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明細書 :死亡予測装置及び死亡予測プログラム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-023790 (P2019-023790A)
公開日 平成31年2月14日(2019.2.14)
発明の名称または考案の名称 死亡予測装置及び死亡予測プログラム
国際特許分類 G06Q  50/22        (2018.01)
A61B   5/00        (2006.01)
FI G06Q 50/22
A61B 5/00 G
請求項の数または発明の数 10
出願形態 OL
全頁数 20
出願番号 特願2017-142577 (P2017-142577)
出願日 平成29年7月24日(2017.7.24)
発明者または考案者 【氏名】高木 俊介
出願人 【識別番号】505155528
【氏名又は名称】公立大学法人横浜市立大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100137589、【弁理士】、【氏名又は名称】右田 俊介
審査請求 未請求
テーマコード 4C117
5L099
Fターム 4C117XB09
4C117XB16
4C117XB17
4C117XE13
4C117XE15
4C117XE23
4C117XE24
4C117XE37
4C117XJ34
4C117XJ38
5L099AA04
要約 【課題】被験者である患者に関する種々の情報に基づいて、被験者の死亡時刻を高精度で予測する死亡予測装置及び死亡予測プログラムを提供する。
【解決手段】コンピュータ端末10は、被験者である患者30に関する複数種類の患者情報を、分オーダー以下の頻度で取得する取得手段と、取得手段によって取得された患者30の患者情報を用いることによって、患者30の死亡時刻を時間オーダー以下で予測する死亡予測手段と、をコンピュータに実行させるプログラムがインストールされており、上記の取得手段と死亡予測手段とを実現することができる。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
被験者に関する複数種類の患者情報を、分オーダー以下の頻度で取得する取得手段と、
前記取得手段によって取得された前記被験者の患者情報を用いることによって、前記被験者の死亡時刻を時間オーダー以下で予測する死亡予測手段と、を備える死亡予測装置。
【請求項2】
前記死亡予測手段は、
前記取得手段が取得した前記被験者の患者情報を用いることによって前記被験者の死亡前の或る時点を基準時として定め、
定めた前記基準時において前記取得手段が取得した前記被験者の患者情報を予測関数に与えることによって、前記被験者の死亡時刻を予測する請求項1に記載の死亡予測装置。
【請求項3】
前記予測関数は、年齢、性別、収縮期血圧、心拍数及び呼吸数を変数とする関数である請求項2に記載の死亡予測装置。
【請求項4】
前記予測関数は、過去に死亡している複数の患者について、収縮期血圧が所定値以下になってから死亡時刻までの期間又は死亡時刻の所定時間前から死亡時刻までの期間のいずれか一方における単位時間ごとの収縮期血圧、心拍数及び呼吸数を、各患者の年齢及び性別も考慮に入れて統計解析することにより得られる関数である請求項3に記載の死亡予測装置。
【請求項5】
前記死亡予測手段は、
心拍数、収縮期血圧、呼吸数、酸素飽和度及び体温に基づいて導出される第1指標値を、前記取得手段が取得した前記被験者の患者情報を用いて単位時間ごとに導出し、
導出した前記第1指標値のうち最高値と最低値の差分を、当該最高値に対応する時点と当該最低値に対応する時点の差分で除した傾き指数が閾値を超えた時点を前記基準時として定める請求項2から4のいずれか一項に記載の死亡予測装置。
【請求項6】
前記死亡予測手段は、
収縮期血圧を変数とする第2関数に、前記取得手段が取得した前記被験者の収縮期血圧を与えて予測の心拍数を単位時間ごとに導出し、
導出した前記予測の心拍数と、前記取得手段が取得した前記被験者の心拍数と、の差分が閾値を下回った時点を前記基準時として定める請求項2から4のいずれか一項に記載の死亡予測装置。
【請求項7】
前記第2関数は、過去に死亡している複数の患者について、収縮期血圧が所定値以下になってから死亡時刻の所定時間前までの期間における単位時間ごとのショックインデックス及び収縮期血圧を非線形回帰分析することによって得られた収縮期血圧を変数とするショックインデックスの予測式に、収縮期血圧を乗じて心拍数の予測値を求める関数である請求項6に記載の死亡予測装置。
【請求項8】
前記第2関数は、前記被験者の収縮期血圧が所定値以下になってから死亡する前までの或る時点において、当該時点より前に前記取得手段が取得した前記被験者の患者情報に基づく単位時間ごとのショックインデックス及び収縮期血圧を線形回帰分析又は非線形回帰分析することによって得られた収縮期血圧を変数とするショックインデックスの予測式に、収縮期血圧を乗じて心拍数の予測値を求める関数である請求項6に記載の死亡予測装置。
【請求項9】
複数の患者について経時的に取得された複数種類の患者情報を蓄積しているデータベースから、各患者が重症化した時点より前を少なくとも含む所定期間内に取得された患者情報を抽出して、抽出した患者情報から第1変数及び第2変数を導出し、導出した前記第1変数及び前記第2変数が縦軸及び横軸のそれぞれに対応している二次元モデルである静的スコアリングモデルを生成するモデル生成手段と、
被験者である患者に関する複数種類の患者情報を単位時間ごとに取得し、取得した患者情報から前記第1変数と前記第2変数を導出して前記静的スコアリングモデルに順次プロットしていくスコアリング手段と、を備え、
前記死亡予測手段は、前記スコアリング手段によるプロットが前記静的スコアリングモデルにおける二次元領域の一部である特定領域に行われた時点のうち少なくとも一部を前記基準時として定める請求項2から4のいずれか一項に記載の死亡予測装置。
【請求項10】
被験者に関する複数種類の患者情報を、分オーダー以下の頻度で取得する取得手段と、
前記取得手段によって取得された前記被験者の患者情報を用いることによって、前記被験者の死亡時刻を時間オーダー以下で予測する死亡予測手段と、をコンピュータに実行させるための死亡予測プログラム。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、死亡予測装置及び死亡予測プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療分野において、或る患者から計測された生体情報をその患者の治療や診断等に活用するだけではなく、他の患者の治療や診断等にも活用するための研究・開発が行われている。
この種の技術として、下記の特許文献1及び特許文献2を例示する。
【0003】
特許文献1には、主に癌患者を対象として、過去の多数の患者に関する生体情報から、血液の解析結果とイベント(重症化、死亡など)の発生までの経過時間との関係を蓄積しておき、その回帰分析を用いて、被験者となる患者における同様のイベント発生の時期を予測する予測装置が開示されている。本発明におけるイベント発生の時期予測の精度(スケール)は、解析対象における特定の疾患の発症又は解析対象の死亡を予測する場合には、12月間~10日間であることが好ましく、6月間~1月間であることが好ましいとされている。
【0004】
特許文献2には、患者の心拍数の標準偏差(心拍変動性)、収縮期血圧、既往歴などをパラメータとし、これらを人工知能ベースのアプローチによって解析することで患者の生存性を予測する予測方法が記載されている。この予測方法も、特許文献1に係る予測装置と同様に、過去の多数の患者から計測された生体情報を蓄積しておき、そのデータに基づいて被験者の生存性を予測するものである。ここで生存性とは、患者が死亡するか生存するかであり、死亡率と言い換えることができる。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2017-021727号公報
【特許文献2】特表2013-524865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の開示内容に基づいて死亡時を予測しても、予測可能な精度(スケール)が不十分であるため実用的ではなく、医療現場における用途は限定的であった。
特許文献2は、予測される死亡率が高い患者に対して優先して治療介入すべき旨を、医療関係者に促すものであって、死亡時を予測するものではない。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであり、被験者である患者に関する種々の情報に基づいて、被験者の死亡時刻を高精度で予測する死亡予測装置及び死亡予測プログラムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、被験者に関する複数種類の患者情報を、分オーダー以下の頻度で取得する取得手段と、前記取得手段によって取得された前記被験者の患者情報を用いることによって、前記被験者の死亡時刻を時間オーダー以下で予測する死亡予測手段と、を備える死亡予測装置が提供される。
【0009】
本発明によれば、被験者に関する複数種類の患者情報を、分オーダー以下の頻度で取得する取得手段と、前記取得手段によって取得された前記被験者の患者情報を用いることによって、前記被験者の死亡時刻を時間オーダー以下で予測する死亡予測手段と、をコンピュータに実行させるための死亡予測プログラムが提供される。
【0010】
上記発明によれば、従来技術に比べてより高い頻度(分オーダー以下)で取得した患者情報を用いた処理によって死亡時刻を予測するので、その予測についてより高い精度(時間オーダー以下)を実現することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、被験者である患者に関する種々の情報に基づいて、被験者の死亡時刻を高精度で予測する死亡予測装置及び死亡予測プログラムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明を実現するためのシステム構成図である。
【図2】コンピュータ端末の表示画面の一具体例を示す図である。
【図3】集中治療室で亡くなった19人の患者に関するショックインデックスの推移を表す図である。
【図4】集中治療室において治療介入が行われた3人の患者について導出された修正型早期警告スコアの経時的な変化を表す図である。
【図5】血圧低下から、心拍数が0(零)になるまでの収縮期血圧とショックインデックスをプロットし、線形回帰分析と非線形回帰分析を行った図である。
【図6】回帰分析の対象となるデータ群の分類方法を可視化した図である。
【図7】ショックインデックスの予測式とショックインデックスの実測値との対比を表す図である。
【図8】データベースに蓄積されている一部の患者に関する患者情報に基づいて、ショックインデックスと収縮期血圧との関係性を表した図である。
【図9】データベースに蓄積されている一部の患者に関する患者情報に基づいて、ショックインデックスと収縮期血圧との関係性を表した図である。
【図10】データベースに蓄積されている一部の患者に関する患者情報に基づいて、ショックインデックスと収縮期血圧との関係性を表した図である。
【図11】データベースに蓄積されている一部の患者に関する患者情報に基づいて、ショックインデックスと収縮期血圧との関係性を表した図である。
【図12】データベースに蓄積されている一部の患者に関する患者情報に基づいて、ショックインデックスと収縮期血圧との関係性を表した図である。
【図13】データベースに蓄積されている一部の患者に関する患者情報に基づいて、ショックインデックスと収縮期血圧との関係性を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様の構成要素には同一の符号を付し、適宜に説明を省略する。

【0014】
<本発明に係る死亡予測装置について>
まず、本発明に係る死亡予測装置について図1及び図2を用いて説明する。
図1は、本発明を実現するためのシステム構成図である。図2は、コンピュータ端末10の表示画面の一具体例を示す図である。

【0015】
本発明に係る死亡予測装置は、例えば、専用のアプリケーションソフト(本発明に係る死亡予測プログラム)がインストールされたコンピュータ端末10によって実現される。
コンピュータ端末10は、当該アプリケーションソフトに係る処理を実行することによって後述する各機能を実現することができ、その実現に必要なハードウェア資源を含んでいる。ここでハードウェア資源とは、具体的には、コンピュータ端末10に内蔵されているCPUやメモリ、利用者の操作入力を受け付ける入力装置、及び利用者の操作や各機能の実現に必要な画面や音声等を出力する出力装置等を例示することができる。

【0016】
コンピュータ端末10は、少なくとも以下の機能を実現することができる。
第一の機能は、被験者に関する複数種類の患者情報を、分オーダー以下の頻度で取得するものである(以下、取得手段と称する)。
第二の機能は、取得手段によって取得された被験者の患者情報を用いることによって、被験者の死亡時刻を時間オーダー以下で予測するものである(以下、死亡予測手段と称する)。
ここで分オーダー以下とは、コンピュータ端末10が患者情報を取得する時間間隔が1時間(60分)を超えない範囲であることをいい、より好ましくは10分を超えない範囲であることをいう。本実施形態では、コンピュータ端末10による患者情報の取得に係る時間間隔は原則として1分間隔である。また、ここで時間オーダー以下とは、コンピュータ端末10が患者情報を取得する時間間隔が1日(24時間)を超えない範囲であることをいい、より好ましくは半日(12時間)を超えない範囲であることをいう。
なお、コンピュータ端末10は、死亡時刻の予測に用いる複数種類の患者情報の全てを分オーダー以下の頻度で取得する必要はなく、その一部については一度取得したものを繰り返し用いてもよい。

【0017】
コンピュータ端末10が、被験者の死亡時刻を予測するために用いる患者情報には、患者の個人的属性に係る情報(例えば、患者の氏名、性別、年齢、疾患名、患者の識別番号等)及び患者の生体情報(例えば、体温、心拍数、呼吸数、酸素飽和度、血圧等)が含まれうる。なお、ここで血圧とは、収縮期血圧、拡張期血圧、平均血圧のいずれもが該当しうる。

【0018】
コンピュータ端末10による患者情報の取得先は、例えば、計測器20及びデータベース40である。
計測器20は、被験者である患者30の生体情報(バイタルサイン)を経時的に計測する装置である。図1において計測器20は単独の装置であるかのように図示しているが、複数の装置の集合体であってもよい。
データベース40は、複数の患者について経時的に取得された複数種類の患者情報を蓄積している。データベース40は、本発明の導入を目的として設けられた専用のデータベースであってもよいし、本発明とは別に導入されているシステム(例えば、電子カルテシステム)のために設けられた一般的なデータベースであってもよい。
なお、図1において、コンピュータ端末10は、計測器20及びデータベース40と直接的に接続されているように図示するが、不図示のコンピュータネットワークを介して計測器20及びデータベース40からデータを取得してもよい。また、コンピュータ端末10は、計測器20によって計測された生体情報を、データベース40に一旦蓄積した後にデータベース40から取得してもよい。

【0019】
コンピュータ端末10が取得した患者情報の少なくとも一部は、コンピュータ端末10の表示画面に表示される。図2に、当該表示画面の一具体例を図示する。
図2に示すように、コンピュータ端末10の表示画面は、主に4つの部分に大別することができる。図2において、これらの4つの部分を破線で囲って示す。なお、これらの破線は実際に表示されるものではない。

【0020】
最上段に位置する患者属性表示部DR1は、被験者(患者30)の個人的属性に係る情報を表示する領域である。本実施形態においては、患者の識別番号、氏名、入室時年齢、性別、転入した診療科、入室分類番号又は手術分類番号、滞在日数、及び診断された疾患名が、患者属性表示部DR1に表示される。
なお、診断された疾患名は、複数表示することが可能に構成されているが、図2においては一種類のみが表示されている状態を図示している。

【0021】
中段右側に位置する指標推移表示部DR2は、修正型早期警告スコア及びショックインデックスの時間的変化を表示する領域である。本実施形態における指標推移表示部DR2の表示は、縦軸が修正型早期警告スコア又はショックインデックスであり、横軸が時間である。また、修正型早期警告スコア及びショックインデックスの推移は実線で示し、各々に+1σを載せた値の推移は一点鎖線で示し、各々に-1σを載せた値の推移は二点鎖線で示す。ここでσは、修正型早期警告スコア又はショックインデックスの標準偏差である。
上記の修正型早期警告スコア及びショックインデックスが経時的に変化する様を観察することにより、患者の容態が現状より悪化するか改善するかは予測が可能である。さらに、各々に±1σを載せた値も参照して修正型早期警告スコア及びショックインデックスのバラツキを解析することにより、更に高い精度で患者の容態を予測することができる。
なお、指標推移表示部DR2における横軸には上限が設定される。例えば、図2においては20分を上限とし、その範囲内で修正型早期警告スコア及びショックインデックスの時間的変化が表示される。指標推移表示部DR2に表示される時間帯は、後述の時間帯表示部DR4に表示される。

【0022】
中段左側に位置するモデル表示部DR3は、静的スコアリングモデルを表示する領域である。ここで静的スコアリングモデルとは、患者情報又は患者情報に基づいて導出される複数の指標値(例えば、修正型早期警告スコア及びショックインデックス等)を、縦軸と横軸にそれぞれ対応付けて表示する二次元モデルである。
本実施形態における静的スコアリングモデルは、状態安定ゾーンNZ、要注意ゾーンWZ、及び末期ゾーンTZの3つの領域の区分されている。状態安定ゾーンNZが患者30の容態が最も安定していることを示す領域であり、末期ゾーンTZが患者30の容態が最も危険な状態であることを示す領域である。
なお、本実施形態では説明の便宜上、これらの3つの領域を識別可能に図示したが、コンピュータ端末10は必ずしも各領域を識別可能に表示しなくてもよい。

【0023】
最下段に位置する時間帯表示部DR4は、その時点で指標推移表示部DR2に表示される時間帯が、全体時間のいずれの部分に該当するかを表示する領域である。より詳細には、全体時間のうち選択領域SR(時間帯表示部DR4中の網掛け部分)が指標推移表示部DR2に表示される時間帯に該当する。

【0024】
上記のようなコンピュータ端末10の表示画面を表示することにより、患者30の全身状態(容態)の「見える化」を図ることができる。
以下、本発明が有する各特徴について、それぞれ詳細に説明する。

【0025】
<死亡時刻の予測関数について>
データベース40に蓄積されている過去の入院患者のうち、集中治療室内で死亡確認を行った患者19人を対象として選択し、これらの患者に関する患者情報に基づいて死亡時刻の予測関数を構築することを検討した。
図3は、集中治療室で亡くなった19人の患者に関するショックインデックスの推移を表しており、ショックインデックスを縦軸とし、死亡するまでの時間(分)を横軸としている。なお、図3に表すデータ群は、収縮期血圧が80mmHgを下回ってから、心拍数が0(零)になるまでのデータ(計12038ポイント)を集積してマッピングしたものである。
図3を見ると、ショックインデックスの値と死亡までの時間に相関は認められないため、単にショックインデックスのみを用いて死亡予測をするのは困難と思われる。

【0026】
医療現場において、患者が死亡に向かうタイミングを医師が判断する場合、血圧、心拍数、呼吸数等を判断基準として用いており、且つ患者の年齢や性別も考慮に入れられる。このような実臨床に即した予測を可能にするために、患者の年齢、性別、血圧、心拍数、呼吸数に焦点を当てた予測関数を二つ導出した。
二つの予測関数は、重回帰分析により導出されたモデルである点において共通しており、その解析に用いられる元データが異なる点において相違する。

【0027】
一つ目の予測関数は、集中治療室で亡くなった多数の患者のバイタルサインのうち収縮期血圧が80mmHg以下となったデータを解析することによって導出されたものである。具体的には、以下の手順によって一つ目の予測関数を導出した。
選択した患者に関する患者情報において、収縮期血圧が80mmHg以下の時間が10分以上続き、その後も血圧の上昇が見られないタイミングをデータ抽出の開始時間とした。
心拍数が0となる時間を死亡時刻とし、死亡時刻を基準(0分)とした上で、それより前の各タイミングに実時間を遡るように時間を分単位で割り振った。従って、この解析対象となる各患者情報は、「死亡までn分(nは整数)」の時点における患者情報と換言できる。
上記のように抽出された患者情報のうち、収縮期血圧の数値が他の時点と比べて明らかに乱れているものについては、血液ガス分析等の影響を受けた血圧数値と思われるため解析対象から除外した。
残りの患者情報を用いて、死亡までの時間(T1)を連続変数の目的とする重回帰分析を行い、年齢(Age)、性別(Male, Female)、収縮期血圧(SBP)、心拍数(HR)及び呼吸数(RR)を変数とする以下の予測関数を導出した。なお、収縮期血圧、拡張期血圧、平均血圧は互いに相関関係にあるため、本実施形態においては収縮期血圧のみを変数としたが、これに代えて拡張期血圧や平均血圧を用いることも可能である。
【数1】
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【0028】
上記のように、一つ目の予測関数は、過去に死亡している複数の患者について、収縮期血圧が所定値以下になってから死亡時刻までの期間における単位時間ごとの収縮期血圧、心拍数及び呼吸数を、各患者の年齢及び性別も考慮に入れて統計解析することにより得られる関数と換言できる。
そして、コンピュータ端末10は、被験者である患者30の収縮期血圧が所定値以下である時間が一定以上継続した時点において取得された収縮期血圧、心拍数及び呼吸数、更に患者30の年齢と性別を、一つ目の予測関数に代入することによって、患者30の死亡時刻を時間オーダー以下で予測することができる。

【0029】
次に、二つ目の予測関数は、集中治療室で亡くなった多数の患者のバイタルサインのうち死亡した時刻から120分前までのデータを解析することによって導出されたものである。具体的には、以下の手順によって二つ目の予測関数を導出した。
まず、上記と同様の19人の患者を対象として選択した。
選択した患者に関する患者情報において、心拍数が0となる時間を死亡時刻とし、死亡時刻を基準(0分)とした上で、それより前の各タイミングに実時間を遡るように時間を分単位で割り振った。そして、死亡時刻から120分前までの患者情報を抽出した。
抽出した患者情報を用いて、死亡までの時間(T2)を連続変数の目的とする重回帰分析を行い、年齢(Age)、性別(Male, Female)、収縮期血圧(SBP)、心拍数(HR)及び呼吸数(RR)を変数とする以下の予測関数を導出した。なお、収縮期血圧が拡張期血圧や平均血圧に代替可能である点については、一つ目の予測関数と同様である。
【数2】
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【0030】
上記のように、二つ目の予測関数は、過去に死亡している複数の患者について、死亡時刻の所定時間前から死亡時刻までの期間における単位時間ごとの収縮期血圧、心拍数及び呼吸数を、各患者の年齢及び性別も考慮に入れて統計解析することにより得られる関数と換言できる。
そして、コンピュータ端末10は、被験者である患者30が死亡時刻の所定時間前になったものと推定される時点において取得された収縮期血圧、心拍数及び呼吸数、更に患者30の年齢と性別を、二つ目の予測関数に代入することによって、患者30の死亡時刻を時間オーダー以下で予測することができる。ここで所定時間とは、コンピュータ端末10による死亡時刻の予測精度以下、即ち時間オーダー以下であることが望ましく、より好ましくは数時間程度である。
なお、死亡時刻の所定時間前を推定する方法については、後述する。

【0031】
上述した二つの予測関数を用いた死亡予測は、死亡間際の或る時点における収縮期血圧、心拍数及び呼吸数を用いて、更に患者の年齢及び性別を加味しているという点において共通している。言い換えれば、コンピュータ端末10(死亡予測手段)は、取得した被験者の患者情報を用いることによって被験者の死亡前の或る時点を基準時として定め、定めた基準時において取得した被験者の患者情報を予測関数に与えることによって、被験者の死亡時刻を予測することができる。ここで「基準時として定める」とは、コンピュータ端末10(取得手段)が患者情報を取得したタイミングのいずれかを基準時として決定する処理であり、その決定はコンピュータ処理によって自動的に行われる態様であってもよいし、ユーザの手動で決定される態様であってもよいし、コンピュータ処理とユーザの手動の組み合わせた態様(例えば、コンピュータ処理によって複数の選択候補をユーザに提示した上でユーザが任意に選択する態様)であってもよい。
このように、コンピュータ端末10は、死亡間際の或る時点(基準時)における患者情報に即した予測関数を用いて、その基準時の到来を待ってから死亡時刻を予測するので、極めて高い精度(時間オーダー以下)で死亡時刻を予測することができる。

【0032】
<修正型早期警告スコアを用いて死亡時刻の所定時間前を推定する方法>
続いて、コンピュータ端末10が二つ目の予測関数(Tを導出する予測関数)を用いることを前提として、死亡時刻の所定時間前を推定する方法の一具体例として、修正型早期警告スコアを用いる場合について説明する。

【0033】
ここで修正型早期警告スコアの導出方法について説明する。以下の表は、修正型早期警告スコアの導出に用いられるものである。
【表1】
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【0034】
コンピュータ端末10は、単位時間ごとに取得した呼吸数(RR)、酸素飽和度(SpO2)、体温(BT)、収縮期血圧(ABPs)、及び心拍数(HR)を上表に照らし合わせることによって、各項目のスコアを求める。そして、求めたスコアの合算値が修正型早期警告スコアになる。従って、例えば、或る時点における患者30の患者情報が、呼吸数18回、酸素飽和度95%、体温が38.5度、収縮期血圧が100mmHg、心拍数100回であった場合、修正型早期警告スコアは5(=0+1+1+2+1)になる。
上記のように導出されるため、修正型早期警告スコアは0(零)以上の整数として導出される。

【0035】
図4は、集中治療室において治療介入が行われた3人の患者について導出された修正型早期警告スコアの経時的な変化を表す図である。図4に図示される各プロットは、その時点での修正型早期警告スコアの実測値を示している。また、図4に図示される実線は、その時点から20分前までの修正型早期警告スコアの平均値を示している。なお、図4においては、治療介入が行われた時点を「100分」とし、その治療介入時より50分前を「50分」、その治療介入時より100分前を「0分」としている。

【0036】
図4に示すように、修正型早期警告スコアの平均値は、治療介入時に向けて経時的に増加傾向になっている。このような修正型早期警告スコアの変化に係る傾向性に基づいて、コンピュータ処理によって自動的に患者が重症化したこと(死亡時刻が間際であること)を推定することが可能である。
より具体的には、コンピュータ端末10は、心拍数、収縮期血圧、呼吸数、酸素飽和度及び体温に基づいて導出される修正型早期警告スコア(第1指標値)を、取得した被験者の患者情報を用いて単位時間ごとに導出する。そして、コンピュータ端末10は、導出した修正型早期警告スコアのうち最高値と最低値の差分を、当該最高値に対応する時点と当該最低値に対応する時点の差分で除した傾き指数が閾値を超えた時点を、死亡時刻の所定時間前に到達したものと推定して、当該時点を上記の基準時として定めることができる。

【0037】
なお、上述した修正型早期警告スコアの最高点と最低点の間の角度(傾き指数)に基づく推定方法は、一具体例である。この他にも、修正型早期警告スコアのプロットパターンの変化(揺らぎ)や修正型早期警告スコアに関する標準偏差からのバラツキ等を用いた推定方法(即ち、図2に図示する指標推移表示部DR2に対する解析に基づく推定方法)も、本発明の実施において有用である。

【0038】
<回帰分析を用いて死亡時刻の所定時間前を推定する方法>
続いて、コンピュータ端末10が二つ目の予測関数(Tを導出する予測関数)を用いることを前提として、死亡時刻の所定時間(例えば2時間)前を推定する方法の一具体例として、回帰分析を用いる場合について説明する。
この方法は、収縮期血圧と心拍数に着目し、ショックインデックスと収縮期血圧を用いるものである。通常、自律神経が保たれている間は、収縮期血圧と心拍数は連動する。しかしながら、末期状態の患者で亡くなる時期には、この自動調節能が破綻すると思われ、ショックインデックスと収縮期血圧の関係に大きな乱れが生じる。

【0039】
図5は、血圧低下(収縮期血圧が80mmHgを下回って)から、心拍数が0(零)になるまでの収縮期血圧とショックインデックスをプロットし、線形回帰分析と非線形回帰分析を行ったものである。
全てのデータを用いるとバラツキがあり、関係性は明白ではない(図5(a)参照)。そこで、データを2時間前から死亡まで(図5(b)参照)と、血圧低下から2時間前まで(図5(c)参照)に分類した。なお、非線形回帰分析には、指数関数指数関数的減衰(one exponential decay)が当てはまると仮定して解析に用いた。
死亡2時間前までのプロットで算出された非線形回帰分析から外れてくる点は、自律神経の失調により、収縮期血圧と心拍数の連動がストップしてしまっており、死期が近いものと考えられる。

【0040】
上記のような観点から、次のような非線形回帰分析を行い、死亡時刻の2時間前を推定する方法を構築した。

【0041】
まず、上述した死亡時刻の予測関数を構築する際に解析対象とした、集中治療室内で死亡確認を行った患者19人に関する患者情報のうち、収縮期血圧が80mmHg以下に低下した以降の全データ12050ポイントのデータを抽出した。
そして、抽出した12050ポイントのデータのうち、アーチファクトなどの不適切データ(12ポイント)を除外して、12038ポイントを解析対象として選択した。これらのうち、血圧低下から死亡2時間前までのデータ群に該当するもの(Volatile data set)は9915ポイント存在し、死亡2時間前から死亡までのデータ群に該当するもの(Terminal data set)は2111ポイント存在する。
血圧低下から死亡2時間前までのデータ群及び死亡2時間前から死亡までのデータ群のそれぞれからランダムに、予測式を構築するためのセット(Development Set;以下、構築セットと称する)と、予測式の妥当性を評価するセット(Validation Set;以下、評価セットと称する)とに分けた。この結果、血圧低下から死亡2時間前までのデータ群に係る構築セットは7982ポイントとなり、当該データ群に係る評価セットは1983ポイントとなった。そして死亡2時間前から死亡までのデータ群に係る構築セットは1689ポイントとなり、当該データ群に係る評価セットは422ポイントとなった。
図6に、上記に示す回帰分析の対象となるデータ群の分類方法を可視化した図を示す。

【0042】
血圧低下から死亡2時間前までのデータ群に係る構築セットに含まれる7982ポイントのデータ群のうち、6293ポイントのデータ群を用いて非線形回帰分析を行い、以下の予測式を導出した。
【数3】
JP2019023790A_000006t.gif
なお、上式における決定係数(R-squared)は0.6996となった。ここで決定係数とは、独立変数である収縮期血圧(SBP)によって説明される応答変数であるショックインデックス(SI)の変化に比例する量を表す指標である。

【0043】
図7は、上述したショックインデックスの予測式とショックインデックスの実測値との対比を表す図である。
図7(a)は、血圧低下から死亡2時間前までのデータ群に係る構築セットに含まれるデータのうち非線形回帰分析に用いた6293ポイントのデータを除く1689ポイントをプロットした上で、上記の予測式を表す曲線を挿入したものである。同図に示されているとおり、血圧低下から死亡2時間前までのショックインデックスの実測値は、予測式から大きく外れたプロットは少ない。
図7(b)は、死亡2時間前から死亡までのデータ群に係る構築セットである1689ポイントをプロットした上で、上記の予測式を表す曲線を挿入したものである。同図に示されているとおり、死亡2時間前から死亡までのショックインデックスの実測値は、予測式から大きく外れたプロットが目立つようになる。

【0044】
上述したショックインデックスの予測式を用いて求められる予測のショックインデックスに、実測された収縮期血圧を乗算すると、予測の心拍数として扱うことができる。換言すれば、過去に死亡している複数の患者について、収縮期血圧が所定値以下になってから死亡時刻の2時間前(所定時間前)までの期間における単位時間ごとのショックインデックス及び収縮期血圧を非線形回帰分析することによって得られた収縮期血圧を変数とするショックインデックスの予測式に、収縮期血圧を乗じると心拍数の予測値を求める関数(第2関数)を導出することができる。

【0045】
構築セットに該当するデータ群を用いて、上記の関数によって求められる予測の心拍数と、実測した患者30の心拍数との差分を求めた。その結果を、血圧低下から死亡2時間前までのデータ群に係る構築セットに基づく差分と、死亡2時間前から死亡までのデータ群に係る構築セットに基づく差分と、を分けて以下の表に示す。
【表2】
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【0046】
上表に示すように、血圧低下から死亡2時間前までのデータ群(Volatile data set)に係る構築セットに基づく差分については、概ね0(零)に近しい値(中央値:1.90、95%信頼区間:1.1 to 2.9)になりやすい傾向が見られた。
一方、死亡2時間前から死亡までのデータ群(Terminal data set)に係る構築セットに基づく差分については、0(零)から比較的に乖離する値(中央値:-9.8、95%信頼区間:-10.9 to -8.5)になりやすい傾向が見られた。

【0047】
更に、血圧低下から死亡2時間前までのデータ群に係る構築セットに基づく差分と、死亡2時間前から死亡までのデータ群に係る構築セットに基づく差分と、を比較検討するため、ノンパラメトリック検定とROC(Receiver Operating Characteristic)曲線を用いたログランク検定を行った。これらの検定において、双方の差分には有意差が認められた(p<0.0001)。【0048】
以下の表は、予測の心拍数と実測した心拍数との差分に基づいて求められる感度と特異度を示すものである。
なお、感度の欄と特異度の欄の右欄に記載されている数値は、信頼水準95%における感度又は特異度の信頼区間である。また、各行において最右欄に記載されている数値は、感度と特異度の尤度比である。
【表3】
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【0049】
上表において、閾値を-10.05(心拍数の差分<-10.05)とした事例を見てみると、心拍数の差分<-10.05の場合、死亡2時間前から死亡までのデータ群に係る構築セットに基づく差分の49.85%が含まれ、心拍数の差分>-10.05の場合、血圧低下から死亡2時間前までのデータ群に係る構築セットに基づく差分の75.84%が含まれる。
さらに、上表において、閾値を-9.950(心拍数の差分<-9.950)とした事例を見てみると、心拍数の差分<-9.950の場合、死亡2時間前から死亡までのデータ群に係る構築セットに基づく差分の49.91%が含まれ、心拍数の差分>-9.950の場合、血圧低下から死亡2時間前までのデータ群に係る構築セットに基づく差分の75.31%が含まれる。
この解析結果から判断して、本発明者は閾値を-10未満に設定するのが妥当と判断した。
なお、この閾値は一具体例であり、推測するタイミング(死亡の何時間前を基準時にするか)によって変化しうるし、解析対象とする患者情報の範囲を変更することによって変化しうるため、本発明の実施における閾値はこれに限られない。

【0050】
閾値を-10未満とした場合、図7(a)にプロットした血圧低下から死亡2時間前までのデータ群に係る構築セット(1689ポイント)のうち、該当するものは409ポイント存在し、その割合は24.2%である。
また、この場合、図7(b)にプロットした死亡2時間前から死亡までのデータ群に係る構築セット(1689ポイント)のうち、該当するものは842ポイント存在し、その割合は49.9%である。

【0051】
続いて、構築セットを用いて設定した閾値の妥当性を評価するため、評価セットを用いて陽性的中率、陰性的中率を求める。
閾値を-10未満とした場合、心拍数の差分<-10であるものについては、陽性所見として扱われる。ここで血圧低下から死亡2時間前までのデータ群に係る評価セット(1982ポイント)のうち400ポイントが陽性所見に該当し、死亡2時間前から死亡までのデータ群に係る評価セット(421ポイント)のうち222ポイントが陽性所見に該当する。従って、これらのうち前者が偽陽性のデータであり、後者が真陽性のデータである。
また、閾値を-10未満とした場合、心拍数の差分≧-10であるものについては、陰性所見として扱われる。ここで血圧低下から死亡2時間前までのデータ群に係る評価セット(1982ポイント)のうち1582ポイントが陰性所見に該当し、死亡2時間前から死亡までのデータ群に係る評価セット(421ポイント)のうち199ポイントが陰性所見に該当する。従って、これらのうち前者が真陰性のデータであり、後者が偽陰性のデータである。
【表4】
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【0052】
上記の整理に基づけば、陽性的中率=222÷(400+222)=35.7%である。また、陰性的中率=1582÷(1582+199)=88.8%である。
そして、この場合において、予測の心拍数と実測した心拍数との差分に基づいて求められる感度は52.7%になり、特異度は79.8%になった。
この結果によれば、本実施形態で検討した非線形回帰分析に基づく死亡時刻の2時間前を推定する方法は、十分に高い判断精度であると考えられる。

【0053】
上記の推定方法は、過去に死亡した複数の患者に関する患者情報を用いた非線形回帰分析に基づくものであるが、別の推定方法として被験者自身に関する患者情報を用いて線形回帰分析や非線形回帰分析を行い、そのデータの傾向から外れた時点を死亡間際である(死亡時刻の所定時間前である)ものと扱うことも考えられる。
図8~図13は、データベース40に蓄積されている一部の患者に関する患者情報に基づいて、ショックインデックスと収縮期血圧との関係性を表した図である。
より詳細には、図8~図10は、血圧低下から死亡2時間前までの患者情報に基づくショックインデックスと収縮期血圧とをプロットし、且つ各プロットを線形回帰分析又は非線形回帰分析することよって双方の関係性を表す回帰式を表したものである。
また、図11~図13は、死亡2時間前から死亡時刻までの患者情報に基づくショックインデックスと収縮期血圧とをプロットし、且つ図8~図10に表した回帰式と同一の回帰式を挿入したものである。
なお、横軸を収縮期血圧、縦軸をショックインデックスで表現している点は、いずれの図面においても共通である。そして、各図に表記している「No.X(Xは任意の整数)」は、各患者を識別する番号である。

【0054】
これらの図面を比較すれば明らかであるように、血圧低下から死亡2時間前までの期間における回帰式(予測値)とプロット(実測値)のバラツキと、死亡2時間前から死亡までの期間における回帰式とプロットのバラツキと、を比べると、すべての患者について後者のバラツキが大きくなる。
また、すべての患者において回帰式が異なるものとなり、且つ各患者における回帰式とプロットのバラツキ度合いも異なる。即ち、収縮期血圧とショックインデックスのバランスは患者毎に多様性があり、被験者自身の回帰式を作成して予測の心拍数を求めることで、その予測精度を向上させることが可能と考えられる。
換言すれば、被験者の収縮期血圧が所定値以下になってから死亡する前までの或る時点において、当該時点より前に取得した被験者の患者情報に基づく単位時間ごとのショックインデックス及び収縮期血圧を線形回帰分析又は非線形回帰分析することによって得られた収縮期血圧を変数とするショックインデックスの予測式に、収縮期血圧を乗じて心拍数の予測値を求める関数(第2関数)を導出することができる。そして、当該関数は、他人の患者情報を用いた回帰分析に基づいて導出される画一的な予測式に比べて、高い精度で被験者の心拍数を予測することができ、且つ死亡時刻の所定時間前を推定するコンピュータ処理に適用することが可能である。

【0055】
以上、回帰分析を用いて死亡時刻の所定時間前を推定する種々の方法について述べた。これらの推定方法のうちいずれかを適用することにより、コンピュータ処理によって死亡時刻の2時間前であること(死亡時刻が間際であること)を推定することが可能である。そして、推定したタイミングを基準時として定め、その基準時における患者情報を用いて被験者の死亡時刻を高い精度で予測することができる。
換言すれば、コンピュータ端末10は、取得した被験者の収縮期血圧を与えて予測の心拍数を単位時間ごとに導出する。そして、コンピュータ端末10は、導出した予測の心拍数と、取得した被験者の心拍数と、の差分が閾値を下回った時点を、死亡時刻の2時間前に到達したものと推定して、当該時点を上記の基準時として定めることができる。

【0056】
<静的スコアリングモデルを用いて死亡時刻の所定時間前を推定する方法>
続いて、コンピュータ端末10が二つ目の予測関数(Tを導出する予測関数)を用いることを前提として、死亡時刻の所定時間前を推定する方法の一具体例として、静的スコアリングモデルを用いる場合について説明する。
ここで静的スコアリングモデルは、図2のモデル表示部DR3に図示した二次元モデルのことである。コンピュータ端末10は、静的スコアリングモデルを生成するための機能(以下、モデル生成手段と称す)と、静的スコアリングモデルに実測値をプロットするための機能(以下、スコアリング手段と称す)と、を備えている。

【0057】
モデル生成手段は、複数の患者について経時的に取得された複数種類の患者情報を蓄積しているデータベース40から、各患者が重症化した時点より前を少なくとも含む所定期間内に取得された患者情報を抽出して、抽出した患者情報から第1変数及び第2変数(例えば、修正型早期警告スコア及びショックインデックス)を導出し、導出した第1変数及び第2変数が縦軸及び横軸のそれぞれに対応している静的スコアリングモデルを生成することができる。
スコアリング手段は、被験者である患者30に関する複数種類の患者情報を単位時間ごとに取得し、取得した患者情報から第1変数と第2変数を導出して静的スコアリングモデルに順次プロットしていく。
なお、本発明に係る静的スコアリングモデルは、モデル生成手段により生成された以降において領域の区分(状態安定ゾーンNZ、要注意ゾーンWZ、末期ゾーンTZ)が不変であることをもって「静的」と称する。従って、モデル生成手段が用いる諸条件によって静的スコアリングモデルに関する領域の区分については可変に変更可能であるし、コンピュータ端末10の表示画面に表示される静的スコアリングモデルの表示態様についても動的に変化可能である。

【0058】
コンピュータ端末10は、プロットが静的スコアリングモデルにおける二次元領域の一部である末期ゾーンTZ(特定領域)に行われた時点のうち少なくとも一部を、死亡時刻の所定時間前(例えば2時間前)に到達したものと推定して、当該時点を上記の基準時として定めてもよい。但し、末期ゾーンTZへのプロットが行われたとしても直ちに死亡時刻の所定時間前に到達したものと推定せずともよい。患者30の容態が一時的に変化して末期ゾーンTZにプロットがなされたとしても、直ぐに持ち直すのであれば、重症化している可能性は低いと考えられるからである。従って、一定時間にわたって(一定数続けて)末期ゾーンTZにプロットした場合に、死亡時刻の所定時間前に到達したものと推定してもよい。

【0059】
末期ゾーンTZの閾値設定を適切に行うためには、血圧低下から死亡2時間前までのデータ群に基づいて求められる変数(例えば、修正型早期警告スコア又はショックインデックス)と、死亡2時間前から死亡までのデータ群に基づく当該変数と、を用いて導出される感度と特異度を比較検討することによって、当該変数の閾値を求めることができる。
このような閾値の求め方は、既に述べた心拍数の差分の閾値の求め方を応用するものであるため、ここでの詳細な説明は省略する。

【0060】
上記のような静的スコアリングモデルを用いた推定方法は、二つの変数に基づくものであるため、単一の変数(例えば、修正型早期警告スコアのみ)に基づく推定方法に比べて精度が向上し、その結果として死亡時刻の予測精度をも高めうる。

【0061】
<本発明の変形例について>
ここまで実施形態に即して本発明を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的が達成される限りにおける種々の変形、改良等の態様も含む。

【0062】
上記の実施形態においてコンピュータ端末10は表示画面を有するものとして説明したが、本発明に係る死亡予測装置又は死亡予測プログラムを実行するコンピュータは、必ずしも表示手段(ディスプレイ等)を備えなくてもよい。

【0063】
上記の実施形態において、被験者の死亡前の或る時点を基準時として定め、当該基準時における患者情報の実測値に基づいて死亡時刻を予測する事例について述べたが、本発明の実施はこれに限られない。
例えば、集中治療室に運ばれた時点で既に被験者が死亡間際であるものと判断できる場合には、当該時点における患者情報の実測値に基づいて死亡時刻を予測してもよい。

【0064】
本実施形態は以下の技術思想を包含する。
(1)被験者に関する複数種類の患者情報を、分オーダー以下の頻度で取得する取得手段と、前記取得手段によって取得された前記被験者の患者情報を用いることによって、前記被験者の死亡時刻を時間オーダー以下で予測する死亡予測手段と、を備える死亡予測装置。
(2)前記死亡予測手段は、前記取得手段が取得した前記被験者の患者情報を用いることによって前記被験者の死亡前の或る時点を基準時として定め、定めた前記基準時において前記取得手段が取得した前記被験者の患者情報を予測関数に与えることによって、前記被験者の死亡時刻を予測する(1)に記載の死亡予測装置。
(3)前記予測関数は、年齢、性別、収縮期血圧、心拍数及び呼吸数を変数とする関数である(2)に記載の死亡予測装置。
(4)前記予測関数は、過去に死亡している複数の患者について、収縮期血圧が所定値以下になってから死亡時刻までの期間又は死亡時刻の所定時間前から死亡時刻までの期間のいずれか一方における単位時間ごとの収縮期血圧、心拍数及び呼吸数を、各患者の年齢及び性別も考慮に入れて統計解析することにより得られる関数である(3)に記載の死亡予測装置。
(5)前記死亡予測手段は、心拍数、収縮期血圧、呼吸数、酸素飽和度及び体温に基づいて導出される第1指標値を、前記取得手段が取得した前記被験者の患者情報を用いて単位時間ごとに導出し、導出した前記第1指標値のうち最高値と最低値の差分を、当該最高値に対応する時点と当該最低値に対応する時点の差分で除した傾き指数が閾値を超えた時点を前記基準時として定める(2)から(4)のいずれか一つに記載の死亡予測装置。
(6)前記死亡予測手段は、収縮期血圧を変数とする第2関数に、前記取得手段が取得した前記被験者の収縮期血圧を与えて予測の心拍数を単位時間ごとに導出し、導出した前記予測の心拍数と、前記取得手段が取得した前記被験者の心拍数と、の差分が閾値を下回った時点を前記基準時として定める(2)から(4)のいずれか一つに記載の死亡予測装置。
(7)前記第2関数は、過去に死亡している複数の患者について、収縮期血圧が所定値以下になってから死亡時刻の所定時間前までの期間における単位時間ごとのショックインデックス及び収縮期血圧を非線形回帰分析することによって得られた収縮期血圧を変数とするショックインデックスの予測式に、収縮期血圧を乗じて心拍数の予測値を求める関数である(6)に記載の死亡予測装置。
(8)前記第2関数は、前記被験者の収縮期血圧が所定値以下になってから死亡する前までの或る時点において、当該時点より前に前記取得手段が取得した前記被験者の患者情報に基づく単位時間ごとのショックインデックス及び収縮期血圧を線形回帰分析又は非線形回帰分析することによって得られた収縮期血圧を変数とするショックインデックスの予測式に、収縮期血圧を乗じて心拍数の予測値を求める関数である(6)に記載の死亡予測装置。
(9)複数の患者について経時的に取得された複数種類の患者情報を蓄積しているデータベースから、各患者が重症化した時点より前を少なくとも含む所定期間内に取得された患者情報を抽出して、抽出した患者情報から第1変数及び第2変数を導出し、導出した前記第1変数及び前記第2変数が縦軸及び横軸のそれぞれに対応している二次元モデルである静的スコアリングモデルを生成するモデル生成手段と、被験者である患者に関する複数種類の患者情報を単位時間ごとに取得し、取得した患者情報から前記第1変数と前記第2変数を導出して前記静的スコアリングモデルに順次プロットしていくスコアリング手段と、を備え、前記死亡予測手段は、前記スコアリング手段によるプロットが前記静的スコアリングモデルにおける二次元領域の一部である特定領域に行われた時点のうち少なくとも一部を前記基準時として定める(2)から(4)のいずれか一つに記載の死亡予測装置。
(10)被験者に関する複数種類の患者情報を、分オーダー以下の頻度で取得する取得手段と、前記取得手段によって取得された前記被験者の患者情報を用いることによって、前記被験者の死亡時刻を時間オーダー以下で予測する死亡予測手段と、をコンピュータに実行させるための死亡予測プログラム。
【符号の説明】
【0065】
10 コンピュータ端末
20 計測器
30 患者
40 データベース
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11
【図13】
12