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明細書 :炭材内装多孔質鉱石およびその製造方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-007036 (P2019-007036A)
公開日 平成31年1月17日(2019.1.17)
発明の名称または考案の名称 炭材内装多孔質鉱石およびその製造方法
国際特許分類 C22B   1/00        (2006.01)
C21B  13/00        (2006.01)
FI C22B 1/00 101
C21B 13/00
請求項の数または発明の数 11
出願形態 OL
全頁数 16
出願番号 特願2017-121257 (P2017-121257)
出願日 平成29年6月21日(2017.6.21)
発明者または考案者 【氏名】秋山 友宏
【氏名】能村 貴宏
【氏名】阿部 圭佑
【氏名】大橋 功一
【氏名】アデ クルニアワン
出願人 【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
個別代理人の代理人 【識別番号】230104019、【弁護士】、【氏名又は名称】大野 聖二
【識別番号】100106840、【弁理士】、【氏名又は名称】森田 耕司
【識別番号】100117444、【弁理士】、【氏名又は名称】片山 健一
審査請求 未請求
テーマコード 4K001
4K012
Fターム 4K001AA10
4K001BA01
4K001CA09
4K012DA05
要約 【課題】鉄鉱石の完全還元を可能とするレベルの炭素を含有する炭材内装多孔質鉱石を提供すること、および、炭材内装鉱石の短時間還元を実現すること。
【解決手段】本発明に係る炭材内装多孔質鉱石の製造方法で得られた炭素12を析出させた炭材内装多孔質鉱石10を酸素含有雰囲気中で熱処理すると、先ず表面に析出した炭素12が酸素と反応して熱を発生させる。その熱は鉱石内部に伝わり、細孔に充填されている炭素12の酸化を促進する。つまり、炭材内装多孔質鉱石が含有する炭素を利用した燃焼で発生した熱(Q4kJ)で、Q3kJ分の吸熱量を自己補償する。最終的には、局所的には炭素12や酸化鉄13が残留するものの、金属鉄を主成分とする鉱石が得られる。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
内部に複数の細孔を有する多孔質鉱石であって、前記細孔の内径はナノメートルレベルであってその内部に炭材が充填されており、前記多孔質鉱石の表面は炭材で被覆されており、炭素含有量が18wt%以上である、
炭材内装多孔質鉱石。
【請求項2】
前記多孔質鉱石は多孔質のゲーサイト鉱石である、請求項1に記載の炭材内装多孔質鉱石。
【請求項3】
下記の工程を備えている炭材内装多孔質鉱石の製造方法。
工程1:結晶水含有鉱石を加熱して結晶水を脱離させ、該鉱石内部に内径がナノメートルレベルの細孔を形成する工程
工程2:工程1を経た鉱石をタール含有溶液中に含浸して、前記鉱石の表面をタール成分で被覆するとともに、前記細孔の内部にタール成分を充填する工程
工程3:工程2を経た鉱石を熱処理して、前記タール成分を炭化する工程
【請求項4】
前記工程1の加熱温度は800℃以下である、請求項3に記載の炭材内装多孔質鉱石の製造方法。
【請求項5】
前記工程3は不活性ガス中において500℃以下の温度で実行する、請求項3に記載の炭材内装多孔質鉱石の製造方法。
【請求項6】
前記結晶水含有鉱石はゲーサイト鉱石である、請求項3~5の何れか1項に記載の炭材内装多孔質鉱石の製造方法。
【請求項7】
下記の工程を備えている結晶水含有鉱石の還元方法。
工程1:結晶水含有鉱石を加熱して結晶水を脱離させ、該鉱石内部に内径がナノメートルレベルの細孔を形成する工程
工程2:工程1を経た鉱石をタール含有溶液中に含浸して、前記鉱石の表面をタール成分で被覆するとともに、前記細孔の内部にタール成分を充填する工程
工程3:工程2を経た鉱石を熱処理して、前記タール成分を炭化する工程
工程4:工程3を経た鉱石を熱処理して、前記炭化成分の燃焼熱を利用して前記鉱石を還元する工程
【請求項8】
前記工程1の加熱温度は800℃以下である、請求項7に記載の結晶水含有鉱石の還元方法。
【請求項9】
前記工程3は不活性ガス中において500℃以下の温度で実行する、請求項7に記載の結晶水含有鉱石の還元方法。
【請求項10】
前記工程4は1000℃以下の温度で実行される、請求項7に記載の結晶水含有鉱石の還元方法。
【請求項11】
前記結晶水含有鉱石はゲーサイト鉱石である、請求項7~10の何れか1項に記載の炭材内装多孔質鉱石の還元方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は炭材内装多孔質鉱石に関し、より詳細には、鉄鉱石の完全還元を可能とするレベルの炭素を含有する炭材内装多孔質鉱石およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、製鉄原料である鉄鉱石は、鉄を60%以上含有する高品位のものの資源が減少してきている。このような事情に伴い、その代替として、また、高品位鉄鉱石よりも安価であるという事情もあり、劣質鉱石である結晶水含有鉱石の使用量は益々増える傾向にある。結晶水含有鉱石を製鉄原料に用いた場合、酸化鉄の還元に時間がかかるだけでなく、還元剤であるコークスの消費量も増加する。
【0003】
このような背景のもと、結晶水含有鉱石を製鉄原料として利用することを目的として、鉱石と炭材とが近接配置する炭材内装鉱石が注目されはじめた。この炭材内装鉱石を用いることとすると、低温還元が可能なために焼結などの高温前処理が不要となり、粉鉱石や炭材粉を利用できることに加え、炭材と鉱石粉を密に混合できるために生産性が向上する等の利点があることから、様々な炭材内装鉱石の製造法が提案され、また、炭材内装鉱石を用いた焼結プロセスを経ない還元方法についても検討がなされてきている。
【0004】
例えば、高炉用装入原料としての炭材内装塊成化物の製造方法の発明を開示する特開2007-77484号公報(特許文献1)には、複数種類の鉄含有原料(鉄鉱石)を配合してなる粉状配合鉄含有原料と軟化溶融性を有する粉状炭材(粉状石炭)との混合物を熱間成型して炭材内装塊成化物を製造する方法であって、マラマンバ鉱石やピソライト鉱石などの劣質鉱石を粉状配合鉄含有原料の配合原料として使用しても、炭材内装塊成化物の強度および被還元性をともに維持ないし向上しうる製造方法が開示されている。
【0005】
この方法では、粉状配合鉄含有原料の比表面積を調整することにより、マラマンバ鉱石やピソライト鉱石などの劣質鉱石を粉状配合鉄含有原料の配合原料として使用しても、炭材内装塊成化物の強度および被還元性をともに維持ないし向上することができ、高炉への装入原料に適した炭材内装塊成化物を安価に製造することができるとされる。
【0006】
しかし、特許文献1に開示の方法では、鉄鉱石は必要により粉砕されて最頻粒径が50μm程度の粉状配合鉄鉱石とされ、石炭も同様に必要により粉砕されて上記粉状配合鉄鉱石よりも最頻粒径が小さな粉状石炭とされるため、鉱石と炭材を粉砕する工程が必要になることに加え、鉱石と炭材の接触部分はμmオーダに留まり、鉄鉱石の完全還元を可能とするレベルの炭素を含有する炭材内装多孔質鉱石とするには十分とは言えない。
【0007】
また、特開2008-95175号公報(特許文献2)は、製鉄・製鋼に用いる鉱石を処理する鉱石処理方法を開示する特許文献であり、「特定の元素の酸化物を含有する多孔質鉱石に、有機化合物を含む有機液体又は有機ガスを接触させることによって、有機化合物を前記多孔質鉱石に付着させることを特徴とする鉱石処理方法。」の発明を開示している。
【0008】
特許文献2に開示の鉱石処理方法では、まず、結晶水を含有する鉱石を加熱し、結晶水を水蒸気として脱水させることによって、鉱石を多孔質化させた多孔質鉱石を生成する。次に、バイオマス資源等の有機物を乾溜した乾溜ガス、又はコールタール等の有機液体に多孔質鉱石を接触させ、タール等の有機化合物が付着した多孔質鉱石を生成する。更に、有機化合物が付着した多孔質鉱石を不活性雰囲気下で加熱し、含有する有用元素の酸化物が有機化合物中の炭素によって還元された鉱石を生成する。
【0009】
特許文献2に開示の方法で得られる多孔質鉱石の平均細孔径は4nmとされ、この細孔壁に有機化合物の分子を付着させているが、その付着量(炭素析出量)は4wt%程度であり、この程度の炭素析出量では、鉄への完全還元は原理的に不可能である。
【0010】
さらに、低品位の鉄鉱石と低品位の炭材を用いて還元鉄が得られる塊成物を製造する方法を開示する特開2012-62505号公報(特許文献3)には、「鉄鉱石と炭材を含む混合物を塊成化して製鉄用の塊成物を製造する方法であって、前記鉄鉱石として、結晶水を5質量%以上含有する鉄鉱石を加熱して脱水した脱水鉄鉱石、前記炭材として、沸点が200~500℃の物質を20質量%以上含む炭材を準備し、これらの混合物を塊成化することを特徴とする塊成物の製造方法」が開示されている。
【0011】
この方法によれば、結晶水含有鉄鉱石を脱水することにより、鉄鉱石には開口直径が理想的には0.8nm程度の空隙が形成され、この空隙に炭材が吸着するため、鉱石と炭材のナノレベルでの近接が実現し、低温での高速還元が可能となるという利点がある。しかし、特許文献3に開示の方法によれば、追加還元剤および還元の熱補償用燃料が不要となるレベルの炭素析出量である18wt%以上の炭素析出が可能となる旨の記載まではなく、鉄鉱石の完全還元を達成することはできない。
【0012】
ところで、結晶水含有鉱石のひとつにゲーサイト(α-FeOOH)鉱石がある。このゲーサイト鉱石は針鉄鉱とも呼ばれる水酸化鉱物の一種であり、鱗鉄鉱(γ-FeOOH)とともにいわゆる褐鉄鉱の主成分をなる鉱石であって、高品位鉄鉱石の代替材料として期待されている。
【0013】
ゲーサイト鉱石は粉化し易く、高炉に投入するためには、コークスを用いた焼結プロセスにより粗大化する必要があるが、コークスそのものが石炭を高温で長時間蒸し焼きにして作製されるものであることに加え、上記の焼結プロセスそのものも1200℃以上の高温を長時間(20時間程度)必要とすることから、ゲーサイト鉱石を粗大化するための焼結プロセスは、極めて多くのエネルギを消費するプロセスとならざるを得ない。
【0014】
また、ゲーサイト鉱石に上述した従来方法を適用しても、含有させることのできる炭素量には限界があり、鉄鉱石の完全還元に求められる18wt%以上を達成することができない。
【先行技術文献】
【0015】

【特許文献1】特開2007-77484号公報
【特許文献2】特開2008-95175号公報
【特許文献3】特開2012-62505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従来の製鉄では、高品位鉄鉱石と高品位石炭を1200℃で20時間蒸し焼きにして製造したコークスを用いて、1200~1400℃の高温で長時間熱処理することで製鉄を行っている。近年の製鉄業界では、低品位鉄鉱石であるゲーサイト鉱石と副生物や廃棄物であるコールタールを用いたエネルギ消費の少ない製鉄方法の開発に注力している。
【0017】
しかしながら、ゲーサイト鉱石内に、鉄鉱石の完全還元に求められる18wt%以上の炭素を含有した製鉄原料の製造法は確立されておらず、また、低温度プロセスで多量のFeを合成する製鉄プロセスも未開発の状態である。
【0018】
本発明は上述した問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、ゲーサイト鉱石をはじめとする結晶水含有鉱石に、鉄鉱石の完全還元を可能とするレベルの炭素を含有させるための新規な技術を提供すること、さらに、炭材内装鉱石の短時間還元を実現することにある。
【課題を解決しようとする手段】
【0019】
上記課題を解決するために、本発明に係る結晶水含有鉱石は、内部に複数の細孔を有する多孔質鉱石であって、前記細孔の内径はナノメートルレベルであってその内部に炭材が吸着しており、前記多孔質鉱石の表面は炭材で被覆されており、炭素含有量が18wt%以上であることを特徴とする。
【課題を解決しようとする手段】
【0020】
好ましくは、前記多孔質鉱石は多孔質のゲーサイト鉱石である。
【課題を解決しようとする手段】
【0021】
本発明に係る炭材内装多孔質鉱石の製造方法は、下記の工程を備えている。
工程1:結晶水含有鉱石を加熱して結晶水を脱離させ、該鉱石内部に内径がナノメートルレベルの細孔を形成する工程
工程2:工程1を経た鉱石をタール含有溶液中に含浸して、前記鉱石の表面をタール成分で被覆するとともに、前記細孔の内部にタール成分を充填する工程
工程3:工程2を経た鉱石を熱処理して、前記タール成分を炭化する工程
【課題を解決しようとする手段】
【0022】
好ましくは、前記工程1の加熱温度は800℃以下である。
【課題を解決しようとする手段】
【0023】
また、好ましくは、前記工程3は不活性ガス中において500℃以下の温度で実行する。
【課題を解決しようとする手段】
【0024】
また、好ましくは、前記結晶水含有鉱石はゲーサイト鉱石である。
【課題を解決しようとする手段】
【0025】
本発明に係る結晶水含有鉱石の還元方法は、下記の工程を備えている。
工程1:結晶水含有鉱石を加熱して結晶水を脱離させ、該鉱石内部に内径がナノメートルレベルの細孔を形成する工程
工程2:工程1を経た鉱石をタール含有溶液中に含浸して、前記鉱石の表面をタール成分で被覆するとともに、前記細孔の内部にタール成分を充填する工程
工程3:工程2を経た鉱石を熱処理して、前記タール成分を炭化する工程
工程4:工程3を経た鉱石を熱処理して、前記炭化成分の燃焼熱を利用して前記鉱石を還元する工程
【課題を解決しようとする手段】
【0026】
好ましくは、前記工程1の加熱温度は800℃以下である。
【課題を解決しようとする手段】
【0027】
また、好ましくは、前記工程3は不活性ガス中において500℃以下の温度で実行する。
【課題を解決しようとする手段】
【0028】
また、好ましくは、前記工程4は1000℃以下の温度で実行される。
【課題を解決しようとする手段】
【0029】
また、好ましくは、前記結晶水含有鉱石はゲーサイト鉱石である。
【発明の効果】
【0030】
本発明に係る炭材内装多孔質鉱石の製造方法では、鉱石の表面に析出した炭素が燃焼する際に発生する熱が鉱石内部に伝導し、還元反応を自己伝播させるいわゆる燃焼合成法を利用している。
【0031】
斯かる方法で製造された本発明に係る結晶水含有鉱石は、炭素含有量が18wt%以上であるため、従来のものでは必要とされていた鉄鉱石を還元するための燃料やコークスが不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る炭材内装多孔質鉱石の製造プロセスを概念的に説明する図である。
【図2】本発明に係る炭材内装多孔質鉱石のSEM像(a)および同一視野でのEDSマッピング(b)である。
【図3】図2に示した観察領域をより高倍率で観察したSEM像(a)および同一視野での炭素(C)のEDSマッピング(b)である。なお、炭素の分布状態の比較のため、従来法(CVI法)で炭材内装した鉱石のSEM像(c)および同一視野での炭素(C)のEDSマッピング(d)も示した。
【図4】炭材内装多孔質鉱石の製造方法の工程1~3における鉱石の構造変化を概念的に説明した図である。
【図5】図(a)は本発明に係る炭材内装多孔質鉱石で燃焼合成反応させるための装置系の概念図であり、図(b)はその温度プロファイルの一例である。
【図6】雰囲気中の酸素濃度を15~100vol%の範囲で変えて処理した鉱石のXRDパターンである。
【図7】燃焼合成反応の前後での炭材内装多孔質鉱石のSEM像およびEDSマッピングである。
【図8】本発明に係る炭材内装多孔質鉱石の燃焼合成反応のメカニズムを概念的に説明するための図である。
【図9】熱処理温度を700~900℃の範囲で変えて処理した鉱石のXRDパターンである。
【図10】還元熱処理の雰囲気中酸素の効果確認のための、各鉱石のXRDパターンである。
【図11】還元熱処理中における試料温度の実測値および時間当たりの温度変化を示した図である。
【図12】炭化処理前後のゲーサイト鉱石、試薬Fe2O3、高品位鉱石のXRDパターンである。
【図13】還元処理後のゲーサイト鉱石、試薬Fe2O3、高品位鉱石のXRDパターンである。
【図14】実施例のものの還元処理中に発生したガスの分析結果のチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に、図面を参照して、本発明に係る炭材内装多孔質鉱石およびその製造方法について説明する。なお、以下では、多孔質鉱石は多孔質のゲーサイト鉱石であるものとして説明する。

【0034】
図1は、本発明に係る炭材内装多孔質鉱石の製造プロセスを概念的に説明する図で、このプロセスは、結晶水含有鉱石を加熱して結晶水を脱離させ、該鉱石内部に内径がナノメートルレベルの細孔を形成する工程1と、工程1を経た鉱石をタール含有溶液中に含浸して、前記鉱石の表面をタール成分で被覆するとともに、前記細孔の内部にタール成分を充填する工程2と、工程2を経た鉱石を熱処理して、前記タール成分を炭化する工程3とを備えている。

【0035】
先ず、上記工程1では、結晶水含有鉱石であるゲーサイト鉱石1を、800℃以下の温度で加熱して鉱石内の結晶水を離脱(脱水)させる。なお、低温処理化を図る観点からは500℃以下の温度とすることが好ましく、処理温度の下限は250℃程度である。この処理に際し、ゲーサイト鉱石1は、予め、個々の直径が1~2mm程度に整粒されており、例えば鉄成分が57wt%程度、結晶水成分が8.8wt%程度のものである。また、上記熱処理時間は、例えば24時間程度である。この熱処理により、下記の反応が進行し、内部に内径がナノメートルレベル(10nm以下であって、例えば3~4nm程度)の細孔が形成された多孔質鉱石10が得られる(図1(a))。

【0036】
2FeOOH→Fe23+H2

【0037】
このようにして得られた多孔質鉱石10は、比表面積の高さを利用して、触媒材料としての利用も可能である。

【0038】
このようにして得られた多孔質鉱石10は、工程2において、タール含有溶液中に含浸され、表面がタール成分で被覆されるとともに、細孔の内部にタール成分が充填される(図1(b))。タール含有溶液20は、例えばコールタールとトルエンの混合溶液であり、一例を挙げれば、固定炭素成分が32wt%、灰分が0.04wt%、水分が0.15wt%のコールタールを、試薬トルエンと、重量比1:1で混合したものである。なお、この含浸時間は、例えば5~10分程度である。

【0039】
このような含浸を行うと、多孔質鉱石10の表面はタール成分で被覆され、内部に形成された細孔内にもタール成分が充填される。

【0040】
続いて、多孔質鉱石10をタール含有溶液20中に含浸した状態で、不活性雰囲気(例えばAr雰囲気)中でヒータ30で加熱処理を行う。熱処理温度は500℃以下の温度とされ、熱処理時間は500℃での熱処理の場合には例えば1時間である。この熱処理により、多孔質鉱石10の表面を被覆するタール成分と細孔内に充填されたタール成分が炭化して、炭素の析出が生じる。

【0041】
この工程3終了後の多孔質鉱石10は相互に凝集しているので、再度、個々の直径が1~2mm程度に整粒することが好ましい。

【0042】
図2は、上述のプロセスを経て得られた炭材内装多孔質鉱石のSEM像(図2(a))および同一視野での鉄(Fe)と炭素(C)のEDSマッピング(図2(b))である。図2(b)のEDSマッピングから明らかなように、多孔質鉱石の表面において、炭素の析出が明確に認められる。

【0043】
図3は、図2に示した観察領域をより高倍率で観察したSEM像(図3(a))および同一視野での炭素(C)のEDSマッピング(図3(b))である。なお、炭素の分布状態の比較のため、従来法で炭材内装した鉱石のSEM像(図3(c))および同一視野での炭素(C)のEDSマッピング(図3(d))も示した。

【0044】
本発明に係る炭材内装多孔質鉱石では、図3(b)中に丸印で示した表面領域における顕著な炭素析出のみならず、細孔内に充填されたタール成分の炭化に起因した炭素の析出も確認できる。これに対し、従来法で炭材内装した鉱石では、表面領域においてのみならず、鉱石内部においても、炭素の析出は殆ど確認できない。この比較から明らかなように、本発明に係る炭材内装多孔質鉱石は、多くの炭素を含有することが可能である。

【0045】
このように、本発明により、内部に内径がナノメートルレベルの複数の細孔を有する多孔質鉱石であって、その細孔内部に炭材が充填されているとともに、表面が炭材で被覆された炭材内装多孔質鉱石が得られる。そして、この炭材内装多孔質鉱石は、炭素含有量は18wt%以上であることから、鉄鉱石の完全還元を可能とするレベルの炭素を含有する炭材内装多孔質鉱石である。

【0046】
なお、上記炭材内装多孔質鉱石の炭素含有量が18wt%以上であることは、化学量論的に計算可能である。

【0047】
すなわち、反応式(Fe2O3+3C=Fe+3CO)に従い計算すると18.3955%という数字が得られる(3x12/(2x55.85+3x16+3x12)x100=18.3955%)。本発明者らは実際の炭素含有量を元素(C, H, N)分析で測定し、ゲーサイト鉱石の場合は平均24.4wt%の炭素を含有していることを確認している。

【0048】
図4は、これまで説明してきた炭材内装多孔質鉱石の製造方法の工程1~3における鉱石の構造変化を概念的に説明した図である。

【0049】
結晶水含有鉱石であるゲーサイト鉱石1(図4(a))を、800℃以下の温度(例えば250~500℃の範囲の温度)で加熱して鉱石内の結晶水を離脱(脱水)させることにより、内部に内径がナノメートルレベルの細孔が形成された多孔質鉱石10が得られる(図4(b))。

【0050】
得られた多孔質鉱石10をタール含有溶液中に含浸すると、表面がタール成分11で被覆されるとともに、細孔の内部にもタール成分11が充填される(図4(c))。

【0051】
そして、この多孔質鉱石10をタール含有溶液中に含浸した状態で加熱処理することにより、多孔質鉱石10の表面を被覆するタール成分と細孔内に充填されたタール成分が炭化して、炭素12の析出が生じる(図4(d))。

【0052】
本発明に係る炭材内装多孔質鉱石は炭素含有量が18wt%以上であるため、鉄鉱石を還元するための燃料やコークスが不要となる。

【0053】
従来法で得られる炭材内装多孔質鉱石は炭素含有量が低いため、当該鉱石のみからの鉄への完全還元は不可能で、下記の反応式から理解できるように、追加の還元剤や還元のための熱補償用燃料が必要となる。

【0054】
FexO+C(含有)+C(追加)=Fe+CO-Q1kJ
熱補償用燃料+O2=CO2+H2O+Q2kJ

【0055】
つまり、上記反応式において、熱補償用燃料を用いた燃焼で発生した熱(Q2kJ)で、Q1kJ分の吸熱量を補償する必要がある。

【0056】
炭材内装多孔質鉱石の炭素含有量が10wt%程度まで高くなると、当該鉱石のみからの鉄への完全還元は可能となるが、下記の反応式から理解できるように、還元のための熱補償用燃料は必要である。

【0057】
FexO+C(含有)=Fe+CO-Q3kJ
熱補償用燃料+O2=CO2+H2O+Q2kJ

【0058】
つまり、上記反応式において、熱補償用燃料を用いた燃焼で発生した熱(Q2kJ)で、Q3kJ分の吸熱量を補償する必要がある。

【0059】
本発明に係る炭材内装多孔質鉱石のように炭素含有量が18wt%を超えると、当該鉱石のみからの鉄への完全還元が可能となるだけではなく、下記の反応式から理解できるように、析出炭素の燃焼熱が還元の熱を補償することが可能となるばかりではなく、反応の自己伝播が生じるいわゆる燃焼合成反応となるため、追加の還元剤や還元のための熱補償用燃料は不要となる。

【0060】
FexO+C(含有)=Fe+CO-Q3kJ
C(含有)+O2=CO2+H2O+Q4kJ

【0061】
つまり、上記反応式において、炭材内装多孔質鉱石が含有する炭素を利用した燃焼で発生した熱(Q4kJ)で、Q3kJ分の吸熱量を自己補償するのである。

【0062】
図5(a)は本発明に係る炭材内装多孔質鉱石で燃焼合成反応させるための装置系の一例を示す概念図であり、図5(b)はその温度プロファイルの一例である。一連の反応は、酸素を15~25vol%程度含む不活性ガス(例えば25vol%の酸素を含むArガス)を1リットル/分で流しながら行う。20℃/秒のレートで900℃まで昇温し、その温度で10秒間保持し、その後は自然冷却する。

【0063】
図6に、燃焼合成反応時の雰囲気中の酸素濃度を15~100vol%の範囲で変えて処理した鉱石のXRDパターンを示す。なお、チャート中に示した記号H、M、W、I、Fを付したピークはそれぞれ、Fe23、Fe34、FeO、Fe、Fe2SiO4からの回折ピークである。金属鉄の比率は異なるものの、いずれの酸素濃度においても金属鉄が生成することが確認できる。

【0064】
図7は、このような燃焼合成反応の前後での炭材内装多孔質鉱石のSEM像およびEDSマッピングである。図(A)の(a)および(b)はそれぞれ燃焼合成反応前の炭材内装多孔質鉱石のSEM像およびEDSマッピングであり、図(B)の(a)および(b)はそれぞれ燃焼合成反応後の炭材内装多孔質鉱石のSEM像およびEDSマッピングである。

【0065】
図7(A)と(B)のEDSマッピングの比較から、燃焼合成反応前には表面に認められた100~500μmの厚みの炭素膜は、燃焼合成反応中にほぼ消失していることが分かる。

【0066】
図8は、本発明に係る炭材内装多孔質鉱石の燃焼合成反応のメカニズムを概念的に説明するための図である。本発明に係る炭材内装多孔質鉱石の製造方法で得られた炭素12を析出させた炭材内装多孔質鉱石10を酸素含有雰囲気中で熱処理すると、先ず表面に析出した炭素12が酸素と反応して熱を発生させる。その熱は鉱石内部に伝わり、細孔に充填されている炭素による鉄鉱石の還元を促進する。つまり、既に説明したように、炭材内装多孔質鉱石が含有する炭素を利用した燃焼で発生した熱(Q4kJ)で、Q3kJ分の吸熱量を自己補償するのである。最終的には、局所的には炭素12や酸化鉄13が残留するものの、金属鉄を主成分とする鉱石が得られる。

【0067】
つまり、本発明は、結晶水含有鉱石を加熱して結晶水を脱離させ、該鉱石内部に内径がナノメートルレベルの細孔を形成する工程1と、工程1を経た鉱石をタール含有溶液中に含浸して、前記鉱石の表面をタール成分で被覆するとともに、前記細孔の内部にタール成分を充填する工程2と、工程2を経た鉱石を熱処理して、前記タール成分を炭化する工程3と、工程3を経た鉱石を熱処理して、前記炭化成分の燃焼熱を利用して前記鉱石を還元する工程4を備えた結晶水含有鉱石の還元方法でもある。

【0068】
なお、上記工程4は1000℃以下の温度で実行され、例えば900℃とする。図9は熱処理温度を700~900℃の範囲で変えて処理した鉱石のXRDパターンで、チャート中に示した記号H、M、W、I、Fを付したピークはそれぞれ、Fe23、Fe34、FeO、Fe、Fe2SiO4からの回折ピークである。金属鉄の比率は異なるものの、いずれにおいても金属鉄が生成することが確認できる。

【0069】
[還元熱処理の雰囲気中酸素の効果確認]
上記還元熱処理を行う際の、雰囲気中酸素の効果について確認した。実施例では上述のとおり、25vol%の酸素を含むArガスを1リットル/分で流通させた。一方、比較例1では純Arガスを1リットル/分で流通させ、比較例2では20vol%の水素を含むArガスを1リットル/分で流通させた。なお、燃焼合成反応装置系と温度設定プロファイルは図5に示したとおりであって、ゲーサイトの炭材内装多孔質鉱石0.1gの還元熱処理を行った。

【0070】
図10は、還元処理後の各鉱石のXRDパターンである。チャート中に示した記号H、M、W、I、Fを付したピークはそれぞれ、Fe23、Fe34、FeO、Fe、Fe2SiO4からの回折ピークである。3つのチャートを比較すると明らかなように、酸素を含む雰囲気で熱処理することにより、還元反応が顕著に促進される。

【0071】
図11は、還元処理中における試料温度の実測値および時間当たりの温度変化(dT(℃)/dt(秒))を示した図である。比較例1および比較例2では、試料温度はほぼ設定温度となっているのに対し、実施例のものでは試料温度が800℃に達した時点辺りから急激に上昇し、1200℃程度にまで達していることが読み取れる。この温度上昇は、表面に析出した炭素の燃焼に起因して発生した熱によるものである。

【0072】
[原料鉱石の種類の影響確認]
出発原料として用いる鉱石の種類の影響について確認した。実施例のものは上述のとおりゲーサイト鉱石を出発原料としている。一方、比較例3では試薬Fe2O3を用い、比較例4では高品位鉱石を用いた。これらについて、炭化処理前後ならびに還元処理前後のXRD評価を行った。なお、何れにおいても、還元熱処理は25vol%の酸素を含むArガスを1リットル/分で流通させ、処理温度は900℃とした。

【0073】
図12は、炭化処理後の各鉱石のXRDパターンである。何れのものも、還元処理前にはFe23のピークのみが認められているが、還元処理後にはFe34のピークが認められるようになる。なお、3者を比較すると、実施例のものにおいて最も多くのFe34が生成している。

【0074】
図13は、還元処理後の各鉱石のXRDパターンである。チャート中に示した記号H、M、W、I、Fを付したピークはそれぞれ、Fe23、Fe34、FeO、Fe、Fe2SiO4からの回折ピークである。3つのチャートを比較すると明らかなように、ゲーサイト鉱石を出発原料とした実施例のものは鉄にまで還元できている一方、比較例3および比較例4のものでは金属鉄の生成が認められていない。

【0075】
これは、実施例のものでは鉱石内部に細孔が形成されその内部にも炭素が析出しているのに対し、試薬Fe2O3や高品位鉱石では結晶水を含有していないことから細孔をもっておらず、鉱石内部での鉱石と炭素の接触面積が小さいためであると考えられる。

【0076】
[還元処理中に発生するガスの分析]
図14は、上述した実施例のものの還元処理中に発生したガスの分析結果のチャートである。図中に(1)で示した領域ではO2量が減少しCO2量が増大している。また、図中に(2)で示した領域では上記CO2発生から遅れてのCO発生が認められる。このCO発生は鉱石の直接還元に由来するものである。この(2)におけるCO発生が(1)におけるCO2発生に遅れるのは、表面での還元により生じた燃焼熱が鉱石内部に伝わり内部での還元反応が進行するのに若干のタイムラグがあるためである。

【0077】
以上、説明したように、本発明では、タール含浸法により作製した炭材内装多孔質鉱石を酸素流通下で高速加熱することで、極めて短時間で且つ低温での金属鉄への還元を実現した。具体的には、石炭(コール)タールおよびトルエン混合溶液に脱水処理を施した多孔質鉄鉱石を含浸し、細孔内部および鉱石外表面に炭素を析出させる。作製した炭材内装多孔質鉱石を酸素流通下で短時間加熱することにより、最初に外表面の炭素が燃焼を始める。この燃焼により発生した熱は鉱石内部に伝導して鉱石内部が高温となり還元が進行して金属鉄となる。

【0078】
本発明に係る炭材内装多孔質鉱石の製造方法と従来技術1(高炉法)および従来技術2(低品位鉱石利用法)を簡潔に比較すると、下記のとおりとなる。

【0079】
鉱石については、従来技術1においては、製鉄に際して高品位鉄鉱石を用い且つ大量のエネルギを投入することが必要であるのに対し、従来技術2および本発明では、低品位鉄鉱石の実用的利用が可能となり且つエネルギ投入量の抑制が可能である。

【0080】
炭材については、従来技術1および2の何れにおいても、高価な強粘結炭を高温(1200℃程度)で長時間(20時間程度)蒸し焼きにしてコークス化する必要があるのに対し、本発明では、副生物ないし廃棄物としての粘性油状物質であるコールタールやバイオマスタールを還元用の炭材として利用することができるためコークス比の低減が可能である。

【0081】
製鉄時の反応温度・時間については、従来技術1および2は何れも1200~1400℃という高温でそれぞれ数時間および30分程度の反応時間が必要であるのに対し、本発明においては1000℃以下(例えば700~900℃程度)の低温で且つ10秒程度と極めて短時間である。

【0082】
還元メカニズムについては、従来技術1および2のものは、コークス燃焼およびブドワール反応(CO2+C⇔2CO)由来の一酸化炭素(CO)による間接還元であるのに対し、本発明のものは、鉱石の表面に析出させた炭素が燃焼する際の熱を利用した燃焼合成メカニズムに基づく、近接配置させた鉱石と炭材による直接還元であるため、高速還元が実現する。

【0083】
なお、炭材内装鉱石の炭素析出量については、既に説明したように、従来技術2のものにおいても5wt%未満であるのに対し、本発明のものは、鉄鉱石の完全還元に求められる18wt%以上を達成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明によれば、従来のものでは必要とされていた鉄鉱石を還元するための燃料やコークスが不要となる。
【符号の説明】
【0085】
1 ゲーサイト鉱石
10 炭材内装多孔質鉱石
11 タール成分
12 炭素
13 酸化鉄
20 タール含有溶液
30 ヒータ
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
2
【図4】
3
【図5】
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【図6】
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【図7】
6
【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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