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明細書 :プロペラ負荷状態推定装置、プロペラ負荷状態推定方法、およびプロペラ負荷状態推定プログラム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2018-192838 (P2018-192838A)
公開日 平成30年12月6日(2018.12.6)
発明の名称または考案の名称 プロペラ負荷状態推定装置、プロペラ負荷状態推定方法、およびプロペラ負荷状態推定プログラム
国際特許分類 B63H  21/17        (2006.01)
H02P  29/024       (2016.01)
B63H  21/21        (2006.01)
FI B63H 21/17
H02P 29/024
B63H 21/21
請求項の数または発明の数 12
出願形態 OL
全頁数 22
出願番号 特願2017-095748 (P2017-095748)
出願日 平成29年5月12日(2017.5.12)
発明者または考案者 【氏名】大 出 剛
【氏名】賞 雅 寛 而
【氏名】清 水 悦 郎
【氏名】波津久 達 也
【氏名】井 原 智 則
出願人 【識別番号】504196300
【氏名又は名称】国立大学法人東京海洋大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100091982、【弁理士】、【氏名又は名称】永井 浩之
【識別番号】100091487、【弁理士】、【氏名又は名称】中村 行孝
【識別番号】100082991、【弁理士】、【氏名又は名称】佐藤 泰和
【識別番号】100105153、【弁理士】、【氏名又は名称】朝倉 悟
【識別番号】100152205、【弁理士】、【氏名又は名称】吉田 昌司
審査請求 未請求
テーマコード 5H501
Fターム 5H501AA30
5H501DD01
5H501GG03
5H501GG05
5H501HB07
5H501HB16
5H501JJ04
5H501JJ16
5H501JJ17
5H501LL01
5H501LL22
5H501LL23
5H501LL48
5H501LL51
要約 【課題】モータのモニタリングデータを用いて、プロペラ負荷状態を追加の計測器を設置することなく精度よく推定する。
【解決手段】実施形態のプロペラ負荷状態推定装置は、モータによってプロペラを駆動する船舶のプロペラ負荷状態を推定する装置であって、前記モータのモニタリングデータの現在値を所定のサンプリング周期で取得する現在値取得部と、前記モニタリングデータの現在値に基づいて前記プロペラ負荷状態を示す観測負荷の現在値を算出する現在値算出部と、予め設定された信号解析対象期間における前記観測負荷のデータ列を解析対象データとして算出値記憶部から読み出す記憶データ読出部と、前記解析対象データに対する信号解析処理を実行する信号解析部と、前記信号解析処理の実行結果に基づいて前記プロペラ負荷状態を推定する状態推定部と、推定された前記プロペラ負荷状態を出力する推定結果出力部と、を備える。
【選択図】 図6
特許請求の範囲 【請求項1】
モータによってプロペラを駆動する船舶のプロペラ負荷状態を推定する装置であって、
前記モータのモニタリングデータの現在値を所定のサンプリング周期で取得する現在値取得部と、
前記現在値取得部が取得した前記モニタリングデータの現在値に基づいて、前記プロペラ負荷状態を示す観測負荷の現在値を算出する現在値算出部と、
前記現在値算出部が算出した前記観測負荷の現在値を記憶する算出値記憶部と、
予め設定された信号解析対象期間における前記観測負荷のデータ列を解析対象データとして前記算出値記憶部から読み出す記憶データ読出部と、
前記記憶データ読出部が読み出した前記解析対象データに対する信号解析処理を実行する信号解析部と、
前記信号解析処理の実行結果に基づいて、前記プロペラ負荷状態を推定する状態推定部と、
前記状態推定部が推定した前記プロペラ負荷状態を出力する推定結果出力部と、
を備えるプロペラ負荷状態推定装置。
【請求項2】
前記状態推定部が推定する前記プロペラ負荷状態は、前記プロペラの空転が発生している不適正負荷状態、および前記プロペラの空転が発生していない適正負荷状態を含む、
請求項1に記載のプロペラ負荷状態推定装置。
【請求項3】
前記適正負荷状態は、前記プロペラの効率が最適となる状態を有する最適負荷状態を含む、
請求項2に記載のプロペラ負荷状態推定装置。
【請求項4】
前記モニタリングデータは、トルクに対応するトルク対応データおよび回転速度に対応する回転速度対応データを含み、
前記観測負荷の現在値は、前記トルク対応データの現在値および前記回転速度対応データの現在値を用いて算出される、
請求項1から3のいずれかに記載のプロペラ負荷状態推定装置。
【請求項5】
前記現在値算出部は、前記モータがトルク一定に制御されている場合には、前記トルク対応データの現在値に相当するパラメータを定数として前記観測負荷の現在値を算出する、
請求項4に記載のプロペラ負荷状態推定装置。
【請求項6】
前記トルク対応データは、前記モータに供給される電流を示すデータであり、
前記回転速度対応データは、前記モータに印加される電圧を示すデータである、
請求項4に記載のプロペラ負荷状態推定装置。
【請求項7】
前記信号解析部は、前記信号解析処理として統計解析処理および/または周波数解析処理を行う、
請求項4から6のいずれかに記載のプロペラ負荷状態推定装置。
【請求項8】
前記信号解析部は、前記統計解析処理として、前記解析対象データの分散値を算出し、
前記状態推定部は、前記信号解析部が算出した前記解析対象データの分散値が第1閾値を超える場合には、前記プロペラ負荷状態が、前記プロペラの空転が発生している不適正負荷状態であると推定し、前記第1閾値よりも小さい第2閾値以下である場合には、前記プロペラ負荷状態が、前記プロペラの空転が発生していない適正負荷状態であると推定する、
請求項7に記載のプロペラ負荷状態推定装置。
【請求項9】
前記信号解析部は、前記周波数解析処理として、前記解析対象データのピーク周波数成分を抽出し、
前記状態推定部は、前記信号解析部が抽出した前記ピーク周波数成分の中に、前記回転速度対応データから算出される基本周波数および高調波成分から所定のパターンでピーク周波数がシフトした成分が検出された場合、前記プロペラ負荷状態が、前記プロペラの効率が最適となる状態を含む最適負荷状態であると推定する、
請求項7または8に記載のプロペラ負荷状態推定装置。
【請求項10】
前記現在値算出部は、前記観測負荷の現在値を次式によって算出する、
請求項4から9のいずれかに記載のプロペラ負荷状態推定装置。
【数1】
JP2018192838A_000009t.gif
ここで、Kρ:前記観測負荷の現在値、Q:前記トルク対応データの現在値、n:前記回転速度対応データの現在値、D:前記プロペラの直径の設定値である。
【請求項11】
モータによってプロペラを駆動する船舶のプロペラ負荷状態を推定する方法であって、
前記モータのモニタリングデータの現在値を所定のサンプリング周期で取得する現在値取得ステップと、
前記現在値取得ステップにおいて取得された前記モニタリングデータの現在値に基づいて、前記プロペラ負荷状態を示す観測負荷の現在値を算出する現在値算出ステップと、
前記現在値算出ステップにおいて算出された前記観測負荷の現在値を算出値記憶部に記憶する算出値記憶ステップと、
予め設定された信号解析対象期間における前記観測負荷のデータ列を解析対象データとして前記算出値記憶部から読み出す記憶データ読出ステップと、
前記記憶データ読出ステップにおいて読み出された前記解析対象データに対する信号解析処理を実行する信号解析ステップと、
前記信号解析処理の実行結果に基づいて、前記プロペラ負荷状態を推定する状態推定ステップと、
前記状態推定ステップにおいて推定された前記プロペラ負荷状態を出力する推定結果出力ステップと、
を備えるプロペラ負荷状態推定方法。
【請求項12】
モータによってプロペラを駆動する船舶のプロペラ負荷状態を推定する処理をコンピュータに実行させるプログラムであって、
前記モータのモニタリングデータの現在値を所定のサンプリング周期で取得する現在値取得ステップと、
前記現在値取得ステップにおいて取得された前記モニタリングデータの現在値に基づいて、前記プロペラ負荷状態を示す観測負荷の現在値を算出する現在値算出ステップと、
前記現在値算出ステップにおいて算出された前記観測負荷の現在値を算出値記憶部に記憶する算出値記憶ステップと、
予め設定された信号解析対象期間における前記観測負荷のデータ列を解析対象データとして前記算出値記憶部から読み出す記憶データ読出ステップと、
前記記憶データ読出ステップにおいて読み出された前記解析対象データに対する信号解析処理を実行する信号解析ステップと、
前記信号解析処理の実行結果に基づいて、前記プロペラ負荷状態を推定する状態推定ステップと、
前記状態推定ステップにおいて推定された前記プロペラ負荷状態を出力する推定結果出力ステップと、
をコンピュータに実行させるプロペラ負荷状態推定プログラム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、プロペラ負荷状態推定装置、プロペラ負荷状態推定方法、およびプロペラ負荷状態推定プログラムに関し、特に、モータによってプロペラを駆動する船舶のプロペラ負荷状態を推定するための、プロペラ負荷状態推定装置、プロペラ負荷状態推定方法、およびプロペラ負荷状態推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
船舶の船体動揺や海面の波動等によってプロペラ周辺の気泡吸い込みやキャビテーション等が引き起こされ、その結果、プロペラの空転やレーシングによるプロペラ推力の低下することが知られている。
【0003】
船舶推進用の動力装置として広く使用されている内燃機関(エンジン)においては、回転計やトルク計等の計測器によってプロペラの回転状態を検知し、ガバナー(調速機)を用いて燃料噴射量を制御することによって、プロペラの空転の発生を抑制している。しかし、回転計やトルク計には計測精度に制約がある上に、時定数が大きくなるために応答性に課題があった。
【0004】
内燃機関を動力装置とする船舶に対して、誘導モータや永久磁石同期モータなどのモータを動力装置とする船舶が使用され始めている。このような船舶では、船舶用ドライブシステム(以下、単に「ドライブシステム」ともいう。)が用いられる。ドライブシステムは、パワーエレクトロニクス技術を利用した可変電圧可変周波数型のインバータから可変的に供給される電力でモータを駆動することによって、モータのトルク制御および回転速度制御を行う。ドライブシステムおよびプロペラ推進機構で構成されるパワートレインは、内燃機関に比べて制御におけるトルク応答性が良く、きめ細かい制御が可能である。
【0005】
また、ドライブシステムは、インバータからモータに出力される電流および電圧や、モータのトルクおよび回転速度等の内部状態を、モニタリングデータとして出力する機能を備えている。このため、内燃機関と比較して、回転計やトルク計を別途設ける必要がないという特徴がある。
【0006】
なお、特許文献1には、エンジンの動力により推進する船舶において、エンジンの回転速度を時間微分することによってキャビテーションの発生を検知し、キャビテーションの発生が検知された場合に、変速機構部に対して減速比を変更する信号を出力することによってエンジンの回転速度を制御する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【0007】

【特許文献1】特開2009-196516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の発明では、キャビテーションの発生を検知した場合には、予め設定したテーブルに基づいて変則ギアの切り替え制御を行い、エンジンの回転速度を制御する。このように特許文献1に記載の発明ではキャビテーションの有無を検知するものの、キャビテーションの発生に伴うプロペラ負荷の状態を推定することはできない。
また、モータを動力装置とする船舶についても、プロペラ負荷の状態を推定することは検討されていなかった。前述のようにモータを動力装置とする船舶ではモータのトルクや回転速度を高精度に制御できるため、プロペラ負荷の状態を推定することができれば、船舶のエネルギー効率を高めることができる可能性がある。
【0009】
本発明は、モータのモニタリングデータを用いて、プロペラ負荷状態を追加の計測器を設置することなく精度よく推定することが可能なプロペラ負荷状態推定装置、プロペラ負荷状態推定方法、およびプロペラ負荷状態推定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明に係るプロペラ負荷状態推定装置は、
モータによってプロペラを駆動する船舶のプロペラ負荷状態を推定する装置であって、
前記モータのモニタリングデータの現在値を所定のサンプリング周期で取得する現在値取得部と、
前記現在値取得部が取得した前記モニタリングデータの現在値に基づいて、前記プロペラ負荷状態を示す観測負荷の現在値を算出する現在値算出部と、
前記現在値算出部が算出した前記観測負荷の現在値を記憶する算出値記憶部と、
予め設定された信号解析対象期間における前記観測負荷のデータ列を解析対象データとして前記算出値記憶部から読み出す記憶データ読出部と、
前記記憶データ読出部が読み出した前記解析対象データに対する信号解析処理を実行する信号解析部と、
前記信号解析処理の実行結果に基づいて、前記プロペラ負荷状態を推定する状態推定部と、
前記状態推定部が推定した前記プロペラ負荷状態を出力する推定結果出力部と、
を備える。
【0011】
また、前記プロペラ負荷状態推定装置において、
前記状態推定部が推定する前記プロペラ負荷状態は、前記プロペラの空転が発生している不適正負荷状態、および前記プロペラの空転が発生していない適正負荷状態を含むようにしてもよい。
【0012】
また、前記プロペラ負荷状態推定装置において、
前記適正負荷状態は、前記プロペラの効率が最適となる状態を有する最適負荷状態を含むようにしてもよい。
【0013】
また、前記プロペラ負荷状態推定装置において、
前記モニタリングデータは、トルクに対応するトルク対応データおよび回転速度に対応する回転速度対応データを含み、
前記観測負荷の現在値は、前記トルク対応データの現在値および前記回転速度対応データの現在値を用いて算出されるようにしてもよい。
【0014】
また、前記プロペラ負荷状態推定装置において、
前記現在値算出部は、前記モータがトルク一定に制御されている場合には、前記トルク対応データの現在値に相当するパラメータを定数として前記観測負荷の現在値を算出するようにしてもよい。
【0015】
また、前記プロペラ負荷状態推定装置において、
前記トルク対応データは、前記モータに供給される電流を示すデータであり、
前記回転速度対応データは、前記モータに印加される電圧を示すデータであるようにしてもよい。
【0016】
また、前記プロペラ負荷状態推定装置において、
前記信号解析部は、前記信号解析処理として統計解析処理および/または周波数解析処理を行うようにしてもよい。
【0017】
また、前記プロペラ負荷状態推定装置において、
前記信号解析部は、前記統計解析処理として、前記解析対象データの分散値を算出し、
前記状態推定部は、前記信号解析部が算出した前記解析対象データの分散値が第1閾値を超える場合には、前記プロペラ負荷状態が、前記プロペラの空転が発生している不適正負荷状態であると推定し、前記第1閾値よりも小さい第2閾値以下である場合には、前記プロペラ負荷状態が、前記プロペラの空転が発生していない適正負荷状態であると推定するようにしてもよい。
【0018】
また、前記プロペラ負荷状態推定装置において、
前記信号解析部は、前記周波数解析処理として、前記解析対象データのピーク周波数成分を抽出し、
前記状態推定部は、前記信号解析部が抽出した前記ピーク周波数成分の中に、前記回転速度対応データから算出される基本周波数および高調波成分から所定のパターンでピーク周波数がシフトした成分が検出された場合、前記プロペラ負荷状態が、前記プロペラの効率が最適となる状態を含む最適負荷状態であると推定するようにしてもよい。
【0019】
また、前記プロペラ負荷状態推定装置において、
前記現在値算出部は、前記観測負荷の現在値を次式によって算出するようにしてもよい。
【0020】
また、前記プロペラ負荷状態推定装置において、
【数1】
JP2018192838A_000003t.gif
ここで、Kρ:前記観測負荷の現在値、Q:前記トルク対応データの現在値、n:前記回転速度対応データの現在値、D:前記プロペラの直径の設定値である。
【0021】
また、前記プロペラ負荷状態推定装置において、
本発明に係るプロペラ負荷状態推定方法は、
モータによってプロペラを駆動する船舶のプロペラ負荷状態を推定する方法であって、
前記モータのモニタリングデータの現在値を所定のサンプリング周期で取得する現在値取得ステップと、
前記現在値取得ステップにおいて取得された前記モニタリングデータの現在値に基づいて、前記プロペラ負荷状態を示す観測負荷の現在値を算出する現在値算出ステップと、
前記現在値算出ステップにおいて算出された前記観測負荷の現在値を算出値記憶部に記憶する算出値記憶ステップと、
予め設定された信号解析対象期間における前記観測負荷のデータ列を解析対象データとして前記算出値記憶部から読み出す記憶データ読出ステップと、
前記記憶データ読出ステップにおいて読み出された前記解析対象データに対する信号解析処理を実行する信号解析ステップと、
前記信号解析処理の実行結果に基づいて、前記プロペラ負荷状態を推定する状態推定ステップと、
前記状態推定ステップにおいて推定された前記プロペラ負荷状態を出力する推定結果出力ステップと、を備える。
【0022】
本発明に係るプロペラ負荷状態推定プログラムは、
モータによってプロペラを駆動する船舶のプロペラ負荷状態を推定する処理をコンピュータに実行させるプログラムであって、
前記モータのモニタリングデータの現在値を所定のサンプリング周期で取得する現在値取得ステップと、
前記現在値取得ステップにおいて取得された前記モニタリングデータの現在値に基づいて、前記プロペラ負荷状態を示す観測負荷の現在値を算出する現在値算出ステップと、
前記現在値算出ステップにおいて算出された前記観測負荷の現在値を算出値記憶部に記憶する算出値記憶ステップと、
予め設定された信号解析対象期間における前記観測負荷のデータ列を解析対象データとして前記算出値記憶部から読み出す記憶データ読出ステップと、
前記記憶データ読出ステップにおいて読み出された前記解析対象データに対する信号解析処理を実行する信号解析ステップと、
前記信号解析処理の実行結果に基づいて、前記プロペラ負荷状態を推定する状態推定ステップと、
前記状態推定ステップにおいて推定された前記プロペラ負荷状態を出力する推定結果出力ステップと、をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0023】
本発明では、モータのモニタリングデータの現在値に基づいてプロペラ負荷状態を示す観測負荷の現在値を算出し、信号解析対象期間における観測負荷のデータ列に対する信号解析処理を実行し、この信号解析処理の実行結果に基づいてプロペラ負荷状態を推定する。よって、本発明によれば、追加の計測器を設置することなく精度よくプロペラ負荷状態を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】一般的なプロペラ性能を表す数式を説明するための図である。
【図2】一般的なプロペラの単独性能曲線を示す図である。
【図3】一般的な船舶用ドライブシステムの制御ブロック図である。
【図4】水中でプロペラが回転している状態を高速度カメラで撮影した画像を示す図である。
【図5A】プロペラ負荷状態と図1を参照して説明される数式との関係について説明する図である。
【図5B】プロペラ負荷状態と図1を参照して説明される数式との関係について説明する図である。
【図6】本発明の実施形態に係るプロペラ負荷状態推定方法を実行する機能を備えた船舶推進システムの概略的構成を示す図である。
【図7】プロペラ負荷状態推定部150において実行される処理の一例を示すフローチャートである。
【図8】現在負荷状態推定処理の一例を示すフローチャートである。
【図9】統計解析の例を説明するための図である。
【図10】周波数解析の例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。

【0026】
[プロペラ負荷状態推定の原理]
まず、図1から図5Bを参照しながら、本発明の実施形態に係るプロペラ負荷状態推定の原理について説明する。

【0027】
図1は、一般的なプロペラ性能を表す数式を説明するための図である。プロペラの単独性能は、プロペラ直径D[m]、プロペラ回転速度(回転数)n[1/sec]、スラストT[N]、水の密度ρ[kg/m]、プロペラを回転させるトルクQ[N・m]、およびプロペラに流入する対水前進速度V[m/sec]の関係で説明される。

【0028】
スラストTは、数式(1)に示すように、プロペラ先端の円周速度の二乗とプロペラ作動面積との積に比例する。数式(1)において、Kはスラスト係数である。
【数2】
JP2018192838A_000004t.gif

【0029】
トルクQは、数式(2)に示すように、スラストTと、翼の先端から回転中心までの腕の長さとの積に比例する。なお、数式(2)において、Kはトルク係数である。
【数3】
JP2018192838A_000005t.gif

【0030】
また、プロペラ効率ηは、数式(3)で表される。
【数4】
JP2018192838A_000006t.gif

【0031】
また、前進常数Jは、数式(4)で表される。
【数5】
JP2018192838A_000007t.gif

【0032】
図2は、一般的なプロペラの単独性能曲線を示すグラフである。プロペラの単独性能曲線は、横軸に前進常数Jをとり、縦軸に、プロペラ効率η、スラスト係数Kおよびトルク係数Kをとった3種類の曲線を一つのチャートに表示することによって提示される。なお、図2において、トルク係数Kについては、元の値を10倍した値(10×K)が示されている。

【0033】
プロペラ回転速度nとプロペラの前進速度は、プロペラピッチによって一義的に定まるものである。しかし、プロペラに流入する対水前進速度Vは、外乱やキャビテーションの発生等の要因によって変動する。したがって、数式(4)から分かるように、前進常数Jはプロペラ回転速度nに対して一定の値とはならない。

【0034】
図2に示すように、プロペラ効率ηは前進常数Jの増加に伴って増加するが、ピークを過ぎると急激に低下する傾向がある。また、スラスト係数Kおよびトルク係数Kは前進常数Jの増加に伴っていずれも低下する傾向がある。

【0035】
本実施形態では、図2に示すように、プロペラ効率ηを示す曲線上に、適正効率と最適効率をそれぞれ示す適正効率ラインと最適効率ラインを想定する。そして、プロペラ効率が適正効率ラインの値以上であり、適正効率でプロペラが回転しているときのプロペラ負荷状態を「適正負荷状態」という。プロペラ効率が適正効率ライン未満であり、適正効率に満たない回転時におけるプロペラ負荷状態を「不適正負荷状態」という。なお、不適正な回転状態では、さまざまな要因(スリップ、キャビテーションの発生、気泡の吸い込み等)によってプロペラが空転する状態となって、プロペラに対する負荷が低下している場合が多い。

【0036】
また、図2に示すように、適正負荷状態の中でも、プロペラ効率が最適効率ラインの値以上であり、特に効率が高い回転時におけるプロペラ負荷状態を「最適負荷状態」という。最適負荷状態は、プロペラの効率が最適となる状態を含むプロペラ負荷状態である。最適負荷状態のように高効率でプロペラが回転している状態では、ある種のキャビテーションが発生していると考えられる。最適負荷状態では、プロペラと周囲の流体(水)との摩擦が減少することによって水の抵抗が減少するものの、プロペラの空転によるスラストの低下は生じていないことが想定される。

【0037】
ここで、一般的な船舶用ドライブシステムについて説明する。図3は、一般的な船舶用ドライブシステムの制御ブロック図を示している。この船舶用ドライブシステムは、速度制御部、トルク制御部、電流制御部、インバータ、およびモータを有している。モータには、負荷であるプロペラ(図示せず)が接続されている。

【0038】
船舶用ドライブシステムは、外部からの指令として、回転速度を速度指令(回転速度指令)として入力するものもあれば、トルク指令を入力するものもあり、いずれの指令も入力可能である場合が多い。なお、説明を簡略化するために、図3ではトルク指令および速度指令による制御を示したが、これに限られない。例えば、モータを周速度によって制御を行うシステムであれば、周速度を回転速度に変換すればよく、あるいは、位置指令によって制御を行うシステムであれば、位置を時間微分することによって回転速度に換算してもよい。

【0039】
モータのトルクはモータに供給される電流に比例するので、インバータからモータに供給される電流をフィードバックすることによってトルク制御が行われる。また、モータの回転速度をフィードバックすることによって回転速度制御が行われる。なお、回転速度制御では、指令された回転速度と負荷が釣り合うトルク指令が生成される。インバータに対しては、トルク指令および回転速度指令のいずれのモードであっても電流制御が行われる。

【0040】
実海域において船舶を運航する際には、たとえトルクや回転速度を一定に制御したとしても、船体の状況や海象の変化等の様々な外乱によって、プロペラ負荷状態は時々刻々と変化する。このため、出力トルクに対するプロペラ負荷の変動に応じた回転速度の変動が発生する。

【0041】
プロペラ負荷の変動は、インバータがモータに供給する電力(電流値および電圧値)の変動や、モータのトルクおよび回転速度の変動として検出され、モニタリングデータとしてドライブシステムの外部に出力される。モータの原理上、トルクは電流に比例し、回転速度は電圧に比例するので、モニタリングデータとしては、電流値および電圧値を用いるようにしてもよい。モニタリングデータは、ドライブシステムから時々刻々と出力される。

【0042】
図4(A),(B)に、水中でプロペラが回転している状態を高速度カメラで撮影した画像の一例を示す。図4(A)は、キャビテーションや気泡の吸い込みがほとんど発生していない状態の画像である。図4(B)は、過度のキャビテーションが発生したことによってプロペラが空転している状態の画像である。これらの画像から推測されるように、図4(A)に示す状態と図4(B)に示す状態との間で、回転するプロペラの周囲領域に存在する水の密度が、見かけ上あたかも変化しているように観測される。このようなプロペラ周囲領域における水の見かけ上の密度変化を、モータにおける負荷変動として捉えることが可能である。以下、ドライブシステムのモニタリングデータに基づいて観測される、プロペラ周囲領域における水の見かけ上の密度を「観測密度」という。

【0043】
次に、図5Aおよび図5Bを参照しながら、プロペラ負荷状態と上述の数式との関係について説明する。数式(1)および数式(2)からわかるように、スラストおよびトルクの特性カーブはいずれも、水の密度ρを係数に含んでおり、回転速度nを変数とした二次曲線として示すことが可能である。図5Aは縦軸がトルクで横軸が回転速度のグラフを示し、図5Bは縦軸がスラストで横軸が回転速度のグラフを示している。

【0044】
なお、図2に示したプロペラ単独性能からもわかるように、スラスト係数Kおよびトルク係数Kは、前進常数Jの増加に伴って単調に減少する。このため、プロペラ負荷状態の変動に伴って前進常数Jが変化すると、前進常数Jの変化に応じてスラスト係数Kおよびトルク係数Kも変化する。例えば、 図4(B)に示すようにプロペラの空転が発生している状態では、モータの回転速度に対する対水前進速度Vaは低下するため、前進常数Jも低下する。前進常数Jの低下により、スラスト係数Kおよびトルク係数Kは上昇する。

【0045】
図5A中、カーブCQfはプロペラが空転せずに適正負荷状態で回転している際におけるトルクの特性カーブを示す。カーブCQuは、プロペラの空転が発生している状態、すなわちプロペラが不適正負荷状態で回転している際におけるトルクの特性カーブを示す。カーブCQOは、プロペラが最適負荷状態で回転している際におけるトルクの特性カーブを示す。ドライブシステム内部のトルク指令が一定であれば、プロペラ回転速度が上昇してもトルクは一定に保たれる制御が行われる。このため、カーブCQuの点P1およびカーブCQOの点P2に示すように、トルクはほぼ同じ値を示す。図5Aにおいて、ρf < ρo、KQf ≧ KQo、ρf ≧ ρu、KQf < KQuの関係が成り立っている。

【0046】
図5B中、カーブCTfはプロペラが適正負荷状態で回転している際におけるスラストの特性カーブを示す。カーブCTuは、プロペラが不適正負荷状態で回転している際におけるスラストの特性カーブを示す。カーブCToは、プロペラが最適負荷状態で回転している際のスラストの特性カーブを示す。図5Bにおいて、ρf < ρo、KTf > KTo、ρf ≧ ρu、KTf < KTuの関係が成り立っている。

【0047】
カーブCTuに示すようにプロペラの空転によってスラストが低下している状態は、プロペラの空転が発生していないカーブCTfと比較して、スラストの特性カーブは傾きが小さな二次曲線として表される。この場合、図2からもわかるように、適正負荷状態のスラスト係数KTfよりも不適正負荷状態のスラスト係数KTuは高い。しかしながら、図4(B)から推測されるように、不適正負荷状態の観測密度ρuは適正負荷の観測密度ρfよりもかなり低い値を示すと考えられる。このことから、スラストも観測密度の低下に応じて低い値となると考えられる。

【0048】
一方、図5Bに示すように、最適負荷状態のスラスト係数KToは適正負荷状態のスラスト係数KTfよりも低くなると考えられるものの、観測密度ρoがρよりも高い値を示すように観測される。したがって、スラストの特性カーブCToは、特性カーブCTfよりも傾きが大きな二次曲線として表される。

【0049】
そこで本実施形態では、外乱やキャビテーション等に起因するプロペラ負荷状態の変化が数式(2)における水の密度ρおよびトルク係数Kの変化として、ドライブシステムが出力するモニタリングデータから観測できることを利用する。ドライブシステムから出力されるモニタリングデータは、モータの計測値(回転速度等)に限らず、モータに供給する電流や電圧の値であってもよい。

【0050】
ドライブシステムからモニタリングデータを取得するサンプリング周期がミリ秒単位の場合、観測密度は、プロペラの回転速度に応じた周期と、キャビテーションによって発生する振動に応じた周波数成分とを含んだ時々刻々と変化する信号として検出される。このため、実際には、図5Aに模式的に示すような一定値のトルクや、図5Aおよび図5Bに模式的に示すような固定的な特性カーブ上で変化する回転速度は観測されない。

【0051】
そこで、本実施形態では、プロペラの周囲領域における水の見かけ上の密度ρとトルク係数Kとの積に着目し、これらの積をプロペラ負荷状態として疑似的に観測された「観測負荷」と定義する。観測負荷は、数式(2)を変形して得られる数式(5)で表される。数式(2)から分かるように、観測負荷は、プロペラ固有の特性として値が定まるプロペラ直径Dと、時々刻々と変化する現在値として観測されるトルクQおよび回転速度nとを用いて表わされる。
【数6】
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【0052】
本実施形態では、時々刻々と変化する値として取得されるトルクQおよび回転速度nに対応するモニタリングデータの現在値から算出される観測負荷のデータ列を解析することによって、プロペラ負荷状態を推定する。モニタリングデータとしては、例えば、モータのトルクに対応するデータ(以下、「トルク対応データ」という。)、モータの回転速度に対応するデータ(以下、「回転速度対応データ」という。)等がある。トルク対応データは、例えばモータに供給される電流を示すデータであり、回転速度対応データは、例えばモータに印加される電圧を示すデータである。

【0053】
なお、モータがトルク一定に制御されている場合には、トルク対応データの現在値に相当するパラメータ(例えばモータに供給される電流)を定数とし、回転速度nのみを変数として観測負荷を算出してもよい。また、モータが回転速度一定に制御されている場合には、回転速度対応データの現在値に相当するパラメータ(例えばモータに印加される電圧)を定数とし、トルクQのみを変数として観測負荷を算出してもよい。

【0054】
[システム構成]
次に、図6を参照しながら、本実施形態に係るプロペラ負荷状態推定方法を実行する機能を備えた船舶推進システムの構成について説明する。

【0055】
本実施形態に係る船舶推進システムは、図6に示すように、コントロールシステム100と、ドライブシステム200と、プロペラ300とを備えている。

【0056】
コントロールシステム100は、ドライブシステム200の動作を制御するシステムである。このコントロールシステム100は、具体的には、一般的なコンピュータシステムや入出力装置をハードウェア資源として用いて構成されている。

【0057】
コントロールシステム100は、操作部110、指令値生成部120、現在値取得部130、データ記憶部140、およびプロペラ負荷状態推定部150を備えている。これらの機能部は、本実施形態では、コンピュータプログラムが実行されることによって実現される。

【0058】
操作部110は、ドライブシステム200の操作者に対して各種の情報を提示するディスプレイ111、画面上から入力を受け付けるタッチパネル112、およびドライブシステム200の出力を操作者が指示するための入力装置であるスロットル113を備える。

【0059】
指令値生成部120は、タッチパネル112やスロットル113から入力された指令に基づいて、ドライブシステム200に出力する指令値を生成する。なお、指令値生成部120はプロペラ負荷状態推定部150から出力されたプロペラ負荷状態に基づいて指令値を生成してもよい。これにより、プロペラ負荷状態推定部150により推定されたプロペラ負荷状態に基づいてドライブシステム200が制御されるようにできる。また、制御目標については、トルク指令および/または回転速度指令である。その他、特定の状態を維持するための指令を制御目標としてもよい。例えば、特定の状態として、船舶が所定の船速に維持された状態、あるいは、所定のプロペラ効率に維持された状態などが挙げられる。

【0060】
現在値取得部130は、ドライブシステム200から出力される、モータのモニタリングデータの現在値を所定のサンプリング周期で取得する。なお、ドライブシステム200が出力するモニタリングデータは、アナログ形式でもデジタル形式でもよい。アナログ形式で出力されるモニタリングデータを取得する場合、現在値取得部130は、アナログ形式のモニタリングデータをデジタル形式に変換するアナログ/デジタル変換機能を備えてもよい。

【0061】
データ記憶部140は、各種の設定データを記憶する設定値記憶部141、現在値取得部130によって取得された現在値データを記憶する取得値記憶部142、および、設定値と現在値に基づいて算出された算出値データを記憶する算出値記憶部143を備える。算出値記憶部143には、所定のサンプリング周期で取得される現在値データに応じて、算出値データがデータ列として記憶される。

【0062】
プロペラ負荷状態推定部150は、記憶データ読出部151、現在値算出部152、信号解析部153、状態推定部154、推定結果出力部155、および設定値変更部156を備える。

【0063】
記憶データ読出部151は、処理の対象となるデータを解析対象データとしてデータ記憶部140から読み出す。記憶データ読出部151は、予め設定された信号解析対象期間における観測負荷のデータ列を解析対象データとして算出値記憶部143から読み出す。

【0064】
現在値算出部152は、現在値取得部130が取得したモニタリングデータの現在値に基づいて、プロペラ300の負荷状態を示す観測負荷の現在値を算出する。そして、現在値算出部152は、算出された観測負荷の現在値を算出値記憶部143に記憶させる。

【0065】
信号解析部153は、記憶データ読出部151が読みだした解析対象データに対する信号解析処理を実行する。具体的には、信号解析部153は、信号解析処理として、統計解析処理および/または周波数解析処理を行う。信号解析部153は、統計解析処理として例えば、解析対象データの分散値を算出する。また、信号解析部153は、周波数解析処理として例えば、解析対象データのピーク周波数成分を抽出する。

【0066】
信号解析部153の機能を実現するために、統計処理による解析、時間軸による解析、および、FFT(Fast Fourier Transform)やウェーブレット変換等の周波数軸による解析等の各種解析を行うアルゴリズムが必要に応じて実装されている。なお、信号解析部153は、解析結果を一時的に保存するキャッシュ機能を有してもよい。

【0067】
状態推定部154は、信号解析部153が実行した信号解析処理の実行結果に基づいて、プロペラ負荷状態を推定する。なお、状態推定部154による具体的な処理内容については、後に図7および図8のフローチャートを参照しながら詳しく説明する。

【0068】
推定結果出力部155は、状態推定部154が推定したプロペラ負荷状態(推定結果)を出力する。推定結果の出力先は、操作部110(例えばディスプレイ111)、指令値生成部120およびデータ記憶部140のうち少なくともいずれかであってよい。

【0069】
設定値変更部156は、必要に応じて、設定値記憶部141に記憶される設定値を変更する。この設定値変更部156は、例えば以下のような場合に設定データの変更を行う。操作者による操作が操作部110から入力された場合、モータ203がプロペラ300に加える回転力に変化が生じることが考えられる。また、図示せぬ機能によって観測された対水前進速度に大きな変化が検出された場合、プロペラ300の回転とは異なる要因の外乱が発生していると考えられる。本実施形態では、このようなプロペラ負荷の変化は過渡状態であると考え、かかるイベントを検出した場合には、当該イベントを設定データとして設定値記憶部141に記憶しておく。

【0070】
次に、ドライブシステム200の詳細について説明する。

【0071】
ドライブシステム200は、電源から供給される電力を変換するコンバータ201と、コンバータ201から供給される電力を変換するインバータ202と、インバータ202から供給される電力に基づいて駆動されるモータ203と、コンバータ201およびインバータ202を制御するドライバ204とを備える。モータ203には、回転軸205の先端に、プロペラ300が負荷として接続されている。ドライバ204は、コントロールシステム100からの指令に基づいてコンバータ201およびインバータ202を制御するとともに、モータ203のモニタリングデータを出力する。

【0072】
なお、電源は交流電源でも直流電源でもよく、コンバータ201は、インバータ202の入力電力仕様に応じた電力変換を行うものであればよい。また、インバータ202は、一般的にはPWM(Pulse Width Modulation)制御されるインバータが用いられるが、モータ203の入力仕様に応じた電力変換を行うものであれば、どのようなものでもかまわない。また、モータ203は、電動モータであって、プロペラ300を回転させることによって船舶の推進に必要なスラストを得ることができればどのような種類のモータでもよい。例えば、モータ203は、誘導モータ、同期モータ、永久磁石モータ等の交流モータや、サーボモータ等でもよい。なお、インバータ202を省いて、モータ203として直流モータを用いてもよい。

【0073】
[プロペラ負荷状態推定処理]
次に、図7および図8を参照しながら、プロペラ負荷状態の推定処理について詳しく説明する。図7は、プロペラ負荷状態推定部150において実行されるプロペラ負荷状態推定処理の一例を示すフローチャートである。図8は、現在負荷状態推定処理の一例を示すフローチャートである。

【0074】
コンピュータプログラムの実行に伴ってプロペラ負荷状態推定処理が開始されると、記憶データ読出部151は、設定値記憶部141に記憶された設定値データを読み出し、(ステップS1)、続いて、取得値記憶部142に記憶された現在値データを読み出す(ステップS2)。

【0075】
ここで、設定値としては、プロペラ直径を示す値が用いられ、現在値としてはトルクおよび回転速度を示す値が用いられる。なお、設定値および現在値は、必ずしも実際の値である必要はない。数式(5)に示した対応関係が維持されればどのような値でもよく、ドライバ204やコントロールシステム100の仕様に応じて、演算処理が容易な数値に変換されていても構わない。また、スロットル操作等のイベントの発生が設定データとして記憶されている場合には、かかるデータの読み出しも行う。

【0076】
現在値算出部152は、読み出された設定値データおよび現在値データに基づいて観測負荷の現在値を算出し、算出されたデータ(算出値データ)を観測負荷の現在値として算出値記憶部143に記憶する(ステップS3)。

【0077】
次に、信号解析部153は、信号解析処理の対象となるデータ(解析対象データ)を算出値記憶部143から読み出し、当該データに対する解析処理を実行する(ステップS4)。

【0078】
信号解析部153による解析処理が完了すると、状態推定部154は、現在負荷状態推定処理を実行する(ステップS5)。なお、現在負荷状態推定処理の詳細については、図8を参照しながら後に説明する。

【0079】
推定処理結果は、推定結果出力部155によって出力される(ステップS6)。推定処理結果は、例えばディスプレイ111に表示される。

【0080】
設定値変更部156は、設定値記憶部141に記憶されている設定値の変更が必要であるか否かを判定し(ステップS7)、設定値の変更が不要である場合には(S7;No)、処理はステップS2に戻って、次のサイクルとして同様の処理を繰り返す。

【0081】
一方、ステップS7において、設定値の変更が必要と判定された場合には(S7;Yes)、設定値変更部156は、変更後の設定値データを生成し、設定値記憶部141に記憶する(ステップS8)。この後、処理はステップS1に戻る。これにより、次の処理サイクルのステップS1において変更後の設定値データが読み出され、変更後の設定値データに基づいてプロペラ負荷状態推定処理が実行される。なお、スロットル操作が行われたタイミングが記憶されている場合には、スロットル113の操作タイミングから所定の時間が経過したことによって、設定値データとしてのスロットル操作情報を設定値記憶部141から消去するようにしてもよい。

【0082】
次に、ステップS5の現在負荷状態推定処理について、図8を参照しながら説明する。

【0083】
状態推定部154は、ステップS1で読み出された設定値データからイベント情報を検出する(ステップS501)。イベント情報としては、例えば、スロットル113の操作タイミングを示す情報や、所定の船速を得るために必要な回転速度として予め設定された値に船速が達していないことを示す情報などがある。

【0084】
次に、ステップS501で検出したイベント情報に基づいて、プロペラの挙動が過渡状態にあるか否かを判定する(ステップS502)。本ステップでは、例えば、スロットル113の操作タイミングから所定の時間が経過していない場合に過渡状態であると判定する。

【0085】
ステップS502において過渡状態と判定された場合(ステップS502;Yes)は、推定結果出力部155は、プロペラ負荷状態が過渡負荷状態である旨を出力する(S503)。ステップS503の後、プロペラ負荷状推定態処理は、図7のメインルーチンに戻る。このように本実施形態では過渡負荷状態である旨を出力することで、プロペラの回転速度を制御することが望ましくない状態であることを操作者に知らせることができる。

【0086】
一方、ステップS502において過渡状態ではない、すなわちプロペラの回転は定常状態であると判定された場合は(ステップS502;No)、状態推定部154は、信号解析部153による解析結果から、信号解析対象期間における観測負荷の分散値を算出する(ステップS504)。

【0087】
状態推定部154は、ステップS504において算出された観測負荷の分散値が第1閾値を超えているか否かを判定し(ステップS505)、第1閾値を超えている場合には(ステップS505;Yes)、推定結果出力部155は、プロペラ負荷状態が不適正負荷状態である旨を出力する(ステップS506)。ステップS506の後、現在負荷状態推定処理は終了し、図7のメインルーチンに戻る。
一方、ステップS505において、観測負荷の分散値が第1閾値以下であると判定された場合は(ステップS505;No)、状態推定部154は、観測負荷の分散値が第2閾値を超えているか否かを判定し(ステップS507)、観測負荷の分散値が第2閾値以下であると判定した場合は(ステップS507;No)、推定結果出力部155は、プロペラ負荷状態が適正負荷状態である旨を出力する(ステップS508)。ステップS508の後、現在負荷状態推定処理は終了し、図7のメインルーチンに戻る。一方、観測負荷の分散値が第2閾値を超えていると判定した場合は(ステップS507;Yes)、後述のステップS509に進む。

【0088】
ここで、観測負荷の分散値と、第1閾値および第2閾値との関係について、図9を参照しながら説明する。図9は、観測負荷を時間軸上にプロットした模式図である。現在値取得部130がドライブシステム200から現在値データを取得するサンプリング周期は、比較的短い時間周期(例えば1ミリ秒)であるのに対して、信号解析部153における信号解析対象期間は、プロペラ負荷変動の解析に適した比較的長い期間(例えば1秒)が設定される。なお、信号解析対象期間としては、固定的に設定された時間でもよいし、あるいは、プロペラが所定数だけ回転するために要する時間といったように、現在値データに対応して変動する時間でもよい。

【0089】
図9にプロットされた点列C1はキャビテーションの発生によるプロペラの空転が観測された期間の観測負荷を表し、点列C2はキャビテーションが発生していない期間の観測負荷を表している。先に図5Aおよび図5Bを参照しながら説明したように、外乱やキャビテーション等に起因してプロペラの空転が発生している状態では、プロペラ周囲領域における水の見かけ上の密度が低下するので、観測負荷も低下する。図4(B)に示すように、キャビテーションの発生時においては、プロペラ周囲領域における水は分布が一様ではなく、複雑な挙動を示す。このため、観測負荷は点列C1に例示するように時間軸上で複雑に変化し、それにより、プロペラの回転速度にばらつきが発生する。その結果、信号解析対象期間における観測負荷の分散が大きくなる。本実施形態では、プロペラの空転が発生していると推定できる分散値を第1閾値として設定する。

【0090】
一方、図4(A)に示すように、キャビテーションが発生していない状態では、プロペラ周囲領域における水の見かけ上の密度は低下しないので、プロペラの回転周期は安定する。また、図4(A)に示すように、プロペラ周囲領域における水は分布がほぼ一様であり、複雑な状態を示さない。このため、観測負荷は、図9の点列C2に例示するように時間軸上でそれほど大きく変化しない。したがって、信号解析対象期間における観測負荷の分散値は小さくなる。本実施形態では、プロペラの空転が発生していないと推定できる分散値を、第1閾値よりも小さい第2閾値として設定する。

【0091】
図8のフローチャートに戻って、プロペラ負荷状態推定処理の説明を続ける。状態推定部154は、観測負荷の分散値が第2閾値を超えていると判定した場合(ステップS507;Yes)、信号解析部153による周波数解析結果に基づいて、信号処理解析対象期間におけるピーク周波数を抽出する(ステップS509)。本ステップでは、所定値を超える観測負荷の周波数成分をピーク周波数として抽出する。その後、状態推定部154は、基本周波数と他の成分の周波数との差が所定の関係にあるか否かを判定し(ステップS510)、所定の関係にあると判定した場合には(ステップS510;Yes)、推定結果出力部155は、プロペラ負荷状態が最適負荷状態である旨を出力する(ステップS511)。ステップS511の後、現在負荷状態推定処理は終了し、図7のメインルーチンに戻る。

【0092】
一方、ステップS510において、基本周波数と他の成分の周波数との差が所定の関係にないと判定された場合には(ステップS510;No)、推定結果出力部155は、プロペラ負荷状態が適正負荷状態である旨を出力する(ステップS508)。ステップS508の後、現在負荷状態推定処理は終了し、図7のメインルーチンに戻る。

【0093】
ここで、図10を参照しながら、基本周波数と他の成分の周波数との差における関係について説明する。図10は、信号解析対象期間に対応する、観測負荷のピーク周波数成分を模式的に示した図である。図10において、fr0は基本周波数を示している。基本周波数は、例えば、プロペラ回転速度(回転速度対応データ等)の現在値から算出される周波数である。また、図10において、ピーク周波数fr1、fr2・・・frnは、基本周波数fr0の整数倍の周波数を有する高調波成分である。本実施形態では、基本周波数、および高調波成分とは異なる周波数成分に着目する。例えば図10に示すように、抽出された各周波数(例えば高調波成分の周波数)と基本周波数との差分をピークシフト値Δf,Δf,Δf,・・・,Δfとして算出する。ここで、Δf=fr-fr(i=1,2,・・・、n)である。

【0094】
プロペラ効率ηがピーク近傍となるときは、プロペラの回転によって生じる水の動きの状態が、プロペラのピッチ角によって生成されるスクリュー状の動きと整合する。これによって、モータの回転速度は、出力トルクに対するスラストが最大化される値となる。このような状態において発生するキャビテーションは、一般的に「スーパーキャビテーション」と呼ばれている。スーパーキャビテーションでは、水に対するプロペラの摩擦が減少し、出力トルクに対する回転速度が高くなる。このように、最適負荷状態においては、基本周波数と高調波成分に対して、あるパターンで高い周波数にシフトした成分が観測される。したがって、状態推定部154は、ピーク周波数成分の中に、回転速度対応データから算出される基本周波数および高調波成分から所定のパターンでピーク周波数がシフトした成分が検出された場合、プロペラ負荷状態が最適負荷状態であると推定する。

【0095】
本実施形態では、ドライブシステム200に接続されているプロペラ300のプロペラ効率がピーク近傍となる状態において、過去に観測されたピークシフト値を設定値記憶部141に予め記憶しておく。状態推定部154は、モニタリングデータの現在値に基づいて算出された第1ピークシフト値が、設定値記憶部141に記憶された第2ピークシフト値に近い場合に、プロペラ負荷が最適負荷状態であると推定する。すなわち、第1ピークシフト値と第2ピークシフト値との差が所定の閾値以下である場合に、プロペラ負荷が最適負荷状態であると推定される。

【0096】
以上説明したように、本実施形態では、現在値取得部130がドライブシステム200から出力されるモニタリングデータの現在値を所定のサンプリング周期で取得し、現在値算出部152がモニタリングデータの現在値に基づいて観測負荷の現在値を算出して算出値記憶部143に記憶する。そして、記憶データ読出部151が、予め設定された信号解析対象期間における観測負荷のデータ列を解析対象データとして算出値記憶部143から読み出し、信号解析部153が、読み出した解析対象データに対する信号解析処理を実行し、状態推定部154が信号解析処理の実行結果に基づいてプロペラ負荷状態を推定し、推定結果出力部155が推定結果を出力する。このように、プロペラ負荷状態推定部150は、モータ203を備えるドライブシステム200から時々刻々と出力される高精度のモニタリングデータに基づいて算出された観測負荷に基づいてプロペラ負荷状態を推定する。よって、本実施形態によれば、追加の計測器を設置することなく、プロペラ負荷状態を精度よく推定することができる。

【0097】
上述した実施形態で説明した船舶推進システムの少なくとも一部は、ハードウェアで構成してもよいし、ソフトウェアで構成してもよい。ソフトウェアで構成する場合には、船舶推進システムの少なくとも一部の機能を実現するプログラムをフレキシブルディスクやCD-ROM等の記録媒体に収納し、コンピュータに読み込ませて実行させてもよい。記録媒体は、磁気ディスクや光ディスク等の着脱可能なものに限定されず、ハードディスク装置やメモリなどの固定型の記録媒体でもよい。

【0098】
また、船舶推進システムの少なくとも一部の機能を実現するプログラムを、インターネット等の通信回線(無線通信も含む)を介して頒布してもよい。さらに、同プログラムを暗号化したり、変調をかけたり、圧縮した状態で、インターネット等の有線回線や無線回線を介して、あるいは記録媒体に収納して頒布してもよい。

【0099】
尚、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせて実施することも可能なことは言うまでもない。
【符号の説明】
【0100】
100 コントロールシステム
110 操作部
111 ディスプレイ
112 タッチパネル
113 スロットル
120 指令値生成部
130 現在値取得部
140 データ記憶部
141 設定値記憶部
142 取得値記憶部
143 算出値記憶部
150 プロペラ負荷状態推定部
151 記憶データ読出部
152 現在値算出部
153 信号解析部
154 状態推定部
155 推定結果出力部
156 設定値変更部
200 ドライブシステム
201 コンバータ
202 インバータ
203 モータ
204 ドライバ
205 回転軸
300 プロペラ
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5A】
4
【図5B】
5
【図6】
6
【図7】
7
【図8】
8
【図9】
9
【図10】
10