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明細書 :酵母の液胞トランスポーターシャペロン複合体の機能欠損による発酵促進方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 再公表特許(A1)
発行日 平成31年1月17日(2019.1.17)
発明の名称または考案の名称 酵母の液胞トランスポーターシャペロン複合体の機能欠損による発酵促進方法
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12N  15/31        (2006.01)
C12P   7/06        (2006.01)
C12G   3/00        (2019.01)
A23L  33/14        (2016.01)
C12N   1/19        (2006.01)
C12Q   1/02        (2006.01)
C12Q   1/6876      (2018.01)
FI C12N 15/09 ZNA
C12N 15/31
C12P 7/06
C12G 3/00
A23L 33/14
C12N 1/19
C12Q 1/02
C12Q 1/6876 Z
国際予備審査の請求 未請求
全頁数 27
出願番号 特願2017-566935 (P2017-566935)
国際出願番号 PCT/JP2017/004212
国際公開番号 WO2017/138489
国際出願日 平成29年2月6日(2017.2.6)
国際公開日 平成29年8月17日(2017.8.17)
優先権出願番号 2016025324
優先日 平成28年2月12日(2016.2.12)
優先権主張国 日本国(JP)
指定国 AP(BW , GH , GM , KE , LR , LS , MW , MZ , NA , RW , SD , SL , ST , SZ , TZ , UG , ZM , ZW) , EA(AM , AZ , BY , KG , KZ , RU , TJ , TM) , EP(AL , AT , BE , BG , CH , CY , CZ , DE , DK , EE , ES , FI , FR , GB , GR , HR , HU , IE , IS , IT , LT , LU , LV , MC , MK , MT , NL , NO , PL , PT , RO , RS , SE , SI , SK , SM , TR) , OA(BF , BJ , CF , CG , CI , CM , GA , GN , GQ , GW , KM , ML , MR , NE , SN , TD , TG) , AE , AG , AL , AM , AO , AT , AU , AZ , BA , BB , BG , BH , BN , BR , BW , BY , BZ , CA , CH , CL , CN , CO , CR , CU , CZ , DE , DJ , DK , DM , DO , DZ , EC , EE , EG , ES , FI , GB , GD , GE , GH , GM , GT , HN , HR , HU , ID , IL , IN , IR , IS , JP , KE , KG , KH , KN , KP , KR , KW , KZ , LA , LC , LK , LR , LS , LU , LY , MA , MD , ME , MG , MK , MN , MW , MX , MY , MZ , NA , NG , NI , NO , NZ , OM , PA , PE , PG , PH , PL , PT , QA , RO , RS , RU , RW , SA , SC , SD , SE , SG , SK , SL , SM , ST , SV , SY , TH , TJ , TM , TN , TR , TT , TZ
発明者または考案者 【氏名】渡辺 大輔
【氏名】高木 健一
【氏名】高木 博史
出願人 【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100088904、【弁理士】、【氏名又は名称】庄司 隆
【識別番号】100124453、【弁理士】、【氏名又は名称】資延 由利子
【識別番号】100135208、【弁理士】、【氏名又は名称】大杉 卓也
審査請求 未請求
テーマコード 4B018
4B063
4B064
4B065
Fターム 4B018LB01
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4B018MD91
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4B065AC20
4B065BA02
4B065CA06
4B065CA42
4B065CA54
要約 本発明は、酵母による発酵能、エタノール生産性を向上させるための方法に関する。より具体的には、酵母において、液胞トランスポーターシャペロン複合体(VTC複合体)の機能を低下又は喪失させることを含む、酵母の発酵能を向上させる方法、酵母においてVTC複合体の機能が低下又は喪失している条件で、アルコール発酵を行うことを含む、酵母を用いた発酵産物の製造方法、酵母において、遺伝子変異を行うことにより、VTC複合体の機能を低下又は喪失させることを含む、発酵用酵母の作製方法、遺伝子変異により、VTC複合体の機能が低下又は喪失した酵母、酵母の発酵能を向上させるための薬剤のスクリーニング方法に関する。
特許請求の範囲 【請求項1】
酵母において、液胞トランスポーターシャペロン複合体(VTC複合体)の機能を低下又は喪失させることを含む、酵母の発酵能を向上させる方法。
【請求項2】
酵母のVTC複合体の機能の低下又は喪失が、複数の構成因子から形成されるVTC複合体の形成阻害によるものである、請求項1に記載の酵母の発酵能を向上させる方法。
【請求項3】
酵母のVTC複合体の機能の低下又は喪失が、酵母において遺伝子変異を導入することにより、VTC複合体の構成因子をコードする遺伝子から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現量を低下させることによるものである、請求項1または2に記載の酵母の発酵能を向上させる方法。
【請求項4】
酵母における遺伝子変異が、VTC複合体の構成因子をコードする遺伝子から選択される少なくとも1つの遺伝子の破壊である、請求項3に記載の酵母の発酵能を向上させる方法。
【請求項5】
VTC複合体の構成因子をコードする遺伝子から選択される少なくとも1つの遺伝子が、VTC1遺伝子、VTC2遺伝子、VTC3遺伝子、VTC4遺伝子からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子である、請求項3又は4に記載の酵母の発酵能を向上させる方法。
【請求項6】
VTC複合体の構成因子をコードする遺伝子から選択される少なくとも1つの遺伝子が、以下の(a)~(e)からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子である、請求項2~5のいずれかに記載の酵母の発酵能を向上させる方法:
(a)配列番号1~4のいずれかに記載のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを含む遺伝子;
(b)配列番号1~4のいずれかに記載のアミノ酸配列において1又は数個以上のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを含む遺伝子;
(c)配列番号1~4のいずれかに記載のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを含む遺伝子;
(d)配列番号5~8のいずれかに記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含む遺伝子;
(e)上記(a)~(d)からなる群から選択されるいずれかのポリヌクレオチドと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドを含む遺伝子。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の酵母の発酵能を向上させる方法を含む、酵母を用いて発酵産物を製造する方法であって、酵母においてVTC複合体の機能が低下又は喪失している条件で、アルコール発酵を行うことを含む、発酵産物の製造方法。
【請求項8】
発酵産物がエタノールである、請求項7に記載の発酵産物の製造方法。
【請求項9】
発酵産物が発酵飲料又は発酵食品である、請求項7に記載の発酵産物の製造方法。
【請求項10】
酵母において、遺伝子変異を導入することにより、VTC複合体の機能を低下又は喪失させることを含む、アルコール発酵用酵母の作製方法。
【請求項11】
遺伝子変異により、VTC複合体又はVTC複合体の構成因子の機能が低下又は喪失した、アルコール発酵用酵母。
【請求項12】
遺伝子変異が、VTC複合体の構成因子をコードする遺伝子から選択される少なくとも1つの遺伝子の破壊である、請求項11に記載のアルコール発酵用酵母。
【請求項13】
遺伝子変異により、VTC複合体の機能が低下又は喪失した酵母であり、醸造酵母、パン酵母、又はバイオエタノール酵母のいずれかである酵母。
【請求項14】
請求項11~13のいずれかに記載の酵母を含有する、アルコール発酵用組成物。
【請求項15】
酵母の発酵能を向上させるための薬剤のスクリーニング方法であって、被験化合物をVTC複合体に作用させる工程を含み、当該被験化合物がVTC複合体の機能を低下又は喪失させることを指標とする、スクリーニング方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、酵母の液胞トランスポーターシャペロン複合体の機能欠損によって発酵能を向上させる方法に関する。
【0002】
本出願は、参照によりここに援用されるところの日本出願、特願2016-025324号優先権を請求する。
【背景技術】
【0003】
近年、酵母サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)において、液胞トランスポーターシャペロン複合体(以下「VTC複合体」)が見出された。VTC複合体は、Vtc1p、Vtc2p、Vtc3p、Vtc4pにより構成されるタンパク質複合体である。VTC複合体は、液胞型プロトンATPaseの安定性の維持や、タンパク質の輸送、ミクロオートファジー、液胞内へのポリリン酸の蓄積に関与することが報告されている(非特許文献1、2、3、4)。非特許文献1では、実験室株の酵母W303株を用いて、Vtc1pをコードするVTC1遺伝子の破壊株が作製され、VTC複合体についての解析が行われている。
【0004】
酵母は、パン生地等や清酒をはじめとする酒類等の発酵食品やバイオエタノール等の製造に用いられている。発酵食品やバイオエタノールの製造においては、一般的に、ブドウ糖などの糖類をサッカロミセス属の酵母によりエタノールと二酸化炭素に分解するアルコール発酵の工程が用いられる。
【0005】
酵母によるアルコール発酵速度を高めることは、発酵食品やバイオエタノールの生産性の向上に直結する。酵母のアルコール発酵を促進する方法として、遺伝子組換え酵母を作製する方法が検討されている。本発明者らは、酵母のストレス応答性を改変することによりアルコール発酵を促進し得ることを見出し、ストレス応答転写因子をコードするMSN2遺伝子又はMSN4遺伝子を破壊した酵母(特許文献1)や、酵母の増殖が停止する定常期への移行に関する定常期移行促進因子をコードするIGO1遺伝子又はIGO2遺伝子を破壊した酵母(特許文献2)を作製した。しかしながら、ストレス応答性を改変する方法では、酵母のアルコール発酵の促進には限界があり、酵母のアルコール発酵を効果的に促進する方法の開発が望まれる。
【0006】
酵母においてどの遺伝子がアルコール発酵に関連しているかは未だ解明されておらず、アルコール発酵とVTC複合体との関連性についての報告もない。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特許第5585952号公報
【特許文献2】特許第5828447号公報
【0008】

【非特許文献1】Cohen A, Perzov N, Nelson H, Nelson N. J Biol Chem, 274(38) 26885-26893 (1999).
【非特許文献2】Mueller O, Neumann H, Bayer MJ, Mayer A. J Cell Sci, 116(Pt 6) 1107-1115 (2003).
【非特許文献3】Uttenweiler A, Schwarz H, Neumann H, Mayer A. Mol Biol Cell, 18(1) 166-175 (2007)
【非特許文献4】Hothorn M, Neumann H, Lenherr ED, Wehner M, Rybin V, Hassa PO, Uttenweiler A, Reinhardt M, Schmidt A, Seiler J, Ladumer AG, Hermann C, Scheffzek K, Mayer A. Science, 324(5926) 513-516 (2009).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、酵母の発酵能を向上させる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、酵母のVTC複合体の構成因子をコードする遺伝子を破壊することにより、顕著なアルコール発酵の促進をもたらすことを着目し、酵母のVTC複合体の機能を低下又は喪失させることにより、酵母のアルコール発酵能を向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
1. 酵母において、液胞トランスポーターシャペロン複合体(VTC複合体)の機能を低下又は喪失させることを含む、酵母の発酵能を向上させる方法。
2. 酵母のVTC複合体の機能の低下又は喪失が、複数の構成因子から形成されるVTC複合体の形成阻害によるものである、前項1に記載の酵母の発酵能を向上させる方法。
3. 酵母のVTC複合体の機能の低下又は喪失が、酵母において遺伝子変異を導入することにより、VTC複合体の構成因子をコードする遺伝子から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現量を低下させることによるものである、前項1または2に記載の酵母の発酵能を向上させる方法。
4. 酵母における遺伝子変異が、VTC複合体の構成因子をコードする遺伝子から選択される少なくとも1つの遺伝子の破壊である、前項3に記載の酵母の発酵能を向上させる方法。5. VTC複合体の構成因子をコードする遺伝子から選択される少なくとも1つの遺伝子が、VTC1遺伝子、VTC2遺伝子、VTC3遺伝子、VTC4遺伝子からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子である、前項3又は4に記載の酵母の発酵能を向上させる方法。
6. VTC複合体の構成因子をコードする遺伝子から選択される少なくとも1つの遺伝子が、以下の(a)~(e)からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子である、前項2~5のいずれかに記載の酵母の発酵能を向上させる方法:
(a)配列番号1~4のいずれかに記載のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを含む遺伝子;
(b)配列番号1~4のいずれかに記載のアミノ酸配列において1又は数個以上のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを含む遺伝子;
(c)配列番号1~4のいずれかに記載のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを含む遺伝子;
(d)配列番号5~8のいずれかに記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含む遺伝子;
(e)上記(a)~(d)からなる群から選択されるいずれかのポリヌクレオチドと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドを含む遺伝子。
7. 前項1~6のいずれかに記載の酵母の発酵能を向上させる方法を含む、酵母を用いて発酵産物を製造する方法であって、酵母においてVTC複合体の機能が低下又は喪失している条件で、アルコール発酵を行うことを含む、発酵産物の製造方法。
8. 発酵産物がエタノールである、前項7に記載の発酵産物の製造方法。
9. 発酵産物が発酵飲料又は発酵食品である、前項7に記載の発酵産物の製造方法。
10. 酵母において、遺伝子変異を導入することにより、VTC複合体の機能を低下又は喪失させることを含む、アルコール発酵用酵母の作製方法。
11. 遺伝子変異により、VTC複合体又はVTC複合体の構成因子の機能が低下又は喪失した、アルコール発酵用酵母。
12. 遺伝子変異が、VTC複合体の構成因子をコードする遺伝子から選択される少なくとも1つの遺伝子の破壊である、前項11に記載のアルコール発酵用酵母。
13. 遺伝子変異により、VTC複合体の機能が低下又は喪失した酵母であり、醸造酵母、パン酵母、又はバイオエタノール酵母のいずれかである酵母。
14. 前項11~13のいずれかに記載の酵母を含有する、アルコール発酵用組成物。
15. 酵母の発酵能を向上させるための薬剤のスクリーニング方法であって、被験化合物をVTC複合体に作用させる工程を含み、当該被験化合物がVTC複合体の機能を低下又は喪失させることを指標とする、スクリーニング方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の方法により、酵母において、VTC複合体の機能を低下又は喪失させた状態で発酵を行うことにより、効率的に発酵を促進させることができる。さらに、本発明により効率的に発酵を行うことにより、酵母の発酵を経て製造される発酵産物を良好に生産することができる。また本発明により、発酵能及びエタノール生産性の高い酵母の作製を体系的に行うことも可能となる。本発明に基づき作製されたVTC複合体の機能を低下又は喪失させた酵母は、様々な発酵食品、発酵飲料の製造、バイオエタノールの製造に有用であり、特に醸造において極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】VTC1遺伝子破壊株、VTC2遺伝子破壊株、VTC3遺伝子破壊株、VTC4遺伝子破壊株の発酵試験結果を示す図である。(実施例1)
【図2】VTC1遺伝子破壊パン酵母株の発酵試験結果を示す図である。(実施例2)
【図3】VTC1遺伝子破壊バイオエタノール酵母株の発酵試験結果を示す図である。(実施例3)
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明において、酵母の各遺伝子の破壊株から成る酵母遺伝子破壊株ライブラリーを用いて実験室条件下で発酵試験を行い、各遺伝子破壊がアルコール発酵に与える影響を解析したところ、VTC複合体の構成因子をコードする各遺伝子の破壊が顕著なアルコール発酵の促進をもたらすことを明らかにした。本発明はかかる知見に基づき達成されたものであり、酵母において、VTC複合体の機能を低下又は喪失させることにより、酵母の発酵能を向上させる方法に関するものである。以下、本発明を詳細に説明する。

【0015】
[1.液胞トランスポーターシャペロン複合体(VTC複合体)]
VTC複合体は、液胞膜に存在する液胞トランスポーターシャペロン複合体であり、酵母サッカロミセス・セレビシエにおいて見出された。VTC複合体は、2以上の複数の構成因子から形成されるタンパク質複合体であり、各構成因子は分子量の比較的小さい膜透過タンパク質である。例えば、サッカロミセス・セレビシエのVTC複合体は、Vtc1p、Vtc2p、Vtc3p、Vtc4pの4つの構成因子により形成される。VTC複合体の形成には、各構成因子をコードする遺伝子の2以上が、それぞれ構成因子を発現し、発現した各構成因子が相互作用をすることが必要であると考えられている。例えば、サッカロミセス・セレビシエでは、VTC複合体を形成するには、Vtc2p又はVtc3pのいずれか一方、Vtc1p、及びVtc4pが発現していること必要であると考えられている(非特許文献1)。

【0016】
VTC複合体としては具体的には、Vtc1p、Vtc2p、Vtc3p、Vtc4pの4つの構成因子により形成されるものが挙げられる。Vtc1p、Vtc2p、Vtc3p、Vtc4pタンパク質は、液胞トランスポーターシャペロン複合体の構成因子として機能する。本発明のVTC複合体における構成因子はそれぞれ、以下の(A)~(C)に示されるタンパク質から選択されるタンパク質である:
(A)配列番号1~4のいずれかに記載のアミノ酸配列からなるタンパク質;
(B)配列番号1~4のいずれかに記載のアミノ酸配列において、1又は数個以上のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質;又は、
(C)配列番号1~4のいずれかに記載のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質。

【0017】
上記(A)のタンパク質に関し、配列表に示される配列番号1~4は、サッカロミセス・セレビシエ由来のVtc1p、Vtc2p、Vtc3p、Vtc4pタンパク質のそれぞれのアミノ酸配列を示す。Vtc1p、Vtc2p、Vtc3p、Vtc4pタンパク質は、VTC複合体の構成因子として機能する。

【0018】
上記(B)又は(C)のタンパク質は、配列番号1~4のいずれかに示すアミノ酸配列を有するタンパク質に関して、機能的に同等の変異体、誘導体、バリアント、アレル、ホモログ、オルソログ、部分ペプチド、又は、他のタンパク質若しくはペプチドとの融合タンパク質であって、液胞トランスポーターシャペロン複合体の構成因子をコードする遺伝子を意図しており、その具体的なアミノ酸配列については限定されない。

【0019】
ここで、上記(B)における置換、欠失、挿入及び/又は付加されてもよいアミノ酸の数としては、上記機能を失わせない限り、その個数は制限されないが、部位特異的突然変異誘発法等の公知の変異導入法により置換、欠失、挿入及び/又は付加できる程度の数をいう。通常は、30アミノ酸以内であり、好ましくは20アミノ酸以内であり、さらに好ましくは10アミノ酸以内であり、最も好ましくは5アミノ酸以内(例えば、5,4,3,2又は1アミノ酸以内)である。変異を導入したタンパク質が酵母に所望の形質を付与するかどうかは、そのタンパク質をコードする遺伝子を発現させ、VTC複合体を構成し、VTC複合体が機能するかどうかを調べることにより判断できる。また、ここでいう「変異」は、主には部位特異的突然変異誘発法等により人為的に導入された変異を意味するが、天然に存在する同様の変異であってもよい。そして、「変異」は、構成因子をコードする遺伝子の破壊を含む。

【0020】
変異するアミノ酸残基においては、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に変異されることが好ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y及びV)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S及びT)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I及びP)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T及びY)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C及びM)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E及びQ)、塩基含有側鎖を有するアミノ酸(R、K及びH)、並びに芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y及びW)を挙げることができる。さらに、例えば、変異マトリクス(mutational matrix)によってアミノ酸を分類することも周知である(Taylor 1986, J, Theor. Biol. 119, 205-218; Sambrook, J. et al., Molecular Cloning 3rd ed. A7.6-A7.9, Cold Spring Harbor Lab. Press, 2001)。この分類を以下に要約すると、脂肪族アミノ酸(L、I及びV)、芳香族アミノ酸(H、W、Y及びF)、荷電アミノ酸(D、E、R、K及びH)、正荷電アミノ酸(R、K及びH)、負荷電アミノ酸(D及びE)、疎水性アミノ酸(H、W、Y、F、M、L、I、V、C、A、G、T及びK)、極性アミノ酸(T、S、N、D、E、Q、R、K、H、W及びY)、小型アミノ酸(P、V、C、A、G、T、S、N及びD)、並びに微小アミノ酸(A、G及びS)及び大型(非小型)アミノ酸(Q、E、R、K、H、W、Y、F、M、L及びI)が挙げられる。なお、上記括弧内はいずれもアミノ酸の一文字標記を表す。

【0021】
あるアミノ酸配列に対する1又は複数個のアミノ酸残基の欠失、挿入、付加及び/又は他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有するポリペプチドがその生物学的活性を維持することはすでに知られている。さらに、標的アミノ酸残基は、共通した性質をできるだけ多く有するアミノ酸残基に変異させることがより好ましい。

【0022】
本明細書において「機能的に同等」とは、対象となるタンパク質が、Vtc1p、Vtc2p、Vtc3p、又はVtc4pタンパク質と同等(同一及び/又は類似)の生物学的機能及び/又は生化学的機能を有することを意図する。本明細書において、Vtc1p、Vtc2p、Vtc3p、又はVtc4pタンパク質の生物学的機能及び/又は生化学的機能としては、例えばVTC複合体を構成し、VTC複合体を機能させることを挙げることができる。生物学的な性質には発現する部位の特異性及び/又は発現量等も含まれ得る。

【0023】
上記(C)におけるアミノ酸配列の相同性は、アミノ酸配列全体(若しくは機能発現に必要な領域)で、少なくとも80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは、95%、96%、97%、98%、99%又は99.5%以上の配列の同一性を有する。配列の相同性は、BLASTN(核酸レベル)又はBLASTX(アミノ酸レベル)のプログラム(Altschul et al. J. Mol. Biol., 215: 403-410, 1990)を利用して決定することができる。該プログラムは、Karlin及びAltschulによるアルゴリズムBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87:2264-2268, 1990, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 5873-5877, 1993)に基づいている。BLASTNによって塩基配列を解析する場合には、パラメーターは例えばscore = 100、wordlength =12とする。また、BLASTXによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメーターは例えばscore = 50、wordlength = 3とする。また、Gapped BLASTプログラムを用いて、アミノ酸配列を解析する場合は、Altschulら(Nucleic Acids Res. 25: 3389-3402, 1997)に記載されているように行うことができる。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である。比較対象の塩基配列又はアミノ酸配列を最適な状態にアラインメントするために、付加又は欠失(例えば、ギャップ等)を許容してもよい。

【0024】
また、本明細書において「相同性」とは、性質が類似のアミノ酸残基数の割合(homology、positive等)を意図しているが、より好ましくは、一致したアミノ酸残基数の割合(identity)である。なお、アミノ酸の性質については上述したとおりである。

【0025】
VTC複合体の構成因子をコードする遺伝子は、Vtc1p、Vtc2p、Vtc3p、Vtc4pタンパク質のいずれかをコードする遺伝子であればいかなるものであってもよい。より具体的には、本発明のVTC複合体の構成因子をコードする遺伝子は、それぞれ、以下の(a)~(e)に示されるポリヌクレオチドから選択される遺伝子である:
(a)配列番号1~4のいずれかに記載のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを含む遺伝子;
(b)配列番号1~4のいずれかに記載のアミノ酸配列において1又は数個以上のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入及び/又は付加されたアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを含む遺伝子;
(c)配列番号1~4のいずれかに記載のアミノ酸配列と80%以上の相同性を有するアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドを含む遺伝子;
(d)配列番号5~8のいずれかに記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含む遺伝子;
(e)上記(a)~(d)からなる群から選択されるいずれかのポリヌクレオチドと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドを含む遺伝子。

【0026】
上記(a)~(c)の遺伝子は、上記(A)~(C)のタンパク質をコードする遺伝子である。

【0027】
上記(d)の遺伝子に関し、配列表に示される配列番号5は、サッカロミセス・セレビシエ由来のVtc1p(配列番号1に示すアミノ酸配列を有するタンパク質)をコードするVTC1遺伝子の塩基配列(ORF)を、配列番号6は、サッカロミセス・セレビシエ由来のVtc2p(配列番号2に示すアミノ酸配列を有するタンパク質)をコードするVTC2遺伝子の塩基配列(ORF)を、配列番号7は、サッカロミセス・セレビシエ由来のVtc3p(配列番号3に示すアミノ酸配列を有するタンパク質)をコードするVTC3遺伝子の塩基配列(ORF)を、配列番号8は、サッカロミセス・セレビシエ由来のVtc4p(配列番号4に示すアミノ酸配列を有するタンパク質)をコードするVTC4遺伝子の塩基配列(ORF)をそれぞれ示す。なお、ORFとは、オープンリーディングフレームを意味する。後述する実施例に示すように、本発明においては、VTC1遺伝子、VTC2遺伝子、VTC3遺伝子及びVTC4遺伝子からなる群から選ばれる少なくとも1つの遺伝子を破壊、又は該遺伝子の発現量を低下させると、酵母の発酵能が向上すること及びエタノール生産性が向上することが見出された。

【0028】
VTC1遺伝子、VTC2遺伝子、VTC3遺伝子及びVTC4遺伝子は酵母全般にわたって広く存在すると考えられる。つまり、本発明に係る遺伝子には、種々の酵母に存在する、VTC1遺伝子、VTC2遺伝子、VTC3遺伝子及びVTC4遺伝子の相同遺伝子も含まれる。ここで、相同遺伝子を単離するための当業者によく知られた方法としては、ハイブリダイゼーション技術(Southern, E. M., Journal of Molecular Biology, Vol. 98, 503, 1975)及びポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術(Saiki, R. K., et al. Science, vol. 230, 1350-1354, 1985, Saiki, R. K. et al. Science, vol.239, 487-491,1988)が挙げられる。すなわち、当業者にとっては、VTC1遺伝子、VTC2遺伝子、VTC3遺伝子及びVTC4遺伝子の塩基配列(例えば、配列番号5~8に記載の塩基配列)若しくはその一部をプローブとして、またVTC1遺伝子、VTC2遺伝子、VTC3遺伝子若しくはVTC4遺伝子と特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドをプライマーとして、種々の酵母からVTC1遺伝子、VTC2遺伝子、VTC3遺伝子及びVTC4遺伝子の相同遺伝子を単離することは通常行い得る。

【0029】
上記(e)の遺伝子は、上記(a)~(d)のいずれかのポリヌクレオチドと相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするタンパク質をコードする遺伝子を意図している。

【0030】
ここで、ストリンジェントな条件とは、いわゆる塩基配列に特異的な2本鎖のポリヌクレオチドが形成され、非特異的な2本鎖のポリヌクレオチドが形成されない条件をいう。換言すれば、相同性が高い核酸同士、例えば完全にマッチしたハイブリッドの融解温度(Tm値)から15℃、好ましくは10℃、更に好ましくは5℃低い温度までの範囲の温度でハイブリダイズする条件ともいえる。例えば、一般的なハイブリダイゼーション用緩衝液中で、68℃、20時間の条件でハイブリダイズする条件を挙げることができる。一例を示すと、0.25M NaHPO,pH7.2,7%SDS,1mM EDTA,1×デンハルト溶液からなる緩衝液中で温度が60~68℃、好ましくは65℃、さらに好ましくは68℃の条件下で16~24時間ハイブリダイズさせ、さらに20mM NaHPO,pH7.2,1%SDS,1mM EDTAからなる緩衝液中で温度が60~68℃、好ましくは65℃、さらに好ましくは68℃の条件下で15分間の洗浄を2回行う条件を挙げることができる。他の例としては、25%ホルムアミド、より厳しい条件では50%ホルムアミド、4×SSC(塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム)、50mMHepes pH7.0、10×デンハルト溶液、20μg/ml変性サケ精子DNAを含むハイブリダイゼーション溶液中、42℃で一晩プレハイブリダイゼーションを行った後、標識したプローブを添加し、42℃で一晩保温することによりハイブリダイゼーションを行う。その後の洗浄における洗浄液及び温度条件は、「1×SSC、0.1%SDS、37℃」程度で、より厳しい条件としては「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」程度で、さらに厳しい条件としては「0.2×SSC、0.1%SDS、65℃」程度で実施することができる。このようにハイブリダイゼーションの洗浄の条件が厳しくなるほどプローブ配列と高い相同性を有するDNAの単離を期待し得る。ただし、上記SSC、SDS及び温度の条件の組み合わせは例示であり、当業者であれば、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーを決定する上記若しくは他の要素(例えば、プローブ濃度、プローブの長さ及びハイブリダイゼーション反応時間など)を適宜組み合わせることにより、上記と同様のストリンジェンシーを実現することが可能である。例えば、当業者であれば、Molecular Cloning(Sambrook, J. et al., Molecular Cloning :a Laboratory Manual 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 10 Skyline Drive Plainview, NY (1989))等を参照することにより、こうした遺伝子を容易に取得することができる。

【0031】
また、上記(e)の遺伝子は、上記(d)遺伝子(配列番号5~8に記載の塩基配列)と相同性において少なくとも80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは、95%、96%、97%、98%又は99%以上の配列の同一性を有することが好ましい。なお、配列番号5~8に記載の塩基配列との相同性は、FASTA検索又はBLAST検索により決定することができる。ポリヌクレオチドの塩基配列は、Science, 214: 1205 (1981)に記載されたジデオキシ法により決定され得る。

【0032】
また、本発明において利用する遺伝子は、上記タンパク質をコードするポリヌクレオチドのみからなるものであってもよいが、その他の塩基配列が付加されていてもよい。付加される塩基配列としては、特に限定されないが、標識(例えば、ヒスチジンタグ、Mycタグ又はFLAGタグなど)、融合タンパク質(例えば、ストレプトアビジン、シトクロム、GST、GFP又はMBPなど)、プロモーター配列、及びシグナル配列(例えば、小胞体移行シグナル配列、及び分泌配列など)をコードする塩基配列などが挙げられる。これらの塩基配列が付加される部位は特に限定されるものではなく、例えば、翻訳されるタンパク質のN末端であっても、C末端であってもよい。

【0033】
[2.酵母の発酵能を向上させる方法]
本発明において、VTC複合体の機能の低下又は喪失させることにより、酵母の発酵能を向上させる方法、すなわち酵母による発酵を促進させる方法を包含する。VTC複合体の機能の低下又は喪失とは、VTC複合体全体としての機能が低下又は喪失していること、及び、VTC複合体のいずれか1つの構成因子の機能が低下又は喪失していることのいずれであってもよい。また、VTC複合体の機能の低下又は喪失は、複数の構成因子から形成されるVTC複合体の形成阻害やVTC複合体の機能を阻害する因子によって引き起こされるものも含まれる。酵母のVTC複合体の機能の低下又は喪失の結果、例えば、発酵の促進が引き起こされる。発酵とは、酵母などの微生物がエネルギーを得るために有機化合物を分解して、アルコール類・有機酸類・二酸化炭素などを生成する過程である。本発明における発酵は、好ましくはアルコール発酵であり、より好ましくはエタノール発酵である。エタノール発酵は、酵母が利用可能なブトウ糖、果糖、ショ糖などの糖類に酵母を作用させて、エタノールと二酸化炭素を生成させる反応である。

【0034】
VTC複合体の機能、又はVTC複合体のいずれか1つの構成因子の機能としては、従来公知の機能であってもよいし、今後見出される新たな機能であってもよい。例えば、液胞型プロトンATPaseの安定性の維持や、タンパク質の輸送、ミクロオートファジー、液胞内へのポリリン酸の蓄積等が例示される(非特許文献1、2、3、4)。これらの機能の確認は、非特許文献1、2、3、4に開示された方法に基づき、確認することができる。さらに、本願で明らかにされた酵母のVTC複合体によるアルコール発酵調節機能及び、今後見出されるVTC複合体が本来有している機能の低下又は喪失を含む。

【0035】
酵母のVTC複合体の機能の低下又は喪失は、構成因子のいずれか1つをコードする遺伝子の発現抑制する手段によることが好ましい。当該遺伝子の発現の抑制は、当該遺伝子がコードする構成因子を発現する過程を抑制することを意味し、当該遺伝子の転写の抑制、当該遺伝子の翻訳の抑制等を含む。当該遺伝子の発現抑制は、何らかの薬剤等を酵母に接触させて行っても良いし、酵母において遺伝子変異を導入することにより行ってもよい。変異の導入は、遺伝子改変技術を用いて人工的に行われたものであってもよいし、天然に生じたものであってもよい。遺伝子の変異の導入は、酵母のVTC複合体の機能の低下又は喪失をもたらすものであればいかなるものであってもよい。

【0036】
遺伝子変異は、酵母のVTC複合体を形成する構成因子をコードする遺伝子から選択される遺伝子に導入されることが好ましい。酵母のVTC複合体を形成する構成因子をコードする遺伝子に変異を導入することにより、VTC複合体を形成する構成因子をコードする遺伝子の発現量の低下させることができる。当該遺伝子の発現量を低下させる遺伝子変異としては、当該遺伝子を破壊することが例示される。VTC複合体を形成する構成因子のいずれの遺伝子を破壊しても、VTC複合体の機能の低下又は喪失をもたらすと考えられるため、遺伝子変異を導入する遺伝子は限定されるものではないが、VTC1、VTC3、VTC4遺伝子のいずれか少なくとも1つの遺伝子を破壊することが好ましく、VTC1遺伝子を破壊することがより好ましい。

【0037】
「VTC複合体の構成因子をコードする遺伝子を破壊する」とは、酵母ゲノム上のVTC複合体の構成因子であるタンパク質をコードする遺伝子のコード領域を欠失又は変異させることをいう。VTC複合体の構成因子をコードする遺伝子の欠失は、コード領域の全体を欠失させてもよく、また一部を欠失させてもよい。全体を欠失させる場合には、VTC複合体の構成因子をコードする遺伝子に隣接する領域も合わせて広く欠失させてもよい。一部を欠失させる場合には、特に限定されないが、VTC複合体の構成因子をコードする遺伝子のコード領域の半分以上を欠失させることが好ましい。コード領域の変異によりVTC複合体の構成因子をコードする遺伝子を破壊する場合には、該コード領域の好ましくは中央よりも上流の部位にナンセンス変異又はフレームシフト変異を導入して、それよりも下流の領域によりコードされるアミノ酸配列を欠失させ又は全く無関係なアミノ酸配列とすることが好ましい。あるいは、VTC複合体の構成因子をコードする遺伝子中に無関係な配列(VTC複合体の構成因子とは無関係な他の遺伝子配列やマーカー遺伝子等)を挿入することによりVTC複合体の構成因子をコードする遺伝子を変異させ破壊することもできる。VTC複合体の構成因子をコードする遺伝子の破壊により、該遺伝子によりコードされるVTC複合体の機能が低下又は喪失する。

【0038】
以下、破壊する対象のVTC複合体の構成因子をコードする遺伝子としてVTC1遺伝子を例示して、遺伝子の破壊を具体的に説明する。VTC1遺伝子を破壊する方法としては、例えば、相同組換え法やゲノム編集技術等が挙げられる。産業上実用されている実用酵母においても、ゲノム編集技術であるCRISPR-Casシステムにより遺伝子改変を行った例が報告されている(J. Microbiol. Methods Vol.127 p.203-205 (2016))。ゲノム編集技術によれば、高次倍数体であっても一度に遺伝子の改変を行うことができ、有利である。また相同組換え方法は、正常なVTC1遺伝子を含まない相同DNA断片を酵母細胞中に導入し、この相同DNA断片と、酵母ゲノムDNAとの間で相同組換えを行わせる方法である。ここで、「相同DNA断片」とは、相同組換えによりゲノム中の標的領域と組換えられ得るDNA断片のことを言う。相同組換え法自体は周知であり、当業者であれば上記ゲノム又はコード領域の塩基配列をもとにして、所望の相同DNA断片を調製することができる。上記各相同領域の鎖長は特に限定されず、一般に鎖長が長い方が相同組換えの効率が高まるが、出芽酵母では相同組換え活性が強いため、50bp程度の相同領域を設ければよい。

【0039】
例えば、正常なVTC1をコードしない変異VTC1遺伝子配列の上流及び下流に、ゲノム上のVTC1遺伝子の上流領域と相同な領域及び下流領域と相同な領域をそれぞれ連結して相同DNA断片を構築し、これを用いて相同組換えを行えば、ゲノム上のVTC1遺伝子配列を変異VTC1遺伝子配列と入れ替えることができるので、酵母ゲノム上のVTC1遺伝子を破壊することができる。

【0040】
上記コード領域のさらに上流及び下流の領域のゲノム塩基配列は、Saccharomyces genome database(http://www.yeastgenome.org/)より取得することができる。

【0041】
VTC1遺伝子を破壊する他の方法としては、例えばAritomiらのBiosci. Biotechnol. Biochem., 68(1), 206-214, 2004に記載されるセルフクローニング法を利用することができる。このクローニング方法は、遺伝子導入用の薬剤耐性マーカーとカウンターセレクション用の生育抑制マーカーとを含むプラスミドベクターを利用して、ゲノム中の正常遺伝子を変異遺伝子に置き換える方法である。該方法によれば、遺伝子導入のためだけに必要な外来DNA配列を変異遺伝子の導入後に除去できるため、食品産業で用いられる醸造酵母の育成に好ましい。具体的には、VTC1遺伝子を破壊する方法は、以下のようにして行なうことができる。

【0042】
用いる上記2種類のマーカーは特に限定されず、例えば、薬剤耐性マーカーとしてYAP1等、生育抑制マーカーとしてGIN11等の公知のマーカーを用いることができる。これら2種類のマーカーを含むプラスミドベクター中に変異VTC1遺伝子(例えば、配列番号1に示す塩基配列のうち第4~6番目の塩基の「TCT」を「TAA」に変異させることによりストップコドンを導入した変異遺伝子)を挿入し、VTC1遺伝子中の適当な制限酵素部位(例えばHindIIIサイト)で切断してリニア化したものを酵母細胞中に導入すれば、相同組換えにより当該リニア化プラスミドがゲノム中のVTC1遺伝子座に組み込まれる。その結果、ゲノム中にはプラスミド配列を介して正常VTC1遺伝子と変異VTC1遺伝子が縦列して存在するようになる。薬剤耐性マーカーにより、リニア化プラスミドがゲノム中に組み込まれた酵母を容易に選択することができる。

【0043】
その後、ゲノム中で縦列して存在する正常VTC1遺伝子と変異VTC1遺伝子との間で相同組換えが生じると、生育抑制マーカーを含むプラスミド配列が脱落する。そのため、生育抑制マーカーを発現させる条件下で(例えば、生育抑制マーカーがガラクトース誘導性過剰発現プロモーターの制御下にある場合には、ガラクトース培地上で)選択を行なえば、プラスミド配列が残存する酵母は生育抑制マーカーの作用により生育することができず、一方、相同組換えによりプラスミド配列が脱落した酵母は生育することができるので、プラスミド配列が脱落し正常VTC1遺伝子又は変異VTC1遺伝子のみがゲノム中に残存する酵母を得ることができる。ゲノム中に残存したVTC1遺伝子が所期の変異を有するか否かは、例えば変異を含む領域をPCRで増幅してシークエンス解析を行なうことにより調べることができる。

【0044】
また、VTC1遺伝子破壊株は、変異処理を行なった酵母の中から選択して得ることもできる。すなわち、本発明の方法においては、変異処理によりVTC1遺伝子を破壊してもよい。変異処理の方法は特に限定されず、紫外線照射、放射線照射等の物理的変異処理、及びエチルメタンスルフォン酸等の変異剤で処理する化学的変異処理のいずれであってもよい。変異処理により得られた変異株の中から、シークエンス解析によりVTC1遺伝子破壊株を選択することができる。

【0045】
産業上実用されている酵母、例えば醸造酵母、パン酵母、バイオエタノール酵母等は通常二倍体かそれ以上の高次倍数体である。従って、本発明の方法によりアルコール発酵による発酵産物の生産性が向上された酵母を、酒類製造、製パン、バイオエタノール製造に用いる場合には、特に限定されないが、二倍体でVTC1アリルが共に破壊されたVTC1遺伝子破壊株を用いることが好ましい。二倍体の遺伝子破壊株は、周知の常法により得ることができる。具体例を挙げると、例えば、接合型の異なる一倍体(a型及びα型)でVTC1遺伝子破壊株を作製し、両者を接合させて二倍体のVTC1遺伝子破壊株を得ることができる。また、二倍体でVTC1アリルの一方が破壊された酵母を作製し、次いで、該酵母に対し再度VTC1破壊処理を行なうことによって、二倍体のVTC1遺伝子破壊株を得ることもできる。

【0046】
上記した相同DNA断片を用いる方法によりVTC1遺伝子を破壊する場合には、例えば、1回目の遺伝子破壊処理と2回目の遺伝子破壊処理とで異なる薬剤耐性マーカーを用いればよい。上記セルフクローニング法を用いる場合であれば、VTC1アリルの一方が破壊された二倍体酵母は、ゲノム中にマーカー遺伝子を有さないため、2回目でも1回目と同一の遺伝子破壊用プラスミドベクターを用いることができる。二倍体の酵母に対して上記遺伝子破壊方法を採用した場合には、VTC1アリルが同時に破壊された株も生じ得るので、選択培地上での生育速度の違い(同時に破壊された株では生育が早い)や、VTC1遺伝子領域の塩基配列に基づいて、VTC1アリルが同時に破壊された株を選択することもできる。

【0047】
二倍体の酵母から一倍体を得る方法は、当分野で周知の常法により行なうことができる。例えば、公知の胞子形成用培地中にて培養することにより胞子形成させて胞子を得て、該胞子を発芽させて一倍体を得ることができる。VTC1遺伝子が破壊された酵母は、正常なVTC1遺伝子を有する酵母野生株と比較して、発酵能及びエタノール生産性が有意に高い。

【0048】
本発明は、酵母のゲノム上に存在するVTC複合体の構成因子をコードする遺伝子の発現量の低下により発酵能及び発酵産物の生産性の向上した酵母を作製することを含む。VTC複合体の構成因子をコードする遺伝子の発現を低下させる方法としては、例えば、酵母ゲノム上のVTC複合体の構成因子であるタンパク質をコードする遺伝子のコード領域の転写プロモーター領域を転写抑制型プロモーターで置換してなる変異型酵母を調製し、当該変異型酵母を転写抑制条件下で培養する方法が挙げられる。また、酵母におけるVTC複合体の構成因子をコードする遺伝子の転写に関わる領域に転写抑制活性のある塩基配列を挿入して作出したものを用いても良い。

【0049】
本発明は、酵母のゲノム上に存在するVTC複合体の構成因子をコードする遺伝子の翻訳効率を低下させることにより発酵能及び発酵産物の生産性の向上した酵母を作製することを含む。VTC複合体の構成因子をコードする遺伝子の翻訳を抑制する方法としては、いわゆるアンチセンスRNAを用いる方法が挙げられる。すなわち、VTC複合体の構成因子をコードする遺伝子のmRNAに対するアンチセンスRNAを転写する遺伝子を、酵母ゲノムに組み込み、当該アンチセンスRNAを過剰発現させることで、VTC複合体の構成因子をコードする遺伝子のmRNAの翻訳が抑制される。

【0050】
本発明は、酵母において、遺伝子変異を行うことにより、VTC複合体の機能を低下又は喪失させることを含む、アルコール発酵用酵母の作製方法、及び、遺伝子変異により、VTC複合体又はVTC複合体の構成因子の機能が低下又は喪失した、アルコール発酵用酵母も包含する。

【0051】
本発明における酵母とは、発酵を行なういかなる酵母であってもよく、特に限定されない。例えば、酒類の製造に用いられる醸造酵母、パンの製造に用いられるパン酵母、バイオエタノールの製造に用いられるバイオエタノール酵母が挙げられる。醸造酵母としては、清酒酵母、ワイン酵母、ビール酵母、焼酎酵母等が例示される。清酒酵母とは日本酒の製造に、ワイン酵母とはワインの製造に、焼酎酵母とは焼酎の製造に用いられる酵母である。また、本発明においては実験室酵母も使用することができる。

【0052】
本発明において使用される酵母は、特に限定されるものではないが、例えばサッカロミセス(Saccharomyces)属、シゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)属又はクリベロミセス(Kluyveromyces)属、ザイゴサッカロミセス(Zygosaccharomyces)属に属する酵母が挙げられ、好ましくは、サッカロミセス属に属する酵母である。サッカロミセス属に属する酵母としては、好ましくはサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)である。より具体的には、これらに限定されるものではないが、サッカロミセス・セレビシエ、サッカロミセス・バイアヌス(Saccharomyces bayanus)、サッカロミセス・パラドクサス(Saccharomyces paradoxus)、サッカロミセス・アセチ(Saccharomyces aceti)、サッカロミセス・アムルケ(Saccharomyces amurcae)、サッカロミセス・ベイリー(Saccharomyces bailii)、サッカロミセス・ビスポーラス(Saccharomyces bisporus)、サッカロミセス・カペンシス(Saccharomyces capensis)、サッカロミセス・カールスベルゲンシス(Saccharomyces carlsbergensis)、サッカロミセス・チェバリエリー(Saccharomyces chevalieri)、サッカロミセス・シドリ(Saccharomyces cidri)、サッカロミセス・コレアヌス(Saccharomyces coreanus)、サッカロミセス・ダイレネンシス(Saccharomyces dairenensis)、サッカロミセス・デルブルッキー(Saccharomyces delbrueckii)、サッカロミセス・ディアスタチカス(Saccharomyces diastaticus)、サッカロミセス・ユーパジカス(Saccharomyces eupagycus)、サッカロミセス・エキシグス(Saccharomyces exiguus)、サッカロミセス・ファーメンタティ(Saccharomyces fermentati)、サッカロミセス・フロレンティヌス(Saccharomyces florentinus)、サッカロミセス・グロボサス(Saccharomyces globosus)、サッカロミセス・ヘテロジニカス(Saccharomyces heterogenicus)、サッカロミセス・ヒーニピエンシス(Saccharomyces hienipiensis)、サッカロミセス・インコンスピカス(Saccharomyces inconspicuous)、サッカロミセス・イヌシタトゥス(Saccharomyces inusitatus)、サッカロミセス・イタリカス(Saccharomyces italicus)、サッカロミセス・クロッケリアヌス(Saccharomyces kloeckerianus)、サッカロミセス・クルイベリ(Saccharomyces kluyveri)、サッカロミセス・ミクロエリプソデス(Saccharomyces microellipsodes)、サッカロミセス・モンタヌス(Saccharomyces montanus)、サッカロミセス・ムラキー(Saccharomyces mrakii)、サッカロミセス・ノルベンシス(Saccharomyces norbensis)、サッカロミセス・オレアセウス(Saccharomyces oleaceus)、サッカロミセス・オレアジノウス(Saccharomyces oleaginous)、サッカロミセス・パストリアヌス(Saccharomyces pastorianus)、サッカロミセス・プレトリエンシス(Saccharomyces pretoriensis)、サッカロミセス・プロストサードビー(Saccharomyces prostoserdovii)、サッカロミセス・ロゼイ(Saccharomyces rosei)、サッカロミセス・ロシニー(Saccharomyces rosinii)、サッカロミセス・ロウキシー(saccharomyces rouxii)、サッカロミセス・サイトアヌス(Saccharomyces saitoanus)、サッカロミセス・テルリス(Saccharomyces telluris)、サッカロミセス・トランスバーレンシス(Saccharomyces transvaalensis)、サッカロミセス・ユニスポラス(Saccharomyces unisporus)、サッカロミセス・ウバルム(Saccharomyces uvarum)、サッカロミセス・ベイファー(Saccharomyces vafer)、クリベロミセス・エスツアリー(Kluyveromyces aestuarii)、クリベロミセス・アフリカヌス(Kluyveromyces africanus)、クリベロミセス・ブルガリカス(Kluyveromyces bulgaricus)、クリベロミセス・デルフェンシス(Kluyveromyces delphensis)、クリベロミセス・ドブザンスキー(Kluyveromyces dobzhanskii)、クリベロミセス・ ドロソフィラム(Kluyveromyces drosophilarum)、クリベロミセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)、クリベロミセス・ロデリ(Kluyveromyces lodderi)、クリベロミセス・ファフィー(Kluyveromyces phaffii)、クリベロミセス・ファゼオロスポラス(Kluyveromyces phaseolosporus)、クリベロミセス・ポリスポラス(Kluyveromyces polysporus)、クリベロミセス・バヌデニー(Kluyveromyces vanudenii)、クリベロミセス・ベロネ(Kluyveromyces veronae)、クリベロミセス・ウィッカーハミー(Kluyveromyces wickerhamii)、クリベロミセス・ウィケニー(Kluyveromyces wikenii)、ザイゴサッカロミセス・ロウキシイ(Zygosaccharomyces rouxii)、ザイゴサッカロミセス・ビスポラス(Zygosaccharomyces bisporus)等を使用することができる。本願において使用される醸造酵母、パン酵母、バイオエタノール酵母の代表例としては、サッカロミセス・セレビシエが挙げられる。

【0053】
本発明において使用される好ましい醸造酵母は、清酒酵母ではサッカロミセス・セレビシエ(より具体的にはきょうかい7号(K7))などが挙げられ、ワイン酵母ではサッカロミセス・セレビシエ(より具体的にはきょうかい酵母ブドウ酒用アンプル酵母)、サッカロミセス・バイアヌスなどが挙げられ、ビール酵母では、サッカロミセス・セレビシエ、サッカロミセス・パストリアヌス、サッカロミセス・カールスベルゲンシスなどが挙げられ、焼酎酵母ではサッカロミセス・セレビシエ(より具体的にはきょうかい酵母焼酎用2号)などが挙げられる。

【0054】
本発明において使用される好ましいバイオエタノール酵母は、サッカロミセス・セレビシエ、サッカロミセス・ダイレネンシス、サッカロミセス・トランスバーレンシス、サッカロミセス・ロシニー、ザイゴサッカロミセス・ビスポラスなどが挙げられる。なお、還元糖のみを選択的にエタノールに変換するショ糖非資化性酵母であってもよい。

【0055】
また、本発明の対象となる酵母は、野生株、変異株及び形質転換株のいずれに由来するものであってもよい。酵母のVTC1遺伝子破壊株、VTC4遺伝子破壊株としては、酵母におけるポリリン酸合成経路の触媒機構を調べる目的で作出された実験室酵母のVTC1遺伝子破壊株、VTC4遺伝子破壊株が知られている(非特許文献4)。しかしながら、VTC複合体の構成因子をコードする遺伝子破壊酵母又は遺伝子の発現量が低下した酵母において二酸化炭素減量の増加及び産生されるエタノールの生産性が向上することは知られておらず、また、VTC複合体の構成因子をコードする遺伝子が破壊された又は該遺伝子の発現量の低下した醸造酵母、パン酵母、及びバイオエタノール酵母も知られていない。本発明は、VTC複合体の構成因子をコードする遺伝子の破壊又は該遺伝子の発現量の低下により、発酵能及びエタノールの生産性が向上された醸造酵母、パン酵母、及びバイオエタノール酵母を新規に提供するものである。

【0056】
本発明の酵母において「発酵能が向上している」とは、酵母の発酵時の二酸化炭素(炭酸ガス)発生量が増加していることを意味する。酵母はアルコール発酵によって、グルコースをエタノールと二酸化炭素に分解するので、二酸化炭素発生量は酵母のアルコール発酵すなわちエタノール生産の進行を示す数値として一般的に用いられている。二酸化炭素発生量は酵母の発酵速度を示す一般的な数値であり、二酸化炭素発生量が増加していることは、発酵速度が促進していることを示唆している。また、上述のとおり、酵母はアルコール発酵によって、グルコースをエタノールと二酸化炭素に分解するので、発酵の促進により二酸化炭素の発生量と同時にエタノールの発生量も増加する。すなわち、本発明の方法による発酵能が向上している酵母は、エタノール生産性が向上している。

【0057】
発酵能及びエタノール生産性を向上した酵母の作製方法は、VTC複合体の構成因子をコードする遺伝子を破壊する工程又は当該遺伝子の発現量を低下させる工程を含むが、作製された酵母を未処理の親株と、発酵能及びエタノール生産性を比較する工程をさらに含んでもよい。

【0058】
さらに本発明は、VTC複合体の機能を低下又は喪失させた酵母を含むアルコール発酵用組成物も包含する。アルコール発酵用組成物とは、アルコール発酵に用いられる組成物である。好ましくは、遺伝子変異により、VTC複合体又はVTC複合体の構成因子の機能が低下又は喪失した、アルコール発酵用酵母を含む組成物であり、より好ましくは、VTC複合体の構成因子をコードする遺伝子から選択される少なくとも1つの遺伝子が破壊されたアルコール発酵用酵母を含む組成物である。アルコール発酵用組成物における酵母は、当業者が通常用いる方法により培養し、回収して、そのまま組成物の製造に用いてもよいし、公知の方法で後処理を行ってもよい。例えば、遠心分離などにより粗精製を行ってもよい。また、所望により粗精製を行った後、生理食塩水またはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)、培地などの当該分野で従来から使用されている溶媒に溶解または懸濁させてもよい。また、所望により乾燥物としてもよい。乾燥は、凍結乾燥、噴霧乾燥等が例示される。アルコール発酵用組成物には、保護剤を添加してもよい。

【0059】
[3.発酵産物を製造する方法]
本発明は、酵母においてVTC複合体の機能が低下又は喪失している条件で、アルコール発酵を行うことを含む、酵母を用いて発酵産物を製造する方法にも及ぶ。酵母におけるVTC複合体の機能の低下又は喪失は、上述の手段によって行うことができる。本発明の発酵産物の製造方法は、具体的には以下の工程を含む。
(1)酵母においてVTC複合体の機能が低下又は喪失している条件で、原材料と酵母を接触させてアルコール発酵を行う工程。
(2)アルコール発酵を行った後に、発酵産物を得る工程。
工程(1)のアルコール発酵においては、原材料由来の糖類に酵母を作用させることにより、アルコール(好ましくはエタノール)と二酸化炭素が生成する。原材料としては、米、麦、ブドウ、芋、小麦粉、糖蜜、セルロース系バイオマス等、又はこれらを処理したものが例示される。

【0060】
発酵産物は酵母による発酵を経て製造されるものであれば、いかなるものであってもよい。発酵産物としては例えば、発酵飲料、発酵食品、バイオエタノールが例示される。発酵飲料は、原材料となる食材を発酵させることにより作製される飲料であればいかなるものであってもよく、酒類が例示される。酒類としては、清酒、ワイン、ビール、焼酎、ウィスキー、ブランデー等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。発酵食品としては、原材料となる食材を発酵させることにより作製される食品材料、又は加工食品を含み、例えば、発酵されたパン生地若しくはパン生地を発酵させて加工された食品、酒類、茶、酢、穀物加工品(納豆、醤油、味噌等)、魚介類加工品、野菜果実加工品、酪農製品等が例示される。

【0061】
発酵飲料として酒類を製造する場合を例示して説明する。酒類には、醸造酒、蒸留酒が含まれる醸造酒は、米・麦・ブドウ等の主原料を発酵させて製造した酒、蒸留酒は、主原料を発酵させた後、蒸留して製造した酒である。醸造酒の発酵方式には、単発酵、単行複発酵、並行複発酵がある。単発酵による醸造酒としてはワイン、単行複発酵による醸造酒としてはビール、並行複発酵による醸造酒としては、清酒(日本酒)が挙げられる。並行複発酵では糖化と発酵が同じ容器の中で同時に進行する。酒類の製造には、酵母においてVTC複合体の機能が低下又は喪失している条件で、主原料(食材由来の糖類若しくは食材由来の多糖類を糖化させた糖類を含む)を用いて、酵母によるアルコール発酵を行う工程、及びアルコール発酵を行った後に、液体を固形分から分離することにより、発酵産物を得る工程が含まれる。

【0062】
ワインの製造には、主原料として、適切に処理されたブドウ又はブドウ果汁を用いる。ブドウ又はブドウ果汁と酵母を発酵槽内で培養することにより、ブドウに含まれる糖類を用いてアルコール発酵が行われる。ビールの製造には、主原料として麦汁を用いる。麦汁は、麦芽と米などの副原料を適温(例えば40℃~100℃)で適当な時間保持してデンプンを糖化させ、加熱・冷却して作製した糖化液である。麦汁と酵母を発酵槽内で培養することにより、麦汁に含まれる糖類を用いてアルコール発酵が行われる。清酒の製造には、主原料として蒸米が用いられる。主原料の蒸米、酵母に加えて、麹菌(例えば、Aspergillus oryzae)を蒸米に散布して培養した麹を発酵槽に入れて培養することにより、米のデンプンが麹の酵素によりブドウ糖へと分解され、ブドウ糖を用いてアルコール発酵が行われる。アルコール発酵後、抽出、圧搾、濾過等により液体を固形分と分離することにより、醸造酒が得られる。必要に応じて、圧搾、加熱、熟成、貯蔵、調合、乳酸発酵、濾過等を行うことができる。各醸造酒の製造におけるアルコール発酵の条件は、製造する醸造酒によって異なるが、4℃~40℃の間の適温において、4日~70日の適当な期間で行うことができる。蒸留酒を製造するときは、醸造酒と同様に主原料のアルコール発酵を行った後、アルコール発酵後の発酵液(発酵醪)を蒸留して分離すればよい。また必要に応じて、貯蔵・熟成等も行うことができる。蒸留酒としては、焼酎、ウィスキー、ブランデー等が知られている。焼酎の主原料としては、大麦、芋、米等を用いることができ、ウィスキーは麦汁、ブランデーはブドウ又はブドウ果汁を用いる。酒類は、上記のものに限定されるのではなく、アルコール発酵工程を経て得られるものであれば、いかなるものであってもよい。

【0063】
発酵食品として、パン生地、醤油を製造する場合を例示して説明する。パン生地は、主原料として小麦粉を用いて製造される。小麦粉を、酵母、水等の材料と混ぜ合わせ、発酵を行う。例えば、適温(例えば、27℃)、湿度が70~80%程度で4~5時間発酵させることにより、発酵が行われ、パン生地がふくらむ。発酵後のパン生地に、更に小麦粉、食塩、砂糖、油脂等の材料を加えて捏ねる。この後、約20分程度、発酵を行っても良い。パン生地の成型を行った後、再度、約40分程度、発酵を行う。成型後の発酵は、温度は35~38度、湿度は80%程度が例示される。本発明におけるパン生地は、少なくとも小麦粉、酵母、水を含む材料を混ぜ合わせた状態で、少なくとも1回の発酵工程を経たものであればよく、必ずしも複数回の発酵工程を経ていなくてもよい。パン生地は、所定の温度で焼き上げることによりパンを製造することもできるし、ピザ等の加工食品の製造に用いることもできる。醤油は主原料として、大豆と小麦を用いて製造される。醤油の製造においてはまず、大豆を加圧蒸気により高圧・短時間で蒸し、小麦を煎って、主原料の加工処理を行う。加工処理後の大豆と小麦を合わせたものに麹菌を散布し、麹菌を繁殖させて、麹を製造する。麹を食塩水と混合して発酵槽に入れ、冷却殺菌を行った後、加温し、酵母を添加して発酵を行う。発酵後、圧搾して、余分な油分や固形分を除き、必要に応じて、殺菌、濾過等を行うことにより、醤油が得られる。

【0064】
バイオエタノールを製造する場合を例示して説明する。バイオエタノールの主原料としては、炭水化物を含む生物由来の資源であればいかなるものであってもよい。生産効率の面から糖類あるいはデンプン、セルロースを多く含む、植物由来の植物資源が好ましい。植物資源としてはより具体的には、サトウキビや甜菜から砂糖を精製した後に得られる糖蜜、トウモロコシ、スイッチグラス(イネ科の多年草)、パルプ廃液、廃材木、稲わら等のセルロースを含有するセルロース系バイオマスが挙げられる。バイオエタノール生産は、主原料に含まれるデンプン、セルロースなどの多糖類をアミラーゼなどの多糖分解酵素で処理してブドウ糖に分解する糖化と、ブドウ糖を用いた酵母によるアルコール発酵により行われる。産生したバイオエタノールは、公知の方法又は今後開発される方法により回収すればよい。

【0065】
[4.酵母のアルコール発酵能を向上させるための薬剤のスクリーニング方法]
後述する実施例に記載のとおり、酵母のVTC複合体の構成因子をコードする遺伝子のうち少なくとも1つの遺伝子が破壊された、又は発現量が低下した酵母が、従来使用されてきた酵母よりも高い発酵能及びエタノール生産性を有することが見出された。本発明は、かかる知見に基づく、酵母のアルコール発酵能を向上させるための薬剤のスクリーニング方法も包含する。本発明においてスクリーニングされるアルコール発酵能を向上させるための薬剤は、本発明の酵母のアルコール発酵能を向上させる方法や発酵産物の製造方法において、用いることができる。

【0066】
本発明の薬剤のスクリーニング方法は、被験化合物をVTC複合体に作用させる工程を含み、当該被験化合物がVTC複合体の機能を低下又は喪失させることを指標とするものである。具体的には、以下の工程を含むものが例示される。
(i)VTC複合体に作用させる被験化合物と、VTC複合体又はVTC複合体の構成因子の少なくとも1つを準備する工程。
(ii)VTC複合体と被験化合物を接触させ、VTC複合体の機能を確認する工程。
(iii)被験化合物の非存在下と比較して、VTC複合体の機能を低下又は喪失させる被験化合物を、酵母のアルコール発酵能を向上させるための薬剤として選別する工程。

【0067】
さらに具体的には、以下の工程を含むものが例示される。
(i)VTC複合体に作用させる被験化合物と、VTC複合体又はVTC複合体の構成因子の少なくとも1つを発現する細胞(好ましくは酵母)を準備する工程。
(ii)被験化合物をVTC複合体と相互作用させるように、被験化合物の存在下で該細胞を培養し、その培養後の細胞におけるVTC複合体の機能の低下又は喪失を確認する工程。
(iii)細胞におけるVTC複合体の機能の低下又は喪失させる被験化合物を、酵母のアルコール発酵能を向上させるための薬剤として選別する工程。
なお上記工程において用いられる細胞では、酵母のVTC複合体又はVTC複合体の構成因子の少なくとも1つが液胞膜に発現していることが好ましい。

【0068】
酵母におけるVTC複合体の機能の低下又は喪失は、VTC複合体の公知の機能である、液胞型プロトンATPaseの安定性の維持、タンパク質の輸送、ミクロオートファジー、又は液胞内へのポリリン酸の蓄積の機能の低下や喪失によって確認することができる。さらに、今後見出されるVTC複合体が本来有している機能の低下又は喪失によって確認することもできる。

【0069】
本発明のスクリーニング方法で得られる薬剤は、酵母のVTC複合体の機能の低下又は喪失を引き起こすものであり、酵母に接触させることにより、酵母のアルコール発酵能を向上させることができる。
【実施例】
【0070】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0071】
(実施例1)VTC1遺伝子破壊株、VTC2遺伝子破壊株、VTC3遺伝子破壊株、VTC4遺伝子破壊株の作製及びその発酵能の測定
(1)遺伝子破壊株の作製
酵母サッカロミセス・セレビシエの一倍体実験室株であるBY4741株を野生株として使用し、公知の方法によってVTC1、VTC2、VTC3、VTC4遺伝子の破壊株(それぞれ、BY4741 vtc1Δ、BY4741 vtc2Δ、BY4741 vtc3Δ、BY4741 vtc4Δ)を作製した(Science. 1999 Aug 6;285(5429):901-6. Functional characterization of the S. cerevisiae genome by gene deletion and parallel analysis.)。
【実施例】
【0072】
(2)遺伝子破壊株の発酵能の確認
各酵母は、YPD培地(酵母エキス1%、ペプトン2%、グルコース2%)において一晩30℃で振とう培養した後、初期酵母密度がOD600=0.1になるように、5mLの高濃度グルコース含有YPD培地(酵母エキス1%、ペプトン2%、グルコース20%)を分注した試験管に植菌し、30℃で振とう培養を行った。発酵試験は各株について独立した3クローンを用いた。植菌開始から3日後、電子天秤を用いて培養液の重量を測定し、植菌開始時の重量との差を二酸化炭素発生量とした。
【実施例】
【0073】
結果を図1に示す。図1において、縦軸は二酸化炭素発生量の平均値(g)を示す。エラーバーは標準偏差を示す。二酸化炭素発生量の平均値について、等分散を仮定しない片側t検定を行った。
図1に示されるとおり、VTC1、VTC2、VTC3、VTC4遺伝子のいずれの破壊株も、野生株を上回る二酸化炭素発生量を示した。中でもVTC1、VTC2、VTC3、VTC4遺伝子の各破壊株は、野生株と比べて統計的に有意に高い二酸化炭素発生量を示し(危険率5%未満)、VTC1遺伝子破壊株における二酸化炭素発生量は、野生株と比べて70.8%高い値を示した。
以上の結果から、VTC複合体の構成因子をコードする各遺伝子の破壊がアルコール発酵の促進につながることが明らかになった。
【実施例】
【0074】
(実施例2)VTC1遺伝子破壊パン酵母株の作製、及びその発酵能の測定
酵母サッカロミセス・セレビシエの二倍体パン酵母株である3346/3347株に由来する一倍体3346株を野生株に使用し、公知の方法(Yeast vol.21 p.947-962 (2004))によってVTC1遺伝子破壊株(3346 vtc1Δ)を作製した。具体的な作製方法は以下の通りである。
【実施例】
【0075】
まず、薬剤耐性遺伝子を含むプラスミド(pFA6a-hphNT1:ハイグロマイシン耐性マーカーを含む)を鋳型として、VTC1遺伝子のORFの上流領域及び下流領域のそれぞれと相同な塩基配列を持つプライマーを用いて、PCRを行い、薬剤耐性遺伝子の上流及び下流にVTC1遺伝子の上流及び下流と相同な塩基配列を連結させて、VTC1遺伝子破壊用断片を作製した。用いたプライマーは以下の通りである。
VTC1-S1:CATTATCGAATACGATTAAACACTACGCCAGATTTCCACAATATGCGTACGCTGCAGGTCGAC(配列番号9)
VTC1-S2:CAGTTTGTGCGTAACCCACGCTTACGATATTGGAATTACAATTTCAATCGATGAATTCGAGCTCG(配列番号10)
【実施例】
【0076】
VTC1遺伝子破壊用断片を組み入れた組換えプラスミドを作製し、酵母3346株に導入し、薬剤耐性を指標にしてVTC1遺伝子破壊株を取得した。取得したVTC1遺伝子破壊株について、コロニーPCRを行うことにより、VTC1遺伝子が破壊されていることを確認した。確認用のプライマーは以下の通りである。
VTC1-Fw:AACACTACGCCAGATTTCCA(配列番号17)
VTC1-Rv:CCACGCTTACGATATTGGAA(配列番号18)
【実施例】
【0077】
酵母(3346 vtc1Δ又は野生株)を、YPD培地において24時間30℃で培養し、その後遠心分離によって集菌し、蒸留水で2回洗浄した。低スクロース含有パン生地として、パン専用小麦粉(日清)20g、スクロース1g、塩化ナトリウム0.4g、水12.5mL、酵母0.4gを捏ねて調製した。また、高スクロース含有パン生地として、パン専用小麦粉(日清)30g、スクロース9g、塩化ナトリウム0.15g、水16mL、酵母0.6gを捏ねて調製した。30℃で静置培養し、二酸化炭素発生量をファーモグラフII-W(アトー)を用いて測定した。発酵試験は各株について3回の繰り返し実験を行った。
【実施例】
【0078】
結果を図2に示す。図2において、横軸は発酵時間(h)、縦軸は二酸化炭素発生量の平均値(mL)を示す。実施例1と同様に片側t検定を行った。
図2に示されるとおり、低スクロース含有パン生地および高スクロース含有パン生地のいずれにおいても、VTC1遺伝子破壊株は野生株を上回る二酸化炭素発生量を示した。また、発酵開始から2時間以降におけるVTC1遺伝子破壊株の二酸化炭素発生量は、野生株と比べて10.1~16.0%(低スクロース含有パン生地)または16.3~17.5%(高スクロース含有パン生地)と、高い値を示した。
以上の結果から、VTC1遺伝子の破壊がパン生地の製造におけるアルコール発酵の促進につながることが明らかになった。
【実施例】
【0079】
(実施例3)VTC1遺伝子破壊バイオエタノール酵母株の作製、及びその発酵能の測定
酵母サッカロミセス・セレビシエの二倍体バイオエタノール酵母株であるPE-2株に由来する一倍体NCYC3233-27c株を野生株に使用し、公知の方法(Yeast vol.21 p.947-962 (2004))によってVTC1遺伝子破壊株(NCYC3233-27c vtc1Δ)を作製した。薬剤耐性遺伝子を含むプラスミドとして、pFA6a-natNT2(クロンナット耐性マーカーを含む)を用いた以外は、実施例2と同様の方法により、VTC1遺伝子破壊株を作製した。
【実施例】
【0080】
酵母(NCYC3233-27c vtc1Δ又は野生株)は、YPD培地において一晩30℃で振とう培養した後、初期酵母密度がOD600 = 0.1になるように、50mLのサトウキビ廃糖蜜培地(Brix 15、0.025%硫酸アンモニウム添加)に植菌した。30℃で静置培養し、二酸化炭素発生量をファーモグラフII-W(アトー)を用いて測定した。発酵試験は各株について独立した2~3クローンを用いた。
【実施例】
【0081】
結果を図3に示す。図3において、横軸は発酵時間(h)、縦軸は二酸化炭素発生量の平均値(mL)を示す。実施例1と同様に片側t検定を行った。
図3に示されるとおり、VTC1遺伝子破壊株は野生株を上回る二酸化炭素発生量を示した。発酵開始から42時間以降におけるVTC1遺伝子破壊株の二酸化炭素発生量は、野生株と比べて4.8~6.0%高い値を示し、統計的に有意な差が検出された(危険率5%未満)。
以上の結果から、VTC1遺伝子の破壊がバイオエタノール製造におけるアルコール発酵の促進につながることが明らかになった。
【実施例】
【0082】
(実施例4)VTC1遺伝子破壊株、VTC2遺伝子破壊株、VTC3遺伝子破壊株、VTC4遺伝子破壊株の作製
酵母サッカロミセス・セレビシエの一倍体実験室株であるBY4741株を野生株として使用し、VTC1、VTC2、VTC3、VTC4遺伝子の破壊株を作製する。薬剤耐性遺伝子を含むプラスミドとして、Yeast vol.21 p.947-962 (2004)に記載のものを用いることができ、例えば、pFA6a-hphNT1又はpFA6a-natNT2等を用いることができる。薬剤耐性遺伝子を含むプラスミドを鋳型として、VTC1、VTC2、VTC3、VTC4遺伝子の各ORFの上流領域及び下流領域のそれぞれと相同な塩基配列を持つプライマーを用いて、PCRを行い、薬剤耐性遺伝子の上流及び下流にVTC1、VTC2、VTC3、VTC4遺伝子の上流及び下流と相同な塩基配列を連結させて、VTC1、VTC2、VTC3、VTC4遺伝子破壊用断片を作製する。VTC1、VTC2、VTC3、VTC4遺伝子破壊用断片を作成するために設計したプライマーは以下の通りである。
VTC1-S1:CATTATCGAATACGATTAAACACTACGCCAGATTTCCACAATATGCGTACGCTGCAGGTCGAC(配列番号9)
VTC1-S2:CAGTTTGTGCGTAACCCACGCTTACGATATTGGAATTACAATTTCAATCGATGAATTCGAGCTCG(配列番号10)
VTC2-S1:AGTAGAAAGAACGACTACACCTCAACATAACGACACTTTTTTGACCGTACGCTGCAGGTCGAC(配列番号11)
VTC2-S2:AATTCTGTCAAAATGAATTATCAGTTGACCCAGAAATCTGTCGCAATCGATGAATTCGAGCTCG(配列番号12)
VTC3-S1:TTAGAGCGAACAGCAGAATTTGTCCTTGGTTTTCAGAGTTTGAAACGTACGCTGCAGGTCGAC(配列番号13)
VTC3-S2:CTGGTACTTGTGTAATATATGTGTATATAAAAAATATACATGTTCATCGATGAATTCGAGCTCG(配列番号14)
VTC4-S1:CAATCAAATCGGCCAATAAAAGAGCATAACAAGGCAGGAACAGCTCGTACGCTGCAGGTCGAC(配列番号15)
VTC4-S2:TATGATTATTACTTAATTATACAGTAAAAAAAACACGCTGTGTATATCGATGAATTCGAGCTCG(配列番号16)
【実施例】
【0083】
VTC1、VTC2、VTC3、VTC4遺伝子破壊を確認するために設計したプライマーは以下の通りである。
VTC1-Fw:AACACTACGCCAGATTTCCA(配列番号17)
VTC1-Rv:CCACGCTTACGATATTGGAA(配列番号18)
VTC2-Fw:AAGAACGACTACACCTCAACA(配列番号19)
VTC2-Rv:CATAAAAACACATGGTCTCAG(配列番号20)
VTC3-Fw:AGCGAACAGCAGAATTTGTCC(配列番号21)
VTC3-Rv:GGTACTTGTGTAATATATGTG(配列番号22)
VTC4-Fw:ATAAAAGAGCATAACAAG(配列番号23)
VTC4-Rv:GATTATTACTTAATTATACAG(配列番号24)
【実施例】
【0084】
作製したVTC1、VTC2、VTC3、VTC4遺伝子破壊株はいずれも、野生株を上回る二酸化炭素発生量を示すと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明により、酵母の発酵能及びエタノール生産性を向上することができる。本発明は、発酵食品、発酵飲料の製造、バイオエタノール生産等といった種々の産業において利用可能である。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2