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明細書 :哺乳動物精子の分離方法、人工授精方法及び体外受精方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-010094 (P2019-010094A)
公開日 平成31年1月24日(2019.1.24)
発明の名称または考案の名称 哺乳動物精子の分離方法、人工授精方法及び体外受精方法
国際特許分類 C12N   5/076       (2010.01)
C12N   1/00        (2006.01)
A01K  67/02        (2006.01)
FI C12N 5/076
C12N 1/00 T
A01K 67/02
請求項の数または発明の数 10
出願形態 OL
全頁数 13
出願番号 特願2018-120260 (P2018-120260)
出願日 平成30年6月25日(2018.6.25)
優先権出願番号 2017129768
優先日 平成29年6月30日(2017.6.30)
優先権主張国 日本国(JP)
発明者または考案者 【氏名】島田 昌之
【氏名】梅原 崇
【氏名】後藤 雅昭
【氏名】久々宮 萌果
出願人 【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
【識別番号】591224788
【氏名又は名称】大分県
個別代理人の代理人 【識別番号】100095407、【弁理士】、【氏名又は名称】木村 満
【識別番号】100138955、【弁理士】、【氏名又は名称】末次 渉
【識別番号】100109449、【弁理士】、【氏名又は名称】毛受 隆典
審査請求 未請求
テーマコード 4B065
Fターム 4B065AA90X
4B065AC20
4B065BA21
4B065BB05
4B065BB13
4B065BD15
4B065CA60
要約 【課題】大量の精子でも短い時間で分離し得るとともに、分離した精子の運動性の低下を抑制し得る哺乳動物精子の分離方法、人工授精方法及び体外受精方法を提供する。
【解決手段】哺乳動物精子の分離方法は、TLR7リガンドを含有する培地にて精子を培養し、培地の上層に浮遊する精子と下層に沈降する精子とに分離する。人工授精方法、体外受精方法は、哺乳動物精子の分離方法で分離した非ヒト哺乳動物の精子を用いて非ヒト哺乳動物の人工授精、体外受精を行う方法である。
【選択図】図6
特許請求の範囲 【請求項1】
TLR7リガンドを含有する培地にて精子を培養し、
前記培地の上層に浮遊する精子と下層に沈降する精子とに分離する、
ことを特徴とする哺乳動物精子の分離方法。
【請求項2】
前記TLR7リガンドとしてレジキモド、イミキモド、ガーディキモド及びロキソリビンからなる群から選択される1種以上を用いる、
ことを特徴とする請求項1に記載の哺乳動物精子の分離方法。
【請求項3】
前記TLR7リガンドを0.03~30μM添加する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の哺乳動物精子の分離方法。
【請求項4】
過重力を負荷して分離する、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の哺乳動物精子の分離方法。
【請求項5】
遠心力により過重力を負荷する、
ことを特徴とする請求項4に記載の哺乳動物精子の分離方法。
【請求項6】
0×gより大きく100×gより小さい遠心力を負荷する、
ことを特徴とする請求項5に記載の哺乳動物精子の分離方法。
【請求項7】
前記培地の上層30%を分取してY染色体保有精子に富む精子群を得る、
ことを特徴とする請求項4乃至6のいずれか一項に記載の哺乳動物精子の分離方法。
【請求項8】
前記培地の下層30%を分取してX染色体保有精子に富む精子群を得る、
ことを特徴とする請求項4乃至6のいずれか一項に記載の哺乳動物精子の分離方法。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の哺乳動物精子の分離方法で分離した非ヒト哺乳動物の精子を用いて非ヒト哺乳動物の人工授精を行う、
ことを特徴とする人工授精方法。
【請求項10】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の哺乳動物精子の分離方法で分離した非ヒト哺乳動物の精子を用いて非ヒト哺乳動物の体外受精を行う、
ことを特徴とする体外受精方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳動物精子の分離方法、人工授精方法及び体外受精方法に関する。
【背景技術】
【0002】
家畜における雌雄産み分け技術は、家畜の効率的な生産に大きく寄与する。たとえば、乳牛の場合、雌を計画的に産み分けさせることで後継乳牛を獲ることができる。一方、牛乳生産のためには常に乳牛を妊娠させておく必要がある。後継乳牛が獲られた後では、子牛価格の高い黒毛和牛の受精卵を乳牛に移植し、黒毛和牛を生誕させると酪農家の経営が大きく改善される。そして、黒毛和牛の子牛価格は、雌雄で大きな価格差があり、雄子牛価格は雌子牛価格よりも高額である。したがって、乳牛において、後継乳牛(雌産子)を生誕させる技術だけでなく、後継乳牛が獲られた後の体外受精や人工授精において、黒毛和牛の受精卵を得て雄子牛を生誕させる技術が求められている。
【0003】
また、養豚においては、去勢雄は成長が早いため、雌に比べ、出荷体重に到達するまでの肥育日数が短い。このため、肉豚生産において雄産子をより多く生誕させることは、養豚業の経営改善のみならず、餌あたりの豚肉生産量の増加になるので、世界における食料生産を高めることにもつながる。一方で、去勢を行うことに対して、批難もあることから、雌産子を選択的に生誕させたい要望もある。
【0004】
このように、家畜をはじめとする哺乳動物において、雌雄産み分け技術の要求は高い。これまでの雌雄産み分け技術として、特許文献1~3などの手法が知られている。また、これらのほか、X染色体とY染色体の大きさの差異に着眼した手法が知られている。この手法では、セルソーターを用い、DNAを染色する蛍光色素を取り込ませた精子を蛍光量に基づいて仕分けることにより、90%以上の割合でX染色体を有する精子を分離する技術が確立されており、乳牛生産に利用されている。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2008-022760号公報
【特許文献2】特開平7-163269号公報
【特許文献3】特開平6-181666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、セルソーターを用いた手法では、大量の精子処理に時間がかかるという課題を有する。また、精子が蛍光染色されること、更に、精子に特殊波長の光が暴露されることから、分離した精子の運動性が低下してしまい、授精率にも難がある。
【0007】
本発明は上記事項に鑑みてなされたものであり、その目的は大量の精子でも短い時間で分離し得るとともに、分離した精子の運動性の低下を抑制し得る哺乳動物精子の分離方法、人工授精方法及び体外受精方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の観点に係る哺乳動物精子の分離方法は、
TLR7リガンドを含有する培地にて精子を培養し、
前記培地の上層に浮遊する精子と下層に沈降する精子とに分離する、
ことを特徴とする。
【0009】
また、前記TLR7リガンドとしてレジキモド、イミキモド、ガーディキモド及びロキソリビンからなる群から選択される1種以上を用いることが好ましい。
【0010】
また、前記TLR7リガンドを0.03~30μM添加することが好ましい。
【0011】
過重力を負荷して分離することが好ましい。
【0012】
遠心力により過重力を負荷することが好ましい。
【0013】
0×gより大きく100×gより小さい遠心力を負荷することが好ましい。
【0014】
前記培地の上層30%を分取してY染色体保有精子に富む精子群を得ることが好ましい。
【0015】
前記培地の下層30%を分取してX染色体保有精子に富む精子群を得ることが好ましい。
【0016】
本発明の第2の観点に係る人工授精方法は、
本発明の第1の観点に係る哺乳動物精子の分離方法で分離した非ヒト哺乳動物の精子を用いて非ヒト哺乳動物の人工授精を行う、
ことを特徴とする。
【0017】
本発明の第3の観点に係る体外受精方法は、
本発明の第1の観点に係る哺乳動物精子の分離方法で分離した非ヒト哺乳動物の精子を用いて非ヒト哺乳動物の体外受精を行う、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る哺乳動物精子の分離方法によれば、多量の精子の分離処理を短い時間で行い得るとともに、分取した精子の運動性の低下を抑制し得る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1(A)~(D)は、各動物種の精子におけるTLR7の局在を示す写真である。
【図2】各動物種におけるTLR7陽性精子の割合を示すグラフである。
【図3】TLR7リガンドを添加した培地でマウス精子を培養したときの浮遊精子の割合を示すグラフである。
【図4】TLR7リガンドを添加した培地でマウス精子を培養したときの浮遊精子のX染色体保有精子及びY染色体保有精子の割合を示すグラフである。
【図5】TLR7リガンドを添加した培地でウシ精子を培養したときの浮遊精子の割合を示すグラフである。
【図6】TLR7リガンドを添加した培地でウシ精子を培養したときの浮遊精子のX染色体保有精子及びY染色体保有精子の割合を示すグラフである。
【図7】TLR7リガンドを添加した培地でブタ精子を培養したときの浮遊精子の割合を示すグラフ(図7(A))、浮遊精子のX染色体保有精子及びY染色体保有精子の割合を示すグラフ(図7(B))である。
【図8】TLR7リガンドを添加した培地でマウス精子を培養し、遠心分離した後の培地の上層に存在するX染色体保有精子及びY染色体保有精子の割合を示すグラフである。
【図9】TLR7リガンドを添加した培地でマウス精子を培養し、遠心分離した後の培地の上層に存在するX染色体保有精子及びY染色体保有精子の割合を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本実施の形態に係る哺乳動物精子の分離方法は、TLR7リガンドを含有する培地にて精子を培養する。そして、培地の上層に浮遊する精子と下層に沈降する精子とに分離する。

【0021】
TLR7リガンドを含有する培地で精子を培養すると、Y染色体を持たない精子(以下、X染色体保有精子)は、精子活性が低下し培地の下層へ沈降する。一方、Y染色体を持つ精子(以下、Y染色体保有精子)は、精子活性の低下が生じにくく、培地の上層に浮遊することになる。

【0022】
そして、培地の上層に浮遊する精子を分取することで、Y染色体保有精子に富む精子群を得ることができる。分取はスポイト等の分取器具を使用した分取など、培地の上層に浮遊する精子群を分取し得る公知の技術で行えばよい。この分取した精子群の多くはY染色体保有精子であるので、このY染色体保有精子が卵子と受精することにより、XY染色体を持つ受精卵となる。したがって、この分取した精子群を用い、哺乳動物の人工授精や体外受精を行うことによって選択的に雄産子を産み分けさせることができる。

【0023】
また、培地の下層に沈降する精子群を分取することで、X染色体保有精子に富む精子群を得ることができる。この分取した精子群の多くはX染色体保有精子であるため、この精子が卵子と受精することにより、XX染色体を持つ受精卵となる。したがって、この分取した精子群を用い、哺乳動物の人工授精や体外受精を行うことによって選択的に雌産子を産み分けさせることができる。

【0024】
TLR7リガンドを含有する培地は、基礎培地にTLR7リガンドを添加することにより調製して用いればよい。基礎培地としては、哺乳動物の精子の培養に通常用い得る培地が使用され得る。基礎培地として、例えば、HTF培地(組成:NaCl, KCl, KH2PO4, MgSO4・7H2O, CaCl2・2H2O, NaHCO3, Glucose, Na-pyruvate, Na-lactate, Gentamicin Sulfate salt, Phenol Red)等の胚培養培地が好適に用いられる。

【0025】
TLR7リガンドとして、レシキモド(Resiquimod)やイミキモド(Imiquimod)、ガーディキモド(Gardiquimod)、ロキソリビン(Loxoribine)が挙げられる。これらは1種単独で用いられても、2種以上が用いられてもよい。

【0026】
基礎培地へのTLR7リガンドの添加量は、用いるTLR7リガンドの種類や用いる精子の動物種により適宜設定すればよく、例えば、0.03μM~30μMであることが好ましい。例えば、マウスの精子について、レシキモドを用いる場合、レシキモドの添加量は0.3μM~3μMであることが好ましい。また、ウシの精子について、レシキモドを用いる場合、0.03μM~0.3μMであることが好ましく、また、イミキモドを用いる場合、0.03μM~30μMであることが好ましい。

【0027】
また、培養時間についても特に制限されず、X染色体保有精子の活性が低下して培地の下層に沈降し、上層に浮遊するY染色体保有精子を分離するために十分な時間であればよい。例えば、30分間~3時間であることが好ましく、1~2時間であることがより好ましい。

【0028】
また、過重力を負荷して分離を行うことが好ましい。精子は本来的に流れに逆らって泳ごうとする性質を備えている。したがって、過重力が負荷されていると、精子は負荷された過重力の方向に逆らって泳ごうとする。上述したように、TLR7リガンドを含有する培地では、X染色体保有精子の活性が低くなり、この状況で過重力が負荷されると、X染色体保有精子は過重力に抗えず、過重力が負荷されている方向へ、即ち、培地の下層へ沈降しやすくなる。一方で、Y染色体保有精子は、TLR7リガンドの影響を受け難いことから、過重力が負荷されても、負荷されている過重力の方向に逆らって泳ぐことができる。即ち、Y染色体保有精子は培地の上層に浮遊することができる。このようなことから、過重力を負荷して分離を行うことによって、Y染色体保有精子とX染色体保有精子との分離精度を高めることができる。

【0029】
過重力を負荷する手法として、遠心力を負荷する遠心分離法が好ましい。負荷する遠心力は、0×gより大きく100×gより小さいことが好ましく、50×gであることがより好ましい。負荷する遠心力(過重力)が大きすぎると、Y染色体保有精子であっても、過重力に逆らえなくなり、培地の下層に沈降してしまうためである。一方、遠心力(過重力)が小さすぎると、一部のY染色体保有精子は培地の下層にも泳いで行ってしまい、分離効果が低くなるためである。

【0030】
なお、過重力を負荷する時間は、X染色体保有精子とY染色体保有精子とを分離可能な時間であればよく、負荷する過重力にもよるが、例えば30分程度である。

【0031】
また、培地の上層、好ましくは上層の30%に浮遊しているY染色体保有精子に富む精子群を分取して、人工授精、体外受精に用いることが好ましい。また、培地の下層、好ましくは下層の30%に沈降しているX染色体保有精子に富む精子群を分取して、人工授精、体外受精に用いることが好ましい。培地の中層には、Y染色体保有精子、X染色体保有精子の混在が生じ易いためである。なお、分取した精子群は、基礎培地等で洗浄してから用いることが好ましい。

【0032】
本実施の形態に係る哺乳動物精子の分離方法では、上述のように、TLR7リガンドを含有する培地で精子を培養するものゆえ、短い時間で多量の精子を処理することが可能である。

【0033】
また、本実施の形態に係る哺乳動物精子の分離方法では、精子を蛍光染色することもなく、精子に特殊波長の光を暴露することもない。このため、分離した精子の活性の低下を抑制することができ、授精率の低下も抑制できる。

【0034】
なお、分離したY染色体保有精子に富む精子群、X染色体保有精子に富む精子群を用いて人工授精、体外受精を行う場合、分離した精子を用いて、人工授精、体外受精の通常の手法で行えばよい。Y染色体保有精子に富む精子群を用いて人工授精、又は、体外受精を行うことで、選択的に雄産子を生誕させることができる。一方、X染色体保有精子に富む精子群を用いて人工授精、又は、体外受精を行うことで、選択的に雌産子を生誕させることができる。
【実施例】
【0035】
(マウス精子のトランスクリプトーム解析)
マウス精子のトランスクリプトーム解析を行った。マウス精子中のRNA断片を抽出し、その全RNAをシークエンサーにより解析した。その結果、X染色体由来の1467遺伝子が発現しており、その中の26種は受容体をコードするRNAであった。その26種のRNAを表1に示す。
【実施例】
【0036】
【表1】
JP2019010094A_000003t.gif
【実施例】
【0037】
この中のTLR7は、特異的リガンドがX染色体にコードされるTLR8以外には直接結合しないこと、及び、刺激によりCa2+を放出することが知られている。そして、Ca2+は精子の運動性に大きな影響を与えることが知られている。TLR7はTLR8が存在しなければ存在しない遺伝子であり、TLR7がX染色体、Y染色体の存在に関与しているものと考えられ、以下の検証を行った。
【実施例】
【0038】
(各種哺乳類の精子におけるTLR7の発現局在の観察)
マウス、ウシ、ブタ、ヤギのそれぞれの精子について、免疫染色してTLR7の発現局在を観察した。図1(A)にマウス、図2(B)にウシ、図3(C)にブタ、図4(D)にヤギの精子の写真を示す。
【実施例】
【0039】
図1(A)~(D)を見ると、いずれの動物種においてもTLR7が発現しているとともに、TLR7の発現はいずれも精子尾部に局在していた。
【実施例】
【0040】
また、TLR7が発現した陽性精子の割合を算出した。その結果を図2に示す。図2を見ると、TLR7が発現した陽性精子の割合は、いずれの動物種においても50%前後である。この結果から、X染色体保有精子のみTLR7が発現していると考えられる。
【実施例】
【0041】
(TLR7リガンドが精子に及ぼす影響の検証)
各種哺乳動物の精子について、TLR7リガンドを添加した培地にて培養し、TLR7リガンドが精子に及ぼす影響について検証した。
【実施例】
【0042】
(マウス精子における検証)
胚培養培地(HTF)にアルブミン及びTLR7リガンドを添加した培地を用い、マウス精子を1時間、37℃、5%二酸化炭素条件下で培養した。TLR7リガンドとして、Resiquimod R-848(以下、R-848)を用いた。R-848の添加量は、0μM、0.003μM、0.03μM、0.3μM、1.5μM、3μMとしてそれぞれ行った。
【実施例】
【0043】
培地の上層に浮遊している精子の割合を図3に示す。図3を見ると、上層に浮遊する精子の割合はR-848の濃度依存的に減少し、0.3μM添加区では無添加区に比べて半減した。
【実施例】
【0044】
この上層に浮遊する精子を回収してDNAを抽出し、real-time PCR(polymerase chain reaction)法により、X染色体保有精子(以下、X精子)とY染色体保有精子(以下、Y精子)の割合を算出した。
【実施例】
【0045】
その結果を図4に示す。図4を見ると、0.3μM添加区、3μM添加区において、Y精子の割合が高く、0.3μM添加区では80%以上がY精子であった。
【実施例】
【0046】
無添加区及び0.3μM添加区の浮遊精子を洗浄した後、体外受精に供試した。体外受精胚について、XX染色体、XY染色体を保有している割合を算出した。その結果を表2に示す。
【実施例】
【0047】
【表2】
JP2019010094A_000004t.gif
【実施例】
【0048】
表2を見ると、無添加区の浮遊精子を用いた場合ではXX染色体とXY染色体の割合はほぼ同じであるが、0.3μM添加区の浮遊精子を用いた場合では約90%の受精卵がXY両染色体を有していた。また、0.3μM添加区の浮遊精子を用いて体外受精を行った胚盤胞期胚を移植したところ、12匹の産子中、10匹の雄産子が得られた。
【実施例】
【0049】
(ウシ精子における検証)
大分県農林水産研究指導センターから提供されたウシ凍結精液を用いた。凍結精子を融解し、アルブミン無添加HTF培地で洗浄した。このウシ精子を、HTFにアルブミン及びTLR7リガンドを添加した培地にて、1時間、37℃、5%二酸化炭素条件下で培養した。TLR7リガンドとして、R-848、Imiquimod R-837(以下、R-837と記す)を用いた。R-848の添加量は、0μM、0.003μM、0.03μM、0.3μM、3μMとしてそれぞれ行った。また、R-837の添加量は、0.003μM、0.03μM、0.3μM、3μM、30μM、300μMとしてそれぞれ行った。
【実施例】
【0050】
ウシ精子の培養における浮遊精子の割合を図5に示す。図5を見ると、TLR7リガンドを添加して培養した場合、無添加区に比べて、いずれも上層の浮遊精子の割合が減少している。
【実施例】
【0051】
つづいて、上層の浮遊精子を回収し、DNAを抽出してreal-time PCR法により、X精子とY精子の割合を算出した。
【実施例】
【0052】
浮遊精子のX精子、Y精子の割合を図6に示す。図6を見ると、R-848添加区においては、0.03μM~3μM添加区でY精子の割合が高く、0.03μM~0.3μM添加区で90%以上がY精子であった。また、R-837添加区においては、0.03μM~30μM添加区でY精子の割合が高く、70%以上がY精子であった。
【実施例】
【0053】
上記のR-848の0.03μM添加区におけるY精子に富む上層の精子を用い、ウシの体外受精を行った。その結果、受精率は71.7%、胚盤胞期胚への発生率は64.3%であり、これらは通常の体外受精と同等であり、受精率は良好であった。
【実施例】
【0054】
そして胚盤胞期胚をreal-time PCR法で雌雄判別を行った。その結果、87.8%が雄胚であった。したがって、ウシでも雄産子を選択的に得られることがわかる。
【実施例】
【0055】
(ブタ精子における検証)
モデナ液にシステイン、グリシン及びTLR7リガンドを添加した培地を用い、豚の精子を2時間、37℃、5%二酸化炭素、5%酸素条件下で2時間培養した。TLR7リガンドとして、R-848を用いた。R-848の添加量は、0μM、0.3μMとしてそれぞれ行った。
【実施例】
【0056】
ブタ精子の培養における浮遊精子の割合を図7(A)に示す。図7(A)を見ると、TLR7リガンドを添加して培養した場合、無添加区に比べて、上層の浮遊精子の割合が半減している。
【実施例】
【0057】
上層の浮遊精子を回収し、DNAを抽出してreal-time PCR法により、X精子とY精子の割合を算出した。
【実施例】
【0058】
浮遊精子のX精子、Y精子の割合を図7(B)に示す。図7(B)を見ると、TLR7リガンド添加区においては、90%以上がY精子であった。この浮遊精子をヒロスワインB液で懸濁し、人工授精に用いた結果、7匹の産子中、6匹の雄産子が得られた。
【実施例】
【0059】
以上の検証結果から、Y染色体を有する精子を分離することができ、これを用いた人工授精や体外受精により、家畜等の哺乳動物に雄産子を産み分けさせることがわかった。
【実施例】
【0060】
(過重力を負荷した分離の検証)
マウス精子について、過重力を負荷して分離を行い、その影響を検証した。
【実施例】
【0061】
胚培養培地(HTF)にアルブミン及びTLR7リガンドを添加した培地(500μL)を用い、マウス精子を1時間、37℃、5%二酸化炭素条件下で培養した。TLR7リガンドとして、Resiquimod R-848(以下、R-848)を用いた。R-848の添加量は、0.3μMである。
【実施例】
【0062】
30分後、遠心分離装置(製品名:卓上マイクロ冷却遠心機3520、久保田商事株式会社)を用い、37℃で、30分間遠心分離を行った。遠心分離は、50×g、100×g、500×gの遠心力でそれぞれ行った。また、比較のため、遠心分離を行わない系(0×g)についても行った。
【実施例】
【0063】
遠心分離後、それぞれの培地の上層150μL(上層30%)を分取して、上記と同様の手法によって、それぞれの培地中のX精子、Y精子の割合を算出した。その結果を図8に示す。
【実施例】
【0064】
また、それぞれの培地の下層150μL(下層30%)を分取して、上記と同様の手法によって、それぞれの培地中のX精子、Y精子の割合を算出した。その結果を図9に示す。
【実施例】
【0065】
図8を見ると、培地の上層の精子群において、0×g、50×gにて、Y精子の割合は80%を越えており、50×gでは約90%に達している。一方、100×g以上では60%程度であった。
【実施例】
【0066】
また、図9を見ると、培地の下層の精子群においては、0×g、50×gにて、X精子の割合は60%を越えており、50×gでは90%近くまで達している。一方、100×g以上ではX精子の割合は50%を下回っている。
【実施例】
【0067】
これらの結果から、0×gより大きく100×gより小さい遠心力を負荷して分離すること、より好ましくは50×gの遠心力を負荷して分離することで、Y精子に富む精子群とX精子に富む精子群とを効果的に分離できることがわかった。
【実施例】
【0068】
(体外受精)
上記の50×gの遠心力を負荷して分離した上層の精子群(上層区)、下層の精子群(下層区)を体外受精に供試し、胚盤胞期胚を形成させた。そして、胚盤胞期胚のXX染色体、XY染色体の割合を求めた。また、TLR7リガンドを添加せずに、且つ、遠心分離を行わずに、上記と同じ培地にて、37℃で60分間培養した精子群(無添加区)を用い、同様に体外受精に供試して胚盤胞期胚を形成させ、XX染色体、XY染色体の割合を求めた。
【実施例】
【0069】
その結果を表3に示す。なお、表3中、2-cellの「個」は24時間で卵割が確認された数、「%」は「(2-cellの個数/卵子の個数)×100」である。また、胚盤胞期胚の「個」は胚盤胞期胚が形成された個数、「%」は「(胚盤胞期胚の個数/2-cellの個数)×100」である。
【実施例】
【0070】
【表3】
JP2019010094A_000005t.gif
【実施例】
【0071】
2-cell、及び、胚盤胞期胚が発生する割合に関し、無添加区、上層区、下層区のいずれも同程度であり、有意差はない。すなわち、TLR7リガンドを添加した培地で培養した精子について、遠心分離を行っても、精子の受精機能に何ら影響がないことがわかる。
【実施例】
【0072】
そして、無添加区の胚盤胞期胚のXX染色体、XY染色の割合は50%程度であり、この胚盤胞期胚を体外受精等に供した場合、雄産子、雌産子がほぼ同じ割合で生まれることがわかる。
【実施例】
【0073】
一方、上層区では、Y染色体を保有している胚盤胞期胚の割合が90%であり、この胚盤胞期胚を体外受精等に供した場合、90%の割合で雄産子が生まれることがわかる。また、下層区では、X染色体のみを保有している胚盤胞期胚が81%であり、この胚盤胞期胚を体外受精等に供した場合、81%の割合で雌産子が生まれることがわかる。
【実施例】
【0074】
以上のように、過荷重を負荷して精子を分離することにより、X染色体保有精子に富む精子群とY染色体保有精子に富む精子群とに精度よく分離することができ、これらの精子群を人工授精、体外受精に用いることで雄産子、雌産子を産み分けさせることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明に係る哺乳動物精子の分離方法では、Y染色体保有精子とX染色体保有精子とに分離することができるため、人工授精や体外受精において、雄産子、雌産子の産み分けが可能であり、家畜産業等に利用可能である。
図面
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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