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明細書 :糖タンパク質の生産方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-013176 (P2019-013176A)
公開日 平成31年1月31日(2019.1.31)
発明の名称または考案の名称 糖タンパク質の生産方法
国際特許分類 C12N  15/09        (2006.01)
C12N   5/10        (2006.01)
C07K  19/00        (2006.01)
C07K   7/06        (2006.01)
C07K   7/08        (2006.01)
C07K  14/47        (2006.01)
FI C12N 15/00 ZNAA
C12N 5/10
C07K 19/00
C07K 7/06
C07K 7/08
C07K 14/47
請求項の数または発明の数 14
出願形態 OL
全頁数 16
出願番号 特願2017-132312 (P2017-132312)
出願日 平成29年7月5日(2017.7.5)
発明者または考案者 【氏名】矢木 宏和
【氏名】加藤 晃一
【氏名】本多 怜奈
出願人 【識別番号】506218664
【氏名又は名称】公立大学法人名古屋市立大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100114362、【弁理士】、【氏名又は名称】萩野 幹治
審査請求 未請求
テーマコード 4B065
4H045
Fターム 4B065AA87X
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AA93X
4B065AA93Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4H045AA10
4H045AA20
4H045BA10
4H045BA15
4H045BA41
4H045CA40
4H045EA20
4H045FA74
要約 【課題】本発明は、糖タンパク質の生産性を向上させる技術を提供することを課題とする。
【解決手段】血液凝固第5因子と第8因子に共通する配列として見出されたペプチドが目的糖タンパク質のカルボキシ末端側に連結が連結された構造の融合タンパク質を培養哺乳動物細胞内で発現させ、培養液から融合タンパク質を回収する。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
以下のステップ(1)及び(2)を含む、糖タンパク質の生産方法:
(1)目的糖タンパク質のカルボキシ末端側にS(D/A)LL(-/M)LL(K/R/A)QS(配列番号1)からなるペプチド(但し、(D/A)はD(アスパラギン酸)又はA(アラニン)であることを表し、(-/M)はアミノ酸残基がないかM(メチオニン)であることを表し、(K/R/A)はK(リジン)、R(アルギニン)又はA(アラニン)であることを表す)が連結された構造の融合タンパク質を培養哺乳動物細胞内で発現させるステップ;
(2)培養液から、前記融合タンパク質を回収するステップ。
【請求項2】
前記ペプチドの配列がSDLLMLLRQS(配列番号2)、SALLMLLRQS(配列番号3)、SDLLMLLAQS(配列番号4)又はSDLLLLKQS(配列番号5)である、請求項1に記載の生産方法。
【請求項3】
前記目的糖タンパク質と前記ペプチドの間にプロテアーゼ認識配列が介在する、請求項1又は2に記載の生産方法。
【請求項4】
以下のステップ(3)を更に含む、請求項3に記載の生産方法:
(3)回収後の前記融合タンパク質をプロテアーゼで処理するステップ。
【請求項5】
哺乳細胞用プロモーターと、
目的糖タンパク質をコードする遺伝子と、を有するとともに、
前記遺伝子の下流には、S(D/A)LL(-/M)LL(K/R/A)QS(配列番号1)からなるペプチド(但し、(D/A)はD(アスパラギン酸)又はA(アラニン)であることを表し、(-/M)はアミノ酸残基がないかM(メチオニン)であることを表し、(K/R/A)はK(リジン)、R(アルギニン)又はA(アラニン)であることを表す)をコードする配列が配置されている、
糖タンパク質を生産するためのベクター。
【請求項6】
前記遺伝子と前記ペプチドをコードする配列の間に、プロテアーゼ認識配列をコードする配列が配置されている、請求項5に記載のベクター。
【請求項7】
哺乳細胞用プロモーターと、
目的糖タンパク質をコードする遺伝子用のクローニング部位と、を有するとともに、
前記クローニング部位の下流には、S(D/A)LL(-/M)LL(K/R/A)QS(配列番号1)からなるペプチド(但し、(D/A)はD(アスパラギン酸)又はA(アラニン)であることを表し、(-/M)はアミノ酸残基がないかM(メチオニン)であることを表し、(K/R/A)はK(リジン)、R(アルギニン)又はA(アラニン)であることを表す)をコードする配列が配置されている、
糖タンパク質を生産するためのベクター。
【請求項8】
前記クローニング部位と前記ペプチドをコードする配列の間に、プロテアーゼ認識配列をコードする配列が配置されている、請求項7に記載のベクター。
【請求項9】
請求項5又は6に記載のベクターを保有する哺乳動物細胞。
【請求項10】
前記哺乳動物細胞がヒト、マウス、ラット又はハムスターの細胞である、請求項9に記載の哺乳動物細胞。
【請求項11】
請求項5~8のいずれか一項に記載のベクターを含む、糖タンパク質生産用のキット。
【請求項12】
糖タンパク質のカルボキシ末端側にS(D/A)LL(-/M)LL(K/R/A)QS(配列番号1)からなるペプチド(但し、(D/A)はD(アスパラギン酸)又はA(アラニン)であることを表し、(-/M-)はアミノ酸残基がないかM(メチオニン)であることを表し、(K/R/A)はK(リジン)、R(アルギニン)又はA(アラニン)であることを表す)が連結された構造の融合タンパク質、をコードする遺伝子。
【請求項13】
前記目的糖タンパク質をコードする配列と前記ペプチドをコードする配列の間に、プロテアーゼ認識配列をコードする配列が介在する、請求項12に記載の遺伝子。
【請求項14】
糖タンパク質のカルボキシ末端側にS(D/A)LL(-/M)LL(K/R/A)QS(配列番号1)からなるペプチド(但し、(D/A)はD(アスパラギン酸)又はA(アラニン)であることを表し、(-/M-)はアミノ酸残基がないかM(メチオニン)であることを表し、(K/R/A)はK(リジン)、R(アルギニン)又はA(アラニン)であることを表す)が連結された構造の融合タンパク質。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は糖タンパク質の生産技術に関する。詳しくは、糖タンパク質の生産量が向上する生産方法及びその用途等に関する。
【背景技術】
【0002】
動物細胞では、その表面に局在するタンパク質や細胞外に分泌されるタンパク質の殆どは糖タンパク質である。糖タンパク質の糖成分(糖鎖)は、細胞増殖、細胞接着、抗原抗体反応、感染防御等、様々な生理現象に関与する。このように生体において重要な糖タンパク質は医薬品や研究用試薬等として利用されている。糖タンパク質の生産に関しては、汎用的な生産方法の他、特定の糖タンパク質に特化した生産方法等も開発されている(例えば特許文献1~3を参照)。
【先行技術文献】
【0003】

【特許文献1】特開2010-248228
【特許文献2】特開2014-156409
【特許文献3】特開2016-192936
【0004】

【非特許文献1】Proc Natl Acad Sci U S A. 2010 Mar 2;107(9):4034-9. doi: 10.1073/pnas.0908526107. Epub 2010 Feb 8.
【非特許文献2】Blood. 2004 May 1;103(9):3412-9. Epub 2004 Jan 15.Bioengineering of coagulation factor VIII for improved secretion.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
重要な生理機能を担い、医薬品等としても重要な糖タンパク質の利用拡大を図るためには、糖タンパク質を安価に提供することが望まれる。本発明は、このような要望に応えるべく、糖タンパク質の生産性を向上させる技術を提供することを主たる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題に鑑み研究を進める中、本発明者らは、血液凝固第V第VIII因子欠乏症(FVFVIIID)の原因遺伝子産物として同定されているERGIC-53及びMCFD2に着目した。これらの分子は複合体を形成することで、FV及びFVIIIを小胞体からゴルジ体へ輸送する積荷受容体として機能していることが知られている(非特許文献1)。ERGIC-53/MCFD2複合体に輸送されるFV及びFVIIIは共通のドメイン構造を有し、多くのN-結合型糖鎖に修飾された糖タンパク質である(図1)。この点に加え、FVIIIの分泌においては、BドメインのN末端領域の226残基が重要であることが報告されていること(非特許文献2)等から、ERGIC-53/MCFD2複合体がFVとFVIIIに共通する配列を認識している可能性があると考え、共通配列(モチーフ)をBドメインのN末端領域から同定することを試みた。その結果、約10残基の特徴的な共通配列(SDLL(-/M)LL(K/R)QS)(配列番号2)が見出された。この共通配列がERGIC-53/MCFD2複合体が結合する部分であると予想し、その実証のための実験を施行した。詳細な検討の末、当該配列に対してERGIC-53/MCFD2複合体が結合することが判明した。一方、C末端側に当該配列が付加されるように糖タンパク質を培養細胞中で発現させると、糖タンパク質の分泌量が格段に増大することが明らかとなった。また、当該配列の一部を変化させた場合にも同様の効果が認められ、分泌量(生産性)向上に有効な配列の更なる規則性が見出された。更に検討を進めたところ、当該配列を利用して糖タンパク質を発現させた場合には、分泌量が増大するだけでなく、シアリル化型糖鎖の量が増大するという、驚くべき現象が認められた。また、別の糖タンパク質を発現させた場合にも同様の効果が認められ、当該配列の汎用性が高いことが示された。
[1]以下のステップ(1)及び(2)を含む、糖タンパク質の生産方法:
(1)目的糖タンパク質のカルボキシ末端側にS(D/A)LL(-/M)LL(K/R/A)QS(配列番号1)からなるペプチド(但し、(D/A)はD(アスパラギン酸)又はA(アラニン)であることを表し、(-/M)はアミノ酸残基がないかM(メチオニン)であることを表し、(K/R/A)はK(リジン)、R(アルギニン)又はA(アラニン)であることを表す)が連結された構造の融合タンパク質を培養哺乳動物細胞内で発現させるステップ;
(2)培養液から、前記融合タンパク質を回収するステップ。
[2]前記ペプチドの配列がSDLLMLLRQS(配列番号2)、SALLMLLRQS(配列番号3)、SDLLMLLAQS(配列番号4)又はSDLLLLKQS(配列番号5)である、[1]に記載の生産方法。
[3]前記目的糖タンパク質と前記ペプチドの間にプロテアーゼ認識配列が介在する、[1]又は[2]に記載の生産方法。
[4]以下のステップ(3)を更に含む、[3]に記載の生産方法:
(3)回収後の前記融合タンパク質をプロテアーゼで処理するステップ。
[5]哺乳細胞用プロモーターと、
目的糖タンパク質をコードする遺伝子と、有するとともに、
前記遺伝子の下流には、S(D/A)LL(-/M)LL(K/R/A)QS(配列番号1)からなるペプチド(但し、(D/A)はD(アスパラギン酸)又はA(アラニン)であることを表し、(-/M)はアミノ酸残基がないかM(メチオニン)であることを表し、(K/R/A)はK(リジン)、R(アルギニン)又はA(アラニン)であることを表す)をコードする配列が配置されている、
糖タンパク質を生産するためのベクター。
[6]前記遺伝子と前記ペプチドをコードする配列の間に、プロテアーゼ認識配列をコードする配列が配置されている、[5]に記載のベクター。
[7]プロモーターと、
目的糖タンパク質をコードする遺伝子用のクローニング部位と、を有するとともに、
前記クローニング部位の下流には、S(D/A)LL(-/M)LL(K/R/A)QS(配列番号1)からなるペプチド(但し、(D/A)はD(アスパラギン酸)又はA(アラニン)であることを表し、(-/M)はアミノ酸残基がないかM(メチオニン)であることを表し、(K/R/A)はK(リジン)、R(アルギニン)又はA(アラニン)であることを表す)をコードする配列が配置されている、
糖タンパク質を生産するためのベクター。
[8]前記クローニング部位と前記ペプチドをコードする配列の間に、プロテアーゼ認識配列をコードする配列が配置されている、[7]に記載のベクター。
[9][5]又は[6]に記載のベクターを保有する哺乳動物細胞。
[10]前記哺乳動物細胞がヒト、マウス、ラット又はハムスターの細胞である、[9]に記載の哺乳動物細胞。
[11][5]~[8]のいずれか一項に記載のベクターを含む、糖タンパク質生産用のキット。
[12]糖タンパク質のカルボキシ末端側にS(D/A)LL(-/M)LL(K/R/A)QS(配列番号1)からなるペプチド(但し、(D/A)はD(アスパラギン酸)又はA(アラニン)であることを表し、(-/M-)はアミノ酸残基がないかM(メチオニン)であることを表し、(K/R/A)はK(リジン)、R(アルギニン)又はA(アラニン)であることを表す)が連結された構造の融合タンパク質、をコードする遺伝子。
[13]前記目的糖タンパク質をコードする配列と前記ペプチドをコードする配列の間に、プロテアーゼ認識配列をコードする配列が介在する、[12]に記載の遺伝子。
[14]糖タンパク質のカルボキシ末端側にS(D/A)LL(-/M)LL(K/R/A)QS(配列番号1)からなるペプチド(但し、(D/A)はD(アスパラギン酸)又はA(アラニン)であることを表し、(-/M-)はアミノ酸残基がないかM(メチオニン)であることを表し、(K/R/A)はK(リジン)、R(アルギニン)又はA(アラニン)であることを表す)が連結された構造の融合タンパク質。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】血液凝固第5因子(FV)及び第8因子(FVIII)のドメイン構成。
【図2】ERGIC-53/MCFD2複合体の添加に伴う[15N]-FVIIIペプチドの1H-15N HSQCスペクトル。
【図3】ERGIC-53/MCFD2複合体添加前後でのNMRシグナル強度の比較。ERGIC-53/MCFD2複合体の添加前後でFVIIIペプチド由来のシグナルは顕著な強度減弱を示した。プロリン残基をP、帰属できていない残基を*で示した。
【図4】FVIIIの分泌量の比較。標本数は3で、WT(野生型)におけるFVIIIの分泌量を対照群としたDunnett's testにより、p<0.01の群を*で示した。【図6】EPO-モチーフの人工遺伝子の塩基配列。HindIII制限酵素サイト、EPOの28~193残基をコードする遺伝子、TEVプロテアーゼ切断サイトをコードする遺伝子、FVIIIのMCFD2結合配列(配列番号3)をコードする塩基配列、終止コドン、XbaI制限酵素サイトの順で配置される。
【図7】EPOの分泌量の比較。標本数は3で、WT(野生型)におけるEPOの分泌量を対照群としたDunnett's testにより、p<0.01の群を*で示した。【図9】EPO-モチーフ変異体の分泌量の比較。コントロールはMCFD2結合配列を付加していない野生型のEPOである。SDLLMLLRQS(配列番号3)はFVIII由来の配列である。変異を組み込んだ配列(配列番号4~7)において変異部分は下線で示した。標本数は3で、コントロールを対照群としたDunnett's testにより、p<0.01の群を*で示した。【図11】ウエスタンブロット及びレクチンブロットの結果。
【図12】ウエスタンブロット及びレクチンブロットの結果。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書では慣例に従い、以下の通り、各アミノ酸を1文字で表記する。
メチオニン:M、セリン:S、アラニン:A、トレオニン:T、バリン:V、チロシン:Y、ロイシン:L、アスパラギン:N、イソロイシン:I、グルタミン:Q、プロリン:P、アスパラギン酸:D、フェニルアラニン:F、グルタミン酸:E、トリプトファン:W、リジン:K、システイン:C、アルギニン:R、グリシン:G、ヒスチジン:H

【0009】
1.糖タンパク質の生産方法
本発明は糖タンパク質の生産方法を提供する。本発明の生産方法は目的糖タンパク質の効率的な生産を可能とする。また、シアリル化型糖鎖の含有量が多い目的糖タンパク質を得る手段としても本発明の生産方法は有用である。シアリル化型糖鎖とは、カルボキシル基の炭素を1位として有する単糖を有する糖鎖であり、糖タンパク質の体内動態や血中半減期の点から重要である。シアリル化型糖鎖の含有量が多い糖タンパク質は、例えば医薬品の有効成分として用いられる場合に薬効の増強を期待できるなど、その価値ないし有用性が高い。

【0010】
本発明の生産方法では、以下のステップ(1)及び(2)を行う。尚、本発明の生産方法は、以下の説明から明らかな通り、個体を構成する細胞ではなく、個体から分離された細胞又はそれを培養、加工などすることで得られた細胞(継代細胞、細胞株など)を用い、生体外(即ちin vitro)で実施される。
(1)目的糖タンパク質のカルボキシ末端側にS(D/A)LL(-/M)LL(K/R/A)QS(配列番号1)からなるペプチド(但し、(D/A)はD(アスパラギン酸)又はA(アラニン)であることを表し、(-/M)はアミノ酸残基がないかM(メチオニン)であることを表し、(K/R/A)はK(リジン)、R(アルギニン)又はA(アラニン)であることを表す)が連結された構造の融合タンパク質を培養哺乳動物細胞内で発現させるステップ
(2)培養液から、前記融合タンパク質を回収するステップ

【0011】
ステップ(1)は、特徴的な構成のタンパク質を培養細胞内で発現させるステップであり、本発明者らの検討によって見出されたペプチド(以下、「結合配列ペプチド」と呼ぶ)を用いる。結合配列ペプチドは、S(D/A)LL(-/M)LL(K/R/A)QS(配列番号1)からなる9又は10アミノ酸残基のペプチドである。但し、上記配列において、(D/A)はD(アスパラギン酸)又はA(アラニン)であることを表し、(-/M)はアミノ酸残基がないかM(メチオニン)であることを表し、(K/R/A)はK(リジン)、R(アルギニン)又はA(アラニン)であることを表す。

【0012】
結合配列ペプチドの具体例(例1~4)を以下に示す。例1はFVIIIのBドメイン中に見出される配列(MCFD2結合配列)からなるペプチドである。例2及び例3はMCFD2結合配列を変異させた配列からなり、MCFD配列と同様の効果を示したペプチドである。例4はFVのBドメイン中に見出される配列からなるペプチドである。
例1:SDLLMLLRQS(配列番号3)。S(セリン)、D(アスパラギン酸)、L(ロイシン)、L(ロイシン)、M(メチオニン)、L(ロイシン)、L(ロイシン)、R(アルギニン)、Q(グルタミン)及びS(セリン)がN末端側からC末端側に向かってこの順序で連結したペプチド。
例2:SALLMLLRQS(配列番号4)。S(セリン)、A(アラニン)、L(ロイシン)、L(ロイシン)、M(メチオニン)、L(ロイシン)、L(ロイシン)、R(アルギニン)、Q(グルタミン)及びS(セリン)がN末端側からC末端側に向かってこの順序で連結したペプチド。
例3:SDLLMLLAQS(配列番号5)。S(セリン)、D(アスパラギン酸)、L(ロイシン)、L(ロイシン)、M(メチオニン)、L(ロイシン)、L(ロイシン)、A(アラニン)、Q(グルタミン)及びS(セリン)がN末端側からC末端側に向かってこの順序で連結したペプチド。
例4:SDLLLLKQS(配列番号6)。S(セリン)、D(アスパラギン酸)、L(ロイシン)、L(ロイシン)、L(ロイシン)、L(ロイシン)、K(リジン)、Q(グルタミン)及びS(セリン)がN末端側からC末端側に向かってこの順序で連結したペプチド。

【0013】
結合配列ペプチドを複数、用いることにしてもよい(例えば、結合配列ペプチドを2~5個、タンデムに連結させる)。この場合、配列の異なる結合配列ペプチドを組み合わせて用いることにしてもよい。

【0014】
ステップ(1)では、目的糖タンパク質のカルボキシ末端(C末端)側に結合配列ペプチドが連結された構造の融合タンパク質を発現させる。目的糖タンパク質とは、本発明の生産方法によって生産することが意図された糖タンパク質、即ち目的物(発現産物)である。様々な糖タンパク質(例えば、医薬、食品、研究試薬等の成分として有用なもの)を目的糖タンパク質として採用可能である。目的糖タンパク質の例として、サイトカイン(インターフェロン(IFN)、インターロイキン(IL))、ホルモン(例えば、エリスロポエチン(EPO)、ヒト絨毛性腺刺激ホルモン(hCG)、黄体形成ホルモン、卵胞刺激ホルモン、甲状腺刺激ホルモン)、酵素(組織型プラスミノーゲン活性化因子(t-PA)、αガラクトシダーゼ、グルコセレブロシダーゼ)、抗体、抗体断片、ラクトフェリン、オボアルブミン、トロンボモジュリンを挙げることができる。

【0015】
ステップ(1)で発現させる融合タンパク質では、目的タンパク質のC末端と結合配列ペプチドが直接又は間接的に連結されることになる。後者の場合、典型的には、目的タンパク質と結合配列ペプチドの間に1又は複数個(例えば2~31個)のアミノ酸残基が介在することになる。複数個のアミノ酸残基、即ちペプチドが介在する態様として、目的タンパク質と結合配列ペプチドをペプチドリンカーで連結するもの、目的タンパク質と結合配列ペプチドの間にプロテアーゼ認識配列を設けるもの、目的タンパク質と結合配列ペプチドの間に特別の機能をもたない1~数個(例えば1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個)のアミノ酸残基(但し、結合配列ペプチドに期待される機能/効果を損なわないもの)を介在させるもの、を例示することができる。ペプチドリンカーとは、直鎖状にアミノ酸が連結したペプチドからなるリンカーである。ペプチドリンカーの代表例は、グリシンとセリンから構成されるリンカー(GGSリンカーやGSリンカー)である。一方、プロテアーゼ認識配列とは、特定のプロテアーゼにより認識され、当該プロテアーゼによるタンパク質の切断に必要なアミノ酸配列である。例えばソルターゼ認識配列、HRV3C認識配列、TEVプロテアーゼ認識配列、トロンビン認識配列、PreScission Protease認識配列等)を用いることができる。

【0016】
結合配列ペプチドに期待される機能/効果を損なわない限り、結合配列ペプチドのC末端に1又は複数個のアミノ酸残基が連なるように融合タンパク質の構造を設計してもよい。この場合には、見掛け上、結合配列ペプチドのC末端に別のアミノ酸残基(例えば1~22個のアミノ酸残基)が連結した構造のペプチドが目的タンパク質に連結することになる。

【0017】
融合タンパク質を培養哺乳動物内で発現させるためには、典型的には、融合タンパク質をコードする遺伝子(融合タンパク質遺伝子)を保持する発現ベクターで形質転換した宿主(哺乳動物細胞)を培養する。具体的には、例えば、以下のステップ(i)~(iii)によって、融合タンパク質を発現させる。
(i)融合タンパク質をコードする遺伝子を保持する発現ベクターを用意するステップ
(ii)前記発現ベクターを宿主細胞に導入するステップ
(iii)前記発現ベクターが導入された形質転換体を培養し、前記融合タンパク質を発現させるステップ

【0018】
ステップ(i)は、本願発明に特徴的なステップであり、宿主細胞内での融合タンパク質の発現を可能にする発現ベクターを用意する。発現ベクターには、宿主細胞内で融合タンパク質の発現が可能なように、宿主細胞で機能するプロモーターが組み込まれる。プロモーターの例を示すと、CMV-IE(サイトメガロウイルス初期遺伝子由来プロモーター)、SV40、EF1α、RSV、SRα、βアクチンプロモーター等である。プロモーターは融合タンパク質遺伝子を作動可能に連結される。ここで、「プロモーターが融合タンパク質遺伝子を作動可能に連結している」とは、「プロモーターの制御下に融合タンパク質遺伝子が配置されている」ことと同義であり、通常、プロモーターの3'末端側に直接又は他の配列を介して融合タンパク質遺伝子が連結されることになる。融合タンパク質遺伝子の下流にはポリA付加シグナル配列を配置する。ポリA付加シグナル配列の使用によって転写を終了させる。ポリA付加シグナル配列としてはSV40のポリA付加配列、ウシ由来成長ホルモン遺伝子のポリA付加配列等を用いることができる。

【0019】
発現ベクターに検出用遺伝子(レポーター遺伝子、細胞又は組織特異的な遺伝子、選択マーカー遺伝子など)、エンハンサー配列、WRPE配列等を含めることにしてもよい。検出用遺伝子は、融合タンパク質遺伝子の導入の成否や効率の判定、融合タンパク質の発現の検出又は発現効率の判定、融合タンパク質遺伝子が発現した細胞の選択や分取等に利用される。一方、エンハンサー配列の使用によって発現効率の向上が図られる。検出用遺伝子としては、ネオマイシンに対する耐性を付与するneo遺伝子、カナマイシン等に対する耐性を付与するnpt遺伝子(Herrera Estrella、EMBO J. 2(1983)、987-995)やnptII遺伝子(Messing & Vierra.Gene 1 9:259-268(1982))、ハイグロマイシンに対する耐性を付与するhph遺伝子(Blochinger & Diggl mann,Mol Cell Bio 4:2929-2931)、メタトレキセートに対する耐性を付与するdhfr遺伝子(Bourouis et al.,EMBO J.2(7))等(以上、マーカー遺伝子)、ルシフェラーゼ遺伝子(Giacomin、P1. Sci. 116(1996)、59~72;Scikantha、J. Bact. 178(1996)、121)、β-グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子、GFP(Gerdes、FEBS Lett. 389(1996)、44-47)やその改変体(EGFPやd2EGFPなど)等の蛍光タンパク質の遺伝子(以上、レポーター遺伝子)、細胞内ドメインを欠く上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子等の遺伝子を用いることができる。検出用遺伝子は、例えば、バイシストロニック性制御配列(例えば、リボソーム内部認識配列(IRES))や自己開裂ペプチドをコードする配列を介して融合タンパク質遺伝子に連結させることができる。自己開裂ペプチドの例はThosea asigna virus由来の2Aペプチド(T2A)であるが、これに限定されるものではない。自己開裂ペプチドとして蹄疫ウイルス(FMDV)由来の2Aペプチド(F2A)、ウマ鼻炎Aウイルス(ERAV)由来の2Aペプチド(E2A)、porcine teschovirus(PTV-1)由来の2Aペプチド(P2A)等が知られている。

【0020】
融合タンパク質遺伝子は大別して、目的糖タンパク質をコードする部分と結合配列ペプチドをコードする部分からなる。結合配列ペプチドをコードする配列には、結合配列ペプチドをコードする限り、様々な配列を採用することができる。例えば、結合配列ペプチドがSDLLMLLRQS(配列番号3)の場合であれば、agcgatctgctgatgctgctgagacagagcの配列(配列番号8)などを用いることができる。

【0021】
目的糖タンパク質をコードする配列と、結合配列ペプチドをコードする配列は直接又は他の配列(例えばペプチドリンカーをコードする配列や、プロテアーゼ認識配列をコードする配列)を介してインフレームで連結される。

【0022】
上記構成の発現ベクターは、例えば、以下の(a)~(c)の中のいずれかの方法で構築される。
(a)哺乳動物細胞発現用ベクターに対して、本発明の融合タンパク質遺伝子を挿入する方法
(b)本発明の結合配列ペプチドをコードする配列が組み込まれた哺乳動物細胞発現用ベクターに対して、該配列の上流に、目的糖タンパク質をコードする配列をインフレームで挿入する方法
(c)目的糖タンパク質をコードする配列を保持する哺乳動物細胞発現用ベクターに対して、該配列の下流に、本発明の結合配列ペプチドをコードする配列をインフレームで挿入する方法

【0023】
(a)の構築方法は、プロモーター等の発現に必要な要素に加え、クローニング部位を有するベクターを利用した構築方法である。クローニング部位は目的糖タンパク質をコードする遺伝子の挿入に利用される。クローニング部位としてマルチクローニング部位を備えることにしてもよい。本発明の融合タンパク質遺伝子をクローニング部位に挿入することにより、本願発明の生産方法に用いる発現ベクターが完成する。尚、この構築方法の利点の一つは、市販の汎用的なベクターを利用できることである。

【0024】
(b)の構築方法では、本発明の結合配列ペプチドをコードする配列が予め組み込まれたベクターが利用される。本発明の結合配列ペプチドをコードする配列の上流(5'末端側)には、目的糖タンパク質をコードする配列をインフレームで挿入するためのクローニング部位が備えられている。目的糖タンパク質をコードする配列をクローニング部位に挿入することにより、本発明の生産方法に用いる発現ベクターが完成する。この構築方法の場合、本発明の結合配列ペプチドが連結した目的糖タンパク質をコードする配列を用意する必要がない(即ち、目的糖タンパク質をコードする配列をそのまま使用できる)。従って、例えば、多種類の目的糖タンパク質を発現させる場合に特に有効といえる。

【0025】
(c)の構築方法は、上記二つの構築方法とは異なり、予め目的糖タンパク質をコードする配列を保持するベクターを利用する。この構築方法では、目的糖タンパク質をコードする配列の下流に、本発明の結合配列ペプチドをコードする配列をインフレームで挿入することにより、本発明の生産方法に用いる発現ベクターが完成する。本発明の結合配列ペプチドをコードする配列の挿入は、目的糖タンパク質をコードする配列と結合配列ペプチドをコードする配列がインフレームで連結されるようにする。この構築方法は、目的糖タンパク質をコードする配列を保持するベクターが利用可能な状態にあるとき(例えば、既に所有している場合(構築済み又は入手済み)、或いは容易に入手可能な場合)に特に有効である。

【0026】
(a)の構築方法においては、目的糖タンパク質をコードする配列と本発明の結合配列ペプチドをコードする配列との間にプロテアーゼ認識配列をコードする配列が介在する融合タンパク質遺伝子を挿入配列にすることにより、(b)の構築方法においては、例えば、本発明の結合配列ペプチドをコードする配列の上流にプロテアーゼ認識配列をコードする配列が配置された(クローニング部位は更に上流に設けられる)哺乳動物細胞発現用ベクターを利用することにより、(c)の構築方法においては、例えば、本発明の結合配列ペプチドとともにプロテアーゼ認識配列をコードする配列を挿入することにより、目的糖タンパク質をコードする配列と結合配列ペプチドをコードする配列との間にプロテアーゼ認識配列が介在する発現産物を得るための発現ベクターとなる。

【0027】
尚、哺乳動物細胞発現系に利用可能な発現ベクターが数多く開発されており、既存の発現ベクターを利用して本発明の発現ベクターを構築することができる。

【0028】
ステップ(i)で用意した発現ベクターは宿主哺乳動物細胞に導入される(ステップ(ii))。導入操作は常法で行えばよい。発現ベクターの宿主哺乳動物細胞への導入には、各種遺伝子導入法を利用することができる。例えば、感染(ウイルスベクターを使用する場合)、エレクトロポレーション(Potter,H. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 81, 7161-7165(1984))、リポフェクション(Felgner, P.L. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 84,7413-7417(1987))等の方法により形質転換を行うことができる。

【0029】
宿主哺乳動物細胞は分泌型タンパク質の発現が可能な哺乳動物細胞であれば特に限定されず、例えば、CHO細胞、BHK細胞、COS-7細胞、HeLa細胞、ナマルバ細胞、HEK293細胞、HCT116細胞、Jurkat細胞、HL-60細胞、PC-12細胞、A431細胞、U2OS細胞、K-562細胞、Expi293FTM細胞等を用いることができる。宿主哺乳動物細胞の動物種は例えば、ヒト、マウス、ラット、ハムスターである。

【0030】
ステップ(ii)に続くステップ(iii)では、発現ベクターが導入された形質転換哺乳動物細胞(形質転換体)を培養し、融合タンパク質を発現させる。培養条件は、形質転換体が生育し、融合タンパク質の発現が可能である限り、特に限定されない。標準的な培養条件を基準として必要に応じて修正を加えればよい。また、予備実験によって適当な培養条件を設定することが可能である。

【0031】
培地の組成は特に限定されない。培地の炭素源として例えば、マルトース、シュクロース、ゲンチオビオース、可溶性デンプン、グリセリン、デキストリン、糖蜜、有機酸等を用いることができる。また、窒素源として例えば硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、或いはペプトン、酵母エキス、コーンスティープリカー、カゼイン加水分解物、ふすま、肉エキス等を用いることができる。無機塩としてカリウム塩、マグネシウム塩、ナトリウム塩、リン酸塩、マンガン塩、鉄塩、亜鉛塩等を用いることができる。形質転換体の生育を促進するためにビタミン、アミノ酸などを添加した培地を使用してもよい。

【0032】
融合タンパク質を発現させた後、培養液から融合タンパク質を回収する(ステップ(2))。例えば、培養上清をろ過、遠心処理等することによって不溶物を除去した後、限外ろ過膜による濃縮、硫安沈殿等の塩析、透析、各種クロマトグラフィーなどを適宜組み合わせて分離、精製を行うことにより融合タンパク質を得ることができる。

【0033】
本発明の生産方法によれば、目的糖タンパク質のC末端側に本発明の結合配列ペプチドが連結されているという、特徴的な構造の融合タンパク質が得られる。一態様では、目的糖タンパク質と本発明の結合配列ペプチドが直結した状態(即ち、目的糖タンパク質の配列と本発明の結合配列ペプチドとの間に他のアミノ酸/アミノ酸配列が介在しない)の発現産物が得られる。プロテアーゼ切断部位を利用した場合(即ち、プロテアーゼ認識配列をコードする配列が組み込まれた発現ベクターを用いた場合)には、目的糖タンパク質の配列と本発明の結合配列ペプチドとの間にプロテアーゼ認識配列が介在した状態の発現産物が得られる。この態様の場合、発現産物をプロテーゼ処理することにより、結合配列ペプチドが切断(分離)された目的糖タンパク質を回収することが可能である。プロテアーゼ処理には、使用したプロテアーゼ切断部位に対応するプロテアーゼが用いられる。

【0034】
2.発現ベクター及びキット
本発明の生産方法に用いる発現ベクター(特にクローニング部位を有するもの)は汎用性に優れ、それ自体、有用性及び利用価値が高い。そこで本発明は別の局面として、本発明の生産方法に用いることができる発現ベクターを提供する。本発明の発現ベクターの構成は上記の通りであり、哺乳動物細胞発現系での目的糖タンパク質の発現に必要な要素を備える。

【0035】
本発明は更に、本発明の発現ベクターを含む目的糖タンパク質生産用キットも提供する。当該キットによれば、より簡便に本発明の生産方法を利用した目的糖タンパク質の生産が可能になる。本発明のキットには、主要構成成分として上記発現ベクターが含まれる。本発明の発現方法を実施する際に必要なその他の試薬、容器・器具、培地などを本発明のキットに含めてもよい。尚、通常、本発明のキットには取り扱い説明書が添付される。

【0036】
3.組換えタンパク質
本発明の生産方法によれば、特徴的な構造を有する融合タンパク質が得られる。上記の通り、本発明の生産方法が適用可能な糖タンパク質は特に限定されず、様々な目的糖タンパク質を生産することが可能である。目的糖タンパク質と結合配列ペプチドの間にプロテアーゼ認識部位を組み入れておけば、例えば精製処理後、或いは分画ないし分取後にプロテアーゼを作用させ、結合配列ペプチド部分を切断(分離)することが可能である。
【実施例】
【0037】
血液凝固第V第VIII因子欠乏症(FVFVIIID)の原因遺伝子産物として同定されているERGIC-53及びMCFD2は複合体を形成することで、FV及びFVIIIを小胞体からゴルジ体へ輸送する積荷受容体として機能している。ERGIC-53/MCFD2複合体に輸送されるFV及びFVIIIは共通のドメイン構造を有し、多くのN-結合型糖鎖に修飾された糖タンパク質である(図1)。FVIIIの分泌においてはBドメインのN末端領域の226残基が重要であることが報告されていること(非特許文献2)等から、ERGIC-53/MCFD2複合体がFVとFVIIIに共通する配列を認識している可能性がある。そこで、BドメインのN末端領域を詳細に検索したところ、約10残基の特徴的な共通配列(SDLL(-/M)LL(K/R)QS)(配列番号2)が見出された。この共通配列がERGIC-53/MCFD2複合体が結合する部分であると予想し、以下の実験を行った。
【実施例】
【0038】
1.ERGIC-53/MCFD2複合体の共通配列に対する結合性
標的にした10残基のペプチドSDLLMLLRQS(配列番号3)を含む15N標識施した第VIII因子ペプチドNATTIPENDIEKTDPWFAHRTPMPKIQNVSSSDLLMLLRQSPTPHGLSLSDLQEAKYETFSDD(配列番号9)に対してERGIC-53/MCFD2複合体を添加し、接触させた。添加前後のNMRスペクトルを図2に示す。ERGIC-53/MCFD2複合体の添加前後のシグナル強度を比較したところ、標的10残基由来のシグナル強度が顕著に減少していた(図3)。つまり、ERGIC-53/MCFD2複合体はこの10残基に主に結合していることが明らかになった。
【実施例】
【0039】
2.結合配列(共通配列)の欠損がERGIC-53/MCFD2複合体による輸送に与える影響
大腸がん細胞由来細胞のHCT116の野生型(WT)、ERGIC-53欠損細胞(ΔERGIC-53)及びMCFD2欠損細胞(ΔMCFD2)に、FVIIIもしくはFIIIからMCFD2結合配列であるSDLLMLLRQS(配列番号3)を除いた欠損変異体(FVIIIΔmotif)を過剰発現させ、VisuLizeTM FVIII Antigen Kit (Affinity Biologicals Inc., Canada)を用いて、培地へのFVIIIの分泌量を評価した。その結果、ERGIC-53、MCFD2の各ノックアウト細胞においては、FVIIIの分泌量が減少しており(図4)、この結果はすでに報告されている、FVIIIの分泌にはERGIC-53及びMCFD2が必要である事実と矛盾しない。また、WT細胞において、FVIIIΔmotifの分泌量は、FVIIIと比較して減少した。このMCFD2結合配列欠損に伴う分泌量の低下は、各ノックアウト細胞におけるFVIIIの分泌量の低下とよく一致している。このことは、MCFD2結合配列が欠損したことで、ERGIC-53/MCFD2複合体による輸送ができなくなったことを示唆している。
【実施例】
【0040】
3.結合配列の付加による、目的糖タンパク質の分泌量変化
ERGIC-53及びMCFD2が、それぞれN-結合型糖鎖及びMCFD2認識配列を認識し輸送しているのであれば、N-結合型糖鎖を有する他の糖タンパク質に共通配列を付加することでERGIC-53/MCFD2複合体により輸送される可能性があると考えた。そこで、モデル糖タンパク質としてエリスロポエチン(EPO)を用い、この可能性を検証した。具体的には、HCT116の野生型、ERGIC-53欠損株(ΔERGIC-53)、MCFD2欠損株(ΔMCFD2)細胞にEPOもしくはEPO-モチーフ(図5)を過剰発現させ、ELISAにより培地へのEPOの分泌量を測定した。実験方法の概要を以下に示す。
【実施例】
【0041】
EPOの28~193残基がコードされた遺伝子を鋳型として用い、EPO、MCFD2結合配列融合EPO(EPO-モチーフ)のDNA断片(図6、配列番号10)を調製し、N-terminal 3×Flag-CMV9ベクター(Sigma-Aldrich Co.)へ、制限酵素HindIII/XbaIを用いて組み込むことにより、それぞれの発現プラスミドを構築した。発現プラスミドをHCT116細胞に遺伝子導入した。48時間培養後、培地を回収した。
【実施例】
【0042】
興味深いことにWT細胞において、EPOと比較してEPO-モチーフは分泌量が増加していた。また、各ノックアウト細胞においては、MCFD2結合配列を付加しても、WT細胞におけるEPOの分泌量の増加が認められなかった(図7)。このことから、MCFD2結合配列を付加することで、EPOがERGIC-53/MCFD2複合体により輸送され、分泌量が上昇したことが想定される。
【実施例】
【0043】
4.結合配列の配列厳密性/規則性の検討
MCFD2結合配列に変異を組み込んだ3種類の配列を用意し、これらを付加したEPOをHCT116細胞で過剰発現させ、ELISAにより培地への分泌量を測定した。尚、上記実験で調製したEPO-モチーフの発現プラスミドを鋳型として利用することにより、MCFD2結合配列に変異を組み込んだ配列を付加したEPO(EPO-モチーフ変異体1、2、3)の発現プラスミドを構築した。
【実施例】
【0044】
SALLMLLRQS(配列番号4)又はSDLLMLLAQS(配列番号5)を付加したEPO(図8)の場合には、FVIIIのMCFD2結合配列を付加したときと同様に、EPOの分泌量の増加が認められた。一方、SDAAAAARQS(配列番号7)を付加したEPO(図8)の場合には、MCFD2結合配列を付加していない野生型のEPOと比較して、分泌量の増加は認められなかった(図9)。
【実施例】
【0045】
5.結合配列の付加位置による効果の違い
可溶型FcγRIIIa(sFcγRIIIa)に対してMCFD2結合配列(配列番号3)、又はMCFD2結合配列を含む領域(786-838)(配列番号11)をN末端又はC末端に結合させた発現プラスミドを作成した。HCT116細胞に一連の発現プラスミドを発現させたところ、sFcγRIIIaのC末端に対してMCFD2結合配列又はMCFD2結合配列を含む領域(786-838)を付加したものの発現量の上昇が認められた(図10)。こうした結果より、C末端側へのMCFD2結合配列の付加が発現量上昇に必要であることが考えられる。
【実施例】
【0046】
6.結合配列の糖鎖修飾への影響
上記の通り、MCFD2結合配列の付加によりEPOの分泌量が増加することが示された。EPOがERGIC-53/MCFD2複合体に輸送されることにより、分泌量が増加したと考えられる。MCFD2結合配列の機能を更に検討すべく、糖鎖修飾への影響を調べた。具体的には、EPOのN-結合型糖鎖に着目し、糖鎖分析を行うことした。
【実施例】
【0047】
Expi293FTM細胞にEPOもしくは、MCFD2結合配列を付加させたEPO(EPO-モチーフ)を過剰発現させ、精製したタンパク質に対して、ウエスタンブロット及びレクチンブロットを行った。抗FLAG抗体を用いたウエスタンブロットにより、EPO及びEPO-モチーフが発現していることが確認できた。Con Aを用いたレクチンブロットにおいては、ほぼ同程度のシグナル強度が検出されており、MCFD2結合配列の付加はハイマンノース型糖鎖に対してあまり影響を与えていないことが示された。MAMを用いたレクチンブロットにおいては、EPO-モチーフは、EPOと比較して、著しく強いシグナルが検出された(図11)。MAMはシアル酸の付加している糖鎖に対して、高い親和性を有することから、MCFD2結合配列の付加により、シアリル化型糖鎖が増加したことが示唆された。即ち、MCFD2結合配列の付加は、糖タンパク質の発現増大のみならず、シアリル化型糖鎖の増加という、予想外の効果をももたらすことが明らかとなった。同様な効果はFcRに対しても認められた(図12)。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によれば、医薬、食品、研究試薬等として利用される糖タンパク質を効率的に生産することができる。特に、シアリル化型糖鎖を含む糖タンパク質の生産に本発明が利用、応用されることが期待される。
【0049】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
【配列表フリ-テキスト】
【0050】
配列番号1:人工配列の説明:結合配列ペプチド
配列番号2:人工配列の説明:共通配列ペプチド
配列番号4:人工配列の説明:結合配列ペプチド
配列番号5:人工配列の説明:結合配列ペプチド
配列番号7:人工配列の説明:変異モチーフ
配列番号8:人工配列の説明:結合配列ペプチドをコードする配列
配列番号10:人工配列の説明:EPO-モチーフの人工遺伝子
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11