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明細書 :凝集藻による燃料の製造法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-201357 (P2018-201357A)
公開日 平成30年12月27日(2018.12.27)
発明の名称または考案の名称 凝集藻による燃料の製造法
国際特許分類 C12N   1/12        (2006.01)
C12P   5/00        (2006.01)
FI C12N 1/12 C
C12P 5/00 ZNA
請求項の数または発明の数 12
出願形態 OL
全頁数 19
出願番号 特願2017-107854 (P2017-107854)
出願日 平成29年5月31日(2017.5.31)
発明者または考案者 【氏名】朝山 宗彦
出願人 【識別番号】504203572
【氏名又は名称】国立大学法人茨城大学
個別代理人の代理人 【識別番号】110002572、【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
審査請求 未請求
テーマコード 4B064
4B065
Fターム 4B064AB02
4B064CA08
4B065AA83X
4B065AC14
4B065AC17
4B065BA22
4B065BB40
4B065BC48
4B065CA03
4B065CA60
要約 【課題】シアノバクテリアを用いたペンタデカンの製造方法の提供。
【解決手段】ペンタデカン生産能及び自己凝集能を有する、リムノスリックス(Limnothrix)属に属するシアノバクテリア、及びそれを用いたペンタデカンの製造方法。
【選択図】図4
特許請求の範囲 【請求項1】
ペンタデカン生産能及び自己凝集能を有する、リムノスリックス(Limnothrix)属に属するシアノバクテリア。
【請求項2】
受託番号FERM P-22315を有するリムノスリックス・エスピー(Limnothrix sp.)SK1-2-1株又はその変異株である、請求項1に記載のシアノバクテリア。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のシアノバクテリアを培養し、生産されたペンタデカンを回収することを含む、ペンタデカンの製造方法。
【請求項4】
前記培養を、7~30日間行う、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記培養を培地を連続的に撹拌しながら行い、前記培養の後にさらに静置培養することによって自己凝集を誘導し、凝集塊を取得することを含む、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記静置培養を、青色光又は緑色光の照射下で行う、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記静置培養を、30分~11日間行う、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
請求項1又は2に記載のシアノバクテリアを培養し、生産されたペンタデカンを含む炭化水素油を回収することを含む、炭化水素燃料の製造方法。
【請求項9】
前記培養を培地を連続的に撹拌しながら行い、前記培養の後にさらに静置培養することによって自己凝集を誘導し、凝集塊を取得することを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ペンタデカンを含む、請求項1又は2に記載のシアノバクテリアの乾燥菌体。
【請求項11】
請求項1若しくは2に記載のシアノバクテリア、又は請求項10に記載の乾燥菌体を有する、支持体。
【請求項12】
請求項1若しくは2に記載のシアノバクテリア、又は請求項10に記載の乾燥菌体を容器内に含む、燃料。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、ペンタデカン生産能及び自己凝集能を有するシアノバクテリアの新種株及びそのようなシアノバクテリアを利用したペンタデカンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シアノバクテリア(原核光合成微生物、藍藻)を含む微細藻類は、優れた炭酸固定能を持ち、微細藻類の光合成能は高等植物のそれと比較して数十倍とも言われている。こうした能力を利用して、近年、微細藻類に地球温暖化の主因とされる排気炭酸ガスを光合成により固定させ、それにより生産されるグルコース(ブドウ糖)を代謝して、最終的に藻細胞に燃料等の有用有機物を蓄積させる試みが行なわれている(非特許文献1及び2)。
【0003】
輸送分野のバイオ燃料としては、まずバイオエタノール及びバイオディーゼルなどが挙げられる。一方、燃料物質の成分が炭素と水素のみで構成されていて酸素分子を含まない炭化水素(アルカン/アルケン)は、エンジンなど内燃機関に適している。中でも、炭素数が11~15の炭化水素は、標準状態で液体であり、エネルギー密度が高いことから航空燃料として利用されている。
【0004】
微細藻類を用いた炭化水素燃料生産に関しては、これまで天然藻又は組換藻を用いてC17H36(ヘプタデカン、軽油)を主要成分として生産する方法が報告されてきた(非特許文献3及び特許文献1)。しかし、それよりもさらに短い炭素鎖で構成されるC15H32(ペンタデカン、航空燃料)を主要成分として生産することのできる微細藻とその性質に関しては、窒素固定能を有する塩耐性(塩濃度2,500 mM)の球形シアノバクテリアなどの報告に限られ(非特許文献4)、これまでほとんど知られていない。
【0005】
また、至適培養温度が57℃付近の好熱性の桿形シアノバクテリアを低温(31~35℃)条件下で青色光照射しながら培養すると細胞の凝集が起こることは報告されている(非特許文献5)。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特開2013-198473号公報
【0007】

【非特許文献1】Schirmer Aら、Microbial biosynthesis of alkanes、Science、2010年、329巻、559-562頁
【非特許文献2】Choi YJら、Microbial production of short-chain alkanes、Nature、2013年、502巻、571-574頁
【非特許文献3】Yoshida Sら、Overproduction and easy recovery of biofuels from engineered cyanobacteria, autolyzing multicellular cells、J. Biochem.、2015年、157巻、519-527頁
【非特許文献4】Kageyama Hら、Improved alkane production in nitrogen-fixing and halotolerant cyanobacteria via abiotic stresses and genetic manipulation of alkane synthetic genes、Curr. Microbiol.、2015年、71巻、115-120頁
【非特許文献5】Enomoto Gら、Cyanobacteriochrome SesA is a diguanylate cyclase that induces cell aggregation in Thermosynechococcus、J. Biol. Chem.、2014年、289巻、24801-24809頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、シアノバクテリアを用いたペンタデカンの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するため、鋭意検討を重ねた結果、ペンタデカン生産能及び自己凝集能を有するシアノバクテリアの新種株の単離に成功し、この菌株を利用してペンタデカンを製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は以下を包含する。
[1]ペンタデカン生産能及び自己凝集能を有する、リムノスリックス(Limnothrix)属に属するシアノバクテリア。
[2]受託番号FERM P-22315を有するリムノスリックス・エスピー(Limnothrix sp.)SK1-2-1株又はその変異株である、[1]に記載のシアノバクテリア。
[3][1]又は[2]に記載のシアノバクテリアを培養し、生産されたペンタデカンを回収することを含む、ペンタデカンの製造方法。
[4]前記培養を、7~30日間行う、[3]に記載の方法。
[5]前記培養を培地を連続的に撹拌しながら行い、前記培養の後にさらに静置培養することによって自己凝集を誘導し、凝集塊を取得することを含む、[3]又は[4]に記載の方法。
[6]前記静置培養を、青色光又は緑色光の照射下で行う、[5]に記載の方法。
[7]前記静置培養を、30分~11日間行う、[5]又は[6]に記載の方法。
[8][1]又は[2]に記載のシアノバクテリアを培養し、生産されたペンタデカンを含む炭化水素油を回収することを含む、炭化水素燃料の製造方法。
[9]前記培養を培地を連続的に撹拌しながら行い、前記培養の後にさらに静置培養することによって自己凝集を誘導し、凝集塊を取得することを含む、[8]に記載の方法。
[10]ペンタデカンを含む、[1]又は[2]に記載のシアノバクテリアの乾燥菌体。
[11][1]若しくは[2]に記載のシアノバクテリア、又は[10]に記載の乾燥菌体を有する、支持体。
[12][1]若しくは[2]に記載のシアノバクテリア、又は請求項[10]に記載の乾燥菌体を容器内に含む、燃料。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、シアノバクテリアを用いたペンタデカンの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】シアノバクテリア、リムノスリックス・エスピー(Limnothrix sp.)SK1-2-1株の光学顕微鏡像を示す写真である。棒は10μmを示す。
【図2】16S rDNA塩基配列に基づくSK1-2-1株の系統分類を示す分子系統樹である。
【図3】SK1-2-1株の細胞凝集及び多糖蓄積を示す写真である。
【図4】SK1-2-1株から抽出した炭化水素のGC-MS分析結果を示すグラフである。
【図5】2%CO2中、白色蛍光灯の連続照射下でSK1-2-1株を様々な培地中で7日間振とう培養した後のペンタデカン生産量を示すグラフである。
【図6】2%CO2中、12時間光照射及び12時間暗所の明暗サイクルの白色蛍光灯照射下でSK1-2-1株を様々な培地中で7日間振とう培養した後のペンタデカン生産量を示すグラフである。
【図7】光の波長がSK1-2-1株の細胞凝集に与える影響を示す写真である。
【図8】SK1-2-1株の生育曲線を示すグラフ(A)及び培養期間がSK1-2-1株のペンタデカン生産量へ与える影響を示すグラフ(B)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。

【0014】
(本発明に係るシアノバクテリア)
本発明は、ペンタデカン生産能及び自己凝集能を有する、リムノスリックス(Limnothrix)属に属するシアノバクテリアに関する。ペンタデカンは、炭素数15個の直鎖アルカンである。本発明に係るシアノバクテリアは、ペンタデカンを細胞内で生産し蓄積することができる。本発明に係るシアノバクテリアの典型例としては、本発明者が単離に成功した新種のリムノスリックス・エスピー(Limnothrix sp.)SK1-2-1株が挙げられるが、これに限定されない。

【0015】
本発明者らは、以下の実施例に記載するように、日本国福岡県朝倉市の佐田(黄金)川から糸状性シアノバクテリアの新種株を単離することに成功した。この菌は、以下に示す菌学的性質により、シアノバクテリアのリムノスリックス(Limnothrix)属に属する新種であると同定された。この菌は、炭化水素としてペンタデカンを主に生産することができる。炭化水素としてペンタデカンを主に生産することができる天然微細藻についてはこれまでほとんど知られていない。本発明者が単離したこの菌は、自己凝集能を有することをさらに特徴とする。

【0016】
本発明者らが単離した菌株は、リムノスリックス・エスピー(Limnothrix sp.)SK1-2-1株と命名された。リムノスリックス・エスピーSK1-2-1株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター(NITE-IPOD)(〒292-0818 日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室)に2016年11月22日(受託日)付けで寄託されており、その受託番号は、FERM P-22315である。本明細書において、リムノスリックス・エスピーSK1-2-1株は「SK1-2-1株」と略記することがある。

【0017】
リムノスリックス・エスピーSK1-2-1株の菌学的性質は次のとおりである。
(a)培養的性質
SK1-2-1株は、静置培養又は培地を連続的に撹拌しながら行う培養により増殖可能である。静置培養する場合は、約3~7日毎に、沈殿又は凝集塊細胞を一時的に撹拌することが好ましい。培地を連続的に撹拌しながら行う培養は、空気を吹き込む(通気)か、又は100 rpm程度のロータリー式(旋回運動による)振とう若しくは40~50 rpmのレシプロ式(往復運動による)振とうによって行うことができる。炭酸ガスを供給する場合は約0.04~2%(v/v)の範囲内が望ましい。SK1-2-1株は、典型的には、BG11培地(例えばBG11液体培地)で培養することができる。
約1%(v/v)接種による植継ぎを1~2ヶ月毎に行うことが好ましい。典型的には、培養液は植継直後には薄い緑色を示し、1週間程度で鮮やかな緑色になる。培養液は植継直前には深い緑色を示す。

【0018】
(b)形態的性質
約2.5~6μm×約0.8~1.6μm(長さ×幅)の大きさの細胞が複数連なった糸状性である(図1A及び1B)。

【0019】
(c)生理学的性質
(1)最適生育条件:温度30℃、pH8、光強度(光量子束密度)30~100μmol 光量子/m2/秒、二酸化炭素濃度2%(v/v)
(2)生育の範囲:温度約10~35℃、pH約5~10、光強度(光量子束密度)約5~300μmol 光量子/m2/秒、二酸化炭素濃度約0.04~4%(v/v)
(3)酸素に対する性質:好気性
(4)光要求性:有り(明暗周期不要)

【0020】
(d)化学分類的性質
16S rDNA(16SリボソームRNAコード配列)における塩基配列相同性:
SK1-2-1株の16S rDNA塩基配列(配列番号1)は、リムノスリックス・プランクトニカ(Limnothrix planktonica) KLL-C001株の16S rDNA塩基配列(GenBank登録番号KP726241)及びリムノスリックス・レデケイ(Limnothrix redekei) 2LT25S01株の16S rDNA塩基配列(GenBank登録番号FM177493)と各々99.8%の相同性を有している。

【0021】
(e)その他の特徴
SK1-2-1株は、炭化水素としてペンタデカンを主に生産することができる。SK1-2-1株は、酸性ムコ多糖類と推定される粘性物質を菌体表面及び菌体外に蓄積し、静置培養すると自己凝集し、細胞凝集塊を形成することができる。SK1-2-1株は、特に緑色波長域(470~525 nm)の光(好ましくは青色光(470 nm付近にピーク波長をもつ))の照射下で、効率的に細胞凝集塊を形成することができる。

【0022】
本発明に係るシアノバクテリアは、リムノスリックス・エスピーSK1-2-1株の上記のような菌学的性質を本質的に共有することが好ましい。このような本発明に係るシアノバクテリアは、SK1-2-1株の単離源である福岡県朝倉市の佐田(黄金)川から、上記のような菌学的性質を有する菌を、混釈重層法(pour-plating method;Nishizawaら、Isolation and molecular characterization of a multicellular cyanobacterium, Limnothrix/Pseudanabaena sp. strain ABRG5-3、Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry、2010年、74巻、9号、1827-1835頁を参照)をはじめとする当業者に周知な分離方法によって分離することにより得ることができる。また、本発明に係るシアノバクテリアには、例えば、リムノスリックス・エスピーSK1-2-1株の変異株(自然突然変異体、遺伝子組換え体、突然変異誘発処理体、プラスミド導入等による形質転換体、倍数化体など)であって、ペンタデカン生産能及び自己凝集能を有する株なども含まれる。一実施形態では、本発明に係るシアノバクテリアは、糸状性であってよい。さらなる実施形態では、本発明に係るシアノバクテリアは、好気性であってよい。

【0023】
本発明に係るシアノバクテリアは、BG11液体培地を用いて大気中(0.04%(v/v) CO2)で培地を連続的に撹拌しながら対数増殖後期まで(例えば16日間)培養し、菌を凍結乾燥し、乾燥菌体から有機溶媒を用いて炭化水素を抽出し、GC-MS(ガスクロマトグラフィー-質量分析法)によって決定した場合に、乾燥細胞重量当たり0.1%(w/w)以上、例えば、0.1~10%(w/w)、0.2~5%(w/w)、又は0.3~2%(w/w)のペンタデカンを生産することができる。一実施形態では、本発明に係るシアノバクテリアは、リムノスリックス・エスピーSK1-2-1株と比較して、少なくとも50%、少なくとも80%、少なくとも90%若しくは少なくとも100%の量のペンタデカンを生産することができる。

【0024】
本明細書において、「自己凝集能」は、細胞が培養液中で集合して、凝集塊を形成する能力を指す。本発明に係るシアノバクテリアは、菌体表面に蓄積される粘性物質(多糖類など)により細胞同士が集合することによって自己凝集し得る。自己凝集能を有するシアノバクテリアは、細胞の回収に凝集剤の添加等を必要としないため、コスト及び労力の削減に寄与し得る。自己凝集は、静置培養によって誘導され得る。

【0025】
(ペンタデカンの製造方法)
本発明はまた、上述の本発明に係るシアノバクテリアを用いたペンタデカンの製造方法に関する。本方法は、シアノバクテリアを培養することを含み得る。シアノバクテリアを培養することによって、シアノバクテリアが増殖し、細胞内でペンタデカンが生産され蓄積され得る。

【0026】
培養は、静置培養であってもよいが、より効率的にシアノバクテリアを増殖させ、細胞内でペンタデカンを生産させるために、培地を連続的に撹拌しながら行うことが好ましい。本明細書において、「培地を連続的に撹拌する」とは、撹拌翼などの撹拌機を用いて培地を連続的にかき混ぜることだけでなく、他の様々な方法によって培地を連続的に流動させることも指す。本明細書において、「培地を連続的に撹拌しながら行う」培養は、限定されないが、振とう培養(レシプロ式(往復運動による)又はロータリー式(旋回運動による))、撹拌機による撹拌培養、通気培養若しくは灌流培養又はこれらの組み合わせを含み得る。レシプロ式振とう培養は、20~100 rpm、例えば40~50 rpmの速度で行ってよい。ロータリー式振とう培養は、50~200 rpm、例えば80~120 rpmの速度で行ってよい。培地を連続的に撹拌しながら行う培養は、例えば、撹拌機構を備えた円形若しくは四角形の培養池、又は水流を起す機構を備えたレースウェイ型培養池、あるいは球型、袋(チューブ)型、若しくは薄層型などの支持体を備え、支持体の表面若しくは内部に培地を流し循環させる培養装置(例えば、特開2013-153744号公報を参照)で行ってもよい。

【0027】
本明細書において、「通気培養」とは、二酸化炭素及び酸素を含む気体(例えば、空気、又は空気と二酸化炭素ガスの混合気体など)を培地に送り込み、気泡を発生させながら行う培養をいう。

【0028】
本明細書において、「静置培養」とは、培地を連続的に撹拌する操作を行うことなく実施する培養をいう。静置培養では、培地を時々一時的にかき混ぜてもよい。

【0029】
培養に用いる培地は、シアノバクテリアの培養に一般的に用いられる培地であってよい。培地は、通常、炭素源、窒素源、無機栄養素(例えば、リン、硫黄、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、ナトリウム)を少なくとも含み得る。培地は、微量栄養素(例えば、ホウ素、マンガン、亜鉛、モリブデン、銅、コバルトなど)をさらに含んでもよい。培地の例としては、限定されないが、BG11培地(例えば、BG11液体培地)が挙げられる。本発明で用いるBG11培地の組成は次のとおりである:0.003 mM Na2-Mg EDTA、0.029 mM クエン酸、0.18 mM K2HPO4、0.30 mM MgSO4・7H2O、0.25 mM CaCl2・2H2O、0.19 mM Na2CO3(無水)、0.03 mM クエン酸鉄アンモニウム、1 ml/L 微量栄養素(微量栄養素の組成:2.86 g/L ホウ酸、1.81 g/L MnCl2・4H2O、0.22 g/L ZnSO4・7H2O、0.39 g/L Na2MoO4・2H2O、0.08 g/L CuSO4・5H2O、0.049 g/L Co(NO3)2・6H2O)、1.5 g/L NaNO3。BG11液体培地は、クエン酸鉄アンモニウム以外の上記成分を水に溶解し、121℃で20分間オートクレーブ滅菌し、別途フィルター滅菌したクエン酸鉄アンモニウムを添加することによって調製できる。BG11液体培地のpHは約7.5である。BG11寒天培地は、高純度寒天粉末(TaKaRa_LO3など)を0.6%(w/v)添加して作製できる。本発明の方法で用いる培地は典型的には液体培地である。

【0030】
培地は、窒素源欠乏培地であってもよい。窒素源欠乏培地は、窒素源を含まないか、又は通常の培地(例えば、BG11液体培地)中の窒素源に対して窒素源が乏しい(例えば、通常の培地中の窒素源に対して50%(w/w)以下、例えば、1~20%(w/w)又は2~10%(w/w)の窒素源を含む)培地であり得る。窒素源としては、例えば、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸カルシウム、アンモニウム、硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、塩化アンモニウム、クエン酸鉄アンモニウム等が挙げられる。例えば、窒素源欠乏培地は、上記のBG11液体培地において硝酸ナトリウム(NaNO3)を添加しない培地又は50%(w/w)以下の硝酸ナトリウムを添加した培地であってもよい。

【0031】
培地は、炭素源として、酢酸ナトリウム若しくは酢酸カリウムなどの酢酸塩、又は糖類(例えば、グルコースなどの単糖類)、あるいはこれらの組み合わせを含んでもよい。本明細書において、糖類は、単糖類、二糖類及び多糖類を指す。糖類としては、限定されないが、グルコース、フルクトース及びガラクトースなどの単糖類、マルトース、スクロース及びラクトースなどの二糖類、デンプン及びグリコーゲンなどの多糖類が挙げられる。これらの炭素源の濃度は、1~100 mM、5~50mM、又は8~30mMであってよい。一実施形態では、培地は、酢酸塩を含む窒素源欠乏培地、又は酢酸塩及び糖類を含む窒素源欠乏培地であってもよい。培地は、その他の成分を含んでもよい。別の実施形態では、培地は、糖類(例えば、グルコースなどの単糖類)を含まなくてもよい。また別の実施形態では、培地は、酢酸塩を含まなくてもよい。培地中に廃棄有機物(例えば有機排水)を利用することも想定され、これにより、培養コストを削減できる。

【0032】
培地に接種するシアノバクテリアの量は適宜設定することができる。前培養(例えば3~6週間通気培養)した培養物を、培地量に対して例えば0.1~10%(v/v)、0.2~8%(v/v)、0.5~5%(v/v)又は0.1~1%(v/v)の量で、培地に接種してもよい。

【0033】
培養における温度は、例えば0~50℃、好ましくは10~45℃、20~40℃又は25~35℃であってもよい。温度は、例えば、恒温培養器内で培養を行う場合は恒温培養器内の温度、室内で培養を行う場合は室温を指し、屋外で培養を行う場合は培養槽付近の外気温を指す。

【0034】
培養における二酸化炭素濃度は、0.01%(v/v)~10%(v/v)、好ましくは0.02~4%(v/v)、又は0.04~2%(v/v)であってよい。0.04%(v/v)(大気中)二酸化炭素濃度を用いることで、培養コストを削減することができる。

【0035】
培養は、人工光源による光照射下又は太陽光下で行うことができる。人工光源としては、限定するものではないが、例えば、白熱電球、蛍光灯、LED、有機EL、半導体レーザー、高圧ナトリウムランプ、低圧ナトリウムランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、水銀ランプなどが挙げられる。光の強度(光量子束密度)は、0~3,000μmol 光量子/m2/sであってよい。光照射下の光強度は5μmol光量子/m2/s以上であることが好ましく、例えば10~150μmol 光量子/m2/s又は30~100μmol 光量子/m2/sであってよい。光照射は、連続的であってもよいし、暗所期間を設けて(典型的には明暗サイクルを用いて)もよい。人工光源を用いる場合、暗所期間を設けることで、培養コストを削減することができる。「暗所」とは、光の非照射状態をいう。太陽光を用いる場合、暗所期間は日没から日の出までの期間をいう。暗所は、光を完全に遮蔽した暗黒状態に限られず、漏れ光、作業を行うために必要な薄明かり、又は恒温培養器内の表示部の光などがあってもよい。暗所の光の強度は、例えば、0~3μmol 光量子/m2/s、好ましくは0~1μmol 光量子/m2/sであり得る。暗所期間は、1日当たり21時間以下、例えば1~20時間、2~18時間、又は5~15時間であってもよい。暗所期間は、典型的には連続した期間とする。培養に用いる光は、特定波長又は波長域の光であってもよい。一実施形態では、光は、白色光であり得る。白色光は、赤色、緑色及び青色光の混合光であってもよい。

【0036】
培養期間は、約3~50日、好ましくは5~40日、7~30日、10~25日、12~20日又は14~18日であってよい。細菌は新しい培地に接種されると、典型的には図8Aに示すような生育曲線に従って増殖し得る。一般的に、細菌の増殖相は、菌数の増加が指数関数的に起こる時期(対数増殖期)及びその後の増殖が停止するか若しくは緩やかな時期(定常期)を含み得る。対数増殖期は、増殖がより活発な初期と、その後の後期をさらに含み得る。より具体的には、菌体濁度(細菌数と相関する)を経時的に測定し、菌体濁度を対数目盛として、菌体濁度及び培養期間をプロットした片対数グラフ(生育曲線)を作成した場合、培養初期の、グラフが直線的でありかつグラフの傾きが最大である期間を対数増殖初期とし、その後の、グラフの傾きが低下し始めてからグラフの傾きが再び直線的になる期間(すなわちグラフが曲線的である期間)を対数増殖後期とする。本発明では、シアノバクテリアの培養は、対数増殖後期まで(例えば12~20日間又は14~18日間)行うことが好ましい。

【0037】
一実施形態では、培養は、20~40℃(又は25~35℃)の温度にて、0.04~2%(v/v)の二酸化炭素濃度で、10~150μmol 光量子/m2/s(又は30~100μmol 光量子/m2/s)の光量子束密度の光を用いて、連続光照射又は1日当たり21時間以下の暗所期間を有する光照射下で、5~40日間(又は7~30日間)、培地を連続的に撹拌しながら行ってよい。

【0038】
さらなる一実施形態では、培養は、BG11培地中で、20~40℃(又は25~35℃)の温度にて、0.04~2%(v/v)の二酸化炭素濃度で、10~150μmol 光量子/m2/s(又は30~100μmol 光量子/m2/s)の光量子束密度の光を用いて、連続光照射又は1日当たり21時間以下の暗所期間を有する光照射下で、5~40日間(又は7~30日間)、培地を連続的に撹拌しながら行ってよい。

【0039】
さらなる一実施形態では、培養は、5~50mM(又は8~30mM)の酢酸塩を含む窒素源欠乏培地中で、20~40℃(又は25~35℃)の温度にて、0.04~2%(v/v)の二酸化炭素濃度で、10~150μmol 光量子/m2/s(又は30~100μmol 光量子/m2/s)の光量子束密度の光を用いて、1日当たり21時間以下の暗所期間を有する光照射下で、5~40日間(又は7~30日間)、培地を連続的に撹拌しながら行ってよい。
培養後のシアノバクテリアは、遠心分離法などの公知の回収方法によって取得してもよい。

【0040】
あるいは、本方法は、上記の培養を培地を連続的に撹拌しながら行い、上記の培養の後にさらに静置培養することによって自己凝集を誘導し、凝集塊を取得することを含んでもよい。当該静置培養は、基本的には、上述の培養について記載した培地、温度、二酸化炭素濃度、光の条件を用いて行うことができる。当該静置培養は、培地を連続的に撹拌しながら培養した後の培養液中のシアノバクテリアの密度を、例えば遠心分離により又は培養液を静置し上澄みを除去することにより、高めて(例えば2~20倍又は5~15倍に高めて)行ってもよいし、培地を連続的に撹拌しながら培養した後の培養液をそのまま静置して行ってもよい。当該静置培養において自己凝集のために好ましい光の条件は、後述する。静置培養期間は、10分以上、典型的には、30分~11日間(好ましくは、30分~6日間、1時間~4日間、2時間~2日間、又は3時間~1日間)であり得る。凝集塊は、任意の細胞凝集塊分離法によって取得すればよく、例えば、バッチ法(細胞凝集塊を沈殿させ培養液をデカンテーション又は吸引により除去することにより細胞凝集塊を回収する)又はフィルターろ過法(布若しくは不繊布又は耐圧性膜を用いて自然落下又は加圧により培養液から細胞凝集塊をろ過により分離及び回収する)によって取得できる。凝集塊は簡単に取得できるため、ペンタデカンの製造コストを削減できる。

【0041】
自己凝集を誘導するための静置培養は、任意の波長又は波長域の光の照射下で行うことができるが、自己凝集を促進するため、青色光(波長域450~495 nm)及び/若しくは緑色光(波長域495~570 nm)の照射下、又は波長域470~525 nmの光の照射下で行うことが好ましい。青色光又は緑色光の光源としては、特定波長を照射するLED又は蛍光灯など、例えば470 nm付近にピーク波長を持つ青色LED又は525 nm付近にピーク波長を持つ緑色LEDを用いることができる。

【0042】
一実施形態では、自己凝集を誘導するための静置培養は、5~50mM(又は8~30mM)の酢酸塩を含む窒素源欠乏培地中で、20~40℃(又は25~35℃)の温度にて、0.04~2%(v/v)の二酸化炭素濃度で、青色光及び/若しくは緑色光の照射下で、30分~6日間(又は1時間~2日間若しくは2時間~1日間)行い得る。

【0043】
本発明に係るペンタデカンの製造方法は、生産されたペンタデカンを回収することを含み得る。ペンタデカンは、当技術分野で公知の任意の回収方法によって回収すればよい。例えば、培養後に取得したシアノバクテリア又はその凝集塊に対して、菌体をそのまま又は破砕した後(例えば凍結乾燥後の菌体を破砕した後)、有機溶媒抽出(例えば、クロロホルム、メタノール、酢酸エチル、ヘキサン、ブタノール等の有機溶媒による)を行うことにより、ペンタデカンを回収することができる。一実施形態では、本方法は、培養後のシアノバクテリア又はその凝集塊を培地から分離することを含み得る。回収したペンタデカンは、蒸留などの常法によりさらに精製してもよい。

【0044】
本発明はまた、上述の本発明に係るシアノバクテリアを培養し、生産されたペンタデカンを含む炭化水素油を回収することを含む、炭化水素燃料の製造方法にも関する。本明細書において、「炭化水素油」は、ペンタデカン、又はペンタデカンを含む炭化水素混合物を含む油性液体を指す。炭化水素油は、ペンタデカンの他、ペンタデカン以外のアルカン(例えば、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ヘキサデカン及びヘプタデカン)、アルケン(例えば、ウンデセン、ドデセン、トリデセン、テトラデセン、ペンタデセン、ヘキサデセン及びヘプタデセン)及びアルキン(例えば、ウンデシン、ドデシン、トリデシン、テトラデシン、ペンタデシン、ヘキサデシン及びヘプタデシン)などを含んでもよい。本明細書において、「炭化水素燃料」は、炭化水素化合物を含む燃料を指す。本方法における培養は、上述のペンタデカンの製造方法について記載した培養条件を用いて行うことができる。炭化水素油は、当技術分野で公知の任意の回収方法によって回収すればよい。例えば、培養後に取得したシアノバクテリア又はその凝集塊について、菌体をそのまま又は破砕した後(例えば凍結乾燥後の菌体を破砕した後)、有機溶媒抽出(例えば、クロロホルム、メタノール、酢酸エチル、ヘキサン、ブタノール等の有機溶媒による)を行うことにより、炭化水素油を回収することができる。一実施形態では、本方法は、培養後のシアノバクテリア又はその凝集塊を培地から分離することを含み得る。回収した炭化水素油は、蒸留などの常法によりさらに精製してもよい。

【0045】
本発明に係る方法により回収したペンタデカン及び炭化水素油は、燃料として使用できる。燃料としては、限定されないが、航空機、自動車若しくは船舶などの動力用燃料、暖房などの熱源用燃料、又は発電用燃料などが挙げられる。

【0046】
(乾燥菌体)
本発明はまた、ペンタデカンを含む、上述の本発明に係るシアノバクテリアの乾燥菌体にも関する。ペンタデカンは、シアノバクテリアの乾燥菌体の細胞内に蓄積し得る。シアノバクテリアの乾燥菌体は、上述のペンタデカンの製造方法について記載した培養条件を用いてシアノバクテリアを培養して細胞内にペンタデカンを蓄積させ、場合によりシアノバクテリアを培地から分離し、その後、任意の乾燥方法(例えば、凍結乾燥法)でシアノバクテリアを乾燥することによって製造できる。シアノバクテリアの乾燥菌体は、培地を連続的に撹拌しながら培養を行い、その後にさらに静置培養することによって自己凝集を誘導し、凝集塊を取得し、凝集塊を乾燥することによって製造してもよい。シアノバクテリアの乾燥菌体は、凍結乾燥菌体であってもよい。シアノバクテリアの乾燥菌体は、ペンタデカン又は炭化水素油を回収するために使用してもよいし、そのまま燃料として使用してもよい。

【0047】
(支持体)
本発明はまた、上述の本発明に係るシアノバクテリア、又はその乾燥菌体を有する、支持体にも関する。シアノバクテリア又はその乾燥菌体は、支持体の表面に付着、コーティング若しくは結合していても、又は支持体に固定され若しくは埋め込まれていてもよい。本明細書において、支持体は、シアノバクテリア又はその乾燥菌体を保持することができる任意の支持体をいう。支持体としては、例えば、布(例えば綿ブロード、リント布)、ビーズ(例えばガラスビーズ、磁性ビーズ、プラスチックビーズ)、フィルム、シート(例えばろ紙などの紙)、膜などが挙げられる。例えば、支持体であるビーズの表面に付着、コーティング若しくは結合したシアノバクテリアを、上述したように、自己凝集させてもよい。あるいは、支持体であるろ紙又はろ布を用いて細胞凝集塊をろ過し、細胞凝集塊が付着した支持体を得ることもできる。支持体は、容器(例えば、カプセル、袋、ボトル)であってもよい。支持体が容器である場合、シアノバクテリア又はその乾燥菌体は、容器の内面に付着、コーティング又は結合していてもよい。一実施形態では、支持体は、その表面でシアノバクテリアが増殖できる培養支持体であってもよい。別の実施形態では、支持体は、例えば紙又は可燃性合成樹脂などの可燃性材料からできている可燃性支持体(例えば、可燃性容器)であってもよい。シアノバクテリアを有する培養支持体は、例えば、特開2013-153744号公報に記載されるように、シアノバクテリアを含む培養液が培養支持体表面を流れるように連続的に培養液を供給することを含むシアノバクテリアの培養方法を用いて、製造することができる。シアノバクテリアの乾燥菌体を有する支持体は、例えば上記のように得られた、シアノバクテリアを有する支持体を、任意の乾燥方法(例えば、凍結乾燥法)で乾燥することによって製造することができる。あるいは、乾燥菌体を支持体に固定するなどしてもよい。シアノバクテリア又はその乾燥菌体を有する支持体は、ペンタデカン又は炭化水素油を回収するために使用してもよいし、そのまま燃料(例えば固形燃料)として使用してもよい。

【0048】
また本発明は、上述のような本発明に係るシアノバクテリア又はその乾燥菌体を上記容器内に含む燃料も提供する。
【実施例】
【0049】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0050】
[実施例1]
(シアノバクテリアSK1-2-1株の単離)
福岡県朝倉市の佐田(黄金)川から微細藻類を含む約100 mLの天然水を採取し、これをBG11液体培地と混ぜて1ヶ月程度静置培養して藻細胞の生育を促した。培養後、得られた藻細胞培養液から混釈重層法(pour-plating method;Nishizawaら、上掲)により菌株を分離し、BG11寒天培地へ塗抹し、30℃(白色蛍光灯下)で培養した。寒天培地上に生育した菌株をかき取り、新しいBG11液体培地に移して継代培養した。以上により得られた分離株をSK1と命名した。SK1株培養液には、他の雑菌微生物が認められたため、上記した混釈重層法を繰り返し、さらにSK株を純化した。これにより得られた単離された株をSK1-2-1と命名した。以下の試験ではこのSK1-2-1株(受託番号FERM P-22315)を用いた。
【実施例】
【0051】
SK1-2-1株をBG11液体培地で2~4週間、白色蛍光灯下で培養し、対数増殖後期から定常期にある細胞を光学顕微鏡(1,000倍)で観察した(図1A及び1B)。SK1-2-1株は、約2.5~6μm×約0.8~1.6μm(長さ×幅)の大きさの細胞が複数連なった糸状性であることが明らかとなった(図1A及び1B)。
【実施例】
【0052】
[実施例2]
(SK1-2-1株16S rDNAの分子系統樹解析)
SK1-2-1株を分類同定するために、SK1-2-1単離(純化)株より細胞全DNAを抽出し、これを鋳型DNAとして16S リボソームRNA遺伝子全長に相当するDNA(16S rDNA)を10F及び1541Rプライマー(Nishizawaら、上掲)の組み合わせを用いたPCR法で増幅し、1,476塩基の配列(配列番号1)を解読した。解読した塩基配列をクエリー(Query)として遺伝子DNAデータベースに対して検索をしたところ、2017年3月時点でシアノバクテリアのリムノスリックス(Limnothrix)属株数種の有する16S rDNA塩基配列と99%以上の相同性を有していた。さらに、解読した塩基配列をコンピューター解析ソフトMEGA(Tamuraら、Estimating divergence times in large molecular phylogenies、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.、2012年、109巻、19333-19338頁)により公知のシアノバクテリアの塩基配列と比較し、分子系統樹解析を行なった。
【実施例】
【0053】
分子系統樹解析の結果を図2に示す。この解析では、大腸菌K-12株の16S rDNAをアウトグループとして用い、ブートストラップテストを1,000回繰り返した。図2の系統樹の下にある棒の長さは、2%の配列分岐を示す。各株の16S rDNA塩基配列のGenBank登録番号を括弧内に示す。
【実施例】
【0054】
SK1-2-1株の16S rDNA塩基配列(配列番号1)は、リムノスリックス(Limnothrix)の代表株であるリムノスリックス・レデケイ(Limnothrix redekei) NIVA-CYA(T) 227/1株の16S rDNA塩基配列(GenBank塩基配列登録番号AB045929における相同部分1,369塩基)とは88.1%の相同性を有していた。リムノスリックス・レデケイ(Limnothrix redekei) NIVA-CYA(T) 227/1株が属するクレードにはシュードアナベナ・エスピー(Pseudanabaena sp.)株も属する。しかし、SK1-2-1株は、これらとは別のクレードに属するリムノスリックス・レデケイ(Limnothrix redekei)及びリムノスリックス・エスピー(Limnothrix sp.) CENA株にむしろ近い種であることが示された。
【実施例】
【0055】
SK1-2-1株の16S rDNA塩基配列(配列番号1)は、特にリムノスリックス・プランクトニカ(Limnothrix planktonica) KLL-C001株の16S rDNA塩基配列(GenBank登録番号KP726241)及びリムノスリックス・レデケイ(Limnothrix redekei) 2LT25S01株の16S rDNA塩基配列(GenBank登録番号FM177493)とは各々99.8%の相同性を有していた。そのため、SK1-2-1株は、それら2種とは近種であるが、リムノスリックス属に属する新種であることが明らかとなった。よって、本発明者は、SK1-2-1株を、リムノスリックス・エスピー(Limnothrix sp.)SK1-2-1株と命名した。
【実施例】
【0056】
[実施例3]
(SK1-2-1株の細胞凝集及び多糖蓄積)
SK1-2-1株を、三角フラスコで50 mLのBG11液体培地中で大気中(0.04% CO2ガス)3週間(対数増殖後期)白色蛍光灯(30μmol 光量子/m2/秒)下で30℃にて振とう(100 rpm)培養した。図3Aに、振とう培養直後のSK1-2-1株培養液を示す。BG11液体培地中で振とう培養した後にSK1-2-1株を静置培養すると、1時間以内に凝集が起こり始め、静置培養の開始から数10分~数時間後には細胞塊を形成した。図3Bに、図3Aに示すSK1-2-1株培養液を数時間静置培養した後の培養液を示す。
【実施例】
【0057】
細胞凝集に関して、凝集の直前及び十分凝集した後のSK1-2-1細胞を染色し、細胞凝集に関与し得る細胞表層の粘性物質の特徴付けを行なった。粘性物質の候補としては、微細藻類が生産する多糖が考えられたため、多糖蓄積を可視化するための染色剤として、多糖成分のD-マンノース及びD-グルコース残基と特異的に結合するレクチンの一種コンカナバリンAを用いた。コンカナバリンAには蛍光物質であるFITC(フルオレセイン-5-イソチオシアネート)が結合しているため、コンカナバリンA-FITCが特異的に結合した多糖の存在は、蛍光顕微鏡下で緑色蛍光として観察できる。図3Aに示す振とう培養直後(凝集の直前)のSK1-2-1株を、コンカナバリンA-FITCで蛍光染色し、蛍光顕微鏡オリンパスBX53/DP72(U-MWIB2フィルター使用)により励起波長480 nm及び放射波長520 nmを用いて観察し、蛍光画像を取得した(露光時間0.2秒)。得られた蛍光画像を図3Cに示す(棒は10μmを示す)。SK1-2-1株の表層付近が緑色に光っていたことから、細胞表層部分にD-マンノース又はD-グルコース残基を主成分とする糖(粘性物質)が蓄積していることが示された。
【実施例】
【0058】
次に、凝集したSK1-2-1株をアルシアンブルー(pH1.0)で染色し、細胞凝集に関与し得る粘性物質の特徴付けを行なった。pH 1.0以下のアルシアンブルーは、酸性ムコ多糖の硫酸基に特異的に結合し、染色する。後述の実施例8で詳しく説明するように細胞凝集塊が効率よく生じる条件下(青色光照射下、窒素源欠乏BG11培地中で0.04% CO2ガス環境下)で静置培養し、SK1-2-1細胞塊を生じさせた。SK1-2-1細胞塊をアルシアンブルー(pH1.0)で染色し、蛍光顕微鏡BX53/DP72(U-MWIB2フィルター使用)により励起波長480 nm及び放射波長520 nmを用いて観察し、蛍光画像を取得した(露光時間0.2秒)。得られた蛍光画像を図3Dに示す(棒は10μmを示す)。SK1-2-1株の菌体表面及び細胞間に青く染色された多糖の染色塊が観察された(図3Dの矢印)。細胞間で観察された大きな青い塊は、SK1-2-1菌体外に分泌され形成された硫酸基を持つ酸性ムコ多糖を示す。
【実施例】
【0059】
これらの結果から、SK1-2-1株の凝集促進に関与し得る菌体表面及び菌体外に蓄積される粘性物質は、硫酸基を持つ、D-マンノース又はD-グルコースが主成分の酸性ムコ多糖であることが推測された。
【実施例】
【0060】
[実施例4]
(SK1-2-1株によるC15アルカン(ペンタデカン)生産)
SK1-2-1株中で生産される炭化水素をGC-MS(ガスクロマトグラフィー-質量分析法)によって分析した。
【実施例】
【0061】
SK1-2-1株を、BG11液体培地中で、100μmol 光量子/m2/秒の白色蛍光灯(24時間連続照射)下で、2% CO2ガスエアーインキュベーター内で30℃にて7日間振とう培養した。この培養液20 mLよりSK1-2-1株を集菌し、凍結乾燥した。乾燥細胞重量(DCW、dry-cell weight)を測定し、乾燥菌体(約10~50 mg)を15 mL容ガラスチューブに注意深く移した。このガラスチューブに抽出溶媒液(クロロホルム:メタノール=2:1)を1 mL添加し、菌体を懸濁させた。この細胞懸濁液に内部標準物質としてエイコサン(C20H42、分子量 282)を最終濃度40 ppm(絶対量で40μg)となるように添加した。細胞懸濁液の入ったガラスチューブを氷上に設置し、超音波発生機(出力レベル50で5分間、トミー社製UD-100)を用いて細胞を破砕した。細胞破砕液を1.5 mL容のマイクロチューブに移し、このチューブをローテーター RT-50(タイテック社製)に取り付け、約1時間室温で撹拌した。このチューブを遠心分離(7,000 rpm、10分間)し、上澄抽出液を新しい2 mL容のマイクロチューブに移した。この試料に5%(w/v)塩化ナトリウム水溶液を等量(1 mL)添加し、上下に撹拌して混合して洗浄した。静置後、二層分離した下層を回収した。この塩化ナトリウム水溶液添加による洗浄を合計3回繰り返した。この試料をエバポレーターに供し、濃縮乾固させた。乾固後、試料に酢酸エチルを1 mL添加し、充分溶かした。このうち、1μLをスプリットレスインジェクションモードによりGC-MS分析に供した。
【実施例】
【0062】
GC-MS分析は、GC関連がAgilent Technology社製の6890N Network GC system、MS関連が日本電子社製 JMS-GC mate II/B GC MSシステムを利用した。このシステムでは、キャピラリーガスにヘリウム(1 mL/分)を用い、インジェクターの温度を250℃に設定し、カラム(phenomenex社製 ZB-5MS、7HG-G010-11、長さ30 m、内径0.25 mm、膜厚0.25 mm)の温度は最初に100℃で1分間保持し、その後1分間につき5℃ずつ上昇させて150℃にし、そこから1分間に10℃ずつ上昇させて250℃にしてから15分間保持した。
【実施例】
【0063】
GC-MS分析の結果を図4に示す。内部標準物質エイコサン(C20H42)のピークは保持時間(retention time)18.00分に検出された。一方、アルカン(ペンタデカン、C15H32)を示す保持時間(10.88分)にメジャーなピークが観察された。ペンタデカン(C15H32)のピーク面積の、内部標準物質エイコサン(C20H42)のピーク面積に対する比(相対値(%))を算出した。この比を用いて内部標準物質エイコサン(C20H42)量から計算したところ、SK1-2-1乾燥細胞重量(DCW)当たりのペンタデカン生産量(%)は約0.9%(w/w)であった。
【実施例】
【0064】
この結果より、SK1-2-1株は、細胞内に、炭化水素としてC15アルカン(ペンタデカン)を主に蓄積できることが明らかとなった。
【実施例】
【0065】
[実施例5]
(培地組成のペンタデカン生産量への影響の評価)
SK1-2-1株を10 L容ガラスタンクで3~6週間BG11液体培地で前培養(通気培養)した。培養液を200 mL回収し、遠心分離(6,500 rpm、12分、20℃)して菌体を沈殿させた。菌体を200 mL容三角フラスコの中で様々な培地組成を有する20 mLの培地に懸濁した。培地としては、新しいBG11液体培地、BG11+Glc培地(BG11液体培地中にさらなる炭素源として20 mM グルコースを含む)、BG11-N+NaAc培地(窒素源欠乏(硝酸ナトリウム(NaNO3)無添加)BG11液体培地中にさらなる炭素源として10 mM 酢酸ナトリウムを含む)、又はBG11-N+NaAc+Glc培地(窒素源欠乏BG11液体培地中にさらなる炭素源として10 mM 酢酸ナトリウム及び20 mM グルコースを含む)を用いた。これら三角フラスコを2% CO2エアーに調整されたインキュベーター内に設置して、30℃にて白色蛍光灯(100μmol 光量子/m2/秒)連続照射下、レシプロ式振とう(50 rpm)により7日間培養した。その後、20 mL培養液を遠心してSK1-2-1株を集菌し、凍結乾燥した。乾燥菌体から実施例4に記載したのと同様の方法で炭化水素を抽出し、GC-MS分析を行い、乾燥細胞重量当たりのペンタデカン生産量(%(w/w))を算出した。実験は3回行い、平均値及び標準誤差を算出した。
【実施例】
【0066】
様々な組成を有する培地で培養したSK1-2-1株中のペンタデカン生産量の結果を図5に示す。ペンタデカンの細胞内蓄積量は、BG11液体培地で最も多かったが(0.91%(w/w))、BG11+Glc培地(0.71%(w/w))、BG11-N+NaAc培地(0.61%(w/w))及びBG11-N+NaAc+Glc培地(0.48%(w/w))でも十分な量であった。この結果から、SK1-2-1株は、通常のBG11液体培地に加え、糖類を含む培地、酢酸塩を含む窒素源欠乏培地、又は酢酸塩及び糖類を含む窒素源欠乏培地で培養した場合でもペンタデカンを生産できることが示された。このことは、窒素源を低減する若しくは使用しないこと、及び糖類を含む廃棄有機物を培地中に有効利用することによる培養コスト削減の可能性を示す。
【実施例】
【0067】
[実施例6]
(明暗サイクルのペンタデカン生産量への影響の評価)
連続照射の代わりに12時間光照射及び12時間暗所の明暗サイクルを用いたこと以外は実施例5と同様の方法で、SK1-2-1株を様々な組成を有する培地中で培養し、乾燥菌体から炭化水素を抽出し、GC-MS分析を行い、乾燥細胞重量当たりのペンタデカン生産量(%(w/w))を算出した。実験は3回行い、平均値及び標準誤差を算出した。
【実施例】
【0068】
結果を図6に示す。ペンタデカンの細胞内蓄積量は、BG11液体培地で最も多かったが(0.76%(w/w))、BG11-N+NaAc培地(0.72%(w/w))、BG11+Glc培地(0.54%(w/w))及びBG11-N+NaAc+Glc培地(0.18%(w/w))でも十分な量であった。この結果から、SK1-2-1株は、12時間光照射及び12時間暗所の明暗サイクル条件下においても、様々な培地を用いた培養によりペンタデカンを生産できることが示された。
【実施例】
【0069】
図5と図6の結果を比較すると、連続照射(図5)から1日当たり12時間(図6)に照射時間を減少させても、BG11液体培地を用いた場合のペンタデカンの生産量は、乾燥細胞重量当たり0.91%(w/w)から0.76%(w/w)とあまり低下せず、十分な量であった。BG11-N+NaAc培地を用いた場合には、ペンタデカン生産量は、0.61%(w/w)(連続照射、図5)から0.72%(w/w)(12時間照射、図6)とむしろ増加することが示された。
【実施例】
【0070】
BG11-N+NaAc培地を用いた場合の窒素欠乏環境下では窒素代謝系への物質循環が低下し、代わりに炭素代謝系への物質循環が増加すると考えられる。またBG11-N+NaAc培地は、さらなる炭素源(酢酸ナトリウム)を含んでいる。そのため、通常は長い暗所時間が存在する場合、光合成による二酸化炭素固定経路の活性が低下し、炭素代謝系の活性が低下すると考えられるが、実施例6のBG11-N+NaAc培地中での12時間光照射及び12時間暗所の明暗サイクルを用いた培養では、長い暗所期間が存在するにもかかわらず炭素代謝系が活性化され、その結果、ペンタデカン生産量が増加したと考えられる。
【実施例】
【0071】
以上の結果より、SK1-2-1株は光照射時間を減少させてもペンタデカンを十分生産できることが示され、このことは、藻培養時の光照射時間の短縮による電力消費の軽減の可能性を示す。
【実施例】
【0072】
[実施例7]
(光照射時間のさらなる短縮のペンタデカン生産への影響の評価)
SK1-2-1株を10 L容ガラスタンクで3~6週間BG11液体培地で前培養(通気培養)した。培養液を200 mL回収し、遠心分離(6,500 rpm、12分、20℃)して菌体を沈殿させた。菌体を300 mL容三角フラスコの中で様々な培地組成を有する20 mLの培地に懸濁した。培地としては、BG11-N+NaAc培地(窒素源欠乏(硝酸ナトリウム(NaNO3)無添加)BG11液体培地中にさらなる炭素源として10 mM 酢酸ナトリウムを含む)、又はBG11-N+NaAc+Glc培地(窒素源欠乏BG11液体培地中にさらなる炭素源として10 mM 酢酸ナトリウム及び20 mM グルコースを含む)を用いた。これら三角フラスコを0.04% CO2エアーに調整されたインキュベーター内に設置して、30℃にて白色LED(30μmol 光量子/m2/秒)照射下、11日間静置培養した。明暗サイクルは、3時間光照射及び21時間暗所とした。その後、20 mL培養液を遠心してSK1-2-1株を集菌し、凍結乾燥した。乾燥菌体から実施例4に記載したのと同様の方法で炭化水素を抽出し、GC-MS分析を行い、乾燥細胞重量当たりのペンタデカン生産量(%(w/w))を算出した。実験は3回行い、平均値及び標準誤差を算出した。
【実施例】
【0073】
その結果、いずれの培地中でも3時間光照射及び21時間暗所の明暗サイクルにおいてSK1-2-1株はペンタデカンを生産できることが示された。SK1-2-1株は1日当たり21時間という長い暗所期間においても生育し、ペンタデカンを生産できることが示された。このことは、培養時の光照射時間の短縮による電力消費の大幅な軽減の可能性を示す。
【実施例】
【0074】
[実施例8]
(光波長の細胞凝集への影響の評価)
SK1-2-1株を10 L容ガラスタンクで3~6週間BG11液体培地で前培養(通気培養)した。培養液を200 mL回収し、遠心分離(6,500 rpm、12分、20℃)して菌体を沈殿させた。菌体を300 mL容三角フラスコの中で様々な培地組成を有する20 mLの培地に懸濁した。培地としては、BG11-N+NaAc培地(窒素源欠乏(硝酸ナトリウム(NaNO3)無添加)BG11液体培地中にさらなる炭素源として10 mM 酢酸ナトリウムを含む)、又はBG11-N+NaAc+Glc培地(窒素源欠乏BG11液体培地中にさらなる炭素源として10 mM 酢酸ナトリウム及び20 mM グルコースを含む)を用いた。これら三角フラスコを0.04% CO2濃度(大気中)のインキュベーター内に設置して、30℃にて様々な波長のLED(30μmol 光量子/m2/秒)照射下で11日間静置培養した。明暗サイクルは、12時間光照射及び12時間暗所とした。光源として、白色LED(赤色、緑色、及び青色光の混合光(RGB混合光))、青色LED(波長470 nm)、緑色LED(波長525 nm)、橙色LED(波長590 nm)又は赤色LED(波長660 nm)を用いた。
【実施例】
【0075】
BG11-N+NaAc培地中における静置培養1日、3日、及び6日後のSK1-2-1培養液を図7に示す。細胞凝集の程度を、「+++」(顕著な細胞凝集)、「++」(良好な細胞凝集)、及び「+」(細胞凝集有り)で示す。青色光(470 nm)照射下では、静置培養開始1日目にすでに顕著な細胞凝集が観察された。次いで凝集効果が高いのは緑色光(525 nm)であった。その他のLED照射光(橙色光(590 nm)、赤色光(660 nm)、及び白色光(RGB混合光))照射下においても細胞凝集が観察された。なお、BG11-N+NaAc+Glc培地中で静置培養した場合にも、いずれの波長のLED照射下でも細胞凝集が観察された。
【実施例】
【0076】
さらに、静置培養11日後のSK1-2-1株から実施例4に記載したのと同様の方法で炭化水素を抽出し、GC-MS分析を行ったところ、いずれの条件下のSK1-2-1株においても、ペンタデカンの生産が確認できた。
【実施例】
【0077】
以上より、試験した全ての波長の光の照射下でSK1-2-1株は凝集することが示された。特に、青色光又は緑色光(波長域(470~525 nm))の光照射によって、SK1-2-1株が効率的に凝集することが示された。
【実施例】
【0078】
[実施例9]
(培養期間のペンタデカン生産量への影響の評価)
通気培養期間(細胞の生育相及びペンタデカン生産相)並びにその後の自己凝集を誘導するための静置培養期間の、ペンタデカン生産量への影響について調べた。
【実施例】
【0079】
SK1-2-1株を5 LのBG11液体培地に1%となるように接種し、空気(0.04% CO2)を毎分5 L供給しながら30μmol 光量子/m2/秒の白色蛍光灯(24時間連続照射)下で8日(対数増殖初期)、16日(対数増殖後期)、及び35日間(定常期)培養して、細胞を増殖させ、ペンタデカンを生産させた。図8Aに、SK1-2-1株の生育曲線を示す。縦軸にOD730(菌体濁度)値及び横軸に通気培養期間を示す。
【実施例】
【0080】
8、16又は35日間通気培養を行った後、培養液から菌株を回収し、菌体密度を10倍に濃縮するよう新しいBG11-N+NaAc培地(3個のフラスコ)にSK1-2-1株を懸濁した。懸濁直後(0日目)のSK1-2-1株を1個のフラスコから回収した。残りの2個のフラスコ中のSK1-2-1株を大気中(0.04% CO2ガス)で12時間光照射及び12時間暗所の明暗サイクルの青色光(470 nm、30μmol 光量子/m2/秒)照射下で静置培養して自己凝集を誘導し、1又は6日目に細胞を回収した。凝集した細胞内に蓄積したペンタデカンを抽出し、GC-MS分析により量を測定した。
【実施例】
【0081】
SK1-2-1株中のペンタデカン生産量の結果を図8Bに示す。通気培養で対数増殖後期まで増殖させた細胞(通気培養期間16日)では、ペンタデカン生産量は静置培養0~6日後に約0.65~0.75%(w/w)であり、一方、通気培養で定常期まで増殖させた細胞(通気培養期間35日)では、ペンタデカン生産量は静置培養0~6日後に約0.35~0.55%(w/w)であった。このことから、通気培養で対数増殖後期まで増殖させた細胞は、定常期まで増殖させた細胞よりも、ペンタデカン生産量が多いことが示された。
【実施例】
【0082】
いずれの細胞増殖相(通気培養期間8、16及び35日)でも、青色光を照射して細胞凝集を促進させる時間(静置培養期間)が長くなるにつれて細胞内に蓄積されるペンタデカン量は減少することが示された。顕著な細胞凝集が認められる青色光照射から1日目におけるペンタデカンの蓄積量を0日目の蓄積量と比較してペンタデカン回収率(減少率)を算出した。その結果、対数増殖後期(通気培養期間16日)の細胞を使用した場合、約93%のペンタデカン回収率(0.7/0.75×100=約93%)であった。すなわち、対数増殖後期(通気培養期間16日)の細胞を使用した場合、生産減少率は約7%であり、通気培養期間8日及び35日の場合より低かった。よって、対数増殖後期の細胞を使用した場合に生産効率が良いことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明に係るシアノバクテリア菌株は、ペンタデカン生産量が非常に高い。ペンタデカンは航空燃料などの燃料としての利用が期待される。また、本発明では、様々な培地を用いてペンタデカンの生産が可能であるため、廃棄有機物を炭素源として培地に利用することが考えられる。さらに、従来は菌体回収に凝集剤の添加などを必要としたが、本発明では、シアノバクテリア菌株に自己凝集を誘導し、形成された細胞凝集塊を簡便に回収できるため、手間やコストがかからずにペンタデカンを製造でき、燃料の製造コストの削減につながる。
【受託番号】
【0084】
FERM P-22315
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
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【図4】
3
【図5】
4
【図6】
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【図7】
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【図8】
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