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明細書 :量子ドット、これを用いた光デバイス、及び量子ドットの作製方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-016772 (P2019-016772A)
公開日 平成31年1月31日(2019.1.31)
発明の名称または考案の名称 量子ドット、これを用いた光デバイス、及び量子ドットの作製方法
国際特許分類 H01L  51/44        (2006.01)
H01L  51/42        (2006.01)
H01L  31/10        (2006.01)
FI H01L 31/04 112Z
H01L 31/08 T
H01L 31/10 A
請求項の数または発明の数 12
出願形態 OL
全頁数 27
出願番号 特願2018-051284 (P2018-051284)
出願日 平成30年3月19日(2018.3.19)
優先権出願番号 2017057431
2017137392
優先日 平成29年3月23日(2017.3.23)
平成29年7月13日(2017.7.13)
優先権主張国 日本国(JP)
日本国(JP)
発明者または考案者 【氏名】劉 鋒
【氏名】沈 青
【氏名】張 耀紅
【氏名】丁 超
【氏名】豊田 太郎
出願人 【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100107766、【弁理士】、【氏名又は名称】伊東 忠重
【識別番号】100070150、【弁理士】、【氏名又は名称】伊東 忠彦
審査請求 未請求
テーマコード 5F151
5F849
Fターム 5F151AA11
5F151CB13
5F151DA01
5F151FA02
5F151FA04
5F151FA06
5F151GA03
5F849AB11
5F849BB06
5F849CB05
5F849FA02
5F849FA04
5F849FA05
5F849GA02
5F849XA01
5F849XA50
要約 【課題】簡単な合成法で表面構造が安定化された発光効率の高い量子ドットを提供する。
【解決手段】一般式CsMX3で表されるハロゲン化鉛ペロブスカイト型の量子ドットにおいて、MはPb、Sn、Ge、またはこれらの化合物から選択され、Xは、I、Br、Cl、またはこれらの化合物から選択され、前記量子ドットの表面がトリ-n-オクチルホスフィンのリガンドで安定化されている。
【選択図】図4
特許請求の範囲 【請求項1】
一般式CsMX3で表されるハロゲン化物ペロブスカイト型の量子ドットにおいて、MはPb、Sn、Ge、またはこれらの化合物から選択され、
Xは、I、Br、Cl、またはこれらの化合物から選択され、
前記量子ドットの表面がトリ-n-オクチルホスフィンのリガンドで安定化されていることを特徴とする量子ドット。
【請求項2】
前記Mは、Sn1-xPbx(0≦x≦1)であることを特徴とする請求項1に記載の量子ドット。
【請求項3】
前記Mは、Ge1-xPbx(0≦x≦1)であることを特徴とする請求項1に記載の量子ドット。
【請求項4】
フーリエ変換赤外分光法の測定で、波数1014/cm~1200/cmの領域に単一のピークを有することを特徴とする請求項1に記載の量子ドット。
【請求項5】
前記量子ドットの表面にリン-鉛の結合とリン-錫の結合の少なくとも一方を有することを特徴とする請求項1に記載の量子ドット。
【請求項6】
透明電極の上に光吸収層を有する光デバイスにおいて、
前記光吸収層は、請求項1~5の何れかに記載の量子ドットを有する層であることを特徴とする光デバイス。
【請求項7】
前記透明電極と前記光吸収層の間に、金属酸化物の多孔質膜を有し、
前記量子ドットは、前記金属酸化物に吸着されていることを特徴とする請求項6に記載の光デバイス。
【請求項8】
トリ-n-オクチルホスフィンにSnX2、PbX2、GeX2の中から選択される少なくと1種類のハロゲン化金属の粉末を溶解して注入溶液を生成し、ここで、XはI、Br、Cl、またはこれらの化合物から選択され、
オレイン酸セシウム溶液を所定の温度に加熱し、
加熱された前記オレイン酸セシウム溶液に、窒素雰囲気下で前記注入溶液を注入し、
所定時間反応させてハロゲン化物ペロブスカイト型の量子ドットを合成する、
ことを特徴とする量子ドットの作製方法。
【請求項9】
前記ハロゲン化金属の粉末として所定の割合で混合されたSnI2とPbI2の粉末、またはGeI2とPbI2の粉末を用いることを特徴とする請求項8に記載の量子ドットの作製方法。
【請求項10】
前記前記ハロゲン化金属の粉末として前記所定の割合で混合された前記SnI2と前記PbI2の粉末を用い、前記オレイン酸セシウム溶液の温度を100℃~170℃に制御して、一辺が8nm~17nmの立方形の量子ドットを生成することを特徴とする請求項9に記載の量子ドットの作製方法。
【請求項11】
前記オレイン酸セシウム溶液は、オクタデセン溶液に炭酸セシウムを溶解させて生成され、
前記炭酸セシウムに対する前記ハロゲン化金属の組成比は1以上、2以下であることを特徴とする請求項8~10のいずれか1項に記載の量子ドットの作製方法。
【請求項12】
前記オレイン酸セシウム溶液と前記ハロゲン化金属の反応時間は2~5秒であることを特徴とする請求項8~11のいずれか1項に記載の量子ドットの作製方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、量子ドットの作製に関し、特にハロゲン化物ペロブスカイト型ナノ結晶とその合成技術に関する。
【背景技術】
【0002】
高い変換効率を有するナノ結晶構造として、ハロゲン化物ペロブスカイト型結晶が注目を集めている。ハロゲン化物ペロブスカイト結晶を用いた光デバイスは、溶液塗布による作製が可能であり、低コストで製造することができる。これまで、ホットインジェクション法による高ルミネセンスのCsPbX3量子ドットの合成が報告されている(たとえば、非特許文献1参照)。ここで、Xは塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)を含むハロゲン元素である。ホットインジェクション法による公知の方法を「従来方法1」と呼ぶ。
【0003】
図35に示すように、従来方法1では、ヨウ化鉛(PbI2)の粉末をオレイン酸(Oleic Acid;図中「OA」と表記)とオレイルアミン(Oleylamine;図中「OAm」と表記)の溶液に溶解させたオクタデセン溶液201を、所定の温度に加熱する。加熱されたオクタデセン溶液201中に、オレイン酸セシウム(Cs-oleate)202を窒素雰囲気下で注入する。合成された溶液から不純物等を除去することで、立方形のCsPbI3量子ドットが得られる。他のハロゲン元素を用いたCsPbBr3量子ドットやCsPbCl3量子ドットも高いキャリア移動度と長い拡散距離を示すことが報告されている。ただし、立方相のバルクCsPbI3量子ドットは高温でのみ安定であり、空気中では不安定である。
【0004】
一方、ヨウ化鉛(PbI2)を含む溶液にオレイン酸セシウム(Cs-oleate)を添加して合成された量子ドットを特定の手順で洗浄することで、立方相のCsPbI3量子ドットを空気中で数か月間安定化させる方法が報告されている(たとえば、非特許文献2参照)。この方法を「従来方法2」と呼ぶ。従来方法2では、PbI2の前駆体を含む加熱溶液中にオレイン酸セシウム(Cs-oleate)加えて、ヨウ化物のナノ結晶とオレイルアンモニアの表面リガンドによって可溶化されたCsPbI3量子ドットを生成する。生成された量子ドット溶液の塗布と、Pb(OAc)2またはPb(NO32の飽和酢酸メチル溶液への浸漬を複数回繰り返すことで、バルクのCsPbI3量子ドットを安定化させる。酢酸メチルは、凝集を引き起こすことなく未到達の余剰前駆体を除去する貧溶媒として用いられている。
【先行技術文献】
【0005】

【非特許文献1】L, Protesescu,; S. Yakunin,; MI, Bodnarchuk.; F. Krieg…; Nanocrystals of Cesium Lead Halide Perovskites (CsPbX3, X = Cl, Br, and I): Novel Optoelectronic Materials Showing Bright Emission with Wide Color Gamut. Nano Lett., 2015, 15 (6), pp 3692-3696.
【非特許文献2】A. Swarnkar, A. R. Marshall, E. M. Sanehira, B. D. Chernomordik, D. T. Moore… Quantum dot-induced phase stabilization of α-CsPbI3 perovskite for high-efficiency photovoltaics. Science 07 Oct 2016: Vol. 354, Issue 6308, pp. 92-95.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来方法1では、形成されたハロゲン化鉛の量子ドットを空気中で安定化することができない。従来方法2では、量子ドットの形成後に特定の溶液を用いた複数回の洗浄プロセスが必要になる。
【0007】
本発明は、簡単な合成法で表面構造が安定化された高い発光効率の量子ドットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明では、新規な表面安定化の技術を用いて表面が安定化されたハロゲン化物量子ドットを実現する。
【0009】
一つの側面では、一般式CsMX3で表されるハロゲン化物ペロブスカイト型の量子ドットにおいて、MはPb、Sn、Ge、またはこれらの化合物から選択され、Xは、I、Br、Cl、またはこれらの化合物から選択され、
前記量子ドットの表面はトリ-n-オクチルホスフィンのリガンドで安定化されている。
【0010】
別の側面では、量子ドットの作製方法は、
トリ-n-オクチルホスフィンにPb、Sn、Geまたはこれらの化合物のハロゲン化物の粉末を溶解して注入溶液を生成し、
オレイン酸セシウム溶液を所定の温度に加熱し、
窒素雰囲気下で、加熱された前記オレイン酸セシウム溶液に、前記注入溶液を注入し、
所定時間反応させてハロゲン化鉛ペロブスカイト型の量子ドットを合成する、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
簡単な合成法で、表面構造が安定化された高い発光効率の量子ドットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態の量子ドットの合成方法を説明する図である。
【図2】実施形態のペロブスカイト型ハロゲン化物の量子ドットの模式図である。
【図3】第1実施形態の量子ドットの合成方法を説明する図である。
【図4】第1実施形態の表面安定化を説明する模式図である。
【図5】第1実施形態の方法で得られたCsPbI3量子ドットのTEM画像である。
【図6】合成温度を変えて得られるCsPbI3量子ドットのTEM画像である。
【図7】異なる温度で合成されたCsPbI3量子ドットのXRDパターンである。
【図8】異なる温度で合成されたCsPbI3量子ドットの吸収スペクトルである。
【図9】異なる温度で合成されたCsPbI3量子ドットのPL発光スペクトルである。
【図10】第1実施形態の量子ドットの表面状態を説明する図である。
【図11】第1実施形態の量子ドットと、従来方法1で形成される量子ドットのXPSスペクトルを比較して示す図である。
【図12】第1実施形態の量子ドットと関連する他の元素のXPSスペクトルを示す。
【図13】第1実施形態の量子ドットと、従来方法1の量子ドットの、UV-vis吸収スペクトルとPL発光スペクトルを比較して示す図である。
【図14】第1実施形態の方法で合成された量子ドットの安定性を示す図である。
【図15】第1実施形態の量子ドットのPL量子収率を示す図である。
【図16】第1実施形態の量子ドットの励起子寿命を従来方法1の量子トッドと比較して示す図である。
【図17】第1実施形態の量子ドットの安定性を従来方法1の量子トッドと比較して示す図である。
【図18】第1実施形態の量子ドットが適用される光デバイスの一例を示す図である。
【図19】第2実施形態の量子ドットの合成方法を示す図である。
【図20】第2実施形態の量子ドットの表面安定化を説明する図である。
【図21】異なる温度で合成された第2実施形態の量子ドットのTEM画像である。
【図22】第2実施形態の異なるサイズのCsSn1-xPbx3量子ドットの吸収スペクトルである。
【図23】第2実施形態の量子ドットの組成を変化させたときの特性を示す図である。
【図24】第2実施形態の量子ドットの安定性を示す図である。
【図25】第2実施形態の量子ドットの安定性を示す図である。
【図26】第2実施形態の量子ドット薄膜の特性を示す図である。
【図27】第2実施形態の量子ドット薄膜の特性を示す図である。
【図28】第2実施形態の量子ドットを用いた光デバイスの一例を示す図である。
【図29】第3実施形態の量子ドットの合成方法を示す図である。
【図30】第3実施形態の量子ドットの形状と特性を示す図である。
【図31】異なる温度で生成された第3実施形態の量子ドットの吸光度と発光スペクトルを示す図である。
【図32】第3実施形態の量子ドットのPL量子収率と、光吸収スペクトルを示す図である。
【図33】第3実施形態の量子ドットの安定性を示す図である。
【図34】第3実施形態の量子ドットのSEM画像である。
【図35】従来方法1の量子ドットの合成方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、実施形態の量子ドットの合成方法を説明する図である。実施形態では、新規な表面安定化の手法により、100%に近いフォトルミネセンス(PL)量子収率を達成するハロゲン化物ペロブスカイト型の量子ドットを形成する。

【0014】
まず、図1(A)において、トリ-n-オクチルホスフィン(tri-n-octylphosphine;適宜「TOP」と略称する)などの有機リン化合物の溶液15に、一般式MX2で表されるハロゲン化物の粉末16を溶解して前駆体を生成する。ここで、MはPb、Sn、Ge、またはこれらの化合物から選択され、XはCl、Br、I、またはこれらの化合物から選択され、MX2は上述した元素の任意の組み合わせを含む。ハロゲン化物の粉末は、60~80℃に暖められたTOP溶液に溶解する。一般式MX2で表されるハロゲン化物の粉末16を用いる。PbI2粉末16を溶解したTOP溶液を、ここでは「MXI2-TOP溶液30」と呼ぶ。

【0015】
図1(B)において、オレイン酸(Oleic Acid;図中「OA」と表記)とオレイルアミン(Oleylamine;図中「OAm」と表記)のオクタデセン溶液にオレイン酸セシウム(Cs-oleate)を溶融させたオレイン酸セシウム溶液20を、あらかじめ準備する。オレイン酸セシウム溶液20を加熱器10で加熱し、窒素(N2)雰囲気下で、MX2-TOP溶液30を注入する。オレイン酸セシウム溶液20の温度は、温度センサ11でモニタされている。

【0016】
オレイン酸セシウム溶液20とMX2-TOP溶液30を2~6秒間反応させ、急冷することで量子ドット原液を得る。必要に応じて、量子ドット原液に適切な有機溶媒を添加して量子ドットを沈殿させ、遠心分離等により、余剰の表面リガンドと残存不純物を除去する。こうして得られる量子ドット原液は大気中で安定であり、これを基板等に塗布することで、表面が安定化した一般式CsMX3で表される量子ドットの薄膜が得られる。

【0017】
CsMX3量子ドットの合成プロセスで、トリ-n-オクチルホスフィン(TOP)は配位性溶媒かつ共界面活性リガンドとして機能する。この合成方法を、便宜上「TOPベースの合成」と呼ぶ。TOPベースの合成の特徴として、量子ドットの形成後に特別の洗浄プロセスを行わなくても、量子ドットが安定して存在し、かつ電子と正孔の再結合が抑制されて高いPL量子収率が得られる。

【0018】
図2は、図1の方法で合成されるペロブスカイト側のCsMX3量子ドットの結晶構造の模式図である。上図は単位格子を示し、下図は単位格子が繰り返し並べられた結晶の構造である。結晶の表面にハロゲン元素が位置し、正六面体の8つの頂点にPb,Sn,Geから選択される元素Mが位置する。この結晶構造を有する量子ドットは、CsPbI3、CsSnI3、CsGeI3などMが単一の元素のときも安定であるが、CsSn1-xPbx3等の合金とすることで、空気中での安定性がさらに向上する。以下で具体的な実施形態に基づいて発明を説明する。
<第1実施形態>
図3は、第1実施形態の量子ドットの合成方法を説明する図である。第1実施形態では、ハロゲン化物ペロブスカイト型の量子ドットとして、ハロゲン化鉛量子ドットを形成する。

【0019】
まず、図3(A)において、トリ-n-オクチルホスフィン(tri-n-octylphosphine;適宜「TOP」と略称する)などの有機リン化合物の溶液15に、PbI2、PbBr2、PbCl2などのハロゲン化鉛の粉末を溶解して前駆体を生成する。ハロゲン化鉛の粉末は、60~80℃に暖められたTOP溶液に溶解する。第1実施形態では、ハロゲン化鉛としてPbI2粉末161を用いる。PbI2粉末161を溶解したTOP溶液を、ここでは「PbI2-TOP溶液301」と呼ぶ。

【0020】
図3(B)において、オレイン酸(Oleic Acid;図中「OA」と表記)とオレイルアミン(Oleylamine;図中「OAm」と表記)のオクタデセン溶液にオレイン酸セシウム(Cs-oleate)を溶融させたオレイン酸セシウム溶液20をあらかじめ準備する。オレイン酸セシウム溶液20を加熱器10で加熱し、窒素(N2)雰囲気下で、PbI2-TOP溶液301を注入する。オレイン酸セシウム溶液20の温度は、温度センサ11でモニタされている。

【0021】
オレイン酸セシウム溶液20とPbI2-TOP溶液301を2~6秒間反応させ、急冷することで量子ドット原液を得る。必要に応じて、量子ドット原液に適切な有機溶媒を添加して量子ドットを沈殿させ、遠心分離等により余剰の表面リガンドと残存不純物を除去する。こうして得られる量子ドット原液は大気中で安定であり、これを基板等に塗布することで、表面が安定化したCsPbI3量子ドットの薄膜が得られる。

【0022】
CsPbI3量子ドットの合成プロセスで、トリ-n-オクチルホスフィン(TOP)は配位性溶媒かつ共界面活性リガンドとして機能する。CsPbI3量子ドットの表面はトリ-n-オクチルホスフィンのリガンドで安定化されているので、量子ドットの形成後に特別の洗浄プロセスを行わなくても、量子ドットが安定して存在し、かつ電子と正孔の再結合が抑制されて高いPL量子収率が得られる。

【0023】
図4は、表面安定化を説明する模式図である。トリ-n-オクチルホスフィン(TOP)は、リン(P)の3つの結合手に(CH27CH3基が結合した化学構造を有する。TOP溶液にPbI2が溶解すると、Pbがリン(P)のもう一つの結合手に結合する(図2の上式の反応)。他方、PbI2はオレイン酸セシウムと反応して、CsPbI3の量子ドットが生成される(図2の下式の反応)。

【0024】
CsPbI3量子ドット3の表面のヨウ素(I)は、Pb原子を介してリン(P)と結合している。リンのその他の結合手は(CH27CH3基と結合しており、CsPbI3量子ドット3の表面でダングリングボンドが抑制されている。その結果、CsPbI3量子ドット3の表面が安定化され、空気中で数十日間にわたって安定して存在する。

【0025】
図5は、図1の方法で合成したCsPbI3量子ドットのTEM(Transmission Electron Microscope:透過型電子顕微鏡)画像である。一辺が15~17nmの立方形の量子ドット3が規則正しく生成されている。このCsPbI3量子ドットの(100)面の面間隔は、0.62nmである。実施形態のCsPbI3量子ドットの具体的な合成方法は以下のとおりである。

【0026】
まず、80℃のTOP(97%)溶液2.5mLに、0.92gのPbI2粉末を溶解して、PbI2-TOP溶液30を生成する。4000rpmで3分間の遠心分離を行って、過剰の塩を除去する。他方、0.4mLのオレイン酸と0.4mLのオレイルアミンを含む12mLのオクタデセン溶液に0.10gの炭酸セシウム(Cs2CO3)を混合し、100℃で1時間攪拌する。その後、窒素雰囲気下で混合液が透明になるまで120℃で加熱する。これによりオレイン酸セシウム溶液20が準備される。12.8mLのオレイン酸セシウム溶液20(濃度0.062mol/L)を160℃に加熱し、窒素雰囲気化で、PbI2-TOP溶液30を注入し、PbI2-TOP溶液301とオレイン酸セシウム溶液20を5秒間反応させる(図3の反応参照)。

【0027】
反応直後の溶液を急冷し、合成された溶液の2倍量の酢酸メチルを加えて量子ドットを沈殿させ、4000rpmで5分間の遠心分離を行って量子ドットを収集する。収集された量子ドットをヘキサン中に分散させ、4000rpmで3分間の遠心分離を行って、余剰の表面リガンド及び残存不純物を除去する。この液体を、カーボン被膜が形成された銅(Cu)ネットに塗布し乾燥することで、カーボン被膜上に図5のCsPbI3量子ドット3が得られる。

【0028】
CsPbI3量子ドット3のサイズとPL特性(発光波長)は、PbI2-TOP溶液30とオレイン酸セシウム溶液20の反応温度を制御することで制御可能である。合成温度を100℃~170℃の範囲で変化させることで、一辺が8nm~17nmの立方形のCsPbI3量子ドット3を生成することができる。

【0029】
CsPbI3量子ドット3のサイズとPL特性(発光波長)はまた、Cs2CO3に対するPbI2の組成比を制御することによっても制御可能である。Cs2CO3に対するPbI2の組成比(PbI2/Cs2CO3)を1以上、2以下の間で適宜選択可能である。組成比が1のときは、130℃以下でも表面が安定化した量子ドットを合成することができる。組成比が2を超えると、ハロゲン化鉛の粉末がTOPに溶けにくくなる。組成比が1未満だと、十分なサイズの量子ドットを合成するのが困難になる。

【0030】
図6は、合成温度を100℃、110℃、130℃、140℃、160℃、170℃と変えたときのCsPbI3量子ドットのTEM画像である。合成温度を高くすると、CsPbI3量子ドットのサイズが大きくなる。いずれの温度でも、生成されるCsPbI3量子ドットのサイズはほぼ均一であり、立方形状を有している。

【0031】
図7は、3種類のCsPbI3量子ドットのXRDパターンである。パターンIは170℃で合成されたCsPbI3量子ドットのXRDパターン、パターンIIは150℃で合成されたCsPbI3量子ドットのXRDパターン、パターンIIIは130℃で合成されたCsPbI3量子ドットのXRDパターンである。これらの回折パターンの下方に現れている垂直方向の線分は、バルクの立方CsPbI3格子構造の回折ピークである。各線分の長さは強度に比例している。

【0032】
図7の結果から、各温度条件で生成された量子ドットは、すべて立方相のCsPbI3量子ドットであることが確認される。合成温度が高くなるほど、立方形のCsPbI3量子ドット3の結晶性が向上して、XRDパターンのピークが急峻になっている。

【0033】
図8は、異なる合成温度で得られたCsPbI3量子ドットの紫外可視(UV-vis)吸収スペクトル、図9は異なる合成温度で得られたCsPbI3量子ドットの定常状態でのPL発光スペクトルである。

【0034】
図8において、合成温度が高くなるほど、すなわちCsPbI3量子ドットのサイズが大きくなるほど、光学的バンドギャップ(吸収端の波長)が長波長側にレッドシフトしている。合成温度を制御することで吸収特性を制御できることがわかる。

【0035】
図9において、Aは100℃、Bは110℃、Cは120℃、Dは130℃、Eは160℃、Fは170℃で合成されたCsPbI3量子ドットのPL発光スペクトルである。これらのスペクトルのピーク波長/FWHM(Full Width Half Maximum;半値全幅)は、スペクトルAで667nm/42nm、スペクトルBで674nm/39nm、スペクトルCで679nm/35nm、スペクトルDで684nm/33nm、スペクトルEで690nm/31nm、スペクトルFで691nm/31nmである。CsPbI3量子ドットのサイズが大きくなるほど、ピーク波長がレッドシフトするとともに、FWHMが小さくなっている。

【0036】
図8及び図9において、A~Fのすべてのスペクトルでストークスシフト(吸収と発光のエネルギーのずれ)が抑制されている。これは、生成された量子ドットの直接励起子再結合を示している。第1実施形態の方法で作製されたTOPベースの量子ドットは、十分な大きさのサイズと広いスペクトル吸収特性を有し、太陽光発電などへの適用に特に有利である。

【0037】
図10は、第1実施形態の量子ドットの表面状態を説明する図である。図10(A)は、前駆体として用いるPbI2-TOP溶液(図中、「TOP-PbI2」と表記)のフーリエ変換赤外分光(FT-IR)スペクトルを示す。比較例として、TOPにヨウ素(I2)のみを溶解した溶液のFT-IRスペクトル(図中、「TOP-I2」と表記)と、TOP溶液単体のFT-IRスペクトル(図中、「TOP」と表記)を併せて示す。

【0038】
図10(B)は、図10(A)の領域R(波数900/cm~1300/cm)におけるPbI2-TOP溶液とTOP溶液の拡大スペクトルとともに、第1実施形態のTOPベースの量子ドット(図中、「QD(TOP)」と表記)と、従来方法1で作製された量子ドット(図中、「QD(OA/m)と表記」のFT-IRスペクトルを示す。

【0039】
図10(A)と図10(B)において、実施例で用いる前駆体である「TOP-PbI2」は領域Rで、波数1047~1142/cmに単一の強い吸収ピークを示す。これに対し、「TOP」単体の溶液は、2つの緩やかな吸収ピークを有する。「TOP」単体の2つの緩いピークは、リン(P)と炭素(C)のP-C結合の振動である。

【0040】
第1実施形態の「TOP-PbI2」が単一の強い吸収ピークを示していることから、TOPと、添加されたPbI2の間に新しい結合が生じていることがわかる。この新たな結合は、P-Pb結合、またはP-I結合のいずれかであるが、後者のP-I結合は除外し得る。なぜなら、図10(A)の「TOP-I2」では領域Rでそのような新しい結合エネルギーの発生が認められないからである。

【0041】
さらに、図10(A)で第1実施形態のTOP-PbI2には、3000/cm~3600/cmの領域で水分子のO-H伸縮振動が観察されない。これは、TOP-PbI2の耐水性の高さを示している。

【0042】
図10(B)において、第1実施形態のTOPベースの量子ドット「QD(TOP)」は、領域Rで1014/cm~1200/cmの範囲に明確な吸収ピークを示している。この単一のピークは、「TOP-PbI2」前駆体の吸収ピーク(波数1047~1142/cm)に近似しており、ハロゲン化鉛の量子ドット(実施例ではCsPbI3量子ドット)の表面に存在するP-Pb結合の振動によるものと考えられる。第1実施形態のハロゲン化鉛の量子ドットは、特別の洗浄処理をしなくても、TOP-Pbリガンドのキャッピング効果により表面が安定化されていることが裏付けされる。

【0043】
これに対し、従来方法1で作製された量子ドット(「QD(OA/m)」)は、領域Rでピークを示さず、ダングリングボンドに起因する不安定な状態にあることを示している。このような表面構造の相違は、FT-IR測定することで認識可能であり、第1実施形態の量子ドットを、他の量子ドットから構造的に識別することが可能である。

【0044】
図11は、第1実施形態のCsPbI3量子ドット「QD(TOP)」と、従来方法1のCsPbI3量子ドット「QD(OA/m)」のXPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy:X線光電子分光)スペクトルを、比較して示す図である。図11(A)は、ヨウ素(I)の3d(平行)軌道に相当するXPSスペクトル、図11(B)は、遊離炭素(C)の1s軌道に相当するXPSスペクトルである。

【0045】
図11(A)において、従来方法1のCsPbI3量子ドットQD(OA/m)は、2つの非常に近接したピーク、すなわち619.5eVにおけるPb-I結合のピークと、618.4eVにおけるCs-I結合のピークを示す。第1実施形態の方法によるQD(TOP)も、同じ位置に近接した2つのピークを有する。

【0046】
しかし、低強度のスペクトルL1(従来法)とL2(第1実施形態)を比較すると、第1実施形態のQD(TOP)のピーク結合エネルギーは、従来方法1のQD(OA/m)のピーク結合エネルギーよりも、0.56eVだけ低エネルギー側にシフトしている。これはTOPによる表面キャッピング効果により、量子ドット表面のヨウ素(I)元素に何らかの化学的変化が起きていることを示す。

【0047】
図11(B)において、遊離炭素C1s軌道の結合エネルギーは、TOPベースの量子ドットQD(TOP)と従来方法1の量子ドットQD(OA/m)の間で、異なる炭素の状態を示している。この相違はTOP中の有機カーボンに由来するものである。

【0048】
図12は、TOPベースのCsPbI3量子ドットと関連する他の元素のXPSスペクトルである。図12(A)はリン(P)の2p軌道、図12(B)はセシウム(Cs)の3d軌道、図12(C)は鉛(Pb)の4f軌道のXPSスペクトルである。これらの図の横軸の結合エネルギーは、遊離炭素の1s軌道のピークでキャリブレートされている。

【0049】
図12(A)で、リン(P)の2p軌道に特定の元素と結びつくピークが観察されず、TOPベースの量子ドット中にアルキルホスフィン種(アルキル基とリンとの結合)が存在することが示唆されている。これは、図9(A)でQD(TOP)のスペクトルL2の結合ピークが低エネルギー側にシフトしていることの裏付けとなる。

【0050】
図12(B)と図12(C)において、セシウム(Cs)の3d軌道と、鉛(Pb)の4f軌道のメインピークの結合エネルギーは、第1実施形態のTOPベースのCsPbI3量子ドットと、従来方法1のCsPbI3量子ドットで、ほとんど相違がない。

【0051】
図13は、第1実施形態のTOPベースのCsPbI3量子ドットと、従来方法1のCsPbI3量子ドットの、紫外線可視吸収スペクトル(実線)とPL発光スペクトル(破線)を比較する図である。合成温度130℃と170℃で作製された量子ドット同士を比較している。130℃では、従来方法1のCsPbI3量子ドット(「OA/m 130℃」と表記)の吸収端は、PL発光スペクトルのピーク波長からやや乖離している。これに対して、第1実施形態のTOPベースのCsPbI3量子ドット(「TOP 130℃」と表記)は吸収端とPL発光スペクトルのピーク波長が近接している。すなわち、ストークスシフトが非常に小さい。また、PL発光スペクトルは第1実施形態のCsPbI3量子ドットのほうが急峻で発光スペクトル幅が狭く、かつ強度が大きい。

【0052】
170℃では、従来方法1のCsPbI3量子ドット(「OA/m 170℃」と表記)と、第1実施形態のTOPベースのCsPbI3量子ドット(「TOP 170℃」と表記)の双方で、吸収端とPL発光スペクトルのピーク波長とが非常に近接している。PL発光スペクトルは、第1実施形態のCsPbI3量子ドットのほうが急峻であり、強度が大きい。

【0053】
第1実施形態の量子ドットにおいて、ストークスシフトが小さく、かつ急峻で高パワーのPL発光スペクトルが得られるのは、TOP—Pbリガンドにより量子ドットの表面が安定化されているからである。

【0054】
図14は、第1実施形態の方法で合成された量子ドットの安定性を示す図である。合成直後のCsPbI3量子ドットのXRDパターン(図中、「0日後」と表記)と、空気中で30日間保管した後のCsPbI3量子ドットのXRDパターン(図中、「30日後」と表記)をそれぞれ示す。これらの回折パターンの下方に現れている垂直方向の線分は、バルクの立方形CsPbI3格子構造の回折ピークである。各線分の長さは、強度に比例している。

【0055】
図14から、空気中で30日間保管されたCsPbI3量子ドットは、合成直後のCsPbI3量子ドットと変わらない結晶特性を有することがわかる。

【0056】
図15は、第1実施形態の量子ドットのPL量子収率を示す図である。このデータは、160℃で合成されたTOPベースのCsPbI3量子ドットから得られたものである。縦軸は絶対量子収率(AQY:Absolute Quantum Yield)、横軸は時間(日)である。量子収率は、浜松ホトニクス株式会社製の絶対PL量子収率測定装置C11347を用いて測定された。第1実施形態の量子ドットは、合成から16日経過後も、100%に近いPL量子収率が維持されている。

【0057】
図16及び図17は、第1実施形態の量子ドット(TOP-QDs)の励起子寿命と量子ドットの安定性を、従来方法1の量子トッド(OA/m-QDs)と比較して示す別の図である。図16の左欄は、ポンプ(励起)光の強度を示す。ポンプ光強度を、0.1mW、0.28mW、0.53mW、0.83mW、1.08mWと変化させて、PL減衰時間を測定する。τ1はCsPbI3量子に含まれる第1成分のPL減衰時間、τ2はCsPbI3量子に含まれる第2成分のPL減衰時間、τaveはτ1とτ2の平均値である。ポンプ光の強度にかかわらず、第1実施形態のCsPbI3量子のPL減衰時間は、従来方法1の量子ドットと比較して、1.4~1.6倍に向上していることがわかる。

【0058】
図16(A)は第1実施形態の量子ドットの各ポンプ光強度でのPL発光スペクトルである。図16(B)は従来方法1の量子ドットの各ポンプ光強度でのPL発光スペクトルである。第1実施形態の量子ドット(TOP-QDs)は、従来方法1の量子ドット(OA/m-QDs)と比較して、発光スペクトルが急峻、かつ発光強度が強い。また、ポンプ光強度を高くしてもスペクトルのガウス形状が維持されている。これらの特徴は、第1実施形態のCsPbI3量子の表面の安定化によるものである。

【0059】
上述した例では、ハロゲン元素にヨウ素(I)を用いたCsPbI3量子を例にとって説明したが、同じハロゲン族に含まれ化学的性質が類似するBr、Clを用いた場合にも、CsPbI3量子ドットと同様に表面を安定化することができる。その場合は、PbI2-TOP溶液30に替えてPbBr2の粉末を溶解したPbBr2-TOP溶液、またはPbCl2の粉末を溶解したPbCl2溶液を、加熱したオレイン酸セシウム溶液に注入する。第1実施形態のハロゲン化セシウム鉛(CsPbX3、XはCl,Br、I、及びこれらの化合物)の立方相(ペロブスカイト型)量子ドットは、合成温度を制御することでバンドギャップの大きさが調整可能であり、高いフォトルミネセンス量子収率、狭い発光ピーク幅、空気中での安定性を示す。

【0060】
図18は、第1実施形態のCsPbX3量子ドットが適用される光デバイスの一例として太陽電池100の概略構成を示す。太陽電池100は、基板110、透明電極層111、正孔ブロック層(または電子輸送層)112、光吸収層113、及び金属電極114を有する。

【0061】
基板110は、光入射側に位置し、太陽光を透過する任意の透明基板である。基板110として、ガラス基板、またはポリカーボネート等の樹脂基板を用いることができる。透明電極層111は、基板110上に形成され、FTO(Fluorine-doped Tin Oxide:フッ素ドープ酸化スズ)、ITO(Indium Tin Oxide:酸化インジウムスズ)等の、透明な導電性薄膜である。透明電極層111は、たとえば負極として機能する。透明電極層111が十分な厚さと強度を有する場合は、基板110を省略してもよい。

【0062】
正孔ブロック層112は、光吸収層113で生成された電子を負極側に輸送し、正孔の流入をブロックする。正孔ブロック層112は、たとえば、ZnO(酸化亜鉛)の薄膜である。透明電極層111上に、スピンコート法によりZnOの原料溶液を塗布し、加熱処理を行うことでZnO薄膜が形成される。ZnO原料溶液として、2-メトキシエタノール(C)溶液中に酢酸亜鉛二水和物(Zn(OC・2HO)とエタノールアミン(CNO)を溶解して、それぞれの濃度が10mMとなるように調整した混合溶液を用いることができる。

【0063】
正孔ブロック層112として、ZnO以外にも、バンドギャップが3.0eV以上の金属酸化物半導体を用いることができる。たとえば、TiO2、In23、MoO、ZrO2等、適切な材料を用いることができる。バンドギャップが3,0eV以上の半導体材料を用いることで、可視光から赤外光までを光吸収層113に透過させることができる。

【0064】
光吸収層113は、第1実施形態のCsPbX3量子ドット(Xは、I,Br、Cl,及びこれらの化合物を含む)を含む量子ドット原液をスピンコートにより、厚さ10nm~15nmに塗布する。その後、スピンコートで洗浄溶媒を塗布し揮発させる。これを20~30サイクル繰り返す。20サイクルの場合は、光吸収層113の厚さは200nn~300nmになる。各サイクルで得られる量子ドットは、図3及び図4に示す立方形の均一な量子ドットであり、規則正しく配列されている。量子ドットのサイズは、合成温度を制御することで制御可能であり、所望のサイズの量子ドットを形成することができる。

【0065】
上述のように、第1実施形態のCsPbX3量子ドットは、光吸収特性とPL発光特性に優れており、表面が安定化している。量子ドット原液は、大気中で30日以上保管可能であるが、保管中に量子ドットの一部が沈殿する場合もあるので、使用前に攪拌してから塗布するのが望ましい。

【0066】
光吸収層113の上に、金属電極114を形成する。金属電極114はAu(金)などの良導体で形成され、正極として機能する。光吸収層113で生成された正孔は、正孔ブロック層112でブロックされ、金属電極114で収集され、電子は透明電極層111で収集される。これにより、入射した太陽光を電子エネルギーに変換することができる。

【0067】
第1実施形態のCsPbX3量子ドットは、高い量子収率と狭い発光ピーク幅、大気中での安定性を有し、太陽電池の他、発光ダイオード、光検出器、レーザなど、広い範囲での利用が可能である。
<第2実施形態>
図19は、第2実施形態の量子ドットの合成方法を説明する図である。第2実施形態では、一般式CsMX3で表されるハロゲン化物ペロブスカイト型の量子ドットとして、CsSn1-xPbx3量子ドットを形成する。

【0068】
図19(A)において、トリ-n-オクチルホスフィン(tri-n-octylphosphine;適宜「TOP」と略称する)などの有機リン化合物の溶液15に、SnI2とPbl2の混合粉末162を溶解して前駆体を生成する。混合粉末162は、60~80℃に暖められたTOP溶液に溶解する。ハロゲン化物の混合粉末162を溶解したTOP溶液を、ここでは「(SnI2+PbI2)-TOP溶液302」と呼ぶ。

【0069】
図19(B)において、オレイン酸(Oleic Acid;図中「OA」と表記)とオレイルアミン(Oleylamine;図中「OAm」と表記)のオクタデセン溶液にオレイン酸セシウム(Cs-oleate)を溶融させたオレイン酸セシウム溶液20をあらかじめ準備する。オレイン酸セシウム溶液20を加熱器10で加熱し、窒素(N2)雰囲気下で、(SnI2+PbI2)-TOP溶液302を注入する。オレイン酸セシウム溶液20の温度は、温度センサ11でモニタされている。

【0070】
オレイン酸セシウム溶液20と(SnI2+PbI2)-TOP溶液302を2~6秒間反応させ、急冷することで量子ドット原液を得る。必要に応じて、量子ドット原液に適切な有機溶媒を添加して量子ドットを沈殿させ、遠心分離等により余剰の表面リガンドと残存不純物を除去する。こうして得られる量子ドット原液は大気中で安定であり、これを基板等に塗布することで、表面が安定化したCsSn1-xPbx3量子ドットの薄膜が得られる。SnとPbの組成は、SnI2とPbl2の混合割合を変えることで制御可能である。

【0071】
第1実施形態と同様に、CsSn1-xPbx3量子ドットの合成プロセスで、トリ-n-オクチルホスフィン(TOP)は配位性溶媒かつ共界面活性リガンドとして機能する。CsSn1-xPbx3量子ドットの表面がトリ-n-オクチルホスフィンのリガンドで安定化されているため、量子ドットの形成後に特別の洗浄プロセスを行わなくても、量子ドットが安定して存在する。また、電子と正孔の再結合が抑制されて高いPL量子収率が得られる。

【0072】
図20は、表面安定化を説明する模式図である。トリ-n-オクチルホスフィン(TOP)は、リン(P)の3つの結合手に(CH27CH3基が結合した化学構造を有する。TOP溶液にSnI2とPbI2の混合粉末が溶解すると、SnとPbがそれぞれリン(P)のもう一つの結合手に結合する。他方、SnI2とPbI2はそれぞれオレイン酸セシウムと反応して、CsSn1-xPbx3の量子ドット5が生成される。CsSn1-xPbx3量子ドット5の表面のヨウ素(I)は、Pb原子を介してリン(P)と結合し、またSn原子を介してリン(P)と結合している。リンのその他の結合手は(CH27CH3基と結合しており、CsSn1-xPbx3の量子ドット5の表面でダングリングボンドが抑制されている。その結果、CsSn1-xPbx3の量子ドット5の表面が安定化され、空気中で数十日間にわたって安定して存在する。一般式CsMX3のMを合金とすることで、大気中での安定性が第1実施形態よりもさらに向上する。

【0073】
図21は、異なる温度で合成したCsSn0.6Pb0.43量子ドットのTEM画像である。図21(A)の合成温度は120℃、図21(B)の合成温度は140℃、図21(C)の合成温度は160℃である。右列の画像は、左列の画像と比較して高解像度の画像である。一辺が11~14nmの立方形の量子ドットが規則正しく生成されているが、140℃よりも低い温度では、ドットサイズがばらつく。140℃以上で合成されたCsSn0.6Pb0.43量子ドットは均一である。このCsSn0.6Pb0.43量子ドットの合成方法は以下のとおりである。

【0074】
まず、80℃のTOP(97%)溶液に、SnI2/PbI2混合粉末を溶解して、(SnI2+PbI2)-TOP溶液302を生成する。4000rpmで3分間の遠心分離を行って、過剰の塩を除去する。他方、オレイン酸とオレイルアミンを含むオクタデセン溶液に炭酸セシウム(Cs2CO3)を混合し、100℃で1時間攪拌する。その後、窒素雰囲気下で混合液が透明になるまで120℃で加熱する。これによりオレイン酸セシウム溶液20が準備される。オレイン酸セシウム溶液20を加熱し、窒素雰囲気化で、(SnI2+PbI2)-TOP溶液302を注入し、(SnI2+PbI2)-TOP溶液302とオレイン酸セシウム溶液20を5秒間反応させる。反応温度を120℃~170℃の間で変化させ、反応後に急冷し、合成された溶液の2倍量の酢酸メチルを追加して量子ドットを沈殿させ、遠心分離を行って量子ドットを収集する。収集された量子ドットをヘキサン中に分散させ、遠心分離を行って余剰の表面リガンド及び残存不純物を除去し、得られた液体を塗布し乾燥することで、図21のCsSn0.6Pb0.43量子ドットが得られる。

【0075】
ここで、注入されるPb/Sn前駆体でPbI2/SnI2のモル比は0.1より大きい(PbI2/SnI2>0.1)ことが望ましい。モル比をこの範囲とすることで、オレイン酸メチルに対する耐性が向上する。

【0076】
図22は、異なるサイズのCsSn0.6Pb0.43量子ドットの紫外可視吸収スペクトルである。ドットサイズが大きくなると、光吸収バンド端が830nmから850nmにレッドシフトする。サイズの大きい量子ドットでは弱い量子閉じ込めが起きていることがわかる。

【0077】
図23は、量子ドットの組成を変化させたときの特性を示す図である。図23(A)は160℃で合成されたCsSn0.6Pb0.43量子ドットのTEM画像である。(100)面の面間隔は、0.43nmである。図23(B)は、CsSn1-xPbx3量子ドットのxの値を0~1の間で変化させたときのXRDパターンある。いずれの場合も急峻なピークを有し、良好な結晶性を示している。特に、一般式CsMX3のMをSn1-xPbxで表される合金とする場合に、0.2≦x≦0.8(すなわちSnの組成が0.2以上、0.8以下)の範囲で合金とすることで、するどいピークを得ることができる。さらに、Snの組成が0.2、0.4、0.6と増えるにつれて、FWHM(半値全幅)が小さくなっていく。

【0078】
図23(C)は、CsSn1-xPbx3量子ドットの異なる組成での紫外可視吸収スペクトルとフォトルミネッセンスである。第1実施形態のCsPbI3量子ドットと比較して、Snを加えることで光吸収が近赤外領域まで達し、太陽光のエネルギー変換効率の増大が期待できる。図23(D)は、組成を変えたときのキャリアの発光寿命を示す。Snの組成が高くなるにつれ、キャリア寿命が短くなり量子収率が低下する。これは、Snの欠陥準位により電子と正孔が速やかに再結合するためと考えられる。

【0079】
図24は、第2実施形態の量子ドットの安定性を示す図である。図24(A)はCsSnI3量子ドットを大気中で保管した状態を、図24(B)はCsSnI3量子ドットを窒素雰囲気中で保管した状態を、図24(C)はCsSn0.6Pb0.43量子ドットを大気中で保管した状態を示す。いずれも、反応後にオレイン酸メチルで2度洗いして不純物を除去した後に収集された量子ドットをヘキサン中に分散させたものである。CsSn0.6Pb0.43量子ドットはCsSnI3量子ドットと比較して、150日後も変化がなく、非常に安定している。CsSnI3量子ドットを分散させた溶媒は、相転移と粒子の凝集により色が変化しているが、CsSn0.6Pb0.43量子ドットを分散させた溶媒は5か月もの間、外観に変化がない。さらに、CsSn0.6Pb0.43量子ドットは、Pbの含有率が低く、かつ広い光吸収範囲を有する(図23参照)点でも有利である。

【0080】
図25は、CsSn0.6Pb0.43量子ドットの安定性を示す別の図である。図25(A)のXRDパターンから、合成の0日後と150日後を比較しても、ピーク位置とスペクトル形状に変化がなく、相変化が生じていないことがわかる。図25(B)の2価のSn(3d5/2と3d3/2)のXPS(X線光電子分光法)スペクトルによると、150日後も3d軌跡の結合状態に変化はなく、原子価の安定性が示されている。

【0081】
図26は、CsSn0.6Pb0.43量子ドットの薄膜の特性を示す図である。図26のCsSn0.6Pb0.43量子ドット薄膜は以下の手順で形成される。まず、ガラス基板、またはFTO(F-doped Tin Oxide:フッ素ドープ酸化スズ)とTiO2の積層基板上に、100μLの量子ドット溶液(オクタン中の濃度50mg/mL)を塗布し、2000rpmでスピンキャストする。その後、表面にオレイン酸メチル溶液を流して結合していない長鎖リガンドやその他の有機不純物を除去し、2500rpmで30秒間スピン乾燥する。量子ドット溶液の塗布と洗浄を6回繰り返して、緻密かつ十分な膜厚のCsSn0.6Pb0.43量子ドット薄膜を得る。

【0082】
図26(A)は、塗布直後(As-cast)の薄膜と、オレイン酸メチルで洗浄後の薄膜のFR-IR(フーリエ変換赤外分光)スペクトルである。この図から、薄膜表面をオレイン酸メチルで洗浄することで、ほとんどの有機種が除去されることがわかる。特に、波数2853cm-1と2923cm-1での強い屈曲振動ピークがなくなっている。この屈曲振動ピークは炭化水素鎖C-Hに対する有機不純物の影響によるものである。

【0083】
図26(B)は、FTO/TiO2基板上に形成されたCsSn0.6Pb0.43量子ドット薄膜のSEM(Scanning Electron Microscope:走査型電子顕微鏡)画像である。膜厚200nmの緻密なCsSn0.6Pb0.43量子ドット薄膜が形成されている。

【0084】
図26(C)は、得られたCsSn0.6Pb0.43量子ドット薄膜の安定性テストの結果を示す。比較的湿度の高い(25℃で30~40%)環境で大気中においたCsSn0.6Pb0.43量子ドットの薄膜サンプルンの経時変化をXRD法で観察する。第2実施形態のCsSn0.6Pb0.43量子ドット薄膜は、大気中に30日以上放置しても安定していることがわかる。40日後のXRDパターンでは、サークルで示すように斜方晶構造への相転移がみられる。

【0085】
一般には、合金中のSn濃度が高くなるほど安定性が悪くなると考えられているが(不活性電子対効果が弱くSn2+からSn4+に酸化しやすい)、第2実施形態のSnリッチのハロゲン化合金の量子ドットは、良好な空気耐性を示すことがわかる。この安定性は、SnとPbの結合効果によるものと考えられる。

【0086】
図27は、CsSn0.6Pb0.43量子ドット薄膜の特性を示す別の図である。図27(A)は、波長470nmのポンプ光で励起され760nmのプローブ光で測定されたCsSn0.6Pb0.43量子ドットの過渡吸収応答を示す。ポンプ光の強度は12,9μJ/cm2である。横軸が遅延時間、縦軸は光吸収変化(ΔA)である。図中、「Free QD」と標記されているトレース点は、下地TiO2なしのCsSn0.6Pb0.43量子ドットの過渡吸収応答特性を、「TiO2/QD」と標記されているトレース点は、TiO2上に形成されたCsSn0.6Pb0.43量子ドット薄膜の過渡吸収応答特性を示す。TiO2上に形成されたCsSn0.6Pb0.43量子ドット薄膜は、時定数5,2±0.2psという速い過渡吸収応答を示す。これは、速度光励起された電子の99%が、時定数5,2±0.2psという速い速度でTiO2中に流れ込む。これは、CsSn0.6Pb0.43量子ドットの中で光励起されたキャリア(電子)の99%が速やかにTiO2中のアクセプタに流れ込むからと考えられる。

【0087】
図27(B)は、TiO2ナノ粒子上に吸着された単一のCsSn0.6Pb0.43量子ドットの高分解能TEM画像である。このCsSn0.6Pb0.43量子ドットは、160℃で合成された直径14nmの量子ドットである。鮮明な格子フリンジが観察され、TiO2とCsSn0.6Pb0.43量子ドットの面間隔は、それぞれ0.35nmと0.43nmである。

【0088】
図27(C)は、直径14nmのCsSn0.6Pb0.43量子ドットのPYS(Photoeelctron Yield Spectroscopy:光電子収量分光)スペクトルである。横軸は入射光(フォトン)エネルギー、縦軸は光電子収量Yの1/3乗である。光電子収量は入射1光子あたりの放出電子数で表される。データ点をフィッティングすると、イオン化ポテンシャルは5.25eVである。

【0089】
図27(D)は、TiO2とCsSn0.6Pb0.43量子ドットのエネルギー準位の模式図である。CsSn0.6Pb0.43量子ドットの価電子帯の準位は-5.25eVであり、真空準位よりも低い。CsSn0.6Pb0.43量子ドットの光学バンドギャップは1.63eVであり、伝導帯の準位は-3.62eVとなる。このエネルギー準位は、TiO2の伝導帯(CB)の準位(-4.2eV)よりも高い。したがって、TiO2上にCsSn0.6Pb0.43量子ドットの薄膜を形成することで、過渡吸収応答と光電流生成効率に優れた太陽電池が期待できる。

【0090】
図28は、第2実施形態のCsSn1-xPbx3量子ドットの薄膜を用いた光デバイスの一例として、色素増感太陽電池200を示す。色素増感太陽電池200は、透明基板211上に形成された透明電極213と、透明電極213と対向する対極電極212の間に電解液205が満たされている。透明電極213の主面には、触媒としての多孔質膜204が形成されており、多孔質膜204に可視光を吸収する色素が吸着している。可視光を吸収する色素として、第2実施形態のCsSn1-xPbx3量子ドット203を用いる。多孔質膜204は、TiO2の他に、SnO2、ZnO等のワイドバンドギャップの金属酸化物を用いてもよい。

【0091】
TiO2はそのバンドギャップから紫外線しか吸収しないが、CsSn1-xPbx3量子ドット203を吸着させることで、可視光に感度を有するようになる。CsSn1-xPbx3量子ドット203が光を吸収すると、CsSn1-xPbx3量子ドット203で発生した電子が多孔質膜204に注入される。CsSn1-xPbx3量子ドット203は電子を失った状態、すなわち酸化(Oxidation;図中「Ox」と標記)された状態となる。電解液205中の還元剤、たとえばヨウ化物イオンが酸化されたCsSn1-xPbx3量子ドット203に電子を与えて還元(Reduction;図中「Red」と標記)し、光吸収可能な状態にする。

【0092】
多孔質膜204に注入された電子は、透明電極213と外部回路を通って、対極電極212に達する。対極電極212の表面で、電子は電解液205中のヨウ素(I2)に渡されて、ヨウ化物イオン(I-)ができる。ヨウ化物イオン(I-)は、光を吸収して酸化されたCsSn1-xPbx3量子ドット203に電子を与えると同時に、ヨウ素((I2)となる。このサイクルを繰り返すことで光エネルギーを電気エネルギーに変換することができる。

【0093】
実施形態のCsSn1-xPbx3量子ドット203は高いPL効率と光吸収特性を有するので、色素増感太陽電池200のエネルギー変換効率を向上することができる。また、大気中で数か月にわたって安定であり、製品としての安定性に優れる。
<第3実施形態>
図29は、第3実施形態の量子ドットの合成方法を説明する図である。第3実施形態では、一般式CsMX3で表されるハロゲン化物ペロブスカイト型の量子ドットとして、CsGe1-xPbx3量子ドットを形成する。

【0094】
図29(A)において、トリ-n-オクチルホスフィン(tri-n-octylphosphine;適宜「TOP」と略称する)などの有機リン化合物の溶液15に、GeI2とPbl2の混合粉末262を溶解して前駆体を生成する。混合粉末262は、60~80℃に暖められたTOP溶液に溶解する。ハロゲン化物の混合粉末162を溶解したTOP溶液を、ここでは「(GeI2+PbI2)-TOP溶液402」と呼ぶ。

【0095】
図29(B)において、オレイン酸(Oleic Acid;図中「OA」と表記)とオレイルアミン(Oleylamine;図中「OAm」と表記)のオクタデセン溶液にオレイン酸セシウム(Cs-oleate)を溶融させたオレイン酸セシウム溶液20をあらかじめ準備する。オレイン酸セシウム溶液20を加熱器10で加熱し、窒素(N2)雰囲気下で、(GeI2+PbI2)-TOP溶液402を注入する。オレイン酸セシウム溶液20の温度は、温度センサ11でモニタされている。

【0096】
オレイン酸セシウム溶液20と(GeI2+PbI2)-TOP溶液402を2~6秒間反応させ、急冷することで量子ドット原液を得る。必要に応じて、量子ドット原液に適切な有機溶媒を添加して量子ドットを沈殿させ、遠心分離等により余剰の表面リガンドと残存不純物を除去する。こうして得られる量子ドット原液は大気中で安定であり、これを基板等に塗布することで、表面が安定化したCsGe1-xPbx3量子ドットの薄膜が得られる。GeとPbの組成は、GeI2とPbl2の混合割合を変えることで制御可能である。

【0097】
第1実施形態及び第2実施形態と同様に、CsGe1-xPbx3量子ドットの合成プロセスで、トリ-n-オクチルホスフィン(TOP)は配位性溶媒かつ共界面活性リガンドとして機能する。CsGe1-xPbx3量子ドットの表面がトリ-n-オクチルホスフィンのリガンドで安定化されているため、量子ドットの形成後に特別の洗浄プロセスを行わなくても量子ドットが安定して存在する。また、電子と正孔の再結合が抑制されて高いPL量子収率が得られる。

【0098】
図30は、第3実施形態の量子ドットの形状と特性を示す図である。図30(A)は、160℃で合成されたCsGe0.8Pb0.23量子ドットのTEM画像、図30(B)は様々な組成のCsGe1-xPbx3量子ドットの紫外線可視吸収スペクトルとPLスペクトル、図30(C)は、様々な組成で合成されたCsGe1-xPbx3量子ドットのXRDパターン、図30(D)は、CsGexPb(I/Br)3のPLスペクトルである。

【0099】
図30(A)のTEM画像において、生成されたCsGe0.8Pb0.23量子ドットのサイズはほぼ均一であり、立方形状を有している。

【0100】
図30(B)において、Geの組成が大きくなるにしたがって、吸収端の波長(光学的バンドギャップ)が短波長側にブルーシフトしており、Geの組成を制御することで、吸収特性を制御できることがわかる。また、同図のPLスペクトルも同様に、Geの組成が大きくなるにしたがって、中心波長が短波長側にシフトしているが、FWHMは均一である。Geの組成を制御することで、発光特性を維持し、かつ吸収特性を制御できることがわかる。

【0101】
図30(C)は、CsGe1-xPbx3量子ドットのxの値を0~1の間で変化させたときのXRDパターンである。回折パターンの下方に現れている垂直方向の線分は、バルクの立方CsGeI3格子構造(x=0)の回折ピークである。各線分の長さは強度に比例している。XRDパターンある。いずれの場合も急峻なピークを有し、良好な結晶性を示している。特に、一般式CsMX3のMをGe1-xPbxIで表される合金とする場合に、0.0≦x≦1.0(すなわちGeの組成が0以上、1.0以下の範囲の合金とすることで、良好なピークを得ることができる。特に、Geの組成が0.3~0.8の合金とすることで、FWHMを小さく、かつ強度を高くすることができる。

【0102】
図30(D)は、CsGexPb(I/Br)3のPLスペクトルである。一般式CsMX3で表されるハロゲン化物ペロブスカイト型の量子ドットのハロゲン元素Xとして、I(ヨウソ素)とBr(臭素)の混晶を用いる。図中、左向きの矢印(←)はIとBrの混晶比率(I/Br)が減少する方向を示し、右向きの矢印(→)はI/Br比が増大する方向を示す。Brに対するIの比率の増加により、PLスペクトルのピーク波長が長波長側に(700nmに向かって)シフトする。Brに対するIの比率の減少により、PLスペクトルのピーク波長は短波長側(500nmに向かって)シフトする。ここから、ハロゲン元素の混晶比率を制御することで、PLスペクトルの中心波長を制御できることがわかる。

【0103】
図31は、異なる温度で合成されたCsGe1-xPbx3量子ドットの紫外可視吸収スペクトルとPL特性。合成温度を高くするほど、CsGexPbI3量子ドットの吸収端が長波長側にシフトしており、合成温度を制御することで、吸収特性を制御できることがわかる。また、破線で示すように、合成温度が高くなるにしたがってPL特性が長波長側にレッドシスとしている。いずれの合成温度においても、吸収と発光のエネルギーのずれが抑制されている。

【0104】
図32(A)は、xの組成に応じたCsGe1-xPbx3量子ドットのPL量子収率を示す図、図32(B)は、xの組成に応じた光吸収スペクトルを示す図である。図32(A)から分かるように、Pbの組成xに関係なく、すべての組成において、100%のPL量子収率が達成されている。図32(B)からわかるように、Pbの組成xの値にかかわらず、アーバックエネルギーは19meV以下と小さい。第3実施形態のCsGe1-xPbx3量子ドットは、Pbの組成xに関係なく、励起子の再結合の効率が一定かつ良好であることが示されている。

【0105】
図33は、第3実施形態のCsGe0.8Pb0.23量子ドットの安定性を示す図である。図33(A)において、CsPbI3量子ドットと比較して、30日経過後もPL量子主率が100%近くに維持されている。図33(B)は、第3実施形態のCsGe0.8Pb0.23量子ドット溶液を大気中で保管したときの外観を示す画像である。CsGe0.8Pb0.23量子ドットの合成後(反応後)に、オレイン酸メチルで2度洗いして不純物を除去した後に収集された量子ドットをヘキサン中に分散させたものである。

【0106】
図33(D)は、図33(B)のCsGe0.8Pb0.23量子ドットの安定性を示す図である。比較例として、図33(C)にCsPbI3量子ドットのスペクトルを示す。図33(C)の比較例で、CsPbI3量子ドットは5日経過後に溶液の外観が劣化し、また、XRDパターンの形状も初日と比較してピークパターンが劣化している。これに対し、図33(D)のCsGe0.8Pb0.23量子ドットは、40日の経過後も溶液の外観に変化がなく、初日のXRDパターンの形状がよく維持されている。第3実施形態のCsGePbI3量子ドットは、安定性に優れていることがわかる。

【0107】
図34は、第3実施形態のCsGe0.8Pb0.23量子ドットの薄膜のSEM画像である。CsGe0.8Pb0.23量子ドットの薄膜(図中、「QD」と表記されている領域)は、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)の透明導電基板上に形成されている。膜厚が200nmの緻密なCsGe0.8Pb0.23量子ドットの膜が形成されていることがわかる。

【0108】
第3実施形態のCsGePbI3量子ドットの薄膜は、第2実施形態のCsSnPbI3量子ドット薄膜と同様に、太陽電池等の光デバイスの光吸収層として好適に用いることができる。

【0109】
以上述べたように、一般式CsMX3の量子ドットの金属MにSn,Pb,Geの少なくとも1種類を用いることで、従来法で作製された量子ドットと比較すると安定性と発光効率が良好である。金属MにSn,Pb,Geから選択される2種の合金を用いることで、CsSnI3またはCsPbI3の量子ドットと比較して、安定性と発光効率がさらに向上し、光デバイスへの適用が期待される。
【符号の説明】
【0110】
3 CsPbI3量子ドット(CsPbX3量子ドット)
5、203 CsSn1-xPbx3量子ドット
10 加熱器
20 オレイン酸セシウム溶液
30 PbI2-TOP溶液
100 太陽電池(光デバイス)
110 基板
111 透明電極層
112 正孔ブロック層
113 光吸収層
114 金属電極
200 色素増感太陽電池(光デバイス)
204 多孔質膜
211 透明基板
212 対極電極
213 透明電極
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
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【図11】
10
【図12】
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【図13】
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【図14】
13
【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
18
【図20】
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【図21】
20
【図22】
21
【図23】
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【図24】
23
【図25】
24
【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
28
【図30】
29
【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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