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明細書 :プロテアーゼの切断性評価

発行国 日本国特許庁(JP)
公報種別 公開特許公報(A)
公開番号 特開2019-024458 (P2019-024458A)
公開日 平成31年2月21日(2019.2.21)
発明の名称または考案の名称 プロテアーゼの切断性評価
国際特許分類 C12Q   1/37        (2006.01)
G01N  21/78        (2006.01)
A23L  33/19        (2016.01)
FI C12Q 1/37 ZNA
G01N 21/78 C
A23L 33/19
請求項の数または発明の数 9
出願形態 OL
全頁数 14
出願番号 特願2017-150361 (P2017-150361)
出願日 平成29年8月3日(2017.8.3)
発明者または考案者 【氏名】本多 裕之
【氏名】加藤 竜司
【氏名】清水 一憲
出願人 【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
個別代理人の代理人 【識別番号】100114362、【弁理士】、【氏名又は名称】萩野 幹治
審査請求 未請求
テーマコード 2G054
4B018
4B063
Fターム 2G054AA04
2G054AB03
2G054BA10
2G054BB08
2G054CA23
2G054CD01
2G054CD03
2G054CD04
2G054CE02
2G054EA03
2G054EB03
2G054FA36
2G054FA50
2G054FB03
2G054FB07
2G054GA04
2G054GB02
2G054JA01
2G054JA11
4B018MD21
4B018MD22
4B018MD71
4B018ME02
4B018MF12
4B063QA05
4B063QQ36
4B063QQ79
4B063QR16
4B063QR48
4B063QS02
4B063QS39
4B063QX02
要約 【課題】高精度且つ迅速にプロテーゼの切断性を評価することを課題とする。
【解決手段】(1)標的タンパク質を構成するペプチドが、N末端からC末端に向かって1アミノ酸残基ずつC末端側にずれるように一定のアミノ酸残基数で且つ蛍光標識された状態でメンブレン上に固相化されたペプチドアレイを用意するステップ、(2)前記ペプチドアレイの各スポットの蛍光強度を測定するステップ、(3)前記ペプチドアレイに供試プロテアーゼを反応させるステップ、(4)酵素反応後の前記ペプチドアレイの各スポットの蛍光強度を測定するステップ、(5)各スポットの酵素反応前後の蛍光強度変化に基づき、酵素反応によって蛍光強度が低下したスポットを特定し、供試プロテアーゼによる切断性を評価するステップ、を行い、標的タンパク質に対するプロテアーゼの切断性を評価する。
【選択図】図1
特許請求の範囲 【請求項1】
以下のステップ(1)~(5)を含む、標的タンパク質に対するプロテアーゼの切断性を評価する方法:
(1)標的タンパク質を構成するペプチドが、N末端からC末端に向かって1アミノ酸残基ずつC末端側にずれるように一定のアミノ酸残基数で且つ蛍光標識された状態でメンブレン上に固相化されたペプチドアレイを用意するステップ;
(2)前記ペプチドアレイの各スポットの蛍光強度を測定するステップ;
(3)前記ペプチドアレイに供試プロテアーゼを反応させるステップ;
(4)酵素反応後の前記ペプチドアレイの各スポットの蛍光強度を測定するステップ;
(5)各スポットの酵素反応前後の蛍光強度変化に基づき、供試プロテアーゼによる切断性を評価するステップ。
【請求項2】
ステップ(5)において、以下の計算式によって各スポットの切断率又はZスコアを算出し、算出結果を切断性の評価に用いる、請求項1に記載の評価方法。
【数1】
JP2019024458A_000010t.gif
【数2】
JP2019024458A_000011t.gif

【請求項3】
以下の規則に従って、n-x+1個のスポットが前記ペプチドアレイに形成されている、請求項1又は2に記載の評価方法:
前記標的タンパク質を構成するアミノ酸残基に、N末端からC末端に向かって昇順で1から番号を付け、第1スポットに1番目のアミノ酸残基~x番目のアミノ酸残基からなるペプチドを固相化し、第2スポットに2番目のアミノ酸残基~x+1番目のアミノ酸残基からなるペプチドを固相化し、・・・・第n-x番目のスポットにn-x番目~n-1番目のアミノ酸残基からなるペプチドを固相化し、第n-x+1番目のスポットにn-x+1番目~n番目のアミノ酸残基からなるペプチドを固相化する(但し、xは、各スポットに固相化するペプチドのアミノ酸残基数であり、2≦x≦10の条件を満たし、nは標的タンパク質のアミノ酸残基数である)。
【請求項4】
3≦x≦6である、請求項3に記載の評価方法。
【請求項5】
前記供試プロテアーゼとして二種類以上のプロテアーゼが併用される、請求項1~4のいずれか一項に記載の評価方法。
【請求項6】
前記標的タンパク質が食品タンパク質である、請求項1~5のいずれか一項に記載の評価方法。
【請求項7】
ステップ(4)において、各スポットの蛍光強度を経時的に測定し、各スポットの蛍光強度の経時変化に基づきステップ(5)の評価を行う、請求項1~6のいずれか一項に記載の評価方法。
【請求項8】
ステップ(3)の反応を二種類以上の条件で行い、
ステップ(4)では、各スポットの蛍光強度を条件毎に測定し、
ステップ(5)では、各スポットの酵素反応前後の蛍光強度変化を条件毎に特定し、供試プロテアーゼによる切断性を評価する、請求項1~7のいずれか一項に記載の評価方法。
【請求項9】
以下のステップを含む、標的タンパク質に対する酵素反応で生成するペプチドを推定する方法:
請求項1~8のいずれか一項に記載の評価方法で決定した切断箇所で前記標的タンパク質を切断して得られる断片ペプチドを、酵素反応で生成するペプチドであると推定するステップ。
発明の詳細な説明 【技術分野】
【0001】
本発明はプロテアーゼ(タンパク質分解酵素)の切断性を評価する方法及びその応用に関する。
【背景技術】
【0002】
ペプチドとはアミノ酸が約2~50個つながってできたものである。食品として口から摂取したタンパク質は、体内の消化酵素によって分解されペプチドとなり、さらに分解されてアミノ酸となって、体内の組織や骨を形成する栄養素として吸収される。一方、栄養素となるのではなく、何らかの生理活性作用を持つペプチドが存在し、このようなペプチドを機能性ペプチドと呼ぶ。機能性ペプチドには血圧調整作用や抗菌作用を持つものが存在し、医薬品や食品、化粧品など幅広い分野で利用されている。
【0003】
食品へ機能性ペプチドを利用する場合、例えば、食品タンパク質に酵素(プロテアーゼ)を作用させ特定の機能性ペプチドが作られる。そして、得られた機能性ペプチドを含んだ複数のペプチド断片を食品へ添加する形で利用している。この際、目的の機能性ペプチドを得るために、どのプロテアーゼを選択するべきかが大きな問題となる。最適なプロテアーゼを選択しなければ、目的のペプチドができないからである。従来技術として、プロテアーゼがタンパク質のどの部分を切断するかを同定する、LC-MSやMALDI-TOF MASを用いた検出法がある(例えば非特許文献1、非特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【0004】

【非特許文献1】Vishwanatha, K.S., et al.: Characterization of acid protease expressed from Aspergillus oryzae MTCC 5341, Food Chemistry 114 (2009) 402-407
【非特許文献2】Janek, K., et al.: Dataset of cocoa aspartic protease cleavage sites, Data in Brief 8 (2016) 700-708
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上掲の従来技術は精度が十分でない上に、所要時間が長く(試料の調製から解析までに1週間ほど必要)、目的の機能性ペプチドの作製に最適なプロテアーゼを選択するまでに長時間を要する。そこで本発明は、高精度且つ迅速にプロテーゼの切断性を評価可能な、新たな評価系及びその用途を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべく検討を進める中で本発明者らは、ペプチドアレイの有用性に着眼するとともに、固相化するペプチドの配列に独自の工夫を加えた。その結果、プロテーゼによるタンパク質の切断箇所を高精度で、しかも簡便且つ迅速に同定することを可能にする、新たな評価方法の創出に成功した。以下の発明は当該成果に基づく。
[1]以下のステップ(1)~(5)を含む、標的タンパク質に対するプロテアーゼの切断性を評価する方法:
(1)標的タンパク質を構成するペプチドが、N末端からC末端に向かって1アミノ酸残基ずつC末端側にずれるように一定のアミノ酸残基数で且つ蛍光標識された状態でメンブレン上に固相化されたペプチドアレイを用意するステップ;
(2)前記ペプチドアレイの各スポットの蛍光強度を測定するステップ;
(3)前記ペプチドアレイに供試プロテアーゼを反応させるステップ;
(4)酵素反応後の前記ペプチドアレイの各スポットの蛍光強度を測定するステップ;
(5)各スポットの酵素反応前後の蛍光強度変化に基づき、供試プロテアーゼによる切断性を評価するステップ。
[2]ステップ(5)において、以下の計算式によって各スポットの切断率又はZスコアを算出し、算出結果を切断性の評価に用いる、[1]に記載の評価方法。
【数1】
JP2019024458A_000003t.gif
【数2】
JP2019024458A_000004t.gif
[3]以下の規則に従って、n-x+1個のスポットが前記ペプチドアレイに形成されている、[1]又は[2]に記載の評価方法:
前記標的タンパク質を構成するアミノ酸残基に、N末端からC末端に向かって昇順で1から番号を付け、第1スポットに1番目のアミノ酸残基~x番目のアミノ酸残基からなるペプチドを固相化し、第2スポットに2番目のアミノ酸残基~x+1番目のアミノ酸残基からなるペプチドを固相化し、・・・・第n-x番目のスポットにn-x番目~n-1番目のアミノ酸残基からなるペプチドを固相化し、第n-x+1番目のスポットにn-x+1番目~n番目のアミノ酸残基からなるペプチドを固相化する(但し、xは、各スポットに固相化するペプチドのアミノ酸残基数であり、2≦x≦10の条件を満たし、nは標的タンパク質のアミノ酸残基数である)。
[4]3≦x≦6である、[3]に記載の評価方法。
[5]前記供試プロテアーゼとして二種類以上のプロテアーゼが併用される、[1]~[4]のいずれか一項に記載の評価方法。
[6]前記標的タンパク質が食品タンパク質である、[1]~[5]のいずれか一項に記載の評価方法。
[7]ステップ(4)において、各スポットの蛍光強度を経時的に測定し、各スポットの蛍光強度の経時変化に基づきステップ(5)の評価を行う、[1]~[6]のいずれか一項に記載の評価方法。
[8]ステップ(3)の反応を二種類以上の条件で行い、
ステップ(4)では、各スポットの蛍光強度を条件毎に測定し、
ステップ(5)では、各スポットの酵素反応前後の蛍光強度変化を条件毎に特定し、供試プロテアーゼによる切断性を評価する、[1]~[7]のいずれか一項に記載の評価方法。
[9]以下のステップを含む、標的タンパク質に対する酵素反応で生成するペプチドを推定する方法:
[1]~[8]のいずれか一項に記載の評価方法で決定した切断箇所で前記標的タンパク質を切断して得られる断片ペプチドを、酵素反応で生成するペプチドであると推定するステップ。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の評価方法の概要(適用例)。
【図2】ペプチドアレイの作製方法の一例。
【図3】ペプチドアレイの各スポットの蛍光強度から算出したZスコア。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は特定の標的タンパク質に対するプロテアーゼの切断性を評価する方法(以下、「本発明の評価方法」とも呼ぶ)に関する。用語「標的タンパク質」とは、プロテアーゼを作用させる対象のタンパク質である。標的タンパク質は特に限定されず、様々なタンパク質が標的タンパク質として採用される。標的タンパク質の具体例は、食品タンパク質(食品又はその材料に含まれるタンパク質)である。食品タンパク質の例は、食肉等に含まれるミオシン、アクチン、ミオゲン、ミオアルブミン、ミオグロビン、ヘモグロビン、コラーゲン、エラスチン、牛乳中のカゼイン、ホエイタンパク、卵に含まれるオボアルブミン、オボトランスフェリン、しょうゆや納豆などの大豆加工食品中に含まれるグリシニン、β—コングリシニン、小麦加工食品中に含まれるグルテンなどである。

【0009】
典型的には全長タンパク質を標的タンパク質として用いるが、特定の部分(部分タンパク質)を標的タンパク質にすることもできる。標的タンパク質となり得る部分タンパク質の例として、タンパク質を構成する一又は複数のドメインを含む領域、タンパク質中に認められる疎水領域又はそれを含む領域、特定のプロテアーゼを作用させた場合に生成する断片を挙げることができる。

【0010】
用語「プロテアーゼ」は広義に解釈され、タンパク質又はその部分分解物(即ちペプチド)に対して分解活性を示す酵素を意味する。従って、用語「プロテアーゼ」はプロテイナーゼ、エキソペプチダーゼ、エンドペプチダーゼを包含する。

【0011】
用語「切断性」は、標的タンパク質に対するプロテアーゼの作用ないし特性を表す。切断性の主要な要素は、切断箇所、切れやすさ(切断箇所の感受性/抵抗性)である。「切断性」を評価する本発明によれば、切断箇所を同定することが可能である。また、切断箇所の同定と併せて、又はそれに代えて、切断箇所の切れやすさ(感受性/抵抗性)の評価等を行うことも可能である。

【0012】
本発明はペプチドアレイを活用するとともに、固相化するペプチドの配列(特に規則性)に独自の工夫を加えることにより、簡便な操作にも関わらず、高精度且つ迅速なプロテアーゼの切断性評価(特に切断箇所の特定)を可能にする。その目的を達成するため、本発明の評価方法は以下のステップを行う。
(1)標的タンパク質を構成するペプチドが、N末端からC末端に向かって1アミノ酸残基ずつC末端側にずれるように一定のアミノ酸残基数で且つ蛍光標識された状態でメンブレン上に固相化されたペプチドアレイを用意するステップ
(2)前記ペプチドアレイの各スポットの蛍光強度を測定するステップ
(3)前記ペプチドアレイに供試プロテアーゼを反応させるステップ
(4)酵素反応後の前記ペプチドアレイの各スポットの蛍光強度を測定するステップ
(5)各スポットの酵素反応前後の蛍光強度変化に基づき、供試プロテアーゼによる切断性を評価するステップ

【0013】
ステップ(1)では所定の規則に従って作製したペプチドアレイを用意する。「ペプチドアレイ」とは、基板上にペプチドをアレイ状に固相化したものをいう。基板の材質は特に限定されない。材質の例はセルロース、ガラス(無機ガラス、有機ガラス)、ポリエチレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリメチルメタクリレート系樹脂、セルロースアセテート系樹脂である。ペプチドアレイには、そこに固相化されたペプチド(以下、固相化されたペプチドを省略して「固相化ペプチド」と呼ぶことがある)の配列が異なる、多数のスポットが形成される。通常、スポットは一定の間隔で規則的に整列している。スポットのサイズは例えば、1.5 mm~8 mmの範囲内で設定することができる。スポットの間隔は例えば、3.5 mm~ 9.2 mmの範囲内で設定することができる。各スポットのペプチドの密度は例えば35 nmol/cm2~70 nm/cm2である。

【0014】
本発明では、標的タンパク質を構成するペプチドが、N末端からC末端に向かって1アミノ酸残基ずつC末端側にずれるように一定のアミノ酸残基数で且つ蛍光標識された状態でメンブレン上に固相化される(図1を参照)。例えば、図1に示すように、標的タンパク質(図1の例ではαS2カゼイン)を構成するペプチド(207mer)を3残基ずつ、1残基シフトで固相化する。基本的には、解析を容易にするため、隣のスポット(即ち、次のスポット)に1残基シフトしたペプチドが固相化されるように、順序よくスポットを形成する(図1を参照)。但し、スポットの順番や位置は任意に設定できるものであり、この例に限定されない。

【0015】
ペプチドの固相化方法は特に限定されない。例えば、図2に示すように、Fmoc固相合成反応(Kaga, C. et al., BioTechniques, Vol. 44, No. 3, March 2008, pp. 393-402が参考になる)によって、所定のペプチドを基板上の対応する位置にスポット合成する。ペプチド合成後、ペプチドを蛍光標識する。例えば、Fmoc固相合成法によってN末端側に蛍光分子を連結する。蛍光標識には、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ピレン、HyLite、Alexa等の各種蛍光分子を利用できる。

【0016】
より具体的には、以下の規則に従って、特定の数、即ち、n-x+1個のスポットを形成したペプチドアレイを用意すればよい。ここでの「x」は、各スポットの固相化ペプチドのアミノ酸残基数であり、2≦x≦10の条件を満たす。また、「n」は標的タンパク質のアミノ酸残基数である。

【0017】
まず、標的タンパク質を構成するアミノ酸残基に、N末端からC末端に向かって昇順で1から番号を付ける。第1スポットに1番目のアミノ酸残基~x番目のアミノ酸残基からなるペプチドを固相化し、第2スポットに2番目のアミノ酸残基~x+1番目のアミノ酸残基からなるペプチドを固相化する。このように、固相化ペプチドが1アミノ酸残基ずつずれるように、最後のスポット、即ち、第n-x+1番目のスポット(n-x+1番目~n番目のアミノ酸残基からなるペプチドが固相化されることになる)まで形成する(1つ前の第n-x番目のスポットにはn-x番目~n-1番目のアミノ酸残基からなるペプチドが固相化される)。

【0018】
以上のようにして用意したペプチドアレイは、酵素反応前に蛍光強度測定に供される(ステップ(2))。蛍光強度の測定には各種蛍光測定装置を利用できる。市販の蛍光測定装置の例を挙げると、GEヘルスケア バイオサイエンス社のTyphoonシリーズ、シャープマニファクチャリングシステム株式会社の蛍光イメージャBM-A100LDである。測定結果は専用又は汎用のソフトウェア(例えばGEヘルスケア バイオサイエンス社のImageQuantTM TL、シャープマニファクチャリングシステム株式会社のBM-F100SP)等を利用して数値化することができる。

【0019】
次に、ステップ(1)で用意したペプチドアレイに供試プロテアーゼを反応させる(ステップ(3))。即ち、ペプチドアレイに対して、特定のプロテアーゼをそれが作用可能な条件の下で接触させる。各種プロテーゼを供試プロテアーゼとして採用できる。上記の通り、プロテーゼは広義に解釈される。供与プロテアーゼは様々な生物種由来のものを使用することができる。生物種の例は、細菌、放線菌、カビ、酵母、植物、動物などである。供試プロテーゼの具体例として、トリプシン、キモトリプシン、パパイン、ブロメライン、ペプシン、サーモリシン、フィカイン、サブチリシン等を挙げることができる。供試プロテアーゼとして二種類以上のプロテアーゼを併用してもよい。二種類以上のプロテアーゼを併用すれば、プロテアーゼを複合的に反応させた場合の切断性を評価することができる。例えば、単独では切断活性を示す一方で、別のプロテアーゼが併存すると切断活性が低下ないし失われることや、二種類のプロテアーゼが複合的に作用することで初めて切断されることなども想定され、このような反応系の切断性評価に当該態様は有用である。一方、供試プロテアーゼとともに、プロテアーゼ以外の酵素を反応させることにしてもよい。この態様によれば、プロテアーゼではない別の酵素が共存する反応系での供試プロテアーゼの切断性を評価することができる。別の酵素の例はアミラーゼ、グルコシダーゼ、リパーゼ、グルタミナーゼ、セルラーゼである。別の酵素として二種類以上の酵素を併用してもよい。

【0020】
「作用可能な条件」とは、供試プロテアーゼの酵素活性が発揮される反応条件であり、例えば、供試プロテアーゼの至適条件又はそれに準じた条件を採用することができる。供試プロテアーゼが作用可能である限りにおいて反応条件は限定されるものではなく、様々な反応条件を採用し得る。本発明がもたらす情報(即ち評価結果)の用途における反応条件を考慮してこのステップでの反応条件を設定するとよい。例えば、特定の食品タンパク質に特定のプロテアーゼを作用させて機能性ペプチドを作製する際の反応条件を再現する。二種類以上のプロテアーゼを供試プロテアーゼとしてもよく(即ち、複数種類のプロテアーゼの併用)、この場合には、全ての供試プロテアーゼの活性が良好に発揮される反応条件を選択することが望まれる。

【0021】
一態様では、酵素反応を二種類以上の条件で行う。この態様の場合、次のステップ(4)では、各スポットの蛍光強度を条件毎に測定する。そして、ステップ(5)では、各スポットの酵素反応前後の蛍光強度変化を条件毎に特定し(典型的には、蛍光強度が低下したスポットを条件毎に特定する)、供試プロテアーゼによる切断性を評価する。この態様によれば複数の反応条件(例えば、pH、温度、酵素量、及び/又は反応系に添加する成分等が相違する)について切断性が評価され、反応条件と切断性の関係について詳細な情報が得られる。その結果、例えば、切断率を高める反応条件の特定や所望の切断パターン(例えば、特定の切断箇所でのみ切断される)で切断するための反応条件の特定が可能となる。

【0022】
ステップ(4)は酵素反応後の測定であり、ステップ(3)を経たペプチドアレイの各スポットの蛍光強度を測定する。測定方法等はステップ(2)と同様であり、その説明を省略する。

【0023】
一態様では、ステップ(4)において各スポットの蛍光強度を経時的に測定する。この態様の場合、次のステップ(5)では、各スポットの蛍光強度の経時変化も考慮して、ステップ(5)での評価を行う。この態様によれば、反応時間と切断性の関係についての詳細な情報が得られる。その結果、例えば、所望の切断率を得るために必要な反応時間の特定や所望の切断パターンで切断するための反応時間の特定が可能となる。また、当該態様は、切断メカニズムの解析に有用な情報も提供し得る。

【0024】
ステップ(4)に続くステップ(5)では、各スポットの酵素反応前後の蛍光強度変化に基づき、供試プロテアーゼによる切断性を評価する。典型的には、ステップ(2)及びステップ(4)の測定結果を用い、酵素反応によって蛍光強度が低下したスポットを特定する。酵素反応によって切断されたペプチド(即ち、切断箇所を含むペプチド)が固相化されたスポットでは、酵素反応後にその蛍光強度が低下する。従って、酵素反応前後の蛍光強度値を比較することにより、切断されたペプチドが固相化されたスポットを特定することができる。1アミノ酸残基ずつC末端側にずれるようにペプチドを固相化(スポット形成)していることから、切断箇所が存在する場合、固相化ペプチドのアミノ酸残基数(x)と、蛍光強度が低下するスポットの数は一定の相関を示す。具体的には、固相化ペプチドのアミノ酸残基数がxの場合、x-1個の連続するスポットで蛍光の低下が認められることになる。蛍光強度が低下したスポットでは、固相化ペプチドの配列に連続性(1アミノ酸残基ずつc末端側にずれている)が認められる。従って、蛍光強度が低下したスポットを検出・特定すれば、供試プロテアーゼによる切断箇所を容易に且つ高い精度で同定できる。尚、説明の便宜上、固相化ペプチドの配列に連続性(1アミノ酸残基ずつc末端側にずれてい)を認める複数のスポットを、「連続するスポット」と呼ぶ。

【0025】
より具体的に説明すれば、例えば、固相化ペプチドのアミノ酸残基数が3の場合、切断箇所があれば、連続する2個のスポットで蛍光の低下が認められることになり、両方のスポットに共通する、アミノ酸の連結部が切断箇所として同定される。蛍光の低下が認められるスポットが3個連続していれば、前2個のスポットに共通する、アミノ酸の連結部と、後2個のスポットに共通する、アミノ酸の連結部の2箇所が切断箇所となる。固相化ペプチドのアミノ酸残基数が4の場合においては、切断箇所があると、連続する3個のスポットで蛍光の低下が認められ、同様に、固相化ペプチドのアミノ酸残基数が5の場合であれば、切断箇所があると、連続する4個のスポットで蛍光の低下が認められることになる。

【0026】
固相化ペプチドのアミノ酸残基数(x)は、ペプチドアレイに形成すべきスポットの数を規定するとともに、切断箇所の特定の効率性や精度/確度などに影響する。この点を考慮すれば、好ましくは3≦x≦6であり、更に好ましくは3≦x≦5であり、より一層好ましくはx=3又は4、である。上記の通り、x=3、即ち、固相化ペプチドのアミノ酸残基数を3にすれば、蛍光の低下を認める2個のスポットをみれば切断箇所を特定できる。同様に、X=4の場合、蛍光の低下を認める3個のスポットをみれば切断箇所を特定できることになる。

【0027】
ところで、ペプチドアレイでは1つのスポットに同一配列のペプチドが所定の密度で固相化される。切れやすいペプチドが固相化されたスポットでは、切断に伴い蛍光標識が脱離するペプチドの数が多く、蛍光強度が顕著に低下する。一方、切断されにくい(言い換えれば、ある程度は切断される)ペプチドが固相化されたスポットでは、蛍光標識が脱離するペプチドの数が少なく、蛍光強度の低下は小さい。このように、各スポットの蛍光強度の変化は、そこに固相化されたペプチドの切れやすさを反映し、定量的な指標となる。即ち、蛍光強度の低下率は固相化ペプチドの切断率(切れやすさ)に対応する。この特徴を利用し、本発明の好ましい一態様では、以下の計算式によって各スポットの切断率又はZスコアを算出し、算出結果を切断性の評価に用いる。この態様によれば、切断箇所の決定に加え、各切断箇所の切れやすさの一層正確な評価が可能になる。
【数1】
JP2019024458A_000005t.gif
【数2】
JP2019024458A_000006t.gif

【0028】
切断率の計算式における、「酵素反応前の蛍光強度値」はステップ(2)の測定によって得られる。同様に、「酵素反応後の蛍光強度値」はステップ(4)の測定によって得られる。また、Zスコアの「切断率の平均値」及び「切断率の標準偏差」は、全スポットの蛍光強度値から算出される。

【0029】
本発明の評価方法によれば、標的タンパク質の切断箇所が決定されることから、当該切断箇所で標的タンパク質を切断して得られる断片ペプチドを、供試プロテアーゼによる酵素反応で生成するペプチドであると推定することができる。また、複数の切断箇所が決定された場合には、生成するペプチドの種類、比率などの推定も可能となる。このように本発明は、標的タンパク質に対して特定のプロテアーゼを反応させた場合に生成するペプチチドを推定するための手段として有用である。本発明を利用すれば、例えば、所望の機能性ペプチドを製造するために最適ないし適したプロテアーゼの選択が可能となる。尚、「機能性ペプチド」とは生理活性作用(例えば血圧調整、抗菌、中性脂肪調節、カルシウム吸収補助、虫歯予防)を持つペプチドの総称であり、医薬品、食品、化粧品などの有効成分又は配合成分として利用される。
【実施例】
【0030】
プロテアーゼによるタンパク質の切断箇所を簡便且つ短時間で同定する新たな検出法の開発を目指し、ペプチドアレイを利用して以下の検討を行った。
1.方法
(1)活性化メンブレンの作製
セルロースろ紙(Whatman, England)FILTER PAPER 542 HARDENED ASHLESS 24.0 cm(以下メンブレン)20枚を10 cm×14 cmの大きさに裁断した後、ポリプロピレン製の容器に入れ、DMF(N,N-dimethylformamide)(A00185、渡辺化学工業株式会社、広島)150 mlで1日振とうさせた。次に、Fmoc-β-Ala-OH(K00410、渡辺化学工業株式会社)、1-Methylimidazole,redistilled,99+%(336092-100ML、SIGMA-ALDRICH、USA)、DIPCI(N,N’-Diisopropylcarbodiimide)(A00011、渡辺化学工業株式会社)を用い、β-アラニン溶液(32 ml 0.5 M β-Ala、1.2 ml 1-Methylimidazole、2 ml DIPCI in DMF 200 ml)を作製した。この溶液に20枚のメンブレンを浸し、2日間振とうさせることでセルロースメンブレンのOH基とβ-アラニンのCOOH基がエステル結合した活性化メンブレンを作製した。1-MethylimidazoleとDIPCIは1日で活性が落ちてしまう恐れがあるため、振とう1日後に1.2 ml 1-Methylimidazole、2 ml DIPCIをさらに加えた。
【実施例】
【0031】
その後、未反応β-アラニンを除去するためにDMFで活性化メンブレンの洗浄を5分×3回、メタノール(139-01827、和光純薬株式会社、大阪)での洗浄を5分×3回行った。そして、自然乾燥させ、真空パックに入れて4℃にて保存した。
【実施例】
【0032】
(2)ペプチドアレイの作製
前述の手法によって作製した活性化メンブレン上で、ペプチド合成において最も頻繁に用いられるFmoc固相合成反応を行い、ペプチドアレイを作製した。材料となるアミノ酸は0.5 M Fmoc-アミノ酸(使用したアミノ酸を表1に示す。アミノ酸は全て渡辺化学工業株式会社)溶液(in NMP(N-メチル-2-ピロリドン)(133-15115、和光純薬株式会社))にDIPCI(N,N’-Diisopropylcarbodiimide、渡辺化学工業株式会社)、1-hydrozybenzotriazole(HOBt、Anhydrous)(A00015、渡辺化学工業株式会社)を混合し、終濃度がそれぞれ1: 2 : 2となるように混合したものを用いた。活性化アミノ酸をpeptide synthesizer(ASP222、IntavisAG、Koln、Germany)を用いて活性化メンブレン上にスポッティングした(1スポット = 0.3 μl × 3 )。1残基目にはリンカーとしてFmoc-Acp(6)-OH(K00412、渡辺化学工業株式会社)を合成した。1残基目合成後は、メンブレンをDMF(5分×3回)で洗浄することで未反応の活性化アミノ酸を取り除いた。更に、未反応アミノ基をブロッキングするために、5%無水酢酸(011-00276、和光純薬株式会社)溶液(in DMF)50 mlを15分×2回反応させ、活性化メンブレン上の未反応アミノ基をアセチル化した。その後、メンブレンをDMFで洗浄(5分×3回)し、続いて20 % piperidine / DMF(A00177、渡辺化学工業株式会社)に1時間浸すことでメンブレン表面上のFmoc基を脱保護した。2残基目以降には目的のアミノ酸を合成した。スポッティング後はメンブレンに対してDMFでの洗浄(5分×3回)、5%無水酢酸によるブロッキング(15分×2回)、20% piperidine / DMFによる脱保護(1時間)を行った。1残基目、2残基目以降、共に脱保護の後、さらにDMF(5分×3回)、メタノール(5分×3回)での洗浄をし、ピペリジンなど次残基における合成反応に支障をきたす試薬を取り除いた。また、合成反応の確認は1% BPB in DMF(ブロモフェノールブルー(021-02911、和光純薬株式会社))溶液を用い、メタノール溶液中に1% BPB in DMF溶液100μlと酢酸(017-00256、和光純薬株式会社)100μlを加え、NH2基を染色することにより行った。
【実施例】
【0033】
上記操作を繰り返し、ペプチド鎖伸長反応を行うことでセルロースメンブレン上に任意のペプチド鎖を合成した。目的のペプチド鎖を合成後は、各アミノ酸側鎖の保護基の脱保護に移った。脱保護試薬(trifluoroacetic acid (TFA) (A00025, 渡辺化学工業株式会社, 広島) : m-クレゾール (034-04646, Wako, 大阪) : 1,2-Ethanedithiol (EDT) (A00057, 渡辺化学工業株式会社, 広島) : チオアニソール(T0191, 東京化学工業株式会社, 東京) = 40 : 1 : 3 : 6)を50 ml作製し、メンブレンを2.5時間浸した。脱保護後、残存試薬を取り除くためにジエチルエーテル(051-01157, Wako, 大阪)で5分×3回洗浄した。続いて、一度メンブレンを乾燥させた後、PBSを用いて1時間洗浄した。1時間ごとに新しいPBSに取り替える操作を3回繰り返した後、一晩おいて実験に用いた。
【実施例】
【0034】
今回は、αS2-カゼイン(成熟体)の配列(配列番号1)を3残基ずつ1残基ずらしでセルロースメンブレン上に合成し、ペプチドアレイの作製を行った。アミノ酸配列の合成終了後、各配列に0.5 MのGABA (K00762,渡辺化学工業株式会社)を1残基合成し、さらにその後、各配列の末端に0.1 mMのNHS-Fluorescein(46410,Thermo Fisher)を反応させた。
【表1】
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【実施例】
【0035】
(3)アッセイ
まず、作製したペプチドアレイの蛍光強度値をTyphoon FLA 9500で測定した。次に、トリプシン(203-09893, Wako) 24150 unitsをPBSに溶解し、この溶液に作製したペプチドアレイを浸し、37℃で1時間反応させた。その後、トリプシン溶液から取り出したペプチドアレイをPBSで3分間×3回洗浄した。洗浄後、Typhoon FLA 9500で再度蛍光強度値を測定した。最後に、ImageQuantTM TL解析ソフトウェアを用いて、それぞれのスポットの蛍光強度を数値化した。
【実施例】
【0036】
2.結果
得られた蛍光強度値から各配列の切断率を算出した。計算式は以下の式を用いた。
【数1】
JP2019024458A_000008t.gif
【実施例】
【0037】
次に、計算によって算出された切断率からZスコア(Z-score)を算出した。計算式は以下の式を用いた。
【数2】
JP2019024458A_000009t.gif
【実施例】
【0038】
こうして算出されたZスコア値をグラフに表した(図3)。Zスコア値が大きいほどトリプシンによって切断されやすい配列であり、小さいほどトリプシンによって切断されにくい配列である。全205配列のうち、トリプシンによって切断されるK(リシン)とR(アルギニン)が含まれている77配列のほとんどの配列(71配列)のZスコアが正になった。一方、KとRが含まれていてもZスコアが負になった偽陰性配列が6配列存在した。またKとRが含まれていない配列は一つも正にならなかった(疑陽性配列なし)。以上、正しく評価できた配列は199配列であり、この系を用いてトリプシンによって切断されるペプチド配列を約97%の精度で検出することに成功した。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によれば、特定のタンパク質に対するプロテアーゼの切断性(典型的には切断箇所)を簡便かつ高精度で評価できる。また、従来のLC-MS等を利用した評価に比べ、短時間で評価結果を得ることができる。即ち、本発明は、簡便、迅速且つ高い精度での評価を可能にする、新たなタンパク質切断評価系を提供する。本発明は例えば、食品タンパク質から機能性ペプチドを製造する際に、生成するペプチドを推定・評価する手段として利用される。
【0040】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
図面
【図1】
0
【図2】
1
【図3】
2