の膜面の少なくとも一方に、一つ以上のマーキング領域を有し、各マーキング領域内に一つ以上の標識を備える物体マーキング用高分子薄膜と、前記物体マーキング用高分子薄膜が貼付された物体のマーキング領域の画像データを検出する検出デバイスと、前記画像データに含まれる標識領域が変換された信号によって物体の座標を解析する画像解析システムを有する物体測定キット。
【請求項10】
静的状態にある物体の三次元形態、又は、動的状態にある物体の二次元若しくは三次元の形態の変化を測定するための方法であって、
請求項1~7に記載の物体マーキング用高分子薄膜を物体に貼付するステップ、
前記物体に貼付された物体マーキング用高分子薄膜のマーキング領域の画像データを検出するステップ、および
前記画像データを解析して座標データを取得し、座標データ、該座標データに基づいて構築された物体の二次元若しくは三次元モデルの静態および/または動態を出力するステップ
を含むことを特徴とする、物体の測定方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、物体マーキング用高分子薄膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療用デバイス、美容用デバイス、ウェアラブルデバイス、装着型ロボット、ソフトロボティクス等に例示されるように、物体に装着または接触するデバイスの設計において、測定対象がいかなる物体でも、物体の静的形状や、動的な形状変化を精密に測定する技術や、ヒトの感覚を忠実に再現する技術の需要が高まっている。
【0003】
例えば特許文献1には、皮膚のたるみ量の測定方法が開示されている。該測定方法では、被験者の顔面の皮膚表面にペン等で直接描画したりシールを貼付したりして、マーク部を設け、該マーク部の移動量を画像解析して、たるみ量を測定する。
【0004】
また、非特許文献1には、皮膚のひずみの測定方法が開示されている。該測定方法では、被験者のひざ関節の皮膚に直接、黒インクでマーキングして標識を分布させ(パターンの付与)、ひざを伸ばした状態と曲げた状態との三次元モデルにおける該パターンの変化を解析する。
【0005】
しかし、上記に例示する測定方法で採用される標識は、インクやシール等で、測定対象の物体に直接マーキングして付与されるため、インク成分やシールの粘着剤が該物体に悪影響を及ぼす可能性がある。また物体は、必ずしも直接マーキングしやすい状態であるとは限らない。脆弱な表面をもつ物体や、損傷した皮膚、臓器、細胞の場合、正確な位置に直接標識を付与することは困難である。
【0006】
また物体には、顔面の皮膚のように、直接マーキングすることが、被験者に強い苦痛を与えるものもある。従って、被験者の苦痛を軽減するため、直接マーキングせずに、かつ正確に物体を測定する手段が求められる。
【0007】
直接マーキングしない測定手段として、予め標識が付与されたシートで、粘着剤や粘着テープを介して、測定対象を被覆することが検討されている。しかし粘着テープ等を用いると、粘着テープ等によって、物体が変形されたり物体の動態が制約されたりする等、測定対象への干渉によって、物体の正確な座標データを得られない可能性がある。特に微細組織の測定のように精密な測定結果が求められる場合、この傾向が顕著である。また、粘着テープのヤング率が高いと、動態に対する追従性や密着性が低く、正確に動態を計測することはできない。
【0008】
加えて、上記の従来技術で用いられたインクや粘着剤等は、測定後、被験者や測定者が、除去しなければならない場合がある。そのような作業負担の軽減も望まれる。
【先行技術文献】
【0009】

【特許文献1】特開2014-4105号公報
【0010】

【非特許文献1】B.Lin et al., IEEE Transactions on Biomedical Enginnering 2016, DOI 10.1109/TBME.2016.2626442
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のとおり従来技術においては、直接マーキングすることや、粘着テープ等を用いる弊害として、正確な位置に標識を付与しがたいこと、標識を適切な位置に付与できたとしても、測定中に標識の位置がずれて精密な測定結果を得られない場合があること、被験者や測定者の負担が大きいこと等の問題がある。そこで、物体に直接マーキングしなくてすみ、かつ粘着テープ等を用いず、物体の精密な座標データを得られる標識を付与できる手段が求められていた。
【0012】
本発明の課題は、測定対象への干渉や被験者や測定者の負担が少なく、測定対象に正確に標識を付与できる物体マーキング用高分子薄膜とその製造方法、物体の形状又は形状変化を精密に解析できる物体測定キットとこれを用いた物体の形状又は形状変化の測定方法を提供することである。なお、本明細書において「物体」とは、動物組織及び無生物を含む有形物をいう。「動物」とは、ヒト及び非ヒト動物をいい、哺乳類、鳥類等を含む脊椎動物および無脊椎動物を意味する。「動物組織」とは、細胞および皮膚、臓器及びその一部、腫瘍を形成する細胞の集合体を意味する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、単層膜又は積層膜からなり、低ヤング率で、かつ密着性を有する高分子膜であって、該高分子膜の膜面の少なくとも一方に、一つ以上のマーキング領域を有し、各マーキング領域内に一つ以上の標識を備えることを特徴とする物体マーキング用高分子薄膜である。
【0014】
本発明は、上記の高分子膜が、超薄膜である物体マーキング用高分子薄膜を包含する。また本発明において上記の高分子膜は、接着剤層を含まない態様を包含する。
【0015】
本発明で用いられる高分子膜は、スチレン系エラストマー、シリコーン、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、グリコール酸/L-乳酸共重合体及びグリコール酸/DL-乳酸共重合体から選択される乳酸共重合体、ポリラクトン又はラクトン共重合体、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)共重合体(PLGA)、ポリエチレングリコール(PEG)化されたPLGA、PLGA-PLA-PEGコポリマー、又は電解質ポリマーからなる群から1種以上選択される高分子化合物の薄膜であることが好ましい。
【0016】
上記の高分子膜のヤング率は、10GPa以下であることが好ましい。さらに該高分子膜の密着エネルギーは、2μJ以上1000μJ以下であることが好ましい。
【0017】
本発明で用いられる高分子膜の各マーキング領域内の一つ以上の標識は、着色剤若しくは蛍光剤で塗布されてなる塗布部、凹凸部及び貫通孔からなる群から一つ以上選択されることが好ましい。
【0018】
本発明は、高分子化合物を成膜し、低ヤング率で、かつ密着性を有する高分子膜を作製する成膜工程と、成膜工程で得られた高分子膜の一つ以上のマーキング領域に一つ以上の標識を形成する標識パターン形成工程とを含むことを特徴とする、物体マーキング用高分子薄膜の製造方法を包含する。
【0019】
本発明は、低ヤング率で、かつ密着性を有する高分子膜の膜面の少なくとも一方に、一つ以上のマーキング領域を有し、各マーキング領域内に一つ以上の標識を備える物体マーキング用高分子薄膜と、前記物体マーキング用高分子薄膜が貼付された物体のマーキング領域の画像データを検出する検出デバイスと、前記画像データに含まれる標識領域が変換された信号によって物体の座標を解析する画像解析システムを有する物体測定キットを包含する。
【0020】
本発明は、静的状態にある物体の三次元形態、又は、動的状態にある物体の二次元若しくは三次元の形態の変化を測定するための方法であって、上記物体マーキング用高分子薄膜を測定対象の物体に貼付するステップと、上記前記物体に貼付された物体マーキング用薄膜のマーキング領域の画像データを検出するステップ、および上記画像データを解析して座標データを取得し、座標データ、該座標データに基づいて構築された物体の二次元若しくは三次元モデルの静態および/または動態を出力するステップを含む物体の測定方法を包含する。
【0021】
本発明の測定方法において、前記物体は、ヒトを除く物体である場合がある。
【0022】
また、本発明の測定方法は、医療行為を除く態様で使用される場合がある。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、密着性を有し、物体に対する追従性が高いため、所望の位置に正確に標識を付与でき、物体の精密な座標データを得られる。また物体への干渉、および被験者や測定者の負担を軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の物体マーキング用高分子薄膜の例の概略図である。
【図2】本発明の物体測定キットの概略図である。
【図3】本発明の伸展率測定の試験方法を説明する写真図である。
【図4】本発明の伸展率測定試験のための伸展運動前後における、本発明の実施例および比較例がそれぞれ貼付されたヒトの前腕部の皮膚の写真図である。
【図5】本発明の伸展率測定試験の結果を示す図である。
【図6】本発明の伸展率測定試験のための伸展運動前後における、本発明の実施例および比較例がそれぞれ貼付されたヒトの前腕部の皮膚の写真図である。
【図7】本発明の伸展率測定試験の結果を示す図である。
【図8】本発明の膜厚と密着エネルギーとの相関関係を示す図である。
【図9】本発明の実施例を人口皮膚に貼付させた状態の写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<物体マーキング用高分子薄膜>
本発明の物体マーキング用高分子薄膜は、単層膜又は積層膜からなり、低ヤング率で、かつ薄膜化に起因する密着性を有する。これにより、接着剤や粘着剤を使用しなくとも追従性を発揮する高分子膜であって、該高分子膜の膜面の少なくとも一方に、一つ以上のマーキング領域を有し、各マーキング領域内に一つ以上の標識を備える。

【0026】
図1は、本発明の物体マーキング用高分子膜の例の概略図である。図1において、1は本発明の物体マーキング用高分子薄膜である。2は高分子膜、破線領域内を指す3はマーキング領域、4は標識である。図1の例では、4つ長方形の標識が並列する。図1に示されるように、標識4はマーキング領域3に設けられる。本発明においては、物体の測定領域をマーキング領域3で被覆するように物体マーキング用高分子薄膜1を貼付することで、測定領域に標識4を付与できる。

【0027】
本発明に用いられる高分子膜2は、低ヤング率であるため、高分子膜自体が物体に対する密着性を有する。そのため、例えばヒトの皮膚などの低ヤング率を有する物体に対する追従性が良好である。従って、接着剤を用いずに、高分子膜のマーキング領域を物体測定の対象領域に密着させることができ、一たび密着させると、測定中、密着状態を長期間、例えば、24時間以上維持できる。従って本発明は、物体の細部まで正確に標識を付与できる。これにより、本発明は、物体の微細形状や微細な動態の精密な座標データを取得できる。

【0028】
また本明細書において、「密着」とは、2つの材料間に界面を隔てて相互作用が働き、原子的な結合や、機械的作用によって整合している状態をいい、「密着力」は、両者を引き剥がすために必要なエネルギーをいう(岩村栄治、表面技術 5, 260-266:2007)。本明細書において、「追従性(Conformability)」とは、静的状態にある物体に対し密着する性質をいい、あるいは動的状態にある物体に対し密着状態を維持する性質をいう。

【0029】
本発明において、単層膜または複層膜である高分子膜自体が持つ密着エネルギーは、接着剤を用いずに高分子膜を物体に貼付できる程度の値であればよく、具体的には、少なくとも、0.1μJ以上、好ましくは1μJ以上、より好ましくは2μJ以上である。密着エネルギーが係る数値以上であることにより、本発明は測定中、粘着剤を介さずに物体に対し密着状態を持続できる。また本発明は、被験者や測定者の作業負担軽減のため、測定終了後は容易に剥離できることが好ましい。従って高分子膜の密着エネルギーは、1000μJ以下、好ましくは500μJ以下、より好ましくは180μJ以下であることが好ましい。なお本明細書において、膜体の密着エネルギーは、膜体が貼付された物体から、該膜体を公知の引張試験機で剥離するとき、該膜体が物体から完全に剥離するまでに必要な仕事量として算出される。

【0030】
なお、本明細書において「接着」とは、接着剤を媒介とし、化学的もしくは物理的な力またはその両者によって二つの面が結合した状態をいい、「接着力」とは、同種または異種材料の表面の間に接着性を有する物質を介して接合したあと、2つの材料を引き剥がすのに要する力をいう。

【0031】
本発明において「低ヤング率の高分子膜」とは、ヤング率が10GPa以下の高分子膜をいう。すなわち本発明に用いられる高分子膜の低ヤング率は10GPa以下であり、好ましくは5GPa以下であり、より好ましくは3GPa以下であり、もっとも好ましくは1GPa以下である。

【0032】
低ヤング率の高分子膜を用いた本発明は、動物の組織のマーキング用途に好適である。当該用途としては、哺乳動物の皮膚のマーキング用途を例示できる。ヒトの皮膚に貼付する場合、高分子膜のヤング率は、5GPa以下、好ましくは1GPa以下、より好ましくは0.1GPa以下である。なお、本明細書において膜体を含む物体のヤング率は、公知の引張試験機を用いて測定された応力・ひずみ曲線に基づき算出された値である。

【0033】
本発明に用いられる高分子膜2のヤング率は、材料となる高分子化合物、膜厚や、積層膜化、表面修飾の有無やその種類、架橋度等に依存すると推察される。

【0034】
本発明の高分子膜は、水溶性であっても非水溶性であってもよい。本発明の高分子膜の材料としては、スチレン系エラストマー、シリコーン、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、グリコール酸/L-乳酸共重合体及びグリコール酸/DL-乳酸共重合体から選択される乳酸共重合体、ポリラクトン又はラクトン共重合体、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)共重合体(PLGA)、ポリエチレングリコール(PEG)化されたPLGA、PLGA-PLA-PEGコポリマー、又は電解質ポリマーからなる群から1種以上選択される。上記の材料のうち、スチレン系エラストマー、シリコーン、ポリラクトン又はラクトン共重合体が好ましく選択される。

【0035】
スチレン系エラストマーの例としては、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレンーイソプレンスチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体(SIBS)、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン/プロピレン-ブロック共重合体(SEPS)等が挙げられる。

【0036】
本発明は、物体側に配置される第1面と、第1面の反対面である第2面とを有する(不図示)。領域内に標識4を備えるマーキング領域3は、第1面と第2面とのいずれか一面または両面に設けられ、好ましくは第2面に設けられる。本発明の高分子薄膜1は単層の高分子膜を用いてもよく、同種または異種の高分子膜を積層させた複数層の高分子膜を用いてもよい。

【0037】
複数層の高分子膜2を用いる場合、マーキング領域は、最外層となる高分子膜の膜面に設けてもよく、最外層でない層、すなわち中間層の一つ以上の高分子膜の各膜面に設けてもよい。本発明に用いられる高分子膜は、例えば、光透過性が高いものを用いることができる。これにより、標識を備える高分子膜を中間層としても外層側から標識を識別できる。また該高分子膜の優れた光透過性により、本発明は、物体を観察しながら貼付できるため、簡便かつ正確に物体に標識を付与できる点でもマーキング用途で有用である。

【0038】
本発明の高分子薄膜1の膜厚とは、単層膜の高分子膜の膜厚または複層膜の高分子膜の総膜厚をいう。本発明の適切な膜厚は、高分子膜の材料に応じて異なるが、低ヤング率と密着性を発現させる観点から、いずれの材料を用いた場合にも高分子薄膜の膜厚は、100μm未満であり、50μm未満が好ましく、10μm未満がより好ましい。これにより測定対象となる物体に対する密着力を有し追従性が高い高分子薄膜を得られる。高分子薄膜1の膜厚の下限値は、本発明の作用効果を得られる限り限定されないが、好ましくは15nm以上であり、より好ましくは30nm以上であり、もっとも好ましくは100nm以上である。

【0039】
なお本発明においては、膜厚が1μm未満の高分子薄膜を特に高分子超薄膜という。本発明を高分子超薄膜とする場合、その膜厚は、0.5μm未満が好ましく、0.3μm未満がより好ましい。なお、本明細書において、高分子膜、高分子薄膜を含む膜体の膜厚は、原子間力顕微鏡で測定できる。

【0040】
高分子薄膜1の膜厚の具体例として、高分子膜1の材料にSBSだけを用いた場合、高分子薄膜1の膜厚は1500nm未満であり、1000nm未満が好ましく、400nm未満がより好ましい。高分子膜1の材料にポリ乳酸だけを用いた場合、高分子薄膜1の膜厚は、200nm以下であり、100nm以下が好ましく、50nm以下がより好ましく、30nm以下がもっとも好ましい。

【0041】
本発明の高分子薄膜においてマーキング領域3とは、膜面に設けられる標識4の分布域を意味する。本発明においては、測定目的や測定対象となる物体の形状、面積に合わせて、マーキング領域3の数、面積、形状が決定され、該マーキング領域内に、任意の分布態様で標識を設けることができる。従って、マーキング領域3を物体の測定領域に被覆させるように本発明を貼付することで、複雑な分布態様の標識でも簡便に物体に付与することができる。マーキング領域3の内外を区別する境界線は、識別可能に設けてもよく、本発明の作用効果を得られる限り設けなくてもよい。境界線を設ける場合、マーキング領域内の標識と識別可能な方法で設けることが好ましい。

【0042】
本発明において、マーキング領域内に備えられる標識4は、肉眼で、または光学顕微鏡、電子顕微鏡、走査型プローブ顕微鏡のいずれかを用いて、測定中、持続的に検出できる態様で形成されることが好ましい。具体的には、着色剤若しくは蛍光剤で塗布されてなる塗布部、凹凸部及び貫通孔からなる群から一つ以上選択されることが好ましい。

【0043】
塗布部に用いられる着色剤若しくは蛍光剤は、高分子膜を溶解せずに、その膜面に手書きでき、スタンプでき、またはプリンターを用いて印刷可能な成分からなるものが選択される。具体例としては水性または油性のインクが挙げられる。物品が動物である場合、生体適合性を有するものを用いることが好ましい。凹凸部とは、高分子膜の膜面に微細な高低差を有する部分をいい、エンボス加工によって形成されるものを例示できる。貫通孔とは、高分子膜を貫通する微細な穴で、レーザー加工により形成されるものを例示できる。また標識は、箔押しにより形成されてもよい。その場合、金属、ホログラム、着色剤等に例示される成分を含む箔を高分子膜の表面に張り付け、または転写して箔押し加工することを例示できる。本発明で箔押しにより標識を形成する場合、本発明の作用効果を損なわない限り、従来公知の箔用材料を用いることができる。

【0044】
標識4の形状は特に限定されないが、直線や曲線またはこれらの組み合せで構成された、円や多角形等を例示できる。一つのマーキング領域内に形成される標識の数は1つでもよく、2つ以上が好ましく、3つ以上がより好ましい。マーキング領域内に複数の標識を設ける場合、各標識の分布態様としては、格子状、直線状、平行線状、略同心円状等で表される標識パターンを例示できる。また隣り合う標識同士の間隔は、本発明の作用効果を得られる限り、特に限定されないが、少なくとも30μm間隔で標識を付与することができる。上記のとおり、本発明においては、標識を機械的手段で形成できるため、極小間隔で標識を設けることができる。従って本発明は、物体の微細領域の測定に必要な精密な画像データの検出に有用である。

【0045】
<物体マーキング用高分子薄膜の製造方法>
本発明の高分子薄膜の製造方法は、少なくとも、高分子化合物を成膜し、低ヤング率で、かつ追従性を有する高分子膜を作製する成膜工程と、成膜工程で得られた高分子膜の一つ以上のマーキング領域内に一つ以上の標識を形成する標識パターン形成工程とを含む。

【0046】
本発明に用いられる高分子膜を作製する成膜工程では、上記の高分子化合物を主剤とする組成物を含有する溶液を基板上に塗布し、基板上で該組成物を硬化させることにより本発明に用いられる単層膜の高分子膜を作製できる。また積層膜を作製する場合は、単層膜である高分子膜を貼り合わせて作製できる。本発明に用いられる高分子膜は単層膜でも密着力を有する。そのため単層膜を順次積層させるだけで一体化し、積層膜が得られる。

【0047】
基板の材料としては、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、シクロオレフィン(COP)、ポリイミド(PI)、アルミ箔、導電性高分子膜、紙、多糖膜、シリコーン樹脂、オブラート(ゼラチン)、シリコンウェハ、ガラス等が挙げられる。なお、上記の組成物の溶液は、基板上に成膜された犠牲層の上に塗布してもよい。犠牲層を溶解させて高分子膜を基板から剥離させてもよい。

【0048】
該溶液に用いられる溶媒は、主剤となる高分子化合物を含有する組成物を溶解できるものであればよく、酢酸エチル、ヘキサン、クロロホルム、ジクロロホルム、テトラヒドロフラン、トルエン、ヘキサフルオロイソプロパネート、水などを例示できる。必要に応じて、該溶液に硬化剤等を添加してもよい。硬化方法は用いられる高分子化合物に対応して、熱硬化等、好適な方法が選択される。なお成膜工程の詳細は、PCT/JP2016/63841、PCT/JP2016/82056、PCT/JP2017/016283の記載を参照できる。

【0049】
高分子膜の膜厚は、溶媒中の高分子化合物の濃度に依存する。従って、該溶液の濃度を所望の高分子膜の膜厚を得られる濃度に調製することにより、本発明所定の膜厚を備える高分子膜を作製できる。1μm未満のSBS単層膜を作製する場合の濃度例としては、1wt%以上5wt%以下が、好ましくは2wt%以上4wt%以下が、より好ましくは2.5wt%以上3.5wt%以下が挙げられる。

【0050】
犠牲層および本発明に用いられる高分子膜となる組成物の成膜方式として、グラビアコーターを用いたロールツーロール方式を適用できる。また、スピンコータを用いてもよい。超薄膜かつ大面積の高分子超薄膜の製膜ではロールツーロール方式を採用することが好ましい。

【0051】
成膜工程後に行われる標識パターン形成工程では、物体の所望の測定領域に応じて任意のマーキング領域を設定し、該マーキング領域内に、一つ以上の標識を形成する。標識の形成方法の例としては、マーキング領域内に標識を印刷または成形する方法が挙げられる。その他、手書き、箔押し、スタンプ等により標識を形成してもよい。本発明は、印刷と成形とのいずれの方法を適用する場合であっても、予めマーキング領域の数や形状、および各マーキング領域内の標識の分布を組み合わせた標識パターンを決定し、印刷手段や成形手段に記憶させておいてもよい。これにより、簡便に標識パターンを再現でき、複雑な標識パターンであっても簡便に測定対象に付与できる。また記憶された標識パターンを呼び出して、個別の標識の位置を調整し、標識パターンのバリエーションを容易に展開できる。

【0052】
標識を印刷する方法としては、インクジェット方式、スクリーン方式、グラビアオフセット方式等のプリンターから着色剤や蛍光剤を吐出することにより標識を形成する方法を挙げられる。また標識を成形する方法としては、ロールツーロール方式において、高分子膜の搬送経路に、表面に標識パターンが形成されたロールを設け、該高分子膜の膜面にロールを圧接させることにより、高低差のある膜面を成形する方法が挙げられる。その他レーザーカッターを用いて、高分子膜に貫通孔を形成してもよい。また押圧加工装置、プリンター等、従来公知の箔押し装置を用いて、箔押し部を形成してもよい。

【0053】
<物体の測定方法>
本発明の物体の測定方法は、静的状態にある物体の三次元形態、又は、動的状態にある物体の二次元若しくは三次元の形態の変化を測定するための方法である。本測定方法は、物体マーキング用高分子薄膜1を測定対象の物体に貼付するステップと、該物体に貼付された物体マーキング用薄膜1のマーキング領域3の画像データを検出するステップと、該画像データを解析して座標データを取得し、座標データ、該座標データに基づいて構築された物体の二次元若しくは三次元モデルの静態および/または動態を出力するステップとを含む。

【0054】
上記の、物体マーキング用高分子薄膜を測定対象の物体に貼付するステップでは、物体マーキング用高分子薄膜を1枚貼付してもよく、複数枚を貼付してもよい。物体の測定領域が広い場合や微細な凹凸形状を有する場合、または物体に複数の測定領域が互いに離れて存在する場合など、測定領域の全域を1枚の物体マーキング用高分子薄膜でマーキングし難い場合や、効率上好ましくない場合がある。そのような場合は、複数枚の物体マーキング用高分子薄膜を貼付することが好ましい。複数枚の物体マーキング用高分子膜は、物体の測定領域の位置や大きさに合わせて、並べて貼付してもよく、互いに離れた位置に貼付してもよい。

【0055】
本発明は、下記の物体測定キットを用いて実施できる。以下に物体測定キットを用いた例によって、本発明の物体の測定方法を説明する。

【0056】
<物体測定キット>
本発明の動物測定キットは、低ヤング率で、かつ密着性を有する高分子膜の膜面の少なくとも一方に、一つ以上のマーキング領域を有し、各マーキング領域内に一つ以上の標識を備える物体マーキング用高分子薄膜と、物体マーキング用高分子薄膜が添付された物体のマーキング領域の画像データを検出する検出デバイスと、前記画像データに含まれる標識領域が変換された信号によって物体の座標を解析する画像解析システムを有する。

【0057】
本発明の物体測定キットの概略図を図2に示す。図2において、10は物体マーキング用高分子薄膜、20は検出デバイス、30は画像解析システムである。また画像解析システム30はメモリ、CPU等の演算回路を備えるコントロール32と、検出デバイス20により検出された画像データを信号化してコントロールに伝達する入力部31と、信号をコントロールで解析して得られる座標データや座標データに基づき構築される二次元モデルまたは三次元モデルを視認可能に表示する出力部33を備える。

【0058】
物体マーキング用高分子薄膜10は、測定対象である物体に標識を付与するためのデバイスである。該デバイスを用いることにより本発明は、測定対象に直接マーキングせずに、測定を実施できる。また該デバイスは、低ヤング率で、かつ密着性を有する高分子薄膜であって、測定対象に対する追従性が高い。従って該高分子薄膜は、測定対象の本来の状態に干渉することなく、正確に標識4を付与できる。

【0059】
検出デバイス20は、高分子薄膜10を介して測定対象に付与された標識4の画像データを検出するデバイスである。検出デバイス20は、画像解析システムに接続可能で、高分子薄膜のマーキング領域が貼付された物体の画像データを取得できるものであれば、特に限定されない。具体例としては、検出デバイス20は、スマートフォン、タブレット、携帯電話等のモバイル機器やウェアラブルデバイス、顕微鏡、デジタルカメラ、ビデオカメラに装備される、静止画または動画を撮影できるカメラが挙げられる。測定対象である物品と検出デバイス20との配置は、測定対象の所望の撮影方向により任意に選択され、双方を固定して一つのアングルから撮影できるようにしてもよく、一方または双方の位置を手動または機械的に制御可能にして、複数のアングルから撮影できるようにしてもよい。

【0060】
画像データは画像解析システム30の入力部31を介してコントロール32に伝達される。入力部31では、画像に現れる標識領域と非標識領域とがそれぞれデジタル信号に変換される。コントロール32では、さらに該信号が解析されて、測定対象である物品の二次元モデルや三次元モデルを構築するために必要な座標データが提供される。座標データや、座標データに基づく二次元モデルや三次元モデルは、出力部33を介して視認できる。出力部33としては、パーソナルコンピュータやモバイル機器、デジタルカメラ、ビデオカメラのディスプレイを例示できる。

【0061】
本発明の画像解析キットには、さらに物体マーキング用高分子薄膜の膜面に標識を形成するために用いられる標識形成デバイスを含んでもよい。画像解析システムに接続可能な標識形成デバイスを選択する場合は、予めメモリに標識パターンを記憶させておき、所望の標識パターンを呼び出して標識形成デバイスに伝達することで、簡便に所望の標識パターンを測定対象に付与できる。画像解析システムに接続可能な標識形成デバイスとしては、インクジェットプリンター、3Dプリンター、スクリーン印刷機、スプレー、エアブラシ等の印刷機器やレーザーカッター、ロールツーロール方式の成形機器が挙げられる。なお、本発明に用いられる標識形成デバイスは、画像解析システムに接続せずに標識を形成するものでもよい。画像解析システムに接続しないで標識を形成する場合、着色剤若しくは蛍光剤を用いて、手書きしたりスタンプを用いたり箔押ししたりする態様を例示できる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は下記の実施例に制限されない。
【実施例】
【0063】
<実施例1>
物体マーキング用高分子薄膜を、SBS薄膜を用いて作製した。SBS薄膜の作製は、PETフィルムを基板として、PETフィルムの膜面に水溶性PVAの犠牲層をロールツーロール方式グラビア印刷法で形成した。PVA層形成時、回転速度は30rpm、線速は1.3m/minとした。乾燥温度120℃で乾燥後、SBS溶液(Sigma Aldrich Japan社製、3wt% in tetrahydrofuran)を犠牲層上にロールツーロール方式グラビア印刷法で塗布し、SBS層を積層させた。塗布時、回転速度は30rpm、線速は1.3m/minとした。乾燥温度80℃で該積層体を乾燥させ、SBS層を硬化させた。硬化後のSBS層の膜厚は、321nm、ヤング率は6MPaであった。
【実施例】
【0064】
標識を形成するため、9cm(3cm x 3cm)に切り出した上記の積層体のSBS層の膜面に、油性の黒インクのマーカーペンを用いて、直径0.5~1mmのドット25個を3mm間隔で格子状に分散させた標識パターンを手書きした。標識パターン形成後、水溶媒中で犠牲層を溶解除去して基板から高分子薄膜を剥離し、実施例1とした。
【実施例】
【0065】
<参考例1>
ヒトの前腕部の内側の皮膚表面に直接、実施例1と同様の標識パターンを手書きして標識を形成し、参考例1とした。
【実施例】
【0066】
<比較例1>
実施例1と同様の標識パターンを、膜厚1.15mmのシリコーンゴムシート(Ecoflex(登録商標)、ヤング率:125kPa)に手書きし、比較例1とした。
【実施例】
【0067】
<比較例2>
実施例1と同様の標識パターンを、膜厚12.5μmのポリイミドフィルム(Kapton(登録商標)EN50、ヤング率:5GPa)に手書きし、比較例2とした。
【実施例】
【0068】
<伸展率試験>
本発明における標識によるマーキングの正確性を確認するため、実施例1、参考例1、比較例1および比較例2について伸展率試験を行った。伸展率試験では、参考例1によって、または実施例1、比較例1、比較例2のいずれかをヒトの前腕部内側に貼付して標識パターンを形成した後、手首を屈伸させ、該屈伸運動前後の標識の位置の変化を参考例1、実施例1、比較例1および比較例2とで比較した。図3は本発明の伸展率試験を説明する写真図であり、図4は、本発明の伸展率測定試験のための伸展運動前後における、本発明の実施例および比較例がそれぞれ貼付されたヒトの前腕部の皮膚の写真図である。
【実施例】
【0069】
図3(a)に示すように、ヒトの前腕部を、腕の内側を上方に向けた状態で肘から手首の手前までを冶具で固定した。ただし手首の関節は可動にした。手を軽く握った状態で肘から手指の付け根までを水平な状態にして、前腕部の内側に実施例1を貼付した。この状態、すなわち上腕部内側の皮膚を伸展させていない状態を「Original」とした。図4左列2段目にOriginalの上腕部内側の実施例1の貼付領域の写真を示す。また図4中央列2段目は同貼付領域の一部の顕微鏡写真の図である。
【実施例】
【0070】
Originalにおいて、伸展方向に隣り合う2つの標識(ドット)を1対とし、該標識間距離を、MS-200高機能ソフトを用いて測定した。測定は3対の標識間距離について行った。本明細書では、伸展運動前の標識間距離を標識間距離Bとした。
【実施例】
【0071】
続いて、図3(a)に示す状態から、図3(b)に示すように、手を軽く握ったまま手の甲が下方に70°傾くように手首を曲げて、上腕部内側の皮膚を伸展させた。この状態を「Extended」とした。図4右列2段目は、Extendedの上腕部内側の実施例1の貼付領域の一部分の顕微鏡写真である。なお本伸展率試験の説明において「伸展方向」とはヒトの前腕筋の伸展方向をいい、図4中、Extendedの顕微鏡写真中に白矢印で示した。
【実施例】
【0072】
Extendedにおいても、Originalと同様に標識間距離を測定した。本明細書では、伸展運動後の標識間距離を標識間距離Aとした。標識間距離Bと標識間距離Aとを用いて、下記式により伸展率を算出した。
伸展率(%)=(標識間距離A-標識間距離B)/標識間距離B×100
【実施例】
【0073】
上記の伸展運動を15回繰り返し、1回の伸展運動につき3対分の伸展率を算出した。すなわち実施例1について45の伸展率を求めた。これらの伸展率の平均値を実施例1の平均値とした。
【実施例】
【0074】
同じ被験者に対し、参考例1、および比較例1、2に標識を形成した場合も実施例1と同じ方法で伸展率を得た。図5は、参考例1の伸展率を100%として、実施例と各比較例とを指数化したグラフである。図5に示されるように、参考例の伸展率を100%とするとき、実施例1の伸展率は88%であった。これに対し比較例1の伸展率は59%、比較例2の伸展率は4.9%であった。この結果から、実施例1の伸展率が各比較例と比較して、皮膚の伸展率にきわめて近いことが分かった。
【実施例】
【0075】
<実施例2>
実施例1で用いたものと同じ高分子薄膜に、インクジェットプリンター(Fujifilm社製、DMP-2831)で標識パターンを印刷し、9cm(3cm x 3cm)に切り出して実施例2とした。実施例2の標識パターンは、金インクを、直径0.1~0.2mmのドット25個を3mm間隔で格子状に分散させて印刷することにより形成した。
【実施例】
【0076】
<参考例2>
ヒトの前腕部の内側の皮膚表面に、実施例2と同様の標識パターンを直接手書きし、参考例2とした。
【実施例】
【0077】
<比較例3>
比較例1と同じシリコーンゴムシートに、インクジェットプリンターで、金インクを、1mm×2mmの長方形25個を3mm間隔で格子状に分散させた印刷することにより標識パターンを形成したものを切り出し、比較例3とした。
【実施例】
【0078】
<比較例4>
実施例2と同様の標識パターンを、比較例2と同じポリイミドフィルムに、実施例2と同様にインクジェットプリンターで印刷し、比較例4とした。
【実施例】
【0079】
実施例1と同様の方法で、参考例2、実施例2、比較例3および比較例4によるマーキングの正確性を確認する試験を行った。図6は、OriginalとExtendedとにおける該伸展率測定試験のための伸展運動前後における、参考例2、実施例2、比較例3および比較例4により標識パターンが付与されたヒトの前腕部の皮膚の一部の顕微鏡写真の図である。
【実施例】
【0080】
図6中、白矢印は皮膚の伸展方向である。実施例1と同じ方法で、参考例2、実施例2、比較例3および比較例4の伸展率を算出し、参考例2の伸展率を100%として、実施例2、比較例3および比較例4の伸展率を指数化した。なお比較例3の標識間距離は、肘側標識の手首側外縁と手首側標識の肘側外縁との距離を標識間距離とした。図7に実施例2、参考例2、比較例3、比較例4の伸展率を示す。図7において、参考例2の伸展率を100%としたとき、実施例2の伸展率は73%、比較例3の伸展率は52%、比較例4の伸展率は2.2%であった。この結果から、実施例2の伸展率が各比較例と比較して、皮膚の伸展率にきわめて近いことが分かった。
【実施例】
【0081】
上記の各実施例、比較例の試験結果から、本発明により形成される標識及び標識パターンは、物体に直接マーキングしたときと同様の正確さで標識を付与できることを確認できた。従って本発明は、該標識又は標識パターンから、測定対象の極めて精密な座標データを取得できる。また該座標データを利用して、物体の二次元モデルおよび三次元モデルを構築できる。これにより本発明は、外科手術における施術領域のマーキング等の医療用デバイス用途、整形手術時の施術領域のマーキング等の美容用デバイス用途、介護用ロボット、柔軟材料のひずみ計測等のソフトロボッティクス用途、アスリートの運動計測用のモーションキャプチャ等のスポーツ応用用途等に好適である。
【実施例】
【0082】
<膜厚と密着エネルギーの相関性>
本発明の密着エネルギーを測定するため、下記の方法で(ポリジメチルシロキサン、Polydimethylpolysiloxane、PDMS)を主剤とする組成物を用いて、膜厚の異なるシリコーン薄膜(PDMS薄膜)4種類と、ポリ乳酸(Poly-DL-lactic acid、PDLLA)薄膜1種類を製膜し、実施例3~7とした。
【実施例】
【0083】
PDMS薄膜の製膜では、グラビアコーターを用いた。まずPETフィルム上に犠牲層となるポリビニルアルコール(PVAの3wt%水溶液)を製膜した。続いてPDMS(東レ・ダウコーニング株式会社製SILPOT 184)を主剤と硬化剤の重量比10:1で配合した組成物をヘキサン/酢酸エチル混合溶媒(混合比4/1)にてPDMS濃度が15wt%になるように希釈し、PVA層の上に幅12cm、長さ約10mにて製膜した。その後、オーブンにて80℃で12時間以上加熱することで熱硬化させた。
【実施例】
【0084】
PVA及びPDMSが製膜されたPETフィルムの上に、裏面に糊のついたテープ状フレームを貼付し、60℃に加熱した水中に浸漬させることでPVA層を溶解させ、フレームにて自立性のPDMS薄膜(縦:4cm、横:4cm、面積:16cm)を得て、実施例3とした。実施例3のPDMS薄膜の膜厚は561nmであった。実施例3を生体組織(鶏肉筋層)に貼付後、引張試験機(装置名:EZ-S, Shimadzu)で実施例3を生体組織から引き上げた。PDMS薄膜が生体組織から完全に剥離するまでに必要な仕事量を密着エネルギーとして算出した。実施例3の密着エネルギーは、10.54μJであった。
【実施例】
【0085】
実施例3で用いたものと同じPDMSとヘキサン/酢酸エチル混合溶媒により、PDMSを濃度30wt%に希釈したPDMS希釈液を用いたほかは、実施例3と同様の方法で実施例4のPDMS薄膜を得た。実施例4の膜厚は、1612nmで、密着エネルギーは、8.25μJであった。
【実施例】
【0086】
実施例3で用いたものと同じPDMSとヘキサン/酢酸エチル混合溶媒により、PDMSを濃度50wt%に希釈したPDMS希釈液を用いたほかは、実施例3と同様の方法で実施例5のPDMS薄膜を得た。実施例5の膜厚は、50μmで、密着エネルギーは、7.26μJであった。
【実施例】
【0087】
実施例3で用いたものと同じPDMSとヘキサン/酢酸エチル混合溶媒により、PDMSを濃度50wt%に希釈したPDMS希釈液を用いてキャスト法で製膜したほかは、実施例3と同様の方法で実施例6のPDMS薄膜を得た。実施例6の膜厚は、800μmで、密着エネルギーは、2.19μJであった。
【実施例】
【0088】
PDLLA薄膜の製膜では、グラビアコーターを用いた。まず、PETフィルム上に犠牲層となるポリビニルアルコール(PVAの3wt%水溶液)を製膜した。続いてPDLLA(Polyscience社製分子量300,000-600,000)を酢酸エチル溶媒にてPDLLA濃度が2wt%になるように希釈し、PVA層の上に幅12cm、長さ約10mにて製膜した。
【実施例】
【0089】
PVA及びPDMSが製膜されたPETフィルムの上に、裏面に糊のついたテープ状フレームを貼付し、60℃に加熱した水中に浸漬させることでPVA層を溶解させ、フレームにて自立性のPDLLA薄膜(縦:4cm、横:4cm、面積:16cm)を得て、実施例7とした。実施例7のPDLLA薄膜の膜厚は200nmであった。なお、PDLLA薄膜の製膜方法については、Miyazakiら、 Wound Rep Reg 20 573-579 (2012)を参照できる。実施例7を生体組織(鶏肉筋層)に貼付後、引張試験機(装置名:EZ-S, Shimadzu)で実施例7を生体組織から引き上げた。PDLLA薄膜が生体組織から完全に剥離するまでに必要な仕事量を密着エネルギーとして算出した。実施例7の密着エネルギーは、71.09μJであった。
【実施例】
【0090】
図8に、PDMS薄膜を用いた膜厚と密着エネルギーの相関関係を示す図を示す。図8に示されるように、PDMS薄膜の膜厚が小さくなるにしたがって密着エネルギーが大きくなることを確認できた。
【実施例】
【0091】
<薄膜の追従性>
SBS薄膜を下記の方法で製膜し、人口皮膚に対する追従性を評価した。
【実施例】
【0092】
SBS薄膜の製膜では、まず、グラビアコーターを用いて、PETフィルム上に犠牲層となるポリビニルアルコール(PVAの2wt%水溶液)を製膜した。続いて主剤としてのSBS(重量平均分子量M140000、シグマアルドリッチジャパン製)を配合した組成物をテトラヒドロフランで希釈した。2種類のSBS濃度の該希釈溶液を調製し、各SBS濃度は、2質量%、4質量%とした。該SBS希釈溶液をPVA層の上に製膜し、その後、PVA及びSBSが製膜されたPETフィルムを水中に浸漬させることでPVA層を溶解させ、自立性のSBS薄膜を得た。得られたSBS薄膜を実施例8、実施例9とした。2質量%のSBS希釈溶液を用いた実施例8の膜厚は212nm、4質量%のSBS希釈溶液を用いた実施例9の膜厚は690nmであった。
【実施例】
【0093】
上記の実施例8、実施例9のSBS薄膜をそれぞれ人口皮膚(ウレタンエラストマー、表面粗さR10.6μm、最大応力0.95MPa、伸び480%、Bioskin(登録商標)、Beaulax Co., Ltd.製)に貼付し、人口皮膚表面に貼付された各薄膜における人口皮膚の表面粗さの現れ方をSEM(キーエンス社製 VE-9800)で観察した。人工皮膚の表面粗さが明確に表れた薄膜ほど、追従性が高いと評価した。図9は本発明の実施例を人口皮膚に貼付させた状態の写真図である。図9において、図9(a)は実施例8が、図9(b)は実施例9がそれぞれ人口皮膚に貼付された状態を示す。
【実施例】
【0094】
図9(a)と図9(b)を比較すると、図9(a)の方が人口皮膚の表面粗さが明確にあらわれた。これにより膜厚が薄いSBS薄膜の方が膜厚が厚いものと比較して追従性が高いことが分かった。
【符号の説明】
【0095】
1 物体マーキング用高分子薄膜
2 高分子膜
3 マーキング領域
4 標識
10 物体マーキング用高分子薄膜
20 検出デバイス
30 画像解析システム
31 入力部
32 コントローラ
33 出力部
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8