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明細書 :磁気研磨方法及び磁気研磨装置

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-030924 (P2019-030924A)
公開日 平成31年2月28日(2019.2.28)
発明の名称または考案の名称 磁気研磨方法及び磁気研磨装置
国際特許分類 B24B  37/00        (2012.01)
B24B  31/112       (2006.01)
FI B24B 37/00 D
B24B 31/112
B24B 37/00 E
B24B 37/00 H
請求項の数または発明の数 6
出願形態 OL
全頁数 13
出願番号 特願2017-152496 (P2017-152496)
出願日 平成29年8月7日(2017.8.7)
発明者または考案者 【氏名】鄒 艶華
出願人 【識別番号】304036743
【氏名又は名称】国立大学法人宇都宮大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100117226、【弁理士】、【氏名又は名称】吉村 俊一
審査請求 未請求
テーマコード 3C158
Fターム 3C158AA07
3C158AA09
3C158CA02
3C158CA05
3C158CB01
3C158CB03
3C158DA02
3C158DA10
3C158DA11
3C158ED06
3C158ED09
3C158ED21
要約 【課題】硬い材料からなる被研磨体を研磨する場合であっても、高効率で高精度の研磨加工を実現できる磁気研磨方法及び磁気研磨装置を提供する。
【解決手段】磁気研磨装置30は、被研磨体1を装着する被研磨体装着部31と、被研磨体装着部31に装着された被研磨体1を挟んだ位置に配置されたN極磁石及びS極磁石と、各磁石を被研磨体1に向けて加圧する加圧装置と、各磁石と被研磨体1とを相対移動させる相対移動機構とを少なくとも備える磁気研磨装置30である。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
磁石に磁気吸着させた磁性研磨剤で被研磨体の表面を研磨する方法であって、
前記磁石は、前記被研磨体を挟んだ位置に配置されたN極磁石及びS極磁石であり、
前記各磁石を前記被研磨体に向けて加圧しながら前記各磁石と前記被研磨体とを相対移動させることを特徴とする磁気研磨方法。
【請求項2】
前記相対移動は、前記被研磨体の回転若しくは前記各磁石の回転、及び/又は、前記被研磨体の振動若しくは揺動又は前記各磁石の振動若しくは揺動、である、請求項1に記載の磁気研磨方法。
【請求項3】
前記磁性研磨剤が、粒径の異なる混合粒子である、請求項1又は2に記載の磁気研磨方法。
【請求項4】
前記被研磨体が、棒状工作物である、請求項1~3のいずれか1項に記載の磁気研磨方法。
【請求項5】
磁石に磁気吸着させた磁性研磨剤で被研磨体の表面を研磨する装置であって、
前記被研磨体を装着する被研磨体装着部と、前記被研磨体装着部に装着された前記被研磨体を挟んだ位置に配置されたN極磁石及びS極磁石と、前記各磁石を前記被研磨体に向けて加圧する加圧装置と、前記各磁石と前記被研磨体とを相対移動させる相対移動機構とを少なくとも備えることを特徴とする磁気研磨装置。
【請求項6】
前記相対移動機構は、前記被研磨体若しくは前記各磁石を回転する回転装置、及び/又は、前記被研磨体を振動若しくは揺動する振動・揺動装置又は前記各磁石を振動若しくは揺動する振動・揺動装置、である、請求項5に記載の磁気研磨装置。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気研磨方法及び磁気研磨装置に関し、更に詳しくは、硬い被研磨体であっても磁性研磨剤で鏡面研磨可能な方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気援用加工法(磁気研磨法ともいう。)は、磁場の作用を取り込んだ精密加工技術であり、磁力線を媒介にして磁性研磨剤に加工力と運動力を与えて精密な表面加工を実現するものである。例えば特許文献1には、特に磁性研磨剤を粒子ブラシとして用い、その粒子ブラシの柔軟な加工挙動により、例えば金型の曲面等のような複雑な部品の形状精度を維持しながら精密研磨を行うことができることが提案されている。
【0003】
特許文献2には、磁性金属材料からなる工作物であっても効率的に研磨することができる磁気研磨装置が提案されている。この装置は、磁性研磨剤を磁気吸着する2以上の永久磁石それぞれがヨークに離間して固定された先端構造を有する磁気研磨加工用工具を備え、その磁気研磨加工用工具の先端に磁性研磨剤を磁気吸着させた後に回転又は回動させながら工作物上を相対移動させて当該工作物を研磨するものである。
【0004】
また、特許文献3では、管の内面を極めて精密に研磨することができ且つ洗浄も容易な超精密磁気研磨方法が提案されている。この技術は、被研磨管と、被研磨管内に導入された研磨スラリーと、被研磨管と研磨スラリーとを相対運動させて研磨スラリーを攪拌させる管内面磁気研磨装置とを用い、管内面磁気研磨装置を動作させて被研磨管の内面を研磨スラリーで研磨する方法である。
【先行技術文献】
【0005】

【特許文献1】特開2002-192453号公報
【特許文献2】特開2007-210073号公報
【特許文献3】特開2010-52123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した各特許文献で提案されている方法又は装置は、磁石の表面に磁気吸着した磁性研磨剤で被加工面を研磨している。そのため、加工力が弱く、研磨時間が長くなるという加工効率上の難点があった。特に硬い材料からなる被研磨体を研磨する場合には、高効率で高精度の研磨加工が難しかった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、硬い材料からなる被研磨体を研磨する場合であっても、高効率で高精度の研磨加工を実現できる磁気研磨方法及び磁気研磨装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明に係る磁気研磨方法は、磁石に磁気吸着させた磁性研磨剤で被研磨体の表面を研磨する方法であって、前記磁石は、前記被研磨体を挟んだ位置に配置されたN極磁石及びS極磁石であり、前記各磁石を前記被研磨体に向けて加圧しながら前記各磁石と前記被研磨体とを相対移動させることを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、被研磨体を挟んだ位置に配置されたN極磁石とS極磁石とを、被研磨体に向けて加圧しながら各磁石(N極磁石とS極磁石)と被研磨体とを相対移動させるので、被研磨体の表面を高効率・高精度で研磨することができる。
【0010】
本発明に係る磁気研磨方法において、前記相対移動は、前記被研磨体の回転若しくは前記各磁石の回転、及び/又は、前記被研磨体の振動若しくは揺動又は前記各磁石の振動若しくは揺動、であることが好ましい。この発明によれば、被研磨体の硬さや形状に応じて各磁石と被研磨体とを相対移動させる要素を調整することにより、種々の被研磨体の表面を研磨することができる。
【0011】
本発明に係る磁気研磨方法において、前記磁性研磨剤が、粒径の異なる混合粒子であることが好ましい。この発明によれば、混合粒子を用いて研磨の効率化と研磨精度を上げることができる。
【0012】
本発明に係る磁気研磨方法において、前記被研磨体が、棒状工作物である。特に、アルミナセラミックス等のような硬い材料からなる被研磨体により好ましく適用することができる。
【0013】
(2)本発明に係る磁気研磨装置は、磁石に磁気吸着させた磁性研磨剤で被研磨体の表面を研磨する装置であって、前記被研磨体を装着する被研磨体装着部と、前記被研磨体装着部に装着された前記被研磨体を挟んだ位置に配置されたN極磁石及びS極磁石と、前記各磁石を前記被研磨体に向けて加圧する加圧装置と、前記各磁石と前記被研磨体とを相対移動させる相対移動機構とを少なくとも備えることを特徴とする。
【0014】
この発明によれば、被研磨体を挟んだ位置に配置されたN極磁石及びS極磁石を、被研磨体に向けて加圧する加圧装置を備え、その加圧装置で加圧した状態で各磁石と被研磨体とを相対移動させる相対移動機構を備えるので、被研磨体の表面を高効率・高精度で研磨することができる。
【0015】
本発明に係る磁気研磨装置において、前記相対移動機構は、前記被研磨体若しくは前記各磁石を回転する回転装置、及び/又は、前記被研磨体を振動若しくは揺動する振動・揺動装置又は前記各磁石を振動若しくは揺動する振動・揺動装置、であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、硬い材料からなる被研磨体を研磨する場合であっても、高効率で高精度の研磨加工を実現できる磁気研磨方法及び磁気研磨装置を提供することができる。具体的には、被研磨体を挟んだ位置に配置されたN極磁石とS極磁石とを、被研磨体に向けて加圧しながら各磁石と被研磨体とを相対移動させるので、被研磨体の表面を高効率・高精度で研磨することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る磁気研磨方法の一例を示す模式図である。
【図2】本発明に係る磁気研磨方法の他の一例を示す模式図である。
【図3】使用した磁気研磨装置の例である。
【図4】磁石に与える空気圧(0~0.35MPa)と磁石の研磨圧力との関係を示すグラフである。
【図5】空気供給圧力を0.25MPaとした場合における研磨前(A)、5分研磨後(B)、10分研磨後(C)の表面粗さ結果である。上段は、接触式の表面粗さ測定結果であり、下段は、非接触式の表面粗さ測定結果である。
【図6】空気供給圧力を3段階(0.05MPa、0.15MPa、0.25MPa)で変えた場合において、表面粗さと研磨量に及ぼす研磨時間の影響をまとめたグラフである。
【図7】被研磨体と各磁石との間隔を変えた場合において、表面粗さと研磨量に及ぼす研磨時間の影響をまとめたグラフである。
【図8】磁性粒子の量を変えた場合において、表面粗さと研磨量に及ぼす研磨時間の影響をまとめたグラフである。
【図9】研磨時間を変えた場合において、表面粗さと研磨量に及ぼす研磨時間の影響をまとめたグラフである。(A)は表面粗さの結果であり、(B)は研磨量の結果である。
【図10】磁石の先端形状の違いによる被研磨体の表面圧力をまとめたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の磁気研磨方法及び磁気研磨装置について図面を参照しつつ説明する。なお、本発明は、その技術的特徴を有する範囲を包含し、以下に示す説明及び図面等に限定されない。

【0019】
[磁気研磨方法及び装置]
本発明に係る磁気研磨方法は、図1~図3に示すように、磁石21に磁気吸着させた磁性研磨剤2で被研磨体1の表面を研磨する方法である。磁石21は、被研磨体1を挟んだ位置に配置されたN極磁石21N及びS極磁石21Sである。各磁石21(N極磁石21N及びS極磁石21S)を被研磨体1に向けて加圧しながら各磁石21と被研磨体1とを相対移動させる。

【0020】
本発明に係る磁気研磨装置31も図1~図3に示すように、磁石21に磁気吸着させた磁性研磨剤2で被研磨体1の表面を研磨する装置であり、被研磨体1を装着する被研磨体装着部31と、被研磨体装着部31に装着された被研磨体1を挟んだ位置に配置されたN極磁石21N及びS極磁石21Sと、各磁石21を被研磨体1に向けて加圧する加圧装置32と、各磁石21と被研磨体1とを相対移動させる相対移動機構33とを少なくとも備えている。

【0021】
こうした磁気研磨方法及び装置は、被研磨体1を挟んだ位置に配置されたN極磁石21NとS極磁石21Sとを、被研磨体1に向けて加圧しながら各磁石21と被研磨体1とを相対移動させるので、被研磨体1の表面を高効率・高精度で研磨することができる。特に本発明では、被研磨体1と各磁石21との間に磁性研磨剤2を介した状態での磁気研磨において、被研磨体1を挟んで配置されたN極磁石21NとS極磁石21Sとが磁気的に相互に引き合っている点(第1の特徴)、N極磁石21NとS極磁石21Sには被研磨体1に向けて圧力が加えられている点(第2の特徴)、及び、各磁石21と被研磨体1とが相対移動した状態で研磨される点(第3の特徴)に特徴がある。

【0022】
以下、各構成要素について詳しく説明する。なお、単に「磁石21」又は「各磁石21」というときは、N極磁石21NとS極磁石21Sの両方を指している。

【0023】
(被研磨体)
被研磨体1は、研磨する対象となるものであり、その形状及び材質は特に限定されない。形状は、丸棒、角棒等の棒状であってもよいし、球状、板状、矩形状であってもよく、上記した第1~第3の特徴を実現可能な構造形態であればよい。また、被研磨体1の形態は一様な一定形態であってもよいし、曲がった形態でも、段差を有する形態でも、途中で大きさが変化する形態であってもよい。要するに、第1~第3の特徴を実現できる形態であればよく、大きすぎる球、厚すぎる板、大きすぎる矩形物等のように、被研磨体1を挟んで配置されたN極磁石21NとS極磁石21Sとが磁気的に相互に引き合うことができないような場合は本発明の効果を十分に発揮させることができないことがある。好ましい例としては、棒であれば例えば直径20mm以下の丸棒や例えば厚さ20mm以下の角棒、球であれば例えば直径20mm以下、板や矩形物であれば厚さ例えば10mm以下、であることが好ましい。なお、後述する実験例では、直径が一様の丸棒を用いている。

【0024】
材質は、非磁性体であっても磁性体であってもよい。非磁性体の材質としては、例えば、プラスチックス、ガラス、セラミックス、非磁性の金属(銅、アルミニウム、非磁性鋼材、非磁性ステンレス鋼、チタン、等々)等を挙げることができる。磁性体の材質としては、例えば、鋼、磁性ステンレス、ニッケル、磁性合金等を挙げることができる。ただし、被研磨体1が磁性体である場合には、磁性研磨剤2は、その磁性体よりも磁力の大きい各磁石21に磁気吸着し、研磨剤として機能する。なお、後述の実験例では、被研磨体1の材質はアルミナセラミックスであり、特にアルミナ(酸化アルミニウム)やジルコニア(酸化ジルコニウム)等の硬いセラミックスに対して好ましく研磨することができる。

【0025】
(被研磨体装着部)
被研磨体装着部31は、磁気研磨装置30が備える構成部材であり、図1~図3に示すように、被研磨体1を装着する部材であればよく、特に限定されない。図3の例では、被研磨体1として丸棒を用いているので、丸棒を円管状の装着補助部材31aで固定し、その装着補助部材31aを被研磨体装着部31が固定し、その被研磨体装着部31を回転装置34で回転させている。なお、被研磨体装着部31や装着補助部材31aは図1~図3の例に限定されない。

【0026】
(磁性研磨剤)
磁性研磨剤2は、各磁石21に磁気吸着され、被研磨体1を研磨するように作用する。磁性研磨剤2は、磁性粒子と研磨粒子を含む研磨スラリーのことである。この磁性研磨剤2は、各磁石21と被研磨体1とが相対移動しても各磁石21に磁気吸引されており、その相対移動に基づいて被研磨体1の表面を研磨する。磁性研磨剤2の相対移動により、被研磨体1の表面を高効率・高精度で研磨することができる。

【0027】
磁性研磨剤2を構成する磁性粒子は特に限定されず、どのような形状であってもよい。例えば、球状又は略球状の粒子であってもよいし、非球状の角形や不定形の粒子であってもよい。磁性粒子は、磁性研磨剤2が磁石21に磁気吸着されて被研磨体1と磁石21との間に保持させるように作用する。磁石21に磁気吸着された態様で被研磨体1と磁石21とが相対運動することにより、磁性研磨剤2で被研磨体1の表面を精度良く研磨するという効果を奏することができる。したがって、磁性粒子は、こうした作用効果を奏するような磁気特性や粒径を持っている必要がある。

【0028】
磁性粒子としては、鉄、コバルト、ニッケル、クロムやこれらの酸化物、合金、化合物等、一般に磁性体と呼ばれる元素を全部又は一部に含む粒子が用いられる。具体例としては、カルボニル鉄粉、電解鉄粉、ニッケル粉、Ni-P合金粉又はNi-B合金粉等のニッケル合金粉等を使用することができる。また、高温高圧下の不活性ガス中で鉄と焼結させた酸化アルミニウム粉や不活性ガス雰囲気中でのアルミニウムと、酸化鉄とのテルミット反応の生成物粉等を用いることも可能である。なお、市販されている磁性研磨剤(東洋研磨材工業株式会社;KMX-80)や、その他の未市販の磁性研磨剤等を用いることができる。また、磁性を持つ粉末の表面に、他の材料を被覆してなる粒子であってもよい。

【0029】
磁性粒子の大きさも特に限定されないが、研磨粒子との相対的な関係においては、磁性粒子の方が研磨粒子よりも大きいことが好ましい。一例としては、研磨粒子の4倍以上1000倍以下、好ましくは4倍以上50倍以下の範囲で任意に選択することができる。すなわち、磁性粒子と研磨粒子とを含む磁性研磨剤2は、粒径の大きさの異なる混合粒子であることが好ましく、混合粒子を用いて研磨の効率化と研磨精度を上げることができる。磁性粒子の大きさと研磨粒子の大きさとの関係は、研磨する前の被研磨体1の表面状態(表面粗さの程度を含む。)、要求される被研磨体表面の表面状態、要求される研磨時間等によって任意に選択される。

【0030】
磁性粒子の粒径は特に限定されず、平均粒径として一定の範囲のあるものであればよい。例えば、平均粒径で0.5μm以上500μm以下等であればよい。平均粒径は、研磨対象となる被研磨体1の研磨段階や種類に応じて任意に選択される。例えば被研磨体1の粗研磨時や硬い被研磨体1の研磨時等に大きな研磨粒子を用いる場合には、研磨粒子と間の相対的な寸法範囲内で大きな粒径の磁性粒子が選択され、被研磨体1の仕上研磨時やあまり硬くない被研磨体1の研磨時等に小さな研磨粒子を用いる場合には、研磨粒子と間の相対的な寸法範囲内で小さな粒径の磁性粒子が選択されることが好ましい。すなわち、研磨段階(粗研磨、通常研磨、仕上研磨等)や被研磨体1の硬さ等によって任意に選択される。こうした選択により、特に従来から高精度研磨が難しいとされる高硬度のセラミックスをより一層精密研磨できるという効果がある。なお、平均粒径は、磁性粒子の電子顕微鏡写真から測定した平均値であり、表面粗さ(Ra)は、JIS B 0601(2001)に基づいて測定した算術平均粗さである。

【0031】
研磨粒子は、上記したように、磁性粒子との相対的な寸法関係を有することが好ましい。研磨粒子の形態も特に制限されず各種の形態ものを用いることができる。研磨粒子としては、ダイヤモンド粒子、酸化アルミニウム粒子、酸化セリウム粒子、炭化ケイ素粒子、二酸化ケイ素粒子、酸化クロム粒子、又はそれらの複合体等が挙げられる。また、JIS表示でA、WA、GC、SA、MA、C、MD、CBNとして表されているものを含む、Al、SiC、ZrO、BC、ダイヤモンド、立方晶窒化ホウ素、MgO、CeO又はヒュームドシリカ等の研磨粒子であってもよい。

【0032】
研磨粒子の粒径は、上記した磁性粒子のところで説明した大きさであることが好ましい。研磨粒子は、磁性粒子と被研磨体1との間に挟まれるようにして被研磨体1を研磨するので、凝集しないで均一分散した微細な研磨粒子で被研磨体1の表面を精密研磨することができる。なお、平均粒径は、研磨粒子の電子顕微鏡写真から測定した平均値であり、表面粗さ(Ra)は、JIS B 0601(2001)に基づいて測定した算術平均粗さである。

【0033】
スラリー媒体は、磁性研磨剤2に含まれており、磁性粒子と研磨粒子をスラリー状にする媒体であって、研磨粒子を磁性研磨剤2内に分散させるための媒体である。スラリー状とする際の好ましい媒体としては、軽油、水の他、一般的に研磨液として用いられる水溶性や油溶性の液体等が挙げられる。

【0034】
こうして構成された磁性研磨剤2においては、通常、磁性研磨剤2中に含まれる磁性粒子の含有量は30質量%~70質量%の範囲であり、研磨粒子の含有量は10質量%~60質量%の範囲であり、これら磁性粒子と研磨粒子とを併せた総含有量は70質量%~90質量%の範囲であるように構成される。なお、磁性粒子の含有量は、磁気研磨装置や磁性粒子の粒径等の条件とも関係し、また、研磨粒子の含有量は、被研磨体1の表面の研磨の程度(粗研磨、通常研磨、仕上研磨等)や研磨効率を考慮して設定される。また、スラリー媒体の含有量は、調製された磁性研磨剤2が被研磨体1と磁石21との間の相対運動によっても磁石21に磁気吸着されて流体物として留まっているように、ある程度の粘度を有するように設定される。また、粗研磨、通常研磨、仕上研磨等のように研磨精度の段階毎に適した複数種の磁性研磨剤2を準備することにより、段階毎の研磨を行うことができる。例えば粗研磨、中間研磨又は仕上研磨のいずれで行うかによって、磁性粒子と研磨粒子とを適した平均粒径とした複数の磁性研磨剤2を準備し、段階毎に使用して研磨効率を向上させてもよい。

【0035】
(磁石)
磁石21は、図1~図3に示すように、被研磨体装着部31に装着される被研磨体1を挟んだ位置に配置されている。図示の例では、N極磁石21NとS極磁石21Sとが、被研磨体1を挟む対向位置に配置されている。磁石21の強さ(磁力)は、他の条件(被研磨体1の材質や大きさ、磁性研磨剤2の種類等)との兼ね合いで決定されるので一概には言えないが、磁性研磨剤2を磁気吸着できるだけの磁力が必要であるが、磁石21の種類に特に制限はなく、永久磁石でも電磁石でもよい。永久磁石としては、例えば希土類磁石、フェライト磁石、アルニコマグネット、MA磁石等を挙げることができる。希土類磁石は強力な磁界を得られる点で好ましい。希土類磁石としては、具体的には、ネオジウム磁石(Nd-Fe-B)やサマリウムコバルト磁石(Sm-Co)が好ましく用いられる。

【0036】
N極磁石21NとS極磁石21Sとが被研磨体1を挟んで対向していることにより、N極磁石21NとS極磁石21Sとが相互に引き合うことができる。対向位置としては、180°向かい合っていることが好ましいが、相互に引き合う位置関係であれば、必ずしも180°に限定されず、例えば150°~210°の範囲内としてもよい。磁石21の数は、対向する位置に1組み配置(計2つ)されていればよいが、2組配置されているようにしてもよい。

【0037】
N極磁石21NとS極磁石21Sの形状も特に制限はなく、通常は、円柱や多角柱等の柱状の磁石を用いる。また、磁束密度を高める観点から、N極磁石21NとS極磁石21Sの先端を錘台形、例えば円錐台形や角錘台形としてもよい。また、磁石21は角部の磁場強度が大きくなることから、N極磁石21NとS極磁石21Sの先端を切り欠きが入った形状とすることもできる。また、被研磨体1の形状に合わせて磁石21の形状を変化させてもよく、例えば図2に示すように、曲面、段差、凹凸等を有する被研磨体1に対しては、磁石先端の一部をその形状に応じて加工してもよい。例えば、曲面の場合には、磁石先端をその曲面に合わせるように加工してもよく、段差の場合には、磁力先端をその段差に合わせるように加工してもよく、凹凸の場合には、磁力先端をその凹凸の寸法を超えないように加工してもよい。

【0038】
(研磨加工)
本発明では、図1~図3に示すように、各磁石21を被研磨体1に向けて圧力Fを加えながら(加圧しながら)各磁石21と被研磨体1とを相対移動させて研磨する。この方法で研磨加工する磁気研磨装置30は、各磁石21を被研磨体1に向けて圧力Fを加える加圧装置32と、各磁石21と被研磨体1とを相対移動させる相対移動機構33とを少なくとも備えている。こうした方法及び装置により、被研磨体1の表面を高効率・高精度で研磨することができる。

【0039】
加圧手段は、空気圧、油圧、機械圧等のいずれであってもよく、特に限定されない。加える圧力Fは、被研磨体1の種類や磁性研磨剤2の研磨力との関係、求める研磨面の状態に応じて任意に設定される。例えば後述の実験例では、空気圧で加圧しており、その圧力Fは、0.05~0.35N/mmの範囲で行っている。加える空気圧と、被研磨体1に加わる圧力Fとはほぼ比例関係となる。

【0040】
相対移動は、被研磨体1と各磁石21とが相対的に移動していればよく、一方を固定して他方を移動させて研磨してもよいし、両方を移動しながら研磨してもよい。相対移動の形態は、被研磨体1の回転若しくは各磁石21の回転、及び/又は、被研磨体1の振動若しくは揺動又は各磁石21の振動若しくは揺動、であることが好ましい。こうした相対移動の要素を調整することにより、種々の硬さの被研磨体1の表面を効果的に研磨することができる。なお、回転は回転装置34で行われ、各磁石21の振動又は揺動は振動・揺動装置で行われる。回転装置34は特に限定されないが、図1~図3に示すように、被研磨体1を装着した被研磨体装着部31を回転させる装置であることが好ましいが、各磁石21を回転させる装置であってもよい。また、振動・揺動は、回転と併用して行ってもよいし、いずれか一方で行ってもよい。

【0041】
図3の実験例における相対移動機構33では、棒状工作物(被研磨体1)を装着した被研磨体装着部31を回転させ、各磁石21を固定し、被研磨体1と各磁石21とを相対移動させて研磨している。さらに、棒状工作物の軸方向に各磁石21が揺動するように、カムを用いた揺動機構33aを設けている。また、棒状工作物の研磨位置を移動できる移動機構33bを設けている。こうした相対移動機構33を備えた磁気研磨装置30において、空気圧による加圧装置32で磁石21が被研磨体1に向けて加圧されている。

【0042】
以上、本発明によれば、棒状工作物等の被研磨体1を対象として、高効率・高精度に表面仕上げすることができる。被研磨体1を挟むように対向する位置にN極磁石21NとS極磁石21Sとを配置し、それぞれの磁石21の表面に磁性研磨剤2を磁気吸着させ、さらにN極磁石21NとS極磁石21Sを被研磨体1に向けて圧力Fを加えた状態で加工する。こうして、被研磨体1の表面を高効率・高精度で研磨することができる。特にアルミナやジルコニア等の硬いセラミックス材料からなる被研磨体1であっても、超精密加工を実現することができる。この技術は、宇宙関連産業分野、医療分野、半導体産業分野、自動車産業分野等の広い技術分野での応用が期待できる。
【実施例】
【0043】
実験例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明の範囲は以下の実験例に限定されるものではない。
【実施例】
【0044】
[実験1]
図1及び図3に示した磁気研磨装置30を用いた。この磁気研磨装置30は、被研磨体1を回転させるとともに、磁石31を揺動させる揺動機構33aと、研磨位置を移動する移動機構33bとを備えた装置である。被研磨体1は、直径10mmで長さ50mmのアルミナセラミックス棒であり、N極磁石21NとS極磁石21Sの2個のネオジウム永久磁石(縦18mm、横12mm、厚さ10mm)を、アルミナセラミックス棒を挟むように180°対向させて配置した。N極磁石21NとS極磁石21Sのそれぞれの先端には、磁性研磨剤2を磁気吸着させた。アルミナセラミックス棒を管状部材(装着補助部材31a)に固定し、その管状部材を旋盤チャック(被研磨体装着部31)に固定して、毎分1600の回転数で回転させ、さらにN極磁石21NとS極磁石21Sをカム(揺動機構33a)で揺動させことにより、アルミナセラミックス棒の表面と磁性研磨剤2との間の相対運動により被研磨体1の表面を研磨加工した。実験条件は以下の通りである。
【実施例】
【0045】
(研磨加工条件)
被研磨体:アルミナセラミックス棒(直径10mm、長さ50mm)
磁石:Fe-Nd-B系希土類磁石
磁石振動:振幅10mm、振動数1.3Hz
磁石回転数:1600rpm
研磨時間:5分間、10分間
磁性研磨剤:磁性粒子(平均粒径330μmの電解鉄粉、東邦亜鉛株式会社)、研磨粒子(粒径範囲が0~1.5μmのダイヤモンド粒子、Microdiamant社製)、スラリー媒体(カストロール社製、商品名:ホナイロ998、塩素フリー)
磁性研磨剤の組成:電解鉄粉8g、ダイヤモンド粒子0.2g、スラリー媒体3mL
空気供給圧力:0~0.35MPa(これは、圧力制御機械で測定された値である)
【実施例】
【0046】
[測定及び結果]
(被研磨体表面に加わる圧力)
図4は、磁石21に与える空気圧(0~0.35MPa)と、磁石21の研磨圧力との関係を示すグラフである。図4中の「a」は、図1に示すように、被研磨体1と磁石21との間に磁性研磨剤2を介した状態で空気圧で加圧したときに、被研磨体表面に加わる圧力である。図4中の「b」は、被研磨体1と磁石21との間に磁性研磨剤2を介さない状態で空気圧で加圧したときに、被研磨体表面に加わる圧力である。図4中の「c」は、被研磨体1の表面に空気圧で加圧しただけの場合に、被研磨体表面に加わる圧力(kPa)である。なお、被研磨体表面に加わる圧力は、被研磨体1に対向する磁石面の面積が0.000216mmであり、その表面積を踏まえて引張試験用ゲージ(株式会社大場計器製作所製)を用いて測定し、計算した値である。
【実施例】
【0047】
図4の結果に示すように、空気圧だけの場合(c)に比べて、磁石21が対向配置されることにより(b)、被研磨体1の表面への圧力Fは約100kPa前後高くなった。これは、対向する磁石同士が引き合っているためである。さらに、磁性研磨剤2が被研磨体1と各磁石21との間に介することにより(a)、被研磨体1の表面への圧力Fはさらに30kPa前後高くなった。これは、磁性研磨剤2に含まれる磁性粒子が磁石21によって磁化され、各磁石21で磁化された磁性粒子同士が引き合っているためであろう。こうした結果より、本発明によれば、被研磨体1の表面への圧力Fは、空気圧、磁石及び磁性研磨剤により効果的に高めることができていることがわかった。
【実施例】
【0048】
(表面粗さ)図5は、空気供給圧力を0.25MPaとした場合における研磨前(A)、5分研磨後(B)、10分研磨後(C)の表面粗さ結果である。上段は、接触式の表面粗さ測定結果であり、下段は、非接触式の表面粗さ測定結果である。表面粗さは、所定の時間が経過したとき回転を止め、被研磨体をエタノールで5分間超音波洗浄し、表面粗さRaを測定した。併せて、研磨前後の被研磨体1の重さを秤量して研磨量を測定した。接触式の表面粗さ測定は、触針式粗さ測定機(株式会社ミツトヨ、型番:SV-624-3D)を用い、JIS B 0601(2001)に基づいた方法で測定し、得られた算術平均粗さの値を表面粗さRaとして表した。非接触式の表面粗さ測定は、非接触表面形状粗さ測定装置(ZYGO社製、型番:Zygo,NewView7300)を用い、表面粗さと3次元形状画像を得た。なお、いずれの方式の場合も、被研磨体の表面を円周方向に120°間隔で3箇所測定し、その平均値を採用した。
【実施例】
【0049】
図5中にも記載したように、接触式と非接触式とで表面粗さRaの値は若干異なるものの、研磨前の被研磨体の表面粗さに対し、5分間研磨した後や10分間研磨した後の表面粗さは極めて小さくなっており、研磨により極めて平滑な鏡面研磨を実現できた。また、下段の3次元形状画像からわかるように、磁気研磨後の表面は、滑らかなナノレベルの平滑面になってことがわかった。なお、空気供給圧力を0.05MPa、0.15MPaでも同様の試験を行ったが、図5の0.25MPaと同様の傾向であった。
【実施例】
【0050】
図6は、空気供給圧力を3段階(0.05MPa、0.15MPa、0.25MPa)で変えた場合において、表面粗さと研磨量に及ぼす研磨時間の影響をまとめたグラフである。研磨時間は、0、5分間、10分間で行った。5分間研磨することにより、いずれの空気供給圧力においても表面粗さは著しく小さくなった。この表面粗さの改善効果は、研磨時間に比例している研磨量に比べて顕著であった。また、ここでの実験の範囲では、空気供給圧力は0.15MPaと0.25MPaとは同程度の表面粗さの改善効果を示していた。
【実施例】
【0051】
[実験2]
被研磨体1と各磁石21との間隔を変えた場合において、表面粗さと研磨量に及ぼす研磨時間の影響について検討した。その結果を図7にまとめた。間隔は1mmと2mmとし、空気供給圧力は0.15MPaとし、それ以外は実験1と同様にした。図7の結果より、研磨量は間隔が1mmの方が大きい値を示していた。表面粗さは、0.15MPaでは間隔が1mmの方が大きい値を示したが、0.25MPaでは同程度であった。
【実施例】
【0052】
[実験3]
磁性粒子の量を変えた場合において、表面粗さと研磨量に及ぼす研磨時間の影響について検討した。その結果を図8にまとめた。磁性粒子の量は4gと8gとし、空気供給圧力は0.15MPaとし、それ以外は実験1と同様にした。図8の結果より、磁性粒子の量によっては傾向が見られなかった。
【実施例】
【0053】
[実験4]
研磨時間を変えた場合において、表面粗さと研磨量に及ぼす研磨時間の影響について検討した。表面粗さの結果を図9(A)に示し、研磨量の結果を図9(B)に示した。研磨時間は、10~50秒とし、空気供給圧力は0.15MPaとし、それ以外は実験1と同様にした。図9の結果より、研磨量は間隔が1mmの方が大きい値を示していた。表面粗さは、0.15MPaでは間隔が1mmの方が大きい値を示したが、0.25MPaでは同程度であった。時間が長くなるほど表面粗さが小さくなり、研磨量が増しているのがわかる。
【実施例】
【0054】
[実験5]
磁石21の先端形状の違いによる被研磨体1の表面圧力について実験した。その結果を図10にまとめた。aは、実験1で用いた磁石先端が平坦な磁石(図1参照)の場合(縦18mm、横12mm)であり、bは、磁石先端の一部を凸部にした場合(縦10mm、横12mm)である。図10に示すように、磁石先端の一部を凸部にした場合の方が、空気供給圧力が単位面積当たりに集中するので、高い圧力を示した。
【実施例】
【0055】
以上の実験1~5より、硬い材料からなる被研磨体を研磨する場合であっても、高効率で高精度の研磨加工を実現できる磁気研磨方法及び磁気研磨装置を提供することができた。具体的には、被研磨体1を挟んだ位置に配置されたN極磁石21NとS極磁石21Sとを、被研磨体1に向けて加圧しながら各磁石21と被研磨体1とを相対移動させるので、被研磨体1の表面を高効率・高精度で研磨することができた。
【符号の説明】
【0056】
1 被研磨体
2 磁性研磨剤
21 磁石
21N N極磁石
21S S極磁石
30 磁気研磨装置
31 被研磨体装着部
31a 装着補助部材
32 加圧装置
33 相対移動機構
33a 揺動機構
33b 移動機構
34 回転装置
F 圧力
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2
【図4】
3
【図5】
4
【図6】
5
【図7】
6
【図8】
7
【図9】
8
【図10】
9