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明細書 :非RIでのジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ活性測定方法

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-000109 (P2019-000109A)
公開日 平成31年1月10日(2019.1.10)
発明の名称または考案の名称 非RIでのジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ活性測定方法
国際特許分類 C12Q   1/32        (2006.01)
FI C12Q 1/32
請求項の数または発明の数 8
出願形態 OL
全頁数 13
出願番号 特願2018-113412 (P2018-113412)
出願日 平成30年6月14日(2018.6.14)
優先権出願番号 2017118941
優先日 平成29年6月16日(2017.6.16)
優先権主張国 日本国(JP)
発明者または考案者 【氏名】柴田 孝之
出願人 【識別番号】504205521
【氏名又は名称】国立大学法人 長崎大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100080791、【弁理士】、【氏名又は名称】高島 一
【識別番号】100125070、【弁理士】、【氏名又は名称】土井 京子
【識別番号】100136629、【弁理士】、【氏名又は名称】鎌田 光宜
【識別番号】100121212、【弁理士】、【氏名又は名称】田村 弥栄子
【識別番号】100174296、【弁理士】、【氏名又は名称】當麻 博文
【識別番号】100137729、【弁理士】、【氏名又は名称】赤井 厚子
【識別番号】100151301、【弁理士】、【氏名又は名称】戸崎 富哉
審査請求 未請求
テーマコード 4B063
Fターム 4B063QA01
4B063QA05
4B063QA19
4B063QQ02
4B063QQ03
4B063QQ08
4B063QR04
4B063QR90
4B063QS02
4B063QX02
要約 【課題】本発明は、非RIで末梢血単核球のジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ(DPD)活性を測定する方法を提供することを課題とする。
【解決手段】(1)末梢血単核球溶解液にウラシル標品を添加し測定試料1を調製する工程;
(2)測定試料1を一定時間反応させ測定試料2を調製する工程;
(3)測定試料1及び測定試料2をそれぞれ、下記式(I):
JP2019000109A_000013t.gif
(式中、Aは、C1-4アルキル基で置換されていてもよいC6-10アリール基である)で表される化合物と、酸化剤及び塩基の存在下で反応させて蛍光性化合物を得る工程;
(4)測定試料1に由来する蛍光性化合物の蛍光強度と測定試料2に由来する蛍光性化合物の蛍光強度とを測定し比較することによってウラシル量の消失を算出する工程;及び
(5)消失したウラシル量に基づきDPD活性を算出する工程、を含む
末梢血単核球中のDPD活性を測定する方法。
【選択図】なし
特許請求の範囲 【請求項1】
(1)末梢血単核球溶解液にウラシル標品を添加し測定試料1を調製する工程;
(2)測定試料1を一定時間反応させ測定試料2を調製する工程;
(3)測定試料1及び測定試料2をそれぞれ、下記式(I):
【化1】
JP2019000109A_000012t.gif

(式中、Aは、C1-4アルキル基で置換されていてもよいC6-10アリール基である)
で表される化合物と、酸化剤及び塩基の存在下で反応させて蛍光性化合物を得る工程;
(4)測定試料1に由来する蛍光性化合物の蛍光強度と測定試料2に由来する蛍光性化合物の蛍光強度とを測定し比較することによってウラシル量の消失を算出する工程;及び
(5)消失したウラシル量に基づきジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ活性を算出する工程、を含む
末梢血単核球中のジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ活性を測定する方法。
【請求項2】
塩基の使用量が、式(I)で表される化合物に対して100~1000当量である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
Aが、フェニル基又は3-メチルフェニル基である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
(i)酸化剤が、フェリシアン化カリウムである、及び/又は(ii)塩基が、水酸化カリウムである、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
酸化剤の使用量が、式(I)で表される化合物に対して0.001~3当量である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
工程(2)における反応時間が5~60分である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
末梢血単核球が、ヒト患者由来の血液より単離精製されたものである、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の方法を用いて、ヒト患者由来の血液試料中のジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ活性を測定することを含む、ジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ欠損症の検査方法。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の末梢血単核球中のジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ活性を非放射化学的(所謂非RI)に測定する方法、及び該反応を用いたジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ欠損症の検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
5-フルオロウラシル(5-FU)に代表されるフッ化ピリミジン系抗がん剤(FPs)は、様々ながんに対して世界中で利用されているが、骨髄抑制など致死的な副作用を示すことから、FPsの投与量及び血中5-FU濃度には注意を払う必要がある。5-FUの約85%は、肝臓においてジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ(DPD)によって代謝されるが、DPD活性を欠損した患者(DPD欠損症患者)にFPsを投与すると、5-FUの血中濃度が異常に上昇して副作用が出現し、最悪の場合は死に至る。そのため、全てのFPsの投与対象者に対して事前にDPD活性を測定すべきであり、その様に主張する医師も多く存在する。
【0003】
肝臓のDPD活性が末梢血単核球(PBMC)のDPD活性と相関することから、PBMCのDPD活性測定はDPD欠損症の診断法として世界中で定着している(非特許文献1)。この方法は、PBMC溶解液中に含まれるDPDのピリミジン分解活性を直接測定する方法で部分/完全欠損を問わず信頼性が高い。しかし、この手法は放射性標識した基質を必要とするため、現在は放射性物質を使用しない代替法へ移行しつつある。
代替となる、DPD欠損症の診断方法として、尿中ジヒドロウラシル/ウラシル比を測定する方法が知られている。この方法はDPDの代謝前後の物質を定量することで間接的にDPD活性を測定する方法であり、簡便且つ非侵襲的に評価できる反面、多検体の同時検査ができない点や尿検査では部分欠損を判別できない、等の問題点がある。また、DPDをコードするDYPD遺伝子の変異からDPD活性を予測する遺伝子検査も知られている。この方法は簡便且つ確実に遺伝子変異を読み取ることができる反面、DYPD遺伝子の変異型とDPD活性との相関が完全に解明されておらず一部の完全欠損しか発見できず、また、後天性異常に対応できない、等の問題点がある。これらの非放射化学的な代替法は、いずれもDPD部分欠損を検出できないという問題点を有する。
【0004】
また、これら従来の検査法は、いずれも高額である。この様に、DPD欠損症を気軽に精査できる手法が存在しないため、FPs投与の際は副作用に注意しながら少量ずつ増量するという対策が取られる。そのため、副作用が出現してFPs投与を中断したにも関わらず、回復せずに死の転帰をたどる例が、世界中で報告されている。
加えて、DPD欠損症の発症率は人種・性別に偏りがあり、白人では約10%がDPD活性を欠損している一方、日本人のDPD活性欠損者は0.1~0.01%しか存在しないと報告されている。日本でのFPsの副作用発生率は他国と比較して少なく、高額な検査費用も相まって、現在DPD欠損症をFPs投与前に事前検査できる機関は、国内に存在しない。すなわち、日本のがん臨床現場では、FPsが実際に使用されているにも関わらずDPD活性を測定できないという、極めて危険な状態が数年に渡って継続している。事実、毎年1報以上は、DPD欠損患者へのFPs投与による副作用例が報告されている。この様な背景から、簡便・正確・安価かつ多検体を同時に検査できるDPD欠損症の診断法の開発が必要不可欠であり、実際に医療現場でも長年望まれ続けている。
【0005】
本発明者は、ウラシルに対して特異的に蛍光を発する新規誘導体化反応を開発し、尿中のウラシルを検出してDPD欠損患者のスクリーニングを行う方法について報告している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【0006】

【特許文献1】日本国特許第5586034号
【0007】

【非特許文献1】L. K. Mattison, H. Ezzeldin, M. Carpenter, A. Modak, M. R. Johnson and R. B. Diasio, Clin. Cancer Res., 2004, 10, 2652-2658
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
簡便・正確・安価かつ多検体を同時に検査できるDPD欠損症の診断を可能とする方法、具体的には非RIでDPD活性を測定する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、DPDがウラシルをジヒドロウラシルに分解する酵素であることから、PBMCに放射性基質ではなくウラシルを添加しその減少量を測定することでDPD活性を測定し得るとの発想に至った。さらに、そのウラシルの減少量の測定を、本発明者が開発したウラシルに対して特異的に蛍光を発する誘導体化反応を用いて実施できることを確認して本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、以下を提供する。
[1](1)末梢血単核球溶解液にウラシル標品を添加し測定試料1を調製する工程;
(2)測定試料1を一定時間反応させ測定試料2を調製する工程;
(3)測定試料1及び測定試料2をそれぞれ、下記式(I):
【0011】
【化1】
JP2019000109A_000002t.gif

【0012】
(式中、Aは、C1-4アルキル基で置換されていてもよいC6-10アリール基である)
で表される化合物と、酸化剤及び塩基の存在下で反応させて蛍光性化合物を得る工程;
(4)測定試料1に由来する蛍光性化合物の蛍光強度と測定試料2に由来する蛍光性化合物の蛍光強度とを測定し比較することによってウラシル量の消失を算出する工程;及び
(5)消失したウラシル量に基づきジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ活性を算出する工程、を含む
末梢血単核球中のジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ活性を測定する方法。
[2]塩基の使用量が、式(I)で表される化合物に対して100~1000当量である、上記[1]記載の方法。
[3]Aが、フェニル基又は3-メチルフェニル基である、上記[1]又は[2]記載の方法。
[4](i)酸化剤が、フェリシアン化カリウムである、及び/又は(ii)塩基が、水酸化カリウムである、上記[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]酸化剤の使用量が、式(I)で表される化合物に対して0.001~3当量である、上記[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]工程(2)における反応時間が5~60分である、上記[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]末梢血単核球が、ヒト患者由来の血液より単離精製されたものである、上記[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8]上記[1]~[7]のいずれかに記載の方法を用いて、ヒト患者由来の血液試料中のジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ活性を測定することを含む、ジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ欠損症の検査方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、簡便な方法で短時間に高精度かつ経済的にDPD活性を測定することが可能となる。さらに本発明の方法を用いることにより、部分/完全欠損を問わずDPD欠損症の診断の診断を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】ヒト血液を用いて、本発明の方法により非RIでDPD活性を測定した結果を示すグラフである。健常人ボランティアより採取した末梢血単核球を-80℃で凍結保存し3回に分けて測定した結果を示す。
【図2】ヒト血液を用いて、本発明の方法により非RIでDPD活性を測定した結果を示すグラフである。病院より提供された血液から末梢血単核球を単離しそのまま測定した結果を示す。
【図3】ヒト血液を用いて、本発明の方法により非RIでDPD活性を測定した結果を示すグラフである。健常人ボランティアより提供された血液から末梢血単核球を単離しそのまま測定した結果を示す。
【図4】ヒト血液を用いて、本発明の方法により非RIでDPD活性を測定した結果を示すグラフである。健常人ボランティアより提供された血液から末梢血単核球を単離しそのまま測定した結果を示す。
【図5】定量に用いた検量線のデータ示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を説明する。本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味を有する。

【0016】
本発明は、以下の5つの工程を少なくとも含み、具体的には実施例に準じた方法で実施することができる。
工程1:末梢血単核球(PBMC)溶解液にウラシル標品を添加し測定試料1を調製する工程
FPs投与後に増加する血中の5-FUは肝臓のDPDによって代謝される。肝臓のDPD活性がPBMCのDPD活性と相関することから、本発明では測定対象としてPBMCを用いることを特徴とする。
まず、全血(好ましくはヒト由来の末梢血)からPBMCを単離する。末梢血からの単核球の単離は、従来公知の単離方法を使用して実施することができる。具体的には、ヘパリンやクエン酸などの抗凝固剤で処理した末梢血を、単核球分離用に適切に比重が調整された分離剤、例えばフィコールやリンホプレップ、Histopaque(登録商標)-1077(シグマアルドリッチ社製)に積層するか、または該分離剤と混合し、遠心分離操作を行い、単核球を単核球以外の血球成分から分離することにより実施することができる。
PBMCを溶解する為の方法としては、細胞破砕用の超音波発生機を使用することができる。また、細胞溶解剤を用いることもできる。溶解剤としては、従来公知のものが利用できるが、例えば、主に界面活性剤を用いることが多く、例として高級脂肪族アルコール、アルキルアリールポリエーテルアルコール、スルホネート、サルフェートのポリオキシエチレンエーテル、無水ソルビットの脂肪酸エステルのポリオキシエチレン誘導体が挙げられる。その使用量は、PBMCからDPDを放出させるのに充分な量である。
本工程で用いるウラシル標品は、既知濃度のウラシルを含んでいれば特に限定されず、商業的に入手可能である。測定試料1を調製する為に添加されるウラシル標品の量は、試料中に含まれ得るDPDの量によっても異なり、適宜設定することができるが、通常過剰量のウラシルを含む標品が用いられる。
次の工程2において、DPDの酵素反応は、補酵素であるNADPHの存在下で行われる。ウラシル標品の添加前に、PBMC溶解液にNADPHを添加し、プレインキュベーションすることが好ましい。

【0017】
工程2:測定試料1を一定時間反応させ測定試料2を調製する工程
本工程は、測定試料1を一定時間反応させている間に、PBMCのDPD活性によりウラシルが分解される工程である。反応時間は、DPD活性によるウラシルの分解が検出できる範囲であれば特に限定されず、工程3で用いる式(I)で表される化合物の種類によっても適宜選択されるが、通常1分~2時間、好ましくは5~60分程度反応させる。反応時間は、より好ましくは5~30分である。反応時間が短すぎるとウラシルの分解が十分でなく、長い反応時間は測定の迅速性及び精度という観点から望ましくない。反応温度は、通常4~50℃、好ましくは25~37℃である。測定試料1を一定時間反応させることにより測定試料2が得られる。
工程2において、酵素反応を停止させるために、所定の反応時間の経過後、測定試料2と塩基(工程3に記載)を混合することができる。初期ウラシル量を測定するための測定試料1は、測定試料1を調製した直後(反応時間0分)に塩基(工程3に記載)と混合することにより酵素反応を停止させる。

【0018】
工程3:測定試料1及び測定試料2をそれぞれ、下記式(I):

【0019】
【化2】
JP2019000109A_000003t.gif

【0020】
(式中、Aは、C1-4アルキル基で置換されていてもよいC6-10アリール基である)
で表される化合物(以下、化合物(I)とも称する)と、酸化剤及び塩基の存在下で反応させて蛍光性化合物を得る工程
本工程は、測定試料1中のウラシル、及び測定試料2中のウラシルをそれぞれ化合物(I)と反応させて蛍光性化合物を得る工程である。PBMCのDPD活性の強さに応じて得られる蛍光性化合物の量が決まる。すなわち、DPD活性が高い場合には測定試料1中のウラシルの分解が進み測定試料2中のウラシルの量が減るので、測定試料2中の蛍光性化合物の量も減少する。

【0021】
「C1-4アルキル基」とは、直鎖状もしくは分岐鎖状の炭素数1~4のアルキル基であり、具体的には、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル等が挙げられる。
「C6-10アリール基」とは、具体的には、フェニル、ナフチル等が挙げられ、なかでも好ましくはフェニルである。
Aにおける「C1-4アルキル基で置換されていてもよいC6-10アリール基」は、好ましくはフェニル基又は3-メチルフェニル基である。

【0022】
化合物(I)は、市販品を入手可能であるか、自体公知の方法により製造することができる。

【0023】
本工程により得られる蛍光性化合物は下記式(II):

【0024】
【化3】
JP2019000109A_000004t.gif

【0025】
(式中、Aは、式(I)におけるAと同義である)
で表される。

【0026】
よりウラシル選択的な蛍光性化合物が得られるという点で、AはC1-4アルキル基(好ましくはメチル基)で置換されたC6-10アリール基(好ましくはフェニル基)である。Aが無置換のC6-10アリール基(好ましくはフェニル基)である場合は試薬としての化合物(I)が安価で入手可能であるため、経済的に好ましく、多検体を用いた測定に適している。

【0027】
上記のウラシルと化合物(I)との反応は、酸化剤及び塩基(特に、強塩基)の存在下で好適に進行する。
酸化剤としては、自体公知の酸化剤を適宜用いることができるが、このような酸化剤としては、例えば、フェリシアン化カリウム、塩化鉄(III)、塩化銅(II)、ヨウ素酸ナトリウム、過マンガン酸カリウム、硝酸カリウム、硝酸セリウムアンモニウム、二クロム酸カリウム等が挙げられる。なかでも好ましくは、フェリシアン化カリウムである。酸化剤の使用量は、化合物(I)に対して、例えば0.001~3当量であり、好ましくは0.5~2.5当量である。
塩基としては、自体公知の塩基を適宜用いることができるが、このような塩基としては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素リチウム等が挙げられる。なかでも好ましくは、水酸化カリウムである。塩基の使用量は、化合物(I)に対して、例えば0.1~2000当量であり、好ましくは100~1000当量である。

【0028】
加熱により反応が好適に進行するため、本発明の反応は、50~120℃の反応温度で行うことが好ましく、80~120℃で行うことがより好ましい。反応のウラシル選択性及び感度の観点からは90~100℃で行うことが特に好ましい。

【0029】
極めて短時間の反応及び長時間の反応では得られる化合物(II)の蛍光強度が減少するため、本発明の反応は、1~15分の反応時間で行うことが好ましく、反応のウラシル選択性及び感度の観点からは2~5分で行うことが更に好ましい。

【0030】
本工程は、溶媒を用いて行うこともできる。該溶媒としては、自体公知の溶媒を用いることができ反応が進行する限り特に限定されないが、例えば、水、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アルコール類(例えばメタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール等)等が挙げられる。なかでも好ましくは、水である。また、下記の試料に含まれる水が、溶媒として働いてもよい。

【0031】
本工程により得られる化合物(II)を含む反応液は、反応直後では強アルカリ性である。蛍光強度の増強を目的として酸(例、酢酸)による中和や、塩(例、塩化ナトリウム)による塩析、あるいは有機溶媒(例、酢酸エチル)による抽出等の処理をさらに行うことが好ましい。
中和(pH6~7)工程→塩析工程→抽出工程を実施することが特に好ましい。

【0032】
工程4:測定試料1に由来する蛍光性化合物の蛍光強度と測定試料2に由来する蛍光性化合物の蛍光強度とを測定し比較することによってウラシル量の消失を算出する工程
工程3により得られる化合物(II)は蛍光性を有するので、励起波長領域の励起光を化合物(II)に照射し、蛍光波長領域の蛍光強度を測定することにより、ウラシルを検出することが可能となる。
該励起波長領域は、励起光を照射することにより化合物(II)が蛍光を呈するものであれば特に限定されず、当業者であれば適宜適切な波長領域を選択して測定することができる。例えば250~400nmの波長領域の励起光を照射することが好ましく、310~350nmの波長領域の励起光を照射することがより好ましく、310~330nmの波長の励起光を照射することが特に好ましい。
該蛍光波長領域は、蛍光波長領域であれば特に限定されず、当業者であれば適宜適切な波長領域を選択して測定することができる。例えば350~500nmの波長領域における蛍光強度を測定することが好ましく、360~440nmの波長領域の蛍光強度を測定することがより好ましく、365~410nmの波長の蛍光強度を測定することが特に好ましい。
該蛍光強度は、自体公知の検出方法により測定することができるが、例えば蛍光分光光度計を用いて測定することができる。
測定試料1に由来する蛍光性化合物の蛍光強度より求められるウラシル量(初期ウラシル量)は、測定試料1に添加するウラシル標品に含まれるウラシル量に相当する。初期ウラシル量から測定試料2に由来する蛍光性化合物の蛍光強度より求められるウラシル量(残存ウラシル量)を差し引いたものがPBMC中のDPDにより分解されたウラシルの量(分解ウラシル量)を示す。各試料中のウラシル量は、あらかじめ蛍光性化合物の蛍光強度とウラシル量との相関関係に基づいた検量線を作成しておき、該検量線に基づいて算出することができる。

【0033】
工程5:消失したウラシル量に基づきジヒドロピリミジンデヒドロゲナーゼ活性を算出する工程
工程4で得られた分解ウラシル量を用いて、1分当たりのウラシル減少量を算出し、さらに使用したPBMCの量をタンパク質量で補正することで、PBMC中のDPD活性値(pmol/min/mg protein)を算出する。
【実施例】
【0034】
以下に実施例を示して、本発明をより詳細に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。また、使用する試薬及び材料は特に限定されない限り商業的に入手可能である。
【実施例】
【0035】
参考例:ウラシルと3-メチルベンズアミドオキシムとの反応(検量線の作成)
【実施例】
【0036】
【化4】
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【実施例】
【0037】
ウラシル水溶液(0μM(参考例)、1μM、2μM、5μM、10μM、20μM、50μM、100μM、150μM、200μM又は250μM、各々0.25ml)、3-メチルベンズアミドオキシム水溶液(4mM、0.25ml)、フェリシアン化カリウム水溶液(8mM、0.25ml)及び水酸化カリウム水溶液(4M、0.25ml)を混合し、90℃で2分間加熱した。得られた化合物を、下記の条件で蛍光光度分析に供した。蛍光光度分析の測定結果を、表1に示す。
蛍光光度分析:
機種:日本分光 FP-6300 Spectrofluorometer
Ex/Em=330nm/410nm
スリット幅:5nm、5nm
感度:medium
レスポンス:medium
【実施例】
【0038】
【表1】
JP2019000109A_000006t.gif
【実施例】
【0039】
実施例1:PBMC溶液のDPD活性測定(反復測定)
(材料と方法)
健常人からヘパリン入り真空採血管で採取した全血5mLを、Histopaque(登録商標)-1077(シグマアルドリッチ社製)3mL上に、界面を乱さず2層になるように静かに注ぎ、1,500g、30分間、室温で遠心分離した。形成されたPBMC相の上部約5mmから下部約5mmの分画(約2.0mL)をパスツールピペットで分取し、15mLコニカルチューブに移した。コニカルチューブにリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を10mL加え、1,500g、30分間、室温で遠心分離した。上清を取り除き、PBSを5mL加えてペレットを懸濁させ、1,500g、30分間、室温で遠心分離した。この操作をもう一度繰り返した後、上清を取り除き、PBSを1mL加えてペレットを懸濁させ、TPX(登録商標)製の1.5mLマイクロチューブに移した。1,500g、30分間、4℃で遠心分離した後、上清を取り除いた。得られたPBMCのペレットは、実験に供するまで-80℃にて保存し、日にちを変えて3回に分けてDPD活性を測定した。
冷凍したPBMCを氷浴に漬け、300μLの氷冷した酵素反応用緩衝液(875μLの40mMリン酸緩衝液、pH7.4に、100μLの25mM塩化マグネシウムと25μLの200mMジチオスレイトールを加えたもの)を加えた。カップホーン型超音波細胞破砕装置のカップに0℃の水を循環させながら、100%出力で10秒間ON、30秒間OFFのサイクルで4サイクル超音波処理を行った。14,000g、10分間、4℃で遠心分離し、上清を1.5mLチューブに回収した。このPBMC溶解液のタンパク質濃度をブラッドフォード法により測定した。
タンパク質量が200μgとなる容量のPBMC溶解液を、氷冷した0.5mLチューブに写し、さらに氷冷した酵素反応用緩衝液を加えて全量を400μLとした。これに1~4mM NADPH水溶液を50μL加え、37℃で5分間プレインキュベーションした後、100~400μMウラシル水溶液50μLを添加し、素早くピペッティングして37℃でインキュベーションした。反応開始から0、15、30分が経過した時点で酵素反応液50μLを採取し、4M水酸化カリウム水溶液250μLをあらかじめ入れておいた1.5mLチューブに加え、酵素反応を停止した。
各タイムポイントにおける反応液(300μL)に水200μL、4mM 3-メチルベンズアミドオキシム水溶液250μL、8mMフェリシアン化カリウム水溶液250μLを順に添加して全量を1mLとした後、100℃にて5分間加熱し蛍光反応を行った。反応液を冷却後、分光蛍光光度計により蛍光強度を測定した。また、参考例に準じて濃度既知のウラシル標準液に、20μgのタンパク質量に相当する上記PBMC溶解液を添加し、同様の蛍光反応を行って検量線を作成した。
横軸に時間(分)、縦軸に蛍光強度を取ってグラフを描いたものを図1に示す。得られる直線の傾き及び上述の検量線から1分当たりのウラシル減少量を計算し、さらに使用したPBMCの量をタンパク質量で補正することで、DPD活性値(pmol/min/mg protein)を算出した。
(結果)
結果を表2に示す。DPD活性は3回の平均値として198.5±34.6pmol/min/mg proteinであった。
【実施例】
【0040】
【表2】
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【実施例】
【0041】
実施例2:PBMC溶液のDPD活性測定(単回測定)
(材料と方法)
咽頭がん患者からヘパリン入り真空採血管で採取した全血6mLを使用して、以下実施例1と同様に実験を行った。
(結果)
PBMC溶液を調製後、ただちに測定した。測定試料1を調製した直後(0min)、測定試料1を15分反応させて得られる測定試料2(15min)、さらに15分(計30分)反応させて得られる測定試料2(30min)の蛍光強度を測定した。蛍光強度の減少に基づいてウラシル分解量を算出し、さらにPBMC溶液中のDPD活性を求めた。結果を表3及び図2に示す。DPD活性は259.34pmol/min/mg proteinであった。
【実施例】
【0042】
【表3】
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【実施例】
【0043】
実施例3:PBMC溶液のDPD活性測定(単回測定)
(材料と方法)健常人からヘパリン入り真空採血管で採取した全血5mLを使用して、以下実施例1と同様に酵素反応を行った。反応開始から0、15、60、90、120分が経過した時点で酵素反応液50μLを採取し、4M水酸化カリウム水溶液250μLをあらかじめ入れておいた1.5mLチューブに加え、酵素反応を停止した。
各タイムポイントにおける反応液(300μL)に水200μL、4mM ベンズアミドオキシム水溶液250μL、8mMフェリシアン化カリウム水溶液250μLを順に添加して全量を1mLとした後、100℃にて5分間加熱し蛍光反応を行った。反応液を冷却後、分光蛍光光度計により蛍光強度を測定した。また、参考例に準じて濃度既知のウラシル標準液に、20μgのタンパク質量に相当する上記PBMC溶解液を添加し、同様の蛍光反応を行って検量線を作成し、蛍光強度の減少に基づいてウラシル分解量を算出し、さらにPBMC溶液中のDPD活性を求めた。
(結果)
結果を表4及び図3に示す。DPD活性は85.9pmol/min/mg proteinであった。
【実施例】
【0044】
【表4】
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【実施例】
【0045】
実施例4:PBMC溶液のDPD活性測定(反復測定)
(材料と方法)健常人からヘパリン入り真空採血管で採取した全血5mLを使用して、以下実施例1と同様に酵素反応を行った。反応開始から0、15、30、60、120分が経過した時点で酵素反応液50μLを採取し、4M水酸化カリウム水溶液250μLをあらかじめ入れておいた1.5mLチューブに加え、酵素反応を停止した。
各タイムポイントにおける反応液(300μL)に水200μL、4mM ベンズアミドオキシム水溶液250μL、8mMフェリシアン化カリウム水溶液250μLを順に添加して全量を1mLとした後、100℃にて5分間加熱し蛍光反応を行った。反応液を冷却後、分光蛍光光度計により蛍光強度を測定した。また、参考例に準じて濃度既知のウラシル標準液に、20μgのタンパク質量に相当する上記PBMC溶解液を添加し、同様の蛍光反応を行って検量線を作成し、蛍光強度の減少に基づいてウラシル分解量を算出し、さらにPBMC溶液中のDPD活性を求めた。
(結果)
結果を表5及び図4に示す。定量に用いた検量線のデータを表6及び図5に示す。DPD活性は3回の平均値として210.9±43.8pmol/min/mg proteinであった。図4の結果から、酵素反応の反応時間は5~30分が好ましく、60分まではおよそ測定可能であることがわかった。
【実施例】
【0046】
【表5】
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【実施例】
【0047】
【表6】
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【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によれば、非RIという簡便且つ安全な方法で短時間に高精度かつ経済的にDPD活性を測定することが可能となる。従って、本発明の方法によれば、DPD欠損症を簡便に検査することが可能となり、癌化学療法において有益である。
図面
【図1】
0
【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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