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明細書 :誤りがちDNA修復経路の抑制によるがんの治療

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-019082 (P2019-019082A)
公開日 平成31年2月7日(2019.2.7)
発明の名称または考案の名称 誤りがちDNA修復経路の抑制によるがんの治療
国際特許分類 A61K  45/00        (2006.01)
A61P  35/00        (2006.01)
A61P  43/00        (2006.01)
A61K  31/353       (2006.01)
A61K  31/7056      (2006.01)
A61K  31/282       (2006.01)
A61K  33/24        (2019.01)
A61K  41/00        (2006.01)
FI A61K 45/00
A61P 35/00
A61P 43/00 111
A61P 43/00 121
A61K 31/353
A61K 31/7056
A61K 31/282
A61K 33/24
A61K 41/00 ZNA
請求項の数または発明の数 9
出願形態 OL
全頁数 21
出願番号 特願2017-138916 (P2017-138916)
出願日 平成29年7月18日(2017.7.18)
発明者または考案者 【氏名】香▲崎▼ 正宙
出願人 【識別番号】506087705
【氏名又は名称】学校法人産業医科大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100080791、【弁理士】、【氏名又は名称】高島 一
【識別番号】100125070、【弁理士】、【氏名又は名称】土井 京子
【識別番号】100136629、【弁理士】、【氏名又は名称】鎌田 光宜
【識別番号】100121212、【弁理士】、【氏名又は名称】田村 弥栄子
【識別番号】100163658、【弁理士】、【氏名又は名称】小池 順造
【識別番号】100174296、【弁理士】、【氏名又は名称】當麻 博文
【識別番号】100137729、【弁理士】、【氏名又は名称】赤井 厚子
【識別番号】100151301、【弁理士】、【氏名又は名称】戸崎 富哉
【識別番号】100179039、【弁理士】、【氏名又は名称】伊藤 洋介
審査請求 未請求
テーマコード 4C084
4C086
4C206
Fターム 4C084AA12
4C084AA19
4C084AA20
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZB261
4C084ZC41
4C084ZC75
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA08
4C086EA11
4C086HA12
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZC41
4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206JB16
4C206MA02
4C206MA04
4C206NA05
4C206NA14
4C206ZB26
4C206ZC41
4C206ZC75
要約 【課題】DNA修復の誤りの蓄積による遺伝的不安定性の増幅と、それに伴う二次性発がんの発症や転移等がんの悪性化を長期的且つ副作用が無い状態で抑えることが可能となる新規治療手段を提供する。
【解決手段】白金製剤を用いた化学療法又は放射線療法と併用される、SSA阻害剤を含む剤であって、ここで前記剤が、対象への前記白金製剤の投与後、又は前記放射線の照射後、前記対象におけるがん細胞中のSSAの活性化前、又は活性化時に投与される、該剤。
【選択図】図12
特許請求の範囲 【請求項1】
白金製剤を用いた化学療法又は放射線療法と併用される、SSA阻害剤を含むがん細胞増殖抑制剤であって、ここで前記がん細胞増殖抑制剤が、対象への前記白金製剤の投与後、又は前記放射線の照射後、前記対象におけるがん細胞中のSSAの活性化前、又は活性化時に投与される、増殖抑制剤。
【請求項2】
前記SSA阻害剤が、Rad52阻害剤である、請求項1に記載のがん細胞増殖抑制剤。
【請求項3】
前記Rad52阻害剤が、(-)エピガロカテキン、又は5-アミノ-1-((2R,3R,4S,5R)-3,4-ジヒドロキシ-5-(ヒドロキシメチル)-テトラヒドロフラン-2-イル)-1H-イミダゾール-4-カルボキサミドである、請求項2に記載のがん細胞増殖抑制剤。
【請求項4】
前記白金製剤が、オキサリプラチン、カルボプラチン、シスプラチン、及びネダプラチンからなる群から選択される、請求項1~3のいずれか1項に記載のがん細胞増殖抑制剤。
【請求項5】
前記がん細胞増殖抑制剤が、前記白金製剤の投与後、又は前記放射線の照射後、2日以内の間に投与される、請求項1~4のいずれか1項に記載のがん細胞増殖抑制剤。
【請求項6】
前記がん細胞が、Rad52因子を含むSSA活性が増加するがん細胞である、請求項1~5のいずれか1項に記載のがん細胞増殖抑制剤。
【請求項7】
前記Rad52因子を含むSSA活性が増加するがん細胞が、RECQL4欠損がん細胞、BRCA1及び/又はBRCA2欠損がん細胞、並びにAPC欠損がん細胞からなる群から選択される、請求項6に記載のがん細胞増殖抑制剤。
【請求項8】
白金製剤を用いた化学療法又は放射線療法と併用される、SSA阻害剤を含む、前記化学療法又は放射線療法に起因する晩期障害低減剤であって、ここで前記晩期障害低減剤が、対象への前記白金製剤の投与後、又は前記放射線の照射後、前記対象におけるがん細胞中のSSAの活性化前、又は活性化時に投与される、晩期障害低減剤。
【請求項9】
前記晩期障害が二次性発がんである、請求項8に記載の晩期障害低減剤。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、誤りがちDNA修復経路を標的とするSSA阻害剤を含むがん細胞増殖抑制剤及び晩期障害低減剤、SSA阻害剤及び白金製剤を含む併用剤、並びにSSA阻害剤並びに白金製剤及び/又は放射線を用いたがん治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の薬剤によるがん治療方法では、高価な抗がん剤による医療費の高騰、費用対延命効果、副作用や二次性発がんの問題が常に伴っており、サステナブルな抗がん剤開発は世界的に見ても厳しい状況である。また、このような状況を鑑みて、既存の抗がん剤の治療効果を高めるために、例えば、他の薬剤との併用療法が検討されている。
【0003】
特許文献1には、(-)ガロカテキン‐3‐ガラート(以下、GCGと略記する場合がある)、(-)エピガロカテキン‐3‐ガラート(以下、EGCGと略記する場合がある)、(-)カテキン‐3‐ガラート(以下、CGと略記する場合がある)、(-)エピカテキン‐3‐ガラート(以下、ECGと略記する場合がある)等からなる群から選択される化学感作物質を、抗がん剤(例えば、フラボピリドール、アドリアマイシン、エトポシド、タキソール、シスプラチン)と組み合わせて対象に投与することを含む、対象におけるがんの治療方法が記載されている。また、特許文献1には、化学感作物質及び抗がん剤が同時に投与される治療方法、並びに化学感作物質が抗がん剤よりも先に投与される治療方法も記載されている。
【0004】
特許文献2には、エピガロカテキン‐3‐ガレートを含む組成物等の投与と、放射線療法、化学療法(例えば、シスプラチンの投与など)等を組み合わせた、増殖性疾患の治療方法が記載されている。
【0005】
しかしながら、シスプラチンなどの抗がん剤や放射線を用いたがん治療による副作用、例えば、二次性発がんについては、現在、その分子生物学的な機序がほとんど解明されておらず、そのため、二次性発がんの発生を抑制するための抗がん剤との併用に適した薬剤や、併用のための用法・用量等についても研究が進んでおらず、未だ有効な解決策がない。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】特表2007-524633号公報
【特許文献2】特表2016-514135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
放射線や抗がん剤などを用いたがん治療により、DNAは様々なタイプの損傷を受ける。このような損傷に対応するために細胞は、多様な修復機構を有しており、例えば、DNA損傷の1つであるDNA二本鎖切断では、その修復機構として、相同組換え修復(homologous recombination(以下、HRと略記する場合がある))、非相同末端再結合、代替非相同末端再結合、マイクロホモロジー媒介末端結合(microhomology-mediated end-joining)、DNA鎖切断誘発複製(break-induced replication)、一本鎖アニーリング(single-strand annealing(以下、SSAと略記する場合がある))などの経路がある。これらの修復経路のうち、非相同末端再結合、代替非相同末端再結合、マイクロホモロジー媒介末端結合、DNA鎖切断誘発複製、及び一本鎖アニーリングは、DNAの塩基配列のエラーが起こりやすい修復であり、DNAの誤りがち修復経路(error-prone repair pathway)として知られている。
【0008】
最近、SSAが活性化する様々ながんが見つかりつつある。現在までに、SSAが活性化しやすい特殊ながんの例として、BRCA1遺伝子とBRCA2遺伝子に変異をもつ乳がんや卵巣がん、APC遺伝子変異による家族性大腸腺腫症などが発見されている。
【0009】
また近年、誤りがち修復経路阻害剤としてEGCが同定され、タンパク質の構造解析の結果から、この阻害剤EGCが、誤りがち修復経路の主要なタンパク質であるRad52の機能部位にファンデルワールス力を介した特殊な結合をすることで、従来のEGC使用濃度範囲である10~500μM(Bigelow and Cardelli, Oncogene, 2006, 25, 1922-30; Sugiharaら、Free Radic Biol Med, 1999, 27, 1313-23)よりも低い1μM周辺の低濃度で、Rad52阻害効果が生じることが明らかとなった(Hengelら、elife, 2016; 5:e14740)。
【0010】
しかし、放射線や抗がん剤、該修復機構、及び放射線や抗がん剤に起因する晩期障害、例えば、二次性発がんの間の関連性についての分子レベルでの研究や、該SSA阻害剤の低濃度効果の研究は進んでおらず、特にマウスを用いた個体レベルでの研究は皆無に等しい。該SSA阻害剤EGCの低濃度効果の研究が進んでいない原因は、緑茶成分であるポリフェールの抗がん作用が、緑茶中の含有量が最も多いEGCGの抗酸化作用や免疫系転写因子NFkB調節作用によるものと長年考えられてきたからである(Surh, Cancer chemoprevention with dietary phytochemicals. 2003, Nat Rev Cancer, 3, 768-780; Yangら, Cancer prevention by tea: animal studies, molecular mechanisms and human relevance. 2009, Nat Rev Cancer, 9: 429-439)。このような経緯から、細胞レベルでも、動物実験でもEGCGが専ら集中的に研究されており、EGCGより緑茶中含有量が少なく且つ生理活性の低いEGCを用いて、しかも従来よりも桁違いに低い濃度での細胞を用いた実験や、特に動物実験を行う発想は生まれ難い状況であった。
【0011】
本発明の目的は、DNA修復、DNA複製、及びDNA組換えの誤りの蓄積による遺伝的不安定性の増幅と、それに伴う二次性発がんの発症や転移等がんの悪性化を長期的かつ副作用が無い状態で抑えることが可能となる新規治療手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、今までにロスムンド・トムソン症候群関連がん抑制遺伝子RECQL4欠損細胞に着目し(Kitaoら, Nature Genet, 1999, 22, 82-84)、独自にヒトBリンパ球性白血病細胞Nalm‐6を用いてRECQL4ノックイン細胞を樹立して表現型解析を行ったところ、RECQL4欠損細胞が放射線とシスプラチンに高感受性であることを明らかにした(Kohzakiら, Carcinogenesis, 2012, 33, 1203-1210)。
【0013】
該知見に基づいて、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、まず、Nalm‐6以外のRECQL4欠損がんHCT116細胞や非がんRECQL4欠損MCF10A細胞を独自に樹立して、RECQL4欠損による放射線とシスプラチンに対する高感受性が、がん細胞に特異的で普遍的な特性であることを見出した。
【0014】
次に、抗がん治療でよく使われる放射線やシスプラチンに対して高感受性を示すRECQL4欠損がんHCT116細胞が、どのようなDNA修復経路で生存して二次性発がんを誘導するのかについて分子レベルで研究を進め、がん細胞の新しい弱点を解明することを目的として研究を行った。その結果、抗がん剤や放射線処理後に、がん細胞がSSAを活性化して生存しようとするメカニズムと具体的なタイミングを、分子レベルから個体レベルにわたって見出した。本発明者らは、これらの知見に基づいて、更に検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
[1]白金製剤を用いた化学療法又は放射線療法と併用される、SSA阻害剤を含むがん細胞増殖抑制剤であって、ここで前記がん細胞増殖抑制剤が、対象への前記白金製剤の投与後、又は前記放射線の照射後、前記対象におけるがん細胞中のSSAの活性化前、又は活性化時に投与される、増殖抑制剤。
[2]前記SSA阻害剤が、Rad52阻害剤である、[1]に記載のがん細胞増殖抑制剤。
[3]前記Rad52阻害剤が、(-)エピガロカテキン、又は5-アミノ-1-((2R,3R,4S,5R)-3,4-ジヒドロキシ-5-(ヒドロキシメチル)-テトラヒドロフラン-2-イル)-1H-イミダゾール-4-カルボキサミドである、[2]に記載のがん細胞増殖抑制剤。
[4]前記白金製剤が、オキサリプラチン、カルボプラチン、シスプラチン、及びネダプラチンからなる群から選択される、[1]~[3]のいずれか1つに記載のがん細胞増殖抑制剤。
[5]前記がん細胞増殖抑制剤が、前記白金製剤の投与後、又は前記放射線の照射後、2日以内に投与される、[1]~[4]のいずれか1つに記載のがん細胞増殖抑制剤。
[6]前記がん細胞が、Rad52因子を含むSSA活性が増加するがん細胞である、[1]~[5]のいずれか1つに記載のがん細胞増殖抑制剤。
[7]前記Rad52因子を含むSSA活性が増加するがん細胞が、RECQL4欠損がん細胞、BRCA1及び/又はBRCA2欠損がん細胞、並びにAPC欠損がん細胞からなる群から選択される、[6]に記載のがん細胞増殖抑制剤。
[8]白金製剤を用いた化学療法又は放射線療法と併用される、SSA阻害剤を含む、前記化学療法又は放射線療法に起因する晩期障害低減剤であって、ここで前記晩期障害低減剤が、対象への前記白金製剤の投与後、又は前記放射線の照射後、前記対象におけるがん細胞中のSSAの活性化前、又は活性化時に投与される、晩期障害低減剤。
[9]前記晩期障害が二次性発がんである、[8]に記載の晩期障害低減剤。
[10]前記SSA阻害剤が、Rad52阻害剤である、[8]又は[9]に記載の晩期障害低減剤。
[11]前記Rad52阻害剤が、(-)エピガロカテキン、又は5-アミノ-1-((2R,3R,4S,5R)-3,4-ジヒドロキシ-5-(ヒドロキシメチル)-テトラヒドロフラン-2-イル)-1H-イミダゾール-4-カルボキサミドである、[10]に記載の晩期障害低減剤。
[12]前記白金製剤が、オキサリプラチン、カルボプラチン、シスプラチン、及びネダプラチンからなる群から選択される、[8]~[11]のいずれか1つに記載の晩期障害低減剤。
[13]前記晩期障害低減剤が、前記白金製剤の投与後、又は前記放射線の照射後、2日以内に投与される、[8]~[12]のいずれか1つに記載の晩期障害低減剤。
[14]前記がん細胞が、Rad52因子を含むSSA活性が増加するがん細胞である、[8]~[13]のいずれか1つに記載の晩期障害低減剤。
[15]前記がん細胞が、RECQL4欠損がん細胞、BRCA1及び/又はBRCA2欠損がん細胞、並びにAPC欠損がん細胞からなる群から選択される、[14]に記載の晩期障害低減剤。
[16]白金製剤とSSA阻害剤とを組み合わせてなる併用剤であって、ここで前記SSA阻害剤が、対象への前記白金製剤の投与後、前記対象におけるがん細胞中のSSAの活性化前、又は活性化時に投与される、がん細胞増殖抑制剤。
[17]さらに放射線療法と併用される、[16]に記載のがん細胞増殖抑制剤。
[18]白金製剤とSSA阻害剤とを組み合わせてなる併用剤であって、ここで前記SSA阻害剤が、対象への前記白金製剤の投与後、前記対象におけるがん細胞中のSSAの活性化前、又は活性化時に投与される、前記白金製剤の投与に起因する晩期障害低減剤。
[19]前記晩期障害が二次性発がんである、[18]に記載の晩期障害低減剤。
[20]がんを治療し、且つ化学療法及び/又は放射線療法に起因する晩期障害を低減するための方法であって、前記方法が、それを必要とする対象に、以下:
(i)治療有効量の白金製剤を投与し、及び/又は放射線を照射し、及び
(ii)前記白金製剤の投与後、及び/又は放射線の照射後、前記対象におけるがん細胞中のSSAの活性化前、若しくは活性化時に、治療有効量のSSA阻害剤を投与する
ことを含む、方法。
[21]前記治療有効量のSSA阻害剤が、前記白金製剤の投与後、及び/又は放射線の照射後、2日以内の間に投与される、[20]に記載の方法。
[22]前記がん細胞が、RECQL4欠損がん細胞、BRCA1及び/又はBRCA2欠損がん細胞、並びにAPC欠損がん細胞からなる群から選択される、[20]又は[21]に記載の方法。
[23]前記がんが、大腸がん、卵巣がん又は乳がんである、[20]~[22]のいずれか1つに記載の方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、白金製剤の投与による化学療法や放射線療法後、所定の期間内に、SSA阻害剤を投与することで、がん細胞で特異的に活性化されるSSA経路を選択的に抑制し、さらなるDNA修復、DNA複製、及びDNA組換えの誤りの蓄積による遺伝的不安定性の誘導と、それに伴う二次性発がんや転移などのがんの悪性化等を、長期的かつ副作用が無い状態で効果的に抑制することができ、がんの治療効果が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、大腸がん細胞HCT116と、非がん細胞である不死化乳腺上皮細胞MCF10Aに対して、Cas9‐CRISPR技術を用いてRECQL4欠損細胞を樹立したことを示す(A及びC)。また図1は、RECQL4欠損大腸がん細胞が、放射線とシスプラチンに対して高感受性であることを示す(B)。さらに図1は、RECQL4欠損MCF10A非がん細胞が放射線とシスプラチンに対して高感受性でないことを示す(D)。
【図2】図2は、HCT116細胞での放射線とシスプラチン処理後のDNA修復タンパク質の挙動を、蛍光免疫染色法で可視的に定量解析した結果を示す(A~F)。また図2は、DNA二本鎖切断認識マーカーであるγH2AX、及びRad51が、放射線照射後の時間経過と共に減少したことを示す(A及びB)。さらに図2は、DNA一本鎖切断認識マーカーであるRPA、及びRad52が、放射線照射後の時間経過と共に増加したことを示す(C及びD)。
【図3】図3は、Rad52とRPA2が、時間経過と共にクロマチン分画に蓄積し、RECQL4欠損細胞ではこの増加が顕著であったことを示す(A及びB)。
【図4】図4は、GFPレポーターアッセイの結果であり、RECQL4欠損がん細胞では、SSA活性の有意な増加が見られたが、RecQL4タンパク質の異所性発現によってSSA活性が抑制されたことを示す(A~C)。
【図5】図5は、siRNAによって人為的にSSA活性を抑制し、SSA活性が、がん細胞の生存に必要かどうかを検討した結果を示す(A及びB)。また図5は、RECQL4欠損がん細胞が、生存のためにSSA活性を増加させることを示す(B)。
【図6】図6は、エピガロカテキンと代謝調節薬AICARを用いたRECQL4欠損がん細胞の増殖抑制実験の結果を示す(A~F)。また図6は、エピガロカテキンと代謝調節薬AICARのいずれの処理でも、濃度依存的にRECQL4欠損がん細胞を有意に抑制したことを示す(A~C)。さらに図6は、直接的AMPK活性化剤であるサリチレートや、間接的AMPK活性化剤である2-デオキシ-D-グルコース処理では、RECQL4欠損がん細胞への特異的な抑制効果が見られなかったことを示す(D~F)。
【図7】図7は、EGC処理によるシスプラチン誘導ゲノム不安定性の抑制効果を示す。
【図8】図8は、p53欠損HCT116細胞、RECQL4欠損HCT116細胞、及びそれらの野生型細胞を、BALB/cAJcl‐nu/nuマウスに皮下投与して、生体内でのがん細胞増殖能力を調べるxenograft実験を行った結果を示す(A~C)。図8は、p53欠損HCT116細胞、及び野生型細胞よりも、RECQL4欠損細胞の方が、AICAR処理による増殖抑制効果が大きかったことを示す(A~C)。
【図9】図9は、マウスへのエピガロカテキンの経口投与の結果を示す(A~C)。図9は、図8に示すAICARの結果同様、RECQL4欠損がん細胞で、EGCによる増殖抑制効果が有意に観察されたことを示す(A~C)。
【図10】図10は、RECQL4欠損がん細胞において、AICARとシスプラチンの同時処理により相乗的ながん細胞抑制効果が得られたことを示す(A)。また図10は、シスプラチンでの処理後16時間以降のSSAが遅延的に活性化するタイミングで、SSA阻害剤で処理することで、最初の24時間での処理に比べて効果的ながん細胞抑制効果が得られたことを示す(B)。
【図11】図11は、マウス個体レベルでのシスプラチンとEGCの併用によるがん細胞の増殖抑制相乗効果を示す(A~E)。
【図12】図12は、誤りがちDNA修復経路の抑制によるがんの治療に関する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書において、(ポリ)ヌクレオチドなどの略号による表示は、IUPAC-IUBの規定〔IUPAC-IUB Communication on Biological Nomenclature, Eur. J. Biochem., 138: 9 (1984)〕、「塩基配列またはアミノ酸配列を含む明細書等の作成のためのガイドライン」(日本国特許庁編)、及び当該分野における慣用記号に従う。

【0019】
1.定義
本明細書における用語の定義を以下に記すが、以下の定義は本発明の範囲を限定するものではない。

【0020】
本明細書において「誤りがち(DNA)修復経路」とは、細胞の有する様々なDNA修復機構のうち、例えば、非相同末端再結合、代替非相同末端再結合、マイクロホモロジー媒介末端結合、DNA鎖切断誘発複製及び一本鎖アニーリング(SSA)を介した修復経路を指し、より好ましくは、一本鎖アニーリング(SSA)を介した修復経路である。

【0021】
その他の本明細書で使用する用語は、特に言及しない限り、当該技術分野で通常用いられる意味で用いることができる。

【0022】
2.本発明の剤及び併用剤
本発明は、(1)白金製剤を用いた化学療法又は放射線療法と併用される、SSA阻害剤を含むがん細胞増殖抑制剤、及び(2)白金製剤を用いた化学療法又は放射線療法と併用される、SSA阻害剤を含む、該化学療法又は放射線療法に起因する晩期障害低減剤を提供する。
本発明のがん細胞増殖抑制剤、及び晩期障害低減剤は、対象への白金製剤の投与後、又は放射線の照射後、該対象におけるがん細胞中のSSAの活性化前、又は活性化時に投与されることを特徴とする。

【0023】
また、本発明は、(3)白金製剤とSSA阻害剤とを組み合わせてなる併用剤を提供し、該SSA阻害剤が、対象への該白金製剤の投与後、前記対象におけるがん細胞中のSSAの活性化前、又は活性化時に投与されることを特徴とする。
本発明の併用剤は、白金製剤とSSA阻害剤とを合剤として単一の製剤に製剤化することもできるが、白金製剤とSSA阻害剤とが別々に製剤化されることが好ましい。
本発明の併用剤は、がん細胞増殖抑制剤、又は白金製剤の投与に起因する晩期障害低減剤として適している。

【0024】
本発明の「化学療法」とは、具体的にはがんの化学療法を意味し、抗がん剤によるがんの治療全般を指す。

【0025】
本発明の「白金製剤」とは、白金錯体に分類される抗がん剤を指し、具体的には、例えば、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン、ネダプラチンが挙げられるが、好ましくは、シスプラチンである。

【0026】
本発明の「放射線療法」とは、対象の悪性腫瘍部に放射線を照射してがん細胞の増殖を抑制することを目的とした治療であり、その治療に使用される放射線としては、X線、電子線、γ線、粒子線などが挙げられる。また本発明の放射線療法では、がん細胞の致死量に近い放射線量を照射してもよく、また致死量未満の放射線量を照射してもよく、具体的には、局所的照射や反復照射を含めれば、例えば、0.01mGy~100Gy/日の範囲であってもよい。

【0027】
本発明の「SSA阻害剤」は、本明細書中に記載の「誤りがち修復経路阻害剤」と互換的に使用され、SSAの活性化を減弱、又は消失させて、SSAを介したDNA修復を抑制することができる剤を指す。具体的には、例えば、Rad52阻害剤が挙げられ、より具体的には、例えば、(-)エピカテキン、(-)エピガロカテキン(以下、EGCと略記する場合がある)、(-)エピカテキンガレート、(-)エピガロカテキンガレート、5-アミノ-1-((2R,3R,4S,5R)-3,4-ジヒドロキシ-5-(ヒドロキシメチル)-テトラヒドロフラン-2-イル)-1H-イミダゾール-4-カルボキサミド(以下、AICARと略記する場合がある)が挙げられる。本発明では、(-)エピガロカテキン、又は5-アミノ-1-((2R,3R,4S,5R)-3,4-ジヒドロキシ-5-(ヒドロキシメチル)-テトラヒドロフラン-2-イル)-1H-イミダゾール-4-カルボキサミドが好ましい。また、ここで「SSAの活性化」とは、化学療法、放射線療法等により、細胞においてSSAによるDNA修復が亢進することを指す。

【0028】
本発明の「対象」とは、ヒトを始めとする哺乳動物であり、哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類やウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ、ミンク等の家畜、イヌ、ネコ等のペット、ヒト、サル、カニクイザル、アカゲザル、マーモセット、オランウータン、チンパンジー、ゴリラなどの霊長類等が挙げられる。

【0029】
本発明の「がん」とは、悪性腫瘍全般を指す。本発明の剤及び併用剤が適用可能な悪性腫瘍の種類としては、例えば、星細胞腫、悪性の髄芽腫、胚細胞腫瘍、頭蓋咽頭腫及び上衣腫からなる群から選ばれる小児の脳腫瘍;グリオーマ、神経膠腫、髄膜腫、下垂体腺腫及び神経鞘腫からなる群から選ばれる成人の脳腫瘍;上顎洞癌、咽頭癌(例えば、上咽頭癌、中咽頭癌、下咽頭癌)、喉頭癌、口腔癌、口唇癌、舌癌及び耳下腺癌からなる群から選ばれる頭頚部癌;小細胞肺癌、非小細胞肺癌、胸腺腫及び中皮腫からなる群から選ばれる胸部癌及び腫瘍;食道癌、肝臓癌、原発性肝癌、胆嚢癌、胆管癌、胃癌、大腸癌、結腸癌、直腸癌、肛門癌、膵癌及び膵内分泌腫瘍からなる群から選ばれる消化器癌及び腫瘍;陰茎癌、腎盂・尿管癌、腎細胞癌、精巣腫瘍(睾丸腫瘍とも称される)、前立腺癌、膀胱癌、ウイルムス腫瘍及び尿路上皮癌からなる群から選ばれる泌尿器癌及び腫瘍;外陰癌、子宮頸部癌、子宮体部癌、子宮内膜癌、子宮肉腫、絨毛癌、膣癌、乳癌、卵巣癌及び卵巣胚細胞腫瘍からなる群から選ばれる婦人科癌及び腫瘍;成人及び小児の軟部肉腫;骨肉腫及びユーイング腫瘍からなる群から選ばれる骨の腫瘍;副腎皮質癌及び甲状腺癌からなる群から選ばれる内分泌組織の癌及び腫瘍;悪性リンパ腫、非ホジキンリンパ腫、ホジキン病、多発性骨髄腫、形質細胞性腫瘍、急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、成人T細胞白血病リンパ腫、慢性骨髄性白血病及び慢性リンパ性白血病からなる群から選ばれる悪性リンパ腫及び白血病;又は、慢性骨髄増殖性疾患、悪性黒色腫、有棘細胞癌、基底細胞癌及び菌状息肉症からなる群から選ばれる皮膚の癌及び腫瘍が挙げられる。

【0030】
本発明の「Rad52因子を含むSSA活性が増加するがん細胞」とは、例えば、化学療法や放射線療法などに起因してRad52因子を含むSSA活性が増加するがん細胞、及びこれらの治療とは無関係にRad52因子を含むSSA活性が増加するがん細胞を意味するが、好ましくは、化学療法や放射線療法などに起因してRad52因子を含むSSA活性が増加するがん細胞である。また、「化学療法や放射線療法などに起因してRad52因子を含むSSA活性が増加するがん細胞」とは、化学療法や放射線療法前にSSAが活性化されていてもされていなくてもよく、活性化されている場合、化学療法や放射線療法後にその活性がさらに増加されるがん細胞を意味する。Rad52因子を含むSSA活性が増加するがん細胞としては、例えば、RECQL4欠損がん細胞、BRCA1及び/又はBRCA2欠損がん細胞、APC欠損がん細胞などが挙げられるが、これらに限定されない。

【0031】
本発明の「RECQL4欠損がん細胞」とは、RECQL4遺伝子に変異を有し、その結果、REQCL4タンパク質が正常な機能を有しないがん細胞、特に、REQCL4のヘリカーゼ活性が喪失しているがん細胞を指す。また、RECQL4欠損がんとしては、例えば、骨肉腫やリンパ腫や皮膚がんなどが挙げられるが(Wang, Am J Med Genet, 2001, 102, 11-17; Siitonen, Eur J Hum Genet, 2009, 17, 151-158)、これらに限定されない。

【0032】
本発明の「BRCA1及び/又はBRCA2欠損がん細胞」及び「APC欠損がん細胞」とは、BRCA1遺伝子及び/又はBRCA2遺伝子変異による乳がんや卵巣がん細胞、APC遺伝子変異による家族性大腸腺腫症細胞が挙げられるが、これらに限定されない。

【0033】
本発明の「化学療法又は放射線療法に起因する晩期障害」とは、化学療法や放射線療法などによる治療が終了してから、数か月から数十年経過した後に生じる健康上の問題を意味し、例えば、二次性発がん、転移、内分泌障害、運動障害などが挙げられる。また、「二次性発がん」とは、抗がん剤や放射線による細胞の障害のために、治療を終えた数か月から数十年後に、もとの病気とは別の種類のがんや白血病を生じることを指す。

【0034】
本発明のがん細胞増殖抑制剤、及び晩期障害低減剤の投与時期について、該剤は、対象への白金製剤の投与時、又は放射線の照射時に一緒に投与してもよいが、対象への白金製剤の投与後、又は放射線の照射後、対象におけるがん細胞中のSSAの活性化前、又は活性化時に投与することが好ましい。具体的には、対象への白金製剤の投与後、又は放射線の照射後2日以内が好ましく、8~44時間以内がより好ましく、16~40時間以内がさらに好ましく、20~36時間以内が特に好ましい。

【0035】
本発明の併用剤の投与時期について、対象への該併用剤における白金製剤及びSSA阻害剤を同時に投与してもよいが、対象への該併用剤における白金製剤の投与後、対象におけるがん細胞中のSSAの活性化前、又は活性化時に、該併用剤におけるSSA阻害剤を投与することが好ましい。具体的には、対象への白金製剤の投与後、又は放射線の照射後2日以内が好ましく、8~44時間以内がより好ましく、16~40時間以内がさらに好ましく、20~36時間以内が特に好ましい。

【0036】
本発明のがん細胞増殖抑制剤、及び晩期障害低減剤は、後述の実施例に示すように、特に上記所定の時期に対象に投与されることで、抗がん剤や放射線処理後に、がん細胞がSSAを活性化して生存しようとするメカニズムを特異的に阻害し、結果、がん細胞の増殖を抑制し、さらに抗がん剤や放射線処理によって誘導されるDNA修復、DNA複製、及びDNA組換えの誤りの蓄積による遺伝的不安定性に起因する晩期障害も低減することができ、長期的かつ副作用が無い状態でのがんの治療効果が期待できる。

【0037】
本発明の併用剤は、後述の実施例に示すように、特に上記該併用剤における白金製剤の対象への投与後の所定の期間内に、該併用剤におけるSSA阻害剤を投与することで、がん細胞がSSAを活性化して生存しようとするメカニズムを特異的に阻害し、結果、がん細胞の増殖を抑制し、さらに抗がん剤や放射線処理によって誘導されるDNA複製の誤りの蓄積による遺伝的不安定性に起因する晩期障害も低減することができ、長期的かつ副作用が無い状態でのがんの治療効果が期待できる。

【0038】
本発明のがん細胞増殖抑制剤、晩期障害低減剤、及び併用剤の投与時期以外の他の使用条件等は、特に制限されず、例えば、投与対象、投与経路、疾患の程度等に応じて、投与形態、投与方法、投与量等を適宜設定することができ、具体的には、例えば、以下のように例示される。

【0039】
本発明のがん細胞増殖抑制剤、晩期障害低減剤、及び併用剤は、それ自体公知の方法で、例えば、慣用的な混合、造粒、コーティング、可溶化、凍結乾燥等の工程を用いて製造することができる。

【0040】
また、本発明のがん細胞増殖抑制剤、晩期障害低減剤、及び併用剤は、任意の医薬的に許容される担体、例えば、慣用の各種有機又は無機担体物質を含んでもよく、例えば、固形製剤における賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、あるいは液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤等が挙げられる。

【0041】
さらに、本発明のがん細胞増殖抑制剤、晩期障害低減剤、及び併用剤は、必要に応じて、通常の防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤、吸着剤、湿潤剤等の添加物を適宜、適量含んでもよい。

【0042】
賦形剤としては、例えば、乳糖、ショ糖、D-マンニトール、デンプン、コーンスターチ、結晶セルロース、軽質無水ケイ酸等が挙げられる。
滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、コロイドシリカ等が挙げられる。
結合剤としては、例えば、結晶セルロース、ショ糖、D-マンニトール、デキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、デンプン、ゼラチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム等が挙げられる。
崩壊剤としては、例えば、デンプン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、L-ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。
溶剤としては、例えば、注射用水、アルコール、プロピレングリコール、マクロゴール、ゴマ油、トウモロコシ油、オリーブ油等が挙げられる。
溶解補助剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D-マンニトール、安息香酸ベンジル、エタノール、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム等が挙げられる。
懸濁化剤としては、例えば、ステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、モノステアリン酸グリセリン等の界面活性剤;例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の親水性高分子等が挙げられる。
等張化剤としては、例えば、ブドウ糖、D-ソルビトール、塩化ナトリウム、グリセリン、D-マンニトール等が挙げられる。
緩衝剤としては、例えば、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩等の緩衝液等が挙げられる。
無痛化剤としては、例えば、ベンジルアルコール等が挙げられる。
防腐剤としては、例えば、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸等が挙げられる。
抗酸化剤としては、例えば、亜硫酸塩、アスコルビン酸、α-トコフェロール等が挙げられる。

【0043】
本発明のがん細胞増殖抑制剤、晩期障害低減剤、及び併用剤の投与形態としては、液剤、錠剤、丸剤、飲用液剤、散剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、エキス剤、細粒剤、シロップ剤、浸剤、煎剤、点眼剤、トローチ剤、パップ剤、リニメント剤、ローション剤、眼軟膏剤、硬膏剤、カプセル剤(ソフトカプセルを含む)、坐剤、浣腸剤、注射剤(液剤、懸濁剤など)、貼付剤、軟膏剤、ゼリー剤、パスタ剤、吸入剤、クリーム剤、スプレー剤、点鼻剤、エアゾール剤、徐放性製剤(例えば、徐放性マイクロカプセル剤)、速放性製剤などが挙げられ、好ましくは、SSA活性化の阻害効果が最も期待できるタイミングに長時間効力を持続させることができる徐放製剤である。

【0044】
本発明のがん細胞増殖抑制剤、晩期障害低減剤、及び併用剤は、その使用に際し、各種形態に応じた方法で安全に投与される。例えば、外用剤の場合には、皮膚、粘膜などの所要部位に直接噴霧、貼付又は塗布され、錠剤、丸剤、飲用液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤及びカプセル剤等の場合には経口投与され、注射剤の場合には静脈内、筋肉内、皮内、皮下、関節腔内、腹腔内若しくは腫瘍組織内に投与され、坐剤の場合には直腸内投与される。

【0045】
本発明の併用剤について、白金製剤とSSA阻害剤とが別々に製剤化される場合、それぞれの製剤が同一の方法で投与されてもよく、またそれぞれの製剤が異なる方法で投与されてもよい。

【0046】
本発明のがん細胞増殖抑制剤、及び晩期障害低減剤中に含まれるSSA阻害剤の含有量は、通常製剤全体に対して、約0.01~100重量%、好ましくは、約0.1~50重量%程度である。

【0047】
また、本発明の併用剤について、該併用剤における白金製剤、及びSSA阻害剤の含有量は、通常製剤全体に対して、それぞれ、約0.01~100重量%、好ましくは、約0.1~50重量%程度である。

【0048】
本発明のがん細胞増殖抑制剤、晩期障害低減剤、及び併用剤に含むことができる医薬的に許容される担体等の添加剤の含有量は、製剤の形態によって相違するが、通常製剤全体に対して、約1~99.99重量%、好ましくは約10~90重量%程度である。

【0049】
本発明のがん細胞増殖抑制剤、晩期障害低減剤、及び併用剤の投与量は、有効成分の活性や種類、投与様式(例えば、経口、非経口)、疾患の程度、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等に応じて適宜選択することができる。

【0050】
例えば、本発明のがん細胞増殖抑制剤、及び晩期障害低減剤の投与量は、成人(体重60kg)1日あたり、該剤中に含まれるSSA阻害剤、例えば(-)エピガロカテキンが、通常、5mg~1000mg程度、好ましくは50mg~100mg程度であり、また例えば、5-アミノ-1-((2R,3R,4S,5R)-3,4-ジヒドロキシ-5-(ヒドロキシメチル)-テトラヒドロフラン-2-イル)-1H-イミダゾール-4-カルボキサミドが、通常、20mg~20g程度、好ましくは200mg~2000mg程度である。

【0051】
また、例えば、本発明の併用剤の投与量は、成人(体重60kg)1日あたり、該併用剤における白金製剤、例えば、シスプラチンが、通常、1mg~1000mg程度、好ましくは、10mg~100mg程度であり、そして該併用剤におけるSSA阻害剤、例えば、(-)エピガロカテキンが、通常、5mg~1000mg程度、好ましくは、50mg~100mg程度であり、また例えば、5-アミノ-1-((2R,3R,4S,5R)-3,4-ジヒドロキシ-5-(ヒドロキシメチル)-テトラヒドロフラン-2-イル)-1H-イミダゾール-4-カルボキサミドが、通常、20mg~20g程度、好ましくは、200mg~2000mg程度である。

【0052】
上述の白金製剤、及びSSA阻害剤の量は、1日1回~3回に分けて投与することができる。また、複数回のシスプラチン処理や放射線照射を行う場合は、その都度、本明細書中に記載の用法と用量で、SSA阻害剤を投与することが好ましい。

【0053】
なお、上記は、剤及び併用剤を例に本発明を説明したが、本発明のがんを治療し、かつ化学療法及び/又は放射線療法に起因する副作用を低減するための方法の場合にも、上記はそのまま援用される。

【0054】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0055】
(材料及び方法)
実施例1:細胞培養
HCT116細胞を、56℃、30分間の処理で熱不活性化させたウシ胎児血清(FBS)(Sigma, Cat. No. 172012)を10%、及び100U/ml ペニシリン+0.1mg/ml ストレプトマイシン(Wako, Cat. No. 168-23191)を1%含んだダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco’s modified Eagle’s medium)(Wako, Cat. No. 043-30085)培養液中で、加湿37℃インキュベーターを用いて培養した。
【実施例】
【0056】
MCF10A細胞の培養を、56℃、30分間の処理で熱不活性化させたウマ血清(Bioconcept, Cat. No. 205F00I)、1μM デキサメタゾン(Sigma, Cat. No. D8893)、5μg/ml インスリン(Sigma, Cat. No. I9278)、ヒトEGF 10ng/ml(Sigma, Cat. No. E9644)、及び100U/ml ペニシリン+0.1mg/ml ストレプトマイシン(Wako, 168-23191)を1%含んだダルベッコ改変イーグル培地‐F12(DMEM/F12)(Wako, Cat. No. 048-29785)培養液中で、加湿37℃インキュベーターを用いて培養した(Costantinoら, Science, 2014, 343, 88-91)。
【実施例】
【0057】
実施例2:ベクター構築
RecQL4タンパク質の493番目のアミノ酸部位にストップコドンを導入して、RECQL4ノックインベクターを構築した(Kohzakiら, Carcinogenesis, 2012, 33, 1203-1210)。全長RecQL4cDNAを、pApuroベクターのEcoRI部位に挿入し、RecQL4タンパク質発現ベクターを作製した(Takataら, EMBO J, 1994, 13, 1341-1349)。RecQL4タンパク質の発現に関しては、Amaxa nucleofector 2bによるトランスフェクション(Lonza, Nucleofector kit V, Cat. No. VCA-1003; program, D-032)、X‐tremeGENE HP DNA(Roche, Cat. No. 6366244001)、及びLipofectamine LTX with PLUS Reagent(Thermo Fisher Scientific, Cat. No. 15338100)を用いて一過性に発現させて、発現量をウェスタンブロッティング法によって定量した。
【実施例】
【0058】
実施例3:Cas9‐CRISPR技術によるノックイン細胞樹立
Cas9‐CRISPR技術を用いて(Congら, Science, 2013, 339, 819-823)、RECQL4遺伝子exon6を標的としたsgRNA1と、exon9を標的としたsgRNA2作製用のプライマー対を用いた。
【実施例】
【0059】
【化1】
JP2019019082A_000003t.gif
【実施例】
【0060】
0.5g Cas9 sgRNA1、0.5 g Cas9 sgRNA2と、制限酵素PvuIで直鎖状にした1g REQL4ノックインコンストラクトの、計2gのDNAを用いて、1×10個のHCT116細胞に対してAmaxa nucleofector 2bによるトランスフェクションを行った(Lonza, Nucleofector kit V, Cat. No. VCA-1003; program, D-032)。24時間後に、6g/ml、又は10g/ml濃度のブラストサイジン(Bsr; Wako, Cat. No. 029-18701)培地を96穴プレートで培養することで、単一クローンを樹立した。2及び3週間後に、薬剤耐性単一コロニーを増幅させて、スクリーニングによってノックイン細胞を樹立した。
【実施例】
【0061】
実施例4:コロニー形成法
薬剤や放射線の感受性を、コロニー形成法で決定した。HCT116細胞を、3ml(6穴プレート)、1ml(12穴プレート)、及び0.5ml(24穴プレート)の培養液が入ったプレートに播種し、接着させた。翌日、接着させた細胞に、シスプラチン/CDDP/cis‐ジアミンジクロロ‐白金(II);CAS 15663‐27‐1(10~20g/ml)(Wako, Cat No. 033-20091)を添加し、2時間、37℃インキュベーターで培養し、PBSで洗浄した後、通常培地を加えた。放射線照射を、137Cs Gammacell 40 Exactor (0.7Gy/分;MDS Nordion)を用いて行った。いずれも約2週間程度培養後に、コロニーをメタノールで固定した後、ギムザ染色し、コロニーの数をカウントした。
【実施例】
【0062】
実施例5:ウェスタンブロッティング法
従来のウェスタンブロッティング法を用いて(Laemmli, Nature, 1970, 227, 680-5)、以下の抗体:mouse anti‐α‐Actinin(1/2000, Millipore, clone AT6/172, Cat. No. 05-384)、mouse anti‐β‐Tubulin(1/2000, Wako, Cat. No. 014-25041)、rabbit anti‐Rad51(1/2000, Bioacademia, Cat. No. 70-001)、mouse anti‐Rad51(1/1000, GeneTex, 14B4, Cat. No. GTX70230)、mouse anti‐phospho‐Histone H2A.X(Ser139)(1/2000, Millipore, clone JBW301, Cat. No. 05-636)、rabbit anti‐Rad52(1/1000, SantaCruz, H-300, Cat. No. sc-8350)、rabbit anti‐Rad52(1/1000, Abcam, Cat. No. ab103067)、rabbit anti‐RPA32(1/1000, GeneTex, Cat. No. GTX70258)、rabbit anti‐RecQL4(1/1000, Novus, Cat. No. 25470002)、rabbit anti‐Histone H3(1/2000, Cell Signaling, Cat. No. 9715)を使用して、それぞれのタンパク質量を定量した。
【実施例】
【0063】
実施例6:蛍光免疫染色法
カバーガラス(Matsunami Glass, Cat. No. C015001)を入れた12穴プレートに、野生型とRECQL4欠損HCT116細胞を播種し、2日以上培養して接着させた。接着した細胞に放射線を照射して、2、8、及び20時間後に、2%スクロース(Wako, Cat. No. 193-00025)と3%パラホルムアルデヒド(Wako, Cat. No. 160-16061)をPBSで調整した溶液で、室温で15分間固定した。室温で5分間、0.5%Triton‐X100(Wako, Cat. No. 160-24751)PBS溶液で処理して細胞膜を透過させ、30分間以上、1%BSA(Roche, Fraction V, Cat. No. 10735078001)含有PBS溶液で、ブロッキング処理を行った。蛍光免疫染色法で用いた一次抗体は、以下:rabbit anti‐Rad51(1/1000, Bioacademia, Cat. No. 70-001)、mouse anti‐Rad51(1/500, GeneTex, 14B4, Cat. No. GTX70230)、mouse anti‐phospho‐Histone H2A.X(Ser139)(1/1000, Millipore, clone JBW301, Cat. No. 05-636)、rabbit anti‐Rad52(1/500, SantaCruz, H-300, Cat. No. sc-8350)、rabbit anti‐Rad52(1/500, Abcam, Cat. No. ab103067)、rabbit anti‐RPA32(1/500, GeneTex, Cat. No. GTX70258)である。これらの一次抗体を室温で1時間反応させた後、0.05% Tween20(MP Biomedicals, Cat. No. 103168)含有PBS(以下、PBSTと略記する場合がある)で、5分間で3回洗浄した。次に、Alexa Fluor 594‐conjugated goat anti‐mouse IgG(1/2000, Thermo Fisher, Cat. No. A11037)と、Alexa Fluor 488‐conjugated goat anti‐mouse IgG(1/2000, Thermo Fisher, Cat. No. A11001)の二次抗体で、室温で45分間反応させた後に、PBSTで、5分間で2回洗浄した。最後に、DAPI(Dojindo, Cat. No. 342-07431)で染色し、PBSTで、5分間で1回洗浄した後、Fluoromount‐G(Southern Biotech, Cat. No. 0100-01)で封入した。作製したサンプルを、Zeiss AxioObserver蛍光顕微鏡で観察し、各タンパク質のfociをカウントして解析した。
【実施例】
【0064】
実施例7:クロマチン分画の濃縮
ホルムアルデヒドによるクロスリンク処理を行わずに、クロマチン分画の濃縮方法を行った(Mendez及びStillman, MCB, 2000, 20, 8602-12; Petermannら, Mol Cell, 2010, 37, 492-502)。2×10個のHCT116細胞を集めて、該細胞を含む低張緩衝液(10mM HEPES(pH7)(Wako, Cat. No. 340-08233)、50mM NaCl(Wako, Cat. No. 191-01665)、0.3Mスクロース、0.5% Triton X‐100、プロテアーゼ インヒビター カクテル(Roche, Cat. No. 05892791001))を、氷上で10分間処理して、1500gで5分間遠心して細胞質タンパク質を除いた。
【実施例】
【0065】
次に、核緩衝液(10mM HEPES(pH7)、200mM NaCl、1mM EDTA(Wako, Cat. No. 311-90075)、0.5% NP‐40(Wako, Cat. No. 145-09701)、プロテアーゼ インヒビター カクテル)を、氷上で10分間処理して、13000gで2分間遠心して核可溶分画タンパク質を除いた。ペレットに、溶解緩衝液(10mM HEPES(pH7)、500mM NaCl、1mM EDTA、1% NP‐40、プロテアーゼ インヒビター カクテル)を加えて、十分混合した後に低振幅(level3)で超音波処理(TAITEC, VP-15S)を10秒間で3回行い、13000gで30秒間遠心後に、上清を新しいエッペンドルフチューブに移し、タンパク質量を、Lowry法を基にしたDCプロテインアッセイ(BioRad, Cat. No. 5000116JA)で測定し、40μg以下のタンパク質をウェスタンブロッティングに使用した。
【実施例】
【0066】
実施例8:GFPレポーターを用いたDNA二本鎖切断修復アッセイ
誤りがち修復経路であるsingle‐strand annealingを計測するために、hprtSAGFPベクターを用いた(Addgene, Plasmid No. 41594)。野生型とRECQL4欠損HCT116細胞に、KpnI/SacIで直線化したhprtSAGFPベクターをAmaxaで導入し(Starkら, MCB, 2004, 24, 9305-9316)、24時間後に、96穴プレートにおけるピューロマイシン(Wako, Cat. No. 160-23151)含有培地で培養し、安定的にベクターを保持している数クローンを得た。その後、pCBASceIベクター(Addgene, Plasmid No. 26477)で、I‐SceIを発現させてGFP陽性になるクローンを樹立し、これらの数クローンを用いて修復効率を定量した。
【実施例】
【0067】
実施例9:siRNA処理とRad52阻害剤処理
AllStars Negative Control siRNA(Qiagen, Cat. No. SI03650318)を、対照として用いた。Rad52のsiRNAの配列情報は、siRNA#1;5'-GGAGUGACUCAAGAAUUAATT-3'(配列番号5)と、siRNA#2;5'-GGCCCAGAAUACAUAAGUATT-3'(配列番号6)であり、これら2つのsiRNAを等量混合し、HiPerFect Transfection Reagent(Qiagen, Cat. No. 301704)で細胞に導入し、36時間~48時間後に実験に用いた。Rad52阻害剤は、(-)エピガロカテキン(EGC);CAS 970‐74‐1(Tokyo Chemical Industry, Cat. No. E1084)と、5-アミノ-1-((2R,3R,4S,5R)-3,4-ジヒドロキシ-5-(ヒドロキシメチル)-テトラヒドロフラン-2-イル)-1H-イミダゾール-4-カルボキサミド(AICAR);CAS 2627‐69‐2(Wako, Cat. No. 011-22533)を用いた。AICAR以外のAMPK活性化剤は、直接活性化剤としてサリチレート(salicylate);CAS 54‐21‐7(Wako, Cat. No. 191-03142)、間接活性化剤として2-デオキシ-D-グルコース(以下、2DGと略記する場合がある);CAS 154‐17‐6(Wako, Cat. No. 040-06481)を使用した。それぞれの薬剤についてPBS溶液を作製し、分注後に-30℃で保存し、使用時に解凍することで、同じ条件の阻害剤溶液として用いた。
【実施例】
【0068】
実施例10:シスプラチン誘導ゲノム欠失に対するEGC処理の効果の検討
HCT116細胞間のゲノムの不均一性を排除するために、96穴プレートを用いて一細胞が一穴に入るように細胞を播種し、3週間培養して一つの細胞を1x10まで増やし、この細胞を対照ゲノムとして使用した。この対照細胞に対して、シスプラチン処理有/無を行い、96穴プレートを用いて一細胞が一穴に入るように細胞を播種し、EGC含有培地又は通常培地にて2週間培養した。2週間目にEGC含有培地を通常培地と交換し、計3週間培養して一つの細胞を1x10まで増やし、これらの細胞を標的ゲノムとして用いて、対照ゲノムとの比較解析を行った(図7A)。アレイCGH(comparative genomic hybridization; array)を、Affimetrix社のCytoScan(登録商標)HD Arrayを使用し(徳島大学大学院 医歯薬学研究部 総合研究支援センター)、Affimetrix社の解析ソフトCytoScan(登録商標)HD Chromosome Analysis Suite(ChAS)を用いて、一色法による比較解析を行った(図7B)。
【実施例】
【0069】
実施例11:BALB/cAJcl‐nu/nuマウスを用いたXenograft実験
マウス実験を、産業医科大学によって承認された動物実験計画承認申請書(AE15‐016)に基づいて行った。対数増殖している3×10個の野生型、RECQL4欠損、及びp53欠損HCT116細胞を、それぞれ遠心分離して回収し、PBSで洗浄後、100μl PBSで細胞ペレットを氷上で充分懸濁した。氷上のまま等量の100μl マトリゲル(Matrigel)(登録商標)(Corning, Cat. No. 356234)を加えて充分懸濁し、1:1の投与用細胞溶液を作製した。6~8週齢の雌BALB/cAJcl‐nu/nuマウス(CLEA Japan)の左右の横腹に計2か所、氷上に置いておいた投与用細胞溶液を皮下投与した(Buzzaiら, Cancer Res, 2007, 67, 6745-52)。マウスの体重を1週間に1回計測し、がん容量(mm)を1週間に2回計測した。がん容量(mm)を、dを最小直径、Dを最大直径として、d×D/2(≒6/π)の計算式を用いて計算した。
【実施例】
【0070】
(結果)
Nalm‐6などのBリンパ球は、放射線に高感受性であることがよく知られている。そこで、RECQL4欠損細胞の放射線やシスプラチン高感受性が、がん細胞で一般的な表現型であることを確認するために、大腸がん細胞HCT116と、非がん細胞である不死化乳腺上皮細胞MCF10Aに対して、Cas9‐CRISPR技術を用いてRECQL4欠損細胞を樹立した(図1A及びC)。その結果、RECQL4欠損大腸がん細胞もシスプラチンに高感受性であることを確認したが(図1B)、興味深いことに、RECQL4欠損MCF10A非がん細胞では高感受性を示さなかった(図1D)。これらの結果から、がん細胞でRECQL4機能が欠損すると、放射線やシスプラチンに高感受性となることを見出した。
【実施例】
【0071】
次に、放射線とシスプラチン高感受性の分子機序を明らかにするために、HCT116細胞での放射線とシスプラチン処理後のDNA修復タンパクの挙動を、蛍光免疫染色法で可視的に定量解析した。DNA二本鎖切断修復経路の一つである相同組換え修復(HR)の主要因子であるRad51は(Shinoharaら, Cell, 1992, 69, 457-470)、DNA二本鎖切断認識マーカーであるγH2AXと同様に(Rogakouら, JBC, 1998, 273, 5858-68)、放射線照射後の時間経過と共に減少した(図2A及びB)。一方、DNA一本鎖切断認識マーカーであるRPAは(Raderschallら, PNAS, 1999, 96, 1921-1926)、放射線照射後の時間経過と共に増加した(図2C)。RPAは、DNA二本鎖切断修復経路の一つである一本鎖アニーリング修復(SSA)の主要因子であり、その他のSSA主要因子であるRad52の挙動も調べると(Shinohara及びOgawa, Nature, 1998, 391, 404-407)、RPAと同様の挙動を示した(図2D)。RPAとRad52タンパク質の蓄積は、RECQL4欠損細胞で有意に増加し、RecQL4タンパク質を異所性発現させると抑制された(図2E及びF)。この結果から、RECQL4欠損細胞では、放射線やシスプラチン処理によるDNAダメージによって、SSA修復経路が有意に活性化することを見出した。
【実施例】
【0072】
DNAの二本鎖切断とDNAを折りたたんでいるクロマチン領域は密接に関係しており、密に折りたたんでいるヘテロクロマチン領域は切断されにくく、緩く折りたたんでいるユークロマチン領域は切断されやすいことが分かっている(Goodarziら, Mol Cell, 2008, 31, 167-77)。そこで、SSA修復因子のDNAダメージ部位への蓄積を、クロマチン分画を濃縮して生化学的に解析した。図2の結果と相関するように、Rad51とγH2AXの一過性の増加と減少がみられたが、Rad52とRPA2は時間経過と共にクロマチン分画に蓄積し、RECQL4欠損細胞ではこの増加が顕著であった(図3A及びB)。ホルムアルデヒドによるタンパク質とクロマチンの架橋方法を用いていないので、SSA因子とクロマチンとの結合は比較的強いと考えられる。上記の結果から、RECQL4欠損がん細胞では、放射線照射によるDNA傷害後に、遅延的にDNA修復SSA因子がクロマチンに蓄積することを見出した。
【実施例】
【0073】
RECQL4欠損がん細胞でのSSA活性化を決定付けるために、GFPレポーターアッセイを用いて、定量的なSSA活性測定を行った(Starkら, MCB, 2004, 24, 9305-9316)。RECQL4欠損がん細胞では、SSA活性の有意な増加が見られたが、RecQL4タンパク質の異所性発現によってSSA活性が抑制されたので(図4A~C)、RecQL4タンパク質が、がん細胞でSSAを抑制する働きを担うことを見出した。
【実施例】
【0074】
RECQL4欠損がん細胞では、SSA活性が増加していることを見出したので、SSA活性が、がん細胞の生存に必要かどうかを検討するために、siRNAによって人為的にSSA活性を抑制した(図5A)。その結果、Rad52タンパク質発現を抑えることで、RECQL4欠損がん細胞が有意に減少することが判明した。また、RECQL4タンパク質を異所性発現させた場合、表現型が元に戻ることから、RECQL4欠損がん細胞は、生存のためにSSA活性を増加させていることを見出した(図5B)。
【実施例】
【0075】
次に、図5の結果を確認するために、最近Rad52阻害剤として同定された、緑茶の成分であるエピガロカテキン(Hengelら, eLife, 2016; 5:e14740)と、代謝調節薬AICARを用いて実験を行った(Sullivanら, PLoS One, 2016, 11, e0147230)。その結果、どちらの薬剤処理でも同様に、濃度依存的にRECQL4欠損がん細胞を有意に抑制することを見出した(図6A~C)。AICARは、AMPK活性化剤として知られているが(Sullivanら, FEBS Lett, 1994, 353,33-6)、直接的AMPK活性化剤であるサリチレートや、間接的AMPK活性化剤である2DG処理では(Vincentら, Oncogene, 2015, 34, 3627-39)、RECQL4欠損がん細胞への特異的な抑制効果が見られなかった(図6E及びF)。これらの結果から、RECQL4欠損がん細胞の抑制効果は、Rad52を標的とする特異的な抑制効果であることが明らかとなった。
【実施例】
【0076】
最後に、エピガロカテキンがSSA経路を選択的に抑制し、さらなるDNA修復、DNA複製、及びDNA組換えの誤りの蓄積による遺伝的不安定性の誘導と、それに伴う二次性発がんや転移などのがんの悪性化等を抑制することを裏付けるために実験を行った。実験結果を、図7に示す。図7の結果に示されるように、エピガロカテキン処理により、シスプラチン処理によって誘導されるゲノム欠失が抑制されることが明らかになった。
【実施例】
【0077】
上記研究によって、誤りがちDNA修復経路におけるSSAの阻害が、RECQL4欠損がん細胞の抑制に効果的であることを、分子・細胞レベルでの解析により見出した。
【実施例】
【0078】
次に、個体レベルでのSSA阻害効果を実証するために、野生型とRECQL4欠損HCT116細胞を、BALB/cAJcl‐nu/nuマウスに皮下投与して、生体内でのがん細胞増殖能力を調べるxenograft実験を行った。AICAR処理でp53欠損HCT116細胞の増殖が抑制されることが分かっているので(Buzzaiら, Cancer Res, 2007, 67, 6745-52)、p53欠損HCT116細胞を対照として用いた。報告通り、野生型細胞に比べてp53欠損細胞は、AICAR処理で増殖が抑制された(図8A~C)。興味深いことに、RECQL4欠損細胞の方が、p53欠損細胞よりもAICAR処理による増殖抑制効果が大きかった(図8A~C)。
【実施例】
【0079】
もう1つのSSA阻害剤であるEGCは、EGCG(エピガロカテキン ガレート)に比べて生物効果が小さく、EGCGが集中的に研究されてきた経緯があり(例えば、PubMedにおいて「epigallocatechin gallate」を検索した場合4524件ヒットするが、「epigallocatechin NOT gallate」を検索した場合、305件しかヒットしない)、マウスへのEGC投与研究は皆無に等しい。しかしながら、ヒトでの臨床応用がし易いこと等を考慮して、マウスへのEGC経口投与を試みることにした。動物へのEGC投与に関する研究は、マウスでは腹腔内投与(i.p.)20mg/kgの報告のみなので(Wang et al, PLoS One, 2013; e56631)、より低濃度15mg/kgの経口投与(p.o.)を行ってSSAの阻害効果をマウスで調べた。その結果、AICAR同様に、RECQL4欠損がん細胞で、有意なEGCによる増殖抑制効果を観察した(図9A~C)。
【実施例】
【0080】
SSA抑制によるがん細胞の増殖抑制効果をマウス個体レベルで確認したので、次に、抗がん剤であるシスプラチン処理後に活性化されるSSAをタイミング良く阻害することで、効果的に相乗的ながん細胞抑制効果が得られるのではないか、という仮説を検証した。RECQL4欠損がん細胞は、AICARとシスプラチン単独処理でも感受性を示すが(図1B、及び図6B)、2つを同時に処理すると、相乗的ながん細胞抑制効果を確認した(図10A)。さらに、24時間以降のSSAが遅延的に活性化するタイミングでSSA阻害剤を処理することで、初期24時間処理に比べて効果的ながん細胞抑制効果を見出した(図10B)。
【実施例】
【0081】
最後に、細胞レベルでのがん細胞の増殖抑制相乗効果を、マウス個体レベルでも検証した。抗がん剤であるシスプラチンを投与した翌日に、EGCを経口投与する投与方法を選択した。その結果、EGC単独ではRECQL4欠損がん細胞の抑制効果が見られなかったが、これは、今回の投与方法が、図9に示すものよりもEGC投与頻度が少なく、投与間隔が空いたことに起因すると考えられる。シスプラチン単独投与でのがん細胞抑制効果と、シスプラチンとEGCの併用投与による相乗的ながん細胞抑制効果を観察した(図11A~E)。これらの結果から、抗がん剤であるシスプラチンでの処理によって活性化されるSSAを阻害することで、マウス個体レベルでもRECQL4欠損がん細胞の相乗的増殖抑制効果を確認した。
【実施例】
【0082】
(結論)
上記の結果から、抗がん剤処理後や放射線照射後に生存するために、SSAが活性化し易い特殊ながん細胞、具体的には、例えば、BRCA1遺伝子とBRCA2遺伝子に変異をもつ乳がんや卵巣がんの細胞や、APC遺伝子変異による家族性大腸腺腫症の細胞に対して、抗がん剤処理後や放射線照射後に遅延的にタイミング良くSSA阻害剤で処理することで、抗がん剤処理や放射線照射に起因する副作用を低減し且つ相乗的にがん細胞の増殖を抑制することができることが、分子レベルから個体レベルまでを通して明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0083】
自己の生存のために抗がん剤処理後や放射線照射後にSSAが活性化し易い特殊ながん細胞、具体的には、例えば、BRCA1遺伝子とBRCA2遺伝子に変異をもつ乳がんや卵巣がんの細胞や、APC遺伝子変異による家族性大腸腺腫症の細胞に対して、抗がん剤処理後や放射線照射後に遅延的にタイミング良くSSA阻害剤で処理することで、抗がん剤処理や放射線照射に起因する副作用を低減しつつ相乗的にがん細胞の増殖を抑制することができるため、がんに対する新規且つ有用な治療手段となり得る点で有用である。
また特殊ながんとは言っても世界全体でのこれらのがん患者数は、大腸がんの1%がAPC変異によるものと考えても毎年数千人単位で発症しており(Kinzler及びVogelstein, Cell, 1996, 87, 159-70)、乳がんでは毎年100万人以上が乳がんと診断されて40万人以上が亡くなっている現状を考えると(Parkinら, CA Cancer J Clin. 2005, 55, 74-108)、該治療手段が有効であるがん患者数は、数万人単位で存在し、十分に産業上の利用可能性がある。
【0084】
以上、本発明の具体的な態様のいくつかを詳細に説明したが、当業者であれば示された特定の態様には、本発明の教示と利点から実質的に逸脱しない範囲で様々な修正と変更をなすことは可能である。従って、そのような修正および変更も、すべて後記の特許請求の範囲で請求される本発明の精神と範囲内に含まれるものである。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
2
【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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