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明細書 :pH応答性リポソーム

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-019059 (P2019-019059A)
公開日 平成31年2月7日(2019.2.7)
発明の名称または考案の名称 pH応答性リポソーム
国際特許分類 A61K  47/36        (2006.01)
A61K   9/127       (2006.01)
FI A61K 47/36
A61K 9/127
請求項の数または発明の数 9
出願形態 OL
全頁数 23
出願番号 特願2017-136235 (P2017-136235)
出願日 平成29年7月12日(2017.7.12)
発明者または考案者 【氏名】弓場 英司
【氏名】深谷 佳樹
出願人 【識別番号】505127721
【氏名又は名称】公立大学法人大阪府立大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100065248、【弁理士】、【氏名又は名称】野河 信太郎
【識別番号】100159385、【弁理士】、【氏名又は名称】甲斐 伸二
【識別番号】100163407、【弁理士】、【氏名又は名称】金子 裕輔
【識別番号】100166936、【弁理士】、【氏名又は名称】稲本 潔
【識別番号】100174883、【弁理士】、【氏名又は名称】冨田 雅己
審査請求 未請求
テーマコード 4C076
Fターム 4C076AA19
4C076AA95
4C076DD63
4C076EE30
4C076EE37
4C076EE38
4C076FF61
要約 【課題】pHに応答して内容物を放出でき、ひいては細胞の細胞質へ目的物質を効率的に送達できるリポソームを提供することを課題とする。
【解決手段】少なくとも1つのカルボキシル基を有するカルボキシル基含有多糖由来部分と、疎水性部分と、末端マンノース基とを有し、末端マンノース基がリンカーを介してカルボキシル基含有多糖由来部分に結合したpH応答性物質をリポソーム膜に保持してなるpH応答性リポソームにより、上記の課題を解決する。
【選択図】図7
特許請求の範囲 【請求項1】
少なくとも1つのカルボキシル基を有するカルボキシル基含有多糖由来部分と、疎水性部分と、末端マンノース基とを有し、末端マンノース基がリンカーを介してカルボキシル基含有多糖由来部分に結合したpH応答性物質をリポソーム膜に保持してなるpH応答性リポソーム。
【請求項2】
リンカーが、一般式:-X-R-Y- (式中、Rは炭素数が1~10の直鎖又は分岐鎖の二価脂肪族基;炭素数が3~10の二価脂環式基;又は炭素数が6~10の二価芳香族基であり、前記二価脂肪族基及び二価脂環式基はヘテロ原子を有してもよく、不飽和結合を含んでいてもよく;X及びYは各々独立して結合手、又は-O-、-NH-若しくは-CO-である)で表される請求項1に記載のpH応答性リポソーム。
【請求項3】
カルボキシル基含有多糖由来部分中の多糖部分のヒドロキシル基への末端マンノース基の導入率が0.5~10%である請求項1又は2に記載のpH応答性リポソーム。
【請求項4】
カルボキシル基含有多糖由来部分が、生体由来多糖を用いて得られるカルボキシル基含有半合成多糖に由来し、生体由来多糖が、グルコース、マンノース、ガラクトース及び/又はその誘導体を構成単位とする多糖である請求項1~3のいずれか1項に記載のpH応答性リポソーム。
【請求項5】
生体由来多糖が、β-グルカン、デキストラン、ヒアルロン酸及びマンナンより選択される請求項4に記載のpH応答性リポソーム。
【請求項6】
カルボキシル基含有多糖由来部分が、生体由来多糖とジカルボン酸とから得られ、ジカルボン酸が一般式:HOOC-R1-COOH(R1は、結合手、主鎖部分の炭素数が1~10で直鎖状若しくは分岐鎖状であってよいアルキレン基(分岐鎖の炭素数は1~4である)、環状部分の炭素数が3~10で、置換されていてもよいシクロアルキレン基(置換基は炭素数1~4のアルキル基である)、炭素数1~4のアルキル基で置換されていてもよいフェニレン基、炭素数1~4のアルキル基で置換されていてもよいフェニルアルキレン基(フェニルアルキレン基のアルキル部分の炭素数は1~4である)である)で表されるジカルボン酸、並びにマレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、2-ペンテン二酸、メチレンコハク酸、アリルマロン酸、イソプロピリデンコハク酸、2,4-ヘキサジエン二酸及びアセチレンジカルボン酸からなる群より選択される請求項1~5のいずれか1項に記載のリポソーム。
【請求項7】
ジカルボン酸が一般式:HOOC-R1-COOH(R1は、結合手;C1~C2アルキル基で置換されていてもよいC1~C4アルキレン基;C1~C2アルキル基で置換されていてもよいシクロへキシレン基;又はC1~C2アルキル基で置換されていてもよいフェニレン基である)で表されるジカルボン酸からなる群より選択される請求項6に記載のリポソーム。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のリポソームと、薬剤とからなるpH応答性薬剤放出システム。
【請求項9】
少なくとも1つのカルボキシル基を有するカルボキシル基含有多糖由来部分と、疎水性部分と、末端マンノース基とを有し、末端マンノース基がリンカーを介してカルボキシル基含有多糖由来部分に結合したpH応答性物質を含むpH応答性リポソーム製造用試薬。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ性のpH条件下では安定であるが、穏やかな酸性条件下で膜融合性となって内包物を放出できるpH応答性リポソームに関する。
【背景技術】
【0002】
患者本人の免疫を利用するガン免疫療法は、副作用の少ない治療法として注目されている。免疫療法の成功には、標的細胞(ガン細胞)を直接かつ特異的に攻撃できる細胞傷害性T細胞を活性化することが必須であり、そのためには、専門的抗原提示細胞である樹状細胞にがん抗原を導入してがん特異的な免疫を誘導する必要がある。
【0003】
本発明者らのグループは、これまでに、カルボキシル基含有多糖由来部分と疎水性部分とを有するpH応答性物質を創製し、このpH応答性リポソームを用いて、生体適合性が高く、細胞質へ効率良く内包物(例えば、抗原)を送達できる送達システムを開発している(特許文献1、非特許文献1)。これは、エンドソーム内環境が弱酸性であることを利用しており、脂質二重膜から成るカプセルであるリポソームがエンドサイトーシスなどにより細胞内に取り込まれると、リポソーム膜(脂質二重膜)に保持されたpH応答性物質中のカルボキシ基が弱酸性環境に応答してプロトン化することにより(膜表面において)疎水化し、その結果、リポソーム膜が不安定化して破壊されると同時にエンドソーム膜と融合し、内包物を細胞質に放出するものである。
【0004】
樹状細胞のような免疫細胞は、細菌の細胞壁の構成成分であるマンナンを認識するために、細胞表面にマンノースレセプターを有することが知られている。したがって、上記pH応答性リポソームにおいて、多糖としてマンナンを用いれば、そのようなリポソームは、細胞により認識されて取り込みが促進されると考えられた。
しかし、実際にマンナンを多糖として用いた場合には、リポソームの細胞取り込みの促進は観察されなかった(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2012-232949
【0006】

【非特許文献1】E. Yubaら,Biomaterials,120,32-45 (2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
依然として、細胞に内包物を効率よく送達できる方法の開発が望まれている。
本発明は、pH応答性及び/又は細胞取り込みが更に向上し、内包物をより効率良く細胞質に送達できるpH応答性リポソームを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
よって、本発明は、少なくとも1つのカルボキシル基を有するカルボキシル基含有多糖由来部分と、疎水性部分と、末端マンノース基とを有し、末端マンノース基がリンカーを介してカルボキシル基含有多糖由来部分に結合したpH応答性物質をリポソーム膜に保持してなるpH応答性リポソームを提供する。
【0009】
また、本発明は、上記のpH応答性リポソームと薬剤とからなるpH応答性薬剤放出システムも提供する。
また、本発明は、少なくとも1つのカルボキシル基を有するカルボキシル基含有多糖由来部分と、疎水性部分と、末端マンノース基とを有し、末端マンノース基がリンカーを介してカルボキシル基含有多糖由来部分に結合したpH応答性物質を含むpH応答性リポソーム製造用試薬も提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のpH応答性リポソームは、リポソーム膜内に保持された内包物を(例えば、樹状細胞の)細胞質へ送達する能力に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】4-アミノフェニル α-D-マンノピラノシド(上)及びMGlu-Curd-Man(下)の1H NMRスペクトル(400 MHz,D2O + NaOD)。
【図2】MGlu-Curd-A-Ph-Man (1)の1H NMRスペクトル(400 MHz,D2O + NaOD)。
【図3】MGlu-Curd-A-Ph-Man (2)の1H NMRスペクトル(400 MHz,D2O + NaOD)。
【図4】MGlu-Curd-A-S-Manの1H NMRスペクトル(400 MHz,D2O + NaOD)。
【図5】未修飾リポソーム及び末端マンノース基含有/不含pH応答性物質修飾リポソームからのピラニン放出の時間経過(37℃、pH7.4 PBS中)。液体濃度:2×10-5M。
【図6】未修飾リポソーム及び末端マンノース基含有/不含pH応答性物質修飾リポソームからのピラニン放出の時間経過(37℃、pH5.8 PBS中)。液体濃度:2×10-5M。
【図7】37℃にて30分間のインキュベーション後の、未修飾リポソーム及び末端マンノース基含有/不含pH応答性物質修飾リポソームからのピラニン放出のpH依存性。液体濃度:2×10-5M。
【図8】37℃での未修飾リポソーム及び末端マンノース基含有/不含pH応答性物質修飾リポソームからのピラニン放出のpH依存性。液体濃度:2×10-5M。
【図9】未修飾及び末端マンノース基含有/不含pH応答性物質修飾リポソームのRAW264細胞による取り込み。RAW264細胞を、取り込み阻害剤(遊離マンノース)又はPBSとのインキュベーション(37℃,1時間)後に無血清MEM中でDiI標識リポソーム(0.1 mM)と37℃にて4時間インキュベートした。DiIの蛍光強度はフローサイトメータで測定した。
【図10】未修飾及び末端マンノース基含有/不含pH応答性物質修飾リポソームのRAW264細胞による取り込み。FITC-OVAを内包するDiI標識リポソーム(0.1 mM脂質)と無血清MEM中でインキュベート(37℃,4時間)したRAW264細胞の共焦点レーザ走査顕微鏡(CLSM)画像。上から、第一列目:未修飾リポソーム;第二列目:第三列目:第四列目:についての結果を示す。左から、第一欄目:無蛍光画像;第二欄目:Dil蛍光画像;第三欄目:FITC蛍光画像;第四欄目:Dil蛍光画像とFITC蛍光画像の重ね合わせ(merge)画像を示す。
【図11】コンカナバリンA共存下での、未修飾リポソーム及び末端マンノース基含有/不含pH応答性物質修飾リポソームの懸濁液の濁度(OD 360 nm)の増加
【図12】コンカナバリンA共存下での、末端マンノース基含有pH応答性物質修飾リポソームの懸濁液の濁度(OD 360 nm)の増加に及ぼす過剰の遊離マンノース添加の影響。橙色:遊離マンノースの添加あり;茶色:遊離マンノースの添加なし;青色:未修飾リポソーム。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のpH応答性リポソームは、少なくとも1つのカルボキシル基を有するカルボキシル基含有多糖由来部分と、疎水性部分と、末端マンノース基とを有し、末端マンノース基がリンカーを介してカルボキシル基含有多糖由来部分に結合したpH応答性物質をリポソーム膜に保持してなることを特徴とする。
本発明は、下記の実施例で詳述するように、末端マンノース基がリンカーを介してカルボキシル基含有多糖由来部分に結合しているpH応答性リポソームが、そうでないpH応答性リポソームより効率的に内包物を細胞に送達し得るという知見に基づくものである。

【0013】
本明細書において、「pH応答性リポソーム」とは、高pH条件下では、その内包物を安定的に保持する一方、低pH条件下では、内包物の一部又は全部を放出し得るリポソームをいう。理論により拘束されることを意図しないが、この内包物の放出は、リポソーム膜自体を不安定化するリポソームの能力、リポソーム膜が別の脂質二重膜などと融合することによるリポソームの膜融合性の増加のいずれか又は両方によるものであると考えられる。

【0014】
本明細書において、本発明のリポソームが内包物を放出できる「低pH条件」は、生物(好ましくは哺乳動物[特にヒト])における細胞内環境に類似するpH条件であり得、例えばpH7.0未満である。低pH条件の下限は、特に限定されないが、例えばpH4.0であり得、好ましくはpH5.0、より好ましくはpH5.5であり得る。
一方、「高pH条件」は、生物における細胞外環境に類似するpH条件であり得、例えばpH7.3以上である。

【0015】
本明細書において、「内包物の一部」とは、リポソーム膜で囲まれた閉鎖空間に内包された物質の少なくとも10%、より好ましくは少なくとも15%、さらにより好ましくは少なくとも20%、さらにより好ましくは少なくとも30%、さらにより好ましくは少なくとも40%、さらにより好ましくは少なくとも50%、さらにより好ましくは少なくとも60%、さらにより好ましくは少なくとも70%、さらにより好ましくは少なくとも80%、さらにより好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも99%のことである。

【0016】
本明細書において、「リポソーム膜に保持する」とは、保持される成分の少なくとも一部分がリポソーム膜を構成する膜脂質成分中に疎水性相互作用などにより埋め込まれている状態のことをいう。
本明細書において、「生体(に)由来(する)」とは、天然に生体内で見出されることをいう。

【0017】
<pH応答性物質>
本発明のpH応答性リポソームは、少なくとも1つのカルボキシル基を有するカルボキシル基含有多糖由来部分と、疎水性部分と、末端マンノース基とを有し、末端マンノース基がリンカーを介してカルボキシル基含有多糖由来部分に結合したpH応答性物質をリポソーム膜に保持することを特徴とする。
リポソーム膜に保持されたpH応答性物質は、低pH条件下(例えば、pH7.0未満)で、そのカルボキシル基含有多糖由来部分のカルボキシル基がプロトン化される結果、多糖成分がリポソーム膜と相互作用することが可能となる。この相互作用の結果、リポソーム膜(脂質二重膜)が不安定化され、かつ/又はリポソームが取り込まれたエンドソーム及びリソソームの膜構造(脂質二重膜)が不安定化され、かつ/又はエンドソーム及びリソソームの膜とリポソーム膜との融合が可能になる。また、pH応答性物質は、疎水性部分の少なくとも一部分がリポソームの脂質二重膜と疎水性相互作用などにより結合することにより、リポソーム膜に保持される。

【0018】
カルボキシル基含有多糖由来部分は、カルボキシル基を有する生体に由来する多糖及び生体由来多糖を用いて得られるカルボキシル基含有半合成多糖から選択されるカルボキシル基含有多糖に由来する。カルボキシル基含有生体由来多糖としては、グルクロン酸、ガラクツロン酸、マンヌロン酸などのウロン酸を分子内に持つ化合物、例えばヒアルロン酸、コンドロイチン、ペクチン、ヘパリン、キサンタンガム、アラビアゴム、グアーガム、へパラン硫酸、アルギン酸及びそれらの誘導体が挙げられる。カルボキシル基含有半合成多糖は、多糖が有するヒドロキシ基にエーテル結合によりカルボキシル基を導入したもの(例えばカルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルキチン、カルボキシメチルデンプン、カルボキシメチルデキストランなど)、ヒドロキシ基にエステル結合によりカルボキシル基を導入したもの(例えば、多糖とジカルボン酸とのアシル化反応生成物)、ヒドロキシ基にウレタン結合やカーボネート結合によりカルボキシル基を導入したものなどが挙げられる。カルボキシル基の量を調整できる点で、カルボキシル基含有多糖は、カルボキシル基含有半合成多糖が好ましい。

【0019】
カルボキシル基含有半合成多糖が由来する多糖は、単糖(ポリヒドロキシアルデヒド及びポリヒドロキシケトン)又はその誘導体(例えばアセチルグルコサミン)がグリコシド結合で連結された構造を有する分子であれば特に限定されず、ホモ多糖及びヘテロ多糖のいずれであってもよい。多糖は、好ましくは、生体由来多糖又はその派生物である。生体由来多糖としては、例えばデンプン、アミロース、アミロペクチン、ペクチン、キシラン、マンナン、ガラクタン、デキストラン、デキストリン、シクロデキストリン、キチン、ヒアルロン酸、コンドロイチン、ペプチドグリカン類、アルギン酸、プルラン、グリコーゲン、βグルカン(セルロース、レンチナン、ラミナラン、カロース、カードラン、シゾフィラン)などが挙げられる。生体由来多糖の派生物としては、例えばこれらの多糖の分解産物などが挙げられる。
カードランやシゾフィランは、アジュバント効果(免疫賦活化効果)を有することが知られているので、このような多糖を用いる実施形態は、本発明のリポソームをワクチンとして用いる場合に好ましい。

【0020】
生体由来多糖としては、アルドヘキソース及び/又はその誘導体を主要な構成単位として含む多糖が好ましく、アルドヘキソース及び/又はその誘導体のみを構成単位とする多糖がより好ましい。
好ましいアルドヘキソースとしては、グルコース、マンノース及びガラクトースが挙げられ、より好ましくはグルコース及びマンノースであり、更に好ましくはグルコースである。
グルコースの好ましい誘導体としては、例えば、グルクロン酸及びN-アセチルグルコサミンが挙げられる。マンノースの好ましい誘導体としては、例えば、マンヌロン酸が挙げられる。ガラクトースの好ましい誘導体としては、例えば、ガラクツロン酸及びN-アセチルガラクトサミンが挙げられる。
より好ましくは、生体由来多糖は、β-グルカン、デキストラン、ヒアルロン酸及びマンナンからなる群より選択され、更に好ましくは、カードラン、デキストラン、ヒアルロン酸及びマンナンより選択され、尚更に好ましくは、カードラン、デキストラン及びヒアルロン酸より選択される。
生体由来の多糖におけるアルドヘキソース及び/又はその誘導体以外の構成単位としては、ケトヘキソースが挙げられる。
好ましいケトヘキソースとしては、フルクトースが挙げられる。
構成単位としてケトヘキソースを含む生体由来多糖は、例えば、イヌリンである。

【0021】
カルボキシル基含有多糖部分の分子量は、特に限定されないが、取り扱い及び入手が容易な点で、1,000~40,000,000であり、より好ましくは5,000~250,000である。

【0022】
カルボキシル基含有半合成多糖において、多糖が有する全てのヒドロキシ基の数に対するカルボキシル基と結合したヒドロキシ基の数を表すカルボキシル基結合率(%)は、100%が好ましいが、上限は95%であってもよく、例えば90%であってもよく、80%であってもよい。また、下限は、10%であってもよく、20%であってもよく、30%であってもよい。このような結合率は、実施例に示すように、1H-NMRを用いて決定できる。
カルボキシル基結合率を調節することにより、pH応答性リポソームが内包物を放出するpHを調節できると考えられる。

【0023】
多糖のヒドロキシ基にエステル結合によりカルボキシル基を導入したカルボキシル基含有半合成多糖としては、多糖とジカルボン酸無水物又はハロゲン化ジカルボン酸とのアシル化反応生成物が挙げられる。用いるジカルボン酸は、HOOC-R1-COOHで表されるジカルボン酸であり得る。ここで、R1は、結合手、主鎖部分の炭素数が1~10で直鎖状若しくは分岐鎖状であってよいアルキレン基(分岐鎖の炭素数は1~4である)、環状部分の炭素数が3~10で、置換されていてもよいシクロアルキレン基(置換基は炭素数1~4のアルキル基である)、炭素数1~4のアルキル基で置換されていてもよいフェニレン基、炭素数1~4のアルキル基で置換されていてもよいフェニルアルキレン基(フェニルアルキレン基のアルキル部分の炭素数は1~4である)であり得る。1つの具体的実施態様において、R1は、結合手;C1~C2アルキル基で置換されていてもよいC1~C4アルキレン基;C1~C2アルキル基で置換されていてもよいシクロへキシレン基;又はC1~C2アルキル基で置換されていてもよいフェニレン基である。

【0024】
ジカルボン酸の具体例としては、シュウ酸、マロン酸、メチルマロン酸、コハク酸、2-メチルコハク酸、グルタル酸、2-若しくは3-メチルグルタル酸、アジピン酸、2-若しくは3-メチルアジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、o-、m-若しくはp-フタル酸、3-若しくは4-メチルフタル酸、1,2-、1,3-若しくは1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、4-メチルシクロヘキサン1,2-ジカルボン酸、及び不飽和結合を持つジカルボン酸(マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、2-ペンテン二酸、メチレンコハク酸、アリルマロン酸、イソプロピリデンコハク酸、2,4-ヘキサジエン二酸、アセチレンジカルボン酸など)などが挙げられ得る。

【0025】
多糖のヒドロキシ基にエーテル結合によりカルボキシル基を導入したカルボキシル基含有半合成多糖も、当該技術において公知の方法により製造できる。また、このような物質は、工業的にも製造されているので、市販品をカルボキシル基含有多糖として本発明において用いることもできる。

【0026】
pH応答性物質が有する疎水性部分は、pH応答性物質をリポソーム膜に保持するように機能する部分である。
よって、疎水性部分は、脂質二重膜に保持され得る疎水性基であればよい。脂質二重膜に保持され得る疎水性基としては、例えば主鎖の炭素数が6~22で直鎖状又は分岐鎖状の脂肪族基、環状部分の炭素数が合計で19~29、好ましくは19~27の脂環式基(これらの脂肪族基及び脂環式基は、窒素原子、酸素原子などのヘテロ原子を有してもよく、不飽和結合を含んでいてもよい)、リン脂質に由来する基などが挙げられる。
上記の脂肪族基としては、主鎖の炭素数が6~22の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、主鎖の炭素数が6~22で1~4個の不飽和結合を有する直鎖状又は分岐鎖状のアルケニル又はアルキニル基などが挙げられる。上記の脂環式基としては、ステロール骨格を有する基(例えばコレステリル基)が挙げられる。リン脂質に由来する基としては、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロールなどのリン脂質に由来する基が挙げられる。これらのリン脂質の構成脂肪酸としては、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキドン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などが挙げられる。

【0027】
疎水性部分は、カルボキシル基含有多糖のヒドロキシ基に結合してもよく(すなわち多糖の主鎖に結合する)、カルボキシル基含有多糖のカルボキシル基に結合してもよい(すなわち多糖の側鎖に結合する)。
よって、疎水性部分とカルボキシル基含有多糖由来部分との間の結合は、エーテル結合、ウレタン結合、尿素結合、エステル結合、アミド結合及びカーボネート結合から選択できる。

【0028】
本発明に係るpH応答性物質は、カルボキシル基含有多糖由来部分にリンカーを介して結合した末端マンノース(残)基を有する。ここで、当該末端マンノース基は、カルボキシル基含有多糖由来部分に含まれる多糖に由来するものではない。
末端マンノース基は好ましくはα-D-マンノース基である。
末端マンノース基は、リンカーを介して、カルボキシル基含有多糖のヒドロキシ基(すなわち、多糖の主鎖)に結合していても、カルボキシル基含有多糖のカルボキシル基(すなわち、多糖の側鎖)に結合していてもよい。よって、リンカー基とカルボキシル基含有多糖由来部分との間の結合は、エーテル結合、ウレタン結合、尿素結合、エステル結合、アミド結合及びカーボネート結合から選択できる。
リンカー基は、末端マンノース基のヒドロキシ基に、エーテル結合、ウレタン結合、エステル結合又はカーボネート結合により結合していることができる。

【0029】
リンカー基は、一般式:-X-R-Y-で表され、式中、Rは炭素数が1~10、好ましくは4~9、より好ましくは5~7の直鎖又は分岐鎖の二価脂肪族基;炭素数が3~10、好ましくは4~9、より好ましくは5~7の二価脂環式基;又は炭素数が6~10、好ましくは6~9、より好ましくは6~7の二価芳香族基であり、前記二価脂肪族基及び二価脂環式基は、窒素原子、酸素原子、硫黄原子などのヘテロ原子を有してもよく、不飽和結合を含んでいてもよく;X及びYは各々独立して結合手、又は-O-、-NH-若しくは-CO-である。
二価脂肪族基の具体例として、炭素数が合計で10以下となることを条件として、C1~C4アルキル基(好ましくはメチル基又はエチル基)で置換されていてもよい、-(CH2)n- (式中、n=5~7)、-(CH2)p-O-(CH2)q-、-(CH2)p-NH-(CH2)q-、-(CH2)p-S-(CH2)q (式中、p+q=4~6)などが挙げられる。

【0030】
二価脂環式基の具体例として、炭素数が合計で10以下となることを条件として、C1~C4アルキル基(好ましくはメチル基又はエチル基)で置換されていてもよいシクロペンチレン(-C58-)基、シクロへキシレン(-C610-)基及びシクロヘプタレン(-C712-)基(いずれも、とり得る全ての異性体を含む)などが挙げられ得る。
二価芳香族基にはアリーレン基及びアラルキレン基が含まれる。二価芳香族基の具体例としては、炭素数が合計で10以下となることを条件としてC1~C4アルキル基(好ましくはメチル基又はエチル基)で置換されていてもよいフェニレン(-C64-)基、メチレンフェニレン(-CH2-C64-)基(いずれもとり得る全ての異性体を含む)などが挙げられ得る。

【0031】
pH応答性物質は、例えば、先ず、カルボキシル基含有多糖と疎水性基を有する物質とを上記のいずれかの結合を形成するように反応させた(反応1)後、得られた物質とマンノース基にリンカー基が結合した物質とを上記のいずれかの結合を形成するように反応させる(反応2)ことにより得ることができる。
マンノース基にリンカー基が結合した物質としては、5-アミノペンチル α-D-マンノピラノシド、6-アミノヘキシル α-D-マンノピラノシド、7-アミノヘプチル α-D-マンノピラノシド、5-アミノ-2-チアペンチル α-D-マンノピラノシド、5-アミノ-3-チアペンチル α-D-マンノピラノシド、5-アミノ-4-チアペンチル α-D-マンノピラノシド、6-アミノ-4-チアヘキシル α-D-マンノピラノシド、6-アミノ-3-チアヘキシル α-D-マンノピラノシド、7-アミノ-2-チアヘプチル α-D-マンノピラノシド、7-アミノ-3-チアヘプチル α-D-マンノピラノシド、7-アミノ-4-チアヘプチル α-D-マンノピラノシド、4-アミノフェニル α-D-マンノピラノシドなどが挙げられる。

【0032】
カルボキシル基含有多糖が有するカルボキシル基の全数に対する疎水性部分(「アンカー」とも呼ぶ)と結合したカルボキシル基の数で表されるアンカー率(%)は、1~20%が好ましく、5~15%がより好ましい。
リポソーム表面でのマンノース提示の評価結果などに基づくと、カルボキシル基含有多糖由来部分中の多糖部分のヒドロキシル基へのマンノース基の導入率は、0.5%以上が好ましく、1%以上、1.5%以上がより好ましく、2%以上が更に好ましい。一方、マンノース基の導入率は、10%以下が好ましく、5%以下、4%以下がより好ましい。
アンカー率及びマンノース基導入率は、実施例に示すように、1H-NMRを用いて決定できる。

【0033】
上記の反応において、反応1において反応させるカルボキシル基含有多糖と疎水性基を有する物質との重量比及び反応2において反応させる(疎水性基を有する)カルボキシル基含有多糖とマンノース基を有する物質との重量比は、pH応答性物質に導入される疎水性基及びマンノース基の所望の量に応じて、適宜選択できる。

【0034】
<pH応答性リポソーム>
本発明のpH応答性リポソームは、上記のpH応答性物質を保持してなる。
pH応答性リポソームの粒径は、動的光散乱(25℃及び40℃)により測定して、0.03~10μmが好ましく、より好ましくは0.05~0.2μm、さらにより好ましくは0.05~0.15μmである。
pH応答性リポソームは、上記の範囲の粒径を有していれば、一層の脂質二重膜からなる単層リポソーム、又は複数の脂質二重層からなる多重層リポソームのいずれであってもよい。

【0035】
pH応答性リポソームを構成するリポソーム膜構成脂質は、リポソームに通常用いられる両親媒性の脂質を用いることができる。このような脂質としては、例えばホスファチジン酸、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、カルジオリピン、スフィンゴミエリン、大豆ホスファチジルコリン、卵黄ホスファチジルコリンなどのリン脂質が挙げられる。これらのリン脂質の構成脂肪酸としては、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキドン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などが挙げられる。これらは単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。特に、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミンが好ましい。

【0036】
また、リポソーム膜構成脂質としては、上記のリン脂質の他に、公知のカチオン性の合成脂質を用いることもできる。このようなカチオン性の合成脂質としては、例えばN-(α-トリメチルアンモニオアセチル)-ジドデシルグルタメート、N-〔1-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル〕-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド及び1,2-ビス(オレオイルオキシ)-3-(トリメチルアンモニオ)プロパンなどの第4級アンモニウム塩が挙げられる。これらの脂質は、単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
リポソーム膜構成脂質には、コレステロール、ラノステロール、エルゴステロールなどのステロールが含まれていてもよい。

【0037】
本発明のpH応答性リポソームにおいて、リポソームの膜構成脂質とpH応答性物質との重量比は、1:0.01~10が好ましく、より好ましくは1:0.05~9であり、さらにより好ましくは1:0.1~1である。

【0038】
pH応答性リポソームは、そのpH応答性が損なわれないことを条件として、上記の膜構成脂質以外のリポソームの構成成分として通常用い得る成分を含むこともできる。リポソームの構成成分として通常用い得る成分としては、例えばポリエチレングリコール脂質、ガングリオシドのような糖脂質などが挙げられる。

【0039】
pH応答性リポソームは、上記のpH応答性物質とリポソーム膜構成脂質と所望により上記のリポソームの構成成分として通常用い得る成分とを用いて、それ自体公知のリポソームの製造方法により得ることができる。
それ自体公知のリポソームの製造方法としては、エクストルーダー法、超音波法、フレンチプレス法などが挙げられる。

【0040】
例えば、エクストルーダー法によりpH応答性リポソームを製造する方法について説明する。所定量のリポソーム膜構成脂質を、クロロホルム、メタノール、ヘキサンなどの適当な有機溶媒に溶解させた溶液をエバポレーターに入れて溶媒を除去し、容器壁に薄膜を形成させる。ここに、pH応答性物質を上記のような適当な有機溶媒に溶解させた溶液を入れ、エバポレーターで溶媒を除去し、混合薄膜を形成させる。この膜は、さらに3~12時間程度真空乾燥させることが好ましい。次いで、この容器内に緩衝液などの適当な溶液を投入し、超音波処理又はボルテックスミキサーなどを用いて強く攪拌することによりリポソームを形成させることができる。得られたリポソーム分散液をエクストルーダーに通し、そのフィルタ孔径を適宜設定することにより、リポソームの粒径を調節することができる。

【0041】
上記のようにして得られたリポソーム分散液から、リポソームに含まれなかったリポソーム膜構成脂質などを、ゲルろ過法、超遠心法、透析法などにより除去することができる。除去したい物質が電荷を有する場合には、イオン交換クロマトグラフィーを用いることもできる。

【0042】
また、リポソーム膜構成成分を用いて上記のようなエクストルーダー法などにより予めリポソームを形成させた後に、pH応答性物質の溶液を加えて、pH応答性物質をリポソーム膜に保持させることもできる。

【0043】
<pH応答性薬剤放出システム>
上記のpH応答性リポソームと薬剤とからなるpH応答性薬剤放出システムも、本発明の一つである。
上記の薬剤は、親水性物質及び疎水性物質のいずれであってもよい。親水性物質である場合は、薬剤は、pH応答性リポソームの内部の閉鎖空間の親水性領域に内包され、疎水性物質である場合は、pH応答性リポソーム膜に保持されることとなる。

【0044】
上記の薬剤は、抗癌剤、サイトカイン、抗生物質、抗ウイルス剤、抗炎症剤、核酸、抗原(免疫原、ワクチン)など、リポソームを用いて送達し得る薬剤であれば特に限定されない。特に、本発明のpH応答性リポソームの特性を考慮すると、樹状細胞の細胞質へ特異的に送達して細胞性免疫を誘導するための抗原(免疫原、ワクチン)であることが有利である。
このような抗原は、当該技術において知られている疾患を予防及び/又は治療するための抗原であってよく、例えば癌抗原(例えば癌胎児抗原(CEA)、WT1、HER2、MAGE、MART-1、gp100、チロシナーゼ、α-フェトプロテイン(AFP)、AFPレクチン分画(AFP-L3%)、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)、塩基性フェトプロテイン(BFP)、扁平上皮癌関連抗原(SCC抗原)、BCA225、CA15-3、CA19-9、CA50、CA54/61、CA72-4、CA125、CA130、CA602、シアリルLex抗原(CSLEX)、膵癌関連糖タンパク抗原(DUPAN-2)、KMO-1、NCC-ST-439、シアリルLex-i抗原(SLX)、Span-1、シアリルTn抗原(STN)、サイトケラチン19フラグメント(CYFRA)、組織ポリペプチド抗原(TPA)、免疫抑制酸性タンパク質(IAP)、I型コラーゲンCテロペプチド(ICTP)、I型コラーゲン架橋Cテロペプチド(CTx)、膀胱腫瘍抗原(BTA)、核マトリクスプロテイン22 (NMP22)、PIVKA-II、前立腺特異抗原(PSA)、妊娠特異タンパク(SP1)、神経特異エノラーゼ(NSE)、フェリチン、エラスターゼ1、p53抗体、ガストリン放出ペプチド前駆体(ProGRP)、前立腺酸性ホスファターゼ(PAP)、アルカリホスファターゼ(ALP)、胎盤性ALP (PL-ALP)、癌関連ガラクトース転移酵素(GAT)、乳酸脱水素酵素(LDH)、ペプシノゲン(PG) I/II比、erbB-2、γ-セミノプロテイン(γ-Sm)、Dpyr、ポリアミン、カテコールアミン、バニリルマンデル酸(VMA)、BJPなど)、感染疾患治療用の抗原(例えば感染性細菌、真菌及びウイルス由来の抗原など)などが挙げられる。

【0045】
上記の抗癌剤としては、シスプラチン、カルボプラチン、テトラプラチン、イプロプラチンなどの金属錯体;アドリアマイシン(ADR)、マイトマイシン、アクチノマイシン、アンサマイトシン、ブレオマイシン、Ara-C、ダウノマイシンなどの制癌抗生物質;5-FU、メトトレキセート、TAC-788などの代謝拮抗剤;BCNU、CCNUなどのアルキル化剤;インターフェロン(α、β、γ)、各種インターロイキンなどのリンホカインなどが挙げられる。また、抗炎症剤としては、プレドニン、リンデロン、セレスタミンなどが挙げられる。

【0046】
上記の核酸としては、例えば、重症複合型免疫不全症の治療のためのアデノシンデアミナーゼ遺伝子、家族性高コレステロール血症の治療のためのLDL受容体遺伝子、癌治療のためのインターフェロン(IFN)-α、β又はγ遺伝子、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)遺伝子、各種インターロイキン(IL)遺伝子、腫瘍壊死因子(TNF)-α遺伝子、リンホトキシン(LT)-β遺伝子、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)遺伝子、T細胞活性化共刺激因子遺伝子などが挙げられる。その他、アルツハイマー病、脊椎損傷、パーキンソン病、動脈硬化症、糖尿病、高血圧症などの治療のための遺伝子も挙げられる。
上記の薬剤の量は特に限定されず、薬剤の種類などにより適宜選択することができる。

【0047】
上記のpH応答性薬剤放出システムの製造において、pH応答性リポソームに薬剤を含有させる方法としては、薬剤の種類に応じて公知の方法を用いることができる。該方法としては限定されないが、例えば上記のpH応答性リポソームの製造方法に従ってpH応答性リポソームを形成させた後に、薬剤を含む溶液に該リポソームを浸漬させて薬剤をリポソームの内部に取り込ませる方法、上記のpH応答性リポソームの製造方法において薄膜が形成された容器内に、薬剤を含む溶液を投入した後にリポソーム膜構造を形成させて薬剤を封入する方法などが挙げられる。

【0048】
本発明のpH応答性薬剤放出システムは、さらに少なくとも1種の医薬添加剤を含むのが好ましい。該pH応答性薬剤放出システムは、錠剤、粉末、カプセルなどの固形製剤の形態、注射製剤、点眼剤、点鼻薬のような液体製剤の形態、パッチ、パスタ剤、ゲルのような塗布/貼付製剤の形態などのいずれであってもよい。該液体製剤は、用時に水又は他の適切な賦形剤で再生する乾燥製品として提供してもよい。

【0049】
上記の錠剤及びカプセルは、通常の方法により腸溶コーティングを施すことが望ましい。腸溶コーティングとしては、当該分野において通常用いられるものを利用できる。また、カプセルは粉末又は液体のいずれを含有することもできる。

【0050】
上記のpH感受性薬剤放出システムが液体製剤である場合、医薬添加剤は、担体(例えば生理食塩水、滅菌水、緩衝液など)、膜安定剤(例えばコレステロールなど)、等張化剤(例えば塩化ナトリウム、グルコース、グリセリンなど)、抗酸化剤(例えばトコフェロール、アスコルビン酸、グルタチオンなど)、防腐剤(例えばクロルブタノール、パラベンなど)などを含み得る。上記の担体は、pH応答性リポソームを製造する際に用いる溶媒であり得る。

【0051】
上記のpH応答性薬剤放出システムが固形製剤である場合、医薬添加剤は、賦形剤(例えば乳糖、ショ糖のような糖類、トウモロコシデンプンのようなデンプン類、結晶セルロースのようなセルロース類、アラビアゴム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、リン酸カルシウムなど)、滑沢剤(例えばステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコールなど)、結合剤(例えばマンニトール、ショ糖のような糖類、結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなど)、崩壊剤(例えば馬鈴薯澱粉のようなデンプン類、カルボキシメチルセルロースのようなセルロース類、架橋ポリビニルピロリドンなど)、着色剤、矯味矯臭剤などを含み得る。

【0052】
上記のpH応答性薬剤放出システムが塗布/貼付製剤である場合、医薬添加剤は、溶剤(例えば水、グリセリン、アルコールなど)、基剤(例えばアルギン酸ナトリウムのような親水性ポリマーなど)、乳化剤(例えば界面活性剤など)などを含み得る。

【0053】
上記のpH応答性薬剤放出システムは、上記の薬剤を含むpH応答性リポソームをそのまま、又は凍結乾燥させて、上記の医薬添加剤と混合することにより製造することができる。薬剤を含むpH応答性リポソームを凍結乾燥する場合、凍結乾燥する前に適当な賦形剤を添加しておくのがよい。

【0054】
上述したように、本発明のpH応答性リポソームは、弱酸性以下のpHでその内包物を放出できるので、例えば細胞性免疫を誘導するために特に樹状細胞の細胞質へ目的の抗原を送達することができる。
よって、本発明は、対象者に、上記のpH応答性薬剤放出システムの有効量を投与することを含む、対象者に細胞性免疫を誘導する方法も提供する。
上記の対象者は、哺乳動物が好ましく、特に好ましくはヒトである。
細胞性免疫を誘導する対象者としては、細胞性免疫を誘導することにより治療され得る免疫疾患に罹患した対象者又は免疫疾患を予防することを意図する対象者が好ましい。このような免疫疾患としては、癌、ウイルス感染などが挙げられる。

【0055】
上記のpH応答性薬剤放出システムは、非経口及び経口経路のいずれによっても投与することができる。非経口経路としては、当該技術において公知の非経口経路による投与を用いることができ、静脈注射、経皮投与、経鼻投与などが挙げられる。
上記のpH応答性薬剤放出システムの投与量は、対象者の疾患の重篤度及びリポソームに含有される薬剤の量に応じて適宜選択することができる。
【実施例】
【0056】
本発明を、以下の実施例を用いてより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0057】
1.末端マンノース導入pH応答性物質の製造
1.1.試薬
Alcaligenes faecalis由来カードラン及び4-アミノフェニル α-D-マンノピラノシドはシグマアルドリッチから購入した。1-アミノデカンは東京化成から購入した。3-メチルグルタル酸無水物及び4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド(DMT-MM)は和光純薬から購入した。
「MGlu-Curd」(3-メチルグルタル化カードラン;本発明における「カルボキシル基含有多糖」に相当)及び「MGlu-Curd-C10」(カルボキシル基含有多糖由来部分と疎水性部分としてのデシル基を有する(従来の)pH応答性物質に相当;本明細書においては「MGlu-Curd-A」とも表す)は、Yubaら(Bioactive polysaccharide-based pH-sensitive polymers for cytoplasmic delivery of antigen and activation of antigen-specific immunity, Biomaterials, 120, 32-45, 2017)に記載の方法に従って合成したものを用いた。
6-アミノ-4-チアヘキシル α-D-マンノピラノシドは、McBroomら(Reversal of tyrosinamide-oligosaccharide derivatization by edman degradation, Analytical Biochemistry, 222, 243-250, 1994)に記載の方法に従って、テトラ-O-アセチル 6-アミノ-4-チアヘキシル α-D-マンノピラノシドのアセチル脱保護により合成したものを用いた。
【実施例】
【0058】
1.2.MGlu-Curd-Ph-Manの合成(「MGlu-Curd」への末端マンノース基の導入)
MGlu-Curdを蒸留水に溶解し、0.1 N NaOH水溶液を用いてpHを調整した。そこに4-アミノフェニル α-D-マンノピラノシドを加え、更にDMT-MMを加え、室温、遮光下で一晩反応させた。反応後、分画分子量10,000の透析膜を用いて、蒸留水に対して2日間透析を行った。透析後、水を減圧留去し、凍結乾燥した。
【実施例】
【0059】
【化1】
JP2019019059A_000003t.gif
MGlu-Curd-Ph-Manの合成スキーム
【実施例】
【0060】
【表1】
JP2019019059A_000004t.gif
【実施例】
【0061】
化合物の同定は1H NMRにより行った。
得られた化合物の1H NMRチャート(図1)において、MGlu-Curdの1H NMRチャート(Yubaら,前出)に対し新たに、フェニル基のピーク(l,m)が観測されたことから、4-アミノフェニル α-D-マンノピラノシドの導入が確認された。得られた化合物、すなわち、「MGlu-Curd」に末端マンノース基がリンカー基「-NH-Ph-」を介して導入された化合物を、本明細書において、「MGlu-Curd-Ph-Man」と表す。
マンノース残基の導入率については、a~fのカードランの主鎖骨格のプロトンのピークを基準に、フェニル基のlの積分値から算出した。収量:0.234 g、収率: 96.7%、MGlu化率:40%、マンノース導入率:4%と算出した。
よって、上記方法により、MGlu-Curdに末端マンノース基を導入可能であることが示された。
【実施例】
【0062】
1.3.MGlu-Curd-A-Ph-Manの合成
本発明に係るpH応答性物質の1つである「MGlu-Curd-A-Ph-Man」を次のとおりに合成した。ここで、MGlu-Curd-A-Ph-Manは、メチルグルタル酸に由来するカルボキシル基を有するカルボキシル基含有多糖由来部分[MGlu-Curd]と、疎水性部分[A=デシル]と、末端マンノース基とを有し、末端マンノース基がリンカー[-NH-Ph-]を介してカルボキシル基含有多糖由来部分のカルボン酸基に結合した物質である。
MGlu-Curd-C10(MGlu68-Curd-A7又はMGlu43-Curd-A4;ここで、「MGlu」及び「A(=C10)」の後の数字は当該カルボキシル基又は疎水性部分の導入率を示す[以下同じ])を蒸留水に溶解し、そこに4-アミノフェニル α-D-マンノピラノシドを加え、最後にDMT-MMを加え、室温、遮光下で反応させた。その後、分画分子量10,000の透析膜を用いて、蒸留水に対して透析を行い、ロータリーエバポレーターを用いて濃縮した後、一晩凍結乾燥して白色固体を得た。
【実施例】
【0063】
【化2】
JP2019019059A_000005t.gif
MGlu-Curd-A-Ph-Manの合成スキーム
【実施例】
【0064】
化合物の同定は1H NMRによって行った。
【数1】
JP2019019059A_000006t.gif
【実施例】
【0065】
【表2】
JP2019019059A_000007t.gif
得られた化合物について、収量:170 mg、収率:96.7%、MGlu化率:41%、アンカー導入率:5.3%、マンノース残基導入率:10%と算出した。
【実施例】
【0066】
【表3】
JP2019019059A_000008t.gif
得られた化合物について、収量:107 mg、収率:66.9%、MGlu化率:25%、アンカー導入率:4%、マンノース残基導入率:5%と算出した。
【実施例】
【0067】
得られた化合物の1H NMRチャート(図2及び3)において、MGlu-Curd-Aの1H NMRチャート(Yubaら,前出)に対し新たに、フェニル基のピーク(l,m)が観測されたことから、4-アミノフェニル α-D-マンノピラノシドの導入が確認された。得られた化合物、すなわち、「MGlu-Curd-A」に末端マンノース基がリンカー基「-NH-Ph-」を介して導入された化合物を、本明細書において、「MGlu-Curd-A-Ph-Man」と表す。
マンノース残基の導入率については、a~fのカードランの主鎖骨格のプロトンのピークを基準に、フェニル基のlの積分値から算出した。
【実施例】
【0068】
1.4.MGlu-Curd-A-S-Manの合成
本発明に係るpH応答性物質の別の1つである「MGlu-Curd-A-S-Man」を次のとおりに合成した。ここで、MGlu-Curd-A-S-Manは、メチルグルタル酸に由来するカルボキシル基を有するカルボキシル基含有多糖由来部分[MGlu-Curd]と、疎水性部分[A=デシル]と、末端マンノース基とを有し、末端マンノース基がリンカー[S=-NH-(CH2)2-S-(CH2)3-]を介してカルボキシル基含有多糖由来部分のカルボン酸基に結合した物質である。
MGlu43-Curd-A4を蒸留水に溶解し、0.1 N NaOHを用いてpHを調整した。そこに6-アミノ-4-チアヘキシル α-D-マンノピラノシドを加え、試薬を溶解させた後、DMT-MMを加え、室温、遮光下で17時間反応させた。反応後、分画分子量10,000の透析膜を用いて、蒸留水に対して2日間透析を行った。透析後凍結乾燥を行った。
【実施例】
【0069】
【化3】
JP2019019059A_000009t.gif
MGlu-Curd-A-S-Manの合成スキーム
【実施例】
【0070】
【表4】
JP2019019059A_000010t.gif
【実施例】
【0071】
化合物の同定は1H NMRにより行った。
得られた化合物の1H NMRチャート(図4)において、MGlu-Curd-Aの1H NMRチャート(Yubaら,前出)に対し新たに、6-アミノ-4-チアヘキシル α-D-マンノピラノシド由来のピーク(n,o)が観測されたことから導入が確認された。得られた化合物、すなわち、「MGlu-Curd」に末端マンノース基がリンカー基「-NH-(CH2)2-S-(CH2)3-」を介して導入された化合物を、本明細書において、「MGlu-Curd-A-S-Man」と表す。
マンノース残基の導入率については、a~fのカードランの主鎖骨格のプロトンのピークを基準に、n,oの積分値から算出した。
得られたMGlu-Curd-A-S-Manについて、収量:129 mg、収率:79.4%、MGlu化率:31%、アンカー導入率:5%、マンノース残基導入率:3%。
【実施例】
【0072】
2.pH応答性リポソームの製造及び分析
2.1.試薬
卵黄ホスファチジルコリン(EYPC)は日油より提供された。ピラニンは東京化成工業から購入した。p-キシレン-ビス(N-ピリジニウム ブロミド)(DPX)及び1,1-ジオクタデシル-3,3,3,3-テトラメチルインドカルボシアニン パークロレート(DiI C18)はInvitrogenから購入した。リン酸二水素ナトリウム(Na2HPO4)、トリトンX-100及び炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)はキシダ化学株式会社から購入した。ベンジルペニシリンGカリウム、ストレプトマイシン硫酸塩及び非必須アミノ酸(NEAA)はナカライテスクから購入した。MINIMUM ESSENTIAL MEDIUM EAGLE Joklik Modification (MEM)、オボアルブミン(OVA)はシグマアルドリッチから購入した。コンカナバリンAは和光純薬工業から購入した。
【実施例】
【0073】
2.2.OVA内包リポソームの製造及び物性評価
2.2.1.OVA内包リポソームの製造
EYPC(10 mg/mL)/クロロホルム溶液を500μL採り、ロータリーエバポレーターにより溶媒を減圧留去し、EYPC薄膜を形成した。MGlu-Curd-AとMGlu-Curd-A-Ph-Man(以下、両者を併せて「ポリマー」とも呼ぶ)を種々の比で混合してポリマー/メタノール溶液を調製し、全量がEYPC:ポリマー=7:3(wt/wt)になるようにEYPC薄膜に加えて、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を減圧留去することで、混合薄膜を形成した。その後、常温で2時間真空乾燥することで、残留溶媒を完全に留去した。
乾燥薄膜にOVA(4mg/mL)/PBS溶液を加え、pHを0.1 N NaOHとHCl水溶液を用いて7.4に調整した後、バス型超音波洗浄機により超音波を2分間照射し、薄膜を分散させることでOVAを内包したポリマー修飾リポソーム(すなわち、「pH応答性物質修飾リポソーム」又は「pH応答性リポソーム」)を形成した。凍結融解により内包物の濃度を高め、孔径100 nmのポリカーボネート膜を挟んだエクストルーダーに31回通すことで、リポソームの粒径を100 nmに揃えた。超遠心(55,000 rpm、4℃、1時間×2)(BECKMAN COULTER製 OptimaTM TLX Ultra centrifuge 120,000 RPM)によりリポソームに内包されなかったOVAを除去した後、PBSでリポソームを分散させた。
未修飾リポソームについては、ポリマー/メタノール溶液をEYPC薄膜に加えなかったこと以外はポリマー修飾リポソームと同様にして製造した。
【実施例】
【0074】
2.2.2.脂質の定量
リン脂質の定量は、リン脂質Cテストワコー(和光純薬工業)を用いて、コリンオキシダーゼ・DAOS(N-エチル-N-(2-ヒドロキシ-3-スルホプロリル)-3,5-ジメトキシアニリンナトリウム)法によって行った。試料溶液(リポソーム分散液)、ブランク溶液及び標準溶液をそれぞれ発色溶液と混合し、37℃で5分間インキュベートした。波長600 nmで試料溶液の吸光度を日本分光(株)製V-560型紫外・可視光光度計を用いて測定し、得られた吸光度から試料溶液中のリン脂質の濃度を決定した。
【実施例】
【0075】
2.2.3.リポソームの物性評価
OVAを内包する未修飾及びポリマー修飾リポソームを、セル内の脂質濃度が0.1 mMになるように0.1 mMリン酸水素二ナトリウム水溶液を用いて調整し、Malvern ZETASIZER Nano ZS ZEN3600を用いて、リポソームの粒径及びζ電位を測定した。
【実施例】
【0076】
2.3.リポソームのpH応答性評価
2.3.1.ピラニン内包リポソームの製造
上記(2.2.1)のとおりに、EYPC単独の乾燥薄膜及びEYPCとポリマー(MGlu-Curd-A及び/又はMGlu-Curd-A-Man)との混合乾燥薄膜を作製した。乾燥薄膜に、ピラニン35 mM、DPX 50 mM、Na2HPO4 25 mM、pH 7.4の溶液(500μL)を加え、以降は上記(2.2.1)と同様にして、ピラニン内包未修飾リポソーム及びピラニン内包ポリマー修飾リポソームを製造した。
【実施例】
【0077】
2.3.2.リポソームのpH応答性評価
製造したピラニン内包リポソームが各pHに調整したPBSバッファー中で放出するピラニンの量を測定することにより、リポソームのpH応答性を評価した。
石英セル内に、各pHに調整したPBSバッファーを加え、温度コントローラー(JASCO製 ETC-272T)で37℃になるよう調整した。次いで、セル内に、ピラニン内包リポソームを脂質濃度0.02 mM、全量2.5 mLになるように添加した。添加から10秒後、蛍光分光光度計(JASCO製 FP-6200、FP-6500)を用いて416 nmの励起光により発せられる蛍光を512 nmで30分間測定した。
最後に、全量体積の10%の10%Triton-Xを加え、リポソームを完全に破壊したときの蛍光強度を測定して、ピラニン放出率が100%となる時の値(F100)とし、pH 7.4のPBSバッファー中での蛍光強度(添加から10秒後)を測定して、ピラニン放出率が0%である時の値(F0)として、次式:放出率(%)=(Ft-F0)/(F100-F0)×100を用いてリポソームからのピラニンの放出率を計算した。
【実施例】
【0078】
2.4.リポソームの細胞取り込みの評価
2.4.1.細胞培養
細胞としてマウスマクロファージ由来RAW264細胞を用いた。
培地として、10% FBS、ベンジルペニシリンGカリウム0.1 g、ストレプトマイシン硫酸塩 0.1 g、MEM 11 g、NaHCO3 1.62 g、NEAA 10 mLをイオン交換水1 Lに溶解した培地を用いた。
【実施例】
【0079】
2.4.2.フローサイトメトリによる取り込み量の測定
EYPC/クロロホルム溶液にDiI(2mg/mL)/クロロホルム溶液を各薄膜の全脂質量に対して0.1 mol%になるように加え、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を減圧留去し、DiI標識EYPC薄膜を形成した。以降は上記(2.2.1)と同様にして、DiIで標識され、OVAを内包する未修飾及びpH応答性物質修飾リポソームを製造した。
RAW264細胞を7.5×104/ウェルとなるように24ウェルプレートに播き、一晩培養した。翌日、血清含有MEMに交換した後、さらに一晩培養した。PBS(-)で2回洗浄した後、血清不含MEMを500μL加えた。そこへ、DiI標識リポソームを脂質濃度が0.1 mMになるように加えた(全量500μL)。37℃で4時間インキュベートすることでリポソームをRAW264細胞に取り込ませた。PBS(-)で3回洗浄して、細胞に取り込まれなかったリポソームを除去した。その後、1穴につき250μLのトリプシン水溶液を加え、10分間振とうさせながらインキュベートすることで細胞を剥離した。ピペッティング後、細胞トリプシン懸濁液をエッペンドルフチューブに移し、フローサイトメーター(Beckman Coulter, CytoFLEX)を用いてDiI由来の蛍光強度を測定し、細胞によるリポソームの取り込み量を評価した。
【実施例】
【0080】
2.4.3.共焦点レーザー顕微鏡によるリポソームの細胞内動態観察
DiI標識EYPC薄膜に脂質5mgに対してFITC-OVA 4mg/mL PBS溶液を500μL加えた以外は、上記(2.4.2)と同様にして、DiIで標識され、FITC-OVAを内包する未修飾及びpH応答性物質修飾リポソームを製造した。
RAW264細胞を1.5×105/ウェルとなるように35mm松並ガラスボトムディッシュに播き、一晩培養した。翌日、血清含有MEMに交換した後、さらに一晩培養した。PBS(-)で2回洗浄した後、血清不含MEMを1mL加えた。そこへ、上記リポソームの溶液を脂質濃度が0.1 mMになるように1mL加えた。37℃で4時間インキュベートすることでリポソームを取り込ませた。PBS(-)で3回洗浄して、細胞に取り込まれなかったリポソームを除去した。その後、PBS(-)中で共焦点レーザー顕微鏡 LSM 5 EXCITER (Carl Zeiss)による観察を行った。
【実施例】
【0081】
2.5.リポソーム表面におけるマンノース提示の評価
リポソーム表面におけるマンノース提示について、コンカナバリンAによる評価をCuiら(Coating of mannan on LPD particles containing HPV E7 peptide significantly enhances immunity against HPV-positive tumor, Mol. Ther., 21, 1018-1025, 2004)に従い行った。
簡潔には、コンカナバリンA(1mg/mL)/PBS(+)溶液1.5 mLを加えた蛍光セルを、日本分光(株)製V-560型紫外・可視光光度計に設置し、その後、添加時の脂質濃度が2.5 mMのリポソーム懸濁液150μLを加え、15分間吸光度(濁度)の経時変化を測定した。リポソームとして、未修飾リポソーム及びpH応答性物質(種々の混合比[100/0、95/5、90/10、80/20、70/30、50/50、0/100]のMGlu58-Curd-A3/MGlu41-Curd-A5-Ph-Man10混合物)で修飾したリポソームを用いた。
コンカナバリンAの阻害剤としてマンノースを用いた実験では、先ず96 mg/mLのマンノース/PBS(+)溶液を50μL添加し、次いで5,000秒経過してから、添加時の脂質濃度3.75 mMのリポソーム懸濁液を100μLを加え、15分間の吸光度の経時変化を測定した。
【実施例】
【0082】
2.6.結果
2.6.1.リポソームの物性評価
上記(2.2.1)で製造した未修飾リポソーム(EYPC単独膜)及びpH応答性物質(種々の混合比のMGlu58-Curd-A3及びMGlu41-Curd-A5-Ph-Man10の混合物)修飾リポソームの粒径及びζ電位の測定結果を表5に示す。
MGlu-Curd-Aで修飾したリポソームは粒径は180 nm程度となり、ζ電位は未修飾リポソームに比べ大きく負に傾き、-45 mV程度となった。
MGlu-Curd-AとMGlu-Curd-A-Ph-Manとの混合物で修飾したリポソームの粒径は、MGlu-Curd-A-Ph-Manの比率が高くなるにつれ、増加する傾向がみられたが、およそ200 nm程度となった。これは超遠心により凝集することで、リポソーム同士が接近し、リポソームの表面のマンノース基が接近し、水素結合により相互作用することで凝集体を形成した結果であると考えられる。
一方、pH応答性物質修飾リポソームにおいて、ζ電位は、MGlu-Curd-A-Ph-Manの混合比にかかわらず-45 mV程度となったことから、カルボキシ基の負電荷が表面に存在すること、すなわち、pH応答性物質がリポソームの表面に固定化されていることが分かった。
【実施例】
【0083】
【表5】
JP2019019059A_000011t.gif
【実施例】
【0084】
なお、表において、リポソームの修飾に用いたポリマー(pH応答性物質)におけるマンノース(Man)基の導入率は、修飾に用いたポリマー(種々の混合比[0/100~100/0]のMGlu-Curd-A/MGlu-Curd-A-Ph-Man混合物)中のMGlu-Curd-A-Ph-Manの割合から算出される。例えば、MGlu41-Curd-A5-Ph-Man10の混合率が30%の場合には、MGlu41-Curd-A5-Ph-Man10自体のマンノース基導入率10%×混合率30/100=3%と算出され、50%の場合には、導入率10%×混合率50/100=5%と算出され、100%の場合には、導入率10%×混合率100/100=10%と算出される、といった具合である。
本明細書において、他の箇所で、マンノース基含有pH応答性物質とマンノース基不含pH応答性物質との混合物で修飾したリポソームに関して、マンノース基の導入率に言及する場合は、同様に、式:マンノース基の導入率=(マンノース基含有pH応答性物質自体のマンノース基導入率)×(混合物中のマンノース基含有pH応答性物質の混合割合) により算出される導入率を意味するものとする。
【実施例】
【0085】
2.6.2.リポソームのpH応答性評価
37℃における、未修飾リポソーム及びpH応答性物質(種々の混合比のMGlu-Curd-A/MGlu-Curd-A-Ph-Man混合物)で修飾したリポソームの種々のpHバッファー中での内包物放出率の経時変化及びpH依存性を図5~8に示す。なお、図5~7において、MGlu-Curd-A-Ph-Manは「MGlu-Curd-A-Man」と表記されている。
pH応答性物質修飾リポソームは、図5に示すように、pH 7.4のPBS中では内包物を30分間保持した一方、図6に示すように、pH 5.8のPBS中では内包物を直ちに放出した。このことから、MGlu-Curd-A及び/又はMGlu-Curd-A-Ph-Manで修飾したリポソームは、高いpH応答性を有していることが分かった。未修飾リポソームは、いずれのpHにおいても内包物を放出しなかった。
また、MGlu-Curd-Aのみで修飾したリポソームはpH6.3以下で、MGlu-Curd-A/MGlu-Curd-A-Ph-Manの混合物で修飾したリポソームはpH6.1以下で内容物を放出した(図7)。理論により拘束されることを意図しないが、MGlu-Curd-A単独修飾リポソームは、カルボキシ基がプロトン化することにより膜表面での疎水性が増して脂質二重膜が乱される結果、内包物を放出するが、リポソームがMGlu-Curd-A-Ph-Manを保持する場合には、マンノース基により膜表面での親水性が増すため、より多くのカルボキシ基がプロトン化して疎水化しないと、脂質二重膜を乱せないことから、放出を開始するpHが低pH側にシフトすると考えられる。
【実施例】
【0086】
また、MGlu-Curd-A/MGlu-Curd-A-Ph-Manの混合物で修飾したリポソームは、MGlu-Curd-A-Ph-Manの混合率を30%とした場合、MGlu-Curd-A単独修飾リポソームに比べ内包物の放出率が増大した(より高いpHで放出率50%に達した)。理論により拘束されることを意図しないが、これは、マンノース残基に含まれるフェニル基によってポリマー全体の疎水性が増し、より脂質二重膜を乱し易くなったためと考えられる。一方、MGlu-Curd-A-Ph-Manの混合率が50%又は100%の場合には、放出率が減少した(より低いpHで放出率50%に達した)。理論により拘束されることを意図しないが、これは、リポソームの脂質二重膜内にフェニル基が刺さることが飽和状態になることで、マンノース残基がリポソーム表面に提示され、その親水性によりリポソームの形態が維持され易くなったためではないかと考えられる。
【実施例】
【0087】
また、リポソームのpH応答性に与えるリンカー構造の影響を調べた(図8)。
MGlu43-Curd-A3から合成したMGlu31-Curd-A5-S-Man3とMGlu25-Curd-A4-Ph-Man5の放出は、MGlu43-Curd-A3よりも高pH側にシフトした。これは、マンノース残基導入によりMGlu基は減少する一方でpH応答性物質自体の疎水性が向上したため、低いプロトン化度(高pH側)でも脂質二重膜の不安定化を引き起こしたためと考えられる。また、スルフィド結合を介してマンノース残基を導入したMGlu31-Curd-A5-S-Man3の方が、フェニル基を介して導入したMGlu25-Curd-A4-Ph-Man5 よりも高pH側で放出を誘起した。これは上述の通り、フェニルリンカーの場合、脂質二重膜への挿入によって脂質二重膜の安定化が起こったためと考えられる。実際、よりマンノース導入率の高いMGlu41-Curd-A5-Ph-Man10は、MGlu基は多いにも関わらず、より低pH側で放出を誘起した。このように、MGlu基導入率、リンカー構造、その導入率によって、リポソームの応答pHをコントロールすることができた。
【実施例】
【0088】
2.6.3.リポソームのRAW264細胞による取り込み評価
図9は、未修飾及び末端マンノース基含有/不含pH応答性物質修飾リポソームのRAW264細胞による取り込み量を示す。データは、RAW264細胞に取り込まれたDiI標識リポソームからの蛍光強度をフローサイトメトリにより測定し、MGlu-Curd-A単独修飾リポソームについての蛍光強度で標準化して表したものである。なお、図9において、MGlu-Curd-A-Ph-Manは「MGlu-Curd-A-Man」と表記されている。
pH応答性物質(MGlu-Curd-A/MGlu-Curd-A-Ph-Man混合物)中のMGlu-Curd-A-Ph-Manの混合割合が30%以上であるリポソームについて、MGlu-Curd-A(末端マンノース基不含pH応答性物質)修飾リポソームより高い取り込みを示した。末端マンノース基導入リポソームは、細胞上に存在するマンノース受容体を介して、細胞内に取り込まれたと考えられる。
一方で、MGlu-Curd-A-Ph-Manの混合割合が20%以下のリポソームの取り込み量はMGlu-Curd-A修飾リポソームと同程度の取り込み量であった。このことから、MGlu-Curd-A-Ph-Manの混合割合が20%以下のリポソームでは、マンノース残基がリポソーム表面で適切に提示されていない可能性が考えられる。
【実施例】
【0089】
2.6.4.リポソームの細胞内動態観察
図10は、未修飾及び末端マンノース基含有/不含pH応答性物質修飾リポソームとインキュベートしたRAW264細胞の共焦点レーザー顕微鏡観察の結果を示す。
非修飾リポソームとインキュベートした場合には、一部の細胞においてDiI及びFITCに起因する強い蛍光が確認されるものの、ほとんどの細胞で蛍光は確認されなかったことから、リポソーム及び内包物は細胞に取り込まれていないことが分かる。
一方、pH応答性物質修飾リポソームとインキュベートした場合には、ほぼ全ての細胞からDiI蛍光が観察されたことから、リポソームがエンドサイトーシス経路で取り込まれたことが確認された。また、FITC蛍光は、pH応答性物質(MGlu-Curd-A/MGlu-Curd-A-Ph-Man混合物)中のMGlu-Curd-A-Ph-Manの含率が増えるにつれて強くなる傾向が確認され、更に、DiI蛍光とは異なる位置からも確認された。このことから、細胞内に取り込まれたリポソームは内包物を細胞質に放出していることが理解される。これは、おそらく、細胞内に取り込まれたリポソームが、エンドソームの弱酸性(低pH)環境に応答してエンドソーム膜を不安定化した結果であると考えられる。
【実施例】
【0090】
2.6.5.リポソーム表面でのマンノース提示の評価
上記2.6.3に記載したように、pH応答性物質(MGlu-Curd-A/MGlu-Curd-A-Ph-Man混合物)中のMGlu-Curd-A-Ph-Manの混合割合が20%以下であるリポソームについて、細胞取込みの増大が観察されなかったことから、これらリポソームの表面でのマンノースの提示状態を評価するために本実験を行った。
コンカナバリンAは、マンノースとの特異的な結合部位を4つ持つレクチンの一種であるため、リポソームをコンカナバリンAとインキュベートした場合、そのリポソームの表面にマンノース基が提示されていれば、コンカナバリンAがマンノース基との結合を介してリポソームが凝集体を形成する結果、リポソーム懸濁液の濁度が増加する。よって、リポソームをコンカナバリンAとインキュベートしたときに、懸濁液の吸光度(濁度)が高くなれば、そのリポソームにおいて、マンノース基は、コンカナバリンAと結合可能なように露出状態で表面に提示されていることとなる。
【実施例】
【0091】
図11は、コンカナバリンA存在下における、未修飾リポソーム及びpH応答性物質(種々の混合比[100/0、95/5、90/10、80/20、70/30、50/50、0/100]のMGlu-Curd-A/MGlu-Curd-A-Ph-Man混合物)で修飾したリポソームの懸濁液の濁度の経時変化を表す。
未修飾リポソーム及びMGlu-Curd-A-Ph-Manの混合割合が20%以下である混合物で修飾したリポソームの懸濁液において濁度の変化はほとんど観測されなかった。未修飾リポソーム及びMGlu-Curd-A単独修飾リポソームの懸濁液については、リポソームがマンノース残基を有していないことから当然の結果である。MGlu-Curd-A-Ph-Manの混合率5~20%である混合物で修飾したリポソームの懸濁液について、濁度の変化がほとんど観測されなかったのは、理論により拘束されることを意図しないが、これらリポソームにおいてはマンノース残基がフェニル基を介してMGlu-Curdに結合しているため、フェニル基がリポソームの脂質二重膜に疎水性相互作用で取り込まれ、それに伴ってマンノース残基がリポソーム表面近傍に存在することになり、その上にカードランなどの主鎖骨格が重なり、コンカナバリンAにより認識されなくなった結果であると考えることができる。
【実施例】
【0092】
MGlu-Curd-A-Ph-Manの混合割合が30%以上である混合物で修飾したリポソームの懸濁液の濁度は経時的に増加した。この結果は、RAW264細胞によるリポソームの取り込み量についての結果(図9)とも一致する。この濁度の増加は、リポソームの脂質二重膜に入ることのできるフェニル基が混合率20~30%の間で飽和に至り、もはやリポソーム表面近傍に存在できなくなったマンノース残基が(カードランなどの主鎖骨格)より外側に露出した結果、コンカナバリンAにより認識されるようになったと考えることができる。
混合割合が50%の場合(マンノース基導入率として5%)には、30%の場合(同3%)より濁度の変化が小さくなった。これは、細胞では十分認識できる表面のマンノースの差が30%と50%の間ではあるが、コンカナバリンAでの濁度の差に十分な差を与えるほどの差ではなかったのではないかと考えられる。100%の場合(同10%)はマンノースが非常に多く、大きな凝集体を形成し、分光光度計の光路から凝集体が外れることで、濁度の変化が一度減少したと考えられる。
また、混合割合が30%のリポソームとコンカナバリンAを含む溶液中に遊離マンノースを高濃度で加えた条件での濁度の変化が未修飾リポソームと同程度に抑えられたことから(図12)、MGlu-Curd-A-Ph-Manを保持するリポソームの濁度の変化が、マンノース残基によるものだということが分かった。
以上のことから、マンノース残基をリポソーム表面で細胞が認識可能なように提示させるには、カルボキシル基含有多糖由来部分中の多糖部分のヒドロキシル基へのマンノース基の導入率は、3%前後(例えば、1.5~4%)が特に適切であることが分かった。
なお、図11及び12において、MGlu-Curd-A-Ph-Manは「MGlu-Curd-Man」と表記されている。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9
【図11】
10
【図12】
11