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明細書 :免疫機能制御因子を発現する免疫担当細胞及び発現ベクター

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 特許公報(B2)
特許番号 特許第6561372号 (P6561372)
登録日 令和元年8月2日(2019.8.2)
発行日 令和元年8月21日(2019.8.21)
発明の名称または考案の名称 免疫機能制御因子を発現する免疫担当細胞及び発現ベクター
国際特許分類 C12N   5/10        (2006.01)
C12N  15/12        (2006.01)
C12N  15/24        (2006.01)
C12N  15/63        (2006.01)
A61K  35/17        (2015.01)
A61P  35/00        (2006.01)
A61P  37/04        (2006.01)
A61K  38/20        (2006.01)
A61K  38/19        (2006.01)
A61K   9/10        (2006.01)
FI C12N 5/10
C12N 15/12
C12N 15/24
C12N 15/63 ZNAZ
A61K 35/17 A
A61P 35/00
A61P 37/04
A61K 38/20
A61K 38/19
A61K 9/10
請求項の数または発明の数 10
全頁数 21
出願番号 特願2018-505978 (P2018-505978)
出願日 平成29年3月15日(2017.3.15)
国際出願番号 PCT/JP2017/010437
国際公開番号 WO2017/159736
国際公開日 平成29年9月21日(2017.9.21)
優先権出願番号 2016053913
優先日 平成28年3月17日(2016.3.17)
優先権主張国 日本国(JP)
審査請求日 令和元年5月10日(2019.5.10)
特許権者または実用新案権者 【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
発明者または考案者 【氏名】玉田 耕治
【氏名】佐古田 幸美
【氏名】安達 圭志
早期審査対象出願または早期審理対象出願 早期審査対象出願
個別代理人の代理人 【識別番号】100107984、【弁理士】、【氏名又は名称】廣田 雅紀
【識別番号】100102255、【弁理士】、【氏名又は名称】小澤 誠次
【識別番号】100096482、【弁理士】、【氏名又は名称】東海 裕作
【識別番号】100188352、【弁理士】、【氏名又は名称】松田 一弘
【識別番号】100113860、【弁理士】、【氏名又は名称】松橋 泰典
【識別番号】100131093、【弁理士】、【氏名又は名称】堀内 真
【識別番号】100150902、【弁理士】、【氏名又は名称】山内 正子
【識別番号】100141391、【弁理士】、【氏名又は名称】園元 修一
【識別番号】100198074、【弁理士】、【氏名又は名称】山村 昭裕
【識別番号】100096013、【弁理士】、【氏名又は名称】富田 博行
審査官 【審査官】太田 雄三
参考文献・文献 国際公開第2016/056228(WO,A1)
特表2014-504294(JP,A)
特表2014-507118(JP,A)
中沢洋三,キメラ抗原受容体(CAR)を用いた遺伝子改変T細胞療法,信州医学雑誌,2013年 8月,Vol. 61, No. 4,p. 197-203
佐古田幸美,玉田耕治,CAR-T細胞療法の開発と最新研究の動向,がん分子標的治療,2015年 7月24日,Vol. 13, No. 2,p. 90-98
玉田耕治,CAR遺伝子導入T細胞によるがん免疫細胞療法,医学のあゆみ,2016年 2月13日,Vol. 256, No. 7,p. 805-809
橋本(佐藤)美穂,他,脾臓T細胞の恒常性調節へのSIRPαの関与,第85回日本生化学会大会要旨集,2012年,3T29-06
調査した分野 C12N 5/00
C12N 15/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
特許請求の範囲 【請求項1】
がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、インターロイキン7(IL-7)、及びCCL19を発現する免疫担当細胞。
【請求項2】
免疫担当細胞が、細胞外から導入したIL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を含有することを特徴とする請求項1記載の免疫担当細胞。
【請求項3】
がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子が、がん抗原を特異的に認識するT細胞受容体であることを特徴とする請求項1又は2記載の免疫担当細胞。
【請求項4】
免疫担当細胞がT細胞であることを特徴とする請求項1~3のいずれか記載の免疫担当細胞。
【請求項5】
がん抗原が、WT1、MART-1、NY-ESO-1、MAGE-A1、MAGE-A3、MAGE-A4、Glypican-3、KIF20A、Survivin、AFP-1、gp100、MUC1、PAP-10、PAP-5、TRP2-1、SART-1、VEGFR1、VEGFR2、NEIL3、MPHOSPH1、DEPDC1、FOXM1、CDH3、TTK、TOMM34、URLC10、KOC1、UBE2T、TOPK、ECT2、MESOTHELIN、NKG2D、P1A、GD2、又はGM2であることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の免疫担当細胞。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の免疫担当細胞を作製するための以下の(a)~(e)のいずれかの発現ベクター。
(a)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、IL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を含有する発現ベクター:
(b)以下の(b-1)及び(b-2)の2つの発現ベクター:
(b-1)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸を含有する発現ベクター;
(b-2)IL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を含有する発現ベクター;
(c)以下の(c-1)及び(c-2)の2つの発現ベクター:
(c-1)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、及びIL-7をコードする核酸を含有する発現ベクター;
(c-2)CCL19をコードする核酸を含有する発現ベクター;
(d)以下の(d-1)及び(d-2)の2つの発現ベクター:
(d-1)IL-7をコードする核酸を含有する発現ベクター;
(d-2)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を含有する発現ベクター;
(e)以下の(e-1)、(e-2)及び(e-3)の3つの発現ベクター:
(e-1)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸を含有する発現ベクター;
(e-2)IL-7をコードする核酸を含有する発現ベクター;
(e-3)CCL19をコードする核酸を含有する発現ベクター;
【請求項7】
がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子が、がん抗原を特異的に認識するT細胞受容体であることを特徴とする請求項6記載の発現ベクター。
【請求項8】
(a)の発現ベクターにおける、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、IL-7をコードする核酸、及び、CCL19をコードする核酸、
(b-2)の発現ベクターにおける、IL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸、
(c-1)の発現ベクターにおける、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、及びIL-7をコードする核酸、又は
(d-2)の発現ベクターにおける、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸、
が自己切断型ペプチドを介して連結されていることを特徴とする請求項6又は7記載の発現ベクター。
【請求項9】
自殺遺伝子をコードする核酸を含有することを特徴とする請求項6~8のいずれか1項に記載の発現ベクター。
【請求項10】
請求項1~5のいずれか1項に記載の免疫担当細胞と、薬学的に許容される添加剤とを含有する抗がん剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、インターロイキン7(IL-7)、及びCCL19を発現する免疫担当細胞や、かかる免疫担当細胞を含有する抗がん剤や、かかる免疫担当細胞を作製するための発現ベクターに関する。
【背景技術】
【0002】
がんは世界中で多くの罹患者がいる疾患であり、一般的に化学療法、放射線療法、又は外科療法が広く行われている。しかしながら、副作用が生じることや、一部の機能が失われることや、転移を治療しにくいこと等、様々な問題があった。
【0003】
そこで、より患者のQOLを高く維持すべく、近年、免疫療法の開発が進められている。この免疫療法において、免疫細胞療法は、患者から免疫担当細胞を採取し、かかる免疫担当細胞の免疫機能を高めるように処置して増幅し、再度患者に移入する療法である。具体的には、患者からT細胞を採取し、かかるT細胞にCARをコードする遺伝子を導入して増幅し、再度患者に移入する療法(非特許文献1参照)が知られている。この療法は、現在世界中で臨床試験が進行しており、白血病やリンパ腫等の造血器悪性腫瘍等において有効性を示す結果が得られている。
【0004】
また、T細胞等の免疫担当細胞の免疫機能制御因子としては、サイトカイン、ケモカイン、シグナル制御タンパク質等、少なくとも数百種類の因子が知られている。その中でインターロイキン7(IL-7)はT細胞の生存に必須のサイトカインであり、骨髄、胸腺、リンパ器官・組織のストローマ細胞等の非造血細胞によって産生されることが知られている。かかるIL-7の機能を利用したT細胞として、IL-7とIL-7Rアルファを融合したキメラサイトカイン受容体を発現するT細胞(特許文献1参照)が開示されている。しかしながら、かかるT細胞におけるキメラサイトカイン受容体は、一つの融合タンパク質として、導入したT細胞の膜表面に限定して発現し、自己の細胞に対してのみリガンド非依存的にIL-7R等のサイトカインシグナルを伝達するものに過ぎず、上記受容体を導入していないT細胞の機能を高めることはできなかった。
【0005】
また、CCL19やCCL21、IL-7の発現低下がSIRPアルファ変異マウスにおける脾臓でのT細胞領域の維持欠損の原因となること(非特許文献2参照)や、CCL19やCCL21、IL-7が二次リンパ組織(脾臓やリンパ節)においてT細胞の恒常性を維持する働きを有していること(非特許文献3参照)が開示されている。しかしながら、上記非特許文献2、3は二次リンパ組織のT細胞領域に恒常的に存在する非活性化T細胞に対した作用を示したものであり、抗腫瘍免疫応答と直接的な関係性を示すものではなかった。さらに、上記非特許文献2、3におけるCCL19やCCL21、IL-7発現細胞はT細胞ではなく、二次リンパ組織に存在する細網内皮系の細胞であった。
【0006】
一方、T細胞受容体(T cell receptor:以下、「TCR」ともいう)はT細胞の細胞膜上に発現している抗原受容体分子である。アルファ鎖とベータ鎖、又はガンマ鎖とデルタ鎖からなるヘテロ二量体として存在しており、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子に結合した抗原分子を認識することでT細胞を活性化することが知られている。
【0007】
かかるTCRの機能を応用し、がん細胞に発現する腫瘍抗原を認識できるTCR遺伝子をがん患者から得られたT細胞に導入し、増幅後に再度患者に移入する免疫療法の開発が進められている。具体的には、WT1発現細胞を特異的に認識するTCRを発現する細胞を含有する髄膜腫治療用医薬組成物(特許文献2参照)が開示されている。
【0008】
上記技術の一部には、造血器悪性腫瘍に対する抗腫瘍効果を認めるものがあるものの、固形がんに対しては未だに顕著な効果が示された例は無い。これは移入した免疫担当細胞の生体内での生存効率が低い、あるいは移入した免疫担当細胞により誘導される内在性免疫担当細胞の活性化や、腫瘍局所への集積が不十分という問題が考えられており、それらを解決する技術の開発が求められていた。
【先行技術文献】
【0009】

【特許文献1】国際公開第2013/123061号パンフレット
【特許文献2】特開2013-116891号公報
【0010】
<nplcit num="1"> <text>中沢洋三 信州医誌 61(4):197~203(2013)</text></nplcit><nplcit num="2"> <text>SATO-HASHIMOTO M. et al., J. Immunol., 2011, vol.187, no. 1,291-7</text></nplcit><nplcit num="3"> <text>SIEGERT S. et al., Front. Immunol., 2012, vol.3, article 285</text></nplcit>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来の免疫療法に用いる免疫担当細胞においては、内在性免疫担当細胞の免疫誘導効果や、免疫担当細胞の増殖能、生存能、又はT細胞の集積能が十分に増強されていなかった。そこで、本発明の課題は、免疫担当細胞において免疫担当細胞の免疫機能制御因子を発現し、増殖能、生存能、及びT細胞の集積能を併せ持つ免疫担当細胞や、かかる免疫担当細胞を作製するための免疫機能制御因子発現ベクターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者らは、免疫担当細胞を利用したがん免疫療法において、より優れた免疫誘導効果や抗腫瘍活性を達成することを目的として、免疫機能制御因子を発現する細胞の改良を試みた。その過程で、免疫担当細胞の免疫機能を制御する因子であるサイトカイン、ケモカイン、シグナル制御タンパク質に着目し、前記免疫担当細胞の免疫機能を制御する因子を発現するベクターを構築した。かかる発現ベクターを免疫担当細胞に導入したところ、従来の免疫担当細胞よりも優れた免疫誘導効果、増殖能、生存能並びにT細胞の集積能を有する免疫担当細胞を作製することができることを見いだし、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明は以下の(1)~(9)に開示されるとおりのものである。
(1)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、インターロイキン7(IL-7)、及びCCL19を発現する免疫担当細胞。
(2)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子が、がん抗原を特異的に認識するT細胞受容体であることを特徴とする上記(1)記載の免疫担当細胞。
(3)免疫担当細胞がT細胞であることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の免疫担当細胞。
(4)がん抗原が、WT1、MART-1、NY-ESO-1、MAGE-A1、MAGE-A3、MAGE-A4、Glypican-3、KIF20A、Survivin、AFP-1、gp100、MUC1、PAP-10、PAP-5、TRP2-1、SART-1、VEGFR1、VEGFR2、NEIL3、MPHOSPH1、DEPDC1、FOXM1、CDH3、TTK、TOMM34、URLC10、KOC1、UBE2T、TOPK、ECT2、MESOTHELIN、NKG2D、P1A、GD2、又はGM2であることを特徴とする上記(1)~(3)のいずれか1つに記載の免疫担当細胞。
(5)上記(1)~(4)のいずれか1つに記載の免疫担当細胞を作製するための以下の(a)~(e)のいずれかの発現ベクター。
(a)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、IL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を含有する発現ベクター:
(b)以下の(b-1)及び(b-2)の2つの発現ベクター:
(b-1)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸を含有する発現ベクター;
(b-2)IL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を含有する発現ベクター;
(c)以下の(c-1)及び(c-2)の2つの発現ベクター:
(c-1)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、及びIL-7をコードする核酸を含有する発現ベクター;
(c-2)CCL19をコードする核酸を含有する発現ベクター;
(d)以下の(d-1)及び(d-2)の2つの発現ベクター:
(d-1)IL-7をコードする核酸を含有する発現ベクター;
(d-2)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を含有する発現ベクター;
(e)以下の(e-1)、(e-2)及び(e-3)の3つの発現ベクター:
(e-1)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸を含有する発現ベクター;
(e-2)IL-7をコードする核酸を含有する発現ベクター;
(e-3)CCL19をコードする核酸を含有する発現ベクター;
(6)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子が、がん抗原を特異的に認識するT細胞受容体であることを特徴とする上記(5)記載の発現ベクター。
(7)(a)の発現ベクターにおける、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、IL-7をコードする核酸、及び、CCL19をコードする核酸、
(b-2)の発現ベクターにおける、IL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸、
(c-1)の発現ベクターにおける、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、及びIL-7をコードする核酸、又は
(d-2)の発現ベクターにおける、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸、
が自己切断型ペプチドを介して連結されていることを特徴とする上記(5)又は(6)記載の発現ベクター。
(8)自殺遺伝子をコードする核酸を含有することを特徴とする上記(5)~(7)のいずれか1つに記載の発現ベクター。
(9)上記(1)~(4)のいずれか1つに記載の免疫担当細胞と、薬学的に許容される添加剤とを含有する抗がん剤。
【発明の効果】
【0014】
本発明のがん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、IL-7、及びCCL19を発現する免疫担当細胞(以下、「IL-7×CCL19発現免疫担当細胞」ともいう)を用いれば、抗腫瘍活性を有し、細胞表面分子が特異的に認識する抗原を有するがん細胞によって形成された腫瘍による生存率低下を抑制することが可能となる。また、本発明の発現ベクターを用いれば、増殖能、生存能及びT細胞集積能を併せ持つ免疫担当細胞を作製することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】IL-7×CCL19発現ベクターのマップを示す図である。
【図2A】IL-7/CCL19発現T細胞の細胞数を調べた結果を示す図である。
【図2B】IL-7/CCL19発現T細胞の生存率を調べた結果を示す図である。
【図3】IL-7/CCL19発現T細胞によるT細胞遊走試験の結果を示す図である。
【図4】IL-7×CCL19×HSV-TK発現ベクターのマップを示す図である。
【図5】TCR×IL-7×CCL19発現ベクターのマップを示す図である。
【図6】IL-7×CCL19×eGFP発現ベクターのマップを示す図である。
【図7】未処理マウス、P1A特異的TCR/eGFP発現T細胞を投与したマウス、及びP1A特異的TCR/IL-7/CCL19/eGFP発現T細胞を投与したマウスの生存率を示す図である。
【図8】未処理マウス、P1A特異的TCR/eGFP発現T細胞を投与したマウス、及びP1A特異的TCR/IL-7/CCL19/eGFP発現T細胞を投与したマウスの腫瘍体積を調べた結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のIL-7×CCL19発現免疫担当細胞は、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、インターロイキン7(IL-7)、及びCCL19を発現していれば特に制限されず、さらに、IL-15、CCL21、IL-2、IL-4、IL-12、IL-13、IL-17、IL-18、IP-10、CCL4、Flt3L、nterferon-gamma、MIP-1alpha、GM-CSF、M-CSF、TGF-beta、TNF-alpha等の他の免疫機能制御因子を発現していてもよい。

【0017】
がん抗原とは、がん細胞において正常細胞よりも高く発現する、あるいはがん細胞に特異的に発現するタンパク質、糖脂質等の物質を意味し、かかるがん抗原としては、腫瘍関連抗原や癌精巣抗原、血管新生関連抗原、遺伝子変異によるがん新生抗原(ネオアンチゲン)のエピトープペプチドを挙げることができ、具体的には、WT1、MART-1、NY-ESO-1、MAGE-A1、MAGE-A3、MAGE-A4、Glypican-3、KIF20A、Survivin、AFP-1、gp100、MUC1、PAP-10、PAP-5、TRP2-1、SART-1、VEGFR1、VEGFR2、NEIL3、MPHOSPH1、DEPDC1、FOXM1、CDH3、TTK、TOMM34、URLC10、KOC1、UBE2T、TOPK、ECT2、MESOTHELIN、NKG2D、P1A等のタンパク質や、GD2、GM2等の糖脂質を挙げることができるが、これに限定されない。

【0018】
がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子としては、がん抗原を特異的に認識する細胞表面受容体、人工受容体、接着因子を挙げることができ、がん抗原を特異的に認識するT細胞受容体やがん抗原を特異的に認識するキメラ抗原受容体(constitutive androstane receptor:CAR)等の、細胞表面に発現することよってがんに対して特異的な識別能を付与する分子を好適に挙げることができ、TCRをより好適に挙げることができる。TCRとしては、がん抗原を特異的に認識するかぎりアルファ鎖及びベータ鎖からなるヘテロ二量体(アルファ・ベータTCR)でもガンマ鎖及びデルタ鎖からなるヘテロ二量体(ガンマ・デルタTCR)でもよい。なお、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子は、がん抗原の認識が特異的であれば、間接的に認識するものであってもよい。例えば、がん抗原を特異的に認識する抗体等の分子を本発明の免疫担当細胞と同時又は連続して対象に投与し、当該抗体等の分子を認識するか、又は抗体等の分子に標識されたタグを認識することで、本発明の免疫担当細胞は間接的にがん抗原を特異的に認識し得る。抗体を認識する場合の例としては、細胞表面分子としてCD16等が挙げられ、抗体等の分子に標識するタグの例としては、FITC等が挙げられる。

【0019】
本発明のIL-7×CCL19発現免疫担当細胞における免疫担当細胞の種類としては、免疫応答に関与する細胞であればよく、T細胞、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)、B細胞等のリンパ球系細胞や、単球、マクロファージ、樹状細胞等の抗原提示細胞や、好中球、好酸球、好塩基球、肥満細胞等の顆粒球を挙げることができ、ヒト、イヌ、ネコ、ブタ、マウス等の哺乳動物由来のT細胞、好ましくはヒト由来のT細胞を好適に挙げることができる。また、T細胞は、血液、骨髄液等の体液や、脾臓、胸腺、リンパ節等の組織、もしくは原発腫瘍、転移性腫瘍、がん性腹水等のがん組織に浸潤する免疫細胞から単離、精製して得ることができ、またES細胞やiPS細胞から作製されたものを利用してもよい。かかるT細胞としては、アルファ・ベータT細胞、ガンマ・デルタT細胞、CD8T細胞、CD4T細胞、腫瘍浸潤T細胞、メモリーT細胞、ナイーブT細胞、NKT細胞を挙げることができる。

【0020】
本発明のIL-7×CCL19発現免疫担当細胞の作製方法としては、後述する本発明の発現ベクターを免疫担当細胞に導入して作製する方法を挙げることができる。若しくは、受精卵、ES細胞、又はiPS細胞に対して、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、インターロイキン7(IL-7)、及び/又はCCL19を発現するベクターを導入してから誘導して作製する方法や、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子を遺伝子導入により発現したトランスジェニック哺乳動物から分離して得た免疫担当細胞に、さらに必要に応じてがん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、インターロイキン7(IL-7)、及び/又はCCL19を発現するベクターを導入して作製する方法も挙げることができる。

【0021】
後述する本発明の発現ベクターを上記免疫担当細胞に導入して作製する方法としては特に制限されないが、ウイルス感染法、カルシウムリン酸法、リポフェクション法、マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法等の公知の方法により導入する方法を挙げることができ、ウイルス感染法により導入する方法を好適に挙げることができる。

【0022】
ウイルス感染法としては、本発明の発現ベクターとパッケージングプラスミドをGP2-293細胞(タカラバイオ社製)、Plat-GP細胞(コスモ・バイオ社製)、PG13細胞(ATCC CRL-10686)、PA317細胞(ATCC CRL-9078)等のパッケージング細胞にトランスフェクションして組換えウイルスを作製し、かかる組換えウイルスを免疫担当細胞に感染させる方法を挙げることができ、Retrovirus packagin Kit Eco(タカラバイオ社製)等の市販のキットを用いて行ってもよい。

【0023】
また、本発明の免疫担当細胞は、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、IL-7、及びCCL19をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを、公知の遺伝子編集技術を用いて、適切なプローターの制御下で発現可能なように、細胞のゲノムに組み込むことによって作製してもよい。公知の遺伝子編集技術としては、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALEN(転写活性化様エフェクターヌクレアーゼ)、CRISPR(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat)-Casシステム等のエンドヌクレアーゼを用いる技術が挙げられる。本発明の免疫担当細胞に他の外来タンパク質を発現させる場合も同様に、遺伝子編集技術を用いて、他の外来タンパク質をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを、適切なプローターの制御下で発現可能なように、細胞のゲノムに組み込んでもよい。適切なプローターの制御下で発現可能なようポリヌクレオチドを細胞ゲノムに組み込む方法としては、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、IL-7、及びCCL19(又は他のタンパク質)をコードする塩基配列を、適切なプロモーターの下流に機能的に連結したポリヌクレオチド(即ち、当該プロモーターの制御下で発現可能なようにコード配列を連結したポリヌクレオチド)を、細胞ゲノムの非コード領域等に組み込む方法;がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、IL-7、及びCCL19(又は他のタンパク質)をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドを、細胞ゲノムの内在性プロモーターの下流に組み込む方法等が挙げられる。内在性プロモーターとしては、例えば、TCRα、TCRβのプロモーター等が挙げられる。

【0024】
また、本発明のIL-7×CCL19発現免疫担当細胞に、後述する単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ(HSV-TK)や誘導性カスパーゼ9(inducible caspase 9)が発現するようにしてもよい。

【0025】
本発明のIL-7×CCL19発現免疫担当細胞はがん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、IL-7、及びCCL19を発現することから、増殖能、生存能、及び内因性T細胞の集積能が高く、種々の免疫担当細胞を用いた養子免疫療法に応用することが可能である。養子免疫療法の例としては、樹状細胞療法、NK細胞療法、ガンマ・デルタT細胞療法、アルファ・ベータT細胞療法、CTL療法、TIL療法等が挙げられるがこれに限定されない。患者から採取した免疫担当細胞に後述する本発明の発現ベクターを導入して増幅し、患者に投与する方法を挙げることができる。以下に具体的な例を挙げるが、これに限定するものではない。樹状細胞療法では、患者から採取した単球から分化した樹状細胞に、手術で摘出したがん組織又はそのライセートを取り込ませ、患者の体内へ投与する工程を含むが、本発明の発現ベクターを、樹状細胞に導入する工程を含んでもよい。ここで、上記がん組織やライセートに替えてがん抗原分子のエピトープペプチドを人工的に合成して利用することもできる。NK細胞療法は、患者から採取したリンパ球をIL-2等の複数の刺激物質でNK細胞を活性化し増殖させ、患者へ投与する工程を含むが、本発明のベクターをNK細胞に導入する工程を含んでもよい。なお、がんに対する抗体医薬を活性化したNK細胞と併用することでがん細胞を効率よく攻撃する効果を期待できる。ガンマ・デルタT細胞療法は、患者から採取したリンパ球をIL-2やゾレドロン酸を利用して培養刺激し、ガンマ・デルタT細胞を増殖させ、患者へ投与する工程を含むが、本発明の発現ベクターをガンマ・デルタT細胞に導入する工程を含んでもよい。アルファ・ベータT細胞療法は、患者から採集したリンパ球を抗CD3抗体やIL-2で培養し、活性化したアルファ・ベータT細胞を患者へ投与する工程を含むが、本発明の発現ベクターをアルファ・ベータT細胞に導入する工程を含んでもよい。CTL療法は、患者から採集したリンパ球を、患者から採取したがん細胞により刺激し、抗CD3抗体やIL-2を添加して培養し、がん細胞に特異的なCTLを増殖させ患者へ投与する工程を含むが、本発明の発現ベクターをCTLに導入する工程を含んでもよい。また、上記のがん細胞に代えて、がん抗原エピトープペプチドを提示する抗原提示細胞を利用することもできる。TIL療法は、患者から採取したがん組織からリンパ球を採集し、IL-2等で刺激・培養し、患者に投与する工程を含むが、本発明の発現ベクターをリンパ球に導入する工程を含んでもよい。

【0026】
本発明の発現ベクターは、上記本発明のIL-7×CCL19発現免疫担当細胞を作製するための以下の(a)~(e)のいずれかである。
(a)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、IL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を含有する発現ベクター:
(b)以下の(b-1)及び(b-2)の2つの発現ベクター:
(b-1)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸を含有する発現ベクター;
(b-2)IL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を含有する発現ベクター;
(c)以下の(c-1)及び(c-2)の2つの発現ベクター:
(c-1)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、及びIL-7をコードする核酸を含有する発現ベクター;
(c-2)CCL19をコードする核酸を含有する発現ベクター;
(d)以下の(d-1)及び(d-2)の2つの発現ベクター:
(d-1)IL-7をコードする核酸を含有する発現ベクター;
(d-2)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を含有する発現ベクター;
(e)以下の(e-1)、(e-2)及び(e-3)の3つの発現ベクター:
(e-1)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸を含有する発現ベクター;
(e-2)IL-7をコードする核酸を含有する発現ベクター;
(e-3)CCL19をコードする核酸を含有する発現ベクター;

【0027】
本発明の発現ベクターは、さらに、IL-15、CCL21、IL-2、IL-4、IL-12、IL-13、IL-17、IL-18、IP-10、CCL4、Flt3L、Interferon-gamma、MIP-1alpha、GM-CSF、M-CSF、TGF-beta、TNF-alpha等の他の免疫機能制御因子をコードする核酸を含有してもよい。

【0028】
上記がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、インターロイキン7(IL-7)をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸はそれぞれ哺乳動物由来の核酸を挙げることができ、ヒト由来の核酸を好適に挙げることができる。上記それぞれの核酸は、本発明の発現ベクターを導入する細胞の種類に応じて適宜選択でき、かかるそれぞれの核酸の配列情報は、公知の文献やNCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/guide/)等のデータベースを検索して適宜入手することができる。

【0029】
上記がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸としては、ヒト由来の核酸を好適に挙げることができ。かかるがん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸は、T細胞受容体(TCR)をコードする核酸又はキメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸を挙げることができ、天然由来の核酸でも人工合成の核酸でもよく、本発明の発現ベクターを導入する細胞の種類に応じて適宜選択でき、配列情報は、公知の文献やNCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/guide/)等のデータベースを検索して適宜入手することができる。

【0030】
がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、IL-7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸は、それぞれをコードする核酸の塩基配列の情報に基づき、化学合成する方法や、PCRによって増幅する方法等の公知の技術によって作製することができる。なお、アミノ酸をコードするための選択されるコドンは、目的の宿主細胞における核酸の発現を最適化するために改変されてもよい。

【0031】
上記TCRをコードする核酸におけるTCRとしては、アルファ鎖及びベータ鎖からなるヘテロ二量体(アルファ・ベータTCR)でもガンマ鎖及びデルタ鎖からなるヘテロ二量体(ガンマ・デルタTCR)でもよい。なお、アルファ・ベータTCRをコードする核酸には、TCRのアルファ鎖をコードする核酸とベータ鎖をコードする核酸の両方が含まれ、ガンマ・デルタTCRをコードする核酸には、TCRのガンマ鎖をコードする核酸とデルタ鎖をコードする核酸の両方が含まれる。

【0032】
上記TCRをコードする核酸の配列情報は、当技術分野における公知の方法を用いることにより、特定の抗原ペプチドを用いて誘導されたCTLのTCRサブユニットとしてのアルファ鎖及びベータ鎖の核酸から同定することができる(国際公開第2007/032255号パンフレット、及びMorgan et al., J Immunol, 171, 3288 (2003))。例えば、TCRを解析するためにはPCR法が好ましい。解析のためのPCRプライマーは、例えば、5'側プライマーとしての5'-Rプライマー(5'-gtctaccaggcattcgcttcat-3':配列番号3)、及び3'側プライマーとしての、TCRアルファ鎖C領域に特異的な3-TRa-Cプライマー(5'-tcagctggaccacagccgcagcgt-3':配列番号4)、TCRベータ鎖C1領域に特異的な3-TRb-C1プライマー(5'-tcagaaatcctttctcttgac-3':配列番号5)、又はTCRベータ鎖C2領域に特異的な3-TRbeta-C2プライマー(5'-ctagcctctggaatcctttctctt-3':配列番号6)であり得るが、これらに限定されない。TCR誘導体は、抗原ペプチドを提示する標的細胞と高い結合力で結合することができ、かつ任意で、抗原ペプチドを提示する標的細胞の効率的な殺傷をインビボ及びインビトロで媒介することができる。

【0033】
上記TCRをコードする核酸としては、例えばMART1特異的TCR(Cancer Res.54,5265-5268(1994))、MAGE-A3特異的TCR(Anticancer Res.,20,1793-1799(2000))、gp100特異的TCR(J.Immunol.170,2186-2194(2003))、NY-ESO-1特異的TCR(J.Immunol.,174、4415-4423(2005))、WT1特異的TCR(Blood,106,470-476(2005))、MAGE-A1特異的TCR(Int.Immunol.,8,1463-1466(1996))、P1A特異的TCR(Sarma, S., Y. Guo, Y. Guilloux, C. Lee, X.-F. Bai, Y. Liu. 1999. Cytotoxic T lymphocytes to an unmutated tumor antigen P1A: normal development but restrained effector function. J. Exp. Med. 189:811.)等のTCRをコードする核酸や、MHC分子に結合した抗原分子を認識し、かつT細胞を活性化することができるかぎり、上記文献に記載のTCRをコードする塩基配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の同一性を有する塩基配列でもよい。さらに、上記文献に記載されたTCRをコードする塩基配列の中でCDRをコードする配列を特定し、かかるCDRをコードする配列を維持し、かつCDRをコードする配列以外の配列において、上記文献に記載のTCRをコードする塩基配列と60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の同一性を有する塩基配列でもよい。

【0034】
IL-7をコードする核酸としては、配列番号1に示すアミノ酸配列をコードする塩基配列を挙げることができ、IL-7における細胞増殖率又は細胞生存率の亢進作用を有する限り、配列番号1に示すアミノ酸配列をコードする塩基配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の同一性を有する塩基配列でもよい。CCL19をコードする核酸としては、配列番号2に示すアミノ酸配列をコードする塩基配列を挙げることができ、CCL19における細胞の遊走作用を有する限り、配列番号2に示すアミノ酸配列をコードする塩基配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の同一性を有する塩基配列を用いてもよい。

【0035】
また、本発明の発現ベクターには、自殺遺伝子をコードする核酸を含んでいてもよい。自殺遺伝子とは、発現することによって直接的に、あるいは二次的に細胞毒性を有する物質を誘導し、自らの細胞を死に至らしめる機能を有する遺伝子を意味する。本発明の発現ベクターに自殺遺伝子をコードする核酸を含ませることによって、がんの治療経過に応じて、たとえば腫瘍が消失した場合に自殺遺伝子の機能を活性化する薬剤を投与し、生体内の免疫担当細胞を制御することができる。また、IL-7又はCCL19は他のサイトカインとは異なり、副作用としてサイトカイン放出症候群や遺伝子導入細胞の腫瘍化を引き起こす可能性は低い。しかしながら、本発明の発現ベクターを導入した免疫担当細胞の機能が高まることで、標的のがん組織を攻撃する際に放出するサイトカイン等が予想外にも周辺組織へ影響することがあり得る。かかる場合には、本発明の発現ベクターに自殺遺伝子をコードする核酸を含ませることによって、サイトカイン放出症候群になるリスクを確実に低減させることが可能となる。

【0036】
自殺遺伝子としては、以下の文献に記載された単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ(HSV-TK)や誘導性カスパーゼ9(inducible caspase 9)をコードする遺伝子等を挙げることができ、かかる遺伝子の機能を活性化する薬剤としては、前者に対してはガンシクロビル、後者に対しては二量体誘導化合物(chemical induction of dimerization:CID)であるAP1903を挙げることができる(Cooper LJ.,et. al. Cytotherapy. 2006;8(2):105-17.,Jensen M. C. et. al. Biol Blood Marrow Transplant. 2010 Sep;16(9):1245-56., Jones BS. Front Pharmacol.2014 Nov 27;5:254., Minagawa K., Pharmaceuticals (Basel). 2015 May 8;8(2):230-49., Bole-Richard E., Front Pharmacol. 2015 Aug 25;6:174)。

【0037】
本発明のベクターにおける、(a)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、IL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を含有する発現ベクターは、いずれの核酸がいずれの上流又は下流に配置されてもよい。具体的には、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸としてTCRをコードする核酸を含有する場合を例にすると、上流から順にTCRをコードする核酸、IL-7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸であっても、TCRをコードする核酸、CCL19をコードする核酸及びIL-7をコードする核酸であっても、IL-7をコードする核酸、CCL19をコードする核酸及びTCRをコードする核酸であっても、IL-7をコードする核酸、TCRをコードする核酸及びCCL19をコードする核酸であっても、CCL19をコードする核酸、TCRをコードする核酸、及びIL-7をコードする核酸であっても、CCL19をコードする核酸、IL-7をコードする核酸及びTCRをコードする核酸であってもよい。

【0038】
本発明のベクターにおける、(b-2)IL-7をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を含有する発現ベクターにおいて、IL-7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸の配置は特に制限されず、IL-7をコードする核酸に対してCCL19をコードする核酸が上流に配置されても下流に配置されてもよい。

【0039】
本発明のベクターにおける、(c-1)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、及びIL-7をコードする核酸を含有する発現ベクターにおいて、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸及びIL-7をコードする核酸の配置は特に制限されず、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸に対してIL-7をコードする核酸が上流に配置されても下流に配置されてもよい。

【0040】
本発明のベクターにおける、(d-2)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、及びCCL19をコードする核酸を含有する発現ベクターにおいて、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸の配置は特に制限されず、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸に対してCCL19をコードする核酸が上流に配置されても下流に配置されてもよい。

【0041】
なお、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、IL-7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸はそれぞれ別のプロモーターにより転写されてもよく、内部リボソームエントリー部位(IRES:internal ribozyme entry site)又は自己切断型2Aペプチドを使用して一つのプロモーターで転写されてもよい。

【0042】
内部リボソームエントリー部位(IRES)又は自己切断型2Aペプチドを使用して一つのプロモーターでIL-7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸を転写させる場合における上記各核酸の間や、上記がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸を含む場合における当該核酸とIL-7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸との間や、アルファ・ベータTCRをコードする核酸を含む場合におけるアルファ鎖をコードする核酸とベータ鎖をコードする核酸の間や、ガンマ・デルタTCRをコードする核酸を含む場合におけるガンマ鎖をコードする核酸とデルタ鎖をコードする核酸の間には、それぞれの核酸を発現し得る限り、任意の核酸を含んでもよいが、自己切断型ペプチド(2Aペプチド)、又はIRESをコードする配列、好ましくは2Aペプチドをコードする配列を介して連結されていることが好ましい。かかる配列を用いて連結することにより、それぞれの核酸を効率よく発現させることが可能となる。

【0043】
また、自殺遺伝子をコードする核酸を含有する場合には、自殺遺伝子の位置は特に制限されず、例えば、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子をコードする核酸、IL-7をコードする核酸、又はCCL19をコードする核酸を発現させるためのプロモーターの下流に2Aペプチド又はIRESをコードする配列を介して上記それぞれの核酸の上流又は下流に配置してもよく、他のプロモーターの下流に配置してもよい。

【0044】
2Aペプチドとは、ウイルス由来の自己切断型ペプチドであり、配列番号7で示されるアミノ酸配列中のG-P間(C末端から1残基の位置)が小胞体で切断される特徴を有する(Szymczak et al., Expert Opin. Biol. Ther.5(5):627-638(2005))。そのため、2Aペプチドを介してその前後に組み込まれた核酸は、細胞内で互いに独立して発現することとなる。

【0045】
前記2Aペプチドとしては、ピコルナウイルス、ロタウイルス、昆虫ウイルス、アフトウイルス又はトリパノソーマウイルス由来の2Aペプチドであることが好ましく、配列番号8に示すピコルナウイルス由来の2Aペプチド(F2A)であることがより好ましい。

【0046】
本発明の発現ベクターにおけるベクターとしては直鎖状でも環状でもよく、プラスミド等の非ウイルスベクターでも、ウイルスベクターでも、トランスポゾンによるベクターでもよい。また、かかるベクターには、プロモーターやターミネーター等の制御配列や、薬剤耐性遺伝子、レポーター遺伝子等の選択マーカー配列を含有していてもよい。プロモーター配列の下流に作動可能にIL-7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸を配置することで、それぞれの核酸を効率よく転写することが可能となる。

【0047】
上記プロモーターとしては、レトロウイルスのLTRプロモーター、SV40初期プロモーター、サイトメガロウイルスプロモーター、単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼプロモーター等のウイルス由来プロモーター、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーター、Xistプロモーター、β-アクチンプロモーター、RNAポリメラーゼIIプロモーター等の哺乳類由来プロモーターを挙げることができる。また、テトラサイクリンによって誘導されるテトラサイクリン応答型プロモーター、インターフェロンによって誘導されるMx1プロモーター等を用いてもよい。本発明の発現ベクターにおいて上記特定の物質によって誘導されるプロモーターを用いることによって、がんの治療経過に応じてIL-7及びCCL19の発現の誘導を制御することが可能となる。

【0048】
前記ウイルスベクターとしては、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターを挙げることができ、レトロウイルスベクターを好適に挙げることができ、pMSGVベクター(Tamada k et al., Clin Cancer Res 18:6436-6445(2002))やpMSCVベクター(タカラバイオ社製)をより好適に挙げることができる。レトロウイルスベクターを用いれば、導入遺伝子はホスト細胞のゲノムへ取り込まれるため、長期間かつ安定に発現することが可能となる。

【0049】
免疫担当細胞における本発明の発現ベクター含有の確認は、例えばTCRをコードする核酸を含有する場合には、フローサイトメトリー、ノザンブロッティング、サザンブロッティング、RT-PCR等のPCR、ELISA、ウェスタンブロッティングによってTCRの発現を調べることができ、本発明の発現ベクターにマーカー遺伝子を含有する場合には、当該発現ベクターに挿入されたマーカー遺伝子の発現を調べることによって確認することができる。

【0050】
本発明のIL-7×CCL19発現免疫担当細胞に含有する発現ベクターにTCRをコードする核酸を含有する場合には、発現するTCRの可変領域は細胞外に位置し、かかるTCRの可変領域を備えることによって、TCR発現免疫担当細胞はMHC分子に結合した抗原分子を認識することが可能となる。

【0051】
本発明の抗がん剤は、本発明のIL-7×CCL19発現免疫担当細胞と薬学的に許容される添加剤を含有していれば特に制限されず、前記添加剤としては、生理食塩水、緩衝生理食塩水、細胞培養培地、デキストロース、注射用水、グリセロール、エタノール及びこれらの組合せ、安定剤、可溶化剤及び界面活性剤、緩衝剤及び防腐剤、等張化剤、充填剤、並びに潤滑剤を挙げることができる。

【0052】
本発明の抗がん剤は、当業者に既知の方法を用いて、がんの治療を必要とする被験体に投与することができ、投与方法としては、静脈内、腫瘍内、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内、動脈内、髄内、心臓内、関節内、滑液嚢内、頭蓋内、髄腔内、及びくも膜下(髄液)への注射を挙げることができる。

【0053】
投与する抗がん剤に含まれる本発明のIL-7×CCL19発現免疫担当細胞の量は、がんの種類、位置、重症度、治療を受ける被験体の年齢、体重及び状態等に応じて適宜調整できるが、好ましくは、一回の投与において1×10~1×1010個、好ましくは1×10~1×10個、より好ましくは5×10~5×10個を挙げることができる。

【0054】
投与する抗がん剤は、1日4回、3回、2回又は1回、1日おき、2日おき、3日おき、4日おき、5日おき、週1回、7日おき、8日おき、9日おき、週2回、月1回又は月2回独立して投与する方法を挙げることができる。

【0055】
本発明の抗がん剤や、後述するがんの治療方法におけるがんとしては、固形がんでも血液がんでもよく、腺がん、扁平上皮がん、腺扁平上皮がん、未分化がん、大細胞がん、小細胞がん、皮膚がん、乳がん、前立腺がん、膀胱がん、膣がん、頸部がん、子宮がん、肝臓がん、腎臓がん、膵臓がん、脾臓がん、肺がん、気管がん、気管支がん、結腸がん、小腸がん、胃がん、食道がん、胆嚢がん、精巣がん、卵巣がん等のがんや、骨組織、軟骨組織、脂肪組織、筋組織、血管組織及び造血組織のがんのほか、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、悪性血管内皮腫、悪性シュワン腫、骨肉腫、軟部組織肉腫等の肉腫や、肝芽腫、髄芽腫、腎芽腫、神経芽腫、膵芽腫、胸膜肺芽腫、網膜芽腫等の芽腫や、胚細胞腫瘍や、リンパ腫や、白血病を挙げることができる。

【0056】
本発明の抗がん剤は、他の抗がん剤と併用して用いることができる。他の抗がん剤としては、シクロホスファミド、ベンダムスチン、イオスファミド、ダカルバジン等のアルキル化薬、ペントスタチン、フルダラビン、クラドリビン、メソトレキセート、5-フルオロウラシル、6-メルカプトプリン、エノシタビン等の代謝拮抗薬、リツキシマブ、セツキシマブ、トラスツズマブ等の分子標的薬、イマチニブ、ゲフェチニブ、エルロチニブ、アファチニブ、ダサチニブ、スニチニブ、トラメチニブ等のキナーゼ阻害剤、ボルテゾミブ等のプロテアソーム阻害剤、シクロスポリン、タクロリムス等のカルシニューリン阻害薬、イダルビジン、ドキソルビシンマイトマイシンC等の抗がん性抗生物質、イリノテカン、エトポシド等の植物アルカロイド、シスプラチン、オキサリプラチン、カルボプラチン等のプラチナ製剤、タモキシフェン、ビカルダミド等のホルモン療法薬、インターフェロン、ニボルマブ、ペンブロリズマブ等の免疫制御薬を挙げることができ、アルキル化薬又は代謝拮抗薬を好適に挙げることができる。

【0057】
上記「本発明の抗がん剤と他の抗がん剤と併用して用いる」方法としては、他の抗がん剤を用いて処理し、その後本発明の抗がん剤を用いる方法や、本発明の抗がん剤と他の抗がん剤を同時に用いる方法や、本発明の抗がん剤を用いて処理し、その後他の抗がん剤を用いる方法を挙げることができ、他の抗がん剤を用いて処理し、その後本発明の抗がん剤を用いる方法を好適に挙げることができる。また、本発明の抗がん剤と他の抗がん剤と併用した場合には、がんの治療効果がより向上するとともに、それぞれの抗がん剤の投与回数又は投与量を減らすことで、それぞれの抗がん剤による副作用を低減させることが可能となる。また、本発明の抗がん剤に上記他の抗がん剤を含めてもよい。

【0058】
本発明の別の態様1として、1)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、インターロイキン7(IL-7)、及びCCL19を発現する免疫担当細胞を、がんの治療を必要とする患者に投与することを特徴とするがんの治療方法や、2)抗がん剤として使用するための、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、インターロイキン7(IL-7)、及びCCL19を発現する免疫担当細胞や、3)がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、インターロイキン7(IL-7)、及びCCL19を発現する免疫担当細胞の、抗がん剤の調製における使用を挙げることができる。

【0059】
さらに、本発明の別の態様2として、上記本発明の発現ベクターを備えている、がん抗原を特異的に認識する細胞表面分子、インターロイキン7(IL-7)、及びCCL19を発現する免疫担当細胞を作製するためのキットを挙げることができ、かかるキットとしては、本発明の発現ベクターを備えていれば特に制限されず、本発明のIL-7×CCL19発現免疫担当細胞を作製するための説明書や、本発明の発現ベクターを免疫担当細胞に導入するために用いる試薬を含んでいてもよい。
【実施例1】
【0060】
(免疫機能制御因子の選択)
T細胞の機能を制御できる分子は少なくとも生体内に数百種類も存在する。発明者らは、免疫担当細胞における更なる免疫機能制御効果を高めるための制御分子として、これまでの知見や経験に基づき、膨大な組み合わせの中からまずはIL-7とCCL19を選択し、かつ、それぞれ単独ではなく2つの組み合わせ、すなわちIL-7とCCL19との組み合わせを選択し、かかる免疫担当細胞の免疫機能制御因子を発現するベクターを作製した。
【実施例1】
【0061】
(IL-7及びCCL19を発現するベクターの作製-1)
抗FITC scFv、マウスCD8膜貫通領域、マウスCD28-4-1BB-CD3ζ細胞内シグナルモチーフからなる抗FITC CARをコードする抗FITC CAR DNA断片(配列番号9)、配列番号8に示す2Aペプチド(F2A)と、該ペプチドに続く制限酵素サイト(MCS)をコードするF2A-MCS DNA断片(配列番号10)、マウスIL-7(ストップコドン無し)と、それに続くF2AとマウスCCL19をコードするIL-7-F2A-CCL19 DNA断片(配列番号11)を人工合成した(ライフテクノロジー社製)。
【実施例1】
【0062】
IL-7及びCCL19を発現するベクターを作製するために、上記抗FITC CAR DNA断片と上記F2A-MCS DNA断片を連結して抗FITC CAR-F2A-MCSコンストラクトを作製した。次に、作製したコンストラクトをpMSGVレトロウイルス発現ベクター(Tamada k et al., Clin Cancer Res 18:6436-6445(2002))にクローニングして抗FITC CAR-F2A-MCSを含むpMSGVベクターを作製した。かかるpMSGVベクターのMCSに、上記IL-7-F2A-CCL19 DNA断片を、制限酵素(NsiI及びSalI)処理及びライゲーションにより挿入し、抗FITC CAR-F2A-IL-7-F2A-CCL19を含むpMSGVベクター(IL-7×CCL19発現ベクター(1))を得た。得られたベクターのマップを図1に示す。また、コントロールとして上記抗FITC CAR DNA断片を上記pMSGVレトロウイルス発現ベクターにクローニングし、IL-7及びCCL19を含まないpMSGVベクター(コントロールベクター(1))を作製した。
【実施例1】
【0063】
(IL-7×CCL19発現ベクターを導入したレトロウイルスの作製)
マウスT細胞の形質導入のために、レトロウイルスを作製した。リポフェクタミン2000又は3000(ライフテクノロジー社製)を用い、上述のIL-7×CCL19発現ベクター(1)又はコントロールベクター(1)と、pCL-Ecoプラスミド(Imgenex社製)をGP2-293パッケージング細胞株(タカラバイオ社製)にトランスフェクションすることで、IL-7×CCL19発現ベクター(1)又はコントロールベクター(1)を導入したレトロウイルスを作製した。
【実施例1】
【0064】
前記GP2-293細胞の培養液としては、10%FCS、100U/mlのペニシリン、100mg/mlのストレプトマイシンを加えたDMEMを用いた。また、後述の実施例で用いるT細胞の培養液としては、10%FCS、100U/mlのペニシリン、100mg/mlのストレプトマイシン、50mMの2-メルカプトエタノール、2mMのL-グルタミンを加えたRPMI-1640を用いた。
【実施例1】
【0065】
(マウスT細胞の形質導入)
マウスT細胞の形質導入のため、脾臓及びリンパ節由来の3×106個の精製したマウスT細胞を、固層化した抗CD3mAb(3μg/ml)及びIL-2(100IU/ml)で48時間活性化した。次に、上述で作製したIL-7×CCL19発現ベクター(1)又はコントロールベクター(1)を導入したレトロウイルスを含有する上清を、25μg/mlのレトロネクチン(登録商標:タカラバイオ社製)でコートしたプレートで活性化させた上述のマウスT細胞(1×106cells/ml)と混合し、1500rpmで2時間遠心後、IL-2(100IU/ml)の存在下で6時間培養した。培養液からレトロウイルスを除去するため、マウスT細胞を回収し、IL-2(100IU/ml)を含有する新しい増殖培養液(RPMI)に移し、さらに42時間培養し、IL-7×CCL19発現ベクター(1)を導入したマウスT細胞(IL-7/CCL19発現T細胞(1))又はコントロールベクター(1)を導入したマウスT細胞(コントロールT細胞(1))を得た。
【実施例1】
【0066】
(IL-7及びCCL19を発現する発現ベクターの作製-2)
上記におけるIL-7×CCL19発現ベクター(1)の作製において、配列番号9に示す配列に含まれる抗FITC scFv領域の配列を、リツキシマブの配列に基づきライフテクノロジー社が合成した抗ヒトCD20 scFv(配列番号12)の配列に置換した以外は上記「IL-7及びCCL19を発現する発現ベクターの作製-1」と同様の方法で、抗ヒトCD20 CAR-F2A-IL-7-F2A-CCL19を含むpMSGVベクター(IL-7×CCL19発現ベクター(2))を作製した。同様に、上記におけるにおけるコントロールベクター(1)の作製において、配列番号9に示す配列に含まれる抗FITC scFv領域の配列を、上記抗ヒトCD20 scFv(配列番号12)の配列に置換した以外は上記「IL-7及びCCL19を発現する発現ベクターの作製-1」と同様の方法で、IL-7及びCCL19を含まないpMSGVベクター(コントロールベクター(2))を作製した。かかるIL-7×CCL19発現ベクター(2)又はコントロールベクター(2)を、上記と同様の方法でレトロウイルスを用いてマウスT細胞へ導入して、IL-7/CCL19発現T細胞(2)又はコントロールT細胞(2)を作製した。
【実施例2】
【0067】
(IL-7/CCL19発現T細胞の細胞数及び生存率)
IL-7/CCL19発現T細胞により産生されるIL-7やCCL19が生物的な機能を発揮し、免疫誘導効果を示すか否かについて検討した。作製したIL-7/CCL19発現T細胞(2)(4×10個)又はコントロールT細胞(2)を含有するサンプルを5日間培養した。上記培養は、IL-7及びCCL19の発現においてヒトCD20 CARによる影響を排除するため、CD20による抗原刺激なしで行った。次に、トリパンブルーによって細胞数と生存率を調べた。結果を図2A,図2Bに示す。図2Aは細胞数、図2Bは生存率であり、黒カラムIL-7/CCL19発現T細胞、白カラムはコントロールT細胞を示す。
【実施例2】
【0068】
(結果)
図2A,図2Bに示すように、IL-7/CCL19発現T細胞(2)においてはコントロールT細胞(2)と比較して細胞数がおよそ5倍、生存率はおよそ2倍高くなっていた。したがって、本発明の発現ベクターをT細胞に導入したIL-7/CCL19発現T細胞を用いることで、IL-7やCCL19が生物的な機能を発揮し、免疫誘導効果を示すことが明らかとなった。
【実施例3】
【0069】
[T細胞遊走試験]
(IL-7/CCL19発現T細胞によるT細胞遊走試験)
トランスウェルを用いた細胞遊走試験により、CCL19の遊走惹起効果を検討した。応答側T細胞の遊走性は96ウェルのトランスウェル(登録商標)チャンバー(Cornig Costar社製)を用い、孔径5μmのポリカーボネートフィルターを通して遊走させることによって測定した。具体的には、チャンバーの下層でIL-7/CCL19発現T細胞(1)又はコントロールT細胞(1)を培養した。上記培養は、IL-7及びCCL19の発現においてFITC CARによる影響を排除するため、FITCによる抗体刺激なしで行った。応答側T細胞は、MACS(Miltenyi Biotec社製)のネガティブ選択によって、脾臓やリンパ節から調製した。応答側T細胞はCytoTell blue(AAT Bioquest社製)でラベルし、上層で3時間培養した。チャンバーの上層から下層への遊走はフローサイトメトリー(EC800:ソニー社製)で調べ、データ解析はFlowJoソフトウェア(Tree Star社製)を用いた。結果を図3に示す。図3中、黒カラムはIL-7/CCL19発現T細胞(1)、白カラムはコントロールT細胞(1)を示し、縦軸は下層のチャンバーに遊走した応答側T細胞の絶対数を示す。また、統計学的有意差はStudent’s t-testにて検討した。
【実施例3】
【0070】
(結果)
図3に示すように、IL-7/CCL19発現T細胞(1)は、コントロールT細胞(1)と比較しておよそ1.8倍ものT細胞を下層に遊走させた。T細胞等のリンパ球移入療法では、投与したT細胞によるがん細胞傷害はもちろん重要であるが、それに加えて、がん患者に元々存在する内在性T細胞(=宿主側免疫細胞)を活性化し、がん細胞を攻撃する細胞として動員することが重要である。このためには抗腫瘍活性を有するリンパ球を単に外部から移入するだけでなく、何らかの手法で、移入したT細胞と内在性T細胞の能動的な相互作用を惹起し、内在性T細胞をがん局所に集積するようにさせることが免疫治療効果を高める点で好ましい。図3の結果より、IL-7/CCL19発現T細胞(1)は、内因性T細胞を集積させる能力を有することから、移入したT細胞と内在性T細胞の能動的な相互作用を誘導することが可能であることが明らかとなった。
【実施例3】
【0071】
また、図2A、図2B、図3の結果からIL-7及びCCL19発現するT細胞は、IL-7により効果的に増殖し、生存率も高く、かつCCL19によりT細胞を集積するという、免疫誘導に欠かせない重要な効果を備えており、優れた免疫誘導効果を有することが明らかとなった。すなわち、免疫担当細胞において、「IL-7」と「CCL19」の2つの制御分子を発現させることで、かかる免疫担当細胞の増殖能力、生存率、免疫誘導効果を向上させることが可能であることが明らかとなった。さらに、上述のようにIL-7及びCCL19を発現するT細胞は、増殖能、生存能、及びT細胞集積能を兼ね備えていることから、がん組織でのT細胞や樹状細胞の浸透効果や、腫瘍増殖抑制効果を有する可能性が示唆された。
【実施例4】
【0072】
[IL-7×CCL19×HSV-TK発現ベクターの作製]
pMSGV1ベクターのマルチクローニングサイトにIL-7、CCL19及び自殺遺伝子であるHSV-TKの各遺伝子をコードする塩基配列を、自己切断型ペプチドである2Aペプチドをコードする塩基配列を挟んでタンデムに並べた塩基配列をクローニングすることでIL-7、CCL19、及びHSV-TKを発現するベクターを作製することができる。かかるベクターのマップを図4に示す。
【実施例4】
【0073】
上記のようにして作製したIL-7×CCL19×HSV-TK発現ベクターを導入した免疫担当細胞は、上記免疫担当細胞を投与した被験体にガンシクロビルを投与することで被験体内の免疫担当細胞を制御することが可能となる。
【実施例5】
【0074】
[TCR×IL-7×CCL19発現ベクターの作製]
pMSGV1ベクターのマルチクローニングサイトにTCR、IL-7及びCCL19の各遺伝子をコードする塩基配列を、自己切断型ペプチドである2Aペプチドをコードする塩基配列を挟んでタンデムに並べた塩基配列をクローニングすることでTCR、IL-7及びCCL19を発現するベクターを作製することができる。かかるベクターのマップを図5に示す。
【実施例5】
【0075】
上記のようにして作製したTCR×IL-7×CCL19発現ベクターを導入した免疫担当細胞は、がん細胞の表面に存在するがん抗原のみならず、がん細胞内のがん抗原に由来するペプチドがMHCに提示された複合体に対しても特異的に結合することが可能となり、より広範囲の腫瘍関連標的分子に対する特異的T細胞の誘導が可能となる。
【実施例6】
【0076】
[IL-7、CCL19及びeGFPを発現する発現ベクターの作製]
マウスIL-7(ストップコドン無し)と、それに続くF2A、マウスCCL19をコードするIL-7-F2A-CCL19 DNA断片を人工合成した(ライフテクノロジー社製)。
【実施例6】
【0077】
IL-7、CCL19及びeGFPを発現するベクターを作製するために、上記で合成したIL-7-F2A-CCL19 DNA断片を、F2A-eGFP配列を有するpMSGVレトロウイルス発現ベクター(Tamada k et al., Clin Cancer Res 18:6436-6445(2002))のMCSに、制限酵素(NCOI及びECORI)処理及びライゲーションにより挿入し、IL-7-F2A-CCL19-F2A-eGFP DNA断片(配列番号13)を含むpMSGVベクター(IL-7×CCL19発現ベクター(3))を得た。得られたベクターのマップを図6に示す。また、コントロールとしてeGFPを含み、IL-7及びCCL19を含まないpMSGVベクター(コントロールベクター(3))を作製した。なお、配列番号13において、1~462番目の塩基がIL-7(1~75番目の塩基はIL-7のシグナル配列)、463~537番目の塩基がF2A、538~861番目の塩基がCCL19(538~612番目の塩基はCCL19のシグナル配列)、868~942がF2A、946~1662番目の塩基がeGFPをコードする核酸、1663~1665番目の塩基がストップコドンである。また、上記塩基配列13に対応するアミノ酸配列を配列番号14に示す。なお、制限酵素NcoIを使用するため、配列番号13における4番目の塩基チミン(t)をグアニン(g)に(配列番号14における2番目のアミノ酸フェニルアラニン(F)をバリン(V)に)置換した。
【実施例6】
【0078】
[P815腫瘍抗原P1A特異的なTCR、IL-7、CCL19、及びeGFPを発現するT細胞の作製]
Y.Liuから入手した、H-2L拘束性のP815腫瘍抗原P1A特異的なTCRを発現するトランスジェニックマウス(Sarma, S., Y. Guo, Y. Guilloux, C. Lee, X.-F. Bai, Y. Liu. 1999. J. Exp. Med. 189:811.)から脾臓細胞を採取し、脾臓細胞由来のP815腫瘍抗原P1A特異的なTCRを発現するマウスT細胞(P1A特異的TCR-T細胞)を得た。次に、実施例1と同様の方法で、IL-7×CCL19発現ベクター(3)及びコントロールベクター(3)を導入したレトロウイルスを作製し、上記P1A特異的TCR-T細胞を含む脾臓細胞(3×10個/ウェル)をP1Aペプチドで48時間活性化した細胞に形質導入して、P1A特異的TCR/IL-7/CCL19/eGFP発現T細胞又はP1A特異的TCR/eGFP発現T細胞を得た。各発現ベクターの形質導入はサロゲートマーカーとしてeGFPを検出するフローサイトメトリー解析によって確認した。得られたそれぞれのT細胞のeGFPの発現レベルは、いずれの実験においても70~80%であった。
【実施例6】
【0079】
0日目に、6~10週齢の雄DBA/2マウス(n=30)に0.1mlのHBSSで懸濁した5×10個のP815マストサイトーマを側腹に皮下接種した。6日目に、マウスをプレコンディショニングのために亜致死量(3-5Gy)の照射を行った。7日目に、マウス(n=10)を3つの群に分けて、P1A特異的TCR/IL-7/CCL19/eGFP発現T細胞、又はP1A特異的TCR/eGFP発現T細胞(いずれの細胞も70~80%eGFPポジティブ)をそれぞれ1×10個静脈に投与した。その後、それぞれのマウスの生存率を解析すると共に死亡したマウスの腫瘍体積を測定した。それぞれのマウスの生存率の解析結果を図7に、死亡したマウスの腫瘍体積を測定した結果を図8に示す。
【実施例6】
【0080】
図7において、▲は未処理マウス、■はP1A特異的TCR/eGFP発現T細胞を投与したマウス、●はP1A特異的TCR/IL-7/CCL19/eGFP発現T細胞を投与したマウスの結果であり、横軸がP815マストサイトーマを皮下接種してからの日数(day)、縦軸が生存率(%)である。P1A特異的TCR/IL-7/CCL19/eGFP発現T細胞を投与したマウスは60日目でも80%が生存し、100日を超えても50%が生存していた。したがって、P1A特異的TCR、IL-7及びCCL19を発現する免疫担当細胞を用いることにより抗腫瘍効果が発揮され、腫瘍による生存率の低下を抑制することが明らかとなった。
【実施例6】
【0081】
また、図8において、横軸がP815マストサイトーマを皮下接種してからの日数(day)、縦軸が腫瘍体積(mm)である。図8から明らかなように、P1A特異的TCR/IL-7/CCL19/eGFP発現T細胞を投与したマウスでは腫瘍体積の増加が著しく抑制されており、P1A特異的TCR/IL-7/CCL19/eGFP発現T細胞は優れた抗腫瘍活性を有すること、及び固形がんに対する治療効果を発揮することが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明のIL-7×CCL19発現免疫担当細胞は、増殖能、生存能及びリンパ球集積能力を併せ持つことから、免疫療法の分野において利用可能である。
図面
【図1】
0
【図2A】
1
【図2B】
2
【図3】
3
【図4】
4
【図5】
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【図6】
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【図7】
7
【図8】
8